説明

引抜ダイスおよびそれを用いた金属管の製造方法

【課題】メンテナンスの際の交換作業の作業性に優れ、交換作業を短時間で行うことが可能な引抜ダイスおよびそれを用いた金属管の製造方法を提供する。
【解決手段】金属管の引抜加工に用いられる引抜ダイス1であって、アルミニウム合金からなるダイスホルダー2と、ダイスホルダー2の内部に収納され、金属管を挿入して引抜加工する引抜孔3aを有する超硬合金からなるニブ3と、引抜孔3aの管挿入側および管引抜側で、ニブ3と当接する工具鋼からなるニブ押え4と、ニブ押え4をダイスホルダー2に着脱自在に固定する固定手段5とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管の引抜加工に用いられる引抜ダイスおよびそれを用いた金属管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム管またはアルミニウム合金管(以下、アルミニウム合金管と称す)等の金属管の引抜加工に用いられる引抜ダイスには、以下のような構成のものが提案されている。例えば、特許文献1には、中心に加工孔を有するニブ(文献ではダイス)をダイスホルダー(文献ではダイスケース)内に固定した引抜ダイス(文献では引抜き加工装置)が記載されている。また、特許文献2には、ニブ(文献ではチップ)をダイスホルダー(文献ではケース)内に固定する際、ケース内面に対応する外面を有し、かつ、チップ外面に対応する内面を有した溝付きのコレットを介して固定した引抜ダイスが記載されている。そして、引抜加工された金属管には寸法精度が要求されるために、前記ニブは超硬合金で構成され、前記ダイスホルダーは鋼で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−195115号公報(請求項1、図1)
【特許文献2】特開平9− 57331号公報(請求項1、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の引抜ダイスは、ニブをダイスホルダー内に固定する際、引抜加工後の金属管の寸法精度を持続させるために、熱嵌方式または圧入方式が用いられている。そのため、ニブをダイスホルダー内にいったん固定すると、ニブをダイスホルダーから取り外すことが困難なものである。それにより、特許文献1の引抜ダイスでは、メンテナンスの際には、ニブのみを交換することができず、引抜ダイス全体を交換する必要がある。したがって、特許文献1の引抜ダイスでは、引抜ダイス全体の重量は10kg程度と重いため、交換作業の作業性が悪く、交換作業に長時間を要するという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するために、特許文献2の引抜ダイスでは、溝付きのコレットを使用している。そのため、特許文献2の引抜ダイスでは、メンテナンスの際にはニブのみを交換することが可能になるが、ニブはコレットを介してダイスホルダー内に固定されているものの、基本的には引抜加工後の金属管の寸法精度を持続させるために、圧入方式で固定されている。そのため、ニブの取り外しには大きな力が必要で長時間を要する。したがって、特許文献2の引抜ダイスでは、特許文献1の引抜ダイスと同様に、ニブの交換作業の作業性が悪く、交換作業に長時間を要するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その目的は、引抜加工後の金属管の寸法精度を持続させると共に、メンテナンスの際の交換作業の作業性に優れ、交換作業を短時間で行うことが可能な引抜ダイスおよびそれを用いた金属管の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る引抜ダイスは、金属管の引抜加工に用いられる引抜ダイスであって、アルミニウム合金からなるダイスホルダーと、前記ダイスホルダーの内部に収納され、前記金属管を挿入して引抜加工する引抜孔を有する超硬合金からなるニブと、前記引抜孔の管挿入側および管引抜側で、前記ニブと当接する工具鋼からなるニブ押えと、前記ニブ押えを前記ダイスホルダーに着脱自在に固定する固定手段とを備えることを特徴とする。また、本発明に係る引抜ダイスは、前記固定手段がネジであることを特徴とする。
