説明

微小差圧測定用の差圧センサ

【課題】微小差圧を高感度に測定することのできる差圧センサを提供する。
【解決手段】差圧センサの感圧素子部2は、厚さ0.1〜2.0mmの薄膜4と、薄膜4に接触する一対の電極5と、薄膜4を保持する外枠6とを備えている。薄膜4は、誘電性の弾性樹脂と、この弾性樹脂中に1〜20重量%分散された複数のコイル状炭素繊維とから構成されている。薄膜4に含まれるコイル状炭素繊維8は、太さ(繊維径)が1nm〜10μm、コイル直径が1nm〜100μm、コイル長が150μm以下となるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差圧センサに関する。特に、感圧素子部と回路部とを備えており、感圧素子部が薄膜で構成されている微小差圧測定用の差圧センサに関する。
【背景技術】
【0002】
液体や気体の被測定媒体の差圧を測定するために利用される種々の圧力センサが知られている。例えば特許文献1の従来技術には、被測定媒体の圧力によってその変位が変化するするシリコン製のダイヤフラムと、このダイヤフラムの変位によって変化する静電容量を検出する検出素子とを備えた圧力センサが開示されている。又、近年では、ダイヤフラムと歪みゲージをシリコン半導体で一体形成した小型の半導体ダイヤフラム型圧力センサが実用化されている。
【0003】
発明者らはこれまでに、特許文献2、特許文献3及び特許文献4において、コイル状炭素繊維が弾性材料に分散されて形成されている感圧素子部を備えた圧力センサを提案している。この感圧素子部に含まれるコイル状炭素繊維には伸縮性があり、その伸縮によってインダクタンス、キャパシタンス、及びレジスタンス特性が変化するという性質を備えている。コイル状炭素繊維の伸縮とインダクタンス、キャパシタンス、及びレジスタンス特性の値の変化とは非常に高い相関を有しており、且つ再現性がよいことから、このコイル状炭素繊維は圧力を高感度に測定するセンサに利用することが可能である。
【特許文献1】特開昭60−7046号公報
【特許文献2】特開2005−49332号公報
【特許文献3】特開2005−291927号公報
【特許文献4】特許出願第2008−75445号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体や気体の被測定媒体の微小な差圧の測定を目的として、更に高感度な圧力センサの提供が望まれている。しかしながら、従来の半導体ダイヤフラム型圧力センサや静電容量型圧力センサでは、これらの感圧素子部が有する電気的な特性(例えば、応力に対する抵抗変化の直線性)等から、非常に微小な差圧を正確に測定することが困難な場合があった。
【0005】
本発明は、従来技術のこのような解決すべき課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、微小差圧を従来よりも高感度で正確に測定することができる微小差圧測定用の差圧センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、微小差圧測定用の差圧センサに関する。本発明の差圧センサは、感圧素子部と、回路部とを備えており、その感圧素子部が、コイル状炭素繊維を含む弾性樹脂によって構成されている厚さ0.1〜2.0mmの薄膜と、薄膜に接触する電極と、薄膜を保持する外枠とを備えていることを特徴とする。
【0007】
発明者らは、種々の検討の結果、コイル状炭素繊維を含む弾性樹脂を厚さ0.1〜2.0mmの薄膜に形成して感圧素子部に利用することで、測定感度が非常に高い差圧センサが得られることを見出して本発明をなすに至った。本発明に係る差圧センサの感圧素子部を構成する薄膜は、ダイヤフラムとしての変位量が大きく、且つその変位に追従して伸縮し電気特性が高感度に変化するコイル状炭素繊維を含むために、微小差圧を従来よりも高感度で正確に測定することが可能である。
【0008】
本発明の差圧センサの感圧素子部を構成する薄膜には、コイル状炭素繊維が弾性樹脂に対して1〜20重量%含まれることを特徴とする。差圧センサが微小な差圧に対して高い測定感度を得るためには、薄膜がコイル状炭素繊維を1重量%以上含むことが好ましい。一方で、コイル状炭素繊維の添加量が20重量%を越えた場合には、薄膜に必要な弾力性と柔軟性が得られなくなって、微小差圧の測定値が不正確になる恐れがある。以上のことから、感圧素子部の薄膜は、弾性材に対するコイル状炭素繊維の添加量が1〜20重量%であることが好適である。
【0009】
