説明

弾性率測定方法、弾性率測定装置、及びプログラム

【課題】三点曲げ法による曲げ弾性率の測定において、測定系の誤差を小さくし精度よく曲げ弾性率の測定を行うことが可能な弾性率測定方法を提供する。
【解決手段】同一の材料で作られた、長さが等しく幅が異なる供試体X,Yのそれぞれに対し、当該供試体の中央部に加える応力の変化量ΔPに対する該中央部の変位量ΔW,ΔWを測定する。これらの測定値と、2つの前記支持体の間隔S、供試体X,Yの厚さh,h、供試体X,Yの幅b,b、及び供試体X,Yの幅の比1:Aとから各供試体の曲げ弾性率Eを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物に代表されるセラミックスなどの固体の供試体の曲げ弾性率を測定する弾性率測定方法及び弾性率測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体の静弾性率の測定方法として、三点曲げ法が広く知られている(非特許文献1,2参照)。三点曲げ法は、三点曲げにより供試体に生じる歪みと応力との関係から、曲げ弾性率を算出する方法である。
【0003】
図8は、三点曲げ法による曲げ弾性率の測定を行う弾性率測定装置を示す図である(非特許文献1参照)。図8の弾性率測定装置は、弾性率測定装置101と制御用のコンピュータ102とを備えており、両者はインタフェース103を介してケーブル接続されている。
【0004】
弾性率測定装置101は、床面に設置された架台104の上面に、4本の柱体105が立設されており、これらの柱体105で囲まれた架台104上面に、供試体を設置する支持台106が設置されている。また、支持台106の上部を囲繞して、チャンバ107が設置されており、チャンバ107の内部は外界から隔絶され、チャンバ内部の温度や雰囲気を自由に調整することが可能とされている。
【0005】
支持台106の上面には、並行に2本の丸棒からなる支持体108,108が設置されている。そして、この2本の支持体上に、供試体Aが載置されている。供試体Aは、所定の矩形断面形状(図8の例では30×30mm)の棒状体であり、その両端付近の底面が2つの支持体108,108により支持される。
【0006】
また、チャンバ107の真上には、加圧力を発生させるクロスヘッド109が配設されており、クロスヘッド109の下部には、供試体Aの上面の中央部を加圧するための加圧体110が設けられている。加圧体110は、扁平な板状体であり、下部断面形状が先細りとなり先端が円弧状に形成されている。この加圧体110の上端部がクロスヘッド109によって加圧され、供試体Aの上面中央が加圧される。
【0007】
尚、供試体A上面の加圧体110の接触点と、供試体A下面の各支持体108,108の接触点との距離は等しくなるように、各部が配置されている。
【0008】
尚、図8には図示されていないが、弾性率測定装置は、クロスヘッド109により加圧体110に加えられる応力を検出するロードセルなどの圧力センサと、加圧体110の変位を検出する変位検出器とを備えている。そして、加圧体110に加えられる応力と加圧体110の変位のデータは、インタフェース103を介してコンピュータ102にリアルタイムで送られて保存される。
【0009】
以上のような弾性率測定装置において実際に曲げ弾性率を測定する場合、まず、クロスヘッド109により加圧体110に加える応力Pを徐々に増加させる。そして、応力Pを増加させながら各時点での加圧体110の変位Wを測定する。これにより、応力Pと変位との関係が得られる。そして、コンピュータ102は、応力Pと変位との関係のデータが得られた時点で、曲げ弾性率Eの計算を行う。
【0010】
三点曲げ試験の場合、図9に示すように、両支持体108,108の間隔をSとし、供試体Aの厚さをh,幅をbとした場合、供試体Aの中央部の変位Wは、次式(1)のように表される。
【0011】
【数1】

