説明

弱視の治療方法

本発明は、弱視の症状を治療または緩和するための方法に関する。この方法は、ヒトのうつ病治療において臨床的に活性が認められている特定の薬剤を反復投与することが、弱視眼の視力回復に繋がるという知見に基づくものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
弱視は、片方の目の視覚が、その目の発達段階における不十分な使用によって損なわれた症状であり、治療方法が存在しない一般的な成人の病である。本発明は、弱視の症状を治療または緩和するための方法に関する。本発明は、臨床学的にヒトのうつ症状の治療に活性であることが知られる特定の薬剤(抗うつ剤)の反復投与が、脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現増加及び皮質内抑制の低減を介して、実験動物における弱視の目の視覚を改善させるという発見などに基づくものである。
【背景技術】
【0002】
弱視
弱視とは、視覚情報の処理における機能不全によって特徴付けられる臨床状態である。典型的には、眼科的検査による病的所見を伴わない視力低下として検出されるものである。弱視は、生後発育の臨界期に眼の使用が低下または偏ったことによる、視覚皮質内の視覚情報処理の異常に起因する。多くの場合、生後数年の内に片方の眼に生じた斜視、不同視または視覚遮蔽は、冒された眼の永久的な視力低下に繋がる(Holmes and Clarke, 2006)。弱視は単眼失明の最も一般的な原因であり、その有病率は子供で1〜5%、そして成人では約3%である(Holmes and Clarke, 2006)。成人の弱視には立体視の不足による奥行き知覚の低下が見られ、事故や疾病によって弱視ではない方の眼の視力が失われた場合に全盲となる危険性がかなり高い。幼児期に良い方の眼を眼科的または薬学的に遮蔽して弱い方の眼の使用を促進することで弱視は防ぐことができる。しかし、遮断療法は生後発育の臨界期にのみ有効であり、思春期に臨界期が(ヒトでは約10歳で)段階的に終了すると、遮蔽はもはや有効な手段ではなく、弱視は永久的な物となる。
【0003】
サル、ネコ、ラットやマウスなどの実験動物を用いた実験研究は、過去数十年にわたって弱視の根本に潜む神経生物学的な機構を明らかにしてきた(Berardi et al., 2003)。生後発育の初期には左眼と右眼のそれぞれからの入力が視覚皮質の神経支配に際して競合し、両眼が共に正視な場合、哺乳類の視覚皮質は眼球優位性(OD)コラムと呼ばれる眼特異的なコラムに組織化する。これは、それぞれの眼からの入力が、第1次視覚皮質のIV層へ形態学的および機能的に分離されることを表している。視覚皮質の正常な神経支配には、両眼からのバランスのとれた視覚入力が必要である(Berardi et al., 2003)。従って、生後発育の初期に片眼を閉じ、成人期近くまで閉じたままにすると、開いている眼は遮蔽した眼を乗っ取って徐々に1次視覚皮質のほぼ全域に神経を分布させるが、一方、遮蔽した眼は、視覚皮質内のニューロンとの連結を解剖学的にも生理学的にも失う。このような再組織化は、種によって数日から数年におよぶ生後発育の臨界期に最も効果的に生じ、遮蔽した眼の重度の視力低下に繋がる(Berardi et al., 2003)。臨界期の終了した成人期では、片眼を閉じることは閉じた眼の視力と既に確立された脳内ODコラムへの解剖学的および生理学的な分離に有意な影響を与えることはない。反対に、臨界期に遮蔽した眼は、成人期に眼を開けても、視力が向上したり、失われた解剖学的および生理学的な上記ニューロンとの連結が回復することはない。視覚皮質におけるγ−アミノ酪酸(GABA)介在性の神経抑制の増加と成熟が、発達過程において臨界期の終了をもたらす臨界的な因子であることが報告されている(Berardi et al., 2003)。まとめると、弱視は眼の問題(斜視、不同視または視覚遮蔽)の結果として生じるものの、臨界期の終了後には、弱視は眼の問題ではなく、眼と視覚皮質との間の神経結合の問題となる。臨界期の終了後に眼に潜在する発達過程の問題を正すことのできるいかなる手法(例えば、斜視の外科的処置)についても、弱視眼の視力を回復させたという報告はない。
【0004】
現時点では、臨界期終了後の成人期に遮蔽した眼の視覚を回復または向上に有効な薬学的介入手段は存在しない(Holmes and Clarke, 2006)。L−DOPAおよびシトコリンを用いた補助非盲検臨床試験は、薬理的処置によって成人の弱視を改善させる可能性を示唆したが(Campos and Fresina, 2006)、上記薬剤の副作用によってその使用は妨げられた。発達途中の眼の成長に影響を与えるために薬理物質を使用する方法が提案されているが、発達初期の眼の成長異常は不同視を生じ、弱視の発生へと繋がる恐れがある(WO 9425034 A1、WO 0152832 A1、WO 03032975 A1、US 5567731 A、US 5571823 A、US 2003114830 A1)。しかし、弱視は眼と脳との接続異常であるため、眼の成長に影響を与えるいかなる手段も、臨界期終了後の視覚皮質において失われた弱視眼の神経結合を改善することはできない。細胞外マトリクスを分解する酵素(コンドロイチナーゼABC)の皮質内注入は、成体ラット脳の臨界期可塑性を回復させることが示されているが、視覚皮質の複数の位置に直接酵素を注射する必要がある(Pizzorusso et al, 2002、Pizzorusso et al, 2006)。弱視眼の視力を成人期に向上させることのできる処置は、特に臨界期の終了後に良い方の眼の視力が失われた場合に、非常に望ましいものである。
【0005】
抗うつ薬
ヒトにおけるうつ病と気分障害の症状を治療するために臨床的に使用される薬剤を、抗うつ薬または抗うつ剤と呼ぶ。臨床的な活性が認められる抗うつ剤の大部分が、モノアミントランスポーターであるセロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン、5−HT)またはノルネピネフリン(NE)のシナプス中の濃度を増加させるものであり、このような薬剤は、細胞による再取り込みを阻害するもの(再取り込み阻害剤)または上記トランスミッターを分解するモノアミンオキシダーゼ(MAO)を阻害するもの(モノアミンオキシダーゼ阻害剤、MAOI)である。再取り込み阻害剤は、三環系抗うつ剤、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)および選択的NE再取り込み阻害剤(NSRI)に更に分類される。セロトニン−ノルネピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)は、細胞によるセロトニンとノルネピネフリンの両方の再取り込みを阻害する。抗うつ剤の中では、発生する副作用が比較的少ないと言う理由から、SSRIが最も広く使用される薬剤クラスである。SSRIの中では、フルオキセチンが最も広く使用されている薬剤である。50年にわたる臨床経験によると、公知の抗うつ薬の全てにおいて、臨床的効果を達成するためには少なくとも数週間にわたる反復投与が必要である。
【0006】
抗うつ剤と神経可塑性
神経可塑性は、新しいニューロンまたはシナプス結合を形成するか、現存する結合を解消するか、あるいは現存するシナプス結合の強度を増強または減少させることによって、ニューロンがその結合性を調節する能力を意味する。神経栄養因子である脳由来神経栄養因子(BDNF)は発達途中の脳と成体の脳の両方において重要な神経可塑性調節因子である。過去10年に蓄積された事実は、抗うつ薬が神経可塑性の調節に関与することを示唆している(Castren, 2004)。抗うつ薬は海馬歯状回における新しいニューロンの産生を増加させ、海馬における軸索新芽形成とシナプス形成を増加させる。抗うつ剤による処置は、さらに海馬における可塑性関連遺伝子やタンパク質の発現も増加させる(Castren, 2004)。具体的には、全ての公知抗うつ剤クラスの代表的なものが、反復投与によってBDNFのmRNAの産生を増加し、1回または反復投与の後には、BDNF受容体であるtrkBの自己リン酸化の増加として測定されるtrkBの活性化をもたらした(Castren, 2004)。BDNFとその受容体であるtrkBは、神経可塑性の重要なメディエーターであり、少なくとも齧歯動物においては、抗うつ薬の効力に対しても重要なメディエーターである。
