説明

強磁性体の分離装置

【課題】例えば、微粒化した製鉄スラグから鉄分を分離する場合のように、強磁性体を含む異種混合粉体から強磁性体を分離する際に、効率よく強磁性体を分離することができる強磁性体の分離装置を提供する。
【解決手段】強磁性体分離装置11は、異種混合粉体(強磁性体粒子1と非磁性体粒子2の混合体)を分散させた流体が導かれる重力沈降室12と、その重力沈降室12の入口部近傍において、強磁性体粒子1が磁力を受けるように配設された磁場発生装置13とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性体を含む異種混合粉体から強磁性体を分離する技術に関し、例えば、製鉄プロセスで生成されるスラグから鉄分を分離する技術分野に適用される。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセス(特に、溶銑予備処理や転炉工程)においては、膨大なスラグ(製鉄スラグ)が発生する。これらのスラグは溶銑や溶鋼中の不純物や不要元素を除去するために加えられるカルシウム系添加剤が反応、生成したものであり、スラグ中には除去された元素化合物はもちろん、鉄分も多く含まれる。スラグの形態は多くは塊状であり、その大きさは大きいもので数百mmのものもある。
【0003】
上述したように、スラグには鉄分が多く含まれているため、従来からその再資源化の検討が盛んになされている。またスラグ自体も例えばカルシウム含有素材としての再利用が検討されている。
【0004】
例えば、スラグから鉄分を分離・回収して、転炉工程でスクラップと混ぜて冷鉄源化するために、まず、数百mmの大型のスラグ塊をグリスリと呼ばれる篩い(グリスリ型篩い)で形状選別する。次に、グリスリ型篩いを通過した小型のスラグ塊は鉄分塊と非鉄分塊とが固着しているため、ハンマークラッシャやロッドミルで破砕を行って数百μm〜数十mmの大きさにして鉄分と非鉄分との単体分離を促進させる。その後、磁力選別装置によって鉄分と非鉄分を分離する。磁力選別装置は吊り下げ型やドラム型、プーリー型などが用いられる。
【0005】
鉄分を単体分離させるための手段として、スラグを加熱し、その後の冷却時間をコントロールして破砕する場合もある。冷却時間によっては、鉄分塊を破砕せずに固着した非鉄分塊のみを破砕分離することが可能である。あるいは数十μm程度に微粒化することが可能である。
【0006】
いずれの方法でも微粒化が進めば、鉄分と非鉄分との単体分離化が進むことはいうまでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−142136号公報
【特許文献2】特開平10−130041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
製鉄スラグからの鉄分の分離濃度を向上させるには、鉄分と非鉄分との単体分離化を進める必要がある。前述したように、微粒化が進めば単体分離化が進むことから、スラグ塊の機械的破砕を繰り返して粒径を小さくすることが行われている。あるいは熱処理によって、小粒径化させる場合もある。
【0009】
一方、一般的に従来の磁力選別装置では粒径が小さくなると、図11に示すように、磁石と鉄分粒子(磁性粒子)との間に非鉄分粒子(非磁性粒子)が挟み込まれる抱き込み現象や、乾式微粒化による凝集現象が発生しやすくなる。そして、これらの現象により非磁性粒子が磁着側に分離されたり、逆に磁性粒子が非磁着側に分離されたりすることが起こり易くなるので、分離濃度(分離精度)を向上させることが困難になる。そのため、磁力選別装置への混合粉体(図11においては磁性粒子と非磁性粒子との混合粉体)の供給速度を極端に遅くし、異種混合粉体の装置上での層厚を薄くするなどの工夫が必要となる。しかし、製鉄スラグは時間あたり数トン〜数十トンを処理する必要があるので、供給速度を極端に遅くせざるを得ない磁力選別装置の利用は現実的ではない。
【0010】
これに対して、特許文献1では、スラグ塊を破砕せずに鉄分と非鉄分を分離する技術が開示されているが、分離工程が複雑な分離となり、処理コスト増加の要因となる。