【0012】
ここで、Iは供試体Aの断面2次モーメントであり、次式(2)により表される。
【0013】
【数2】

【0014】
従って、(1)より、供試体Aの曲げ弾性率Eは、応力Pと変位Wの比P/Wの関数として次式(3)のように表される。
【0015】
【数3】

【0016】
故に、測定された応力Pと変位Wとの関係のデータから勾配P/Wを求めれば、式(3)により曲げ弾性率が求められる。実際の測定においては、一般に、応力Pと変位Wとの関係は、正比例関係とはならず、図8内のグラフに示したようなカーブを描く。このような場合、通常は最も直線に近い部分のデータを切り取ってこれを直線近似し、近似直線の勾配をP/Wとして式(3)により曲げ弾性率が求められる。
【特許文献1】特開平2−108942号公報
【特許文献2】特開昭63−311143号公報
【特許文献3】特開昭58−92930号公報
【特許文献4】特公平6−41900号公報
【特許文献5】特公平3−59374号公報
【非特許文献1】駿河俊博,保木井利之,浅野敬輔,「MgO-C質耐火物の熱間静弾性率特性」,耐火材料,黒崎播磨株式会社,2001年12月20日,No.149, pp.62-67.
【非特許文献2】朝倉秀夫, 南園広志, 中務正幸,「熱間静弾性率測定装置の開発」,品川技報,品川白煉瓦株式会社,2000年03月20日,No.43, pp.83-90.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記測定系において得られる供試体Aの中央部の変位は、加圧体110の移動した距離を検出しており、直接供試体Aの変位を検出したものではない。この加圧体110の変位には、供試体Aの歪みによる変位以外に、供試体Aと加圧体110との接触面における微小な凹凸の変化、供試体Aと加圧体110との接触状態の変化、供試体内部のキャビテーションの圧潰、加圧体110自体の圧力による歪み、加圧装置の剛性などの様々なファクターが含まれているため、真の供試体Aの歪みによる変位Wを求めることは困難である。また、実際に測定を行うと、これらのファクターの値は、測定の度に変化するため、簡単に補正をすることができない。
【0018】
一方、供試体Aが耐火物やセラミックスのような高い剛性をもつ物質の場合、供試体Aに加える応力に対する変位の値は極めて小さい。従って、測定された変位値に含まれる、供試体Aの歪みによる変位以外のファクターの値が小さいとしても、供試体の曲げ弾性率の計算結果に与える誤差は大きなものとなる。
【0019】
従って、従来の三点法による曲げ弾性率の測定方法では、耐火物やセラミックスのような高い剛性をもつ物質の場合、曲げ弾性率の正確な値を測定することができないという問題があった。
【0020】
この問題を解決するためには、供試体Aの中央部の変位の測定を、加圧体110の変位から間接的に求めるのではなく、供試体Aに歪みゲージを貼り付けて、直接歪み量を求めればよい。常温での測定では、このような方法は有効である。
【0021】
しかしながら、耐火物やセラミックスの弾性率測定は、熱間での耐熱スポーリング性の評価のためなどに行われるため、数百℃以上の熱間において弾性率の試験を行う必要がある場合が多い。このような高温下においては、供試体Aに歪みゲージを貼り付けて測定するといったことは不可能であり、加圧体110の変位から間接的に供試体Aの中央部の変位を測定せざるを得ない。従って、上述したような各種ファクターによる歪み量の測定誤差の影響の問題は依然として残る。
【0022】
そこで、本発明の目的は、三点曲げ法による曲げ弾性率の測定において、供試体と加圧体との接触面における微小な凹凸の変化、供試体と加圧体との接触状態の変化、供試体内部のキャビテーションの圧潰、加圧体自体の圧力による歪み、加圧装置の剛性などの測定装置に起因するファクターを除去し、精度よく曲げ弾性率の測定を行うことが可能な弾性率測定方法及び弾性率測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
〔1〕本発明における曲げ弾性率測定試験の原理
まず、本発明において用いる三点曲げ法による曲げ弾性率の測定の原理について簡単に説明する。測定装置に起因する誤差のない理想的な測定系においては、供試体に加える応力Pと供試体の歪みWとの関係は、式(1)のようになる。
【0024】
しかしながら、実際に耐火物資料供試体として応力と歪みの関係を三点曲げ法により測定すると、図1に示したような測定結果が得られる。図1(a),(b)は、同一の材料からなる供試体の三点曲げ法による実験結果である。図1(a)は供試体幅bが20mm、図1(b)は供試体幅bが40mmである。横軸は加圧体の変位を表す。また、縦軸は加圧体に加えた荷重を表す。図1(b)の供試体は図1(a)の供試体に比べて幅が2倍となっているため、同一の応力を加えるために図1(b)で加える荷重は図1(a)で加える荷重の2倍となっている。
【0025】
図1から分かるように、実際に測定される加圧体の応力と加圧体の変位の関係は直線とはならず曲線となる。また、1回目の加圧を行う場合の曲線は、1回目の降圧以降の曲線と大きくずれる現象が一般に観測される。
【0026】
以上の実験結果に基づき、本発明者は、三点曲げ法による曲げ弾性率試験の測定系を次式(4)のような単純なモデルでモデル化した。
【0027】
【数4】

【0028】
式(4)において、右辺第2項は、測定装置その他の擾乱要因(供試体内部のキャビテーションの圧潰、供試体と加圧体との接触面における微小な凹凸の変化などの影響も含む。以下「測定装置系」という。)により生じる変位の項を表す。式(4)では、加圧体を含む測定装置系を1つの弾性体で置き換えており、測定装置系は、応力に比例して測定装置系の歪みが大きくなると仮定している。
【0029】
更に、種々の実験の結果、式(4)の右辺第2項は、供試体の硬さによっても変化するという知見を得た。すなわち、供試体が柔らかく曲げ弾性率Eが小さい場合には、測定装置系は供試体に比べて十分に硬いため、測定系の歪みは殆どなく測定に影響しない。それに対して、供試体が測定系と同程度に硬い場合、すなわち供試体の曲げ弾性率が大きい場合、測定系の歪みが大きくなり、その影響が変位の測定値にも現れる。このような現象をモデル式に組み込むため、右辺第2項は、第1項のS/EIの大きさに反比例すると仮定し、式(4)を更に次式(5)のようにおいた。
【0030】
【数5】

ここで、kは測定装置に固有の定数である。図7にEI/Sと装置変位Wとの関係を測定した結果を示す。
【0031】
なお、このkは装置の各構成部品の接合部間(及び測定試料のとの接合部)のクリアランスや歪み,それら構成部品自体の歪み,それらに影響を及ぼす温度等の要素の変動等の総和として現れるものと考えられる。
【0032】
次に、式(5)のように測定系をモデル化した上で、次に、測定系の影響を排除して曲げ弾性率Eを求める方法について説明する。なお、以下の説明において、曲げ試験機は図8の曲げ試験機と同様のものを使用することとする。
【0033】
まず、同じ材料により、長さLが同じで幅bが異なる断面が矩形の棒状の供試体X,Yを用意する。供試体Xの幅をb,厚さをh、供試体Yの幅をb,厚さをhとする。また、幅b,bの比をA=b/bとおく。そして、この2つの供試体X,Yについて、同一の範囲で応力を変化させて、加圧体に加える応力変化ΔPとそれに対する加圧体の変位量ΔWを測定する。例えば、応力をσs0からσs2(σs0<σs2)の間で変化させ、応力がσs1及びσs2(σs0<σs1<σs2)となる2点で変位δW,δWを測定し、ΔP=σs2−σs1,ΔW=δW−δWとする。各供試体X,Yについて、観測される応力と歪みの関係は式(5)より次式(6a),(6b)のように表される。
【0034】
【数6】

【0035】
ここで、ΔW,ΔWは、それぞれ、供試体X,Yに対して測定された変位量、I,Iは、それぞれ、供試体X,Yの断面二次モーメントであり、式(6c)で表される。
【0036】
=Abを式(6b)に代入して式(6a)(6b)からkの項を消去することにより、曲げ弾性率Eは次のように求めることができる。
【0037】
【数7】

