説明

弾性表面波素子の製造方法

【課題】工程数増加や信頼性低下を伴わずに焦電破壊が確実に防止できる弾性表面波素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】弾性表面波素子Dの製造過程で、電極パターン形成領域に対応するマスク層11をマスクとして、イオンミリング法で主電極層9を除去することにより、IDT電極2,3や端子電極4,5等に対応する所定形状の電極パターンを形成するが、その際、下地層8は圧電基板1の上面全面に残存させておく。そして、主電極層9のうち端子電極形成領域を覆うマスク層11を除去して、そこに端子電極4,5を成膜し、さらに端子電極4,5にワイヤ13を接続するという一連の工程が終了した後、反応性イオンエッチング法によって、主電極層9に覆われずに露出している下地層8をマスク層11と共に除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板の表面にIDT(インターディジタルトランスデューサ)電極等が設けられた高周波用の弾性表面波素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波素子(SAWデバイス)は、機械的振動エネルギーが固体表面付近にのみ集中して伝播する弾性表面波を利用した素子であり、圧電基板(圧電性材料からなる基板)の表面にIDT電極や端子電極等が形成された構成になっている。かかる弾性表面波素子はパッケージに組み込まれて封止され、弾性表面波素子の端子電極とパッケージ側の電極はワイヤボンディングによって電気的に接続されている。この種の弾性表面波素子は、携帯電話などの移動体通信端末に実装されるフィルタや共振器、デュプレクサ等を小型化するうえで非常に好適な素子として広く採用されている。
【0003】
しかしながら、弾性表面波素子の圧電基板として一般に使用されているLiTaO(タンタル酸リチウム)やLiNbO(ニオブ酸リチウム)は焦電性を有しており、製造時の加熱工程で急激な熱変化が加わると、焦電効果により電荷が発生して静電破壊(いわゆる焦電破壊)が起こりやすいという問題があった。そこで、焦電破壊を防止して製造歩留まりを高めるために、弾性表面波素子に補助パターンを付設した状態で製造するという技術(例えば、特許文献1参照)や、弾性表面波素子の電極パターンに導電性被膜を塗着させた状態で製造するという技術(例えば、特許文献2参照)が従来より提案されている。
【0004】
すなわち、特許文献1に開示された従来技術では、個片化される前の大判基板の状態で、圧電基板上に所定の電極パターンだけでなく、電極パターンの入力側と出力側の各端子電極に導通せしめた補助パターンを形成しておき、この補助パターンによって入力側の端子電極と出力側の端子電極との間の電位差をなくしているため、補助パターンの切断工程の前に焦電破壊が起こる虞はない。また、大判基板を個片化するダイシング工程で補助パターンを切断することができるので、煩雑な工程が追加されることもない。
【0005】
一方、特許文献2に開示された従来技術では、圧電基板上の電極パターンにカーボン樹脂等の導電性被膜を塗布しておき、個片化された圧電基板をパッケージ内に載置固定して、電極パターンの端子電極をワイヤボンディングによってパッケージ側の電極と接続した後、プラズマ等を用いて導電性被膜を取り除くので、ワイヤボンディング工程時にも導電性被膜によって焦電破壊が防止できるようになっている。
【特許文献1】特開平5−299960号公報(第2−3頁、図2)
【特許文献2】特開平9−214271号公報(第2−3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、製造段階における弾性表面波素子の焦電破壊を防止するために補助パターンを付設しておくという従来技術は、ダイシング工程で補助パターンが切断されてしまうと焦電破壊防止機能が失われてしまうため、個片化された弾性表面波素子の端子電極をパッケージ側の電極とワイヤボンディングする際の熱衝撃によって焦電破壊が起こる危険性があった。また、この従来技術では、個片化された弾性表面波素子に残存する補助パターンが電気的特性に悪影響を及ぼして信頼性を損なう虞があった。
【0007】
