説明

微小繊維及びその製造方法

【課題】溶媒の含有量が少なく、ナノメーターサイズの平均繊維径に対して、比較的に長い平均繊維長を有する微小繊維を提供する。
【解決手段】繊維を溶媒に分散させ、ホモジナイズ処理によりミクロフィブリル化した後、繊維のガラス転移温度よりも低い温度で乾燥することにより、繊維全体に対して0.1〜20重量%の割合で溶媒を含有し、(1)平均繊維長(L)が0.01〜1mmであり、(2)平均繊維径(D)が0.001〜1μmであり、(3)平均繊維径(D)に対する平均繊維長(L)の比(L/D)が1000〜10000である微小繊維が得られる。この微小繊維は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などで構成された有機繊維(特に、芳香族ポリアミド系繊維などの合成繊維)で構成されていてもよい。本発明の微小繊維は、繊維強化フィラーやバインダーなどとして適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒の含有量が少なく、芳香族ポリアミド系繊維などの有機繊維で構成された微小繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
比較的繊維径の小さい微小繊維は、各種添加剤、例えば、樹脂成形体の強度を向上させるためのフィラーとして、また不織布状シートの強度を改善するための添加剤(強化剤又は紙力増強剤など)、濾過性能を向上させるための濾過助剤、食品添加物などに広く利用されている。
【0003】
特に、微小繊維は、その表面積の大きさ、均一な分散性、絡みあい、粉体保持性などを利用して、繊維強化樹脂や抄紙体などの物性強度、隠蔽性、絶縁性、軽量化などを目的として広く実用化されている。例えば、繊維強化樹脂に用いられるフィラーとしての微小繊維は、その繊維長や繊維径によって物性は大きく変化し、一般的には、長く細いものほど、特性は向上することが知られている。
【0004】
さらに、微小繊維の中でも、アラミド繊維などの芳香族樹脂で構成された微小繊維は、その強度、耐熱性を生かして、工業資材分野、スポーツ・レジャー分野、航空・宇宙分野などで利用される優れた素材である。
【0005】
例えば、特開昭63−235520号公報(特許文献1)には、芳香族ポリアミドを濃硫酸やハロゲン化硫酸に溶解させた溶液に、貧溶媒である凝固溶媒中に分散させて微細な芳香族ポリアミド繊維を製造する方法が開示されている。しかし、この方法では、アラミド繊維の微細化が充分ではない。
【0006】
そこで、微小なアラミド繊維を得るために、水などの分散媒中で叩解する方法が提案されている。例えば、特開平9−119018号公報(特許文献2)には、アラミド繊維の水懸濁液をサンドミルにて処理することにより、保水度が180%以上、400%以下の微細繊維状アラミド繊維を製造する方法が提案されている。しかし、この方法でも、アラミド繊維のミクロフィブリル化は充分ではない。
【0007】
さらに、特公平8−19633号公報(特許文献3)には、剛直鎖芳香族ポリアミド繊維を最長5mm以下に粉砕しこれを水に懸濁し、所定の圧力差で小径オリフィスを通過させて剪断力を付与することにより、高い懸濁安定性を有する剛直鎖芳香族ポリアミド繊維安定化懸濁液の製造方法が開示されている。この文献には、前記剛直鎖芳香族ポリアミド繊維安定化懸濁液が、抄紙法によりペーパーシートを製造するのに用いることが記載されている。
【0008】
しかし、この文献には、得られた繊維は、多量の水分を含んでいるために、工程中で水分を嫌う分野では使用が困難である。さらに、繊維の中でも、アラミド繊維は、その強度、耐熱性を生かして、工業資材分野、スポーツ・レジャー分野、航空・宇宙分野などで利用される素材であり、特に、乾燥品は、繊維強化フィラーやバインダーなどとして付加価値の高い繊維である。しかし、この文献には、アラミド繊維の乾燥については言及されていない。特に、このような用途との関連性の高い特性である微小繊維の繊維長や繊維径について記載されていない。
【特許文献1】特開昭63−235520号公報(特許請求の範囲第1項)
【特許文献2】特開平9−119018号公報(請求項1)
