説明

微弱発光分析装置

【課題】 物質が発光する強度とスペクトルの波長の平均的な量とを容易に知ることができる簡単な構成で且つ安価な微弱発光分析装置を得る。
【解決手段】 分析装置のデータ処理部9が、第1フィルタ16挿入時の感度値f1(λ)及び第2フィルタ17挿入時の感度値f2(λ)の比の値と、その感度値の比の値から一意的に導出される波長λの大きさとを相互に対応させるように形成されたルックアップテーブルを参照して、前記第1フィルタを透過して検出された第1検出値D1(λ)及び上記第2フィルタを透過して検出された第2検出値D2(λ)の比の値と前記感度値の比の値とを対比させ、適合する感度値の比の値から対応する波長λを重心波長として導出すると共に、各フィルタの感度値と第1及び第2検出値D1(λ)、D2(λ)の関係から総発光量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子の電子状態間遷移に基づく微弱な発光を検出して、発光原因分子を含む試料の特性や状態の分析評価を行う微弱発光分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックやゴム、さらには食品やバイオ関連も含めて多くの有機物質は時間の経過とともに老化・劣化していくが、このとき極微弱なケミルミネッセンスと呼ばれる光が放射される現象が発見され、この極微弱な発光を観測して上記有機物質の老化・劣化を評価・予測する技術が開拓されてきている。
【0003】
上記ケミルミネッセンスは、二次元に広がる反応領域の各所から微弱な光が放射される現象であるため、光源を発した光のうち分光器の入射スリットを通過できた光のみが分光測定されるプリズムあるいは回折格子を用いる分散型の分光測定装置では感度が不足するという問題が生じていた。そのため、従来のケミルミネッセンスの測定装置は、発光の強度のみを捉える非分光方式が主流で、分光的なデータが必要な場合には、非分光方式の装置に立ち上がり波長の異なるハイパスフィルタ複数を交換しながら使用し、各フィルタを透過する光を光電子倍増管による光検出器でフォトンカウンティングによって順次検出し、これにより発光スペクトルの概略を導出できるようにしていた。
【0004】
ところで、ケミルミネッセンスの本格的な分光測定が可能になると、分子・原子レベルでの物質変化の情報が質・量ともに飛躍的に向上してより高度な分析評価が可能となり、より本質的な新たな知見が得られることとなる。そこで、本発明者らは、サバール板干渉計とイメージセンサで構成される分光方式が測定に対する光の利用効率を極めて高くしうる原理上の能力を秘めていることに着目し、特許文献1のようなケミルミネッセンスの極微弱発光の本格的な分光測定機能を有する分析装置を開発した。
【0005】
上記特許文献1に係る分析装置の利用には、分子変化の内容とそのスペクトルの関係を説明しうる理論体系の構築が必須となるが、この理論体系を完全に構築するためには膨大な研究・開発努力を要する。
その一方で、上記理論体系が完全に構築されていない段階では、上記特許文献1に係る分析装置の実際の利用に際しては、発光の強度とスペクトルとを測定対象物質の品質・特性に係る情報と関連付けて結論を導く場合が多く、スペクトルを分子レベルに遡って解析する利用法は多くない。このような利用法においては、特許文献1のような本格的な分光測定機能を有しているが高価である分析装置を必ずしも必要としておらず、実用的には、発光の強度とスペクトルの波長の平均的な値としての重心波長とを知ることができる装置で実用的には十分である。
【特許文献1】特許第3796024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
如上に鑑み、本発明の技術的に課題は、物質が発光する強度とスペクトルの波長の平均的な値とを容易に知ることができる簡単な構成で且つ安価な微弱発光分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の微弱発光分析装置は、 分析対象物となる試料を格納する試料室と、試料の発光を検出する光検出器と、該光検出器と試料との間に介在されたフィルタ部と、上記光検出器で検出された検出値のデータを演算処理して試料の特性情報を出力するデータ処理部を有し、上記フィルタ部は、波長の透過率が相互に異なる複数のフィルタを備え、上記光検出器に各フィルタを透過した光の各検出値を取得させ、上記各フィルタと上記光検出器とは、入射する光の波長に対する各フィルタの各透過率と光検出器の波長感度との積である各感度値が求められ、上記データ処理部は、上記各感度値の比の値と、該感度値の比の値から特定される波長とを対応させると共に、上記取得した各検出値の比の値を算出して、該各検出値の比の値と対応する上記各感度値の比の値から特定される波長を重心波長として導出し、該重心波長から光の総発光量を導出することを特徴とする。
【0008】
この場合において、上記データ処理部は、上記各感度値の比の値と、該感度値の比の値から特定される波長とを対応させたルックアップテーブルを有し、該ルックアップテーブルを参照して重心波長を特定するものとすることが好ましい。
【0009】
また、本発明においては、上記フィルタ部は、透過率のピークが短波長側に選定された第1フィルタと、透過率のピークが長波長側に選定された第2フィルタとを有しているものとすることができる。
【0010】
さらに、本発明においては、上記データ処理部は、第1フィルタを透過して上記光検出器に検出された第1検出値D1(λ)、及び第2フィルタを透過して光検出器に検出された第2検出値D2(λ)と、上記重心波長の大きさに対する上記第1のフィルタの感度値f1(λ)と第2のフィルタの感度値f2(λ)とから、試料が発する光の総発光量Iλ
【数1】

