説明

循環器疾患を画像化するためのフェニルオキシアニリン誘導体の使用

本発明は、下に詳細に説明される、炎症性及び/又はミトコンドリア機能不全、及び他のPBR活性化を引き起こす任意の病態生理学的プロセスが主要な寄与因子である、心臓及び循環器疾患を画像化するための、末梢ベンゾジアゼピン受容体に対して高い親和性を有する特定の化合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下に詳細に説明される、炎症性及び/又はミトコンドリア機能不全、及び他のPBR活性化を引き起こす任意の病態生理学的プロセスが主要な寄与因子である、心臓及び循環器疾患を画像化するための、末梢ベンゾジアゼピン受容体に対して高い親和性を有する特定の化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2004年に、米国人の79,400,000人が、2つの主要な要素:
・心臓(heart、cardio)の疾患
・血管(vessels、vascular)の疾患
を有する1つ以上の形態の循環器疾患(cardiovascular disease)(CVD)を有していることが推計された。
【0003】
考慮されるべき心疾患は、冠動脈疾患、虚血性又は他の心筋症、炎症性弁膜心疾患、炎症性心膜疾患、原因の異なる心不全、心筋炎である。
【0004】
多くの研究は、血管の炎症が、動脈硬化(動脈の目詰まり)、心臓発作及び心筋梗塞、又は心臓麻痺を含む心疾患の発生率を増大させる主要な要因の一つであることを示している。
【0005】
考慮されるべき血管疾患は、任意の血管の動脈硬化及びアテローム性動脈硬化、高血圧、心臓発作、動脈瘤、末梢動脈疾患、血管炎、静脈不全、静脈血栓症、リンパ浮腫である。
【0006】
考慮されるべき腎臓疾患は、虚血性-再灌流障害、急性及び/又は慢性腎不全、腎硬化、腎臓に影響する自己免疫疾患である。
【0007】
本特許の対象となる自己免疫疾患として、例えば、関節リウマチ、MS等が挙げられる。
【0008】
循環器系において、PBRは、例えば血小板、白血球、及び単核球等の血液細胞において発現する。加えて、この受容体は、ミトコンドリア遷移孔(mitochondrial transition pore)の一部であり、そして心臓、即ち横紋心筋、血管平滑筋、マスト細胞、及び内皮細胞においても発現することが知られている。炎症及び/又はミトコンドリア機能不全は、殆どの循環器疾患、並びに多くの他の心臓、血管及び腎臓疾患に関与する。従って、任意の創傷(外傷、虚血)の結果として、末梢ベンゾジアゼピン受容体を担持する免疫細胞が各器官、即ち心臓、腎臓、血管壁等に浸潤し、活性化に応じてPBR受容体を上方制御する。加えて、心臓細胞及び血管壁のPBRは、虚血-再灌流創傷の場合と同様に、ミトコンドリア機能不全を引き起こすイベントに応じて変化する。
【0009】
腎臓において、PBRは、ヘンレ上行脚(limbs of Henle)を含む近位、遠位小管系の上皮細胞において発現する。PBR発現は、低酸素又は虚血イベントによる急性腎不全に応じて制御される。
【0010】
ベンゾジアゼピン(BZ)受容体は、中枢ベンゾジアゼピン受容体と末梢ベンゾジアゼピン受容体とに分類される。末梢ベンゾジアゼピン受容体(PBR)は、最初は、末梢において確認されているが、中枢神経系における存在も同様に示されていた。更に、PBRは、中枢神経系で高い密度を有し、そしてその密度は、同一の領域における中枢ベンゾジアゼピン受容体(CBR)の密度と同様又はより高いことが明らかにされている。最近の研究によると、PBRは脳内のミクログリア細胞中に存在し、そしてアルツハイマー症等の神経変性疾患、及び多発性硬化症等の自己免疫疾患において増大し、脳内でミクログリア及びマクロファージ細胞を活性化することが報告されている。
【0011】
Leducqら(JPET, vol 306, N°3, 828-837, 2003)は、末梢ベンゾジアゼピン受容体が、心臓の虚血-再灌流創傷の制御において、主要な役割を果たすことを開示する。ピリダザジノ-インドール誘導体であるSSR180575は、新規な末梢ベンゾジアゼピン受容体リガンドと見られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