【0007】
発明の概要
本発明の目的は、生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトにおいて、弱視を治療または緩和するための方法を提供することである。
【0008】
本願明細書において、「生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒト」という表現は、生後視覚発達の臨界期を過ぎた全てのヒト(若者、成人)を意味する。臨界期の終了は段階的ではあるが、典型的には、ヒトで臨界期が約10歳を超えることはない。
【0009】
本発明の他の目的は、既にヒトの気分障害の治療に認められている抗うつ薬の新しい適応症として弱視を提示することにある。従って本発明は、生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するための薬剤の製造における、抗うつ薬の使用に関する。
【0010】
本発明の更なる目的は、視覚皮質においてBDNFを増加させるか、GABA介在性の抑制作用を減少させる化合物を用いて、弱視を治療または緩和するための方法を提供することである。
【0011】
本発明の他の更なる目的は、薬剤療法とリハビリテーション療法とを組み合わせた、弱視の治療方法を提供することである。
【0012】
本願明細書において「リハビリテーション」とは、弱視眼の使用を支持または促進する全ての手段を意味する。リハビリテーションには、弱視ではない方の眼の視界の物理的(眼帯による)遮蔽や薬理学的遮蔽、または弱視眼の使用を促進する強化プログラムが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
本発明の更なる目的は、生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するための方法であって、大脳皮質においてBDNF(脳由来神経栄養因子)のレベルを増加させることが知られる少なくとも1種の薬剤を有効量投与することを包含し、好ましくは薬剤投与をリハビリテーション療法と組み合わせることを特徴とする方法を提供することである。
【0014】
上記及び他の目的は、抗うつ薬、特にSSRI、より具体的にはフルオキセチンが、生後視覚発達の臨界期を過ぎた哺乳動物において弱視の治療に使用可能であることを示す本発明によって達成されるものである。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、ヒトにおいてうつ病の緩和、皮質におけるBDNF発現の増加または皮質抑制の減少をもたらす分子による弱視の治療または緩和に関する。さらに本発明は、このような処置とリハビリテーション療法を組み合わせて適用することによって弱視を緩和する方法に関する。
【0016】
従って本発明の目的は、生後視覚発達の臨界期を過ぎた弱視のヒトに、ヒトのうつ症状を緩和する少なくとも1種の薬剤(抗うつ薬)を有効量投与することを包含する、弱視のヒトを治療するための方法に関する。
【0017】
この方法は、弱視の対象者に少なくとも1種の抗うつ薬を経口投与することを含むことが好ましい。本発明の好ましい態様は、弱視眼の使用を支持または促進するためのリハビリテーション療法を更に包含する。
【0018】
本発明の他の目的は、生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するために、好ましくはリハビリテーション療法と組み合わせて使用するための薬剤の製造における、抗うつ薬の使用に関する。
【0019】
本発明は、うつ病患者に投与した際に臨床的な抗うつ活性を示すことが知られている、ある種の薬剤を成体ラットに投与すると、視覚皮質の可塑性変化を誘導し、発達途中の視覚系において発達臨界期に見られるのと同様の機能的な結果が得られるという知見(実施例を参照)に基づくものである。このような抗うつ薬としては、三環系抗うつ剤などの再取り込み阻害剤、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、選択的ノルネピネフリン(NE)再取り込み阻害剤(NSRI)およびセロトニン−ノルネピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)などの再取り込み阻害剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の方法において使用することが好ましい抗うつ薬は、種々のSSRIからなる群より選ばれるものである。好ましいSSRIとしては、例えば、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラムおよびエスシタロプラムが挙げられ、特にフルオキセチンが好ましい。SNRIとしては、例えば、ドロキセチン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、ビシファジンおよびミルタザピンが挙げられる。
【0020】
さらに公知の抗うつ薬に加え、大脳皮質における脳由来神経栄養因子(BDNF)のレベルを増加させることのできる他の化合物や治療剤も、生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するために、好ましくはリハビリテーション療法と組み合わせて使用することができる。
【0021】
従って本発明は、生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するために、大脳皮質におけるBDNF発現レベルの増加またはGABA介在性の皮質抑制の減少をもたらす分子を、好ましくはリハビリテーション療法と組み合わせて適用する方法にも関する。
【0022】
本発明の更なる目的は、生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するための治療剤の製造における、大脳皮質のBDNF発現レベルの増加またはGABA介在性の皮質抑制の減少をもたらす化合物の用途に関する。
【0023】
ラット、サルおよびヒトにおいて、臨界的発達期間に比較的短期間(例えば、一週間)に渡って片眼を閉じること(片眼遮蔽、MD)は、開いている眼が閉じた眼の犠牲の上に優性となるほど劇的な再編成を視覚皮質の神経支配と機能にもたらすことが確立されている(Berardi et al., 2003)。この再編成は、閉じた眼の劇的な視力低下に反映され、ラットにおいては電気生理学的手法または行動学的手法によって観察することができる(実施例を参照)。同様に、同一種間に置いては、臨界期終了後の成体における同等のMDは認識できるほどの再編成を生じることはないことも確立されている。機能的には、成体におけるこのような再編成の欠如は、MD実施期間中の閉じた眼と開いた眼の視覚変化の欠如として反映される。しかし、実施例に記載したように、成体ラットを4週間に渡ってフルオキセチンで処置し、処置の最後の週にMDに付すと、開いている眼の視力が主要となる劇的なシフトが視覚皮質に観察される。このシフトは、刺激に対する応答が遮蔽した眼では低下し、開いていた眼では刺激に対する応答性に変化がないことから、臨界期の真最中にある若いMDラットに観察されるのと質的に類似している。成体ラットのフルオキセチン処置単独、即ち、片眼の遮蔽なしの処置は、どちらの眼にも視覚刺激に対する応答性のシフトを生じなかった。この結果は、抗うつ薬処置が視覚皮質における臨界期可塑性を回復させるが、視覚皮質の両眼性にシフトを生じるためには、片眼の視覚遮蔽が必要であることを示唆している。さらにフルオキセチン処置単独は、視覚皮質における方位選択性や細胞応答性に影響を与えることはなかった。
