説明

後天性疾患治療用の新規移植組織片および新規ベクター

【課題】癌またはAIDS治療および予防のためのアデノウイルスベクターを提供する。
【解決手段】抗体の全てまたは1部をコードし、かつその発現に必要な諸要素の制御下に置かれた外因性ヌクレオチド配列を含む、組換えアデノウイルスベクターであって、上記抗体が毒性または免疫強化物質により修飾されていることを特徴とする組換えアデノウイルスベクターである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌またはAIDSの治療および予防用の新規タイプ移植組織片(implant)およびその使用に関するものである。特にその主題は、感染細胞中でのウイルス粒子の生産と同様それらの分裂または増殖を少なくとも部分的に抑制するように癌細胞または感染細胞を認識する特異的抗体を発現および分泌し得る、遺伝子的修飾細胞を含む移植組織片である。また本発明は抗体またはその誘導体と同様関心事の多重結合タンパク発現を指示し得るアデノウイルスベクターにも関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療によるヒトの疾病の治療の可能性は、ここ数年以内に理論的考察の段階から臨床的応用の段階に進んだ。かくしてヒトに適用される最初の方法は、アデニンデアミナーゼ(ADA)をコードする遺伝子に影響する突然変異の故に、1990年9月に米国で遺伝性免疫不全患者に対して始められた。この最初の実験の比較上での成功が各種遺伝的疾病または後天性疾病に対する新規遺伝子治療方法の発展を促進した。現在実験段階にある治療方法のほとんどの部分は、治療遺伝子をex vivoで患者の細胞、例えば造血ラインの幹細胞中に移転させ、次いでこれらの矯正された細胞を患者中に再注入することからなる。したがってこの技術は非可逆的で煩雑であり、形質転換細胞の再移植の危険を伴う。
【0003】
一層最近始められたネオ器官(neo−organ)技術によれば、公知遺伝子治療方法の主たる欠点を克服できる。この技術は”移植組織片(implant)”と呼称され得る生細胞からなる人工構造体を患者に再移植することに基礎を置き、この生細胞は事実”ミクロフアクトリ−(micro−factories)”であって目的の治療用分子をin vivoで連続的に送り届けることができる。
【0004】
一層正確には、この人工構造体は生物適合性材料(PTFE、ポリテトラフルオロエチレンまたはGore−Tex TM)からなる合成繊維の背骨を被覆しているコラーゲンゲル中に含有され、治療遺伝子を運ぶウイルスベクターにより予め形質導入された生細胞からなる。またこのゲルは血管形成成長因子(bFGF、ベーシック繊維芽細胞成長因子)も含有する。これを動物中に再移植後、上記ネオ器官はbFGFの血管形成性および滋養性のおかげで数日以内で一般的に新生される。次いでこのものは結合組織を備え、とき神経支配され、かつ治療分子が注がれる血液流に連結した自律性構造体へと発育する。
【0005】
遺伝子治療にネオ器官を使用する可能性は国際出願WO92/15676号公報はもとより各種の科学記事中に既に取り上げられている。しかし、公知文献に開示の技術はシングル遺伝子の欠陥発現および生来発現が原因の単一遺伝子疾病の治療のみを扱ったものであり、その結果として因子IX、α1 −アンチトリプシン、ADA、エリスロポイエチン(EPO)およびβ−グルクロニダーゼ等の治療モノマー分子の分泌に対してのみに用いられている。現在までのところ、この技術は抗体等の一層複雑な治療分子の分泌には適していない。
【0006】
発明の説明
今や、抗−HIV抗体の重鎖および軽鎖の発現のためにレトロウイルスベクターにより遺伝子修飾された繊維芽細胞の移植組織片は、一度マウス中に再移植されると、細胞表面に抗原を帯びた感染細胞を認識する大量の官能性抗体を血液流中に連続的に分泌することが可能であり、この抗原に向かってそれが指向することが判った。本発明は、繊維芽細胞は抗体の重鎖および軽鎖をほぼ化学量論的量で生産でき、これらは次いで会合してテトラマーとなり1つの機能分子を形成するという事実に基づく。このことは後天性疾患および特にAIDSおよび癌を免疫治療により治療し得る可能性を提供するもので、この2つの疾病は実際に満足できる治療法がないことは勿論、その複雑性と深刻さから、本発明の主題技術等の新規技術の開発の正当性を証明する。
【0007】
また本発明は、抗体およびその誘導体と同様、関心事の多重結合分子の発現を指令し得るアデノウイルスベクターを提供する。これらはHIVウイルスに向かって指向する免疫毒素の生産に使用でき、かつ感染細胞の選択的破壊の誘発に使用できる。
【0008】
したがって本発明の主題は:
(1)抗体の全てまたは一部をコードする外因性ヌクレオチド配列を含む、遺伝子的に修飾された細胞の移植移植組織片にあり、上記外因性ヌクレオチド配列はその発現および上記抗体の分泌に必要な諸要素の支配下に置かれており、および
(2)宿主細胞中に多量体(マルチマー)を形成し得る1種または2種以上の目的タンパク質の全てまたは一部をコードする外因性ヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスベクターにあり;この外因性ヌクレオチド配列は上記宿主細胞中におけるその発現に必要な諸要素の支配下に置かれている。
【0009】
本発明目的の場合の移植組織片とは、次に定義され、かつヒトまたは動物体中に移植されることを意図した、遺伝子修飾された生細胞の任意のセットを指す。とりわけ好ましい場合は、全体が生物学的適合性で血管新生可能な構造体を形成している細胞外マトリックスにこの細胞が固着している場合である。このマトリックスはコラーゲンからなるのが好ましい。しかし、他の材料でも生物適合性である限りは本発明の構成範囲内で使用できる。このものは、特に(1)細胞粘着を可能にするようにコラーゲンフイルムを用いて被覆した合成繊維PTFE(ポリテトラフルオロエチレンまたはGore−Tex)等の生物学的適合性支持体、(2)コラーゲンゲルであって、この中に移植組織片内の細胞が含まれているゲル、および(3)宿主中での新生を促進する血管新生促進剤を含む。移植組織片なる用語は、特にネオ器官および類器官を包含する包括的な用語である。
【0010】
その上、この用語中にはカプセル封入移植組織片、すなわち、細胞(移植組織片の細胞および宿主免疫系の細胞)の通過は特に阻止するが、治療分子、養分および廃棄物の拡散は許容するような、制御された多孔性を有する膜中に含まれたものも包含できる。
【0011】
”遺伝子修飾された細胞”なる用語は、導入された外因性遺伝子材料を有する細胞を指す。該材料は細胞のゲノム中に挿入され得るか、または細胞質中または細胞核中のいずれかのエピソーム中に存在し得る。外因性遺伝子材料を細胞中に導入する技術は公知であり、かつ当業者に公開されている。この場合、多数のベクターが開発されており、かつこれらは当業者に公開されている基本的な分子生物学案内書中に広く記載されている。
【0012】
本発明の構成中に使用される遺伝子修飾された細胞は、特に外因性ヌクレオチド配列を含む。後者は天然配列(宿主細胞のゲノム中に既に存在している)または異種配列でもよいが、このものは遺伝子工学的方法(およびしたがって外因的に)により宿主細胞中に導入されたものでもよい。その中では通常発現されないか、または発現されたとしても生理的低濃度で発現される生産物をコードする配列が特に好ましい。本発明の目的にしたがって、上記外因性ヌクレオチド配列は抗体の全てまたは1部をコードする。抗体とはBリンパ球により普通生産されるタンパク(免疫グロブリン)であり、かつこのものは特定外来抗原を認識し、免疫応答の引き金を引く。本来の抗体は4つのタンパク鎖からなるテトラマーである;ジスルフイドブリッジを介して互いに会合している2つの軽(L)鎖および2つの重(H)鎖。この軽鎖はN−末端位置における可変領域(VL )およびC末端位置における定状部(CL )からなり、重鎖はN末端からC末端まで含み可変領域(VH )の後に3つの定常部(CH1、CH2およびCH3)が続く。上記軽鎖および重鎖の対応領域は会合して異なるドメインを形成する。免疫グロブリンの軽鎖および重鎖の可変領域の会合により形成された上記可変ドメインは、対応抗原を認識する責任がある。上記定状ドメインは免疫応答の進行に関与するエフエクター機能を発揮する。
【0013】
本発明目的の場合、上記2つの軽鎖および重鎖は同一(天然抗体)であってもよい。かかる状況下では、合成後にテトラマーに会合するような重鎖および軽鎖をコードする外因性ヌクレオチド配列が使用される。しかし、好ましくはフラグメントFab(抗原結合の場合のab)またはF(ab’)2 、Fc (結晶化可能の場合の C)またはフラグンメントscFv(シングル鎖の場合のscおよび可変の場合のv)を生産するように、抗体の1部のみをコードする配列も使用できる。かかるフラグメントは Immunologyy (第3版、1993、Roitt、BrostoffおよびMale、ed Gambli、Mosby)等の免疫学マニュアル中に詳細な記載があり、かつ図1に略図として示してある。上記フラグメントscFvの一層詳細については、このものはVL 領域に続いてVH 領域を、任意にVL およびVH 配列間のスペーサー(1〜10の中性アミノ酸残基からなり、著しく大きくはない)と共にコードする配列から得られる。
【0014】
異なる起原(抗体の種またはタイプ)の配列の融合に由来するキメラ(またはハイブリッド)抗体を生成させることもできる。特に、上記キメラ抗体に新しい性質を付与するように、例えば細胞毒反応の強化を付与するように異なったアイソトープの抗体から導かれた定状部を含有または交換することも可能である。このものはマウス抗体の可変領域の少なくとも1部、およびヒト抗体の定状部が併合したヒト化抗体であってもよい。また、任意の起原、例えば単鎖分子の形態での軽/または重鎖から誘導された起源の1つまたは2つ以上の可変領域および/または定状部を融合することもできる。
【0015】
最後に、他のアプローチは、2つの可変ドメイン例えば感染または腫瘍細胞により運ばれる抗原を認識するドメインおよび、免疫応答の活性化のための構造からなる他のドメインを含む二特異性抗体の生産からなる。このようにすると腫瘍または感染細胞と接触するキラー細胞の活性を増強することができる。
【0016】
本発明で使用する抗体は、抗体の本来の配列とは僅かに異なった配列を有し得ることは明らかである。実際のところ、抗体を特徴ずける共通の尺度はその機能、すなわちそれが指向する抗原に対して特異的に結合する能力である。免疫学指導書中に記載されている多くの方法、例えばELISA、ウエスタンまたは蛍光法によれば、抗体機能を証明することが可能である。本発明は、天然の配列(または複数の配列)(キメラ抗体の場合では)との相同程度が70%を超え、有利には80%を超え、好ましくは90%を超え、および最も好ましくは95%を超える配列の抗体にも及ぶ。かかる類似体は対応配列(または複数の配列)の1種または2種以上のヌクレオチドの突然変異、欠失、置換および/または付加により得られる。
【0017】
本発明遂行の目的によれば、腫瘍抗原に向けて指向する抗体、または感染性および病原性微生物特にウイルスおよび一層好ましくはHIVウイルスおよび、有利には標的細胞表面に強く現れる抗原に対して特異性のエピトープに対する抗体を使用するのが好ましい。この種タイプの抗体は文献中に広く記載されている。特に挙げれば次のようである:
− HIV−1エンベロープ分子のトランスメンブラン糖タンパクgp41の連続(ELDKWAS)で高度に保存されたエピトープを認識するヒトモノクロナール抗体2F5(Buchacherらによる、1992、Vaccines、92、191−195)、
− ヒト結腸直腸癌腫細胞表面に存在するGA733糖タンパクを認識するネズミモノクロナール抗体17−1−A(Sunら、1987、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84、214−218)、
− タンパクMUC−1に向かって指向する抗体、および
− HPVウイルス(ヒトPapillomavirus)特にタイプ16または18のE6 またはE7 タンパクに向かって指向する抗体。
【0018】
本発明の構成以内で、本発明の構成内で使用する抗体をコードするヌクレオチド配列は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)、クローニングおよび化学合成等の、遺伝子工学分野で使用されるいずれかの公知技術により得ることができる。単なる目安として、抗体の軽鎖および重鎖をコードする配列は殆どの免疫グロブリン遺伝子の5’および3’末端に見いだせる保存配列を認識する縮重オリゴヌクレオチドを用いたPCRによりクローン化できる(Perssonら、1991、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88、2432−2436; Burtonら、1991、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88、10134−10137)。次いで発現生産物の抗体機能を上記のような特定抗原との関連でチェックする。
【0019】
一層好ましい他のアプローチは、毒性物質または免疫強化タンパクにより特別に修飾された抗体の使用からなる。この特定実施態様によれば、抗体部分が指向する特定抗原を表面に保持している標的細胞(癌細胞または感染細胞)を局所化学療法により in vivoで破壊したり、または免疫強化物質についての免疫反応を強化することが可能である。毒性物質の上記状況下では、ターゲット細胞により取り込まれ得る抗体を選択するのが有利である。対応配列は当業界で公知のいずれかの技術により得られる。
【0020】
”毒性物質”なる用語は、細胞の成長を強烈に阻止、または細胞死を誘発する劣化活性を有する分子のことである。これはそれ自体が毒性分子か、または間接的に例えば毒性物質の合成を触媒するタンパク分子であってもよい。これらの分子は植物、動物または微生物から誘導することができる。当然ながら、この毒性機能は天然の毒性物質(自然界に見いだされるような)またはそれらの類似体により充足でき、このものは上記天然の配列の1種または2種以上のヌクレオチドの突然変異、欠失、置換および/または付加により型通りに得られる。好ましい毒性物質のなかでは、リボヌクレアーゼ、リシン(ricin)、ジフテリア毒、コレラ毒、単純ヘルペスウイルスtype1チミジンキナーゼ(TK−HSV−1)、大腸菌(Escherichia coli)からの、またはサッカロミセス(Saccharomyces)属酵母からのシトシンデアミナーゼおよびシュードモナス(Pseudomonas)からの外毒素が挙げられる。免疫強化タンパク(この機能はターゲット細胞に対する宿主微生物の免疫反応の改善にある)を説明するために、CD4 タンパク、HIV−1ウイルスに対する高アフイニテイーレセプターまたはIgG(FcγR)に対するFcレセプターが挙げられる。HIVウイルス抗原または腫瘍抗原に向かって指向する抗体へのその結合は、キラー細胞を認識するリガンドおよびターゲット細胞を認識するリガンドを有するハイブリッド分子を発生させて、その除去を一層効果的に促進することを可能にする。これとの関連で、抗HIV抗体とFcγRとの間の融合またはCD4 分子の細胞外ドメインと抗CD3 抗体との間の融合により得られるハイブリッド分子が使用できる。しかし、これらの例は限定的ではなく、またかかる免疫強化タンパクは当業者には公知である。
【0021】
有利には、この毒性機能は原核または真核起原のリボヌクレアーゼにより提供される。これらの内で本願発明の構成中に使用できるものとして、コリシン(colicin)E6 、Escherichia coliからのクロアシン(cloacin)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)からのヌクレアーゼ、バチルス・インテルメディウス(Bacillus intermedius)からのビルナーゼ(birnase)、およびその配列がHartley(1988、J.Mol.Biol.、202、913−915)により開示され、バルナーゼ(barnase)とも呼称されている、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)からのヌクレアーゼが挙げられる。しかしヒトアンギオゲニンの使用が最高に好ましい(Saxena等、1991、J.Biol.Chem.、266、21208−21214;Saxenaら、1992、J.Biol.Chem.、267、21982−21986)。
【0022】
他の変形によれば、上記毒性機能はTK−HSV−1によって行使され得る。このものは哺乳類TK酵素に較べてアシクロビル(acyclovir)およびガンシクロビル(ganciclovir)等のある種のヌクレオシド類似体に対する一層大きな親和力を示し、かつこのものは細胞に対して毒性であるヌクレオチド前駆体へとそれらを転化させる。この結果、複製細胞のDNA中へのそれらの導入は癌細胞等のとりわけ分裂性の細胞を毒性効果によりおよび/または近接効果(”バイスタンダー(bystander)”効果)により殺傷し得ることを可能にする。
【0023】
本発明の他の実施態様によれば、弱毒化アナログも使用でき、このものは同じく毒性機能を示すが、しかし天然の毒性物質に較べてその程度は低い。弱毒化劣化活性を有する突然変異体のいずれも本発明の構成の範囲内で使用できる。これとの関連で、リボヌクレアーゼの弱毒化突然変異体が使用でき、このものはこれが誘導される天然リボヌクレアーゼに較べて10ないし106 分の1、さらに好ましくは10ないし105 分の1、最も好ましくは102 ないし104 分の1に弱毒化された活性を示す。この変異型は細胞RNAsに対するリボヌクレアーゼの高毒性に基ずくものであり、これにより分子構成段階を難しくさせる。例を示すと、バルナーゼ K27A(Mossakowskaら、1989、Biochemistry、28、3843−3850)およびK27A、L89F(Natsoulis およびBoeke、1991、Nature、352、1632−1635)の弱毒化突然変異体が挙げられる。このヌクレアーゼ活性はShapiroら(1987、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84。8783−8787)に記載の方法により評価され得る。当然ながら、実施例2に記載のように、他の方法によっても測定可能である。
【0024】
特に好ましい構成は、抗体の全てまたは1部をコードするヌクレオチド配列の5’または3’において上記毒性物質または免疫強化物質をコードするヌクレオチド配列を含有させることにある。抗体の重鎖をコードする配列の下流にそれが導入される場合が特に好ましく、上記鎖は翻訳用の停止コドンが欠失し、かつその融合は正しい(校正)リーデイングフレーム中で生起する。2つの配列の融合は、当業者に公開されている公知分子生物学方法を実施可能なように構成する。その上、この毒素を放出するためにターゲット細胞内で開裂され得る結合配列を融合のレベルで包含させることも可能である。これに関連して、”外因性ヌクレオチド配列”なる用語は、上記物資へと任意に融合される抗体の全てまたは1部をコードする配列を指す。
【0025】
当然ながら上記外因性ヌクレオチド配列は、その発現に必要な諸要素の制御下に置かれる。”必要な諸要素”なる用語は、メッセンジャーRNA(mRNA)への転写およびこのタンパクへの翻訳に必要な全ての諸要素を意味するものと理解される。転写に必要な諸要素の中で、プロモーターは特に重要である。一般に、真核細胞および特にヒト細胞中で機能性であるプロモーターが使用される。このものは構成的プロモーターまたは調節可能プロモーターであってもよく、かつ真核またはウイルス起原のいずれかの遺伝子から単離され得る。その上、本発明で用いるプロモーターは、”エンハンサ−”タイプ活性化配列等の調節配列を含ませるように修飾してもよい。別法として、免疫グロブリン遺伝子から誘導されたプロモーターは、リンパ球宿主細胞をターゲットすることが所望される場合に使用できる。それにもかかわらず、多数の細胞タイプでの発現を許す構成プロモーターおよび特にTK−HSV−1遺伝子のプロモーター、アデノウイルスプロモーターE1 A、MLP[Major Late promoter(メジヤー後期プロモーター)の場合の]、ネズミまたはヒトPGK(ホスホグリセレートキナーゼ)プロモーター、ラットβ−アクチン(actin)(ACT)遺伝子のプロモーター、HPRT(ヒポキサンチルホスホリボシルトランスフエラーゼ)プロモーター、HMG(ヒドロキシメチル−グルタリルコエンチーム−A)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、SV40ウイルス(シミアンウイルス)初期プロモーターまたはDHFR(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)プロモーター等のハウスキーピング遺伝子のプロモーターの使用が好ましい。1つの指針として、このヌクレオチド配列がレトロウイルスベクター中に取り入れられる場合には、その5’LTRをプロモーターとして使用できる。しかし、上記したような内部非レトロウイルスプロモーターの使用が特に好ましい。
【0026】
この外因性ヌレオチド配列は、転写および翻訳の両レベルでその発現に寄与する他の諸要素、特に適当なスプライシングシグナルにより縁どりされたイントロン配列、核局在化配列、翻訳開始配列、転写終結諸要素(ポリアデニル化シグナル)、および/または分泌シグナルをコードする配列を追加的に包含し得る。上記配列は相同であってよく、すなわち関心事の抗体をコードする遺伝子から誘導されたもの、または異種であってもよく、すなわち分泌された発現生産物の前駆体をコードする任意の遺伝子から誘導されたものでもよい。かかる諸要素の選択幅は広く、かつ当業者に公開されている。
【0027】
本発明目的の場合、発現に必要な諸要素を備えた外因性ヌクレオチド配列は、宿主細胞中に導入されて遺伝子修飾された細胞を与える。核酸を細胞中に導入することを可能にする全ての方法、例えばリン酸カルシウムによる沈殿、DEAEデキストラン技法、核酸の宿主細胞中への直接注入、核酸で被覆したゴールド微粒子による衝撃、またはリポソームもしくはカチオン脂質の使用等が使用できる。しかし、本発明の構成範囲内においては、この外因性ヌクレオチド配列を発現ベクター中に挿入するのが好ましい。特に、このものはプラスミドタイプのものまたは動物ウイルスおよび特にレトロウイルス、アデノウイルス、アデノウイルス関連ウイルスまたはヘルペスウイルスから誘導されたものでありうる。しかし、組込ベクターの使用が好ましい。かかるベクターの選択幅は広く、かつ選択されたベクター中にクローニングする方法は当業者に公開されている。同様に、感染ウイルス粒子を発生させるのに用いる方法は公知である。