【0011】
また、乾式微粒化による凝集を回避できる粒子分離方法としては、特許文献2に開示されているような湿式プロセスも考案されている。しかし、湿式プロセスでは廃液処理費用が莫大となる。
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、例えば、微粒化した製鉄スラグから鉄分を分離する場合のように、強磁性体を含む異種混合粉体から強磁性体を分離する際に、効率よく強磁性体を分離することができる強磁性体の分離装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述したように、製鉄スラグからの鉄分の分離濃度を向上させるには、まず、製鉄スラグを微粒化して鉄分と非鉄分との単体分離化を進める必要がある。
【0014】
次に、微粒化した製鉄スラグから鉄分と非鉄分を分離することになるが、製鉄スラグは大量処理(時間あたり数トン〜数十トン)が前提となるため、前述したように、一般的な磁力選別は粒子の抱き込み現象や粒子の凝集現象のために処理速度を遅くせざるを得ず、大量処理を前提としたこのような場合に適用できない。
【0015】
そこで、本発明者らは、上記のような、微粒化した製鉄スラグから鉄分を分離する場合等の、強磁性体を含む異種混合粉体から強磁性体を分離する際に生じる問題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、強磁性体を含んだ異種混合粉体から強磁性体を分離するに際して、異種混合粉体を分散させた気流あるいは水流を、粉体の質量の違いによって作用する大きさが変化する力(例えば、重力)を利用して分離を行う分離室(質量差分離室)に導き、その質量差分離室において、異種混合粉体中の強磁性体に対して、重力等に加えて磁力を作用させることを想到するに至った。
【0016】
すなわち、例えば2種類の粉体が混合した異種混合粉体において、それぞれの種類の粉体での1個の粉体の質量分布に重なっている範囲があると、その範囲の粉体については、質量差分離では適切に分離・回収することが困難であり、各粉体の回収量や回収率が低下せざるを得ない。そこで、一方の粉体が強磁性体であり、他方の粉体が非磁性体等であることを利用して、1個の粉体の質量分布が他方の1個の粉体の質量分布と重なっている範囲の強磁性体については、重力等に加えて磁力を作用させることによって、強磁性体と非磁性体等を適切に分離・回収することが可能になる。これにより、回収量・回収率を向上させることができる。
【0017】
上記のことを、スラグの粒子(非磁性体)と鉄の粒子(強磁性体)が混合した異種混合粉体から鉄の粒子を分離・除去して、高純度のスラグの粒子を回収する場合(または/および高純度の鉄粒子を回収する場合)について、図10を用いて説明する。
【0018】
まず、図10(a)に示すように、一個の粒子の質量の分布をみたときに、質量が小さいM1の範囲はスラグのみであり、質量が大きいM3の範囲は鉄のみであるが、中間のM2の範囲はスラグと鉄が重なっているものとする。
【0019】
この場合、高純度のスラグを質量差分離によって回収しようとすると、図10(b)に示すように、質量差分離位置をM1とM2の境界にすれば、質量が小さい側においてM1の範囲のスラグが純度100%で回収できる。ただし、その際にM2のスラグは質量が大きい側に分離されるので、回収されるスラグの量は限定される。
【0020】
そこで、スラグの回収量を増やすために、図10(c)に示すように、質量差分離位置を質量が大きい側にΔMだけ移動させることが考えられる。この場合は、図中のS1の領域のスラグも質量が小さい側に回収されてスラグの回収量が増えることになるが、同時に、図中のS2の領域の鉄も質量が小さい側に回収されてしまう。その結果、質量が小さい側に回収されたスラグの純度が大きく低下する。
【0021】
