説明

弗素系樹脂モノフィラメント、その製造方法および工業用織物

【課題】工業用織物の少なくとも一部に使用した場合に、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べて、高い引掛強度、結節強度を有し、耐久性を向上させることができるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント、その製造方法および工業用織物の提供。
【解決手段】メルトフローレイト20.0〜60.0g/10minのエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントであって、引掛強度が2.5cN/dtex以上、結節強度が1.0cN/dtex以上、かつ線径変動率が20%以下であることを特徴とする弗素系樹脂モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を遺憾なく発揮できると共に、工業用織物の少なくとも一部に使用した場合に、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べて、織物の経糸として重要な高い引掛強度、結節強度を有し、耐久性を向上させることができるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント、その製造方法およびこの弗素系樹脂モノフィラメントを使用した工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂からなるモノフィラメントは、耐熱性、強度、剛性などの優れた特性を有することから、各種の産業資材用途に好ましく使用されてきた。
【0003】
また、工業用織物用途においても同様に優れた特質を有するモノフィラメントの要求が高まっており、特にフィルター用織物用途に使用されるモノフィラメントには、優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性などが要求されているが、従来のポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などからなるモノフィラメントでは、特質上限界があり満足のいく特性が得られないことから、近年では特に優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を有する弗素系樹脂からなるモノフィラメントの実用化が求められるようになってきた。
【0004】
そして、弗素系樹脂の中でもポリフッ化ビニリデン樹脂からなるモノフィラメントについては、既に高強力のモノフィラメントが水産資材用途に好ましく使用されているが、このポリフッ化ビニリデン樹脂は融点がポリアミド樹脂より低く耐熱性に劣り、しかも高強力のモノフィラメントを得るためにかなり低速での製造方法が用いられていることから、生産効率が低く高価なものとなっている。
【0005】
そこで、工業用織物用途向けには、耐熱性に優れる弗素系樹脂からなり、しかも安価に製造が可能な、高強度且つ線径変動の小さいモノフィラメントがしきりに求められている状況である。
【0006】
一方、工業用織物用途に使用されるモノフィラメントとして代表的なポリエステルモノフィラメントについては、その高強度化を目指した検討が従来から種々行われており、例えば、2セット以上のホットロールからなる多段延伸工程により製造された改良ポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献1参照)や、ジメチルホルムアミド水溶液に浸漬処理後、延伸する方法により製造されたポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献2参照)などが知られているが、いずれも高モジュラス、高引張破断強度の特性は得られるものの、引掛強度の向上効果は認められないものであった。また、ポリエチレンナフタレートからなる高ヤング率かつ高引掛強度のポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献3および特許文献4参照)が提案されているが、このポリエステルモノフィラメントは、ヤング率と引掛強度の均衡化を目的としたものであり、その引掛強度は従来のポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどの他のポリエステルモノフィラメントの引掛強度レベルまで達してはいないことから、工業用織物形成材料としては強度不足なものであった。
【0007】
また、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントの製造方法としては、紡出糸を溶融温度〜(溶融温度−50℃)の間でアニーリングした後、100℃以下の温度で冷却し、引き取り速度を5〜20m/分に制御する方法(例えば、特許文献5参照)が提案されているが、この方法では、高強度且つ線径変動率の極めて少ないエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体モノフィラメントを得ることができないばかりか、非常に生産効率が低く、高コストになるという問題があった。
