弁内遮蔽装置
【課題】原子力発電プラントの弁の分解点検、手入れ作業に際しての線量率の低減と所要時間を短縮することが可能な弁内遮蔽装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の弁内遮蔽装置120の構成は、遮蔽壁146と、遮蔽壁146を着脱可能に掛止して弁フランジ114bから弁座114fの高さまで吊下する掛止部材134と、弁フランジ114bに掛け渡され掛止部材134を支持する支持部材122と、掛止部材134を略水平方向に移動させ弁座114fに遮蔽壁146を挿抜する水平移動機構136と、掛止部材134と遮蔽壁146の着脱を操作し得る遮蔽壁着脱機構144とを備え、水平移動機構136により遮蔽壁146が弁座114fに挿入され遮蔽壁着脱機構144により遮蔽壁146の掛止が解除され、弁座114fに遮蔽壁146を残した状態で支持部材122および掛止部材134が撤去可能であることを特徴とする。
【解決手段】本発明の弁内遮蔽装置120の構成は、遮蔽壁146と、遮蔽壁146を着脱可能に掛止して弁フランジ114bから弁座114fの高さまで吊下する掛止部材134と、弁フランジ114bに掛け渡され掛止部材134を支持する支持部材122と、掛止部材134を略水平方向に移動させ弁座114fに遮蔽壁146を挿抜する水平移動機構136と、掛止部材134と遮蔽壁146の着脱を操作し得る遮蔽壁着脱機構144とを備え、水平移動機構136により遮蔽壁146が弁座114fに挿入され遮蔽壁着脱機構144により遮蔽壁146の掛止が解除され、弁座114fに遮蔽壁146を残した状態で支持部材122および掛止部材134が撤去可能であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントの弁分解点検時に用いられる弁内遮蔽装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)や改良型沸騰水型原子炉(ABWR:Advanced Boiling Water Reactor)では、炉心が原子炉圧力容器に収容され、原子炉圧力容器は原子炉格納容器に収容される。原子炉圧力容器には冷却水(軽水)が注水され、炉心から生じる熱によって高温高圧の蒸気を生じさせて、タービンを回転させる動力に利用する。
【0003】
上記のような原子力発電プラントでは、安全に運用を行うために、所定の期間ごとに定期点検が行われている。かかる定期点検には、原子炉再循環系統(PLR系統:Primary Loop Recirculation System)の弁(水没弁)の分解点検、手入れ作業が含まれている。
【0004】
一般に、原子炉再循環系統の弁の分解点検、手入れ作業に先んじて、この弁や隣接する配管に対し化学除染が実施される。これは、放射化したスラッジが弁や配管表面に付着していたり、その酸化皮膜中に取り込まれていたりするおそれがあるために、放射化したスラッジを化学的に除去し、弁の分解点検、手入れ作業を行う弁箱内および弁フランジ上部における放射線率を低減させるためである。
【0005】
化学除染については、特許文献1および特許文献2にて詳細に説明されている。特許文献1には、ポンプの前後に除染座を設けこの除染座からガイドホースを挿入し、ガイドホースから除染する範囲までノズルを挿入して、原子炉再循環系統の配管を含めて弁を化学除染する技術について記されている。この技術では、弁のみではなく配管に関しても除染を実施することから、放射線量を確実に低減することができる。しかし、除染範囲が広範になることから、除染装置の規模が大がかりになりがちであり除染完了までに要する時間も長くなる。当然ながら、使用した除染液等の廃棄物の発生量も多くなる。
【0006】
特許文献2には、仕切弁の両弁座をそれぞれ閉止板でふさぎ、弁箱中央部内に除染液を充満して、弁箱内を化学除染する技術について記されている。この技術では、除染範囲が個々の弁に限定されるため、上記と比して除染装置の規模を小さくでき、短時間で除染を完了することができる。また、廃棄物の発生量も少なくなる。しかし、点検対象たる弁に隣接する配管および弁座シートリング内面以降の弁箱は閉止板でふさがれ除染液が流れない。そのため、配管および弁座シートリング内面が除染されないので放射線量を充分に低減することができない。
【0007】
上記の化学除染の後に、原子炉再循環系統の弁の分解点検、手入れ作業が実施される。図17は、従来の原子炉再循環系統の弁24の分解点検、手入れ作業実施時の断面図である。弁24の分解点検、手入れ時には弁ボンネットの取り外しに伴い原子炉再循環系統に大きな開口部28ができる。この開口部28から放射性ダストが放出されるのを防止するために、原子炉を閉鎖して原子炉の空気を排気装置により排出し原子炉内および原子炉再循環系統を弱負圧に保つ。
【0008】
開口部28が大きいと負圧維持の調整が難しくなることから、一般的には原子炉側の配管に風船状詰め物20を配置している。また、弁24の分解点検、手入れ作業時に原子炉再循環系統の配管内部に工具などが混入するのを防止するために異物混入防止板22を設置している。これにより、放射性ダストの作業エリアへの放出による放射能汚染拡大防止、および配管内部への異物の混入防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−109094号公報
【特許文献2】特開2003−240893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
原子炉再循環系統の弁の分解点検、手入れ作業については、殆どの場合、定期点検のクリティカルパスとなる。したがって、これらの作業を可能な限り短縮することが原子力発電プラントの設備利用率向上につながる。換言すれば、この作業が長ければ長いほど設備利用率が低下する。また、弁箱24a内、弁フランジ24b上部の線量率が高いほど、作業員の被爆線量が増加する。
【0011】
上記風船状詰め物20および異物混入防止板22の設置に際しては、弁箱24a内に作業員が上半身を入れて作業を実施する。弁箱24a内のシート面30の点検手入れ、検査時にも作業員は弁箱24a内に上半身を入れて作業を実施する。一方、シート面30の摺り合わせ作業時には弁フランジ24b上部で摺り合わせジグ162を操作する。
【0012】
弁箱24a内部で作業する時には、化学除染が施されない弁座シートリング24c、弁箱24a配管側内面および原子炉再循環系統の配管内面からの放射線を受けやすい。弁フランジ24b上部で作業する時には、化学除染が施されていない弁座シートリング24c内側底部からの放射線を受けやすい。
【0013】
弁箱24a内は放射線量が高いのに加えて放射能汚染が高いため、作業員は厳重な汚染対策を講じる必要があり、準備および作業に手間と時間を要していた。このため、作業完了までの時間が概して長時間化してしまっていた。
【0014】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、原子力発電プラントの弁の分解点検、手入れ作業に際しての線量率の低減と所要時間を短縮することが可能な弁内遮蔽装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明の代表的な構成は、原子力発電プラントの弁分解点検時に弁から放射線の放出を防止する弁内遮蔽装置であって、弁は弁蓋が取り付けられる弁フランジの下方に弁座が開口していて、弁座に挿抜され放射線を遮蔽する遮蔽壁と、遮蔽壁を着脱可能に掛止してこの遮蔽壁を弁フランジから弁座の高さまで吊下する掛止部材と、弁フランジに掛け渡され掛止部材を支持する支持部材と、掛止部材を略水平方向に移動させ弁座に遮蔽壁を挿抜する水平移動機構と、弁フランジ近傍の高さにおいて掛止部材と遮蔽壁の着脱を操作し得る遮蔽壁着脱機構とを備え、水平移動機構により遮蔽壁が弁座に挿入され遮蔽壁着脱機構により遮蔽壁の掛止が解除され、弁座に遮蔽壁を残した状態で支持部材および掛止部材が撤去可能であることを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、弁の分解点検、手入れ作業時において、弁座(弁座シートリング)に遮蔽壁を挿入してこれを残した状態で支持部材および掛止部材を撤去することができる。これより、弁に隣接する配管および弁座シートリング内面以降の弁箱からの放射線が遮蔽され、弁箱内の線量率は低下する。弁箱内の弁座シートリング内側にはジグなどが一切残らないことからシート面の点検、手入れ、検査、シート面摺り合わせには何の支障もない。
【0017】