【0038】
上式(7)は、測定装置に固有の定数kを含まないため、測定装置の歪みの影響はこれにより排除されることが分かる。
【0039】
〔2〕本発明の構成及び作用
弾性率測定方法に係る本発明の第1の構成は、棒状の供試体の両端付近の下部を、水平に置かれた2つの支持体で2点支持するとともに、当該供試体中央部を加圧体で加圧して該加圧体の変位を測定することでその供試体中央部の変位量を計測し、当該供試体材料の曲げ弾性率を測定する弾性率測定方法であって、同一の材料で作られた、長さが等しく幅が異なる第1及び第2の供試体のそれぞれに対し、当該供試体の中央部に加える応力の変化量ΔPに対する該中央部の変位量ΔW,ΔWを測定する変位測定ステップと、2つの前記支持体の間隔をS、前記第1及び第2の供試体の厚さをh,h、前記第1及び第2の供試体の幅をb,b、前記第1及び第2の供試体の幅の比を1:Aとしたときに、式(7),(6c)の演算により、各供試体の曲げ弾性率Eを算出する弾性率算出ステップと、を有することを特徴とする。
【0040】
こように、同一の材料で作られた、長さが等しく幅が異なる第1及び第2の供試体について、印加応力の変化量ΔPと変位量ΔW,ΔWを測定し、式(7),(6c)の演算を行って曲げ弾性率を求めることで、供試体と加圧体との接触面における微小な凹凸の変化、供試体と加圧体との接触状態の変化、供試体内部のキャビテーションの圧潰、加圧体自体の圧力による歪み、加圧装置の剛性などの測定装置に起因するファクターが排除され、精度よく曲げ弾性率の測定を行うことが可能となる。
【0041】
尚、供試体の厚さh,hは同じ値としてもよいし、異なる値としてもよいが、測定条件を共通化しできるだけ余分な誤差要因を排除する観点からは、厚さh,hは同じ値とすることが好ましい。
【0042】
弾性率測定方法に係る本発明の第2の構成は、前記第1の構成において、前記変位測定ステップにおいては、前記第1の供試体の中央部に加える2つの異なる応力σs1,σs2(σs1<σs2)の間での当該供試体の中央部の変位量ΔWを測定する第1の測定ステップと、前記第2の供試体の中央部に加える前記応力σs1,σs2の間での当該供試体の中央部の変位量ΔWを測定する第2の測定ステップと、を有することを特徴とする。
【0043】
これにより、第1及び第2の供試体は同一の応力条件で応力と変位の関係が測定されるため、応力に対する非線形な変形現象による測定誤差を極力抑えることができる。
【0044】
ここで、印加応力σs1,σs2の値については、供試体の破壊応力、必要な測定範囲、供試体のクリープ変形の大きさなどを考慮して、必要な範囲に任意に設定することができる。しかしながら、印加応力σs1,σs2の値は、変位が測定可能な範囲内とする必要があり、低圧値σs1については0[Pa]以上、高圧値σs2については供試体の曲げ破壊応力よりも小さい値とする。尚、σs1=0[Pa]とすると、減圧時に加圧装置内の加圧体と他の部品との間などに再びクリアランスが生じたり、供試体内の圧潰されたキャビテーションが復元したり、供試体の遅延弾性成分(粘弾性体の場合)の影響が大きくなったりするため、低圧値σs1については0[Pa]よりも大きな値に設定することが好ましい。
【0045】
なお,高圧値σs2については,供試体とする材料の利用方法すなわちその使用条件,具備条件・特性等,材料の有する特性等,個々の必要性や所与の条件に応じた応力領域の弾性率を得るために,個別に設定すればよい。
【0046】
弾性率測定方法に係る本発明の第3の構成は、前記第1又は2の構成において、前記第1及び第2の測定ステップにおいては、前記変位量ΔW,ΔWの測定を行う前に、前記第1又は第2の供試体の中央部に加える応力を、当該供試体の曲げ強度以下の所定の圧力まで昇圧させた後に、前記応力σs1以下に減圧させる昇降圧過程を、少なくとも1回以上行う誤差除去ステップを行うことを特徴とする。
【0047】
このように、供試体の中央部の変位量ΔW,ΔWを測定する前に、上記誤差除去ステップを行うことによって、供試体と加圧体の間やその他加圧器機内に存在するクリアランスが押潰されたり、供試体表面の凹凸が潰れたり、供試体内部に存在するキャビテーションが圧潰されたりするなど、様々な非可逆的な変化が重畳した誤差要因(図1(a),(b)の1回目昇圧過程に現れているような非可逆的要因)を除去することができる。
【0048】
弾性率測定方法に係る本発明の第4の構成は、前記第2又は3の構成において、前記第1及び第2の測定ステップにおいては、前記第1又は第2の供試体に対して、
(1)当該供試体の中央部に対し加える応力をσs1からσs2(σs1<σs2)に、時間区間[0,T]で定義される所定の時間関数σ(t)に従って時間Tで昇圧させるとともに、応力がσs1及びσs2となる各時点で当該供試体の変位δW(up),δW(up)を測定し、その差(δW(up)−δW(up))を応力σs1,σs2間での昇圧変位ΔW(up)として算出する昇圧過程測定ステップ;
(2)当該供試体の中央部に対し加える応力をσs2からσs1に、前記時間関数σ(t)を時間反転させた関数σ(T−t)に従って時間Tで降圧させるとともに、応力がσs2及びσs1となる各時点で当該供試体の変位δW(down),δW(down)を測定し、その差(δW(down)−δW(down))を応力σs1,σs2間での降圧変位ΔW(down)として算出する降圧過程測定ステップ;
(3)及び、前記昇圧変位ΔW(up)と前記降圧変位ΔW(down)との平均値を、前記応力σs1,σs2の間での当該供試体の中央部の変位量ΔW又はΔWとして算出する平均変位算出ステップ;を有することを特徴とする。
【0049】
このように、第1及び第2の供試体について、昇圧過程では印加応力σを時間関数σ(t)に従って時間Tで昇圧させ、降圧過程では応力σ(t)をその時間反転関数σ(T−t)に従って時間Tで降圧させ、昇圧変位変位δW(up),δW(up)と降圧変位δW(down),δW(down)との平均値ΔW,ΔWを算出し、これらの平均値を用いて式(7)による曲げ弾性率Eの計算を行うことで、塑性変形の影響をキャンセルさせるとともに、遅延弾性の影響を小さくすることができる。
【0050】
弾性率測定装置に係る本発明の第1の構成は、棒状の供試体の両端付近の下部を支持する一対の支持体と、前記両支持体の上部に置かれた供試体の中央部を上面から加圧する加圧体と、前記加圧体に加圧力を与える加圧シリンダと、前記加圧体の変位を計測する変位検出器と、前記加圧シリンダの発生する応力を計測する圧力センサと、測定条件データ及び測定データを記憶する記憶手段と、曲げ弾性率の測定結果を出力する出力手段と、前記加圧シリンダの加圧力制御、並びに前記加圧体の変位及び発生応力の計測制御を行う制御装置と、を備えた、供試体材料の曲げ弾性率を測定する弾性率測定装置であって、前記制御装置は、試験対象である、同一の材料で作られた、長さが等しく幅が異なる第1及び第2の供試体の幅b,b及び厚さh,h、前記両支持体の間隔S、並びに変位測定を行う際の供試体に加える応力の変化量ΔPの値を設定し、前記記憶手段に格納する測定条件設定手段と、前記両支持体上に前記第1又は第2の供試体が載せられた状態において、前記加圧シリンダにより、当該供試体の中央部に加える応力を前記変化量ΔPだけ変化させるとともに、その変化の間の当該供試体の中央部の変位量ΔW,ΔWを計測し、該変位量ΔW,ΔWを前記記憶手段に格納する変位計測手段と、前記記憶手段に格納された2つの前記支持体の間隔S、前記第1及び第2の供試体の厚さh,h、前記第1及び第2の供試体の幅b,b、変位測定を行う際の供試体に加える前記応力の変化量ΔP、及び前記第1及び第2の供試体の中央部の前記変位量ΔW,ΔWに基づいて、次式(3),(4),(5)の演算を実行することにより、各供試体の曲げ弾性率Eを算出し、前記出力手段に出力する弾性率算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0051】
【数8】