の計算式で導出するものとすることができる。
【0011】
また、本発明においては、上記フィルタ部は、各フィルタが並列的に配置され、各フィルタの位置を切り替えることにより試料が発する光を各フィルタに透過させて単一の光検出器により順次検出させ、該光検出器は、各フィルタの検出値をフィルタ毎に別々に格納されるデータ格納部に出力するものとすることができる。
あるいは、複数の光検出器を備え、上記フィルタ部は各光検出器毎に各フィルタを配設したものとすることができる。
【0012】
さらに、本発明においては、上記光検出器は、フォトンカウンティングによる光の検出を行うものとすることができる。
あるいは、検出信号をアナログ信号として出力するプリアンプ付シリコンフォトダイオードを検出素子とする光検出器と、試料と光検出器との間に設けられ、該試料から発せられる光をチョッピングして該光を交流化する光チョッパ装置と、上記光検出器の検出信号を増幅する増幅手段と、上記光チョッパ装置のチョッピング周波数に同期した位相信号を発信する位相検出器と、該位相検出器からの位相信号と上記増幅手段によって増幅された検出信号とを同期させて整流し、その同期・整流した信号を直流化する同期整流回路と、該同期整流回路から出力された直流化された信号をデジタル値に変換するアナログ−デジタル変換回路とを有しているものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の微弱発光分析装置によれば、透過率のピークが相互に異なる複数のフィルタを使用すると共に、上記各フィルタと光検出器とは、入射する光の波長に対する各フィルタの各透過率と光検出器の波長感度との積である各感度値が求められるように構成し、各フィルタの感度値の比の値と、該感度値の比の値から導出される波長の大きさとを対応させて、各フィルタを透過して検出された各検出値の比の値と対応する上記感度値の比の値から重心波長を求めることができるため、該受信波長の導出をきわめて容易に行うことができる。また、試料が発する総発光量も、得られた検出値のデータと各フィルタの感度値との関係から算出することが可能であるため、導出が容易である。しかも、本格的な分光測定機能を有する分析装置に比べて全体の構成が簡易であるだけでなく、サバール板干渉計等のきわめて高価な部材を必要としていないため、コストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明に係る微弱発光分析装置の第1実施例を示すもので、この第1実施例の分析装置は、分析対象となる試料1を格納する試料室2と、試料1の発光を検出する単一の光検出器4、及び該光検出器4と試料との間にフィルタを入れ替え挿入可能に介在させるフィルタ部5Aが収容された検出室6と、光検出器4の検出値のデータを格納するデータ格納部8(メモリ)を備えた電子回路部7Aと、データ格納部8から出力された検出値データを演算処理して試料1の特性情報を出力すると共に、装置全体を制御するデータ処理部9を備えている。
【0015】
上記試料室2は、光学的に密閉された暗室構造のもので、試料1で生起する化学反応を促進するためのヒーター10と、該ヒーター10の温度を制御する温度制御器11と、化学反応促進に供するガス供給用のガス供給系12を備えている。
一方、上記検出室6は、上記試料室2の上部に配設されていて、上記光検出器4及びフィルタ部5Aが収容された内部空間6aは、ノイズ軽減のために外部と断熱された構成である一方、上記電子回路部7Aの後述する駆動回路22からの信号により開閉する電動シャッタ13により試料室2からの光を内部空間6aに透過させ、あるいは遮蔽する構成となっている。また、この検出室6には、上記光検出器4を冷却してノイズを低減するため冷凍機を有する冷風発生機14が付設されている。
なお、上記検出室6における試料室側には断熱窓15が設けられていて、試料室2からの光を透過させる一方で、試料室2の熱が検出室6に伝導しないようにしている。
【0016】
上記フィルタ部5Aは、感度ピークが短波長側に選定された第1フィルタ16と、感度ピークが長波長側に選定された第2フィルタ17と、波長選択性のない第3フィルタ18と、これらの3つのフィルタを並列的に配置させる円板状のフィルタドラム19、及び該フィルタドラム19の中心に配設された回転軸19aを回転させるモータ20とを備えている。
【0017】
上記フィルタドラム19は、中心に配設された回転軸19aを中心とした同心円上に上記3つのフィルタ16、17、18を並列的に並べることができるもので、上記モータ20を回転させることにより各フィルタを上記光検出器4と試料1との間に入れ替え挿入可能に順次介在させることができる構成となっている。
上記モータ20は、後述する電子回路部7Aの駆動回路22からの信号により回転・停止されるようになっていて、上記シャッタ13の開閉と連関して駆動するように制御されている。
【0018】
上記第1フィルタ16及び第2フィルタ17は、それぞれの透過率T1(λ)、T2(λ)が、各フィルタ16、17に入射する光の波長に対して一意的に定まるように設定されたもので、上記第1フィルタ16は短波長側の透過率が高いいわゆる青フィルタ、一方、第2フィルタ17は長波長側の透過率が高いいわゆる赤フィルタとなっている。
これらの第1フィルタ16及び第2フィルタ17としては、例えば、波長に対する透過率に対し、積層する誘電体の厚さを設計して製作された薄膜多層干渉フィルタ、あるいは、色彩計等に適用されている色ガラスフィルターの中から所定の透過率特性を備えたフィルタ等を採用することができる。
【0019】
上記光検出器4は、上記試料1に対向する向き、即ち下方向きに配置されていて、上記フィルタドラム19に取付けられた3つのフィルタ16、17、18のうち、この光検出器4と試料1との間に挿入、介在された状態にあるいずれか1つのフィルタを透過した光を順次検出するようになっている。
具体的に、上記光検出器4は、光電子増倍管又はアバランシェフォトダイオードを要素とするフォトンカウンティング方式の光検出が可能なもので、上記各フィルタを透過した光を光子レベルで検出し、1光子につき1パルスの信号を発信するように構成されている。また、この光検出器4は、必要な波長領域即ち上記第1フィルタ16及び第2フィルタ17が有効に機能する範囲内の波長領域内においては、波長感度E(λ)がほぼ一定となっている。
【0020】
ところで、上記第1フィルタ16及び第2フィルタ17と光検出器4とで構成される検出系では、入射する光の波長λに対する第1フィルタ16及び第2フィルタ17のそれぞれの透過率T1(λ)、T2(λ)に光検出器の波長感度E(λ)を乗じて得られる値を、この検出系が検出する感度値f1(λ)、f2(λ)としている。なお、f1(λ)は光を第1フィルタに入射させた場合の感度値であり、f2(λ)は光を第2フィルタに入射させた場合の感度値である。
上記検出系においては、上記光検出器4の波長感度E(λ)が、上述のように測定対象となる波長域ではほぼ一定であるものが選択されていることから、各フィルタ16、17に光を入射させた場合(つまり各フィルタの挿入時)の上記感度値f1(λ)、f2(λ)の特性は、実質的にこれらの第1フィルタ16及び第2フィルタ17の各透過率特性によって定まる。