【特許文献1】特開2001−279526号公報
【特許文献2】特開平7−42021号公報
【特許文献3】特開2003−268626号公報
【特許文献4】特開平7−278954号公報
【特許文献5】特開昭63−219616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性を具備し、工業用織物の少なくとも一部に使用した場合に、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べて、織物の経糸として重要な高い引掛強度、結節強度を有し、さらには線径変動率の極めて少ないエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント、このモノフィラメントを効率良く低コストで製造する方法、および、この弗素系樹脂モノフィラメントを使用した工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明によれば、メルトフローレイト20.0〜60.0g/10minのエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントであって、JIS L 1013:1999の規定に準じて測定した引掛強度が2.5cN/dtex以上、結節強度が1.0cN/dtex以上、かつアンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用し、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件でモノフィラメントの線径を測定し、さらにキーエンス製データー処理機NR−250&PCに準じたデーター処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率が20%以下であることを特徴とする弗素系樹脂モノフィラメントが提供される。
【0011】
なお、本発明の弗素系樹脂モノフィラメントにおいては、その直径が0.05〜1.5mmであることが望ましい。
【0012】
また、上記の弗素系樹脂モノフィラメントの製造方法は、メルトフローレイト20.0〜60.0g/10minのエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を溶融紡糸・延伸・熱セットするに際して、延伸温度80〜200℃、かつ延伸倍率4.0〜6.0倍で延伸し、引き続き連続して熱セット処理を行うと共に、最終引取速度100〜200m/分で引き取ることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の工業用織物は、上記の弗素系樹脂モノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したこと、および経糸の両端をループ状に折り返してできる接合部を互いに噛み合わせ、接合部に芯線を通して構成した無端状の織物であって、前記芯線として上記の弗素系樹脂モノフィラメントを用いてなることを特徴とし、製紙用具用織物、ベルト用織物およびフィルター用織物に適用した場合に最良の効果を発揮するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を遺憾なく発揮できると共に、工業用織物の少なくとも一部に使用した場合に、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べて、織物用途の経糸として重要な高い引掛強度、結節強度を有し、線径変動率が極めて小さく、織物とした場合の耐久性を向上可能な弗素樹脂系モノフィラメントを得ることができる。
【0015】
そして、上記、本発明の弗素樹脂系モノフィラメントを使用してなる工業用織物は、使用する原糸の線径精度が優れることから、織物の表面平滑性を阻害する筋や縞などの欠点の発生を効果的に抑えることができ、製紙用具用織物、ベルト用織物およびフィルター用織物に適用した場合に最良の効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(以下ETFEと記す)からなるモノフィラメントは、JIS L 1013:1999の規定に準じて測定した引掛強度が2.5cN/dtex以上、結節強度が1.0cN/dtex以上、かつ、アンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用し、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件でモノフィラメントの線径を測定し、さらにキーエンス製データー処理機NR−250&PCに準じたデーター処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率が20%以下であり、従来のETFEモノフィラメントに比較してきわめて強度が高く、線径変動が小さいことを特徴とする。
