説明

弁機構、インク貯蔵容器

【課題】インク貯蔵容器のインク供給を安定化させる。
【解決手段】インク貯蔵容器内に配置される弁機構70であって、貫通孔76Bを備える弾性弁76と、弾性弁76の下流側に配置される負圧形成空間82と、弾性弁の上流側に配置されるインク供給空間84と、弾性弁76と当接してインク供給空間84と貫通孔76Bの間を遮断する遮断部90と、弾性弁76を付勢して遮断部90に当接させるバネ86と、を備えるようにする。負圧形成空間82に負圧が印加されると、弾性弁76が下流側に変位して、遮断部90と弾性弁76が離反し、インク供給空間84から貫通孔76を介して負圧形成空間82にインクが流れるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁機構、及び該弁機構を備えたインクを内部に貯留するインク貯蔵容器に関する。
【背景技術】
【0002】
インク貯蔵容器の例としては筆記具のインクタンクや、インクジェットプリンタのインク(タンク)カートリッジなどがある。これらは文字や画像を形成する筆記や印刷に消費されたインク量に対応して外気をタンク内に取込んで空気交換し、タンク内の気圧変化がインクの消費に悪影響を及ぼさないようにした機構とされており、その機構としては、外気の取込み口として単なる孔を形成したものや、液体は通さないが通気のみを行う弁機構付きの通気路を形成したものを挙げることができる。
【0003】
しかし、外気の取込み口として単なる孔を設けたものでは、この孔からのインクが漏れてしまう可能性がある。また、単に気体は通すが液体は通さない膜を配置しただけのものでは、インクカートリッジの内部が大気圧と同一になるため、インクが吐出口から吹き出してしまう可能性がある。そこで、スポンジなどのインク吸蔵体をインク吐出口上に配置して、インクを保持する必要がある。
【0004】
ところが、このようにスポンジなどのインク吸蔵体によってインクを保持したのでは、インク吸蔵体を有しない空のインク貯蔵部に比べてインク保持量が少なくなり、それだけ同体積におけるインク量の減少による印字数が少なくなる。
【0005】
そこで、特許文献1又は2に開示されているように、例えば、空気の流量を制御可能な空気流量制御部を、貯蔵容器の上蓋に内蔵するインク貯蔵容器が提案されている。このインク貯蔵容器によれば、インク吸蔵体を容器内部に配置したものと比べて、インク保持量が少なくなってしまうことを回避し、更に、この空気流量制御部によって容器内部を負圧にすることができるので、内部のインクが、吐出ノズルから安易に吹き出てしまうことを防止できる。
【0006】
また、特許文献3に開示されているように、インクカートリッジの内部に、貫通孔を有しない弾性部材を利用した弁を配置し、この弾性部材の一方の面側には負圧発生専用空間を形成し、他方の面にはインク供給専用空間を形成することで、弾性部材の変形によってインクの供給を制御する弁機構が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−277777号公報
【特許文献2】特許4246787号公報
【特許文献3】特許3991853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2等に記載のインク貯蔵容器は、基本的に極めて優れたものであり、容器内の気圧が適切に負圧に維持されるので、安定した印刷が可能である。一方、本発明者らの未公知の実験によると、この種のインク貯蔵容器では、空気側の流量を制御することで、間接的にインクの吐出を制御する構造であるため、プリンタ側のトラブル等によって、プリンタ側のインク吸引力が増大すると、インクが出過ぎてしまう恐れがあった。
【0009】
また、特許文献3の弁機構では、負圧発生専用空間とインク供給専用空間をそれぞれ設ける必要があるため、弁構造が複雑化するという問題があった。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、インク貯蔵容器におけるインク貯蔵用空間の利用効率を極大化しつつも、インクの過大吐出等を抑制し、環境変化やプリンタ側のトラブル等を含めた、微少な気圧変化から大きな気圧変化に亘って、安定したインク吐出制御を確実に行えるインク貯蔵容器を提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明は、インク貯蔵容器内に配置されてインク貯蔵部とインク吐出部の間に配置される弁機構であって、弾性変形可能な膜状に構成され、且つ貫通する貫通孔を備える弾性弁と、前記弾性弁の下流側に配置され、前記吐出口と連通される負圧形成空間と、前記弾性弁の上流側に配置され、前記インク貯蔵部と連通されることで前記弾性弁側にインクを供給するインク供給空間と、前記インク供給空間側に配置されて前記弾性弁と当接し、前記インク供給空間と前記貫通孔の間を遮断する遮断部と、前記負圧形成空間側に配置されて、前記弾性弁を前記インク供給空間側に付勢して前記遮断部と前記弾性弁を当接させるバネと、を備え、前記負圧形成空間に印加される負圧により、前記バネの付勢に抗して前記弾性弁が下流側に変位して、前記遮断部と前記弾性弁が離反し、前記インク供給空間から前記貫通孔を介して前記負圧形成空間にインクが流れることを特徴とする弁機構である。
【0012】