遮蔽壁設置により、遮蔽壁と弁座シートリング内面との間隙が極めて小さくなることから、原子炉および原子炉再循環系統の配管の負圧維持が可能になり、従来技術で設置していた風船状詰め物が不要になる。また、遮蔽壁と弁座シートリング内面との間隙が極めて小さくなることから異物が配管側に混入することが無くなり、従来技術で設置していた異物混入防止板が不要になる。すなわち、弁箱内に作業員が上半身を入れて風船状詰め物や異物混入防止板を設置することなく、原子炉圧力容器の負圧の維持が可能になり放射性ダストによる放射能汚染の拡大防止、配管内への異物の混入防止を図ることが可能である。よって、作業員が受ける被爆量が低減されるので被ばく対策を軽減することができ、弁の分解点検、手入れ作業に要する時間を短縮することができる。
【0018】
上記遮蔽壁は、外周部に形成された凹部と、凹部の壁面であって端部に行くほど厚み方向に後退する傾斜面と、凹部内に収容される遊動片と、遊動片を傾斜面に対して進退させる固定ボルトとを有し、遊動片は、固定ボルトによって進退されることにより傾斜面に沿って移動し、遮蔽壁の外周部から突出または後退するとよい。
【0019】
かかる構成によれば、固定ボルトの進退により遊動片を弁箱内面に当接させ、確実に遮蔽壁を固定することができる。
【0020】
上記掛止部材は支持部材に略水平方向に摺動可能に支持されていて、水平移動機構は、支持部材から吊下される中央軸と、中央軸から遮蔽壁の移動方向に拡縮可能なパンタグラフ機構と、パンタグラフ機構の先端に設けられ掛止部材に対してスライド可能に接続された上下動スライダとを含んで構成されるとよい。
【0021】
かかる構成によれば、好適に掛止部材を略水平方向に移動させ、弁座シートリングに遮蔽壁を挿抜することができる。
【0022】
上記遮蔽壁着脱機構は、掛止部材の下部と遮蔽壁に互いに設けられた係止部または係合部と、弁フランジ近傍の高さにおいて掛止部材を上下移動させる昇降部とからなり、昇降部によって掛止部材を下降させることにより遮蔽壁の掛止が解除され、水平移動機構によって掛止部材を離隔させることにより弁座シートリングに遮蔽壁を残した状態とするとよい。
【0023】
かかる構成によれば、簡易な構成で遮蔽壁を容易に着脱することができる。
【0024】
上記弁は、楔形の弁体とこの弁体に密接するように下側ほど突き出た形状をなす弁座とにより流体を遮断する仕切弁であって、遮蔽壁は、弁座と同様に下側ほど突き出た形状をなし、弁座の入口部分に付着した放射性スラッジに重畳するようにこの遮蔽壁が配置されるとよい。
【0025】
かかる構成によれば、弁座シートリング内面、弁箱配管側内面および原子炉再循環系統の配管内面部分に付着した放射性スラッジが発する放射線を遮蔽壁により遮蔽することができるため、作業員の被爆量をより低減することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、原子力発電プラントの弁の分解点検、手入れ作業に際しての線量率の低減と所要時間を短縮することが可能な弁内遮蔽装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】沸騰水型原子炉の原子炉再循環系統の概略図である。
【図2】図1の原子炉再循環系統の仕切弁を示す図である。
【図3】本実施形態にかかる弁内遮蔽装置を示す図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】図4の高さ調整ブッシュを示す図である。
【図6】図3の支持部材および滑板の他の例について示す図である。
【図7】図3の要部拡大図である。
【図8】図3の水平移動機構の他の例について示す図である。
【図9】図3の水平移動機構の他の例について示す図である。
【図10】図3の遮蔽壁着脱機構および遮蔽壁の他の例について示す図である。
【図11】図3の遮蔽壁着脱機構の他の例について示す図である。
【図12】図7のC−C断面図である。
【図13】図3の遮蔽壁固定機構の他の例について示す図である。
【図14】図3の弁内遮蔽装置の使用態様図である。
【図15】図3の弁内遮蔽装置の使用態様図である。
【図16】図3の弁内遮蔽装置の使用態様図である。
【図17】従来の原子炉再循環系統の弁の分解点検、手入れ作業実施時の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0029】
[原子炉再循環系統]
図1は、沸騰水型原子炉の原子炉再循環系統110の概略図である。図1に示すように、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器102には、原子炉再循環系統110が備えられている。
【0030】
原子炉再循環系統110は、原子炉圧力容器102から水を抜き出し、PLRポンプ112で昇圧して原子炉内に戻す強制循環経路である。PLRポンプ112の回転数を変化させることで、原子炉出力を調節することが可能である。原子炉再循環系統110には、2つの弁(仕切弁114)が設けられている。なお、これら仕切弁114は、原子炉圧力容器102内の水を抜かなければ点検することができない、いわゆる水没弁である。
【0031】
図2は、原子炉再循環系統110の仕切弁114を示す図である。図2に示すように、仕切弁114は、弁箱114aにて原子炉再循環系統110を構成する配管と接続する。弁箱114a上部の弁フランジ114bには、締結ボルト116が既存の螺子孔114gに締結され、弁蓋114cが設置される。
【0032】
仕切弁114は、弁棒114dに連結された楔形の弁体114eを昇降移動して、かかる弁体114eに密接するように形成された弁座(弁座シートリング114f)を閉止または開放することにより、PLRポンプ112を隔離または復旧する。弁座シートリング114fは、下側ほど内側(弁体114e側)に突き出た形状をなす。
【0033】
[弁内遮蔽装置]
図3は、本実施形態にかかる弁内遮蔽装置120を示す図である。図3に示すように、弁内遮蔽装置120は、仕切弁114分解点検時(弁蓋114c撤去後)に使用され、原子炉再循環系統110の放射性スラッジから発せられる放射線を遮蔽壁146により遮蔽し放射線が外部へ放出することを防止する。以下、弁内遮蔽装置120の具体的な構造について説明する。
【0034】
(支持部材)
弁内遮蔽装置120の支持部材122は弁フランジ114bに掛け渡され、この支持部材122を介して、締結ボルト116が既存の螺子孔114gに締結される。図4は、図3のA−A断面図である。図5は、図4の高さ調整ブッシュ126を示す図である。
【0035】
図4に示すように、支持部材122はレール状に形成されていて、このレール上を滑板124が摺動可能に保持されている。滑板124は後述する掛止部材134を吊下して遮蔽壁146の荷重を支持しつつ支持部材122上を滑走する。滑板124には、横方向調整ボルト124aが左右に連結されていて、かかるボルトの調整によりその横方向の位置を調整可能に構成されている。
【0036】
図5に示すように、高さ調整ブッシュ126には円形状に形成された囲繞部126aが設けられており、滑板124に回転可能に保持される。囲繞部126aより上方にはスパナ掛止部126bが延設されていて、かかるスパナ掛止部126bにスパナを掛止して回転可能に構成されている。高さ調整ブッシュ126は、内側が螺子切りされている。
【0037】
図6は、支持部材および滑板の他の例(支持部材128および滑板130)について示す図である。図6(a)はその断面図、図6(b)は図6(a)の斜視図である。図6(a)および(b)に示すように、支持部材128にベアリング溝128aを形成し、滑板130にベアリング溝130aを形成し、支持部材128がベアリング132を介して滑板130を摺動可能に保持してもよい。支持部材128と滑板130の相対的な位置関係は、ベアリング132により一定に保たれる。支持部材128は既存の螺子孔114gに締結される締結ボルト116により固定されているので、弁箱114aとの相対的な位置関係も一定に保たれる。これより、横方向調整ボルト124aを省略することができる。
【0038】
(掛止部材)
図3に示すように、掛止部材134は長尺状部材であって、上部が螺子切りされている。これにより、高さ調整ブッシュ126と螺合し、支持部材122に略水平方向に摺動可能に支持される。なお、上記螺子切りは、角螺子形状であるとよい。これにより、軸方向に対し高い耐久性を確保することが可能である。
【0039】
掛止部材134は、後述する遮蔽壁着脱機構144により遮蔽壁146を着脱可能に掛止する。そして、遮蔽壁146を弁フランジ114b(高さ調整ブッシュ126)から弁座シートリング114fの高さまで吊下する。高さ調整ブッシュ126のスパナ掛止部126bにスパナを掛止して回転させることにより、螺合された掛止部材134の遮蔽壁146の吊下高さを調節することができる。
【0040】
掛止部材134の内側面には、後述する上下動スライダ136cがスライド可能に連結されるレール溝134aが形成されている。
【0041】
(水平移動機構)
