説明

微小球状金属粒子の製造方法

【課題】真球に近く且つ粒度が揃った微小球状金属粒子の製造方法に関するもので、特にナノコンポジット構造を有する微小球状金属粒子を製造するに適した方法を提供する。
【解決手段】遠心力により中心部から放射状に遠心場に飛散する溶融金属小滴を、アルゴンを主体とするガスの環状上昇流と遠心場中で強制的に接触させることを特徴とする。具体的には、高速水平回転するディスク4の上に溶融金属を供給し、溶融金属に遠心力を作用させて小滴として放射状に遠心場に飛散させ、ディスクの上面より下方で且つディスクに対して同心円をなす位置に設置されたドーナツ状のガス供給管8に上向き又は斜め上向きに設けたスリット状開口9から放出されるアルゴンを主体とするガスの環状上昇流と遠心場中で強制的に接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真球に近く且つ粒度が揃った微小球状金属粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁石、触媒、電極、電池材、保冷材、耐火材、焼結金属などの原料として各種の金属、金属酸化物、金属窒化物、金属珪化物、これらの混合物などの粉末が使用されているが、従来は主としてその組成、形状及び粒度が問題とされてきた。しかし最近、原料粉末の顕微鏡的微細構造、ことに2種類以上の構成要素が複合された微細構造(ナノコンポジット構造)が、これら粉末を用いて製造された材料の使用特性に大きな影響を与えることが報告され、多くの分野で研究がすすめられている。しかし従来粉末を製造するために使用されている機械的粉砕法、遠心噴霧法等では、真球、均一、均質な微小粒子、特にナノコンポジット構造を有する微小金属粒子を得ることが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、真球に近く且つ粒度が揃った微小球状金属粒子の製造方法に関するもので、特にナノコンポジット構造を有する微小球状金属粒子を製造するに適した方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る微小球状金属粒子の製造方法は、遠心力により中心部から放射状に遠心場に飛散する溶融金属小滴を、アルゴンを主体とするガスの環状上昇流と遠心場中で強制的に接触させることを特徴とする。具体的には、高速水平回転するディスクの上に溶融金属を供給し、溶融金属に遠心力を作用させて小滴として放射状に遠心場に飛散させ、ディスクの上面より下方で且つディスクに対して同心円をなす位置に設置されたドーナツ状のガス供給管に上向き又は斜め上向きに設けたスリット状開口から放出されるアルゴンを主体とするガスの環状上昇流と遠心場中で強制的に接触させる。
【0005】
アルゴンを主体とするガスとは、アルゴン100%のガス、又は微量の反応性ガス、特に酸素を含有するアルゴンガスを言う。アルゴンガス中の酸素濃度は2容積ppm以下が好ましい。この微量酸素の存在により、生成した微小球状金属粒子の表面に極めて薄い金属酸化物皮膜が形成し、空気中でそれ以上酸化が進行するのを防止するなどの働きをする。
【発明の効果】
【0006】
真球に近く且つ粒度が揃った微小球状金属粒子を製造することができ、特にナノコンポジット構造を有する微小球状金属粒子を製造するに適している。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の実施に際して使用する遠心式粒状化装置の構造例を図1に示す。粒状化室1は上部が円筒状、下部がコーン状になっており、上部に蓋2を有する。蓋2の中心部には垂直に溶融金属注加用のノズル3が挿入され、ノズル3の直下には回転ディスク4が設けられている。回転ディスク4は、その直下に連結されたモータ5により高速回転される。また粒状化室1のコーン部分の下端には生成した微小球状金属粒子の排出管6が接続されている。ノズル3の上部は粒状化する金属を溶融する電気炉(高周波炉)7に接続されている。ディスク4の上面より下方で、ディスク4(又はその直下のモータ5の回転軸)に対して同心円をなす位置にドーナツ状のガス供給管8が設置されている。ドーナツ状のガス供給管8は、上向きにガスを放出するスリット状開口9を有している。ガス供給タンク10からのアルゴンガス又は微量酸素含有アルゴンガスは配管11を通してドーナツ状のガス供給管8に供給される。ガス供給量は弁12により制御される。符号13は排気装置で、それに接続する弁14を操作することにより粒状化室内の圧力を任意の値に制御する。粒状化室1には水冷用ジャケット15が設けられている。符号16は冷却用水の送入管、符号17は冷却用水の排出管である。