【0008】
前記構成によれば、引抜孔の管挿入側および管引抜側でニブと当接するニブ押えを備え、そのニブ押えをダイスホルダーに着脱自在に固定する固定手段を備えることによって、ニブがダイスホルダー内に収納固定され、引抜加工の際にニブが引抜方向に抜け出ることがない。そして、引抜ダイスのメンテナンスの際には、固定手段を外すことによって、ニブをダイスホルダー内から容易に取り外すことができ、ニブのみの交換が可能となる。その結果、引抜加工後の金属管の寸法精度が持続すると共に、メンテナンスの際の交換作業性が向上し、作業時間が短縮される。また、ダイスホルダーがアルミニウム合金から構成されていることによって、引抜ダイス全体の重量を軽量化することができるため、メンテナンスの際の引抜ダイスの取り扱いが容易となり、作業性が向上する。
【0009】
また、本発明に係る引抜ダイスは、金属管の引抜加工に用いられる引抜ダイスであって、アルミニウム合金からなるダイスホルダーと、前記ダイスホルダーの管挿入側の第1ダイスホルダー部の内部に収納され前記金属管を挿入して引抜加工する第1引抜孔を有する超硬合金からなる第1ニブと、前記第1引抜孔の管挿入側で前記第1ニブと当接する工具鋼からなる第1ニブ押えと、前記第1ニブ押えを前記第1ダイスホルダー部に着脱自在に固定する第1固定手段と、前記ダイスホルダーの管引抜側の第2ダイスホルダー部の内部に収納され前記第1引抜孔と連通して前記金属管を引抜加工する第2引抜孔を有する超硬合金からなる第2ニブと、前記第2引抜孔の管引抜側で前記第2ニブと当接する工具鋼からなる第2ニブ押えと、前記第2ニブ押えを前記第2ダイスホルダー部に着脱自在に固定する第2固定手段とを備えることを特徴とする。また、本発明に係る引抜ダイスは、前記第1ニブと前記第2ニブとの間に配置されたアルミニウム合金からなるスペーサーをさらに備えることを特徴とする。さらに、本発明に係る引抜ダイスは、前記第1固定手段および第2固定手段がネジであることを特徴とする。
【0010】
前記構成によれば、第1ニブ押えおよび第2ニブ押えによって、第1ニブおよび第2ニブがダイスホルダー内に収納固定され、引抜加工の際に第1ニブおよび第2ニブが引抜方向に抜け出ることがない。そして、引抜ダイスのメンテナンスの際には、第1固定手段および第2固定手段を外すことによって、第1ニブおよび第2ニブをダイスホルダー内から容易に取り外すことができ、第1ニブおよび第2ニブのみの交換が可能となる。その結果、引抜加工後の金属管の寸法精度が持続すると共に、メンテナンスの際の交換作業性が向上し、作業時間が短縮される。
また、ダイスホルダーおよびスペーサーがアルミニウム合金から構成されていることによって、引抜ダイス全体の重量を軽量化することができるため、メンテナンスの際の引抜ダイスの取り扱いが容易となり、作業性が向上する。さらに、スペーサーによって、第1ニブで引抜加工された金属管の外面に潤滑剤を供給すると共に排出することができる。
【0011】
本発明に係る金属管の製造方法は、引抜加工を含む金属管の製造方法であって、前記引抜加工に前記引抜ダイスを用いたことを特徴とする。
前記手順によれば、引抜加工に前記引抜ダイスを用いることによって、引抜加工後の金属管の寸法精度が持続すると共に、メンテナンスの際の交換作業性が向上し、作業時間が短縮される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る引抜ダイスによれば、引抜加工後の金属管の寸法精度が持続すると共に、メンテナンスの際の交換作業の作業性に優れ、交換作業を短時間で行うことが可能となる。また、引抜ダイス全体を交換せずに、金属管と接触するニブ(第1ニブおよび第2ニブ)のみを交換することが可能となるため、メンテナンス費用が安くなる。
本発明に係る金属管の製造方法によれば、引抜加工後の金属管の寸法精度が持続すると共に、引抜ダイスの交換作業の作業性が向上し、作業時間が短縮されるため、金属管の生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る引抜ダイスの断面図である。
【図2】図1の引抜ダイスの管挿入側の側面図である。