この第1実施例の検出系は、第1フィルタ及び第2フィルタの各透過率特性から、図2に示すように、第1フィルタ16は感度ピークが短波長側に、第2フィルタ17は感度ピークが長波長側にそれぞれあらわれるような感度値の特性となっている。なお、図2において、破線の曲線は第1フィルタ16に光を透過させた場合の感度値f1(λ)を示し、実線で示す曲線は第2フィルタ17に光を透過させた場合の感度値f2(λ)を示している。
【0021】
さらに、上記第1フィルタ16及び第2フィルタ17と光検出器4とで構成される検出系においては、その入射した光の波長を一意的に特定でき、逆にその光の波長の大きさから各感度値f1(λ)、f2(λ)をそれぞれ一意的に導出することができるように構成されている。
具体的に説明すると、この検出系においては、上述のように、各フィルタ16、17に光を透過させた場合の上記感度値f1(λ)、f2(λ)の特性が実質的に第1フィルタ16及び第2フィルタ17の各透過率特性によって定まる。一方で、上記第1フィルタ16及び第2フィルタ17は、各透過率T1(λ)、T2(λ)が、各フィルタ16、17に入射する光の波長に対して一意的に定まるように設定されているため、感度値f1(λ)、f2(λ)が分かれば、その入射した光の波長を一意的に特定でき、また入射した光の波長の大きさから各感度値f1(λ)、f2(λ)をそれぞれ一意的に導出することが可能となる。
【0022】
上記第1フィルタ及び第2フィルタは、透過率T1(λ)、T2(λ)を分光光度計により容易に測定することができ、また、光検出器の波長感度E(λ)は、分光器で単色に分けた光を該光検出器に入射させた際の出力値により測定することができる。
したがって、各フィルタの透過率T1(λ)、T2(λ)と光検出器の波長感度E(λ)の測定データとを基に、この検出系における入射する光の波長と感度値f1(λ)、f2(λ)の値との関係を予め導出しておくことが可能である。
【0023】
この第1実施例においては、図3に示すような、波長対感度値に関するルックアップテーブルを各フィルタ毎に予め作成し、フィルタに入射した光の波長の大きさと該フィルタ挿入時の感度値との対応関係を迅速且つ容易に導出できるようにしている。ただし、図3は、第1フィルタ16(青フィルタ)における波長対感度値に関するルックアップテーブルのみを表している。
なお、波長対感度値の特性が数式で表現可能な場合には、上記波長対感度値に関するルックアップテーブルは必ずしも作成する必要はなく、上記光の波長の大きさからフィルタの感度値を演算によって適宜算出するようにしてもよく、逆にフィルタの感度値の値から光の波長の大きさを演算によって適宜算出するようにしてもよい。
【0024】
一方、上記電子回路部7Aは、上記光検出器4から出力されたパルス信号を検出してその検出した信号数をカウントするカウンタ21と、該カウンタ21の数値をデータとして格納する上記データ格納部8と、上記検出室6のシャッタ13及びフィルタドラム19の駆動制御を行う駆動回路22と、該駆動回路22に連関して上記データ格納部内におけるカウンタ21の数値の格納領域を指定するメモリアドレスコントローラ23とを有している。
上記カウンタ21は、上記データ処理部9で設定された測定時間の間だけ検出した上記パルス信号をカウントし、メモリアドレスコントローラ23が指定するデータ格納部8内の格納領域に格納させるようになっている。
また、上記駆動回路22は、上記データ処理部9で実行される後述の制御プログラムに24より駆動制御されていて、該制御プログラム24から測定時間の設定及び測定開始の指令を受けると、その設定した測定時間だけ上記シャッタ13を開く。そして、設定時間経過後はシャッタ13を閉じると共に上記モータ20を駆動させてフィルタドラム19を回転させ、測定に使用するフィルタを交換させる一方、最終的に3つのフィルタによる測定が終了した場合には、その測定の終了を制御プログラムにデータ処理部9に通知する構成となっている。
上記メモリアドレスコントローラ23は、上記駆動回路22の駆動に連動し、各フィルタ16、17、18を通して検出されたカウンタ21の各数値を、上記データ格納部8内に各フィルタ毎に別々に振り分けて格納させるように格納領域を指定し、一方、上記データ格納部8は、カウンタ21の数値を、各フィルタの検出値のデータとして、メモリアドレスコントローラの指定した格納領域にフィルタ毎に対応して蓄積する。
【0025】
また、上記データ処理部9は、上記電子回路部7Aとのインターフェイスを含む電子計算機(図示せず)と、設定操作や演算結果・設定内容の表示を行う操作表示部(図示せず)、並びに該電子計算機上で作動して分析装置全体を制御する制御プログラム24及び上記データ格納部8に格納された検出値のデータをもとに演算処理を行うデータ処理プログラム25、さらに、第1フィルタ16及び第2フィルタ17挿入時の各感度値の比の値と該感度値の比の値から特定される波長の大きさとを対応させるように予め作成、データ化された、波長対感度値の比の値に関する後述のルックアップテーブルとを備えており、分析装置自体の制御と光検出器4で得られた検出値のデータ処理とを一体に行うようになっている。
上記制御プログラム24は、計測時間の設定、及び計測時間と計測開始の指令の上記電子回路部7Aへの通知、該電子回路部7Aから通知される測定終了の信号の検出と上記データ処理プログラム25の起動を実行することを主な機能としている。
また、上記データ処理プログラム25は、上記電子回路部7Aのデータ格納部8から転送された検出値のデータの受領と、この検出値のデータから試料1が発する後述の光の重心波長の導出・総発光量の導出処理を行うことを主な機能としている。
【0026】
ここで、本発明の微弱発光分析装置の原理について詳細に説明する。本発明の微弱発光分析装置は、物質(試料1)が発光する光の重心的な波長の値、及びその光の波長の総発光量を測定・導出するものであり、その測定・導出は次のような論理に基づいて行われる。
【0027】
上述のように、上記第1フィルタ16及び第2フィルタ17は、感度値f1(λ)、f2(λ)の値から各フィルタ16、17に入射した光の波長を一意的に特定できる。上記光検出器4は、第1フィルタ及び第2フィルタ挿入時の各感度値f1(λ)、f2(λ)の値そのものを計測するものではないが、これらの各感度値f1(λ)、f2(λ)の値そのものが分からなくても、光検出器4の検出値のデータからこれら第1フィルタ挿入時の感度値f1(λ)の値と第2フィルタ挿入時の感度値f2(λ)の値との比が特定できれば、各フィルタに入射した光の波長、即ち試料が発した光の波長λを一意的に特定することができる。
【0028】
具体的に説明すると、試料1が単一の波長λ1を発するとした場合、第1フィルタ16を透過して検出された第1検出値D1(λ1)、第2フィルタ17を透過して検出された第2検出値D2(λ1)、第3フィルタ18を透過して検出された第3検出値D3(λ1)は、それぞれ次の(1)〜(3)式で表すことができる。
【数2】


