弾性表面波素子の製造方法およびその製造方法を用いて製造した弾性表面波素子
【課題】 圧電基板に形成した弾性表面波素子の共振周波数のばらつきを小さくする。
【解決手段】 圧電基板の表面に導電膜を形成する成膜工程(ステップ12)と、導電膜の上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程(ステップ14)と、フォトマスクに設けたパターンを前記レジスト膜に縮小投影露光して現像するレジスト膜パターニング工程(ステップ16)と、パターニングされたレジスト膜をマスクにして前記導電膜をエッチングする電極形成工程(ステップ18)と、前記圧電基板に形成された前記弾性表面波素子の共振周波数を測定する周波数測定工程(ステップ24)と、測定共振周波数と予め定めた目標共振周波数とから前記電極の陽極酸化量を演算して陽極酸化電圧を求める電圧演算工程(ステップ26)と、求めた前記陽極酸化電圧によって陽極酸化し、前記電極の酸化反応の終点を検出して陽極酸化を終了する陽極酸化工程(ステップ28)と、を有する。
【解決手段】 圧電基板の表面に導電膜を形成する成膜工程(ステップ12)と、導電膜の上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程(ステップ14)と、フォトマスクに設けたパターンを前記レジスト膜に縮小投影露光して現像するレジスト膜パターニング工程(ステップ16)と、パターニングされたレジスト膜をマスクにして前記導電膜をエッチングする電極形成工程(ステップ18)と、前記圧電基板に形成された前記弾性表面波素子の共振周波数を測定する周波数測定工程(ステップ24)と、測定共振周波数と予め定めた目標共振周波数とから前記電極の陽極酸化量を演算して陽極酸化電圧を求める電圧演算工程(ステップ26)と、求めた前記陽極酸化電圧によって陽極酸化し、前記電極の酸化反応の終点を検出して陽極酸化を終了する陽極酸化工程(ステップ28)と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子の製造方法に係り、特に圧電基板に形成された弾性表面波素子の共振周波数を目標共振周波数に調整する工程を有する弾性表面波素子の製造方法およびその製造方法を用いて製造した弾性表面波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信技術の発展などに対応して、弾性表面波(Surface Acoustic Wave)素子を用いたSAW共振子やSAWフィルタなどのSAWデバイスの高周波化が図られている。弾性表面波素子の共振周波数は、IDT(Interdigital Transducer)を構成している櫛形電極のピッチに依存しており、SAWデバイスの高周波化に伴って櫛形電極が微細化されている。このため、高周波用弾性表面波素子の電極は、縮小投影露光装置を用いた微細加工によって形成するようになってきている(例えば、特許文献1)。しかし、弾性表面波素子の共振周波数は、電極を構成する導電膜の膜厚のばらつきや、形成した電極の製作誤差などの影響により、縮小投影露光装置による電極の微細加工だけでは要求される周波数精度にすることができない。そこで、従来は、弾性表面波素子の個々について周波数調整を行ない、要求される周波数精度が得られるようにしている。そして、特許文献2には、弾性表面波素子を個々に切断したのちに行なう電極の陽極酸化による電気抵抗の増加を避け、弾性表面波素子をウエハ(圧電基板)に形成した状態で、櫛形電極または反射器を陽極酸化して共振周波数を調整する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5−283970号公報
【特許文献2】特開平6−164287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献2に記載されている周波数調整方法(以下、従来の周波数調整方法という)は、特許文献2の段落番号0014に記載されているように、陽極酸化電圧を数10〜数100Vにして、調整したい周波数に応じて陽極酸化するようにしており、精度のよい共振周波数の調整が困難である。しかも、従来の周波数調整方法は、周波数調整量を求めて陽極酸化電圧を決定したのちに、決定した陽極酸化電圧による1回の陽極酸化で周波数調整をしている。このため、従来の周波数調整方法は、圧電基板(ウエハ)間における電極膜(導電膜)の膜厚寸法ばらつき、IDTの電極指(以下、単に電極ということがある)幅、電極指ピッチなどの電極寸法のばらつきなどにより、陽極酸化による周波数の変化量にばらつきを生ずる。この結果、従来の周波数調整方法は、陽極酸化後における圧電基板間の共振周波数のばらつき、すなわち圧電基板ごとの弾性表面波素子についての平均共振周波数間のばらつきが大きくなる。このため、従来の周波数調整方法は、電極を陽極酸化したのちに、個々の弾性表面波素子に対してさらに周波数調整を行なう必要がある。
【0004】
本発明は、前記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、圧電基板に形成した弾性表面波素子の共振周波数のばらつきを小さくすることを目的としている。
また、本発明は、圧電基板に形成した弾性表面波素子の共振周波数を高精度で調整できるようにすることを目的としている。
【0005】
そして、本発明は、圧電基板間における共振周波数のばらつきを小さくすることを目的としている。
さらに、本発明は、個々の弾性表面波素子に対する共振周波数の調整工程を省略できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る弾性表面波素子の製造方法は、圧電基板の表面に導電膜を形成する成膜工程と、前記導電膜の上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、フォトマスクに設けたパターンを前記レジスト膜に縮小投影露光して現像し、前記パターンをレジスト膜に転写するレジスト膜パターニング工程と、パターニングされた前記レジスト膜をマスクにして前記導電膜をエッチングし、弾性表面波素子の電極を形成する電極形成工程と、前記圧電基板に形成された前記弾性表面波素子の共振周波数を測定する周波数測定工程と、測定共振周波数と予め定めた目標共振周波数とから前記電極の陽極酸化量を演算し、前記陽極酸化量に基づいて陽極酸化電圧を求める電圧演算工程と、前記電圧演算工程において求めた前記陽極酸化電圧によって陽極酸化し、前記電極の酸化反応の終点を検出して陽極酸化を終了する陽極酸化工程と、を有することを特徴としている。
【0007】
このようになっている本発明は、フォトマスクに形成した電極パターンを縮小投影露光するため、圧電基板に形成した弾性表面波素子の電極の寸法ばらつきが、フォトマスクのパターンの有する寸法ばらつきよりも縮小倍率分減少する。すなわち、例えば波長365nmであるi線の縮小投影露光装置によって、フォトマスクのパターンを1/5に縮小投影露光した場合、フォトマスクの有する寸法ばらつきの1/5になる。したがって、圧電基板に形成した弾性表面波素子の共振周波数のばらつきが小さくなり、共振周波数の精度が向上する。しかも、本発明は、共振周波数を調整する陽極酸化を、電極の酸化反応、すなわち陽極酸化の終点を検出して陽極酸化を終了するようにしているため、所望の陽極酸化量(所望の膜厚の陽極酸化膜)が確実に得られ、高精度の周波数調整を行うことができて、圧電基板間における共振周波数のばらつきを小さくすることができる。
【0008】
陽極酸化工程は、電極の酸化反応の終点を検出してから予め定めた時間経過したのちに終了するとよい。これにより、外乱による終点の検出時間のばらつきを避けることができ、所定の膜厚を有する陽極酸膜を確実に形成することができる。また、周波数測定工程と、前記電圧演算工程と、前記陽極酸化工程とを複数繰り返すことが望ましい。すなわち、共振周波数を調整する陽極酸化を複数回に分けて行なうと、細かな周波数調整が可能となって、共振周波数のばらつきをより小さくすることができる。このため、圧電基板に形成した弾性表面波素子を個々の弾性表面波素子(チップ)に切断したのちの共振周波数の調整工程を省くことができ、製造工程の簡略化が図れてコストを削減することができる。そして、圧電基板についての測定共振周波数は、圧電基板の予め定めた複数の位置に形成した弾性表面波素子のそれぞれについて測定した共振周波数の平均値を用いることができる。これにより、高精度な共振周波数の調整をすることができる。
【0009】
そして、本発明に係る弾性表面波素子は、上記のいずれかに記載の弾性表面波素子の製造方法を用いて製造したことを特徴としている。これにより、上記の作用効果が得られ、高精度な弾性表面波素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る弾性表面波素子の製造方法およびその製造方法を用いて製造した弾性表面波素子の好ましい実施の形態を、添付図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る弾性表面波素子の製造方法のフローチャートである。まず、図1のステップ10に示したように、水晶などの圧電材料からなる圧電基板(ウエハ)を洗浄する。その後、AlまたはAl合金からなる電極用の導電膜を圧電基板の表面に形成する成膜工程を行なう(ステップ12)。電極用導電膜(電極膜)は、膜厚の変化が弾性表面波素子の共振周波数を変化させるため、膜厚のばらつきを極力小さくする必要がある。そこで、この実施形態においては、導電膜を真空蒸着法によって成膜した。真空蒸着により成膜した導電膜は、ターゲットと圧電基板との距離、成膜速度、膜厚補正板等を適切な条件に設定することにより、圧電基板内および複数の圧電基板間における膜厚のばらつきを1%以内に抑えることが可能である。
