説明

弁装置の弁棒診断装置及び方法

【課題】弁装置の弁棒に生じた折損に至る欠陥を、折損前に迅速且つ有効に検出できること。
【解決手段】先端に弁体15が設けられた弁棒16を軸方向に駆動して、弁体に開閉動作を行なわせる電動弁の弁棒16の側面36に設置され、電磁力により超音波(横波のSH波23A)を弁棒16に励起して伝播させると共に、弁棒16に生じた欠陥41から反射する超音波を反射波として検出可能な電磁超音波探触子(横波EMAT探触子23)と、この横波EMAT探触子23に超音波を励起させるための高周波電流を供給する高周波電源29と、横波EMAT探触子23を構成する高周波コイル40に生じた電位差に基づき、横波EMAT探触子23が超音波を励起してから反射波を検出するまでの時間差を用いて、弁棒16における欠陥41の状態を演算処理する処理部35と、を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁力により弁棒に超音波を励起して、この弁棒に生じた欠陥を検出する電磁超音波探触子を備えた弁装置の弁棒診断装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力及び火力発電プラント等の配管に設置される電動弁や空気作動弁等の弁装置における弁棒の超音波診断は、弁装置を分解することなく実施できることから、弁棒折損によるプラントの計画外停止を事前に回避し、弁棒による故障を予防してプラント稼動率を改善することができる。特に、プラントの計画外停止及びプラント再起動に多くの時間と費用を要する原子力発電プラントでは、大きな経済的効果を奏する。
【0003】
また近年、発電設備やエネルギー伝送ライン等の社会インフラの経年劣化が大きな問題になっている。劣化による損傷が一旦発生すると、経済的・社会的損失が大きく、特に1960年代から1970年代の高度成長期に建設されたプラントの主要部品の多くは、40年近い劣化と損傷が進んでいることが想定される。このことから、近年圧電セラミックを用いた接触式超音波探触子による欠陥診断が各種プラントで広く適用されており、この欠陥診断は、経年プラントの稼働率向上を目指すプラント運用の要になりつつある。
【0004】
超音波診断の特徴は、検査対象物に接触する圧電セラミックもしくは高分子の圧電素子により超音波を励起して伝播し、欠陥部分からの反射波を接触式超音波探触子により受信して検出し、欠陥の有無を診断する。しかし、現場においては、超音波の伝播に必要な種々の形状や寸法の探触子や、この接触子を接着させるための接着治具が必要であり、更に超音波伝播のS/N比を確保するためのカプラント(接触媒体)が必要になるため、これらの選定に多くの工数と時間を要し、このためコストが上昇して、プラントの運用面から改善が求められている。
【0005】
ところで、運転中のプラントにおける電動弁等の弁装置を診断することにより、プラントの計画外停止を予防し稼働率を改善する技術が特許文献1及び2に記載されており、産業界では一部実施されているものがある。これら両特許は、電動弁駆動時のモータの駆動トルクや駆動電流・電圧を検出して、弁駆動の健全性から弁装置を診断するもの等である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−502824号公報
【特許文献2】特開2005−308540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献1及び2に記載の診断技術は、弁棒駆動系の劣化は検出できても、弁棒折損事象を直接検出するものではないため、初期に発生したき裂等の欠陥が運転期間中に序々に進展して疲労折損に至る弁棒の故障を、弁棒折損前に有効に検出することは不可能である。
【0008】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、弁装置の弁棒に生じた折損に至る欠陥を、折損前に迅速且つ有効に検出できる弁装置の弁棒診断装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る弁装置の弁棒診断装置は、先端に弁体が設けられた弁棒を軸方向に駆動して、前記弁体に開閉動作を行わせる弁装置の前記弁棒の表面に設置され、電磁力により超音波を前記弁棒に励起して伝播させると共に、前記弁棒に生じた欠陥から反射する超音波を反射波として検出可能な電磁超音波探触子と、この電磁超音波探触子に超音波を励起させるための高周波電流を供給する高周波電源と、前記電磁超音波探触子を構成する高周波コイルに生じた電位差に基づき、前記電磁超音波探触子が超音波を励起してから反射波を検出するまでの時間差を用いて、前記弁棒における前記欠陥の状態を演算処理する処理部と、を有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