説明

徐放用メソポーラスシリカ

【課題】長期に亘って安定に薬剤を徐放することが可能な、細胞膜透過性ベクターを内包する徐放用メソポーラスシリカ、及びその製造方法の提供。
【解決手段】細胞膜透過性ベクターに結合された生理活性物質を、メソ孔内に内包する徐放用メソポーラスシリカ。細胞膜透過性ベクターはペプチチド性ベクターまたは非ペプチド性ベクターから選ばれる。特に生理活性物質が水溶性で難吸収性の場合には、これらを効率よく細胞内に導入し、長期に亘って安定的に徐放することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、徐放用メソポーラスシリカに関する。
【背景技術】
【0002】
生体の細胞膜には特異的な輸送体や受容体が存在しており、これらの働きによって生体に必要とされる物質の選択的な取り込みが行われている。細胞膜は、脂質二重膜によって形成されているため、通常、水溶性の物質は脂質二重膜を透過しにくく細胞内に取り込ませることが困難であった。
【0003】
近年、細胞膜の受容体等の働きによらず、細胞膜を透過するペプチド(細胞膜透過性ペプチド)が知られるようになった。そこで、細胞内に取り込まれにくい物質を細胞膜透過性ペプチドに結合させて、能動的に取り込ませる方法が開発されている(例えば特許文献1又は2を参照)。しかしながら、単に細胞透過性ペプチドに薬物を結合させて、これを一度に投与した場合は、細胞内の薬物濃度は一度に高まり、その後、分解や排出等により減少するために、薬効を得るのに適した薬物濃度を長時間にわたって連続的に保つことは困難であった。また、膜透過ペプチドに薬物を結合させたものを徐放するシステムを用いず、長時間にわたり細胞内の薬物濃度を保つには、ペプチド−薬物複合体の初濃度を高めに設定し、長時間細胞と接するようにすることが必要となるが、この場合、標的の細胞に到達する前にエステラーゼ、プロテアーゼ等の酵素や自己水解によってペプチドが分解されてしまい充分な効果を得ることが難しかった。
【0004】
また、非天然型ペプチド又は非ペプチドの細胞膜透過性の高分子も知られている(例えば特許文献3等を参照)が、細胞膜透過性高分子を用いた徐放システムは知られていなかった。
【0005】
この様な背景から、細胞膜透過性ペプチドが標的細胞に到達するまで酵素によって分解されず、さらに標的細胞に対して長期に亘って薬物を放出できるようなドラッグデリバリーシステム(DDS)が求められていた。
【特許文献1】特開2005−154413
【特許文献2】特開2004−35368
【特許文献3】特開2002−502376
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、長期に亘って安定に薬剤を徐放することが可能な、細胞膜透過性ベクターを内包する徐放用メソポーラスシリカ、及びその製造方法を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、水溶性で難吸収性の生理活性物質を効率よく細胞内に導入し、長期に亘って安定的に徐放することが可能な医薬組成物、皮膚外用組成物、化粧料を提供することをも目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、生体膜(細胞膜)に対して非特異的に高い透過性を有するペプチド性/非ペプチド性のベクターに薬物等を結合させ、メソポーラスシリカのメソ孔内に内包させることによって長期に亘る薬物の放出が可能になることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果得られたものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下の徐放用メソポーラスシリカを提供する。
項1.細胞膜透過性ベクターに結合された生理活性物質を、メソ孔内に内包する徐放用メソポーラスシリカ。
項2.界面活性剤と共に、生理活性物質を結合した細胞膜透過性ベクターが、メソ孔内に内包されてなる項1に記載の徐放用メソポーラスシリカ。
項3.前記細胞膜透過性ベクターが、配列番号1〜7で表される少なくとも1種のペプチド性ベクターである、項1又は2に記載の徐放用メソポーラスシリカ。
項4.前記細胞膜透過性ベクターが、非ペプチド性ベクターである、項1又は2に記載の徐放用メソポーラスシリカ。
項5.生理活性物質が、水溶性難吸収性物質である項1〜4のいずれかに記載の徐放用メソポーラスシリカ。
項6.生理活性物質が、抗腫瘍成分、免疫抑制成分、美白成分、細胞賦活成分、保湿成分、抗酸化成分、抗ウイルス成分及び酵素活性阻害成分からなる群より選択される少なくともいずれか1種である、項5に記載の徐放用メソポーラスシリカ。
項7.項1〜6のいずれかに記載の徐放用メソポーラスシリカを含有する医薬組成物。
項8.散薬、錠剤、カプセル化剤、注射剤及び皮下埋め込み剤からなる群より選択されるいずれかの形態である、項7に記載の医薬組成物。
項9.項1〜6のいずれかに記載の徐放用メソポーラスシリカを含有する皮膚外用組成物。
項10.化粧料の形態である項9に記載の皮膚外用組成物。
項11.生理活性物質を結合した細胞膜透過性ベクター、界面活性剤及び有機シリカ化合物を混合する工程を含む細胞膜透過性ベクターをメソ孔内に内包する徐放用メソポーラスシリカの製造方法。
項12.界面活性剤が、1鎖1親水基型、1鎖多親水基型、多鎖1親水基型、多鎖多親水基型、ブロックコポリマー型及びランダムポリマー型からなる群より選択される少なくともいずれか1種の高分子両親媒性物質である、項11に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の徐放用メソポーラスシリカによれば、標的の細胞中に効率よく所望の生理活性物質を輸送・導入することができる。
【0010】
特に細胞膜透過性ベクターが細胞膜透過性ペプチド(ペプチド性ベクター)である場合、シリカのメソ孔内に内包されていることから、プロテアーゼ等の分解酵素の影響を受けてペプチド性ベクターが細胞内に取り込まれる前に分解されることがなく、ペプチド性ベクターの安定性を向上させることができる。
【0011】
また、生理活性物質が水溶性物質である場合、例えば、皮膚に塗布すると、角層中の脂質膜(細胞膜に相当する部分)がバリアーとなり経皮吸収されにくい。しかしながら、本発明の徐放用メソポーラスシリカを含有する皮膚外用剤や化粧品によれば、有効成分が角層に徐放され、皮膚を透過して長期にわたるDDS(ドラッグデリバリーシステム)として有効に利用できる。
【0012】
また、本発明の徐放用メソポーラスシリカの溶出特性を必要に応じて調節できることから、薬物等の投与期間に合わせて、持続的に必要量の薬物を放出することができるように設計することができる。従って、長期に亘って薬物等の生理活性物質の効果を維持することができる。このような特性から、薬物等の投与回数を減らすこともできる。
