説明

建造物の雨漏り検査方法、および装置

【課題】容易且つ正確に雨水の浸入先を検知する検査方法、装置を提供する。
【解決手段】可塑性と粘着性と耐水性とを有する油脂等を含む油粘土からなる粘土材を用意し、雨漏りの原因が存在すると想定される建造物の外装部の周囲の接面に沿わせて上記粘土材を上記接面の凹凸や段差になじむように水密に押着し、次で上記接面の内側に隙間を有してポケット状に成形され、上記粘土材が上記外装部の表面に押し付けられ、上記ポケット状の外周を上記接面に沿って縁状に伸ばすことで粘土材突出部を設けて押着する範囲を拡張することで開口部を有する液体受容部材を成形し、上記液体受容部材に上記開口部より液体を注入して上記雨漏りの原因を検出し、その後に上記接面から上記粘土材を剥がそうとする力で剥離することを特徴とする建造物の雨漏り検査方法、およびそれに用いる検査装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の雨漏りの原因となる箇所を検査する方法とそれに用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、建造物のうち新築物件については瑕疵担保保障制度が設けられ、中古物件については住宅改修工事や売買契約に際して瑕疵担保保障が明記されることによって、建造物の瑕疵について取り上げられるようになっている。建造物の瑕疵としては雨漏りが挙げられるが、雨漏り被害に対する対策と環境整備はたち遅れており、全くなされていないのが現状である。建造物の雨漏りに関しては、原因となる箇所を正確に検査する方法が望まれていた。
【0003】
従来、建造物の雨漏りの原因となる箇所を検査する手法としては、まず、雨漏りの原因が存在すると想定される箇所の下部から順番に、着色水を散布し、雨漏り箇所をじかに検査する方法がある(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
他の検査方法としては、室内にガスを充填し雨漏りの原因となる箇所から吐出させる方法が提供されている(例えば、特許文献3)。また、別の検査方法としては、建造物の外部から中性子線源を使用し雨溜まりが生じている箇所を検査する方法が提供されている(例えば、特許文献4)。さらに別の検査方法としては、水溶液である蛍光染料や蛍光顔料を用いて、建造物内部である天井裏や床下の暗い所に染み出た水溶液の状況に紫外線照射器具を使用して、蛍光体が発しているか否かを判断する方法や(例えば、特許文献5、6)、重金属を含む水溶液を用いて、外装部に散布し内装部分などに漏出した水溶液を分析する方法などがある(例えば、特許文献7)。
【0005】
【特許文献1】特許第4085024号公報
【特許文献2】特許第3452311号公報
【特許文献3】特開2006−30101号公報
【特許文献4】特開平11−51799号公報
【特許文献5】特許第1964971号公報
【特許文献6】特開2000−88692号公報
【特許文献7】特開2004−219157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2の検査方法では、いずれも広域に水を散布し、その中でおおまかな雨漏りの原因となる箇所の場所を特定しようとするものであるため、雨漏りの原因が存在すると想定される限られた箇所があっても、その箇所を特定して検査することができない。また、検査済みの部分及び連続して発生している雨漏りの原因となる箇所に、引き続き水を散布することで水がかかってしまい、先に検査した箇所と区別できなくなる可能性もあり、正確な箇所の特定が困難である。
【0007】
さらに、広範囲におおまかな量の水を散布するのみであるため、検査において雨漏りの原因となる箇所に水が充分に侵入せず、雨漏りとなるには至らない場合がある。この場合、建造物に浸入した水が内部で滞留しているにも係らずそれを把握することが不可能であり、正確な雨漏りの有無が検出できない。加えて、雨漏り発生状況によっては長時間にわたって、水を大量散布することを余儀なくされることがあり、この場合、雨漏りの有無は検出できても、雨漏りの原因となる箇所の特定が容易でないことが推測できる。
【0008】
また、現に居住等に使用されている建造物に対して水や、特に着色を行った水を広域に散布するのは困難な場合があるなどの都合から、これらの検査方法には、検査が可能な建造物、検査箇所に制約がある。
【0009】
特許文献3のガスを用いる検査方法は、木造やそれに順ずる建造物及び軽量鉄骨構造の建造物には検査不可能であり、実質上、検査対象が建造物の鉄筋コンクリート構造及び鉄骨構造の一部例えばRC構造やプレキャスト工法や鉄骨構造の特定建造物などと、駐車場棟や架橋等の特定施設などを対象とした建造物に限定されるといった問題がある。特許文献4の検査方法においては、雨漏り現象の検証が困難であり、雨溜りが存在しない箇所や結露現象との見分けが付き難く、誤診を招く恐れがある。
特許文献5、6の検査方法においては、雨水の浸入先と思われる検査箇所の極所部分だけを対象とする調査が実質不可能であり、雨漏り現象の検証が困難であり、例えば雨漏り発生状況・雨漏りが建造物に与えた影響等の分析に支障がある。特許文献7の検査方法においても、多種多様な建材の使用がある事からその品質保持に弊害の可能性及び金属アレルギー対策等の居住者に対する配慮が必要であるため、その時点で現に居住等に使用されている建造物には実施が不可能な場合があり、また検査員の主観に頼る検査方法は、新たな被害の発生につながる危険性があるという課題を残している。
【0010】
これらのような検査の手法では、雨水が浸入する箇所の正確な特定は極めて困難であり、少ない情報しか得られない。そのため、少ない情報をもとに、主観的な考えによって建造物の雨漏りに対する診断を行いがちになる。その結果、雨漏りの解決に関しても、単に消去法での補修工事に留まり問題解決を長びかせ、更には長期間に渡り解決に至らず、当該建造物における雨漏りの事故の被害を拡大させるような弊害を引き起こす可能性も考えられる。
【0011】
そこで発明者は、雨漏り検査において、雨漏りの原因が存在すると想定される箇所に対して、その箇所を正確に特定して検査が可能であり、容易かつ正確に雨漏りの原因を検出でき、さまざまな建造物の構造、状況、箇所に対して検査が可能である雨漏り検査方法と検査装置を開発すべく鋭意研究を進めていった。その結果、特定の箇所に対して液体を注入する部材を設け、注入した液体の量の変化を検出することで、雨漏りの原因を検出するという新たな検査方法と検査装置によって、これらの課題を解決する着想を得て、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の問題を解決するために、本発明に係る建造物の雨漏り検査方法、およびそれに用いる建造物の雨漏り検査装置は、次のような手段を採用する。
【0013】
すなわち、本発明の雨漏り検査方法は、可塑性と粘着性と耐水性とを有する粘土材を用意し、雨漏りの原因が存在すると想定される建造物の外装部における周囲に上記粘土材を接面状に沿わせて水密に押着して液体受容部材を成形し、上記液体受容部材に液体を注入して上記雨漏りの原因を検出することを特徴とする。
【0014】
この雨漏り検査方法によると、建造物を目視することで通常雨漏りが多い外装部を重点的に検査し、外装部における亀裂、しみ、素材の剥離などに基づいて雨漏りの原因が存在する個所を想定する。粘土材は、想定される外装部の周囲表面に、その可塑性と粘着性により凹凸や段差等になじむ形で水密に押着される。粘土材は水密性を備えていることで、外装面との間で液体を外部に漏らさない液体受容部材が成形される。液体受容部材に液体を注入し、液体が外装部から雨漏りの原因となる亀裂等に流入し、液体の量が変化することによって、亀裂などが雨漏りの原因であることなどが検出される。その結果、検査の対象となる一部の限られた位置に対する雨漏りが検出され、雨漏り個所が正確に特定される。
亀裂等が存在していても、液体の量が変化しない場合は、雨漏りの原因が存在しないことが検出される。
【0015】
この雨漏り検査方法によると、雨漏りの漏れが入り込んでいる側の屋内などから検査を行わなくとも、外装部の側から液体量の変化を確認することによって、雨漏りの有無と漏水要因となる箇所が特定される。
【0016】
また、本発明の雨漏り検査方法は、液体受容部材が上記外装部に押着された粘土材にカバー部材を水密に押着してなることを特徴とする。
【0017】