一方、ワイヤボンディング工程が終了するまで弾性表面波素子の電極パターンに導電性被膜を塗着させておくという従来技術は、焦電破壊を防止する効果は高いものの、インクジェット等で導電性被膜を塗布する工程とプラズマ等で導電性被膜を取り除く工程とが必要となるため、工程数が増加して製造コストが上昇してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、工程数増加や信頼性低下を伴わずに焦電破壊が確実に防止できる弾性表面波素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明による弾性表面波素子の製造方法では、圧電基板の上面全面に、導電性材料からなる下地層と、主電極層と、化学的性質が前記下地層と同等な材料からなるマスク層とを順次成膜する工程(a)と、前記工程(a)後に、電極パターン形成領域を除く領域で前記マスク層を除去する工程(b)と、前記工程(b)後に、前記下地層を前記圧電基板の上面全面に残存させつつ、前記電極パターン形成領域を除く領域で前記主電極層を除去する工程(c)と、前記工程(c)後に、前記主電極層のうち端子電極形成領域を覆う前記マスク層を除去する工程(d)と、前記工程(d)後に、前記端子電極形成領域に端子電極を成膜する工程(e)と、前記工程(e)後に、前記端子電極にワイヤを接続する工程(f)と、前記工程(f)後に、前記主電極層に覆われずに露出している前記下地層と、前記主電極層を覆っている前記マスク層を、共に除去する工程(g)と、を含むこととした。
【0010】
このように工程(c)で主電極層を所定のパターン形状に形成した後、下地層を圧電基板の上面全面に残存させたまま、端子電極をワイヤボンディングする工程(f)まで行い、しかる後、主電極層に覆われずに露出している下地層をマスク層と共に除去すれば、主電極層をパターニングしてからワイヤボンディングが終了するまで間、主電極層は下地層を介してすべて同電位に保たれることになる。それゆえ、工程数を増やすことなく焦電破壊を確実に防止することができる。また、このように主電極層の下地層を利用した焦電破壊防止策は、補助パターンを別途付設するわけではないので、電気的特性に悪影響を及ぼす虞もない。
【0011】
上記の製造方法において、下地層およびマスク層の材料がTi、TiNまたはTaであり、かつ、主電極層の材料がCu、Al、Cuの化合物またはAlの化合物であって、工程(c)はイオンミリング法によって行うことが好ましい。これにより、電極パターン形成領域を除く領域で主電極層を除去するイオンミリング時に、硬いマスク層で覆われた電極パターン形成領域の主電極層を確実に保護することができ、かつ、主電極層が除去されると硬い下地層が露出するため、圧電基板も確実に保護することができる。
【0012】
また、工程(c)をイオンミリング法によって行う場合において、工程(g)は反応性イオンエッチング(RIE)法によって行うことが好ましい。これにより、下地層やマスク層が硬い材料であっても、RIEの化学的な反応によって、圧電基板や主電極層に影響を与えずに下地層およびマスク層を選択的にエッチングすることかできる。
【0013】
また、上記の製造方法において、下地層とマスク層は同一材料からなることが好ましく、これにより、工程(c)や工程(g)が一層制御しやすくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による弾性表面波素子の製造方法は、下地層を圧電基板の上面全面に残存させたまま、主電極層のパターニング工程から端子電極のワイヤボンディング工程まで行い、しかる後、主電極層に覆われずに露出している下地層をマスク層と共に除去するというものなので、主電極層をパターニングしてからワイヤボンディングが終了するまで間、主電極層は下地層を介してすべて同電位に保たれることになる。それゆえ、工程数を増やすことなく焦電破壊を確実に防止することができる。また、本発明は主電極層の下地層を利用した焦電破壊防止策であり、補助パターンを別途付設するわけではないので、電気的特性に悪影響を及ぼす虞もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明の実施の形態を図面を参照して説明すると、図1〜図5は本発明の実施形態例に係る弾性表面波素子の製造方法を示す工程図、図6は図4(b)に対応する平面図である。なお、図4(a)は図3(b)の一部を拡大したものである。
【0016】
本実施形態例に係る弾性表面波素子Dは、図6に示すように、圧電基板1の上面にIDT(インターディジタルトランスデューサ)電極2,3や端子電極4,5や反射器6,7等の電極パターンを形成して概略構成されている。この弾性表面波素子Dは、製造時に大判状態の圧電基板1を縦横の分割線L1、L2に沿って分割するダイシングを行うことによって個片化される。そして、個片化された弾性表面波素子Dを図示せぬパッケージ内に載置固定して、端子電極4,5をワイヤボンディングによってパッケージ側の電極と接続した後、パッケージ内の弾性表面波素子Dを封止することによって、SAWデバイスが得られるようになっている。
【0017】