上記目的を達成する弁機構の前記負圧形成空間には、更に、前記弾性弁が下流側に変位する際に前記貫通孔の近傍と当接して、前記弾性弁の変位量を制限する変位規制部を備えることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成する弁機構の前記変位規制部内には、更に、前記弾性弁と当接した状態で前記貫通孔と前記負圧形成空間を連通させるスリットが形成されることを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成する弁機構は、更に、前記変位規制部によって、前記バネの一端が保持されることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成する弁機構の前記変位規制部は、更に、前記バネの内側に嵌り込んで前記バネを一端を保持する円形突起を有していることを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成する弁機構は、更に、前記弾性弁が前記バネに付勢されて前記遮断部と当接した状態で、前記変位規制部と前記弾性弁の間の隙間が3mm以下に設定されることを特徴とする。
【0017】
上記目的を達成する弁機構は、更に、前記弾性弁が前記バネに抗して前記変位規制部と当接した状態で、前記遮断部と前記弾性弁の間の隙間が2mm以下に設定されることを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成する弁機構は、更に、前記貫通孔の内径は1.5mm以下に設定されることを特徴とする。
【0019】
上記目的を達成する弁機構の前記弾性弁には、更に、前記貫通孔の外周を囲う環状の肉厚部が形成されていることを特徴とする。
【0020】
上記目的を達成する弁機構の前記肉厚部は、更に、前記バネの内側に嵌り込んで前記バネの他端を保持することを特徴とする。
【0021】
上記目的を達成する弁機構は、更に、前記肉厚部の最大外径は2mm以上に設定されることを特徴とする。
【0022】
上記目的を達成する弁機構の前記遮断部は、更に、前記弾性弁の前記貫通孔の外周近傍を囲む環状の遮断突起が形成され、前記バネの内径は、前記遮断突起の外径と同等又は大きく設定されることを特徴とする。
【0023】
上記目的を達成する弁機構の前記インク供給空間は、更に、前記インク貯蔵部の底面に対向した状態で近接配置されるインク吸い込み口を有することを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成する本発明は、上記のいずれかに記載の弁機構と、前記インク貯蔵部の上方側に設けられて内外間の空気流量を制御する空気流量制御部と、を備えることを特徴とするインク貯蔵容器である。
【0025】
上記目的を達成するインク貯蔵容器の前記空気流量制御部は、更に、通常時は空気を流通させないが、前記インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で空気交換を行わせる弾性変形可能な連通多孔質の弁体と、前記弁体よりも前記インク貯蔵部側に配設されて通気性を有しかつ撥水処理を施された撥液膜体と、を備えることを特徴とする。
【0026】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、更に、前記インク貯蔵部の下方側に設けられる前記インク吐出部に、外部部材からの付勢によって上下動する移動弁を備え、該移動弁の上下動によって前記インクの吐出・停止を切り替えるようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、インクの供給を常に安定させることができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係るインク貯蔵容器の構造を示す断面図である。
【図2】空気流量制御部の断面図である。
【図3】空気流量制御部が備える各部材の斜視図である。
【図4】閉状態における、弁機構の(A)水平方向に沿った断面図、(B)鉛直方向に沿った断面図である。
【図5】弁機構の第2プレートを示す平面図である。
【図6】開状態における、弁機構の(A)水平方向に沿った断面図、(B)鉛直方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。なお、以下の各実施形態におけるインク貯蔵容器は、インクジェットプリンタ用のインクカートリッジに適用した場合を例に挙げて説明する。
【0030】
図1は、本実施形態に係るインク貯蔵容器100の構造を示す断面図である。インク貯蔵容器100は、適宜の合成樹脂から構成されており、同図に示されるように、内部にインクMを貯蔵するインク貯蔵部10と、インク貯蔵部10の内外間で空気の流量を制御する空気流量制御部20と、インク貯蔵部10に貯蔵されたインクMの吐出を制御するためのインク吐出部30と、インク貯蔵部10とインク吐出部30の間に配置される弁機構70を有して構成されている。
【0031】
<インク貯蔵部>
インク貯蔵部10は、上部が開口した中空の本体部11と、本体部11の開口を塞ぐ蓋として上部に組み合わされる上面部12から構成されている。本体部11は、図の縦横の寸法よりも奥行きの寸法が小さい略直方体状に形成されている。本体部11の底部には、インク吐出部30が設けられている。
【0032】
上面部12は、平面視(図の上から見た場合)が横長の長方形板状である天板12aと、天板12aの周縁のやや内側の下面から下方に向けて突出する嵌合壁12bから構成されている。上面部12は、この嵌合壁12bを本体部11の内部に嵌合させることによって本体部11と組み合わされる。
【0033】
<空気流量制御部>
図1に示されるように、上面部12の天板12aには、図の右側の長手方向端部の近傍に空気流量制御部20が設けられている。図2は、空気流量制御部20の断面図である。同図に示されるように、上面部12の天板12aには、陥没する平断面円形状の凹部12eが形成されており、空気流量制御部20は、この凹部12e内に収容される弁体22、撥水膜体24、押圧リング26およびキャップ28を備えている。空気流量制御部20は、凹部12e内に撥水膜体24を載置し、その上に押圧リング26を載置し、さらにその上に弁体22を載置した上で、これらの上からキャップ28を凹部12eに嵌合させ、弁体22、撥水膜体24および押圧リング26をキャップ28と凹部12eの間に挟持することによって構成されている。
