説明

形状計測方法およびそのシステム

【課題】
モデルベース計測法は、予め作成した種々の断面形状に対するSEM信号波形のライブラリとのマッチングにより断面形状を推定することが可能であるが、従来のモデルベース計測法では、断面形状のモデル化が適切か否かを判断するための機能、あるいは、推定結果の確からしさを確認する機能が供されていなかった。
【解決手段】
モデルベース計測にて実パターンの計測を行うのに先立ち、ライブラリ波形間のマッチングにより解空間(予測解空間)を求め提示する。また、モデルベース計測による実パターンの計測後に、実波形とライブラリ波形とのマッチングにより解空間(実解空間)を求め提示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体デバイスのパターンの三次元形状を計測する形状計測方法およびそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に述べられているように、半導体プロセスにおいてパターン寸法管理ツールとしても最も普及しているのは、走査電子顕微鏡(以下SEMと略す)を半導体計測専用に特化した測長SEMである。図22Aに測長SEM2200の原理を示す。電子銃2201から放出された電子ビーム2202は収束レンズ2203で細く絞られ、偏向器2204により対物レンズ2205を通って試料2206上を2次元的に走査される。電子ビーム照射によって試料2206から発生した二次電子2207を検出器2208で捕らえ、画像処理手段2209の内部で処理することで、電子線像が得られる。この得られた電子線像は、出力手段2210のディスプレイ2211上に表示される。二次電子2207はパターンエッジ部でより多く発生するため、電子線像は、図22Bにその出力波形信号2220を示したようにパターンエッジに相当する部分の信号レベルが高くなり、パターンエッジに相当する部分が明るい画像となる。測長SEMにおいては、図22Bに示したようなエッジ間距離lを求めることで、寸法計測が行われている。また、電子銃2201、収束レンズ2203、偏向器2204、対物レンズ2205等は、制御装置2212で制御される。
【0003】
寸法計測法として種々の方法が提案されているが、ここでは、(a)しきい値法、及び、(b)モデルベース計測法について述べる。
【0004】
しきい値法は、特許文献1に開示されている方法である。図22Bの2220に示すように、左右のパターンエッジに相当する信号量の大きいピーク部分を、それぞれ左ホワイトバンド(左WB)、右ホワイトバンド(右WB)と呼ぶと、しきい値法は、左右WBそれぞれで、Max値、Min値を求め、これらを所定の比率th(%)で内分するしきい値レベルを算出し、しきい値と信号波形の交差位置をエッジ位置と定義するものである。
【0005】
図4A及びBは、断面形状411、421とSEM信号波形412、422の関係を表したものである。図4A及びBのように、断面形状411、421によって信号波形412、422は変化するので、しきい値法の場合、しきい値レベルが等しくても、検出されるエッジ位置と計測対象パターンのエッジ位置の関係が等しいとは限らない。例えば、図4Aのテーパのあるエッジ413では、しきい値レベル50%で検出されるエッジ点はボトムエッジ点よりも0.5 nm内側になるが、図4Bの垂直エッジ423では、2.5 nm外側となっている。このように、しきい値法によって得られる寸法は、あくまで、エッジ間距離の代表値であり、計測された寸法がどの高さの寸法に相当するか知りようがない。
一方、特許文献2には、電子線シミュレーションを利用したSEM画像によるパターン計測方法に関して、シミュレーションと実画像のマッチング計測の精度に与える影響が大きな形状や寸法を適切に設定したシミュレーション画像を用いることにより高精度なパターン計測を行うことが記載されている。
【0006】
近年、パターンの微細化に伴いより厳密なパターン寸法管理が求められるようになっており、上記のような寸法代表値に代わり、対象パターンの断面形状、具体的には、所定の高さにおける寸法(ボトム寸法、ミドル寸法、トップ寸法など)を計測するニーズが高まっている。
【0007】
このニーズに応えるために考案されたのがモデルベース計測法である。図3は非特許文献2に開示されている方式の原理図である。図3のようにパターンの断面形状を複数のパラメータ(以下、形状パラメータと記す。図3では、側壁傾斜角とトップの丸みが形状パラメータ)で表現し、予め、種々の断面形状のSEM信号波形をシミュレーションにより求めて、ライブラリを作成しておく。寸法計測時には、実波形と最も一致するライブラリの波形の選択と、ライブラリ波形の位置ずらしを行うことにより、対象パターンのエッジ部形状とエッジ位置とを推定する。シミュレーションにおけるSEM信号波形の生成過程の模擬が適性で、かつ、形状パラメータが適正であれば、原理上、モデルベース計測法によって対象パターンの断面形状を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭55−72807号公報