末梢ベンゾジアゼピン受容体と高い親和性を有するフェニルオキシアニリン誘導体は、炎症及び/又はミトコンドリア機能不全が主要な寄与因子である循環器疾患の画像化に使用され得ることが明らかになった。
【0013】
本発明の目的は、強力な親和性及び高い選択性を有する、PBRに対するリガンドとして有用な化合物の使用を提供すること、そして、従来十分なシグナルを収得することが出来なかったPBRの外部測定において、高い親和性及び高い選択性を有するPBRリガンドをポジトロン核種で標識することにより、生体中のPBRの測定が、循環器疾患、そして更に具体的には炎症及び/又はミトコンドリア機能不全が主要な寄与因子となる血管、心臓及び腎臓の疾患を画像化することを可能にすることである。そのような疾患は、例えば、動脈瘤、アテローム性動脈硬化、心筋症及び他の幾つかの心疾患、心不全、炎症性弁疾患、冠動脈疾患、心内膜炎、アテローム、動脈硬化、例えば心筋炎、炎症性心筋症等の心臓の炎症性疾患、腎疾患、自己免疫性疾患、及び腎硬化が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、式1
【化1】

[式中、
X1及びX2は、互いから独立して、水素原子又はハロゲン原子であり、
R1及びR2は、互いから独立して、水素原子、1〜10個の炭素を有するアルキル基、1〜10個の炭素を有するハロゲンで置換されたアルキル基、又は放射性同位体であり、そして
R3は、1〜5個の炭素を有するハロゲンで置換されたアルキル基、又はその放射性同位体である]
で表される化合物を、炎症及び/又はミトコンドリア機能不全が主要な寄与因子である血管、心臓、及び腎臓の疾患を画像化するために使用することに関する。
【0015】
式1で表される化合物の好ましい態様において、R3のハロゲン原子は、フッ素原子、ヨウ素原子、又は臭素原子であり、より好ましくはフッ素原子又はヨウ素原子である。
【0016】
式1で表される化合物の好ましい態様において、本発明に係る放射性同位体は、11C、18F、123Iであり、より好ましくは18Fである。
【0017】
前記使用に係る好ましい態様において、前記疾患は、動脈瘤、アテローム性動脈硬化、心筋症、及び他の心疾患、心不全、炎症性血管疾患、冠動脈疾患、心内膜炎、アテローム、動脈硬化、心臓の炎症性疾患、例えば心筋炎、炎症性心筋症等、腎疾患、自己免疫疾患、並びに腎硬化から選択される。
【0018】
本使用に係る好ましい態様において、前記腎疾患は、虚血-再灌流創傷、急性及び/又は慢性腎不全、腎硬化、腎臓に影響する自己免疫疾患から選択される。
【0019】
より好ましい態様において、前記疾患は、心筋炎、アテローム、動脈硬化から選択される。
【0020】
本使用の好ましい態様において、化合物1は、N-(2-[18F]フルオロメチル-5-メトキシベンジル-N-(5-フルオロ-2-フェノキシフェニル)アセトアミド(本明細書中で以降、[18F]FMDAA1106と称される)、又はN-(2-(2-[18F]フルオロ)エチル-5-メトキシベンジル]-N-(5-フルオロ-2-フェノキシフェニル)アセトアミド(本明細書中で以降、[18F]FEDAA1106と称される)である。
【0021】
前記1〜10個の炭素を有するアルキル基は、直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、その例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、及びn-ヘプチル基が挙げられる。
【0022】
前記1〜10個の炭素を有するハロゲンで置換されたアルキル基は、1〜3個のハロゲン原子で水素原子が置換されている、直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、そして好ましくは、それはフッ素又はヨウ素で置換されたアルキル基である。それらの例として、フルオロメチル基、2-フルオロエチル基、2-ヨードエチル基、5-フルオロヘプチル基、及び6-ブロモへキシル基が挙げられる。前記1〜5個の炭素を有するハロゲンで置換されたアルキル基は、水素原子が1〜3個のハロゲン原子で置換されている、直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、そして好ましくは、それはフッ素又はヨウ素原子で置換されたアルキル基である。それらの例として、フルオロメチル基、2-フルオロメチル基、2-ヨードエチル基、及び5-フルオロヘプチル基が挙げられる。
