説明

強酸性領域で使用可能なキレート吸着材

【課題】
酸性領域での吸着を可能にする吸着材を提供するとともに、中性領域で吸着困難であった吸着をより容易に高速で且つ高吸着容量の吸着材を提供するものである。
【解決手段】
高分子基材に放射線を照射した後に、この基材に、金属吸着に適するホスホン酸基及びスルホン酸基をグラフト重合により導入した二官能性吸着材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性領域の排水処理などで使用される金属イオン除去用キレート吸着繊維からなる吸着材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リン酸型、ホスホン酸イオン吸着材は中性付近において、銅(II)、鉛(II)イオンなどを良好に吸着するが、pH2以下の酸性領域においては吸着容量、吸着速度が低下する。また、鉄(III)イオンなどは、中性付近において配位子交換速度が遅いほか、嵩高い複核水酸化物錯イオンを形成するため吸着が困難である。その他、かかる吸着技術に関しては、次の文献等が知られている。
【非特許文献1】Akinori JYO and others, “Phosphonic Acid Fiber for Selective and Extremely Rapid Elimination of Lead”, ANALYICAL SCIENCE 2001, VOL. 17 SUPPLEMENT 2001, The Japan Society for Analytical Chemistry
【非特許文献2】Shoji AOKI and others, “Phosphonic Acid Fiber for Extremely Rapid Elimination of Heavy Metal Ions from Water”, ANALYICAL SCIENCE 2001, VOL. 17 SUPPLEMENT 2001, The Japan Society for Analytical Chemistry
【非特許文献3】Akinori Jyo and Xiaoping Zhu, “METAL-ION SELECTIVITY OF PHOSPHORIC ACID RESIN IN AQUEOUS NITRIC ACID NADIA”, Chemistry for the Protection of the Environment 3, edited by Pawlowsky et al. Plenum Press, New York, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の吸着材として使用されていた市販の樹脂の酸性領域での使用は、吸着容量の低さや吸着速度の低下を起こした。また、鉄(III)などのような金属イオンは、配位子交換速度が遅いほか、中性領域においては嵩高い複核水酸化物錯イオンを形成し、沈殿するため中性領域からの吸着が不可能であった。
【0004】
しかし、本発明では、酸性領域での吸着を可能にする吸着材を提供するとともに、中性領域で吸着困難であった吸着をより容易に高速で且つ高吸着容量の吸着材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、酸性排水中に溶存する金属イオン、特に水酸化物イオンに対する溶解度積が小さい高原子価金属イオンを吸着除去する吸着材である。
本発明のキレート吸着繊維は、グラフト重合技術を利用することで、様々な形状の材料にその吸着機能を付与することにより作製可能になるものである。本発明では、吸着材の素材にポリプロピレン、ポリエチレン若しくは天然高分子製の繊維、ポリエステル製の繊維、又はその複合体の繊維を用いてホスホン酸型、スルホン酸型およびこれらの複合体のキレート吸着繊維を作製した。その繊維の形状としては、短繊維、不織布、織布、フィラメント等があげられる。
【0006】
本発明のキレート吸着繊維は、高分子基材に電子線等の放射線を照射した後、反応性のモノマー試薬を加えて金属イオン吸着機能を導入できるグラフト重合法により作製された。
【0007】
本発明においては、高分子基材としてポリエチレン製等の繊維を使用し、この基材に、金属イオン吸着に寄与するホスホン酸基、スルホン酸基等の官能基を二種類以上導入することが可能な反応性モノマーをグラフト重合により導入することによって行われる。
【0008】
即ち、本発明は、高分子基材に放射線を照射した後に、この基材に、ホスホン酸基を有する反応性モノマー及びスルホン酸基を有する反応性モノマーをグラフト重合により導入した二官能性吸着材である。又は、本発明は、高分子基材に放射線を照射した後に、この基材に、ホスホン酸基を導入可能な反応性モノマー及びスルホン酸基を導入可能な反応性モノマーをグラフト重合により導入し、その後ホスホン酸基及びスルホン酸基を導入した二官能性吸着材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のキレート吸着繊維の性能を、市販のキレート樹脂ならびに一官能性繊維(一種類の官能基が導入された吸着繊維)との間で、吸着容量を溶液内の鉛(II)イオン濃度に関して比較した結果、本発明の繊維ではpH2以下においては2倍以上であった。また、Fe(III)の流速依存性を一官能性繊維と比較した結果、本発明の繊維では、100倍以上の流速において良好な吸着挙動を示した。
【0010】
本発明の放射線グラフト重合法で作製したキレート吸着繊維は、一官能性繊維ならびに市販のキレート樹脂(三菱化学のダイヤイオン:CRP200)と比較して優れた吸着性能を有するため、酸性排水処理法として有望である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
放射線照射は、予め窒素置換した高分子基材に、窒素雰囲気下、室温又はドライアイスによる冷却下で放射線照射する。用いる放射線は、電子線またはγ線で、照射線量は反応活性点を生成させるのに充分な線量であることを条件に適宜決定することができるが、典型的には5〜200kGyである。
【実施例】
【0012】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)放射線照射によるホスホン酸基等を導入した吸着材の作製において、高分子基材として不織布を用いた吸着材の合成