【0013】
加えて、本発明の徐放用メソポーラスシリカは、メソ孔内に薬物等の生理活性成分を保持することから、保存安定性にも優れている。
【0014】
さらに、本発明の徐放用メソポーラスシリカは、細胞毒性が非常に低く、生体に対しても極めて安全に適用することができる。また、所定の界面活性剤を選択することによって、より一層安全なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(1)細胞膜透過性ベクターに結合された生理活性物質をメソ孔内に内包する徐放用メソポーラスシリカ
(1-1)細胞膜透過性ベクター
本発明において細胞膜透過性ベクターとは、細胞膜を透過させたい種々の生理活性物質を結合することが可能であり、且つ細胞膜を透過することが可能なアミノ酸配列によって構成されたペプチド、若しくは細胞膜の透過が可能なモノマーによって構成された非ペプチド性ポリマーを指す。ここで、細胞膜とは脂質二重膜構造を有し、生体のあらゆる細胞及び組織を構成する膜を指すが、例えば表皮の角化細胞(ケラチノサイト)、色素細胞(メラノサイト)、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞、毛母細胞、毛乳頭細胞、血管内皮細胞、血管外皮細胞、鼻腔粘膜上皮細胞、口腔粘膜、角膜等の細胞膜及び皮膚角層、毛髪、爪などの組織に存在するラメラ構造の細胞間脂質が挙げられる。
【0016】
本発明において使用される細胞膜透過性ベクターとしては、ペプチドで構成されるベクター(ペプチド性ベクター)、非ペプチドによって構成されるベクター(非ペプチド性ベクター)のいずれもが含まれる。
【0017】
細胞膜透過性ベクターが、ペプチド性ベクターである場合、公知の細胞膜透過性のペプチドを用いることができるが、例えば、Tat Peptide(48-60)(配列番号1)、(Arg)8(配列番号2)、フロックハウスウイルス(FHV)コート蛋白質由来塩基性ペプチド(配列番号3)、(Lys) 3(配列番号4)等の塩基性アミノ酸に富むペプチド;Penetratin(配列番号5)等の塩基性部分と疎水性部分を有する両親媒性ペプチド;Transportan(配列番号6)等の疎水性配列に若干の塩基性配列を含むペプチド;MTS(配列番号7)等の疎水性ペプチド等が挙げられる。
【0018】
さらに上記配列番号1〜7に示される各ペプチドのアミノ酸配列には、これらのペプチドに結合した生理活性物質が細胞膜を透過し、細胞内に導入される活性を保持する限りにおいて、1〜3個、好ましくは1又は2個、より好ましくは1個のアミノ酸の置換、欠失又は付加といった改変を加えてもよい。改変の程度及び位置等は、特に限定されないが、例えば10個のアミノ酸からなるペプチドの場合であれば3個程度、5個のアミノ酸からなるペプチドの場合であれば1〜2個程度の割合で改変するのが望ましい。また、改変は、塩基性アミノ酸以外について行うことが望ましい。
【0019】
置換・付加・欠失の具体的手段としては、該ペプチド性ベクターをコードするDNAを経由して行う場合には、例えばサイトスペシフィック・ミュータゲネシス〔Methods in Enzymology, 154, 350, 367-382 (1987);同 100, 468 (1983);Nucleic Acids Res., 12, 9441 (1984);続生化学実験講座1「遺伝子研究法II」、日本生化学会編, p105 (1986)〕などの遺伝子工学的手法、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイト法などの化学合成手段〔J. Am. Chem. Soc., 89, 4801 (1967);同 91, 3350 (1969);Science, 150, 178 (1968);Tetrahedron Lett., 22, 1859 (1981);同 24, 245 (1983)〕及びそれらの組合せ方法などが例示できる。より具体的には、DNAの合成は、ホスホルアミダイト法またはトリエステル法による化学合成によることもでき、市販されている自動オリゴヌクレオチド合成装置上で行うこともできる。二本鎖断片は、相補鎖を合成し、適当な条件下で該鎖を共にアニーリングさせるか、または適当なプライマー配列と共にDNAポリメラーゼを用い相補鎖を付加するかによって、化学合成した一本鎖生成物から得ることもできる。
【0020】
さらに、ペプチド性ベクターは、ペプチド合成機を用いて固相合成法により合成することもでき、置換・付加・欠失は、ペプチド合成機を用いる場合には保護アミノ酸の種類を変えることにより容易に行うことができる。また、サルコシン(N-メチルグリシン)、オルニチン等の特殊なアミノ酸を導入することもできる。これらのペプチドを構成するアミノ酸は、L体だけでなくD体でも同様の効果が期待できる。D体アミノ酸を利用することによって、皮膚中や血液中での物質の安定性を向上させる効果が期待できる。
【0021】
また、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリオルニチン等の均一なポリカチオン、または2つ以上の異なる正電荷アミノ酸を有するポリカチオンであって、種々の鎖長の不均一なポリカチオン等のペプチド合成ポリカチオンを細胞膜透過性のペプチドベクターとして用いてもよい。
【0022】
上記細胞透過性ペプチドベクターのC末端側には、例えばCys、Gly-Cysなどの様式でCys残基をさらに結合するのが好ましい。該Cys残基のSH基は、架橋剤であるEMCS (N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimide),GMBS(N-(4-Maleimidobutyryloxy)succinimide)等のマレイミド基に付加反応をさせることができる。また、生理活性物質がタンパク質ないしポリペプチドであってフリーのSH基を有する場合には、−SS−結合により導入されるタンパク質ないしポリペプチドに、膜透過性ベクターを連結することができる。−SS−結合を介して連結した場合には、細胞内で該−SS−結合が還元され、非修飾のタンパク質ないしポリペプチドが遊離されるので好ましい。また、細胞内環境に応じて切断されうる他のリンカーを用いることも可能である。
【0023】
細胞膜透過性ベクターが、非ペプチド性ベクターである場合、公知の細胞膜透過性の非ペプチド高分子を用いることができる。非ペプチドベクターのモノマーとしてはそれ自身カチオン性であるエチレンイミン、アミノ基ないし4級アンモニウム基置換ビニルモノマー、またはカチオン基を導入構造のできるアクリルおよびビニルモノマーなどがあり、それらを重合することによりホモポリマーないしは共重合体として非ペプチドベクターを得ることができる。
