説明

微少流量計及び微少流量測定方法

【課題】 簡素構造で安価・高精度かつ保守の必要性が少ない上、比較的広範な微少流量測定が可能な微少流量計及び微少流量測定方法を提供する。
【解決手段】 流体を通過させる流路と、該流路中の流体を加熱する加熱器4と、加熱器4よりも下流側で加熱前後の流体の温度を検出する温度検出部5と、温度検出部5による検出温度から流量を求める情報処理装置54とを備えた微少流量計であって、情報処理装置54は、流体の温度上昇量と流量の関係を示す検量関数を予め記憶する記憶装置と、温度検出部5による検出温度から流体の温度上昇量を求め、この温度上昇量に対応する流量を前記検量関数から求める演算処理装置とを具備し、前記検量関数は、温度上昇量と流量との関係が正の線形関係である第1領域と、該第1領域よりも大流量側において温度上昇量と流量との関係が負の線形関係である第2領域とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微少流量計及び微少流量測定方法に関し、特に極微少な流量の計測にも利用可能な微少流量計及び微少流量測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流量の計測は工業分野において必要不可欠であり、これまでに数多くの検出方法が考案されている。しかし、半導体の製造及びマイクロ流体関連などで需要のある1 ml/min以下の微少流量計については、従来、高価で複雑な構造の装置が用いられている。
【0003】
例えば、微少流量を計測する手段としてレーザドップラ流速計(LDV)のような、レーザ光を用いたものが挙げられる(例えば特許文献1参照)。しかしながら、こうしたレーザ光を用いた計測装置は、高価であり、しかも装置サイズが大きくなりがちであるなどの問題がある。
【0004】
また、安価な微少流量計測手段として、例えば特許文献2に記載の計測装置が挙げられる。この特許文献2に記載の流量計測方法では、上流側で加熱された流体を温度マーカーとし、該マーカーの移動時間から流速を計測するようにしている。無論、流速が求まれば流路断面積を乗じることで流量が求まるわけであるが、微少流量領域では熱拡散の影響により加熱流体がマーカーとしての役目を果たし難いという問題があった。
【0005】
また、測定流量範囲をより拡大するようにした関連技術には、特許文献3や特許文献4に記載された流量計がある。
特許文献3に記載の流量計では、断面積の大きい大流量計測用流路と断面積の小さい小流量計測用流路とを直列に連設し、その流路毎に複数の流速センサを具備してなる流速センサユニットを設けることで、広い流量範囲の流量を計測するようにしている。
また、特許文献4に記載の流量計では、流体内に熱式流量計とカルマン渦流量計とを設け、低流量域では主に熱式流量計による測定を行い高流量域では主にカルマン渦流量計による測定を行うようにしている。
しかしながら、これら特許文献3及び4においては、複数の流速センサ、あるいは複数種類の流量計を用いる構成であるため、部品コストが高騰する上、構造が複雑で大型化し易く、保守管理が困難等の問題を有し、例えば流量範囲が0〜10mL/minという極微少な流量の測定に適用するには現実的でない。
【0006】
【特許文献1】特許3279116号公報
【特許文献2】特開昭56-43559号公報
【特許文献3】特開平9-68448号公報
【特許文献4】特開2007-57452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来事情に鑑みてなされたものであり、その課題とする処は、簡素構造で安価・高精度かつ保守の必要性が少ない上、比較的広範な微少流量測定が可能な微少流量計及び微少流量測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための技術的手段は、流体を通過させる流路と、該流路中の流体を加熱する加熱器と、該加熱器よりも下流側で加熱前後の流体の温度を検出する温度検出部と、該温度検出部による検出温度から流量を求める情報処理装置とを備えた微少流量計であって、前記情報処理装置は、流体の温度上昇量と流量の関係を示す検量関数を予め記憶する記憶装置と、前記温度検出部による検出温度から流体の温度上昇量を求め、この温度上昇量に対応する流量を前記検量関数から求める演算処理装置とを具備し、前記検量関数は、温度上昇量と流量との関係が正の線形関係である第1領域と、該第1領域よりも大流量側において温度上昇量と流量との関係が負の線形関係である第2領域とを有することを特徴とする。
この構成によれば、温度検出部によって加熱前後の流体の温度が検出されると、情報処理装置が、検出温度から流体の温度上昇量を求め、該温度上昇量に対応する流量を検量関数から求める。検量関数として、温度上昇量と流量との関係に正の線形関係を有する第1領域と、第1領域よりも大流量側において温度上昇量と流量との関係に負の線形関係を有する第2領域とを用いるようにしているため、比較的広い範囲の微少流量の測定が可能である。
【0009】
更なる技術的手段では、前記加熱器による加熱開始からの経過時間と前記温度検出部による検出温度との関係を測定する手段を備え、前記情報処理装置は、前記検出温度が最大になった時点の前記経過時間が、予め設定された基準時間よりも大きいことを条件に前記検量関数における前記第1領域を用い、前記経過時間が前記基準時間よりも小さいことを条件に前記検量関数における前記第2領域を用いることを特徴とする。
この構成によれば、検出温度が最大になった時点の経過時間が基準時間よりも大きい場合には、検量関数における第1領域が用いられ、温度上昇量に対応する流量が求められる。また、検出温度が最大になった時点の経過時間が基準時間よりも小さい場合には、検量関数における第2領域が用いられ、温度上昇量に対応する流量が求められる。すなわち、第1領域と第2領域とを有する検量関数を用いると、単一の温度上昇量値に二つの流量値が対応することになるが、前記構成によれば、前記二つの流量値のうち、実際の流量に対応する一方の流量値を、容易かつ正確に選定することができる。