る弁装置の弁棒診断方法は、先端に弁体が設けられた弁棒を軸方向に駆動して、前記弁体に開閉動作を行わせる弁装置の前記弁棒の表面に電磁超音波探触子を設置して、電磁力により前記弁棒に超音波を励起させて伝播させ、前記弁棒に生じた欠陥から反射する超音波を反射波として検出し、前記電磁超音波探触子が超音波を励起してから反射波を検出するまでの時間差を用いて、前記弁棒における前記欠陥の状態を演算することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、弁装置の弁棒に生じた折損に至る欠陥を、電磁超音波探触子を用いて検出するので、弁棒の折損前に、この欠陥を迅速且つ有効に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る弁装置の弁棒診断装置における一実施の形態が適用される弁装置としての電動弁を、横波電磁超音波探触子及び縦波電磁超音波探触子と共に示す斜視図。
【図2】図1の横波電磁超音波探触子を用いた弁棒診断装置を示す構成斜視図。
【図3】図1の縦波電磁超音波探触子を用いた弁棒診断装置を示す構成斜視図。
【図4】図2及び図3の弁棒診断装置の構成を更に詳細に示す模式図。
【図5】図2の横波電磁超音波探触子を用いた弁棒診断装置にて検出された反射波を表す電位差を示すグラフ。
【図6】図3の縦波電磁超音波探触子を用いた弁棒診断装置にて検出された反射波を表す電位差を示すグラフ。
【図7】図2の弁棒診断装置が、弁体と一体化された弁棒に適用された場合の一部を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る弁装置の弁棒診断装置における一実施の形態が適用される弁装置としての電動弁を、横波電磁超音波探触子及び縦波電磁超音波探触子と共に示す斜視図である。この図1に示す弁装置としての電動弁10は、弁体収納部11、弁体駆動部12、駆動量制御機構部13及びヨーク14を有して構成される。
【0015】
弁体収納部11は、図示しない配管に接続される。この弁体収納部11には、弁棒16の先端に設けられた弁体15が、弁体収納部11の流路を開閉し得るように収納されている。また、弁体駆動部12は、モータ17の回転駆動力をギア部18により減速して弁棒16へ伝達し、この弁棒16を軸方向に昇降駆動して弁体15に開閉動作を行なわせ、弁体収納部11内を流れる流体の流量を制御する。
【0016】
駆動量制御機構部13は、リミットスイッチ19及びトルクスイッチ20を備える。リミットスイッチ19は、弁棒16の回転量からこの弁棒16の昇降駆動量(軸方向ストローク)を検出して、弁体15の開度を検知する。トルクスイッチ20は、ギア部18の図示しないウォームギアに作用するトルクを検出して、弁体15の全開位置または全閉位置を検知する。このようにしてリミットスイッチ19及びトルクスイッチ20が弁体15の位置を検知することで、駆動量制御機構部13は、弁棒16の昇降駆動量を制御して、弁体15の開閉動作を制御する。
【0017】
ヨーク14は、弁体収納部11と弁体駆動部12とを連結するものである。このヨーク14には開口21が形成され、これにより弁棒16の一部が外部に露出して、弁棒16に外部露出部22が生ずる。
【0018】
弁棒16には、前記の如く、モータ17の回転駆動力が、ギア部18により減速され増大して繰り返し作用することから、この弁棒16に疲労欠陥が発生し、最終的にき裂が進展して弁棒16が折損する事態を引き起こす場合がある。本実施の形態の弁棒診断装置は、この弁棒16に生じた欠陥を、弁棒16の折損前に迅速かつ有効に検出するものであり、横波電磁超音波探触子(以下、横波EMAT探触子と称する)23を用いた弁棒診断装置24(図2)と、縦波電磁超音波探触子(以下、縦波EMAT探触子と称する)25を用いた弁棒診断装置26(図3)とを有する。
【0019】
弁棒診断装置24は、図2及び図4に示すように、横波マット探触子23のほかに、高周波発生部27及び送信アンプ28を備えた高周波電源29と、電位差計30と、バンドパスフィルタ31、プリアンプ32、AD変換器33及びデータ処理システム34を備えた処理部35と、を有して構成される。また、前記弁棒診断装置26は、縦波EMAT探触子25のほか、弁棒診断装置24と同様に、高周波電源29、電位差計30及び処理部35を有して構成される。
【0020】
横波EMAT探触子23は、図2に示すように、弁棒16の表面である側面36の外部露出部22に設置され、この側面36に垂直な方向の定常磁場37を生じさせる永久磁石38と、この永久磁石38の外周に巻き付けられ、高周波電源29から供給されるパルス変調された高周波電流によって、弁棒16の側面36に定常磁場37に直交し高周波振動する渦電流39を発生する高周波コイル40と、を有してなる。
【0021】