この雨漏り検査方法によると、粘土材が塑性変形してカバー部材との間で粘着性を発揮するので、液体受容容器には水密性が確保される。その際、カバー部材として例えば透過性材料を選択すると、カバー部材を介して液体の変化を目視可能となる。また、カバー部材として薄板材を選択すると、粘土材を介して外装部とカバー部材とがサンドイッチ構造となるので、液体受容部材が薄い少量形態に形成され、液体量を少なくしても検査可能となる。
【0018】
また、本発明の雨漏り検査方法は、液体受容部材が上方を開口して外装部に押着された粘土材と外装部との間でポケット状に設けてなることを特徴とする。
【0019】
この雨漏り検査方法によると、粘土材によって、用いる部材が少なく簡単な押着作業と短時間で液体受容部材が形成され、上方の開口から液体がそのまま注入される。注入された液体は、開口から目視されるので、雨漏りの原因の有無が簡易に検査される。
【0020】
また、本発明の雨漏り検査方法は、液体受容部材を成形する際に、上記外装部に対して中子型を接面状に沿わせ、上記粘土材を上記中子型に押し付けて上記外装部に接面状に沿わせて水密に押着し、上記中子型を抜き取ったあとに上記粘土材により液体受容部材を成形することを特徴とする。
【0021】
この雨漏り検査方法によると、幅狭な外装部で指先などが入れ難い検査箇所や、長手にわたる外装部で押着に精度が要求される検査箇所があるが、かかる検査箇所に中子型を利用して液体受容部材が成形可能となる。また、外装部に検査箇所が複数近接すると想定する場合には、中子型を沿わせることで一括対応可能となる。
なお、中子型の選択によって、液体受容部材の長さや大きさが自由に調節される。
【0022】
また、本発明の雨漏り検査方法は、液体受容部材に液体を注入して上記雨漏りの原因を検出する際に、上記注入する液体の量を測定することを特徴とする。
【0023】
この雨漏り検査方法によると、雨漏りの原因となる箇所に流れ込んでいる液体量の情報が得られ、雨漏りの原因となる亀裂の大きさや経路が検査される。
【0024】
次に、本発明の雨漏り検査装置は、雨漏りの原因が存在すると想定される建造物の外装部における周囲に接面状に沿わせて耐水性と可塑性と粘着性とを有する粘土材が水密に押着されてなる液体受容部材と、液体受容部材に液体を注入する開口部を備えてなることを特徴とする。
【0025】
この雨漏り検査装置によると、粘土材が外装部の周囲の接面の凹凸や段差等になじむように水密に押着された液体受容部材を有し、開口部から液体受容部材に検査用の液体を注入し、限られた特定の範囲に対して雨漏りの有無が検査される雨漏り検査装置が得られる。
【0026】
また、本発明の雨漏り検査装置は、液体受容部材が、上記粘土材と、上記粘土材に水密に押着されるカバー部材とからなることを特徴とする。
【0027】
この雨漏り検査装置によると、カバー部材によって液体受容部材の大きさ、形状が特定され、検査する範囲が確定される。また、粘土材の可塑性、粘着性、耐水性によりカバー部材を用いたときの液体受容部材の水密が確保される。
【0028】
また、本発明の雨漏り検査装置は、液体受容部材が、上記外装部に接面状に沿わせるとともに抜き取り自在に押し付けられる中子型と、中子型の外周に沿う上記外装部に水密に押着され中子型の抜き取り後に開口部を有する粘土材とを備えてなることを特徴とする。
【0029】
この雨漏り検査装置によると、幅狭な外装部や長手にわたる外装部の検査箇所に対して、長さや大きさを自由に選択できる中子型を利用して、検査箇所の正確な位置、範囲、形状に対応するよう液体受容部材が成形される。また、外装部に検査箇所が複数近接すると想定する場合には、中子型を沿わせることで一括対応可能となる。
【0030】
また、本発明の雨漏り検査装置は、液体受容部材が建造物の入り隅部に吻合する凸型の縦断面を有することを特徴とする。
【0031】
この雨漏り検査装置によると、液体受容部材が入り隅部に沿った形状で液体を受容できる空間が形成され、外装部に対して液体が均一にゆきわたって注入され、液体受容部材の水密が確保された状態で、外装部における入り隅部分の検査が行われる。
【0032】
また、本発明の雨漏り検査装置は、液体受容部材が建造物の出隅部に吻合する凹型の縦断面を有することを特徴とする。
【0033】
この雨漏り検査装置によると、液体受容部材が出隅部に沿った形状で液体を受容できる空間が形成され、外装部に対して液体が均一にゆきわたって注入され、液体受容部材の水密が確保された状態で、外装部における出隅部分の検査が行われる。
【0034】
また、本発明の雨漏り検査装置は、雨漏りの原因が存在すると想定される建造物の外装部における周囲と、上記外装部の周囲に上方を開口して接面状に沿わせて水密に押着され耐水性と可塑性と粘着性を有する粘土材とでポケット状の液体受容部材を設けることを特徴とする。
【0035】
この雨漏り検査方法によると、粘土材による単純な構造で、簡単な押着作業と短時間で液体受容部材が形成される雨漏り検査装置が得られる。またこの雨漏り検査装置によって、上方の開口から液体をそのまま注入し、注入された液体を開口から目視することで雨漏りの原因の有無の検出が簡易に実施される。
【0036】
また、本発明の雨漏り検査装置は、上記液体の注入量を測定する注入量測定装置を備えてなることを特徴とする。
【0037】
この雨漏り検査装置によると、注入量測定装置を備えているために液体の注入量が容易且つ正確に把握され、注入量の制御が可能となる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る建造物の雨漏り検査方法によると、建造物の外装部の雨漏り想定個所の周囲に液体を漏らさない液体受容部材を設けることができ、想定個所のみに液体を注入して雨漏りするか否かを検査することができる。また、粘土材を外装部の表面粗さや形状に馴染ませて押着するので、粘土材と外装部との間でのグリップ性が向上すると同時に表面粗さなどによる拡張された広い表面積によって密着性が強固となるので、外装部から剥離することのない液体受容部材を簡単にその都度成形して提供することができる。また、液体を注入して外装部側から目視することによって、雨漏りの有無を容易に検査することができる。
なお、粘土材で液体受容部材をポケット状に簡易に成形する場合には、短時間で行う簡易試験や本試験の前に行う仮試験などに有効に実施できる。
【0039】
本発明に係る建造物の雨漏り検査装置によると、雨漏りの原因が存在すると想定される個所が建造物の外装部のどこに存在していても、粘土材を各所の外装部の表面粗さや形状に馴染ませて押着するので、粘土材と各所とのグリップ性が向上すると同時に広い表面積によって密着性が強固となるので、各所から剥離することのない液体受容部材を簡単に装備することができる。また、液体受容部材が粘土材の押着により成形されるので、各所の都合に対応してその都度装備させることができる利点がある。
なお、粘土材で液体受容部材をポケット状を設ける場合には、簡便に設置することができ、簡易試験や仮試験などの装置として実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施の形態(1)の雨漏り検査装置の設置の概略図である。
【図2】実施の形態(1)の雨漏り検査装置の概略図である。
【図3】実施の形態(1)の雨漏り検査装置の分解斜視図である。
【図4】(A)は実施の形態(1)の雨漏り検査装置の設置時を示す概略図、(B)は実施の形態(1)の雨漏り検査装置への液体の注入を示す縦断面図、(C)は(B)図の要部拡大断面図である。
【図5】(A)は実施の形態(1)の雨漏り検査装置を構成する粘土材の押着前の縦断面図、(B)は実施の形態(1)の雨漏り検査装置を構成する粘土材の想定個所の周囲への押着を示す平面図、(C)は実施の形態(1)の雨漏り検査装置を構成する粘土材の押着を示す縦断面図、(D)は実施の形態(1)の雨漏り検査装置を構成する粘土材にカバー部材を押着した要部拡大縦断面図である。
【図6】実施の形態(2)の雨漏り検査装置の概略図である。
【図7】(A)は実施の形態(2)の雨漏り検査装置の設置時の縦断面図、(B)は実施の形態(2)の雨漏り検査装置の液体注入時の縦断面図である。
【図8】実施の形態(2)の雨漏り検査装置を略水平の外装部に対し設置した状態を示す縦断面図である。
【図9】(A)は実施の形態(3)の雨漏り検査装置を構成する雨漏り検査装置の設置時の縦断面図、(B)は実施の形態(3)の雨漏り検査装置の成形のための中子型の抜き取り時の正面図、(C)は実施の形態(3)の雨漏り検査装置の使用時の縦断面図、(D)は実施の形態(3)の雨漏り検査装置の使用時の正面図である。