【0034】
凹部12eの底部12fには、その中央においてインク貯蔵部10の内部13に連通する円形断面の導通口12gが穿たれている。この導通口12gは、内部13に向けて内径が拡大するように形成されている。なお、この導通口12gの内面および周縁部に撥水処理加工を施すようにしてもよい。撥水処理加工を施すことで、導通口12gの内面および周縁部、または撥水膜体24下面に付着するインクを効率的に滴下し、導通口12gまたは撥水膜体24の詰りを未然に防止することができる。
【0035】
底部12fの導通口12gの周囲には、撥水膜体着座部12hと下端受容部12iが設けられている。撥水膜体着座部12hは、撥水膜体24を位置決めして受け止める環状の窪み(環状の段部)である。下端受容部12iは、この撥水膜体着座部12hの外周に同心円状に設けられる環状溝であり、後述するキャップ28の周面部28bの下端を受容する構造となっている。
【0036】
撥水膜体着座部12hは、オレフィン系樹脂素材によって成型されると共に平滑面として形成され、これにより、撥水膜体24が撥水膜体着座部12hに着座したときに、撥水膜体24の撥水膜体着座部12hに対する密着度を高め、インクMが接触面の間から浸入するのを極力抑制するように設定されている。特に、オレフィン系樹脂素材は濡れ性が低いため、撥水効果が高い。従って、撥水膜体24と密着することで、その隙間にインクが浸入できないようになっている。なお、オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンや、ポリエチレン等の各種素材があるが、本実施形態ではポリプロピレンを採用している。
【0037】
撥水膜体着座部12hと下端受容部12iの間には、図の上方に向けて突出する環状の突条部12jが形成されている。この突条部12jは、撥水膜体24が横方向にずれないように位置決めすると共に、キャップ28の周面部28bの進入を円滑にするガイドとしても機能するようになっている。
【0038】
図3は、空気流量制御部20が備える各部材の斜視図である。同図に示されるように、弁体22は、複数の微細孔が連通した弾性材料からなる略円板形状の平板であり、例えばポリウレタン等の素材を圧縮多孔体とすることにより構成される。
【0039】
弁体22は、インク貯蔵部10の内部13と外部との間に気圧差がない通常時には、通気性が遮断され空気の出入りはないが、所定値以上の気圧差が生じた場合には、微少な弾性変形により伸び、これにより微細孔が押し広げられて通気性が惹起し、気圧の高い側から低い側へ空気が流入することで、空気流量の制御を行う機能が発揮されるように構成されている。
【0040】
すなわち、空気流量制御部20は、外部とインク貯蔵部10の内部13との気圧差に応じてこの弁体22の複数の微細孔を通過する空気量が変化し、この変化によって外部からインク貯蔵部10の内部13への空気流量を制御する機能を有するものである。なお、弁体22の材質や構造等は特に限定されるものではなく、弁体22として上記特許文献1で開示されたものや市販品を採用することができる。
【0041】
弁体22は、本実施形態では圧縮体として、圧縮した場合に通気性がないようにしている。すなわち、弾性材料からなる連通多孔体を通気性がなくなるまで圧縮して、圧縮多孔体を作ることで空気流量制御機能をより発揮できるように加工している。このような圧縮多孔体では、内部において、連通多孔体を構成している弾性体が押し潰され折り重なってできた不定形の空間が多数形成されているが、圧縮された状態では通気性がなくなる。ところが、圧縮多孔体内で形成された多数の不定形の空間は連通されているので、内外の気圧差が生じた場合、弁体22が延びることによって生じた所定の気圧差以上によって、外部から圧縮多孔体の内部へと空気が押し込まれ、空気は、圧縮多孔体内にネットワークされた空間を結んでいる通気孔を押し広げながら、弁体を変形させ、圧縮多孔体の反対側、すなわちインク貯蔵部10の内部13側へ移動することで通気性を生じる。
【0042】
この通気量(空気流量)は、圧縮多孔体内にネットワークされた空間の通りやすさによって決められるので気圧差が大きい場合には弁体22は大きく伸び、圧縮多孔体内にネットワークされた空間中を空気が通りやすくなり、通気量は大きくなる。一方、所定の気圧差以上であって気圧差が小さい場合には弁体22は小さく伸び、圧縮多孔体内にネットワークされた空間中を空気が通る量は少なくなり、通気量は小さくなる。弁体22による通気によって気圧差が減少した場合、弁体22も縮み、通気量が少なくなる。さらに所定の気圧差未満となった場合、弁体22が再び圧縮されるため弁体22の通気性はなくなる。このように気圧差の大きさに応じて通気量も応じるので迅速で適切なインク貯蔵部10内の気圧を一定化する気圧調整が可能となる。
【0043】
外部(大気)とインク貯蔵部10内部との気圧差がどの程度で弁体22の通気性を生じさせるようにするかは、連通多孔、圧縮の程度などを適宜選択して決めればよいが、例えば、気圧差が20mmHO以下のときは通気性が無く、気圧差が20mmHO以上のときは通気性が有るように圧縮するようにすると好適である。
【0044】
弁体22を構成する弾性材料は複数の微細孔を有するもので伸びた状態でこの微細孔を通過するものであれば足りるが、例えば、ポリプロピレン、各種ゴム、各種エラストマーを挙げることができる。連通多孔孔質体の場合には、ゴム及び/又はプラスチック原料に不活性ガス、分解性発泡剤、揮発性有機液体を混合し、内部に気泡を形成することにより発砲させて連通多孔を形成したものや、ゴム・プラスチック原料に炭酸カルシウムなどの無機粒子を混練りしたものを板状に形成した後、無機粒子を溶出して連通多孔を形成したもの等が挙げられ、前記ゴム及び/又はプラスチック原料としては、弾性材料として、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ネオプレンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリウレタン、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。中でも特に、液体に対しての耐久性や、連通多孔質体の形成しやすさ、生産性等を考慮するとエーテル系ポリウレタン樹脂などが好適である。