これに対して、図10(d)に示すように、質量差分離位置を質量が大きい側にΔMだけ移動させて質量差分離を行う際に、ΔMの範囲にある鉄の粒子に対して磁力を作用させて、図中のS3の領域にある鉄が質量の大きい側に分離・除去されるようにすれば、質量が小さい側に回収される鉄は図中のS4の領域のものだけとなる。その結果、質量が小さい側において高純度のスラグを多量に回収することができる。質量が大きい側において回収される鉄の純度を重視する場合は、例えば質量分離位置をM2とM3の境界にし、同様に磁力を作用させて、M2の鉄の少なくとも一部を質量が大きい側に回収すればよい。
【0022】
なお、理想的には、質量差分離位置をM2とM3の境界にし、M2の範囲にある鉄を全て質量が大きい側に分離することができれば、質量の小さい側において全てのスラグを純度100%で回収し、質量の大きい側において全ての鉄を純度100%で回収することができる。
【0023】
上記のような考え方に基づく方法の一例は、強磁性体を分散させた気流あるいは水流における重力沈降分離に磁力を付与する方法である。具体的には、気流あるいは水流中に異種混合粉体を分散させて重力沈降室に導き、重力沈降室の入口部近傍において、強磁性体が磁力を受けるように磁場発生装置を配設して、強磁性体に重力と磁力が作用するようにする方法である。
【0024】
すなわち、まず、強磁性体を含んだ異種混合粉体を流体(気流あるいは水流)で搬送することとし、それによって異種混合粉体を分散状態にする。特に、流体が水流の場合は、水流中に異種混合粉体を投与するだけで分散効果が大きい。流体が気流の場合は、拡散板や拡散圧空を利用するなどにより、分散状態を実現させる。そして、搬送中に流体(気流あるいは水流)中の乱流効果で搬送粒子(異種混合粉体)にせん断力が働き、凝集を解いた単体分離状態が実現する。その上で、異種混合粉体を重力沈降室へ装入して、重力沈降効果による分離(重力沈降分離)を行う。水平方向に装入された強磁性体成分は重量が大きいため入口直下の重力方向に沈降し、非磁性体成分を中心とする軽量物は流体の流れに乗るか水平方向の慣性によって入口から遠方に沈降する。こうして、沈降位置の差で分離される。
【0025】
ただし、処理量を大きくするためには流速を大きくする必要があるが、流速が大きくなると重量物側に向かって沈降していた粒子が軽量物側へ持っていかれる。この場合、重量物側に沈降していた強磁性体成分の回収量が少なくなると共に軽量物側の非磁性体成分中に強磁性体成分が混入して分離純度(分離精度)が下がる。そこで、強磁性体の重量物側への捕捉能力を向上させるために、重力沈降室の入口近傍に磁場発生装置を設置する。この磁力の効果が強磁性体にのみ作用するため、流速を大きくしても重量物側への強磁性体の沈降が促進される。
【0026】
このように質量の違いによる分離のみでは、強磁性体とそれ以外の粉体である非磁性体の粒子の質量が同じである場合は分離ができない。そこで、磁力を併用して、強磁性体成分のみに磁力を作用させることで強磁性体成分の分離効率を飛躍的に向上させることを可能ならしめたのが本発明である。
【0027】
上記の考え方に基づいて、本発明は以下の特徴を有している。
【0028】
[1]強磁性体を含んだ異種混合粉体から強磁性体を分離するための強磁性体の分離装置であって、異種混合粉体を分散させた気流あるいは水流が導かれ、強磁性体とそれ以外の粉体とを質量の違いにより分離する分離室と、
該分離室において、前記異種混合粉体中の強磁性体に対して該強磁性体を分離させたい領域の方向に磁力が作用するように配設された磁場発生装置と
を備えていることを特徴とする強磁性体の分離装置。
【0029】
[2]前記分離室は、異種混合粉体を分散させた気流あるいは水流が導かれる重力沈降室であり、前記磁場発生装置は、前記該重力沈降室の入口部近傍において、前記強磁性体が磁力を受けるように配設された磁場発生装置であり、前記強磁性体に重力と磁力が作用するようにしていることを特徴とする前記[1]に記載の強磁性体の分離装置。
【0030】
[3]磁場発生装置が、強磁性体が通過する空間に作用する磁束密度の大きさを調節可能な構成を備えていることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の強磁性体の分離装置。