【図10】(A)は実施の形態(3)の雨漏り検査装置の外装部への設置例の斜視図、 (B)は(A)のI−I断面図、(C)は(A)のII−II断面図である。
【図11】(A)は実施の形態(4)、(5)の雨漏り検査装置のカバー部材用円筒の斜視図、(B)は実施の形態(4)の雨漏り検査装置のカバー部材の側面図、(C)は実施の形態(5)の雨漏り検査装置のカバー部材の側面図である。
【図12】実施の形態(4)の雨漏り検査装置の分解斜視図である。
【図13】実施の形態(4)の雨漏り検査装置と当接した外装部の横断面図である。
【図14】実施の形態(5)の雨漏り検査装置の分解斜視図である。
【図15】実施の形態(5)の雨漏り検査装置と当接した外装部の横断面図である。
【図16】実施の形態(6)の雨漏り検査装置の分解斜視図である。
【図17】実施の形態(6)の雨漏り検査装置の縦断面図である。
【図18】実施の形態(7)における注入量測定装置の概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態(1)について図面を参照して説明する。図1は実施の形態(1)の雨漏り検査方法と装置を建造物の外装部の各所に設置した概略図、図2は同装置の概略図、図3は同装置の分解斜視図、図4(A)は同装置の設置時を示す側面図、(B)は同装置への液体の注入を示す縦断面図、(C)は(B)の要部拡大断面図、図5(A)は同装置を構成する粘土材の押着前の拡大断面図、(B)は同装置を構成する粘土材の想定個所の周囲への押着を示す平面図、(C)は同装置を構成する粘土材の押着を示す拡大断面図、(D)は同装置を構成する粘土材にカバー部材を押着した要部拡大断面図である。
【0042】
実施の形態(1)の雨漏り検査方法は、雨漏りの原因を、それらが存在すると想定される建造物1の外装部4から検査するものである。雨漏りの原因は、雨水が建造物1の外部から内部に入り込む原因となるさまざまなもの、例えば、建造物1の外装部4の材質に生じた亀裂や、素材の剥離などの要因のうち、ここでは実際に建造物1の外部から連通して雨水の通り道を生じているものである。その結果、内装部において水漏れが生じているものや、構造の内部において溜まりが生じているものなどを含む。存在すると想定されるとは、建造物1を目視し通常雨漏りの原因となることが多い外装部4を重点的に検査し、外装部4における亀裂14、しみ、素材の剥離などに基づいて、雨漏りの原因が存在する可能性が予測できることである。建造物1は、住宅、ビル、施設建築などや、トンネルや橋げた等の構造物を広く含む。ここで外装部4は、図1に示すように、外壁、内壁、垂直壁、水平壁、傾斜壁、天井、屋根材の他、建材や防水部、その継ぎ目や接合部分など、建造物1を構成する部分を広く含み、その材質は木や紙などの木質、鉄筋などの金属、モルタルやコンクリートなど各種、またその複合、接合部分などがあり得る。検査の対象となる外装部4の周囲44とは、亀裂14等を囲んでいる外周の領域である。検査とは、雨漏りの原因の存在や、雨漏りの原因の状態、性質を検出することで、建造物1に対して雨漏り原因の情報を得ることを指す。検出とは、雨漏りの原因の有無を確認することと、測定によってさらに雨漏りの原因についての情報を得ることを含む。
【0043】
実施の形態(1)では雨漏り検査方法に用いる雨漏り検査装置2をまず説明する。図2に示すように、この雨漏り検査装置2は、雨漏りの原因が存在すると想定される建造物1の外装部4における周囲44に接面状に沿わせて耐水性と可塑性と粘着性とを有する粘土材8が水密に押着されてなる液体受容部材5と、液体受容部材5に液体6を注入する開口部7を備えて構成される。図2に示すように、雨漏り検査装置2は、液体を注入して検査するためのものであるが、注入量測定装置3と組み合わせすることが可能である。
【0044】
雨漏り検査装置2は、図3に示すように、周囲44に対応すべく粘土材8が環状に成形され、この粘土材8にカバー部材9が水密に押着されて液体受容部材5が形成され、液体受容部材5にはカバー部材9に連通管10を介して上方を開口するラッパ状の開口部7が設けられている。
【0045】
粘土材8は、可塑性と粘着性と耐水性とを有する粘土等の素材である。可塑性とは、弾性限界以上の力を加えられた場合に自由に変形し、力が加えられなければその形状を維持する性質を指す。ここでは弾性限界は、粘土材8や自重や液体受容部材5をそれらの重量に抗して支えられる保形力を有しているが、指先などの押圧力で変形できる程度であることをいう。粘着性とは、ねばりつく性質であり、他の物体に接触すると付着力を発揮できる性質である。ここでは、指などで物体に押し付けられた場合に、物体に隙間なく付着し、自重や液体受容部材5をその重量に抗して支えられる力で付着するが、指で強く剥がそうとする力で剥がすことができる程度の粘着性が望ましい。耐水性とは、水に溶けたり、水を自然に吸収して大きく性質が変化するといったことがないことで、液体6にさらされた際に溶けて形状が崩壊することがなく、水密を保つことができる。
【0046】
こうした性質を備えた粘土材8としては、取り扱いなどから、含水状態の粘土等が好ましい。ここで粘土は、適量の水を含ませたときに粘性と可塑性を示す微粒子からなる素材を広く指し、ケイ素を多く含むものが主である。特にパラフィン、ワックスなどの油脂等を多く含む油粘土と呼ばれるものは、適量の水を含んだ後は、練りこみなどの操作を加えなければ水を吸収して極端に軟化したり、乾燥によって可塑性を大きく失ったりすることがないので好適である。弱接着剤を有するラバーやパテ、不定形のゴムやゲルなどの、耐水性と可塑性の高い物質を粘土材8として用いることができる。なお、粘土材8に用いる物質は、建造物に用いるため、できるだけ人体や環境に無害なものが望ましい。
【0047】
上記粘土材8としては、耐水性と可塑性と粘着性の面で前記の条件を満たし、使用後の剥離が特に容易で、人体に害の少ない物質として、ケイ素43W/V%、ステアリン酸亜鉛28W/V%、流動パラフィン13W/V%、カリオン10W/V%とその他から成る粘土を使用している。
【0048】
この粘土材8は、建造物1の外装部4の表面に対し、接面状に沿わせて水密に押着されている。ここで押着されているとは、外装部4の表面に押し付け、表面の粗さ形状や細かい凹凸などになじむように変形させる操作を加えつつ、粘着されていることをいう。
【0049】
液体受容部材5は、検査用の液体6を注入するための部材である。この注入によって、外装部4の亀裂14に液体6が行き渡り、雨漏りの原因の有無が検出される。液体受容部材5は、外装部4に接する液体受容空間55を有する。液体受容空間55は、外装部4と液体受容部材5によって囲まれた空間であり、液体受容部材5に注入された液体6が充填される空間であり、換言すれば、液体6を亀裂14に行き渡らせる部分である。液体受容部材5に滞留する液体6の量は少ない方が望ましいため、液体受容空間55は、できるだけ小さい容積であることが望ましく、外装部4と粘土材8とで囲まれる板間隙状を呈している。
【0050】
この実施の形態(1)では、図4(B)に示すように、外装部4の周囲44に押着した粘土材8に、カバー部材9を水密に押し付け、カバー部材9と外装部4の間に液体受容空間55が設けられることで、粘土材8とカバー部材9からなる液体受容部材5が設けられている。カバー部材9と粘土材8は粘土材8の粘着性によって粘着しているが、押し付けられて両者の間には隙間がなく、また粘土材8の可塑性による変形および耐水性によって、水密な状態で粘着している。
【0051】
カバー部材9は、材質は加工が困難でなく、水そのほか検査に用いる液体6によって汚れや劣化が生じにくいものなら何でもよく、例えば合成樹脂、ガラス、塗装された金属、硬質ゴムなどが選択できる。また、カバー部材9は透明や半透明などの内部の液量が目視可能な材質で作られているとさらに望ましいため、透明にできるアクリル樹脂材などが特に望ましい。
【0052】
カバー部材9の大きさや、円形や矩形などの形状は、検査の目的、建造物1の外装部4の状況にあわせて適宜選択することができる。カバー部材9は図4に示したように平坦なものでも、液体の容量がある皿状などのものでも構わないが、液体受容空間55をより小さくするためにできるだけ平坦に近いものが望ましい。なお、カバー部材9は内部の液量が目視可能な材質で作られている場合、水位や内容量を目視しやすい目盛りを設けることもできる。
【0053】
