説明

強誘電性液晶パネル

【課題】画素外領域において、初期の配向状態で白表示または黒表示のいずれかの表示が得られて、その表示の単安定性が得られる強誘電性液晶パネルを提供する。
【解決手段】強誘電性液晶パネルにおいて、第1の電極23は、第2の電極24より、一方向に配向方向を有する配向膜26,27の配向方向に対して直交方向に形成された領域が多い電極である。この配向膜26,27の配向方向と直交方向に形成された領域が多い第1の電極23側にのみ、第1の電極23を設けた第1の基板21と配向膜26との間に絶縁膜25を設けた構成にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電性を有する液晶を用いた強誘電性液晶パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電性を有するカイラルスメスチック液晶などの強誘電性液晶を用いた液晶パネルは電界の変化に対する応答速度が速いこと、また、双安定性の特性を有することから様々な分野での利用が期待されてきている。
【0003】
強誘電性液晶パネルで、例えば、マトリックス表示を行う強誘電性液晶表示パネルは、一般に、第1の基板と第2の基板にストライプ状(帯状)の走査電極と信号電極をそれぞれ形成し、その上面側に絶縁膜と配向膜を積層して設け、走査電極と信号電極を直交するようにして対向して配置した間隙に強誘電性液晶を封止し、上下面に偏光板を配設した構成をとっている。
【0004】
このような構成にあっては、電圧を印加した状態では、走査電極と信号電極が対向している部位の領域、つまり、画素領域にあっては白表示または黒表示の表示制御することができるが、走査電極と信号電極が対向していない部位の領域、つまり、画素外領域にあっては、電圧が印加されないため、白と黒が混在して不均一な表示色が現れて画質を低下させる問題を有していた。
【0005】
この現象はマトリックス表示を行う構造のみならず、セグメント表示を行う構造の液晶表示パネルでも、セグメント表示部以外の領域で同様な現象が現れていた。よって、従来は、セグメント電極の周囲に、周囲を白表示または黒表示に制御するための周囲用電極を設ける必要があった。
【0006】
この問題を解決する従来技術には、例えば、特許文献1に開示された構成や特許文献2に開示された構成などを挙げることができる。
特許文献1に開示された従来技術を図7を用いて説明する。なお、図7は説明しやすいようにその主旨を逸脱しないように書き直しした断面図を示したものである。
図7において、1は情報電極、2は走査電極、3は無機コーティング膜、4は電極間隙、11a,11bは基板、12a,12bはショート防止膜、13a,13bは配向制御膜、14a,14bは偏光板、15は封止材、16は液晶である。
【0007】
図7に示された液晶素子の構成は、ガラス板やプラスチック板などからなる透明な基板11a、11bの内面にITO膜からなる情報電極1、走査電極2を設けている。情報電極1と走査電極はストライプ状に形成しており、重なり合うとマトリックス構造をなす。また、基板11a上に設けた複数の情報電極1のそれぞれの間隙4及び両端の情報電極1の外側には微粒子を含有する絶縁コーティング膜3を設けている。なお、図7には図示されてはいないが、基板11b上に設けた走査電極2側においても同様に絶縁コーティング膜3を設けている。つまり、各画素を取り囲む画素外領域に絶縁コーティング膜3を設けた構成をとっている。
【0008】
また、基板11a上の情報電極1及び絶縁コーティング膜3上にはショート防止膜12aと配向制御膜13aを積層して設け、基板11b上の走査電極2及び絶縁コーティング膜3(図示していない)上にもショート防止膜12bと配向制御膜13bを積層して設けている。そして、カイラルスメスチック液晶からなる強誘電性液晶16を封止材15を介して封入した構成をとっている。また、上下の基板11a、11bの外側には偏光板14
a、14bを配設した構成をとっている。
【0009】
特許文献1によれば、各画素を取り囲んで画素外領域に微粒子を含有する絶縁コーティング膜を設けることにより、画素外領域において、画素内と異なる液晶の配向状態が形成されて、黒ドメインと白ドメインの両ドメインの混在がなくなり、混在による画面上のざらつきが解消されるとされている。