【0028】
本発明にとって特に適当な1番目のベクターはアデノウイルスベクターである(次を参照)。
【0029】
同じく有利な他の別法によればレトロウイルスベクターが使用される。本発明の構成範囲内において文献公知の多数のベクターが使用可能であり、かつ特にモロニーネズミ白血病ウイルス(MoMuLV)からのもの、またはフレンドの (Friend′s)ウイルス(FrMuLV)からのベクターが用いることができる。一般的に、本発明で用いるレトロウイルスベクターはウイルス遺伝子gag、polおよび/またはenvの全てまたは1部が失欠し、かつ5’LTR、エンカプシデーション領域および3’LTRを含む。この外因性ヌクレオチド配列は上記エンカプシデーション領域の下流に挿入するのが好ましい。かかるベクターの増殖にはラインCRE、GP+E−86、PG13、Psi Env−am−12、pA317およびpsi−CRIP等の公知の相補ラインの使用が必要である。
【0030】
好ましいい実施態様によれば、かつ単鎖以外の抗体(例えば2つの重タンパク鎖および軽タンパク鎖を含む)の生産に関しては、単mRNAから2つの翻訳生産物の合成を許容するジシストロンベクターの使用が好ましい。この第2翻訳産物の翻訳開始はIRES部位(Internal Ribosome Entry Siteの場合、すなわちリボソームのエントリー用内部部位)により提供される。これまでに多数のIRES部位が確認されており、灰白髄炎ウイルス(Pelletierら、1988、Mol.Cell.Biol.、8、1103−1112)、EMCV(脳心筋炎ウイルス)(Jangら、J.Virol.、1988、62、2636−2643)または国際出願WO第93/03143号公報中に記載のIRES部位が挙げられる。しかし他のIRES部位も使用可能である。このタイプの構成は本発明の構成範囲内で用いるベクターに対していずれも適当である。
【0031】
本発明の構成内での好ましいベクターの1つは5’ないし3’を含むレトロウイルスベクターである:
(a)レトロウイルスから誘導された5’LTR
(b)エンカプシデーション領域
(c)次を含む外因性ヌクレオチド配列:
−内部プロモーター
−抗体の重鎖をコードする1番目配列
−リボソームエントリー開始部位
−抗体の軽鎖をコードする2番目配列、および
(d)レトロウイルスから誘導された3’LTR。
【0032】
他の好ましいレトロウイルスベクターは、ネズミPGKプロモーターを備え、次いでCD4 分子の細胞外IおよびIIドメインをコードする1番目配列および、この1番目と同位相で融合し、かつ上記抗体2F5(sCD4 −2F5)の重鎖のγ3 セグメントをコードする2番目配列および、任意に、操作可能なように上記2番目配列に結合しているヒトアンギオゲニンをコードする3番目配列を従えた外因性ヌクレオチド配列を含む。
【0033】
当然のことながら、上記第1、第2および第3配列の順序は入れ替え可能である。その上、上記のように、この外因性ヌクレオチド配列は毒性または免疫強化物質をコードする配列を含んでもよい。後者は抗体の重鎖をコードする上記第1配列の下流に挿入するのが好ましい。しかし、本発明ではかかる特定の実施態様には限定されない。
【0034】
その上、本発明の構成範囲内で用いるベクターは他の諸要素、例えばトランスフエクションされた宿主細胞を選択または確認することを可能にする選択可能マーカーをコードする遺伝子を含むこともできる。抗生物質G418、dhfr遺伝子、CAT(クロラムフエニコールアセチルトランスフエラーゼ)遺伝子、ピユーロマイシンアセチルトランスフェラーゼ(pacまたはPURO)遺伝子またはgpt(キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)遺伝子に抵抗性を付するネオ遺伝子が挙げられる。
【0035】
宿主生物の免疫系により寛容となるように遺伝子修飾された細胞を選択するのが好ましく、この場合は本発明の移植組織片をグラフトすることが考えられる。これとの関連では、非腫瘍およびトランスフェクションされ得る細胞が最も特に好ましい。これらは、この宿主生物から分離または誘導されたオートロガス(自己由来)細胞であるが、また適切な化学的もしくは遺伝子的処置(例えば宿主生物の免疫系により通常認識される表面抗原の発現の表示が想定可能)後に寛容があり得る細胞であってもよい。この主要組織適合性複合体クラスII抗原としては、宿主生物と同じハプロタイプの同遺伝子型(syngenic)細胞または同種異系(allogenic)細胞の使用も可能である。
【0036】
好ましくは、遺伝子修飾された細胞は、外因性ヌクレオチド配列をオートロガス繊維芽細胞および、特に宿主生物の皮膚から分離した繊維芽細胞中に導入して得られる。しかし内皮細胞、筋芽細胞、リンパ球および肝細胞等他の細胞タイプも使用できる。好ましい実施態様の例ではないが、遺伝子プールを修飾して腫瘍の進行を阻止または速度低下させる目的で、腫瘍を含む宿主生物から分離した腫瘍細胞(放射線治療により任意に弱毒化された)を使用することもできる。
【0037】
有利には、本発明の移植組織片は106 ないし1012、好ましくは107 ないし1011、および最も好ましくは108 ないし1010の遺伝子修飾細胞を含む。
【0038】
また本発明は本発明に従った移植組織片を調製する方法にも関し、ここでは遺伝子修飾した細胞および細胞外マトリックスを接触させる。本発明の移植組織片を生じさせるのには各種の方法が使用される。この方法は次のような態様で行うのが好ましい:
遺伝子修飾した細胞を、液体コラーゲン溶液、好ましくはタイプIで被覆したコラーゲン被覆合成Gore−Tex繊維からなる生物適合性支持体および、少なくとも1種の血管形成誘導成長因子例えばbFGFまたはVEGF(Vascular Endothelial成長因子)と接触させる。コラーゲン溶液が上記細胞を含む緻密な網を伴うゲルを形成するように全体を37℃に放置し、次いで上記移植組織片のコロニー化のために上記遺伝子的修飾細胞をin vitroで4ないし5日間培養する。培養最終段階は、少なくとも1種の血管形成誘導因子または2種以上の組合せを含有する培地中で実施するのが望ましい。一般的に、移植組織片を生成し得る方法および培養条件は当業者に公開されている。
【0039】
本発明にしたがった移植組織片は、その中に治療的(治療および/または予防的)効果が生じるように宿主、動物または、好ましくはヒト生物に移植されるように意図されている。実験動物へ移植される場合、特にヒトに適用し得る治療的方法の評価を可能にする。再移植の部位は腹膜もしくは皮下、脊柱もしくは腹腔内キヤビテイが好ましい。
【0040】
本発明は、病原性微生物(ウイルス、寄生虫またはバクテリヤ)により引き起こされた癌または感染性疾患等の後天性疾患の治療および/または予防を特に意図した薬剤組成物の調製の場合に本発明の移植組織片を治療的に使用することにまで範囲を拡げる。本発明は特に次の治療:
−抗HPV(特にタイプ16または18)E6 またはE7 抗体をコードする配列が導入されているオートロガス繊維芽細胞を含む移植組織片が使用し得る、乳頭腫ウイルスにより誘導された子宮癌、
−抗MUCl抗体を用いた乳癌、
−各種分離物中に保存されたエンベロープ糖タンパクエピトープに向かって指向する抗体を用いるAIDS
−B型またはC型肝炎のエピトープに向かって指向する抗体を用いた肝炎、に関する。
【0041】
当然ながら、これらの抗体は特にアンギオゲニン、バルナーゼ(barnase)またはTK−HSV−1に対して融合により修飾されてもよい。
【0042】
本発明はまた後天性疾患の治療または予防方法に関するものであり、これによれば本発明の移植組織片を in vitro で生成させ、これを治療を必要とする患者中に移植する。上記したように再移植の部位は変更できる。一度所望の治療効果が得られたら、この移植組織片は外科的に患者から単に除去するだけである。
【0043】
当然ではあるが、この治療方法の様態は患者および治療すべき疾病に応じて臨床医により開発されるべきものである。この方法は移植すべき本発明の移植組織片の数、移植部位および分泌抗体のタイプならびに発現レベル等の多くの変数により支配される。単なる指針として、患者血清中の発現レベルは官能抗体の少なくとも50ng/mL、有利には少なくとも100ng/mL、好ましくは少なくとも200ng/mLおよび、最も好ましくは少なくとも500ng/mLである。官能抗体とはそれが指向する抗原を認識し得る抗体のことである。この官能性は例えばELISAまたはFACSによる測定で決められる。一方、TK−HSV−1に融合された抗体を使用する場合、上記治療方法中にアサイクロビール(acyclovir)またはガンシクロビール(ganciclovir)の投与を包含させてその毒性効果を発揮させることが望ましい。
【0044】
その上、本発明は宿主細胞中で多量体、好ましくはダイマーもしくはテトラマーを形成し得る1種または2種以上のタンパクの全てまたは1部をコードする外因性ヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスベクターにも関する。本発明目的の場合、本発明の組換えアデノウイルスベクターは病原性生物により誘導される感染に対して、または生物もしくは宿主細胞中の腫瘍の定着/増殖に対して単独で戦うのに使用できる。全く好ましい1実施態様によれば、本発明の組換えアデノウイルスベクターは上記に定義したような(フラグメント、修飾キメラ抗体その他等の抗体またはその誘導体の1つを発現すべく意図された)外因性ヌクレオチド配列を含む。
【0045】
本発明による組換えアデノウイルスベクターはヒトのアデノウイルス・セロタイプCおよび、一層詳しくは、タイプ2、5または7から誘導されることが好ましい。しかし、また他のアデノウイルス特に動物(イヌ、ウシ、ネズミ、鳥類、羊、豚またはサル)起原のもの、または多くの種間のハイブリッド等も使用できる。一層詳しくは、イヌアデノウイルスCAV−1またはCAV−2、鳥アデノウイルスDAVまたはウシアデノウイルスBadタイプ3(Zakharchukら、1993、Arch.Virol.、128、171−176;SpibeyおよびCavanagh、1989、J.Gen.Virol.、70、165−172;Jouveneら、1987、Gene、60、21−28;Mittalら、1995、J.Gen.virol.、76、93−102)が挙げられる。アデノウイルスに関する一般的技術はGrahamおよびPrevec(1991、Methods in Mol.Biol.、Vol.7、Gene Transfer and Expression Protocols、Ed:Murray、The Human Press Inc.、109−118頁)中に開示がある。
【0046】