図7は、図3の要部拡大図である。図7に示すように、水平移動機構136は、支持部材122から吊下される中央軸136a、およびこの中央軸136aから遮蔽壁146の移動方向に拡縮可能なパンタグラフ機構136b(4節リンク機構)から構成される。パンタグラフ機構136bは中央軸136aに対し、片方は回転可能かつ上下移動不能に取り付けられており、他方は中央軸136aに螺合してその回転によって上下移動するように構成されている。中央軸136a上部には、この中央軸136aを回転させるハンドル138が設けられている(図3参照)。かかるハンドル138を回転させることで、パンタグラフ機構136bが連動して拡縮し、掛止部材134が略水平方向に移動する。これにより、弁座シートリング114fに遮蔽壁146を挿抜することができる。
【0042】
パンタグラフ機構136bの先端(左右2節)には上記レール溝134aにスライド可能に連結される上下動スライダ136cが備えられ、この上下動スライダ136cを介して掛止部材134と接続されている。これより、パンタグラフ機構136bが遮蔽壁146の荷重を受けることなく、好適に掛止部材134を略水平方向に移動させることができる。
【0043】
図8は、水平移動機構の他の例(水平移動機構140)について示す図である。図8(a)はその斜視図であり、図8(b)は図8(a)の歯車装置140bについて示す図である。
【0044】
図8(a)および(b)に示すように、水平移動機構140として、歯車装置140bによりラック140eを介し、掛止部材134を略水平方向に移動させてもよい。歯車装置140bは、中央軸140aに備えられたA歯車140cと、A歯車140cと噛合して回転するB歯車140dとから構成される。B歯車140dにはラック140eが噛合していて、B歯車140dの回転によりラック140eが略水平方向に移動するようになっている。
【0045】
図9は、水平移動機構の他の例(水平移動機構142)について示す図である。図9(a)では支持部材122を点線で図示しており、図9(b)では支持部材122を実線で図示している。図9(a)および(b)に示すように、水平移動機構142として、上記中央軸136aを設けずに、滑板124と螺合し軸方向が略水平方向となっている案内ボルト124を設けてもよい。案内ボルト142bには、一端にハンドル142aが備えられおり、これを回転させることにより滑板124を略水平方向に移動させることができる。
【0046】
(遮蔽壁着脱機構)
図7に示すように、遮蔽壁着脱機構144として、掛止部材134の下部には係止梁144a(係止部)が設けられ、遮蔽壁146には2つの鉤状引掛具144b(係合部)が設けられる。
【0047】
上記により、遮蔽壁146が弁座シートリング114f(弁箱114a)に接地した後には、弁フランジ114b近傍の高さにおいて昇降部としての上記高さ調整ブッシュ126をスパナで回転し、掛止部材134を上下移動(下方に移動)させその掛止を解除することができる。
【0048】
なお、当然ながら上記掛止を解除した後には、水平移動機構136によって掛止部材134を引き戻し(遮蔽壁146から離隔させ)、支持部材122や掛止部材134などを弁箱114aから撤去することが可能である。また、一度撤去した支持部材122および掛止部材134を再度弁箱114aに挿入して、遮蔽壁146を回収することも可能である。
【0049】
(遮蔽壁)
遮蔽壁146は、略円板状の直径が弁座シートリング114f内径よりも僅かに小さい隔壁であって、上記遮蔽壁着脱機構144の実現に充分な強度を備え、且つ放射線の遮蔽に優れた材質で形成される。具体的には、遮蔽壁146は鉄鋼材料で構成することができる。また、遮蔽壁を挿入する弁座シートリング114f(弁箱114a)の寸法が小さく、遮蔽壁146を薄くする必要がある場合には、鉛材料を用いることができる。この場合には、強度を要する部分に、部分的に強度の高い鋼板を用い強度を確保することができる。
【0050】
遮蔽壁146の厚さは、放射線遮蔽能力をふまえて適宜設定することができる。弁座シートリング114f内径を仮に650mmとし、遮蔽壁の厚さを45mmと算定すると、概して遮蔽壁146の重さは100kg前後となる。
【0051】
図10は、遮蔽壁着脱機構および遮蔽壁の他の例(遮蔽壁着脱機構148および遮蔽壁150)について示す図である。図10(a)はその斜視図であり、図10(b)は図10(a)のB−B断面図である。
【0052】
図10(a)および(b)に示すように、遮蔽壁着脱機構148として、掛止部材134には係止梁144aに加えて第2係止梁148aを設けている。これに対し遮蔽壁150には、2つの鉤状引掛具144bに加え、2つの第2鉤状引掛具148bを設けている。これにより、さらに確実に遮蔽壁150を掛止することができる。
【0053】
また、弁座シートリング114fの入口部分に付着した放射性スラッジが発する放射線を遮蔽するために、弁座シートリング114fの形状に沿うように下側ほど突き出たリブ150aが縁部に立設された遮蔽壁150を用いてもよい。かかるリブ150aは、弁座シートリング114fの傾斜角に合わせて立設される。これにより、弁座シートリング114f内面、弁箱114a配管側内面および原子炉再循環系統110の配管内面部分に付着した放射性スラッジが発する放射線を遮蔽壁150により遮蔽することができるため、作業員の被爆量をさらに低減することができる。
【0054】
図11は、遮蔽壁着脱機構の他の例(遮蔽壁着脱機構152)について示す図である。図11に示すように、遮蔽壁着脱機構152として、遮蔽壁146に固着された鉄板152aと、掛止部材134下部に備えられた電磁石152bとにより遮蔽壁146を掛止してもよい。すなわち、不図示の通電部により電磁石152bを励磁することで鉄板152aが吸着されて掛止され、通電を解除すればこの掛止は解除される。
【0055】
(遮蔽壁固定機構)
図12は、図7のC−C断面図である。図12(a)は固定ボルト158f締付前の状態を示す図であり、図12(b)は固定ボルト158f締付中の状態を示す図であり、図12(c)は固定ボルト158f締付後の状態を示す図である。
【0056】
図12(a)〜(c)に示すように、遮蔽壁固定機構158は、遮蔽壁146の外周部に形成された凹部158aに収容される(嵌め込まれる)遊動片158bおよび略C字状(図7参照)の連結具158e、並びに固定ボルト158f、Cリング158gにて構成される。
【0057】
図12(a)に示すように、固定ボルト158fは、遮蔽壁146の表面146a側から裏面146b側にかけて挿通する。裏面146b側では、固定ボルト158fに抜け留めのCリング158gが取り付けられている。なお、抜け留めとしては、表面146aに固定ボルト158fの抜けを防止する爪を形成してもよい。
【0058】
凹部158aの遮蔽壁表面146a側の壁面は、表面146aより離間するほど厚み方向に後退する傾斜面158cである。かかる傾斜面158cには、遊動片158bの傾斜した端部が合わせられる。
【0059】
固定ボルト158fは、遊動片158bに形成された縦に長い(固定ボルト158fの軸方向に対し直角方向に遊びを有する)長孔158dを貫通する。長孔158dは固定ボルト158fの軸方向の移動を規制するが、縦方向(軸直角方向)の移動は許容する。長孔158dを貫通した固定ボルト158fは、螺子切りされた連結具158eの螺子孔に螺合される。
【0060】
ここで、図12(b)に示すように、固定ボルト158fをレンチ158hで締め付けると、連結具158eがその螺子溝に案内されて、固定ボルト158fの頭側へと進む。すると、遊動片158bは遮蔽壁表面146a側へと押圧され、凹部158aの傾斜面158cに沿って移動し、弁座シートリング114f(弁箱114a)側に突出する(図12(c)参照)。一方、固定ボルト158fを緩める方向に回転させると、連結具158eが後退するため、遊動片158bは傾斜面158cに沿って落下し、凹部158aの中へと後退する。すなわち、固定ボルト158fの締付または緩めによって遊動片158bを傾斜面158cに対して進退させることができ、外周部から遊動片158bを突出または後退させることができる。これにより、好適に遮蔽壁146を弁座シートリング114f(弁箱114a)に固定することが可能である。なお、遊動片158bと連結具158eとの合わせ面に関しても傾斜面とし、外周部からより突出または後退しやすくするとさらによい。
【0061】
図13は、遮蔽壁固定機構の他の例(遮蔽壁固定機構160)について示す図である。図13(a)は遮蔽壁146固定前の状態を示す図であり、図13(b)は遮蔽壁146固定後の状態を示す図である。
【0062】
図13(a)に示すように、遮蔽壁固定機構160では、遮蔽壁146に切れ目が入れられており、ヒンジ部160aによってこれらが連結されている。換言すれば、遮蔽壁146が上部遮蔽壁160bと下部遮蔽壁160cとに分離されている。
【0063】