また、この無機コーティング膜は所望の配向状態が得られれば、一方の基板にのみ無機コーティング膜を設けても良いとされている。
【0010】
次に、特許文献2に示された強誘電性液晶パネルの構成は、電極を設けた第1の絶縁基板上に表面エネルギーの極性成分の大きい薄膜と配向膜を積層して設け、電極を設けた第2の絶縁基板上に表面エネルギーの極性成分の小さい薄膜と配向膜を積層して設け、強誘電性液晶を封止した構成をとるものである。
【0011】
表面エネルギーの極性成分の大きい薄膜はアルミナ,酸化珪素,窒化珪素などの材料で形成し、表面エネルギーの極性成分の小さい薄膜はポリイミド,ポリアクリロニトリル,ポリアミック酸などの材料で形成するとされている。
【0012】
特許文献2によれば、表面エネルギーの極性成分の大きい薄膜と表面エネルギーの極性成分の小さい薄膜との間に自発分極を有する液晶分子を挟むことによって、電極に電位のない状態では液晶分子の持つ自発分極の方向はセル極性方向と一致し、電界を生じるような電位を電極にかけた場合は電界の大きさに応じて液晶分子の持つ自発分極の方向は電極より発生した電界の向きと一致するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−84389号公報(第3−4頁、第1図)
【特許文献2】特開昭63−158521号公報(第2−3頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記の特許文献1及び特許文献2に示された構成は、本願発明の発明者が様々な実験を行った結果、画素外領域において、初期の配向状態(電圧を一度も印加しない状態)を白又は黒状態に規制することが充分ではなかった。
なお、ここで単安定性とは、強誘電性液晶分子はチルト角を持った円錐(コーン)の稜線に沿って回転移動するが、電圧無印加時において、液晶分子の状態がコーン上のいずれかひとつの状態で安定化している状態をいう。
【0015】
また、特許文献1に示された構成はショート防止膜の他に無機コーティング膜を設けた構成をとり、特許文献2に示された構成は表面エネルギーの極性成分の大きい薄膜と表面エネルギーの極性成分の小さい薄膜とを設けた構成をとるため、コスト面では製作コストが非常に高くなるという問題も有する。
【0016】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたもので、初期の配向状態で白表示または黒表示において単安定性をもたらす強誘電性液晶パネルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するための手段として、本発明の強誘電性液晶パネルは、一対の基板のそれぞれ内側に、第1の電極と第2の電極とを備え、強誘電性液晶を挟持した強誘電性
液晶パネルであって、第1の電極と第2の電極の上には、それぞれの配向方向が平向となるように配向膜を設け、第1の電極は、第2の電極よりも、配向膜の配向方向と直交方向に形成されている領域が多く、この第1の電極と配向膜との間にのみ、絶縁膜を設けることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の強誘電性液晶パネルは、第1の電極が帯状の電極であり、この帯状の長手方向と配向膜の配向方向とは直交する方向にあることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の強誘電性液晶パネルは、第1の電極がセグメント形状の電極であることを特徴とするものである。
【0020】
また、配向膜は、斜方蒸着方法で形成された膜であることを特徴とする。あるいは、樹脂膜をラビング処理した膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、絶縁膜を、第2の電極より配向膜の配向方向と直交方向に形成されている領域が多い第1の電極側にのみ設けるものである。そして、絶縁膜は第1の電極を設けた基板と配向膜との間に設けるものである。第2の電極側には絶縁膜を設けていない。このように、絶縁膜を第2の電極より配向膜の配向方向と直交方向に形成されている領域が多い第1の電極側にのみ絶縁膜を設けることで、液晶セル内にごく微弱な電界が発生し、この電界により自発分極を有する液晶分子の極性方向を揃えて、画素外領域において、初期の配向状態で白表示または黒表示のいずれかの表示を選択的に得ることができると考えられ、更に、白表示または黒表示の単安定性を効果的に現出させることができる。