【0010】
更なる技術的手段では、前記情報処理装置は、前記経過時間が前記基準時間と略同一であることを条件に、前記検量関数において前記第1領域と前記第2領域との境界線上の流量を、前記流路を通過する流体の流量とすることを特徴とする。
この構成によれば、検出温度が最大になった時点の経過時間が基準時間と略同一である場合には、検量関数において第1領域と第2領域との境界線上の流量が、流路を通過する流体の流量として特定される。
【0011】
更なる技術的手段では、前記情報処理装置は、前記経過時間と流量の関係を示す関数を予め記憶し、この関数より、前記検量関数における前記第1領域と前記第2領域との境界線上の流量に対応する経過時間を求め、この経過時間を前記基準時間とすることを特徴とする。
この構成によれば、情報処理装置は、検量関数における第1領域と第2領域との境界線上の流量に対応する経過時間を、経過時間と流量の関係を示す関数から求める。よって、第1領域と第2領域との内の何れを用いるかを判断するための基準時間を、検量関数に応じた正確な値とすることができ、ひいては、流量計測の精度を向上することができる。
【0012】
更なる技術的手段では、前記流路中には、前記温度検出部よりも上流側に、前記加熱器によって加熱される流体の熱拡散を促す熱拡散手段が設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、加熱器によって加熱された流体の熱拡散が、温度検出部に到達するまでの間に促進するため、温度検出部近傍における流体の温度を一様化して、測定される温度上昇量と流量との関係に直線的な線形関係を得ることができ、ひいては、比較的簡単なデータ処理によって高精度に微少流量を求めることができる。
【0013】
更なる技術的手段では、前記熱拡散手段は、流体の流通方向に向かって断面積を拡大する拡がり管と、流体の流通方向に向かって断面積を縮小する狭まり管とのうち、何れか一方又は双方を具備していることを特徴とする。
この構成によれば、拡がり管と狭まり管のうちの一方又は双方によって効果的に熱拡散を促進させることができる。
【0014】
更なる技術的手段では、前記熱拡散手段は、流体の流通方向に向かって断面積を拡大する拡がり管の下流側端部に、流体の流通方向に向かって断面積を縮小する狭まり管を連接してなることを特徴とする。
この構成によれば、拡がり管及び狭まり管により、特に幅広い微少流量域において温度上昇量と流量との関係を直線的な線形関係にすることができ、ひいては、比較的広範な微少流量域において高精度な流量測定が可能となる。
【0015】
更なる技術的手段では、流体を通過させる流路と、該流路中の流体を加熱する加熱器と、該加熱器よりも下流側で加熱前後の流体の温度を検出する温度検出部と、該温度検出部による検出温度から流量を求める情報処理装置とを用いて、前記流路中の流体の流量を測定する微少流量測定方法であって、前記情報処理装置が流体の温度上昇量と流量の関係を示す検量関数を予め記憶するステップと、前記情報処理装置が前記温度検出部による検出温度から流体の温度上昇量を求めるステップと、前記情報処理装置が前記ステップで求められた温度上昇量に対応する流量を前記検量関数から求めるステップとを含み、前記検量関数は、温度上昇量と流量との関係が正の線形関係である第1領域と、該第1領域よりも大流量側において温度上昇量と流量との関係が負の線形関係である第2領域とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような作用効果を奏する。
加熱器、温度検出部、情報処理装置(例えば安価なマイクロプロセッサ等)によって構成されるため、簡素構造で安価・高精度かつ保守の必要性が少ない。
しかも、正の線形関係を有する第1領域と、負の線形関係を有する第2領域とから構成される検量関数を用いるため、比較的広範な微少流量測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものと異なる部分を有する場合や、図面相互間において寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合もある。
また、以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、各構成部品の配置や形状などは下記のものに限定されない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
先ず、本発明の実施の形態に係る微少流量計を図1を参照しながら説明する。
この微少流量計は、流体を通過させる流体を通過させる上流側流路1と、該上流側流路1の下流側に連設された熱拡散手段2と、熱拡散手段2の下流側に連設された下流側流路3と、これら流路1,3及び熱拡散手段2からなる流路中の流体を加熱する加熱器4と、加熱器4よりも下流側で加熱前後の前記流体の温度を検出する温度検出部5と、温度検出部5による検出温度から前記流体の流量を求める情報処理装置54とを、主要な構成要素として具備している。
【0019】
上流側流路1と下流側流路3の各々は、断面形状が円形の直管(つまり直円管)であり、その内部に流体(液体でも気体でもよい)を通過させるように形成してある。本実施の形態では、上流側流路1、熱拡散手段2、及び下流側流路3は、鉛直方向へわたる略直線状の流路を構成しており、該流路内の流体を重力方向に対する略逆向きに流通させるようにしている。
