説明

微小凹凸成形方法及び装置

【課題】 簡単かつ安価でありながら、複数の微小凹凸を精度良く成形することができる微小凹凸成形方法及び微小凹凸成形装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係る微小凹凸成形方法は、プレス装置1を用いて被処理物(ワーク)2の所定領域に微小凹部を所定数成形する際のプレス成形方法であって、1回で成形する微小凹部の数を前記所定数より小さくして複数回に分けて所定数の微小凹部を成形することを特徴とし、ワーク2の所定領域に、比較的細長い領域、比較的幅方向に拡張された領域と、が混在する場合において、比較的幅方向に拡張された領域を、比較的細長い領域と同等の幅寸法以下の領域に分割して複数回で成形することを特徴とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物(ワーク)に微小な凹凸を成形する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、摺動面構造に関し、スラスト荷重を受けながらすべり接触するすべり面(摺動面)に、特殊バレル研磨加工により、独立した微小くぼみを無数にランダムに形成し、潤滑油等の潤滑剤の存在下において、当該微小くぼみを油溜まりとして機能させ、すべり面の摩擦係数の低減や耐焼付性を改善を図るようにすることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、摺動面構造に関し、摺動面に直線偏光のレーザを照射し、定まった形状及び寸法の複数の凹凸部からなるグレーティング部を形成し、摩擦係数の低減を図るようにすることが記載されている。
【0004】
ここで、すべり面に複数の微小な窪みを形成する方法として、プレス加工により短時間で精度良く微小窪みを形成することも想定される。
例えば特許文献3は、プレス加工によりスラストプレートに動圧発生溝を形成する場合において、所定の溝深さを得るのに必要な加圧力の80%を1回の加圧力として複数回加圧を行うことで、被加工物の全体的な変形を抑制しつつ摺動面に所定深さの動圧発生溝の形成を可能にする方法が記載されている。
【0005】
また、例えば特許文献4には、ワークの表面(スラスト軸受面)に凹凸パターンを持つパンチ型を押し付けて変形させ、所定の凹凸パターンを形成するコイニング加工方法に関し、ワークの表面にパンチ型を押し付けて所定の凹凸パターンを形成する工程の前に、パンチ型を押し付けただけでは十分な深さの凹凸パターンを形成することができない部分周辺に盛り上がり部を予め形成する工程を追加することにより、パンチ型を用いたコイニング加工方法においても良好な深さの凹凸パターンの形成を可能にする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−172608号公報
【特許文献2】特開2008−89091号公報
【特許文献3】特開平5−60127号公報
【特許文献4】特開平6−254629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者等が種々の研究実験を行なったところ、特許文献3に記載の方法では、例えば、窪みの密度を大きくすると、所望深さの凹部を成形するのに必要な加圧力の80%で加圧しても、十分な深さの窪みが成形される前に被加工物自体がその厚さ方向(窪みの深さ方向)に圧縮変形してしまい、十分な深さの窪みを形成することができなくなるといった現象の発生が確認された。
【0008】
また、特許文献4に記載の方法では、盛り上がり部を形成する工程が追加されるため製造が複雑化すると共に、盛り上がり量等の設定も難しく、加えて、窪みの密度が大きい場合には、前述の特許文献3に記載の方法と同様に、加圧力により被加工物自体がその厚さ方向(窪みの深さ方向)に圧縮変形してしまい、十分な深さの窪みを形成することができなくなるといった惧れがある。
【0009】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、簡単かつ安価でありながら、複数の微小凹凸を精度良く成形することができる微小凹凸成形方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本発明に係る微小凹凸成形方法は、
プレス装置を用いて被処理物の所定領域に微小凹部を所定数成形する際のプレス成形方法であって、