【0045】
弁体22を構成する弾性材料は気圧差が働くと伸び、通気すると気圧差は減少し、ついには元の状態に戻り通気は無くなるという繰り返しによっても、常にはじめの圧縮された通気性のない状態が維持されると好適である。このためには圧縮体であると圧縮永久ひずみ特性が優れていることが好適である。この圧縮は、圧縮率を圧縮前の材料の厚みの5%以上40%以下とすることが好ましく、これによって気圧差が所定値未満の場合に確実に閉塞されたものとしやすい。
【0046】
撥水膜体24は、通気性を有する撥水性材料から構成された略円板形状の平板である。本実施形態では、撥水膜体24の材料として通気性の撥水性材料を用いているが、これに限られることなく、防水性材料、弁体22に対してインク成分が接触することを防止する膜であれば足り、臨界表面張力が大きい材料であってもよい。また通気性は、膜が導通口12g全体を塞がず少なくとも一部が貫通している場合については必要ではない場合がある。
【0047】
本実施形態で用いられる撥水性材料は、それ自体通気性を有する材料であれば足りる。特に臨界表面張力が25dyn/cm以下である撥水性材料であると好適である。そのような材料として、各種樹脂膜、無機膜が用いられるが、フッ素樹脂、フッ素ゴムなどを好適に用いることができ、テフロン(登録商標)、すなわちポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いるとさらに好適である。
【0048】
撥水膜体24は、通気性を考慮して連通している複数の微細孔を有し、複数の微細孔の孔径は5μm以下、より好ましくは0.1μm以下とすると好適である。
【0049】
押圧リング26は、略円形状の平板の中央に略円形断面の貫通孔26aが形成された所謂ドーナツ型形状の平板である。本実施形態では、押圧リング26をドーナツ形状とすることで、撥水膜体24と弁体22の間に空気層29(図2参照)を形成するようにしている。この空気層により、例え撥水膜体24を通過しても空気層29があるので、より弁体22にインク貯蔵部10に貯えられたインクMが達することを防止できるので好適である。
【0050】
なお、本実施形態では所謂ドーナツ型形状の押圧リング26を例示したがこれに限られることなく、空気層29を形成できる構造のものを用いて代用することが可能である。すなわち撥水膜体24と弁体22の間に空気の層を形成できる部材形状、配置であれば代用することが可能である。本実施形態では上述の通り、弁体22を均一に押圧するので好適であることから中空略円盤形状の押圧リング26を用いている。
【0051】
また、押圧リング26は、本実施形態では金属を素材として形成されている。これにより、押圧リング26の上下両面の平滑度が高められ、弁体22や撥水膜体24に均一な面圧が作用して互いの接触面の密着度を高め、これによりインクが漏れるのを阻止できるようにしている。
【0052】
キャップ28は、適宜の剛性を有する樹脂材で成形され、円板状の天井部28aと、その周縁から軸方向に延在する筒状の周面部28bとを有する。天井部28aには、撥水膜体着座部12fに対向する位置(図の下面)に平坦な面を成す環状の弁体着座部28cが形成され、この弁体着座部28cには3個の通気孔28dが設けられている。
【0053】
図2に戻って、キャップ28の天井部28aと周面部28bの内側における角部、換言すると、天井部28aの下面側の周縁(周面部28bの内周側の付け根)には、薄肉で形成した弾性ヒンジPが設けられる。こうして、弁体着座部28cを形成する円状の突条部28fの外側近傍に存するヒンジPを基点として周面部28bが弾性変形し易くなるようにしている。さらに、周面部28bの下端は下端受容部12iに当接しうるように形成されている。
【0054】
本実施形態では、この下端が下端受容部12iに当接することでキャップ28の押し込み量を一定に制限し、空気流量制御部20が無理に圧縮されるのを回避している。すなわち、周面部28aの下端は、キャップ28を凹部12eに装着する際に、一時的に下端受容部12iに当接するストッパとして機能するようになっている。この結果、組み立て時において弁体22や撥水膜体24に過負荷が作用し、空気流量制御部20の機能が低下するのを防止することができる。
【0055】
なお、組み立てを完了した後は、弁体22および撥水膜体24の復元力によって、キャップ28が上方に付勢され、キャップ28の周面部28aの下端と下端受容部12iの間には微小な隙間が形成されるようになっている。このようにすることで、凹部12eにキャップ28を装着した場合に、弁体22、押圧リング26および撥水膜体24を、キャップ28の弁体着座部28cと凹部12eの撥水膜体着座部12hの間に適正な圧力で挟持することが可能となっている。
【0056】
即ち、この空気流量制御部20は、弾性変形可能とされることで、インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で正負双方向の空気交換を行わせる連通多孔質の弁体22に対して、インクM側に当接するように押圧リング26が配置され、更に押圧リング26のインクM側には撥水膜体24が当接するように配置される。更に、弁体22の空気通過方向両外側には、弁体22が弾性変形するための空隙が形成され、この撥水膜体24、押圧リング26、および弁体22が挟圧保持される構造となる。