【0023】
本発明の第二の側面において、本発明は、炎症及び/又はミトコンドリア機能不全が発生の主要な寄与因子である、白血球の浸潤により特徴付けられる末梢炎症性疾患、例えば骨髄炎又は関節リューマチ等を画像化するための、式1で表される化合物の使用に関する。
【0024】
本発明の第三の側面において、本発明は、自己免疫疾患を画像化するための、式1で表される化合物の使用に関する。より好ましい態様において、前記自己免疫疾患は、多発性硬化症、関節リューマチ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等から選択される。
【実施例】
【0025】
実施例
本発明は、以下の実施例を経て、より詳細に例示され得る。
【0026】
実施例1
N-(2-フルオロメチル-5-メトキシベンジル)-N-(5-フルオロ-2-フェノキシフェニル)アセトアミド(本明細書中で以降、FMDAA1106と称される)の生産
N-(2-ヒドロキシ-5-メトキシベンジル)-N-(5-フルオロ-2-フェノキシフェニル)アセトアミド(本明細書中で以降、DAA1123と称される)(18mg)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF;1.0mL)溶液に、油性水素化ナトリウム(60%)(5.1mg)が添加され、その後0℃で撹拌され、10mgのヨウ化フルオロメチル(FCH2I)がそれに添加され、そしてその混合物は、更に1時間、0℃で撹拌された。その反応溶液に水が添加され、その混合物は、酢酸エチルで抽出され、その有機層は飽和食塩水で洗浄され、そして無水硫酸マグネシウムで脱水された。前記溶媒は、減圧下で蒸発され、そしてその粗結果物は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン:酢酸エチル=1:3:1)により精製され、16mgの上に定義された化合物が得られた。融点は、71〜72℃であった。
【0027】
実施例2
N-(2-[18F]フルオロメチル-5-メトキシベンジル-N-(5-フルオロ-2-フェノキシフェニル)アセトアミド(本明細書中で以降、[18F]FMDAA1106と称される)の生産
[18F]フッ素([18F]F)は、20原子.%のH218Oを使用して、18MeVのプロトンを照射することにより生産された。前記照射の後、[18F]Fは、標的から回収され、アニオン交換樹脂のDowex 1-X8を用いて[18O]H2Oから分離され、Kryptofix 2.2.2.(25mg)を含むアセトニトリル(CH3CN、1.5ml)と混合され、そして照射容器から合成セルに移された。合成セル中で[18F]が乾燥された後、反応物中にジヨードメタン(CH2I2)が、130℃で注入された。前記注入と共に、ヘリウムガスにより生産された[18F]F CH2Iを、1mgのDAA1123及び水素化ナトリウム(6.8μL、0.5g/20mL)のDMF(300mL)溶液中にバブリングした。このプロセスが室温で10分間維持された後、その反応混合物は、逆相半分離(semi-separation)HPLC(YMCJ1球体ODS-H80カラム;10mm ID*250mm)中に注入された。流速が6mL/分のCH3CN/H2Oの移動相に相当する、[18F]FMDAA1106のフラクションが回収された。このフラクションから溶媒が減圧下で蒸発され、そして残留物が食塩水(10mL)中に溶解され、そして0.22-μm Milliporeフィルターを通され、最終産物として、[18F]FMDAA1106(110MBq、n=3)が得られた(照射条件;15分、15μA)。なお、必要とされる合成時間は、照射が完了してから45分であった。
【0028】
実施例3
N-(2-(2-フルオロ)エチル-5-メトキシベンジル]-N-(5-フルオロ-2-フェノキシフェニル)アセトアミド(本明細書中で以降、FEDAA1106と称される)の生産
ヨウ化フルオロメチル(FCH2I)に代わり1-フルオロ-2-トシロキシエタン(FCH2CH2OTs)が使用される以外は実施例1と同様の操作が実行され、20mgの上に定義された化合物が得られた。融点は、54〜56℃であった。
【0029】
実施例4
N-(2-(2-[18F]フルオロ)エチル-5-メトキシベンジル]-N-(5-フルオロ-2-フェノキシフェニル)アセトアミド(本明細書中で以降、[18F]FEDAA1106と称される)の生産