この弾性表面波素子Dは共振器としての機能を有している。圧電基板1はLiTaOやLiNbO等の圧電性材料からなる基板である。圧電基板1の上面には櫛歯状電極部2a,3aを有する一対のIDT電極2,3が形成されており、櫛歯状電極部2aと櫛歯状電極部3aが所定の間隔を存して互い違いに並ぶ配置で両IDT電極2,3は対向している。IDT電極2は端子電極4と接続されており、IDT電極3は端子電極5と接続されている。これらの端子電極4,5は弾性表面波素子Dを外部回路と接続するためのものである。また、図6において、IDT電極2,3の左右両側には短冊状電極(ストリップ)を複数並設してなる反射器6,7が形成されている。
【0018】
後述するように、IDT電極2,3は下地層8と主電極層9とキャッピング層10とを積層した3層構造になっている。端子電極4,5は、IDT電極2,3と同じ3層構造体の最上層(キャッピング層10)上に形成されている。反射器6,7の短冊状電極はIDT電極2,3と同じ3層構造体である。
【0019】
次に、このように構成される弾性表面波素子Dの製造方法を図1〜図5に基づいて説明する。まず、図1(a)に示すように、個片化する前の大判状態の圧電基板1の上面全面に、スパッタ法や蒸着法を用いて、下地層8と主電極層9、キャッピング層10、マスク層11を、真空中で連続的に成膜する。下地層8の膜厚は5〜20nm、主電極層9の膜厚は40〜250nm、キャッピング層10の膜厚は5〜10nm、マスク層11の膜厚は20〜150nmである。
【0020】
下地層8は、イオンミリングによるエッチング速度が主電極層9に比して遅い材料を用いて形成する。具体的には、下地層8はTi、TiNまたはTaを用いて形成することが好ましく、Ti層とTa層の積層体にしてもよい。主電極層9は、Cu、Al、Cuの化合物(CuAg等)またはAlの化合物(AlScCu等)を用いて形成することが好ましい。キャッピング層10は、反応性イオンエッチング(RIE)によるエッチング速度がマスク層11に比して遅い材料を用いて形成する。具体的には、キャッピング層10はCr、Al、NiまたはPtを用いて形成することが好ましい。マスク層11は、下地層8と同一材料を用いて形成することが好ましいが、化学的性質が下地層8と同等な別の材料を用いて形成してもよい。
【0021】
次なる工程として、図1(b)に示すようにマスク層11上にレジスト層12を形成した後、図2(a)に示すようにレジスト層12を露光現像して、電極パターン形成領域に対応するパターン形状のレジスト層12だけを残す。つまり、このパターン形状は、IDT電極2,3や端子電極4,5や反射器6,7等の平面形状と同形である。
【0022】
この後、図2(b)に示すように、電極パターン形成領域を除く領域でマスク層11を除去する。この工程は、CF4やSF6等のフッ素ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)法によって、レジスト層12に覆われていないマスク層11を除去するというものであり、RIE時における基板温度は約60℃である。なお、Cr等からなるキャッピング層10はRIE時のエッチング速度がマスク層11に比して遅いため、RIEをキャッピング層10の位置で終了させることは容易である。
【0023】
そして、図3(a)に示すようにマスク層11上のレジスト層12を剥離した後、図3(b)や図4(a)に示すように、マスク層11をマスクとするイオンミリング法によって主電極層9を除去する。こうして電極パターン形成領域を除く領域で主電極層9を除去することにより、IDT電極2,3や端子電極4,5や反射器6,7等に対応する電極パターン形成領域だけに主電極層9が残存することになる。また、この工程でマスク層11と下地層8もエッチングされて膜厚が薄くなるが、両層8,11はイオンミリングによるエッチング速度が主電極層9に比して遅い材料(硬い材料)からなるため、マスク層11の位置や下地層8の位置でイオンミリングを終了させることは容易であり、よって主電極層9や圧電基板1を確実に保護することができる。なお、イオンミリング時における基板温度は約100℃であり、ミリングガスとしてはAr、ArとN2の混合ガス、ArとO2の混合ガス等を用いることが好ましい。
【0024】
次に、フォトリソグラフィ加工等によって主電極層9のうち端子電極形成領域を覆うマスク層11を除去した後、図4(b)に示すように、端子電極形成領域のキャッピング層10上に、リフトオフ法によって端子電極4や端子電極5を成膜する。端子電極4,5は、Alの単層またはAl層とCu層の積層体として形成することが好ましい。ここまでの工程はすべて、圧電基板1が個片化される前の大判基板のまま行われ、端子電極4,5の成膜が終了した時点で図6に示す状態となる。
【0025】
次なる工程として、大判状態の圧電基板1を分割線L1、L2に沿って分割して個片化するというダイシングを行う。そして、個片化された弾性表面波素子Dをパッケージ内に載置固定した後、図5(a)に示すように、端子電極4,5にワイヤ(ボンディングワイヤ)13を接続することによって、端子電極4,5をパッケージ側の電極と電気的に接続させる。
【0026】