尚、弁棒16がクロム系鋼またはマルテンサイト系ステンレス鋼の場合には、横波EMAT探触子23は、永久磁石38の磁力によって弁棒16の側面36に磁着される。それ以外の場合には、横波EMAT探触子23は、図示しない取付バンドや、柔軟で形状追従性に富む接着治具(例えばソフトシュー)を用いて弁棒16の側面36に取り付けられる。
【0022】
定常磁場37と渦電流39とが直交するため、これらによって弁棒16の側面36に、周期的に振動する電磁力(ローレンツ力)が発生し、この電磁力により弁棒16の側面36にパルス状の超音波である横波のSH波23Aが励起され、このSH波23Aが弁棒16の軸方向に伝播する。ここで、SH波23Aは、横波のうち弁棒16の表面に沿って水平方向に振動する波である。
【0023】
このパルス状の横波のSH波13Aは、弁棒16に生じた欠陥41により反射してパルス状の反射波になり、伝播ルートを戻る。この反射波は、横波EMAT探触子23の永久磁石38及び高周波コイル40を振動させ、電磁誘導の作用で高周波コイル40に電位差を発生させることで検出される。この電位差が電位差計30により計測される。前記欠陥41は、通常弁棒16の半径方向に延び、その長さ寸法は数百μm以上である。
【0024】
縦波EMAT探触子25は、図3に示すように、弁棒16の表面である頂面42に設置され、この頂面42に平行な定常磁場43を生じさせる一対の永久磁石44と、これら一対の永久磁石44間に配置されて、高周波電源29から供給されるパルス変調された高周波電流によって、弁棒16の頂面42に、定常磁場43に直交し高周波振動する渦電流45を発生する高周波コイル46と、を有してなる。
【0025】
尚、この縦波EMAT探触子25も、弁棒16がクロム系鋼またはマルテンサイト系ステンレス鋼の場合に、永久磁石44の磁力により弁棒16の頂面42に磁着される。それ以外の場合には、縦波EMAT探触子25は、図示しない取付バンドや、柔軟で形状追従性に富む接着治具(例えばソフトシュー)を用いて弁棒16の頂面42に取り付けられる。
【0026】
定常磁場43と渦電流45とが直交するため、これらによって弁棒46の頂面42に、周期的に振動する電磁力(ローレンツ力)が発生し、この電磁力により弁棒16の頂面42にパルス状の超音波である縦波25Aが励起される。この縦波25Aは、弁棒16の頂面42から、弁棒16の内部及び側面36を、弁棒16の軸方向に伝播する。このパルス状の縦波25Aは、弁棒16に生じた欠陥41により反射してパルス状の反射波となり、伝播ルートを戻る。この反射波は、縦波EMAT探触子25の永久磁石44及び高周波コイル46を振動させ、電磁誘導の作用で高周波コイル46に電位差を発生させることで検出され、この電位差が電位差計30により計測される。
【0027】
本実施の形態では横波EMAT探触子23及び縦波EMAT探触子25は、超音波を励起する機能と、反射波を検出する機能とを備えたものを述べたが、超音波励起用の横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25と、反射波検出用の横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25とを別々に設けてもよい。
【0028】
前記高周波電源29は、図2、図3及び図4に示すように、横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25にパルス状の超音波を励起させるために、これらの横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25にパルス変調された高周波電流を供給するものである。具体的には、高周波発生部27からパルス変調された高周波電流を出力し、この高周波電流を送信アンプ28にて増幅して横波EMAT探触子23の高周波コイル40、縦波EMAT探触子25の高周波コイル46へ供給する。この高周波電流により、横波EMAT探触子23の高周波コイル40が弁棒16の側面36に、また、縦波EMAT探触子25の高周波コイル46が弁棒16の頂面42に、それぞれ高周波振動する渦電流を発生させる。
【0029】
前記処理部35は、横波EMAT探触子23の高周波コイル40、縦波EMAT探触子25の高周波コイル46に生じた電位差に基づき、横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25がそれぞれパルス状の超音波(横波EMAT探触子23の場合には横波のSH波23A、縦波EMAT探触子25の場合には縦波25A)を励起してからパルス状の反射波を検出するまでの時間差を用いて、弁棒16における欠陥41の状態(位置及び面積(長さ×深さ))を演算処理して特定する。
【0030】