【0022】
一般に、強誘電性液晶パネルの配向膜はSiOまたはSiOなどの材料を用いて斜方蒸着方法で形成する。斜方蒸着方法においては、斜方からの蒸着方向(斜方から材料を飛ばして蒸着を行う方向)が配向方向となって現れる。従って、配向膜の配向方向と直交方向に形成されている領域が多い第1の電極側は、配向方向から見ると、つまり、蒸着方向から見ると基板と電極との段差からくる凹凸のある段差部分が多く存在する。
【0023】
この段差部分が蒸着方向からすると影の部分(電極に隠れて見えない部分)を作り出し、その影の部分には配向膜が付着しなかったり、付着しても薄かったりして配向膜のムラが現れる。また、配向方向も一定方向に整った状態に形成することができない。この問題は斜方蒸着方法で形成した配向膜のみならず、樹脂膜をラビング処理して形成した配向膜でも同様な問題が発生する。
【0024】
そこで、第1の電極側に絶縁膜を設けることで、段差部分の凹凸が絶縁膜によって凹凸が小さくなと共に表面が滑らかになる。そして、絶縁膜上に形成した配向膜は膜厚が比較的均一になると共にその配向方向も一定方向に整った状態に形成される。これによって、液晶分子の配向特性が良くなり、初期の配向状態での単安定性を誘起するものと思われる。
【0025】
また、第1の電極と第2電極が帯状の電極である場合には、第1の電極の長手方向が配向膜の配向方向と直交方向にあると、基板と第1の電極との全ての段差部分の凹凸が絶縁膜によって凹凸が小さくなると共に表面が滑らかになり、その上に設ける配向膜は均一に形成できると共に、その配向方向も一定方向に向いて整った形に形成することがきる。
【0026】
また、第1の電極がセグメント電極であると第2の電極は全面がベタ面なる電極で対処することができる。ベタ面なる第2の電極は凹凸がないので均一な配向膜を設けることができ、更に、セグメント電極である第1の電極側に絶縁膜を設けて配向膜を形成すれば、
上下にわたって良質な配向特性の配向膜が得られ、画素外領域においての初期の配向状態での液晶分子の単安定性が向上する。このような構成とすることで、セグメント電極の周囲に、周囲の表示を制御するための周囲電極を設ける必要がない。
【0027】
よって、本発明の強誘電性液晶パネルは、画素外領域での白色、黒色の混色が無くなると同時に、初期の配向状態での白表示または黒表示において単安定性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る強誘電性液晶パネルの模式的に示した要部断面図である。
【図2】図1における電極と配向膜の配向方向との関係を説明する模式的に示した説明図で、図2(a)は第1の電極と配向膜の配向方向を示し、図2(b)は第2の電極と配向膜の配向方向を示している。
【図3】図1における絶縁膜を設けることによる効果を説明する模式的に示した説明図で、図3(a)は基板上に第1の電極を設けたときにおける説明図、図3(b)は絶縁膜を設けたときにおける説明図、図3(c)は配向膜を設けたときの説明図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る強誘電性液晶パネルの模式的に示した要部断面図である。
【図5】図4における電極と配向膜の配向方向との関係を説明する模式的に示した説明図で、図5(a)は第1の電極と配向膜の配向方向を示し、図5(b)は第2の電極と配向膜の配向方向を示している。
【図6】本発明の第3実施形態に係る強誘電性液晶パネルの模式的に示した要部断面図である。
【図7】特許文献1に記載された強誘電性液晶素子の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の強誘電性液晶パネルは絶縁膜を片方の基板側にのみ設ける。具体的には、電極が配向膜の配向方向と直交方向に形成されている領域が多い方の電極側に絶縁膜を設ける。そして、絶縁膜は電極が形成された基板と配向膜の間に設ける。