1回で成形する微小凹部の数を前記所定数より小さくして複数回に分けて所定数の微小凹部を成形することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る微小凹凸成形装置は、
被処理物の所定領域に微小凹部を所定数成形する際に、
1回で成形する微小凹部の数を前記所定数より小さくして複数回に分けて所定数の微小凹部を成形することを特徴とする。
このような本発明に係る微小凹凸成形方法及び装置によれば、成形圧力(コイニング圧力)を被処理物(ワーク)のせん断強さが所定以上となって凹部深さが目標に達する前に、被処理物(ワーク)が降伏してしまって、被処理物(ワーク)の高さが減少してしまい所定深さの凹部を成形できなくなるといった惧れを回避することができ、以って所定深さの複数の微小凹凸を精度良く成形することができる。
【0012】
本発明において、1回で成形する微小凹部の数は、1回で成形される微小凹部の凹部深さが所望の深さとなり得る最大数以下であることを特徴とすることができる。
【0013】
本発明において、1回で成形する微小凹部の数は、成形の際の被処理物のプレス方向の変形が所定以下となる数であることを特徴とすることができる。
【0014】
本発明において、1回で成形する微小凹部の数は、被処理物のせん断強さの2倍と、微小凹部を成形する際のダイの受圧面積と、の積を、微小凹部の所望の凹部深さに応じて決定されるダイ側の凸部1箇所あたりの成形圧力で除して得られる値以下の数であることを特徴とすることができる。
【0015】
本発明において、被処理物の所定領域を複数に分割して成形することを特徴とすることができる。
これにより、被処理物(ワーク)の所定領域に、例えば、複雑な形状を有しており、面積が比較的広い拡張領域と、面積が比較的小さい領域(例えば、縦横方向に小さいサイズの狭小領域や細長い細長領域など)と、が混在するような場合でも、所定深さの複数の微小凹凸を精度良く成形することができる。
【0016】
本発明において、被処理物の所定領域に、比較的細長い領域と、比較的幅方向に拡張された領域と、が混在する場合において、比較的幅方向に拡張された領域を、比較的細長い領域と同等の幅寸法以下の領域に分割して複数回で成形することを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡単かつ安価でありながら、複数の微小凹凸を精度良く成形することができる微小凹凸成形方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係るプレス装置(微小凹凸成形装置)の全体構成を概略的に示す正面図である。
【図2】同上実施の形態に係るプレス装置で用いられるパンチ及び複数の凸部を模式的に示す図である。
【図3】スクロール式エアコンプレッサの概略を示す斜視図である。
【図4】スクロール式エアコンプレッサの固定スクロール、スクロール溝、スクロールラップ、可動スクロールの構成例を拡大して示す図である。
【図5】(A)は同上実施の形態に係るワークの微小コイニング凹凸成形部のA部(拡張領域)を、B部(細長領域)の幅寸法に対応させて分割する際の一態様例を示す図である。
【図6】図5の例において用いるパンチの一例を示す図である。
【図7】(A)は図5(A)の例のように成形領域を分割して成形する場合においてワークの各凹部に生じる応力のFEM計算結果を示す図であり、(B)は図5(B)の例のように成形領域全体を均一に押圧して成形する場合のワークの各凹部に生じる応力のFEM計算結果を示す図である。
【図8】(A)はパンチの周囲に余肉がない(或いは少ない)部位を成形する場合で比較的狭い成形幅を相応のパンチ幅で成形する際のワークの変形態様を模式的に示す図であり、(B)はパンチの周囲に余肉がない(或いは少ない)部位を成形する場合で比較的広い成形幅を相応のパンチ幅で成形する際のワークの変形態様を模式的に示す図である。
【図9】(A)はパンチの周囲に余肉がある部位を成形する場合で比較的狭い成形幅を相応のパンチ幅で成形する際のワークの変形態様を模式的に示す図であり、(B)はパンチの周囲に余肉がある部位を成形する場合で比較的広い成形幅を相応のパンチ幅で成形する際のワークの変形態様を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態に係る微小凹凸成形方法及び装置について、添付の図面に従って説明する。
