説明

微生物を用いた油脂含有廃水の処理方法および装置

【課題】
グリストラップ又は汚水分解処理槽において微生物の流出を少なくし、かつ微生物の増殖を促進し、さらに微生物による油脂分解を効率よく行うための方法及び装置を提供する。
【解決手段】 グリストラップ又は汚水分解処理槽と、油分分解微生物を担持した多孔質材料からなる担体を収容した分解槽と、該分解槽に通気を行う通気手段とを備えた汚水処理装置において、前記グリストラップ又は汚水分解処理槽から油分を含むスカムを前記分解槽に導き、分解槽において、スカムを前記担体に接触させて付着させると共に水分を排水し、分解槽に通気を行って好気的環境下で油分分解微生物にスカムに含まれる油分を分解させる汚水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水に含まれる油脂を処理するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の曝気処理等の分解処理において、油分を多く含む汚泥(スカム)は分解が進まず浮上汚泥として分取投棄されている。レストランのキッチン等に配備されているグリストラップにおいても、油分を多く含む汚泥は浮上し蓄積して悪臭を放つので、定期的に分取投棄されている。
【0003】
また、グリストラップにおいて油脂を微生物により分解を促進させることも提案されているが(特許文献1)、グリストラップのような特殊な環境下で微生物を十分に働かせることは困難であり、また、油脂分解性の微生物を投入しても、その大半は次第に汚水と共に流されてしまい効果を持続できないなどの問題があった。
【特許文献1】特開2004−188405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、油分分解微生物の流出を少なくし、かつ油分分解微生物の増殖を促進し、さらに微生物による油脂分解を効率よく行うための方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、グリストラップ又は汚水分解処理槽と、
油分分解微生物を担持した多孔質材料からなる担体を収容した分解槽と、
該分解槽に通気を行う通気手段とを備えた汚水処理装置において、
前記グリストラップ又は汚水分解処理槽から油分を含むスカムを前記分解槽に導き、
分解槽において、スカムを前記担体に接触させて付着させると共に水分を排水し、
分解槽に通気を行って好気的環境下で油分分解微生物にスカムに含まれる油分を分解させる汚水処理方法を提案する。
【0006】
本明細書に於いてグリストラップまたは汚水分解処理槽は、油脂を含む排水中の特に固体または半固体状の油脂がそのまま排水されないよう捕獲するための装置一般をいい、厨房からの汚水処理を目的としたものが代表的であるが、これに限らず、商業施設、工業施設からの廃水処理を目的としたものも指す。
【0007】
油分分解微生物は、油脂を分解する能力を有する微生物を広く指すが、本発明においては特に、酵母、麹菌及び枯草菌を使用できる。麹菌又は酵母を使用すると、悪臭が発生せず好ましい。特に好気的環境下で高い油脂分解能力を有するピチア・ファリノサ、さらに好ましくはNITE P−287で寄託された酵母が好適に用いられる。微生物の担体としては、孔数が多いものが好ましく、例えば、ゼオライト、スポンジ、紙及び綿が挙げられる。このような多孔質担体では孔が油を吸収し、担体に集まった微生物が油を分解する。また、分解槽内の曝気を行う場合には、担体に気体が付着し、好気性微生物の増殖及び活性を向上させるという利点もある。さらに多孔質担体は油脂と親和性を有していることが好ましい。毛細管現象により微生物が吸着され易くなるためである。
【0008】
分解槽に通気を行う通気手段は、ファンなどを有して強制通気を行う手段であっても良いが、微生物の油分分解に必要な通気が確保されれば、自然換気による通気手段、例えば、排気塔とダクトからなる通気手段であっても良い。
【0009】