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
【0030】
[第1実施形態の説明:図1、図2、図3]
本発明の第1実施形態に係る強誘電性液晶パネルについて、図1〜3を用いて説明する。なお、図1は本発明の第1実施形態に係る強誘電性液晶パネルの模式的に示した要部断面図である。また、図2は図1における電極と配向膜の配向方向との関係を説明する模式的に示した説明図で、図2(a)は第1の電極と配向膜の配向方向を示し、図2(b)は第2の電極と配向膜の配向方向を示している。また、図3は図1における絶縁膜を設けることによる効果を説明する模式的に示した説明図で、図3(a)は基板上に第1の電極を設けたときにおける説明図、図3(b)は絶縁膜を設けたときにおける説明図、図3(c)は配向膜を設けたときの説明図を示している。
【0031】
図1において、21は第1の基板、22は第2の基板、23は第1の電極、24は第2の電極、25は絶縁膜、26,27は配向膜、28はシール材、29は強誘電性液晶、31,32は偏光板を表している。そして、これらの主要構成部品によって本発明の強誘電性液晶パネル20を構成している。また、図2において、矢印P1は配向膜26の配向方向を表しており、矢印P2は配向膜27の配向方向を表している。
【0032】
強誘電性液晶パネル20は、第1の電極23を設けた第1の基板21上に絶縁膜26と配向膜26を積層して設け、一方、第2の電極24を設けた第2の基板22上に配向膜27を設け、この第1の基板21と第2の基板22を対向して配置し、その間隙に強誘電性液晶29をシール材28で貼り合わせた構成をなす。また、第1の基板21と第2の基板22の外側にはそれぞれ偏光板31、32を設けた構成をなす。
【0033】
ここで、第1の基板21,第2の基板22は透明なガラス板からなり、概ね0.5〜1.1mmの範囲の厚みのものが用いられる。この第1の基板21上には第1の電極23を設け、第2の基板22上には第2の電極24を設けている。
【0034】
第1の電極23及び第2の電極24はITO(Indium Tin Oxide)膜からなり、概ね250〜2000Åの範囲の厚みに形成している。第1の電極23の形状は、図2(a)に示すように、図中左右方向に帯状に長く延びた形状をなして複数並んでいる。なお、帯状に長く延びた方向を長手方向と呼ぶことにする。
第2の電極24の形状は、図2(b)に示すように、図中上下方向に帯状に長く延びた形状をなして複数並んでいる。
この第1の電極23と第2の電極24が対向して配置されることにより、第1の電極23と第2の電極24が重なり合った部位が画素領域となりドットマトリックス状に画素が形成される。
第1の電極23及び第2の電極24は、真空蒸着法やスパッタリング法などのPVD法で第1の基板21上及び第2の基板22上全面にITO膜からなる電極膜を形成し、その後にフォトリソグラフィ法によって所要の形状に形成している。
【0035】
絶縁膜25は、図1に示すように、第1の電極23を設けた第1の基板21側にあって、配向膜26との間に設けている。この絶縁膜25は第1実施形態においてはSiO材料を用いて形成しているが、SiO以外の材料としてはTiO,Al,Siなどの材料も好適に利用することができる。誘電率の高い材料を用いるのが好ましい。
真空蒸着法やスパッタリング法などのPVD法もしくは印刷により概ね500Å位の厚みに形成している。
【0036】
この絶縁膜25は、第1実施形態においては、第1の電極23を設けた第1の基板21側にのみ設けている。これは、図2(a)に示すように、第1の電極23の長手方向が矢印P1で示した配向膜26の配向方向P1と直交方向になっているからである。
つまり、配向膜26の配向方向P1と直交方向になっている第1の電極23側に絶縁膜26を設けているものである。
図2(b)で示した第2の基板22上に設けた第2の電極24は、その電極の長手方向は矢印P2で示した配向膜27の配向方向P2と平行方向になっている。配向膜27の配向方向P2と平行方向をとる電極側には絶縁膜を設けていない。
【0037】
