説明

建設機械用走行ユニット

【課題】走行ユニット(減速機装置)における、回転ケースの変形を抑えて潤滑油の漏洩を防止する。
【解決手段】建設機械用走行ユニット1は、本体ケース2と、本体ケース2に対して回転自在に保持され内周に内歯3aが形成された回転ケース3と、回転ケース3内に収納され内歯3aに噛み合う減速機構5と、回転ケース3の開口を覆う蓋部材6と、蓋部材6を回転ケース3に固定するボルト7と、蓋部材6と回転ケース3との間に配置されたOリング8とを備える。蓋部材6は、開口を覆う底部9と、底部9の端からケース軸方向に延在する筒部10とを有する。回転ケース3端部の外周面に筒部10の内周面を嵌合させて、回転ケース3と蓋部材6とを固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転を減速させて出力する建設機械用走行ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベルなどの建設機械の走行装置としてクローラが多く採用され、このクローラの駆動装置として、油圧モータ機構と遊星減速機構とを組み合わせた走行ユニットが用いられている。従来、この走行ユニットとして、例えば特許文献1に記載されたようなものがある。特許文献1に記載された走行ユニット(減速機装置)は、油圧モータ機構を収納する本体ケース(2)と、本体ケース(2)に対して回転自在に嵌合し且つ変速部(1B)を収納する回転ケース(5)とを備えてなるものである。ここで、この走行ユニット(減速機装置)においては、回転ケース(5)の端部の開口の内側に蓋体(28)を嵌め込んで、本体ケース(2)と蓋体(28)とを固定している(特許文献1の図1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されたような、回転ケース(5)の開口の内側に蓋体(28)を嵌め込んで、本体ケース(2)と蓋体(28)とを固定するという構造の走行ユニットでは、回転ケース(5)と蓋体(28)との間から回転ケース(5)内の潤滑油が漏れてしまうことがある。減速機内部の歯車が動くことにより回転ケース(5)が外側に変形し、この変形により、回転ケース(5)と蓋体(28)との間に隙間が生じて潤滑油が漏れてしまうのである。対策として、回転ケース(5)と蓋体(28)との間にシール剤を塗布するなどしているが、この対策では、加工・組立性が悪く、製造コストが高いものとなってしまう。
【0004】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、回転ケースの外側への変形を抑えて回転ケース内の潤滑油の漏洩を防止することができる構造を備えた建設機械用走行ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明は、建設機械に固定される本体ケースと、前記本体ケースに対して回転自在に保持され内周に内歯が形成された回転ケースと、前記回転ケース内に収納され前記内歯に噛み合う減速機構と、前記回転ケースの開口を覆う蓋部材と、前記蓋部材を前記回転ケースに固定する固定手段と、前記蓋部材と前記回転ケースとの間に配置されたシールと、を備え、前記蓋部材は、前記開口を覆う底部と、前記底部の端からケース軸方向に延在する筒部と、を有し、前記回転ケース端部の外周面に前記筒部の内周面を嵌合させて、当該回転ケースと前記蓋部材とを固定してなる建設機械用走行ユニットを提供する。
【0006】
この構成によると、回転ケース端部の外周面に蓋部材の筒部の内周面を嵌合させて回転ケースと蓋部材とを固定することで、回転ケースが外側へ変形しようとしても、その変形は、蓋部材の筒部により抑えられる。また、回転ケースが外側へ少し変形したとしても、回転ケースの外周端部と蓋部材の筒部との間に隙間が増大することはなく、シール性を維持し続けることができる。
【0007】
また本発明において、前記シールが、前記回転ケース端部の外周面と前記筒部の内周面との間に配置されていることが好ましい。
【0008】
この構成によると、回転ケースが外側へ変形しようとするときでも、または、回転ケースが外側へ変形したときでも、回転ケース端部の外周面と蓋部材の筒部の内周面との間でシールは挟持され続ける。これにより、回転ケース内の潤滑油の漏洩をより確実に防止することができる。
【0009】
さらに本発明において、前記シールが、前記筒部の内周面に形成された溝部に配置されていることが好ましい。
【0010】
この構成によると、シールのつぶし代が大きくなり、シール性を高めることができる。
【0011】
さらに本発明において、前記回転ケース端部の外周面に段差が形成されていることが好ましい。
【0012】
この構成によると、蓋部材の筒部の外周面が回転ケースの外周面よりも外側に張り出す量を低減でき、その結果、これらの外周面と建設機械のクローラとの間に流入した土砂が、この間に溜まることを防止できる。
【0013】
さらに本発明において、前記固定手段は、前記筒部の外周からケース軸中心に向かって配設されたボルトであり、当該ボルトが、前記筒部の外周に2乃至10個均等配置されていることが好ましい。
【0014】