【0024】
MDに付した眼を臨界期に開くと、部分的または完全な回復が起こり、反転縫合する(reverse suture;即ち、遮蔽した眼を開き、今まで開いていた眼を閉じるように縫合する)と、遮蔽されていたが今は開いている眼に好ましい再編成が生じる。ヒトにおいては、これは臨界期により見える方の目に眼帯をすることで子供の弱視の発生を防止する方法に相当する。しかし、MDが臨界期の終わりを過ぎて行われ、閉じた眼を成人期になってから開けた場合、機能的な回復または視力の回復は観察されない。同様に反転縫合も機能的または解剖学的な変化をもたらさない。臨床的には、実験動物における上記知見は、慢性弱視の発生、即ち、臨界期が終了する前に眼の遮蔽パラダイムによってMDまたは偏った眼の使用を処理しなかった場合と相関する。しかし、実施例で示したように、発達初期(生後21日目)にMDに付した成体ラットに対して、うつ病のヒトを処置する際のフルオキセチン血漿レベルと同等になる量のフルオキセチンを用いて4週間に亘り経口処置を行い、処置の最後の2週間は反転縫合に付すと、発達過程では閉じていたが、薬剤処置の際は開いていた眼の方への劇的なシフトが生じた。より重要な点は、開けた目の視力が回復し、双眼視が回復したことである。これらの知見は、抗うつ剤であるフルオキセチンは、哺乳動物の成体において発達臨界期の再開を誘導し、臨界期の真最中で生じるのと同等の視覚皮質内の機能的再組織化を可能にすることを示唆している。
【0025】
長期増強(LTP)とは、特定のシナプス結合に対する短く強い刺激によってもたらされる、2つのニューロン間のシナプス強度の長期にわたる増加であり、神経可塑性と記憶の実験モデルと考えられている。白質内の視覚皮質に入る視床入力繊維のシータバースト刺激パラダイムによる刺激は、未成熟の視覚皮質においてLTP(WM−LTP)を容易に誘導するが、成体の視覚皮質においてはLTPを誘導しない(Artola and Singer, 1987、Kirkwood and Bear, 1994)。WM−LTP誘導性の喪失は、視覚可塑性の臨界期の終了と相関する。局所GABA含有インターニューロンによる抑制性制御の増加は、臨界期の終了とWM−LTP応答の喪失を制御する少なくとも1種のメカニズムと考えられている。
【0026】
BDNFは神経可塑性の重要なレギュレーターであることが知られている。抗うつ薬は、海馬におけるBDNFとそのmRNAのレベルを増加することが知られ、BDNFシグナル伝達は、齧歯動物における抗うつ薬の行動効果に重要であることが示されている(Castren, 2004)。実施例で示したように、フルオキセチンによる3週間の処置は、視覚皮質においてもBDNFレベルを増加させる。さらに視覚皮質へのBDNFの注入は、フルオキセチンの経口投与による処置の後に観察されるのと同様の臨界期可塑性の再活性化を誘導し、これはBDNF発現の増加は、視覚皮質におけるフルオキセチンの可塑性増強効果を仲介する可能性を示している。
【0027】
GABA介在性の皮質抑制は生後発育の途中に増加し、成熟する。このような皮質阻害の増加は臨界期の終了に不可欠な影響を与える。皮質のGABA含量は臨界期の終了に向けて増加し、このGABAの増加を防止すると、臨界期は継続したままになる。反対に、実施例で示したように、フルオキセチンの3週間に亘る経口投与は、皮質の細胞外GABAレベルの低下をもたらし、視覚皮質の臨界期可塑性の再活性化に繋がる。フルオキセチンの経口投与期間中に、GABA−A受容体のエンハンサーであるジアゼパムの皮質内注射によって皮質のGABAシグナル伝達を人工的に増加した場合、成体視覚皮質における可塑性の増加は防止される。
【0028】
本発明は、生後視覚発達の臨界期終了後に弱視眼の視力を回復させるための抗うつ薬の使用に関する。さらに本発明は、遮蔽療法と抗うつ剤による薬剤処置との組み合わせにも関する。発達臨界期である幼少期には、物理的または薬理学的に視覚を妨げるか減少させて優勢な眼を不利な状況に置くことで、弱視を緩和または防止することが可能である(Holmes and Clarke, 2006)。ヒトにおいて遮蔽療法は、約10歳以降はあまり効果的ではないことが知られている。気分障害のために抗うつ剤を摂取している生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトにおいて、弱視眼の視力が向上したという報告はないが、幼少期の弱視を防止するためには遮蔽療法が必要であることから、これは驚くべきことではない。実施例で示したように、出生後生活期間の初期にMDによって弱視となったラットの遮蔽(反転縫合)は、フルオキセチンの反復経口投与による処置と組み合わせると、臨界期の真最中における遮蔽方法によって生じるのと同様の変化をもたらすことができる。従って、抗うつ薬処置と、特定のリハビリテーション処置[例えば、視覚的方法(眼帯の使用)または薬学的方法(局所アトロピン目薬)で優性な眼を不利な状況に置くこと]を共に組み合わせて適用することが、成人期における回復にも必要であると考えられる。
【0029】
弱視を患う哺乳動物に対する抗うつ薬の投与は、弱視眼の使用を支持または促進するいかなる手段(リハビリテーション処置)の適用前、適用と同時、または適用の前ならびに適用と同時に行うことができる。ヒトうつ病患者において抗うつ薬の臨床的に適切な効果が得られるまでには数週間の遅延があるため、弱視の場合も、遮蔽療法の開始前に数週間に亘って抗うつ薬の反復投与を行うことが好ましい。薬剤処置の総期間は達成される臨床応答によるが、実施例で示したラットほど急速に(約1週間以内に)変化が起こることは期待できず、薬剤処置の適用、または薬剤処置とリハビリテーションの組合せの適用は、より長期間、例えば1年間、に亘って継続する必要があると考えられる。また、連続的な薬剤処置と周期的な遮蔽療法を組み合わせたり、薬剤処置と遮蔽の両方を短期間行い、後に望ましい応答が得られるまで、複数回にわたって繰り返すことも考えられる。しかし、処置を一生続けなければならないとは考えられない。処置の最中に得られた安定な臨床応答は、抗うつ剤処置の適用、または抗うつ剤処置と遮断処置の組み合わせの適用を中止した後でも持続すると考えられる。
【0030】
抗うつ薬は経口投与に適した医薬組成物の形態で投与することができる。実施例では、視力の有意な向上が血漿濃度350ng/mlとなる量のフルオキセチンによる処置で達成され、この量は、うつ病の処置に推奨されているフルオキセチン血漿濃度(50〜450ng/ml)の治療学的範囲内である。従って、投与する抗うつ薬の量は、少なくともうつ病の治療に推奨されるレベルの量であると考えられる。
【0031】
本発明によると、弱視の治療を必要とする対象に投与する組成物は、薬学的に許容される担体と、抗うつ薬または視覚皮質においてBDNFレベルの増加またはGABAレベルの減少をもたらす他の薬剤から選ばれる少なくとも1種を包含する。組成物における抗うつ薬の濃度は、抗うつ剤の種類と医薬処方に依存する。うつ病の経口処置に現在使用されている医薬処方が弱視の処置にも使用できると考えられる。
【0032】
本発明について、以下の実施例で更に説明する。以下の実施例は、本願請求項の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0033】
抗うつ剤であるフルオキセチンにより誘発される、片眼遮蔽(monocular deprivation)された成体ラットの視覚皮質における機能的再編成。
【0034】
1.1 材料及び方法
1.1.1.動物治療実験