つまり、電位差計30から出力される電位差のノイズ成分をバンドパスフィルタ31にて除去し、プリアンプ32にて電位を増幅し、AD変換器33にて電位差をデジタル信号に変換する。データ処理システム34は、AD変換器33からの電位差信号に基づき、横波EMAT探触子23によりパルス状の横波のSH波23Aが励起されてから反射波が検出されるまでの時間差を用いて、また、縦波EMAT探触子25によりパルス状の縦波25Aが励起されてからその反射波が検出されるまでの時間差を用いて、欠陥41の位置を演算し特定する。更にデータ処理システム34は、反射波(特に縦波25Aの反射波)の電位差が欠陥41の面積に比例することから、反射波(特に縦波25Aの反射波)の電位差から欠陥41の面積(長さ×深さ)を演算し特定する。
【0031】
ところで、横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25が弁棒16に励起する超音波の周波数、波長は、高周波電源29から横波EMAT探触子23の高周波コイル40、縦波EMAT探触子25の高周波コイル46へ供給される高周波電流の周波数、波長にそれぞれ依存する。
【0032】
そこで、高周波電源29は、横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25へ供給して超音波(横波のSH波23A、縦波25A)を励起させる高周波電流の波長を、弁棒16の直径寸法(例えば10mm〜100mm)と同等またはその数分の一程度として、弁棒16に励起される超音波が、弁棒16に対して波長減衰が少なく伝播性の良好なガイド波として挙動するようにする。
【0033】
更に、高周波電源29は、横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25へ供給して超音波(横波のSH波23A、縦波25A)を励起させる高周波電流の波長を、弁棒16に生じた長さ寸法が数百μm以上の欠陥41からは超音波を反射させるが、弁棒16の側面36に数mmピッチで加工されているねじ47からは超音波の反射を抑制する値とする。
【0034】
具体的には、高周波電源29は、横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25へ供給して超音波(横波のSH波23A、縦波25A)を励起させる高周波電流の周波数を、弁棒16の直径が10mm〜100mmであるときに、100kHz〜500kHzの範囲の値とする。この周波数範囲の高周波電流により弁棒16に励起される超音波(横波のSH波23A、縦波25A)は、上記直径の弁棒16に対してガイド波として挙動し、波長減衰が少なく弁棒16及び弁体15の略全長に亘って伝播する良好な伝播性を有すると共に、長さ寸法が数百μm以上の欠陥41から反射波を生じさせ、弁棒16の側面36に加工された数mmピッチのねじ47からは反射波を抑制して、高S/N比を実現する。
【0035】
図5は、横波EMAT探触子23にて検出され処理部35のデータ処理システム34へ出力される超音波(横波のSH波23A)の反射波を表す電位差を、前記横波EMAT探触子23が超音波を励起した時点を基準とする時間軸を用いて示すグラフである。横波EMAT探触子23は、例えば弁棒16の側面36に超音波(横波のSH波23A)を励起してから、110μ秒後に欠陥41からの反射波を、210μ秒後に弁棒16と弁体15の接続部48からの反射波を、220〜240μ秒後に弁体13の先端面49の内部を迂回してきた反射波を、それぞれ検出している。
【0036】
直径数10mmの弁棒16の側面36を伝播する横波のSH波23Aが3000m/秒の伝播速度であることから、処理部35のデータ処理システム34は下記計算により、横波EMAT探触子23から欠陥41までの距離Lを算出する。
[数1]
L=V×t/2=3000m×110×10−6÷2=0.165m
ここで、V:横波のSH波23Aの伝播速度
t:超音波(横波のSH波23A)の励起から反射波検出までの時間差
【0037】
上記計算によれば、弁棒16の側面36において、横波EMAT探触子23から0.165m、つまり16.5cmの距離(位置)に欠陥41が存在することが分かる。横波のSH波23Aは、一般的に、縦波25Aで発生する弁体15内部でのバックエコー(図6参照)が少ないことから、欠陥41の位置を高S/N比で特定することができる。
【0038】
ここで、弁棒16と弁体15の接続部48と横波EMAT探触子23との距離、弁体15の先端面49と横波EMAT探触子23との距離がそれぞれ既知であることから、図5において、弁棒16と弁体15の接続部48からの反射波、弁体15の先端面49の内部を迂回した反射波は、共に、欠陥41からの反射波と区別して認識される。
【0039】