本発明の差圧センサは、2枚の隔壁で外枠の両端を閉塞して外側環境と隔離された空間を形成しており、該空間の圧力を調整することが可能である。そして本発明の差圧センサは、隔壁の少なくとも一方が、コイル状炭素繊維を含む弾性樹脂を厚さ0.1〜2.0mmに形成した薄膜であることを特徴とする。本発明の差圧センサは、隔壁と外枠とで囲まれた空間の圧力を調整することで、センサ感度の調節を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、液体や気体の被測定媒体の微小な差圧を高感度に測定可能な差圧センサを得ることができる。
【0011】
本発明によって、センサ感度の調節が容易な微小差圧測定用の差圧センサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る微小差圧測定用の差圧センサの最良の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1に感圧素子部2の構成を示し、図2に差圧センサ1の感圧素子部2と回路部3の構成を模式的に示すブロック図を示す。
【0013】
図1(a)に感圧素子部2の斜視図を示し、図1(b)に感圧素子部2の縦断面図を示す。感圧素子部2は、厚さ0.1〜2.0mmの薄膜4と、薄膜4に接触する一対の電極5と、薄膜4を保持する外枠6とを備えている。
【0014】
図3に、薄膜4の部分拡大図を示す。薄膜4は、誘電性の弾性樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリウレタン系樹脂、又は天然ゴム等の防水性・誘電性のエラストマー)7と、この弾性樹脂7に対して1〜20重量%分散された複数のコイル状炭素繊維8とから構成されている。コイル状炭素繊維8は、シングルコイル状又はダブルコイル状に形成された炭素繊維である。本実施の形態の薄膜4に使用されるコイル状炭素繊維8は、太さ(繊維径)が1nm〜10μm、コイル直径が1nm〜100μm、コイル長が300μm以下となるように形成されており、コイルの巻き方向、長さ方向での巻き数については特に限定されない。コイル長が300μmを超えるとコイル状炭素繊維が相互に交絡し、基材樹脂内での分散性を欠き好ましくない。なお、図3に示すコイル状炭素繊維8は、その分散状態と形状の理解を容易にするために、その大きさを拡大して描かれている。
【0015】
コイル状炭素繊維8は、コイル状に形成された導電性の繊維であって、インダクタンス成分(L成分)、キャパシタンス成分(C成分)、及びレジスタンス成分(R成分)をそれぞれ有している。誘電性の弾性樹脂7は、キャパシタンス成分(C成分)を有し、コンデンサとして作用する。この結果、誘電性の弾性樹脂7と、コイル状炭素繊維8とから構成されている薄膜4は、LCR共振回路として作用する。
【0016】
薄膜4を保持する外枠6は、測定範囲内の圧力で変形しない強度を備えたポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、アクリル樹脂などの汎用プラスチックの他、ポリイミド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィンなどのエンジニアプラスチック等から形成することができる。
【0017】
薄膜4に圧力が加わると、薄膜4全体が変形して伸長し、薄膜4に含まれるコイル状炭素繊維8も伸長する。伸長に伴って、コイル状炭素繊維8は、そのL成分、C成分、及びR成分が変化する。薄膜4に加わっていた圧力が除圧されると、コイル状炭素繊維8は元の形状に戻り、そのL成分、C成分及びR成分の特性値は、圧力が加わる前の値に正確に戻る。このような特性を有するコイル状炭素繊維8を含むことで、薄膜4の電気特性は加圧量と除圧量に対応して再現性高く変化する。このような薄膜4の電気特性を測定することにより、薄膜4に加わる微小な圧力を正確に測定できる。
【0018】
感圧素子部2に電気的に接続されている回路部3について図2を用いて説明する。差圧センサ1は、感圧素子部2と、感圧素子部2に電気的に接続されている回路部3と、回路部3が出力した信号に基づいて圧力を算出する演算部9とを備えている。回路部3は、感圧素子部2からの信号をS/N比を低下させずに適切に処理して演算部9に出力する。
【0019】