【0024】
あるいは、ポリマー性ベクターとして6〜25個のサブユニットから成り、その内の少なくとも50%は、グアニジノ基、アミジノ基、アミノ基あるいはその誘導体を含むものを用いることができる。
【0025】
これらの非ペプチドベクターの製造方法、サイズ等は特に限定されず、本発明の効果が損なわれない範囲で、適宜選択することができる。
【0026】
以上のような細胞膜透過性ベクターを、1種単独で用いてもよいが2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
(1-2)生理活性物質
本発明において細胞膜透過性ベクターに結合される生理活性物質としては、水溶性物質又は脂溶性物質のいずれを用いることもできる。通常、水溶性物質は細胞膜を透過しにくく、細胞に吸収されにくい。従って、本発明においては生理活性物質として水溶性難吸収性物質を用いた場合により顕著に本発明の優れた効果が奏される。すなわち、生理活性物質が水溶性物質である場合、当該生理活性物質単独では細胞内に吸収されにくいが、前記細胞膜透過性ベクターに結合させることによって細胞内に効率よく吸収させることができる。
【0028】
本発明において使用される生理活性物質としては、例えば抗腫瘍成分、免疫抑制成分、美白成分、細胞賦活成分、抗酸化成分、保湿成分、抗ウイルス成分、酵素活性阻害成分等が挙げられる。
【0029】
上記細胞膜透過性ベクターに結合され得る抗腫瘍成分としては、従来公知の抗腫瘍剤から選択することができ、特に限定されないが、例えばアルキル化剤、各種代謝拮抗剤、抗腫瘍性抗生物質、その他抗腫瘍剤、抗腫瘍性植物成分、BRM(生物学的応答性制御物質)、血管新生阻害剤、細胞接着阻害剤、マトリックス・メタロプロテアーゼ阻害剤、ホルモン剤、ビタミン剤、抗菌性抗生物質、分子標的薬、化学療法剤等が挙げられる。
【0030】
アルキル化剤として、例えば、ナイトロジェンマスタード、ナイトロジェンマスタードN−オキシド、クロラムブチルなどのアルキル化剤;例えば、カルボコン、チオテパなどアジリジン系アルキル化剤;例えば、ジブロモマンニトール、ジブロモダルシトールなのエポキシド系アルキル化剤;例えば、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ニムスチンハイドロクロライド、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、ラニムスチンなどニトロソウレア系アルキル化剤;ブスルファン;トシル酸インプロスルファン;ダカルバジンなどが挙げられる。
【0031】
各種代謝拮抗剤としては、例えば、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、チオイノシンなどのプリン代謝拮抗剤;フルオロウラシル、テガフール、テガフール・ウラシル、カルモフール、ドキシフルリジン、ブロクスウリジン、シタラビン、エノシタビンなどのピリミジン代謝拮抗剤;メトトレキサート、トリメトレキサートなどの葉酸代謝拮抗剤など、または、それらの塩もしくは複合体が挙げられる。
【0032】
抗腫瘍性抗生物質としては、例えば、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、THP−アドリアマイシン、4’−エピドキソルビシン、エピルビシンなどのアントラサイクリン系抗生物質抗腫瘍剤;クロモマイシンA3 ;アクチノマイシンDなど、または、それらの塩もしくは複合体が挙げられる。
【0033】
その他抗腫瘍剤としては、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、タモキシフェン、カンプトテシン、イホスファミド、シクロホスファミド、メルファラン、L−アスパラギナーゼ、アセクラトン、シゾフィラン、ピシバニール、ウベニメクスもしくはクレスチンなど、または、それらの塩もしくは複合体が挙げられる。また、プロカルバジン、ピポブロマン、ネオカルチノスタチンまたはヒドロキシウレアなども挙げることができる。
【0034】
抗腫瘍性植物成分としては、例えば、ビンデシン、ビンクリスチン、ビンブラスチンなどのビンカアルカロイド類;エトポシド、テニポシドなどのエピポドフィロトキシン類、または、それらの塩もしくは複合体が挙げられる。
【0035】
BRMとしては、例えば、腫瘍壊死因子もしくはインドメタシンなど、または、それらの塩もしくは複合体が挙げられる。
【0036】
血管新生阻害剤としては、例えばフマジロール誘導体、または、その塩もしくは複合体が挙げられる。
【0037】
細胞接着阻害剤としては、例えばRGD配列を有する物質、または、その塩もしくは複合体が挙げられる。
【0038】
マトリックス・メタロプロテアーゼ阻害剤としては、例えばマリマスタットもしくはバチマスタットなど、または、それらの塩もしくは複合体が挙げられる。
【0039】
ホルモン剤としては、例えばヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プラステロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、オキシメトロン、ナンドロロン、メテノロン、ホスフェストロール、エチニルエストラジオール、クロルマジノンもしくはメドロキシプロゲステロンなど、または、それらの塩もしくは複合体が挙げられる。
【0040】
免疫抑制成分としては、シクロスポリン、FK−506、ラパマイシン、ステロイド剤、アザチオプリン、ミゾリビン、ミコフェノール酸モフェチル、抗T細胞抗体、ラパマイシン、15−デオキシスパガリン等の免疫抑制剤が例示される。
【0041】
抗ウイルス成分としては、イドクスウリジン、ビダラビン、トリフルリジン、アシクロビル、ペンシクロビル等が挙げられる。
【0042】
酵素活性阻害成分としては、ハイドロキノン、コウジ酸、アルブチン或いはビタミンCなどのチロシナーゼ阻害剤、フラボノイドなどのマトリックスメタロプロテアーゼ、ウロキナーゼ、ヒアルロニダーゼ及びエラスターゼの活性阻害剤等が挙げられる。
【0043】
美白成分は、肌のくすみやシミを改善する目的で配合することができ、アルブチン、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸リン酸マグネシウム塩、アスコルビン酸グルコシド、システイン、グルタチオン、グルタチオンの塩、N−アシル化グルタチオン、グルタチオンのエステル、ハイドロキノン、ハイドロキノンの塩、ハイドロキノンの配糖体、フェルラ酸、フェルラ酸の塩、イソフェルラ酸、イソフェルラ酸の塩、カフェー酸、カフェー酸の塩、4−n−ブチルレゾルシノール等のレゾルシノール類、エルゴ酸、エルゴ酸の塩、プラセンタエキス、カフェイン、タンニン、べラパミル、トラネキサム酸、グラブリジン、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸、コウジ酸、エラグ酸、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0044】
