説明

復号方法及び復号装置、情報再生装置

【課題】波形歪の大きな再生信号に対して、従来のPRML信号処理では、エラーが頻繁に発生し、良好な再生品質の信号を得ることができないという課題があった。
【解決手段】ビタビ復号におけるパスメトリックの比較演算において、所定状態から分岐して再度同一の状態に合流する2つのパスのユークリッド距離が最短でないパスに対し、予め決められたパスメトリックに所定のオフセット値を加えて比較演算し、生き残りパスを選択することで、波形歪の大きな再生信号に対し、その影響を考慮して生き残りパスを選択することができる為、記録品質に影響されずに安定した復号を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、波形歪の大きな再生信号に対してPRML(Partial Response Maximum Likelihood)信号処理を用いて再生しても、記録品質に影響されることなく、安定した復号を行うことができる復号方法及び復号装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高密度化が進む光ディスク記録再生装置において、その再生信号処理方式にPRML信号処理方式が採用されることが多くなっている。PRML信号処理では、記録再生系の特性に応じたPR方式で再生信号を波形等化し、ビタビ復号器等の最尤復号(ML)によって復号処理を行うことにより、符号間干渉の大きい再生信号においても誤り率の低いデータを得ることが可能となる。
【0003】
しかし一方で、記録性能等に依存して不完全な形状のマークが記録されているDVDを再生する場合、PRML信号処理では、記録符号のバランスを考慮したスライスレベルを用いて2値化判別を行うレベル判別2値化処理に比べて、再生品質が劣化する場合が生じることがある。
【0004】
この問題に対し、特許文献1では、DVDの記録幅の長いマークパターンに対してマーク歪率を測定し、マーク歪率を判断基準として、PRML信号処理とレベル判別2値化処理とを切り替えることで、マーク歪に影響されない再生品質を得ることを可能としている。また、特許文献2では、再生信号のPR等化に合わせて等化特性の異なる2種類の波形等化回路を選択することで、高密度記録された光ディスクから情報を良好に再生することを可能としている。
【特許文献1】特開2005−93033号公報
【特許文献2】特開2002−230904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、DVDよりも更に高密度なBD(Blu−ray Disc)に記録されたマークを再生する場合、最短の記録マークが非常に小さく、再生時の符号間干渉の影響を受けやすいため、DVDに用いていたレベル判別2値化処理では再生が困難になる。BDでは、波形歪の小さな再生信号に対しては、前記のPRML信号処理を用いることで良好な再生品質を得ることができるが、波形歪の大きな再生信号に対しては、従来のPRML信号処理をそのまま用いたのでは、エラーが頻繁に発生することになり、良好な再生品質の信号を得ることができない。
【0006】
本発明の目的は、波形歪の大きな再生信号に対してPRML信号処理を用いて再生しても、記録品質に影響されることなく、安定した再生品質を得ることができる復号方法及び復号装置に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の観点による本発明は、記録媒体から再生された再生信号を、所定のサンプリング周期でサンプリングを行い、サンプリングされた前記再生信号と所定の期待値との差を用いて複数のブランチメトリックを演算し、前記複数のブランチメトリックから複数のパスメトリックを演算すると共に、前記複数のパスメトリックを持つ複数のパスの中で、同一の状態に合流する2つの前記パスが持つ前記パスメトリックの比較演算を行い、その大小関係から前記2つのパスのうち1つを生き残りパスとして選択を行うビタビ復号方法において、所定の状態から分岐して再度同一の状態に合流する2つのパスのユークリッド距離が最短になる2つのパスとそれ以外のパスの中で、ユークリッド距離が最短にならない2つのパスが同一の状態に合流する際に、前記ユークリッド距離が最短にならない2つのパスのうち、予め決められたパスが持つパスメトリックに所定のオフセット値を加えて比較演算を行い、その大小関係から前記2つのパスのうち1つを生き残りパスとして選択することを特徴とする復号方法である。
【0008】
第2の観点による本発明は、前記予め決められたパスは、前記記録媒体から再生された再生信号に波形歪が発生したパスであることを特徴とする、第1の観点の復号方法である。