ここで「略逆向き」とは、方向が重力方向と180度異なる場合だけでなく、重力方向と逆向き方向のベクトル成分を含む方向(例えば斜め上方向き等)を含むことを意味する。
なお、図示例によれば、上流側流路1と下流側流路3の内径は、略同径である。
【0020】
熱拡散手段2は、加熱器4によって加熱された流体を熱拡散させる(温度を一様化させる)機能を担う。この作用により、本流量計を後述するモデル(温度上昇量と流量が線形関係になる)へ適用することが可能となる。
【0021】
この熱拡散手段2は、図示例によれば、流体の流通方向に向かって断面積を徐々に拡大する拡がり管2aと、該拡がり管2aの下流側端部に連接されるとともに流体の流通方向に向かって断面積を徐々に縮小する狭まり管2bとから構成される。
【0022】
拡がり管2aは、本実施の形態の好ましい一例によれば、その流通断面積を、下流側へゆくにしたがって直線的な比率で徐々に拡大するディフューザ形状としている。
また、狭まり管2bは、その流通断面積を、下流側へゆくにしたがって直線的な比率で徐々に縮小するレデューサ形状としている。
【0023】
前記上流側流路1、熱拡散手段2、下流側流路3は、アクリルや、その他の合成樹脂材料からなり、各部品同士を接合してなる構成としてもよいし、一体の部材として構成してもよい。
【0024】
加熱器4は、例えばニクロム線等の発熱素子であり、図2に例示するように、環状に形成されたリング部4aと、リング部4aに接続された導線4bとからなる。
この加熱器4は、少なくとも温度検出部5よりも上流側に配置され、本実施の形態の好ましい一例によれば、熱拡散手段2による熱拡散作用を良好に得るために、熱拡散手段2の入口近傍に配置される。
【0025】
リング部4aは、その軸心が流体の流れ方向(熱拡散手段2の中心線)に対し略平行になるように配置される。
また、このリング部4aは、流体に対する加熱位置が、流体の流れ方向に直交する仮想面(流通断面)における略中央となるように配置されている。すなわち、リング部4aの軸線と、熱拡散手段2の中心線とは略一致している。これによって、リング部4aは、流体の最大流速点となる位置の近傍に配置されることになる。
【0026】
良く知られているように、直円管内での流体の流れは、レイノルズ数が約2000以下では、直管入口の流れの状態によらず、図3に示されるようなポアズイユ流れとなる。ポアズイユ流れでは、図3に示すように流れ方向にはその流速分布が変わらない、放物形の流速分布をした層流となる。特に、レイノルズ数Reの小さい管内流の場合、非常に短い助走距離Lでポアズイユ流れとなることが知られている。助走距離Lは次式で得られる。
L=0.065Re×d
ただし、
Re≡Ud/γ:レイノルズ数
d : 流路の直径( m )
U : 管内平均流速( m / s )
γ : 流体の動粘性係数( m 2 / s )
である。
【0027】
ポアズイユ流れについては従来からよく知られているため、これ以上は述べないが、本実施の形態に関連し、特に重要なことは図3に示されるような放物線の速度分布となることである。つまり、加熱器4が位置している流路断面の中央付近において流体の流速が最大となることである。これにより、流路の中央付近に設けられた加熱器4によって軸対称流であるポアズイユ流れを軸対称に加熱することができ、拡散も対称に生じるため、流路全体に温度均一化を図ることができる。
【0028】
加熱器4を発熱させるための構成について説明すれば、加熱器4はパルス電圧発生装置41から供給される方形波電圧によって時間thの間加熱されるようになっている。
図4は、加熱器4をパルス加熱するために用いた装置の一例である。この装置は、加熱器4、パルス電圧発生装置41、定電圧電源装置42、電流制御用抵抗回路43等から構成される。パルス電圧発生装置は本発明の特徴ではないため詳述はしないが、例えば、タイマーICを用いた無安定マルチバイブレータ回路を定電圧電源装置42により動作させ、同回路中の抵抗の大きさを変えることで、パルス通電の間の待機時間t1、パルス通電時間th調整するようにしている。
また、パルス電圧発生装置41からの出力が一定の場合、図4に示した電流制御用抵抗回路43を用いて電流の強さを制御し、加熱器4の加熱量を調整できるようになっている。このようにして、任意の間隔でもって加熱器4を通電し、流体をパルス加熱することができる。なお、定電圧電源を情報処理装置54に繋げることで、温度検出部5からの温度計測データの収集のみならず、加熱器4の制御も情報処理装置54によって行うことが可能である。
【0029】
加熱器4によって加熱される加熱流体は、熱拡散をしながら流れに乗って移動する。そして、その下流側において温度検出部5によって温度計測が行われ、加熱前と加熱後の上昇温度ΔTが計測される。
【0030】
図5は、温度検出部5の一例を示し、特に安価に構成するために、熱電対5aを用いた構成としている。
この温度検出部5は、熱電対5a、熱電対出力増幅回路52、ローパスフィルタ回路53、およびA/D変換ボード(図示せず)、データの記憶媒体(図示せず)、データ処理部(図示せず)等を備え、熱電対5a出力を、熱電対出力増幅回路52により増幅し、ローパスフィルタ回路53を介して情報処理装置54に取り込むようにしている。
【0031】
また、情報処理装置54は、後述する検量関数や、基準時間、演算処理プログラム等を予め記憶する記憶装置と、温度検出部5による検出温度から流体の温度上昇量を求め、この温度上昇量に対応する流量を検量関数から求める演算処理装置(CPU等)とを具備した構成であればよい。この情報処理装置54は、例えばコンピュータとしてもよいが、マイクロプロセッサ等を用いた安価な電子回路とすることが可能である。
【0032】
