説明

建設機械の冷却装置

【課題】燃費を低減しつつ燃料温度とエンジン冷却水温を制御する。
【解決手段】油圧源11と、エンジン冷却水を冷却するための冷却風を送風する第1の冷却ファン16と、燃料を冷却するための冷却風を送風する第2の冷却ファン15と、第1の冷却ファン16を駆動する第1の油圧モータ13と、第2の冷却ファン15を駆動する第2の油圧モータ12と、エンジン1の負荷を検出する負荷検出手段21と、負荷検出手段21により検出されたエンジン負荷率の増加に伴い油圧源11から第1の油圧モータ13への圧油量が増加するとともに第2の油圧モータ12への圧油量が減少するように、各油圧モータ12,13への圧油供給量を制御する流量制御手段14,20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械のエンジンに供給される燃料とエンジン冷却水とを冷却する建設機械の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンのオーバーヒートを防ぐためにラジエータでエンジン冷却水を冷却するとともに、エンジン性能の低下を防ぐために燃料クーラで燃料を冷却するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。これによれば冷却ファンの回転による冷却風の流れに対してラジエータと燃料クーラとを直列に配置するとともに、燃料クーラを燃料がバイパスするようなバイパス管路を設け、燃料温度が低いときに燃料クーラを燃料がバイパスするようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−278617号公報(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記公報記載の装置では、燃料温度が低いときに燃料クーラを燃料がバイパスするようにしているので、燃料の冷却が不要なときも燃料クーラに冷却風が送風される。このため、冷却風の効率的な送風が行われず、燃費の悪化を招く。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による建設機械の冷却装置は、油圧源と、エンジン冷却水を冷却するための冷却風を送風する第1の冷却ファンと、燃料を冷却するための冷却風を送風する第2の冷却ファンと、第1の冷却ファンを駆動する第1の油圧モータと、第2の冷却ファンを駆動する第2の油圧モータと、エンジンの負荷を検出する負荷検出手段と、負荷検出手段により検出されたエンジン負荷率の増加に伴い油圧源から第1の油圧モータへの圧油量が増加するとともに第2の油圧モータへの圧油量が減少するように、各油圧モータへの圧油供給量を制御する流量制御手段とを備えることを特徴とする。
単一の油圧ポンプにより油圧源を構成し、油圧ポンプからの圧油を第1の油圧モータと第2の油圧モータとに分配する分配手段を設けてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、エンジン冷却水を冷却するための第1の冷却ファンを駆動する第1の油圧モータと、燃料を冷却するための第2の冷却ファンを駆動する第2の油圧モータとを設け、エンジン負荷率の増加に伴い油圧源から第1の油圧モータへの圧油量が増加するとともに第2の油圧モータへの圧油量が減少するようにしたので、エンジン負荷率に応じて各冷却ファンを効率よく駆動することができ、燃費を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図1〜図3を参照して本発明による建設機械の冷却装置の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係る冷却装置の構成を示す回路図であり、燃料の循環する燃料回路と油圧回路を併せて示す。この冷却装置は、油圧ショベル等の建設機械に設けられる。この種の建設機械は、例えば夏季等、雰囲気温度が高い環境下においてもエンジンを高負荷運転した状態で用いられるため、燃料の温度上昇が著しく燃料を冷却する要求がとくに強い。一方、燃料を冷却し過ぎるとかえって効率を損なうため、燃焼効率が最もよくなるような燃料温度に保つ必要がある。
【0008】