【0052】
この構成によれば、まず、測定者は、測定条件設定手段により、第1及び第2の供試体の厚さh,h、長さL、幅b,b、両支持体の間隔S、変位測定を行う際の供試体に加える応力の変化量ΔPを設定して、記憶手段に格納させる。次に、変位計測手段により、第1及び第2の供試体のそれぞれに対し、当該供試体の中央部に加える応力の変化量ΔPに対する該中央部の変位量ΔW,ΔWを測定する。そして、弾性率算出手段は、式(7),(6c)の演算により、各供試体の曲げ弾性率Eを算出する。これにより、により、供試体と加圧体との接触面における微小な凹凸の変化、供試体と加圧体との接触状態の変化、供試体内部のキャビテーションの圧潰、加圧体自体の圧力による歪み、加圧装置の剛性などの測定装置に起因するファクターが排除され、精度よく曲げ弾性率の測定を行うことが可能となる。
【0053】
弾性率測定装置に係る本発明の第2の構成は、前記第1の構成において、前記測定条件設定手段は、前記第1及び第2の供試体の幅b,b及び厚さh,h、前記両支持体の間隔S、並びに変位測定を行う際の供試体に加える2つの異なる応力値σs1,σs2(σs1<σs2)の値を設定し、前記記憶手段に格納するものであり、前記変位計測手段は、前記両支持体上に前記第1又は第2の供試体が載せられた状態において、前記加圧シリンダにより、当該供試体の中央部に加える応力をσs1とσs2との間で変化させ、その変化の間の当該供試体の中央部の変位量ΔW,ΔWを計測し、該変位量ΔW,ΔWを前記記憶手段に格納するものであることを特徴とする。
【0054】
弾性率測定装置に係る本発明の第3の構成は、前記第1又は2の構成において、前記制御装置は、前記変位計測手段が変位量の計測を行うに先立ち、前記加圧シリンダを制御して、前記第1又は第2の供試体の中央部に加える応力を、当該供試体の曲げ強度以下の所定の圧力まで昇圧させた後に、前記応力σs1以下に減圧させる昇降圧過程を、少なくとも1回以上行う誤差除去手段を備えていることを特徴とする。
【0055】
弾性率測定装置に係る本発明の第4の構成は、前記第2又は3の構成において、前記変位計測手段は、前記ピストンを制御することにより、前記第1又は第2の供試体の中央部に対し加える応力をσs1からσs2(σs1<σs2)に、時間区間[0,T]で定義される所定の時間関数σ(t)に従って時間Tで昇圧させる昇圧制御手段と、前記昇圧制御手段による応力の昇圧時において、応力がσs1及びσs2となる各時点で当該供試体の変位δW(up),δW(up)を測定し、その差(δW(up)−δW(up))を応力σs1,σs2間での昇圧変位ΔW(up)として算出し、前記記憶手段に格納する昇圧過程測定手段と、前記ピストンを制御することにより、前記第1又は第2の供試体の中央部に対し加える応力をσs2からσs1に、前記時間関数σ(t)を時間反転させた関数σ(T−t)に従って時間Tで降圧させる降圧制御手段と、前記降圧制御手段による応力の降圧時において、応力がσs2及びσs1となる各時点で当該供試体の変位δW(down),δW(down)を測定し、その差(δW(down)−δW(down))を応力σs1,σs2間での降圧変位ΔW(down)として算出し、前記記憶手段に格納する降圧過程測定手段と、前記記憶手段に記憶された、前記昇圧変位ΔW(up)及び前記降圧変位ΔW(down)の平均値を、前記応力σs1,σs2の間での当該供試体の中央部の変位量ΔW又はΔWとして算出し、前記記憶手段に格納する平均変位算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0056】
プログラムに係る本発明の第1の構成は、棒状の供試体の両端付近の下部を支持する一対の支持体と、前記両支持体の上部に置かれた供試体の中央部を上面から加圧する加圧体と、前記加圧体に加圧力を与える加圧シリンダと、前記加圧体の変位を計測する変位検出器と、前記加圧シリンダの発生する応力を計測する圧力センサと、測定条件データ及び測定データを記憶する記憶手段と、曲げ弾性率の測定結果を出力する出力手段と、前記加圧シリンダの加圧力制御、並びに前記加圧体の変位及び発生応力の計測制御を行うコンピュータと、を備えた、供試体材料の曲げ弾性率を測定する弾性率測定システムにおいて、前記コンピュータに読み込んで実行することにより、前記コンピュータを、請求項5乃至8の何れか一に記載の弾性率測定装置の制御装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0057】
以上のように、本発明に係る弾性率測定方法及び弾性率測定装置によれば、同一の材料で作られた、長さが等しく幅が異なる第1及び第2の供試体について、印加応力の変化量ΔPと変位量ΔW,ΔWを測定し、式(7),(6c)の演算を行って曲げ弾性率を求める構成としたことにより、供試体と加圧体との接触面における微小な凹凸の変化、供試体と加圧体との接触状態の変化、供試体内部のキャビテーションの圧潰、加圧体自体の圧力による歪み、加圧装置の剛性などの測定装置に起因するファクターが排除され、精度よく曲げ弾性率の測定を行うことが可能となる。
【0058】
また、供試体中央部の変位量ΔW,ΔWを測定する前に、誤差除去ステップを行うことで、様々な非可逆的な変化が重畳した誤差要因が除去される。従って、精度の高い弾性率の測定が可能となる。
【0059】
また、第1及び第2の供試体について、昇圧過程では印加応力σを時間関数σ(t)に従って時間Tで昇圧させ、降圧過程では応力σ(t)をその時間反転関数σ(T−t)に従って時間Tで降圧させ、昇圧変位変位δW(up),δW(up)と降圧変位δW(down),δW(down)との平均値ΔW,ΔWを算出し、これらの平均値を用いて式(7)による曲げ弾性率Eの計算を行うことで、塑性変形の影響をキャンセルさせるとともに、遅延弾性の影響を小さくすることができる。従って、より精度の高い弾性率の測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0061】
図2は、本発明の実施例1に係る弾性率測定装置1の全体構成を表す図である。弾性率測定装置1は、供試体TPに三点加圧を行い供試体TPの曲げ変位を計測する機械的構成部分2と、測定の制御を行う制御構成部分3との2つの部分から構成されている。尚、機械的構成部分2に関しては、従来の三点曲げ試験を行う加圧装置の構成と同様であり、図2にはその一例が示されている。
【0062】
機械的構成部分2は、プレス下板4、プレス上板5、支柱6、載荷台7、油圧ラムシリンダ(加圧シリンダ)8、油圧ラムピストン9、試料支持台10、加圧体11、ロードセル(圧力センサ)12、変位検出器13、断熱気密容器14、ヒータ15、及び温度センサ16を備えている。
【0063】
プレス下板4は床面に弾性率測定装置1を固定する土台部分をなす。プレス上板5は、弾性率測定装置1の天井部分をなす。プレス下板4とプレス上板5とは、その左右側方で支柱6,6により強固に連結されている。
【0064】
プレス下板4の上面中央部には、載荷台7が設置されている。一方、プレス上板5の下面中央部には、油圧ラムシリンダ8と油圧ラムピストン9が強固に固定されている。油圧ラムシリンダ8及び油圧ラムピストン9は、供試体TPを加圧する押圧力を発生させる装置である。油圧ラムピストン9は、油圧ラムシリンダ8のバレル内を上下に移動する。また、油圧ラムシリンダ8のバレル上部とバレル下部には、作動液体に圧力を伝達するための加圧管9a,9bが連通されている。各加圧管9a,9bには、作動液体を加圧する加圧装置9c,9dが設けられている。加圧装置9c,9dが、それぞれ、バレル内上部及びバレル内下部の作動液体に圧力P,Pを加えることで、油圧ラムピストン9に加圧力を発生させる。
【0065】
載荷台7の上面中央には試料支持台10が設置されている。また、試料支持台10に対向して、油圧ラムピストン9の下面にはロードセル12を介して加圧体11が設けられている。試料支持台10の上面は、左右が突出し中央部が凹没した形状に構成されており、左右の凸部の上面は平坦に形成され、その平坦面に断面半円状の溝が形成されている。そして、その溝に、供試体TPの両端を支持する丸棒状の支持体10a,10bが設置されている。設置された状態において、支持体10a,10bは平行である。供試体TPは断面が矩形の棒状に形成されており、その両端付近の下面を支持体10a,10bにより支持した状態で断熱気密容器14内に設置される。一方、加圧体11は、前後にやや扁平な形状をしており、下部断面形状が先細りとなりその先端が円弧状に形成されている。この円弧状の加圧体11下端部は、供試体TPの上面中央部に接触している。また、試料支持台10及び加圧体11は、窒化珪素及び炭化珪素の硬度の高い耐火部材で構成されている。
【0066】
供試体TPの上面は、加圧体11を介して油圧ラムピストン9により加圧される。また、供試体TPの下面は、支持体10a,10b及び試料支持台10を介して載荷台7で抑えられている。ロードセル12は、油圧ラムピストン9により供試体TPに加えられる加圧力を検出する。