図4に示した例では、カバー部材9には透明なアクリル樹脂製の直径6cmの略平坦な円盤を用いている。このカバー部材9を、外装部4の周囲44に押着されている粘土材8に、外装部4とカバー部材9の円盤面が略平行となるよう押着している。液体受容空間55の厚みはほぼ粘土材8の厚みによって形成され、押し付けられて潰れているため、液体受容空間55の容積は小さいものとなっている。
【0054】
図4(C)に示すように、建造物の外装部4の表面は、一般に凹面45a、凸面45bなどの大小の凹凸や外装板の重ね合わせなどによる段差を有するが、粘土材8の変形によって凹面45aに入り込む形で、粘土材8が接面状に沿って押着されている。これらの凹凸を吸収する形の粘土材8を介してカバー部材9を水密に押し付けることで、外装部4の亀裂14がある外周44に液体受容部材5を設置することができる。
【0055】
開口部7は、液体受容部材5に液体6を注ぐためのものである。開口部7は、液体6を直接注入できるようにしても、注入量測定装置3を接続してもよい。連通管10の位置は、図4に示すように略中間部位としているが、液体受容部材5のやや上部に設けられている方が望ましい。液体6を注入した際に、液体受容空間55の下部から水位が上がってゆくため、孔が下部にあると、検査の対象である外装部4の下部に亀裂14等がある場合、外装部4の上部に液体6が届く前に液体6がその亀裂14に流れ込んでしまうおそれがあるためである。なお、連通管10は、カバー部材9の交差個所に補強部材99が設けられ、これらが透明や半透明などの内部の液量が目視可能な材質で作られているとさらに望ましく、水位を目視しやすい目盛りを設けることもできる。
【0056】
開口部7は、注入された液体6の量が変化を開口部7の水位として確認することができるので、そのまま液体6の変化を検出できる手段となっている。また、漏斗形状であるので、上方からは内部の液量がおおまかに目視可能な状態なので、さらに容易に変化が確認できる。
【0057】
注入量測定装置3は、液体6の注入量を測定するものである。液体6を注入する装置は直接水道管や小型・大型の容器を用い、そこから液体6を導入できるものでもよいが、液体6の注入量を測定する手段として、正確に量を計測できる必要がある。また、そのために正確に注入する量を調節できる手段も備えているものであるとより望ましい。この実施の形態(1)では、注入量測定装置3は液体の注入量を測定する手段であるメーター11と、注入の有無と量を計測できるバルブ12と、液体6を注入する注入管61を備えた容器13とからなる。図2に示した例では、メーター11は水流メーター、バルブ12はフッ素樹脂製開閉コック、注入管61はポリエチレン製の径10mmのチューブ、容器13はポリスチレン製の容量1lの容器を利用している。
【0058】
液体6としては、人体や環境に与える害、住宅などの建物に与える害が最小な液体を用いる必要がある。これらの条件を満たしかつ供給が容易な水、特に水道水などを用いてもよい。
特に、複数回の検査を行い、前の検査で既に雨漏りの原因が診受けられた場合において、前の検査において注入した水と識別が困難になる場合がある。こうした場合、試験実施を容易にするための方法の一つとして、水以外の他の水溶液や液体を使用するのが特に有効である。液体の中で特に有用な例として、アクリル系合成樹脂を主成分とするエマルジョン系の液体を水で4〜5倍に希釈したものなどが使用できる。この液体は乳白色状で、注入試験後に乾くとある程度の防水効果を有し、しかも人体に害が少ない。また、その他にも、例えば特許文献1、2、5、6、7に記載されているような着色や蛍光その他の特色のあるその他の液体を使用してもよい。図に示した例では、液体6は水道水であり、注入量測定装置3に充填し、検査に用いられている。
【0059】
次に、上記雨漏り検査装置2を用いた雨漏り検査方法について説明する。この雨漏り検査方法は、可塑性と粘着性と耐水性とを有する粘土材8を用意し、建造物1の外装部4において雨漏りの原因が存在すると想定される亀裂14の周囲44に粘土材8を接面状に沿わせて水密に押着して液体受容部材5を成形し、液体受容部材5に液体6を注入して上記雨漏りの原因を検出する。液体受容部材5は、周囲44に押着された粘土材8にカバー部材9を水密に押し付けてなる。液体受容部材5に液体6を注入して上記雨漏りの原因を検出する際には、上記注入する液体6の量を測定して行われる。
【0060】
さらに雨漏り検査装置2の設置について詳しく説明する。図5(A)は粘土材8が建造物1の外装部4の表面に対して押着される前の状態である。ここでは、粘土材8は図3に示すように最初から、設置する外装部4の周囲44の形状にあわせ、例えば図の例ではカバー部材9の縁の形状にあわせた輪状のものを用意し、そのまま建物の一部4の表面に貼り付けている。また、図5(B)に示すように、小さな塊状の粘土材8a、8b、8c・・・8nを周囲の形状にあわせて、図の例では輪状になるよう、外装部4の亀裂14の周囲44に、順次押着していってもよい。
【0061】
図5(C)のように、粘土材8を手の平や指などで外装部4に対してA方向に押し付けると、粘土材8はその可塑性から、指で押し付ける程度の力で自由に変形することができるので、接面45の形状に沿うように変形する。さらにこのとき、図に示したように接面45に細かい凹凸が存在する場合でも、その形状に対して押し付けられることで凹凸になじむように変形し、グリップ力が発揮される。さらに、粘土材8は力が加わらない状態であるとその可塑性のためにその表面に沿って変形した状態のまま保形され、その粘着性と上記グリップ力とによりその形状のまま表面に粘着する。指で剥がす程度の力を加えない限り、自重や後述する液体受容部材2の重量によっては、その変形した形状や接面45への粘着性を失うことはない。
【0062】
また、粘土材8は押し付けた後に接面に沿わせてB方向に伸ばし、押着させる範囲を拡張変更することもできる。図5(B)のように、小さな塊状の複数の粘土材8a、8b等を設置している場合は、それぞれをよく伸ばして互いに結合させ、粘土をこねる要領で互いになじませて一体化させるのが望ましい。また接面45との間に隙間がなくなるよう、粘土材8a、8b同士の隙間は特によく押着させるのが望ましい。
【0063】
なお、粘土材8の押着の操作は、別の部材や道具を介して押したり塑形などを行うこともできるが、ここでは粘土材8を細かく押し付ける範囲を決め変形させ、また接面45の凹凸によくなじませるために、細かく柔軟に操作できる手の指で行うのが望ましい。
【0064】
粘土材8を押着した後、カバー部材9を設置する。カバー部材9の建造物に対する面90を粘土材8にあてがい、押し付けることで、液体受容空間55を有する液体受容部材5が作られる。
【0065】
図5(C)に示すように、接面45に押着された粘土材8に対して、カバー部材9をA方向に押着すると、カバー部材9は形状も表面も略平坦なので、カバー部材接面46と粘土材8との間は広い幅で粘着する。カバー部材9を押圧することで、カバー部材接面46において、粘土材8がさらにB方向にそって圧潰される。すなわち、粘土材8と、接面45との粘着部の幅L1、カバー部材接面46との粘着部の幅L2が、ともに広幅となる。その結果、粘土材8に接する面積がともに大きくなり、より隙間なく水密に押着され、また粘着する力も大きくなる。
【0066】
図示しないが、カバー部材9を外装部4に対向させ、カバー部材9と外装部4の境界に外側から粘土材8をくまなく、周囲の隙間を埋めるように外側から押着することもできる。また、あらかじめ外装部4に貼り付けた粘土材8にカバー部材9を押し付けてから、さらに隙間を埋めるように粘土材8を押着することもできる。
【0067】
注入量測定装置3は、注入管61を雨漏り検査装置2の開口部7に臨むように設置する。注入量測定装置3は、スタンドなどで固定したり、あるいはテープその他を用いて建造物1の外装部4などに固定してもよい。検査時間が短い場合や、雨漏りの有無のみを調べるいわゆる仮試験においては、注入量測定装置3は手で保持しても構わない。
【0068】
また、高所及び狭い所における検査を容易にするためには、伸縮機能を有する竿状物、例えば伸縮機能を有するプラスチック製やグラスファイバー製の釣竿などを応用したものに、注入量測定装置3を取り付けて使用することができる。例えば、高所及び狭い所を検査対象とした外壁において、二連梯子の許容高さである6m以上及び外壁周辺に梯子等が架けられない狭い所には、注入量測定装置3の使用を容易にするための検査補助器具を用いることができる。
【0069】
次に、この実施の形態(1)の雨漏り検査装置1を用いた検査方法について説明する。図2に示すように、注入量測定装置3を用いて、雨漏り検査装置2の開口部7に液体6を注入すると、図4(B)に示すように、液体受容部材5と外装部4による液体受容空間55に液体6aが流れ込む。