【特許文献2】特開2009−198339号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】社団法人 日本半導体製造装置協会(SEAJ)平成17年度半導体製造装置技術ロードマップ報告書 第5編計測
【非特許文献2】J. S. Villarrubia, A. E. Vladar, J. R. Lowney, and M. T. Postek, “Scanning electron microscope analog of scatterometry,” Proc. of the SPIE, Vol. 4689, pp. 304-312 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、モデルベース計測法は、実波形と最も一致するライブラリ波形を選択するという手法であるため、ライブラリに含まれない断面形状には対応できない。例えば、実際の断面形状はトップ側とボトム側とで側壁傾斜角が異なるのに、ライブラリが単純な台形(トップ側とボトム側の側壁傾斜角が等しい)しか含まない場合には、当然、正しい断面形状は得られない。この場合、断面形状を上下二段の台形にするといった対処が必要である。より正しい断面形状を得るには、形状パラメータ数が多い方が有利である。
【0011】
しかし、形状パラメータを多くしすぎると、別の不都合が生じることがある。例えば、側壁傾斜角とトップの丸みの合計2個の形状パラメータを使用した場合、パターン寸法が小さい場合には、(a)トップの丸みが大きく、側壁傾斜角が小さい場合の信号波形と、(b)トップの丸みが小さく、側壁傾斜角が大きい場合の信号波形が概ね等しくなることがある。この場合、モデルベース計測法では、実波形と最も一致するライブラリ波形が選択されるため、僅かなノイズの影響で、(a)が解になったり(b)が解になったりするようになり、計測結果が安定しなくなる。この場合、安定性を重視するならば、「正しさ」を犠牲にして、トップの丸みと側壁傾斜角のどちらかを固定するといった対処が必要になる。
【0012】
このように、モデルベース計測法においては「正しさ」と「安定性」がトレードオフの関係にあり、モデルベース計測法を使いこなすためには、計測の目的に応じた適切な形状パラメータの設定が課題となる。
【0013】
しかしながら、従来のモデルベース計測法(非特許文献2)は、上記の課題、に言及しておらず、従って、課題の解決方法に関する指針も示されていない。
【0014】
本発明は、モデルベース計測法における適切な形状パラメータを設定するための支援機能を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した課題を解決するために、本発明では、電子線シミュレーションにより種々の断面形状に対応する計算波形群(ライブラリ)を作成し、試料上に形成されたパターンを走査電子顕微鏡(SEM)で撮像し、この撮像して得られた画像の実波形と作成したライブラリをマッチングして最も実波形と一致する計算波形を選択し、この選択した計算波形に基づいて試料上に形成されたパターンの断面形状を表現する複数の形状パラメータを決定し、この決定した複数の形状パラメータを用いてSEMで試料上に形成されたパターンを撮像して得られた画像からパターンの三次元形状を計測する方法において、複数の形状パラメータを決定することを、作成したライブラリを用いて形状パラメータ条件の設定を支援することにより行うこと、又は、三次元形状の計測の結果の確からしさを確認して決定することにより行うこと、又はそれらの両方を用いて行うようにした。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明では、形状計測システムを、試料上に形成されたパターンを撮像する走査電子顕微鏡(SEM)手段と、電子線シミュレーションにより種々の断面形状に対応する計算波形群(ライブラリ)を作成するライブラリ作成手段と、
SEM手段で撮像して得られた画像の実波形とライブラリ作成手段で作成したライブラリをマッチングして最も実波形と一致する計算波形を選択するモデルベース計算手段と、このモデルベース計算手段で選択した計算波形に基づいて試料上に形成されたパターンの断面形状を表現する複数の形状パラメータを決定する形状パラメータ決定手段と、この形状パラメータ決定手段で決定した複数の形状パラメータを用いてSEMで試料上に形成されたパターンを撮像して得られた画像からパターンの三次元形状を計測する三次元形状計測手段と、この三次元形状計測手段で計測した結果を出力する出力手段とを備えて構成し、形状パラメータ決定手段は、複数の形状パラメータを決定することを、作成したライブラリを用いて形状パラメータ条件の設定を支援することにより行うこと、又は、三次元形状の計測の結果の確からしさを確認して決定することにより行うこと、又はそれらの両方を用いて行うようにした。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、実パターンの計測に先立ち、最適な形状パラメータ条件を容易に設定することが可能となる。