この構成によると、ボルトの主たる役割は蓋部材を回転ケースに固定することであり、すなわち、蓋部材と回転ケースとの間のシール性に関してはボルトによる締め付け力を特に考慮する必要がないので、ボルトの数量を低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、本発明の構成要件、特に、底部の端からケース軸方向に延在する筒部を有する蓋部材により、回転ケース端部の外周面に当該蓋部材の筒部の内周面を嵌合させて回転ケースを固定することで、回転ケースの外側への変形を抑えることができ、その結果、回転ケース内の潤滑油の漏洩を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る建設機械用走行ユニットの一部切り欠き断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明に係る建設機械用走行ユニット(以下、「走行ユニット」と記載する)は、油圧ショベルなどの建設機械のクローラ(走行装置)の駆動装置として用いられるものである。
【0018】
(走行ユニットの構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る走行ユニット1の一部切り欠き断面図である。図2は、図1のA部拡大図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の走行ユニット1は、建設機械の車体(不図示)に固定される本体ケース2と、本体ケース2に対して回転自在に保持された回転ケース3と、回転ケース3の端部の開口を覆う蓋部材6と、を備えている。なお、本体ケース2の外周面と回転ケース3の内周面との間にボールベアリングなどの軸受が嵌め込まれており、この軸受を介して回転ケース3は本体ケース2に対して回転自在に保持される(図示省略)。
【0020】
(本体ケース)
本体ケース2は、金属製で、その内部にモータ機構4(図示省略)が収納されている。また、本体ケース2は、その外周にフランジ部2aが形成されている。走行ユニット1は、このフランジ部2aの部分で建設機械の車体に対して固定される。本体ケース2は、全体として筒状に形成されている。
【0021】
ここで、モータ機構4は、油圧で作動する油圧モータ機構である。モータ機構4の回転中心には出力軸11(図示省略)が配置されている。モータ機構4の作動により出力軸11は回転する。
【0022】
(回転ケース)
回転ケース3は、金属製で、その内部に減速機構5が収納されている。また、回転ケース3の一方の端部の外周にはフランジ部3cが形成されている。このフランジ部3cには、建設機械の駆動用スプロケット(不図示)が取り付けられる。駆動用スプロケットが取り付けられた回転ケース3が減速機構5を介してモータ機構4により回転させられることで、クローラ(不図示)が駆動される。また、符号を付して図2に示したように、回転ケース3の他方の端部の外周面3bには、段差が形成されている。なお、この段差は、ケース軸中心に向かって落ち込む段差である。また、この段差部には、ボルト7の先端が挿入される有底の穴3dが形成されている。なお、この穴3dは、内周にネジが切られたネジ穴としてもよい。回転ケース3は、全体として筒状に形成され、内部には減速機構5のための潤滑油が封入されている。
【0023】
減速機構5は、遊星歯車機構からなるものであって、その中心部には、モータ機構4の出力軸11が取り付けられている。また、回転ケース3の内周には、減速機構5の歯車(遊星歯車)と噛み合う内歯3aが形成されている。そして、減速機構5は、出力軸11の回転速度を減速させてモータ機構4からの出力を内歯3aを介して回転ケース3に伝達する。
【0024】
(蓋部材)
回転ケース3の他方の端部の開口は、蓋部材6で閉止されている。蓋部材6は、金属製で、回転ケース3の開口を覆う円板上の底部9と、底部9の端からケース軸方向に延在する筒部10とを有している。
【0025】
底部9は、その中心から径方向に向けて順に、第1厚肉部9a、薄肉部9b、第2厚肉部9cに区別される。また、底部9の外側の中心部は、凹部9dとなっている。
【0026】
図1のA部拡大図を図2に示したように、筒部10は、その先端部にボルト7がねじ込まれるネジ孔10cを備えている。また、筒部10の内周面10aには断面コ字状の溝部10bが全周にわたって形成されている。この溝部10bは、ネジ孔10cよりも底部9側に設けられている。溝部10bには、Oリング8(シール)が入れられている。なお、筒部10の内周面10aではなく、回転ケース3端部の外周面3bに溝部を形成し、この溝部にOリング8を配置してもよい。また、溝部10bに配置するシールは、Oリング8に限られることはなく、様々なリング形態のシールを用いることができる。
【0027】
蓋部材6は、回転ケース3に対して次のようにして固定される。まず、回転ケース3端部の外周面3bに筒部10の内周面10aを嵌合させる。そして、回転ケース3端部の外周面3bに形成された穴3dに向かって筒部10の外周からボルト7をねじ込む。このようにして、回転ケース3と蓋部材6とを固定するのである。このとき、Oリング8は、回転ケース3端部の外周面3bと、筒部10の内周面10a(溝部10b)との間につぶされて挟持される。
【0028】
ここで、筒部10の内径は、回転ケース3端部の外周面3bの外径よりも少し小さくされる。これにより、蓋部材6の筒部10と回転ケース3との嵌合力を確保している。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の走行ユニット1によると、回転ケース3端部の外周面3bに蓋部材6の筒部10の内周面10aを嵌合させて回転ケース3と蓋部材6とを固定することで、回転ケース3がその径方向外側へ変形しようとしても、その変形は、蓋部材6の筒部10により抑えられる。また、回転ケース3が外側へ少し変形したとしても、それに応じて筒部10も変形し、回転ケース3端部の外周面3bと蓋部材6の筒部10との間に隙間が生じることはなく、シール性を維持し続けることができる。その結果、回転ケース3内の潤滑油の漏洩を防止することができる。