【0070】
図4(B)に示すように、液体受容部材5と連通管10の容積の液体6が注入されると、外装部4に雨漏りの原因である亀裂14が内部に連通していなければ、液体6aの量が変化することはない。しかし、亀裂14が内部と連通している場合、液体6aの一部が液体6bとして流入し、液体受容空間55の液体6aが減少する。すなわち、液体6aが減少しているのが認められた場合、亀裂14の中および亀裂14を通して内装側や外装部内部に、液体6bが流れ込んでいることになる。ここで、図4(B)に示した例では、カバー部材9や連通管10が透明素材であり、内部の液体6aが目視できるので、液体6aの量の変化が目視できる。したがって、雨漏り検査装置2の設置した側からの検査によってのみで、検査する範囲のうち、液体受容部材5で覆われた範囲の建造物1の外装部4に雨漏りの原因である亀裂14を通じての雨漏りの有無を検査することができる。なお、カバー部材9や連通管10が透明でない場合でも、開口部7の水位の減少は目視可能である。
【0071】
また、図4(B)に示すように、建造物1の内装側からの観察によって、雨漏り流出口141からの液体6bの流出が確認でき、亀裂14の枝分かれや規模の状態の把握や、亀裂14、雨漏り流出口141をふさぐといった対策を的確に行うことができる。さらに、液体受容部材5を取り付けた位置からは離れた場所にある雨漏り流出口142からも、液体6cの流出があれば確認することができるが、この場合、液体受容部材5の正確な位置が判っているので、注入した箇所から雨漏り流出口142まで伸びている亀裂14の状態が把握でき、雨漏りの情報として有用である。
【0072】
さらに、注入量測定装置3を付設すると、そのメーター11によって注入した液体6の量が計測できる。液体受容空間55と開口部7の合計容量よりも多く液体が注入できた場合、雨漏りが生じているが、例えば時間ごとの注入容量から、雨漏りとして漏れる液体6b、6cの漏れる量や速度を検出でき、亀裂14の規模や状態などを知るための情報も得ることができる。
【0073】
次に、実施の形態(2)について説明する。図6は実施の形態(2)における雨漏り検査装置の概略図、図7(A)は同装置の設置時の縦断面図、(B)は同装置の液体注入時の縦断面図、図8は同装置を略水平の外装部に対し設置した状態を示す縦断面図である。なお、重複部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0074】
この雨漏り検査装置20は、液体受容部材50が、外装部4と上方を開口部70としつつ外装部4に押着された粘土材8とで、ポケット状ないしは上向きU字形に設けられている。
【0075】
この実施の形態(2)では、図6に示すように、粘土材8が外装部4の周囲440に、上方を開口部70として水密な状態で押着されるようになっている。設置に際しては、図7(A)に示すように、粘土材8が押着される際に指で押し付けられ、外装部4と接する外周に粘土材80が縁状となって伸ばされ、外装部4との間の水密性と、剥がれることがないような粘着性を保てるように幅面積が広められている。
【0076】
液体受容部材50はすべて粘土材8により成形され、外装部4の亀裂14の周囲440に粘土材8が被せられた上で接面状に沿うように押着され、周囲440の内側には粘土材8と外装部4との間の隙間が設けられており、この隙間が、液体受容空間550となっている。
【0077】
粘土材8が押着された周囲の形状は、略半円状であっても、縦長や横長の半楕円状、矩形そのほか亀裂14の周囲440の形状に合わせたいかなる形状であってもよい。
【0078】
液体受容部材50の開口部70は、液体6を注入可能な大きさや形状であればいかなるものであってもよいが、目視を勘案すると開口部70が大きいものが望ましい。
【0079】
この実施の形態(2)によれば、図7(B)に示すように、簡易注入器60を開口部70から液体6を注入することが可能である。簡易注入器60としては、市販の洗浄瓶や洗瓶等と呼ばれるフッ素樹脂またはポリエステル樹脂製で注入用ノズル付きの円筒形容器を用いることができる。この簡易注入器60は、容易にノズルによって注入箇所を定め適当な量を注入することができるため、小規模な装置の簡易な検査に適している。
【0080】
亀裂14の存在の有無は、すなわち液体6の量の変化は、液面6dが下降するか否かで検出することができるので、開口部70から簡易に目視することができる。
【0081】
なお、検査する外装部4の傾斜、形状などはいずれであってもよく、また外装部4のさまざまな形状、面積に対して検査を行うことができる。例えば図8に示すように、外装部4が略水平の場合、液体受容部材50をいわゆる饅頭状の中空で、開口部70を上方に設けたものとすることもできる。上記液体受容部材50は亀裂14等が複数存在すると想定される場合には、多数設けて行うことができる。
【0082】
この実施の形態(2)は、粘土材8を建造物1の外装部4に押着するのみで、簡易に設置することができ、また亀裂14の存在の有無の確認も容易である。そのために、雨漏りの原因の有無のみの簡易な試験や、本試験に先だつ仮試験などに適している。また、大きな面積をとることのできるカバー部材を使わずに、容易に変形できる粘土材8のみで液体受容部材を形成するため、小さな面積の外装部4を検査するのに向いており、正確な検査範囲の形状、面積などをあらかじめ定める必要がなく、おおまかな範囲を検査するのに適している。
【0083】
次に、実施の形態(3)について説明する。図9(A)は実施の形態(3)の雨漏り検査装置の設置時の縦断面図、(B)は同装置の成形のための中子型の抜き取り時の正面図、(C)は同装置の使用時の縦断面図、(D)は同装置の使用時の正面図、図10(A)は同装置の外装部への設置例を示す正面図、(B)は図10(A)のI−I断面図、(C)は図10(A)のII−II断面図である。
【0084】
この雨漏り検査装置21は、液体受容部材51が、外装部40に接面状に沿わせるとともに抜き取り自在に押し付けられる中子型17と、中子型17の外周に沿う上記外装部40に押着され中子型17の抜き取り後に開口部71を有する粘土材8とを備えてなる。
【0085】
まず、雨漏り検査装置21は、設置時には、外装部40に対して、抜き取りが自由な中子型17を接面状に沿わせ、粘土材8を、中子型17に押し付けかつ外装部40に接面状に沿わせて押着している。
【0086】
中子型17としてはひも状部材が用いられる。この実施の形態(3)では中子型17として直径3ミリ程度のひもを用いた。中子型17は、連結されたアルミ管15と透明チューブ16の内部に挿脱自在に挿通され、アルミ管15からひも状部材が所望の長さに表出されている。かかる状態の中子型17が外装部40に沿わせて押し付けられてセットされる。粘土材8は、上記中子型17に沿わせて包み込むように押し当てられると同時に、外装部40に押着される。粘土材8はアルミ管15に対しても押着される。アルミ管5と粘土材8は水密に押着されている。この実施の形態(3)では押しつけられた部分の長さは、15cm長前後である。
【0087】
次に、図9(B)に示すように、中子型17は粘土材8からアルミ管15と透明チューブ16の内部から強制的に引き抜き除去され、除去後には中子型17を容積とするひも状の液体受容空間551を有する液体受容部材51が成形されるに至る。その結果、液体受容部材51は、外装部40と粘土材8とで囲まれる除去空間に連なるアルミ管15と、透明チューブ16の開口部71を備えている。
【0088】
図9(C)、(D)に示すように、雨漏り検査装置21の使用時には、この液体受容部材51に液体6を注入して、注入液体量の変化量を測定する。この実施の形態(3)では、注入量測定装置3の注入管61に先の細くなったゴム製の液体の注ぎ口62を設け、透明チューブ16の開口部71に接続し、液体6を注入する。注入液体量の変化は、透明チューブ16から内部の液体量の水位の減少の確認によって判断できる。また、注入量測定装置3のメーター11から、注入量より判断できる。すなわち、液体受容部材51を満たすように液体6を注入した後、なお注入量を増やし注入が可能であった場合、亀裂14などの別の位置から漏れが発生していることになる。
【0089】
なお、この実施の形態(3)は、液体受容空間551が小さく、用いる液体6の量が少ないので、漏斗状などの連通管などを設けて多量の液体6を受ける必要がないため、注ぎ口62を開口部71にじかに接続しており、液体6の漏れがより少ない点も有効である。