ここに、Iλ1は測定時間中に各フィルタに入射する光子の総量(入射した光の波長の総発光量)を指している。
次の(4)式に示すように、上記3つの検出値のうち、第1検出値と第2検出値とを抽出し、これらの検出値の比R(λ1)を算出する。
【数3】


上記(1)、(2)式から上記(4)式は次のように置き換えることができる。
【数4】

【0029】
このとき、第1フィルタ16、第2フィルタ17にそれぞれ波長λの光を透過させた際の該波長λと感度値の比R(λ)の値との対応関係は、両フィルタ16、17の上述した波長対感度値に関するルックアップテーブルを基に、波長λと感度値の比R(λ)の値とを相互に対応させて、例えば図4に示すような波長λ対感度値の比R(λ)の値に関するルックアップテーブルであらわすことができる。
感度値の比の値と検出値の比の値とは同等に扱うことができるため、波長λ対感度値の比R(λ)の値に関するルックアップテーブル参照して、上記(5)式で得られた検出値の比R(λ1)の値に適合する波長λ1を迅速且つ容易に特定することができることになる。
この場合、試料が発する光は単一波長であるため、この特定された波長は試料が発した光の波長そのものであり、重心波長となる。
【0030】
上記重心波長λ1が特定されると、第1フィルタ16及び第2フィルタ17挿入時の各感度値f1(λ1)、f2(λ1)の値を、上記波長対感度値に関するルックアップテーブルから抽出することが可能であるため、上記(1)、(2)式から得られる次式により、試料が発する発光量Iλ1を算出することができる。
【数5】

このとき、上記(6)式から得られる値は、試料1から単一波長の光が発光される場合は総発光量に相当する。なお、光が単一波長である場合、この算出された総発光量Iλ1の値は、波長選択性のない上記第3フィルタ18を通した検出値である第3検出値D3から導出される値とほぼ一致する。
【0031】
一方、試料1が複数の波長の光を発する場合、例えば波長λ2で発光量がIλ2のスペクトルと、波長λ3で発光量がIλ3のスペクトルとからなる光を発するとした場合、上記光検出器4には波長弁別機能がないことから、該光検出器4は、あたかも発光量Iλcの単一波長λcの光が入射したものとして動作する。
そうすると、上記光検出器4は、実際には入射する光の発光量を光子の数として計測しているため、発光量Iλcは次の(7)式のように表すことができる。
また、第1検出値D1(λc)、第2検出値D2(λc)、第3検出値D3(λc)は次の(8)〜(10)式で表すことができる。
【数6】