【0011】
次に、導電膜の上にポジ型フォトレジストを塗布してレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程を行なう(ステップ14)。その後、ステップ16に示したレジスト膜パターニング工程を行なう。レジスト膜パターニング工程は、ステップ16aの露光工程と、ステップ16bの現像工程とを有している。露光工程は、実施形態の場合、弾性表面波素子の電極パターンに対応したパターンを有するフォトマスクを縮小投影露光装置に装着し、フォトマスクを介して紫外線をレジスト膜に照射し、フォトマスクのパターンをレジスト膜に縮小投影露光する。これにより、IDTを構成している櫛形電極の電極指幅、電極指ピッチなどの電極寸法ばらつきをフォトマスクの有する寸法ばらつきより小さくすることができる。例えば、波長365nmのi線縮小投影露光装置により、フォトマスクのパターンを1/5に縮小投影露光した場合、フォトマスクのパター寸法のばらつきも、レジスト膜に縮小投影されると1/5になる。
【0012】
従来の等倍のコンタクト方式またはプロキシミティ方式による露光においては、例えば共振周波数が300MHz帯の弾性表面波素子の場合、電極幅、電極ピッチの寸法ばらつきが10%程度であった。しかし、実施形態においては、i線縮小投影露光装置のレンズ開口数(NA)=0.55の場合、1ショットの露光サイズを6mm角以下に設定することにより、共振周波数が300MHz帯の弾性表面波素子の電極幅、電極ピッチの寸法ばらつきを3%以下にすることができる。
【0013】
なお、i線縮小投影露光装置の場合、装置の性能によっても異なるが、一般に1ショットの露光サイズを20mm角程度にしてウエハ1枚当たりの処理時間の短縮を図っている。しかし、実施形態においては、前記したように1ショットの露光サイズを6mm角以下にして、電極寸法のばらつきを極力小さくしている。また、露光に使用する紫外線の波長は、より微細な寸法加工をするために、短波長領域の紫外線を放射する光源を使用することが望ましく、波長365nmのi線、波長248nmのKrFエキシマレーザ光等を使用することが望ましい。
【0014】
上記のようにして、フォトマスクのパターンをレジスト膜に露光すると、ポジ型のレジスト膜は、紫外線を照射された部分が変質し、レジスト現像液に溶解する性質となる。そこで、露光したレジスト膜の表面を現像液に接触させ、フォトマスクのパターンをレジスト膜に転写する現像を行なう(ステップ16b)。次に、パターニングしたレジスト膜をマスクとして導電膜(電極膜)をエッチングする電極形成工程を行なったのち(ステップ18)、残存しているレジスト膜を剥離して圧電基板から除去する(ステップ20)。導電膜のエッチングは、反応性ガスを用いたプラズマによるドライエッチングが望ましい。このドライエッチングは、エッチングに異方性を持たすことができる。したがって、導電膜のエッチングは、導電膜の表面から圧電基板との界面である厚み方向に異方性を持たせることにより、電極の側面を圧電基板に対して垂直に形成することができる。このため、導電膜の加工をフォトマスクからレジスト膜に転写した電極パターンに忠実に行なうことができ、電極寸法のばらつきを3%以下にすることができる。
【0015】
これにより、圧電基板表面のAlまたはAl合金からなる導電膜がパターニングされ、圧電基板に弾性表面波素子が形成される。図2は、圧電基板に形成された弾性表面波素子の配置パターンの一例を示したものである。図2において、水晶からなる圧電基板100は、所定のカット角をもって水晶ブロックから切り出してあり、位置決め用のオリエンテーションフラット102を有している。そして、図2に示した矩形の1つ1つがIDTと反射器とを備えた弾性表面波素子104に相当している。なお、図2において、黒く塗りつぶした弾性表面波素子106(106a〜106e)は、多数の弾性表面波素子104の共振周波数の平均値を求めるための測定対象弾性表面波素子である。これらの測定対象弾性表面波素子106は、実施形態の場合5つであって、形成位置が予め定めてあり、圧電基板100の中心部と、この中心部に対して上下左右のほぼ対称位置となる位置に形成してある。
【0016】
測定対象弾性表面波素子106は、図3に示したように、導電膜からなるIDT108とIDT108の両側に設けた反射器110(110a、110b)とを有している。IDT108は、一対の櫛形電極112(112a、112b)によって形成してある。そして、各櫛形電極112は、お互いの電極指114(114a、114b)が交互となるように配置される。また、櫛形電極112は、周波数測定器のプローブ(図示せず)を接触させるパッド部116(116a、116b)を有する。一方、反射器110aと反射器110bとは、同じように形成してあって格子状をなし、両端が相互に連結された複数の導体ストリップ118から形成してある。
【0017】
なお、他の弾性表面波素子104は、測定対象弾性表面波素子106と同様に、一対の櫛形電極112からなるIDT108と、一対の反射器110とを備えている。そして、弾性表面波素子104は、複数のブロックに区画され、区画内の櫛形電極112a同士、櫛形電極112b同士がパッド部116などを介して相互に共通電極に接続してある。また、反射器110も同様に共通電極を介して同時に電圧を印加できるようにしてある。さらに、測定対象弾性表面波素子106も、同様に共通電極を介して接続されている。
【0018】
このようにして得られた弾性表面波素子の共振周波数fは、弾性表面波の伝播速度をv、表面弾性波の波長をλとすると、
【数1】
と定義することができる。そして、弾性表面波素子104における弾性表面波の波長λは、基本的にIDTを構成している櫛形電極の電極指114のピッチなど、電極パターンの設計に依存している。このため、弾性表面波素子は、製造工程において電極パターンのピッチ等を変えて波長λを変化させることにより、共振周波数を調整することが困難である。
【0019】
一方、弾性表面波の伝播速度vは、本来、弾性表面波素子104を構成する圧電基板材料により決定される。しかし、伝播速度vは、櫛形電極114の質量に依存し、質量が大きいほど遅くなる。すなわち、弾性表面波素子は、電極の質量、例えば電極の厚みを変えることにより、弾性表面波の伝播速度vを変えることができ、数式1に示されるように、共振周波数fを変える(調整する)ことができる。また、弾性表面波素子は、Al電極を陽極酸化すると、Alが酸素原子と結合することによる質量付加効果が得られ、共振周波数を低下させる方向に調整することが可能である。
【0020】
そこで、実施形態においては、弾性表面波素子104、測定対象弾性表面波素子106が形成された圧電基板100に対して、次のステップ22に示した共振周波数調整工程を行なう。この共振周波数調整工程は、実施形態の場合、陽極酸化を2回に分けて行なうようにしている。共振周波数調整工程においては、まず、ステップ24に示したように、前記した測定対象弾性表面波素子106の共振周波数を測定する第1回目の周波数測定工程を行なう。次に、ステップ26の第1回目の電圧演算工程を行なう。電圧演算工程は、ステップ26aの陽極酸化量演算工程と、ステップ26bの第1回目の陽極酸化電圧決定工程とからなっている。
【0021】
陽極酸化量演算工程は、まず、測定対象弾性表面波素子106a〜106eの測定した共振周波数の平均値(平均共振周波数)を求める。次に、平均共振周波数と予め定めた目標共振周波数との差を求め、IDT108を構成している櫛形電極112と反射器との陽極酸化量(陽極酸化膜の厚み)を求め、さらにその求めた厚みに基づいて陽極酸化電圧を決定する。陽極酸化電圧とAlの陽極酸化膜の厚みとの間には、図4に示したような関係が存在する。すなわち、陽極酸化電圧と陽極酸化膜の厚みとの間には、比例関係が存在している。そして、陽極酸化を行なう電解液がリン酸アンモニウム系である場合、陽極酸化電圧1Vあたり13オングストロームの厚さの陽極酸化膜が形成される。
【0022】
また、Alからなる電極指(電極)114は、陽極酸化をすると、電極114の電解液(陽極酸化液)と接触する面の全体が陽極酸化される。したがって、電極114は、陽極酸化されると、図5に一部断面図として示したように、上面と側面とに陽極酸化膜119が形成され、図6、図7に示したように、弾性表面波素子の共振周波数が変化する。図6は、電極114の幅bと陽極酸化による共振周波数の変化量との関係を示したもので、横軸が電極幅b、縦軸が周波数変化量を示している。また、図7は、電極膜厚hと陽極酸化による共振周波数の変化量との関係を示したものである。
【0023】