上部遮蔽壁160bと下部遮蔽壁160cとの間には、中心から円周までの距離が一律でないカム160dが設けられている。そして、カム160dに連結されたレバー160eを回してカム160dを回転させることができるように構成されている。図13(b)に示すように、かかるカム160dを回転させることで、上部遮蔽壁160bが上下して弁座シートリング114f(弁箱114a)に突き当てられる。これにより、遮蔽壁146を弁座シートリング114f(弁箱114a)に固定することができる。なお、上部遮蔽壁160bと下部遮蔽壁160cとの境界部はインロー構造にしておくとよい。これにより、上部遮蔽壁160bを押し上げた際に生じる下部遮蔽壁160cとの間隙からの放射線通過を低減することができる。
【0064】
[弁内遮蔽装置の使用態様]
図14〜図16は、弁内遮蔽装置120の使用態様図である。以下、上述した弁内遮蔽装置120の使用態様について、実際の作業手順に則り説明する。
【0065】
まず、図14(a)に示すように、仕切弁114分解点検時に弁蓋114cが撤去された弁箱114aの弁フランジ114bに、弁内遮蔽装置120(支持部材122)を載置する。そして、支持部材122を介して、既存の螺子孔114gに締結ボルト116を締結する。
【0066】
図14(b)に示すように、ハンドル138を回すことにより、パンタグラフ機構136bを広げて掛止部材134を略水平方向(弁座シートリング114f当接方向)に移動させ、弁座シートリング114fに遮蔽壁146を挿入する。
【0067】
図14(c)に示すように、遮蔽壁固定機構158の固定ボルト158fをレンチ158hなどで締め付けて、遮蔽壁146を弁座シートリング114f(弁箱114a)内部に固定する。なお、図14(c)では、便宜上、固定ボルト158fおよびレンチ158hの図示を省略している。
【0068】
図14(d)に示すように、高さ調整ブッシュ126のスパナ掛止部126bをスパナ等で回して掛止部材134を降下させ、遮蔽壁146との掛止を解除する。
【0069】
図15(a)に示すように、ハンドル138を上記とは逆方向に回して、パンタグラフ機構136bを縮小し、掛止部材134を引き戻す(遮蔽壁146から離隔させる)。これにより、遮蔽壁146が弁座シートリング114fに固定された状態で残される。
【0070】
図15(b)に示すように、締結ボルト116による締結を解除し、支持部材122や掛止部材134などを弁箱114aから撤去する。これにより、弁座シートリング114f内に遮蔽壁146のみが残された状態となる。
【0071】
図15(c)に示すように、仕切弁114のシート面164の点検、手入れ、検査、摺り合わせ作業を実施する。例えば、摺り合わせジグ162にてシート面164を研磨し、酸化スケールを除去する作業を実施する。本実施形態では、弁箱114a内の弁座シートリング114f内側にはジグなどが一切残らないことから、何の支障も生ずることなく、好適に作業を完了することができる。
【0072】
図15(d)に示すように、図15(b)にて撤去した支持部材122や掛止部材134などを弁箱114a内に再び挿入し、螺子孔114gに締結ボルト116を締結する。
【0073】
図16(a)に示すように、ハンドル138を回してパンタグラフ機構136bを広げ、掛止部材134を弁座シートリング114f当接方向に移動させる。すなわち、弁座シートリング114fに挿入されている遮蔽壁146の位置まで、掛止部材134を移動させる。
【0074】
図16(b)に示すように、高さ調整ブッシュ126のスパナ掛止部126bをスパナ等で回して掛止部材134を上昇させ、遮蔽壁146を掛止する。同時に、不図示の遮蔽壁固定機構158の固定ボルト158fをレンチ158hなどで緩めて、遮蔽壁146の固定を解除する。
【0075】
図16(c)に示すように、ハンドル138を回して、パンタグラフ機構136bを縮小し、遮蔽壁146を掛止した掛止部材134を引き戻す。
【0076】
図16(d)に示すように、締結ボルト116による締結を解除し、弁内遮蔽装置120を撤去する。
【0077】
以上、上述した構成によれば、仕切弁114の分解点検、手入れ作業時において、弁座シートリング114fに遮蔽壁146を挿入してこれを残した状態で支持部材122や掛止部材134などを撤去することができる。これより、弁箱114a内に作業員が上半身を入れて風船状詰め物20や異物混入防止板22を設置することなく、内部の放射性スラッジから発せられる放射線の放出防止、原子炉圧力容器の負圧の維持、配管内への異物の混入防止を図ることが可能である。よって、作業員が受ける被爆量が低減されるので一人当たりの作業時間を延ばすことができ、弁の分解点検、手入れ作業に要する時間を短縮することができる。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、原子力発電プラントの弁分解点検時に用いられる弁内遮蔽装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
102…原子炉圧力容器、110…原子炉再循環系統、112…PLRポンプ、114…仕切弁、114a…弁箱、114b…弁フランジ、114c…弁蓋、114d…弁棒、114e…弁体、114f…弁座シートリング、114g…螺子孔、116…締結ボルト、120…弁内遮蔽装置、122、128…支持部材、124、130…滑板、124a…横方向調整ボルト、126…高さ調整ブッシュ、126a…囲繞部、126b…スパナ掛止部、128a、130a…ベアリング溝、132…ベアリング、134…掛止部材、134a…レール溝、136、140、142…水平移動機構、136a、140a…中央軸、136b…パンタグラフ機構、136c…上下動スライダ、138、142a…ハンドル、140b…歯車装置、140c…A歯車、140d…B歯車、140e…ラック、142b…案内ボルト、144、148、152…遮蔽壁着脱機構、144a…係止梁、144b…鉤状引掛具、146、150…遮蔽壁、146a…表面、146b…裏面、148a…第2係止梁、148b…第2鉤状引掛具、150a…リブ、152a…鉄板、152b…電磁石、158、160…遮蔽壁固定機構、158a…凹部、158b…遊動片、158c…傾斜面、158d…長孔、158e…連結具、158f…固定ボルト、158g…Cリング、158h…レンチ、160a…ヒンジ部、160b…上部遮蔽壁、160c…下部遮蔽壁、160d…カム、160e…レバー、162…摺り合わせジグ、164…シート面、20…風船状詰め物、22…異物混入防止板、24…弁、24a…弁箱、24b…弁フランジ、24c…弁座シートリング、28…開口部、30…シート面
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントの弁分解点検時に用いられる弁内遮蔽装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)や改良型沸騰水型原子炉(ABWR:Advanced Boiling Water Reactor)では、炉心が原子炉圧力容器に収容され、原子炉圧力容器は原子炉格納容器に収容される。原子炉圧力容器には冷却水(軽水)が注水され、炉心から生じる熱によって高温高圧の蒸気を生じさせて、タービンを回転させる動力に利用する。
【0003】
上記のような原子力発電プラントでは、安全に運用を行うために、所定の期間ごとに定期点検が行われている。かかる定期点検には、原子炉再循環系統(PLR系統:Primary Loop Recirculation System)の弁(水没弁)の分解点検、手入れ作業が含まれている。
【0004】
一般に、原子炉再循環系統の弁の分解点検、手入れ作業に先んじて、この弁や隣接する配管に対し化学除染が実施される。これは、放射化したスラッジが弁や配管表面に付着していたり、その酸化皮膜中に取り込まれていたりするおそれがあるために、放射化したスラッジを化学的に除去し、弁の分解点検、手入れ作業を行う弁箱内および弁フランジ上部における放射線率を低減させるためである。
【0005】
化学除染については、特許文献1および特許文献2にて詳細に説明されている。特許文献1には、ポンプの前後に除染座を設けこの除染座からガイドホースを挿入し、ガイドホースから除染する範囲までノズルを挿入して、原子炉再循環系統の配管を含めて弁を化学除染する技術について記されている。この技術では、弁のみではなく配管に関しても除染を実施することから、放射線量を確実に低減することができる。しかし、除染範囲が広範になることから、除染装置の規模が大がかりになりがちであり除染完了までに要する時間も長くなる。当然ながら、使用した除染液等の廃棄物の発生量も多くなる。
【0006】