なお、実施態様によっては加熱器4と温度検出部5の間の距離Lが近接する場合も想定される。このような場合、絶縁をしていないニクロム線ヒータである加熱器4と、熱電対5aの測定部位とが近い位置関係となり、前記ヒータへの通電中に、前記ヒータと熱電対5aの間に微弱ながら漏れ電流が発生する。熱電対5a自体の出力は小さく、増幅装置のゲインは大きいため、漏れ電流は微弱であっても、ヒータ通電中およびその直後の装置の出力に大きな影響を及ぼす。特に漏れ電流の影響は、空気に比して導電率の高い水中において顕著となる。そこで、本実施の形態の好ましい一例では、漏れ電流の対策として、熱電対5aの測定部位を絶縁テープ51で覆うとともに、パルス通電による通電中、および待機中に、熱電対5aの電位を、ニクロム線ヒータ(加熱器4)の平均の電位に揃える回路55(図5参照)を設けている。
【0033】
次に、上記構成の微少流量計を用いた微少流量測定方法について説明する。微少流量計において、図1の矢印の方向に流体が流れているものとする。そうすると、この流体の一部は熱拡散手段2の入り口付近に設けられた加熱器4によりパルス加熱される。そして、加熱された流体(以降、加熱流体と称する)は熱拡散手段2において熱拡散をしながら温度が一様化され、流れに乗って下流側に移動する。
【0034】
そして、加熱流体は、加熱器4よりも下流側に設けられた温度検出部5(詳細には熱電対5a)に到達し、温度計測される。情報処理装置54は、加熱前後の流体の温度から、温度上昇量ΔTを計算し、この温度上昇量ΔTに対応する流量Qを、予め記憶された検量関数(流体の温度上昇量ΔTと流体の流量Qとの関係を示す検量線)から求める。
【0035】
以上のように、本発明に係る流量計測装置は非常にシンプルな構成であるため、安価に製作することができる。単体として本流量計を使用することを前提に製作費用を見積もると、例えば、加熱器4の製作費(パルス発生回路と定電圧電源の製作費:〜\2000)、温度センサー部の製作費(熱電対と増幅用アンプ:〜\500、出力測定用の直流電圧計:〜\2000)を考慮して5000円以内で一台の流量計の製作が可能となる。
【0036】
次に、流体の温度上昇量ΔTと流体の流量Qとの関係を示す検量関数(検量線)について説明する。この検量関数は本願発明者が導いた次の関係式に基づくものであることから、先ずはこの関係式について説明する。以下、流量Qと流体の温度上昇量ΔTの定性的関係を、流動系を単純化したモデルをもとに説明する。
【0037】
温度上昇量ΔTの大きさは、加熱器4による加熱量Δqが一定であれば、加熱器4による加熱を開始してから、加熱された流体が温度検出部5に到達するまでに熱が伝わる流体の体積の総量Vh(熱は同体積内に均等に分布するものとする)に反比例する(式(1))。ただし、測定管及び測定管外への熱の拡散は考えないものとする。ここで、ρは流体の密度を、Cpは定圧比熱を示す。
【0038】
【数1】

ここで、モデルの単純化のため以下の(i)〜(iii)を条件とする。
【0039】
(i)熱拡散手段2のモデルを、同じ体積を持つ直円管のモデルに置き換える(図6参照)。ここで、同じ体積とは管内平均流速Umの流体が、長さL(加熱器4と温度検出部5の間の距離)を通過するのに要する時間をΔtとしたとき、同じく通過するのにΔtの時間を要する内径の直円管の長さをL’とし、長さLの熱拡散手段2と長さL’の直円管の体積は等しくなるような関係をいう。
以下、測定管は加熱器4と温度検出部5の間の長さがL’の直円管であるとし、この結果は長さLの熱拡散手段2のモデルにも適用できるものとする。
(ii)管断面内は、一様に流速Umである。すなわち、管内の粘性による速度境界層の形成、および流体の温度上昇に伴って生じる流体の浮力による加速は考慮しないものとする。
(iii)加熱は加熱器4設置断面全体に一様に行われる。実際の加熱器4のリング部4aは、管の軸方向、断面方向に有限の幅を持つが、ここでは厚さ0のリング部4a設置断面の断面全体に、一様に加熱を行う加熱器を想定する。
【0040】
図6は、前述の条件から導いたVhのモデルである。Vhのオーダーはh0、δTに依存し、式(2)で表される。ここで、h0は加熱器4による加熱中にリング部4a断面を通過する流体の長さ、δTは加熱器4が流体に与えた熱が熱伝導により拡散した長さを示す。
【0041】
【数2】

h0は、加熱器4による加熱時間th間に、加熱器4の設置された断面を流速Umで通過する流体の軸方向の長さであり、式(3)で与えられる。
【0042】
【数3】

δTは加熱流体が温度検出部5に到達した時点での、熱拡散の長さである(図7参照)。加熱流体は主流に乗って移動し(図7(a))、加熱流体の移動中に熱伝導によって流れ方向への熱拡散が生じ(同図(b))、加熱器4による加熱開始からΔt[s]後に加熱流体は温度検出部5の熱電対5aに到達する(同図(c))。このときまでに熱拡散が進んだ長さをδTとする。
【0043】
【数4】

δTのオーダー評価は、無限静止空間中に置かれた点熱源からの熱拡散の式(4)より、式(5)で与えられる。なお、時間の代表量には、解析を容易にするため、流速Umの流体が加熱器4−熱電対5a間L’を移動する時間Δt(=L’/Um)を用いている。
【0044】
【数5】

式(2)にから分かるように、Vhのオーダーは、(h0+2δT)のオーダーに比例する。また、式(2),(3),(5)からは、Vhのオーダーは、流量Qが十分に小さい領域ではδTの影響が支配的に、流量Qが十分大きな領域ではh0の影響が支配的になることがわかる。すなわち、流量Qが十分大きな領域では、その分流速も速くなるため、加熱流体の移動時間Δtが短くなり、結果としてδTも小さくなる。一方、流量Qが小さな領域(微少流量領域)では、加熱流体の移動時間Δtが長くなるため、δTが大きくなる。
【0045】
式(1)〜(4)より、ΔTのオーダーはUmの関数となる(式(6))。ここで、a,b,c,a',b'
,c'は定数である。
【0046】