【0009】
第3の観点による本発明は、前記予め決められたパスは、前記記録媒体に記録された記録幅が長いパターンに対応したパスであることを特徴とする、第1の観点の復号方法である。
【0010】
第4の観点による本発明は、前記所定の状態から分岐して再度同一の状態に合流する2つのパスのユークリッド距離が36である2つのパスのうちの1つであることを特徴とする、第1の観点の復号方法である。
【0011】
第5の観点による本発明は、記録媒体から再生された再生信号を、所定のサンプリング周期でサンプリングを行うサンプリング手段と、サンプリングされた前記再生信号と所定の期待値との差を用いて複数のブランチメトリックを演算するブランチメトリック演算手段と、前記複数のブランチメトリックから複数のパスメトリックを演算するパスメトリック演算手段と、前記複数のパスメトリックを持つ複数のパスの中で、同一の状態に合流する2つの前記パスが持つ前記パスメトリックの比較演算を行う比較演算手段と、その大小関係から前記2つのパスのうち1つを生き残りパスとして選択を行うビタビ復号器において、所定の状態から分岐して再度同一の状態に合流する2つのパスのユークリッド距離が最短になる2つのパスとそれ以外のパスの中で、ユークリッド距離が最短にならない2つのパスが同一の状態に合流する際に、前記ユークリッド距離が最短にならない2つのパスのうち、予め決められたパスが持つパスメトリックに所定のオフセット値を加えて比較演算を行い、その大小関係から前記2つのパスのうち1つを生き残りパスとして選択する比較選択手段を備えることを特徴とする復号装置である。
【0012】
第6の観点による本発明は、前記予め決められたパスは、前記記録媒体から再生された再生信号に波形歪が発生したパスであることを特徴とする、第5の観点の復号装置である。
【0013】
第7の観点による本発明は、前記予め決められたパスは、前記記録媒体に記録された記録幅が長いパターンに対応したパスであることを特徴とする、第5の観点の復号装置である。
【0014】
第8の観点による本発明は、前記予め決められたパスは、前記所定の状態から分岐して再度同一の状態に合流する2つのパスのユークリッド距離が36である2つのパスのうちの1つであることを特徴とする、第5の観点の復号装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ビタビ復号におけるパスメトリックの比較演算において、所定の状態から分岐して再度同一の状態に合流する2つのパスのユークリッド距離が最短ではないパスに対して、予め決められたパスメトリックに所定のオフセット値を加えて比較演算を行い、生き残りパスを選択することで、波形歪の大きな再生信号に対して、その歪の影響を考慮して生き残りパスを選択することができるため、記録品質に影響されることなく、安定した復号を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施形態1)
本発明の第1の実施の形態である復号方法及び復号装置について、図面を参照しながら説明する。まず、ビタビ復号におけるパスメトリックの比較方法について記述する。
【0017】
ここでは、変調符号としては、いわゆる(d,m)制限(d、mはd、m≧0を満たす整数であり、最短と最長のランレングスはそれぞれd+1、m+1で表される)を満足するランレングス制限符号であって、特に最小極性反転距離が2(d=1)の条件を満たす符号を用いる。記録符号は変調符号をNRZI(Non Return To Zero Inverted)変調する。PRML等化方式としては、PR(a,b,b,a)方式を用いる。PR(a,b,b,a)方式は、異なる4つの時間の標本化データを、a:b:b:aの比率で足しあわせた信号(a+b×D+b×D+a×D3)を生成するという特徴を有している。以降簡単のため、PR(1,2,2,1)を取り上げる。最小極性反転距離が2の記録符号と、PR(1,2,2,1)等化方式を組み合わせた場合、記録符号b(kは時刻を表す)とPR等化出力の振幅値y は、式1で表される。
【0018】
【数1】

【0019】
k−3は3ビット前の記録符号、bk−2は2ビット前の記録符号、bk−1は1ビット前の記録符号、bは現在の記録符号を表している。現在の状態をS(bk−2,bk−1,b)、1時刻前の状態をS(bk−3,bk−2,bk−1)とすると、表1のような状態遷移表で表すことができる。
【0020】
【表1】

【0021】
ここで、各時刻における状態S(0,0,0)をS0、状態S(0,0,1)をS1、状態S(0,1,1)をS2、状態S(1,1,1)を状態S3、状態S(1,1,0)を状態S4、状態S(1,0,0)を状態S5と定義し、そのときの状態遷移図を図1に表す。
