説明

強化軽量の弾道材料

本発明は、少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層とを含んでなる布帛に関し、少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層との数の比は、0.1〜1の範囲内である。本発明に係る布帛は、具体的には、弾道ベスト、硬質および軟質の防護具、防刃・穿刺耐性システム、および防弾システムの製造に使用されることが可能であり、それらは、このようなシステムを用いて跳弾の可能性のかなりの低減を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化軽量のエネルギー吸収材料およびそれらを作製する方法に関する。これらの材料は、弾道ベスト、硬質および軟質の防護具、防刃・穿刺耐性システム、および防弾システムの製造において、有用性を有する。
【背景技術】
【0002】
アラミド繊維などの弾道等級の繊維およびそれらから作製される商品は、当技術分野においてよく知られている。それらは、一般的に、航空宇宙および軍事用途において、防弾衣の布帛用に、またはアスベスト代替品として、使用される。
【0003】
ニードルフェルト化(本明細書において、ニードルパンチまたは単にニードリングと呼ぶこともある)は、織物業界で使用されるプロセスであり、バーブニードルのような構成要素を布帛内におよび布帛から通過させて、繊維を絡み合わせてフェルトを生産する。ニードルフェルト化は、当技術分野でよく知られており、この方法の記載は、米国特許第5989375号明細書などのこれらの文献に見出すことができる。
【0004】
防弾システムにおけるフェルトの使用は、公知である。米国特許第7101818号明細書は、弾道等級の繊維の少なくとも1つの織層と布帛の少なくとも1つの不織層から作製され、両方の層が、ニードルフェルト化処理により、互いに絡み合わされている物品を開示する。
【0005】
織成と不織の弾道等級の繊維を組み合わせることにより、織成繊維だけで作製される同等なシステムよりも良好な防護を提供する防弾システムの製造を可能とした。
【0006】
ニードルフェルト化処理は、両方の層の繊維を混ぜ合わせて個々の層を密接に接触させることよって、個々の層を安定させ、弾道事象(ballistic event)において個々の層が分離するのを回避するので、米国特許第7101818号明細書に開示される防弾システムは、ニードルフェルト化していない織層だけからなるシステムよりも性能が優れているのである。
【0007】
しかしながら、米国特許第7101818号明細書の防弾システムにおいて、フェルトのみが、個々の層を安定させるのに使用されている。
【0008】
弾道事象、特に入射弾丸の弾道の角度が、防護システムの平面に対して、規定でない(90°でない)弾道事象において、弾丸は、防護システムで反射して異なる弾道を継続することが可能である。これは、また跳弾と呼ばれる。
【0009】
物体に反射した後、跳飛する弾丸は、近くにいる人、動物、物体に対してまたは弾丸個人用防御システム(hit personal protective system)の着用者にさえも、不随の損害をもたらす予測不可能な深刻な危険を有するので、跳弾は、発砲と共通して危険が及ぶことになる。変形した弾丸が、近くにいる人または着用者に命中した場合、それは非常に危険となりうる。ボディをくまなく移動する代わりに、銃弾は、むしろホローポイント弾のように作用することができ、大きな創腔を生させ、または破片になりさえし、複数の創傷を生じさせる。
【0010】
入射弾丸の弾道の角度が、防護システムの平面に対して小さいほど、跳弾発生の可能性が、大きくなる。
【0011】
弾丸はコンクリートやスチールなどの平坦な硬い表面で跳弾する可能性は非常に高いが、命中する際の角度が十分に平坦である場合、跳弾は、個人用防御システムの弾道パックを含む殆ど全ての表面で、起こりうる。
【0012】
柔らかく、容易く衝撃を逃がすまたは吸収できる材料は、低い跳弾発生率を有する。これは、柔らかい材料によって部分的に吸収された運動エネルギーが、弾丸を減速させ、その発射角を平坦にするので、跳飛する代わりに、弾丸を材料内に向けさせる事実によるものである。
【0013】
しかしながら、入射弾丸の弾道が、防護システムの先端近くであって、角度が浅くなる場合に、弾丸は、防護材料の1つまたはそれ以上の層を貫通して、防護材料の隣接層間を移動し、防護システムのフランジを通って出る。このような事象は、例えば、弾丸が、頸部を取り囲む上部フランジを出るならば、致命的となり、結果として激しい頭蓋顎顔面外傷となる。