【数6】

【0047】
式(6)より、
【数7】

となることが判る。
【0048】
【数8】

となる流速Umで温度上昇量ΔTの極大値が生ずる。
【0049】
図8は、式(6)によるQ‐ΔTの関係を示している。Q−ΔT間の関係は、比較的流量の小さい第1領域では右肩上がりの関係、比較的流量の大きい第2領域では右肩下がりの関係が現われる。本実施の形態では、第1領域から第2領域にわたる範囲の検量関数(検量線)を用いて、微少流量の測定を実現する。
【0050】
上述の如く、微少流量領域だと熱拡散の影響が支配的となるため、加熱流体を温度マーカーとし、その移動時間から流速を求めるような従来手法は実現困難となる。一方で、本実施の形態の微少流量計では、熱拡散による温度の一様化作用をも利用して、上記式(6)により表されるモデルを適用するため、熱拡散の長さδTが支配的となることによる不都合はない。以上が、本実施の形態の微少流量計の基本原理である。
【0051】
次に、検量関数(検量線)の作成方法について説明する。検量関数の作成は、図9に示すような装置を用いることで行うことができる。図9に示す装置は、図1に示す構成に、一定の流量を発生させることが可能な一定流量装置61を加えたものである。
【0052】
一定流量発生装置61の一例を図10に示す。ここに示す一例では、一定流量の流体の供給は、注射器内の液体を一定速度で押し出す、減速器付きのトラバース装置を用いている。先ず、外部電源(図示せず)によって減速機付きモータ62を駆動する。そして、このモータ62の駆動により得られた回転はトラバース装置63によって、台座64の直線運動に変換される。
台座64には、複数の注射器が備えられており、台座64の直線運動(矢印66の方向への運動)に伴なって、注射器65も直線運動を行う。この注射器65の直線運動によって、注射器のピストンが押され、流体が一定速度で押し出される。さらに、流量の調整は、使用する注射器の種類、本数により調整することが可能である。図10では一例として、台座64に計4本の注射器を具備している。
【0053】
例えば、モータの回転数:60 rev/min、減速器の減速比:12.5 : 1、トラバース装置のピッチ:3 mm/revとした場合、14.4 mm/min の直線運動が得られる。そして、注射器に、樹脂製の医療用注射器1mL用(内径4.5mm)を用いた場合には0.25mL/min、5mL用(内径13mm)では1.9 mL/min単位での流量調整が可能となる。
【0054】
検量関数(検量線)の作成のために、先ず、一定流量発生装置61により発生した既知の流量を上流側流路1に流す。すると、加熱器4の位置においては、図3に示されるポアズイユ流れとなり、流速は加熱器4が位置する中央付近において最大となる。ついで、加熱器4によってパルス加熱され、加熱された部分の流体(加熱流体)の密度は、加熱前よりも小さくなる。すると、周囲の非加熱流体との密度差に基づく浮力により、重力と反対方向に、加熱部分の流れが加速される。そして、加熱流体は流れに乗って移動し、熱拡散手段2を通過した後、温度検出部5に到達する。そして、加熱流体は温度検出部5において温度計測が行われる。
【0055】
ここで測定するのは、あくまで、加熱流体の温度(この温度から温度上昇量ΔTの計算ができる)である。したがって、実際の流体の流量Q(または流速) との関係は未知である。
そこで、流量Qを一定流量発生装置61で変化させ、各流量毎に温度上昇量ΔTを計測し、この計測結果をプロットすることで、両者の関係を示す検量関数(検量線)を得ることができる。
【0056】
以下に、検量関数(検量線)のより具体的な作成手順の一例について詳細に説明する。
先ず、一定流量発生装置61を制御動作することで、上流側流路1、熱拡散手段2及び下流側流路3からなる流路中に、流体を複数の異なる流量条件(例えば、0、0.25、0.5、0.75、1.00、1.25、1.50、1.90、3.90、5.90mL/min)で流す。
【0057】
次に、加熱器4による流体の加熱を開始し、流量毎に、温度検出部5出力の離散時系列の取り込みを行う。
より具体的に説明すれば、加熱器4による加熱開始の時点から、所定の微少時間間隔で温度検出部5による温度検出を行い、例えば図11(A)〜(C)に示すように、加熱器4による加熱開始からの経過時間Δtと温度検出部5による検出温度Tとの関係を測定し記憶装置(図示せず)に記憶する。
【0058】
そして、前記検出温度Tが最大になった時点において、流体の加熱前後の温度上昇量ΔTを求める。検出温度Tが最大になった時点は、温度検出部5による検出温度Tの変化量が0となった時点(換言すれば、図11(A)〜(C)の各曲線の傾きが略水平となった時点)とすればよい。
ここで、加熱開始直前の検出温度Tと、前記最大になった時点の検出温度Tとの差である温度上昇量ΔTを、以降、加熱拡散温度上昇量と称することにする。
【0059】
そして、加熱拡散温度上昇量ΔTと前記複数の異なる既知の流量Qとの相関関係から、例えば、図13に示す検量関数(検量線)を求め、この検量関数を、例えば数式化して、記憶装置(図示せず)に記憶する。
【0060】
なお、検量関数を得るための前記手順は、流量測定前に予備的測定として人為的に行えばよいが、他例としては、当該微少流量計に具備される制御プログラムによって自動実行されるようにすることも可能である。すなわち、前記他例は、図示しない記憶装置に記憶されたプログラムにより情報処理装置54を機能させ、該情報処理装置54からの命令により、一定流量発生装置61、加熱器4、温度検出部5等を制御し、一定流量発生装置61から供給される既知の流量Qと温度検出部5の検出温度に基づく温度上昇量との関係から検量関数を導き出す構成とすればよい。
また、他例としては、前記検量関数を理論計算により求めることも可能である。
