説明

弦楽器のテールピース保持構造

【課題】従来と同等の演奏性を維持しながら外観と耐久性を同時に向上させることができるようにした弦楽器のテールピース保持構造を提供する。
【解決手段】ボディ22の表面後端部に配設されるテールピース7の後端をテールワイヤ11によって保持する。このテールワイヤ11は、ボディ22の後端に取付けられたサドルプレート42に密接されてボディ22の裏面側に導かれ、止めねじ41によってサドルプレート42に固定されている。テールワイヤ11と止めねじ11およびサドルプレート42は、フレーム24によって覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器のテールピース保持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス等の擦弦楽器においては、弦の後端側を係止するテールピースを備え、このテールピースをボディに張弦方向に移動調整可能に取付けている(例えば、特許文献1参照)。また、電気バイオリンにおいては、テールピースをボディに固定したものも知られている。
【0003】
図4および図5は、従来のアコースティックバイオリンのテールピース保持構造を示す正面図および側面図である。これらの図において、バイオリン1は、中空の共鳴胴を形成するボディ2と、このボディ2の先端に設けられた棹3と、4本の弦4(第1〜第4の弦4a〜4d)とを備え、これらの弦4a〜4dの前端側を棹3の先端部に取付けたペグ5によってそれぞれ係止し、後端側をボディ2の表面を形成する表板6の表面後端部に配設したテールピース7によってそれぞれ係止し、中間部を棹3の先端寄りに設けた上駒8とボディ2に設けた駒9とによって支持している。テールピース7は、テールワイヤ11によって保持されており、このテールワイヤ11のテールピース7側とは反対側端をボディ2の最下端面2aにエンドピン10によって固定している。そして、テールワイヤ11の長さを調整し、テールピース7を張弦方向に移動させることにより、弦4の後方余弦(テールピース7と駒9との間の弦部分)の長さが有効弦(上駒8と駒9との間の弦部分)の長さの1/6程度になるように調整している。なお、12はあご当てである。
【0004】
図6および図7は、従来の消音型電気バイオリンのテールピース保持構造を示す正面図および側面図である。
これらの図において、電気バイオリン20のテールピース21は、ボディ22の裏面側からねじ込まれる止めねじ(図示せず)によってボディ22の表面後端部に固定されている。ボディ22は、アコースティックバイオリン1のボディ2とは異なり細長い板状に形成されて、先端部に棹3が設けられ、側面にはバイオリンの外形をかたどる合成樹脂製のフレーム24が取付けられ、駒9の下には弦4の振動を電気信号に変換するピックアップ(図示せず)が埋め込まれている。
【0005】
図8および図9は、従来の他の消音型電気バイオリンのテールピース保持構造を示す正面図および一部破断側面図である。
これらの図において、電気バイオリン30のテールピース7は、上記したアコースティックバイオリン1と同様に、テールワイヤ11によって保持されており、このテールワイヤ11をエンドピン10によってフレーム24の最下端面に固定している。フレーム24の最下端面には、前記エンドピン10が挿通される孔が形成され、また最下端面の内側には木製のブロック32が固定されており、このブロック32に設けた孔に前記エンドピン10が差し込まれ固定されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−259149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来のバイオリン1と電気バイオリン20、30におけるテールピース保持構造においては、以下のような問題があった。
すなわち、図4および図5に示した従来のバイオリン1のテールピース保持構造は、ボディ2の側板およびこの側板の内面に接着された補強用の木製ブロックの孔にエンドピン10を差し込み、楔効果で保持、固定する構造を採用しているため、経時変化や温湿度変化により木製ブロックの孔とエンドピン10との嵌め合いが緩くなると、弦4の張り替えなどのときにエンドピン10が孔から抜けるという問題があった。
【0008】
図6および図7に示した電気バイオリン20のテールピース保持構造は、テールピース21がボディ22の表面にねじ止め固定されているため、弦4を弓奏してもテールピース21が弦4とともに動かず、演奏者の右手が感じる感触(所謂、弾き心地)が従来のアコースティックバイオリン1とは大きく異なり、アコースティックバイオリンに慣れた演奏者にとって演奏し難いという問題があった。また、テールピース21の固定位置がボディ22の後端から先端側に離れているため、弦4の振動がテールピース21を介してボディ22に伝達されたとき、ボディ22全体を有効に振動させることができず、豊かな音質が得られないという問題もあった。
【0009】
図8および図9に示した電気バイオリン30のテールピース保持構造は、エンドピン10を合成樹脂製のフレーム24を介して木製ブロック32に固定しているため、音質的に合成樹脂製のフレーム24に起因して不自然な響きが発生するという問題があった。
【0010】