【0031】
[4]磁場発生装置が、強磁性体が通過する空間に作用する磁束密度の大きさを一定期間ごとに大小を繰り返すように構成されていることを特徴とする前記[3]に記載の強磁性体の分離装置。
【0032】
[5]分離室に導く異種混合粉体を分散させた気流あるいは水流の流速を小さくした後に、磁束密度の大きさを小さくすることを特徴とする前記[4]に記載の強磁性体の分離装置。
【0033】
[6]気流あるいは水流の流速を大きくする前に、磁束密度の大きさを大きくすることを特徴とする前記[5]に記載の強磁性体の分離装置。
【発明の効果】
【0034】
本発明においては、強磁性体を含んだ異種混合粉体から強磁性体を分離(例えば、重力沈降分離)するに際して、強磁性体にのみ作用する磁力を付加するようにしているので、強磁性体の分離精度が格段に向上し、従来のように磁力選別によって分離する場合に比べて、強磁性体を効率よく分離することができる。その結果、大量・高速に強磁性体の再資源化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態1を示す図である。
【図2】従来の重力分離装置を用いた場合を示す図である。
【図3】本発明の実施形態2を示す図である。
【図4】本発明の実施形態3を示す図である。
【図5】本発明の実施形態4を示す図である。
【図6】本発明の実施形態5を示す図である。
【図7】本発明の実施形態5を示す図である。
【図8】本発明の実施形態5を示す図である。
【図9】本発明の実施例1を示す図である。
【図10】本発明の基本的な考え方を示す図である。
【図11】従来技術(一般的な磁力選別)の問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0037】
なお、以下の実施形態においては、微粒化した製鉄スラグから鉄分を分離する場合等のように、強磁性体を含んだ異種混合粉体から強磁性体を分離するのであるが、その強磁性体を含んだ異種混合粉体を得る方法について、製鉄スラグを微粒化する場合を例にして述べる。
【0038】
製鉄スラグを微粒化する方法として、第一の微粒化の方法は機械的粉砕である。製鉄スラグの機械的粉砕は、粗粉砕機であるハンマークラッシャやジョークラッシャで粗破砕した後、微粒化のためにボールミル、ロッドミル、ジェットミル、ピンミルなどを用いる。第二の微粒化の方法は、熱的粉砕(熱処理粉砕)である。製鉄スラグを1000〜1300℃程度に加熱後、徐冷する。
【0039】
このようにして、強磁性体を含んだ異種混合粉体(強磁性体粒子と非磁性体粒子の混合体)を得ることができる。
【0040】
なお、本発明においては、適正な磁力選別で分離されるような粒子を強磁性体粒子とし、該強磁性体粒子以外は実質的に非磁性体粒子であるとみなしてよい。
【0041】
そして、以下の実施形態においては、上記のようにして得られた強磁性体を含んだ異種混合粉体(強磁性体粒子と非磁性体粒子の混合体)から強磁性体粒子の分離を行うことにする。なお、ここでは、鉄分と製鉄スラグのように、強磁性体粒子の方が非磁性体粒子に比べて質量(重量)が大きいものとする。
【0042】
[実施形態1]
本発明の実施形態1を図1に示す。
【0043】
図1に縦断面図を示すように、この実施形態1に係る強磁性体分離装置11は、異種混合粉体(強磁性体粒子1と非磁性体粒子2の混合体)を分散させた流体(気流または水流)が導かれる重力沈降室12と、その重力沈降室12の入口部近傍(入口部近傍流路配管側や入口部近傍重力沈降室壁面の少なくともいずれか)において、強磁性体粒子1が磁力を受けるように配設された磁場発生装置13とを備えている。
【0044】
なお、磁場発生装置13は永久磁石か電磁石を用いる。磁場は重力沈降室12の入口近傍に沿って複数個所発生させればよく、数が多いほど効果が大きいが、例えば2〜6箇所程度配置する。磁場の強さは分離粒径に応じて100G(ガウス)〜20000G(ガウス)程度を選べばよい。
【0045】