【数7】

【0032】
上記第1検出値D1(λc)の値と第2検出値D2(λc)の値との比、即ち上記(8)式と(9)式との比R(λc)の値を求め、上記波長λ対感度値の比R(λ)の値に関するルックアップテーブルと照合することにより、このR(λc)の値に対する波長λcを特定することができる。この特定した波長λcが複数波長発光系の重心波長となる。
【0033】
また、上記波長λcが特定されると、第1フィルタ及び第2フィルタの各感度値f1(λc)、f2(λc)の値を、上記波長対感度値に関するルックアップテーブルから抽出することが可能であるため、発光量Iλcを上記(6)式と同等の式、つまり該(6)式のD1(λ1)、D2(λ1)、f1(λ1)、f2(λ1)の各値を、D1(λc)、D2(λc)、f1(λc)、f2(λc)の各値にそれぞれ置き換えた次の(11)式によって算出することができる。
【数8】


上記(11)式から得られた発光量Iλcの値は、複数波長の光が発光される場合には、厳密には総発光量ではなく総発光量の指標となる値を表すものであり、複数波長の場合の厳密な総発光量は、(7)、(10)式からわかるように、波長選択性のない第3フィルタ18を通した検出値である第3検出値D(λc)により算出することができる。
【0034】
ここで、上記「重心波長」とは、試料1が発する光の波長とその光の強さとに依存するものであり、この重心波長と、該重心波長の総発光量を継続的に記録すれば、その経時的な変化においてケミルミネッセンスの発光におけるスペクトル変動の有無を確認することができるため、有機物質の老化・劣化等の変化の評価・予測に有効に活用できることとなる。
上記「重心波長」について詳細に説明すると、例えば、第1フィルタ16及び第2フィルタ17と光検出器4とで構成される検出系が、図5のような模式的な感度値の特性曲線を有する場合において、各フィルタ挿入時の各感度関数f1(λ)、f2(λ)はそれぞれ次のように表される。
【数9】

なお、a、C1、C2は定数である。
各フィルタ16、17に上述したような複数の波長の光、即ち波長λ2で発光量Iλ2のスペクトルと波長λ3で発光量Iλ3のスペクトルとからなる光が入射すると考えると、上述のように光検出器4には波長弁別機能がないことから、該光検出器4は、あたかも発光量Iλcの単一波長λcの光が入射したものとして動作する。そうすると、第1フィルタの検出値D1(λc)と第2フィルタの検出値D2(λc)とは上記(12a)、(12b)式から次のように表される。
【数10】


そして、これらの(12)、(13)式のそれぞれから次の波長λcが得られる。
【数11】


上記(14a)式は、質量Iλ2とIλ3の物体が、それぞれの座標位置λ2とλ3に配置されている系の重心位置をλcとして定める式とまったく同形な式となっている。この意味から(14a)式で表される波長λcを、波長λ2とλ3の光を発する発光系の重心波長と解釈される。
2以上の複数の波長の光を発する場合、(14a)式は、(14b)式のように、また、発光が線スペクトルでなく波長に関して連続的であるときには(14c)式のように拡張できる。
【数12】