この実験では、成体のロングエバンスラット(Long-Evans hooded rats)を使用した。ラットは、プレキシグラスの檻(40×30×20cm)にグループ分けして入れ、随意に餌と水を与える標準的な条件下で、12時間:12時間の明暗サイクルで飼育した。
【0035】
フルオキセチン投与

生後日数(P)70日の成体のラットに、フルオキセチン(濃度0.2mg・ml-1の飲料水)(塩酸フルオキセチン、Geleno社(イタリア国、プラート)製)を4週間に亘り全身投与した。対照動物として、フルオキセチン投与を行わない以外は、上記と同様の条件でラットを飼育した。上記方法による投与は、ラットにおいて定常状態の血漿濃度356±99ng/mlとなり、これはヒトのうつ治療における推奨血漿濃度(50〜450ng/ml)の範囲内である。
【0036】
片眼遮蔽(monocular deprivation、MD)

眼球優位可塑性を評価するために、フルオキセチンまたはベヒクル投与の第3週開始時(P90)に、まぶたを縫合することによる1週間の片眼遮蔽(MD)を行った。具体的には、処置中の成体動物を、アベルチン(1ml・kg-1)で麻酔し、定位装置上に固定して、片眼遮蔽した。まぶたの閉鎖は、縫合創が完全に治癒するまで毎日検査し、遮蔽した目が、ほんのわずかでも自発的に再開したものは除外した。MDの後、数日は、抗生物質やコルチゾンを局所的に適用することにより、遮蔽した目の炎症や感染を防ぐよう細心の注意を払った。
【0037】
また、長期間のMD分析を行うために、ラットをアベルチン(1ml・kg-1)で麻酔し、まぶたを縫合することにより、P21で片眼遮蔽した。まぶたの閉鎖は、縫合創が完全に治癒するまで毎日検査し、遮蔽した目が、ほんのわずかでも自発的に再開したものは除外した。次に、成体の弱視ラットは、フルオキセチンまたはベヒクルの反復投与の第2週開始時(P85)に、麻酔下で反転縫合(reverse suture、RS)に付した。即ち、長期に亘って遮蔽された目を、薄型のハサミで再開し、他方の目を縫合により遮蔽した。RSの後、数日は、抗生物質やコルチゾンを局所的に適用することにより、遮蔽していた目の炎症や感染を防ぐよう細心の注意を払った。
【0038】
1.1.2.機能的変化の評価
In vivoでの電気生理学的分析、眼球優位可塑性及び視力

フルオキセチンの反復投与の最期の段階において、一週間片眼遮蔽された成体動物(P100)を、ウレタン(0.7ml・kg-1、Sigma社製20%生理食塩水溶液)を腹腔内注射することにより麻酔し、定位フレーム内に配置した。ウレタンを追加投与して、実験中、麻酔のレベルが一定になるようにした。ラットの体温は継続的にモニターし、実験中、サーモスタット付き電気毛布にて約37℃に維持した。心電図は、継続的にモニターした。頭蓋骨の、遮蔽した目の反対側で一次視覚野の両眼性部位(両眼性領域Oc1B)に対応する位置にドリルで穴を開けた。脳の表面を露呈させた後、硬膜を除去し、NaCl(3M)で満たされたマイクロピペット(2MΩ)を、λ(矢状縫合とラムダ状縫合とが交わる部位)から皮質に5mmの深さまで挿入した。両眼とも固定し、眼球の外側を覆う調整可能な金属製リングによって開いた状態に維持した。両目の視力を、視覚誘発電位(VEP)により測定した。一方の眼のVEP記録中は、他方の眼は黒の粘着テープで覆った。VEPを記録するために、電極を皮質の100または400μmの深さまで到達させた。これらの深さでは、VEPの振幅は最大となる。得られた信号は、バンドパスフィルタ(0.1〜100Hz)を通し、増幅して、公知の手法で分析するためにコンピュータに入力した(Huang et al.,1999)。簡単に説明すると、少なくとも128の事象を、コントラスト反転させた刺激と同期させて平均化した。時間領域における、急なコントラスト反転(0.5Hz)に対するVEPの過渡応答を、ピーク−ベースライン振幅及び主要な陰性成分のピークレイテンシを測定することにより評価した。視覚刺激としては、異なる空間周波数及びコントラストの水平な正弦波グレーティングを用いた。この正弦波グレーティングは、VSG2/2カードと専用のソフトウェアで生成し、ラットの眼から20cmの距離の位置に、予め特定した受容野と中心を揃えて配置したモニター(20×22cm、輝度:15cdm-2)上に表示した。視力は、VEP振幅を対数空間周波数に対してプロットして得られる曲線における最期の4または5個のデータ点の線形回帰を、ゼロ振幅に外挿して得た。両眼性(眼球優位性)は、対側(contralateral)の同側(ipsilateral)に対するVEP比(C/I)(即ち、記録が行われている視覚皮質に対して対側及び同側の眼を刺激することにより記録されたVEPの振幅の比)を計算することにより評価した。
【0039】
視力の行動学的評価