【0022】
図1において、各状態を結ぶ線はブランチと呼ばれ、状態遷移を表す。図1の状態遷移図を時間軸方向に展開すると、図2のようなトレリス線図が得られる。
【0023】
トレリス線図において、任意の状態から任意の状態を経て生成される全てのブランチの組み合わせ(これをパスと呼ぶ)を考えることは、全てのあり得るビット列を考えることに相当する。よって、全てのパスについて期待される理想波形と、実際に光ディスクから再生した再生波形を比べて、波形が最も近い、すなわちユークリッド距離が最も短い理想波形を持つパスを探索すれば、最も確からしいパスを正解パスとして決定することができる。
【0024】
任意の時刻において、状態S0、S1、S3、S4には2本のパスが、S2とS5には1本のパスが、それぞれ合流する。2本のパスが合流する状態S0、S1、S3、S4について、各パスの理想波形と再生信号波形とのユークリッド距離が短い方を生き残りパスとして残す処理を行えば、任意の時刻において、6つの各状態に至るパスが各1本ずつ、計6本のパスが残ることになる。
【0025】
各パスの理想波形と再生信号波形とのユークリッド距離はパスメトリックと呼ばれ、ブランチの期待値xとPR等化出力の振幅値yの差の2乗として求められるブランチメトリックを、パスを構成する全ブランチについて累積加算することによって求められる。
【0026】
ブランチメトリックとパスメトリックの式をそれぞれ示す。時刻kにおける各状態S0、S1、S2、S3、S4、S5へのブランチメトリックをBMS0、BMS1、BMS2、BMS3、BMS4、BMS5、BMS6、生き残りパスのパスメトリックを、それぞれLS0、LS1、LS2、LS3、LS4、LS5とし、時刻kにおけるPR等化出力を振幅値yとする。振幅期待値xnk(nは整数)は、理想的なPR(1,2,2,1)等化の場合、7つのレベル(例えば、x0k=0、x1k=1、x2k=2、x3k=3、x4k=4、x5k=5、x6k=6)になる。以上より、6つのブランチメトリックの式は式2のように、パスメトリックは式3のように計算される。
【0027】
【数2】

【0028】
【数3】

【0029】
ただし、演算子min[A,B]は、AとBのパスメトリックの小さい方を選択する演算子であり、この処理が生き残りパスの決定に対応している。
【0030】
例えば、便宜上、最大振幅が±3になるように正規化すると、期待値はそれぞれ、x0k=−3、x1k=−2、x2k=−1、x3k=0、x4k=+1、x5k=+2、x6k=+3の7値となり、パスメトリックの式は式4のようになる。
【0031】
【数4】

【0032】
こうして再生信号波形のサンプル値が入力される毎に生き残りパスを決定する手順を繰り返していくと、パスメトリックが大きなパスが淘汰されていくため、次第にパスは1本に収束していく。これを正解パスとすることにより、元のデータビット列が正しく再生されることになる。
【0033】
ここで、ビタビ復号が正しく行われる条件を考えると、式3のパスメトリックの比較演算式において、正解パスのパスメトリックが、もう一方のパス(誤りパス)のパスメトリックよりも小さくなければならない。このとき、2つのパスのパスメトリックの差を用いることで、再生信号の品質を測ることができる。すなわち、再生信号品質が良好な場合、2つのパスメトリックの差は大きくなるために正解パスを選択する確率が高くなり、再生信号品質が悪い場合は、2つのパスメトリックの差が小さくなるために正解パスか誤りパスかを自信を持って選択できなくなり、その結果、正解パスを選択する確率が低くなる。
【0034】
このことを図3〜図4を用いて、より詳細に説明する。
【0035】
図3のトレリス線図において、ある状態S(時刻k−4での状態S0)から、2つのパスが分岐し、再びある状態S(時刻kでの状態S4)で合流するパスに注目する。取り得るパスの一方をパスAとすると、パスAは状態S0k−4、S0k−3、S1k−2、S2k−1、S4を遷移し、その遷移の確からしさを表すパスメトリックはPaとなる。もう一方のパスをパスBとすると、パスBは状態S0k−4、S1k−3、S2k−2、S3k−1、S4を遷移し、その遷移の確からしさを表すパスメトリックはPbとなる。なお、これらパスの分岐から合流までのメトリックの差を用いることで、パスの分岐点以前におけるメトリックの累積値は全て無視することができる。
【0036】