また、皮膚のターンオーバーを促進する目的で細胞賦活成分を結合させることもできる。皮膚のターンオーバーを促進することによって、シワやシミ等の改善が期待される。
【0045】
保湿成分は、肌の乾燥を防ぐ目的で配合することができ、例えばウシ血清アルブミン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ムコ多糖体、ヒアルロン酸等が挙げられる。
【0046】
抗酸化成分としては、ビタミンCおよびその誘導体、ポリフェノール類、カテキン類、アスタキサンチン、グルタチオン等が挙げられる。
【0047】
本発明においては、1つの細胞膜透過性ベクターに1種類の生理活性物質が結合されていてもよいが、2種以上の生理活性物質が結合されていてもよい。
【0048】
また、生理活性物質は、直接ペプチドベクターに結合されていても良いが、従来公知のスペーサーを介してペプチドベクターに結合させることができる。
【0049】
例えば、細胞内に導入される生理活性物質がタンパク質ないしポリペプチドであって、当該細胞透過性ペプチドベクターがC末端にシステイン残基を有する場合、適当な架橋剤を介して連結することができる。この様な場合、架橋剤としては、本発明の細胞透過性ペプチドベクターと導入される生理活性物質を結合することができる、少なくとも2価の架橋剤であれば特に限定されないが、例えばEMCS、GMBS等が挙げられる。また、ペプチドベクターのC末端にCys、Gly-Cysなどの様式でCys残基をさらに結合し、細胞透過性ペプチドベクターのC末端のシステイン残基と−SS−結合を介して連結してもよい。
【0050】
また、本発明の細胞透過性ペプチドベクターをコードするポリヌクレオチドと導入されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(遺伝子)を、好ましくは直接に結合し、ベクターに導入し、大腸菌等の宿主細胞内で発現させるなどの常法により、本発明の細胞透過性ペプチドベクターのC末端側に導入されるタンパク質ないしポリペプチドが直接連結されたペプチドコンジュゲートを得ることができる。
【0051】
また、生理活性物質がスペーサーを介してペプチドベクターに結合する場合、例えば、スペーサーとしてはγアミノ酪酸(GABA)、βアラニン、グリシン、コハク酸等が挙げられる。
【0052】
細胞膜透過性ベクターに結合される生理活性物質の結合量は、各物質の有効量を参考に適宜設定され得るが、例えば10〜90重量%程度、好ましくは15〜70重量%程度、より好ましくは20〜60重量%程度である。
【0053】
(1-3)徐放用メソポーラスシリカ
メソポーラスシリカは、界面活性剤によって形成された3次元の多孔構造(テンプレート)を有機シリコン化合物に転写して得られる。メソポーラスシリカの製造方法としては、従来公知の方法を参照することができ、例えば特許公報3829188、特開2004-345895等が挙げられる。これらの文献に開示される製造方法においては、テンプレートを有機シリコン化合物に転写した後、界面活性剤を洗浄や焼成によって除去しているが、本発明では必ずしも界面活性剤を除去する必要はない。
【0054】
メソポーラスシリカの原料となる有機シリコン化合物としては、主に各種のアルコキシシランが利用される。これらは、反応条件下に迅速に加水分解されるものであればその構造を問わないが、4つのアルコキシ基が同じであるテトラアルコキシシランを用いるのが簡便である。また、アルコキシ基についても、メトキシ、エトキシ、プロポキシ等が使用可能であるが、加水分解の速度を鑑みると、テトラメトキシシラン(TMOS)又はテトラエトキシシラン(TEOS)が好ましい。
【0055】
界面活性剤としては、メソポーラスシリカの製造の分野において従来使用されている各種界面活性剤(アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤)を採用できる。ただし、製造過程で界面活性剤を除去しない場合は特に、細胞毒性の低い界面活性剤を使用するのが望ましい。
【0056】
本発明において使用される界面活性剤としては、本発明の効果を損なわない限りそのタイプは特に限定されず、1鎖1親水基型、1鎖多親水基型、多鎖1親水基型、多鎖多親水基型、さらに各種の高分子両親媒性物質が挙げられる。高分子両親媒性物質としてはブロックコポリマー型、ランダムポリマー型等挙げられる。本発明の実施にあたってはこれらの界面活性剤から適宜選択して単独あるいは併用して用いることができる。
【0057】
本発明において使用される界面活性剤の具体的な例としては、
ポリオキシエチレン(POE)−ポリオキシプロピレン(POP)ブロックコポリマー (例えば、ポロクサマー407 、ポロクサマー235 、ポロクサマー188 など) 、エチレンジアミンのポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー付加物(例えば、ポロキサミン)、モノラウリル酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20) 、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン (ポリソルベート80) 、ポリソルベート60などのPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE(60)硬化ヒマシ油などのPOE硬化ヒマシ油、POE(9) ラウリルエーテルなどのPOEアルキルエーテル類、POE(20)POP(4) セチルエーテルなどのPOE・POPアルキルエーテル類、POE(10)ノニルフェニルエーテルなどのPOEアルキルフェニルエーテル類、POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類などの非イオン性界面活性剤;
アルキルジアミノエチルグリシンなどのグリシン型、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの酢酸ベタイン型、イミダゾリン型などの両性界面活性剤;