次に、絶縁膜25上に設けた配向膜26、及び第2の電極24上に設けた配向膜27はSiO,SiOなどの材料を用いて斜方蒸着方法で形成している。配向膜26,27の厚みは概ね600Å位の厚みに形成している。
また、第1の基板21側の絶縁膜25上に設ける配向膜26は、図2(a)に示す配向方向P1になるように斜方蒸着によって形成し、第2の電極24を設けた第2の基板22上に設ける配向膜27は、図2(b)に示す配向方向P2になるように斜方蒸着によって形成している。
そして、配向膜26の配向方向P1と配向膜27の配向方向P2とが同一方向になるように第1の基板21と第2の基板22とを対向して配置している。
【0038】
強誘電性液晶29は、第1実施形態においては、カイラルスメスチック液晶を用いている。
【0039】
シール材28は、第1実施形態においては、熱硬化性エポキシ樹脂をスクリーン印刷法などで印刷し、熱硬化したものから構成している。なお、エポキシ樹脂に限るものではなく、アクリル樹脂などであっても良い。また、紫外線硬化型の樹脂でも構わない。
スペーサボールは強誘電性液晶29を封入する間隙(ギャップ)を設けるために用いるもので、ギャップは概ね1.5μm位に設定している。
【0040】
[効果の説明:図3]
次に、上記の構成をとることによる効果を図3を用いて説明する。なお、図3は第1の基板21上に形成した第1の電極23の長手方向に対して直交する方向に切断した断面を示すもので、矢印P1は配向膜26の配向方向を示し、矢印Qは斜方蒸着方法で配向膜26を形成するときにおける斜方から材料を飛ばして蒸着を行う蒸着方向を示している。
【0041】
図3(a)において、第1の基板21上には帯状の第1の電極23が複数並んで設けられている。相隣り合う第1の電極23の間には間隙が有り、その間隙には段差部Aが生じている。この段差部Aは第1の電極23の厚みによって生じる段差である。
この段差部Aは段差部A1と段差部A2とに分けることができる。段差部A1は第1の電極23の図中右側にできる段差部であり、段差部A2は図中左側にできる段差部である。
配向膜の蒸着方向Qから見ると、特に段差部A2の部分は第1の電極23で隠れてしまって影になる部分(隠れて見えない部分)でもある。もし、第1の電極23上に直接配向膜を形成すると影となる段差部A2の部分は十分に配向膜を形成することができない。
【0042】
強誘電性液晶パネルにあっては、一般に、配向膜は斜方蒸着方法によって形成する。つまり、電極を設けた基板上に矢印Qで示したごとく斜め方向から蒸着材料を飛ばして基板や電極上に付着させ、配向膜を形成する。なお、本発明においては、斜め方向から材料を飛ばして蒸着を行う方向を蒸着方向と表している。斜方蒸着方法においては、蒸着方向が配向方向となって現れる。
【0043】
斜方蒸着方法をとる限りにおいては、上記で述べた段差部Aがあって、しかも蒸着方向Qから見て影になる段差部A2があると、その段差部A2には配向膜が付着しなかったり、あるいは、付着してもその量が少なかったりして配向膜のムラや配向方向の乱れが発生する。そして、この配向膜のムラや配向方向の乱れが液晶分子の配向特性を大きく乱す要因になる。
【0044】
次に、図3(b)において、図3(b)は絶縁膜25を形成した図を示しているが、絶縁膜25は真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法または印刷などで形成する。配向膜26,27と違ってこの絶縁膜25は斜方蒸着方法での形成方法はとらない。従って、第1の基板21上や第1の電極23上に全面にわたって絶縁膜25が形成される。段差部Aの部分にも絶縁膜が設けられ、矢印Bで示したように段差部Aの部分の凹凸は和らげられて小さくなる。このため、絶縁膜25の表面は段差部Aの部分に僅かな凹凸が現れるものの全体的には凹凸の小さい滑らかな表面が得られるようになる。
【0045】
図3(c)において、図3(c)は蒸着方向Qの下での斜方蒸着方法によって配向膜26を形成した図を示している。絶縁膜25の表面が全体的に凹凸の小さい滑らかな表面をなしているために配向膜は比較的均一に形成することができる。また、その配向方向も一定方向に整った状態で形成することができる。
【0046】