図1において、燃料回路は、燃料ポンプ2と、燃料ポンプ2から圧送された燃料を蓄圧する蓄圧室3と、蓄圧室3を介して供給された燃料を高圧にして噴射する噴射ノズル4と、エンジン1からの余剰燃料を燃料タンク6にリターンするリターン管路7と、リターン管路7に介装され、冷却風との熱交換により燃料を冷却する燃料クーラ17と、エンジン1からの燃料を燃料クーラ17をバイパスしてタンク6に導くバイパス管路8と、バイパス管路8に介装され、設定圧以上の燃料をバイパス管路8を介してタンク6に流すチェック弁9とを有する。なお、燃料ポンプ2,蓄圧室3,および噴射ノズル4はエンジン1に設けられる。
【0009】
この種の燃料供給方式は、噴射ノズル4から噴射されるよりも多くの燃料が蓄圧室3に導かれる。そのため、この過剰燃料はエンジン1内部を通過する間に受熱する。この過剰燃料の受熱過程を、エンジン1の冷却に利用する場合がある。この種の燃料供給方式は一般にPTポンプ式(パイロットポンプ式)と呼ばれる。なお、エンジン1はエンジン冷却水によっても冷却される。これに対し、燃料ポンプ2からの燃料を蓄圧室3を介さずに噴射ノズル4に直接供給する方式は、ボッシュ式と呼ばれる。PT式はボッシュ式に比べ燃料タンク6にリターンされる燃料が多く、エンジン1で加熱された燃料を燃料クーラ17を用いて冷却することにより、燃焼効率を高めるとともにエンジン1を効率よく冷却することができる。
【0010】
一方、図1において、油圧回路は、エンジン1により駆動される油圧ポンプ11と、互いに並列に配置され、油圧ポンプ11からの圧油により回転する一対の油圧モータ12,13と、油圧ポンプ11からの圧油を各油圧モータ12,13へ分配する電磁比例弁14と、電磁比例弁14を制御するコントローラ20とを有する。コントローラ20には、燃料噴射量に応じた電子ガバナのレバー角を検出する角度センサ21が接続されている。コントローラ20では角度センサ21からの信号に応じて後述するような処理を実行し、電磁比例弁14のソレノイドに制御信号を出力する。
【0011】
各油圧モータ12,13の出力軸にはそれぞれ冷却ファン15,16が連結され、冷却ファン15の回転により燃料クーラ17に冷却風が送風され、冷却ファン16の回転によりラジエータ18に冷却風が送風される。これにより燃料クーラ17に送風された冷却風と燃料クーラ17を通過する燃料とが熱交換され、燃料が冷却される。また、ラジエータ18に送風された冷却風とラジエータ18を通過するエンジン冷却水とが熱交換され、エンジン冷却水が冷却される。この場合、冷却ファン15,16の回転数が高いほど冷却風量は多く、燃料およびエンジン冷却水の冷却の程度が大きい。
【0012】
ここで、エンジン効率が最もよくなるような燃料温度(目標温度)とするのに必要な冷却ファン15の回転数、およびオーバーヒートを防止するようなエンジン冷却水温度(目標温度)とするの必要な冷却ファン16の回転数をそれぞれ目標回転数と定義し、エンジン負荷率と冷却ファン15,16の目標回転数との関係を説明する。エンジン負荷率は次式(I)で表される。
エンジン負荷率=実出力/エンジン定格出力
=実燃料消費量/定格出力時の燃料消費量 (I)
【0013】
この場合、エンジン負荷率が小さいと、消費される燃料は少なく燃料タンク6へのリターン量は多くなる。このため、エンジン負荷率が小さいほど燃料のヒートマスは大きくなり、目標温度とするための燃料クーラ17への必要冷却風量は多くなる。したがって、エンジン負荷率と冷却ファン15の目標回転数Nfとの関係は、一般に図2の特性Aに示すように右下がりの特性となる。
【0014】
また、エンジン負荷率が小さいと、エンジン1で発生する熱量は小さいため、エンジン冷却水温の増加の程度は小さく、目標温度とするためのラジエータ18への必要冷却風量は少ない。このため、エンジン負荷率と冷却ファン16の目標回転数Nrとの関係は、一般に図2の特性Bに示すように右上がりの特性となる。本実施の形態では、この相反する特性A,Bを予めメモリに記憶しておく。
【0015】
図3は、コントローラ15で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは例えばエンジンキースイッチのオンによりスタートする。まず、ステップS1で、角度センサ14からの信号である電子ガバナのレバー角を読み込む。次いで、ステップS2でレバー角に対応した実燃料噴射量を上式(I)に代入し、エンジン負荷率を演算する。ステップS3では、予め記憶した図2の関係によりエンジン負荷率に応じた目標回転数Nf,Nrを演算する。
【0016】