感度関数f1(λ)、f2(λ)が上記の式(12a)と(12b)のような簡単な式で表せない場合には、フィルタの透過率T1(λ)、T2(λ)と光検出器の波長感度E(λ)の測定データとを基に、波長に対する感度関数の値をあらかじめルックアップテーブルの形で策定しておくと、重心波長は第1フィルタの検出値D1(λc)と第2フィルタの検出値D2(λc)を基に、(4)、(5)式を経由してルックアップテーブル参照して求められることとなる。
【0035】
ところで、試料が発する光の重心波長と総発光量とは上述のような論理で求められるが、この理論を反映させて重心波長とその発光量との導出を行うのは、実際には上記データ処理部9において実行される上記データ処理プログラム25である。
この点について詳しく説明すると、このデータ処理プログラム25は、上記データ格納部8に蓄積された第1検出値D1(λ)、及び第2検出値D2(λ)をそれぞれ読み出した上で、これら第1検出値の値と第2検出値の値との比R(λ)を算出する処理を行う。そして、上記波長対感度値の比R(λ)の値に関するデータ化された上述のルックアップテーブルと照合して、検出値の比R(λ)と同等の感度値の比の値に適合する波長、即ち重心波長を特定して抽出し、上記操作表示部に出力する処理を行う。
なお、試料1が複数の波長の光を発する場合であっても、検出値の比R(λ)の算出処理は、単一波長の場合と同様に行われる。
【0036】
また、上記(11)式から重心波長の総発光量(複数波長の場合は総発光量の指標)を算出する一方で、上記データ格納部8から第3フィルタ18を通した第3検出値D3(λc)を読み出して、該第3検出値D3(λc)により該総発光量を導出する処理を行う。最終的には、(11)式から得られた値と第3検出値D3(λc)により導出された値のどちらか一方、あるいは両方の値を、試料が発する光の重心波長の総発光量(又はその指標)として上記操作表示部に出力する処理を行う。
なお、上記データ処理部9には、波長対感度値に関するルックアップテーブルも参照すべきデータとして有しており、上記(11)式から重心波長の総発光量を算出する際に、各フィルタの感度値の導出処理に供されている。
【0037】
上記構成を有する微弱発光分析装置は、試料室2に分析対象となる試料1を格納すると共に、データ処理部9によって測定時間を設定し、測定を開始する。そして、第1フィルタ16、第2フィルタ17、第3フィルタ18を設定した測定時間に合わせて試料1と光検出器4との間に順次介在させ、各フィルタ毎に光検出器4による測定を行うと共に、得られた各フィルタ毎の検出値のデータをデータ格納部8に別々に格納する。なお、試料1の発光量に時間的変化が無視できないような対象を測定する場合には、各フィルタによる1回当たりの測定時間を短くする一方で、各フィルタによる測定を順次複数回行い、データ格納部8に検出値のデータを蓄積していくことにより、より正確な計測を行うことできる。
その後、データ処理部9において、データ格納部8に格納された検出値のデータに基づき、ルックアップテーブルを参照して試料が発する光の重心波長を導出すると共に、該重心波長の大きさから各フィルタの感度値を導出して、上記(11)式に基づいて試料が発する光の総発光量を算出とを行い、これらの重心波長と総発光量を操作表示部に出力して表示させる。
【0038】
このとき、上記微弱発光分析装置は、透過率のピークが短波長側及び長波長側にそれぞれ選定された第1フィルタ16及び第2フィルタ17を使用すると共に、第1フィルタ16及び第2フィルタ17と光検出器4とを、入射する光の波長に対する上記第1フィルタ16、第2フィルタ17の各透過率と光検出器の波長感度との積である各感度値がに定まるように設定し、これら第1フィルタ16及び第2フィルタ17の感度値の比の値と波長の大きさとを相互に対応させるように形成されたルックアップテーブルを参照することにより、第1フィルタ16・第2フィルタ17を透過して検出された第1検出値・第2検出値との比の値から重心波長を求めることができるため、重心波長の導出をきわめて容易に且つ迅速に行うことができる。
また、試料1が発する総発光量も、得られた検出値のデータと第1フィルタ16及び第2フィルタ17挿入時の感度値との関係から算出することができるため、導出が容易である。特に、この第1実施例の場合、総発光量を得られたデータと第1フィルタ16及び第2フィルタ17挿入時の感度値との関係から算出可能としただけでなく、波長選択性のない第3フィルタ18により厳密に総発光量を測定することができる構成としているため、試料が単一波長の光あるいは複数波長の光を発していても総発光量の正確な検出を行うことができる。
さらに、上記分析装置は、本格的な分光測定機能を有する分析装置に比べて全体の構成が簡易であるだけでなく、サバール板干渉計等のきわめて高価な部材を必要としていないため、製造が比較的簡単であり、製造コストも抑えることが可能である。
【0039】
図6は、本発明に係る微弱発光分析装置の第2実施例を示すもので、上記第1実施例が、光検出器を光電子倍増管やアバランシェフォトダイオードを用いてフォトンカウンティング方式の検出を行うものであるのに対し、この第2実施例は、光検出器としてシリコンフォトダイオードによって光の検出を行う構成のものを採用している。また、それに伴って、電子回路部等の構成が第1実施例のものとは異なっている。
【0040】
即ち、この第2実施例の微弱発光分析装置は、光検出器26をプリアンプ付のシリコンフォトダイオードによって光の検出を行う構成のものとする一方、試料1と検出室6のシャッタ13との間に、試料1が発する光を断続的に検出室6内に入射させる光チョッパ装置27の遮光板27aを介在させると共に、該光チョッパ装置27の遮光板27aの位置(位相)を検出する位相検出器28を設けている。さらに、電子回路部7Bには、上記光検出器4から発信された検出信号を増幅する同調アンプ29と、該同調アンプ29から出力される信号と上記位相検出器28から出力される信号とを同期させる同期整流回路30と、該同期整流回路30から出力された信号値をデジタル値に変換するアナログ−デジタル変換回路31(AD変換回路)とを配設している。
【0041】
上記光チョッパ装置27は、中心に設けた回転軸27bを回転させて試料1が発光する光を断続的に遮断する上記遮光板27aと、上記回転軸27bを回転させるモータ27cとを備えていて、該モータ27cによって遮光板27aを数十〜100Hz程度の周波数で回転させてチョッピングを行うことにより、試料1からの光を断続的に検出室6内に入射させることができるようになっている。この光チョッパ装置27で試料1が発光する光をチョッピングすることにより、この第2実施例の光検出器26に用いられているシリコンフォトダイオードのように本質的に直流信号を発信するものであっても、その出力を断続する信号に変換(交流化)して交流増幅回路を適用することができる。
また、上記位相検出器28は、フォトインタラプタであり、上記光チョッパ装置27の遮光板27aを検出して、該遮光板27aの位置を知らせる信号を上記同期整流回路30に発信する構成となっている。
【0042】
一方、上記同調アンプ29は、上記光検出器26が出力するパルス信号のうち上記光チョッパ装置27のチョッピングの周波数に対応する部分のみを増幅するもので、他の周波数のノイズ部分を排除して上記光検出器26からの検出信号のみを高倍率で増幅し、検出信号を交流化して出力することができる構成となっている。
また、上記同期整流回路30は、上記位相検出器28から信号と同調アンプ29からの信号とを同期させて、該同調アンプ29からの信号のうち上記光チョッパ装置27の遮光板27aが光を検出室6に通している状態の信号成分のみを抽出するもので、その抽出した信号成分を直流の信号に変換して上記AD変換回路31に出力するようになっている。この同期整流回路30は、直流化された信号を整流化して平均安定化する機能も有している。
さらに、上記AD変換回路31は、上記同期整流回路30で直流化・平均化されたパルス信号の波高値の信号をデジタル値に変換するもので、その値をフィルタ部5Bの各フィルタを透過した光の検出値のデータとしてフィルタ毎に指定されたデータ格納部8(メモリ)の格納領域に転送する構成となっている。
【0043】
なお、この第2実施例におけるその他の構成については、上記第1実施例と同様の構成であり、同様の作用・効果を奏するため、同じ構成部分に第1実施例と同じ符号を付してその説明は省略する。
【0044】
上記構成を有する微弱発光分析装置は、各フィルタの検出値の取得手段が異なるが、データ格納部8に格納されたデジタル値は、上記第1実施例の検出値であるカウント数に相当するため、基本的に上記第1実施例と同じ論理で重心波長、及び該重心波長の総発光量を導出することができる。それに加えて、この第2実施例で使用するシリコンフォトダイオードによる光検出器は、第1実施例の光電子倍増管やアバランシェフォトダイオードを用いたものに比べて格段に安価であるため、比較的強い光が発光される試料を分析する場合には、この第2実施例の分析装置の方がコスト的には有利になる。
【0045】