図2に示すように、回路部3は、基準信号入力手段としての発振回路20と、検出手段及び信号調整手段としての移相部30と、検出手段としての検波部35とを備えている。検波部35は、第1検波器としての同相検波器36及び第2検波器としての直交検波器37を備えている。発振回路20は、センサドライバ回路21を介して感圧素子部2の一方の電極5に接続されている。感圧素子部2の他方の電極5は、バッファ回路22を介して検波部35に接続されている。また、発振回路20は、移相部30を介して検波部35に接続されている。
【0020】
発振回路20は、交流信号(基準信号)をセンサドライバ回路21に出力する。発振回路20は、好ましくは100KHz以上の周波数f及び振幅Aの正弦波を出力する。本実施形態における発振回路20は、予め設定された周波数範囲内の周波数を生成可能なファンクションジェネレータLSIにより構成されている。尚、発振回路20は、時間の経過に伴って振幅が変化する交流信号を出力する構成であればよく、三角波や方形波を出力する回路を用いることも可能である。
【0021】
センサドライバ回路21は、感圧素子部2の駆動が可能な振幅レベルに基準信号の振幅を変換して、感圧素子部2の一方の電極5に出力する。センサドライバ回路21は、感圧素子部2が有するインピーダンスの影響によって基準信号が歪むことを防止するために、入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低くなるように構成される。本実施形態におけるセンサドライバ回路21は、利得「1」の正相増幅器(いわゆるボルテージフォロワ)により構成されている。
【0022】
バッファ回路22は、感圧素子部2の他方の電極5から入力される信号(センサ出力信号)を検波部35に出力する回路である。バッファ回路22は、検波部35の回路構成によってセンサ出力信号が変動しないように、入力インピーダンスが高くなるように構成されている。また、感圧素子部2のセンサ出力信号は微小であるため、本実施形態におけるバッファ回路22は、増幅器の機能を有している。具体的には、バッファ回路22は、非反転型増幅器により構成されている。このため、利得の調整により増幅度が調整される。
【0023】
移相部30は、移相器31及び直交用移相器としての90°移相器32を備えている。移相器31は、発振回路20から入力された基準信号の位相を遅らせたり進めたりする回路である。移相器31は、入力された信号の全ての周波数成分を通過させるフィルタ(オールパスフィルタ)により構成されている。移相器31は、この位相が相違させられた基準信号(検波基準信号としての同相信号)を検波部35の同相検波器36に出力するとともに、90°移相器32に出力する。移相器31は、基準信号の位相を調整することにより、感圧素子部2に圧力が加わっていない状態におけるセンサ出力信号の位相と同相信号の位相とを一致させる。
【0024】
90°移相器32は、同相信号の位相を90°だけ遅らせる回路である。すなわち、90°移相器32は、感圧素子部2に圧力が加わっていない状態(L成分、C成分及びR成分が変化する前の状態)におけるセンサ出力信号に対して90°の位相差となるように、基準信号を移相させる回路である。90°移相器32は、移相器31と同様の構成を有し、移相器31における位相の調整量が90°に固定された構成となっている。90°移相器32は、入力された同相信号に対して90°遅れた信号を直交信号として直交検波器37に出力する。
【0025】
検波部35は、同相検波器36及び直交検波器37により、バッファ回路22を介して入力されたセンサ出力信号を直交検波する。本実施形態においては、検波部35は、直交検波の方式としてプロダクト検波を用いている。すなわち、検波部35は、位相が90°だけ互いに異なり、振幅及び周期が同一の2つの正弦波を用いてセンサ出力信号を検波する。
【0026】
同相検波器36は、同相信号によりセンサ出力信号を検波してオフセットアンプ回路38に出力する。具体的には、同相検波器36は、同相信号とセンサ出力信号とを乗算して出力する。例えば、同相信号として「A・sin(ωt)(ここで、ω=2πf)」で示される正弦波が入力され、センサ出力信号として「A’sin(ωt+ψ)(ψ:感圧素子部2による位相遅れ)」で示される正弦波が入力された場合、同相検波器36は、「A・A’・sin(ωt)・sin(ωt+ψ)」で示される信号を出力する。同相検波器36は、この信号成分のうち同相信号の2倍の周波数の信号成分「cos(2ωt+ψ)」をローパスフィルタにより除去して、「α・cos(ψ)(αは、A及びA’により定まる直流電圧であり、以下「振幅電圧」という)」として示される直流電圧(同相検波電圧I)を出力する。
【0027】