図6に示したように、電極幅bが設計寸法(設計値)どおりのb0である場合、陽極酸化によりある厚みtの陽極酸化膜119を電極114に形成した場合、計算値どおりの周波数変化量Δf0を得ることができる。ところが、電極幅bが設計値より大きく(太く)形成されると、同じ厚みの陽極酸化膜119を形成しても周波数変化量が小さくなる。反対に電極幅bが設計値より細く形成されると、周波数変化量が大きくなる。また、図7に示したように、電極膜厚(導電膜の厚み)hが設計寸法どおりのh0であれば、計算値どおりの周波数変化量Δf0を得ることができる。しかし、電極膜厚hが設計値より厚い場合、陽極酸化膜119の厚みが同じであっても、周波数変化量が小さくなり、電極膜厚hが設計値より薄い場合、周波数変化量が大きくなる。
【0024】
そこで、電極114の寸法に対して、陽極酸化膜119が10オングストロームまたは100オングストローム形成したときに、弾性表面波素子の共振周波数がどの程度低下するかを計算や実験によって予め求めておき、平均共振周波数と目標共振周波数との差から、櫛形電極112、反射器110の陽極酸化量(陽極酸化膜119の厚み)を求める。そして、ステップ26bの第1回目の陽極酸化電圧決定工程を行なう。
【0025】
この実施形態の場合、陽極酸化を2回に分けて行なうようにしている。このため、第1回目の陽極酸化電圧は、上記のようにして求めた陽極酸化膜119の厚みの80〜95%程度が形成できる値にする。例えば、平均共振周波数を目標共振周波数にするのに必要な陽極酸化電圧が80Vである場合、第1回目の陽極酸化電圧を64〜76Vにする。この際、陽極酸化をするときの電流(電流密度)も決定する。陽極酸化電圧を求めたら、図8に示したような陽極酸化装置120によって第1回目の陽極酸化工程を行なう(図1ステップ28)。
【0026】
陽極酸化装置120は、定電圧電源122と陽極酸化槽124とを備えている。定電圧電源122は、電圧値を設定できるとともに、陽極酸化槽124に流す電流値も設定できるようになっている。陽極酸化槽124は、複数の圧電基板100を収容したウエハラック126を搬入できる大きさを有しており、内部にリン酸アンモニウム溶液などの電解液128が貯留してある。圧電基板100に形成した弾性表面波素子の櫛形電極112、反射器110は、導電性クリップ130を介して定電圧電源122のプラス(+)端子に接続される。また、陽極酸化槽124の電解液128には、対向電極132が配置してあり、対向電極132が定電圧電源122のマイナス(−)端子に接続される。
【0027】
定電圧電源122と導電性クリップ130とを接続する線路には、電流検出器134が設けてある。電流検出器134は、酸化終点検出ユニット136の終点検出部138に接続してあって、検出信号を終点検出部138に入力する。酸化終点検出ユニット136は、終点検出部138とともに終点検出電流設定部140とタイマ142とを備えている。終点検出部138は、電流検出器134の検出信号を終点検出電流設定部140に設定された終点検出電流と比較し、弾性表面波素子に設けた櫛形電極の酸化反応の終点、すなわち陽極酸化の終点を検出し、タイマ142を起動する。そして、終点検出部138は、タイマ142が所定時間の計数を終了すると、定電圧電源122をオフするとともに、タイマ142をリセットする。
【0028】
陽極酸化装置120による第1回目の陽極酸化が終了したならば、第2回目の陽極酸化を行うために、陽極酸化された測定対象弾性表面波素子106の共振周波数を測定する第2回目の共振周波数測定工程を行なう(ステップ30)。次に、第2回目の電圧演算工程を行なう(ステップ32)。ステップ32の第2回目の電圧演算工程は、ステップ26の第1回目の電圧演算工程と同様に、ステップ32aの第2回目の陽極酸化量演算工程とステップ32bの第2回目の陽極酸化電圧決定工程とからなっている。ステップ32aの第2回目の陽極酸化量演算工程は、ステップ26aの第1回目の陽極酸化量演算工程と同様にして平均共振周波数を目標共振周波数にするための陽極酸化量(陽極酸化膜119の厚み)を求める。さらに、求めた陽極酸化膜の厚みと、第1回目の陽極酸化により形成した陽極酸化膜の厚さとの和を求め、これを周波数の調整に必要な陽極酸化量とする。そして、ステップ32bの第2回目の陽極酸化電圧決定工程においては、ステップ32aの第2回目の陽極酸化量演算工程において求めた必要な陽極酸化膜の厚みを形成できる陽極酸化電圧(例えば、81V)を、そのまま第2回目の陽極酸化の電圧として決定する。この場合も、酸化電流が同時に決定される。
【0029】
その後、ステップ34のように第2回目の陽極酸化を行なう。この第2回目の陽極酸化も第1回目と同様に、電極の酸化反応の終点を検出し、終点検出から所定の時間が経過するまで陽極酸化を行なう。第2回目の陽極酸化が終了することにより、圧電基板100に形成した弾性表面波素子の共振周波数調整工程が終了する。次に、圧電基板100は、切断されて個々の弾性表面波素子(チップ)にされる(ステップ36)。そして、弾性表面波素子は、検査されたのち(ステップ38)、次の工程に送られる。
【0030】
図8に示した陽極酸化装置120による陽極酸化は、次のようにして行なわれる。図8に示したように、弾性表面波素子の櫛形電極112と反射器110とを定電圧電源122のプラス端子に接続し、対向電極132を定電圧電源122のマイナス端子に接続する。さらに、図9に示したように、定電圧電源122に陽極酸化電圧Vsと、陽極酸化するための電流(電流密度mA/cm2)Isとを設定する。そして、定電圧電源122のスイッチをオンすると、櫛形電極112、反射器110と対向電極132との間に、電解液128を介して設定電流Isが流れて陽極酸化が開始される。
【0031】
陽極酸化の開始直後は、圧電基板100に形成した電極の抵抗が小さいため、設定した電流Isによる定電流処理が行なわれる。陽極酸化が進行するのにしたがって櫛形電極に陽極酸化膜が形成され、櫛形電極の電気抵抗が増加し、印加電圧がしだいに上昇して設定電圧Vsになり、以降定電圧処理となる。印加電圧が設定電圧Vsになると、櫛形電極の抵抗の増加によって電流値が減少する。ウエハに供給する電流(電流密度)は、電流検出器134によって検出され、酸化終点検出ユニット136の終点検出部138に入力される。
【0032】
終点検出部138は、電流検出器134が出力する検出信号を終点検出電流設定部140に設定してある終点検出電流(電流密度)と比較する。そして、終点検出部138は、陽極酸化を開始してから時間tを経過したときの、電流検出器134の検出値が設定値、例えば10μA/cm2より小さくなると、櫛形電極112の酸化反応が終点に達したとしてタイマ142に起動信号を入力する。これにより、タイマ142は、予め設定されている時間Δt、例えば60秒間の計数を開始する。そして、終点検出部138は、タイマ142が所定時間Δtの計数を終了すると、定電圧電源122をオフして陽極酸化を停止するとともに、タイマ142リセットする。
【0033】
このように、実施形態においては、縮小投影露光方法によってパターニングしたレジスト膜からなるマスクによって電極パターンを形成するとともに、共振周波数を調整する陽極酸化を、電極の酸化反応の終点を検出して終了するようにしているため、圧電基板間における共振周波数(圧電基板ごとの弾性表面波素子の平均共振周波数)のばらつきを小さくすることができる。そして、実施形態においては、電極の酸化反応の終点を検出して陽極酸化を終了するようにしているため、所望する厚さの陽極酸化膜を確実に形成することができ、共振周波数を高精度で調整することができる。しかも、電極の酸化反応、すなわち陽極酸化の終点を検出してから一定時間陽極酸化を継続するようにしているため、検出電流が外乱などによって一時的に終点検出電流値以下に変動した場合であっても、陽極酸化を確実に終点まで行なうことができる。さらに、実施形態においては、弾性表面波素子の共振周波数を調整する陽極酸化を2回に分けて行なっているため、目標周波数に対して細かな周波数調整が可能で、複数のウエハ間における弾性表面波素子の平均共振周波数のばらつきを小さくすることができる。
【0034】
すなわち、図10(1)に示したように、従来は、1回の陽極酸化によって測定共振周波数を目標共振周波数になるように調整していた。このため、従来は、ウエハ間における電極膜の厚さや電極の寸法誤差などによって、調整後のウエハ間における共振周波数のばらつきが大きく、図11(1)に示したように、目標共振周波数に対して±500ppmに近いばらつきを有していた。これに対して、実施形態においては、図10(2)に示すように、陽極酸化を2回に分けて行なっている。このため、実施形態においては、複数の圧電基板間における導電膜の膜厚や電極寸法のばらつきを考慮した共振周波数の細かな調整が可能となり、陽極酸化後におけるウエハ間の共振周波数のばらつきを小さくできる。
【0035】
すなわち、実施形態においては、縮小投影露光方法により電極パターンを形成したことにより、圧電基板に形成した弾性表面波素子の電極寸法のばらつきが小さくなり、第1回目の陽極酸化によって図11(2)に示したように、平均共振周波数を目標共振周波数に対して±250ppm程度のばらつきにすることができる。そして、第2回目の陽極酸化による共振周波数の調整を行なうと、細かな周波数調整ができるため、同図(3)に示したように、共振周波数を目標周波数に対して150ppm程度のばらつきにすることができる。このため、実施形態においては、圧電基板100を個々の弾性表面波素子104に切断したのちに、各弾性表面波素子に対する共振周波数を調整する工程を省略することができる。したがって、実施形態においては、製造工程の簡略化が図れ、圧電基板から分割した弾性表面波素子を、そのままキーレスエントリシステムやICタグシステムなどの近距離通信システム用のSAWデバイスに使用することができる。また、実施形態においては、圧電基板に形成した弾性表面波素子の共振周波数を直接測定しているため、共振周波数の調整量(周波数)を正確に求めることができ、高精度な周波数調整を行なうことができる。