【0057】
<インク吐出部>
インク吐出部30は、図1に戻って、本体部11の底面において、外側(図の下方)に向けて突出形成される円筒状の突出部31と、本体部11の底面において、内側(図の上方)に向けて突出形成される円筒状のシリンダ34を備える。突出部31の内部には円形断面の挿通孔15が形成される。この挿通孔15は、シリンダ34側に進むにつれて小さくなるような、逆さのすり鉢形状となっている。シリンダ34の内部にはガイド孔34aが形成される。挿通孔15とガイド孔34aは同軸状態で連続している。
【0058】
挿通孔15及びガイド孔34aの内部には移動弁33が配置されている。移動弁33は、この挿通孔15とガイド孔34aと間で隙間(遊び)を有しているので、移動弁33の周囲には、ガイド孔34aを介して供給されるインクが保持される。移動弁33は、シリンダ34側のガイド孔34aに沿って移動して上下方向に案内される。この挿通孔15(突出部31)の下端にはリング状のシール部材32が設けられている。更に、シリンダ34側のガイド孔34aには、移動弁33をシール部材32に向けて付勢するコイルスプリング35が収容される。このコイルスプリング35の上端は、シリンダ34の底部に当接し、コイルスプリング35の下端は、移動弁33と係合する。この結果、移動弁33はガイド孔34aによって軸方向に案内され、コイルスプリング35によって常にシール部材32側に付勢される。
【0059】
シール部材32は略円筒状の部材であり、ゴム等の弾性材料から構成されている。このシール部材32は、挿通孔15に圧入する事で固定される。シール部材32の上端は半径方向内側に突出しており、移動弁33の下端が当接する。コイルスプリング35の力に抗して、外部から移動弁33を押しこむと、この当接状態が開放されて移動弁33の周囲のインクが、シール部材32から外部に吐出される。なお、このインクカートリッジをプリンタにセットした際は、常に、この当接状態は開放された状態にある。また、プリンタ側において印刷を行う際には、プリンタ側からインク吐出部30に負圧が印加されて、インクMを吸引するようになっている。
【0060】
<弁機構>
シリンダ34上端の近傍には弁機構70が配置される。この弁機構70は、インク貯蔵部10の底面に対向して近接配置されるインク吸い込み口74と、シリンダ34に連結されるインク流出路72を備えている。インク吐出部30側からインク流出路72を介して弁機構70の内部に負圧が印加されると、弁機構70内の弁が開放し、更にインク吸い込み口74からインクMを吸い上げて、インク流出路72を介してインク吐出部30にインクMを供給する。一方、インク吐出部30側からの負圧の印加が停止すると、弁機構70の内部の弁が閉じて、機械的にインクMの供給が遮断される。
【0061】
図4(A)は閉じた状態の弁機構70の水平方向に沿った断面図、図4(B)は閉じた状態の弁機構70の垂直方向に沿った断面図である。弁機構70は、弾性弁76、第1ケース78、第2ケース80、負圧形成空間82、インク供給空間84、バネ86、変位規制部88、遮断部90を有する。
【0062】
弾性弁76は、シリコン等の弾性材料による円形薄膜であり、外周縁には環状に肉厚となる保持部76Aが形成され、中央には貫通孔76Bが形成され、貫通孔76Bを囲むように環状の肉厚部76Cが形成される。貫通孔76Bの内径は1.5mm以下、望ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.8mm以下に設定される。なお、本実施形態では0.8mmとなっている。更にこの弾性弁76は、保持部76Aと肉厚部76Cの間において、周方向に沿って屈曲部76Dが形成されている。この屈曲部76Dは、軸方向に向かって断面U字状に突出するように折れ曲がっている。従って弾性弁76が半径方向に伸縮できるようになり、弾性変形時の柔軟性が高められる。
【0063】
第1ケース78は、概ね円形のプレート材料であって、弾性弁76と平行且つ上流側に配置される。この第1ケース78の外周縁には、環状の第1連結突起78Aが形成されており、この第1連結突起78Aが、後述する第2ケース80と係合する。また、第1ケース78における第1連結突起78Aの半径方向内側には、環状の第1弁固定突起78Bが形成されており、弾性弁76の保持部76Aに食い込んで係合する。更に、第1ケース78の中央、即ち弾性弁76の貫通孔76Bと対向する場所には、遮断部90が形成されている。この遮断部90は貫通孔76Bの周囲と当接する。弾性弁76と第1ケース78によって形成される空間を、ここではインク供給空間84と定義する。従って、遮断部90と弾性弁76が当接すると、インク供給空間84と貫通孔76Bが遮断され、インクMの供給が停止される。一方、遮断部90と弾性弁76が離反すると、インク供給空間84と貫通孔76Bが連通され、インクMが供給される。
【0064】
鉛直方向に沿って配置される第1ケース78の下縁近傍には、インクMを吸い上げるためインク吸引路78Cが形成されている。即ち、インク供給空間84はインク吸引路78Cを介してインク貯蔵部10と連通している。既に述べたように、インク吸引路78Cの下端に形成されるインク吸い込み口74は、インク貯蔵部10の底面に対向して近接配置されていることから、このインク吸い込み口74及びインク吸引路78Cを介してインク供給空間84内ににインクMが吸い上げられる構造となっている。
【0065】
第2ケース80は、概ね円形のプレート材料であって、弾性弁76と平行且つ下流側に配置される。第2ケース80の外周縁には、環状の第2連結突起80Aが形成されており、第1ケース78の第1連結突起78Aと係合する。第2ケース80における第2連結突起80Aの半径方向内側には、環状の第2弁固定突起80Bが形成される。弾性弁76の周縁は、第1ケース78の第1弁固定突起78Bと、第2ケース80の第2弁固定突起80Bによって周方向に沿って挟持される。
