説明

建設機械の走行減速機用転がり軸受

【課題】より耐久性を高めた建設機械の走行減速機用転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪11と、外輪12と、内輪11及び外輪12の間に配置された転動体である円錐ころ13と、耐衝撃性向上剤としてのゴム材料を樹脂に配合した樹脂組成物からなる保持器14とを備える建設機械の走行減速機用転がり軸受10において、樹脂組成物が、ポリアミドと、ガラス繊維と、ゴム材料とを含有し、ゴム材料がカルボキシル基、エステル基及びグリシジル基から選ばれる少なくとも1つの官能基を分子中に有するゴムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の走行減速機に組み込まれる転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械に使用される走行減速機として、例えば図1に示す構成が知られている。図示される走行減速機1は、油圧モータ(図示せず)に接続された駆動軸2と、駆動軸2の回転を減速する遊星歯車機構3,4,5と、転がり軸受6によりハウジング7に回転自在に支持された回転ドラム8と、回転ドラム8に固定されたスプロケット9とを備える。また、転がり軸受6としては、機体重量に応じてアンギュラ玉軸受、または、背面組み合わせの円錐ころ軸受が用いられることが多い。
【0003】
一方、建設機械は一般に未整備の場所で作業を行うため、走行中に障害物に盛り上げ・落下することが日常的に起こっており、その際に大きな落下衝撃(ドロップインパクト)を受ける。従来、転がり軸受6には金属製の保持器が使用されているが、転がり軸受6にも同様に大きな衝撃荷重が断続的に加わるため、耐衝撃性が低い金属製保持器が破損することもある。
【0004】
また、金属製の保持器は、軸受回転時の摩擦により摩耗粉を生じるので、摩耗粉が潤滑油に混入することによる潤滑寿命の低下や、摩耗粉が転動体の転動面を傷つける等の問題があることから、繊維強化樹脂組成物製の保持器も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−226362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、建設機械の走行減速機に組み込まれる転がり軸受においても、耐久性の向上要求は強く、保持器の更なる耐衝撃性向上が不可欠である。
【0007】
そこで、本発明は、これまでよりも耐久性を高めた建設機械の走行減速機用転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下に示す建設機械の走行減速機用転がり軸受を提供する。
(1)建設機械用の走行減速機に組み込まれる転がり軸受であって、
内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に配置された転動体と、耐衝撃性向上剤としてのゴム材料を樹脂に配合した樹脂組成物からなる保持器とを備えることを特徴とする、建設機械の走行減速機用転がり軸受。
(2)前記樹脂組成物が、ポリアミド46と、ガラス繊維と、ゴム材料とを含有することを特徴とする上記(1)記載の建設機械の走行減速機用転がり軸受。
(3)前記樹脂組成物が、ポリアミド66と、ガラス繊維と、ゴム材料とを含有することを特徴とする上記(1)記載の建設機械の走行減速機用転がり軸受。
(4)前記ゴム材料がカルボキシル基、エステル基及びグリシジル基から選ばれる少なくとも1つの官能基を分子中に有するゴムであることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の建設機械の走行減速機用転がり軸受。
(5)前記転動体が円錐ころであることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の建設機械の走行減速機用転がり軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明の建設機械の走行減速機用転がり軸受は、保持器が繊維強化樹脂組成物製であるため、金属製保持器のような摩耗粉による問題がないとともに、保持器が耐衝撃性向上剤としてゴム材料を含むため、従来よりも耐衝撃性が増して軸受耐久性を大きく向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】建設機械用走行減速機の一例を示す概略断面図である。
【図2】円錐ころ軸受を示す概略断面図である。
【図3】円錐ころ用の保持器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
本発明の建設機械の走行減速機用転がり軸受(以下、単に「転がり軸受」という)は、従来から建設機械の走行減速機に組み込まれているものが対象となり、代表的には円錐ころ軸受やアンギュラころ軸受を挙げることができる。図2は、円錐ころ軸受10の一例を示す断面図であるが、円錐状の軌道面11aを有し、軌道面11aの大径側に大鍔部11b、小径側に小鍔部11cを有する内輪11と、円錐状の軌道面12aを有する外輪12と、外輪12の軌道面12aと内輪11の軌道面11aとの間に転動自在に配された複数の円錐ころ13と、これら円錐ころ13を円周方向に所定間隔で案内保持する保持器14と、を備えている。尚、図3は保持器14を示す斜視図である。
【0013】
本発明では、保持器14として、樹脂と強化用繊維とを含み、更に耐衝撃性向上剤としてのゴム材料を配合した樹脂組成物の成形品を用いる。
【0014】
樹脂は、射出成形可能で、耐衝撃性や耐熱性等に優れることから、ポリアミド樹脂が好ましく、中でもポリアミド46またはポリアミド66が好ましい。
【0015】