【0090】
この実施の形態(3)では、細長い外装部40や、亀裂14が細長く発生している部位など、あらかじめ液体受容部材51の成形が容易でない場合に対処することができるために、こうした箇所である図1で示す建造物1の外装部40の検査に有効である。また、建造物1の外装部40の水平や垂直、傾斜などの角度を問わず、また平坦、曲面などの形状を問わず検査することも可能である。
【0091】
例えば、図10(A)に示すような建造物1は、外装部が水平横長のサイディング板401a〜401nを上下方向に装備して水平方向の継目部40a〜40nが上下方向で隔間して形成されている。この種のサイディング構造の場合には、水平方向の継目部40a〜40nの接合不十分や継目部分の破損などによって雨漏りが生じやすくなっている。そのために、水平方向のいずれかの継目部40a〜40nに位置して液体受容部材21aが水平配置されたり、複数の継目部40a〜40nに交差して液体受容部材21bが上下方向に配置されて実施されることとなる。
【0092】
図10(B)に示すように、液体受容部材21aは、水平方向の継目部40bに位置して水平配置され、透明チューブをL字形に曲げた開口部から液体6を注入可能に検査することが可能となる。この場合には、液体受容空間551が継目部40bを水平方向にわたって注入可能に構成されているので、サイディング構造の継目部40a〜40nを水平方向にわたって長尺範囲で雨漏りを検査できる。
【0093】
また、液体受容部材21bは、サイディング板401a〜401nの継目部40a〜40nを上下方向から交差して配置され、上下方向から継目部40a〜40nにそれぞれ液体6を注入して検査することができる。図10(C)に示すように、液体受容空間551が継目部40a〜40nを乗り越えて注入可能に構成されているので、継目部40a〜40nを上下方向にわたって個々に検査することができ、サイディング構造の個々の継目部40a〜40nの雨漏りを検査できる。なお、液体受容部材21bは、粘土材8の開口部72を有している。
【0094】
同様の趣旨からは、継目部を有するサッシ,屋根瓦あるいはトタンの継ぎ目,その他扉や窓の枠の継ぎ目,図1に示す建造物1の屋根の軒先と外壁の取り合い部分40cなどには、隙間などによる雨漏りの原因が生じ易いが、このような細部に対応することができる。
【0095】
次に、実施の形態(4)について説明する。図11(A)は実施の形態(4)、(5)に用いる雨漏り検査装置のカバー部材用円筒の斜視図、(B)は実施の形態(4)の雨漏り検査装置のカバー部材の側面図、(C)は同カバー部材の側面図、図12は実施の形態(4)の雨漏り検査装置の分解斜視図、図13は同装置と当接した外装部の横断面図である。なお、重複部分に関しては同符号を付して説明を省略する。
【0096】
この雨漏り検査装置22は、液体受容部材52が、建造物1の入り隅部41に吻合する凸型の縦断面910を有する。入り隅部41とは、外装部表面同士が角度をもって合わさっている隅の部分であって、対面する側の角度θが180度未満である。吻合とは、ぴったりと合うことであり、ここでは隅の形状に対してほぼ同じ形状を持ち、当接が可能なことである。
【0097】
このカバー部材91は、図11の(A)、(B)に示すように、シリコン樹脂などの素材で中心に細い円筒状の空間95のあるカバー部材用円筒18が、切断線180において切断され、縦断面910がくさび型の凸状になるように製造されている。図12、図13に示すように、このくさび型のカバー部材91が、入り隅の壁面411、412の角度θと略同一になるよう構成されることで、このくさび型のカバー部材91の縦断面910が、入り隅部41に吻合するようになっている。
【0098】
雨漏り検査装置22の設置時には、粘土材8を同様な入り隅形状に成形し、入り隅の壁面411、412にある亀裂14の周囲441に対してそれぞれ押着する。ついで、粘土材8の装置側への当接面813、814にくさび型のカバー部材断面911、912を押着することによって、液体受容部材52が成形される。液体受容空間552は入り隅41に想定する亀裂14を周囲441から粘土材8の厚みによって囲んで形成されるようになっている。またカバー部材91の角度は、入り隅41の角度θと略同一であって液体受容空間552は厚さが略均一であるために、周囲441の各所に均等な量の液体6が行き渡る。また、粘土材8によって構成される厚みが調整しやすく、液体受容空間552の容積を最小限にまで小さくすることが可能となっている。
【0099】
なお、カバー部材用91円筒18の空間95には連通管10のL字型のチューブを嵌め込まれ、開口部7から空間95を通じて液体受容空間552に液体6が注入できるようになっている。
【0100】
この実施の形態(4)では、建造物の入り隅を検査することができる。その際に、カバー部材用円筒18はシリコンチューブで切断加工が容易であるから、作業現場において、入り隅の角度θにあわせて切断線180から切断してカバー部材91を現場製造することができる。
【0101】
次に、実施の形態(5)について説明する。図14は実施の形態(5)の雨漏り検査装置の分解斜視図、図15は同装置と当接した外装部の横断面図である。なお、重複部分に関しては同符号を付して説明を省略する。
【0102】
この雨漏り検査装置23は、液体受容部材53が、出隅部42に吻合する凹型の縦断面920を有する。建造物の出隅部42とは、外装部4の表面同士が角度をもって合わさっている隅の部分であって、対面する側からの角度θが180度以上であるものである。
【0103】
このカバー部材92は、図11の(A)、(C)に示すように、カバー部材用円筒18が切断線180において切断され、縦断面が逆くさび型の凹状になるように製造されている。この逆くさび型の断面921、922が、出隅の壁面421、422が構成する当接面の角度θと略同一になるよう構成されることで、この逆くさび型のカバー部材断面921、922が構成する建造物に対する縦断面920が外装部の出隅部42に吻合するようになっている。
【0104】
この雨漏り検査装置23の設置時には、粘土材8を出隅の壁面421、422にある外装部の周囲442に対してそれぞれ押着する。ついで、粘土材8の装置側への当接面823、824にカバー部材断面921、922を押し付けることによって、液体受容部材53が作られる。建造物に対する縦断面920と外装部の周囲442の隙間に、粘土材8の厚みによって液体受容空間552が形成されるようになっている。
【0105】
この実施の形態(5)では、建造物の出隅を検査することができ、実施の形態(4)と同様に応用が可能である。
【0106】
次に、実施の形態(6)について説明する。図16は実施の形態(6)の雨漏り検査装置の分解斜視図、図17は同装置の縦断面図である。なお、重複部分に関しては同符号を付して説明を省略する。
【0107】
この実施の形態(6)では、液体受容部材54が、実施の形態(1)の同様の板状のカバー部材94から形成されている。カバー部材94は、広い範囲の亀裂14の周囲443を検査するためのもので、好ましくはより面積の広く形成されている。取り扱い等から軽量で透明なものが望ましく、適切なものに透明なアクリルなどのプラスチックが挙げられる。この実施の形態(6)では、カバー部材94として透明なアクリル製の平坦な25cm四方の板に穴をあけ、補強部材93,99を固定している。なお、カバー部材94の重量に対して粘土材8が粘着する力を補強するために設置後、粘土材8の周囲をさらにテープなどで外装部43の表面に対して粘着補強してもよい。
【0108】
カバー部材94は、できるだけ液体受容部材54の上方になるように連通管10を設ける。
【0109】
このカバー部材94を粘土材8で外装部の周囲443に押し付けると、薄く面積の広い液体受容空間554ができる。このため、この実施の形態(6)は広い範囲での検査を行う場合に適している。例えばコンクリート構造物における細かい亀裂発生や剥離箇所等の、ある程度広範囲な部分などに対する検査に対応する。また、図17に示したように、カバー部材全体が透明であるため、液体6の量の変化による雨漏りの原因の検出がしやすい他に、液体6が流入する亀裂14の位置関係、流入してゆく経過が目視できるため、雨漏りの原因に対してさらに情報が得られる。
【0110】
次に、実施の形態(7)について説明する。図18は、この実施の形態(7)における注入量測定装置の概略図である。
【0111】
この注入量測定装置30は、容器130、コネクター63、バルブ120、注入管61から概略構成される。
【0112】