ところで、第2の電極24側は、図2(b)に示すように、第2の電極24の長手方向が配向膜27の配向方法P2と同一方向、つまり、平行方向をなしている。
斜方蒸着方法による配向膜の配向方向はその斜めからの蒸着方向に沿って形成されるので、斜めからの蒸着方向は配向方向に沿っている。
つまり、配向膜27は第2の電極24の長手方向に沿って斜方蒸着で形成されるので、相隣り合う第2の電極24との間隙の段差部にも一様に配向膜が形成される。また、その配向方向も一定方向に整った状態で形成される。このため、第2の電極24並びに第2の基板22上に設ける配向膜27は配向特性の良い配向膜が形成されることになる。
【0047】
以上、図3を用いて絶縁膜25を設ける第1の電極23側について説明した。第1の電極23の長手方向は配向膜26の配向方向P1と直交方向に形成されていることから、つまり、配向膜26の蒸着方向Qに対して直交する方向にあるため、上記したように、蒸着方向Qから見れば段差部A2による影の部分が沢山現れる。もし、第1の電極23や第1の基板21上に直接配向膜25を形成したならば、この影の部分は配向膜が付着しなかったり、付着しても量が少なかったりして付着量にムラが現れる。また、配向方向も一定方向に整った状態が得られずに配向方向の乱れが発生する。
しかしながら、第1の電極23や第1の基板21上に絶縁膜25を設けることで、上記したように、段差部Aの凹凸は小さくなって滑らかな表面になるため、配向膜26は均一な厚みで一定方向に整った配向方向が得られる。これによって、液晶分子の配向特性が良くなり、画素外領域では、初期の配向状態において白表示または黒表示の単安定性を誘発して安定した表示を現出させる効果を生む。
本願発明の発明者が様々な実験を行った結果、上記に述べた構成をとることで液晶分子の配向特性を向上させ、初期の配向状態(電圧を一度も印加しない状態)で白表示または黒表示に規制することが充分可能なことを見出したものである
【0048】
また、絶縁膜は片側の電極側にのみ設ける構成をとるので、製作コストの面でも大変安くすることができる。
【0049】
なお、第1実施形態においては、配向膜の配向方向に対して直交する方向に形成された帯状の電極を第1の電極と規定して呼称し、配向膜の配向方向と平行方向に形成された帯状の電極を第2の電極と規定して呼称した。
本発明においては、配向膜の配向方向と直交する方向に形成された領域が多い電極を第1の電極と規定し、配向膜の配向方向と直交する方向に形成された領域が少ない電極を第2の電極と規定するものである。
第1実施形態においては、図2に示すように、第1の電極、第2の電極共に帯状の形状をなすため、第1の電極は配向膜の配向方向と100%直交方向にあり、また、第2の電極は配向膜の配向方向と100%平行方向にある。
【0050】
本発明においては、配向膜の配向方向と直交する方向に形成された領域が多い電極側に、つまり、第1の電極側に絶縁膜を設けるものである。なぜなら、配向方向と直交する方向に設けた領域が少ない第2の電極側に絶縁膜を設けるより、より一層高い効果が得られるからである。
【0051】
また、第1実施形態においては、この第1の電極を設けた基板を第1の基板と呼称し、第2の電極を設けた基板を第2の基板と呼称したものであるが、特に基板についての呼称に制限を加えるものではない。また、図1においては、第1の電極23を設けた第1の基板21を下側に配置し、第2の電極24を設けた第2の基板22を上側に配置した構造をとったが、これが逆になった配置構造であっても何ら差し障りはないものである。
さらに、配向方向P1と配向方向P2とを同じ向きで図示したが、配向方向P1と配向
方向P2との関係は、平行であればよく、例えば向きが180度反対方向であっても、同じ効果が得られる。
【0052】
〔第2実施形態の説明:図4、図5〕
次に、本発明の第2実施形態に係る強誘電性液晶パネルについて図4、図5を用いて説明する。図4は本発明の第2実施形態に係る強誘電性液晶パネルの模式的に示した要部断面図である。また、図5は図4における電極と配向膜の配向方向との関係を説明する模式的に示した説明図で、図5(a)は第1の電極と配向膜の配向方向を示し、図5(b)は第2の電極と配向膜の配向方向を示している。
【0053】