【0018】
ここで、本発明のETFEモノフィラメントの引掛強度は2.5cN/dtex以上、好ましくは2.6cN/dtex以上、更に好ましくは2.7cN/dtex以上であり、結節強度は1.0cN/dtex以上、好ましくは1.1cN/dtex以上、更に好ましくは1.2cN/dtex以上であり、かつ線径変動率は20%以下、好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下である。
【0019】
上記のように引掛強度、結節強度が極めて高い本発明のETFEモノフィラメントは、織物の経糸、また経糸の両端をループ状に折り返してできる接合部を互いに噛み合わせ、接合部に芯線を通す無端状織物の芯線として重要な高い引掛強度、結節強度を有していることから、織物の接合強力と耐久性が問題とされる各種の工業用織物用途に好ましく使用することができる。
【0020】
さらに、本発明のETFEモノフィラメントは、線径変動率が極めて小さいことから、工業織物とした場合に、線径精度が悪いことによって織物に発生する、筋、縞、段などの織物の網面不良の発生を効果的に抑えることができることから、線径変動率が問題とされる各種の工業織物用途に好ましく使用することができるが、なかでも製紙用具用織物やベルト用織物およびフィルター用織物として好ましく適用することができ、その場合には従来にない優れた織物表面平滑性改善効果を発現させることができる。
【0021】
また、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質が要求されているフィルター用織物や製紙用具用織物およびベルト用織物として好ましく適用することができ、その場合には従来にない優れた効果を発現し得る。
【0022】
本発明のETFEモノフィラメントを形成するETFE樹脂は、上記のようなモノフィラメントの特性を満足するために、メルトフローレイトが20.0〜60.0g/10minの範囲にあることが肝要である。
【0023】
ここで、ETFE樹脂のメルトフローレイトが低すぎる場合は、高強度のETFEモノフィラメントを得るためには好ましいものの、工業用織物の表面平滑性や織物の品位に影響を及ぼす、モノフィラメントの線径精度、すなわち、上記JIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率を20%以下とする事が極めて困難となるため好ましくない。
【0024】
一方、ETFEのメルトフローレイトが本発明より高すぎる場合は、工業用織物に求められるETFEモノフィラメントの引張強度が不十分となるばかりか、工業用織物の経糸と緯糸が交差する、所謂ナックル部分の強靭性を満たすに十分な結節強度や引掛強度が得られないため、工業用織物などに代表される産業資材用ETFEモノフィラメントとしては不十分なものとなってしまうため好ましくない。
【0025】
ここで、本発明のETFEモノフィラメントを構成するETFE樹脂のメルトフローレイトは、20.0〜60.0g/10minの範囲であれば好適に本発明の目的とする効果の発現に繋がるが、より好ましくは25〜50g/10min、さらには30〜45g/minの範囲である場合、特に線径変動率の小さいETFEモノフィラメントの実現に繋がるため好ましい。
【0026】
また、本発明のETFE樹脂のメルトフローレイトは20.0〜60.0g/10minであれば良いが、この条件を満たすメルトフローレイトを有するETFE樹脂を用いることにより、従来技術では成し得なかった、100m/minを超えるような高速紡糸が可能となり、この結果、生産効率アップによる大幅なコストダウンが実現される。
【0027】
さらに、メルトフローレイトが20.0g/10min以下のETFE樹脂では、最終引取速度を100m/分以上にすることが出来ず生産性が悪化するばかりか、元来、ETFE樹脂は曳糸性が悪いという特徴を有するため、斯かる範囲にメルトフローレイトを規制しなければ、溶融紡糸し口金ノズルより押し出したポリマを本発明の最終引取速度である100〜200m/minの実現を可能とするような、初期引取速度領域まで高速化することが不可能になる。
【0028】
なお、本発明で用いる上記ETFE樹脂には、必要に応じて例えば顔料、染料、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤および可塑剤などの各種添加剤を、目的とする性能を阻害しない範囲で、その重合行程、重合後あるいは紡糸直前に添加することができる。
【0029】
上記の特性を有する本発明のETFEモノフィラメントは、以下に説明する方法により効率的に製造することができる。
【0030】