【特許文献3】特公平8−19633号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、溶媒の含有量が少なく、ナノメーターサイズの平均繊維径に対して、比較的に長い平均繊維長を有する微小繊維及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、繊維強化樹脂のフィラーとして適した微小繊維及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、強度及び耐熱性が高く、溶媒の含有量が少ない芳香族ポリアミド系繊維で構成され、繊維強化樹脂のフィラーとして適した微小繊維及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、溶媒の含有量が少なく、極限まで細くて長い微小繊維を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、溶媒の含有量が少なく、ナノメーターサイズの平均繊維径と、この繊維径に対して特定の関係を有する平均繊維長を有する微小繊維を調製し、この微小繊維が、繊維強化樹脂のフィラーなどとして適していることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の微小繊維は、繊維全体に対して0.1〜20重量%の割合で溶媒を含有する繊維であって、(1)平均繊維長(L)が0.01〜1mmであり、(2)平均繊維径(D)が0.001〜1μmであり、(3)平均繊維径(D)に対する平均繊維長(L)の比(L/D)が1000〜10000である。本発明の微小繊維は、カナディアンフリーネス値が0〜200ml程度であってもよい。前記繊維は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などで構成された有機繊維(特に、芳香族ポリアミド系繊維やポリアリレート系繊維などの合成繊維)で構成されていてもよい。本発明の微小繊維は、繊維強化フィラーや乾式配合のバインダーとして適している。
【0015】
本発明には、繊維を溶媒に分散させ、機械的剪断力によりミクロフィブリル化した後、乾燥する前記微小繊維の製造方法も含まれる。この方法において、繊維として熱可塑性樹脂で構成された有機繊維を用い、ホモジナイズ処理によりミクロフィブリル化した後、繊維のガラス転移温度よりも低い温度で乾燥してもよい。さらに、この方法において、乾燥後に粉砕してもよい。
【0016】
また、本発明には、前記微小繊維と樹脂とで構成された繊維強化樹脂も含まれる。さらに、本発明には、この繊維強化樹脂で構成された成形体も含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、水などの溶媒の含有量が少なく、ナノメーターサイズの平均繊維径に対して、比較的に長い平均繊維長を有する微小繊維を効率よく製造できる。このような微小繊維は、乾燥度が高く、極限まで細くて長いため、繊維強化樹脂のフィラーとして適している。さらに、微小繊維を、強度及び耐熱性が高い芳香族ポリアミド系繊維で構成することにより、工業資材分野、スポーツ・レジャー分野、航空・宇宙分野などの繊維強化フィラーやバインダーとして利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[微小繊維]
本発明の微小繊維は、通常、有機繊維で構成されている。有機繊維は、天然繊維(例えば、セルロース、シルク、羊毛繊維など)、再生繊維(例えば、タンパク質又はポリペプチド繊維、アルギン酸繊維など)、瀝青炭質繊維(ピッチ系繊維など)などであってもよいが、合成繊維(熱硬化性樹脂繊維、熱可塑性樹脂繊維など)を用いる場合が多い。これらの有機繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0019】
熱硬化性樹脂繊維としては、例えば、エポキシ系繊維、フェノール系繊維、不飽和ポリエステル系繊維、ポリイミド系繊維、ポリアミドイミド系繊維、ポリベンゾイミダゾール(PBI)系繊維、ポリウレタン系繊維などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0020】