ジヨードメタン(CH2I2)に代わり2-ブロモエチルトリフレート(BrCH2CH2OTf)が使用される以外は実施例2と同様の操作が実行され、上に定義された化合物が得られた。
【0030】
本発明に従って、強力な親和性及び高い選択性を有する、PBRのリガンドとして有用な化合物が提供される。これまで、PBRの外部測定は十分なシグナルが得られなかったが、高い親和性及び高い選択性を有するPBRのリガンドが、ポジトロン核種で標識されることで、今後は、生体中のPBRの測定が可能である。
【0031】
本発明は、詳細に、そしてそれらの特定の実施例を参照して記載されているが、当業者にとっては、それらの発想及び範囲から逸脱すること無く、様々な変更及び改変がなされ得ることは明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1
【化1】

[式中、
X1及びX2は、互いから独立して、水素原子又はハロゲン原子であり、
R1及びR2は、互いから独立して、水素原子、1〜10個の炭素を有するアルキル基、1〜10個の炭素有するハロゲンで置換されたアルキル基又は放射性同位体であり、
R3は、1〜5個の炭素を有するハロゲンで置換されたアルキル基、又はその放射性同位体である]
で表される化合物の、炎症及び/又はミトコンドリア機能不全を主要な寄与因子とする血管、心臓、及び腎臓の疾患の画像化のための使用。
【請求項2】
放射性同位体が11C、18F、又は123Iである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
放射性同位体が18Fである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
式1で表される化合物が、N-(2-[18F]フルオロメチル-5-メトキシベンジル-N-(5-フルオロ-2-フェノキシフェニル)アセトアミド、又はN-(2-(2-[18F]フルオロ)エチル-5-メトキシベンジル]-N-(5-フルオロ-2-フェノキシフェニル)アセトアミドである、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
炎症及び/又はミトコンドリア機能不全を主要な発生因子とする血管、心臓、及び腎臓の疾患の画像化が、動脈瘤、狭心症、不整脈、アテローム性動脈硬化、心筋症、先天性心疾患、鬱血性心不全、心筋炎、弁疾患、冠動脈疾患、拡張型心筋症、拡張機能障害、心内膜炎、アテローム、動脈硬化、心筋炎、炎症性心筋症等の心臓の炎症性疾患、腎不全、腎硬化から選択される疾患である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
式1
【化2】

[式中、
X1及びX2は、互いから独立して、水素原子又はハロゲン原子であり、
R1及びR2は、互いから独立して、水素原子、1〜10個の炭素を有するアルキル基、1〜10個の炭素を有するハロゲンで置換されたアルキル基、又は放射性同位体であり、
R3は、1〜5個の炭素を有するハロゲンで置換されたアルキル基、又はその放射性同位体である]
で表される化合物を使用する、炎症及び/又はミトコンドリア機能不全を主要な寄与因子とする血管、心臓、及び腎臓の疾患を検出する方法であり、放射性標識された式Iで表される化合物を注射し、それからPETスキャナーを用いて患者を走査する工程を含む前記方法。
【請求項7】
末梢性炎症性疾患を画像化するための、式1の化合物の使用。
【請求項8】
自己免疫性疾患を画像化するための、式1の化合物の使用。
【請求項9】
前記自己免疫性疾患が、多発性硬化症、関節リウマチ、又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)から選択される、請求項8に記載の使用。

【公表番号】特表2010−528073(P2010−528073A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509713(P2010−509713)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004042
【国際公開番号】WO2008/145283
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】