すなわち、本発明のETFEモノフィラメントの製造方法は、溶融紡糸・延伸・熱セットを行うに際して、延伸温度80〜200℃、かつ総延伸倍率4.0〜6.0倍で延伸し、引き続き熱セット処理を行ない、最終引取速度を100〜200m/分で引き取ることを特徴とする。
【0031】
ETFEモノフィラメントを溶融紡糸するに際しては、先端に計量用ギヤポンプとスピンブロックを有するエクストルダー型紡糸機にETFE樹脂を供給し、紡糸温度を285〜325℃で溶融混練した後、その溶融ポリマを紡糸口金から溶融押出し、紡出糸条を直ちに冷却媒体浴に導いて冷却しつつ引き取って未延伸糸を得る従来公知の方法が採用できる。
【0032】
次いで、得られた未延伸糸を、少なくとも1段以上の多段で延伸し、引き続き連続して熱セット処理を行うが、所望の引掛強度、結節強度を得るには、少なくとも1段以上の多段で延伸する際に安定した延伸性を得るために、延伸温度を80〜200℃の範囲とし、かつ総延伸倍率を4.0〜6.0倍にすることが重要であり、特に好ましくは、二段目延伸温度を一段目延伸温度よりも高い温度に設定した場合に、より好ましい効果の発現が期待できる。
【0033】
すなわち、総延伸倍率が4.0倍未満では、延伸斑の原因となり、所望とする線径変動率を有するETFEモノフィラメントが得られないばかりか、引掛強度、結節強度も不均一となり、これらETFEモノフィラメントを用いて織物を製織する場合には、製織時の断糸などが発生するなどの不具合を招くことになるため好ましくない。
【0034】
逆に総延伸倍率が6.0倍以上と高すぎると、モノフィラメント製造中に延伸切れが多発するなどの問題が生じることから好ましくない。
【0035】
ここで、良好な引掛強度、結節強度を得るためには、総延伸倍率が5.3〜5.7倍であることがさらに好ましい結果の発現に繋がる。
【0036】
なお、延伸工程で使用する熱媒体としては、ETFEモノフィラメントの表面から容易に除去することができ、かつETFEモノフィラメントに対して物理的、化学的な変化を本質的に与えない物質であれば如何なるものを使用することが可能であるが、本発明は比較的低い温度で一段目の延伸を行うことから、経済的には温水浴または加熱空気浴が好適である。また、二段目の延伸工程で使用する熱媒体としては、一般的に、高沸点の不活性液体を満たした液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉および高周波炉などの加熱装置が好適である。
【0037】
次に、本発明の製造方法では、延伸温度を80℃〜200℃とするが、さらに90〜190℃とした際により好ましい効果の発現を期待することができる。
【0038】
ここで、延伸温度が80℃未満と低すぎる場合は、延伸時に高い延伸張力が掛かるため、延伸切れの原因となりやすく、逆に200℃以上の場合、ETFE樹脂の融点に近くなり、延伸域内で延伸切れが発生しやすくなるため、延伸温度を80〜200℃に規制することが必要である。
【0039】
さらに本発明のETFEモノフィラメントの製造方法では、上述した延伸工程から引き続いて連続的に熱セット処理を行ない、最終引取速度を100〜200m/分で引き取ることが肝要である。
【0040】
本発明では、少なくとも1段以上の多段で延伸されたETFEモノフィラメントの、延伸工程で得られた所望の引掛強度、結節強度、線径変動率を具備した上で、さらにその熱収縮特性を調整し、かつそれを保持するために、延伸工程後に引き続き連続して熱セット処理に供するが、この際の最終引取速度は、熱収縮特性やETFEモノフィラメントの強度特性、線径精度をコントロールする上で、極めて重要な特性となる。
【0041】
熱セット処理の温度は150〜250℃程度の範囲とすることが好ましく、さらには200〜230℃とした場合に、より好適な品質特性の発現を期待することができる。
【0042】
また、熱セット倍率は、従来公知のモノフィラメント製造方法の範囲を取り得るが、特に0.90〜1.05倍の時、所望の熱収縮特性を得るためには好ましい。
【0043】
ここで、熱セット倍率が低すぎると、得られるETFEモノフィラメントの引掛強度、結節強度および熱収縮率が低くなるため、工業用織物の熱セット後の納まりが悪くなるばかりか、ETFEモノフィラメントの引掛強度や結節強度の低下を招き、工業織物の接合強力と耐久性不足などが発生しやすくなり、逆にセット倍率が高すぎると、糸切れの原因となりやすいため好ましくない。
【0044】
セット処理工程で使用する加熱装置としては、上述した二段目の延伸と同様な高沸点の不活性液体を満たした液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉および高周波炉などを挙げることができる。
【0045】
そして、セット処理されたETFEモノフィラメントは、その表面に必要に応じて油剤が付与され、その後巻具に巻き取られる。
【0046】