高分子基材として不織布を使用し、これに放射線照射することにより反応活性点を生成させた。放射線照射は、電子線を用いて窒素雰囲気下でトータル線量が200kGyになる条件で行った。次いで、ビニル基を有するモノマーとしてクロロメチルスチレンとスチレンを重量比4:1でモノマー濃度が10〜50%になるように、DMSO(ジメチルスルホキシド)中で3〜24時間、40℃で反応させ、繊維糸にグラフト鎖を導入した。
【0013】
反応率は、40℃で2時間及び3時間反応させると、それぞれ、100%、130%であった。更に亜リン酸トリエチルホスホン酸基を導入し、クロロスルホン酸によりスルホン化し、ホスホン酸基とスルホン酸基が導入された二官能性キレートグラフト吸着繊維に鉛(II)イオンを通液させると、官能基濃度90%まで処理液を漏らさず、回収することができる。
(実施例2)キレート吸着繊維による鉛(II)イオンの吸着試験
ホスホン酸基及びスルホン酸基が導入された二官能性キレート吸着繊維を塩酸と水酸化ナトリウムで交互にコンデショニングを行った後に吸着試験に使用した。鉛(II)イオン溶液は0.001Mに調整後、pH=0〜3.0間の様々なpH範囲で20℃、24時間、吸着繊維と浸漬攪拌させる。
【0014】
図1に示されるように、本発明の二官能性繊維はpH1以下の領域においても90%以上の吸着回収率を示した。即ち、二官能性繊維ではpH=1以下の強酸性領域においても良好な吸着が可能である。
【0015】
また、図2に示されるように、市販樹脂は3倍の官能基容量を示すにもかかわらず、pH=1の強酸性領域においては、本発明の繊維は、市販樹脂に比して2倍の吸着容量を示した。即ち、市販樹脂のホスホン酸基容量が二官能性繊維の3倍であるが、pH=1以下においては、二官能性繊維は市販樹脂の2倍以上の吸着容量を示す。
(実施例3)キレート吸着繊維による鉛(II)イオン、鉄(III)イオン吸着における流速依存性試験
ホスホン基及びスルホン基が導入された二官能性キレート吸着繊維を内径7mmのカラムにつめた後、塩酸と水酸化ナトリウムで交互にコンディショニングがを行った後に吸着試験に使用した。鉛(II)イオン、鉄(III)イオン溶液は、0.01Mに調整後、鉄(III)イオンにおいてはpH=1.8に調整し、空間速度(S.V)40から1000h−1、の範囲で通液させる。図3に示されるように、鉛(II)イオンにおいて空間速度1000h−1においても迅速な吸着速度を示した。即ち、空間速度900h−1において破過曲線の形状が一致し、迅速な吸着が行われたことを示す。
【0016】
又、図4に示されるように、鉄(III)イオンにおいては二官能性キレート吸着繊維のみが迅速な吸着が可能である。二官能性のホスホン酸基を有する吸着繊維では、特に、強酸領域でその性能が高かった。即ち、図4に示されるように、一官能性繊維では、通液直後から漏出が始まったが、二官能性繊維では低pH領域にもかかわらず、空間速度20から1000h−1において良好な吸着を示した。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明においては、金属イオンを含有する酸性排水から吸着除去する際に、本発明のキレート吸着材を使用することにより、吸着速度、吸着容量、選択性の各面において強酸域での吸着処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】二官能性繊維、一官能性繊維及び市販樹脂(CRP)の各pHにおける吸着率を示す図である。
【図2】二官能性繊維及び市販樹脂の各pHにおける平衡吸着容量を示す図である。
【図3】二官能性繊維及び一官能性繊維の中性領域における鉛(II)イオンの流速依存性を示す図である。
【図4】二官能性繊維及び一官能性繊維における鉄(III)イオン吸着の流速依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材に放射線を照射した後に、この基材に、金属吸着に適するホスホン酸基を有する官能基のある反応性モノマーをグラフト重合させることにより、又は反応性モノマーをグラフト重合後このグラフト鎖に前記官能基を導入することにより得られた強酸性領域で使用可能なキレート吸着材。
【請求項2】
高分子基材が、ポリプロピレン、ポリエチレン若しくはポリエステル製の繊維、セルロースなどの天然高分子から構成される繊維、又はその複合体の繊維である請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
反応性モノマーが、ホスホン酸基を有するビニル反応性モノマーであり、且つこれにキレート形成基の導入が可能であるモノマーであるか、又はグラフト重合によりホスホン酸基を導入可能な官能基を導入できる反応性モノマーである、請求項1又は請求項2に記載の吸着材。
【請求項4】
ホスホン酸基を有する反応性モノマーが、二種類目の官能基であるスルホン酸基などを導入可能なモノマーである請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の吸着材。
【請求項5】
吸着材中に、ホスホン酸基及びその他の金属吸着に有用な官能基が二官能性以上存在するか、又はホスホン酸基を有する吸着材と一官能性吸着材との混合物である請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の吸着材。
【請求項6】
吸着材中にホスホン酸基と吸着材を膨潤させるために補助するもう一種以上の官能基が存在する吸着材、又はホスホン酸基を有する吸着材と一官能性吸着材との混合物である請求項5に記載の吸着材。
【請求項7】
吸着材を膨潤させる官能基が、スルホン酸基、アンモニウム基、ニトロ基として機能する官能基、著しい親水性基として機能する官能基、又はそれ自身吸着機能を有する官能基を有する官能基である請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の吸着材。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−130540(P2007−130540A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324600(P2005−324600)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】