【0014】
防刃防針性を向上させる目的のために、弾道パックは、現在、一般的に高分子樹脂で強化される。このような技術は、例えば国際出願公開第0137691A1号パンフレットに記載されている。
【0015】
高分子樹脂は、弾道パックまたは防護組織の各々の層上でカレンダ処理、ラミネート、または熱プレスされてもよい。
【0016】
しかしながら、これは、跳弾の可能性がかなり増大する点まで弾道パックを固めそして硬化させる。
【0017】
ある場合において、防弾チョッキ製造者は、ポリマーフォームを使用して、跳弾の可能性を低減して背面外傷を減らすことを報告している。ポリウレタンフォームなどのこれらのポリマーフォームは、着用者のボディと接触する内側裏材として使用される。
【0018】
弾丸が弾道層を貫通する場合、裏材がその低い防護性のために、弾丸を止めることができないという意味で、これらのポリマーフォームは、殆どまたは全く弾道防護を提供しない。
【0019】
逆に、内側裏材としてのフェルト、特に弾道防護性を有するフェルトの使用は、弾道フェルトのレジリエンスの低さなどの他の不都合を伴う。
【0020】
低いレジリエンスの材料とは、変形した際にまたは数回圧縮された際にその元の形状に戻らない材料を意味する。
【0021】
フェルトは、元来の厚みと、背面外傷に対する防護を提供して跳弾の可能性を低減させる緩衝効果とを有する一方、防弾チョッキの長期の着用と締め具の圧力が、厚いフェルト層をそれより薄くさらに高密度のフェルト層に徐々に圧縮する。この圧縮された厚い層は、元来の層の緩衝効果をもはや持たないので、跳弾を回避するのに殆ど効果なく、着用者および近くにいる人をより高いリスクにさらす。
【0022】
さらに、弾丸の衝撃によって起こる変形ひずみのために、フェルトが、弾道事象中に壊れて開く傾向がある。
【0023】
なおさらに、フェルトは、防弾チョッキの布帛の別の層に縫合される際に、問題を示す。弾道事象自体だけでなく防弾チョッキの着用は、フェルトが縫い合わされる所に隙間を作り、結果としてステッチを緩める。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
弾道特性を有するだけでなく、跳弾の可能性を低減し、その使用中に前記特性を失わない改善された内側裏材に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層とを含んでなる布帛に関し、少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層との数の比は、0.1〜1の範囲内であり、さらに少なくとも1つの織層は、180センチニュートン(cN)/Tex〜320cN/Texの靭性と3600cN/Tex〜10600cN/Texの引張弾性率とを有する繊維を含んでなり、少なくとも1つの不織層は、少なくとも1種のアラミド繊維と少なくとも1種のポリエステルのブレンドを含んでなる。本発明に係る布帛は、特に弾道ベスト、硬質および軟質の防護具、防刃・穿刺耐性システム、防弾システムの製造に使用されることができ、それらは、このようなシステムを用いて、跳弾の可能性のかなりの低下を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る布帛は、少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層とを含んでなり、少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層との数の比は、0.1〜1の範囲内であり、さらに少なくとも1つの織層は、180cN/Tex〜320cN/Texの靭性と3600cN/Tex〜10600cN/Texの引張弾性率とを有する繊維を含んでなり、少なくとも1つの不織層は、少なくとも1種のアラミド繊維と少なくとも1種のポリエステルのブレンドを含んでなる。本発明に係る布帛の少なくとも1つの織層に適切な繊維材料は、弾道等級の繊維でありうる。弾道等級の繊維は、パラ−アラミド繊維(DuPont de NemoursからKevlar(登録商標)として市販されている)、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(PBO)、高分子量ポリエチレン繊維(HMPE)、バリスティックナイロンおよび/またはそれらの組み合わせから選択できる。