上記のように構成された強磁性体分離装置11においては、まず、異種混合粉体(強磁性体粒子1と非磁性体粒子2の混合体)を流体(気流あるいは水流)で搬送するようにしているので、異種混合粉体が分散状態になる。すなわち、搬送中に流体の乱流効果で異種混合粉体にせん断力が働き、凝集を解いた単体分離状態が実現する。
【0046】
その上で、流体で搬送されてきた強磁性体粒子1と非磁性体粒子2を重力沈降室12へ装入して、重力沈降効果による分離(重力沈降分離)を行う。水平方向に装入された強磁性体粒子1は質量(重量)が大きいため入口直下の重力方向に沈降して重量側回収部14に分離・回収され、非磁性体粒子2を中心とする軽量物は流体の流れに乗るか水平方向の慣性によって入口から遠方に沈降して軽量側回収部15に分離・回収される。こうして、沈降位置の差で強磁性体粒子1と非磁性体粒子2が分離される。強磁性体粒子1と非磁性体粒子2を重力沈降室12に搬送した流体は出口より排出流体として排出(例えば気体の場合、排気)される。
【0047】
ただし、処理量を大きくするためには流速を大きくする必要があるが、図2に縦断面図を示すように、重力沈降室92の入口部近傍に磁場発生装置を備えていない従来の重力沈降分離装置91を用いた場合には、以下の問題が生じる。すなわち、処理量を大きくするために流速を大きくすると、流体力の影響が大きくなり、重量物側回収部94に沈降していた強磁性体粒子1が軽量物側回収部95へ持っていかれる。この場合、重量物側回収部95に沈降していた強磁性体成分の回収量が少なくなると共に軽量物側の非磁性体成分中に強磁性体成分が混入して分離純度が下がる。
【0048】
これに対して、本発明の実施形態1では、重力沈降室12の入口近傍に磁場発生装置13を設置しているので、この磁力の効果が強磁性体粒子1にのみ作用して、その磁力が流体力への制動力となり、重量物側への強磁性体粒子1の沈降が促進されて、強磁性体粒子1の重量側回収部14への捕捉・回収能力が向上する。これにより、処理量を大きくするために流速を大きくしても、良好な分離純度が得られる。
【0049】
なお、磁性発生装置13を重力沈降室壁面側の入口部非近傍に配置した場合、磁力の及ぶ範囲に入る粒子が少なくなり、充分分離精度向上の効果が得られない。また、配管側の入口部非近傍に配置した場合、磁力が弱ければ流体力で強磁性体粒子の速度が復活し、磁力が強ければ強磁性体の速度低下による生産性の低下を招く。逆に言えば、これらの問題が無い程度の近傍に磁力発生装置13を配置すればよい。
【0050】
[実施形態2]
本発明の実施形態2を図3に示す。
【0051】
図3に縦断面図を示すように、この実施形態2に係る強磁性体分離装置21は、上記の実施形態1に係る強磁性体分離装置11と基本的な構造は同じである。ただし、実施形態1では、重力沈降室12の下部(回収部)が重量側回収部14と軽量側回収部15の2分割になっていたのに対して、この実施形態2では、重力沈降室22の下部(回収部)が、重量側回収部24と、軽量側回収部を質量の違いによりさらに2分割(軽量側回収部25、26)した3分割になっている。なお、図3中の23は、重力沈降室22の入口部近傍に配設されている磁場発生装置である。
【0052】
[実施形態3]
本発明の実施形態3を図4に示す。
【0053】
図4に縦断面図を示すように、この実施形態3に係る強磁性体分離装置31は、上記の実施形態1に係る強磁性体分離装置11と基本的な考え方は同じである。ただし、上記の実施形態1では、重力沈降室12の下部(回収部)が重量側回収部14と軽量側回収部15の2分割になっていたのに対して、この実施形態3では、重力沈降室32がシングルチャンバー構造となっていて、重力沈降室32の下部の重量側回収部34に重量物(強磁性体粒子1)を捕捉し、軽量物(非磁性体粒子2)は重力沈降室32の上部に設けられた出口から排出するようになっている。なお、図4中の33は、重力沈降室32の入口部近傍に配設されている磁場発生装置である。
【0054】
ここで、軽量物(非磁性体粒子2)の重力沈降室32の上部からの排出は、例えばブロワー等で吸引することで行うことができる。そして、軽量物(非磁性体粒子2)は、例えばバグフィルター等で捕集することにより回収することができる。