RSを行う前に、開いている(遮蔽されていない)方の眼の視力を測定し、フルオキセチン処置開始時に、長期片眼遮蔽ラット(P70)の正常な方の眼の視力の行動学的評価を開始した。そして、RS後、治療の第3週(P90)中に、長期遮蔽された眼の視力の測定を開始した。従って、以前遮蔽されていた眼の視力測定は、ラットが約P100となり、フルオキセチン反復投与の終わりの段階で完了した。該視力の測定には、ビジュアルウォータータスク(visual water task)(Prusky et al., 2000)を使用した。ビジュアルウォータータスクは、最初、ラットを低い空間周波数(0.1サイクル/度(c deg-1))の縦型グレーティングをグレーから識別するよう訓練し、その後、より高い空間周波数でこの能力の限界を試験する。この装置は、一方の端に2枚のパネルが隣り合わせて配置されてなる台形のプールから成る。中央の分割体は、プールの広い方の端から中央に延び、1つの幹部と2つのアーム部を有する迷路を形成する。該分割体の長さによって、選択点と有効空間周波数が決定される。脱出道はグレーティングの下に位置する。ラットは、プールの該パネルの反対側の端の中央から放される。訓練するラットによって、グレーティングと脱出道の位置を疑似ランダムシーケンスで変更し、ラットを迷路の手の一方のグレーティングに向かって泳ぐように仕込んだ。ラットが、脱出道にたどり着かずに迷路のアーム部分に入った場合には、トライアルは不正確として記録する。ラットが、脱出道を見つけた場合には、ラットをプールから取り除いた。80%の正確性が得られた時点で、識別能力の限界をグレーティングの空間周波数を上げることにより評価した。視力については、精神測定関数にあてはめたシグモイド関数の正しい選択の70%に対応する空間周波数を視力とした。このセッションの間、実験者は実験グループを識別していなかった。
【0040】
1.1.3.生化学的変化の評価
In vivoでの脳内微小透析

フルオキセチンの反復投与の1週間前に、成体ラット(P70)を麻酔し、ステンレス製のガイドシャフトを、両眼性視覚野(両眼性領域Oc1B)の上、且つブレグマの7.3mm後方、正中矢状縫合の4.4mm横、頭蓋骨の1mm腹側の座標に定位的に埋め込んだ。フルオキセチンの反復投与終了後に、埋め込んだガイドシャフトに、微小透析プローブを挿入し、in vivoでの透析物のサンプリングを行った。具体的な操作については、Hernandez et al., 1986に報告されている。簡単に説明すると、上記のプローブは、溶融シリカ・ポリイミド被覆毛細管が、先端部1mmが露出したセルロース幕(カットオフ分子量6000)である26ゲージのステンレス製チューブに同心的に挿入されてなる。このプローブは、人工CSF (142 mM NaCl、3.9 mM KCl、1.2 mM CaCl2、1 mM MgCl2、 1.35 mM Na2HPO4 、pH 7.4)を流速1μリットル・秒-1で供給する透析システムに連結した。プローブは、上記ガイドシャフトの先端から1mm突出していた。プローブの挿入から6時間(安定化期間)後にサンプリングを行った。自由に活動するフルオキセチン処置ラット及び対照ラットのそれぞれから6つのサンプル(各20μl)を、20分毎に2時間に亘って採取した。
【0041】
組織学的分析

脳内微小透析の後、ラットは、抱水クロラールの過剰投与により殺し、上記したように心臓内潅流させた。ラットの脳は、2時間ポストフィックスした後、30%スクロースのPBS溶液に浸漬させた。後頭葉皮質から冠状部位40μmを滑走式ミクロトーム(sledge microtome)で切り出して、PBS中に採取した。採取した脳のサンプルは、Oc1B中のプローブの位置を確認するために、クレジルバイオレットで染色した。後の分析においては、プローブが正しい位置に存在しているラットだけを考慮した。
【0042】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)

微小透析物からのγ−アミノ酪酸(GABA)及びグルタミン酸塩(GLU)の基底レベル分析を、蛍光検出器と組み合わされた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行った。o-フタルアルデヒドによるサンプル自動誘導化(Waters 2690 Alliance)を行った(Calabresi et al., 1995)。分離は、蛍光検出器(Waters 474、励起波長:350 nm、発光波長:450nm)に取り付けられたC18逆相クロマトグラフィーカラムによって行った。緩衝液は以下の通りであった:溶液A: 0.1M 酢酸ナトリウム(pH 5.8)/メタノール 20/80; 溶液B: 0.1M 酢酸ナトリウム(pH 5.8)/メタノール 80/20; 溶液C: 0.1M 酢酸ナトリウム(pH 6.0)/メタノール 80/20。勾配プログラムは以下の通りであった:初期無勾配段階0〜5分、 5% 溶液A、95%溶液C; 4〜5分 15%溶液A、85%溶液B、その後、9分まで無勾配; 14.5分まで22%溶液A、66%溶液B、その後、17分まで、34%溶液A、66%溶液B; 19分まで5%溶液A、95%溶液C、その後、無勾配。流速は、 0.9 ml・秒-1であった。ホモセリンを内部標準として使用し、アミノ酸濃度は、注射したアミノ酸の既知濃度から作成した一次標準曲線(linear standard curve)から計算した。ピーク面積を比較に用いた(Waters Millenium 32)。
【0043】
LTP記録

フルオキセチン処置ラット及び対照ラット(P100)から脳を採取し、以下の組成の氷冷切断溶液に浸漬した(単位はmM): スクロース 220、 KCl 3.1、 K2HPO4 1.0、NaHCO3 4.0、MgCl2 2.0、CaCl2 1.0、HEPES 10、アスコルビン酸 1.0、ミオイノシトール 0.5、ピルビン酸 2.0、キヌレン酸塩(pH 7.3) 1.0。ライカ ビブラトーム(ドイツ国、Nussloch社製)を用いて、視覚皮質の厚み0.35mmの切片を得た。切片(フルオキセチン処置ラットからの切片数は12、標準ラットからの切片数は14)は、35℃の酸素添加記録溶液と共に2ml・秒-1の速度で環流した。この記録溶液は、上記の切断溶液とは以下の点で組成が異なる(単位はmM): NaCl 130、デキストロース 5.0、 MgC12 1.0、CaCl2 2.0、グリシン 0.01、キヌレン酸塩 0、スクロース 0。電気刺激(刺激幅 100μ秒)は、白質と第6層との境界に配置した2極同軸刺激電極(メイン州、ボードインハム、FHC社製)によって与えた。第2層−第3層間の電場電位は、NaCl(3M)で満たされたマイクロピペット(1〜3MΩ)によって記録した。ベースライン応答は、30秒毎に、最大応答の半分の応答が得られる電気刺激にて測定した。15分間、安定したベースライン(電場電位の振幅が15%以内であり、明らかな増加または減少傾向が見られない状態)が得られた後に、θバースト刺激(TBS)を与えた。TBS後のシナプス後電場電位は、30秒毎に30分に亘って記録した。
【0044】
酵素免疫定量法(ELISA)