【0018】
また、本発明によれば、条件変更の必要性が見逃されなくなり、さらに、どのように変更すれば良いかの指針が得られるようになる。
【0019】
更に、本発明によれば、種々の撮像条件における予想解空間が提示されることによって、実パターンの計測に先立ち、断面形状計測に有利な撮像条件を選択することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】形状パラメータ条件の設定支援機能を用いた三次元形状計測処理の全体の処理フローを示すフロー図である。
【図2】本発明の実施例に係る測長SEMの構成を示すブロック図である。
【図3】従来技術であるモデルベース計測の原理を説明する図である。
【図4】断面形状と信号波形の関係を説明する図である。
【図5】モデルベース計測のためのライブラリ作成のフロー図である。
【図6】(a)は、ライブラリ作成の前提となるパターン断面形状の模式図、(b)は断面形状を表現する形状パラメータを選択するための表、(c)は各形状パラメータのレンジとピッチを入力するための表である。
【図7】予想解空間算出の処理の流れを示すフロー図である。
【図8】(a)はノミナル形状を表すパターンの断面会場を示す図、(b)はノミナル値を入力するための表、(c)はノイズレベルを入力する表、(d)はライブラリから選択した信号波形、(e)はノイズ付加後の信号波形である。
【図9】ノイズなし信号波形とノイズが付加された信号波形とを重ねて表示したグラフである。
【図10】予想解空間を表すグラフである。
【図11】(a)はトップの丸みを固定して求めた予想解空間のグラフ、(b)は下側壁傾斜角を固定して求めた予想解空間のグラフ、(c)は上側壁傾斜角を固定して求めた予想解空間のグラフである。
【図12】計測結果の確からしさの確認機能を用いた三次元形状計測処理の全体の処理フローを示すフロー図である。
【図13】実解空間算出の処理の流れを示すフロー図である。
【図14】参照解空間算出の処理の流れを示すフロー図である。
【図15】(a)は実解空間を示すグラフ、(b)は参照解空間を示すグラフ、(c)は実波形とライブラリ波形とを重ねて表示し、更に断面形状を表示したグラフである。
【図16】解の確からしさを判定する処理の流れを示すフロー図である。
【図17】断面形状の計測に適した撮像条件を予測する処理の流れを示すフロー図である。
【図18】撮像条件入力のためのGUIである。
【図19A】(a)は加速電圧が0.8kVの場合の電子の内部拡散の様子をシミュレーションした結果を示す試料の断面図、(b)は3kVの場合の電子の内部拡散の様子をシミュレーションした結果を示す試料の断面図、(c)は5kVの場合の電子の内部拡散の様子をシミュレーションした結果を示す試料の断面図である。
【図19B】シミュレーションによって求めた各加速電圧における信号波形を示すグラフである。
【図20】(a)は加速電圧が0.8KVの場合の予想解空間を示すグラフ、(b)は加速電圧が3KVの場合の予想解空間を示すグラフである。
【図21】スキャタロメトリの処理の流れを示す図である。
【図22A】従来の測長SEMの構成を示すブロック図である。
【図22B】測長SEMの出力波形信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による形状計測方法及びそのシステムは、以下の(1)〜(3)の機能を提供するものである。
【0022】
(1)形状パラメータ条件の設定支援機能
本機能は、実パターンの計測に先立ち、モデルベース計測用のライブラリを用いて、設定した形状パラメータ条件における解空間(以下、予想解空間と記す)を提示する機能である。具体的には、所定の形状パラメータ値に対応する1個の波形をライブラリから取り出して、これと、ライブラリのメンバ波形(各メンバ波形はそれぞれ固有の形状パラメータ値とリンクしている)とのマッチングを行い、それぞれの組み合わせにおける波形の一致度を表す評価値を求め、形状パラメータ値と評価値の関係をプロットした結果を提示する。
【0023】
(2)計測結果の確からしさの確認機能
本機能は、実パターンの計測後に、実波形とモデルベース計測用のライブラリを用いて、設定した形状パラメータ条件における解空間(以下、実解空間と記す)を提示する機能である。また、解空間上の指定箇所について、実波形とライブラリ波形と計測結果である断面形状を重ね合わせて表示する機能である。具体的には、実波形と、ライブラリのメンバ波形(各波形は、それぞれ固有の形状パラメータ値とリンクしている)とのマッチングを行ってそれぞれの組み合わせにおける波形の一致度を表す評価値を求め、形状パラメータ値と評価値の関係をプロットした結果を提示する。