一方、直交検波器37は、直交信号によりセンサ出力信号を検波してオフセットアンプ回路39に出力する。具体的には、直交検波器37は、直交信号とセンサ出力信号とを乗算して出力する。例えば、直交信号として「A・cos(ωt)(同相信号に対して90°位相が遅れた信号)」で示される正弦波が入力され、センサ出力信号として「A’sin(ωt+ψ)」で示される正弦波が入力された場合、直交検波器37は、「A・A’・cos(ωt)・sin(ωt+ψ)」で示される信号を出力する。直交検波器37は、この信号成分のうち直交信号の2倍の周波数の信号成分「sin(2ωt+ψ)」をローパスフィルタにより除去して、「α’・sin(ψ)(α’は、A及びA’により定まる定数)」として示される直流電圧(直交検波電圧Q)を出力する。
【0028】
オフセットアンプ回路38は、基準電源40で示される電圧を同相検波電圧Iから減算して検出電圧V1として出力する。同様に、オフセットアンプ回路39は、基準電源40で示される電圧を直交検波電圧Qから減算して検出電圧V2として出力する。なお、本実施形態におけるオフセットアンプ回路38,39は、減算増幅器により構成されている。オフセットアンプ回路38やオフセットアンプ回路39の減算量の調整により、感圧素子部2に圧力が加わっていないときの検出電圧V1,V2の値は「0」に設定されている。
【0029】
演算部9は、入力された検出電圧V1、V2に基づいて、感圧素子部2に加わった圧力の変化量や種類を求める。以下、触覚センサ1による被検出量の検出原理について、図4に基づいて具体的に説明する。なお、検出電圧V1及び検出電圧V2は、同相検波電圧I及び直交検波電圧Qをそれぞれオフセットさせることにより得られる電圧値であり、これら検波電圧I,Qの挙動に連動して変動する。
【0030】
以下に、同相検波電圧I及び直交検波電圧Qに基づく圧力の検出原理を説明する。図4に示すように、感圧素子部2に圧力が加わっていない状態において、同相検波電圧IをX成分、直交検波電圧QをY成分として極座標表示すると(ポイントP0)、原点OからポイントP0までの仮想線のX軸に対する傾きは位相遅れψ0、原点OからポイントP0までの長さは振幅電圧αとなる。なお、本実施形態においては、移相器31により、感圧素子部2に圧力が加わっていない状態におけるセンサ出力信号の位相と同相信号の位相とは一致しているため、位相遅れψは「0[rad]」(ψ0=0[rad])となる。ここでは、説明の便宜上、ψ0を図面上に表示している。
【0031】
感圧素子部2に一定の圧力が加わって、位相遅れψが増大するとともに振幅電圧αが減少して同相検波電圧I及び直交検波電圧QがポイントP1で示される特性を示した場合を例に挙げて説明する。この場合、感圧素子部2は、R成分及びL成分が増加し、C成分が減少していると推定される。詳しくは、振幅電圧αが振幅電圧α0から振幅電圧α1に減少していることから、センサ出力信号の振幅が減少したと推定され、R成分が増加したと推定される。また、位相遅れψが位相遅れψ0から位相遅れψ1に増加していることから、同相信号に対するセンサ出力信号の位相遅れψが増加したと推定され、L成分が増加するとともにC成分が減少したと推定される。
【0032】
また別例として、感圧素子部2に上記とは異なる圧力が加わって、位相遅れψが減少するとともに振幅電圧αが増大して同相検波電圧I及び直交検波電圧QがポイントP2で示される場合について説明する。この場合の感圧素子部2は、感圧素子部2のC成分が増加し、R成分及びL成分が減少したと推定される。詳しくは、振幅電圧αが振幅電圧α0から振幅電圧α2に増大していることから、センサ出力信号の振幅が増大したと推定され、R成分が減少したと推定される。また、位相遅れψが位相遅れψ0から位相遅れψ1に減少していることから、同相信号に対するセンサ出力信号の位相遅れψが減少したと推定され、C成分が増加するとともにL成分が減少したと推定される。
【0033】
このように、演算部9は、感圧素子部2に圧力が加わっていない状態からの振幅電圧α及び位相遅れψの変化傾向や変化量を算出することによって、感圧素子部2に圧力が加わることにより変化する成分(R成分、L成分、C成分)を検出することができる。振幅電圧α及び位相遅れψは、感圧素子部2に加わる外力の種類やその大きさにより変動する。よって、振幅電圧α及び位相遅れψの変化パターンによって感圧素子部2に加わる外力の種類や大きさを測定することができる。即ち、本実施の形態の差圧センサ1により、感圧素子部2に加わる圧力の微小な変化を検出することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により、前記実施形態をさらに具体的に説明する。