【0027】
本発明に係る布帛の少なくとも1つの織層に有用な織形態として、平織、バスケット織、綾織、繻子織および他の複合織(一方向性織、準一方向性織、欧州特許第0805332号明細書に記載の多軸織、および三次元材料を含むがそれらに限定されない)が、単独でまたはそれらの組み合わせで挙げられる。
【0028】
一方向性布帛において、ヤーンは、全て同じ方向に延びる。準一方向性布帛において、ヤーンは、2つ以上の方向に並べられてもよく、完全に平坦でないヤーンもある。本明細書で用いる「一方向性」は、文脈上必要でない限り、一方向性布帛と準一方向性布帛との両方を包含する。
【0029】
本発明に係る布帛の少なくとも1つの織層に適切な弾道等級の繊維は、180cN/Tex〜320cN/Texの靭性と3600cN/Tex〜10600cN/Texの引張弾性率とを有する繊維である。
【0030】
本明細書に記載される用語、靭性および引張弾性率は、当業者に公知である。
【0031】
本発明に係る布帛の少なくとも1つの織層は、ラミネート、カレンダ処理、熱プレス、含浸されてもよく、またはそうでなければ、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂でありうる高分子樹脂で強化されてもよい。
【0032】
高分子樹脂が熱硬化性樹脂である場合において、熱硬化性樹脂は、水素化ニトリルブタジエン(HNBR)、スチレンブタジエン(SBR)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、フッ素化炭化水素(FKM)、アクリルゴム(ACM)、エチレンアクリルゴム(AEM)、ポリブタジエン、クロロイソブチレンイソプレン(CIIR)、イソブチレンイソプレンブチル(IIR)、ポリウレタンアクリロニトリルブタジエンカルボキシモノマー(XNBR)、ポリビニルブチラール(PVB)、フェノール樹脂および/またはそれらの組み合わせであってよい。
【0033】
熱硬化性樹脂が、ポリビニルブチラール(PVB)、フェノール樹脂および/またはそれらの組み合わせでありうるのが好ましい。
【0034】
高分子樹脂が熱可塑性樹脂である場合において、熱可塑性樹脂は、イオノマー、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、フェノール−改質樹脂、および/またはそれらの混合物であってよい。
【0035】
熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオレフィン、イオノマーおよび/またはそれらの混合物でありうるのが、好ましい。
【0036】
熱可塑性樹脂が、イオノマーであるのがさらに好ましい。
【0037】
イオノマーは、ポリマーの有機骨格に加えて金属イオンを含有する熱可塑性樹脂である。
【0038】
熱可塑性樹脂がイオノマーである場合、イオノマーは、エチレンなどのオレフィンモノマーと部分的に中和された不飽和のC3〜C8のカルボン酸モノマーの共重合体である。カルボン酸が、アクリル酸(AA)またはメタクリル酸(MAA)であるのが好ましい。好適な中和剤は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、リチウムイオンおよびそれらの組み合わせである。
【0039】
本発明に有用なイオノマーの酸基は、1.0〜99.9%、好ましくは20〜75%中和されている。
イオノマーは、エチレンと共重合できる少なくとも1種の軟化コモノマーを含んでなってもよい。
【0040】
イオノマーおよびそれらの製造方法は、米国特許第3,264,272号明細書に記載されている。本発明に使用されるのに適切なイオノマーは、E.I.du Pont de Nemours and Company,Wilmington,Delaware,USAからSurlyn(登録商標)の商標で市販されている。
【0041】
本発明に係る布帛の少なくとも1つの不織層は、フェルト化処理により得られることができる。
【0042】
フェルト化処理は、ニードルフェルト化、ウォータージェットフェルト化、エアージェットフェルト化または接合フェルト化などの任意の適切なフェルト化処理であってよい。
【0043】
フェルト化処理が、ニードルフェルト化処理であるのが好ましい。
【0044】
ニードルフェルト化処理は、本発明に係る布帛に望ましい織層および不織層の量に応じて、修正されることができる。
【0045】