BDNFタンパク質の発現を、フルオキセチンの反復投与の最終段階において、ELISAによって評価した。最初に、溶解緩衝液(1% Triton X-100、10% グリセロール、 20 mM TrisHCl pH 7.5、150 mM NaCl、10 mM EDTA、0.1 mM Na3VO4、1.25 g/ml ロイペピチン、 1.25 g/mlアプロチニン、1 mM PMSF)を用いて、新鮮な視覚皮質及び海馬のそれぞれからタンパク質を抽出した。サンプルの総濃度は、タンパク質アッセイキット(カリフォルニア州、ハーキュリーズ、Bio-rad社製)を用い、BSAで作成した標準曲線を利用して測定した。その後、BDNF発現を、合計100μgの3群のタンパク質をELISAプレートに入れ、標準曲線と共に評価し、製造元のプロトコル(BDNF、Promega)の処方に従って処理した。
【0045】
1.1.4.BDNFの皮質内投与

1週間のMDの間に、異なるグループ(各4匹)の成体ラットの皮質内にBDNFを注入した。PEチューブを介してステンレス製カニューレ(30ゲージ)に連結された浸透圧ミニポンプを、遮蔽した眼の反対側の視覚皮質に埋め込んだ。浸透圧ミニポンプ(流速:0.5μl・時間-1)は、BDNF(1ng・μl-1)で満たした。ラットは、手術後、直ちに標準状態の檻に移した。VEPによるC/I比の電気生理学記録は、上記したように、BDNFの皮質内投与の1週間後に行った。BDNFは、この濃度(1ng・μl-1)では、注入箇所(λから4.5mm)の1.2mm横に拡散することを既に確認している。サンプルの偏りを防止するために、Oc1b(λの横4.9、5.0、5.1mm)におけるBDNFの拡散領域内の3つの異なる貫通箇所においてVEPを記録した。VEPの記録は、それぞれの貫通箇所において、深さ100μm及び400μmで行った。
【0046】
1.1.5.ベンゾジアゼピン(ジアゼパム)の皮質内注入

フルオキセチンによる長期処置の最後の週の始めにおいて(処置の21日目)、異なるグループのラットをMDに付した。これと平行して、麻酔下で、PEチューブを介してステンレス製カニューレ(30ゲージ)に連結された浸透圧ミニポンプを、遮蔽した眼の反対側の視覚皮質に埋め込んだ。浸透圧ミニポンプ(流速:0.5μl・時間-1)は、ベンゾジアゼピンの作動薬であるジアゼパム(DZ:2mg・ml-1、n=4)またはベヒクル溶液(50%プロピレングリコール、n=4)で満たした。ラットは、手術後、直ちに標準状態の檻に移し、更に1週間、フルオキセチン処置に付した。VEPによるC/I比の電気生理学記録は、上記したように、抗うつ剤処置の終盤に行った。
【0047】
1.2.結果
1.2.1.フルオキセチンの反復経口投与後の成体視覚皮質における眼球優位(OD)可塑性の再活性化

最初に、フルオキセチンで反復的に処置された成体ラットの眼球優位(OD)可塑性に対する1週間の片眼遮蔽(MD)の効果を、遮蔽された眼の反対側に位置する第1視覚皮質の両眼性領域における視覚誘発電位(VEP)を記録することにより調べた。VEPは、パターン化された視覚刺激に対する1群のニューロンの統合反応を表し、視力(VA)及び両眼性変化の評価に一般的に利用されている(Huang et al, 1999、 Porciatti et al, 1999)。OD(両眼性)は、対側(contralateral)の同側(ipsilateral)に対するVEP比(C/I)(即ち、記録が行われている視覚皮質に対して対側及び同側の眼を刺激することにより記録されたVEPの振幅の比)を計算することにより評価した。成体ラットにおいては、C/I VEP比は2.5付近であり、網膜投影における交差繊維の優位性を反映している。対照ラットにおいて、MDは遮蔽された眼の反対側の視覚皮質の両眼性に変化は与えなかった(C/I VEP比:2.73±0.2、n=5)。対照的に、フルオキセチン処置された成体ラットにおいては、MD後に非遮蔽眼の側にODが顕著にシフトし(C/I VEP比:1.0±0.08、t検定:p < 0.001、n=5)(図1のA)、通常は脳発達の初期に限られている可塑性変性が見られた。
【0048】
1.2.2.フルオキセチンの反復経口投与後の成体弱視ラットにおける視覚機能の回復

次に、フルオキセチンによる反復処置が視覚皮質の可塑性に与える影響を更に評価するために、長期MDにより弱視化し、最後の2週の抗うつ剤処置間に反転縫合(RS)を施した(「方法」の項目参照)成体ラットにおける視覚機能の回復を評価した。視力(VA)を、長期遮蔽眼の反対側の視覚皮質(VC)からの視覚誘発電位(VEP)を記録して測定した。対照ラットにおいては、先に遮蔽した眼の視力(0.62±0.06 c deg-1) は、反対側の眼の視力(1.06±0.01 c deg-1)と比較して回復の兆候は見られなかった (図1のB)。対照的に、フルオキセチン処置された成体ラットは、完全な視力回復を見せた(0.97±0.04 c deg-1)。VEPを記録したのと同じラットにおけるVAの行動学的測定(ビジュアルウォータータスク)によって、電気生理学的データの妥当性を確認した:フルオキセチン処置した長期間片眼遮蔽ラットにおいては完全なVAの回復(0.88±0.02 c deg-1)が明らかであり、対照の方では回復が明らかでなかった(図1のC)。VAを評価したのと同様のラットについて、C/I VEP比を測定してODを評価した。対照ラットにおいては、先に遮蔽した眼の反対側の視覚皮質の両眼性の回復は見られなかった(C/I VEP比:1.11±0.20)(図1のD)。これに対して、フルオキセチン処置した成体ラットにおいては、C/I VEP比が2.25±0.17であり、両眼性の完全な回復が見られた。
【0049】
1.2.3. 成体視覚皮質のBDNF発現に対する、フルオキセチンの反復経口投与の影響