特許文献2には、仕切弁の両弁座をそれぞれ閉止板でふさぎ、弁箱中央部内に除染液を充満して、弁箱内を化学除染する技術について記されている。この技術では、除染範囲が個々の弁に限定されるため、上記と比して除染装置の規模を小さくでき、短時間で除染を完了することができる。また、廃棄物の発生量も少なくなる。しかし、点検対象たる弁に隣接する配管および弁座シートリング内面以降の弁箱は閉止板でふさがれ除染液が流れない。そのため、配管および弁座シートリング内面が除染されないので放射線量を充分に低減することができない。
【0007】
上記の化学除染の後に、原子炉再循環系統の弁の分解点検、手入れ作業が実施される。図17は、従来の原子炉再循環系統の弁24の分解点検、手入れ作業実施時の断面図である。弁24の分解点検、手入れ時には弁ボンネットの取り外しに伴い原子炉再循環系統に大きな開口部28ができる。この開口部28から放射性ダストが放出されるのを防止するために、原子炉を閉鎖して原子炉の空気を排気装置により排出し原子炉内および原子炉再循環系統を弱負圧に保つ。
【0008】
開口部28が大きいと負圧維持の調整が難しくなることから、一般的には原子炉側の配管に風船状詰め物20を配置している。また、弁24の分解点検、手入れ作業時に原子炉再循環系統の配管内部に工具などが混入するのを防止するために異物混入防止板22を設置している。これにより、放射性ダストの作業エリアへの放出による放射能汚染拡大防止、および配管内部への異物の混入防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−109094号公報
【特許文献2】特開2003−240893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
原子炉再循環系統の弁の分解点検、手入れ作業については、殆どの場合、定期点検のクリティカルパスとなる。したがって、これらの作業を可能な限り短縮することが原子力発電プラントの設備利用率向上につながる。換言すれば、この作業が長ければ長いほど設備利用率が低下する。また、弁箱24a内、弁フランジ24b上部の線量率が高いほど、作業員の被爆線量が増加する。
【0011】
上記風船状詰め物20および異物混入防止板22の設置に際しては、弁箱24a内に作業員が上半身を入れて作業を実施する。弁箱24a内のシート面30の点検手入れ、検査時にも作業員は弁箱24a内に上半身を入れて作業を実施する。一方、シート面30の摺り合わせ作業時には弁フランジ24b上部で摺り合わせジグ162を操作する。
【0012】
弁箱24a内部で作業する時には、化学除染が施されない弁座シートリング24c、弁箱24a配管側内面および原子炉再循環系統の配管内面からの放射線を受けやすい。弁フランジ24b上部で作業する時には、化学除染が施されていない弁座シートリング24c内側底部からの放射線を受けやすい。
【0013】
弁箱24a内は放射線量が高いのに加えて放射能汚染が高いため、作業員は厳重な汚染対策を講じる必要があり、準備および作業に手間と時間を要していた。このため、作業完了までの時間が概して長時間化してしまっていた。
【0014】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、原子力発電プラントの弁の分解点検、手入れ作業に際しての線量率の低減と所要時間を短縮することが可能な弁内遮蔽装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明の代表的な構成は、原子力発電プラントの弁分解点検時に弁から放射線の放出を防止する弁内遮蔽装置であって、弁は弁蓋が取り付けられる弁フランジの下方に弁座が開口していて、弁座に挿抜され放射線を遮蔽する遮蔽壁と、遮蔽壁を着脱可能に掛止してこの遮蔽壁を弁フランジから弁座の高さまで吊下する掛止部材と、弁フランジに掛け渡され掛止部材を支持する支持部材と、掛止部材を略水平方向に移動させ弁座に遮蔽壁を挿抜する水平移動機構と、弁フランジ近傍の高さにおいて掛止部材と遮蔽壁の着脱を操作し得る遮蔽壁着脱機構とを備え、水平移動機構により遮蔽壁が弁座に挿入され遮蔽壁着脱機構により遮蔽壁の掛止が解除され、弁座に遮蔽壁を残した状態で支持部材および掛止部材が撤去可能であることを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、弁の分解点検、手入れ作業時において、弁座(弁座シートリング)に遮蔽壁を挿入してこれを残した状態で支持部材および掛止部材を撤去することができる。これより、弁に隣接する配管および弁座シートリング内面以降の弁箱からの放射線が遮蔽され、弁箱内の線量率は低下する。弁箱内の弁座シートリング内側にはジグなどが一切残らないことからシート面の点検、手入れ、検査、シート面摺り合わせには何の支障もない。
【0017】
遮蔽壁設置により、遮蔽壁と弁座シートリング内面との間隙が極めて小さくなることから、原子炉および原子炉再循環系統の配管の負圧維持が可能になり、従来技術で設置していた風船状詰め物が不要になる。また、遮蔽壁と弁座シートリング内面との間隙が極めて小さくなることから異物が配管側に混入することが無くなり、従来技術で設置していた異物混入防止板が不要になる。すなわち、弁箱内に作業員が上半身を入れて風船状詰め物や異物混入防止板を設置することなく、原子炉圧力容器の負圧の維持が可能になり放射性ダストによる放射能汚染の拡大防止、配管内への異物の混入防止を図ることが可能である。よって、作業員が受ける被爆量が低減されるので被ばく対策を軽減することができ、弁の分解点検、手入れ作業に要する時間を短縮することができる。
【0018】
上記遮蔽壁は、外周部に形成された凹部と、凹部の壁面であって端部に行くほど厚み方向に後退する傾斜面と、凹部内に収容される遊動片と、遊動片を傾斜面に対して進退させる固定ボルトとを有し、遊動片は、固定ボルトによって進退されることにより傾斜面に沿って移動し、遮蔽壁の外周部から突出または後退するとよい。
【0019】
かかる構成によれば、固定ボルトの進退により遊動片を弁箱内面に当接させ、確実に遮蔽壁を固定することができる。
【0020】
上記掛止部材は支持部材に略水平方向に摺動可能に支持されていて、水平移動機構は、支持部材から吊下される中央軸と、中央軸から遮蔽壁の移動方向に拡縮可能なパンタグラフ機構と、パンタグラフ機構の先端に設けられ掛止部材に対してスライド可能に接続された上下動スライダとを含んで構成されるとよい。
【0021】
かかる構成によれば、好適に掛止部材を略水平方向に移動させ、弁座シートリングに遮蔽壁を挿抜することができる。
【0022】
上記遮蔽壁着脱機構は、掛止部材の下部と遮蔽壁に互いに設けられた係止部または係合部と、弁フランジ近傍の高さにおいて掛止部材を上下移動させる昇降部とからなり、昇降部によって掛止部材を下降させることにより遮蔽壁の掛止が解除され、水平移動機構によって掛止部材を離隔させることにより弁座シートリングに遮蔽壁を残した状態とするとよい。
【0023】
かかる構成によれば、簡易な構成で遮蔽壁を容易に着脱することができる。
【0024】
上記弁は、楔形の弁体とこの弁体に密接するように下側ほど突き出た形状をなす弁座とにより流体を遮断する仕切弁であって、遮蔽壁は、弁座と同様に下側ほど突き出た形状をなし、弁座の入口部分に付着した放射性スラッジに重畳するようにこの遮蔽壁が配置されるとよい。
【0025】
かかる構成によれば、弁座シートリング内面、弁箱配管側内面および原子炉再循環系統の配管内面部分に付着した放射性スラッジが発する放射線を遮蔽壁により遮蔽することができるため、作業員の被爆量をより低減することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、原子力発電プラントの弁の分解点検、手入れ作業に際しての線量率の低減と所要時間を短縮することが可能な弁内遮蔽装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】沸騰水型原子炉の原子炉再循環系統の概略図である。
【図2】図1の原子炉再循環系統の仕切弁を示す図である。
【図3】本実施形態にかかる弁内遮蔽装置を示す図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】図4の高さ調整ブッシュを示す図である。
【図6】図3の支持部材および滑板の他の例について示す図である。
【図7】図3の要部拡大図である。
【図8】図3の水平移動機構の他の例について示す図である。
【図9】図3の水平移動機構の他の例について示す図である。
【図10】図3の遮蔽壁着脱機構および遮蔽壁の他の例について示す図である。
【図11】図3の遮蔽壁着脱機構の他の例について示す図である。
【図12】図7のC−C断面図である。
【図13】図3の遮蔽壁固定機構の他の例について示す図である。
【図14】図3の弁内遮蔽装置の使用態様図である。
【図15】図3の弁内遮蔽装置の使用態様図である。
【図16】図3の弁内遮蔽装置の使用態様図である。