また、復号結果の信頼性の指標として、Pa−Pbを用いる。もし、Pa<<Pbであれば、パスAを自信を持って選択し、Pa>>PbであればパスBを自信を持って選択することになる。一方、Pa=PbであればパスA、パスBのいずれを選択してもおかしくなく、復号結果が正しいかどうかは5分5分であるといえる。従って、Pa―Pbの値は、復号結果の信頼性を判断するために用いることができる。すなわち、Pa―Pbの絶対値が大きいほど復号結果の信頼性は高く、Pa―Pbの絶対値が0に近いほど復号結果の信頼性は低いことになる。
【0037】
例えば、復号結果に基づいて所定の時間あるいは所定の回数だけPa―Pbを求めたときの、Pa―Pbの分布の模式図を図4に示す。図4は再生信号にノイズが重畳された場合のPa―Pbの分布を示している。例えば、パスAが理想値を取った場合は、Pa=0になるので、Pa−Pb=−Pbとして頻度が極大となり、パスBが理想値を取った場合は、Pb=0になるので、Pa−Pb=Paとして頻度が極大となる。また、両パスにおけるメトリックが同じ値になる場合、Pa−Pb=0となり、どちらのパスを選択するかは五分五分の信頼性の低い状態となる。また、図4の2つの分布間の距離dは、パスAとパスBのユークリッド距離に相当する。
【0038】
前述のように、最小極性反転距離が2の記録符号と、PR(1,2,2,1)等化方式を組み合わせた場合、2つのパスの最短ユークリッド距離は、dmin=10である。再生信号に含まれる雑音のうち白色ノイズが支配的であると考えると、このパターンは1ビットシフトエラーが発生するパターンであるため、最も誤りが発生しやすい。これ以外にも、2つのパスのユークリッド距離は、パスの長さによって、12、14、16、18、20、36・・・と無数に存在するが、前述したように、再生信号に含まれる雑音のうち白色ノイズが支配的であると考えると、ユークリッド距離に比例して、エラー頻度は少なくなっていく。図5にその関係を示す。ユークリッド距離が10から2ずつ長くなるに従って、エラーレートは1桁以上良くなっていき、d=36においては、エラーレートはほとんど0に近い状態になる。
【0039】
しかしながら、波形歪の大きな再生信号に対しては、この関係が成り立たない問題がある。
【0040】
図6は、記録幅が長いマークが理想的な状態で形成されたときの再生信号とPa−Pbの分布の様子を表した図6(a)と、同じく記録幅が長いマークがM型のようなアンバランスな状態でが形成されたときの、波形歪が大きい再生信号とPa−Pbの分布の様子を表した図6(b)である。
【0041】
図6(a)のように記録幅が長いマークが理想的な状態で形成された場合、再生信号はパスBのように歪みの無い形になる。パスBに対して、最も誤りやすいパターンはパスAであるが、この場合、Pa−Pbも±dだけ離れた位置を中心に分布が形成されており、パスAとパスBを誤る確率はほとんど無い。
【0042】
これに対し、図6(b)のように、記録幅が長いマークがM型のようなアンバランスな状態で形成された場合、パスBの再生信号は両端に比べ、中央の振幅が落ちた形になる。このような再生信号に対しては、正解パスであるパスBは、誤りパスであるパスAの形に近づいてしまい、パス間のユークリッド距離は短くなる。Pa−Pbの分布で見ると、パスBが正解パスであるPbの分布がPa側に近づき、どちらのパスを選択するか分からない状態(Pa−Pb=0)が増えてくるため、ビタビ復号が誤る確率が高くなってしまう。
【0043】
本発明では、このような波形歪が大きな再生信号に対し、波形歪を考慮して、改めて2つのパスメトリック比較演算を行う。本発明の第1の実施の形態では、図7のように、一方のパスの分布の中心が、波形歪の影響でもう一方のパスに近づいてしまった場合、2つのパスのユークリッド距離が最短でなければ、波形歪の影響が少ないもう一方のパスを基準として、パスメトリックの比較演算にオフセット値αを加算する。オフセット値αは、波形歪の影響が少ないパスの分布の中心から、最短ユークリッド距離(dmin)分だけ離れた位置に設定する。最短ユークリッド距離だけ離れていれば、所望のエラーレートを得ることができるが、オフセット値αによって、パス間のユークリッド距離を最短ユークリッド距離よりも短く設定してしまうと、エラーレートは非常に悪くなってしまう。このことから、2つのパス間が最短ユークリッド距離ではないパスに対して、波形歪の影響を軽減する方向にオフセット値αを加えることにより、波形歪の影響も含めてもっともらしいパスが選択されるため、ビタビ復号が誤る確率を低減させることができる。
【0044】