POE(10)ラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのPOEアルキルエーテルリン酸及びその塩、ラウロイルメチルアラニンナトリウムなどのN−アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、N−ココイルメチルタウリンナトリウムなどのN−アシルタウリン塩、テトラデセンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、POE(3)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのPOEアルキルエーテル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩などの陰イオン界面活性剤;
アルキルアミン塩、アルキル4級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなど)、アルキルピリジニウム塩(塩化セチルピリジニウム、臭化セチルピリジニウムなど)などの陽イオン界面活性剤等が挙げられる。なお、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0058】
なかでも本発明において使用される好ましい界面活性剤としては、ポリ乳酸−ポリエチレングリコール(PLA-PEG)、疎水性ポリ(ε−カプロラクトン)34−ポリエチレングリコール43(PCL34-PEG43)、プルロニックタイプP-123(EO-PO-EO)ブロックコポリマー(SBA-15-COOH)、アルキルトリメチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウムハイドロキシド、C14グアニジルグルタミン酸塩、C12グアニジルアラニン塩、脂肪酸塩、ラウリン酸、N-アシル-Lアラニンナトリウム塩等が挙げられる。これらの界面活性剤を1種単独で用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
なお、製造過程で界面活性剤を除去しない場合とは、所望の生理活性物質が結合された細胞膜透過性ベクターと、界面活性剤の混合物を調製し、該混合物を用いてテンプレートを形成する場合である。このような場合、生理活性物質が結合された細胞膜透過性ベクターと界面活性剤がメソ孔内から細胞内に溶出する。
【0060】
本発明においては、界面活性剤と有機シリコン化合物の混合比率を変化させることによって最終的に得られる徐放用メソポーラスシリカの溶出特性を調整することができる。従って、界面活性剤と有機シリコン化合物の混合比率は、本発明の徐放用メソポーラスシリカが所望の溶出特性を具備する範囲で適宜設定され得るが、通常、有機シリコン化合物を100重量部とした場合、界面活性剤が0.1〜1000重量部程度、好ましくは1〜500重量部程度である。
【0061】
本発明において使用されるメソポーラスシリカのメソ孔の大きさは、通常2〜50nm程度である。また、メソポーラスシリカの粒子径は、10nm〜10μm程度、好ましくは20nm〜10μm程度である。
【0062】
(1-4)製造方法
さらに、本発明は、生理活性物質を担持したペプチドベクターを内包する徐放用メソポーラスシリカの製造方法をも提供する。本発明の徐放用メソポーラスシリカの製造方法は、生理活性物質を結合した細胞膜透過性ベクター、界面活性剤及び有機シリカを混合する工程を含むことを特徴とする。
【0063】
本発明の徐放用メソポーラスシリカは、簡便には、生理活性物質が結合された細胞膜透過性ベクター、界面活性剤及び有機シリコン化合物を攪拌して得ることができる。このとき、所望の生理活性物質が結合された細胞膜透過性ベクターを予め界面活性剤と混合しておいてもよく、又は当該ペプチドベクター、界面活性剤及び有機シリコン化合物を同時に混合してもよい。なお、原料、配合量等については、上記(1-1)〜(1-3)に記載の通りである。
【0064】
また、必要に応じて、酸性水溶液を用いて有機シリコン化合物を加水分解し、テンプレートを有機シリカ化合物に転写することによってメソポーラスシリカを得ることができる。このとき使用される酸性水溶液は、有機シリコン化合物を迅速に加水分解できるものであればよく、酸性物質の種類は問わないが、好ましくは塩酸酸性水溶液を用いる。また、酸性水溶液のpHも、迅速に加水分解できる範囲であればよく特に限定されないが、好ましくはpH1〜2程度であり、例えばpH1.3程度の塩酸酸性水溶液が用いられる。
【0065】
また、必要に応じて塩基性水溶液を用いることもできる。塩基性水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が挙げられる。
【0066】
製造工程において、必要に応じて共構造規定剤(Co-Structure Directing Agent)を適量使用することもできる。
【0067】
本発明の実施態様の1つとして、工程(i)において生理活性物質が結合された細胞膜ペプチドベクターを使用せず、得られたメソポーラスシリカから界面活性剤の除去を行った後、細胞膜ペプチドベクターをメソ孔内に内包させる方法も挙げられる。このような場合、界面活性剤の除去法としては洗浄操作によって除去する方法、又は加熱によって有機物を燃焼除去する方法のいずれを用いてもよい。
【0068】
洗浄操作による場合、利用される洗浄剤としては、効果的に界面活性剤を除去でき、かつメソポーラスシリカの構造を破壊しないものであればよく、水又は有機溶剤の別を問わないが、効果的な洗浄除去には、アルコール、有機酸、エステル、ケトン等の極性有機溶剤又はその水との混合物が用いられる。界面活性剤の洗浄除去を行った生成物を、常温又は加熱乾燥することによってメソポーラスシリカが得られる。
【0069】
焼成により界面活性剤の除去を行う場合には、焼成雰囲気としては、窒素、アルゴン等の不活性ガス、及び空気、酸素等の酸化性ガスのいずれか、あるいはその組み合わせが用いられる。特に好ましくは、不活性ガス中で加熱した後に、酸化性ガス雰囲気で燃焼除去する方法が適用される。この場合、焼成温度は、メソポーラスシリカの構造及び安定性、界面活性剤の構造に応じて適宜定められるが、好ましくは300〜600℃である。
【0070】
以上の方法によって界面活性剤を除去後、生理活性物質が結合された細胞膜透過性ベクターの水溶液等に得られたメソポーラスシリカを浸漬する等して、該ペプチドベクターをメソ孔内に内包させることができる。
【0071】
本発明の好ましい実施態様としては、上記工程(i)及び(ii)に従って得られた、生理活性物質が結合された細胞膜ペプチドベクターが、界面活性剤と共にメソ孔内に内包された徐放性メソポーラスシリカである。
【0072】
以上の工程に、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに乾燥工程を追加することができる。得られたメソポーラスシリカの乾燥は、空気中又は加温下に放置することで十分である。乾燥温度及び乾燥時間は特に限定されないが、メソ孔内に内包されている生理活性物質の活性を損なわない条件を採用するのが望ましく、各生理活性物質の特性に基づいて適宜設定され得る。