容器130は、液体の注入量を測定する手段として、透明かつ目盛りを備えた、角型ないしは丸型の筒状容器となっている。
【0113】
この容器130の下部にはコネクター63を介して排出制御機能を有するバルブ120が連結される。バルブ120には注入管61を取り付け、注ぎ口62を設けている。
【0114】
この実施の形態(7)では、バルブ20の開閉制御によって正確な注入量と注入速度(ml/分など)の調節が可能となり、正確な検査を行うことができる。
【0115】
なお、他の実施の形態としては、図示しないが、連通管10の角度を調節して開口部を上向きとすることで、検査する外装部が垂直以外であっても検査可能である。また、検査する部分が水平に近い場合は特に、液体受容部材は密閉する形状でなく、枠状に囲う形状のものを選択することもできる。
【0116】
また、これらの実施の形態に記載された各要素は、それぞれ適宜組み合わせて用いることができる。
【0117】
ついで、これらの雨漏り検査方法および装置を用いた雨漏り診断の実例について説明する。
【0118】
雨漏り検査の事前調査としては、例えば建造物1の仕様や仕上げ材の内容,築年数や使用期間等の他に、問診内容として、例えば何処に、何時頃で、どんな時に、どの程度、などの雨漏り発生状況の確認を、検査前に前もって調査しておく。
【0119】
雨漏り発生部分の調査として、目視による染みや湿気状態の確認と、屋根裏や内装仕上げ内部の通常隠蔽された部分等において、例えば照明器具やコンセントボックス用の配線穴などから内視鏡や小型カメラを使用して染みや湿気状態の確認をし、それぞれ記録し写真を撮る。
【0120】
また、雨漏りの原因が存在すると思われる任意の複数箇所においては、実施の形態(2)の雨漏り検査装置を設置し、液体6として水を使用して、雨漏り要因の有無のみを簡単に判定する、いわゆる仮注入試験を実施し、水が建造物内に浸入した箇所を、本試験実施対象の外装部4の周囲44として確定する。
【0121】
これらの準備の後、本試験として、実施の形態(1)、(3)〜(6)の雨漏り検査装置を用いた雨漏り検査方法を実施する。雨漏り検査装置2を、上記の仮試験で判明した外装部4の周囲44に設置し、注入速度を設定した後、試験用の液体6による注入試験を開始して時間を記録する。
【0122】
同時に、当該雨漏り発生箇所及びその箇所周辺の隠蔽部分において、目視や内視鏡や小型カメラを使用して検知作業を行う。
【0123】
上記の検知作業に加えて、注入試験実施で発する雫音確認のため聴診器などを使用して、雨漏り発生を目視で確認する前に認知する方法を採用する。
【0124】
雨漏り発生を認知した際、注入試験開始から雨漏り発生までに、液体6の注入量と時間(水量ml/分)を記録し写真を撮る。
【0125】
また、検査の対象となっている外装部4以外の外装部において、例えば不具合箇所や雨仕舞い部分からの漏水発生がないかの有無を確認し、その内容の記録と場合によっては写真を撮る。
【0126】
複数箇所の検査対象である外装部4がある場合において、検査箇所ごとの充分なレスポンスタイムを設け、誤診を避ける。
【0127】
雨漏り発生が認知できない場合において、例えば建造物1内に液体6が長時間に渡り大量に浸入しているにも係らず雨漏り現象が現れない場合であって、当該雨漏りに直接因果関係が無い状況においても、雨漏り検査装置2を採用して外装部4から雨水が浸入している事実が判明することにより、建造物1内に滞留ないしは他の方向や箇所に侵入及び移動した事実が容易に推測できる。
【0128】
一連の検査作業の結果、正確な検査データーを得ることにより、後の雨漏り診断における検証及び分析において、誤診を避け的確な判定を行うことが可能となり、当該雨漏りが建造物に与えた影響及び的確な改修方法の提案に役立てることが可能になる。
【実施例】
【0129】
[試験例1]
以下の概要で、建築物に対して雨漏りの診断を行った。
(物件概要)築5年未満の木造モルタル2階建の住宅
(漏水発生箇所)1階居室リビングサッシ上部
(検査対象)上記サッシに面する外壁及び屋根部分並びにベランダ周辺部分
【0130】
(検査方法、結果)
雨漏りの原因が存在する可能性のある、上記サッシの当該雨漏りサッシ上部棟違い屋根の軒先板金と外壁の取り合い部分の外装部40cに対して、雨漏りの原因の有無のみを検査する仮試験を行った。仮試験は以下のように行った。粘土材8にケイ素43W/V%、ステアリン酸亜鉛28W/V%、流動パラフィン13W/V%、カリオン10W/V%の粘土を用いて、検査する箇所を下方からポケット状に覆うように液体受容部材50を形成し、実施の形態(2)の雨漏り検査装置20を設置した。この液体受容部材50に対して、簡易注入器60を用いて液体6である水を少量注入し、開口部70から目視した水位の変化によって雨漏りの原因の有無を検査した。検査の結果として、注入したすべての水が建物内に侵入し、軒先板金と外壁の取り合い部分に、雨漏りの原因の存在を確認した。
【0131】
この軒先板金と外壁の取り合い部分の外装部40cに対して、本試験を行った。雨漏りの原因が存在すると想定される外装部に沿わせて略円筒形で微弾性を有した直径3ミリ程度のひもを中子型17とし、アルミ管15に接続された透明チューブ16の中に、中子型17を通し、これらに沿わせて包み込むように、仮試験と同様の粘土材8をさらに沿わせて押着した。押し当てられた部分の中子型の長さは、15センチ長前後であった。中子型17を引き抜き、実施の形態(3)の雨漏り検査装置21とした。
【0132】
この雨漏り検査装置21に対し、注入量測定装置30を用いて、注入量を制御しつつ液体6である水を注入した。注入量測定装置30には、目盛り110が設けられた容量500mlの円筒形容器130、直径5ミリのゴムチューブのコネクター63、液体排出の制御機能を持つバルブ120、注入管61を持つ、実施の形態(7)の装置を用いた。その結果、約500mlの水のすべてが建物内に浸入した。試験開始約15分後に、建物の基礎部分の外壁に漏水が発生したのを確認した。さらに、同じ箇所に再度同様に注入試験を行うと、注入後間もなく当該サッシ外壁側の木枠部分及び土台水切り部分より漏水が発生し、さらに5分後、上記サッシ枠の上部より漏水が発生したのを目視で確認した。
【0133】
(検査結果の検討)
注入試験の結果により、軒先板金と外壁との取り合い部分にクラックが発生しており、建物に雨水が侵入するものと思われた。該当部分の構造をさらに詳細に検査した結果、注入試験の実施部分から浸入した水は、大半が建物の外壁の基礎部分など外部に流れ出るが、一部は当該サッシ上部で防水構造の内側に廻り込んでいる状況と認められた。
【0134】
さらに、対処としてクラック発生箇所にシーリングを施そうとしたところ、すでにシーリングによる防水補修が施されていたものの、施工が充分でなかったために水漏れが起きたことが確認できた。また、現状では他に雨漏りの原因は認められないものの、防水補修が充分でないことから、今後も外壁仕上げと異質な部分(板金部・開口部・防水部)取り合いにクラック等の発生が生じた際、本件と同様の事故が発生することが予測でき、今後定期的な点検及びメンテナンス計画の検討が必要なことが判明した。
【0135】
[試験例2]
以下の概要で、建築物に対して雨漏りの診断を行った。
(物件概要)築3年未満の木造3階建サイディング外壁仕上げ
(漏水発生箇所)1階キッチンサッシ枠部
(検査対象)外壁および開口部
【0136】
(検査方法、結果)
目視、および内視鏡等によって、サイディング間の隙間等の雨漏りの原因が存在すると想定される外装部の目安をつけてから、外壁のサイディング、サッシの継ぎ目部分に対して、雨漏り検査試験の本試験を行った。本試験は、それぞれのサイディングの溝やサッシの継ぎ目に沿うように細長く、各所の長さに合わせて実施の形態(3)の雨漏り検査装置21を設置し、その他は試験例1と同様に行った。試験の結果、2階サッシ右脇のサイディング継手部分に水を約500ml注入した際、約30分後に1階キッチンサッシアルミ枠のビス部分より漏水が発生したのを目視で確認した。
【0137】
(検査結果の検討)
目視、点検口からの内視鏡での確認、聴診器によって、水の経路や内部の水の滞留に関して検査した結果、検査箇所のサイディング継手部分から浸入した水が、サッシ下部およびキッチンの換気扇脇の継ぎ目から防水紙の裏側に廻り込み、1階サッシ上部まで達し一旦内部に滞留した後、ビス穴部分から漏水していると思われた。
【0138】
対処として、雨水の浸入した外装部のサイディングを除去し、新たに防水処理を行うこと、また建物内の雨水の侵入部分、サイディング継手やサッシ開口部分のシーリング処理が必要と認められた。