【0061】
上記のようにして求められる検量関数(検量線)は、図13に示すように、加熱拡散温度上昇量ΔTと流量Qとの関係が正の線形関係である第1領域と、該第1領域よりも大流量側において加熱拡散温度上昇量ΔTと流量Qとの関係が負の線形関係である第2領域とを有する。
そのため、図13に示すように、単一の加熱拡散温度上昇量ΔT1に対し、二つの流量Q1,Q2が対応することになる。次に、前記二つの二つの流量Q1,Q2の内、何れを実際に流路を流れる流体の流量と特定するかについて説明する。
【0062】
図8及び図13中において、加熱拡散温度上昇量ΔTの流量Q依存性が変わる流量Qc、及び加熱器4による加熱開始より温度検出部5の検出温度Tが最大温度となるまでの時間経過Δtcを求める(Q = Qc のときのΔt = Δtc )。このΔtcは、流量計測時の同じ加熱拡散温度上昇量ΔTに対して、第1領域と第2領域の2つの流量Q値が対応する出力値を、第1領域か第2領域かを区別する基準となる時間(以降、このΔtcを基準時間と称する)である。
【0063】
図11は、図13中のQ<Qcの第1領域、Q≒Qc(このときのΔTを示す加熱開始からの経過時間がΔtc)の境界領域、Q>Qcの第2領域の3つ領域について、それぞれ流体の温度Tと経過時間Δtの関係を示す。図11(A)はΔt>Δtc、図11(B)はΔt≒Δtc、図11(C)はΔt <Δtcの場合である。
【0064】
第1領域と第2領域における流量Q1と流量Q2の違い(図13参照)は、加熱開始より流体の温度が最大値Tを示すまでの経過時間Δtによって明確に区別することができる。
具体的には、第1領域は流量Qが小さいため(Q<Qc、ここでQcは[mL/min]のときの流量、この流量を境にΔTの依存性は異なる)、加熱後に最大温度となるまでの経過時間Δtが長い(図11(A)参照)のに対して、第2領域では逆に流量Qが大きい(Q>Qc)ため前記経過時間Δtが短い(図11(C))ことを利用すればよい。
【0065】
次に、本実施の形態の微少流量計が、温度検出部5による検出温度に基づき、上述した二つの流量Q1,Q2を区別して求める具体的手順を、図17に示すフローチャートに沿って説明する。
【0066】
前提条件として、情報処理装置54の記憶装置(図示せず)には上記検量関数が予め記憶され、上流側流路1、熱拡散手段2、及び下流側流路3には流体を流通させている状態とする。
【0067】
前記状態において、本実施の形態の微少流量計は、先ず、温度検出部5出力の離散時系列の取り込みを行うとともに、加熱器4によって流体を所定時間(th)加熱する(ステップ1)。
より具体的に説明すれば、このステップ1では、少なくとも加熱器4による加熱開始の時点から、所定の微少時間間隔で温度検出部5による温度検出を行い、例えば図11(A)〜(C)に示すように、加熱器4による加熱開始からの経過時間Δtと温度検出部5による検出温度Tとの関係を測定し記憶する。
【0068】
次に、ステップ2では、前記離散時系列より、加熱拡散温度上昇量ΔT1と経過時間Δtを求める。
より詳細に説明すれば、検出温度Tが最大になった時点において、流体の加熱前後の温度上昇量ΔTを求め、この温度上昇量ΔTを加熱拡散温度上昇量ΔTとする。検出温度Tが最大になった時点は、温度検出部5による検出温度Tの変化量が0となった時点(例えば図11(A)〜(C)の各曲線の傾きが略水平となった時点)とすればよい。
【0069】
次に、ステップ3aでは、検出温度Tが最大になった時点の前記経過時間Δtが、予め設定された基準時間tcと略同一であるか否かを判断し、略同一である場合には次のステップ4aへ処理を進め、そうでなければステップ3bへ処理を移行する。
【0070】
基準時間tcは、予め実験的又は理論的に求められて情報処理装置54に記憶された値とすればよいが、上述した検量関数の作成手順で得たデータから求めるようにしてもよい。
すなわち、検量関数を作成する上記予備的計測において、既知の流量Qと、加熱開始から検出温度Tが最大となるまでの経過時間Δtとの関係から、図12のグラフに示す関数を作成し、この関数を例えば数式化して記憶しておく。そして、この関数により、前記検量関数における第1領域と第2領域との境界線上の流量Qcに対応する経過時間Δtを求め、この経過時間Δtを前記基準時間Δtcとすればよい。
【0071】
ここで、図12のグラフに示す関数ついて、理論的に説明すれば、この関数は、加熱器4による加熱開始より加熱拡散温度上昇量ΔTを示すまでの経過時間Δtと流量Qの関係(Δt〜Q)を示す。
Δtを、加熱拡散時間(Δtdiff)と主流平均流速(Um)に基づく対流移動時間(Δtconv)について、主流方向のΔtdiffとΔtconvの大きさのオーダー評価を行う。
Δtdiff〜L2/α [拡散方程式より]・・・(9)
Δtconv 〜 L/Um = AL/Q・・・(10)
ここに、α:熱拡散率、L:加熱器4と温度検出部5の間の距離、A:管断面積(一定と仮定)である。
上記時間を熱拡散手段2について概算する。α=0.15x10-4 m2/s(水流)、L=21x10-3 m/s(熱拡散手段2の長さ)、Um=2.4x10-3 m/s (Q=1 mL/minのとき)を、ΔtdiffとΔtconvに代入すると、Δtdiff <<Δtconvとなる。
ΔtはΔtconvを考えればよいことがわかる。
すなわち、Δt〜Qの関係は、式(10)の関係より図12中に実線で示す双曲線となる。(この曲線は、(ΔtC、QC)を通る。)
【0072】
本実施の形態による流量測定の具体的手順に戻り、説明を続ければ、ステップ4aでは、上記流量Qc(検量関数における第1領域と第2領域との境界線上の流量)を、測定対象である流体の流量Qとして記憶する。
【0073】