以下、本発明の第1の実施の形態である光ディスク再生方法及び装置について図面を参照しながら詳細に説明する。図8は、本発明の第1の実施の形態による光ディスク装置の構成例を示すブロック図であり、光ピックアップ800からの再生信号を増幅するRFアンプ回路801と、RFアンプ回路801からの出力をサンプリングするA/D変換器802と、クロックを供給するPLL回路803と、サンプリングデータの波形整形を行うデジタル等化器804と、デジタル等化器804の出力データを基に最尤復号を行うビタビ復号器805と、再生信号のパターンを検出するパターン検出器806と、検出されたパターンに従って、ビタビ復号のパスメトリックの比較演算に用いるオフセット値を生成するオフセット値生成器807から構成される。
【0045】
図8において、記録媒体である光ディスク1から、光ピックアップ800とRFアンプ回路801を介して再生した再生信号をA/D変換器802に入力し、デジタル信号に変換する。デジタル等化器804は、入力したデジタル信号を、再生系の周波数特性が所定のPR等化方式になるように波形整形を行い、整形したデジタル信号は、ビタビ復号器805によって、最も確からしいデータとして復号される。PLL回路803は再生信号に同期する再生クロックを生成し、A/D変換器802以降の回路は、供給されたクロックに従って動作する。一方、パターン検出器806はA/D変換器802前後の信号や、デジタル等化器の信号を2値化処理した信号や、ビタビ復号805の復号過程の信号や復号結果を用いて、所定のパターンを検出する。もしくは、ビタビ復号器805をもう一つ備え、そこからパターンを抽出しても良い。オフセット値生成器807は、検出されたパターンと、そのパターンに誤りやすいパターンとのユークリッド距離を求め、ユークリッド距離に応じたオフセット値を生成する。
【0046】
ここでは、波形歪の影響を受けるパターンとして、6T(Tはチャネルクロック)以上の記録幅の長いマークを検出したときの例を示す。時刻k−5からk−4、k−3、k−2、k−1、kまで連続で1ビットを検出した場合(ビット列:111111)、最も誤りやすいパターンは、ビット列:110011となり、このときのユークリッド距離はd=36になる。7T、8T、9Tも同様の手法で検出でき、これらのユークリッド距離は全てd=36になる。このように、d=36のユークリッド距離を検出するだけで、波形歪の影響を特に受けやすい6T以上の記録幅の長いマークに対してオフセット値の調整を行うことができるため、非常に効率良く波形歪の影響を低減することができる。具体的なオフセット値は、以下の式5に従って求める。
【0047】
【数5】

【0048】
このオフセット値αは、後述するビタビ復号器の記録幅の長いマークに対するパスメトリック比較演算に用いる。
【0049】
次に、図9に示すビタビ復号器805の構成について説明する。図9は、ビタビ復号器の内部ブロックを示す図であり、各時刻でブランチメトリックを算出するブランチメトリック計算部901、各状態に遷移するパスの確からしさを算出する加算比較選択部902、各状態に遷移するパスの確からしさから、生き残りパスを更新、記憶するパスメモリ部903より構成される。
【0050】
デジタル等化器211から出力されたPR等化出力の振幅値yは、ブランチメトリック計算部901に入力される。図10はブランチメトリック計算部901の構成例を示す図である。ブランチメトリック計算部901は、7個の減算部1001及び2乗演算器1002から構成される。減算部1001と2乗演算器1002によって、入力されたPR等化出力の振幅値yとそれぞれの期待値xnkとの差の2乗を求め、各ブランチメトリックを計算する。ブランチメトリックはBMS0、BMS1、BMS2、BMS3、BMS4、BMS5、BMS6として、加算比較選択部902に出力される。
【0051】
ここで、2乗演算器1002は、PR等化出力の振幅値yと期待値xの差の絶対値を求める絶対値演算器に変えても良い。
【0052】
図11は加算比較選択部902の構成例を示す図である。加算比較選択部902は、式3の形を表現するように、10個の加算器1101と4個の比較器1102及び選択器1103、6個のパスメトリックメモリ部1104から構成される。加算比較選択部902は、時刻kで入力されたブランチメトリックBMS0、BMS1、BMS2、BMS3、BMS4、BMS5、BMS6と、時刻k−1でのパスメトリックLk−1S0、Lk−1S1、Lk−1S2、Lk−1S3、Lk−1S4、Lk−1S5から、式3の演算に従って時刻kでのパスメトリックLS0、LS1、LS2、LS3、LS4、LS5をそれぞれ求める。時刻kのブランチメトリックと時刻k−1でのパスメトリックは加算器1101で加算され、比較器1102と選択器1103に入力される。比較器1102で、入力されたメトリックの大小が比較され、選択器1103では、比較器1102の比較結果に従って、小さい方のメトリックを選択し、パスメトリックメモリ1104に出力する。パスメトリックメモリ1104はレジスタにメトリックを格納し、次の時刻k+1において、各パスメトリックをそれぞれの加算器1101に出力する。なお、LS2とLS5については、それらの状態につながるパスが1つしかないので、比較及び選択は行われない。