この場合の最終引取速度は100〜200m/分で行う。この最終引取速度は、未延伸糸の引取速度に延伸倍率または延伸倍率/熱セット処理の倍率を掛け合わせて求められるが、最終引取速度が100m/分未満の場合は、延伸斑の原因となり、均一な線径を有するモノフィラメントが得られにくい傾向となるため好ましくないばかりか、所望の強伸度や熱収縮特性が不均一となりやすくなるため好ましくない。
【0047】
また、最終引き取り速度が200m/分以上の場合は、糸切れを招き易くなるため好ましくない。より良好で均一な線径や所望の強伸度および熱収縮特性を得るには、最終引取速度が120〜180m/分であることが特に好ましい。
【0048】
こうして得られた本発明のETFEモノフィラメントは、従来のETFEモノフィラメントにはない高い引掛強度、結節強度を有し、かつ線径変動が小さいため、工業用織物用とのETFEモノフィラメントとして、極めて効果的に使用することが可能となる。
【0049】
また、本発明のETFEモノフィラメントからなる工業用織物は、抄紙用ワイヤー、プレスフェルト、ドライヤーカンバス等の製紙用具用織物だけではなく、コンベヤベルトや脱水ベルトなどのベルト用織物やベルトプレス用フィルターなどのフィルター用織物にも使用することができ、得られたこれらの各種工業用織物は、安定した接合強力と耐久性を保持することが可能であるばかりか、ETFEモノフィラメントの持つ易成型性、耐薬品性、電気特性、高耐候性、難燃性、安全性、非粘着性、二次加工性などの優れる特性を遺憾なく発揮する。
【0050】
なお、本発明のETFEモノフィラメントは、一本の連続糸であるが、必要に応じて複数本合わせて撚糸・熱セットしたもの、および単糸を捻って熱セットしたものであってもよい。
【0051】
また、本発明のETFEモノフィラメントの断面形状については、その用途に応じて適宜選定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、丸、楕円、3角、T、Y、H、+、5葉,6葉,7葉,8葉などの多葉形状、正方形、長方形、菱形、繭型および馬蹄型などを挙げることができ、また、これらの形状を一部変更したものであってもよい。
【0052】
さらにまた、本発明のETFEモノフィラメントの直径についても、その用途に応じて適宜選定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、工業用織物用途としては、直径0.05〜1.50mmのものが主に使用される。
【0053】
このように、本発明の弗素系樹脂モノフィラメントは、従来のETFEモノフィラメントよりも高い引掛強度、結節強度、かつ均一な線径が要求される各種用途に極めて有用に利用できるものである。
【実施例】
【0054】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、実施例におけるモノフィラメントの評価は以下の方法に準じて行った。
【0055】
[メルトフローレイト]
ASTM D3159に準じ、孔径:2.095mm、管長:8.00mmのオリフィスを用い、加熱温度:297℃、荷重:5kgの条件にて測定を行った。
【0056】
[紡糸操業性]
連続押出し紡糸を行う際の状況を観察し、延伸切れや原料の紡糸機への押し込み安定性から次の3段階で評価した。
○:24時間連続紡糸で、全く問題なく、至って良好であった、
△:24時間連続紡糸で、延伸切れが2回未満であり操業可能であった、
×:24時間連続紡糸で、延伸切れが3回以上、また原料の押し込み不良が多発するため操業が困難であった。
【0057】
[繊度]
JIS L1013−1999の8.3に準じて測定した。
【0058】
[引掛強度、結節強度、]
JIS L1013−1999の8.5、8.6および8.7に準じて引掛強さ、結節強さを測定し、繊度で割返した値を引掛強度、結節強度(単位:cN/dtex)とした。
【0059】
[織物耐久性評価]
まず、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを経糸に使用し、平織織物を作成した。次に、平織物の両端部の経糸をループ状に形成してできたジョイント部を互いに噛み合わせ、そこに芯線を通して無端状の平織物にした。この無端状の平織物をベルトプレスフィルター工程で約1ヶ月間使用し、ジョイント部におけるETFEモノフィラメントの破断本数発生率でジョイントループによる耐久性を次の3段階で評価した。
○:破断発生率10%未満
△:破断発生率10〜30%未満
×:破断発生率30%以上。
【0060】
[線径の変動率]
アンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用して、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件で外径を測定し、さらにキーエンス製データー処理機NR−250&PCに準じたデーター処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した値を線径変動率とした。