【0066】
更に、第2ケース80の中央、即ち弾性弁76の貫通孔76Bと対向する場所には、変位規制部88が形成されており、弾性弁76の貫通孔76Bの周囲と当接する。弾性弁76と第2ケース80によって形成される空間を、ここでは負圧形成空間82と定義する。詳細は後述するが、変位規制部88にはバネ86が設けられており、このバネ86によって弾性弁76の肉厚部76Cを第1プレート78の遮断部90側に付勢する。負圧形成空間82に負圧が印加されると、バネ86の付勢に抗して弾性弁76が負圧形成空間82側に弾性変形して、肉厚部76Cが第2ケース80側に移動して変位規制部88に当接する。この結果、肉厚部76Cの変位量が変位規制部88によって制限される。
【0067】
シリンダ34に連結されるインク流出路72は、鉛直方向に沿って配置される第2ケース80の側部近傍に形成される。即ち、負圧形成空間82はインク流出路72を介して、インク吐出部30のシリンダ34と連通している。
【0068】
第1プレート78に形成される遮断部90は、弾性弁76側に突出する環状の遮断突起90Aを備えている。この遮断突起90Aは、弾性弁76側に向かって次第に径が小さくなるような部分円錐形状の傾斜面90Bを有している。この遮断突起90Aの突端は、貫通孔76Bの周囲を囲むようにして弾性弁76に当接する。面接触させる場合と比較して、遮断突起90Aを弾性弁76に線接触させることで、接触部分の圧力が高くなる。この結果、インク供給空間84と貫通孔76Bの間の遮断力が高められる。更に、遮断突起90Aの突端の直径は、貫通孔76Aの内径(0.8mm)よりも大きく設定され、一方で、バネ86の内径と略同等またはそれ以下に設定される。具体的にバネ86の内径は約2.5mmであることから、遮断突起90Aの突端の直径は、0.8mm〜2.5mmの範囲内で設定される。なお、本実施形態では約2mmに設定される。このようにすることで、バネ86によって付勢される弾性弁76の肉厚部76Cが、遮断突起90Aの傾斜面90Bに沿って変形するので、互いの密着性が良好になる。
【0069】
第2プレート80に形成される変位規制部88は、図5に示されるように、弾性弁76側に突出する円形の突起となっている。変位規制部88の突端面88Eは、弾性弁76の貫通孔76B及び肉厚部76Cと当接することで、肉厚部76Cの変位量を規制する。更にこの変位規制部88には、環状溝88Aが形成されており、この環状溝88Aに囲まれる範囲が円形の中央突起88Dとなる。この中央突起88Dの外周壁の外径(環状溝88Aの内側径)は、バネ86の内径よりも僅かに小さく設定されていることから、この中央突起88Dがバネ86の内側に嵌り込むようにして、バネ86の一端が保持される。なお、弾性弁76の肉厚部76Cの外径もバネ86の内径よりも僅かに小さく設定されていることから、この肉厚部76Cがバネ86の内側に嵌り込むようにして、バネ86の他端が保持されている。即ち、肉厚部76Cと中央突起88Dの外径は略同じに設定される。
【0070】
図4に示したように、このバネ86が、弾性弁76の肉厚部76Cを遮断部90側に付勢することにより、肉厚部76Cが遮断部90に当接する際、遮断部90の遮断突起90Aが肉厚部76Cに1mm程度食い込むようになっている。この状態において、弾性弁76(肉厚部76C)と突端面88Eの隙間は5mm以下、好ましくは3mm以下に設定され、ここでは3mmとなっている。図6に示されるように、弾性弁76の肉厚部76Cと遮断部90が離反し、この肉厚部76Cが変位規制部88側に当接する際、弾性弁76(肉厚部76C)と、遮断部90の遮断突起90Aの突端の隙間は4mm以下、好ましくは2mm以下に設定され、ここでは2mmとなっている。
【0071】
変位規制部88の環状溝88Aの内側には、半径方向に延びる内側スリット88Bが1本形成されている。また、変位規制部88の環状溝88Aの外側にも、半径方向に延びる外側スリット88Cが周方向に90度間隔で4本形成されている。内側スリット88B、及び外側スリット88Cは、弾性弁76の貫通孔76Bから流れ込んだインクMが、この変位規制部88から負圧形成空間82側に流れ出るための流路として機能する。
【0072】
次に、このインク貯蔵容器100の動作について説明する。
【0073】
図1のように、インク貯蔵部10にインクMが溜まっている状態で、特に図示しないインクジェットプリンタにセットされると、インク吐出部30の移動弁33が上方に押し上げられる。なお、この状態では、弁機構70は図4に示した状態となっており、バネ86によって、弾性弁76の肉厚部76Cが遮断部90側に変位して当接され、インク供給空間84と貫通孔76Bが遮断される。この結果、インクMが漏れ出さないようになっている。
【0074】
印刷を行う際には、インクジェットプリンタ側からインク吐出部30に負圧が印加される。この負圧は、インク流出路72を介して負圧形成空間82に印加され、この負圧によって、弾性弁76がバネ86の力に抗して負圧形成空間82側に弾性変形する。この結果、インク供給空間84と貫通孔76Bが連通されるので、負圧形成空間82側の負圧が貫通孔76Bを介してインク供給空間84にも印加される。この負圧によって、インク貯蔵部10内のインクMは、インク吸い込み口74及びインク吸引路78Cを介してインク供給空間84に吸い上げられ、貫通孔76Bに流れ込み、変位規制部88のスリット88B、88Cを経て負圧形成空間82に供給される。このインクMは、インク流出路72からインク吐出部30を経てインクジェットプリンタに吐出される。
【0075】