【0053】
ここで、前述のオフセット値生成器908で生成されたオフセット値αを、タイミングを合わせて所定の加算器に加える。所定の加算器とは、式3(4)の右式の右項であり、オフセット値を加えたパスメトリックの式は式6で表される。
【0054】
【数6】

【0055】
ここで、時刻k−1でのパスメトリックLk−1S3から、時刻kでのパスメトリックLS3の状態遷移は、ビット列:111からビット列:111に遷移する系であり、記録幅が長いマークの再生信号が遷移する系である。前述した通り、記録幅が長いマークの再生信号には、波形歪の影響を受けやすいため、そのパスメトリックにオフセットを加えることで、所望のエラーレートは確保しつつ、波形歪の影響を含めてもっともらしいパスを選択することができる。
【0056】
具体的な例を挙げると、例えば、式6のLk−1S3+BMS6をd=36のパスメトリックA、Lk−1S2+BMS5をd=36のパスメトリックBとすると、α =−(d−dmin)=−(36−10)=−26となり、パスメトリックの比較演算は、min[パスA−26, パスB]として考えることができる。
【0057】
ここで、もしパスAが正解パスであり、理想的な再生信号が得られたとすると、パスA=0、パスB=36になるので、min[−26, 36]となり、確実にパスAが選択される。ここで、パスAの再生信号に波形歪が発生したと仮定すると、例えばパスA=18、パスB=18になった場合は、min[−8, 10]となり、パスA=36、パスB=0になった場合は、min[10, 0]となり、どの場合においてもパスAが選択されることになる。
【0058】
一方、もしパスBが正解パスであり、理想的な再生信号が得られたとすると、パスA=36、パスB=0になるので、min[10, 0]となり、2つのパスのユークリッド距離は最短ユークリッド距離に設定され、パスBが選択されることになる。
【0059】
また、比較器1102の比較結果は、それぞれSEL0、SEL1、SEL2、SEL3として、パスメモリ部903に出力される。
【0060】
図12はパスメモリ部903の構成例を示す図である。パスメモリ部903は、6個のフリップフロップ回路1201と4個の選択器1202を一つの組(パスメモリ)とし、所定の数だけパスメモリを保持する。
【0061】
初段のフリップフロップにセットされた選択されたパスを表すデータ(各状態に対応した0または1)から始まって、加算比較選択部902から出力されたSEL0、SEL1、SEL2、SEL3に基づいた選択及びシフト処理を繰り返す過程で、各フリップフロップにセットされるデータが生き残りのパスに対応したデータに書き換えられてゆく。そして、最終段の各フリップフロップにセットされたデータを復号データとして出力する。
【0062】
最終的な復号データは、十分にパスメモリの数がある場合、6つのパスメモリのうち、どのパスメモリも同じ状態になるため、任意のパスメモリのデータを復号データとして選択する。もちろん、最終段の各パスメモリが保持するパスメトリックを比較し、最も小さいパスメモリのデータを採用しても良いし、6つのパスメモリで多数決を取り、一番多い状態のパスメモリのデータを採用しても良い。
【0063】
以上の処理により、本実施の形態では、回路規模の増加を最小限に抑えつつ、波形歪の大きな再生信号に対してPRML信号処理を用いて再生しても、記録品質に影響されることなく、安定した再生品質を得ることができる。
【0064】
(実施形態2)
次に、本発明の第2の実施の形態による光ディスク再生方法及び装置について説明する。第2の実施の形態の基本構成は第1の実施の形態と同じ図8で表されるが、オフセット値生成器807からビタビ復号器805に渡されるオフセット値が異なる。その他の点は同様であるので、同一部分には同一符号を付けて詳細な説明を省略し、以下、異なる点についてのみ詳細に説明する。
【0065】
本発明の第1の実施の形態では、波形歪の影響を特に受けやすい6T以上の記録幅の長いマークに特に注目してオフセット値の調整を行っていたのに対し、本発明の第2の実施の形態では、任意のパターンを対象として、オフセット値の調整を行うことを特徴とする。
【0066】