また、ステップ3bでは、検出温度Tが最大になった時点の前記経過時間Δtが、予め設定された基準時間tcよりも大きいか否かを判断し、大きい場合には次のステップ4bへ処理を進め、そうでなければステップ4cへ処理を移行する。
【0074】
そして、ステップ4bでは、検量関数(図13参照)における第1領域を用いて、加熱拡散温度上昇量ΔT1に対応する流量Q1を求め、この流量Q1を測定対象である流体の流量Qとして記憶する。
【0075】
また、ステップ4cでは、検量関数(図13参照)における第2領域を用いて、加熱拡散温度上昇量ΔT1に対応する流量Q2を求め、この流量Q2を測定対象である流体の流量Qとして記憶する。
【0076】
そして、ステップ5では、前記ステップで求められた流量Qを、電気信号として出力して、液晶表示器等の表示部(図示せず)に表示したり、あるいはプリンター出力したり等する。
【0077】
次に、本実施の形態の微少流量計及び微少流量測定方法を用いて、実際に流量測定を行った実験例について説明する。
この実験には、実施例1として上記構成の熱拡散手段2を用い、実施例2として狭まり管のみからなる熱拡散手段2’を用いた。
【0078】
この実験の実験条件は下記の通りである。
(実施例1(熱拡散手段2:図14参照)
・熱拡散手段2の入口内径:3mm
・熱拡散手段2の拡大部分の最大内径:6mm
・熱拡散手段2の出口内径:3mm
・熱拡散手段2の全長L:21mm
・拡がり管2a部分の長さ:9mm
・狭まり管2b部分の長さ:12mm
・流量:0、0.25、0.5、0.75、1.00mL/min
(実施例2(熱拡散手段2’:図15参照)
・入口部分の内径:6mm
・出口部分の内径:3mm
狭まり管の長さL:18mm
・流量:0、0.25、0.5、0.75、1.00、1.25、1.50、1.90、3.90、5.90mL/min
(共通する条件)
・加熱器4:ニクロム線(素線径0.12mm)
・加熱器4のリング部4aの直径D=0.5mm、流れ方向の長さ:3mm
・加熱器4の出力:1.7W(加熱時間th=1.8s,加熱量Δq=3J)
・被測定流体:水
水温:約19℃
【0079】
図16に示すグラフから判るように、拡がり管2aと狭まり管2bからなる熱拡散手段2を用いた実施例1では、流量Qが0〜約2.6(mL/min)の範囲において、Q−ΔTの関係が右肩上がりの略直線的な線形関係(一次関数で表される関係)となり、流量Qが約2.6(mL/min)以上では右肩下がりの略直線的な線形関係となっている。これは、図8に示したモデル解析の結果とよく近似している。これを検量関数(検量線)とすることによって、加熱拡散温度上昇量ΔTから、実際の流体の流量を、正確に測定することができる。すなわち、両者の関係が略直線的な線形であれば、検量関数の作成時での測定点の間における値を精度良く補間することができる。また、図16に示す実験結果からは、本実施の形態(実施例1)によれば0〜約6(mL/min)の広範な微少流量域での流量測定が可能であることが判る。
【0080】
なお、実施例1において、図16に示す実験例では、1.0〜2.0(mL/min)でやや非直線的な関係を示しているが、拡がり管2a及び狭まり管2bの傾斜角度や、熱拡散手段2の全長寸法、各部の内径寸法等の調整により、より直線的な線形関係に矯正することが可能である。
【0081】
一方、実施例2として示した狭まり管のみの熱拡散手段2’のグラフでは、流量Qが0〜約1.0 (mL/min)の範囲において、Q−ΔTの関係が右肩上がりの略直線的な線形関係を示している。この実施例2については、流量Qが1.0 (mL/min)以上の温度上昇量を測定していないが、上述したモデル解析の結果より、実施例1と略同様に、ある流量点以上で、Q−ΔTの関係に右肩上がりの線形関係が得られるものと考えられる。但し、比較的広範な流量範囲(例えば0〜約6(mL/min)の範囲)での流量測定を想定した場合、実施例2よりも実施例1の方が測定精度が向上する見込みである。
【0082】
よって、本実施の形態によれば、拡がり管2a及び狭まり管2bからなる熱拡散手段2、ニクロム線ヒータ等の加熱器4、熱伝対等の温度検出部5、マイクロプロセッサ等の情報処理装置54等、比較的安価で簡素構造の部品のみによって、高精度かつ保守の必要性が少ない微少流量計及び微少流量測定方法を実現することができる。
しかも、正の線形関係を有する第1領域と、負の線形関係を有する第2領域とから構成される検量関数を用いるため、比較的広範な微少流量測定が可能であり、特に、流量範囲0〜10mL/minの微少流量測定に好適である。
【0083】
なお、上記実施の形態によれば、特に好ましい態様として拡がり管2aと狭まり管2bとを連設してなる熱拡散手段2を用いたが、この熱拡散手段2の他例としては、上述した熱拡散手段2’(狭まり管)や、直円管、拡がり管2aのみからなる管体、その他の形状の管体としたり、あるいは、これら複数種類の管体を適宜に組み合わせてなる管体とすることも可能である。
また、上記実施の形態によれば、拡がり管2aと狭まり管2bをそれぞれ流通断面積を直線的な比率で徐々に変化させる構成としたが、他例としては、流通断面積を所定の曲率でもって徐々に変化させる構成や、流通断面積を段階的に変化させる態様等が考えられる。
【0084】
更に、熱拡散手段2の他例としては、流路中の流体の流通方向を重力方向に対し略逆向きにすることで、加熱流体が浮力の影響により熱拡散される態様とすることも可能である。
更に、熱拡散手段2の他例としては、流路中に少なくとも一つの貫通孔を有するプレート(例えばオリフィス板等)を流れ方向に略直交するように設け、前記プレートによる流速低下によって熱拡散を促進させる態様とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の微少流量計の一例を示す模式図である。