【0055】
[実施形態4]
本発明の実施形態4を図5に示す。
【0056】
この実施形態4では、磁場発生装置が、強磁性体粒子が通過する空間に作用する磁束密度(強磁性体粒子通過空間の磁束密度)の大きさを調節できるようになっており、その磁束密度の大きさを一定期間ごとに大小を繰り返すようにしている。
【0057】
前述したように、実施形態1〜3においては、磁場発生装置13、23、33として永久磁石か電磁石を用いているが、この実施形態4は、特にその内の電磁石を用いた場合である。
【0058】
すなわち、図5(a)に重力沈降室12、22、32の入口部近傍の縦断面図を示すように、この実施形態4においては、磁場発生装置13、23、33として、4個の電磁石(第1電磁石〜第4電磁石)が配設されている。
【0059】
このように、磁場発生装置13、23、33として電磁石を用いた場合は、一定期間ごとに電磁石の励磁(ON)、非励磁(OFF)を繰り返すことによって、磁場発生部の壁に吸引付着した強磁性体粒子1を非励磁時に払い落とすことができるという利点がある。この際に、図5(b)に磁場の操業スケジュールを示すように、隣り合う電磁石の切り替えタイミングをずらせば、ある瞬間には常に幾つかの電磁石が働いている状態を維持でき、強磁性体粒子1の払い落としと磁力の作用を共に行うことが可能となる。
【0060】
ちなみに、ここでは、一定期間ごとに電磁石の励磁(ON)、非励磁(OFF)を繰り返すことで、強磁性体粒子通過空間の磁束密度の大きさを一定期間ごとに大小を繰り返すようにしているが、完全に非励磁(OFF)とすることには限定されない。すなわち、電磁石の励磁電流の大きさを一定期間ごとに所定のしきい値以下に変更することで、強磁性体粒子通過空間の磁束密度の大きさを一定期間ごとに大小を繰り返すようにしてもよい。以下の実施形態においても同様である。
【0061】
なお、同様な効果を狙って、電磁石を交流駆動しても良い。周波数は任意であるが、電磁石と駆動装置との特性によっては高周波領域では磁場の強さが不十分となる場合があるので、2kW程度の駆動電源で巻線1000ターン程度の電磁石の場合、50Hz程度とすればよい。上記のような、隣り合う電磁石の切り替える方式と同様に、隣り合う電磁石の位相をずらすことで、ある瞬間には常に幾つかの電磁石が十分な大きさの磁場を発生できていることになる。
【0062】
さらに、場合によっては、磁場発生装置13、23、33として永久磁石を用いて同様のことを行ってもよい。その場合には、永久磁石の位置を調整可能な機構を設けて、永久磁石の位置を一定期間ごとに磁場発生部の壁に近づけたり、遠ざけたりすることで、強磁性体粒子通過空間の磁束密度の大きさを調節することができ、また、一定期間ごとに磁束密度の大小を繰り返すようにする。
【0063】
なお、原理的には励磁・非励磁の間隔を一定期間とする必要は無いが、操業上の複雑化を避け、また安定操業を確保する観点から、一定期間とすることが好ましい。ただし、励磁と非励磁の期間は同じ長さである必要は無く、また電磁石毎に励磁・非励磁の期間が異なっていても良い。
【0064】
磁場発生装置は、一定期間ごとに強磁性体粒子通過空間の磁束密度の大小を繰り返すために、例えば図5(b)のような操業スケジュールを記憶する記憶手段と、当該操業スケジュールに従って磁場発生装置を制御する(例えば、各電磁石に流す電流を制御する、あるいは各永久磁石の位置を制御する)制御手段を有することが好ましい。
【0065】
[実施形態5]
本発明の実施形態5を図6〜図8に示す。
【0066】
上記の実施形態4においては、強磁性体粒子通過空間の磁束密度の大きさを一定期間ごとに大小を繰り返すようにしているが、異種混合粉体を分散させた流体(水流、気流)が所定の流速で流れている状態で磁束密度の大きさを小さくした場合、磁力による制動力が作用しなくなった強磁性体粒子が流体力によって流体中に舞い上がり、重力沈降室の軽量側回収部に回収される可能性がある。
【0067】
そこで、この実施形態5においては、異種混合粉体を分散させた流体(水流、気流)の流速を一旦小さくした後に、強磁性体粒子通過空間の磁束密度の大きさを小さくするようにしている。