図4において、21は第1の基板、22は第2の基板、43は第1の電極、44は第2の電極、25は絶縁膜、26,27は配向膜、28はシール材、29は強誘電性液晶、31,32は偏光板である。そして、これらの主要構成部品によって第2実施形態の強誘電性液晶パネル40を構成している。
ここで、第2実施形態に係る強誘電性液晶パネル40は、前述の第1実施形態の強誘電性液晶パネルと対比すると第1の電極43と第2の電極44の形状のみが異なっている。他の構成部品の仕様は前述の第1実施形態の構成部品と同じ仕様をなしているので同じ符号を付与している。以降においては、仕様の異なる第1の電極43と第2の電極44を中心にして説明し、他の構成部品の説明は必要限度に留めることにする。
【0054】
第1の電極43は、図5(a)に示すように、7つのセグメント電極43a,43b,43c,43d,43e,43f,43gから構成したセグメント電極である。また、第2の電極44は、図5(b)に示すように、矩形の形状でベタ面に形成した電極である。
そして、第1の電極43と第2の電極44が対向して重なり合った部分が、つまり、セグメント電極が形成された領域部分が画像を表示する画素領域になり、それ以外の領域が画素外領域になる。
また、第1の電極43及び第2の電極44はいずれもITO膜からなるものである。
【0055】
第1の電極43のセグメント電極と配向膜26の配向方向との関係は、図5(a)に示すように、セグメント電極43a、43d、43gの3つのセグメント電極が矢印で示した配向方向P1に対して直交する方向になっている。つまり、セグメント電極43a、43d、43gと直交する方向に配向膜26の配向方向P1を設けている。
【0056】
第2の電極44と配向膜27の配向方向との関係は、図5(b)に示すように、第2の電極44はベタ面をなす電極であるが、第1の電極43の配向膜26の配向方向P1と同一方向になるように配向方向P2を設けている。
【0057】
第2実施形態においては、3つのセグメント電極43a,43d,43gと直交方向に配向膜26の配向方向P1を設けたが、特にこの方向に限定するものではない。例えば、他の4つのセグメント電極43b,43c,43e,43fと直交方向に配向膜26の配向方向を設けても構わないものである。なお、この場合においては、第2の電極44上に設ける配向膜27の配向方向も同一方向になるように合わせる必要がある。
【0058】
絶縁膜25はセグメント電極なる第1の電極43側に設ける。絶縁膜25の仕様については前述の第1実施形態における仕様と同じ仕様であるので、ここでの説明は省略する。また、配向膜26、27の仕様も前述の第1実施形態における配向膜の仕様と同じ仕様であるので、ここでの説明は省略する。
【0059】
以上の構成をなした強誘電性液晶パネルは、前述の第1実施形態における強誘電性液晶パネルで説明した効果と同じ効果を奏する。つまり、画素外領域を制御するための電極を
設けることなく、セグメント電極43の周囲の全領域において、あらかじめ白表示、または黒表示を制御することができた。
また、先の実施形態と同様、配向方向P1と配向方向P2とを同じ向きで図示したが、配向方向P1と配向方向P2との関係は、平行であればよく、例えば向きが180度反対方向であっても、同じ効果が得られる。
【0060】
[第3実施形態の説明:図6]
次に、本発明の第3実施形態に係る強誘電性液晶パネルについて図6を用いて説明する。図6は本発明の第3実施形態に係る強誘電性液晶パネルの模式的に示した要部断面図である。
【0061】
図6において、21は第1の基板、22は第2の基板、23は第1の電極、24は第2の電極、25は絶縁膜、56,57は配向膜、28はシール材、29は強誘電性液晶、31,32は偏光板である。そして、これらの主要構成部品によって第3実施形態の強誘電性液晶パネル50を構成している。
ここで、第3実施形態に係る強誘電性液晶パネル50は、前述の第1実施形態の強誘電性液晶パネルと対比すると配向膜56,57の仕様のみが異なる。他の構成部品の仕様は前述の第1実施形態の構成部品と同じ仕様をなしているので同じ符号を付している。以降においては、仕様の異なる配向膜56,57を中心にして説明し、他の構成部品の説明は必要限度に留めることにする。
【0062】