【図17】従来の原子炉再循環系統の弁の分解点検、手入れ作業実施時の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0029】
[原子炉再循環系統]
図1は、沸騰水型原子炉の原子炉再循環系統110の概略図である。図1に示すように、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器102には、原子炉再循環系統110が備えられている。
【0030】
原子炉再循環系統110は、原子炉圧力容器102から水を抜き出し、PLRポンプ112で昇圧して原子炉内に戻す強制循環経路である。PLRポンプ112の回転数を変化させることで、原子炉出力を調節することが可能である。原子炉再循環系統110には、2つの弁(仕切弁114)が設けられている。なお、これら仕切弁114は、原子炉圧力容器102内の水を抜かなければ点検することができない、いわゆる水没弁である。
【0031】
図2は、原子炉再循環系統110の仕切弁114を示す図である。図2に示すように、仕切弁114は、弁箱114aにて原子炉再循環系統110を構成する配管と接続する。弁箱114a上部の弁フランジ114bには、締結ボルト116が既存の螺子孔114gに締結され、弁蓋114cが設置される。
【0032】
仕切弁114は、弁棒114dに連結された楔形の弁体114eを昇降移動して、かかる弁体114eに密接するように形成された弁座(弁座シートリング114f)を閉止または開放することにより、PLRポンプ112を隔離または復旧する。弁座シートリング114fは、下側ほど内側(弁体114e側)に突き出た形状をなす。
【0033】
[弁内遮蔽装置]
図3は、本実施形態にかかる弁内遮蔽装置120を示す図である。図3に示すように、弁内遮蔽装置120は、仕切弁114分解点検時(弁蓋114c撤去後)に使用され、原子炉再循環系統110の放射性スラッジから発せられる放射線を遮蔽壁146により遮蔽し放射線が外部へ放出することを防止する。以下、弁内遮蔽装置120の具体的な構造について説明する。
【0034】
(支持部材)
弁内遮蔽装置120の支持部材122は弁フランジ114bに掛け渡され、この支持部材122を介して、締結ボルト116が既存の螺子孔114gに締結される。図4は、図3のA−A断面図である。図5は、図4の高さ調整ブッシュ126を示す図である。
【0035】
図4に示すように、支持部材122はレール状に形成されていて、このレール上を滑板124が摺動可能に保持されている。滑板124は後述する掛止部材134を吊下して遮蔽壁146の荷重を支持しつつ支持部材122上を滑走する。滑板124には、横方向調整ボルト124aが左右に連結されていて、かかるボルトの調整によりその横方向の位置を調整可能に構成されている。
【0036】
図5に示すように、高さ調整ブッシュ126には円形状に形成された囲繞部126aが設けられており、滑板124に回転可能に保持される。囲繞部126aより上方にはスパナ掛止部126bが延設されていて、かかるスパナ掛止部126bにスパナを掛止して回転可能に構成されている。高さ調整ブッシュ126は、内側が螺子切りされている。
【0037】
図6は、支持部材および滑板の他の例(支持部材128および滑板130)について示す図である。図6(a)はその断面図、図6(b)は図6(a)の斜視図である。図6(a)および(b)に示すように、支持部材128にベアリング溝128aを形成し、滑板130にベアリング溝130aを形成し、支持部材128がベアリング132を介して滑板130を摺動可能に保持してもよい。支持部材128と滑板130の相対的な位置関係は、ベアリング132により一定に保たれる。支持部材128は既存の螺子孔114gに締結される締結ボルト116により固定されているので、弁箱114aとの相対的な位置関係も一定に保たれる。これより、横方向調整ボルト124aを省略することができる。
【0038】
(掛止部材)
図3に示すように、掛止部材134は長尺状部材であって、上部が螺子切りされている。これにより、高さ調整ブッシュ126と螺合し、支持部材122に略水平方向に摺動可能に支持される。なお、上記螺子切りは、角螺子形状であるとよい。これにより、軸方向に対し高い耐久性を確保することが可能である。
【0039】
掛止部材134は、後述する遮蔽壁着脱機構144により遮蔽壁146を着脱可能に掛止する。そして、遮蔽壁146を弁フランジ114b(高さ調整ブッシュ126)から弁座シートリング114fの高さまで吊下する。高さ調整ブッシュ126のスパナ掛止部126bにスパナを掛止して回転させることにより、螺合された掛止部材134の遮蔽壁146の吊下高さを調節することができる。
【0040】
掛止部材134の内側面には、後述する上下動スライダ136cがスライド可能に連結されるレール溝134aが形成されている。
【0041】
(水平移動機構)
図7は、図3の要部拡大図である。図7に示すように、水平移動機構136は、支持部材122から吊下される中央軸136a、およびこの中央軸136aから遮蔽壁146の移動方向に拡縮可能なパンタグラフ機構136b(4節リンク機構)から構成される。パンタグラフ機構136bは中央軸136aに対し、片方は回転可能かつ上下移動不能に取り付けられており、他方は中央軸136aに螺合してその回転によって上下移動するように構成されている。中央軸136a上部には、この中央軸136aを回転させるハンドル138が設けられている(図3参照)。かかるハンドル138を回転させることで、パンタグラフ機構136bが連動して拡縮し、掛止部材134が略水平方向に移動する。これにより、弁座シートリング114fに遮蔽壁146を挿抜することができる。
【0042】
パンタグラフ機構136bの先端(左右2節)には上記レール溝134aにスライド可能に連結される上下動スライダ136cが備えられ、この上下動スライダ136cを介して掛止部材134と接続されている。これより、パンタグラフ機構136bが遮蔽壁146の荷重を受けることなく、好適に掛止部材134を略水平方向に移動させることができる。
【0043】
図8は、水平移動機構の他の例(水平移動機構140)について示す図である。図8(a)はその斜視図であり、図8(b)は図8(a)の歯車装置140bについて示す図である。
【0044】
図8(a)および(b)に示すように、水平移動機構140として、歯車装置140bによりラック140eを介し、掛止部材134を略水平方向に移動させてもよい。歯車装置140bは、中央軸140aに備えられたA歯車140cと、A歯車140cと噛合して回転するB歯車140dとから構成される。B歯車140dにはラック140eが噛合していて、B歯車140dの回転によりラック140eが略水平方向に移動するようになっている。
【0045】
図9は、水平移動機構の他の例(水平移動機構142)について示す図である。図9(a)では支持部材122を点線で図示しており、図9(b)では支持部材122を実線で図示している。図9(a)および(b)に示すように、水平移動機構142として、上記中央軸136aを設けずに、滑板124と螺合し軸方向が略水平方向となっている案内ボルト124を設けてもよい。案内ボルト142bには、一端にハンドル142aが備えられおり、これを回転させることにより滑板124を略水平方向に移動させることができる。
【0046】
(遮蔽壁着脱機構)
図7に示すように、遮蔽壁着脱機構144として、掛止部材134の下部には係止梁144a(係止部)が設けられ、遮蔽壁146には2つの鉤状引掛具144b(係合部)が設けられる。
【0047】
上記により、遮蔽壁146が弁座シートリング114f(弁箱114a)に接地した後には、弁フランジ114b近傍の高さにおいて昇降部としての上記高さ調整ブッシュ126をスパナで回転し、掛止部材134を上下移動(下方に移動)させその掛止を解除することができる。
【0048】
なお、当然ながら上記掛止を解除した後には、水平移動機構136によって掛止部材134を引き戻し(遮蔽壁146から離隔させ)、支持部材122や掛止部材134などを弁箱114aから撤去することが可能である。また、一度撤去した支持部材122および掛止部材134を再度弁箱114aに挿入して、遮蔽壁146を回収することも可能である。
【0049】
(遮蔽壁)
遮蔽壁146は、略円板状の直径が弁座シートリング114f内径よりも僅かに小さい隔壁であって、上記遮蔽壁着脱機構144の実現に充分な強度を備え、且つ放射線の遮蔽に優れた材質で形成される。具体的には、遮蔽壁146は鉄鋼材料で構成することができる。また、遮蔽壁を挿入する弁座シートリング114f(弁箱114a)の寸法が小さく、遮蔽壁146を薄くする必要がある場合には、鉛材料を用いることができる。この場合には、強度を要する部分に、部分的に強度の高い鋼板を用い強度を確保することができる。
【0050】