本発明の有利な1実施態様は、上記機能をコードする1つまたは2つ以上のウイルス遺伝子の欠失または非機能性が原因で、複製に必須な1つまたは2つ以上のウイルス官能基に欠陥のあるベクターを使用することからなる。自律複製が不可能な、かかるベクターは、それ自体生産ができず、かつ感染ウイルス粒子の構成に必要な初期および/後期タンパクをトランスの形態で提供できる相補細胞中で増殖される。後者の用語は宿主細胞を感染し、かつウイルスゲノムをその中に浸透させ得る能力を有するウイルス粒子を指す。説明の都合上、E1 官能が欠失しているアデノウイルスベクターの増殖のためには、上記E1 領域によりコードされる全てのタンパクをトランスで提供し得る系列(line)293等の相補細胞が用いられる(Grahamら、1977、J.Gen.Virol.36、59−72)。当然ながら、本発明のベクターは、特に非必須E3 領域中の追加欠失部分を含むことができ、これよりクローニング能力が増加するが、また必須E2 、E4、L1 −L5 領域(国際出願WO第94/28152号公報参照)中の追加欠失部分を含むこともできる。この欠失機能は細胞系統またはヘルパーウイルスによって相補され得る。
【0047】
本発明の好ましいアデノウイルスベクターはそのE1 およびE3 領域の大半が欠失され、かつE1 の代わりに下記を含む発現カセットを保有している:
(a)プロモーター、ヒトβ−グロビン(BGL)遺伝子のイントロン、2F5の軽鎖、EMCVウイルスのIRES部位および2F5の重鎖をコードする配列および次いでヒトβ−グロビン遺伝子のポリアデニル化部位、または
(b)プロモーター、ヒトβ−グロビン遺伝子のイントロン、C末端でおよびヒトアンギオゲニンと同じリーデイングフレームにおいて任意に融合した分子sCD4 −2F5をコードする配列。
【0048】
本発明の構成範囲内で想定できる上記プロモーターの中では、アデノウイルス初期プロモーターE1 A、後期プロモーターMLP(Major Later Promoter)、ネズミまたはヒトPGK(ホスホグリセレートキナーゼ)プロモーター、SV40ウイルス初期プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)ウイルスプロモーター、腫瘍細胞中で特異的に活性であるプロモーターおよび最後に感染細胞中で特異的に活性であるプロモーターが挙げられる。
【0049】
本発明はまた、感染性アデノウイルス粒子ならびに、本発明の組換えアデノウイルスベクターを含む真核宿主細胞にも関する。上記宿主細胞は哺乳動物細胞および、好ましくはヒト細胞であるのが有利であり、かつそのゲノムまたは非組込み(エピソーム)中に組み込まれた形の上記ベクターを含む。このものは造血器官起原(全能性ステム細胞、白血球、リンパ球、単核細胞またはマクロフアージおよびその他)の、または筋肉、肝、上皮または繊維芽細胞起原のプライマリーもしくは腫瘍細胞であってもよい。
【0050】
本発明の感染性ウイルス粒子は当業界で公知(GrahamおよびPrevect、1991、supra)のいずれの技術に従っても調製可能であり、例えばベクターの、およびアデノウイルスフラグメントの適当な細胞へのコトランスフエクション(cotransfection)、または非官能性ウイルス官能基をトランスで提供するヘルパーウイルスの手段により調製できる。また連結反応または相同的組換え(例えばフランス特許出願第9414470参照)によりEscherichia coli(E.coli)中in vitro でこのウイルスベクターを生成させることが考えられる。
【0051】
本発明の主題はまた、薬学的に許容される担体との組合わせにおける、治療剤または予防剤としてのアデノウイルスベクター、本発明の感染性ウイルス粒子または真核性宿主細胞を含む薬剤組物である。本発明の組成物は癌、AIDS等のウイルス疾患、B型またはC型肝炎またはヘルペスウイルスにより引起こされる再発性ウイルス感染等の後天性疾患の予防または治療用処置を特に意図するものである。
【0052】
本発明の医薬剤組成物は公知の態様で製造できる。特に、治療用または予防用剤の治療有効量を希釈剤等の担体と併合する。本発明の組成物は局所的または全身的に、またはエアゾールにより投与され得る。特に好ましいのは、筋肉内、腫瘍内および肺内投与であり、最も特には静脈内注射である。この投与は1回量で生起し、またはある時間の間隔を隔てた1回または数回の繰り返し量で生起する。適当な投与の経路および用量は例えば患者個人または処理すべき疾患または転移されるべき目的の遺伝子等の各種パラメーターに従って変わる。特に、本発明のウイルス粒子は104 〜1014 pfu(プラーク形成ユニット)、有利には105 〜1013pfuおよび、好ましくは106 〜1011pfuの間の用量の形態で処方し得る。またこの処方中には、薬学的に許容されるアジュバントまたは賦形剤も含有し得る。
【0053】
最後に本発明は、ヒトまたは動物体の、好ましくは遺伝子治療による処置を意図した治療薬剤の調製のための、本発明アデノウイルスベクター、感染性ウイルス粒子または真核性宿主細胞の、治療的または予防的使用に関するものである。1番目の可能性によれば、この薬剤はin vivoで(例えば静脈内注射により到達可能な腫瘍中に、エアゾールその他により肺中に)直接投与され得る。
【0054】
ex vivoにおけるアプローチも採用でき、このアプローチでは患者から細胞(骨髄幹細胞、抹梢血リンパ球、筋肉細胞その他)を分離し、これらをin vitro で公知技術に従って感染させ、かつ患者にこれらを再投与することからなる。
【0055】
また本発明は後天性疾患の治療または予防方法に関し、これによれば本発明に従った組換えアデノウイルスベクター、感染性アデノウイルス粒子または宿主細胞の治療的有効量が、かかる処置を必要とする患者に投与される。
【0056】
本発明を次の実施例および図面を参照に説明するが、本発明はこれらに限定はされない:
図1は、抗体およびF(ab)およびFcフラグメントの構造の略図である。
図2は、上記抗体2F5の発現を許容するベクターpTG4370の略図である。
図3は、天然のバルナーゼ(barnase)に結合した抗体17−1−Aの発現を許容するベクターpTG6356の略図である。
図4は、弱毒化バルナーゼK27Aに結合した抗体17−1−Aの発現を許容するベクターpTG6357の略図である。
図5は、抗体17−1−Aの発現を許容するベクターpTG6355の略図である。
図6は、CD4 膜タンパクの構造の略図である。
図7は、ハイブリッド分子sCD4 −2F5をコードする配列の構造の図式の説明である。
図8は、ハイブリッド分子sCD4 −2F5の発現を許容するレトロウイルスベクターpTG8338の略図である。
図9は、融合分子sCD4 −2F5−アンギオゲニンをコードする配列を含むベクターpTG8373の略図である。
図10は、ハイブリッド分子sCD4 −2F5の発現を許容するアデノウイルスベクターpTG8357の略図である。
図11は、融合分子sCD4−2F5−アンギオゲニンの発現を許容するアデノウイルスベクターpTG8376の略図である。
【実施例】
【0057】
次に記載の構成はManiatisらの(1989、Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY)中に詳細に記載された一般的遺伝子工学および分子クローニング法、または商業的キットを用いる場合にはメーカーのレコメンデーションに従って遂行される。制限部位の修復については、突出5’末端の充填はEscherichia coli(E.Coli)のDNAポリメラーゼのクレノウフラグメントによって遂行でき、かつ突出3’末端の分解はT4 フアージDNAポリメラーゼの存在下またはS1ヌクレアーゼ処理に続くクレノウによる修復により遂行できる。上記PCR技法は当業者には公知であり、かつPCR案内書(方法および応用への案内書)(Ed:Innis、Gelfand、Sninsky and White、Academic Press、Inc.)中に豊富な記載がある。
【0058】
バクテリヤプラスミドを用いるクローニング工程は、E.coli XL1−Blue 菌株(Stratagene)での継代により好ましく遂行され、かつこれらはE.coli NM522中のM13フアージから誘導されたベクターに関する。突然変異誘発は市販のキット(例えばAmersham、RPN1523)により合成オリゴデオキシヌクレオチドを用いて、かつメーカーのレコメンデーションに従って遂行する。
【0059】
実施例1: 抗体2F5を分泌し、かつ抗−AIDS免疫治療が意図された移植組織片の調製
A.抗−HIV抗体2F5の発現および分泌のためのジシストロン・レトロウイルスベクターの構成
上記構成の基礎を形成するこのベクターはpLXSN(MillerおよびRosman、1989、BioTechniques、7、980−988)から誘導されるpLXSPである。これは、MoMuSV[Moloney Murine Sarcoma Virus(モロニー・ネズミ肉種ウイルス)]の5’LTR、1つのレトロウイルスエンカプシデーション領域、多重制限部位、SV40プロモーターの制御下にあるネオマイシン抵抗性ネオ遺伝子およびMoMuLV3’LTRを含むレトロウイルスである。このベクターpLXSPは一方でベクターpMPSV.H−2K.IL−2R(Takedaら、1988、Growth Factors、1、59−66)から単離されたMPSV[MyeloProliferative Sarcoma Virus(ミエロ増殖肉種ウイルス)]3’LTRから得られた類似フラグメントによるpLXSNの3’LTRのNheI−KpnIフラグメントの置換後に得られ、かつ他方では、上記ネオ遺伝子の代わりとしてピユーロマイシン抵抗性遺伝子の導入後に得られる。上記ピユーロマイシン遺伝子はMorgensternおよびLand(1990、Nucleic Acids Res.、18、3587−3596)中に記載のpBabe Puroから得られる。
【0060】
ベクターpLXSPはEcoRIおよびHpaIを用いて消化され、かつpKJ−1(Adraら、1987、Gene、60、65−74)から単離したEcoRI−PstIフラグメント(そのPstI部位の修復後)がこの中に導入される。このフラグメントはマウスPGK遺伝子のプロモーターを備えている。連結反応後、ベクターpTG2663が得られる。このものはピユーロマイシン遺伝子発現のための上記カセットを除去するために酵素ClaIおよびBamHIを用いた消化に処する。クレノウ処理および連結反応後、ベクターpTG2673が得られ、このなかにBamHI部位が再構成される。
【0061】
上記ベクターpTG2676はモノクロナール抗体2F5の軽鎖(LC)をコードするcDNAを含むHindIII−EcoRIをプラスミドBluscript SK+(Stratagene)中にクローニングすることにより得られる。このものはプライマーOTG5168およびOTG5169(SEQ ID NO:1および2)等の、翻訳開始のためのコドンおよび停止コドンを包囲する配列に相補の適当なプライマーを用い、ハイブリドーマ2F5(Buchacher等、1994、AIDS Research and Human Retroviruses、10、359−369;Katinger、1992、第7回 Cent Gardes Confernce、299−303)のmRNAから誘導されたcDNAライブラリーを用いたPCRによりクローニングされ得る。pTG4336を生じさせるために同一酵素を使って予め消化したベクターpTG2673中に挿入されるcDNA LC2F5を備えたXhoI−BamHIフラグメントがpTG2676から単離される。