【図3】図1の引抜ダイスの管引抜側の側面図である。
【図4】図1の引抜ダイスの分解斜視図である。
【図5】本発明に係る引抜ダイスの断面図である。
【図6】図5の引抜ダイスの管挿入側の側面図である。
【図7】図5の引抜ダイスの管引抜側の側面図である。
【図8】図5の引抜ダイスの分解斜視図である。
【図9】本発明に係る引抜ダイスの断面図である。
【図10】本発明に係る引抜ダイスを用いて金属管を引抜加工する様子を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<引抜ダイス>
本発明に係る引抜ダイスの実施形態について、図面を参照して説明する。
引抜ダイスは、金属管の引抜加工に用いられるものである。ここで、引抜加工とは、後記するように、金属管の外径、または、外径および内径を縮径する加工であって、通常、常温で行われる冷間加工である。
(第1実施形態)
図1〜図3に示すように、引抜ダイス1は、ダイスホルダー2と、ニブ3と、ニブ押え4と、固定手段7とを備える。
【0015】
ダイスホルダー2は、アルミニウム合金からなり、その内部に後記するニブ3を収納するもので、その形状は特に限定されないが、円筒形状を有することが好ましい。なお、ダイスホルダー2がアルミニウム合金からなることによって、引抜ダイス1の軽量化を図ることができる。
【0016】
ダイスホルダー2は、管挿入側および管引抜側の両側で、後記するニブ押え4(管挿入側のニブ押え6、管引抜側のニブ押え5)を固定手段7(管挿入側の固定手段9、管引抜側の固定手段8)によって固定する面部である前面2bおよび後面2aと、前面2bから後面2aまで貫通する貫通孔2cとを有する。そして、貫通孔2cの内部にニブ3が収納される。また、引抜加工後の金属管の寸法精度を持続させるために、前面2bには、ニブ押え6の凸部6cに対応した凹部2gを形成して、ダイスホルダー2とニブ押え6との固定手段9による固定の位置ズレを防止している。同様に、後面2aには、ニブ押え5の凸部5cに対応した凹部2fを形成して、ダイスホルダー2とニブ押え5との固定手段8による固定の位置ズレを防止している。さらに、固定手段7(8、9)がネジの場合、管挿入側の前面2bには、固定手段9に対応したネジ孔2eを形成し、管引抜側の後面2aには、固定手段8に対応したネジ孔2dを形成する。なお、ダイスホルダー2は、軽量化を図るために、穴部2hが形成されていてもよい。
【0017】
ニブ3は、ダイスホルダー2(貫通孔2c)の内部に収納され、金属管(図示せず)を挿入して引抜加工する引抜孔3aを有する超硬合金からなるものである。そして、その形状は特に限定されないが、円筒形状であることが好ましい。なお、ニブ3が超硬合金からなることによって、引抜加工された金属管の寸法(外径、または、外径および内径)精度が向上する。
【0018】
ニブ3の引抜孔3aは、金属管を引抜孔3aの中心に案内するための案内部3bと、金属管の引抜加工形状(引抜加工後の金属管の外径)を決定する整径部3cと、整径部3cで引抜加工された金属管の外面に接触傷が発生するのを防止するための逃げ部3dを有する。なお、それぞれの引抜方向に平行な断面形状が、案内部3bおよび整径部3cでは直線、逃げ部3dでは所定の曲率半径を有する曲線で構成されることが好ましい。また、案内部3bは管挿入側に拡径するテーパー形状、逃げ部3dは管引抜側に拡径するテーパー形状であることが好ましい。
【0019】
ニブ押え4は、引抜孔3aの管挿入側および管引抜側でニブ3と当接する工具鋼からなるもので、管挿入側に配置されるニブ押え6と、管引抜側に配置されるニブ押え5からなる。そして、ニブ押え5およびニブ押え6の形状は特に限定されないが、円環板形状が好ましい。なお、ニブ押え4(5、6)が工具鋼からなることによって、引抜ダイス1(ダイスホルダー2)の強度が向上する。
【0020】