しかる後、図5(b)に示すように、主電極層9に覆われずに露出している下地層8と主電極層9を覆っているマスク層11とを、CF4を用いた反応性イオンエッチング(RIE)法によって除去する。この工程は、RIEの化学的な反応によって、圧電基板1や主電極層9に影響を与えることなく下地層8およびマスク層11を選択的にエッチングするというものであり、前述したレジスト層12に覆われていないマスク層11を除去する工程(図2参照)と同様の条件で行うことができる。こうして不要な下地層8とマスク層11をRIE法で除去した後、パッケージ内の弾性表面波素子Dを封止することによってSAWデバイスが完成する。
【0027】
このように本実施形態例にあっては、主電極層9を所定のパターン形状に形成した後、下地層8を圧電基板1の上面全面に残存させたまま、端子電極4,5のワイヤボンディングまで行い、しかる後、主電極層9に覆われずに露出している下地層8をマスク層11と共に除去するので、主電極層9をパターニングしてからワイヤボンディングが終了するまで間、主電極層9は下地層8を介してすべて同電位に保たれることになる。それゆえ、工程数を増やすことなく焦電破壊を確実に防止することができる。また、このように主電極層9の下地層8を利用した焦電破壊防止策は、補助パターンを別途付設するわけではないので、電気的特性に悪影響を及ぼす虞もない。
【0028】
なお、本実施形態例では、電極パターン形成領域を除く領域において主電極層9を除去する工程でイオンミリング法を採用しているが、Cl系ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)法によって不要な主電極層9を除去することも可能である。ただし、Cl系ガスを用いたRIE法では基板温度を200℃以上にする必要があり、圧電基板1の温度を急激に200℃以上に上昇させることは好ましくないため、本実施形態例のようにイオンミリング法で不要な主電極層9を除去するほうが好ましい。
【0029】
また、本実施形態例では、共振器として使用される弾性表面波素子Dについて説明しているが、フィルタやデュプレクサ等として使用される弾性表面波素子にも本発明を適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態例に係る弾性表面波素子の製造方法を示す工程図である。
【図2】該弾性表面波素子の製造方法を示す工程図である。
【図3】該弾性表面波素子の製造方法を示す工程図である。
【図4】該弾性表面波素子の製造方法を示す工程図である。
【図5】該弾性表面波素子の製造方法を示す工程図である。
【図6】図4(b)に対応する平面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 圧電基板
2,3 IDT電極
4,5 端子電極
6,7 反射器
8 下地層
9 主電極層
10 キャッピング層
11 マスク層
12 レジスト層
13 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の上面全面に、導電性材料からなる下地層と、主電極層と、化学的性質が前記下地層と同等な材料からなるマスク層とを順次成膜する工程(a)と、
前記工程(a)後に、電極パターン形成領域を除く領域で前記マスク層を除去する工程(b)と、
前記工程(b)後に、前記下地層を前記圧電基板の上面全面に残存させつつ、前記電極パターン形成領域を除く領域で前記主電極層を除去する工程(c)と、
前記工程(c)後に、前記主電極層のうち端子電極形成領域を覆う前記マスク層を除去する工程(d)と、
前記工程(d)後に、前記端子電極形成領域に端子電極を成膜する工程(e)と、
前記工程(e)後に、前記端子電極にワイヤを接続する工程(f)と、
前記工程(f)後に、前記主電極層に覆われずに露出している前記下地層と、前記主電極層を覆っている前記マスク層を、共に除去する工程(g)と、
を含むことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記下地層および前記マスク層の材料がTi、TiNまたはTaであり、かつ、前記主電極層の材料がCu、Al、Cuの化合物またはAlの化合物であって、前記工程(c)はイオンミリング法によって行うことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記工程(g)は反応性イオンエッチング法によって行うことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項の記載において、前記下地層と前記マスク層が同一材料からなることを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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