【0035】
(実施例1)本実施例の差圧センサの感圧素子部2は、図1に示すように、リング状の外枠6に、1枚のシート状の薄膜4が固定された感圧素子部2を備えている。外枠6と薄膜4との間に一対の電極5が配置されており、電極5は薄膜4に接触するように固定されている。感圧素子部2の薄膜4は、シリコーン樹脂に10重量%のコイル状炭素繊維を分散させてシート状に成形したものが用いられている。本実施例で用いられるコイル状炭素繊維は、太さが1nm〜10μm、コイル直径が1nm〜100μm、コイル長が300μm以下となっている。
【0036】
リング状の外枠6の内径を直径10mmとし、これに厚さ0.1mmの薄膜4を固定した感圧素子部2に、回路部3から100KHz以上の交流電位を印可してその出力信号を解析した。本実施例の差圧センサでは、0Pa〜10kPaの圧力範囲の気体や液体の差圧を分解能0.01kPaで測定することが可能であった。本実施例の差圧センサの感圧素子部2は、例えば圧力容器の開口部に固定されて好適に使用される。
【0037】
本実施例の一変形例として、リング状の外枠6の内径を直径100mmとし、これに厚さ0.1mmの薄膜4を固定した感圧素子部2を作成した。この変形例の感圧素子部2に回路部3から同様の交流電位を印可して出力信号を解析したところ、0Pa〜1MPaの圧力範囲の気体や液体の差圧を分解能0.01kPaで測定可能であった。
【0038】
また、本実施例の更なる変形例として、リング状の外枠6の内径を直径100mmとし、これに厚さ2mmの薄膜4を固定した感圧素子部2を作成した。この感圧素子部2に、回路部3から同様の交流電位を印可して出力信号を解析したところ、0Pa〜10MPaの圧力範囲の気体や液体の差圧を分解能0.1kPaで測定可能であった。
【0039】
また、本実施例の更なる変形例として、内径が直径100mmのリング状の外枠6に、コイル状炭素繊維の含有率を1%とした厚さ0.1mmの薄膜4を固定した感圧素子部2を作成した。この感圧素子部2に、回路部3から同様の交流電位を印可して出力信号を解析したところ、0Pa〜300kPaの圧力範囲の気体や液体の差圧を分解能0.01kPaで測定可能であった。
【0040】
(実施例2)本実施例の差圧センサの感圧素子部12は、図5に示すように、矩形状の外枠13に、1枚のシート状の薄膜14が保持されている。外枠13と薄膜14との間に一対の電極5が挟まれており、電極5は薄膜14に接触するように固定されている。
【0041】
矩形状の外枠13は、縦10mm、横15mmの開口部を有するように形成されている。又、薄膜14は、ポリウレタン系樹脂に10重量%のコイル状炭素繊維を分散させて、厚さ0.1mmのシート状に成形したものが用いられている。本実施例で用いられるコイル状炭素繊維は、太さが1nm〜10μm、コイル直径が1nm〜100μm、コイル長が300μm以下となっている。この感圧素子部12に回路部3から100KHz以上の交流電位を印可してその出力信号を解析した結果、0Pa〜10kPaの圧力範囲の気体や液体の差圧を分解能0.01kPaで測定可能であった。
【0042】
(実施例3)本実施例の差圧センサは、図6に示すように任意形状の外枠に1枚のシート状の薄膜が保持された感圧素子部15を備えている。薄膜の構成、電極の配置、及び回路部から印可される電圧については実施例1と同一であり、同一符号を付与して重複説明を省略する。外枠の形状を感圧素子部15が配置される位置に合わせて成形することで、本実施例の差圧センサは、気体、液体、その他任意流体の静圧、動圧、振動圧、静流圧、変動流圧、微風、微粒子衝突圧などの微圧、微小振動の変化を出力信号の変化として捉え、その変化量を情報として利用することができる。
【0043】
(実施例4)本実施例の差圧センサの感圧素子部16は、図7に示すように2枚の隔壁17,17’によって外枠18の両端が閉塞されており、外側環境と隔離された空間が形成されている。外枠18の寸法は、リング状であれば内径10〜1000mm、矩形状であれば開口部の一辺が10〜1000mmの範囲で任意に設定することができる。
【0044】
2枚の隔壁のうち、一方の隔壁17は、実施例1の薄膜4と同様に、シリコーン樹脂に10重量%のコイル状炭素繊維を分散させた厚さ0.1mmの薄膜で構成されている。他方の隔壁17’は外枠18と同一のプラスチックで構成されている。一対の電極5が、外枠18と隔壁17との間に固定されている。外枠18と2枚の隔壁17,17’とで隔離された空間の圧力は、外枠18に設けられた圧力調整弁19によって0Pa〜30kPaに調整することができる。この圧力の調整によって、差圧センサの感度の調節を容易に行うことが可能である。