【0067】
油圧ラムピストン9の底面と載荷台7の上面には、水平方向の延出部材13a,13bが延設されている。そして。この延出部材13a,13bの先端の間には、変位検出器13が設置されている。変位検出器13は、延出部材13a,13bの間隔を測定するゲージであり、ここではリニアゲージを使用している。これにより、加圧体11の上端と試料支持台10の下端との距離の変位を精密に測定することができる。
【0068】
加圧体11の下部と試料支持台10の上部は、断熱気密容器14で囲繞されており、断熱気密容器14内は半気密状態とされている。この断熱気密容器14には、給気管14aと排気管14bが連通されている。給気管14aからは、アルゴン等の不活性ガスや窒素ガスなどが断熱気密容器14内に送気される。また、断熱気密容器14内の余分な気体は、排気管14bから排出される。これにより、断熱気密容器14内は常に不活性雰囲気に保つことが可能である。
【0069】
また、断熱気密容器14内には、供試体TPの側面全体を取り囲むように、ヒータ15が設けられている。また、供試体TPの近傍の雰囲気温度を測定する温度センサ16が設けられている。ヒータ15は、供試体TPの周囲の空気を加熱して、供試体TPを過熱状態とする。これにより、供試体TPを高温に加熱した状態での曲げ試験が可能となる。
【0070】
一方、制御構成部分3は、制御ボード21及びコンピュータ22により構成されている。制御ボード21は、加圧装置9c,9dの加圧出力の制御、ロードセル12による応力検出、変位検出器13による変位検出、ヒータ15による加熱制御、温度センサ16による供試体TP近傍の温度検出などの制御を行う回路が搭載されている。また、コンピュータ22は、プログラムに従って、制御ボード21により各制御や測定の制御を実行する。
【0071】
図3は、本発明の実施例1の弾性率測定装置1の機能構成を表すブロック図である。図3において、機械的構成部分2及び制御構成部分3、並びに、ヒータ15,ロードセル12,温度センサ16,加圧装置9c,9d,及び変位検出計13は、図2の同符号の構成部分に対応している。
【0072】
制御構成部分3は、機能的には、入力装置31,測定条件設定手段32,測定条件記憶手段33,加熱制御手段34,誤差除去手段35,変位計測手段36,測定結果記憶手段37,弾性率算出手段38,出力制御手段39,及びディスプレイ40を備えている。
【0073】
入力装置31は、測定者がコンピュータ22に指示を入力する装置であり、キーボードやマウス等で構成される。
【0074】
測定条件設定手段32は、ディスプレイ40に入力画面を表示して測定者に対し三点曲げ試験の測定条件の入力を促すと共に、入力装置31から入力された測定条件を測定条件記憶手段33に格納する。測定条件記憶手段33は、測定条件を一時的に記憶する部分であり、RAMやハードディスクなどにより構成される。
【0075】
ここで、「測定条件」には、三点曲げ試験における供試体TPの加熱温度Θ、最大加圧時の圧力(以下「最大加圧力」という。)σs2、低圧における変位測定を行うときの圧力(以下「低圧測定点圧力」という。)σs1、加圧力を低圧にするときの最小加圧力σs0、装置誤差除去操作の繰り返し回数N、測定する2つの供試体TPの長さL,厚さh,h,幅b,b,及び支持体10a,10b間の距離Sなどのパラメータが含まれる。
【0076】
加熱制御手段34は、測定条件記憶手段33に格納された三点曲げ試験における加熱温度Θに従って、温度センサ16の検出温度を参照してヒータ15を制御することにより、供試体TPの加熱制御を行う。
【0077】
誤差除去手段35は、ロードセル12の検出する圧力を参照して加圧装置9c,9dを制御することにより、供試体TPに加える圧力を、最大加圧力σs2まで昇圧させた後、最小加圧力σs0まで減圧させる昇降圧過程を、N回実行する。ここで、Nは1以上の整数であり、適当な値に設定することができる。
【0078】
変位計測手段36は、供試体TPの中央部を加圧体11により加圧しながら、圧力とそれに対する供試体TPの変位を、ロードセル12及び変位検出計13で測定する制御を行う。
【0079】
測定結果記憶手段37は、変位計測手段36により検出される測定データ及び曲げ弾性率データを記憶する。
【0080】
弾性率算出手段38は、変位計測手段36が出力する圧力及び変位のデータに基づき、供試体TPの曲げ弾性率を算出し、測定結果記憶手段37に格納する。
【0081】
出力制御手段39は、弾性率算出手段38により算出された曲げ弾性率データを、ディスプレイ40に出力する。
【0082】
以上のように構成された本実施例に係る弾性率測定装置1について、以下それによる三点曲げ試験による弾性率測定方法について説明する。
【0083】
図4は、弾性率測定方法の全体の流れを表すフローチャートである。ここでは、材質,厚さ,長さが同じで幅の異なる2つの供試体TP1,TP2に対する三点曲げ試験を行うことにより、材料の曲げ弾性率の測定を行う。
【0084】
ステップS1において、測定条件設定手段32は、ディスプレイ40に測定条件設定画面を表示する。測定者は、この画面に従って、入力装置31により曲げ試験の測定条件を設定する。測定条件が入力されると、測定条件設定手段32は、それらの測定条件を測定条件記憶手段33に保存する。
【0085】
ここで、最大加圧力σs2は、供試体TPの曲げ破壊応力以下とする。供試体TPの曲げ破壊応力については、あらかじめ別途破壊試験などを行って測定しておく。
【0086】
そして、試料支持台10上の支持体10a,10bの上に、厚さh,幅bの供試体TP1を設置する。
【0087】
ステップS2において、加熱制御手段34は、測定条件記憶手段33に保存された加熱温度Θに従って、ヒータ15の通電制御を行う。これにより、供試体TP1は、温度Θに加熱された状態となる。
【0088】
ステップS3において、誤差除去手段35は、加圧装置9c,9dにより、供試体TP1に加える圧力を徐々に昇圧させる。そして、ロードセル12により検出される圧力がσs2となった時点で昇圧を止める。次いで、ステップS4において、誤差除去手段35は、加圧装置9c,9dにより、供試体TP1に加える圧力を徐々に降圧させる。そして、ロードセル12により検出される圧力がσs0となった時点で降圧を止める。このステップS3,S4の昇降圧過程を、以下「誤差除去処理」という。
【0089】
ステップS5において、誤差除去処理の繰り返し回数がN回に達していない場合は、再びステップS3に戻り、N回に達した場合には、次のステップS5に移行する。これにより、誤差除去処理は、最初に設定された繰り返し回数Nだけ反復して実行される。
【0090】
ステップS6において、変位計測手段36は、加圧装置9c,9dにより、ロードセル12により検出される圧力がσs1となるまで、供試体TP1に加える圧力を一定の昇圧速度v=(σs2−σs1)/Tで昇圧させる。ステップS7において、変位計測手段36は、変位検出計13が検出する圧力σs1における供試体TP1の変位δW(up)(σs1)を取り込み、測定結果記憶手段37に保存する。ステップS8において、変位計測手段36は、加圧装置9c,9dにより、ロードセル12により検出される圧力がσs2となるまで、さらに継続して一定の昇圧速度vで供試体TPに加える圧力を昇圧させる。そして、ロードセル12により検出される圧力がσs2となった時点で昇圧を止め、降圧に移る。ステップS9において、変位計測手段36は、変位検出計13が検出する圧力σs2における供試体TP1の変位δW(σs2)を取り込み、測定結果記憶手段37に保存する。以上のステップS6〜S9の過程を以下「昇圧測定過程」という。
【0091】
ステップS10において、変位計測手段36は、加圧装置9c,9dにより、ロードセル12により検出される圧力がσs1となるまで、一定の降圧速度−vで供試体TPに加える圧力を徐々に降圧させる。ステップS11において、変位計測手段36は、変位検出計13が検出する圧力σs1における供試体TPの変位δW(down)(σs1)を取り込み、測定結果記憶手段37に保存する。ステップS12において、変位計測手段36は、加圧装置9c,9dにより、ロードセル12により検出される圧力がσs0となるまで、さらに継続して一定の降圧速度−vで供試体TPに加える圧力を降圧させる。そして、ロードセル12により検出される圧力がσs0となった時点で降圧を止める。以上のステップS10〜S12の過程を以下「降圧測定過程」という。
【0092】
既に説明したように、一般に、同じ圧力σs1における供試体TPの変位であっても、昇圧測定過程で測定される変位δW(up)(σs1)と降圧測定過程で測定される変位δW(down)(σs1)とは、同じ値にはならない。そこで、弾性率算出手段38は、圧力σs1と圧力σs2との間の供試体TP1の平均変位ΔWを、次式により計算し、その結果を測定結果記憶手段37に格納する。
【0093】
【数9】