【0139】
[試験例3]
以下の概要で、建築物に対して雨漏りの診断を行った。
(物件概要)築30年のRC構造3階建、外壁塗装、陸屋根防水、2年前に雨漏りの補修と外壁部の全面塗装歴あり
(漏水発生箇所)2階居室天井部分
(検査対象)北面3階のバルコニー部及び勾配壁並びに屋上部
【0140】
(検査方法、結果)
3階上部屋上コンクリート笠木部の亀裂発生している極所部分を外装部4とし、雨漏り検査装置2を設置した。雨漏り検査装置2は、外装部4の周囲44に略円形に試験例1と同様の粘土材8を指で押着し、アクリル樹脂製の直径6cmの略平坦な円盤である中央に穴のあるカバー部材9を押し付け、樹脂製のL型筒と漏斗からなる連通管10を接続、連通管10の口を上に向けて実施の形態(1)の雨漏り検査装置2とした。この雨漏り検査装置2に、試験例1と同様の雨漏り検査装置30を用いて、液体6として水を用い、注入試験を開始した。試験開始10分後に水を150ml注入した時点で、下部の傾斜壁部分の塗装剥離部分より漏水し始めたため、その一部を切除したところ、錆を含んだ水が噴出したのを確認した。
【0141】
続いて、その雨漏りの原因となる箇所の、ある程度広範囲の部分に対して検査を行った。カバー部材94に25cm四方の透明アクリル板を用い、補強部材93,99には上記のカバー部材9を用い、連通管10は上記と同じものを用いて、実施の形態(6)に記載の雨漏り検査装置を設置した。液体6としてアクリル系合成樹脂を主成分とするエマルジョン系の水溶液を用い、注入試験を開始した。その結果、試験開始20分後に、更に下にある開口部サッシ枠縦の防水シーリング劣化部分より液体6の漏水発生を目視で確認した。
【0142】
注入試験を引き続き行った結果、試験開始から45分経過後に水溶液を850ml注入した時点で、2階居室天井部に雫の落ちる音を聴診器で感知し、点検口より漏水発生し始めたのを内視鏡と目視で確認した。
【0143】
(検査結果の検討)
雨漏り原因として、経年変化に伴う劣化によるクラック発生が起因となり、更に過去の塗装改修工事での充分な下地補修処理不良が原因で漏水発生している状況と推測できる。
【0144】
雨漏りが建造物に与えた影響として、建造物内に浸入した液体の量が850mlに対して雨漏り発生部分から検出した液体の量が100mlに満たないことと試験開始から室内に漏水発生するまでに長時間掛かることから、大半の液体が建造物内に残留していることが推測でき、雨漏りを目視での認知に至らない状況で在っても常に雨水浸入は起こり、加えて錆の混入した水が検出されたことからも、隠蔽部分において鉄筋の腐食が進み構造体に与える影響は大きいと判断する。
【0145】
雨漏り発生状況として、雨水浸入箇所は常に雨掛するところであり、試験結果で得られたデーターから、降水量が多く長時間降り続く時に雨漏り発生に至る状況である。
【0146】
雨漏りが建造物に与えた影響として、建造物内に浸入した液体6の量が850mlに対して雨漏り発生部分から検出した液体6の量が100mlに満たないことと試験開始から室内に漏水発生するまでに長時間掛かることから、大半の液体6が建造物内に残留していることが推測でき、雨漏りを目視での認知に至らない状況で在っても常に雨水浸入は起こり、加えて錆の混入した水が検出されたことからも、隠蔽部分において鉄筋の腐食が進み構造体に与える影響は大きいと判断する。
【0147】
改修方法の提案として、雨漏り要因周辺の外壁塗装を撤去して、クラック発生部分を露出させ、その不具合発生箇所に対してエポキシ材等の注入補修及び傾斜壁部全体に防水材の塗布ないしは施工が妥当であると思われる。
【0148】
総合所見として、以前の補修で雨水のはけ口を塞いでいる形跡が複数箇所あり、その補修が起因して、当該建物内部に雨水が滞留し、かえって腐食を加速する結果になっていると思われる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の利用により、様々な仕様や形態の建造物を対象とする雨漏り検査において、時間と費用を費やさずに雨漏り事案の早期解決が図られる。
【0150】
また、この手段が公の場に広く認知され、採用されることで、不明瞭な検査結果に基づいた不当かつ不必要な改修工事、例えば雨漏りの原因が存在すると想定される箇所の規模よりも必要以上に大規模な範囲を解体するといった工事による、無駄な費用の発生が抑えられ、加えて資源の節約に寄与できる。
【0151】
さらには、雨漏りの要因の究明及びそのメカニズムの解明が行われ、後の様々な建造物の新設物件における施工不良要因を未然に防止して、雨漏りによる被害を無くし良質の建造物の提供に貢献できるものである。
【符号の説明】
【0152】
1 建造物
2、20、21、21a、21b、21c、22、23、24 雨漏り検査装置
3、30 注入量測定装置
4、40、43、40c 外装部
40a、40b、40n 継目部
44、440、441、442、443 周囲
5、50、51、52、53 液体受容部材
6、6a、6b、6c 液体
6d 液面
7、70、71、72 開口部
8、8a、8b、8c、8n 粘土材
9、91、92、94 カバー部材
10 連通管
11 メーター
12、120 バルブ
13、130 容器
14 亀裂
15 アルミ管
16 透明チューブ
17 中子型
18 カバー部材用円筒
41 入り隅部
42 出隅部
45、45a、45b 接面
46 カバー部材との接面
55、550、551、552、553、554 液体受容空間
60 簡易注入器
61 注入管
62 注ぎ口
63 コネクター
80 粘土材突出部
90 建造物に対する面
93、99 補強部材
95 円筒状空間
110 目盛り
141、142 雨漏り流出口
180 切断線
401、401a、401b サイディング板
411、412 入り隅の壁面
421、422 出隅の壁面
811、812、821、822 粘土材の隅の壁面への当接面
813、814、823、824 粘土材の装置側への当接面
910、920 縦断面
911、912、921、922 カバー部材断面
A、B 変形方向
C 押着箇所
L1、L2 粘着部の幅
θ 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑性と粘着性と耐水性とを有する油脂等を含む油粘土からなる粘土材を用意し、雨漏りの原因が存在すると想定される建造物の外装部の周囲の接面に沿わせて上記粘土材を上記接面の凹凸や段差になじむように水密に押着し、次で上記接面の内側に隙間を有してポケット状に成形され、上記ポケット状の外周を上記接面に沿って縁状に伸ばすことで粘土材突出部を設けて押着する範囲を拡張することで開口部を有する液体受容部材を成形し、上記液体受容部材に上記開口部より液体を注入して上記雨漏りの原因を検出し、その後に上記接面から上記粘土材を剥がそうとする力で剥離することを特徴とする建造物の雨漏り検査方法。
【請求項2】
液体受容部材に注入する液体の量を測定することを特徴とする請求項1に記載の雨漏り検査方法。
【請求項3】
雨漏りの原因が存在とすると想定される建造物の外装部の周囲と、上方を開口して上記周囲の接面に沿わせて上記接面の凹凸や段差になじむように水密に押着した可塑性と粘着性と耐水性とを有する油脂等を含む油粘土からなる粘土材とで、上記接面との間で上記接面の内側に隙間を有してポケット状の液体受容部材が設けられ、上記ポケット状の外周を上記接面に沿って縁状に伸ばすことで押着する範囲を拡張された粘土材突出部を有し、上記開口より液体を注入して上記雨漏りの原因を検出した後には上記接面から上記粘土材を剥がそうとする力で剥離することを特徴とする建造物の雨漏り検査装置。
【請求項4】
上記液体の注入量を測定する注入量測定装置を備えてなることを特徴とする請求項3に記載の建造物の雨漏り検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−44076(P2010−44076A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193724(P2009−193724)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【分割の表示】特願2008−208890(P2008−208890)の分割
【原出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(508219612)
【Fターム(参考)】