【0062】
これは酵素NcoIを用いて線状化し、次いで一方でTG2677から得られ、かつ抗体2F5の重鎖(HC)をコードするcDNAを備えたNcoI−EcoRIを用い、他方ではpTG4369から精製し、かつEMCV IRES部位を備えたEcoRI−NcoIフラグメントを用いた連結反応に処する。ベクターpTG2677は1つのpBluescript SK+でありこの中に同じ端部を備えたcDNA HC 2F5がHindIIIとEcoRI部位との間に導入されている。このものはプライマーOTG5170およびOTG5171(SEQ ID NO:3および4)によって前記ライブラリーを用いるPCRにより得られた。ベクターpTG4369については、同様にEMCV IRES(Jangら、1988、supra)に相当するXbaI−ClaIフグメントのpBluescript SK+中へのクローニングから得られる。上記トリプル連結反応はベクターpTG4370(図2)を生ずる。ピユーロマイシン遺伝子の発現に対する上記カセットは、選択段階を容易にする目的で任意にpTG4370のプラスミド部分中に再導入してもよい。
【0063】
感染性ウイルス粒子は次のように生ずる:
エコトロピック相補ラインGP+E−86(Markowitzら、1988、J.Virol.、62、1120−1124)およびATCCから入手されるそのターゲット細胞NIH3 T3 (マウス繊維芽細胞)を5%CO2 の存在下、DMEM培地(Dulbeco’sの修飾Eagle’s培地)中、37℃で培養する。この培地中には10% foetal calf 血清(FCS)(GibcoBRL)、1mMグルタミン、1%非必須アミノ酸類および40μg/Lのゲンタマイシン(完全DMEM培地)を含有する。トランスフエクション前日、GP+E−86細胞を10cm dish当り5×105 細胞量で培養する。翌日、20μgの直線化プラスミドpTG4370および1μgの選択ベクター(例えばピユーロマイシン耐性遺伝子を備えたベクターpLXSP)を公知のリン酸カルシウム法に従ってトランスフエクションする。その翌日(D+1)、公知方法で細胞を洗浄し、選択培地(5μg/mLのピユーロマイシン)中でのD+3からの培養に先立って新しい培地中に48時間置く。
【0064】
約2週間の選択の終点で、上記抗性物質に抵抗性の細胞クローンがdish中に見られる。これらを公知方法により単離し、かつこの細胞を96−ウエル保温板中の選択培地中に再懸濁する。抗体のベスト生産者である上記クローンを後記ELISA法により選択し、かつ上澄み液をターゲットNIH3 T3 細胞上で滴定する。これを行うには感染前日に、それらをウエル当り105 細胞で接種する。このウイルス感染は文献に記載の公知方法に従って遂行する。上記滴定方法は所謂リミテイングポイント法である。上記ELISA法によるとターゲットエピトープ(ELDKWAS)を認識する官能2F5抗体の量の滴定が可能である。後者は化学的に合成される。
【0065】
簡単に言えば、ペプチド溶液(2mg/mL)を緩衝液(15mM炭酸ナトリウム、35mM酸性炭酸ナトリウム、pH9.6)中に2000培希釈し、100μLをマイクロタイター板の各ウエル底に置き、4℃で16時間保温する。PBS緩衝液、0.05%Tween−20、中で十分に洗浄後、上記ウエル(複数)をPBS緩衝液中に溶解した1%BSAの50μLを用いて1時間37℃で飽和する。洗浄後、テストする試料または標準溶液の100μLを添加する。上記板を室温で2時間保温し、PBS緩衝液Tween20で完全に洗浄する。次いでPBS緩衝液、1%BSA中1000培希釈した100μLのペルオキシダーゼ−結合抗−ヒトIgGヤギ抗体(濃度0.8mg/mL;Jackson Immuno Research Laboratories Inc、PA)を添加する。室温2時間および十分に洗浄後、ペルオキシダーゼ酵素活性が次の調製物100μLの添加により現れる(0.066M Na2 HPO4 、0.035M C6 8 7 pH5、0.04%オルソフエニレンジアミンおよび0.014%過酸化水素)。この反応は150μLの1M 硫酸により停止される。吸収は490nmで測定する。
【0066】
上記標準溶液は、市販供給源(Virus Testing Systems、Houston)から、またはCentricon上に濃縮したハイブリドーマ上澄み液のいずれかから得られる。この抗体溶液(1μg/mL)を胎児calf血清中で連続的に2培希釈する。各希釈物についての吸収を測定し、検量曲線をプロットする(吸収の関数としての抗体のng)。このようにして最も生産性のクローンが決定される。
【0067】
B.移植組織片の調製
1/プライマリー繊維芽細胞の分離および培養
皮膚生検を出生後2ないし3日のヤングBALB/C雌マウスについて遂行する。しかし、他のマウス系も適当である。簡単な洗い機械的解離後,上記試料をデイスパーゼ(dispase)(Collaborative Medical Products)5000ユニットおよび1%コラゲナーゼ(Sigma)の存在下、完全DMEM培地30mL中に置く。37℃で2時間後、上記混合物を希釈し、次いで細胞を遠心分離器で収穫し、RPMI1640培地(Gibco BRL)中に再懸濁するに先だって注意深く洗浄する。約1週間培養後、このプライマリー繊維芽細胞を前記工程(A)におけるように選択した生産クローンの培養上澄み液で公知方法を用いて感染させる。また繊維芽細胞NIH3 T3 もモデルによって再移植され得る。それらは上記のように培養され、かつ公知方法により感染させる。生産クローンの1つを用いて感染させたNIH3 T3 細胞の上澄み液中の2F5抗体の存在をELISAテストによりモニターし、500ng/mL/24時間、すなわち1μg/106 細胞/24時間を超える生産性、が評価された。
【0068】
2/ ネオ器官の調製
予めオートクレーブ処理したPTFE繊維(Gore Inc、AZ)を先ずもってラット・テール(tail)コラーゲン溶液(0.1N酢酸中0.5mg/mL溶液)と減圧下2時間接触させる。次いでそれらを血管形成因子(bFGFの2μgおよび繊維約100mg当りVEGFの1μgを含むPBS10mL)を用いて室温で2時間処理するのに先立って、PBS緩衝液を用いて一昼夜再水和したUV殺菌ウエル(12−ウエル板)の底部に拡げる。
【0069】
並行して、上記感染繊維芽細胞(プライマリー繊維芽細胞またはNIH3 T3 )を簡単にトリプシン化する。1.5×107 細胞を培地0.2mL中に再懸濁し、次いで次の混合物2mLをウエル当り添加する:200μLの10×RPMI、24μLの7.5%NaHCO3 、5μLの1M Hepes、20μLのゲンタマイシン、20μLのグルタミン、2μLのFGF(10ng/μL)、2μLのEGF(Epidermal Growth Factor)(10ng/μL)、1.5mLのコラーゲン(2mg/mL)、12μLのNaOH(10N)および15μLの水。37℃で30ないし60分間保温後、上記混合物の重合が観測される。これは、最終日の夜に場合には血管形成因子(bFGFおよびVEGF)の存在下、37℃で約4日間培養する。
【0070】
C.上記移植組織片の再移植
1つまたは2つの移植組織片をBALB/c雌マウスまたは”nude”Swissマウスのいずれかの腹膜腔中に導入する。移植後1月で、それらが腹腔の脂肪組織に定着していることをチエックする。その上、移植後のその月の間に血液試料を定期的に採取すると、ELISA(上記の方法に従った)による2F5抗体の検定では同系間のBALB/cマウスにおける血清の20ng/mLオーダーという、nudeマウスにおける血清の100ng/mLを超過する値が現れる。この抗体レベルは移植後6ないし7週間以上に亙って維持される。
【0071】
HIVウイルス感染を抑制する2F5抗体の上記効力をSCID(Severe Combined Immuno Deficiency)マイスを対称に評価した。それらは、ヒト細胞またはヒト組織への導入により尚一層人間化し得るT細胞または成熟B細胞を全然保有しない免疫欠失マウスである。この処置をするとそれらがHIV(Namikawaら、1988、Science 242、1684−1686)により感染可能になる。
【0072】
2F5抗体を分泌する1つまたは2つのネオ器官をヒト化SCIDマウスの腹腔中に、ヒトリンパ球細胞CEM A3 (40×106 細胞)の腹膜内注射により移植する。移植後3ないし5週間で、HIVウイル(HIVI Bru単離物の1000TCID50静脈内)を用いてマウスに抗原投与する。感染後3日の上記動物からこの細胞を回収し、培養する。この細胞上澄み液を定期的間隔を隔て採取し、逆転写酵素活性を決定する。このヒト細胞はHIVによる感染に対して保護され、この保護は実験の全期間(50日間)に亙って維持される。実際のところ、この逆転写酵素活性は2F5抗体を分泌する上記移植組織片の移植を受け入れているマウスにおける検出いき値以下である(非感染化標準試料に類似の挙動)。これらのデータはそれらの血液流中に2F5を生産する動物におけるHIV複製の阻害を反映している。
【0073】
実施例2:抗癌免疫療法用の移植組織片の調製
A.17−1−A抗体の発現および分泌に用いるジシストロン・レトロウイルスベクターの構成。
1番目に、プラスミドpBluescript SK+をNotIを用いて消化し、次いで自己再結合するに先立ってDNAポリメラーゼの大きなクレノウフラグメントを用いて処理する。上記NotI部位が破壊されているベクターpTG6336が生じる。並行して、17−1−A抗体の軽鎖をコードするcDNAを、17−1−Aハイブリドーマ細胞(Sunら、1987、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84、214−218;Herlynら、1979、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、76、1438−1442)から単離したmRNAから構成されるcDNAライブラリーからPCRにより単離する。1つの指針として、この抗体はヒト結腸癌腫細胞表面に存在するトランスメングラン糖タンパクGA733−2(Szalaら、1990、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、87、3542−3546)のエピトープに向かって指向する。このPCRは、引続くクローニング工程を容易にするための制限部位を導入し、5’にはEcoRiおよびNCoI部位ならびに3’にはBg1IIおよびXbaI部位にそれぞれするように設計されたプライマーOTG6114およびOTG6115(SEQ ID NO:5および6)を使用する。アガローズゲル中でチェック後、このようにして生じたPCRフラグメントをEcoRiおよびXbaIで消化し、次いで同じ部位間のpTG6336中にクローン化する。pTG6339が生ずる。
【0074】