【0020】
ワーク表面に、深さが千分の数mm程度(より具体的には、例えば、0.002〜0.01mm程度)で、径が十分の数mm程度(より具体的には、例えば、φ0.1〜0.2mm程度)の複数の微小な凹部を成形するプレス加工において、型の位置を制御する位置制御によりプレス加工を行う場合、ワークの素材厚さを千分の数mm以下のオーダーで管理する必要があり、このように高精度に管理されたワークを供給することは現実的には困難であるため、実際のプレス加工においては、プレス圧力を制御する圧力制御を採用することが多い。
【0021】
ところが、圧力制御によりプレス加工を行なう場合において、ワーク表面に、深さが千分の数mm程度で、径が十分の数mm程度の微小凹部を数千個或いは数万個といったオーダーで複数成形しようとした場合には、微小凹部の数を増加させるとある値を境に、加圧時にワーク自体の厚さ(プレスの加圧力の作用方向に沿った方向における厚さ)が塑性変形により薄くなってしまい、所望深さの微小凹凸を精度良く成形することができなくなるといった現象が生じることを、発明者は実験等により確認した。
【0022】
かかる現象は、ワーク表面の微小凹凸成形部に負荷されるパンチ応力と、当該パンチ応力をワーク全体として見たときの平均応力と、の関係によって生じる。
【0023】
すなわち、例えば、ワーク表面に深さ0.005mm、大きさφ0.2mmの凹部一個を成形するのに必要なパンチ面圧が700MPaであるなら、成形力としては22N(=(0.2mm×0.2mm×π/4)×700N/mm)が必要となる。
【0024】
例えば、サイズがφ9mm、高さ(厚さ)H=4mmでせん断抵抗(せん断強さ)が161MPaのワークに、このような凹部一個を成形するならば、このワーク全体に作用する平均応力は、
22N/(9mm×π/4)=0.35MPaとなり、ワーク全体の高さを変化させるような応力は発生しない。
【0025】
しかし、成形する凹部の個数が増加して行って、ある数を越えると、ワーク高さを減少させる応力が発生するようになる。このような成形加圧時におけるワーク高さの減少は、所望深さの凹部の成形を難しくする。
【0026】
本発明に係る微小凹凸を成形するためのプレス装置及び方法は、このような観点からなされたもので、複数の微小凹凸を精度良く成形することを可能にするものである。
【0027】
図1は、本実施形態に係る微小凹凸を成形するためのプレス装置(微小凹凸成形装置)1の全体的な構成を概略的に示している。
【0028】
プレス装置1の往復動機構に連結されて往復動作(プレス動作)されるスライド10の下部には、上型(金型)20が取り付けられている。
【0029】
スライド10を介して往復動作される上型20に対向して下型30が備えられ、この下型30はクッション装置40に支持されると共に、当該クッション装置40はボルスタ50を介してプレス装置1の図示しないフレーム等に支持されている。
【0030】
上型20の下面には、ワーク2に対して所定の微小凹凸を成形するためのパンチ21が取り付けられており、ワーク2を挟んで反対側の下型30の上面にはワーク2を支持するダイ31が取り付けられている。
【0031】
パンチ21の下面は、図2(A)、図2(B)に示すように、ワーク2に対して複数の所定深さの微小凹凸を形成するための複数の凸部22が所定に突出して形成されている。なお、凸部22は、例えばエッチング等の手法により形成可能である。
【0032】
より具体的には、例えばパンチ21は、SUS632の時効処理品で、厚さ0.15mm〜0.2mm程度の金属製の板状要素等により構成されることができ、パンチ21のワーク2と対面する表面には、エッチング加工等により、複数の凸部(コイニングパンチ)22として、例えば、径0.2mmの突起が、10000個程度形成される。なお、図2(A)、図2(B)では凸部22の表示を簡略化し、かつ複数の凸部22のうちの一部を抜き出して拡大して模式的に表示している。なお、パンチ21はSUS420J2やSUS440Cの焼き入れ硬化品から製作してもよい。
【0033】
ワーク2としては、スラスト荷重を受けながらすべり接触するすべり面(摺動面)を有する要素、例えば、スラスト軸受の他、例えばFC250に相当する材料とするスクロール式コンプレッサ等のスクロールなどが想定され得る。
【0034】
