説明

形状凍結性に優れたプレス成形方法

【課題】プレス成形品の縦壁部の壁そりを防止するプレス成形方法を提供する。
【解決手段】天井部11、縦壁部12、及び両側あるいは片側にフランジ部13を有するハット型断面形状の金属製部材製品7をプレス成形する方法であって、 製品のフランジ長さをL[mm]、ポンチのフランジ長さをL1[mm]とした時に、0≦L1/L<1.0となるポンチ3と、ダイ4及びパッド5からなる金型9を用いてプレス成形する。更にその後、ポンチのフランジ長さをL2[mm]とした時に1.0≦L2/Lとなるフランジ部を備えたポンチ、及びダイからなる金型を用いてリストライクを行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属板のプレス成形方法に関するものであって、特に高強度鋼板やアルミニウム合金板などの場合に生ずるスプリングバックを防止して良好な形状凍結性を確保するためのプレス成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品に高強度鋼板やアルミニウム合金板が多用されつつあるが、それらを自動車部品に成形する際に発生する形状凍結不良が問題になっている。すなわち、ハット型断面形状の金属製部材製品を曲げ加工用金型を用いて成形する場合には、スプリングバックと呼ばれる形状凍結不良が発生し、寸法精度が得られない問題である。この形状凍結不良は最終製品の外観品質を著しく損なうばかりでなく、成形後に行われる組立作業において溶接不良の原因となるため、特にメンバーやフレームなどの構造部材では形状凍結不良の防止が重要視されている。
【0003】
曲げ加工で頻繁に観察される形状不良として知られているスプリングバックは、曲げ加工時に金属製部材製品に生じた残留応力が除荷時に弾性回復変形するために生ずる現象で、成形下死点での残留応力が板厚方向に不均一に分布することが原因である。一般に、プレス加工により曲げ成形した際に、型から開放すると金属製部材製品のスプリングバックにより、製品縦壁部にそりが発生する。
【0004】
この問題を解決するため、特許文献1には、ポンチ、ダイ、及びしわ押えによるプレス成形のスプリングバック解決方法が開示されている。これは、成形下死点までプレス成形した後に、ポンチの上昇とともにポンチとダイ間で製品縦壁部を押し当てて残留応力を低減させるものである。しかし、高強度部品のような曲げ成形を主体とするプレス成形の場合には、しわ押えを用いないことが多く、特許文献1に開示された発明では縦壁部の壁そりを防止することはできない。
【0005】
また、特許文献2には、ポンチ、ダイ、パッド、曲げ塑性ひずみ付与機構を有するプレス成形のスプリングバック解決方法が開示されている。この成形方法によれば、曲げ塑性ひずみ付与機構により、縦壁部のひずみ量をコントロールすることが可能であるが、プレス金型が複雑になり設備コストが課題となる。また、曲げ塑性ひずみ付与機構を用いることで曲げひずみ量が増加するため、スプリングバックの起点となる残留応力が高くなり、スプリングバックが大きくなることが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−154859号公報
【特許文献2】特開2004−154786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、曲げ成形を主体としたプレス成形において、製品縦壁部の壁そりを防止するプレス成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
係る課題を解決するため、本発明の要旨とするところは下記の通りである。
(1) 天井部、縦壁部、及び両側あるいは片側にフランジ部を有するハット型断面形状の金属製部材製品をプレス成形する方法であって、製品のフランジ長さをL[mm]、ポンチのフランジ長さをL1[mm]とした時に、0≦L1/L<1.0となるポンチと、ダイ及びパッドからなる金型を用いてプレス成形することを特徴とする形状凍結性に優れたプレス成形方法。
(2) 天井部、縦壁部、及び両側あるいは片側にフランジ部を有するハット型断面形状の金属製部材製品を2工程でプレス成形する方法であって、1工程目に、製品のフランジ長さをL[mm]、ポンチのフランジ長さをL1[mm]とした時に、0≦L1/L<1.0となるポンチと、ダイ及びパッドからなる金型を用いて中間品をプレス成形し、その後、2工程目に、製品のフランジ長さをL[mm]、ポンチのフランジ長さをL2[mm]とした時に、1.0≦L2/Lとなるフランジ部を備えたポンチ、及びダイからなる金型を用いてリストライクを行うことを特徴とする形状凍結性に優れたプレス成形方法。
(3) 前記金属製部材製品は、天井部の幅が長手方向に異なることを特徴とする(1)又は(2)に記載の形状凍結性に優れたプレス成形方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、壁そりの発生を防止した寸法精度に優れる良好なハット型成形部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】壁そりを説明する模式図を示す。
