説明

弾性表面波フィルタ

【課題】トランスバーサル型フィルタの基板端面で反射された表面波は、スプリアスとなって信号にリップルを発生させる。故に、自動的に効果的にスプリアス対策を施し、十分にコストの低減を図る。
【解決手段】圧電体基板1の表面に、表面波の伝搬方向に沿って、2以上のIDT2や3(インターディジタルトランスデューサ)を配置する。圧電体基板1を表面波の伝搬方向に見たときの両端部近傍に、圧電体基板1の表面を凹凸加工した粗面を設ける。この粗面は、表面波の波長をλとしたとき、当該表面波の伝搬方向にλ以上の幅を有し、かつ、圧電体基板1の、表面波の伝搬方向と垂直な方向に見て全面に延長される長さを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不要反射によるスプリアスを抑制した弾性表面波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話のような移動帯通信分野やデレビ受像機用の電子部品として、弾性表面波フィルタ(SAWフィルタ)が数多く使用されている。特に通信分野では、小型、軽量、広帯域であるだけでなく、下記の特性に優れているトランスバーサルタイプのSAWフィルタが使用される。
(1)通過帯域幅と抑圧帯域幅の比が1に近く、急峻である。
(2)通過帯域に比べ、通過帯域外の減衰量が大きい。
(3)通過帯域内のリップルができるだけ小さいこと。
(4)通過帯域内の位相特性が平坦であること。
【特許文献1】特開2005−167571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のようなSAWフィルタを2段、3段構成にして使用することがある。その場合、通過帯域内のリップルが2倍、3倍と強調されてしまうので、SAWフィルタ1個のリップルをできるだけ小さくしておきたい。このリップルが発生する原因の一つとして、基板端面からの表面波の不要反射がある。
【0004】
図5は、トランスバーサル型フィルタの電極パターンの1例を示す説明図である。
圧電体基板1上の表面波の伝播方向に沿って2つのIDT2とIDT3が所定の間隔で配置されている。IDT2を送信側としIDT3を受信側とする。電気信号がIDT2に入力されて励起された表面波が圧電体基板1上をある速度で伝播する。この表面波がIDT3に受信されて、再度電気信号に変換され、必要な情報を得る。しかしながら、IDT2で励起された表面波は相反する2方向に伝搬する。つまり一部はIDT3の方向に伝搬するが、残りの一部は逆方向(図の左方向)に伝播してしまい、圧電体基板1の左端面で反射してスプリアスとなる。また、IDT3方向に伝播した表面波の一部は、IDT3を通過して基板右端面に達する。ここで反射された表面波もスプリアスとなり、リップル発生の原因となっていた。
【0005】
このスプリアスの低減策として、圧電体基板1の両端部に吸音材を塗布して、圧電体基板1の両端部で表面波を減衰させる方法や、圧電体基板1の端面を例えば、図5中の一点鎖線のように斜めに切断して、端面で反射したスプリアスがIDT2や3に直接戻らないようにする方法が採用された。しかしながら、前者は吸音材の塗布に時間がかかりコスト高になってしまう。また、熟練者でなければ作業が難しいという問題があった。後者は、基板の端の部分を所定長だけ特殊な形状にするので、チップ長が長くなってしまい、コスト高になるという問題があった。
【0006】
本発明は以上の点に着目してなされたもので、自動的に効果的にスプリアス対策を施し、十分にコストの低減を図ることができる弾性表面波フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の各実施例においては、それぞれ次のような構成により上記の課題を解決する。
〈構成1〉
圧電体基板の表面に、表面波の伝搬方向に沿って、2以上のIDT(インターディジタルトランスデューサ)を配置し、上記圧電体基板を上記表面波の伝搬方向に見たときの両端部近傍に、上記圧電体基板の表面を凹凸加工した粗面を設け、この粗面は、上記表面波の波長をλとしたとき、当該表面波の伝搬方向にλ以上の幅を有し、かつ、上記圧電体基板の、上記表面波の伝搬方向と垂直な方向に見て全面に延長される長さを有することを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【0008】
〈構成2〉
構成1に記載の弾性表面波フィルタにおいて、上記粗面は、一定の幅の帯状に直線状に形成されていることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【0009】
〈構成3〉
構成1に記載の弾性表面波フィルタにおいて、上記粗面は、少なくともIDT側の辺が波状となった帯状に形成されていることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【0010】
〈構成4〉
構成1に記載の弾性表面波フィルタにおいて、上記粗面は、帯状に形成され、上記圧電体基板の両端部に向かうほど凹部の深さが深くなるよう凹凸加工したことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【0011】
〈構成5〉
構成1に記載の弾性表面波フィルタにおいて、上記圧電体基板の両端部近傍を、両端に向かうほど厚さが薄くなるように面取り加工し、その面取り部を凹凸加工して上記粗面を形成したことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、圧電体基板の両端部近傍表面に所定の構成の粗面を形成することにより、表面波の不要反射を抑制する。以下、本発明の実施の形態を実施例ごとに詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1(a)は実施例1の弾性表面波フィルタの平面図、(b)は側面図で、破線の円内は側面の部分拡大図である。
圧電体基板1の表面には、表面波の伝搬方向に沿って、2以上のIDT2や3が配置されている。この構造は、図5を用いて説明した既知の弾性表面波フィルタと同様である。ここで、圧電体基板1を表面波の伝搬方向に見たときの両端部近傍に、圧電体基板1の表面を凹凸加工した粗面4や5を設けた。この粗面は、表面波の波長をλとしたとき、当該表面波の伝搬方向にλ以上の幅Wを有する。