熱可塑性樹脂繊維としては、例えば、ポリアミド系繊維(ポリアミド5、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド6/66、ポリアミド6/11などの脂肪族ポリアミド系繊維;ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミドMXDなどの芳香族ポリアミド系繊維;脂環族ポリアミド系繊維など)、ポリエステル系繊維(ポリC2−4アルキレンテレフタレート、ポリC2−4アルキレンナフタレート、これらのコポリエステルなどの芳香族ポリエステル系繊維、ポリアリレート系繊維、液晶性ポリエステル繊維など)、ポリカーボネート系繊維(ビスフェノールA型ポリカーボネートなどのビスフェノール型ポリカーボネート繊維、水添ビスフェノール型ポリカーボネート繊維など)、オレフィン系繊維[ポリエチレン(低密度ポリエチレン繊維、高密度ポリエチレン繊維など)、ポリプロピレン繊維など]、アクリル系繊維(ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル繊維、ポリアクリロニトリル又はその共重合体繊維など)、ビニル系繊維(塩化ビニル系繊維、酢酸ビニル系繊維など)、ポリフェニレンオキシド系繊維[ポリフェニレンオキシド繊維、変性ポリフェニレンオキシド(ポリスチレンとのブレンドなど)繊維など]、ポリフェニレンスルフィド系繊維(ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリビフェニレンスルフィド繊維、ポリフェニレンスルフィドケトン繊維、ポリビフェニレンスルフィドスルホン繊維など)などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0021】
これらの繊維のうち、フィブリル化が進み易く、耐熱性や機械的特性などにも優れる点から、芳香族ポリアミド系繊維、ポリアリレート系繊維(全芳香族ポリエステル系繊維)、ポリフェニレンスルフィド系繊維、アクリル系繊維、ポリイミド系繊維などの合成繊維が好ましい。これらの合成繊維の中でも、樹脂に添加したり、乾式配合によって剛性を向上させるために、高い剛性及び弾性を有する繊維が好ましく、具体的には、全芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)などの芳香族ポリアミド系繊維、ポリアリレート系繊維が好ましい。
【0022】
芳香族ポリアミド系繊維には、ジアミンとジカルボン酸とを重合成分とするポリアミドであって、ジアミン成分およびジカルボン酸成分のうち、少なくとも一方の成分が芳香族化合物であるポリアミドや、芳香族アミノカルボン酸を主な重合成分とするポリアミドなどが含まれる。芳香族ポリアミド系繊維としては、芳香族ジアミン[例えば、フェニレンジアミン、ジアミノトルエン、キシリレンジアミン、ビフェニレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、ビス(4−アミノフェニル)ケトン、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、1,4−ナフタレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノ−3−エチル)ジフェニルメタン、ビス(4−アミノ−3−メチルフェニル)メタン、2,2′−ビス(4−アミノフェニル)プロパンなど]と、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸など)とから得られる全芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)などが好ましい。アラミド繊維としては、ノメクス繊維、ケブラー繊維、テクノーラ繊維などが上市されている。
【0023】
ポリアリレート系繊維には、芳香族ジオール成分と芳香族ジカルボン酸成分とを主な重合成分とするポリエステルなどが含まれる。ポリアリレート系繊維としては、芳香族ジオール[例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカン、ビスフェノールSなどのジ(ヒドロキシフェニル)スルホキシドなど]と、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸など)とから得られる全芳香族ポリエステルなどが好ましい。
【0024】
なかでも、高強度、高耐熱性、得られるフィブリル化繊維のL/Dの大きさなどの点から、アラミド繊維などの芳香族ポリアミド系繊維が特に好ましい。
【0025】