【0036】
発明者等は、本発明の効果を確認するために、本発明に係る弾性表面波素子の製造方法と従来の弾性表面波素子の製造方法との比較実験を行なった。図12と図13とは、IDTを構成している電極指の幅のクリティカルディメンジョン(Critical Dimension:CD)を比較した度数分布図である。図12は、本発明に係る製造方法によるもので、縮小投影露光装置によってフォトマスクのパターンを1/5に縮小してレジスト膜に転写し、ドライエッチングによってIDTを形成した場合である。一方、図13は、従来の製造方法によるもので、縮小投影露光したのと同じフォトマスクを、アライナによって接触方式で等倍露光してマスクのパターンをレジスト膜に転写し、ドライエッチングしてIDTを形成した場合である。なお、図12、図13は、いずれも横軸がIDTを構成している電極指の幅(電極線幅寸方)の値をμmによって表し、縦軸が頻度を表している。そして、図12、図13のいずれの場合も、複数枚の水晶ウエハをバッチ処理して弾性表面波素子を形成し、形成した多数の弾性表面波素子から無作為に抽出して電極線幅寸方を計測したものである。また、電極線幅寸法の目標値(設計値)は、1.033μmである。
【0037】
図12に示されているように、本発明の縮小投影露光装置を用いた場合、電極線幅の最大値と最小値との差Δが0.172μmであって、3σが0.048μmである。これに対して、従来のアライナによる接触方式、等倍露光の場合、電極線幅の最大値と最小値との差Δが0.344μmであり、3σが0.161μmとなる。したがって、縮小投影露光装置を用いた本発明に係る弾性表面波素子の製造方法においては、電極線幅寸法の3σを0.5μm程度にすることができる。逆にいうと、電極線幅寸法を計測して3σが0.5μm程度である場合、縮小投影露光装置を用いたフォトエッチングによりIDTを形成したと推定できる。
【0038】
図14、図15は、本発明に係る製造方法により製造した弾性表面波素子と、従来の製造方法により製造した弾性表面波素子との周波数調整後における共振周波数のばらつきの度数分布図である。図14は、縮小投影露光装置を用いてIDTを形成した弾性表面波素子であって、ウエハ状態においてIDTを2回に分けて陽極酸化して周波数調整をしたのちの共振周波数のばらつきを示している。また、図15は、従来のアライナを用いて接触方式、等倍露光によりIDTを形成し、従来と同様にウエットによって周波数調整をしたのちの共振周波数のばらつきを示している。図14、図15は、いずれも横軸が共振周波数の目標共振周波数(0で示した)からの偏差をppmで示したものであり、縦軸が頻度を示している。なお、作成した弾性表面波素子は、300MHz帯のものである。また、図14、図15のいずれの場合も、複数枚の水晶ウエハのバッチ処理により作成した弾性表面波素子から無作為に抽出して測定した結果である。
【0039】
図14に示されているように、IDTを縮小投影露光装置を用いて形成し、IDTの陽極酸化によって周波数調整を行なうと、共振周波数のばらつきを非常に小さくすることができる。例えば、300MHz帯の弾性表面波素子の場合、目標共振周波数に対する偏差を3σで160ppm程度にできる。したがって、個々の弾性表面波素子に分割したのち、周波数調整を行なう必要がない。これに対して、従来のアライナによる接触方式、等倍露光によってIDT形成し、ウエットによって周波数調整を行なった場合、300MHzの弾性表面波素子における共振周波数の目標共振周波数に対する偏差の3σが約540ppmになる。したがって、従来の製造方法により製造した弾性表面波素子は、規格外品が多く発生する。そこで、従来の製造方法により製造した弾性表面波素子は、製品として出荷する際に規格外品を除外することにより、共振周波数の目標周波数からの偏差の3σを150ppmにすることが可能である。しかし、従来の製造方法により製造した弾性表面波素子を選別して出荷した場合、製品として出荷された弾性表面波素子の周波数偏差の分布は、明らかに図14と異なる分布を示すはずである。したがって、複数の弾性表面波素子の共振周波数、または共振周波数の目標共振周波数に対する偏差の分布を比較することにより、本発明に係る製造方法により製造したものであるか否かを判定することができる。このことは、前記の電極線幅寸法の分布についても同様である。
【0040】
ところで、従来のアライナによる接触方式、等倍露光によりIDTを形成した場合、図13に示したように電極線幅寸法のばらつきが大きくなり、共振周波数のばらつきも大きくなる。そこで、この共振周波数のばらつきをIDTの陽極酸化により周波数調整を行なうことが考えられる。IDTの陽極酸化により周波数調整を行なう場合、周波数調整前の共振周波数を目標共振周波数より高めに形成する。これは、前記したように、IDTを陽極酸化すると、共振周波数が低下するためである。そして、IDTの陽極酸化により周波数調整を行なう場合、共振周波数が目標共振周波数にわずかに高い弾性表面波素子に対しては陽極酸化膜を薄く形成し、共振周波数の低下量を小さくする。一方、共振周波数が目標共振周波数に対して高い方に大きくずれている場合、陽極酸化膜を厚く形成して周波数の低下量を大きくする。すなわち、IDTの陽極酸化によって周波数調整を行なった場合、陽極酸化膜の厚みのばらつきが周波数調整をする前の共振周波数のばらつき、電極線幅寸法のばらつきに依存する。したがって、陽極酸化膜の厚みのばらつきを求めることによって、縮小投影露光装置を用いてIDTを形成したか、アライナを用いた接触方式、等倍露光によりIDTを形成したかを判別することができる。
【0041】
なお、前記実施形態においては、2回の陽極酸化によって共振周波数を調整する場合について説明したが、陽極酸化は3回以上行なうようにしてもよい。また、前記実施形態においては、圧電材料が水晶である場合について説明したが、圧電材料はニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどであってもよい。さらに、前記実施形態においては、陽極酸化に使用する電解液がリン酸アンモニウムである場合について説明したが、陽極酸化が可能であれば他の電解液であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態に係る弾性表面波素子の製造方法のフローチャートである。
【図2】圧電基板に形成された弾性表面波素子の配置状態の例を示す平面図である。
【図3】実施の形態に係る測定対象弾性表面波素子の詳細説明図である。
【図4】陽極酸化電圧と陽極酸化膜厚さとの関係を示す図である。
【図5】櫛形電極の一部断面図である。
【図6】陽極酸化による電極幅と周波数変化量との関係を示す図である。
【図7】陽極酸化による電極膜厚と周波数変化量との関係を示す図である。
【図8】実施の形態に係る陽極酸化装置の説明図である。
【図9】実施の形態に係る陽極酸化方法の説明図である。
【図10】従来の共振周波数調整方法と実施形態の共振周波数調整方法との比較図である。
【図11】従来例と実施形態とにおける共振周波数調整後の圧電基板間の共振周波数のばらつきを示す図である。
【図12】本発明の製造方法により製造した弾性表面波素子の電極指の幅寸法の度数分布図である。
【図13】従来の製造方法により製造した弾性表面波素子の電極指の幅寸法の度数分布図である。
【図14】本発明の製造方法により製造した弾性表面波素子の周波数調整後における周波数偏差の度数分布図である。
【図15】従来の製造方法により製造した弾性表面波素子の周波数調整後における周波数偏差の度数分布図である。
【符号の説明】
【0043】
100………圧電基板、104………弾性表面波素子、106………測定対象弾性表面波素子、108………IDT、110a、110b………反射器、112a、112b………櫛形電極。
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子の製造方法に係り、特に圧電基板に形成された弾性表面波素子の共振周波数を目標共振周波数に調整する工程を有する弾性表面波素子の製造方法およびその製造方法を用いて製造した弾性表面波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信技術の発展などに対応して、弾性表面波(Surface Acoustic Wave)素子を用いたSAW共振子やSAWフィルタなどのSAWデバイスの高周波化が図られている。弾性表面波素子の共振周波数は、IDT(Interdigital Transducer)を構成している櫛形電極のピッチに依存しており、SAWデバイスの高周波化に伴って櫛形電極が微細化されている。このため、高周波用弾性表面波素子の電極は、縮小投影露光装置を用いた微細加工によって形成するようになってきている(例えば、特許文献1)。しかし、弾性表面波素子の共振周波数は、電極を構成する導電膜の膜厚のばらつきや、形成した電極の製作誤差などの影響により、縮小投影露光装置による電極の微細加工だけでは要求される周波数精度にすることができない。そこで、従来は、弾性表面波素子の個々について周波数調整を行ない、要求される周波数精度が得られるようにしている。そして、特許文献2には、弾性表面波素子を個々に切断したのちに行なう電極の陽極酸化による電気抵抗の増加を避け、弾性表面波素子をウエハ(圧電基板)に形成した状態で、櫛形電極または反射器を陽極酸化して共振周波数を調整する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5−283970号公報