【図2】従来の曲げ成形の成形過程(a)成形前、(b)成形中、(c)成形下死点の模式図を示す。
【図3】本発明を説明する成形過程(a)成形前、(b)成形中、(c)成形下死点の模式図を示す。
【図4】本発明を説明する製品及び金型の断面形状を示す。
【図5】本発明にかかる金属製部材製品の形状の例であり、(a)全体図、(b)側面図、(c)平面図を示す。
【図6】本発明にかかる金属製部材製品の断面形状の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
本発明者らは天井部、縦壁部、及び両側あるいは片側にフランジ部を有するハット型断面形状を有する金属製部材製品の壁そりを防止するプレス成形方法について検討し、それらの課題を、以下に述べる方法により解決できることを知見した。
【0013】
一般に、曲げ成形を主体としたプレスの金型を設計する場合には、製品形状をもとにポンチとダイの形状が作られる。製品形状がシェルモデルの場合には、製品のシェルモデルに板厚を考慮した新たな面が作成される。このときの製品面がダイ形状となり、板厚を考慮した面がポンチ形状となる。本発明者らは、このようにして作られたポンチのフランジ長さを製品のフランジ長さより小さく、あるいはゼロにすることで、金属製部材製品のスプリングバック(壁そり)を大幅に低減できることを知見した。また、1工程目のポンチのフランジ長さを製品のフランジ長さより小さく、2工程目のポンチのフランジ長さを製品のフランジ長さより大きく設計することで、スプリングバックをさらに低減できることを知見した。
【0014】
前記(1)の発明は、天井部、縦壁部、及び両側あるいは片側にフランジ部を有するハット型断面形状の金属製部材製品をプレス成形する方法であって、製品のフランジ長さをL[mm]、ポンチのフランジ長さをL1[mm]とした時に、0≦L1/L<1.0となるポンチと、ダイ及びパッドからなる金型を用いてプレス成形することを特徴とする。
【0015】
曲げ成形を主体とするプレス成形において、図1に示すように、天井部11、縦壁部12、フランジ部13からなる製品1を成形する際、破線で示す理想形状2と比較して、製品1の縦壁部12に壁そりが生じやすい。この発生メカニズムは、従来のポンチ3、ダイ4、パッド5からなる金型9による成形方法を示す図2のように、ダイ4の肩部14で一旦曲げられた金属板6が、縦壁部12で曲げ戻し変形をうけ、板厚方向に残留応力が発生することにある。これに対し、本発明のプレス成形では、図3のようにダイ4の肩部14での曲げ戻し変形量を低減できるため、スプリングバックを大幅に低減することができる。
【0016】
壁そりの原因となる縦壁部12の残留応力を緩和するためには、ポンチ3のフランジ長さを最適に設計することが重要である。図4は、本発明のポンチ3と、ポンチ3、ダイ4、パッド5からなる金型9によりプレスされた製品7を説明する断面図である。製品7のフランジ長さをL[mm]、ポンチ3のフランジ長さをL1[mm]とすると、L1/L=0(L1=0)の場合にはポンチ3のフランジ長さL1がゼロになるため、プレス変形時の曲げ戻し変形量を最小にすることができる。その結果、スプリングバックを大幅に低減することができる。一方、L1/L≧1.0の場合には、ダイ4の肩部14による曲げ戻し変形量が大きくなるため、ポンチ3のフランジ長さL1は、0≦L1/L<1.0の条件とすることが好ましい。なお、ポンチのフランジ長さL1は、図4に示すように、プレスされた製品7のフランジ部13と平行な部分の長さであり、ポンチ3のフランジ基端側の曲面部分15は含まない。曲面部分15は、製品7の縦壁部12からフランジ部13への折り返しを形成するために形成され、断面の半径は、図4に示すように、ダイ4の肩半径Drに製品7の板厚tを加えたDr+tである。製品のフランジ長さLは、縦壁部12から突出した長さである。
【0017】
前記(2)の発明は、天井部、縦壁部、及び両側あるいは片側にフランジ部を有するハット型断面形状の金属製部材製品を2工程でプレス成形する方法であって、1工程目に、製品のフランジ長さをL[mm]、ポンチのフランジ長さをL1[mm]とした時に、0≦L1/L<1.0となるポンチと、ダイ及びパッドからなる金型を用いて中間品をプレス成形し、その後、2工程目に、製品のフランジ長さをL[mm]、ポンチのフランジ長さをL2[mm]とした時に、1.0≦L2/Lとなるフランジ部を備えたポンチ、及びダイからなる金型を用いてリストライクを行うことを特徴とする。
【0018】
1工程によるプレス成形の場合は、上記の(1)の発明によりスプリングバック低減効果が得られるが、ポンチ肩部やダイ肩部の開きによる形状凍結不良を矯正する目的から、2工程目にリストライクによるプレス成形を行うことが、より望ましい。また、製品7のフランジ面に部品取り付け部のような部品形状が存在する場合には、上記の(1)の発明の1工程のプレス成形では製品フランジ面に部品形状を転写できない場合があるため、2工程目に、フランジ部を備えたポンチを用いて、リストライクによるプレス成形を行うことが望ましい。
【0019】