本発明の微小繊維は、水などの溶媒の含有量が少ない。具体的に、溶媒の割合は、繊維全体に対して、例えば、0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜15重量%、さらに好ましくは0.3〜10重量%(特に0.5〜7重量%)程度である。
【0026】
さらに、微小繊維(特に、芳香族ポリアミド系繊維)は、カナディアンフリーネス値(カナダ標準濾水度)は、0.1重量%濃度の微小繊維スラリーを用いて測定したとき、0〜200ml、好ましくは0〜90ml、さらに好ましくは0〜50ml(特に、0〜1ml)程度である。低カナディアンフリーネス値であるほど、L/Dの高い繊維形状となり、繊維強化樹脂のフィラーやバインダーとして使用する場合は少量で大きな効果を得ることができる。なお、カナディアンフリーネス値(CSF)は、JIS P8121「パルプの濾水度試験法;カナダ標準型」に準拠して測定した値である。
【0027】
微小繊維の平均繊維長(L)は、例えば、0.01〜1mm、好ましくは0.02〜0.8mm、さらに好ましくは0.05〜0.7mm(特に0.1〜0.6mm)程度である。
【0028】
平均繊維径(D)は、例えば、0.001〜1μm、好ましくは0.01〜0.6μm、さらに好ましくは0.05〜0.5μm(特に0.1〜0.3μm)程度である。
【0029】
平均繊維径(D)に対する平均繊維長(L)の比(L/D)は、例えば、1000〜10000、好ましくは1200〜7000、さらに好ましくは1500〜5000(特に2000〜4000)程度である。本発明の微小繊維は、L/D値がこのような範囲にあり、ナノサイズの平均径を有するにも拘わらず、比較的長い繊維長の微小繊維である。
【0030】
微小繊維のBET比表面積は、15〜100m/g、好ましくは17〜50m/g、さらに好ましくは18〜40m/g(特に20〜30m/g)程度である。
【0031】
特に、このような極限まで細くて長い微小繊維であるとともに、前述の如く、水などの溶媒の含有量が少ない乾燥品であり、水などの溶媒を嫌う用途であっても、微小繊維の特性を損なうことなく利用できる。従って、本発明の微小繊維は、繊維強化フィラーや乾式配合のバインダーとして適している。
【0032】
[微小繊維の製造方法]
本発明の微小繊維は、繊維を溶媒に分散させ、機械的剪断力によりミクロフィブリル化した後、乾燥することにより得られる。
【0033】
原料として用いる繊維は、特に限定されず、繊維長が0.1〜5mm程度のパルプ状繊維(特にアラミド繊維などの有機繊維)であってもよい。
【0034】
このような繊維を分散させる溶媒としては、繊維の種類に応じて選択でき、繊維に化学的又は物理的損傷を与えず、繊維が溶媒中に分散できる限り特に制限されない。このような溶媒としては、例えば、水、有機溶媒[アルコール類(メタノール、エタノール、2−プロパノールなどのC1−4アルカノールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトンなどのジC1−5アルキルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの環状又は鎖状C4−6エーテルなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素類など]などが使用できる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの溶媒のうち、生産性、コストの点から、水が好適であり、必要により、水と水性有機溶媒(C1−4アルカノール、アセトンなど)との混合溶媒を用いてもよい。
【0035】
また、繊維の分散は、慣用の手段、例えば、機械的攪拌手段(攪拌棒、攪拌子など)、超音波分散機などにより行ってもよい。
【0036】
分散液中の繊維の濃度(固形分濃度)は、0.001〜20重量%、好ましくは0.003〜10重量%、さらに好ましくは0.005〜5重量%程度であってもよい。
【0037】
得られた分散液を機械的剪断力によりミクロフィブリル化する工程において、機械的剪断力としては、例えば、ホモジナイズ処理、叩解処理、超音波処理などが挙げられ、特に、ホモジナイズ処理によりミクロフィブリル化することが多い。これらの処理は、単独で又は二種以上組み合わせて処理してもよい。なお、必要により、繊維を叩解処理(予備叩解処理)した後、ホモジナイズ処理してもよい。ホモジナイズ処理では、前記分散液を、慣用の均質化装置(ホモジナイザー、特に高圧ホモジナイザー)に供することにより、繊維をミクロフィブリル化する。