ニードル処理の修正には、単位面積当りのニードルパンチの量および/またはそれらのパンチの深さが含まれてもよい。
【0046】
ニードリングの最適な量およびタイプ、ならびに不織繊維の量は、弾道試験によって決定でき、標準の弾道試験手順(例えば、Home Office Scientific Development Branch(HOSDB)HGI/A Standard、当業者に公知の規格など)を用いて実施されるのが好ましい。
【0047】
本発明に係る少なくとも1つの不織層に適切な繊維材料は、高性能の耐弾性繊維、特に180cN/Tex〜320cN/Texの靭性と3600cN/Tex〜10600cN/Texの引張弾性率とを有する弾道等級の繊維(以下「弾道等級の不織繊維」)でありうる。
【0048】
弾道等級の不織繊維は、アラミド繊維、伸長鎖のポリエチレン繊維、PBO(ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)繊維、高分子量ポリエチレン繊維(HMPE)、再生セルロース、レーヨン、ポリノジックレーヨン、セルロースエステル、アクリル、モドアクリル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル(例えば、ポリ(トリメチレン)テレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートなど)、ゴム、合成ゴム、サラン、ガラス、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−ビニルクロライド共重合体、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリカプロアミド、ポリウンデカノアミド、ポリエチレンおよびポリプロピレンから選択されてよい。
【0049】
弾道等級の不織繊維は、アラミド繊維、伸長鎖ポリエチレン繊維またはPBO繊維であるのが好ましい。
【0050】
弾道等級の不織繊維は、アラミド繊維であるのが最も好ましい。
【0051】
弾道等級の不織繊維がアラミド繊維である場合、アラミド繊維は、パラ−アラミド繊維でもメタ−アラミド繊維でも可能である。アラミド繊維が、パラ−アラミド繊維であるのが好ましい。
【0052】
さらなる一実施形態において、少なくとも1つの不織層は、少なくとも1種のアラミド繊維と少なくとも1種のポリエステルのブレンドを含んでなる。ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートおよびポリ(トリメチレン)テレフタレートからなる群から選択されうるのが好ましい。
【0053】
ブレンドは、少なくとも1つの不織層の総重量に対して70〜99重量%のアラミド繊維と1〜30重量%のポリエステルを含んでなるのが好ましい。
【0054】
ブレンドは、少なくとも1つの不織層の総重量に対して75〜90重量%のアラミド繊維と10〜25重量%のポリエステルを含んでなるのがさらに好ましい。
【0055】
ブレンドは、不織布の総重量に対して75重量%のアラミド繊維と少なくとも1つの不織層の総重量に対して25重量%のポリエステルを含んでなるのがさらに最も好ましい。
【0056】
本実施形態の1つの利点は、本発明に係る少なくとも1つの不織層が高い機械的レジリエンスを有することである。高い機械的レジリエンスは、不織層にブレンドされるポリエステル繊維によって、保証される。
【0057】
不織層は、長い間にわたって扁平されず、厚みが減少されないので、ポリエステル繊維は、本発明に係る布帛の長期間使用を可能にする。これは、今度は、跳弾の可能性を効果的に低減させる不織層の緩衝効果を維持する。
【0058】
本発明に従って、少なくとも1種のアラミド繊維と少なくとも1種のポリエステル繊維のブレンドの総重量を基準として、25重量%超のポリエステル繊維を使用することは、可能である。
【0059】
しかしながら、30重量%を超える量のポリエステル繊維は、ポリエステル繊維の可燃性および熱感受性のため望ましくない。可燃性は、当技術分野で公知の方法(例えば、難燃剤、添加剤、充填材および/またはそれらの組み合わせの添加など)によって、低下させてよい。難燃剤は、ポリエステル繊維の可燃性を低下させるが、火炎によって加熱される際に、ポリエステル繊維の溶融や軟化を回避しない。軟化および溶融したポリエステル繊維は、圧縮されて、本発明に係る布帛に所望の特性をもはや付与しなく、従って、不都合なことに、跳弾の可能性が上がる。