抗うつ剤の反復投与は、辺縁構造、特に海馬、において神経栄養因子であるBDNFの発現を増加させるため(Nibuya et al, 1995、Castren, 2004)、フルオキセチンの反復投与を実施した後の成体ラット視覚皮質におけるBDNFタンパク質レベルをELISA法で測定した。BDNFタンパク質発現は、対照と比べてフルオキセチン処置成体ラットの視覚皮質で有意に高かった(t検定:p<0.04、n=6)(図2のA)。BDNFタンパク質発現は、フルオキセチン処置成体ラットの海馬においても、対照と比べて同様に増強されていた(t検定:p<0.01、n=6)(図2のB)。増加したBDNF発現が成体の視神経系における可塑性の回復の原因となっているのかを調べるために、次にMDと並行してBDNF(1ng・μl-1)の皮質内注入を(浸透圧ミニポンプで)実施したラットにおけるODを評価した。ベヒクル養液を注入した対照ラットにおいては、遮蔽した眼と反対側の視覚皮質の両眼性に変化は見られなかった(C/I VEP比:2.44±0.1、n=2)。一方、BDNFの皮質内注入を実施した成体ラットは、MDに応じてODシフトを示した(C/I VEP比:1.32±0.08、t検定:P<0.001、n=4)(図2のC)。
【0050】
1.2.4. 成塾視覚皮質のGABA作動性神経伝達に対する、フルオキセチンの反復経口投与の影響

フルオキセチン誘導性の視覚皮質可塑性がGABA作動性神経伝達の変化と同時に起こるのか否かについて、in vivoの脳微小性透析を用いて調査した。γ−アミノブチル酪酸(GABA)の細胞外基礎レベルを定量したところ、対照と比べて、フルオキセチン処置成体ラットの視覚皮質において皮質内抑制が有意に減少していることが判明した(図3のA)(二元配置分散分析ANOVA:p=0.02、post hoc Holm-Sidak検定:p<0.02、n=5)。フルオキセチン処置動物と対照動物の間で、細胞外グルタメート(GLU)レベルに違いは見られなかった(データは示さない)。
【0051】
皮質内抑制の減少を更に評価するために、白質からのシータバースト刺激の後のII層−III層電位の長期増強(WM−LTP)、即ち、皮質内抑制性回路の成熟故に成体には存在しないシナプス可塑性の一形態(Artola and Singer, 1987、Kirkwood and Bear, 1994)について調べた。注目すべきことに、フルオキセチン処置成体ラットにおいてWM−LTPは完全に回復していた(図3のB)。対照動物にはWM−LTPは見られなかった。
【0052】
成人期における視覚皮質の可塑性の再開の根底に皮質内抑制の減少が存在するか否かを直接調べるために、MDの期間中にベンゾジアゼピンの作動薬であるジアゼパム(2mg・μl-1)またはベヒクル溶液を皮質内注入したフルオキセチン処置成体ラットのODを評価した(図3のA)。フルオキセチンの長期間処置を行った成体ラットにおけるジアゼパムの皮質投与は、MDによって誘導されるODシフトを完全に防止した(図3のB)。ベヒクル溶液の皮質内注入を実施した対照動物は、MD後に、遮蔽していない眼の方にODシフトを示した(C/I VEP比:1.07±0.04、t検定:P=0.01、n=3)。
【0053】
特許文献

WO 9425034 Al (University of Pennsylvania), 1994.

WO 0152832 Al (Valley Forge Pharmaceuticals), 2001.

WO 03032975 Al (The Trustees of the University of Pennsylvania), 2003.

US 5567731 A (Laties A., et al.), 1996.

US 5571823 A (Stone R. A., et al.), 1996.

US 2003114830 Al (Guerrero J.M.), 2003)
【0054】
非特許文献

Artola A, Singer W (1987) Long-term potentiation and NMDA receptors in rat visual cortex. Nature 330:649-652.

Berardi, N., Pizzorusso, T., Ratto, G.M., and Maffei, L. (2003). Molecular basis of plasticity in the visual cortex. Trends in Neurosciences 26, 369-378.

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Campos EC, Fresina M. (2006) Medical treatment of amblyopia: present state and perspectives. Strabismus. 2006 14:71-3.

Castren, E. (2004). Neurotrophic effects of antidepressant drugs. Curr. Opin. Pharmacol. 4, 58-64.

Hernandez L, Stanley BG, Hoebel BG (1986) A small, removable microdialysis probe. Life Sci 39:2629-2637.

Holmes,J.M. and Clarke,M.P. (2006). Amblyopia. The Lancet 367, 1343-1351.

Huang ZJ, Kirkwood A, Pizzorusso T, Porciatti V, Morales B, Bear MF, Maffei L, Tonegawa S (1999) BDNF regulates the maturation of inhibition and the critical period of plasticity in mouse visual cortex. Cell 98:739-755.

Kirkwood A, Bear MF (1994) Hebbian synapses in visual cortex. J Neurosci 14:1634-1645.

Nibuya M, Morinobu S, Duman RS (1995) Regulation of BDNF and trkB mRNA in rat brain by chronic electroconvulsive seizure and antidepressant drug treatments. J Neurosci 15:7539-7547.

Pizzorusso T, Medini P, Berardi N, Chierzi S, Fawcett JW, Maffei L. (2002). Reactivation of ocular dominance plasticity in the adult visual cortex. Science, 298:1248-1251.

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Porciatti V, Pizzorusso T, Maffei L (1999) The visual physiology of the wild type mouse deter- mined with pattern VEPs. Vision Res 39:3071-3081.

Prusky GT, West PW, Douglas RM (2000) Behavioral assessment of visual acuity in mice and rats. Vision Res 40:2201-2209.