ここにおいて、スクロール式コンプレッサは、図3、図4(A)に示したように、渦巻状のスクロール溝51Aを有する固定スクロール51と、このスクロール溝51Aに収容されスクロール溝51Aの溝側面と所定間隙をもって係合する渦巻状のスクロールラップ52Aを有する可動スクロール52と、を対面配置し、前記可動スクロール52を固定スクロール51に対して相対回転させることにより、スクロール溝51Aの溝側面とスクロールラップ52Aの側面との間の前記所定間隙の空気を圧縮して圧縮空気を吐出ポートから吐出するように構成されている。
【0035】
ここで、前記固定スクロール51と、前記可動スクロール52と、の対面方向における当接面は、気密性維持のために所定面圧で当接されつつ比較的高速で摺動(すべり接触)されることになるため、例えば、前記固定スクロール51(或いは/及び可動スクロール52)(ワーク2に相当)の当接面に微小凹凸を成形して、すべり面の摩擦係数の低減や耐焼付性の改善を図ることが望まれる。
【0036】
なお、ワーク2として固定スクロール51を想定するような場合、図4(A)、図4(B)に示すように、ワーク2のすべり面のA部付近は微小凹凸を成形すべき面積が摺動面に沿って横方向に拡張された拡張領域(各方向に比較的均等に広がっている領域)であり、B部付近は微小凹凸を成形すべき面積が細長い細長領域となっている。
【0037】
このような拡張領域と細長領域とが混在したワークに対して微小凹凸を成形する場合を含め、図1に示したプレス装置1を用いて発明者が行った実験について、以下に説明する。
【0038】
実験では、スクロール式圧縮機の固定スクロール51をワーク2として、図4(A)において二点鎖線Xの内側領域であってスクロール溝51Aやスクロールラップ52A以外の領域である微小コイニング凹凸成形部(1679mm)に、φ0.20mmの凹部を深さ0.01±0.002mmで40900個成形する。
【0039】
用いた金型は、図2(A)、図2(B)に示したような平板状のダイ31と微小凸部を持ったパンチ21を用い、微小凹凸を成形する部位に相当する金型の部位には対応する微小凹凸を形成すると共に、微小凹凸を成形しない部位に相当する部分の金型は貫通若しくは凹部の厚みよりも更に薄くして成形時にワーク2と当接せず退避するように構成されている。
【0040】
図4(A)に示したA部(面積拡張領域)と、B部(細長領域)と、を合わせた総面積(微小コイニング凹凸成形部Xの面積)は1679mmで、その割合は約3:7(=A部面積:B部面積)であり、504mm:1175mmとなる。
なお、A部及びB部の凹部成形数は、A部:B部=12270個:28630個(=3:7)となっている。
【0041】
(1)パンチ21のワーク2のB部に対応する部位に、28630個の微小凸部(コイニングパンチ)22が形成されており、このパンチ21を用いて、ワーク2のB部における凹部深さが0.01mmとなるように、図1に示した例えば油圧駆動のクッション装置40を介してコイニング圧力(成形圧力)を増加させていく実験を行った。
その結果、図4(A)に示したワーク2のB部におけるB1部(図4(B)参照)のワーク応力が335MPaとなったときに、B部のワーク高さが0.05mm減少して、成形された凹部深さが0.008mmにとどまり、凹部深さの目標である0.01mmを達成することができなかった。
これは、コイニング圧力がワーク2のせん断強さの161MPaの2倍である322MPaを超えたため、凹部深さが目標に達する前に、材料(ワーク2)が降伏してしまって、ワーク2のB部の高さが減少したためと考えられる。
【0042】
(2)次に、予めワーク2の凹部深さが目標である0.01mmとなるパンチ成形面圧(σ)を実験で求めた結果、σ=1640MPaであることを取得した。従って、φ0.2mmの凹部を成形する場合の成形荷重はp=52Nとなる。
ワーク2のせん断強さの2倍は322MPaであり、複数のコイニングパンチ(パンチ21に形成されている微小凸部)22の押圧を受けるダイ面積(ダイ受圧面積)(S=B1部)は1175mmであるから、ワーク2の厚さが減少しない(ワーク2が降伏しない)ための条件は、コイニングパンチ数をnとすると、
2τ>pn/1175であるから、n<1175×2τ/pより、
コイニングパンチ数nは、7276(個)以下となる。