【0068】
あるいは、さらに、流体(水流、気流)の流速を再び大きくする(元の大きさに戻す)前に、強磁性体粒子通過空間の磁束密度の大きさを大きくする(元の大きさに戻す)ようにしている。
【0069】
例えば、図6に流体と磁場の操業スケジュールを示すように、磁石を励磁した状態(励磁ON)と、磁石を非励磁にした状態(励磁OFF)を繰り返す場合に、流体を所定の流速で流す状態(流体ON)と、流体の流れを完全に停止する状態(流体OFF)とを繰り返すようにしておき、流体OFFにしてから励磁OFFにするようにしている。
【0070】
あるいは、さらに、図7に流体と磁場の別の操業スケジュールを示すように、再び流体ONにする前に励磁ONにするようにしている。言い換えれば、励磁ONにした後で流体ONにしている。
【0071】
なお、図6に替えて、図8に流体と磁場のさらに別の操業スケジュールを示すように、流体の流速にしきい値を設けておき、流体の流速がしきい値以上の状態を流体ONとし、流体の流速がしきい値未満の状態を流体OFFとして、流体OFFにしてから励磁OFFにするようにしてもよい。
【0072】
また、励磁にもしきい値を設けて、そのしきい値に基づいて、励磁ONと励磁OFF(完全な励磁OFFではなく、励磁を前記しきい値以下にする場合を含む。)を定め、流体OFFにしてから励磁OFFにするようにしてもよい。
【0073】
ちなみに、流体ONと流体OFFの切り替えは、流体の推力(ポンプ、送風機)の調節や、流体の流路に設けられているダンパーの開度の調節によって行うことができる。
【0074】
これによって、この実施形態5においては、強磁性体粒子通過空間の磁束密度の大きさを小さくすることによって、強磁性体粒子に磁力による制動力が作用しにくくなった状態であっても、作用する流体力が小さくなっていることによって、強磁性体粒子が流体中に舞い上がることが無くなり、強磁性体粒子が重力沈降室の重量側回収部に確実に回収されるようになる。
【0075】
強磁性体の分離装置は、上記図6〜図8に例示されるような操業を実現するために、(流体および磁場の)操業スケジュールを記憶する記憶手段と、当該操業スケジュールに従って磁場発生装置を制御する(例えば各電磁石に流す電流を制御する、あるいは各永久磁石の位置を制御する)制御手段と、当該操業スケジュールに従って流体の流速を制御する(例えば前述のポンプ等の推力やダンパー開度を制御する)制御手段とを有することが好ましい。
【0076】
このようにして、上記の実施形態1〜5においては、強磁性体粒子1を含んだ異種混合粉体から強磁性体粒子1を分離(重力沈降分離)するに際して、強磁性体粒子1にのみ作用する磁力を付加するようにしているので、強磁性体粒子1の分離精度が格段に向上し、従来のように磁力選別によって分離する場合に比べて、強磁性体粒子1を効率よく分離することができる。その結果、大量・高速に強磁性体の再資源化が可能となる。
【0077】
なお、上記の実施形態1〜5では、鉄分と製鉄スラグのように、強磁性体粒子の方が非磁性体粒子に比べて質量(重量)が大きいものとしたが、逆の場合は、上記の実施形態1〜5を参考に磁場発生装置の配置などを適宜変更すればよい。
【0078】
また、本発明は、上述の重力沈降分離に限定されず、粉体の質量の違いによって作用する大きさが変化する力を利用して分離を行う分離(質量差分離)に適用できる。
【0079】
また、本発明において、流体としては気体、液体のいずれもが適合するが、30ミクロン以下の微粉体を多く含む場合においては水流を用いることが好ましい。
【0080】
また、本発明において、強磁性体や非磁性体の種類や粒径、異種混合粉体の中の配合比などにとくに限定はない。すなわち、遠心分離の対象となりうる粉体であれば、とくに制限なく本発明を適用できる。
【実施例1】
【0081】
本発明例として、前記の本発明の実施形態5に基づいて、強磁性体粒子(鉄分)と非磁性体粒子(スラグ)の混合体から強磁性体粒子(鉄分)を分離・除去して、非磁性体粒子(スラグ)の回収を行った。