【0061】
[実施例1]
ETFE樹脂としてメルトフローレイト35g/10min(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXMP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、紡糸口金ノズルより吐出、溶融紡糸した。次いで、口金から溶融押出した紡出糸条を、直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却し引き取って得た未延伸糸を、1段目延伸温度90℃で延伸倍率を4.00倍、引き続き2段目延伸温度160℃で総延伸倍率を5.30倍となるように延伸し、引き続き熱セット処理を行った。その際の最終引取速度を180m/分として、直径0.251mmの円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0062】
[実施例2、3]
実施例1と同一紡糸条件にて、ETFE樹脂のメルトフローレイトを表1の通りに変更し、約0.25mmの円形断面ETFEモノフィラメントを得た。
【0063】
[実施例4]
実施例1と同一のETFE樹脂を用い、最終引取速度を120m/min、総延伸倍率を5.70倍に変更して、糸直径0.506mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0064】
[実施例5]
実施例4に準じた製造条件にて、1段目延伸温度を82℃へ変更して、糸直径0.502mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0065】
[実施例6]
実施例1と同一のETFE樹脂を用い、最終引取速度を105m/min、総延伸倍率を4.30倍に変更して、糸直径1.108mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0066】
[比較例1、2]
実施例1と同一紡糸条件にて、ETFE樹脂のメルトフローレイトを表1の通りに変更し、直径約0.25mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0067】
[比較例3、4]
実施例4と同一紡糸条件にて、ETFE樹脂のメルトフローレイトを表1の通りに変更し、直径約0.50mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0068】
[比較例5、6]
実施例1に準じた紡糸条件にて、最終引取速度を表1の通りに変更し、直径約0.25mmのETFEモノフィラメントを得た。
[比較例7、8]
実施例1に準じた紡糸条件にて、総延伸倍率を表1の通りに変更し、直径約0.25mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0069】
[比較例9、10]
実施例1に準じた紡糸条件にて、延伸温度を表1の通りに変更し、直径約0.25mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0070】
上記実施例1〜6および比較例1〜10で得られた各ETFEモノフィラメントの特性結果および製造条件、実用評価結果を表1に併せて示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1の結果から明らかなように、本発明のETFEモノフィラメント(実施例1〜6)は、いずれも引掛強度が2.5cN/dtex以上、結節強度が1.0cN/dtex以上、かつ線径変動率20%以下で高強度を有したものである。
【0073】
これら、高引掛強度、高結節強度を有し、且つ線径変動率が低く線径のバラツキの小さい実施例1〜6のETFEモノフィラメントを平織物の経糸に使用し、その両端部の経糸をループ状に形成してできたジョイント部を互いに噛み合わせ、そこに芯線を通し作製した無端状の平織物をベルトプレスフィルター工程に供して、ジョイント部におけるETFEモノフィラメントの破断本数発生率でジョイントループによる耐久性を評価した結果、ジョイントループ破断発生率は10%未満と極めて良好な耐久性を有していた。
【0074】
一方、ETFE樹脂のメルトフローレイトが20.0〜60.0g/10minの範囲を外れる比較例1および2において、メルトフローレイトが低すぎる比較例1では、線径変動率が劣り線径均一性の悪いETFEモノフィラメントしか得ることができないばかりか、紡糸操業性も延伸切れが24時間連続紡糸で4回発生するなど好ましくない結果となった。また、メルトフローレイトが高すぎる比較例2では、所望の引掛強度、結節強度が達成できないばかりか、織物耐久性も劣る結果となった。
【0075】