次いで、ステップS4で、例えば冷却ファン16の目標回転数の演算値Nrを用い、電磁比例弁14に出力するための制御信号iを演算する。この場合、電磁比例弁14を位置イ側および位置ロ側に最大に切り換えるための制御信号iminおよびimaxと、そのときの冷却ファン16の回転数NminおよびNmaxを予めメモリに記憶しておき、例えば次式(II)により制御信号iを演算する。
i=Nr×(imax−imin)/(Nmax−Nmin)
+(imin・Nmax−imax・Nmin)/(Nmax−Nmin) (II)
【0017】
なお、冷却ファン15の目標回転数の演算値Nfを用いて制御信号iを演算してもよい。また、冷却ファン15,16の各回転数が、目標回転数Nf,Nrの比に応じた回転数となるように制御信号iを演算してもよい。例えばNf:Nr=1:2のとき、冷却ファン15,16の回転数が1:2となるように電磁比例弁14を制御してもよい。ステップS5では、演算された制御信号iを電磁比例弁14に出力し、リターンする。
【0018】
次に、本実施の形態に係る冷却装置の主要な動作を説明する。
例えば油圧ショベルにより軽負荷作業を行う場合、エンジン負荷率は小さいため、エンジン冷却水温の増加の程度は小さく、蓄圧室3からタンク6へリターンする燃料は多い。このとき、上述した処理(ステップS3,図2)にて演算される冷却ファン16の目標回転数Nrは冷却ファン15の目標回転数Nfよりも小さく(Nr<Nf)、電磁比例弁14の位置ロ側への切換量は大きい。これにより油圧ポンプ11から油圧モータ13への圧油供給量が減少し、冷却ファン16が目標回転数Nr(低速)で回転する。その結果、ラジエータ18には過不足なく冷却風が送風され、エンジン冷却水温が目標温度に制御されて、オーバーヒートが防止される。
【0019】
また、油圧ポンプ11から油圧モータ12への圧油供給量が増加し、冷却ファン15の回転が目標回転数Nf(高速)に近づく。これにより燃料クーラ17へ送風される冷却風量が増加し、燃料温度が目標温度に制御される。その結果、リターン燃料が多い場合であっても燃料温度が高くなり過ぎることがないので、燃焼効率の低下による排ガスの増加を防ぐことができるとともに、燃料の粘性が小さくなりすぎてピストンのかじりが発生したり、シール類が劣化することを抑制できる。
【0020】
一方、油圧ショベルにより高負荷作業を行う場合、エンジン負荷率は大きいため、エンジン冷却水温の増加の程度は大きく、蓄圧室3からタンク6へリターンする燃料は少ない。このとき演算される冷却ファン16の目標回転数Nrは冷却ファン15の目標回転数Nfよりも大きく(Nr>Nf)、電磁比例弁14の位置ロ側への切換量は小さい。これにより油圧ポンプ11から油圧モータ13への圧油供給量が増加し、冷却ファン16が目標回転数Nr(高速)で回転する。その結果、ラジエータ18に十分な量の冷却風が送風され、エンジン冷却水温が目標温度に制御されて、オーバーヒートが防止される。
【0021】
また、油圧ポンプ11から油圧モータ12への圧油供給量が減少し、冷却ファン15の回転が目標回転数Nf(低速)に近づく。これにより燃料クーラ17へ送風される冷却風量が減少し、燃料温度が目標温度に制御される。その結果、リターン燃料が少ない場合に燃料温度が低くなり過ぎることがないので、燃料の粘性が大きくならず燃料ポンプ2にかかる負担が低減され、燃費の悪化および燃焼効率の低下による排ガスの増加を防ぐことができる。
【0022】
以上の実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)エンジン負荷率と燃料クーラ用冷却ファン15の目標回転数Nfとの関係(右下がりの特性A)、およびエンジン負荷率とラジエータ用冷却ファン16の目標回転数Nrとの関係(右上がりの特性B)をそれぞれ設定するとともに、冷却ファン駆動用油圧モータ12への圧油の分岐点(図1のp1)の下流側かつ油圧モータ12の上流側に電磁比例弁14を設け、エンジン負荷率に応じて電磁比例弁14を制御した。すなわちエンジン負荷率が小さいと、油圧モータ12への圧油供給量を増加するとともに油圧モータ13への圧油供給量を減少し、エンジン負荷率が大きいと、油圧モータ12への圧油供給量を減少するとともに油圧モータ13への圧油供給量を増加するようにした。これにより油圧ポンプ11からの圧油を各油圧モータ12,13へ効率よく配分することができ、冷却ファン15,16をそれぞれ目標回転数Nr,Nfに制御できる。その結果、エンジン冷却水温と燃料温度はそれぞれ目標温度となり、エンジン効率が向上するとともに、オーバーヒートを防止できる。また、冷却ファン15,16の回転数が必要以上に大きくならず、ファン15,16の駆動に要するエネルギが節約され、燃費を低減できる。