さらに、テールワイヤ11を用いた従来のアコースティックバイオリンおよび電気バイオリンのテールピース保持構造は、いずれもボディ2または22の最下端面にテールワイヤ11の後端をエンドピン10によって固定しているので、楽器を正面または側方から見た場合、テールピース保持構造が視認され、特に現代的な電気バイオリンに従来の保持構造を用いた場合、外観がすっきりせず、古風な印象を与えてしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、上記した従来の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、従来と同等の演奏性を維持しながら外観と耐久性を同時に向上させることができるようにした弦楽器のテールピース保持構造を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、ボディの表面後端部に配設されるテールピースをテールワイヤによって保持し、このテールワイヤを止めねじによって前記ボディの裏面後端部に固定し、前記テールワイヤと前記止めねじをカバー部材によって覆ったものである。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、前記テールワイヤがボディの最下端面に取付けられたサドルプレートに沿ってボディの裏面側に導かれているものである。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、前記テールピースの後端部を覆い部材で覆ったものである。
【0015】
また、本発明は、上記発明において、弦楽器がバイオリンまたはビオラであって、ボディが共鳴胴を形成し、覆い部材があご当てからなるものである。
【0016】
さらに、本発明は、上記発明において、弦楽器が電気バイオリンまたは電気ビオラであって、ボディが板状で、覆い部材があご当てからなるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、テールワイヤをボディの裏面後端部に導き、止めねじによって固定するとともに、テールワイヤと止めねじをカバー部材によって覆っているので、ボディの前方、側方および後方からテールワイヤと止めねじが視認されず、外観をすっきりさせることができる。
また、テールワイヤはボディの表面後端部から最下端面と通って裏面後端部に導かれているため、弦の振動をボディの後端に伝達することができる。したがって、厚みの薄い板状のボディを採用した場合においても、従来のバイオリンと同様にボディ全体を有効に振動させることができ、音質が豊かで音響特性を向上させることができる。
また、テールワイヤの固定手段が止めねじであるため、楔効果を利用したエンドピンに比べて経時変化や温湿度変化による影響を受けることが少なく、耐久性の高いテールピース保持構造を得ることができる。
【0018】
テールピースの後端部を覆い部材によって覆った発明においては、テールピースとテールワイヤの接続部分が視認されず、一層外観をすっきりさせることができる。
【0019】
弦楽器がアコースティックなバイオリンまたはビオラである発明においては、覆い部材があご当てであるため、あご当て用の別部材を設ける必要がない。
【0020】
弦楽器が電気バイオリンまたは電気ビオラである発明においては、覆い部材があご当てであるため、あご当て用の別部材を設ける必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明を消音型の電気バイオリンに適用した一実施の形態を示す正面図、図2は側面図、図3は要部の拡大断面図である。これらの図において、電気バイオリン40は、細長い木製のボディ22と、このボディ22の先端部に固定された棹3と、4本の弦4(4a〜4d)と、弦4の両端を係止するペグ5およびテールピース7と、弦4の中間部を支持する上駒8および駒9と、あご当て12と、ボディ22の側面に取付けられた合成樹脂製のフレーム24と、前記テールピース7の後端に取付けられたテールワイヤ11と、このテールワイヤ11をボディ22に固定する固定手段としての止めねじ41等を備えている。
【0022】
前記ボディ22の最下端面22aには、サドルプレート42が止めねじ43によって固定されている。サドルプレート42は、前記テールワイヤ11を所定の角度で引き出すボディ22の裏面側に案内するためのガイド機能と、ボディ22への固定を仲介する機能とを有するもので、金属板の折曲加工によって側面視L字状に形成することにより、ボディ22の最下端面22aに密接される下端側端部42Aと、ボディ22の裏面後端部に密接される裏面側端部42Bとからなり、裏面側端部42Bが前記止めねじ43によってボディ22の裏面に固定されている。一方、下端側端部42Aの前端は、ボディ22の表面側に折り返されてボディ22の表面後端部に係合している。
【0023】
前記テールワイヤ11は、前記サドルプレート42の表面に密接させてボディ22の裏面側に導かれ、前記止めねじ41によって前記裏面側端部42Bに固定されており、これらによってテールピース7の保持構造を構成している。そして、テールピース7の後端部は、あご当て12によって覆われ、テールワイヤ11、止めねじ41、43およびサドルプレート42は、前記フレーム24によって覆われている。
【0024】