図6は、縦波EMAT探触子25にて検出され処理部35のデータ処理システム34へ出力される超音波(縦波25A)の反射波を表す電位差を、前記縦波EMAT探触子25が超音波を励起した時点を基準とする時間軸を用いて示すグラフである。縦波EMAT探触子25は、例えば弁棒16の頂面42に超音波(縦波25A)を励起してから、80μ秒後に欠陥41からの反射波を、130μ秒後に弁棒16と弁体15の接続部からの反射波を、140〜180μ秒後に弁体15の先端面49にて反射した反射波を、それぞれ検出している。
【0040】
直径数10mmの弁棒16の内部及び側面36を伝播する縦波25Aが5000m/秒の伝播速度であることから、処理部35のデータ処理システム34は下記計算により、縦波EMAT探触子25から欠陥41までの距離Lを算出する。
[数2]
L=V×t/2=5000m×80×10−6÷2=0.200m
ここで、V:縦波25Aの伝播速度
t:超音波(縦波25A)の励起から反射波検出までの時間差
【0041】
上記計算によれば、弁棒16の側面36において、縦波EMAT探触子25から0.200m、つまり20.0cmの距離(位置)に欠陥41があることが分かる。この欠陥位置は、縦波EMAT探触子25と横波EMAT探触子23の設置位置の若干の違いを考慮すると、上述の横波のSH波23Aによる欠陥41の計測位置と略一致する。
【0042】
縦波25Aは、一般的に、弁体15の内部でのバックエコーが強く数回反射することから、このバックエコーの処理が煩雑になるが、欠陥41の面積(長さ×深さ)が、欠陥41からの反射波の電位差(パルス高さ)に比例することから、処理部35のデータ処理システム34は、特に縦波25Aの反射波を用いて、欠陥41の位置と面積を特定することができる。
【0043】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(4)を奏する。
【0044】
(1)電動弁10における弁棒16の表面、つまり弁棒16の側面36、頂面42に横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25をそれぞれ設置し、この弁棒16に生じた折損に至る欠陥41を、前記横波EMAT探触子23及び縦波EMAT探触子25を用いて直接検出するので、弁棒16の折損前に、前記欠陥41を迅速かつ有効に検出できる。
【0045】
(2)電動弁10を分解することなく、弁棒16の側面36の外部露出部22に横波EMAT探触子23を、また、弁棒16の外部に露出する頂面42に縦波EMAT探触子25をそれぞれ設置して、この弁棒16に生じた欠陥41を検出するので、電動弁10を分解する必要がない。このため、電動弁10の分解及び組立工程を削除できると共に、これらの分解または組立時に不具合が発生する事態を未然に回避できる。
【0046】
(3)圧電素子を具備する従来の接触式超音波探触子を用いて電動弁10の弁棒16における欠陥41を検出する場合には、弁棒16の直径に対応する探触子や接着治具(例えばシュー)を、異なる直径の弁棒16毎に用意しなければならず、更に、超音波の伝播性を向上させるための接触媒体(例えばグリースなどの液体)を用意しなければならない。
【0047】
これに対し、本実施の形態では、永久磁石38、44と高周波コイル40、46を具備し、電磁力により弁棒16の表面に超音波を非接触で励起させ、また弁棒16に生じた欠陥41からの反射波を弁棒16に対して非接触で検出する電磁超音波探触子(横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25)を用いて、前記欠陥41を検出している。このため、前記接触媒体が不要となり、弁棒16の直径に応じた電磁超音波探触子(横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25)や接着治具を複数用意する必要もない。更に、弁棒16の表面にねじ47が加工されている場合にも、弁棒16の表面形状に影響されることなく、電磁超音波探触子(横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25)にて超音波を励起し、反射波を検出することができる。
【0048】
(4)横波EMAT探触子23、縦波EMAT探触子25にて弁棒16の表面に励起される超音波(横波のSH波23A、縦波25A)の周波数は、弁棒16の直径が10mm〜100mmであるときに、100kHz〜500kHzの範囲の値に設定される。このため、この超音波(横波のSH波23A、縦波25A)は、波長が弁棒16の直径と同等または数分の一程度となるので、この直径の弁棒16に対してガイド波となり、波長減衰が少なく弁棒16及び弁体15の略全長に亘って伝播する良好な伝播性を有する。更に、この周波数範囲の超音波(横波のSH波23A、縦波25A)は、長さ寸法が数百μm以上の欠陥41から反射波を生じさせ、弁棒16の側面36に加工された数mmピッチのねじ47からは反射波を抑制できるので、高S/N比を実現できる。