従って、28630(個)/7276(個)=3.9であるから、28630(個)を4回(工程)で成形するようにダイ面積は不変としてコイニングパンチ密度を約1/4とし、コイニングパンチ数を7157個が2回、7158個が2回(7157×2+7158×2=28630)とし、各工程でパンチ位置を変更して(各工程毎にパンチ位置の異なるパンチ21を準備してもよいし、各工程毎に共通のパンチ21であるがそのマウント位置或いはワーク2のマウント位置を変更するようにしてもよい)成形することで、B部においてワーク2の厚さを減少させずに所定数(28630個)の微小凹部を成形することが可能となると考えられる。
そこで、4回に分けて所定数(28630個)の微小凹部を成形する実験を行ったところ、ワーク2のB部(細長領域)に、深さ0.01mm±0.002mmの微小凹部を28630個成形することができ、ワーク2の厚さの減少もなかった。
【0043】
(3)次に、ワーク2のA部及びB部を共に4回(工程)で成形することができるように、ワーク2のA部に関してもダイ面圧は不変としてコイニングパンチ密度を1/4とし、1回当たりのA部のコイニングパンチ数を3067個が2回、3068個が2回(3067×2+3068×2=12270個)とし、A部のコイニングパンチ数+B部のコイニングパンチ数=3068個+7157個=10225個の微小凸部(コイニングパンチ)22により各工程でパンチ位置を変更して(各工程毎にパンチ位置の異なるパンチ21を準備してもよいし、各工程毎に共通のパンチ21であるがそのマウント位置或いはワーク2のマウント位置を変更するようにしてもよい)、パンチ面圧σ=1640MPaの面圧で成形を行った。
【0044】
その結果、A部に成形された凹部の深さ平均は約0.005mm、B部に成形された凹部の深さ平均は約0.013mmであり、A部に成形された凹部と、B部に成形された凹部と、の間で、凹部深さのバラツキが大きいことが確認された。
【0045】
このことは、コイニングパンチ(微小凸部)22が設置される面積がB部(細長領域)よりA部(拡張領域)のほうが部分的に見ると大きく、その影響によりワーク2やパンチ21(或いは金型)の全体の弾性変形量がB部と比較してA部のほうが大きくなって、その結果A部(拡張領域)における平均凹部深さがB部(細長領域)における平均凹部深さより浅くなったものと考えられる(図2(B)のワーク応力の発生態様(略等分布荷重)、図7に示した応力ばらつき、図9に示すワーク変形態様を参照)。
【0046】
すなわち、ワーク全体に負荷される荷重を全パンチの総面積で除した値は、1640MPaであるが、実際にはA部の外周部と内側部分では前述の理由により、A部内で異なるパンチ面圧が生じていたためにA部内の深さばらつきが生じ、A部の内側部分のパンチ面圧が低い分B部には1640MPa以上の面圧が負荷されているものと考えられ、これにより、A部に成形された凹部と、B部に成形された凹部と、の間で、凹部深さのバラツキが生じたものと考えられる。
【0047】
(4)上述した(1)〜(3)の結果から、本発明者は、ワーク2のA部に対応してパンチ21に配設される複数のコイニングパンチ22のその配設面積(配設領域:ダイ受圧面積)を、ワーク2のB部に対応して配設される複数のコイニングパンチ22のその配設面積(配設領域:ダイ受圧面積)と同等の面積(領域)に分割して成形することを試みた。
その結果、A部の凹部とB部の凹部が、共に深さ0.01mm±0.002mmで成形可能であることを確認した。
【0048】
これは、ワーク2のA部に対応したパンチ21の複数のコイニングパンチ22の配設面積(配設領域)を、ワーク2のB部に対応した複数のコイニングパンチ22の配設面積(配設領域)と同等にしたことにより(例えば、図9(B)から図9(A)へとコイニングパンチ22の配設面積を縮小したことにより)、図9(A)に示したように、図9(B)に比べて拡張領域に生じる曲げ変形による内側部分のたわみ量を減少させたことでワーク2の弾性変形量をA部とB部とでほぼ同等とすることができ、ワーク全体としてパンチ面圧σ=1640MPaを負荷したときに、B部に1640MPaの面圧が負荷され、A部にも均等に1640MPaの面圧が負荷され、以ってA部とB部とにおける凹部深さのバラツキが抑制され、A部及びB部共に深さ0.01mm±0.002mmで微小凹部を精度良く成形することができたものと考えられる。
【0049】
このように、本実験により、
B部(細長領域)については、成形工程を4回に分割し、各工程毎にB部の細長領域全体をカバーしつつパンチ密度は同一であるがコイニングパンチの位置を異ならせてB部全体に所望深さの凹部を所定数成形し、