【特許文献2】特開平6−164287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献2に記載されている周波数調整方法(以下、従来の周波数調整方法という)は、特許文献2の段落番号0014に記載されているように、陽極酸化電圧を数10〜数100Vにして、調整したい周波数に応じて陽極酸化するようにしており、精度のよい共振周波数の調整が困難である。しかも、従来の周波数調整方法は、周波数調整量を求めて陽極酸化電圧を決定したのちに、決定した陽極酸化電圧による1回の陽極酸化で周波数調整をしている。このため、従来の周波数調整方法は、圧電基板(ウエハ)間における電極膜(導電膜)の膜厚寸法ばらつき、IDTの電極指(以下、単に電極ということがある)幅、電極指ピッチなどの電極寸法のばらつきなどにより、陽極酸化による周波数の変化量にばらつきを生ずる。この結果、従来の周波数調整方法は、陽極酸化後における圧電基板間の共振周波数のばらつき、すなわち圧電基板ごとの弾性表面波素子についての平均共振周波数間のばらつきが大きくなる。このため、従来の周波数調整方法は、電極を陽極酸化したのちに、個々の弾性表面波素子に対してさらに周波数調整を行なう必要がある。
【0004】
本発明は、前記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、圧電基板に形成した弾性表面波素子の共振周波数のばらつきを小さくすることを目的としている。
また、本発明は、圧電基板に形成した弾性表面波素子の共振周波数を高精度で調整できるようにすることを目的としている。
【0005】
そして、本発明は、圧電基板間における共振周波数のばらつきを小さくすることを目的としている。
さらに、本発明は、個々の弾性表面波素子に対する共振周波数の調整工程を省略できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る弾性表面波素子の製造方法は、圧電基板の表面に導電膜を形成する成膜工程と、前記導電膜の上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、フォトマスクに設けたパターンを前記レジスト膜に縮小投影露光して現像し、前記パターンをレジスト膜に転写するレジスト膜パターニング工程と、パターニングされた前記レジスト膜をマスクにして前記導電膜をエッチングし、弾性表面波素子の電極を形成する電極形成工程と、前記圧電基板に形成された前記弾性表面波素子の共振周波数を測定する周波数測定工程と、測定共振周波数と予め定めた目標共振周波数とから前記電極の陽極酸化量を演算し、前記陽極酸化量に基づいて陽極酸化電圧を求める電圧演算工程と、前記電圧演算工程において求めた前記陽極酸化電圧によって陽極酸化し、前記電極の酸化反応の終点を検出して陽極酸化を終了する陽極酸化工程と、を有することを特徴としている。
【0007】
このようになっている本発明は、フォトマスクに形成した電極パターンを縮小投影露光するため、圧電基板に形成した弾性表面波素子の電極の寸法ばらつきが、フォトマスクのパターンの有する寸法ばらつきよりも縮小倍率分減少する。すなわち、例えば波長365nmであるi線の縮小投影露光装置によって、フォトマスクのパターンを1/5に縮小投影露光した場合、フォトマスクの有する寸法ばらつきの1/5になる。したがって、圧電基板に形成した弾性表面波素子の共振周波数のばらつきが小さくなり、共振周波数の精度が向上する。しかも、本発明は、共振周波数を調整する陽極酸化を、電極の酸化反応、すなわち陽極酸化の終点を検出して陽極酸化を終了するようにしているため、所望の陽極酸化量(所望の膜厚の陽極酸化膜)が確実に得られ、高精度の周波数調整を行うことができて、圧電基板間における共振周波数のばらつきを小さくすることができる。
【0008】
陽極酸化工程は、電極の酸化反応の終点を検出してから予め定めた時間経過したのちに終了するとよい。これにより、外乱による終点の検出時間のばらつきを避けることができ、所定の膜厚を有する陽極酸膜を確実に形成することができる。また、周波数測定工程と、前記電圧演算工程と、前記陽極酸化工程とを複数繰り返すことが望ましい。すなわち、共振周波数を調整する陽極酸化を複数回に分けて行なうと、細かな周波数調整が可能となって、共振周波数のばらつきをより小さくすることができる。このため、圧電基板に形成した弾性表面波素子を個々の弾性表面波素子(チップ)に切断したのちの共振周波数の調整工程を省くことができ、製造工程の簡略化が図れてコストを削減することができる。そして、圧電基板についての測定共振周波数は、圧電基板の予め定めた複数の位置に形成した弾性表面波素子のそれぞれについて測定した共振周波数の平均値を用いることができる。これにより、高精度な共振周波数の調整をすることができる。
【0009】
そして、本発明に係る弾性表面波素子は、上記のいずれかに記載の弾性表面波素子の製造方法を用いて製造したことを特徴としている。これにより、上記の作用効果が得られ、高精度な弾性表面波素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る弾性表面波素子の製造方法およびその製造方法を用いて製造した弾性表面波素子の好ましい実施の形態を、添付図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る弾性表面波素子の製造方法のフローチャートである。まず、図1のステップ10に示したように、水晶などの圧電材料からなる圧電基板(ウエハ)を洗浄する。その後、AlまたはAl合金からなる電極用の導電膜を圧電基板の表面に形成する成膜工程を行なう(ステップ12)。電極用導電膜(電極膜)は、膜厚の変化が弾性表面波素子の共振周波数を変化させるため、膜厚のばらつきを極力小さくする必要がある。そこで、この実施形態においては、導電膜を真空蒸着法によって成膜した。真空蒸着により成膜した導電膜は、ターゲットと圧電基板との距離、成膜速度、膜厚補正板等を適切な条件に設定することにより、圧電基板内および複数の圧電基板間における膜厚のばらつきを1%以内に抑えることが可能である。
【0011】
次に、導電膜の上にポジ型フォトレジストを塗布してレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程を行なう(ステップ14)。その後、ステップ16に示したレジスト膜パターニング工程を行なう。レジスト膜パターニング工程は、ステップ16aの露光工程と、ステップ16bの現像工程とを有している。露光工程は、実施形態の場合、弾性表面波素子の電極パターンに対応したパターンを有するフォトマスクを縮小投影露光装置に装着し、フォトマスクを介して紫外線をレジスト膜に照射し、フォトマスクのパターンをレジスト膜に縮小投影露光する。これにより、IDTを構成している櫛形電極の電極指幅、電極指ピッチなどの電極寸法ばらつきをフォトマスクの有する寸法ばらつきより小さくすることができる。例えば、波長365nmのi線縮小投影露光装置により、フォトマスクのパターンを1/5に縮小投影露光した場合、フォトマスクのパター寸法のばらつきも、レジスト膜に縮小投影されると1/5になる。
【0012】
従来の等倍のコンタクト方式またはプロキシミティ方式による露光においては、例えば共振周波数が300MHz帯の弾性表面波素子の場合、電極幅、電極ピッチの寸法ばらつきが10%程度であった。しかし、実施形態においては、i線縮小投影露光装置のレンズ開口数(NA)=0.55の場合、1ショットの露光サイズを6mm角以下に設定することにより、共振周波数が300MHz帯の弾性表面波素子の電極幅、電極ピッチの寸法ばらつきを3%以下にすることができる。
【0013】
なお、i線縮小投影露光装置の場合、装置の性能によっても異なるが、一般に1ショットの露光サイズを20mm角程度にしてウエハ1枚当たりの処理時間の短縮を図っている。しかし、実施形態においては、前記したように1ショットの露光サイズを6mm角以下にして、電極寸法のばらつきを極力小さくしている。また、露光に使用する紫外線の波長は、より微細な寸法加工をするために、短波長領域の紫外線を放射する光源を使用することが望ましく、波長365nmのi線、波長248nmのKrFエキシマレーザ光等を使用することが望ましい。
【0014】
上記のようにして、フォトマスクのパターンをレジスト膜に露光すると、ポジ型のレジスト膜は、紫外線を照射された部分が変質し、レジスト現像液に溶解する性質となる。そこで、露光したレジスト膜の表面を現像液に接触させ、フォトマスクのパターンをレジスト膜に転写する現像を行なう(ステップ16b)。次に、パターニングしたレジスト膜をマスクとして導電膜(電極膜)をエッチングする電極形成工程を行なったのち(ステップ18)、残存しているレジスト膜を剥離して圧電基板から除去する(ステップ20)。導電膜のエッチングは、反応性ガスを用いたプラズマによるドライエッチングが望ましい。このドライエッチングは、エッチングに異方性を持たすことができる。したがって、導電膜のエッチングは、導電膜の表面から圧電基板との界面である厚み方向に異方性を持たせることにより、電極の側面を圧電基板に対して垂直に形成することができる。このため、導電膜の加工をフォトマスクからレジスト膜に転写した電極パターンに忠実に行なうことができ、電極寸法のばらつきを3%以下にすることができる。