【0082】
なお、製鉄スラグ(鉄分平均約10〜20質量%)は予めボールミルで平均粒径250μm程度に微細化し、分離装置による処理を行った。分離装置は図1に示した強磁性体分離装置11を用いた。
【0083】
その際に、前記の図8で示したように、流体の流速にしきい値を設けることとし、図9に示すように、流体の流速が5m/s以上の状態を流体ON、流体の流速が5m/s未満の状態を流体OFFとした。また、2000Gの状態を励磁ON、励磁停止状態を励磁OFFとした。そして、流体OFFになってから励磁OFFになるようにした。流体ONと励磁ONの順番については図6と同様とした。
【0084】
なお、比較のために、従来例として、前述の図2に示した従来の重力沈降分離装置91を用いて、強磁性体粒子(鉄分)と非磁性体粒子(スラグ)の混合体から強磁性体粒子(鉄分)を分離・除去して、非磁性体粒子(スラグ)の回収を行った。
【0085】
その結果、従来例では、軽量側回収部における非磁性体粒子(スラグ)への強磁性体粒子(鉄分)の混入率が質量%で0.5%であったのに対して、本発明例では、強磁性体粒子(鉄分)が軽量側回収部に回収される割合が大幅に低下し、軽量側回収部における非磁性体粒子(スラグ)への強磁性体粒子(鉄分)の混入率が質量%で0.2%と分離効率が飛躍的に改善した。
【符号の説明】
【0086】
1 強磁性体粒子
2 非磁性体粒子
11 強磁性体分離装置
12 重力沈降室
13 磁場発生装置
14 重量側回収部
15 軽量側回収部
21 強磁性体分離装置
22 重力沈降室
23 磁場発生装置
24 重量側回収部
25 軽量側回収部
26 軽量側回収部
31 強磁性体分離装置
32 重力沈降室
33 磁場発生装置
34 重量側回収部
91 強磁性体分離装置
92 重力沈降室
94 重量側回収部
95 軽量側回収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体を含んだ異種混合粉体から強磁性体を分離するための強磁性体の分離装置であって、異種混合粉体を分散させた気流あるいは水流が導かれ、強磁性体とそれ以外の粉体とを質量の違いにより分離する分離室と、
該分離室において、前記異種混合粉体中の強磁性体に対して該強磁性体を分離させたい領域の方向に磁力が作用するように配設された磁場発生装置と
を備えていることを特徴とする強磁性体の分離装置。
【請求項2】
前記分離室は、異種混合粉体を分散させた気流あるいは水流が導かれる重力沈降室であり、前記磁場発生装置は、前記該重力沈降室の入口部近傍において、前記強磁性体が磁力を受けるように配設された磁場発生装置であり、前記強磁性体に重力と磁力が作用するようにしていることを特徴とする請求項1に記載の強磁性体の分離装置。
【請求項3】
磁場発生装置が、強磁性体が通過する空間に作用する磁束密度の大きさを調整可能な構成を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の強磁性体の分離装置。
【請求項4】
磁場発生装置が、強磁性体が通過する空間に作用する磁束密度の大きさを一定期間ごとに大小を繰り返すように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の強磁性体の分離装置。
【請求項5】
分離室に導く異種混合粉体を分散させた気流あるいは水流の流速を小さくした後に、磁束密度の大きさを小さくすることを特徴とする請求項4に記載の強磁性体の分離装置。
【請求項6】
気流あるいは水流の流速を大きくする前に、磁束密度の大きさを大きくすることを特徴とする請求項5に記載の強磁性体の分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−104582(P2011−104582A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214627(P2010−214627)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】