この過程で、インク貯蔵部10内のインクMの量が減少するので、インクMの上方の空間Sも負圧となる。空気流量制御部20は、内部と外部の間で必要以上の気圧差が生じる場合、弁体22が微少な弾性変形により伸び、これにより微細孔が押し広げられて通気性が惹起し、気圧の高い側から低い側へ空気が流入して空気流量の制御を行う。しかし、所望(定格)の気圧差が生じない場合は、弁体22の弾性変形量が小さいので空気交換が行われない。即ち、この空気流量制御部20の気圧バイアスによって、基本的にインクMの上方の空間Sは負圧に維持される。
【0076】
インクジェットプリンタによる印刷が終了し、インク吐出部30に対する負圧の印加が停止すると、負圧形成空間82の負圧が無くなるので、図4のようにバネ86の付勢力によって弾性弁76が遮断部90側に変位して、インクMの供給が停止される。この際、変位規制部88によって、弾性弁76の変形量が2mmに設定されていることに加えて、空気流量制御部20によって内部空間S側に負圧のバイアスが作用しているので、弁機構70が素早く閉じられるので、インクMの漏れが抑制される。
【0077】
以上、本実施形態のインク貯蔵容器100によれば、弁機構70によってインクの供給経路が機械的に開閉するので、インクジェットプリンタにセットされた状態における未使用時(印刷を行わないとき)のインクの漏れを防止できる。特に、この弁機構70は、弾性弁76の変位量を変位規制部88によって5mm以下、好ましくは3mm以下に制限しているので、開閉の応答性が向上する。特に、開状態から閉状態に移行する際には、その変位量が約4mm以下、好ましくは2mm以下の移動によって弾性弁76と遮断部90が接触するようにしているので、素早く閉じることが出来る。
【0078】
更に、弁機構70の肉厚部76Cがバネ86の内周に嵌り込んでいるので、開閉動作中の肉厚部76Cの安定性が増し、肉厚部76Cの位置ずれが低減する。この結果、肉厚部76Cと遮断部90の当接状態や、肉厚部76Cと変位規制部88の当接状態が良好となり、製品の信頼性を高めることが出来る。
【0079】
また、インクジェットプリンタ側からインク吐出部30に負圧が印加される際、弁機構70を素早く開くためには、バネ86の力を出来る限り弱くすることが好ましい。一方で、インクジェットプリンタによる印字が終了しても、インクジェットプリンタから弁機構70に積極的に正圧が印加される訳ではないため、弁機構70の弾性弁76は時間(例えば1時間程度)をかけながら徐々に閉じていく。この時間を出来る限り短くするには、バネ86の力を強くすることが好ましい。即ち、弁機構70において、素早く開くことと、素早く閉じることは矛盾関係にある。
【0080】
そこで本実施形態では、空気流量制御部20と弁機構70を併用し、バネ86の力を出来る限り弱くすることでこの矛盾を解消している。例えば、弁機構70にセットされたバネ86は、弾性弁76が閉じた状態において、3gf(重量グラム)〜20gf(重量グラム)の弱い力(ここでは5gf)で弾性弁76を付勢する。空気流量制御部20は、インク貯蔵容器100の内圧を、大気圧と比較して微小な負圧状態(−20mmHO)に維持し、それ以上の気圧差が生じる際、時間をかけながら通気性を確保する。従って、印字時にインクジェットプリンタ側からインク吐出部30に負圧が印加されると、バネ86の付勢力が比較的弱いため、弾性弁76が素早く開く。印字中は、弁機構70に負圧が継続して印加され、且つインク量も減少するので、インク貯蔵容器100の内圧が更に低下する。この負圧により、空気流量制御部20の弁体22に通気性が生じ、容器外から大気を取り込むが、これにはある程度の時間が必要となるため、印字中はインク貯蔵容器100の内圧は下がり続けて、例えば−200mmHOの負圧状態まで低下する。
【0081】
インクジェットプリンタによる印字が終了しても、空気流量制御部20が通気抵抗を生じさせるので、インク貯蔵容器100の内圧はしばらくの間−40mmHO近傍に維持される(これを時間差作用と呼ぶ)。従って、バネ86の復元力に加えて、インク貯蔵容器100内の負圧が、弾性弁76を強制的に復帰させようとするので、例えば30分以内で弾性弁76を素早く閉じさせる。弾性弁76が閉じた後も、空気流量制御部20のバイアス作用によって内圧が−20mmHOに維持されるので、環境変化や振動等が生じても、弾性弁76が想定外に開いてしまうことを防止できる。
【0082】
以上の結果、空気流量制御部20と弁機構70の相乗効果によって、開閉動作の双方の応答性をより高めることが可能となる。
【0083】
また、このように空気流量制御部20と弁機構70を併用することで、仮に一方の機能が失われても、インク漏れを抑制することが可能となる。例えば、何らかの理由で弾性弁76が閉じなくなっても、空気流量制御部20が容器内を負圧に維持できるので、インクが漏れにくい。同様に、空気流量制御部20の弁体22が損傷して、インク貯蔵容器100の内部が常に大気圧となってしまっても、弁機構70が存在するのでインクが漏れにくい。
【0084】
また、インク貯蔵容器100は、弁構造70の変位規制部88内にスリット88A(インク用流路)が形成されるので、弾性弁76の変位量を規制しながらも、貫通孔76Bを利用したインクの供給を円滑に行うことが出来る。また、貫通孔76Bの内径を1mm以下に設定しつつ、その周囲を肉厚部76Cで囲っているので、弾性弁76の貫通孔76C近辺の剛性が部分的に増し、変形量を小さくすることがでkる。この結果、遮断部90や変位規制部88と当接する際の密着精度が増大する。更に、この遮断部90における遮断突起90Aの直径と比較して、バネ86の内径が同等またはそれ以上に設定されるので、バネ86が弾性弁76を押し広げるようにして付勢して、遮断突起90Aとの密着性を高めることが出来る。
【0085】
なお、本実施形態では、シリンダ34を介してインクMを供給する構造としたが、本発明はこれに限定されず、例えば、シリンダ34とは別の部位からインクMを供給するようにしても良い。
【0086】