【0015】
これにより、圧電基板表面のAlまたはAl合金からなる導電膜がパターニングされ、圧電基板に弾性表面波素子が形成される。図2は、圧電基板に形成された弾性表面波素子の配置パターンの一例を示したものである。図2において、水晶からなる圧電基板100は、所定のカット角をもって水晶ブロックから切り出してあり、位置決め用のオリエンテーションフラット102を有している。そして、図2に示した矩形の1つ1つがIDTと反射器とを備えた弾性表面波素子104に相当している。なお、図2において、黒く塗りつぶした弾性表面波素子106(106a〜106e)は、多数の弾性表面波素子104の共振周波数の平均値を求めるための測定対象弾性表面波素子である。これらの測定対象弾性表面波素子106は、実施形態の場合5つであって、形成位置が予め定めてあり、圧電基板100の中心部と、この中心部に対して上下左右のほぼ対称位置となる位置に形成してある。
【0016】
測定対象弾性表面波素子106は、図3に示したように、導電膜からなるIDT108とIDT108の両側に設けた反射器110(110a、110b)とを有している。IDT108は、一対の櫛形電極112(112a、112b)によって形成してある。そして、各櫛形電極112は、お互いの電極指114(114a、114b)が交互となるように配置される。また、櫛形電極112は、周波数測定器のプローブ(図示せず)を接触させるパッド部116(116a、116b)を有する。一方、反射器110aと反射器110bとは、同じように形成してあって格子状をなし、両端が相互に連結された複数の導体ストリップ118から形成してある。
【0017】
なお、他の弾性表面波素子104は、測定対象弾性表面波素子106と同様に、一対の櫛形電極112からなるIDT108と、一対の反射器110とを備えている。そして、弾性表面波素子104は、複数のブロックに区画され、区画内の櫛形電極112a同士、櫛形電極112b同士がパッド部116などを介して相互に共通電極に接続してある。また、反射器110も同様に共通電極を介して同時に電圧を印加できるようにしてある。さらに、測定対象弾性表面波素子106も、同様に共通電極を介して接続されている。
【0018】
このようにして得られた弾性表面波素子の共振周波数fは、弾性表面波の伝播速度をv、表面弾性波の波長をλとすると、
【数1】
と定義することができる。そして、弾性表面波素子104における弾性表面波の波長λは、基本的にIDTを構成している櫛形電極の電極指114のピッチなど、電極パターンの設計に依存している。このため、弾性表面波素子は、製造工程において電極パターンのピッチ等を変えて波長λを変化させることにより、共振周波数を調整することが困難である。
【0019】
一方、弾性表面波の伝播速度vは、本来、弾性表面波素子104を構成する圧電基板材料により決定される。しかし、伝播速度vは、櫛形電極114の質量に依存し、質量が大きいほど遅くなる。すなわち、弾性表面波素子は、電極の質量、例えば電極の厚みを変えることにより、弾性表面波の伝播速度vを変えることができ、数式1に示されるように、共振周波数fを変える(調整する)ことができる。また、弾性表面波素子は、Al電極を陽極酸化すると、Alが酸素原子と結合することによる質量付加効果が得られ、共振周波数を低下させる方向に調整することが可能である。
【0020】
そこで、実施形態においては、弾性表面波素子104、測定対象弾性表面波素子106が形成された圧電基板100に対して、次のステップ22に示した共振周波数調整工程を行なう。この共振周波数調整工程は、実施形態の場合、陽極酸化を2回に分けて行なうようにしている。共振周波数調整工程においては、まず、ステップ24に示したように、前記した測定対象弾性表面波素子106の共振周波数を測定する第1回目の周波数測定工程を行なう。次に、ステップ26の第1回目の電圧演算工程を行なう。電圧演算工程は、ステップ26aの陽極酸化量演算工程と、ステップ26bの第1回目の陽極酸化電圧決定工程とからなっている。
【0021】
陽極酸化量演算工程は、まず、測定対象弾性表面波素子106a〜106eの測定した共振周波数の平均値(平均共振周波数)を求める。次に、平均共振周波数と予め定めた目標共振周波数との差を求め、IDT108を構成している櫛形電極112と反射器との陽極酸化量(陽極酸化膜の厚み)を求め、さらにその求めた厚みに基づいて陽極酸化電圧を決定する。陽極酸化電圧とAlの陽極酸化膜の厚みとの間には、図4に示したような関係が存在する。すなわち、陽極酸化電圧と陽極酸化膜の厚みとの間には、比例関係が存在している。そして、陽極酸化を行なう電解液がリン酸アンモニウム系である場合、陽極酸化電圧1Vあたり13オングストロームの厚さの陽極酸化膜が形成される。
【0022】
また、Alからなる電極指(電極)114は、陽極酸化をすると、電極114の電解液(陽極酸化液)と接触する面の全体が陽極酸化される。したがって、電極114は、陽極酸化されると、図5に一部断面図として示したように、上面と側面とに陽極酸化膜119が形成され、図6、図7に示したように、弾性表面波素子の共振周波数が変化する。図6は、電極114の幅bと陽極酸化による共振周波数の変化量との関係を示したもので、横軸が電極幅b、縦軸が周波数変化量を示している。また、図7は、電極膜厚hと陽極酸化による共振周波数の変化量との関係を示したものである。
【0023】
図6に示したように、電極幅bが設計寸法(設計値)どおりのb0である場合、陽極酸化によりある厚みtの陽極酸化膜119を電極114に形成した場合、計算値どおりの周波数変化量Δf0を得ることができる。ところが、電極幅bが設計値より大きく(太く)形成されると、同じ厚みの陽極酸化膜119を形成しても周波数変化量が小さくなる。反対に電極幅bが設計値より細く形成されると、周波数変化量が大きくなる。また、図7に示したように、電極膜厚(導電膜の厚み)hが設計寸法どおりのh0であれば、計算値どおりの周波数変化量Δf0を得ることができる。しかし、電極膜厚hが設計値より厚い場合、陽極酸化膜119の厚みが同じであっても、周波数変化量が小さくなり、電極膜厚hが設計値より薄い場合、周波数変化量が大きくなる。
【0024】
そこで、電極114の寸法に対して、陽極酸化膜119が10オングストロームまたは100オングストローム形成したときに、弾性表面波素子の共振周波数がどの程度低下するかを計算や実験によって予め求めておき、平均共振周波数と目標共振周波数との差から、櫛形電極112、反射器110の陽極酸化量(陽極酸化膜119の厚み)を求める。そして、ステップ26bの第1回目の陽極酸化電圧決定工程を行なう。
【0025】
この実施形態の場合、陽極酸化を2回に分けて行なうようにしている。このため、第1回目の陽極酸化電圧は、上記のようにして求めた陽極酸化膜119の厚みの80〜95%程度が形成できる値にする。例えば、平均共振周波数を目標共振周波数にするのに必要な陽極酸化電圧が80Vである場合、第1回目の陽極酸化電圧を64〜76Vにする。この際、陽極酸化をするときの電流(電流密度)も決定する。陽極酸化電圧を求めたら、図8に示したような陽極酸化装置120によって第1回目の陽極酸化工程を行なう(図1ステップ28)。
【0026】
陽極酸化装置120は、定電圧電源122と陽極酸化槽124とを備えている。定電圧電源122は、電圧値を設定できるとともに、陽極酸化槽124に流す電流値も設定できるようになっている。陽極酸化槽124は、複数の圧電基板100を収容したウエハラック126を搬入できる大きさを有しており、内部にリン酸アンモニウム溶液などの電解液128が貯留してある。圧電基板100に形成した弾性表面波素子の櫛形電極112、反射器110は、導電性クリップ130を介して定電圧電源122のプラス(+)端子に接続される。また、陽極酸化槽124の電解液128には、対向電極132が配置してあり、対向電極132が定電圧電源122のマイナス(−)端子に接続される。
【0027】
定電圧電源122と導電性クリップ130とを接続する線路には、電流検出器134が設けてある。電流検出器134は、酸化終点検出ユニット136の終点検出部138に接続してあって、検出信号を終点検出部138に入力する。酸化終点検出ユニット136は、終点検出部138とともに終点検出電流設定部140とタイマ142とを備えている。終点検出部138は、電流検出器134の検出信号を終点検出電流設定部140に設定された終点検出電流と比較し、弾性表面波素子に設けた櫛形電極の酸化反応の終点、すなわち陽極酸化の終点を検出し、タイマ142を起動する。そして、終点検出部138は、タイマ142が所定時間の計数を終了すると、定電圧電源122をオフするとともに、タイマ142をリセットする。
【0028】