【0049】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上述の実施の形態では、先端に弁体15が接続された構造の弁棒16に対して、横波EMAT探触子23を備えた弁棒診断装置24、縦波EMAT探触子25を備えた弁棒診断装置26を適用した場合を述べたが、弁棒16と弁体15が鍛造により一体成形され、弁棒16が弁体15に向かって徐々に扁平し、弁体15が例えば楕円形状を有するものに対しても、前記弁棒診断装置24、26を適用できる。特に、弁棒診断装置24の横波EMAT探触子23を弁棒16の側面36に設置して、この側面36に超音波(横波のSH波23A)を励起させる場合には、この横波のSH波23Aが弁棒16から弁体15へ伝播することで、弁棒16及び弁体15の表面に生じた欠陥41を確実に検出することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 電動弁(弁装置)
15 弁体
16 弁棒
23 横波EMAT探触子(横波電磁超音波探触子)
23A 横波のSH波
24 弁棒診断装置
25 縦波EMAT探触子(縦波電磁超音波探触子)
25A 縦波
26 弁棒診断装置
29 高周波電源
30 電位差計
35 処理部
36 側面(表面)
38 永久磁石
40 高周波コイル
41 欠陥
42 頂面(表面)
44 永久磁石
46 高周波コイル
47 ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に弁体が設けられた弁棒を軸方向に駆動して、前記弁体に開閉動作を行わせる弁装置の前記弁棒の表面に設置され、電磁力により超音波を前記弁棒に励起して伝播させると共に、前記弁棒に生じた欠陥から反射する超音波を反射波として検出可能な電磁超音波探触子と、
この電磁超音波探触子に超音波を励起させるための高周波電流を供給する高周波電源と、
前記電磁超音波探触子を構成する高周波コイルに生じた電位差に基づき、前記電磁超音波探触子が超音波を励起してから反射波を検出するまでの時間差を用いて、前記弁棒における前記欠陥の状態を演算処理する処理部と、を有することを特徴とする弁装置の弁棒診断装置。
【請求項2】
前記電磁超音波探触子は、弁棒の側面に設置され、前記弁棒の表面を伝播する超音波としての横波のSH波を励起し検出する横波電磁超音波探触子であることを特徴とする請求項1に記載の弁装置の弁棒診断装置。
【請求項3】
前記電磁超音波探触子は、弁棒の端面に設置され、前記弁棒の内部及び表面を伝播する超音波としての縦波を励起し検出する縦波電磁超音波探触子であることを特徴とする請求項1に記載の弁装置の弁棒診断装置。
【請求項4】
前記高周波電源が電磁超音波探触子へ供給して超音波を励磁させる高周波電流は、弁棒の直径寸法と同等または数分の一程度の波長の電流であることを特徴とする請求項1に記載の弁装置の弁棒診断装置。
【請求項5】
前記高周波電源が電磁超音波探触子へ供給して超音波を励磁させる高周波電流は、弁棒に生じた欠陥からは超音波を反射させるが、弁棒の表面に加工されたねじからは超音波の反射を抑制する波長の電流であることを特徴とする請求項1に記載の弁装置の弁棒診断装置。
【請求項6】
前記高周波電源が電磁超音波探触子へ供給して超音波を励磁させる高周波電流は、弁棒の直径が10mm〜100mmであるとき、100KHz〜500KHzの周波数の電流であることを特徴とする請求項1に記載の弁装置の弁棒診断装置。
【請求項7】
前記電磁超音波探触子は、この電磁超音波探触子を構成する永久磁石による磁力、取付バンド、または柔軟で形状追従性を有する接着治具を用いて、弁棒の表面に設置されることを特徴とする請求項1に記載の弁装置の弁棒診断装置。
【請求項8】
先端に弁体が設けられた弁棒を軸方向に駆動して、前記弁体に開閉動作を行わせる弁装置の前記弁棒の表面に電磁超音波探触子を設置して、電磁力により前記弁棒に超音波を励起させて伝播させ、前記弁棒に生じた欠陥から反射する超音波を反射波として検出し、
前記電磁超音波探触子が超音波を励起してから反射波を検出するまでの時間差を用いて、前記弁棒における前記欠陥の状態を演算することを特徴とする弁装置の弁棒診断方法。
【請求項9】
前記電磁超音波探触子が励起する超音波の周波数は、弁棒の直径が10mm〜100mmであるとき、100KHz〜500KHzであることを特徴とする請求項8に記載の弁装置の弁棒診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−237035(P2010−237035A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85262(P2009−85262)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】