樹脂組成物には、耐衝撃性を改善するためにゴム材料が配合される。ゴムの種類には特に制限はないが、耐衝撃性の向上効果に優れるエチレンアクリレート共重合ゴム、エチレンプロピレン非共役ジエンゴム、無水マレイン酸変性エチレンプロピレン非共役ジエンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエン共重合ゴム、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコンゴム、クロロプレンゴム、水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、更にスチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系等の熱可塑性エラストマー等が挙げられ、それぞれ単独で、あるいは複数種を組み合わせて配合する。中でも、カルボキシル基やエステル基、グリシジル基のような極性を持った官能基を分子中に有するゴムは、ポリアミド樹脂との相互作用が強く、親和性が良いため耐衝撃性を大きく向上させることができることから、アクリルゴム、無水マレイン酸変性エチレンプロピレン非共役ジエンゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴムが好ましい。また、これらの極性官能基を持たないゴムであっても、分子鎖に極性官能基を有するように変性したものを用いることが好ましい。
【0016】
また、ゴム材料は、加硫された粉末ゴムの状態で添加、分散されるため、できるだけ微粉末であることが好ましく、平均粒径で200nm以下の超微粉子であることが更に好ましい。
【0017】
ゴム材料の含有量は、樹脂組成物全量の2〜15質量%が好ましく、より好ましくは3〜6質量%である。含有量が2質量%未満では、耐衝撃性の改善効果が乏しく、実用性が低い。また、15質量%を超える場合は、耐衝撃性の改善効果が飽和するばかりでなく、むしろ耐熱性に悪影響を及ぼす可能性があり、好ましくない。
【0018】
樹脂組成物には、補強のために補強用繊維が配合される。補強用繊維の含有量は補強面から樹脂組成物全量の10〜40質量%が好ましく、20〜30質量%がより好ましい。
含有量が10質量%未満では補強効果が十分ではなく、保持器の剛性が上がらない。また、40質量%を超える場合は、樹脂組成物の流動性が低下し、保持器を寸法精度良く射出成形することが難しくなる。
【0019】
補強用繊維としては、ガラス繊維が好ましいが、炭素繊維やアラミド繊維、あるいはチタン酸カリウムウィスカー等のウィスカー状の補強材を用いてもよい。また、これらを混合してもよい。また、補強用繊維は、ポリアミド樹脂との接着性を高めるために、シランカップリング剤等で表面されていていることが好ましい。
【0020】
樹脂組成物には上記の成分の他に、必要に応じて種々の添加剤を配合してもよい。例えば、使用に伴う発熱による劣化を抑えるためにヨウ化物系熱安定剤やアミン系熱安定剤を、それぞれ単独で、あるいは混合して添加することが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0022】
〔試験1〕
(実施例1〜9、比較例1)
実施例1〜9として、ポリアミド46を70質量%、ガラス繊維を25質量%、表1に示すゴム材料を5質量%の割合で混合し、JIS K7110で規定されるアイゾット衝撃試験用の試験片を作製した。また、比較例1として、ポリアミド46を75質量%、ガラス繊維を25質量%とした試験片を作製した。そして、各試験片についてJIS K7110で規定されるアイゾット衝撃試験を行い、アイゾット衝撃値を測定した。結果を、比較例1の値を1とする相対値にて表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、耐衝撃性向上剤としてゴム材料を配合することにより、耐衝撃性が2〜4割向上することがわかる。特に、アクリルゴム(実施例2)、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴム(実施例4)、無水マレイン酸変性エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(実施例6)のようにポリアミド樹脂との相互作用の強いゴム材料を配合した場合に耐衝撃性の向上効果が大きい。これらの結果を基に、更に試験を行った。
【0025】
(実施例10)
ポリアミド46を70質量%、ガラス繊維を25質量%、水素添加ニトリルゴムを5質量%の割合で混合した樹脂組成物を射出成形して円錐ころ軸受(内径300mm、外径390mm、幅42mm)用の保持器を作製した。
【0026】
(実施例11)
ポリアミド46を70質量%、ガラス繊維を25質量%、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴムを5質量%の割合で混合した樹脂組成物を射出成形して円錐ころ軸受(内径300mm、外径390mm、幅42mm)用の保持器を作製した。
【0027】
(実施例12)
ポリアミド46を70質量%、ガラス繊維を25質量%、エチレンプロピレン非共役ジエンゴムを5質量%の割合で混合した樹脂組成物を射出成形して円錐ころ軸受(内径300mm、外径390mm、幅42mm)用の保持器を作製した。
【0028】
(実施例13)
ポリアミド46を70質量%、ガラス繊維を25質量%、無水マレイン酸変性エチレンプロピレン非共役ジエンゴムを5質量%の割合で混合した樹脂組成物を射出成形して円錐ころ軸受(内径300mm、外径390mm、幅42mm)用の保持器を作製した。
【0029】
(比較例2)
圧延鋼板をプレスして円錐ころ軸受(内径300mm、外径390mm、幅42mm)用の保持器を作製した。
【0030】
(比較例3)
ポリアミド46を75質量%、ガラス繊維を25質量%の割合で混合した樹脂組成物を射出成形して円錐ころ軸受(内径300mm、外径390mm、幅42mm)用の保持器を作製した。
【0031】