【0094】
ステップS13において、供試体TPの交換のために、加熱制御手段34はヒータ15への通電を遮断し、断熱気密容器14内の温度を降温させる。また、弾性率算出手段38は、ディスプレイ40上に供試体TPの交換を促す表示を行う。
【0095】
測定者は、断熱気密容器14内の温度が十分に下がった後、供試体TP1を厚さh,幅bの供試体TP2に取り替える。そして、弾性率測定装置1は、今度は供試体TP2について、上記ステップS2〜S12の操作を実行し、供試体TP2の平均変位ΔWを式(25)と同様に計算する。
【0096】
ステップS14において、弾性率算出手段38は、測定結果記憶手段37に保存されたΔW,ΔWに基づいて、次式により供試体TPの曲げ弾性率Eを算出し、測定結果記憶手段37に保存する。
【0097】
【数10】

【0098】
最後に、ステップS15において、出力制御手段39は、算出された曲げ弾性率を、ディスプレイ40に表示するし、三点曲げ試験処理を終了する。
【0099】
以上の処理により、加圧体11の加圧による測定装置系の弾性変形の影響を除去し、供試体TPの塑性変形の影響も除去して、供試体TPを構成する物質の曲げ弾性率Eを測定することができる。
【0100】
最後に、本発明に係る弾性率測定方法の精度検証を行うため、実際に耐火物材料を用いて曲げ弾性率Eを測定した実験結果について説明する。
【0101】
(実験例)
まず、式(5)の仮定、すなわち、供試体の曲げ弾性率に比例して測定系の歪みが大きくなることを検証するため、供試体に応力をかけたときに観測される加圧体の変位と歪みゲージにより直接測定した供試体の変位との比較を行った。
【0102】
三点曲げ試験の試験条件は次の通りである。
【0103】
【表1】