【0038】
なお、高圧ホモジナイザーは、内部に狭まった流路(例えば、オリフィス(小径オリフィスなど)など)を備え、前記分散液を狭まった流路を通過させることにより、圧力を負荷し、容器内壁などの壁面に衝突させることにより、剪断応力又は切断作用を付与するタイプの装置であってもよい。このような高圧ホモジナイザーにおいて、狭まった流路の通過により負荷される圧力は、例えば、300〜1000kg/cm(≒30〜100MPa)、好ましくは350〜800kg/cm、さらに好ましくは400〜600kg/cm程度であってもよい。また、狭まった流路の通過と壁面への衝突とを繰り返して行うことにより、微小繊維のフィブリル化と分散液の均質化の程度を適宜調整することができ、上記工程の繰り返し数は、例えば、5〜30回、好ましくは7〜25回、特に10〜20回程度であってもよい。なお、このような高圧ホモジナイザーによるフィブリル化の詳細は、例えば、特公昭60−19921号公報などを参照できる。
【0039】
このような方法により、繊維をミクロフィブリル化し、安定な懸濁液(例えば、水懸濁液)の状態で得ることができる。このような懸濁液(スラリー状懸濁液)を、慣用の脱溶媒(脱水)方法、例えば、濾過、圧搾、遠心分離などにより脱溶媒してもよい。
【0040】
このようなミクロフィブリル化処理により、前述のナノサイズの繊維径を有するとともに、比較的長い繊維長の微小繊維が得られる。
【0041】
得られた微小繊維は乾燥工程に供されるが、乾燥に必要な温度は、微小繊維の溶媒(水分)を除去する点からは高い方が好ましいが、繊維のガラス転移温度(Tg)よりも低い温度で乾燥するのが好ましい。Tgよりも高い温度で乾燥すると、微細化した繊維が熱により接着してしまい、微細化した効果が低減する。従って、微小繊維の特性と乾燥効率とを考慮すると、乾燥温度は、繊維の種類に応じて選択できるが、例えば、アラミド繊維やポリアリレート繊維などの有機繊維の場合、例えば、30〜150℃、好ましくは50〜145℃、さらに好ましくは80〜140℃(特に100〜135℃)程度である。乾燥時間は、例えば、1分〜24時間、好ましくは30分〜10時間、さらに好ましくは1〜5時間程度である。乾燥機としては、必要に応じて慣用の乾燥機、例えば、ナウター型乾燥機、棚型乾燥機、加熱ジャケット付き回転式混合機などを利用できる。本発明では、このような特定の条件での乾燥工程を経ることにより、溶媒の含有量が少ない微小繊維(溶媒の含有量が0.1〜20重量%程度の微小繊維)が得られる。
【0042】
本発明では、さらに、乾燥工程の後、必要に応じて、得られた微小繊維を粉砕してもよい。乾燥のみでは、繊維同士が絡まって団子状態になっていることが多く、粉砕することにより、絡まった繊維を解すことができる。繊維同士の絡まりは、例えば、本発明の微小繊維を繊維強化フィラーとして用いる場合、繊維強化樹脂中においては、強度の向上に有用であるが、添加時においては、繊維による粗密を形成し、使用時に応力集中の起点となる場合があるため、目的とする強度向上には繋がらない場合が多い。
【0043】
粉砕においては、ミクロフィブリル化処理後の微小繊維の形状を損なわない程度に粉砕する必要がある。すなわち、乾燥品は、ミクロフィブリル化処理後の繊維長に対して、60〜100%(特に80〜100%)程度の繊維長を保持しているのが望ましい。粉砕には、公知の粉砕機、例えば、サンプルミル、ハンマーミル、カッターミルなどを使用してもよい。
【0044】
このような粉砕工程を経ることにより、カナディアンフリーネス値が低く、開繊された乾燥状微小繊維が得られる。
【0045】
[微小繊維の用途]
このようにして得られた本発明の微小繊維は、前述のように、溶媒の含有量が少なく、極限まで細くて長いため、繊維強化フィラーや乾式配合のバインダーなどとして利用できる。特に、微小繊維として、アラミド繊維などの芳香族ポリアミド系繊維やポリアリレート繊維を用いた場合、耐熱性や強度(剛性、引張強度など)に優れるため、繊維強化フィラーやバインダーとして適している。
【0046】
このような微小繊維は、繊維強化フィラーやバインダーとして用いて、樹脂、金属、セラミックスなどと組み合わせた複合材料として利用できる。