また、ETFE樹脂のメルトフローレイトが本発明の規定範囲外であり、実施例4と同一条件にて紡糸した比較例3および4において、メルトフローレイトが低すぎる比較例3では、ETFE樹脂の曳糸性が悪く、未延伸糸の引き取り工程にて、引き取り糸条が太細状態となり延伸切れが多発して製糸不能の状態となった。一方、メルトフローレイトが高すぎる比較例4では、所望の引掛強度、結節強度、線径変動率が達成できないばかりか、織物耐久性も劣る結果となった。
【0076】
最終引取速度が本発明の規定を外れる比較例5および6において、最終引取速度が遅すぎる比較例5では、所望の引掛強度および線径変動率が達成できず、逆に早すぎる比較例6では、延伸切れが多発し、製糸不能の状況となった。
【0077】
さらに、総延伸倍率が本発明の規定を外れる比較例7および8において、総延伸倍率が低い比較例7では、所望の引掛強度および線径変動率が達成できず、逆に総延伸倍率の高すぎる比較例8では、延伸切れが多発し、製糸不能の状況となった。
【0078】
さらにまた、延伸温度が本発明の規定を外れる比較例9および10において、延伸温度が低い比較例9では、所望の引掛強度および結節強度が達成できず、逆に延伸温度が高い比較例10では、結節強度が低いETFEモノフィラメントしか得られず、織物耐久性評価が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明のETFEモノフィラメントは、織物の経糸として重要な高い引掛強度、結節強度が従来のETFEモノフィラメントに比べて飛躍的に改良されたものであることから、例えば製紙用具用織物やベルト用織物およびフィルター用織物などの工業用織物用途としての使用が極めて有用である。
【0080】
また、本発明の製造方法によれば、長さ方向の線径変動率が極めて小さく、引掛強度、結節強度が極めて高いETFEモノフィラメントを効率的に低コストで製造することができる。
【0081】
さらに、本発明のETFEモノフィラメントを用いた工業用織物は、製紙用具用織物やベルト用織物およびフィルター用織物などに使用することもでき、得られたこれらの各種工業用織物は、その織物の接合強力と耐久性が向上できると共に、織物の表面平滑性を大幅に改善せしめるものであり、さらに弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性をあわせ持つことから、工業用織物として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレイト20.0〜60.0g/10minのエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントであって、JIS L 1013:1999の規定に準じて測定した引掛強度が2.5cN/dtex以上、結節強度が1.0cN/dtex以上、かつアンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用し、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件でモノフィラメントの線径を測定し、さらにキーエンス製データー処理機NR−250&PCに準じたデーター処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率が20%以下であることを特徴とする弗素系樹脂モノフィラメント。
【請求項2】
直径が0.05〜1.5mmであることを特徴とする請求項1に記載の弗素系樹脂モノフィラメント。
【請求項3】
前記エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を溶融紡糸・延伸・熱セットするに際して、延伸温度80〜200℃、かつ総延伸倍率4.0〜6.0倍で延伸し、引き続き熱セット処理を行なった後、最終引取速度100〜200m/分で引き取ることを特徴とする請求項1に記載の弗素系樹脂モノフィラメントの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の弗素系樹脂モノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする工業用織物。
【請求項5】
経糸の両端をループ状に折り返してできる接合部を互いに噛み合わせ、接合部に芯線を通して構成した無端状の織物であって、前記芯線として請求項1または2に記載の弗素系樹脂モノフィラメントを用いてなることを特徴とする工業用織物。
【請求項6】
製紙用具用織物であることを特徴とする請求項4または5に記載の工業用織物。
【請求項7】
ベルト用織物であることを特徴とする請求項4または5に記載の工業用織物。
【請求項8】
フィルター用織物であることを特徴とする請求項4または5に記載の工業用織物。

【公開番号】特開2010−7194(P2010−7194A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166003(P2008−166003)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】