遮蔽壁146の厚さは、放射線遮蔽能力をふまえて適宜設定することができる。弁座シートリング114f内径を仮に650mmとし、遮蔽壁の厚さを45mmと算定すると、概して遮蔽壁146の重さは100kg前後となる。
【0051】
図10は、遮蔽壁着脱機構および遮蔽壁の他の例(遮蔽壁着脱機構148および遮蔽壁150)について示す図である。図10(a)はその斜視図であり、図10(b)は図10(a)のB−B断面図である。
【0052】
図10(a)および(b)に示すように、遮蔽壁着脱機構148として、掛止部材134には係止梁144aに加えて第2係止梁148aを設けている。これに対し遮蔽壁150には、2つの鉤状引掛具144bに加え、2つの第2鉤状引掛具148bを設けている。これにより、さらに確実に遮蔽壁150を掛止することができる。
【0053】
また、弁座シートリング114fの入口部分に付着した放射性スラッジが発する放射線を遮蔽するために、弁座シートリング114fの形状に沿うように下側ほど突き出たリブ150aが縁部に立設された遮蔽壁150を用いてもよい。かかるリブ150aは、弁座シートリング114fの傾斜角に合わせて立設される。これにより、弁座シートリング114f内面、弁箱114a配管側内面および原子炉再循環系統110の配管内面部分に付着した放射性スラッジが発する放射線を遮蔽壁150により遮蔽することができるため、作業員の被爆量をさらに低減することができる。
【0054】
図11は、遮蔽壁着脱機構の他の例(遮蔽壁着脱機構152)について示す図である。図11に示すように、遮蔽壁着脱機構152として、遮蔽壁146に固着された鉄板152aと、掛止部材134下部に備えられた電磁石152bとにより遮蔽壁146を掛止してもよい。すなわち、不図示の通電部により電磁石152bを励磁することで鉄板152aが吸着されて掛止され、通電を解除すればこの掛止は解除される。
【0055】
(遮蔽壁固定機構)
図12は、図7のC−C断面図である。図12(a)は固定ボルト158f締付前の状態を示す図であり、図12(b)は固定ボルト158f締付中の状態を示す図であり、図12(c)は固定ボルト158f締付後の状態を示す図である。
【0056】
図12(a)〜(c)に示すように、遮蔽壁固定機構158は、遮蔽壁146の外周部に形成された凹部158aに収容される(嵌め込まれる)遊動片158bおよび略C字状(図7参照)の連結具158e、並びに固定ボルト158f、Cリング158gにて構成される。
【0057】
図12(a)に示すように、固定ボルト158fは、遮蔽壁146の表面146a側から裏面146b側にかけて挿通する。裏面146b側では、固定ボルト158fに抜け留めのCリング158gが取り付けられている。なお、抜け留めとしては、表面146aに固定ボルト158fの抜けを防止する爪を形成してもよい。
【0058】
凹部158aの遮蔽壁表面146a側の壁面は、表面146aより離間するほど厚み方向に後退する傾斜面158cである。かかる傾斜面158cには、遊動片158bの傾斜した端部が合わせられる。
【0059】
固定ボルト158fは、遊動片158bに形成された縦に長い(固定ボルト158fの軸方向に対し直角方向に遊びを有する)長孔158dを貫通する。長孔158dは固定ボルト158fの軸方向の移動を規制するが、縦方向(軸直角方向)の移動は許容する。長孔158dを貫通した固定ボルト158fは、螺子切りされた連結具158eの螺子孔に螺合される。
【0060】
ここで、図12(b)に示すように、固定ボルト158fをレンチ158hで締め付けると、連結具158eがその螺子溝に案内されて、固定ボルト158fの頭側へと進む。すると、遊動片158bは遮蔽壁表面146a側へと押圧され、凹部158aの傾斜面158cに沿って移動し、弁座シートリング114f(弁箱114a)側に突出する(図12(c)参照)。一方、固定ボルト158fを緩める方向に回転させると、連結具158eが後退するため、遊動片158bは傾斜面158cに沿って落下し、凹部158aの中へと後退する。すなわち、固定ボルト158fの締付または緩めによって遊動片158bを傾斜面158cに対して進退させることができ、外周部から遊動片158bを突出または後退させることができる。これにより、好適に遮蔽壁146を弁座シートリング114f(弁箱114a)に固定することが可能である。なお、遊動片158bと連結具158eとの合わせ面に関しても傾斜面とし、外周部からより突出または後退しやすくするとさらによい。
【0061】
図13は、遮蔽壁固定機構の他の例(遮蔽壁固定機構160)について示す図である。図13(a)は遮蔽壁146固定前の状態を示す図であり、図13(b)は遮蔽壁146固定後の状態を示す図である。
【0062】
図13(a)に示すように、遮蔽壁固定機構160では、遮蔽壁146に切れ目が入れられており、ヒンジ部160aによってこれらが連結されている。換言すれば、遮蔽壁146が上部遮蔽壁160bと下部遮蔽壁160cとに分離されている。
【0063】
上部遮蔽壁160bと下部遮蔽壁160cとの間には、中心から円周までの距離が一律でないカム160dが設けられている。そして、カム160dに連結されたレバー160eを回してカム160dを回転させることができるように構成されている。図13(b)に示すように、かかるカム160dを回転させることで、上部遮蔽壁160bが上下して弁座シートリング114f(弁箱114a)に突き当てられる。これにより、遮蔽壁146を弁座シートリング114f(弁箱114a)に固定することができる。なお、上部遮蔽壁160bと下部遮蔽壁160cとの境界部はインロー構造にしておくとよい。これにより、上部遮蔽壁160bを押し上げた際に生じる下部遮蔽壁160cとの間隙からの放射線通過を低減することができる。
【0064】
[弁内遮蔽装置の使用態様]
図14〜図16は、弁内遮蔽装置120の使用態様図である。以下、上述した弁内遮蔽装置120の使用態様について、実際の作業手順に則り説明する。
【0065】
まず、図14(a)に示すように、仕切弁114分解点検時に弁蓋114cが撤去された弁箱114aの弁フランジ114bに、弁内遮蔽装置120(支持部材122)を載置する。そして、支持部材122を介して、既存の螺子孔114gに締結ボルト116を締結する。
【0066】
図14(b)に示すように、ハンドル138を回すことにより、パンタグラフ機構136bを広げて掛止部材134を略水平方向(弁座シートリング114f当接方向)に移動させ、弁座シートリング114fに遮蔽壁146を挿入する。
【0067】
図14(c)に示すように、遮蔽壁固定機構158の固定ボルト158fをレンチ158hなどで締め付けて、遮蔽壁146を弁座シートリング114f(弁箱114a)内部に固定する。なお、図14(c)では、便宜上、固定ボルト158fおよびレンチ158hの図示を省略している。
【0068】
図14(d)に示すように、高さ調整ブッシュ126のスパナ掛止部126bをスパナ等で回して掛止部材134を降下させ、遮蔽壁146との掛止を解除する。
【0069】
図15(a)に示すように、ハンドル138を上記とは逆方向に回して、パンタグラフ機構136bを縮小し、掛止部材134を引き戻す(遮蔽壁146から離隔させる)。これにより、遮蔽壁146が弁座シートリング114fに固定された状態で残される。
【0070】
図15(b)に示すように、締結ボルト116による締結を解除し、支持部材122や掛止部材134などを弁箱114aから撤去する。これにより、弁座シートリング114f内に遮蔽壁146のみが残された状態となる。
【0071】
図15(c)に示すように、仕切弁114のシート面164の点検、手入れ、検査、摺り合わせ作業を実施する。例えば、摺り合わせジグ162にてシート面164を研磨し、酸化スケールを除去する作業を実施する。本実施形態では、弁箱114a内の弁座シートリング114f内側にはジグなどが一切残らないことから、何の支障も生ずることなく、好適に作業を完了することができる。
【0072】
図15(d)に示すように、図15(b)にて撤去した支持部材122や掛止部材134などを弁箱114a内に再び挿入し、螺子孔114gに締結ボルト116を締結する。
【0073】
図16(a)に示すように、ハンドル138を回してパンタグラフ機構136bを広げ、掛止部材134を弁座シートリング114f当接方向に移動させる。すなわち、弁座シートリング114fに挿入されている遮蔽壁146の位置まで、掛止部材134を移動させる。
【0074】
図16(b)に示すように、高さ調整ブッシュ126のスパナ掛止部126bをスパナ等で回して掛止部材134を上昇させ、遮蔽壁146を掛止する。同時に、不図示の遮蔽壁固定機構158の固定ボルト158fをレンチ158hなどで緩めて、遮蔽壁146の固定を解除する。
【0075】
図16(c)に示すように、ハンドル138を回して、パンタグラフ機構136bを縮小し、遮蔽壁146を掛止した掛止部材134を引き戻す。
【0076】