【0060】
好適な一実施形態において、少なくとも1つの不織層は、不均一の長さを有する繊維(例えば、2−カット繊維または複数−カット繊維)を含んでなる。
【0061】
本明細書に記載される用語、2−カット繊維(two-cut fibers)は、2つの異なる長さである繊維であり、本明細書に記載される用語、複数−カット繊維(multi-cut fibers)は、3つ以上の異なる長さである繊維である。
【0062】
長繊維は、以下に記載するフェルト化処理中に織層内にさらに深く押されるので、2−カット繊維のブレンドまたは複数−カット繊維のブレンドの使用により、不織層と織層間の絡み合いがより良好なレベルになる。
【0063】
別の好適な一実施形態において、不織層は、不均一な長さを有する繊維を含んでなり、不均一な長さを有する繊維は、繊維の長さに応じて、異なる線密度を有する。
【0064】
38mmの短いカット長を有する1.7dtexの繊維などの微小繊維は、63mmの長いカット長を有する2.5dtexの繊維などの粗繊維とブレンドして、不織バット層(バット層は、フェルト化による絡み合いの上に少なくとも1つの不織層を形成するフェルト化していない層を意味する)を形成することができる。
【0065】
本明細書に記載される用語dtexは、当業者に公知である。
【0066】
さらに良好な絡み合いは、フェルト化処理中に織層に方向づけられる織バット層の微小短繊維に起因すると確信されており、それにより、織層を広範囲に接触させて、高いレベルの絡み合いを提供する。
【0067】
他方では、粗繊維は、不織層の厚みおよびレジリエンス特性を備える。
【0068】
フェルト化処理に先だって、フェルト化する織機(felting loom)内で少なくとも1つの織層を少なくとも1つの不織バット層と重ね合わせて、スタックを形成する。
【0069】
その後、結果として形成されたスタックにフェルト化処理を施し、織層と不織バット層を重ね合わせて本発明に係る布帛にする。
【0070】
スタックは、ニードルフェルト、ウォータージェットフェルト、エアージェットフェルトまたは接合フェルトによって、フェルト化されてよく、それにより少なくとも1つの不織バット層をフェルト化して、本発明に係る布帛の少なくとも1つの不織層となる。
【0071】
フェルト化処理は、織物業界の専門家には公知のプロセスであり、簡潔にするために、さらに詳細には論じない。
【0072】
少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層の数の比は、0.1〜1の範囲内であるのが好ましい。
【0073】
少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層の数の比は、0.1〜0.9の範囲内であるのがさらに好ましい。
【0074】
少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層の数の比は、2/3または0.66未満、詳細には0.1〜0.66の範囲内であるのが最も好ましい。
【0075】
少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層の重量比は、0.1〜5であってよい。
【0076】
少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層の重量比は、0.1〜3であるのが好ましい。
【0077】
少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層の重量比は、0.3〜1.5であるのがさらに好ましい。
【0078】
少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層の重量比は、0.3〜1であるのが最も好ましい。
【0079】
織層の数と不織層の数の合計からなる層の総量は、2〜10、好ましくは2〜6、さらに好ましくは2〜4でありうる。
【0080】
織層の数と不織層の数の合計からなる層の総量が、2であり、一方同時に1/2または0.5の数の比を有するのが最も好ましい。
【0081】
本発明に係る布帛の織層は、布帛が弾道パック内もしくは間にまたは防弾システムの背面に縫合されることを可能にする。本発明に係る布帛の1つの利点は、織布層は隙間の形成を回避する規則的な構造を有するため、長期間の着用の間、織布層は、仕上げ材料をきちんと所定位置に保持することである。
【0082】