後者はEcoRIおよびNcoIで消化し、かつIRES部位を備えたpTG4369のEcoRI−NcoIフラグメントに結合されてpTG6343を与える。残基Gly−Gly−Gly−Gly−Serをコードする小さなスペーサーが挿入される場所に停止コドンが欠如している17−1−A抗体重鎖をコードするcDNAが後者中に導入する。上記cDNA HC 17−1−Aは前記cDNAライブラリーからPCRを用いて、かつオリゴヌクレオチドOTG6192およびOTG6194(SEQID NO:7および8)を用いて得られる。Sa1I−EcoRIで消化された上記PCRフラグメントの挿入はpTG6346の生成を可能にする。
【0075】
後者はNotIを用いて直線化し、次いでバルナーゼ(barnase)をコードする配列を備えたNotIフラグメントに配位子結合させるとpTG6347を与える。バルナーゼをコードする遺伝子はBacillus amyloliquefaciensゲノムDNAおよびプライマーOTG5147およびOTG5148(SEQ ID NO:9および10)の調製物からPCRにより得られる。このオリゴヌクレオチドは、成熟バルナーゼの第1アミノ酸に相当するコドンの5’中に、および上記停止コドンの3’中に1つのNotI制限部位が導入されるように設計された。かくして生成したPCRフラグメントの配列がHartley(1988、J.Mol.Biol.、202、913−915)に開示のそれと一致しているかをチェックする。
【0076】
並行して上記NotIフラグメントは、NotI部位が部位指向性(site−directed)突然変異誘発によりクローニング部位内に予め導入されている、例えばベクターM13TG130(Kienyら、1983、Gene、26、91−99)等のM13−型ベクター中に挿入される。部位指向性突然変異誘発による制限部位の修飾は当業者には公知の技術である。かくして得られたベクターはオリゴヌクレオチドOTG5299(SEQID NO:11)により部位指向性突然変異誘発に処して、天然バルナーゼの位置27におけるリシン残基(LysまたはK)をアラニン残基(AlaまたはA)により修飾する。次いで、上記修飾NotIフラグメントを単離し、かつ上記のようにベクターpTGG6346中に導入してpTG6348を与える。
【0077】
ベクターpTG6347またはpTG6348から単離されたSalI−Bg1IIフラグンメントは、予めXhoIおよBamHIで消化させたベクターpTG2673中に転移される。それぞれベクターpTG6356およびpTG6357が得られる(図3および図4)。
【0078】
その上、HC17−1−A、EMCV IRES、続いてLC−17−Aをコードする配列を含むジシストロンベクターが構成される。1つの停止コドンを備えた上記HCフラグメントは、オリゴヌクレオチドOTG6192(SEQID NO:7)およびOTG6193(SEQ ID NO:12)を用いてベクターpTG6346からPCRにより得られる。その5’および3’末端それぞれにSalIおよびEcoRI部位を備えたこのPCRフラグメントは、同じ酵素を用いて消化したベクターpTG6343中に挿入されてpTG6345を与える。後者のSalI−BgIIフラグメントはpTG2673のXhoIおよびBamHI間にクローン化される(図5)。
【0079】
ウイルス粒子は、実施例1に記載の方法に従ってベクターpTG6355、pTG6356およびpTG6357(pLXSPとの共トランスフエクション)を用いて上記GP+E−86細胞のトランスフエクションにより、実施例1記載の方法により生ずるが、唯一の差異はこのトランスフエクションされたクローンは次の述べるように17−1−A抗体類の生産に対して試験されることである。予め緩衝液(80mM Na2 CO3 、200mM NaHCO3 、pH9.6)中に100培希釈された抗−マウス免疫グロブリン抗体(Southern Biotechnology)の100μlをマイクロタイター板(Nunc)のウエル中に分配し、4℃で一夜保温する。1×PBS緩衝液、10mMEDTA、0.05%Tween20を用いて十分に洗浄して非吸収抗体を除去する。200μLの1×PBS溶液、1%BSA(Bovine血清アルブミン)を加えて37℃で1時間、ウエルを飽和する。この段階後、プレートを再度洗浄し、次いで対照シリーズ(1×PBS中に希釈、1%BSA)または試験すべき培養上澄み液を撹拌しながら室温で2時間置き保温する。数回洗浄後、1×PBS緩衝液、1%BSAで5000倍に希釈したビオチン(Southern Biotechnology)に結合した、100μLの抗−Ig2 aヤギ抗体(17−1−Aのイソタイプ)と共に保温する。撹拌下に室温で1時間保温後、8回洗浄して過剰分を除き、次いでペルオキシダーゼ・ストレプトアビジン溶液(Amersham)100μL(1000培希釈)を分配する。45分保温に続く十分な洗浄後、基質溶液(1板当り:12.5mLの25mMクエン酸塩緩衝液、50mM Na2 HPO4 、pH5;OPD(オルソーフエノールジアミン、Sigma)の5mgの1パステル紙;5μLの35%H2 2 )の100μLの添加により酵素活性が現れる。この反応は25μLの3M硫酸(ウエル当り)の添加により停止される。次いで吸収を490nmで読む。
【0080】
上記培養上澄み液中に存在する抗体の量は次のように調製した検定シリーズの関数として確証される:この17−1−Aハイブリドーマ細胞を”nude”マウス中に注射する。腹水症の形成後、腹水症の液体を採取し、タンパクAセフアローズカラム上を通過させて、これから17−1−A抗体を精製する。この方法は当業者に公開された公知方法である。精製17−1−A抗体の1溶液は1μg/mL濃度で調製し、次いでPBS緩衝液中で連続的に2培希釈する。希釈物のそれぞれの場合の吸収を測定し、その検量曲線を確立する(吸収の関数としての抗体のng)。上記トランスフエクションベクターによれば、最も生産性のクローンは17−1−A抗体/106 細胞/24時間で200ないし900ngを分泌する。
【0081】
B.移植組織片の調製
上記NIH3 T3 細胞は上記最も生産性のクローン(ベクターpTG6355、pTG6356およびpTG6357による上記GP+E−86細胞のトランスフエクションにより誘導される)を用いて感染させ、17−1−A抗体の分泌の場合につきELISAによりその培養上澄み液を試験する。上記構成物によれば100ないし1000ng/106 細胞/24時間の範囲で変わる抗体レベルが検出される。
【0082】
その上、生じた抗体がSW948細胞により発現されるGA733抗原を認識することをチエックする。この場合、フローサイトメトリー方法が採用される。上記SW948細胞(ATCC CCL237)は完全DMEM培地中で培養される。それらはトリプシンの作用で脱離し、カウントし、次いで5×105 細胞を96−ウエル板のウエル中に分配する。この板をブレーキなしに1000rpmで1分間、遠心分離して細胞をペレット化する。上澄み液を除き、板をボルテックスにかけ、細胞をFACS緩衝液(カチオン1×pBS、1%BSA、0.1%ヒトγグロブリン、5mM EDTA)の100μL中に再懸濁する。この板を再度円心分離し、上澄みを除去する。次いで細胞を、試験すべき培養上澄み液中またはFACS緩衝液中の対照抗体の希釈液中に再度懸濁し、4℃で1時間保温する。次いで上記条件下、4回洗浄し、次いで細胞をFACS緩衝液中100倍希釈したフルオレセイン−結合抗マウス免疫グロブリン・ヤギF(ab’)2 フラグメント(DTAF)(Jackson Immuno Reseach Laboratories)の100μL中に再懸濁する。さらに4℃で1時間保温すると、上記抗体の結合が許容される。過剰分を4回の洗浄で除き、最後に細胞をフローサイトメーターFACScan(Becton Dickinson)を用いて分析するのに先立ってカチオン性1×PBSの300μL中に再懸濁する。試験した全ての上記NIH3 T3 上澄み液(3タイプのウイルス粒子を用いた感染から得られた)はターゲットGA733タンパクに結合しうる抗体を分泌することが観察される。
【0083】
抗体がバルナーゼまたはその弱毒化対応物(pTG6356およびpTG6357)に融合される場合の構成物の場合は、融合抗体がヌクレアーゼ活性を有することをチエックし得ることが有利である。この場合、tRNAの劣化をモニターする。試験すべき上澄み液または既知濃度(反応対照として)のRNAseA溶液の100μLを200μLの0.5M Tris−HCl、pH7.5、5mMEDTA、0.5mg/mgのBSAおよび1mg/mL最終濃度のtRNAに加え、37℃で30分間保温する。次いでこのチユーブを氷上に置き、6%過塩素酸700μLを添加して氷上で10分間、このtRNAを沈殿させる。4℃における最高速度での10分間の遠心分離によると、このtRNAがペレット化して酵素の作用により放出された遊離ヌクレオチドが懸濁体中に残る。これらのヌクレオチドの吸収を260nmにおいて判読する。
【0084】
上記移植組織片は、ベクターpTGH6355。pTG6356またはpTG6357を用いて形質導入したプライマリーマウス繊維芽細胞またはNIH3 T3 細胞のとり込みにより、実施例1に示した方法に従って構成し得る。
【0085】
実施例3:免疫アドヘシン(immunoadhesin)を分泌し、抗−AIDS免疫治療を意図した移植組織片の調製
この目的はHIVウイルス・グリコタンパクを結合している”粘着性”分子の、およびその構造を安定化し、非特異的免疫を与える免疫グロブリンの融合から生ずる免疫アドヘシンの製造にある。この粘着部分はCD4 膜タンパク(図6に構造を示す)から誘導され、N−末端部分はそれから保持されている(シグナル配列および細胞外領域のIおよびIIドメイン)。幾つかの研究によれば、それらはそれら自身でgp120を結合することが可能で、HIVのCD4+ターゲット細胞への相互作用および浸透のブロッキング(Trauneckerら、1988、Nature 331、84−86;Deenら、1988、Nature 331、82−84;Husseyら、1988、Nature 331、78−81;Fisherら、1988、Nature 331、76−78)が可能であることを示している。上記免疫グロブリン部分は2F5抗体の定状γ3 領域(ヒンジ領域−CH2 −CH3 )からなる。このハイブリッド分子は以後、sCD4 −2F5として表される。
【0086】
このものの構成は次の態様で遂行される(図7参照):
このsCD4 領域(シグナル配列−IおよびIIドメイン)をコードする配列は公知のようにPCRにより単離される。鋳型としては、(CD4+細胞のmRNAから得られる)文献記載のcDNA CD4 を用い、またはcDNAがクローン化されている公知プラスミド(Jay Maddon等、1985、Cell 42、93−104)が用いられ、これはプライマ−OTG7094およびOTG7095(SEQ ID NO:13および14)とハイブリダイズする。1番目のものはXhoI部位およびKozakタイプ共通配列をCD4 イニシエーターATGの上流に導入し得るもので、2番目のものは一方でIICD4 ドメインのC末端に該当し、他方では2F5HCのヒンジ領域のN末端に該当するヌクレオチドを備えている。この反応は25サイクルに亙って生起する(94℃で1分、50℃で2分、および72℃で3分)。
【0087】
上記2F5HCの定状部γ3 セグメントをコードする配列はPCRによっても増幅される。上記pTG2677およびプライマ−OTG7097およびOTG7096(SEQ ID NO:15および16)が使用される。1番目はOTG7095と相補であり、2番目はCH3 領域以内に位置するXmaI部位をカバーする。