本発明においてスカムとは、汚水中の油脂を含む固形物、半固形物、粘性の高い流動体の塊り、浮遊物あるいはこれらが混在した状態のものを言う。スカムを分解槽に導く際は、スカム以外の水分等を一緒に分解槽に導いてもよい。その手段は、ポンプ等、動力源を必要とするものであっても良いし、重力を利用してオーバーフロー分のみが分解槽に導かれるような構造であっても良い。また、スカムの分解槽への導入は、連続的に行われても良いし、間欠的であっても良い。さらに、その際、グリストラップまたは汚水分解処理槽内の汚水をすべて分解槽に導いても良いし、汚水のうちのスカムを大量に含む部分、例えば浮遊物のみを導いても良い。
【0010】
油分分解微生物を担持した担体にスカムを接触させるには、分解槽内に多数の担体小片を収容しておき、この上部から担体小片にかかるようにスカムまたはスカムを含む汚水を散布する方法、分解槽内に、分解槽の水平断面形状とほぼ等しい大きさと形状を有する担体を収容し、当該担体に対してスカムまたはスカムを含む汚水を吐出する方法等がある。水分を排出するには、一般には分解槽の底部から排水を行うのが好ましいが、水平方向に長いチューブ状の分解槽の場合には、一方の側からスカムまたはスカムを含む汚水を導入し、他方の側から排水することもできる。多孔質である担体をフィルタとして利用し、多孔質を通過した水分を排出するようにすれば、スカムのトラップと余剰水分の排出を極めて効率的に行うことができる。
【0011】
分解槽への通気は、排水を行った後に行うこともできるし、例えば分解槽の底部から常時排水を行いながら、分解槽の側部から通気を行ってもよい。通気を行うことによって、担体の内部にはある程度の水分が維持され、同時に担体が完全に水没してしまうことが無く、好気的発酵に好適な環境を創出することができる。
【0012】
本発明はまた、グリストラップ又は汚水分解処理槽と、
油分分解微生物を担持した多孔質材料からなる担体を収容した分解槽と、
該分解槽に通気を行う通気手段と、
前記グリストラップ又は汚水分解処理槽から油分を含むスカムを前記分解槽に導く移送手段と、
分解槽から水分排水する排水手段とを備え、
分解槽において、スカムを前記担体に接触させて付着させると共に水分を排水し、
分解槽に通気を行って好気的環境下で油分分解微生物にスカムに含まれる油分を分解させる汚水処理装置を提案する。
【0013】
前記移送手段は、例えば、前記グリストラップまたは汚水分解処理槽内に、下方から上向きに立設された側壁と、側壁によって囲われた空間内の油分を含むスカムを前記分解槽に導くポンプおよび導管を含むものである。下方から上向きに立設された側壁は、グリストラップまたは汚水分解処理槽の底部から直接立設されたものでも良いし、グリストラップまたは汚水分解処理槽とは別に、独自の底部を有する、いわば上方が開放された箱状のものであっても良い。
【0014】
グリストラップまたは汚水分解処理槽内に汚水が一定量以上たまると、汚水の表面は前記立設された側壁の上端よりも上に位置することになる。この状態でポンプを駆動して、側壁によって囲われた空間内の油分を含むスカムを排出すると、基本的に側壁の上端よりも上に浮いていたスカムを重点的に排出することができる。したがって、側壁の上端は、グリストラップまたは汚水分解処理槽の上端よりも低い位置で、スカムを選別的に排出するために好適な位置であるのが好ましい。
【発明の実施の形態】
【0015】
以下に本発明の好適な実施の形態を説明する。
レストラン等のグリストラップにおいて、通常油分を多量に含む汚泥は比重が水よりも軽く浮き上がる性質を持つので、図1のように排出経路に下部から流れ出るような障壁を入れると、図2に模式的に示すようにスカム(汚泥)が浮揚する。この状態で、スカムまたはスカムを含む汚水をポンプによって分解槽に搬送する。
【0016】
反応槽内には油分分解微生物を担持した多孔質材料からなる担体を予め収容しておき、担体の上方または下方からスカムを供給して、担体の下方(反応層の底部)から水分を排水する。この操作によって、担体には油脂が付着して残留し、油分分解微生物によって分解されることになる。排水された水分はグリストラップ等に戻しても良い。さらに、反応層をカスケード状に多段に設けて、第1の反応層から輩出された水分を第2の反応層に供給してさらに油分の分解を行わせても良い。
【0017】
図6は、本発明に基づく他の実施例において、グリストラップに汚水がたまった状態を示す概念図である。グリストラップ内には、下方から上向きに側壁が立設されており、汚水の水面は側壁の上端よりも上方に位置する。汚水中のスカムは、基本的に比重が1未満なので、汚水の表面近傍に浮遊した状態である。