【0104】
測定系は、図2で説明した弾性率測定装置1を使用した。変位検出器13により検出される変位W’と、供試体の底面に貼り付けた歪みゲージにより直接測定される供試体の変位Wを同時に測定し、コンピュータに取り込んだ。測定系の歪みW”はW”=W’−Wにより算出される。また、変位W’に占める測定系の歪みW”の比を「装置剛性比」と呼び、rsysと記す。rsysは次式により定義される。
【0105】
【数11】

装置剛性比rsysは式((5)の右辺全体の値に占める右辺第2項(EI/Sk)の値の割合を示している。
【0106】
また、歪みゲージにより直接測定される供試体の変位Wから、式(3)により算出される供試体の正確な弾性率を「歪みゲージ弾性率」と呼び、Eと記す。
【0107】
図5に、歪みゲージ弾性率Eと装置剛性比rsysとの関係を測定した結果を示す。供試体材料としては耐火物材料を用いた。また、図5(b)には、横軸をEI(Iは供試体の断面2次モーメント)としてプロットした結果を示す。図5の測定結果から、装置剛性比rsysはEIとの相関が大きく、rsysは一次近似ではEI/(1+EI)にほぼ比例していると考えてよい。
【0108】
図6は、歪みゲージにより求めた弾性率と、式(7)により求めた弾性率(換算弾性率)との比較を示した図である。図6より、本発明の測定方法により求められる弾性率Eは、歪みゲージ弾性率Eとよい一致を示すことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】三点曲げ法による応力と変位の測定結果の例である。
【図2】本発明の実施例1に係る弾性率測定装置1の全体構成を表す図である。
【図3】本発明の実施例1の弾性率測定装置1の機能構成を表すブロック図である。
【図4】弾性率測定方法の全体の流れを表すフローチャートである。
【図5】歪みゲージ弾性率Eと装置剛性比rsysとの関係を測定した結果である。
【図6】歪みゲージにより求めた弾性率と、式(7)により求めた弾性率(換算弾性率)との比較を示した図である。
【図7】EI/Sと装置変位Wとの関係を測定した結果である。
【図8】三点曲げ法による曲げ弾性率の測定を行う弾性率測定装置を示す図である
【図9】三点曲げ試験の各種パラメータを表す図である。
【符号の説明】
【0110】
1 弾性率測定装置
2 機械的構成部分
3 制御構成部分
4 プレス下板
5 プレス上板
6 支柱
7 載荷台
8 油圧ラムシリンダ
9 油圧ラムピストン
9a,9b 加圧管
9c,9d 加圧装置
10 試料支持台
10a,10b 支持体
11 加圧体
12 ロードセル
13 変位検出器
13a,13b 延出部材
14 断熱気密容器
14a 給気管
14b 排気管
15 ヒータ
16 温度センサ
TP 供試体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の供試体の両端付近の下部を、水平に置かれた2つの支持体で2点支持するとともに、当該供試体中央部を加圧体で加圧して該加圧体の変位を測定することでその供試体中央部の変位量を計測し、当該供試体材料の曲げ弾性率を測定する弾性率測定方法であって、
同一の材料で作られた、長さが等しく幅が異なる第1及び第2の供試体のそれぞれに対し、当該供試体の中央部に加える応力の変化量ΔPに対する該中央部の変位量ΔW,ΔWを測定する変位測定ステップと、
2つの前記支持体の間隔をS、前記第1及び第2の供試体の厚さをh,h、前記第1及び第2の供試体の幅をb,b、前記第1及び第2の供試体の幅の比を1:Aとしたときに、次式(1),(2)の演算により、各供試体の曲げ弾性率Eを算出する弾性率算出ステップと、
を有する弾性率測定方法。
【数1】