陽極酸化装置120による第1回目の陽極酸化が終了したならば、第2回目の陽極酸化を行うために、陽極酸化された測定対象弾性表面波素子106の共振周波数を測定する第2回目の共振周波数測定工程を行なう(ステップ30)。次に、第2回目の電圧演算工程を行なう(ステップ32)。ステップ32の第2回目の電圧演算工程は、ステップ26の第1回目の電圧演算工程と同様に、ステップ32aの第2回目の陽極酸化量演算工程とステップ32bの第2回目の陽極酸化電圧決定工程とからなっている。ステップ32aの第2回目の陽極酸化量演算工程は、ステップ26aの第1回目の陽極酸化量演算工程と同様にして平均共振周波数を目標共振周波数にするための陽極酸化量(陽極酸化膜119の厚み)を求める。さらに、求めた陽極酸化膜の厚みと、第1回目の陽極酸化により形成した陽極酸化膜の厚さとの和を求め、これを周波数の調整に必要な陽極酸化量とする。そして、ステップ32bの第2回目の陽極酸化電圧決定工程においては、ステップ32aの第2回目の陽極酸化量演算工程において求めた必要な陽極酸化膜の厚みを形成できる陽極酸化電圧(例えば、81V)を、そのまま第2回目の陽極酸化の電圧として決定する。この場合も、酸化電流が同時に決定される。
【0029】
その後、ステップ34のように第2回目の陽極酸化を行なう。この第2回目の陽極酸化も第1回目と同様に、電極の酸化反応の終点を検出し、終点検出から所定の時間が経過するまで陽極酸化を行なう。第2回目の陽極酸化が終了することにより、圧電基板100に形成した弾性表面波素子の共振周波数調整工程が終了する。次に、圧電基板100は、切断されて個々の弾性表面波素子(チップ)にされる(ステップ36)。そして、弾性表面波素子は、検査されたのち(ステップ38)、次の工程に送られる。
【0030】
図8に示した陽極酸化装置120による陽極酸化は、次のようにして行なわれる。図8に示したように、弾性表面波素子の櫛形電極112と反射器110とを定電圧電源122のプラス端子に接続し、対向電極132を定電圧電源122のマイナス端子に接続する。さらに、図9に示したように、定電圧電源122に陽極酸化電圧Vsと、陽極酸化するための電流(電流密度mA/cm2)Isとを設定する。そして、定電圧電源122のスイッチをオンすると、櫛形電極112、反射器110と対向電極132との間に、電解液128を介して設定電流Isが流れて陽極酸化が開始される。
【0031】
陽極酸化の開始直後は、圧電基板100に形成した電極の抵抗が小さいため、設定した電流Isによる定電流処理が行なわれる。陽極酸化が進行するのにしたがって櫛形電極に陽極酸化膜が形成され、櫛形電極の電気抵抗が増加し、印加電圧がしだいに上昇して設定電圧Vsになり、以降定電圧処理となる。印加電圧が設定電圧Vsになると、櫛形電極の抵抗の増加によって電流値が減少する。ウエハに供給する電流(電流密度)は、電流検出器134によって検出され、酸化終点検出ユニット136の終点検出部138に入力される。
【0032】
終点検出部138は、電流検出器134が出力する検出信号を終点検出電流設定部140に設定してある終点検出電流(電流密度)と比較する。そして、終点検出部138は、陽極酸化を開始してから時間tを経過したときの、電流検出器134の検出値が設定値、例えば10μA/cm2より小さくなると、櫛形電極112の酸化反応が終点に達したとしてタイマ142に起動信号を入力する。これにより、タイマ142は、予め設定されている時間Δt、例えば60秒間の計数を開始する。そして、終点検出部138は、タイマ142が所定時間Δtの計数を終了すると、定電圧電源122をオフして陽極酸化を停止するとともに、タイマ142リセットする。
【0033】
このように、実施形態においては、縮小投影露光方法によってパターニングしたレジスト膜からなるマスクによって電極パターンを形成するとともに、共振周波数を調整する陽極酸化を、電極の酸化反応の終点を検出して終了するようにしているため、圧電基板間における共振周波数(圧電基板ごとの弾性表面波素子の平均共振周波数)のばらつきを小さくすることができる。そして、実施形態においては、電極の酸化反応の終点を検出して陽極酸化を終了するようにしているため、所望する厚さの陽極酸化膜を確実に形成することができ、共振周波数を高精度で調整することができる。しかも、電極の酸化反応、すなわち陽極酸化の終点を検出してから一定時間陽極酸化を継続するようにしているため、検出電流が外乱などによって一時的に終点検出電流値以下に変動した場合であっても、陽極酸化を確実に終点まで行なうことができる。さらに、実施形態においては、弾性表面波素子の共振周波数を調整する陽極酸化を2回に分けて行なっているため、目標周波数に対して細かな周波数調整が可能で、複数のウエハ間における弾性表面波素子の平均共振周波数のばらつきを小さくすることができる。
【0034】
すなわち、図10(1)に示したように、従来は、1回の陽極酸化によって測定共振周波数を目標共振周波数になるように調整していた。このため、従来は、ウエハ間における電極膜の厚さや電極の寸法誤差などによって、調整後のウエハ間における共振周波数のばらつきが大きく、図11(1)に示したように、目標共振周波数に対して±500ppmに近いばらつきを有していた。これに対して、実施形態においては、図10(2)に示すように、陽極酸化を2回に分けて行なっている。このため、実施形態においては、複数の圧電基板間における導電膜の膜厚や電極寸法のばらつきを考慮した共振周波数の細かな調整が可能となり、陽極酸化後におけるウエハ間の共振周波数のばらつきを小さくできる。
【0035】
すなわち、実施形態においては、縮小投影露光方法により電極パターンを形成したことにより、圧電基板に形成した弾性表面波素子の電極寸法のばらつきが小さくなり、第1回目の陽極酸化によって図11(2)に示したように、平均共振周波数を目標共振周波数に対して±250ppm程度のばらつきにすることができる。そして、第2回目の陽極酸化による共振周波数の調整を行なうと、細かな周波数調整ができるため、同図(3)に示したように、共振周波数を目標周波数に対して150ppm程度のばらつきにすることができる。このため、実施形態においては、圧電基板100を個々の弾性表面波素子104に切断したのちに、各弾性表面波素子に対する共振周波数を調整する工程を省略することができる。したがって、実施形態においては、製造工程の簡略化が図れ、圧電基板から分割した弾性表面波素子を、そのままキーレスエントリシステムやICタグシステムなどの近距離通信システム用のSAWデバイスに使用することができる。また、実施形態においては、圧電基板に形成した弾性表面波素子の共振周波数を直接測定しているため、共振周波数の調整量(周波数)を正確に求めることができ、高精度な周波数調整を行なうことができる。
【0036】
発明者等は、本発明の効果を確認するために、本発明に係る弾性表面波素子の製造方法と従来の弾性表面波素子の製造方法との比較実験を行なった。図12と図13とは、IDTを構成している電極指の幅のクリティカルディメンジョン(Critical Dimension:CD)を比較した度数分布図である。図12は、本発明に係る製造方法によるもので、縮小投影露光装置によってフォトマスクのパターンを1/5に縮小してレジスト膜に転写し、ドライエッチングによってIDTを形成した場合である。一方、図13は、従来の製造方法によるもので、縮小投影露光したのと同じフォトマスクを、アライナによって接触方式で等倍露光してマスクのパターンをレジスト膜に転写し、ドライエッチングしてIDTを形成した場合である。なお、図12、図13は、いずれも横軸がIDTを構成している電極指の幅(電極線幅寸方)の値をμmによって表し、縦軸が頻度を表している。そして、図12、図13のいずれの場合も、複数枚の水晶ウエハをバッチ処理して弾性表面波素子を形成し、形成した多数の弾性表面波素子から無作為に抽出して電極線幅寸方を計測したものである。また、電極線幅寸法の目標値(設計値)は、1.033μmである。
【0037】
図12に示されているように、本発明の縮小投影露光装置を用いた場合、電極線幅の最大値と最小値との差Δが0.172μmであって、3σが0.048μmである。これに対して、従来のアライナによる接触方式、等倍露光の場合、電極線幅の最大値と最小値との差Δが0.344μmであり、3σが0.161μmとなる。したがって、縮小投影露光装置を用いた本発明に係る弾性表面波素子の製造方法においては、電極線幅寸法の3σを0.5μm程度にすることができる。逆にいうと、電極線幅寸法を計測して3σが0.5μm程度である場合、縮小投影露光装置を用いたフォトエッチングによりIDTを形成したと推定できる。
【0038】
図14、図15は、本発明に係る製造方法により製造した弾性表面波素子と、従来の製造方法により製造した弾性表面波素子との周波数調整後における共振周波数のばらつきの度数分布図である。図14は、縮小投影露光装置を用いてIDTを形成した弾性表面波素子であって、ウエハ状態においてIDTを2回に分けて陽極酸化して周波数調整をしたのちの共振周波数のばらつきを示している。また、図15は、従来のアライナを用いて接触方式、等倍露光によりIDTを形成し、従来と同様にウエットによって周波数調整をしたのちの共振周波数のばらつきを示している。図14、図15は、いずれも横軸が共振周波数の目標共振周波数(0で示した)からの偏差をppmで示したものであり、縦軸が頻度を示している。なお、作成した弾性表面波素子は、300MHz帯のものである。また、図14、図15のいずれの場合も、複数枚の水晶ウエハのバッチ処理により作成した弾性表面波素子から無作為に抽出して測定した結果である。
【0039】