【0018】
図7は、次に前記側壁で囲まれた空間内に設けたポンプによってスカムを含む汚水を分解槽に移送した状態を示す。この時、まず前記側壁で囲まれた空間内の汚水が吸いだされるが、同空間内の汚水が排出されるに伴って、グリストラップの表面に浮遊するスカムは同空間内に流れ込み、順次分解槽に移送される。つまり、グリストラップの表面近傍に浮遊するスカムを重点的に分解槽に移送することができる。
【0019】
図8は、分解槽でのスカムの分解が終了した後の水分、あるいは分解槽内の担体によってスカムがフィルターされた水分をグリストラップに戻した状態を示す概念図である。ここでは、水分をグリストラップに戻す構成としたが、スカムを含まない水分は、直接下水等に排水することもできる。
【0020】
図9は、実際のグリストラップに対して上記の工程を実施した結果を示す写真である。処理前には汚水の表面にスカムが多量に浮遊しているが、汚水を分解槽に移送すると(引き抜き中)主としてスカムのみを排出することができ、分解処理後の汚水を戻した状態のグリストラップにはスカムは見られない。
【0021】
従来技術においては、排水中の油分を分解するには油分分解性の微生物を排水中に散布し嫌気もしくは好気状態にて液体培養を行い分解放流する方法等が採用されているが、この方法では流水に伴い油分分解性微生物が押し流されるために時間の経過とともに効率が低下する傾向にあった上に、その分解速度が油分の流入量においつかず汚泥が蓄積し、最終的には抜き取り操作をおこなう必要があった。しかし、本技術においてはスカムを効率的に抜き取り、微生物を固定化した油分に対して親和性の高いスポンジもしくは油分吸着繊維に吸着させ、通気を行う事で飛躍的にその分解性を向上させることができた。
【0022】
[確認実験]
本発明の効果を確認するために以下の確認実験を行った。
実験方法
スポンジに排水に擬した培地とオリーブ油を吸着させた後滅菌し、Pichia培養液を接種した。3日間培養後再びオリーブ油を添加し、添加直後とさらに24時間培養した後のノルマルヘキサン抽出物質の量を比較した(以下、「固体発酵」と称す)。別途ガラス瓶に排水に擬した培地とオリーブ油を吸着したスポンジを入れて滅菌し、Pichia培養液を接種した。24時間培養後オリーブ油を添加し、添加直後とさらに24時間培養した後のノルマルヘキサン抽出物質の量を比較した(以下、「液体発酵]と称す)。
【0023】
実験結果
オリーブ油追加直後のノルマルヘキサン抽出物質を100とし、24時間培養後の値を次の表とグラフに示す。

表1 固体発酵と液体発酵におけるノルマルヘキサン抽出物質の消化能の比較

Pichiaの固体発酵における油脂消化能は、液体発酵した場合に比べ、飛躍的に高まることが分かった。これにより、グリーストラップ排水中の油脂およびデンプン質のスポンジを利用した固形発酵処理が可能であることが示唆された。なお液体発酵においては水100mlに対して油脂10gで試験固形発酵においてはスポンジ50gに対して油脂40gで試験を行った。この場合には内部に40mlの水分を保持していた。
【0024】
[実施例]
図4に示すようにグリストラップ内に水中ポンプを設置しグリストラップ内の汚水を吸い上げて油分分解性微生物を固定化したスポンジを充填したタンクへ移動する。
スカムを十分にタンクへ移動したらポンプのスイッチを切る。
するとタンク中の汚水に含まれるSSならびに油分はスポンジに吸着されてタンク内に残る(図5)。この状態で、分解槽の下部から常時通気する。汚水の吸い上げ操作は1日に朝、昼、晩の3回行った。その結果、吸い上げ前の汚水に含まれる油分のノルマルヘキサン値は25000ppmであったが吸い上げ後は20ppmにまで低下した。
【0025】
この操作を30日間継続して行った。この間グリストラップ中の油分が処理タンク内のスポンジに固定化された微生物により分解されるのみならず油分以外の生ゴミ由来の汚泥も分解されていた。1gのスポンジに含まれる油分は15gで常時一定しており安定的に汚水中の油分を分解していることが確認された。さらにこのグリストラップにおいては通常は生ゴミを分別するための網かごが設置されており1日あたり100g程度の残渣が発生していた。しかし本試験中はこの網かごも外して行ったが生ゴミ由来のスカムが発生することもなかった。おそらくこの生ゴミ由来のスカムも固形発酵処理タンクのスポンジに吸着されて発酵分解されたものと推察される。この一ヶ月間の試験期間中グリストラップや固形発酵処理タンクより悪臭やスカムが発生することは全くなかった。