このように、本発明においては、テールピース7の保持構造を構成するテールワイヤ11をボディ22の表面後端部から最下端面22aを通って裏面後端部に導き、止めねじ41によってサドルプレート42の裏面側端部42Bに固定し、フレーム24によってテールワイヤ11、止めねじ41、43およびサドルプレート42を覆っているので、テールピース7の保持構造が電気バイオリン40の前方、側方および後方から視認されるおそれがなく、したがってテールピース7の保持構造がすっきりしたものとなり、電気バイオリン40の外観を向上させることができる。また、フレーム24は、電気バイオリン40の外形形状を形成する機能に加えて、カバーとしての機能を有しているので、別部材からなるカバー部材を用意する必要がなく、部品点数の増加を抑制することができる。
【0025】
また、テールピース7の後端をあご当て12によって覆っているので、テールピース7とテールワイヤ11の接続部が前方から視認されることもない。
【0026】
また、テールピース7はボディ22の表面後端部に位置し、テールワイヤ11はサドルプレート42を介してボディ22の最下端面22aおよび裏面後端部に接しているので、弦4の振動をボディ22の後端に確実に伝達することができる。したがって、ボディ22全体を有効に振動させることができ、図6および図7に示した従来の電気バイオリン20に比べてボディ22の音響特性をより反映させることができ、より豊かな音質の電気バイオリンを提供することができる。
【0027】
また、止めねじ41によってテールワイヤ11をサドルプレート42に固定しているので、従来のエンドピンによる固定に比べて経時変化、温湿度変化等による影響が少なく、テールワイヤ11を長期間にわたって安定した状態で固定でき、耐久性の高いテールピース保持構造を提供することができる。
【0028】
さらに、テールピース7は、アコースティックバイオリンのテールピース保持構造と同様に、テールワイヤ11によって張弦方向に移動調整可能に保持されているので、アコースティックバイオリンに慣れた演奏者が弦4を弓奏したときに感じる演奏感、演奏表現力等がアコースティックバイオリンのそれに近く、テールピースをボディに固定した従来の電気バイオリンに比べて明らかに優れている。
【0029】
なお、上記した実施の形態は電気バイオリンに適用した例を示したが、本発明はこれに何ら特定されるものではなく、アコースティックなバイオリン、ビオラや電気ビオラにも適用することができる。
【0030】
また、上記した実施の形態は、サドルプレート42をボディ22の最下端面22aにねじ止め固定したが、サドルプレート42を用いず、テールワイヤ11をボディ22の裏面に直接固定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を電気バイオリンに適用した一実施の形態を示す正面図である。
【図2】電気バイオリンの側面図である。
【図3】電気バイオリンの要部の拡大断面図である。
【図4】従来のバイオリンのテールピース保持構造を示す正面図である。
【図5】テールピース保持構造を示す側面図である。
【図6】従来の電気バイオリンのテールピース保持構造を示す正面図である。
【図7】テールピース保持構造を示す側面図である。
【図8】従来の電気バイオリンの他のテールピース保持構造を示す正面図である。
【図9】テールピース保持構造を示す側面図である。
【符号の説明】
【0032】
2…ボディ、4…弦、7…テールピース、10…エンドピン、11…テールワイヤ、12…あご当て、22…ボディ、24…フレーム、40…電気バイオリン、41…止めねじ、42…サドルプレート、43…止めねじ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディの表面後端部に配設されるテールピースをテールワイヤによって保持し、このテールワイヤを止めねじによって前記ボディの裏面後端部に固定し、前記テールワイヤと前記止めねじをカバー部材によって覆ったことを特徴とする弦楽器のテールピース保持構造。
【請求項2】
請求項1記載の弦楽器のテールピース保持構造において、
前記テールワイヤは、ボディの最下端面に取付けられたサドルプレートに沿ってボディの裏面側に導かれていることを特徴とする弦楽器のテールピース保持構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の弦楽器のテールピース保持構造において、
前記テールピースの後端部を覆い部材で覆ったことを特徴とする弦楽器のテールピース保持構造。
【請求項4】
請求項3記載の弦楽器のテールピース保持構造において、
弦楽器がバイオリンまたはビオラであって、ボディが共鳴胴を形成し、覆い部材があご当てであることを特徴とする弦楽器のテールピース保持構造。
【請求項5】
請求項3記載の弦楽器のテールピース保持構造において、
弦楽器が電気バイオリンまたは電気ビオラであって、ボディが板状で、覆い部材があご当てであることを特徴とする弦楽器のテールピース保持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−163113(P2009−163113A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2224(P2008−2224)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】