【0030】
また、前記したように、第1厚肉部9a、薄肉部9b、および第2厚肉部9cを有するように底部9を形成している。これにより、底部9は、薄肉部9bで弾性変形しやすい。そのため、回転ケース3がその径方向外側へ変形しようとした際に、筒部10に作用する荷重は底部9の弾性変形でも受けることができる。すなわち、回転ケース3が径方向外側へ変形しようとした際には、筒部10は無理なくその変形に追従することができ、蓋部材6の破損を防止することができる。なお、底部9の外側中心部に形成された凹部9dも、底部9の弾性変形のしやすさに寄与する。
【0031】
また、回転ケース3端部の外周面3bと筒部10の内周面10aとの間にOリング8を配置することで、回転ケース3がその径方向外側へ変形しようとするときでも、または、回転ケース3がその径方向外側へ変形したときでも、回転ケース3端部の外周面3bと蓋部材6の筒部10の内周面10aとの間でOリング8は挟持され続ける。これにより、回転ケース3内の潤滑油の漏洩をより防止することができる。
【0032】
なお、図2に、回転ケース3のケース軸方向の端面3eを示している。この端面3eと、底部9の内面との間に、Oリング8を配置してもよい。
【0033】
また、筒部10の内周面10aに形成された溝部10bにOリング8を配置することで、Oリング8のつぶし代が大きくなり、シール性をさらに高めることができている。
【0034】
また、回転ケース3端部の外周面3bに段差をつけることで、蓋部材6の筒部10の外周面が回転ケース3の外周面よりも外側に張り出す量を低減できる。その結果、これらの外周面と建設機械のクローラとの間に流入した土砂が、この間に溜まることを防止することができる。
【0035】
なお、ボルト7は、蓋部材6の筒部10の外周に6個程度配置することが好ましいが、2〜10個配置しても良い。また、これらボルト7は均等配置されていることが好ましいが、軸を中心に左右対称に配置するようにしても良い。ボルト7の役割は、ケース軸方向にずれることなく蓋部材6を回転ケース3に固定することである。すなわち、蓋部材6と回転ケース3との間のシール性に関してはボルト7による締め付け力を特に考慮する必要がないので、このようにボルト7の数量を低減することができる。その結果、蓋部材6および回転ケース3の加工・組立性が改善されるとともに、走行ユニット1の製造コストを従来よりも抑えることができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【符号の説明】
【0037】
1:走行ユニット
2:本体ケース
3:回転ケース
3a:内歯
4:モータ機構
5:減速機構
6:蓋部材
7:ボルト(固定手段)
8:Oリング(シール)
9:底部
10:筒部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0038】
【特許文献1】特開2000−65164号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械に固定される本体ケースと、
前記本体ケースに対して回転自在に保持され内周に内歯が形成された回転ケースと、
前記回転ケース内に収納され前記内歯に噛み合う減速機構と、
前記回転ケースの開口を覆う蓋部材と、
前記蓋部材を前記回転ケースに固定する固定手段と、
前記蓋部材と前記回転ケースとの間に配置されたシールと、を備え、
前記蓋部材は、
前記開口を覆う底部と、
前記底部の端からケース軸方向に延在する筒部と、を有し、
前記回転ケース端部の外周面に前記筒部の内周面を嵌合させて、当該回転ケースと前記蓋部材とを固定してなる、建設機械用走行ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械用走行ユニットにおいて、
前記シールが、前記回転ケース端部の外周面と前記筒部の内周面との間に配置されていることを特徴とする、建設機械用走行ユニット。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械用走行ユニットにおいて、
前記シールが、前記筒部の内周面に形成された溝部に配置されていることを特徴とする、建設機械用走行ユニット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の建設機械用走行ユニットにおいて、
前記回転ケース端部の外周面に段差が形成されていることを特徴とする、建設機械用走行ユニット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の建設機械用走行ユニットにおいて、
前記固定手段は、前記筒部の外周からケース軸中心に向かって配設されたボルトであり、当該ボルトが、前記筒部の外周に2乃至10個配置されていることを特徴とする、建設機械用走行ユニット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−164168(P2010−164168A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8446(P2009−8446)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】