上記実施例10〜13及び比較例2〜3の保持器を円錐ころ軸受に組み込み、落下衝撃試験を行って保持器の耐衝撃性を評価した。落下衝撃試験は、振動加速度2940m/s、落下サイクル120cpmにて行い、保持器が破損した落下回数を求めた。結果を、比較例2の落下回数を1とする相対値にて表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示すように、耐衝撃性向上剤としてゴム材料を配合した樹脂製保持器を用いることにより、耐衝撃性が金属製保持器を用いた場合に比べて13〜15倍、ゴム材料を配合しない樹脂製保持器に比べても1.3〜1.5倍向上することがわかる。特に、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴム(実施例11)や無水マレイン酸変性エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(実施例13)のようにポリアミド樹脂との相互作用の強いゴム材料を配合した場合に耐衝撃性の向上効果が大きい。
【0034】
〔試験2〕
(実施例14〜22、比較例4)
実施例14〜22として、ポリアミド66を70質量%、ガラス繊維を25質量%、表3に示すゴム材料を5質量%の割合で混合し、JIS K7110で規定されるアイゾット衝撃試験用の試験片を作製した。また、比較例4として、ポリアミド66を75質量%、ガラス繊維を25質量%とした試験片を作製した。そして、各試験片についてJIS K7110で規定されるアイゾット衝撃試験を行い、アイゾット衝撃値を測定した。結果を、比較例4の値を1とする相対値にて表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表3に示すように、耐衝撃性向上剤としてゴム材料を配合することにより、耐衝撃性が2〜4割向上することがわかる。特に、アクリルゴム(実施例15)、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴム(実施例17)、無水マレイン酸変性エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(実施例19)のようにポリアミド樹脂との相互作用の強いゴム材料を配合した場合に耐衝撃性の向上効果が大きい。これらの結果を基に、更に試験を行った。
【0037】
(実施例23)
ポリアミド66を70質量%、ガラス繊維を25質量%、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴムを5質量%の割合で混合した樹脂組成物を射出成形して円錐ころ軸受(内径180mm、外径240mm、幅25mm)用の保持器を作製した。
【0038】
(実施例24)
ポリアミド66を70質量%、ガラス繊維を25質量%、無水マレイン酸変性エチレンプロピレン非共役ジエンゴムを5質量%の割合で混合した樹脂組成物を射出成形して円錐ころ軸受(内径180mm、外径240mm、幅25mm)用の保持器を作製した。
【0039】
(比較例5)
圧延鋼板をプレスして円錐ころ軸受(内径180mm、外径240mm、幅25mm)用の保持器を作製した。
【0040】
(比較例6)
ポリアミド66を75質量%、ガラス繊維を25質量%の割合で混合した樹脂組成物を射出成形して円錐ころ軸受(内径180mm、外径240mm、幅25mm)用の保持器を作製した。
【0041】
上記実施例23〜24及び比較例5〜6の保持器を円錐ころ軸受に組み込み、落下衝撃試験を行って保持器の耐衝撃性を評価した。落下衝撃試験は、振動加速度2940m/s、落下サイクル120cpmにて行い、保持器が破損した落下回数を求めた。結果を、比較例5の落下回数を1とする相対値にて表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表4に示すように、耐衝撃性向上剤としてゴム材料を配合した樹脂製保持器を用いることにより、耐衝撃性が金属製保持器を用いた場合に比べて13〜14倍、ゴム材料を配合しない樹脂製保持器に比べても1.3〜1.4倍向上することがわかる。
【符号の説明】
【0044】
1 走行減速機
2 駆動軸
3,4,5 遊星歯車機構
3a,4a,5a 太陽歯車
3b,4b,5b 内歯歯車
3c,4c,5c、6 転がり軸受
3d,4d,5d 遊星キャリア
3e,4e,5e 遊星歯車
7 ハウジング
8 回転ドラム
9 スプロケット
10 円錐ころ軸受
11 内輪
12 外輪
13 円錐ころ
14 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械用の走行減速機に組み込まれる転がり軸受であって、
内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に配置された転動体と、耐衝撃性向上剤としてのゴム材料を樹脂に配合した樹脂組成物からなる保持器とを備えることを特徴とする、建設機械の走行減速機用転がり軸受。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、ポリアミド46と、ガラス繊維と、ゴム材料とを含有することを特徴とする請求項1記載の建設機械の走行減速機用転がり軸受。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、ポリアミド66と、ガラス繊維と、ゴム材料とを含有することを特徴とする請求項1記載の建設機械の走行減速機用転がり軸受。
【請求項4】
前記ゴム材料がカルボキシル基、エステル基及びグリシジル基から選ばれる少なくとも1つの官能基を分子中に有するゴムであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の建設機械の走行減速機用転がり軸受。
【請求項5】
前記転動体が円錐ころであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の建設機械の走行減速機用転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82882(P2012−82882A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228172(P2010−228172)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】