【0026】
この技術においては使用する菌は油分を分解する菌であればその種類を問わなかった。すなわち当社で発見した油分分解性酵母Pichiaでも麹菌でも枯草菌でも程度の差こそあれ液体発酵に比して10倍以上の処理効率を実現した。微生物を固定化する担体としては油に対する親和性を有しかつ多孔質の材質であれば何でも良い。ポリプロピレン製のスポンジや魚槽用の濾過用スポンジ、あるいは油分吸着繊維においても同様の効果をしめした。さらにトウモロコシ由来のコーンコブを使用しても同様の効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】グリストラップの概念図
【図2】グリストラップにおける汚泥(スカム)の浮上を図示した概念図
【図3】固体発酵と液体発酵におけるノルマルヘキサン抽出物質の消化能の比較
【図4】本発明の一つの実施例に基づく汚水処理装置の概念図
【図5】本発明の一つの実施例に基づく汚水処理装置の概念図
【図6】本発明の他の実施例に基づく汚水処理装置の概念図(グリストラップに汚水がたまった状態)
【図7】本発明の他の実施例に基づく汚水処理装置の概念図(グリストラップの汚水を分解槽に移送した状態)
【図8】本発明の他の実施例に基づく汚水処理装置の概念図(分解槽からスカムを含まない水分をグリストラップに戻した状態)
【図9】本発明の実施例に基づく汚水処理装置による汚水処理の様子を示す写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリストラップ又は汚水分解処理槽と、
油分分解微生物を担持した多孔質材料からなる担体を収容した分解槽と、
該分解槽に通気を行う通気手段とを備えた汚水処理装置において、
前記グリストラップ又は汚水分解処理槽から油分を含むスカムを前記分解槽に導き、
分解槽において、スカムを前記担体に接触させて付着させると共に水分を排水し、
分解槽に通気を行って好気的環境下で油分分解微生物にスカムに含まれる油分を分解させる汚水処理方法。
【請求項2】
前記担体は、前記分解槽の内部空間を仕切るように設けられており、該担体によって仕切られた分解槽の一方の内部空間にスカムを導くと共に、他方の内部空間から水分を排出する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記油分分解微生物は、酵母である請求項1または2に記載の汚水処理方法。
【請求項4】
前記油分分解微生物は、ピチア ファリノサ(Pichia farinosa)である請求項3に記載の汚水処理方法。
【請求項5】
前記油分分解微生物は、NITE P−287で寄託された酵母である請求項4に記載の汚水処理方法。
【請求項6】
グリストラップ又は汚水分解処理槽と、
油分分解微生物を担持した多孔質材料からなる担体を収容した分解槽と、
該分解槽に通気を行う通気手段と、
前記グリストラップ又は汚水分解処理槽から油分を含むスカムを前記分解槽に導く移送手段と、
分解槽から水分排水する排水手段とを備え、
分解槽において、スカムを前記担体に接触させて付着させると共に水分を排水し、
分解槽に通気を行って好気的環境下で油分分解微生物にスカムに含まれる油分を分解させる汚水処理装置。
【請求項7】
前記移送手段は、前記グリストラップまたは汚水分解処理槽内に、下方から上向きに立設された側壁と、側壁によって囲われた空間内の油分を含むスカムを前記分解槽に導くポンプおよび導管を含む、請求項6に記載の汚水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−220080(P2009−220080A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70438(P2008−70438)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(505165756)株式会社源麹研究所 (2)
【出願人】(596045926)
【Fターム(参考)】