A部(拡張領域)については、1回の成形で成形すべきA部の領域がB部の細長領域と同等の形状となるようA部(拡張領域)を複数に分割し(例えば、図5(A)、図5(B)、図6で模式的に示すように、4箇所に分割し)、分割された領域毎に、B部領域と同一面圧となるようにコイニングパンチ数を設定したパンチ21を用いて、各工程毎に異なる領域に対して成形を行うことにより、A部全体に所望深さの凹部を所定数成形することが可能であることを確認することができた。
【0050】
ここで、A部やB部の面積、微小凹凸数(コイニングパンチ数)や凹部深さなどの設定状況によっては、A部の領域の分割数と、B部の成形工程の分割数と、が一致せず、同じ成形回数でA部とB部の全領域を所望に成形することができない場合が想定されるが、かかる場合には、所望に成形できなかった部分に対して、ワーク2の厚みが減少しないようにコイニングパンチ本数やパンチ面積を設定して成形を行うことで、A部とB部の全領域を所望に成形することが可能である。
【0051】
なお、ワーク(被処理物)の所定領域に、比較的細長い領域と、比較的幅方向に拡張された領域と、が混在する場合において、比較的幅方向に拡張された領域を、比較的細長い領域と同等の幅寸法以下の領域に分割して複数回で成形する構成とすることもできるものである。
【0052】
例えば、B部と同じ成形回数ではA部に凹部の未成形な領域が存在するような場合には、ワーク2の厚みが減少しないコイニングパンチ数でA部の残りの領域に対して成形を行うことで、A部全体に所望深さの凹部を所定数成形することが可能となる。
【0053】
ところで、本発明者等は、上項(3)で述べたように、A部(拡張領域)の外周部と内側部分において凹部の深さばらつきが生じる現象の存在を確認したが、本発明者等はFEM計算や実機での実験等により、かかる現象のより詳細な解析を試みた結果、次のような知見を得た。
【0054】
すなわち、例えば、図5(A)及び(B)、図6に示したような同じ凸密度を持ったパンチ21を用いて同じ荷重を負荷してもワーク2側の負荷領域によって、パンチ21の凸部(コイニングパンチ22)により押圧される部分に生じる応力が異なることを解明した(図7(A)、図7(B)参照)。
【0055】
図5(B)の場合は、細長領域全てに荷重が負荷されるので、成形領域全体が均一な弾性変形を生じた後に塑性変形するので、図7(B)に示すように、各凸部(コイニングパンチ22)に加わる応力はほぼ均一となる。
【0056】
これに対し、図5(A)の場合は、成形領域の周囲に余肉があるため成形領域に曲げ変形が生じ、内側部分のたわみ量が外周部分より多いので、図7(A)に示すように内側部分の凸部にかかる応力は外周部に比較して小さくなる。
【0057】
つまり、図8(A)や図8(B)に示したように、パンチ21の凸部(コイニングパンチ22)の周囲に余肉がない場合には、ワーク2延いては成形領域全体が均一に変形するため、成形される凹部の深さばらつきも少なく精度良く複数の凹部を成形することができるが、図9(A)や図9(B)に示したように、パンチ21の凸部(コイニングパンチ22)の周囲に余肉が比較的沢山ある場合(例えば、図4のA部(拡張領域)を、図5(A)のように成形領域を分割して成形する場合など)には、ワーク2に曲げ変形が生じて、パンチ21の内側部分のたわみ量が外周部分より大きくなるため、パンチ21の外側と内側部分では凹部の深さばらつきが生じることになる。
【0058】
このため、精度良く複数の凹部を成形するためには、パンチ21の外側と内側部分での凹部の深さばらつきを所定に抑制することが求められるが、図9(A)や図9(B)に示したように、パンチ21の幅Lを狭くするに従ってたわみ量(延いては外側と内側部分での凹部深さのばらつき)は小さくなるため、例えば、図9(B)に示したように、パンチ21の外側部分におけるワーク2のたわみ量が、凹部深さの製品公差の範囲内に収まるように、パンチ21の幅L(すなわち、縦方向サイズや横方向サイズ)を設定することが望ましい。
【0059】
これにより、パンチ21の凸部(コイニングパンチ22)の周囲に余肉が比較的沢山ある場合(例えば、図4のA部(拡張領域)を、図5(A)のように成形領域を分割して成形する場合など)であっても、パンチ21の外側と内側部分とで内側のたわみ量が外周部分より大きくなってパンチ21の外側と内側部分とで凹部の深さばらつきが大きくなるといった現象の発生を抑制することができ、以って精度良く複数の凹部を成形することが可能となる。