ニブ押え5は、ニブ3の引抜孔3a(逃げ部3d)と連通する貫通孔5aを有する。同様に、ニブ押え6は、引抜孔3a(案内部3b)と連通する貫通孔6aを有する。なお、貫通孔5aは管引抜側に拡径するテーパー形状であることが好ましく、貫通孔6aは管挿入側に拡径するテーパー形状であってもよい。また、ニブ押え5およびニブ押え6は、前記したように、ダイスホルダー2との固定手段8および固定手段9による固定の位置ズレを防止するために、ダイスホルダー2の凹部2fおよび凹部2gに対応した凸部5cおよび凸部6cを有する。さらに、ニブ押え4(5、6)は、固定手段7(8、9)によってダイスホルダー2(前面2b、後面2a)に着脱自在に固定され、固定手段7(8、9)がネジの場合には固定手段7(8、9)に対応したネジ孔5b、6bを有する。
【0021】
固定手段7は、ニブ押え4をダイスホルダー2に着脱自在に固定するもので、管挿入側のニブ押え6をダイスホルダー2の前面2bに着脱自在に固定する固定手段9と、管引抜側のニブ押え5をダイスホルダー2の後面2aに着脱自在に固定する固定手段8とからなる。固定手段7(8、9)は、その種類はニブ押え5、6をダイスホルダー2に着脱自在に固定できれば特に限定されず、操作性、経済性等を考慮するとネジであることが好ましい。また、ネジの設置位置をオフセットとすることで、ダイスホルダー2の厚みを小さくできる。
【0022】
図1、図4に示すように、本発明に係る引抜ダイス1においては、管引抜側および管挿入側でニブ3と当接するニブ押え5、6を固定手段8、9によってダイスホルダー2に着脱自在に固定することによって、ニブ3がダイスホルダー2(貫通孔2c)内に収納固定され、引抜加工の際にニブ3が引抜方向に抜け出ることがない。そして、引抜ダイス1のメンテナンスの際には、固定手段8、9を外すことによって、ニブ3をダイスホルダー2(貫通孔2c)内から容易に取り外すことができ、ニブ3のみの交換が可能となる。
【0023】
(第2実施形態)
図5〜図7に示すように、引抜ダイス10は、金属管の引抜加工に用いられ、ダイスホルダー11と、第1ニブ13と、第1ニブ押え14と、第1固定手段15と、第2ニブ23と、第2ニブ押え24と、第2固定手段25とを備える。
【0024】
ダイスホルダー11は、アルミニウム合金からなり、管挿入側の第1ダイスホルダー部12の内部に後記する第1ニブ13を収納すると共に、管引抜側の第2ダイスホルダー部22の内部に後記する第2ニブ23を収納するもので、その形状は特に限定されないが、円筒形状を有することが好ましい。なお、ダイスホルダー11がアルミニウム合金からなることによって、引抜ダイス10(ダイスホルダー11)の軽量化を図ることができる。
【0025】
ダイスホルダー11は、管挿入側の第1ダイスホルダー部12において、後記する第1ニブ押え14を第1固定手段15によって固定する面部である前面12aと、その内部に第1ニブ13が収納される貫通孔12cとを有する。また、引抜加工後の金属管の寸法精度を持続させるために、前面12aには、第1ニブ押え14の凸部14cに対応した凹部12gを形成して、ダイスホルダー11と第1ニブ押え14との固定手段15による固定の位置ズレを防止している。さらに、第1固定手段15がネジの場合、前面12aには、第1固定手段15に対応したネジ孔12dを形成する。
【0026】
また、ダイスホルダー11は、管引抜側の第2ダイスホルダー部22において、後記する第2ニブ押え24を第2固定手段25によって固定する面部である後面22bと、貫通孔12cと連通し、その内部に第2ニブ23が収納される貫通孔22cとを有する。また、引抜加工後の金属管の寸法精度を持続させるために、後面22bには、第2ニブ押え24の凸部24cに対応した凹部22eを形成して、ダイスホルダー11と第2ニブ押え24との固定手段25による固定の位置ズレを防止している。さらに、第2固定手段25がネジの場合、後面22bには、第2固定手段25に対応したネジ孔22dを形成する。
なお、ダイスホルダー11は、軽量化を図るために、前面12aに穴部11a、後面22bに穴部11bを形成してもよい。
【0027】
第1ニブ13は、第1ダイスホルダー部12の貫通孔12cの内部に収納され、金属管(図示せず)を挿入して引抜加工する第1引抜孔13aを有する超硬合金からなるものである。そして、その形状は特に限定されないが、円筒形状であることが好ましい。なお、第1ニブ13が超硬合金からなることによって、引抜加工された金属管の寸法(外径、または、外径および内径)精度が向上する。
【0028】