上記第1実施例及び第2実施例においては、波長選択性のない第3フィルタ18を使用して、該第3フィルタ18を透過する光の検出を行い、重心波長の総発光量の導出に利用する構成としているが、単一波長の光を発する試料の分析を行う場合や、複数波長の光を発する試料の分析を行う場合であって総発光量の指標的な値が得られれば良い場合には、必ずしも上記第3フィルタを用いる必要はない。
また、第3フィルタを必要しない場合には、この第3フィルタに係る構成を省略してもよく、この場合には構造をより簡単にすることができ、製造コストをより抑えることも可能性である。
【0046】
さらに、上記第1実施例及び第2実施例では、フィルタ部5A、5Bのフィルタを取り替える構成として、第1フィルタ〜第3フィルタを円板状のフィルタドラム19に並列的に並べて、該フィルタドラム19を回転させてフィルタを取り替える構成となっているが、これ以外であっても、各フィルタを並列的に並べることができるものであれば、直線的にスライドするホルダに取付けたもの等、任意の構成とすることができる。
【0047】
図7は本発明の微弱発光分析装置の第3実施例を示すもので、上記第1実施例及び第2実施例は、フィルタ部が、第1フィルタ〜第3フィルタを並列的に配置して、各フィルタを切り替えて試料が発する光を順次透過させると共に、単一の光検出器によって各フィルタを透過した光を順次検出するものとなっているのに対し、この第3実施例の分析装置は、光検出器を複数備え、1つの光検出器に対して1つのフィルタを試料との間に介在させ、フィルタ毎に光検出器がそれぞれ配置される構成とし、各光検出器が対応するフィルタを透過した光を同時に検出するものと構成となっている。また、これに伴って電子回路部7Cも第1実施例及び第2実施例とは異なったものとなっている。
【0048】
即ち、この第3実施例の分析装置は、第1フィルタ16を透過した光を検出する第1光検出器32と、第2フィルタ17を透過した光を検出する第2光検出器33と、第3フィルタ18を透過した光を検出する第3光検出器34を有していると共に、フィルタ部5Cが、第1フィルタ16を第1光検出器32と試料との間に固定的に介在させ、第2フィルタ17を第2光検出器33と試料との間に固定的に介在させ、また第3フィルタ18を第3光検出器34と試料との間に固定的に介在させた構成となっている。
【0049】
上記各光検出器32、33、34は、いずれも光電子増倍管又はアバランシェフォトダイオードを要素とするフォトンカウンティング方式の光検出が可能なもので、基本的に上記第1実施例の光検出器と同じ構成である。なお、上記各光検出器32、33、34は、光電子増倍管を要素とするタイプのものか、アバランシャフォトダイオードを要素するものか、いずれか一方のタイプに統一することが望ましい。
【0050】
上記電子回路部7Cは、上記第1光検出器32から出力されたパルス信号を検出して、その検出した信号数をカウントする第1カウンタ35と、上記第2光検出器33から出力されたパルス信号を検出して、その検出した信号数をカウントする第2カウンタ36と、上記第3光検出器34から出力されたパルス信号を検出して、その検出した信号数をカウントする第3カウンタ37とを備えていて、各光検出器毎にパルス信号をカウントする構成となっている。上述のように、この第3実施例の分析装置は、3つフィルタ16、17、18を透過した光の検出を同時に行う構成であって、第1実施例及び第2実施例のように光の検出に時間差が生じないため、検出値のデータを格納・蓄積するデータ格納部が不要であり、これに伴ってメモリアドレスコントローラも省略されている。
また、上記電子回路部7Cには、上記検出室6のシャッタ13の駆動制御を行うシャッタ駆動回路38が設けられていて、データ処理部9からの指令により駆動してシャッタ13を開閉するように構成されている。
【0051】
なお、この第3実施例におけるその他の構成については、上記第1実施例と同様の構成であり、同様の作用・効果を奏するため、同じ構成部分に第1実施例と同じ符号を付してその説明は省略する。
【0052】
上記構成を有する微弱発光分析装置は、基本的に上記第1実施例と同様の論理で重心波長及びその総発光量を導出することができるが、3つのフィルタをそれぞれ透過する光の検出を各々同時に行うことができるため、試料が発する光の発光量や波長の変化が早い場合であっても、第1実施例や第2実施例の構成に比べてその変化の過程を正確に計測することができるため、変化の早い現象のより正確な計測・分析をする場合には有用である。
【0053】
上記第3実施例では、波長選択性のない第3フィルタ18を使用して、該第3フィルタ18を透過する光の検出を行う構成としているが、単一波長の光を発する試料の分析を行う場合や、複数波長の光を発する試料の分析を行う場合であって総発光量の指標的な値が得られれば良い場合には、必ずしも上記第3フィルタを用いる必要はない。
また、第3フィルタを必要しない場合には、この第3フィルタに係る構成を省略することができ、この場合には第3光検出器、第3カウンタ等、第3フィルタに係る構造を全面的に省略することができるため、分析装置全体の構成を一層簡略化にすることができ、製造コストを大幅に抑えることも可能性である。
【0054】
なお、この第3実施例においては、上記光検出器を、光電子増倍管又はアバランシェフォトダイオードを要素とするフォトンカウンティング方式の光検出が可能なものとしているが、光検出器は、上記第2実施例の光検出器のように、シリコンフォトダイオードで光の検出を行うものであってもよい。この場合、分析装置には、上記第2実施例のような光チョッパ装置及び位相検出器が必要となる一方、電子回路部は、同調アンプや、同期整流回路、AD変換回路等の部材が、各光検出器毎に必要となる。
【0055】
さらに、上記第1〜第3実施例のフィルタ部は、透過率のピークが異なる第1フィルタ及び第2フィルタの2つを用い、これらのフィルタに係る感度値の比と検出値の比とにより重心波長及び総発光量を導出する構成となっているが、このフィルタ部は、透過率のピークが相互に異なるフィルタを3つ以上使用して、各フィルタに係る感度値の比の値と検出値の比の値との関係から重心波長及び総発光量を求めるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る微弱発光分析装置の第1実施例の概略を示す説明図である。
【図2】第1フィルタ及び第2フィルタ挿入時の各感度値の特性を示すグラフである。
【図3】波長と感度値との関係を表したルックアップテーブルの例を示す表である。
【図4】波長と各感度値の比との関係を表したルックアップテーブルの例を示す表である。
【図5】第1フィルタ及び第2フィルタの各感度値と波長との関係を模式的に示すグラフである。
【図6】本発明に係る微弱発光分析装置の第2実施例の概略を示す説明図である。
【図7】本発明に係る微弱発光分析装置の第3実施例の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 試料
2 試料室
4、26、32〜33 光検出器
5A、5B、5C フィルタ部
9 データ処理部
16 第1フィルタ
17 第2フィルタ
18 第3フィルタ
19 フィルタドラム
27 光チョッパ装置
28 位相検出器
30 同期整流回路
31 AD変換回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象物となる試料を格納する試料室と、試料の発光を検出する光検出器と、該光検出器と試料との間に介在されたフィルタ部と、上記光検出器で検出された検出値のデータを演算処理して試料の特性情報を出力するデータ処理部を有し、
上記フィルタ部は、波長の透過率が相互に異なる複数のフィルタを備え、上記光検出器に各フィルタを透過した光の各検出値を取得させ、
上記各フィルタと上記光検出器とは、入射する光の波長に対する各フィルタの各透過率と光検出器の波長感度との積である各感度値が求められ、
上記データ処理部は、上記各感度値の比の値と、該感度値の比の値から特定される波長とを対応させると共に、上記取得した各検出値の比の値を算出して、該各検出値の比の値と対応する上記各感度値の比の値から特定される波長を重心波長として導出し、該重心波長から光の総発光量を導出することを特徴とする微弱発光分析装置。
【請求項2】
上記データ処理部は、上記各感度値の比の値と、該感度値の比の値から特定される波長とを対応させたルックアップテーブルを有し、該ルックアップテーブルを参照して重心波長を特定することを特徴とする請求項1に記載の微弱発光分析装置。
【請求項3】
上記フィルタ部は、透過率のピークが短波長側に選定された第1フィルタと、透過率のピークが長波長側に選定された第2フィルタとを有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の微弱発光分析装置。
【請求項4】
上記データ処理部は、第1フィルタを透過して上記光検出器に検出された第1検出値D1(λ)、及び第2フィルタを透過して光検出器に検出された第2検出値D2(λ)と、上記重心波長の大きさに対する上記第1のフィルタの感度値f1(λ)と第2のフィルタの感度値f2(λ)とから、試料が発する光の総発光量Iλ
【数1】