【0024】
(3)断面形状の計測に適した撮像条件を予想する機能
本機能は、予め、種々の撮像条件(種々の加速電圧、種々のエネルギーフィルタ条件など)におけるライブラリを作成しておき、ライブラリごとに、上記予想解空間を求めた結果を提示する。
【0025】
まず、本実施例に係る三次元形状を計測するためのシステムの構成を図2を用いて説明する。
【0026】
本実施例に係る三次元形状を計測するためのシステムは、SEM200とSEM200で電子ビーム202を試料206に照射して走査することにより試料206から発生した二次電子を検出したSEM200の検出器208からの出力信号を受けてSEM画像を作成する画像処理手段209、全体制御部212、モデルベース計算処理部220、入力手段224、表示画面226を備えた出力手段225で構成される。このうち、SEM200とSEM200の検出器208からの出力信号を受けてSEM画像を作成する画像処理手段209、全体制御手段212の構成は、図21Aを用いて背景技術の欄で説明したものと同じなので説明を省略する。
【0027】
モデルベース計算処理部220は、モデルベース計算手段221と、ライブラリ手段222、評価処理手段223を備えている。
【0028】
以下に、上記した各機能を実現するための実施例を図を用いて説明する。
【0029】
(1)形状パラメータ条件の設定支援機能
この機能は、形状パラメータ条件を決定するための処理に関するものである。形状パラメータ条件を決定するための処理の全体のフローを図1に示す。本処理フローでは、先ずライブラリ手段222でライブラリを作成し(S101)、この作成したライブラリを用いてモデルベース計算手段221で予測解空間を算出し(S102)、この算出した予測解空間を出力手段225の表示画面226に表示し(S103)、計測性能がOKかをチェックして(S104)、OKならば形状パラメータの条件を決定し(S105)、この決定した形状パラメータ条件を用いて評価処理手段223においてSEM200で試料206を撮像して得たSEM画像を用いて試料206に形成されたパターンの3次元形状を計測する(S106)。
【0030】
以下、ライブラリ作成(S101)、予想解空間算出(S102)、予想解空間表示(S103)、計測性能が問題ないかの判断(S104)の各ステップを詳細に説明する。
【0031】
はじめにライブラリ作成のステップ(S101)について説明する。前述のように、モデルベース計測法では、計測対象の断面形状を複数の形状パラメータによって表現し、その断面形状に対する信号波形をSEMシミュレーション(モンテカルロシミュレーションなど)にて計算し、波形ライブラリとする。
【0032】
ライブラリ作成のフローを図5に、関連する入力項目を図6に示す。はじめに断面形状の表現方法、すなわち、いかなる形状パラメータで断面形状を表現するかを決定する(S501、図6(b)の602)。この例では、図6(a)の601に示すように、断面形状をトップに丸みを有する2段の台形で表現している。断面形状の表現方法は、SEMを用いた断面観察結果、或いは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)などの計測結果に基づき、実際の断面形状から乖離しないような表現とすることが望ましい。続いて、各形状パラメータ(図6(c)の例では、トップの丸み(r)、上側壁傾斜角(θ1)、下側壁傾斜角(θ2))の範囲(レンジ)とピッチを入力する(S502、図6(c)の603)。形状パラメータの変動レンジは、計測対象の形状変化レンジをカバーしている必要がある。以上の入力情報に基づき、SEMシミュレーションにより各断面形状に対する信号波形が計算される(S503)。
【0033】
次に、予想解空間の算出(S102)について説明する。予想解空間算出のフローを図7に、関連する入力項目、表示項目を図8に示す。最初に形状パラメータのノミナル値を入力する(S701、図8(b)の802)。なお、図6(a)では断面形状をトップに丸みつきの2段の台形で表現したが、ここでは、説明を簡略化するため、トップの丸みつきの1段の台形とした(801)。次に、ライブラリから、形状パラメータが入力したノミナル値であるような信号波形を選択する(S702)。次に、その信号波形に付加するノイズレベルをパーセンテージで入力する(S703、図8(c)の803)。ノイズによって、波形がどのように変化するかを目視確認できるよう、ノイズ付加前の信号波形(図8(d)の804)と、ノイズ付加後の信号波形(図8(e)の805)が表示される。ノイズレベルは、SEM画像を参照するなどして、実信号波形と同程度に設定することが望ましい。