布帛が、不織フェルト層からのみで作製され、その後、防弾システムの背面または防弾システム内に縫合されたならば、不織層は、ステッチの周りで崩れ、フェルトの機能に悪影響を与える隙間を形成するであろう。
【0083】
本発明に係る布帛は、一般的に防弾システムにポリウレタンフォームなどの内側裏材として使用される、跳弾の可能性を低減するために既に使用される解決法にまさる複数の利点を提供する。
【0084】
本発明に係る布帛は、ポリウレタンフォーム層の利点を付与し、その利点は、その欠点から影響を受けずに、跳弾の可能性を低減させるレジリエンスおよび緩衝効果である。
【0085】
ポリウレタンフォームの不利な点は、弾道事象中に生じる変形を受ける際に、ポリウレタンフォームは、容易に損傷されることである。
【0086】
弾道事象中に、衝撃地点の周囲の材料が、弾丸によって円錐形に押し返される。弾丸の速度および内径に応じて、円錐変形の深さはかなりの深さになりうる。
【0087】
変形は、ポリウレタンフォームをばらばらに引き裂きおよび/またはポリウレタンフォーム内に形成するき裂を生じさせる。
【0088】
しかしながら、本発明に係る布帛は、弾道等級の繊維を含んでなるので、容易にはばらばらに引き裂かれない。
【0089】
本発明に係る布帛中に弾道等級の繊維が存在することにより、布帛に防弾特性を付与する。
【0090】
ポリウレタンフォームは、これには反して、弾道防護を全く提供しない。
【0091】
破片となる銃弾などの弾丸が、防弾システムの防護層に入る際に、破片となる銃弾は、防弾システムの防弾層(パック)によって通常止められる多数の小さな不規則な形状の破片を形成する。しかしながら、これらの破片のいくつかは、防弾層(パック)を貫通して、着用者にかなりの損害をもたらしうる。
【0092】
本発明に係る布帛に使用される繊維は、跳弾の可能性を低減させる緩衝効果に加えて、布帛に弾道防護を付与する高い引張弾性率と高い靭性とを有する。
【0093】
一般的に、所与の布帛の防護作用は、どのくらいの繊維が弾丸と接触するかによって異なる。本発明のフェルトは、繊維の高い面密度を有する。それらは、従って、実際の弾道パックを通過しうる弾丸の破片をかなり低速にすることまたは止めることさえ可能である。
【0094】
さらなる一実施形態において、本発明に係る布帛は、弾道パックの個々の層の間に貼付され、弾道事象における跳弾の発生を低減させることができる。
【0095】
本発明に係る布帛は、縫合、捲縮、クリンチ、接合、釘付けおよび/またはそれらの組み合わせによって、貼付されることができる。
【0096】
本発明に係る布帛は、縫合によって貼付されるのが好ましい。
【0097】
本発明に係る布帛は、弾道パックの同じ数の個々の層または、数が異なる個々の層に貼付できる。
【実施例】
【0098】
実施例1
ラミネートされたパラ−アラミド織層の調製
1100dtexの線密度を有するポリ−p−フェニレンテレフタルアミドヤーンを8.5本/cm(たて糸)および8.5本/cm(よこ糸)を有する平織布に織成した後、55μmの厚みを有するイオノマーフィルムでラミネートした。
【0099】
イオノマーは、ナトリウムカチオンを用いて、45%の入手可能なカルボン酸成分を中和した、エチレンと19重量%のMAA(メタクリル酸)との共重合体である、E.I.du Pont de Nemours and Company,Wilmington,DelawareによりSurlyn(登録商標)の商標で供給されている製品)。
【0100】
ポリ−p−フェニレンテレフタルアミドヤーンは、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,USA)から商標名Kevlar(登録商標)IK1533で市販されている。
【0101】
ラミネートされたパラ−アラミド織層は、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,USA)から商標名Kevlar(登録商標)AS 400 S 802で市販されている。
【0102】
実施例2
本発明に係る布帛の調製および弾道パックへの組み立て
不織布の総重量に対して75重量%のポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維と、不織布の総重量に対して25重量%のポリエチレンテレフタレートとからなり、335g/m2の総面積重量を有する不織布のバット層を、185g/m2の面積重量を有する平織のパラ−アラミド布帛の層に重ね合わせて、スタックを形成した。