前記(3)の発明は、前記金属製部材製品は、天井部の幅が長手方向に異なることを特徴とする。本発明の効果を得るためには、製品の一方又は両方にフランジ部13があることが前提になるが、例えば図5に示すような、製品の断面形状の幅が一定ではなく、長手方向に異なる製品においても、同様に本発明の効果を得ることができる。
【実施例1】
【0020】
本発明例として、板厚1.2mmで、引張り強さ780MPa級の鋼板を用いたプレス成形を実施した。本発明の効果について検討するため、ポンチ3のフランジ長さL1が製品のフランジ長さLより小さい場合(L1/L=0.25,0.50の2種類)と、ゼロの場合(L1/L=0)のプレス試験を実施した。また、L1/L=0.25となるポンチで1工程目のプレスを行った後に、製品のフランジ長さとポンチのフランジ長さが同じポンチ(L2/L=1)とダイを用いたリストライク試験も実施した。比較例として、通常の金型(ポンチのフランジ長さL1が製品のフランジ長さLと等しい場合;L1/L=1.0)による1工程のプレス試験を実施した。
【0021】
製品形状は、図5に示すように、長さが1000mm、製品の幅が長手方向に異なるものとし、断面形状は図6のS1とし、ハット型断面の対向する縦壁部12が平行な形状とした。プレス後の評価のために、製品の幅狭側の端部から30mm離れた位置の断面の製品ダイ肩R止まりにおけるスプリングバック前後の変位量Wを測定した。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【実施例2】
【0023】
実施例2として、実施例1と同一の鋼種を用い、図5に示すように製品の幅が長手方向に異なる製品形状に成形するための1工程のプレス成形を実施した。本発明の効果について検討するため、壁そりに及ぼす部品の断面形状の影響について検討した。比較例として、通常の金型(ポンチのフランジ長さL1が製品のフランジ長さLと等しい場合;L1/L=1.0)によるプレス試験を実施した。
【0024】
製品の断面形状は図6のS2からS6とし、S2はS1の縦壁部12の高さが左右で異なるもの、S3はS1の対向する縦壁部12をハの字型にしたもの、S4はS1の天井部11の一部をハの字型にしたもの、S5はS3の縦壁部12の高さが左右で異なるもの、S6はS1のフランジ部13の片側のみを有するもの、とした。いずれも、図6の断面右側が図5の製品縦壁部12の湾曲側となるように製品を設計した。本発明例の、ポンチのフランジ長さL1と製品のフランジ長さLとの比(L1/L)は0.25とした。プレス後の評価については実施例1と同様とした。結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
以上の実施例1、実施例2の結果、本発明により、比較例よりも寸法精度が向上し、良好な寸法精度に優れるハット型成形部品を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、高強度鋼板やアルミニウム合金板などの金属板のプレス成形方法に適用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 (壁そりが発生した)製品
2 理想形状
3 ポンチ
4 ダイ
5 パッド
6 金属板
7 (プレスされた)製品
9 金型
11 天井部
12 縦壁部
13 フランジ部
L1 ポンチのフランジ長さ
L 製品のフランジ長さ
Dr ダイ肩半径
t 製品の板厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井部、縦壁部、及び両側あるいは片側にフランジ部を有するハット型断面形状の金属製部材製品をプレス成形する方法であって、
製品のフランジ長さをL[mm]、ポンチのフランジ長さをL1[mm]とした時に、0≦L1/L<1.0となるポンチと、ダイ及びパッドからなる金型を用いてプレス成形することを特徴とする形状凍結性に優れたプレス成形方法。
【請求項2】
天井部、縦壁部、及び両側あるいは片側にフランジ部を有するハット型断面形状の金属製部材製品を2工程でプレス成形する方法であって、
1工程目に、製品のフランジ長さをL[mm]、ポンチのフランジ長さをL1[mm]とした時に、0≦L1/L<1.0となるポンチと、ダイ及びパッドからなる金型を用いて中間品をプレス成形し、
その後、2工程目に、製品のフランジ長さをL[mm]、ポンチのフランジ長さをL2[mm]とした時に、1.0≦L2/Lとなるフランジ部を備えたポンチ、及びダイからなる金型を用いてリストライクを行うことを特徴とする形状凍結性に優れたプレス成形方法。
【請求項3】
前記金属製部材製品は、天井部の幅が長手方向に異なることを特徴とする請求項1又は2に記載の形状凍結性に優れたプレス成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−218388(P2011−218388A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88511(P2010−88511)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】