図16(d)に示すように、締結ボルト116による締結を解除し、弁内遮蔽装置120を撤去する。
【0077】
以上、上述した構成によれば、仕切弁114の分解点検、手入れ作業時において、弁座シートリング114fに遮蔽壁146を挿入してこれを残した状態で支持部材122や掛止部材134などを撤去することができる。これより、弁箱114a内に作業員が上半身を入れて風船状詰め物20や異物混入防止板22を設置することなく、内部の放射性スラッジから発せられる放射線の放出防止、原子炉圧力容器の負圧の維持、配管内への異物の混入防止を図ることが可能である。よって、作業員が受ける被爆量が低減されるので一人当たりの作業時間を延ばすことができ、弁の分解点検、手入れ作業に要する時間を短縮することができる。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、原子力発電プラントの弁分解点検時に用いられる弁内遮蔽装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
102…原子炉圧力容器、110…原子炉再循環系統、112…PLRポンプ、114…仕切弁、114a…弁箱、114b…弁フランジ、114c…弁蓋、114d…弁棒、114e…弁体、114f…弁座シートリング、114g…螺子孔、116…締結ボルト、120…弁内遮蔽装置、122、128…支持部材、124、130…滑板、124a…横方向調整ボルト、126…高さ調整ブッシュ、126a…囲繞部、126b…スパナ掛止部、128a、130a…ベアリング溝、132…ベアリング、134…掛止部材、134a…レール溝、136、140、142…水平移動機構、136a、140a…中央軸、136b…パンタグラフ機構、136c…上下動スライダ、138、142a…ハンドル、140b…歯車装置、140c…A歯車、140d…B歯車、140e…ラック、142b…案内ボルト、144、148、152…遮蔽壁着脱機構、144a…係止梁、144b…鉤状引掛具、146、150…遮蔽壁、146a…表面、146b…裏面、148a…第2係止梁、148b…第2鉤状引掛具、150a…リブ、152a…鉄板、152b…電磁石、158、160…遮蔽壁固定機構、158a…凹部、158b…遊動片、158c…傾斜面、158d…長孔、158e…連結具、158f…固定ボルト、158g…Cリング、158h…レンチ、160a…ヒンジ部、160b…上部遮蔽壁、160c…下部遮蔽壁、160d…カム、160e…レバー、162…摺り合わせジグ、164…シート面、20…風船状詰め物、22…異物混入防止板、24…弁、24a…弁箱、24b…弁フランジ、24c…弁座シートリング、28…開口部、30…シート面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラントの弁分解点検時に弁から放射線の放出を防止する弁内遮蔽装置であって、
前記弁は、弁蓋が取り付けられる弁フランジの下方に弁座が開口していて、
前記弁座に挿抜され放射線を遮蔽する遮蔽壁と、
前記遮蔽壁を着脱可能に掛止して、該遮蔽壁を前記弁フランジから弁座の高さまで吊下する掛止部材と、
前記弁フランジに掛け渡され、前記掛止部材を支持する支持部材と、
前記掛止部材を略水平方向に移動させ前記弁座に前記遮蔽壁を挿抜する水平移動機構と、
前記弁フランジ近傍の高さにおいて前記掛止部材と前記遮蔽壁の着脱を操作し得る遮蔽壁着脱機構とを備え、
前記水平移動機構により前記遮蔽壁が前記弁座に挿入され前記遮蔽壁着脱機構により前記遮蔽壁の掛止が解除され、該弁座に該遮蔽壁を残した状態で前記支持部材および掛止部材が撤去可能であることを特徴とする弁内遮蔽装置。
【請求項2】
前記遮蔽壁は、
外周部に形成された凹部と、
前記凹部の壁面であって端部に行くほど厚み方向に後退する傾斜面と、
前記凹部内に収容される遊動片と、
前記遊動片を前記傾斜面に対して進退させる固定ボルトとを有し、
前記遊動片は、前記固定ボルトによって進退されることにより前記傾斜面に沿って移動し、前記遮蔽壁の外周部から突出または後退することを特徴とする請求項1に記載の弁内遮蔽装置。
【請求項3】
前記掛止部材は前記支持部材に略水平方向に摺動可能に支持されていて、
前記水平移動機構は、
前記支持部材から吊下される中央軸と、
前記中央軸から前記遮蔽壁の移動方向に拡縮可能なパンタグラフ機構と、
前記パンタグラフ機構の先端に設けられ前記掛止部材に対してスライド可能に接続された上下動スライダとを含んで構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の弁内遮蔽装置。
【請求項4】
前記遮蔽壁着脱機構は、
前記掛止部材の下部と前記遮蔽壁に互いに設けられた係止部または係合部と、
前記弁フランジ近傍の高さにおいて前記掛止部材を上下移動させる昇降部とからなり、
前記昇降部によって前記掛止部材を下降させることにより前記遮蔽壁の掛止が解除され、前記水平移動機構によって前記掛止部材を離隔させることにより前記弁座に前記遮蔽壁を残した状態とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の弁内遮蔽装置。
【請求項5】
前記弁は、楔形の弁体と該弁体に密接するように下側ほど突き出た形状をなす前記弁座とにより流体を遮断する仕切弁であって、
前記遮蔽壁は、前記弁座と同様に下側ほど突き出た形状をなし、該弁座の入口部分に付着した放射性スラッジに重畳するように該遮蔽壁が配置されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の弁内遮蔽装置。
【請求項1】
原子力発電プラントの弁分解点検時に弁から放射線の放出を防止する弁内遮蔽装置であって、
前記弁は、弁蓋が取り付けられる弁フランジの下方に弁座が開口していて、
前記弁座に挿抜され放射線を遮蔽する遮蔽壁と、
前記遮蔽壁を着脱可能に掛止して、該遮蔽壁を前記弁フランジから弁座の高さまで吊下する掛止部材と、
前記弁フランジに掛け渡され、前記掛止部材を支持する支持部材と、
前記掛止部材を略水平方向に移動させ前記弁座に前記遮蔽壁を挿抜する水平移動機構と、
前記弁フランジ近傍の高さにおいて前記掛止部材と前記遮蔽壁の着脱を操作し得る遮蔽壁着脱機構とを備え、
前記水平移動機構により前記遮蔽壁が前記弁座に挿入され前記遮蔽壁着脱機構により前記遮蔽壁の掛止が解除され、該弁座に該遮蔽壁を残した状態で前記支持部材および掛止部材が撤去可能であることを特徴とする弁内遮蔽装置。
【請求項2】
前記遮蔽壁は、
外周部に形成された凹部と、
前記凹部の壁面であって端部に行くほど厚み方向に後退する傾斜面と、
前記凹部内に収容される遊動片と、
前記遊動片を前記傾斜面に対して進退させる固定ボルトとを有し、
前記遊動片は、前記固定ボルトによって進退されることにより前記傾斜面に沿って移動し、前記遮蔽壁の外周部から突出または後退することを特徴とする請求項1に記載の弁内遮蔽装置。
【請求項3】
前記掛止部材は前記支持部材に略水平方向に摺動可能に支持されていて、
前記水平移動機構は、
前記支持部材から吊下される中央軸と、
前記中央軸から前記遮蔽壁の移動方向に拡縮可能なパンタグラフ機構と、
前記パンタグラフ機構の先端に設けられ前記掛止部材に対してスライド可能に接続された上下動スライダとを含んで構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の弁内遮蔽装置。
【請求項4】
前記遮蔽壁着脱機構は、
前記掛止部材の下部と前記遮蔽壁に互いに設けられた係止部または係合部と、
前記弁フランジ近傍の高さにおいて前記掛止部材を上下移動させる昇降部とからなり、
前記昇降部によって前記掛止部材を下降させることにより前記遮蔽壁の掛止が解除され、前記水平移動機構によって前記掛止部材を離隔させることにより前記弁座に前記遮蔽壁を残した状態とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の弁内遮蔽装置。
【請求項5】
前記弁は、楔形の弁体と該弁体に密接するように下側ほど突き出た形状をなす前記弁座とにより流体を遮断する仕切弁であって、
前記遮蔽壁は、前記弁座と同様に下側ほど突き出た形状をなし、該弁座の入口部分に付着した放射性スラッジに重畳するように該遮蔽壁が配置されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の弁内遮蔽装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−215079(P2011−215079A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85323(P2010−85323)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]