【0034】
次に、図9に示すようにノイズなしの信号波形901とノイズが付加された信号波形902とを重ね合わせ、それらの信号波形間の一致度を表す評価値がどの程度ばらつきうるかを見積もる(S704)。評価値としては、例えば(数1)に示すカイ二乗値を用いる。
【0035】
【数1】

【0036】
カイ二乗値は、両波形が一致するほど小さな値となる。なお、カイ二乗値以外の評価値としては、相関値、位相限定相関値なども適用可能である。
【0037】
S704では、具体的には、乱数にてノイズを発生させることを複数回行い(例えば30回程度)行い、カイ二乗値のばらつきを求める。次に、ノミナル形状の信号波形(S702で選択した信号波形)と、ライブラリメンバ波形とのマッチングを行い(S705)、それぞれにおけるカイ二乗値を算出する。先にS704で求めたカイ二乗値のばらつきに基づき、各形状パラメータの計測値の変動範囲を算出し(S706)、カイ二乗値の分布と合わせて表示する(S707)。
【0038】
予想解空間の例を図10に示す。ここでは、横軸に側壁傾斜角を、縦軸にトップの丸みをとって、カイ二乗値を等高線で示し、S704で求めたカイ二乗値のばらつきが、仮に5とすると、カイ二乗値が5以下の細長い領域内が、モデルベース計測による断面形状計測結果がばらつきうる範囲であり、この領域が狭いほど、安定性の高い計測といえる。同図において、rmin〜rmaxがトップの丸みのばらつきうる範囲、θmin〜θmaxが側壁傾斜角のばらつきうる範囲である。
【0039】
なお、変動させる形状パラメータが2個の場合は、図10のように、一方をx軸に、他方をy軸にとってカイ二乗値を等高線で示すことができるが、図6のように、変動させる形状パラメータが3個(トップの丸み、上側側壁傾斜角、下側側壁傾斜角)の場合は、図11のように、形状パラメータのうちの1個を固定した、3種類の予想解空間が提示される。図11(a)の111は、トップの丸みを固定したもの、図11(b)の112は下側側壁傾斜角を固定したもの、図11(c)の113は上側側壁傾斜角を固定したものである。なお、図11(a)〜(c)では、図10におけるカイ二乗値が5以下の領域に相当する領域のみを示した。
【0040】
図10、図11に示したような予想解空間が提示されることによって、形状パラメータ条件が適切か否かを判断することが可能となる。例えば、図11の(b)において、予想解空間112から、トップの丸みと上側壁傾斜角の両方の変動範囲が広く、これら両方を変動パラメータとすると、解が安定しないことが分かる。一方、図11(a)の予想解空間111は局在しており、上側壁傾斜角と下側壁傾斜角は互いに独立であり、これら両方を変動パラメータとしても、解が不安定になることはないことが分かる。図11(c)の予想解空間113についても同様である。このケースにおいては、安定した解を得るためには、トップの丸みを固定するのが有効という指針を得ることができる。
逆に、形状パラメータ全てを変動させても解が不安定ならないという結果が得られたならば、変動させる形状パラメータを増やせる可能性ありという指針が得られる。この場合は、変動させる形状パラメータを増やして、再度、予想解空間を求めて確認を行えばよい。
【0041】
本実施の形態によれば、実パターンの計測に先立ち、最適な形状パラメータ条件(変動させる形状パラメータ数が、多すぎず少なすぎない条件)を設定することが可能となる。そして、これらにより、より精度の高いモデルベース計測が実現されるようになる。
【0042】
以上に説明したように、形状パラメータ条件の設定支援機能により予想解空間が提示されることによって、一致度の高い領域の分布状態が一目で分かるので、設定した形状パラメータ条件が適切か否かを容易に判断することができる。例えば、一致度の高い領域が広域に広がっていたり、一致度の高い領域の飛び地が存在していたりする場合は、形状パラメータ数が多すぎて、安定性の高い計測は望めないことが分かる。また、どの形状パラメータが一致度の高い領域を広げているかも分かるので、いずれの形状パラメータを固定するのが効果的かも分かる。そして、形状パラメータ条件の変更後に再度、予想解空間を提示させれば、効果を確認することが可能である。逆に一致度の高い領域が十分に狭い場合は、形状パラメータ数を増やせる可能性があることが分かる。形状パラメータ数を増やして、再度予想解空間を提示させれば、形状パラメータ数を増やすことによる計測の安定性低下が許容範囲か否かを確認することが可能である。
【0043】
(2)計測結果の確からしさの確認機能
計測結果の確からしさの確認機能に関して説明する。(1)で説明した形状パラメータ条件の設定支援機能は、実パターンの計測に先立ち、実パターン計測に適用する形状パラメータの条件出しを支援する機能を提供するものであるのに対し、本機能は、実パターンの計測後に、計測結果の確からしさを判定する機能を提供するものである。