【0073】
この様にして得られる本発明の徐放用メソポーラスシリカは、前述の細胞膜透過性ベクターに結合された生理活性物質を、メソ孔内に内包するものである。メソポーラスシリカは、三次元的に均一な多孔構造(メソ孔:孔径2〜50nm程度)を有するものである。すなわち、前記生理活性物質が結合されたベクターは、メソポーラスシリカのメソ孔内に保持された状態で存在しており、標的臓器においてメソ孔内からベクター(及び該ベクターに結合された生理活性物質)が溶出されると細胞内に導入されて所望の生理活性を発揮する。
【0074】
(2)医薬組成物
以上のようにして得られる徐放用メソポーラスシリカは、単独で使用することもできるが、薬学的に許容される従来公知の賦形剤等を単独で又は2種以上と組み合わせて医薬組成物として調製することができる。
【0075】
本発明の医薬組成物は、経口又は非経口の別を問わず各種の製剤剤型に調製され得る。本発明の医薬組成物の剤型としては、例えば、液剤(シロップ等を含む)、点滴剤、注射剤(皮下注射剤、静脈注射剤を含む)、点眼剤等の液状製剤;錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、皮下埋め込み剤等の固形製剤が挙げられる。
【0076】
本発明の医薬組成物が液状製剤である場合は、凍結保存することもでき、また凍結乾燥等により水分を除去して保存してもよい。凍結乾燥製剤やドライシロップ等は、使用時に注射用蒸留水、滅菌水等を加え、再度溶解して使用される。
【0077】
例えば、本発明の医薬組成物が注射剤、点滴等として調製される場合、これらは殺菌され且つ血液と等張であるのが好ましい。このような剤型に調製するに際しては、希釈剤として例えば水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用することができる。なお、この場合、体液と等張な溶液を調整するに充分な量の食塩、ブドウ糖あるいはグリセリンを本発明の医薬組成物中に含有させてもよい。また、当分野において一般的に使用されている溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。
【0078】
固形剤として本発明の医薬組成物を調製する場合、例えば、錠剤の場合であれば、担体としてこの分野で従来よりよく知られている各種のものを広く使用することができる。その例としては、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、グリセリン、デンプン等の保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0079】
また、丸剤の形態に調製する場合は、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0080】
上記以外に、添加剤として、例えば、結合剤、界面活性剤、吸収促進剤、保湿剤、吸着剤、滑沢剤、充填剤、増量剤、付湿剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節する塩を、得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択し使用することができる。また、他の活性成分(例えば、ビタミン類、無機塩類等)を含有させてもよい。さらに、他の薬効成分と組み合わせて用いてもよい。また、本発明の医薬組成物中には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等を配合し、調製することもできる。
【0081】
本発明の医薬組成物における上記徐放用メソポーラスシリカの配合量は、細胞膜透過性ベクターに結合されている生理活性物質の有効量に従って適宜設定され得るが、通常0.001〜80重量%程度である。
【0082】
さらに、本発明の医薬組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の徐放用メソポーラスシリカと共に公知の薬理活性成分等と併用することもできる。本発明の医薬組成物の投与量は、細胞膜透過性ベクターに結合されている生理活性物質の有効量に基づいて適宜設定され得る。
【0083】
(3)皮膚外用組成物
また、本発明は、上記徐放用メソポーラスシリカを含有する皮膚外用組成物をも提供する。また、本発明の徐放用メソポーラスシリカを含有する皮膚外用剤として調製することもできる。
【0084】
本発明の皮膚外用組成物の剤型としては、使用方法や適用部分に従って従来公知の剤型に調製することができるが、例えば、軟膏、ローション、ゲル等が挙げられる。
【0085】
本発明の皮膚外用組成物には、所望の剤型とするための基剤が適当量含有される。基剤としては、特に限定されないが、例えばパラフィン、ワセリン、スクワラン、パラフィン、白ロウ、プラスチベース、ポリエチレングリコール、マクロゴール、ラウロマクロゴール、シリコン油、シリコン、ポリソルベート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ヤシ油などの油系基剤;セタノール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール;脂肪酸エステル(ミリスチン酸イソプロピル、ソルビタン脂肪酸エステルなど)、高級脂肪酸塩型乳化剤、高度精製卵黄レシチン、大豆レシチン、精製大豆レシチン、サラシミツロウ、プロピレンカーボネート、卵黄リン脂質、卵黄油、ヤシ油脂肪酸、ラウリル硫酸ナトリウム、その他イオン性、非イオン性界面活性剤などの乳化剤等が挙げられる。
【0086】
その他必要に応じて、薬学的に許容される従来公知の賦形剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、担体、香料、色剤等を用いることができる。
【0087】
本発明の皮膚外用組成物における徐放用メソポーラスシリカの配合量は、細胞膜透過性ベクターに結合されている生理活性物質の有効量に従って適宜設定され得るが、通常0.001〜80重量%程度である。
【0088】
さらに、本発明の皮膚外用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の徐放用メソポーラスシリカと共に公知の薬理活性成分(例えば消炎剤、鎮痒剤、保湿剤、植物エキス等)を配合することができる。
【0089】
本発明の皮膚外用組成物の塗布量は、各種剤型及び細胞膜透過性ベクターに担持されている生理活性物質の有効量に従って、適宜調整することができ、患部に適量塗り広げて適用すればよい。さらに、本発明の皮膚外用組成物は、イヌ、ネコ等のヒト以外の動物にも好適に使用され得る。