の計算式で導出することを特徴とする請求項3に記載の微弱発光分析装置。
【請求項5】
上記フィルタ部は、各フィルタが並列的に配置され、各フィルタの位置を切り替えることにより試料が発する光を各フィルタに透過させて単一の光検出器により順次検出させ、該光検出器は、各フィルタの検出値をフィルタ毎に別々に格納されるデータ格納部に出力することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の微弱発光分析装置。
【請求項6】
複数の光検出器を備え、上記フィルタ部は各光検出器毎に各フィルタを配設したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の微弱発光分析装置。
【請求項7】
上記光検出器は、フォトンカウンティングによる光の検出を行うことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の微弱発光分析装置。
【請求項8】
検出信号をアナログ信号として出力するプリアンプ付シリコンフォトダイオードを検出素子とする光検出器と、試料と光検出器との間に設けられ、該試料から発せられる光をチョッピングして該光を交流化する光チョッパ装置と、上記光検出器の検出信号を増幅する増幅手段と、上記光チョッパ装置のチョッピング周波数に同期した位相信号を発信する位相検出器と、該位相検出器からの位相信号と上記増幅手段によって増幅された検出信号とを同期させて整流し、その同期・整流した信号を直流化する同期整流回路と、該同期整流回路から出力された直流化された信号をデジタル値に変換するアナログ−デジタル変換回路とを有していることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の微弱発光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−162592(P2009−162592A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341460(P2007−341460)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(392001955)株式会社日本アプライドテクノロジ (4)
【Fターム(参考)】