【0044】
計測結果の確からしさの確認機能では、実波形を用いて実解空間を算出して提示すると共に、上記の判定のために、比較対象となる解空間(以下、参照解空間と記す)を算出して併せて提示する。
【0045】
計測結果の確からしさを判定する機能の全体の処理フローを図12に示す。先ず、SEM200で試料206を撮像してSEM画像を取得し(S1201)、このSEM画像から実解空間を求める(S1202)。一方、ライブラリ手段222でライブラリを作成し(S1203)、この作成したライブラリを用いて参照解空間を求める(S1204)。次に、評価処理手段において実解空間と参照解空間とを比較して解の確からしさを判定して(S1205)、形状パラメータの条件を決定し(S1206)、この決定した形状パラメータの条件を用いてSEMで撮像した試料206のパターン形状を三次元計測する(S1207)。
【0046】
図13にS1202の実解空間を算出するフローを示す。先ずSEM200で試料206を撮像して画像処理手段209で作成した実画像から波形を求め(S131)、モデルベース計算手段221において、これと、ライブラリ手段222に登録しておいたライブラリメンバ波形とのマッチングを行い、評価処理手段223でそれぞれの組み合わせにおけるマッチングの評価値を算出し(S132)、これを出力手段225の表示画面226に表示する(S133)。マッチングの評価値としては、例えば、図9に示すカイ二乗値を用いる。
【0047】
図14にS1204の参照解空間を算出するフローを示す。モデルベース計測の結果として出力された断面形状に対応するライブラリ波形をライブラリから選択し(S141)、選択した波形に、図13のS131で求めた実波形と同程度のノイズを付加する(S143)。次に、S143でノイズを付加した波形とライブラリメンバ波形との間のマッチングを行い、それぞれの組み合わせにおけるマッチングの評価値を算出し(S144)、参照解空間として表示する(S145)。マッチングの評価値としては、例えば、図9に示したカイ二乗値を用いる。
【0048】
実解空間と参照解空間を比較するため、図15のように、これらを出力表示手段225の画面226上に同時に表示することが望ましい。図15(b)の参照解空間152は、いわば、モデルベース計測が理想的な条件にて行われた場合の解空間なので、図15(a)の実解空間151と(b)の参照解空間152の乖離が小さい場合は目論見通りのモデルベース計測がなされたと判定し、乖離が大きい場合は論見通りのモデルベース計測がなされなかったと判定することができる。
【0049】
図16にS1205の具体的な判定のフローの一例を示す。はじめに、両解空間の評価値の最小値を比較する(S161)。カイ二乗値を評価値として用いた場合、実解空間のカイ二乗値の方が参照解空間のカイ二乗値よりも大きな値になることが多いが(一般に、実波形とライブラリ波形間の一致度の方が、ライブラリ波形間の一致度よりも低いので)、例えば、実解空間のカイ二乗値が数倍以上大きい場合には、モデルベース計測の結果は確からしくないと判定して処理を終了する(S162)。一方、評価値の差が想定の範囲内である場合には、等高線が囲む領域の形、等高線の間隔を比較する(S163)。例えば、等高線が囲む領域の大きさが数倍以上の場合は、モデルベース計測の結果は確からしくないと判定して処理を終了する(S164)。これらの判定をパスしたならば、計測結果は確からしいと判断できる(S165)。
【0050】
計測結果が正しくないと判定された場合(S162、S164)、設定した形状パラメータ条件では実パターンの断面形状が正しく表現されていないことを意味する。本実施の形態では、形状パラメータ条件の変更を効率的に行うための支援機能として、実波形とライブラリ波形とモデルベース計測の解である断面形状を重ね合わせて画面226上に表示する。図15(a)の実解空間151において、縦線、横線がクロスするカーソル153を所望の座標におき、所定のボタン(図示しない)をクリックすることにより図15(c)に示すように、実波形154、ライブラリ波形155、断面形状153が重ね合わせて表示される。この表示により、実波形とライブラリ波形の一致/不一致が、断面形状におけるどの部位に相当するかが分かる。この表示結果をよって、形状パラメータの固定値の変更、あるいは、別の形状パラメータを固定するといった条件変更の指針を得ることができる。
【0051】
上記に説明した計測結果の確からしさを確認する機能によれば、計測結果の確からしさが示されるため、形状パラメータ条件の見直しの必要性が見逃されなくなる。また、形状パラメータ条件をどのように変更すべきかの指針が示されるため、形状パラメータの変更を効率良く行うことが可能となる。そして、これらにより、より精度の高いモデルベース計測が実現されるようになる。
【0052】