【0088】
かくして生じたPCR生産物は30bpに亙ってオーバーラップする。それらは再度ハイブリッド化され、2段階で生起する第2増幅反応、最初の場合は再ハイブリッド産物を拡張し(10サイクル:94℃で1分、37℃で2分および72℃で3分)、次いでプライマーOTG7094およびOTG7096(SEQID NO:13および16)の存在下、指数的増幅(20サイクル:94℃で1分、50℃で2分および72℃で3分)に処せられる。
【0089】
この最終生産物は完全sCD4 −2F5分子を再構成するためにpTG2677のXhoIおよびXmaI部位の間に挿入されてpTG8332を与える。これはXhoI−BamHI消化により切除され、かつマウスPGKプロモーターの下流でベクターpTG6368中にクローン化される。pTG8338が得られる(図8)。
【0090】
このNIH3 T3 細胞は10μgのBglII−直線化pTG8338を用いてトランスフエクションされる。2日後、この細胞をピユーロマイシンの増加濃度(5ないし75μg/mL)中で培養する。sCD4 −2F5タンパクの発現は、CD4 部分(Leu3A;Becton Dickinson)または2F5部分(ヒトIgG3のヒンジ領域に対するマウスモノクロナール抗体;Interchim)のいずれかを認識する抗体および、フルオレセイン−結合−抗マウスIg補助抗体(Jackson Laboratories)からなる複合体を用いた免疫蛍光検定法により証明される。細胞プールの約30%は検出可能レベルの免疫アドヘシンを発現する。この理由で、生産クローンはクローン希釈により単離される。
【0091】
ウイルス粒子の生産は公知方法に従ってトランスフエクションされたGP+E−86細胞中で実施され、かつピユーロマイシンの存在下で選択される。次いでターゲットNIH3 T3 細胞を細胞上澄み液で感染させ、免疫蛍光検定法により細胞の100%におけるトランス遺伝子の発現を確認する。
【0092】
ELISAにより定量化を行う。先ず1番目に、500ngのHIV−1ウイルスgp160エンベロープ・グリコタンパクを置いてCD4 −2F5分子のCD4 部分に結合するようにする。このものは国際出願WO92/19742号に示されるような組換えルートにより生産される。次いで検定すべき上澄み液を加え、最後に2F5部分に対する抗体(ペルオキシダーゼ−抱合抗−ヒトIgヤギ抗体;Interchim)を加える。上記検定溶液はフロー・セフアロース−Gタンパクカラム(Pharmacica)上の培養上澄み液から精製した組換え免疫アドヘシンからなる。10μg/mL/24h/106 細胞以上の生産性が上記感染NIH3T3細胞の上澄み液から測定される。この試験ではまた、このタンパクがgp160を結合し得ること、および結果としてその治療的機能を発揮するためにHIVウイルスを結合し得るはずであることを示している。
【0093】
上記感染NIH3 T3 細胞はF175フラスコ中で培養することにより増幅される。それぞれが約107 細胞を含む4つのオルガノイドを実施例1に詳しい方法を適用して発生させ、4nudeBALB/c 雌マウスの腹膜腔中に移植する。血清中への免疫アドヘシンの分泌を移植後5週間迄モニター(ELISAによる検定)する。結果は、100ないし200μg/mLのオーダーの濃度と、実験期間中の連続分泌とを示す。
【0094】
実施例4:免疫アドヘシンsCD4 −2F5およびヒトアンギオゲニンの融合から得られるタンパクを分泌する移植組織片の調製
アンギオゲニンはリボヌクレオチド分解酵素のフアミリーに属する14.1kDaプラズマタンパクの1つである。しかし、その溶解作用は引用リボヌクレアーゼA(RNase A)の作用よりも限定的であり、かつある種のRNAs(特に18sおよび28sリボソーマルRNAsおよびトランスフアーRNAs)に対して選択的である。この遺伝子およびcDNAは約10年前にクローン化された(Kurachiら、1985、Biochemistry 74、5494−5499)。
【0095】
sCD4 −2F5下流のアンギオゲニンをコードする配列の融合はHIV感染細胞を指向して破壊し得るタンパクの合成を許容するはずである。それらはプライマーOTG10089およびOTG10090(SEQ ID NO:17および18)によってプラスミドpHAG1(Kurschiら、1958、supra)からPCRにより得られ、これらのプライマ−はそれらの5’末端のEcoRI制限部位および成熟タンパクの最初のコドンの5’および停止コドンの3’のそれぞれに位置するBamHI制限部位を含んでなる。
【0096】
立体障害が理由で、上記2者間にはスペーサーの導入が選択される。このPCR反応は、XmaI部位(内部CH3 )から上記停止コドンへと伸長する2F5の部分を増幅する目的で、鋳型pTG2677およびオリゴヌクレオチドOTG10087およびOTG10088(SEQ ID NO:19および20)によって実施される。上記プライマーOTG10088は上記停止コドンを除き、かつ残基Gly−Gly−Gly−Gly−Serをコードするスペーサーと同様1つのBamHI部位を3’中に導入するように設計される。
【0097】
BamHI部位により区画された上記2つのPCRフラグメントは互いに結合される。このXmaI−EcoRIフラグメントを単離し、配列立証の目的で先ずpBluescript中に、最後に完全融合配列”sCD4 −2F5−アンギオゲニン”を再構成するためにベクターpTG8332中に挿入する。pTG8373が得られる(図9)。この完全ユニットをXhoI−Bg1II消化により摘出し、XhoIおよびBamHIで直線化したレトロウイルスベクターpTG6368中にクローン化できる。このウイルス粒子は上記のように構成され、かつ上記オルガノイドは感染ターゲット細胞NIH3 T3 またはプライマリー繊維芽細胞から生成し得る。
【0098】
実施例5:免疫アドヘシンsCD4 −2F5を発現するアデノウイルスベクターの調製
次に記載の構成に用いたアデノウイルスゲノムフラグメントは、記号M73260としてGenebankデータバンク中に開示があるようにタイプ5アデノウイルス(Ad5 )ゲノムのヌクレオチド配列中のそれらの位置に従って正確に示される。
【0099】
β−グロビン・ヒト遺伝子のイントロンおよびポリアデニル化シグナル(pA)はベクターpBCMG/Neo(Karasuyama、1988、EurJ.Immuno.18、97−104;Karasuyama、1989、J.Exp.Med.169、13−25)から得られ、かつRSVウイルス3’LTRの下流のプラスミドpREP4 (InVitogenTM)中に導入される。このカセット”RSV−イントロン−pA β−グロビンプロモーター”は上記ベクターからSa1I−BamHIフラグメントの形態で単離され、かつベクターpTG9350中に挿入される。後者はp polyII(Latheら、1987、Gene 57、193−201)中のヌクレオチド1ないし458、および3328ないし5788へ伸長するAd5 ゲノム配列のクローニングにより得られる。
【0100】
多重クローニング部位(EcoRI、XhoI、NotI、XbaI、SpeI、BamHI、EcoRV、HindIII、ClaI、KpnIおよびBglII)を備えたポリリンカーは上記段階で得られたベクターpTG8346中のイントロンとpAとの間に導入されてpTG8347が創られる。
【0101】
ハイブリッドタンパクsCD4 −2F5をコードするこの配列はXhoI−BamHI消化によりベクターpTG8338(実施例3)から単離され、かつXhoIおよびBglIIIを用いて開裂したベクターpTG8347中に導入され、RSVプロモーターのコントロール下にそれらの発現を可能とするpTG8349を生じる。
【0102】
この組換えベクターの完全ゲノムの再構成にはin vitroでの相同組換え方法が用いられる(フランス特許出願第94/14470号公報に記載)。この目的には、E1 およびE3 領域(Ad5 1ないし458−Ad2 MLPプロモーター−LacZ遺伝子−pA SV40−Ad5 3329ないし28529および30470ないし35935)が欠失したAd5 ゲノムを含むベクターpTG4656が用いられる。国際出願WO94/28152号公報中に記載のような他のE1-E3-アデノウイルスベクターのいずれも適当である。BJ5183細胞(Hanahan、1983、J.Mol.Biol.166、557−580)は酵素ClaI(10ないし20ng)で直線化したpTG4656およびpTG8349(約10倍モル過剰)から精製したPacI−BstXIフラメントにより共形質転換される。相同アデノウイルス配列のレベルでの組換えは、pTG4656のLacZカセットの、sCD4 −2F5のカセット(RSVプロモーター−β−グロビンイントロン−sCD4 - 2F5遺伝子−pAβ- グロビン)(pTG8349由来のフラグメントを有する)による置換が起きる。ベクターpTG8357が生成する(第10図)。
【0103】
この組み換えウイルスは細胞293(ATCC CRL1573)へのpTG8357のトランスフエクションにより得られる。5プラークを選択し、新しい293細胞の存在下、F25フラスコ中で培養して増幅する。5日後、感染細胞を収穫し、かつHIRTH分析(GluzmanおよびVan Doren、1983,J.Virol.45、91−103)にかけて形質転換遺伝子の存在を立証する。要約すれば、このHIRTH分析はアデノウイルスゲノムの抽出、ウイルスDNAの沈殿、適当な制限酵素による消化、細胞膜上への輸送およびsCD4 - 2F5配列とハイブリッド化し得る放射活性プローブを用いてのハイブリッド形成からなる。分析する5つのアデノウイルスから正のシグンナルが観察される。
【0104】
293細胞における連続増幅、2つの塩化セシウム濃度勾配での精製および透析により本質的なアデノウイルスストックが構成される。このストックは臨床的抗- AIDS試験との関連で使用され得る。
【0105】
実施例6:細胞障害性免疫アドヘシンsCD4-2F5−アンギオゲニンを発現するアデノウイルスベクターの調製
融合タンパクsCD4-2F5−アギオゲニンをコードする配列をXnoI- BglII消化によりベクターpTG8373(実施例4)から摘出し、かつベクターpTG8347(実施例5)の同部位のレベルでクローン化する。ベクターpTG8376が得られ(図11)、このものは例えばpTG4656アデノウイルスベクターを用いる相同組換えに処すると、HIVウイルス感染細胞に向かって指向する細胞障害免疫アドヘシンを発現する欠陥組換えアデノウイルスが生成する。
【0106】
配列表
(2)SEQ ID NO:1の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:25塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル配列:NO
(iii)アンチセンス:NO
(vi)起原:
(B)株名:合成オリゴヌクレオチドOTG5168
(xi)配列:SEQ ID NO:1:
GGAAGCTTCC ATGGACATGA GGGTC 25