【0045】
感圧素子部16に回路部3から100KHz以上の交流電位を印可してその出力信号を解析することにより、0Pa〜4MPaの圧力範囲の気体や液体の差圧を分解能0.01kPaで測定することが可能である。
【0046】
(実施例5)本実施例の差圧センサの感圧素子部26は、図8に示すように、外枠18の両端部に薄膜で構成された2枚の隔壁17が配置されている。2枚の隔壁17には、各々1対の電極5が接している。それ以外の外枠18と隔壁17の構成、及び感圧素子部26に印可される電圧については実施例4と同一であり、同一符号を付与して重複説明を省略する。外枠18に設けられた圧力調整弁19によって、外枠18と隔壁17とで隔離された空間の圧力は、0Pa〜30kPaに調整可能である。感圧素子部26に回路部3から100KHz以上の交流電位を印可してその出力信号を解析することにより、0Pa〜4MPaの圧力範囲の気体や液体の差圧を分解能0.01kPaで測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の差圧センサは、血圧・血流、脈動・脈波等の検知を行う医療支援機器用の差圧検知センサ、振動を検出して疑似聴覚を付与するヒューマノイドロボット用センサ、設備の異常検知を行うFA生産ライン管理・監視用センサ、設備、装置の運転機能を把握するための化学機器、流体移送機器等への利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の差圧センサの一実施形態における感圧素子部2の構成を示す図である。
【図2】差圧センサ1の主要な構成である感圧素子部2と回路部3とを模式的に示すブロック図である。
【図3】薄膜4の部分拡大図である。
【図4】差圧センサ1による検出原理を示すグラフである。
【図5】第2実施例の感圧素子部12の斜視図である。
【図6】第3実施例の感圧素子部15の斜視図である。
【図7】第4実施例の感圧素子部16の縦断面図である。
【図8】第5実施例の感圧素子部26の縦断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 差圧センサ
2,12,15,16,26 感圧素子部
3, 回路部
4,14 薄膜
5 電極
6,13,18 外枠
7 弾性樹脂
8 コイル状炭素繊維
9 演算部
17,17’隔壁
19 圧力調整弁
20 発振回路
21 センサドライバ回路
22 バッファ回路
30 移相部
31 移相器
32 90°移相器
35 薄膜
36 同相検波器
37 直交検波器
38,39 オフセットアンプ回路
40 基準電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感圧素子部と、回路部とを備えている微小差圧測定用の差圧センサであって、
前記感圧素子部が、
コイル状炭素繊維を含む弾性樹脂によって構成されている厚さ0.1〜2.0mmの薄膜と、
前記薄膜に接触する電極と、
前記薄膜を保持する外枠とを備えていることを特徴とする差圧センサ。
【請求項2】
前記薄膜には、前記コイル状炭素繊維が前記弾性樹脂に対して1〜20重量%含まれることを特徴とする請求項1に記載の差圧センサ。
【請求項3】
2枚の隔壁で前記外枠の両端を閉塞して外側環境と隔離された空間を形成し、該空間の圧力を調整することが可能であり、前記隔壁の少なくとも一方が、前記薄膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧力センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−133775(P2010−133775A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308571(P2008−308571)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜20年度、文部科学省、地域科学技術振興施策、委託研究(知的クラスター創成事業、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(399054000)シーエムシー技術開発 株式会社 (23)
【Fターム(参考)】