【0008】
図2は図1に示した装置における回転ディスク及びドーナツ状のガス供給管付近の拡大図、図3は図2に示した部分の水平断面図である。電気炉7で溶融された金属は、ノズル3から高速水平回転ディスク4上に供給される。供給された溶融金属は高速水平回転ディスク4による遠心力の作用で微細な液滴状になって点線20で示すように放射状に遠心場に飛散する。一方、ドーナツ状のガス供給管8のスリット状開口9から上向きに放出されたアルゴンを主体とするガスは点線21で示される環状の上昇ガス流を形成する。放射状に遠心場に飛散する溶融金属小滴20とアルゴンを主体とする環状の上昇ガス流21の両者は符号Aで示される環状領域付近で接触し、溶融金属は極めて速やかに真球に近い状態になって固化する。アルゴンを主体とする環状のガス流中に微量の反応性ガス、例えば酸素が含まれている場合は、金属成分の一部は酸化物となり、ナノコンポジット構造を有する微小球状金属粒子になる。
【0009】
遠心力により回転ディスクを離れた溶融金属の小滴20がアルゴンを主体とするガスの環状上昇流21と接触する位置、即ち図2、図3において符号Aで示される位置の最適値は、回転ディスクの径及び回転数、溶融金属の供給量、供給温度、固化温度及び比熱、アルゴンを主体とするガスの供給量及び供給温度、反応熱の有無などのさまざまな要因により変化する。図2に示した、真上にスリット状開口9を有するドーナツ状のガス供給管8ではこの符号Aの位置を変化させることができない。しかし、図4に示すように、スリットの開口方向9が斜め上のドーナツ状のガス供給管8を用いれば、その設置高さ、あるいは回転ディスク4との相対的な上下間隔を変えることにより、遠心力により回転ディスクを離れた溶融金属の小滴20がアルゴンを主体とするガスの環状上昇流21と接触する位置を変えることができる。即ちドーナツ状のガス供給管の設置高さを低くすれば図5において符号Bで示される位置になる。このようにして符号Bで示される位置が最適値になるように調整できる。
【0010】
回転ディスクの径が大きいほど、また回転速度が速いほど得られる微細粒子の径は小さくなるが、高速回転に伴う強度上の問題もあるので、回転ディスクの直径は30〜40mmの範囲が好ましい。その場合回転数は40,000rpm以上とし、周縁線速度を80m/秒以上とすることが望ましい。
【0011】
回転ディスク4の駆動方法について述べる。回転数が低い場合や、大気圧付近での使用ならば、図1に示すように、その直下にモータ5を連結して回転しても良いが、40,000rpm以上の高速回転する場合や、減圧下で使用する場合には、モーターの軸受の摩耗やオイル洩れの問題などを考慮して、ディスクが非接触磁気浮上した状態で外部磁場により高速回転する非接触磁気浮上軸回転ディスクが好ましい。
【0012】
溶融金属小滴の急冷効果を維持するため、粒状化室1内の温度は100℃以下とすることが望ましい。温度調節は水冷用ジャケット15へ送入する冷却水量やドーナツ状のガス供給管からのガス供給量を制御することにより行われる。
【0013】
以下実施例により本発明の構成及び効果を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
図1に示した装置を使用し、直径35mm、回転数10万rpm、周縁線速度183m/秒の非接触磁気浮上軸回転ディスクに、希土類含有鉄合金(R−Fe−B;Rは希土類金属)溶融物を供給し遠心力を作用させ小滴として飛散させ、上向きのスリット状開口を有するドーナツ状のガス供給管(スリット部分の直径400mm)から放出されるアルゴンガスの環状上昇流と接触させた。また排気装置13を作動させ粒状化室内の圧力を大気圧より低くした。実施例1により得られた粒子の電子顕微鏡写真を図6に示す。直径約20μm程度の粒径の揃った真球に近い粒子が得られた。また粒径分布を測定した結果を図7に示す。メディアン径:21.304μm、平均値20.217μm、モード径22.387μm、標準偏差0.116μmであった。
【比較例1】
【0015】
図1に示した装置において、上向きのスリット状開口を有するドーナツ状のガス供給管8からのアルゴンガス供給を行わず、同量のガスを比較試験用ガス供給管18から供給した以外は実施例1と同じ条件で希土類含有鉄合金(R−Fe−B;Rは希土類金属)溶融物を処理した。比較例1により得られた粒子の電子顕微鏡写真を図8に示す。粒径のばらつきが大きく、また形状も不揃いな粒子しか得られなかった。また粒径分布を測定した結果を図9に示す。メディアン径:95.973μm、平均値85.858μm、モード径141.254μm、標準偏差0.248μmであった。