Sale A, Maya Vetencourt JF, Medini P, Cenni MC, Baroncelli L, De Pasquale R, Maffei L (2007) Environmental enrichment in adulthood promotes amblyopia recovery through a reduction of intracortical inhibition. Nat Neurosci 10: 679-681.
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】フルオキセチンによる反復処置後に見られる、成体における弱視の回復。(A)成体の視覚皮質における可塑性の回復。フルオキセチン処置成体ラットにおける片眼遮蔽(MD)は、遮蔽していない眼に対する視覚皮質ニューロンの眼球優位性(OD)シフトを誘導したが(C/I VEP比:1.0±0.08、t検定: p<0.001、n=5)、対照動物では誘導しなかった(C/I VEP比:2.73±0.2、n=5)。 (B)〜(C)フルオキセチンによって反復処置した成体弱視ラットにおける視力(VA)の回復。以前に遮蔽した眼のVAを、電気生理学的に評価した結果(B)および行動学的に評価した結果(C)である。遮蔽していた眼のVAは対照動物の未処置眼よりも低かったが(対応有t検定:aはp<0.001、bはp<0.001、n=5)、フルオキセチン処置成体ラットにおいてはそのような傾向は見られなかった(対応有t検定:(B)はp=0.703、(C)はp=0.354、n=5)。 (D)フルオキセチンによって反復処置した成体弱視ラットにおける両眼性(OD)の回復。C/I VEP比は、対照(C/I VEP比:1.11±0.20)と比べて、フルオキセチン処置成体ラットの視覚皮質(C/I VEP比:2.25±0.17)において有意に高く(t検定:p<0.002、n=5)、その値は正常視の動物成体の範囲内だった。エラーバーは標準誤差、*は統計的有意性を示す。
【図2】抗うつ剤処置後のBDNFタンパク質の発現。ELISAで定量したBDNFの発現は、対照動物と比べて、フルオキセチンによって反復処置した成体ラットの視覚皮質(t検定:p<0.04、n=6)(A)および海馬(t検定:p<0.01、n=6)(B)において有意に高かった。エラーバーは標準誤差、*は統計的有意性を示す。 (C)BDNFの皮質内投与。BDNFを皮質に注入した成体動物は、対照と比べて、遮蔽した眼と反対側の視覚皮質にODシフトを示した(t検定:P<0.001、n=4)。エラーバーは標準誤差、*は統計的有意性を示す。
【図3】抗うつ薬による反復処置後の成体ラット視覚皮質における皮質内抑制の減少とBDNF発現の増加。(A)フルオキセチン処置成体ラットの視覚皮質における脳微小透析。GABAの基礎細胞外レベルは、対照よりもフルオキセチン処置動物において有意に低かった(二元配置分散分析ANOVA:p=0.02、post hoc Holm-Sidak検定:p<0.02、n=5)。(B)成塾視覚皮質における神経伝達の長期増強(LTP)。白質からのシータバースト刺激(TBS)の20〜30分後に測定した神経伝達のLTP(WM−LTP)は、対照ラットと比べて、フルオキセチン処置動物の視覚皮質において有意に増強されていた(二元配置分散分析ANOVA:p<0.005、post hoc Student-Newman-Keuls検定:p<0.01)。スケールバーは、基礎値の振幅の50%および5msである。(C)および(D):ジアゼパムの皮質内投与は、長期フルオキセチン投与の誘導するOD可塑性の回復を防止した。(C)実施した実験手法を示す模式図(上)、および遮蔽した眼と反対側の両眼性視覚皮質における、浸透圧ミニポンプインプラント部位ならびにVEP記録部位を示す模式図(下)。ベンゾジアゼピンの作用薬であるジアゼパム(Dz)の皮質内投与は、抗うつ剤処置の最後の週にMDと並行して実施した。(D)Dzの皮質内注入を行ったフルオキセチン処置ラットにおけるOD可塑性の封鎖。ベンゾジアゼピンの作用薬であるジアゼパム(Dz)の皮質内投与を行ったフルオキセチン処置成体動物(Fluox + Dz)においては、MD後の遮蔽した眼と反対側の視覚皮質におけるC/I VEP比は、対照(遮蔽なし)動物とほとんど変わらなかったが(C/I VEP比:2.48±0.29、t検定:P=0.483、n=4)、長期フルオキセチン処置を行った成体ラット(Fluox)(t検定:P=0.001、n=5)とも、ベヒクル養液の皮質内注入を行った動物(Fluox + Veh)(t検定:P=0.01、n=3)とも有意に異なっていた。エラーバーは標準誤差、*は統計的有意性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するための薬剤の製造のための、少なくとも1種の抗うつ剤の使用。
【請求項2】
生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するための薬剤の製造のための、大脳皮質内の脳由来神経栄養因子(BDNF)のレベルを向上させる化合物の使用。
【請求項3】
生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するための薬剤の製造における、大脳皮質におけるγ-アミノ酪酸(GABA)介在性の抑制作用を低減する化合物の使用。
【請求項4】
該薬剤の投与を、弱視の目の使用を支持または促進する手段の適用と共に行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
該薬剤の投与を、弱視の目の使用を支持または促進する手段の適用の前、該適用と同時、若しくは該適用の前並びに該適用と同時に行うことを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
該薬剤を連続的に投与し、弱視の目の使用を支持または促進する手段を周期的に適用することを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
弱視の目の使用を支持または促進する該手段が、弱視ではない方の目の視覚の物理的遮蔽、及び弱視ではない方の目の視覚の薬理学的遮蔽よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
該抗うつ剤が、選択的セロトニン再取り込み阻害薬群(SSRI)より選ばれることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項9】
該選択的セロトニン再取り込み阻害薬が、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム及びエスシタロプラムよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項10】
該抗うつ剤が、フルオキセチンであることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項11】
該薬剤が、経口投与用であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するための方法に用いる抗うつ剤。
【請求項13】
生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するための方法に使用される化合物であって、大脳皮質内の脳由来神経栄養因子(BDNF)のレベルを向上させる化合物。
【請求項14】
生後視覚発達の臨界期を過ぎたヒトの弱視を治療または緩和するための方法に使用される化合物であって、大脳皮質におけるγ-アミノ酪酸(GABA)介在性の抑制作用を増加させる化合物。
【請求項15】
生後視覚発達の臨界期を過ぎた弱視のヒトに、ヒトのうつ症状を緩和する少なくとも1種の薬剤(抗うつ剤)を有効量投与することを包含する、弱視のヒトを治療するための方法。
【請求項16】
生後視覚発達の臨界期を過ぎた弱視のヒトに、大脳皮質内の脳由来神経栄養因子(BDNF)のレベルを向上させる少なくとも1種の化合物を有効量投与することを包含する、弱視のヒトを治療するための方法。
【請求項17】
生後視覚発達の臨界期を過ぎた弱視のヒトに、大脳皮質におけるγ-アミノ酪酸(GABA)介在性の抑制作用を減少させる少なくとも1種の化合物を有効量投与することを包含する、弱視のヒトを治療するための方法。
【請求項18】
該薬剤が、選択的セロトニン再取り込み阻害薬群(SSRI)より選ばれることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項19】
該選択的セロトニン再取り込み阻害薬が、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム及びエスシタロプラムよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
該抗うつ剤が、フルオキセチンであることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項21】
該薬剤または化合物を経口投与することを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
該薬剤または化合物の投与を、弱視の目の使用を支持または促進する手段の適用と共に行うことを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
該薬剤または化合物の投与を、弱視の目の使用を支持または促進する手段の適用の前、該適用と同時、若しくは該適用の前並びに該適用と同時に行うことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
該薬剤または化合物を連続的に投与し、弱視の目の使用を支持または促進する手段を周期的に適用する特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
弱視の目の使用を支持または促進する該手段が、弱視ではない方の目の視覚の物理的遮断、及び弱視ではない方の目の視覚の薬理学的遮断よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項22〜24のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−531858(P2010−531858A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514023(P2010−514023)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050392
【国際公開番号】WO2009/004114
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510003221)ハーモ ファーマ オイ (1)
【氏名又は名称原語表記】HERMO PHARMA OY
【Fターム(参考)】