パターン検出器806において、パス間のユークリッド距離毎に検出を行う。例えば、d=12、18のパターンを検出したい場合、以下の表2に示すパターンを検出すれば良い。
【0067】
【表2】

【0068】
表2において、xは0ビットか1ビットのどちらかが入ることを意味しており、それ以外のビット列を検出するだけで、それぞれのユークリッド距離を求めることができる。求められたユークリッド距離から、前述の式5に従ってオフセット値を算出する。オフセット値は、図13のように、パスメトリック比較演算で用いられるそれぞれのメトリックに加算する。
【0069】
ここで、どの加算器にオフセット値を加えるかは、時刻kから時刻k−3の4ビットの情報を元に決めることができる。例えば、時刻k−3、k−2、k−1、kのビット列が0110の場合は、式3(5)右辺の右項に相当する加算器(加算器A1300)にオフセット値α8を加え、時刻k−3、k−2、k−1、kのビット列が1110の場合は、式3(5)右辺の右項に相当する加算器(加算器B1301)にオフセット値α7を加える。このとき、他のオフセット値には0を与えるようにすれば、対象とするパターン以外に悪影響を及ぼす恐れが無い。
【0070】
なお、ここでは全ての加算器にオフセット値を加える手法を取っているが、パスメトリックの比較には2つのパスの差分情報があれば良いので、比較される加算器のどちらか一つにオフセット値を加えるだけでも良い。また、任意のパターンのみに注目して、その部分のみオフセット値を加える手法にしても良い。また、ユークリッド距離はd=12、18の場合を例に示したが、最短ユークリッド距離のd=10以外であれば、もちろんこれに限定するものではない。
【0071】
なお、オフセット値は本実施の形態のように固定値ではなく、オフセット値の調整を自動的に行っても良い。例えば、ビタビ復号結果のDC成分を取得し、その成分が0になるように調整しても良い。あるいは、予め分かっているパターンでテスト記録を行い、そのときの性能を元に調整しても良い。性能はエラーレートや2つのパスの尤度差など、再生性能を表すものならば何でも良い。
【0072】
以上の処理により、本実施の形態では、波形歪の大きいパターンをあらかじめ決める必要が無く、任意のパターンを対象としてオフセット値の調整を行うことができるので、より柔軟に波形歪に対応したビタビ復号を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、ビタビ復号におけるパスメトリックの比較演算において、所定の状態から分岐して再度同一の状態に合流する2つのパスのユークリッド距離が最短ではないパスに対して、予め決められたパスメトリックに所定のオフセット値を加えて比較演算を行い、生き残りパスを選択することで、波形歪の大きな再生信号に対して、その歪の影響を考慮して生き残りパスを選択することができるため、記録品質に影響されることなく、安定した復号を行うことができるので、光ディスクに記録された情報を再生した再生信号の波形歪を軽減する歪軽減処理を行う光ディスク再生装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施の形態で用いる最小極性反転間隔が2であることとPR(1,2,2,1)等化の制約から定まる状態遷移図
【図2】本発明の実施の形態で用いる最小極性反転間隔が2であることとPR(1,2,2,1)等化の制約から定まる状態遷移図を時間軸方向に展開したトレリス線図
【図3】本発明の実施の形態で用いる最小極性反転間隔が2であることとPR(1,2,2,1)等化の制約から定まるトレリス線図
【図4】本発明の実施の形態で用いるトレリス図において状態S0k−4と状態S4k−5間でとりうる2つの状態遷移列を示す図
【図5】ユークリッド距離とエラーレートの関係を示す図
【図6】理想的な状態で形成されたときの再生信号と波形歪が大きい再生信号において復号結果の信頼性を示すPa−Pbの分布の様子を表した図
【図7】本発明の実施の形態で用いるパスメトリックの比較演算に用いるオフセット値の設定方法を示す図
【図8】本発明の第1の実施の形態で用いる光ディスク装置の構成例を示すブロック図
【図9】本発明の第1の実施の形態で用いるビタビ復号器の全体構成例を示すブロック図
【図10】本発明の第1の実施の形態で用いるブランチメトリック計算部の構成例を示す図
【図11】本発明の第1の実施の形態で用いる加算比較選択部の構成例を示す図
【図12】本発明の第1の実施の形態で用いるパスメモリ部の構成例を示す図
【図13】本発明の第2の実施の形態で用いる加算比較選択部の構成例を示す図
【符号の説明】
【0075】
800 光ピックアップ
801 RFアンプ回路
802 A/D変換器