第1の基板21側の絶縁膜25上に設ける配向膜56、及び第2の基板22側の第2の電極24上に設ける配向膜57は、第3実施形態においては、ポリイミド樹脂から形成している。スピンコート法や印刷法によってポリイミド樹脂の薄膜を形成し、その後にロール状にした綿布などを用いてラビング処理を行って一定方向に配向処理を施している。
【0063】
配向膜56,57の配向方向は前述の第1実施形態での図2に示したように、配向膜56の配向方向は帯状の第1の電極23の長手方向に対して直交方向に配向方向P1を形成している(図2(a)参照)。また、配向膜57の配向方向は第2の電極24の長手方向に対して平行方向に配向方向P2を形成している(図2(b)参照)。以上の構成をなした配向膜56,57は前述の第1実施形態における斜方蒸着方法で形成した配向膜と同等な働きをなす。また、このような樹脂で形成した配向膜であっても、電極と直交する領域が多い場合には、図3(a)で図示したように、斜方蒸着膜の配向膜を形成した場合と同じく、段差部Aにおいて、ラビング処理時に発生する配向ムラが発生する。
【0064】
よって、先の実施形態と同様に、第1の電極23や第1の基板21上に絶縁膜25を設けることで、段差部Aの凹凸は小さくなって滑らかな表面になるため、配向膜56は均一な厚みで一定方向に整った配向方向が得られる。これによって、液晶分子の配向特性が良くなり、画素外領域では、初期の配向状態において白表示または黒表示の単安定性を誘発して安定した表示を現出させる。
【0065】
なお、第3実施形態においては、配向膜はポリイミド樹脂で形成したが、ポリイミド樹脂に限るものはなく、他の樹脂としてはポリアミド樹脂やポリビニールアルコール(PVA)樹脂などの樹脂を用いることも可能である。また、本実施形態では、第1実施形態の帯状電極を用いて説明したが、第2実施形態のセグメント電極形状であっても同様な効果が得られる。
また、先の実施形態と同様、配向方向P1と配向方向P2との関係は、平行であればよく、例えば向きが、同一方向であっても、180度反対方向であっても、同じ効果が得られる。
【符号の説明】
【0066】
20、40、50 強誘電性液晶パネル
21 第1の基板
22 第2の基板
23、43 第1の電極
24、44 第2の電極
25 絶縁膜
26、27、56、57 配向膜
28 シール材
29 強誘電性液晶
31、32 偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板のそれぞれ内側に、第1の電極と第2の電極とを備え、強誘電性液晶を挟持した強誘電性液晶パネルであって、
前記第1の電極と前記第2の電極の上には、それぞれの配向方向が平行となるように配向膜を設け、
前記第1の電極は、前記第2の電極よりも、前記配向方向と直交方向に形成されている領域が多く、前記第1の電極と前記配向膜との間にのみ、絶縁膜を設けることを特徴とする強誘電性液晶パネル。
【請求項2】
前記第1の電極は、帯状の電極であり、該帯状の長手方向と前記配向方向とは直交方向であることを特徴とする請求項1に記載の強誘電性液晶パネル。
【請求項3】
前記第1の電極は、セグメント形状の電極であることを特徴とする請求項1に記載の強誘電性液晶パネル。
【請求項4】
前記配向膜は、斜方蒸着方法で形成された膜であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の強誘電性液晶パネル。
【請求項5】
前記配向膜は、樹脂膜をラビング処理した膜であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の強誘電性液晶パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−123279(P2011−123279A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280572(P2009−280572)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(000124362)シチズンセイミツ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】