図14に示されているように、IDTを縮小投影露光装置を用いて形成し、IDTの陽極酸化によって周波数調整を行なうと、共振周波数のばらつきを非常に小さくすることができる。例えば、300MHz帯の弾性表面波素子の場合、目標共振周波数に対する偏差を3σで160ppm程度にできる。したがって、個々の弾性表面波素子に分割したのち、周波数調整を行なう必要がない。これに対して、従来のアライナによる接触方式、等倍露光によってIDT形成し、ウエットによって周波数調整を行なった場合、300MHzの弾性表面波素子における共振周波数の目標共振周波数に対する偏差の3σが約540ppmになる。したがって、従来の製造方法により製造した弾性表面波素子は、規格外品が多く発生する。そこで、従来の製造方法により製造した弾性表面波素子は、製品として出荷する際に規格外品を除外することにより、共振周波数の目標周波数からの偏差の3σを150ppmにすることが可能である。しかし、従来の製造方法により製造した弾性表面波素子を選別して出荷した場合、製品として出荷された弾性表面波素子の周波数偏差の分布は、明らかに図14と異なる分布を示すはずである。したがって、複数の弾性表面波素子の共振周波数、または共振周波数の目標共振周波数に対する偏差の分布を比較することにより、本発明に係る製造方法により製造したものであるか否かを判定することができる。このことは、前記の電極線幅寸法の分布についても同様である。
【0040】
ところで、従来のアライナによる接触方式、等倍露光によりIDTを形成した場合、図13に示したように電極線幅寸法のばらつきが大きくなり、共振周波数のばらつきも大きくなる。そこで、この共振周波数のばらつきをIDTの陽極酸化により周波数調整を行なうことが考えられる。IDTの陽極酸化により周波数調整を行なう場合、周波数調整前の共振周波数を目標共振周波数より高めに形成する。これは、前記したように、IDTを陽極酸化すると、共振周波数が低下するためである。そして、IDTの陽極酸化により周波数調整を行なう場合、共振周波数が目標共振周波数にわずかに高い弾性表面波素子に対しては陽極酸化膜を薄く形成し、共振周波数の低下量を小さくする。一方、共振周波数が目標共振周波数に対して高い方に大きくずれている場合、陽極酸化膜を厚く形成して周波数の低下量を大きくする。すなわち、IDTの陽極酸化によって周波数調整を行なった場合、陽極酸化膜の厚みのばらつきが周波数調整をする前の共振周波数のばらつき、電極線幅寸法のばらつきに依存する。したがって、陽極酸化膜の厚みのばらつきを求めることによって、縮小投影露光装置を用いてIDTを形成したか、アライナを用いた接触方式、等倍露光によりIDTを形成したかを判別することができる。
【0041】
なお、前記実施形態においては、2回の陽極酸化によって共振周波数を調整する場合について説明したが、陽極酸化は3回以上行なうようにしてもよい。また、前記実施形態においては、圧電材料が水晶である場合について説明したが、圧電材料はニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどであってもよい。さらに、前記実施形態においては、陽極酸化に使用する電解液がリン酸アンモニウムである場合について説明したが、陽極酸化が可能であれば他の電解液であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態に係る弾性表面波素子の製造方法のフローチャートである。
【図2】圧電基板に形成された弾性表面波素子の配置状態の例を示す平面図である。
【図3】実施の形態に係る測定対象弾性表面波素子の詳細説明図である。
【図4】陽極酸化電圧と陽極酸化膜厚さとの関係を示す図である。
【図5】櫛形電極の一部断面図である。
【図6】陽極酸化による電極幅と周波数変化量との関係を示す図である。
【図7】陽極酸化による電極膜厚と周波数変化量との関係を示す図である。
【図8】実施の形態に係る陽極酸化装置の説明図である。
【図9】実施の形態に係る陽極酸化方法の説明図である。
【図10】従来の共振周波数調整方法と実施形態の共振周波数調整方法との比較図である。
【図11】従来例と実施形態とにおける共振周波数調整後の圧電基板間の共振周波数のばらつきを示す図である。
【図12】本発明の製造方法により製造した弾性表面波素子の電極指の幅寸法の度数分布図である。
【図13】従来の製造方法により製造した弾性表面波素子の電極指の幅寸法の度数分布図である。
【図14】本発明の製造方法により製造した弾性表面波素子の周波数調整後における周波数偏差の度数分布図である。
【図15】従来の製造方法により製造した弾性表面波素子の周波数調整後における周波数偏差の度数分布図である。
【符号の説明】
【0043】
100………圧電基板、104………弾性表面波素子、106………測定対象弾性表面波素子、108………IDT、110a、110b………反射器、112a、112b………櫛形電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の表面に導電膜を形成する成膜工程と、
前記導電膜の上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、
フォトマスクに設けたパターンを前記レジスト膜に縮小投影露光して現像し、前記パターンをレジスト膜に転写するレジスト膜パターニング工程と、
パターニングされた前記レジスト膜をマスクにして前記導電膜をエッチングし、弾性表面波素子の電極を形成する電極形成工程と、
前記圧電基板に形成された前記弾性表面波素子の共振周波数を測定する周波数測定工程と、
測定共振周波数と予め定めた目標共振周波数とから前記電極の陽極酸化量を演算し、前記陽極酸化量に基づいて陽極酸化電圧を求める電圧演算工程と、
前記電圧演算工程において求めた前記陽極酸化電圧によって陽極酸化し、前記電極の酸化反応の終点を検出して陽極酸化を終了する陽極酸化工程と、
を有することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子の製造方法において、
前記陽極酸化工程は、前記終点を検出してから予め定めた時間経過したのちに終了することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の弾性表面波素子の製造方法において、
前記周波数測定工程と、前記電圧演算工程と、前記陽極酸化工程とを複数繰り返すことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の弾性表面波素子の製造方法において、
前記圧電基板についての前記測定共振周波数は、前記圧電基板の予め定めた複数の位置に形成した前記弾性表面波素子のそれぞれについて測定した前記共振周波数の平均値であることを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の弾性表面波素子の製造方法を用いて製造したことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項1】
圧電基板の表面に導電膜を形成する成膜工程と、
前記導電膜の上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、
フォトマスクに設けたパターンを前記レジスト膜に縮小投影露光して現像し、前記パターンをレジスト膜に転写するレジスト膜パターニング工程と、
パターニングされた前記レジスト膜をマスクにして前記導電膜をエッチングし、弾性表面波素子の電極を形成する電極形成工程と、
前記圧電基板に形成された前記弾性表面波素子の共振周波数を測定する周波数測定工程と、
測定共振周波数と予め定めた目標共振周波数とから前記電極の陽極酸化量を演算し、前記陽極酸化量に基づいて陽極酸化電圧を求める電圧演算工程と、
前記電圧演算工程において求めた前記陽極酸化電圧によって陽極酸化し、前記電極の酸化反応の終点を検出して陽極酸化を終了する陽極酸化工程と、
を有することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子の製造方法において、
前記陽極酸化工程は、前記終点を検出してから予め定めた時間経過したのちに終了することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の弾性表面波素子の製造方法において、
前記周波数測定工程と、前記電圧演算工程と、前記陽極酸化工程とを複数繰り返すことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の弾性表面波素子の製造方法において、
前記圧電基板についての前記測定共振周波数は、前記圧電基板の予め定めた複数の位置に形成した前記弾性表面波素子のそれぞれについて測定した前記共振周波数の平均値であることを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の弾性表面波素子の製造方法を用いて製造したことを特徴とする弾性表面波素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−33791(P2006−33791A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15569(P2005−15569)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]