以上、本発明を実施形態により詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も本発明の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、インク貯蔵容器、特にインクジェットプリンタ用のインクカートリッジとして利用できる。
【符号の説明】
【0088】
10 インク貯蔵部
11 本体部
12 上面部
13 インク貯蔵部の内部
20 空気流量制御部
22 弁体
24 撥水膜体
30 インク吐出部
33 移動弁
34 シリンダ
70 弁機構
72 インク流出路
74 インク吸い込み口
76 弾性弁
82 負圧形成空間
84 インク供給空間
86 バネ
88 変位規制部
90 遮断部
100 インク貯蔵容器
M インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク貯蔵容器内に配置されてインク貯蔵部とインク吐出部の間に配置される弁機構であって、
弾性変形可能な膜状に構成され、且つ貫通する貫通孔を備える弾性弁と、
前記弾性弁の下流側に配置され、前記吐出口と連通される負圧形成空間と、
前記弾性弁の上流側に配置され、前記インク貯蔵部と連通されることで前記弾性弁側にインクを供給するインク供給空間と、
前記インク供給空間側に配置されて前記弾性弁と当接し、前記インク供給空間と前記貫通孔の間を遮断する遮断部と、
前記負圧形成空間側に配置されて、前記弾性弁を前記インク供給空間側に付勢して前記遮断部と前記弾性弁を当接させるバネと、を備え、
前記負圧形成空間に印加される負圧により、前記バネの付勢に抗して前記弾性弁が下流側に変位して、前記遮断部と前記弾性弁が離反し、前記インク供給空間から前記貫通孔を介して前記負圧形成空間にインクが流れることを特徴とする弁機構。
【請求項2】
前記負圧形成空間には、前記弾性弁が下流側に変位する際に前記貫通孔の近傍と当接して、前記弾性弁の変位量を制限する変位規制部を備えることを特徴とする請求項1に記載の弁機構。
【請求項3】
前記変位規制部内には、前記弾性弁と当接した状態で前記貫通孔と前記負圧形成空間を連通させるスリットが形成されることを特徴とする請求項2に記載の弁機構。
【請求項4】
前記変位規制部によって、前記バネの一端が保持されることを特徴とする請求項2又は3に記載の弁機構。
【請求項5】
前記変位規制部は、前記バネの内側に嵌り込んで前記バネを一端を保持する円形突起を有していることを特徴とする請求項4に記載の弁機構。
【請求項6】
前記弾性弁が前記バネに付勢されて前記遮断部と当接した状態で、前記変位規制部と前記弾性弁の間の隙間が3mm以下に設定されることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の弁機構。
【請求項7】
前記弾性弁が前記バネに抗して前記変位規制部と当接した状態で、前記遮断部と前記弾性弁の間の隙間が2mm以下に設定されることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の弁機構。
【請求項8】
前記貫通孔の内径は1.5mm以下に設定されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の弁機構。
【請求項9】
前記弾性弁には、前記貫通孔の外周を囲う環状の肉厚部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の弁機構。
【請求項10】
前記肉厚部は、前記バネの内側に嵌り込んで前記バネの他端を保持することを特徴とする請求項9に記載の弁機構。
【請求項11】
前記肉厚部の最大外径は2mm以上に設定されることを特徴とする請求項9又は10に記載の弁機構。
【請求項12】
前記遮断部は、前記弾性弁の前記貫通孔の外周近傍を囲む環状の遮断突起が形成され、
前記バネの内径は、前記遮断突起の外径と同等又は大きく設定されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の弁機構。
【請求項13】
前記インク供給空間は、前記インク貯蔵部の底面に対向した状態で近接配置されるインク吸い込み口を有することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の弁機構。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかに記載の弁機構と、
前記インク貯蔵部の上方側に設けられて内外間の空気流量を制御する空気流量制御部と、を備えることを特徴とするインク貯蔵容器。
【請求項15】
前記空気流量制御部は、
通常時は空気を流通させないが、前記インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で空気交換を行わせる弾性変形可能な連通多孔質の弁体と、
前記弁体よりも前記インク貯蔵部側に配設されて通気性を有しかつ撥水処理を施された撥液膜体と、を備えることを特徴とする請求項14に記載のインク貯蔵容器。
【請求項16】
前記インク貯蔵部の下方側に設けられる前記インク吐出部に、外部部材からの付勢によって上下動する移動弁を備え、該移動弁の上下動によって前記インクの吐出・停止を切り替えるようになっていることを特徴とする請求項14又は15に記載のインク貯蔵容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−224917(P2011−224917A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98403(P2010−98403)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(503401614)ジット株式会社 (15)
【Fターム(参考)】