その後、スタックにニードルフェルト圧密(needle felting consolidation)を施し、約2.72mmの厚み(ISO 9073:2に準拠して測定)を得た。
結果として得られたフェルト化した材料を、EN 29073−3に準拠して引張強さ、DIN 53859−4に準拠して引裂強さを試験した。結果は表1に要約してある。
【0103】
結果として得られた本発明に係る布帛を、16層のパラ−アラミドラミネートした布帛(AS 400 S 802)と14層のパラ−アラミドラミネートした布帛(AS 400 S 802)の間に置き、本発明に係る布帛からなるコア層と7.756kg/m2の総面積重量を有する多層の弾道パックを形成した。その後、いくつかの試験を施す前に、得られた多層の弾道パックを室温で24時間調整した。
試験中、衝撃面に16層のパラ−アラミドラミネートした布帛(AS 400 S 802)が位置するように、多層の弾道パックを配向した。
【0104】
平織のパラ−アラミド織層は、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,USA)から、商標名Kevlar(登録商標)ST 802で市販されている。
【0105】
実施例3
耐刃性および耐穿刺性試験
24ジュールおよび36ジュールの攻撃エネルギー(attacking energy)を有するP1B試験刃、フォームから作製された裏材料および5回落下の同一刃を用いて、United Kingdom Home Office,Scientific Development BranchからのHOSDB Body armour Standards for UK Police(2007)Part 3に準拠して、実施例2に基づいて製造したスタックに耐刃性および耐穿刺性を施した。
結果を記録し、表2に要約してある。
【0106】
実施例4
弾道試験
HOSDB HG2に準拠して、.357 Magnum SJHP Remingtonカートリッジを用いて、0°発射と30°角発射の両方に関して、実施例2に従って製造したスタックの跳弾の発生を試験した。
銃弾が、方向を変えられるのではなく、多層の弾道パックに突き刺さっているままである場合、跳弾が起こらないとみなした。
弾丸0.357Magnum,Remington SPFN,R357M3は、約455m/sの速度を有した。跳弾の発生を記録し、結果は表3に要約してある。
【0107】
比較例1
従来技術の比較布帛の調製およびパックへの組み立て
比較スタックは、33層のラミネートしたパラ−アラミド布帛(AS 400 S 802)からなる33層の多層弾道パックであった。33層を一緒に組み立て、実施例2に従ったパックと本質的に同じ面積重量(7.965kg/m2)を有する多層弾道パックを得た。
その後、いくつかの試験を施す前に、得られた多層の弾道パックを室温で24時間調整した。
【0108】
ポリ−p−フェニレンテレフタルアミドヤーンは、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,USA)から、商標名Kevlar(登録商標)IK1533で市販されている。
ラミネートしたパラ−アラミド布帛は、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,USA)から、商標名Kevlar(登録商標)AS 400 S 802で市販されている。
【0109】
比較例2
耐刃性および耐穿刺性試験
比較例1に従って製造した比較スタックを実施例3に従って、耐刃性および耐穿刺性試験を施した。
結果を記録して、表2に要約してある。
【0110】
比較例3
弾道試験
比較例1に従って製造した比較スタックを実施例4に従って、弾道試験を施した。
跳弾の発生を記録し、表3に要約してある。
【0111】
【表1】

【0112】
表1は、フェルト布の機械的特性を決定するための試験の結果を示す。表から分かるように、フェルトは、良好な機械的特性を有する。フェルト化処理中にバット層と一緒にフェルト化された織層は、フェルト化した本発明に係る布帛にさらなる機械的安定性を付与する。
【0113】
【表2】

【0114】