【実施例2】
【0016】
ドーナツ状のガス供給管8からのアルゴンガスに1ppm(容量)の酸素を含有させた以外は実施例1と同様にして希土類含有鉄合金(R−Fe−B;Rは希土類金属)溶融物を処理した。実施例2により得られた粒子の切断面の電子顕微鏡写真を図10に示す。全体としては真球に近い形状であるが、内部構造は、金属の微小粒子の集合体であって、個々の微小粒子が金属酸化物、或いは空隙により相互に隔離されているナノコンポジット構造を有する金属粒子であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明方法を実施する装置の概念図である。
【図2】図1に示した装置における回転ディスク及びドーナツ状のガス供給管付近の拡大図である。
【図3】図2に示した部分の水平断面図である。
【図4】スリットの開口方向が斜め上のドーナツ状のガス供給管を用いた場合の説明図である。
【図5】図4におけるドーナツ状のガス供給管の高さを変えた場合の図である。
【図6】実施例1により得られた粒子の電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例1により得られた粒子の粒度分布を示す図である。
【図8】比較例1により得られた粒子の電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例1により得られた粒子の粒度分布を示す図である。
【図10】実施例2により得られた粒子の切断面の電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0018】
1 粒状化室
2 蓋
3 ノズル
4 回転ディスク
5 モータ
6 粒子排出管
7 電気炉
8 ドーナツ状のガス供給管
9 スリット状開口
10 ガス供給タンク
11 配管
12 弁
13 排気装置
14 弁
15 水冷用ジャケット
16 冷却水送入管
17 冷却水排出管
18 比較試験用ガス供給管
19 弁
20 飛散する溶融金属の小滴
21 環状のアルゴンガス流
22 弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心力により中心部から放射状に遠心場に飛散する溶融金属小滴を、アルゴンを主体とするガスの環状上昇流と遠心場中で強制的に接触させることを特徴とする微小球状金属粒子の製造方法。
【請求項2】
高速水平回転するディスクの上に溶融金属を供給し、溶融金属に遠心力を作用させて小滴として放射状に遠心場に飛散させ、ディスクの上面より下方で且つディスクに対して同心円をなす位置に設置されたドーナツ状のガス供給管に上向き又は斜め上向きに設けたスリット状開口から放出されるアルゴンを主体とするガスの環状上昇流と遠心場中で強制的に接触させることを特徴とする請求項1に記載の微小球状金属粒子の製造方法。
【請求項3】
高速水平回転するディスクが、非接触磁気浮上軸回転ディスクである請求項1に記載の微小球状金属粒子の製造方法。
【請求項4】
アルゴンを主体とするガスの環状上昇流が微量の酸素を含有するものである請求項1、請求項2又は請求項3に記載の微小球状金属粒子の製造方法。
【請求項5】
アルゴン主体とするガスの環状上昇流中の酸素濃度が2容積ppm以下である請求項4に記載の微小球状金属粒子の製造方法。
【請求項6】
ディスクの周縁線速度を80m/秒以上とする請求項2又は請求項3に記載の微小球状金属粒子の製造方法。
【請求項7】
静圧が大気圧より低いアルゴンガス雰囲気中で実施する請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に記載の微小球状金属粒子の製造方法。

【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−136781(P2012−136781A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−48426(P2012−48426)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【分割の表示】特願2001−118342(P2001−118342)の分割
【原出願日】平成13年4月17日(2001.4.17)
【出願人】(504034585)有限会社 ナプラ (55)
【Fターム(参考)】