第1ニブ13の第1引抜孔13aは、金属管を第1引抜孔13aの中心に案内するための案内部13bと、金属管の引抜加工形状(引抜加工後の金属管の外径)を決定する整径部13cと、整径部13cで引抜加工された金属管の外面に接触傷が発生するのを防止するための逃げ部13dを有する。なお、それぞれの引抜方向に平行な断面形状が、案内部13bおよび逃げ部13dが所定の曲率半径を有する曲線、整径部13cが直線で構成されることが好ましい。
【0029】
第1ニブ押え14は、第1引抜孔13aの管挿入側で第1ニブ13と当接する工具鋼からなるもので、その形状は特に限定されないが、円環板形状が好ましい。なお、第1ニブ押え14が工具鋼からなることによって、ダイスホルダー11の強度が向上する。
【0030】
第1ニブ押え14は、第1ニブ13の第1引抜孔13a(案内部13b)と連通する貫通孔14aを有する。なお、貫通孔14aは、管挿入側に拡径するテーパー形状であってもよい。また、第1ニブ押え14は、前記したように、ダイスホルダー11との固定手段15による固定の位置ズレを防止するために、ダイスホルダー11の凹部12gに対応した凸部14cを有する。さらに、第1ニブ押え14は、第1固定手段15によってダイスホルダー11(前面12a)に着脱自在に固定され、第1固定手段15がネジである場合には第1固定手段15に対応したネジ孔14bを有する。
【0031】
第1固定手段15は、第1ニブ押え14をダイスホルダー11の前面12aに着脱自在に固定するものである。第1固定手段15は、その種類は第1ニブ押え14をダイスホルダー11に着脱自在に固定できれば特に限定されず、操作性、経済性等を考慮するとネジであることが好ましい。
【0032】
第2ニブ23は、第2ダイスホルダー部22の貫通孔22cの内部に収納され、第1ダイス11の第1引抜孔13aに連通して金属管(図示せず)を引抜加工する第2引抜孔23aを有する超硬合金からなるものである。そして、その形状は特に限定されないが、円筒形状であることが好ましい。なお、第2ニブ23が超硬合金からなることによって、引抜加工された金属管の寸法(外径、または、外径および内径)精度が向上する。
【0033】
第2ニブ23の第2引抜孔23aは、第1引抜孔13aで引抜加工された金属管を第2引抜孔23aの中心に案内するための案内部23bと、金属管の引抜加工形状(引抜加工後の金属管の外径)を決定する整径部23cと、整径部23cで引抜加工された金属管の外面に接触傷が発生するのを防止するための逃げ部23dを有する。なお、それぞれの引抜方向に平行な断面形状が、案内部23bが所定の曲率半径を有する曲線、整径部23cおよび逃げ部23dが直線で構成されることが好ましい。
【0034】
第2ニブ押え24は、第2引抜孔23aの管引抜側で第2ニブ23と当接する工具鋼からなるもので、その形状は特に限定されないが円環板形状が好ましい。なお、第2ニブ押え24が工具鋼からなることによって、ダイスホルダー11の強度が向上する。
【0035】
第2ニブ押え24は、第2ニブ23の第2引抜孔23a(逃げ部23d)と連通する貫通孔24aを有する。なお、貫通孔24aは、管引抜側に拡径するテーパー形状であることが好ましい。また、第2ニブ押え24は、前記したように、ダイスホルダー11との固定手段25による固定の位置ズレを防止するために、ダイスホルダー11の凹部22eに対応した凸部24cを有する。さらに、第2ニブ押え24は、第2固定手段25によってダイスホルダー11(後面22b)に着脱自在に固定され、第2固定手段25がネジである場合には第2固定手段25に対応したネジ孔24bを有する。
【0036】
第2固定手段25は、第2ニブ押え24をダイスホルダー11の後面22bに着脱自在に固定するものである。第2固定手段25は、その種類は第2ニブ押え24をダイスホルダー11に着脱自在に固定できれば特に限定されず、操作性、経済性等を考慮するとネジであることが好ましい。
【0037】
引抜ダイス10は、スペーサー31をさらに備えるものであってもよい。
スペーサー31は、第1ニブ13と第2ニブ23との間に配置され、アルミニウム合金からなるもので、その形状は特に限定されないが、円環板形状が好ましい。なお、スペーサー31がアルミニウム合金からなることによって、引抜ダイス10の軽量化を図ることができる。