【図2】加熱器のリング部を中心軸方向に視た拡大図である。
【図3】ポアズイユ流れを説明する模式図である。
【図4】加熱器の装置構成を示すブロック図である。
【図5】温度検出部の装置構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の基本原理を説明するための模式図である。
【図7】本発明の基本原理を説明するための模式図である。
【図8】加熱拡散温度上昇量と流量の関係を示すグラフである。
【図9】検量関数作成のための装置の一例を示す模式図である。
【図10】一定流量発生装置の一例を示す模式図である。
【図11】加熱開始後の経過時間と流体の温度との関係を示すグラフであり、(A)は経過時間が基準時間内である場合を示し、(B)は経過時間が略基準時間である場合を示し、(C)は経過時間が基準時間を越えた場合を示している。
【図12】検出温度が最大になるまでの経過時間と流量との関係を示すグラフである。
【図13】検量関数(検量線)の一例を示すグラフである。
【図14】実施例1に用いた熱拡散手段の一例を示す模式図である。
【図15】実施例2に用いた熱拡散手段の一例を示す模式図である。
【図16】加熱拡散温度上昇量と流量の関係を実験的に測定した結果を示すグラフである。
【図17】本発明に係る微少流量計を用いた流量測定手順の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0086】
1:上流側流路
2:熱拡散手段
2a:拡がり管
2b:狭まり管
3:下流側流路
4:加熱器
5:温度検出部
54:情報処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を通過させる流路と、該流路中の流体を加熱する加熱器と、該加熱器よりも下流側で加熱前後の流体の温度を検出する温度検出部と、該温度検出部による検出温度から流量を求める情報処理装置とを備えた微少流量計であって、
前記情報処理装置は、流体の温度上昇量と流量の関係を示す検量関数を予め記憶する記憶装置と、前記温度検出部による検出温度から流体の温度上昇量を求め、この温度上昇量に対応する流量を前記検量関数から求める演算処理装置とを具備し、
前記検量関数は、温度上昇量と流量との関係が正の線形関係である第1領域と、該第1領域よりも大流量側において温度上昇量と流量との関係が負の線形関係である第2領域とを有することを特徴とする微少流量計。
【請求項2】
前記加熱器による加熱開始からの経過時間と前記温度検出部による検出温度との関係を測定する手段を備え、
前記情報処理装置は、前記検出温度が最大になった時点の前記経過時間が、予め設定された基準時間よりも大きいことを条件に前記検量関数における前記第1領域を用い、前記経過時間が前記基準時間よりも小さいことを条件に前記検量関数における前記第2領域を用いることを特徴とする請求項1記載の微少流量計。
【請求項3】
前記情報処理装置は、前記経過時間が前記基準時間と略同一であることを条件に、前記検量関数において前記第1領域と前記第2領域との境界線上の流量を、前記流路を通過する流体の流量とすることを特徴とする請求項2記載の微少流量計。
【請求項4】
前記情報処理装置は、前記経過時間と流量の関係を示す関数を予め記憶し、この関数より、前記検量関数における前記第1領域と前記第2領域との境界線上の流量に対応する経過時間を求め、この経過時間を前記基準時間とすることを特徴とする請求項2又は3記載の微少流量計。
【請求項5】
前記流路中には、前記温度検出部よりも上流側に、前記加熱器によって加熱される流体の熱拡散を促す熱拡散手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4何れか1項記載の微少流量計。
【請求項6】
前記熱拡散手段は、流体の流通方向に向かって断面積を拡大する拡がり管と、流体の流通方向に向かって断面積を縮小する狭まり管とのうち、何れか一方又は双方を具備していることを特徴とする請求項5記載の微少流量計。
【請求項7】
前記熱拡散手段は、流体の流通方向に向かって断面積を拡大する拡がり管の下流側端部に、流体の流通方向に向かって断面積を縮小する狭まり管を連接してなることを特徴とする請求項5記載の微少流量計。
【請求項8】
流体を通過させる流路と、該流路中の流体を加熱する加熱器と、該加熱器よりも下流側で加熱前後の流体の温度を検出する温度検出部と、該温度検出部による検出温度から流量を求める情報処理装置とを用いて、前記流路中の流体の流量を測定する微少流量測定方法であって、
前記情報処理装置が流体の温度上昇量と流量の関係を示す検量関数を予め記憶するステップと、
前記情報処理装置が前記温度検出部による検出温度から流体の温度上昇量を求めるステップと、
前記情報処理装置が前記ステップで求められた温度上昇量に対応する流量を前記検量関数から求めるステップとを含み、
前記検量関数は、温度上昇量と流量との関係が正の線形関係である第1領域と、該第1領域よりも大流量側において温度上昇量と流量との関係が負の線形関係である第2領域とを有することを特徴とする微少流量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−117159(P2010−117159A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288732(P2008−288732)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月14日 社団法人日本伝熱学会発行の「第45回日本伝熱シンポジウム講演論文集」に発表
【出願人】(000103574)株式会社オーバル (82)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】