【0014】
さらに、圧電体基板1の、表面波の伝搬方向と垂直な方向に見たとき、その全面に延長される長さを有する。即ち、弾性表面波フィルタの幅一杯に粗面4や5が形成されている。この図の例では、粗面4と5は、いずれも、一定の幅の帯状に直線状に形成されている。粗面は、圧電体基板1表面にサンドブラスト等の処理で形成できる。使用する砂粒の粒径を選択し、噴射速度と時間を選定すれば、自動処理が可能である。熟練を要しない。
【0015】
表面波は、圧電体基板1の表面を4方に伝搬する。従来技術で説明したように、IDT2から粗面4方向やIDT3から粗面5方向に伝搬する表面波が圧電体基板1の端部で反射するとスプリアスを生じる。この実施例では、その表面波を、幅Wの粗面4と5で散乱させ、反射波を十分に減衰させる。伝搬方向にλ以上の幅Wの領域で減衰させると、十分な減衰効果が得られる。一方λに満たない狭い幅の粗面では、一部の反射波が減衰しないままに悪影響を及ぼすことがある。表面波の伝搬方向と垂直な方向に見たとき、その全面に延長される長さを有するから、どの端面からの反射も減衰させられる。
【実施例2】
【0016】
図2は、実施例2の弾性表面波フィルタの端部平面図である。
この実施例の圧電体基板1には、その端部6から幅Wの部分に、粗面が形成されている。この点は、実施例1と同様である。しかし、この実施例の粗面は、少なくともIDT側(図の右側)の辺7が波状となった帯状に形成されている。このように粗面を形成すると、端部6方向に向かって進行して、粗面部分に突入する表面波は波状の辺7の部分で散乱する。即ち、この部分でIDT側へ反射する信号も減衰させることができる。
【実施例3】
【0017】
図3は、実施例3の弾性表面波フィルタの端部側面図である。
この実施例の弾性表面波フィルタに設けた粗面は、平面図から見たときには、実施例1や実施例2と同様に、帯状に形成されている。しかし、側面図から見たときには、その凹部8の深さが、圧電体基板1の両端部に向かうほど深くなるよう凹凸加工されている。粗面は、圧電体基板1をサンドブラスト等の処理で形成する。このときの砂粒の噴射速度を上げると、強く砂粒が圧電体基板1に衝突して、深い凹部が形成できる。場所に応じて砂粒の噴射速度を変えると、この実施例のような粗面が形成できる。このような粗面は、幅に渡って表面波の反射率が変化するので、より表面波を減衰させる効果が高い。凹部8の深さは影響のあるレベルの表面波が存在する深さまででよい。
【実施例4】
【0018】
図4は、実施例4の弾性表面波フィルタの端部側面図である。
この実施例の弾性表面波フィルタに設けた粗面も、平面図から見たときには、実施例1や実施例2と同様に、帯状に形成されている。しかし、圧電体基板1の両端部近傍を側面図から見たときには、両端に向かうほど厚さが薄くなるように面取り加工し、その面取り部9を凹凸加工して粗面を形成している。グラインダーで圧電体基板1の両端部近傍を切削すれば、こうした形状になる。幅Wはさほど長くないので、弾性表面波フィルタが大型化することはない。しかも、粗面を形成するのみならず、表面波の伝搬面が傾斜しているので、端面で反射した表面波の位相がばらばらで、相互に打ち消しあうから、表面波の減衰効果が高くなる。この作用は実施例3のものにもある。なお、上記の実施例の構成をそれぞれ組み合わせて、より効果のある構成にすることか可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は実施例1の弾性表面波フィルタの平面図、(b)は側面図で、破線の円内は側面の部分拡大図である。
【図2】実施例2の弾性表面波フィルタの端部平面図である。
【図3】実施例3の弾性表面波フィルタの端部側面図である。
【図4】実施例4の弾性表面波フィルタの端部側面図である。
【図5】既知のトランスバーサル型フィルタの電極パターンの1例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1 圧電体基板
2 IDT
3 IDT
4 粗面
5 粗面
6 端部
7 IDT側の辺
8 凹部
9 面取り部
W 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体基板の表面に、表面波の伝搬方向に沿って、2以上のIDT(インターディジタルトランスデューサ)を配置し、
前記圧電体基板を前記表面波の伝搬方向に見たときの両端部近傍に、前記圧電体基板の表面を凹凸加工した粗面を設け、
この粗面は、前記表面波の波長をλとしたとき、当該表面波の伝搬方向にλ以上の幅を有し、かつ、前記圧電体基板の、前記表面波の伝搬方向と垂直な方向に見て全面に延長される長さを有することを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波フィルタにおいて、
前記粗面は、一定の幅の帯状に直線状に形成されていることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
請求項1に記載の弾性表面波フィルタにおいて、
前記粗面は、少なくともIDT側の辺が波状となった帯状に形成されていることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項4】
請求項1に記載の弾性表面波フィルタにおいて、
前記粗面は、帯状に形成され、前記圧電体基板の両端部に向かうほど凹部の深さが深くなるよう凹凸加工したことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項5】
請求項1に記載の弾性表面波フィルタにおいて、
前記圧電体基板の両端部近傍を、両端に向かうほど厚さが薄くなるように面取り加工し、その面取り部を凹凸加工して前記粗面を形成したことを特徴とする弾性表面波フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−166263(P2007−166263A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360007(P2005−360007)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(306013119)昭和電線デバイステクノロジー株式会社 (118)
【Fターム(参考)】