【0038】
スペーサー31は、第1ダイスホルダー部12の貫通孔12cの内部に第1ニブ13と共に収納されるもので、管挿入側で第1ニブ13と当接する面部である前面31aと、管引抜側で第2ニブ23と当接する面部である後面31bと、前面31aから後面31bまで貫通する貫通孔31cとを有する。そして、スペーサー31は、貫通孔31cが、第1引抜孔13aおよび第2引抜孔23aと段差なしに(滑らかに)連通するように、配置する。また、スペーサー31は、その前面31aおよび後面31bの少なくとも一方に溝部31dを有してもよい。スペーサー31が溝部31dを有することによって、第1ニブ13で引抜加工された金属管の外面に、溝部31dを通して潤滑油を供給できると共に、汚れた潤滑油を排出できる。その結果、潤滑油の不足によって、金属管の抽伸切れ、表面焼き付き等が発生するのを防止できる。また、潤滑油(抽伸油)を低粘度化できる。抽伸油が低粘度化することによって、後工程での洗浄性が向上すると共に、洗浄液を削減でき、製造ラインが汚れず、製造ラインが油で固まって動作不良を起こさないため、製造設備のメンテナンスが容易となる。また、引抜ダイス10がスペーサー31を備える場合には、ダイスホルダー11には貫通孔12cと連通して潤滑油を供給および排出する流路12h、12iを形成する。
【0039】
図5、図8に示すように、本発明に係る引抜ダイス10においては、管挿入側で第1ニブ13と当接する第1ニブ押え14を第1固定手段15によってダイスホルダー11に着脱自在に固定すると共に、管引抜側で第2ニブ23と当接する第2ニブ押え24を第2固定手段25によってダイスホルダー11に着脱自在に固定する。その結果、第1ニブ13、第2ニブ23およびスペーサー31がダイスホルダー11(貫通孔12cおよび貫通孔22c)内に収納固定され、引抜加工の際に第1ニブ13および第2ニブ23が引抜方向に抜け出ることがない。そして、引抜ダイス10のメンテナンスの際には、第1固定手段15および第2固定手段25を外すことによって、第1ニブ13、第2ニブ23およびスペーサー31をダイスホルダー11(貫通孔12cおよび貫通孔22c)内から容易に取り外すことができ、第1ニブ13および第2ニブ23のみの交換が可能となる。
【0040】
引抜ダイス10は、ダイスホルダー11を内部に収納可能なケース41を備えていてもよい。この場合、ダイスホルダー11(第1ダイスホルダー部12)には潤滑油供給孔12eおよび潤滑油排出孔12fを形成することが好ましい。これによって、図示しない潤滑油供給装置から第1ダイスホルダー部12の潤滑油供給孔12eに潤滑油が供給され、流路12hを介して、スペーサー31の溝部31dを通して金属管の外面に潤滑油が供給され、溝部31dおよび流路12iを介して、潤滑油排出孔12fを通して汚れた潤滑油が排出される。また、引抜ダイス10は、図5、図8ではダイスホルダー11内に2つのニブ13、23を収納しているが、3つ以上のニブを収納してもよいし、スペーサーを介して3つ以上のニブを収納してもよい(図示せず)。
【0041】
(第3実施形態)
図9に示すように、引抜ダイス10Aは、引抜ダイス1の管引抜側に、引抜ダイス1と同様な構成を備えた引抜ダイス1Aを配置(接合)したものである。引抜ダイス1Aでは、ニブ3Aの内径(引抜孔の外径)DAが、引抜ダイス1のニブ3の内径(引抜孔の外径)Dより小さく設定されている。そして、引抜ダイス1Aの構成であるダイスホルダー2A、ニブ3A、ニブ押え5A、6A、固定手段8A、9Aは、前記した引抜ダイス1のダイスホルダー2、ニブ3、ニブ押え5、6、固定手段8、9と同様であるので、説明を省略する。また、図示しないが、引抜ダイス1Aとして第2実施形態の引抜ダイス10を使用してもよい。さらに、図示しないが、前記した2つの引抜ダイスを接合したもの以外に、3つ以上の引抜ダイスを接合したものであってもよい。
【0042】
<金属管の製造方法>
本発明に係る金属管の製造方法は、引抜加工を含む金属管の製造方法であって、引抜加工に前記引抜ダイスを用いることを特徴とする。
引抜加工を含む金属管の製造方法は、従来公知の手順に従って行えばよいが、金属管としてのアルミニウム合金管を製造する場合には、以下の手順に従って製造することが好ましい。