【0047】
本発明の繊維強化樹脂は、繊維強化フィラーとしての微小繊維と樹脂とで構成されている。前記樹脂としては、微小繊維の項で例示された微小繊維を構成する熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられるが、繊維強化フィラーと同じか又は同種の樹脂であってもよく、例えば、繊維強化フィラーがアラミド繊維である場合、樹脂はポリアミド系樹脂であってもよい。繊維強化樹脂中における微小繊維(強化フィラー)の割合は、繊維100重量部に対して、例えば、0.01〜50重量部、好ましくは0.05〜30重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部(特に0.3〜1重量部)程度である。本発明の微小繊維は、耐熱性や機械的特性が高く、微小で樹脂中での分散性にも優れるため、得られる繊維強化樹脂の機械的特性も高い。
【0048】
さらに、本発明の微小繊維を乾式配合のバインダー成分として利用し、例えば、摩擦材や研磨材などを調製してもよい。摩擦材を調製する場合、例えば、本発明の微小繊維をバインダー成分として、例えば、無機繊維(例えば、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、銅繊維などの金属繊維)、無機フィラー(例えば、カーボンブラック、黒鉛、カシューダスト、硫酸バリウム、炭酸カリウム、二酸化チタンなど)、他のバインダー成分(フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂など)と共に組み合わせて用いてもよい。摩擦材中における微小繊維(バインダー)の割合は、例えば、0.1〜30重量%、好ましくは0.3〜20重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%(特に1〜5重量%)程度である。本発明の微小繊維を繊維状バインダー成分として用いると、微小であり、分散性に優れるため、機械的特性に優れた成形品が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の微小繊維は、繊維強化フィラーなどの補強材料として、各種用途、例えば、宇宙関連品[人工衛星(本体、パラボラアンテナ、太陽電池用フレームなど)、スペースシャトル(機体、翼、遠隔操作棒、荷物室ドアなど)など]、航空機部品(機体、主翼、尾翼、方向舵など)、自動車部品(ボディ、フード、ドア、ドライブシャフトなど)、スポーツ用品(ゴルフクラブシャフト、テニスラケットフレームなど)、レジャー用品(釣竿など)などとして利用できる。さらに、自動車部品(ブレーキ、クラッチなど)の摩擦材、研磨材、乾式不織布のバインダーとしても利用できる。
【0050】
その他、本発明の微小繊維は、紙類などの不織布状シートの強度を改善するための添加剤(強化剤、紙力強化剤)、濾過材の濾過性能の向上させるための濾過助剤などにおける添加剤などとして利用してもよい。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の例において、「部」又は「%」は、特にことわりのない限り、重量基準であり、繊維の平均繊維長、平均繊維径、カナディアンフリーネス値(カナダ標準濾水度)、BET比表面積、混練状態、強度試験、粉体保持率、分散性は以下のようにして測定した。
【0052】
[繊維の平均繊維長及び平均繊維径]
繊維長は、カヤーニ繊維長分布測定器(FS−200)を用いて、平均繊維長ピークを測定することにより算出した。平均繊維径は、走査型電子顕微鏡観察により算出した数平均繊維径である。
【0053】
[カナダ標準濾水度(CSF)]
JIS P8121「パルプの濾水度試験法;カナダ標準型」に準拠し、温度20℃、0.1重量%濃度に調製した微小繊維のスラリーを、80メッシュのふるい板に通し、側管を備えたロートを用い、側管から排出される液量を測定した。
【0054】
[BET比表面積]
微小繊維のBET比表面積は、吸着量測定装置(ユアサアイオニクス(株)製、「AUTOSORB−1」)を用いて、BET法によって測定した。
【0055】
[混練状態]
微小繊維とポリアミド樹脂とを200℃で混練したときの状態を目視で観察した。
【0056】
[強度試験]