【0090】
(4)化粧料
上記皮膚外用組成物は、外皮に適用するものであれば特に限定されず、化粧料の形態に調製することができる。また、その剤型も、水溶液系、可溶化系、乳化系、油液系、ゲル系、ペースト系、軟膏系、エアゾール系、水−油2層系、水−油−粉末3層など、任意の剤型を含む。また、シート状基剤に担持されたものも含む。またその使用形態も、例えば化粧水、乳液、クリーム、パック、美容液、ファンデーション、口紅等、通常の化粧料の分野において選択される形態に調製することができる。
【0091】
製剤化は、化粧料の分野で採用されている通常の製剤化手法を適用することができる。さらに、必要に応じて、製剤化のための添加物、例えば、賦形剤、崩壊剤、流動化剤、分散剤、湿潤剤、防腐剤、粘稠剤、増粘剤、pH調整剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、溶解補助剤、顔料、香料などを配合することができる。
【0092】
化粧料として本発明の皮膚外用組成物を調製する場合、生理活性物質として上記の美白成分、保湿成分、細胞賦活成分等の美容成分を適宜選択し、細胞膜透過性ベクターに結合させて用いるのがよい。
【0093】
化粧料組成物中の上記徐放用メソポーラスシリカの配合量は、各生理活性物質の有効量及び上記皮膚外用組成物中における徐放用メソポーラスシリカの配合量に基づいて適宜設定することができる。
【0094】
例えば、生理活性物質として美白成分(アルブチン等)を細胞膜透過性ベクターに結合した場合、本発明の徐放用メソポーラスシリカに内包させることによって、皮膚の深部(表皮と真皮の間)に存在するメラノサイトに効率よく持続的に美白成分を導入することができ、優れた美白作用が期待される。
【実施例】
【0095】
以下、実施例及び試験例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0096】
1.細胞膜透過性ベクターをメソ孔内に内包するメソポーラスシリカの製造
(1-1)実施例1
メタノール(0.2L)中で界面活性剤PLA-PEG(ポリ乳酸−ポリエチレングリコール)0.12gと、テトラメトキシシラン(TMOS)0.3g及び細胞膜透過性ベクター5.7mgを混合し、透明・均一な状態にした。ここへ、塩酸水溶液(pH 1.3)0.15gを添加し、攪拌した。生理活性物質が結合された細胞膜透過性ベクターとして、蛍光団が結合されたFITC-GABA-(Arg)8-CONH2を用いた。その後、溶媒(メタノール)を除去し、細胞膜透過性ベクターが結合された除法用メソポーラスシリカ(PLA-PEG/TMOS=0.4)を得た。このメソポーラスシリカの細胞膜透過性ベクターの結合量は、38mg/gであった。
【0097】
なお、本実施例において生理活性物質が結合された細胞膜透過性ベクターとして用いたFITC-GABA-(Arg)8-CONH2は、以下のような構成を有するものである。
FITC:フルオレセインイソチオシアナート(細胞膜非透過性の蛍光団)を表し、本発明の生理活性物質に相当する。
GABA:膜透過ペプチドとFITCをつなぐスペーサである、γアミノ酪酸を表す。
(Arg)8:細胞膜透過性ベクターであり、8個のアルギニンが連結していることを表す。
CONH2:C末端アミド構造を表す。
【0098】
上記と同様の方法に従ってPLA-PEG/TMOSが0.1、0.2及び0.8の徐放性メソポーラスシリカを得た。
【0099】
得られた各徐放用メソポーラスシリカの水溶液中での溶出特性をそれぞれ評価した。
【0100】
[溶出試験]
1)徐放性メソポーラスシリカ粒子1mgにPBS(-)(金属イオンを含まないリン酸緩衝生理食塩水)300μLを加え、1〜72時間37℃でインキュベートした。
2)遠心沈降により上記シリカ粒子を沈殿させたあと、上清100μLをとり、PBS(-) 3mLを加えて、519nmにおける蛍光を測定した(励起波長494nm)。なお、サンプルは測定するタイムポイントの数に合わせて調製し、一定時間経過後、各サンプルの蛍光を測定した。
3)別途秤量したFITCより作製した検量線にあわせて、溶出濃度を測定した。
4)シリカ中に含まれる総ペプチド量を100%としたときの溶出量を計算した。
【0101】
得られた結果を図1に示す。図1より、PLA-PEGとTMOSの配合比率を調整することによって、溶出特性を制御できることが示された。
【0102】
(1-2)実施例2
界面活性剤としてPCL34-PEG43(疎水性ポリ(ε−カプロラクトン)34−ポリエチレングリコール43)を0.12g及び細胞膜透過性ベクター5.7mgを使用する以外は、実施例1と同様の方法に従って徐放性メソポーラスシリカを調製した。このメソポーラスシリカの細胞膜透過性ベクターの結合量は、38mg/gであった。
【0103】
得られた徐放性メソポーラスシリカの溶出特性を実施例1に記載の溶出試験の方法に従って評価した。結果を図2に示す。
【0104】
(1-3)実施例3
界面活性剤としてSBA-15-COOH(プルロニックタイプP-123(EO-PO-EO)ブロックコポリマー)を用い、定法に従って徐放用メソポーラスシリカを作製した。
【0105】
このメソポーラスシリカの細胞膜透過性ベクターの結合量は、30mg/gであった。得られた徐放性メソポーラスシリカの溶出特性を実施例1に記載の溶出試験の方法に従って評価した。結果を図3に示す。
【0106】
2.細胞膜透過性試験
(2-1)実施例2の徐放用メソポーラスシリカ(1g中にFITC-GABA-(Arg)8-CONH2約30mg含有)2mgをHeLa細胞培養液(10%仔牛血清含有α-MEM(Invitrogen社製))200μLに加えて48時間(37℃, 5% CO2)インキュベーションを行った。その後、細胞をPBSで洗浄し、共焦点顕微鏡でFITC(fluorescein isothiocyanate:薬物モデルに相当する)のシグナルを観察した(図4のFITCを参照)。結果の一例を図4に写真で示す。図4に示されるように、細胞内にFITCを結合したペプチドベクターが存在していることが確認された。図中、DICは微分干渉顕微鏡(Differential interference contrast microscope)で観察した細胞の写真を表す。
【0107】
(2-2)実施例1の徐放用メソポーラスシリカ(1g中にFITC-GABA-(Arg)8-CONH2約30mg含有)0.5mgをHeLa細胞培養液に添加し、上記(2-1)と同様の条件下でインキュベーションを行った後、共焦点顕微鏡でFITC(薬物モデル)のシグナルを観察した。結果の一例を図5に写真で示す。図5に示されるように、細胞内にFITCを結合したペプチドベクターが存在していることが確認された。図中、DICは微分干渉顕微鏡(Differential interference contrast microscope)で観察した細胞の写真を表す。