【0060】
なお、本発明によれば、被処理物(ワーク)の所定領域に、面積が比較的広い拡張領域と、面積が比較的小さい領域と、が混在するような場合でも、所定深さの複数の微小凹凸を精度良く成形することができるが、面積が比較的小さい領域として、本実施の形態では細長領域を代表的に説明してきたが、これに限定されるものではなく、例えば、縦横方向に小さいサイズの狭小領域にも適用可能である。
【0061】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る微小凹凸成形方法及び装置によれば、簡単かつ安価な構成でありながら、複数の微小凹凸を精度良く成形することができ有益である。
【符号の説明】
【0063】
1 プレス装置(微小凹凸成形装置)
2 ワーク(被処理物)
10 スライド
20 上型(金型)
21 パンチ
22 コイニングパンチ(微小凸部)
30 下型
40 クッション装置
50 ボルスタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス装置を用いて被処理物の所定領域に微小凹部を所定数成形する際の微小凹凸成形方法であって、
1回で成形する微小凹部の数を前記所定数より小さくして複数回に分けて所定数の微小凹部を成形することを特徴とする微小凹凸成形方法。
【請求項2】
1回で成形する微小凹部の数は、1回で成形される微小凹部の凹部深さが所望の深さとなり得る最大数以下であることを特徴とする請求項1に記載の微小凹凸成形方法。
【請求項3】
1回で成形する微小凹部の数は、成形の際の被処理物のプレス方向の変形が所定以下となる数であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の微小凹凸成形方法。
【請求項4】
1回で成形する微小凹部の数は、被処理物のせん断強さの2倍と、微小凹部を成形する際のダイの受圧面積と、の積を、微小凹部の所望の凹部深さに応じて決定されるダイ側の凸部1箇所あたりの成形圧力で除して得られる値以下の数であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の微小凹凸成形方法。
【請求項5】
被処理物の所定領域を複数に分割して成形することを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1つに記載の微小凹凸成形方法。
【請求項6】
被処理物の所定領域に、比較的細長い領域と、比較的幅方向に拡張された領域と、が混在する場合において、比較的幅方向に拡張された領域を、比較的細長い領域と同等の幅寸法以下の領域に分割して複数回で成形することを特徴とする請求項5に記載の微小凹凸成形方法。
【請求項7】
被処理物の所定領域に微小凹部を所定数成形する際に、
1回で成形する微小凹部の数を前記所定数より小さくして複数回に分けて所定数の微小凹部を成形することを特徴とする微小凹凸成形装置。
【請求項8】
1回で成形する微小凹部の数は、1回で成形される微小凹部の凹部深さが所望の深さとなり得る最大数以下であることを特徴とする請求項7に記載の微小凹凸成形装置。
【請求項9】
1回で成形する微小凹部の数は、成形の際の被処理物のプレス方向の変形が所定以下となる数であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の微小凹凸成形装置。
【請求項10】
1回で成形する微小凹部の数は、被処理物のせん断強さの2倍と、微小凹部を成形する際のダイの受圧面積と、の積を、微小凹部の所望の凹部深さに応じて決定されるダイ側の凸部1箇所あたりの成形圧力で除して得られる値以下の数であることを特徴とする請求項7〜請求項9の何れか1つに記載の微小凹凸成形装置。
【請求項11】
被処理物の所定領域を複数に分割して成形することを特徴とする請求項7〜請求項10の何れか1つに記載の微小凹凸成形装置。
【請求項12】
被処理物の所定領域に、比較的細長い領域と、比較的幅方向に拡張された領域と、が混在する場合において、比較的幅方向に拡張された領域を、比較的細長い領域と同等の幅寸法以下の領域に分割して複数回で成形することを特徴とする請求項11に記載の微小凹凸成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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