引張強度については、ASTM D−698に準じて測定し、曲げ強度については、ASTM D−790に準じて測定した。
【0057】
[粉体保持率]
微小繊維を用いて調製した粉体混合物100gを60メッシュの篩に入れて、激しく5分間振動させ、篩上に残った粉体配合物の保持率を以下の式から算出した。
【0058】
保持率(%)=篩後の残存重量(g)/篩前の粉体重量(g)×100
[分散性]
得られた成形体(摩擦材)を二つに割り、内部及び断面の微小繊維の分散状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0059】
○:繊維が充分に分散している
×:繊維が粗密となり充分に分散していない。
【0060】
実施例1
芳香族ポリアミド繊維(東レ・デュポン(株)製、ケブラー)のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)100gに水20Lを加えてよく攪拌した。得られた分散液を均質化装置(GAULIN社製、15M−8TA)に常温で仕込み、450kg/cmの圧力をかけて小径オリフィスを通過させ、装置内壁に被処理液を衝突させた。オリフィスの通過と内壁への衝突とを13回繰り返し、スラリー状懸濁液を得た。この懸濁液を脱液し、固形分20%の含水状態の微小繊維状物を得た。得られた繊維は、平均繊維長0.58mm、平均繊維径0.2μm、CSFが0mlの微小繊維状物であった。次いで、この含水状態の微小繊維を棚型乾燥機で120℃で4時間乾燥させた後、サンプルミルで粉砕を行って、径1mmφのメッシュを使用して分級した。得られた乾燥繊維は、平均繊維長0.54mm、平均繊維径0.2μm、BET比表面積22.1m/g、繊維全体に対する水分含有量(水分率)5%であった。この繊維の走査型電子顕微鏡写真による観察結果を図1に示す。
【0061】
実施例2
実施例1で得られた微小繊維0.5部と、ポリアミド樹脂(ダイセル・デグサ(株)製、ダイアミドL1600)100部とを用いて、200℃で混練を行い、繊維強化樹脂サンプルを作成し、強度試験を行った。混練状態の結果とともに、表1に示す。
【0062】
実施例3
ポリアリレート繊維((株)クラレ製、ベクトラン)のカットファイバー(平均繊維長3mm、平均繊維径20μm)を用いて、実施例1と同様の処理を行い、脱液し、固形分20%の含水状態の微小繊維状物を得た。得られた繊維は、平均繊維長0.62mm、平均繊維径0.38μm、CSFが80mlの微小繊維状物であった。さらに、実施例1と同様の乾燥及び粉砕処理を行い、平均繊維長0.58mm、平均繊維径0.36μm、水分率3%の微小繊維を得た。
【0063】
実施例4
実施例3で得られた微小繊維0.5部と、ポリアミド樹脂(ダイアミドL1600)100部とを用いて、200℃で混練を行い、繊維強化樹脂サンプルを作成し、強度試験を行った。混練状態の結果とともに、表1に示す。
【0064】
比較例1
実施例1で得られた乾燥前の微小繊維状物(固形分20%)2.5部と、ポリアミド樹脂(ダイアミドL1600)100部とを用いて、実施例2と同様に混練を行い、繊維強化樹脂サンプルを作成し、強度試験を行った。混練状態の結果とともに、表1に示す。
【0065】
比較例2
芳香族ポリアミド繊維(ケブラー)のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)100gをサンプルミルで粉砕し、径1mmφメッシュ使用して分級した。得られた繊維は、平均繊維長1.3mm、平均繊維径5.2μmであった。この繊維の走査型電子顕微鏡による観察結果を図2に示す。得られた繊維0.5部と、ポリアミド樹脂(ダイアミドL1600)100部とを用いて、実施例2と同様に混練を行い、繊維強化樹脂サンプルを作成し、強度試験を行った。混練状態の結果とともに、表1に示す。
【0066】
比較例3
芳香族ポリアミド繊維(ケブラー)のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)0.5部と、ポリアミド樹脂(ダイアミドL1600)100部とを用いて、実施例2と同様に混練を行い、繊維強化樹脂サンプルを作成し、強度試験を行った。混練状態の結果とともに、表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、実施例の繊維強化樹脂は、L/Dが大きく、混練状態も問題がなく、強度も高い。これに対して、比較例1の繊維強化樹脂は、水分を多量に含む繊維を使用しているため、激しく発泡し、成形が不可である。比較例2及び3の繊維強化樹脂は、L/Dが小さく、繊維径も大きいため、CSF値が高く、強度も低い。