803 PLL回路
804 デジタル等化器
805 ビタビ復号器
806 パターン検出器
807 オフセット値生成器
901 ブランチメトリック計算部
902 加算比較選択部
903 パスメモリ部
1001 減算部
1002 2乗演算器
1101 加算器
1102 比較器
1103 選択器
1104 パスメトリックメモリ部
1201 フリップフロップ回路
1202 選択器
1300 加算器A
1301 加算器B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体から再生された再生信号を、所定のサンプリング周期でサンプリングを行い、サンプリングされた前記再生信号と所定の期待値との差を用いて複数のブランチメトリックを演算し、前記複数のブランチメトリックから複数のパスメトリックを演算すると共に、前記複数のパスメトリックを持つ複数のパスの中で、同一の状態に合流する2つの前記パスが持つ前記パスメトリックの比較演算を行い、その大小関係から前記2つのパスのうち1つを生き残りパスとして選択を行うビタビ復号方法において、
所定の状態から分岐して再度同一の状態に合流する2つのパスのユークリッド距離が最短になる2つのパスとそれ以外のパスの中で、ユークリッド距離が最短にならない2つのパスが同一の状態に合流する際に、前記ユークリッド距離が最短にならない2つのパスのうち、予め決められたパスが持つパスメトリックに所定のオフセット値を加えて比較演算を行い、その大小関係から前記2つのパスのうち1つを生き残りパスとして選択することを特徴とする復号方法。
【請求項2】
前記予め決められたパスは、
前記記録媒体から再生された再生信号に波形歪が発生したパスであることを特徴とする、請求項1に記載の復号方法。
【請求項3】
前記予め決められたパスは、
前記記録媒体に記録された記録幅が長いパターンに対応したパスであることを特徴とする、請求項1に記載の復号方法。
【請求項4】
前記予め決められたパスは、
前記所定の状態から分岐して再度同一の状態に合流する2つのパスのユークリッド距離が36である2つのパスのうちの1つであることを特徴とする、請求項1に記載の復号方法。
【請求項5】
記録媒体から再生された再生信号を、所定のサンプリング周期でサンプリングを行うサンプリング手段と、サンプリングされた前記再生信号と所定の期待値との差を用いて複数のブランチメトリックを演算するブランチメトリック演算手段と、前記複数のブランチメトリックから複数のパスメトリックを演算するパスメトリック演算手段と、前記複数のパスメトリックを持つ複数のパスの中で、同一の状態に合流する2つの前記パスが持つ前記パスメトリックの比較演算を行う比較演算手段と、その大小関係から前記2つのパスのうち1つを生き残りパスとして選択を行うビタビ復号器において、
所定の状態から分岐して再度同一の状態に合流する2つのパスのユークリッド距離が最短になる2つのパスとそれ以外のパスの中で、ユークリッド距離が最短にならない2つのパスが同一の状態に合流する際に、前記ユークリッド距離が最短にならない2つのパスのうち、予め決められたパスが持つパスメトリックに所定のオフセット値を加えて比較演算を行い、その大小関係から前記2つのパスのうち1つを生き残りパスとして選択する比較選択手段を備えることを特徴とする復号装置。
【請求項6】
前記予め決められたパスは、
前記記録媒体から再生された再生信号に波形歪が発生したパスであることを特徴とする、請求項5に記載の復号装置。
【請求項7】
前記予め決められたパスは、
前記記録媒体に記録された記録幅が長いパターンに対応したパスであることを特徴とする、請求項5に記載の復号装置。
【請求項8】
前記予め決められたパスは、
前記所定の状態から分岐して再度同一の状態に合流する2つのパスのユークリッド距離が36である2つのパスのうちの1つであることを特徴とする、請求項1に記載の復号装置。
【請求項9】
前記記録媒体へレーザ光を照射し、その反射光を受光し、再生信号を生成する光ヘッドと、
請求項5から8のいずれか記載の復号装置と、を備えた情報再生装置。
【請求項10】
請求項1から4のいずれか記載の復号方法をコンピュータで読み取り可能な表現形式によって表現したプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−262611(P2008−262611A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102421(P2007−102421)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】