表2は、各々24ジュールと36ジュールを有するP1B試験刃を用いて、United Kingdom Home Office,Scientific Development BranchからのHOSDB Body armour Standards for UK Police(2007)Part 3に準拠した試験の結果を示す。5回のナイフ落下を実施して、比較布帛(33*AS400S)と本発明に係る布帛(16*AS400S+FF520+14*AS400S)に関して記録した。各ナイフ落下に対応する刃貫通をコンマで分けてミリメートルで示す。両方の布帛とも、KR1/E1およびKR2/E2防護レベルの要件に適合する。
【0115】
【表3】

【0116】
表3は、.357Magnum SJHP Remingtonカートリッジを用いた2回の30°角発射に関するHOSDB HG2試験の結果を示す。対照布帛(33*AS400S)は、銃弾を保持しなかった。それは、2回のうち2回の跳弾が発生したことを意味する。本発明に係る布帛(16*AS400S+FF520+14*AS400S)は、内部に銃弾保持し、2回のうち2回とも跳弾を発生しなかった。
表3から分かるように、本発明に係る布帛は、跳弾発生に対して高い精度の防護を提供する。しかしながら、本発明に係る布帛は、0°での弾丸に対して、ほぼ同じ重量を有する対照布帛と比較すると同程度の防護を提供する(データを示さない)。跳弾に対する高い精度の防護は、フェルト布から作製されるコア層に起因すると確信されている。
フェルト布の機械的特性は、弾道事象の場合に、布帛がその構造保全性を維持できるようにする。機械的特性は、フェルト化処理中バットにフェルト化される織層に少なくとも一部由来し、それは、弾道事象の場合において、フェルト布が引き裂かれたり破れるのを回避する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層とを含んでなる布帛であって、前記少なくとも1つの織層と前記少なくとも1つの不織層との数の比は、0.1〜1の範囲内であり、さらに前記少なくとも1つの織層は、180cN/Tex〜320cN/Texの靭性と3600cN/Tex〜10600cN/Texの引張弾性率とを有する繊維を含んでなり、前記少なくとも1つの不織層は、少なくとも1種のアラミド繊維と少なくとも1種のポリエステルのブレンドを含んでなる布帛。
【請求項2】
前記少なくとも1つの不織層が、2−カットまたは複数−カット繊維を含んでなる請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
前記織層の数と前記不織層の数の合計からなる層の総量が、2〜10である請求項1または2に記載の布帛。
【請求項4】
前記織層の数と前記不織層の数の合計からなる層の総量が、2〜4である請求項3に記載の布帛。
【請求項5】
前記少なくとも1つの織層と前記少なくとも1つの不織層との数の比が、0.1〜0.9の範囲内である請求項1〜4のいずれか一項に記載の布帛。
【請求項6】
前記少なくとも1つの織層と前記少なくとも1つの不織層との重量比が、0.1〜5である請求項1〜5のいずれか一項に記載の布帛。
【請求項7】
少なくとも1種のアラミド繊維と少なくとも1種のポリエステルの前記ブレンドが、前記少なくとも1つの不織層の総重量に対して、70〜99重量%のアラミド繊維と1〜30重量%のポリエステルを含んでなる請求項1〜6のいずれか一項に記載の布帛。
【請求項8】
少なくとも1つの織層と少なくとも1つの不織層とを含んでなる布帛の使用であって、弾道事象での跳弾発生を低減するための手段として、前記織層と前記不織層との比が、0.1〜1の範囲内である布帛の使用。
【請求項9】
前記不織層が、2−カットまたは複数−カット繊維を含んでなる請求項8に記載の布帛の使用。
【請求項10】
前記織層の数と前記不織層の数の合計からなる層の総量が、2〜10である請求項8または9に記載の布帛の使用。
【請求項11】
弾道事象での跳弾発生を低減するための手段としての請求項1〜7のいずれか一項に記載の布帛の使用。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の布帛を含んでなる個人用防御具。

【公表番号】特表2013−515637(P2013−515637A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547255(P2012−547255)
【出願日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/062297
【国際公開番号】WO2011/082201
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】