(2)SEQ ID NO:2の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:25塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:YES
(vi)起原:
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG5169
(xi)配列:SEQ ID NO:2:
AAGAATTCCT AACACTCTCC CCTGT 25

(2)SEQ ID NO:3の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:25塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:NO
(vi)起原:
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG5170
(xi)配列:SEQ ID NO:3:
AAAAGCTTCC ATGGAGTTGG GTCTG 25

(2)SEQ ID NO:4の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:25塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:YES
(vi)起原:
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG5171
(xi)配列:SEQ ID NO:4:
GGGAATTCTC ATTTAGCCGG AGACA 25

(2)SEQ ID NO:5の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:27塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:NO
(vi)起原:
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG6114
(xi)配列:SEQ ID NO:5:
GGGAATTCCA CCATGGGCAT CAAGATG 27

(2)SEQ ID NO:6の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:30塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:YES
(vi)起原:
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG6115
(xi)配列:SEQ ID NO:6:
GGTCTAGATC TAACACTCAT TCCTGTTGAA 30

(2)SEQ ID NO:7の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:27塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
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(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
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(vi)起原:
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG6192
(xi)配列:SEQ ID NO:7:
CTGTCGACCA CCATGGATGG AGCAGAG 27

(2)SEQ ID NO:8の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:43塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
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(ii)分子タイプ:cDNA
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(vi)起原:
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG6194
(xi)配列:SEQ ID NO:8:
ACGAATTCGC GGCCGCGCTC CCTCCGCCAC CTTTACCCGG AGT 43

(2)SEQ ID NO:9の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:26塩基対
(B)タイプ:核酸
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(ii)分子タイプ:DNA(ゲノム)
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:NO
(vi)起原:
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG5147
(xi)配列:SEQ ID NO:9:
CTGTGGCGGC CGCCGCACAG GTTATC 26

(2)SEQ ID NO:10の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:28塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:DNA(ゲノム)
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:YES
(vi)起原:
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG5148
(xi)配列:SEQ ID NO:10:
CAGGCGGCCG CTTTTTTCGT TATCTGAT 28

(2)SEQ ID NO:11の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:21塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:DNA(ゲノム)
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:NO
(vi)起原:
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG5299
(xi)配列:SEQ ID NO:11:
TACATTACAG CCTCAGAAGC A 21

(2)SEQ ID NO:12の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:23塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:YES
(vi)起原:
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG6193
(xi)配列:SEQ ID NO:12:
ACGAATTCTC ATTTACCCGG AGT 23

(2)SEQ ID NO:13の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:35塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:NO
(vi)起原:
(A)生物:ヒトCD4 cDNA
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG7094
(xi)配列:SEQ ID NO:13:
CCGCTCGAGC CACCATGAAC CGGGGAGTCC CTTTT
35

(2)SEQ ID NO:14の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:30塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:YES
(vi)起原:
(A)生物:ヒトCD4 cDNA
(B)株:合成オリゴヌクレオチドOTG7095
(xi)配列:SEQ ID NO:14:
ACAAGATTTG GGCTCCTGGA AAGCTAGCAC 30

(2)SEQ ID NO:15の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:30塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:NO
(vi)起原:
(A)生物:抗体2F5の重鎖のcDNA
(B)株:合成オリゴヌクレオチド(OTG7097)
(xi)配列:SEQ ID NO:15:
GTGCTAGCTT TCCAGGAGCC CAAATCTTGT 30

(2)SEQ ID NO:16の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:36塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:YES
(vi)起原:
(A)生物:抗体2F5の重鎖のcDNA
(B)株:合成オリゴヌクレオチド(OTG7096)
(xi)配列:SEQ ID NO:16:
TGGGCCCGGG ATGGGGGCAG GGTGTACACC TGTGGT
36

(2)SEQ ID NO:17の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:27塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:NO
(vi)起原:
(A)生物:ヒトアンギオゲニンcDNA
(B)株:合成オリゴヌクレオチド(OTG
10089)
(xi)配列:SEQ ID NO:17:
GGGGGATCCC AGGATAACTC CAGGTAC 27

(2)SEQ ID NO:18の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:27塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:YES
(vi)起原:
(A)生物:ヒトアンギオゲニンcDNA
(B)株:合成オリゴヌクレオチド(OTG
10090)
(xi)配列:SEQ ID NO:18:
GGGGAATTCT TACGGACGAC GGAAAAT 27

(2)SEQ ID NO:19の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:30塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:NO
(vi)起原:
(A)生物:抗体2F5の重鎖のcDNA
(B)株:合成オリゴヌクレオチド(oTG
10087)
(xi)配列:SEQ ID NO:19:
TGCCCCCATC CCGGGAGGAG ATGACCAAGA 30

(2)SEQ ID NO:20の情報:
(i)配列特性:
(A)長さ:36塩基対
(B)タイプ:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)分子タイプ:cDNA
(iii)ハイポセティカル:NO
(iii)アンチセンス:YES
(vi)起原:
(A)生物:抗体2F5の重鎖のcDNA
(B)株:合成オリゴヌクレオチド(OTG
10088)
(xi)配列:SEQ ID NO:20:
GGGGGATCCC CCGCCACCTT TAGCCGGAGA CAGGGA
36
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】抗体およびF(ab)およびFcフラグメントの構造の略図である。
【図2】上記抗体2F5の発現を許容するベクターpTG4370の略図である。
【図3】天然のバルナーゼ(barnase)に結合した抗体17−1−Aの発現を許容するベクターpTG6356の略図である。
【図4】弱毒化バルナーゼK27Aに結合した抗体17−1−Aの発現を許容するベクターpTG6357の略図である。
【図5】抗体17−1−Aの発現を許容するベクターpTG6355の略図である。
【図6】CD4 膜タンパクの構造の略図である。
【図7】ハイブリッド分子sCD4 −2F5をコードする配列の構造の図式の説明である。
【図8】ハイブリッド分子sCD4 −2F5の発現を許容するレトロウイルスベクターpTG8338の略図である。
【図9】融合分子sCD4 −2F5−アンギオゲニンをコードする配列を含むベクターpTG8373の略図である。
【図10】ハイブリッド分子sCD4 −2F5の発現を許容するアデノウイルスベクターpTG8357の略図である。
【図11】融合分子sCD4−2F5−アンギオゲニンの発現を許容するアデノウイルスベクターpTG8376の略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の全てまたは1部をコードし、かつその発現に必要な諸要素の制御下に置かれた外因性ヌクレオチド配列を含む、組換えアデノウイルスベクターであって、上記抗体が毒性または免疫強化物質により修飾されていることを特徴とする組換えアデノウイルスベクター。
【請求項2】
上記抗体が天然抗体、キメラ抗体、抗体フラグメントおよび特にフラグメントF(ab’)2 、Fc またはscFvおよび二特異性抗体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項3】
上記抗体が、リボヌクレアーゼ、および特にBacillus amyloliquefaciensからのリボヌクレアーゼ、リシン、ジフテリア毒素、コレラ毒素、単純ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼ、Escherichia coliまたはSaccharomyces属酵母からのシトシンデアミナーゼ、Pseudomonasからの外毒素およびヒトアンギオゲニンまたは上記物質の類似体から選択された毒性物質により修飾されていてもよいことを特徴とする、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項4】
上記抗体が免疫強化物質により修飾されていることを特徴とする請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項5】
ヒト、イヌ、トリ、ウシ、ネズミ、ヒツジ、ブタまたは猿起原のアデノウイルスから誘導されたまたは異なった起原のアデノウイルスゲノムフラグメントを含むハイブリッドから誘導された、請求項1ないし4いずれか1項記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項6】
複製の場合に欠陥があることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項7】
El領域の全てまたは1部および、任意にE3 領域の全てまたは1部を少なくとも欠失していることを特徴とする、請求項6に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項8】
2F5抗体の重鎖、IRES要素および2F5抗体の軽鎖をコードする外因性ヌクレオチド配列を含んでなり;上記外因性ヌクレオチド配列がその発現に必要な諸要素の制御下に置かれている、請求項6または7に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項9】
2F5抗体の重鎖の定状部γ3 領域(ヒンジ領域−CH2 およびCH3 )に操作可能なように融合されたCD4 タンパクのシグナル配列ならびに細胞外IおよびIIドメインをコードする外因性ヌクレオチド配列を含んでなる、請求項6または7に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項10】
2F5抗体の重鎖の定状部γ3 領域(ヒンジ領域−CH2 およびCH3 )に操作可能なように融合し、かつ成熟ヒトアンギオゲニンに操作可能なように融合したCD4 タンパクのシグナル配列ならびに細胞外IおよびIIドメインをエンコードする外因性ヌクレオチド配列を含んでなる、請求項6または7に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項11】
発現に必要な諸要素が、アデノウイルス初期プロモーターE1A、後期プロモーターMLP(Major Late Promoter)、ネズミまたはヒトPGK(ホスホグリセレートキナーゼ)プロモーター、SV40ウイルス初期プロモーター、RSV(ラウス肉種ウイルス)ウイルスプロモーター、腫瘍細胞中で特に活性なプロモーターおよび感染細胞中で特に活性なプロモーターからなる群から選択されたプロモーターを含んでなることを特徴とする、請求項1ないし10のいずれか1項記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項記載の組換えアデノウイルスベクターを含んでなる感染性ウイルス粒子。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれか1項記載の組み換えアデノウイルスベクターまたは請求項12に記載の感染性ウイルス粒子を含んでなる真核宿主細胞。
【請求項14】
薬学的に容認された担体を伴った、請求項1ないし11のいずれか1項記載の組み換えアデノウイルスベクター、請求項12による感染性ウイルス粒子または請求項13に記載の真核宿主細胞を含んでなる薬剤組成物。
【請求項15】
104 ないし1014pfuを含んでなる、請求項14に記載の薬剤組成物。
【請求項16】
注射用形態をなすことを特徴とする、請求項14または15に記載の薬剤組成物。
【請求項17】
遺伝子治療によるヒトまたは動物体の治療および/または予防を意図した薬剤組成物の調製のための、請求項1ないし11のいずれか1項記載の組み換えアデノウイルスベクター、請求項12に記載の感染ウイルス粒子、または請求項13に記載の真核宿主細胞の使用。
【請求項18】
後天性疾患ならびに特に癌およびAIDSの治療および/または予防を意図した薬剤組成物の調製のための、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
静脈内または腫瘍内経路により投与できる薬剤組成物の調製のための、請求項18に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−320331(P2006−320331A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189518(P2006−189518)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【分割の表示】特願平8−509954の分割
【原出願日】平成7年9月13日(1995.9.13)
【出願人】(599082883)トランジェーヌ、ソシエテ、アノニム (32)
【氏名又は名称原語表記】TRANSGENE S.A.
【Fターム(参考)】