以上に説明したように、計測結果の確からしさの確認機能により実解空間が提示されることによって、一致度の高い領域の分布状態が一目で分かるので、モデルベース計測の計測結果がどの程度確からしいかを容易に判断することができる。例えば、一致度の高い領域の広がりが上記の予想解空間と同等かをみることによって、計測結果が目論見通りの確からしさを有すかが確認できる。予想解空間と異なる場合は、設定した形状パラメータ条件では、実パターンの断面形状を正しく表現できないことを意味しており、計測結果が確からしくないことが分かる。
【0053】
さらに、実波形とライブラリ波形と計測結果である断面形状が重ね合わせて表示されることによって、実波形とライブラリ波形の一致/不一致が、断面形状におけるどの部位に相当するかが分かる。この表示結果をよって、形状パラメータの固定値の変更、あるいは、別の形状パラメータを固定するといった条件変更を効率的に行うことが可能となる。
【0054】
従来は、計測結果の確からしさが示されなかったため、条件変更の必要性に気付くことすらできなかったが、本実施例によれば、条件変更の必要性が見逃されなくなり、さらに、どのように変更すれば良いかの指針が得られるようになる。
【0055】
(3)断面形状の計測に適した撮像条件を予想する機能
次に断面形状の計測に適した撮像条件を予想する機能に関して説明する。この断面形状の計測に適した撮像条件を予想する機能は、実パターンの計測に先立ち、複数の撮像条件について、(1)で説明した形状パラメータ条件の設定を支援する方法を適用し、モデルベース計測に有利な撮像条件を予想するものである。
【0056】
断面形状の計測に適した撮像条件を予想する機能の全体のフローを図17に示す。形状モデルの入力(S171)、各形状パラメータの範囲とピッチの入力(S172)は、(1)の場合と同様である。本機能では、さらに、撮像条件のバリエーションを入力し(S173)、SEMシミュレーションにより信号波形を算出する(S174)。図18に、撮像条件のバリエーションの入力GUI1800の一例を示す。GUI1800上では、撮像上件数1801と撮像条件のバリエーションを入力する。撮像条件のバリエーションとは、加速電圧のバリエーション1801や、エネルギーフィルタ(1)のあり/なし1802、エネルギーフィルタ(2)のあり/なし1803など、使用する撮像装置(測長SEM)が有す、撮像条件のバリエーションを網羅していることが望ましい。
【0057】
図19Aは、加速電圧が異なると、信号波形にどのような変化が生じるか説明する図である。図19A(a)の191は加速電圧が0.8kVの場合、(b)の192は3kVの場合、(c)の193は5kVの場合の電子の内部拡散の様子をシミュレーションした結果であるである。加速電圧が大きくなるに従い、1次電子の進入深さが深くなり、内部拡散はより広い範囲に広がることが分かる。図19Bの194は、同じくシミュレーションによって求めた、各加速電圧における信号波形である。内部拡散の仕方が異なる結果として、信号波形も異なる。
【0058】
本機能では、(1)で示した予想解空間(図10)を、撮像条件ごとに求め、これを提示する。加速電圧の違いは、図19のように予想解空間にも違いをもたらす。図20(a)の201は加速電圧が0.8kVの場合の予想解空間、図20(b)の202は加速電圧が3kVの場合の予想解空間とすると、モデルベース計測による断面形状計測結果がばらつきうる範囲(灰色の領域)がより狭い図20(a)の201の方が、より安定性の高い計測が実現可能ということが分かる。この結果に基づき、実パターンの計測における撮像条件を決定すればよい。
【0059】
本機能によれば、実パターンの計測に先立って、モデルベース計測にとってより有利な撮像条件を計算機上で予想することが可能となる。これにより、実際のサンプルを用いて撮像条件を試行錯誤的に決定するプロセスが必要なくなるため、効率が向上する。結果として、より精度の高いモデルベース計測が実現されるようになる。
【0060】
以上の(1)から(3)で説明した各機能は、全ての機能を計測システムに備えても良いし、また何れか2つの組合せで用いても良く、更には何れか1つだけを採用してもよい。
【0061】
なお、以上の(1)から(3)で説明した各機能は、SEM信号波形に対してモデルベース計測手法を適用する場合について述べたが、図21に示した、スキャタロメトリに対しても適用可能である。本発明をスキャタロメトリに適用すれば、上記の実施の形態で述べたのと同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0062】
200・・・SEM 206・・・試料 209・・・画像処理手段 212・・・全体制御手段 220・・・モデルベース計算処理部 221・・・モデルベース計算手段 222・・・ライブラリ手段 223・・・評価処理手段 224・・・入力手段 225・・・出力手段 226・・・表示画面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線シミュレーションにより種々の断面形状に対応する計算波形群(ライブラリ)を作成し、