【0108】
3.細胞毒性試験
(3-1)粒子径の異なる徐放用メソポーラスシリカを調製し、細胞毒性を評価した。
【0109】
0.05mg、0.1mg又は0.5mgの量のCF-1(粒子径200〜300nm)をHeLa細胞の培地(血10%仔牛血清含有α-MEM(Invitrogen社製))に添加した後、培養した(24 hr, 37 ℃, 5% CO2, 培地量200 mL;24 well マイクロプレートを使用)。その後、培養細胞をヘキスト33258試薬で細胞核を染色し、蛍光顕微鏡で観察した(観察時、対物レンズは×20を使用)。CF-1を添加せずに培養した細胞をControlとした。
【0110】
CF-2(粒子径50〜150nm)及びCF-3(粒子径50〜100nm)についても同様の試験を行った。結果の一例をそれぞれ図6〜8に示す。図中、薄青く光っている部分が細胞の核を表す。細胞が死ぬと核が小さくなり、明るく強い蛍光を放つようになる。
【0111】
(3-2)異なる種類の界面活性剤を用いて調製した徐放用メソポーラスシリカの細胞毒性を評価した。
【0112】
CF4は界面活性剤としてPCL17-PEG43を用い、上記1.と同様の方法に従って調製された徐放用メソポーラスシリカである。また、CF-5は界面活性剤としてPCL34-PEG43を用い、上記1.と同様の方法に従って調製された徐放用メソポーラスシリカである。CF-4及びCF-5を用いて、上記(3-1)と同様の方法に従って細胞毒性を評価した。結果の一例をそれぞれ図9及び10に示す。
【0113】
以上図6〜10に示される結果より、徐放用メソポーラスシリカのみを使用した場合(CF-1〜3)、又は界面活性剤(PCL17-PEG43又はPCL34-PEG43)を使用して得られた徐放用メソポーラスシリカを用いた場合のいずれも細胞毒性が極めて低く、生体内に吸収されたとしても問題のないことが確認された。
【0114】
(3-3)上記以外にも、F127、MPEG6000-PLA5000等の共重合体ポリマーを界面活性剤として使用し、上記1.と同様の方法に従って得られた徐放用メソポーラスシリカについても毒性は確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】実施例1の徐放性メソポーラスシリカの溶出特性を溶出試験の結果を表すグラフである。
【図2】実施例2の徐放性メソポーラスシリカの溶出特性を溶出試験の結果を表すグラフである。
【図3】実施例3の徐放性メソポーラスシリカの溶出特性を溶出試験の結果を表すグラフである。
【図4】PCL34-PEG43を用いて調製した徐放性メソポーラスシリカの細胞膜透過性試験の結果を示す写真である。
【図5】PLA-PEGを用いて調製した徐放性メソポーラスシリカの細胞膜透過性試験の結果を示す写真である。
【図6】CF-1の細胞毒性試験の結果を示す写真である。
【図7】CF-2の細胞毒性試験の結果を示す写真である。
【図8】CF-3の細胞毒性試験の結果を示す写真である。
【図9】CF-4の細胞毒性試験の結果を示す写真である。
【図10】CF-5の細胞毒性試験の結果を示す写真である。
【配列表フリーテキスト】
【0116】
配列番号1はHIV-1 Tatタンパク質のアミノ酸配列48-60位に対応するアミノ酸配列を示す。
配列番号2は、細胞膜透過性ペプチド(Arg)8のアミノ酸配列を示す。
配列番号3は、フロックハウスウイルス(FHV)コートタンパク質のアミノ酸配列35-49位に対応する塩基性ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号4は、細胞膜透過性ペプチド(Lys)3のアミノ酸配列を示す。
配列番号5は、DrosophilaのAntennapediaタンパク質由来ペプチドpenetratinのアミノ酸配列を示す。
配列番号6は、神経ペプチドgalaninとハチ毒mastoparaのキメラペプチドであるtransportanのアミノ酸配列を示す。
配列番号7は、分泌シグナルペプチド由来ペプチドMTSのアミノ酸配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞膜透過性ベクターに結合された生理活性物質を、メソ孔内に内包する徐放用メソポーラスシリカ。
【請求項2】
界面活性剤と共に、生理活性物質を結合した細胞膜透過性ベクターが、メソ孔内に内包されてなる請求項1に記載の徐放用メソポーラスシリカ。
【請求項3】
前記細胞膜透過性ベクターが、配列番号1〜7で表される少なくとも1種のペプチド性ベクターである、請求項1又は2に記載の徐放用メソポーラスシリカ。
【請求項4】
前記細胞膜透過性ベクターが、非ペプチド性ベクターである、請求項1又は2に記載の徐放用メソポーラスシリカ。
【請求項5】
生理活性物質が、水溶性難吸収性物質である請求項1〜4のいずれかに記載の徐放用メソポーラスシリカ。
【請求項6】
生理活性物質が、抗腫瘍成分、免疫抑制成分、美白成分、細胞賦活成分、保湿成分、抗酸化成分、抗ウイルス成分及び酵素活性阻害成分からなる群より選択される少なくともいずれか1種である、請求項5に記載の徐放用メソポーラスシリカ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の徐放用メソポーラスシリカを含有する医薬組成物。
【請求項8】
散薬、錠剤、カプセル化剤、注射剤及び皮下埋め込み剤からなる群より選択されるいずれかの形態である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の徐放用メソポーラスシリカを含有する皮膚外用組成物。
【請求項10】
化粧料の形態である請求項9に記載の皮膚外用組成物。
【請求項11】
生理活性物質を結合した細胞膜透過性ベクター、界面活性剤及び有機シリカ化合物を混合する工程を含む細胞膜透過性ベクターをメソ孔内に内包する徐放用メソポーラスシリカの製造方法。
【請求項12】
界面活性剤が、1鎖1親水基型、1鎖多親水基型、多鎖1親水基型、多鎖多親水基型、ブロックコポリマー型及びランダムポリマー型からなる群より選択される少なくともいずれか1種の高分子両親媒性物質である、請求項11に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−13142(P2009−13142A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180172(P2007−180172)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】