【0043】
(溶解鋳造工程)
所定組成のアルミニウム合金を溶解鋳造して鋳塊を製造する。
(均質化熱処理工程)
前記工程で製造された鋳塊に400〜600℃の熱処理を施す。
(押出加工工程)
前記工程で熱処理された鋳塊を450〜500℃で押出加工(熱間加工)して、円筒状の押出素管を製造する。
(引抜加工工程)
前記工程で製造された押出素管を常温で引抜加工(冷間加工)して、アルミニウム合金管とする。引抜加工は、例えば、以下のように行う。
図10に示すように、芯金51の先端に取り付けられたプラグ52を押出素管50の内部に挿入する。プラグ52が挿入された押出素管50を、引抜ダイス1のダイスホルダー2の側面に固定されたニブ押え6側から、ダイスホルダー2の内部に収納固定されたニブ3の引抜孔3aに挿入し、ダイスホルダー2の側面に固定されたニブ押え5側に引き抜く。これによって、ニブ3とプラグ52との間で押出素管50の外径および肉厚が減少し、アルミニウム合金管53が製造される。
なお、押出素管50の外径のみを減少させる場合には、プラグ52(芯金51)を使用しないで引抜加工を行う。
【0044】
また、アルミニウム合金管の製造においては、前記手順に加えて、引抜加工工程の前で熱処理(例えば、180〜200℃)を行う熱処理工程、引抜加工工程の後でアルミニウム合金管を所定長さに切断する切断工程、アルミニウム合金管を洗浄乾燥する洗浄乾燥工程、アルミニウム合金管の外観等を検査する検査工程等を行ってもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 引抜ダイス
2 ダイスホルダー
3 ニブ
3a 引抜孔
4、5、6 ニブ押え
7、8、9 固定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属管の引抜加工に用いられる引抜ダイスであって、
アルミニウム合金からなるダイスホルダーと、
前記ダイスホルダーの内部に収納され、前記金属管を挿入して引抜加工する引抜孔を有する超硬合金からなるニブと、
前記引抜孔の管挿入側および管引抜側で、前記ニブと当接する工具鋼からなるニブ押えと、
前記ニブ押えを前記ダイスホルダーに着脱自在に固定する固定手段とを備えることを特徴とする引抜ダイス。
【請求項2】
前記固定手段は、ネジであることを特徴とする請求項1に記載の引抜ダイス。
【請求項3】
金属管の引抜加工に用いられる引抜ダイスであって、
アルミニウム合金からなるダイスホルダーと、
前記ダイスホルダーの管挿入側の第1ダイスホルダー部の内部に収納され前記金属管を挿入して引抜加工する第1引抜孔を有する超硬合金からなる第1ニブと、
前記第1引抜孔の管挿入側で前記第1ニブと当接する工具鋼からなる第1ニブ押えと、
前記第1ニブ押えを前記第1ダイスホルダー部に着脱自在に固定する第1固定手段と、
前記ダイスホルダーの管引抜側の第2ダイスホルダー部の内部に収納され前記第1引抜孔と連通して前記金属管を引抜加工する第2引抜孔を有する超硬合金からなる第2ニブと、
前記第2引抜孔の管引抜側で前記第2ニブと当接する工具鋼からなる第2ニブ押えと、
前記第2ニブ押えを前記第2ダイスホルダー部に着脱自在に固定する第2固定手段とを備えることを特徴とする引抜ダイス。
【請求項4】
前記第1ニブと前記第2ニブとの間に配置されたアルミニウム合金からなるスペーサーをさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の引抜ダイス。
【請求項5】
前記第1固定手段および第2固定手段は、ネジであることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の引抜ダイス。
【請求項6】
引抜加工を含む金属管の製造方法であって、
前記引抜加工に請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の引抜ダイスを用いたことを特徴とする金属管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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