試料上に形成されたパターンを走査電子顕微鏡(SEM)で撮像し、
該撮像して得られた画像の実波形と前記作成したライブラリをマッチングして最も実波形と一致する計算波形を選択し、
該選択した計算波形に基づいて前記試料上に形成されたパターンの断面形状を表現する複数の形状パラメータを決定し、
該決定した複数の形状パラメータを用いて前記SEMで試料上に形成されたパターンを撮像して得られた画像から該パターンの三次元形状を計測する
方法であって、前記複数の形状パラメータを決定することを、前記作成したライブラリを用いて形状パラメータ条件の設定を支援することにより行うこと、又は、前記三次元形状の計測の結果の確からしさを確認して決定することにより行うこと、又はそれらの両方を用いて行うことを特徴とする形状計測方法。
【請求項2】
前記作成したライブラリを用いて形状パラメータ条件の設定を支援することにより前記複数の形状パラメータを決定することを、前記作成したライブラリの計算波形間のマッチングを行って解空間(予測解空間)を求め、この求めた予測解空間に基づいて安定解が得られる前記複数の形状パラメータを決定することを特徴とする請求項1記載の形状計測方法。
【請求項3】
前記予測解空間を前記SEMの撮像条件ごとに求め、該SEMの撮像条件ごとに求めた前記予測解空間を用いて前記SEMの撮像条件を決定することを特徴とする請求項2記載の形状計測方法。
【請求項4】
前記三次元形状の計測の結果の確からしさを確認して決定することにより前記複数の形状パラメータを決定することを、前記撮像して得られた画像の実波形と前記作成したライブラリの計算波形とのマッチングを行って解空間(実解空間)を求め、前記作成したライブラリの計算波形間のマッチングにより解空間(参照解空間)を求め、前記求めた実解空間と予測解空間とを比較して安定解が得られる前記複数の形状パラメータを決定することを特徴とする請求項1記載の形状計測方法。
【請求項5】
試料上に形成されたパターンを撮像する走査電子顕微鏡(SEM)手段と、
電子線シミュレーションにより種々の断面形状に対応する計算波形群(ライブラリ)を作成するライブラリ作成手段と、
前記SEM手段で撮像して得られた画像の実波形と前記ライブラリ作成手段で作成したライブラリをマッチングして最も実波形と一致する計算波形を選択するモデルベース計算手段と、
該モデルベース計算手段で選択した計算波形に基づいて前記試料上に形成されたパターンの断面形状を表現する複数の形状パラメータを決定する形状パラメータ決定手段と、
該形状パラメータ決定手段で決定した複数の形状パラメータを用いて前記SEMで試料上に形成されたパターンを撮像して得られた画像から該パターンの三次元形状を計測する三次元形状計測手段と、
該三次元形状計測手段で計測した結果を出力する出力手段と
を備えた形状計測システムであって、前記形状パラメータ決定手段は、前記複数の形状パラメータを決定することを、前記作成したライブラリを用いて形状パラメータ条件の設定を支援することにより行うこと、又は、前記三次元形状の計測の結果の確からしさを確認して決定することにより行うこと、又はそれらの両方を用いて行うことを特徴とする形状計測システム。
【請求項6】
前記形状パラメータ決定手段は、前記作成したライブラリを用いて形状パラメータ条件の設定を支援することにより前記複数の形状パラメータを決定することを、前記作成したライブラリの計算波形間のマッチングを行って解空間(予測解空間)を求め、この求めた予測解空間に基づいて安定解が得られる前記複数の形状パラメータを決定することを特徴とする請求項5記載の形状計測システム。
【請求項7】
前記形状パラメータ決定手段は、前記予測解空間を前記SEM手段の撮像条件ごとに求め、該SEM手段の撮像条件ごとに求めた前記予測解空間を用いて前記SEM手段の撮像条件を決定することを特徴とする請求項6記載の形状計測システム。
【請求項8】
前記形状パラメータ決定手段は、前記三次元形状の計測の結果の確からしさを確認して決定することにより前記複数の形状パラメータを決定することを、前記撮像して得られた画像の実波形と前記作成したライブラリの計算波形とのマッチングを行って解空間(実解空間)を求め、前記作成したライブラリの計算波形間のマッチングにより解空間(参照解空間)を求め、前記求めた実解空間と予測解空間とを比較して安定解が得られる前記複数の形状パラメータを決定することを特徴とする請求項5記載の形状計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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