【請求項2】
前記変位測定ステップにおいては、
前記第1の供試体の中央部に加える2つの異なる応力σs1,σs2(σs1<σs2)の間での当該供試体の中央部の変位量ΔWを測定する第1の測定ステップと、
前記第2の供試体の中央部に加える前記応力σs1,σs2の間での当該供試体の中央部の変位量ΔWを測定する第2の測定ステップと、
を有することを特徴とする請求項1記載の弾性率測定方法。
【請求項3】
前記第1及び第2の測定ステップにおいては、前記変位量ΔW,ΔWの測定を行う前に、前記第1又は第2の供試体の中央部に加える応力を、当該供試体の曲げ強度以下の所定の圧力まで昇圧させた後に、前記応力σs1以下に減圧させる昇降圧過程を、少なくとも1回以上行う誤差除去ステップを行うことを特徴とする請求項1又は2記載の弾性率測定方法。
【請求項4】
前記第1及び第2の測定ステップにおいては、前記第1又は第2の供試体に対して、
(1)当該供試体の中央部に対し加える応力をσs1からσs2(σs1<σs2)に、時間区間[0,T]で定義される所定の時間関数σ(t)に従って時間Tで昇圧させるとともに、応力がσs1及びσs2となる各時点で当該供試体の変位δW(up),δW(up)を測定し、その差(δW(up)−δW(up))を応力σs1,σs2間での昇圧変位ΔW(up)として算出する昇圧過程測定ステップ;
(2)当該供試体の中央部に対し加える応力をσs2からσs1に、前記時間関数σ(t)を時間反転させた関数σ(T−t)に従って時間Tで降圧させるとともに、応力がσs2及びσs1となる各時点で当該供試体の変位δW(down),δW(down)を測定し、その差(δW(down)−δW(down))を応力σs1,σs2間での降圧変位ΔW(down)として算出する降圧過程測定ステップ;
(3)及び、前記昇圧変位ΔW(up)と前記降圧変位ΔW(down)との平均値を、前記応力σs1,σs2の間での当該供試体の中央部の変位量ΔW又はΔWとして算出する平均変位算出ステップ;
を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の弾性率測定方法。
【請求項5】
棒状の供試体の両端付近の下部を支持する一対の支持体と、
前記両支持体の上部に置かれた供試体の中央部を上面から加圧する加圧体と、
前記加圧体に加圧力を与える加圧シリンダと、
前記加圧体の変位を計測する変位検出器と、
前記加圧シリンダの発生する応力を計測する圧力センサと、
測定条件データ及び測定データを記憶する記憶手段と、
曲げ弾性率の測定結果を出力する出力手段と、
前記加圧シリンダの加圧力制御、並びに前記加圧体の変位及び発生応力の計測制御を行う制御装置と、
を備えた、供試体材料の曲げ弾性率を測定する弾性率測定装置であって、
前記制御装置は、
試験対象である、同一の材料で作られた、長さが等しく幅が異なる第1及び第2の供試体の幅b,b及び厚さh,h、前記両支持体の間隔S、並びに変位測定を行う際の供試体に加える応力の変化量ΔPの値を設定し、前記記憶手段に格納する測定条件設定手段と、
前記両支持体上に前記第1又は第2の供試体が載せられた状態において、前記加圧シリンダにより、当該供試体の中央部に加える応力を前記変化量ΔPだけ変化させるとともに、その変化の間の当該供試体の中央部の変位量ΔW,ΔWを計測し、該変位量ΔW,ΔWを前記記憶手段に格納する変位計測手段と、
前記記憶手段に格納された2つの前記支持体の間隔S、前記第1及び第2の供試体の厚さh、前記第1及び第2の供試体の幅b,b、変位測定を行う際の供試体に加える前記応力の変化量ΔP、及び前記第1及び第2の供試体の中央部の前記変位量ΔW,ΔWに基づいて、次式(3),(4),(5)の演算を実行することにより、各供試体の曲げ弾性率Eを算出し、前記出力手段に出力する弾性率算出手段と、
を備えた弾性率測定装置。
【数2】

【請求項6】
前記測定条件設定手段は、前記第1及び第2の供試体の幅b,b及び厚さh,h、前記両支持体の間隔S、並びに変位測定を行う際の供試体に加える2つの異なる応力値σs1,σs2(σs1<σs2)の値を設定し、前記記憶手段に格納するものであり、
前記変位計測手段は、前記両支持体上に前記第1又は第2の供試体が載せられた状態において、前記加圧シリンダにより、当該供試体の中央部に加える応力をσs1とσs2との間で変化させ、その変化の間の当該供試体の中央部の変位量ΔW,ΔWを計測し、該変位量ΔW,ΔWを前記記憶手段に格納するものであることを特徴とする請求項5記載の弾性率測定装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記変位計測手段が変位量の計測を行うに先立ち、前記加圧シリンダを制御して、前記第1又は第2の供試体の中央部に加える応力を、当該供試体の曲げ強度以下の所定の圧力まで昇圧させた後に、前記応力σs1以下に減圧させる昇降圧過程を、少なくとも1回以上行う誤差除去手段を備えていることを特徴とする請求項5又は6記載の弾性率測定装置。
【請求項8】
前記変位計測手段は、
前記ピストンを制御することにより、前記第1又は第2の供試体の中央部に対し加える応力をσs1からσs2(σs1<σs2)に、時間区間[0,T]で定義される所定の時間関数σ(t)に従って時間Tで昇圧させる昇圧制御手段と、
前記昇圧制御手段による応力の昇圧時において、応力がσs1及びσs2となる各時点で当該供試体の変位δW(up),δW(up)を測定し、その差(δW(up)−δW(up))を応力σs1,σs2間での昇圧変位ΔW(up)として算出し、前記記憶手段に格納する昇圧過程測定手段と、
前記ピストンを制御することにより、前記第1又は第2の供試体の中央部に対し加える応力をσs2からσs1に、前記時間関数σ(t)を時間反転させた関数σ(T−t)に従って時間Tで降圧させる降圧制御手段と、
前記降圧制御手段による応力の降圧時において、応力がσs2及びσs1となる各時点で当該供試体の変位δW(down),δW(down)を測定し、その差(δW(down)−δW(down))を応力σs1,σs2間での降圧変位ΔW(down)として算出し、前記記憶手段に格納する降圧過程測定手段と、
前記記憶手段に記憶された、前記昇圧変位ΔW(up)及び前記降圧変位ΔW(down)の平均値を、前記応力σs1,σs2の間での当該供試体の中央部の変位量ΔW又はΔWとして算出し、前記記憶手段に格納する平均変位算出手段と、
を備えたことを特徴とする請求項6又は7記載の弾性率測定装置。
【請求項9】
棒状の供試体の両端付近の下部を支持する一対の支持体と、
前記両支持体の上部に置かれた供試体の中央部を上面から加圧する加圧体と、
前記加圧体に加圧力を与える加圧シリンダと、
前記加圧体の変位を計測する変位検出器と、
前記加圧シリンダの発生する応力を計測する圧力センサと、
測定条件データ及び測定データを記憶する記憶手段と、
曲げ弾性率の測定結果を出力する出力手段と、
前記加圧シリンダの加圧力制御、並びに前記加圧体の変位及び発生応力の計測制御を行うコンピュータと、
を備えた、供試体材料の曲げ弾性率を測定する弾性率測定システムにおいて、
前記コンピュータに読み込んで実行することにより、前記コンピュータを、請求項5乃至8の何れか一に記載の弾性率測定装置の制御装置として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−36600(P2009−36600A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200247(P2007−200247)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】