【0069】
実施例5
実施例1で得られた微小繊維を用いて、下記の配合で、各成分をスーパーミキサー(カワタ(株)製、SMP−2)で撹拌速度2000rpm、撹拌時間10分間で混合し、粉体混合物を調製した。さらに、得られた粉体混合物を、圧力500kg/cm、温度180℃で5時間加熱処理し、成形体(摩擦材)を得た。粉体混合物の粉体保持率、成形体の分散性を表2に示す。
【0070】
(配合)
微小繊維 : 3部
硫酸バリウム :40部
フェノール樹脂 :20部
チタン酸カリウム繊維:10部
銅繊維 : 5部
カシューダスト :10部
黒鉛 :10部。
【0071】
比較例4
実施例1で得られた微小繊維3部の代わりに、実施例1で得られた乾燥前の微小繊維状物(固形分20%)15部を用いる以外は実施例5と同様にして、摩擦材を得た。結果を表2に示す。
【0072】
比較例5
実施例1で得られた微小繊維の代わりに、芳香族ポリアミド繊維(ケブラー)のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を用いる以外は実施例5と同様にして、摩擦材を得た。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2から明らかなように、実施例5の摩擦材は、粉体保持率が高く、分散性も優れている。これに対して、比較例4の摩擦材は、水分を多量に含む繊維を用いるため、分散性が低い。また、比較例5の摩擦材は、L/Dが小さく、繊維径も大きいため、粉体保持率が低い。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、実施例1で得られた微小繊維の走査型電子顕微鏡写真(1000倍)である。
【図2】図2は、比較例2で得られた微小繊維の走査型電子顕微鏡写真(1000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維全体に対して0.1〜20重量%の割合で溶媒を含有する繊維であって、(1)平均繊維長(L)が0.01〜1mmであり、(2)平均繊維径(D)が0.001〜1μmであり、(3)平均繊維径(D)に対する平均繊維長(L)の比(L/D)が1000〜10000である微小繊維。
【請求項2】
カナディアンフリーネス値が0〜200mlである請求項1記載の微小繊維。
【請求項3】
繊維が有機繊維である請求項1記載の微小繊維。
【請求項4】
繊維が熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂から選択された少なくとも一種で構成された繊維である請求項1記載の微小繊維。
【請求項5】
繊維が合成繊維である請求項1記載の微小繊維。
【請求項6】
繊維が芳香族ポリアミド系繊維及びポリアリレート系繊維からなる群から選択された少なくとも一種である請求項1記載の微小繊維。
【請求項7】
繊維強化フィラー又はバインダーとして用いられる請求項1記載の微小繊維。
【請求項8】
繊維を溶媒に分散させ、機械的剪断力によりミクロフィブリル化した後、乾燥する請求項1記載の微小繊維の製造方法。
【請求項9】
繊維として熱可塑性樹脂で構成された有機繊維を用い、ホモジナイズ処理によりミクロフィブリル化した後、繊維のガラス転移温度よりも低い温度で乾燥する請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
乾燥後に粉砕する請求項8記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1記載の微小繊維と樹脂とで構成された繊維強化樹脂。
【請求項12】
請求項11記載の繊維強化樹脂で構成された成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−50715(P2008−50715A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227171(P2006−227171)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】