【0023】
(2)冷却ファン15,16を必要以上に回転させないので、油圧ポンプ11の吐出量を低減することができ、油圧ポンプ11を小型化することができる。
(3)単一の油圧ポンプ11からの圧油を電磁比例弁14によって各油圧モータ12,13へ配分するので、油圧ポンプ11の数を節約することができる。
(4)燃料温度検出用の温度センサ等を追加することなく、簡易な構成によりエンジン冷却水温および燃料温度を目標温度に制御できる。
【0024】
なお、上記実施の形態では、油圧ポンプ11からの圧油を電磁比例弁14の切換により油圧モータ12,13にそれぞれ分配するようにしたが、分配手段の構成はこれに限らない。例えば、油圧モータ12を可変容量形油圧モータとして構成し、モータ容量制御により油圧モータ12の駆動圧を増減し、油圧モータ12,13の圧油分配量を制御するようにしてもよい。これにより電磁比例弁14を省略することができる。
【0025】
また、エンジン負荷率の増加に伴い油圧源としての油圧ポンプ11から油圧モータ13(第1の油圧モータ)への圧油量が増加するとともに油圧モータ12(第2の油圧モータ)への圧油量が減少するように圧油供給量を制御するのであれば、分配手段以外の流量制御手段を用いてもよい。例えば各油圧モータ12,13に対してそれぞれ別個に可変容量形油圧ポンプを設け、各油圧ポンプの容量制御により油圧モータ12,13への圧油供給量を制御してもよい。
【0026】
燃料回路の構成は図1のものに限定されず、リターン管路7以外に燃料クーラ5を設けてもよい。角度センサ21からの検出値によりエンジン1の負荷率を検出したが、負荷検出手段はこれに限らない。以上の冷却装置は油圧ショベル以外の他の建設機械にも適用することができる。すなわち本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の冷却装置に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る冷却装置の構成を示す回路図。
【図2】エンジン負荷率と冷却ファンの目標回転数との関係を示す図。
【図3】図1のコントローラで実行される処理の一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0028】
1 エンジン
11 油圧ポンプ
12 油圧モータ(第2の油圧モータ)
13 油圧モータ(第1の油圧モータ)
14 電磁比例弁
15 冷却ファン(第2の冷却ファン)
16 冷却ファン(第1の冷却ファン)
20 コントローラ
21 角度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧源と、
エンジン冷却水を冷却するための冷却風を送風する第1の冷却ファンと、
燃料を冷却するための冷却風を送風する第2の冷却ファンと、
前記第1の冷却ファンを駆動する第1の油圧モータと、
前記第2の冷却ファンを駆動する第2の油圧モータと、
エンジンの負荷を検出する負荷検出手段と、
前記負荷検出手段により検出されたエンジン負荷率の増加に伴い前記油圧源から前記第1の油圧モータへの圧油量が増加するとともに前記第2の油圧モータへの圧油量が減少するように、前記各油圧モータへの圧油供給量を制御する流量制御手段とを備えることを特徴とする建設機械の冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械の燃料冷却装置において、
前記油圧源は単一の油圧ポンプからなり、
前記流量制御手段は、前記油圧ポンプからの圧油を前記第1の油圧モータと第2の油圧モータとに分配する分配手段を有することを特徴とする建設機械の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−37863(P2006−37863A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219885(P2004−219885)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】