説明

微生物検出用デバイス及び微生物の検出方法

【課題】 検出すべき微生物を簡便かつ高精度で検出可能な微生物検出用デバイスを提供すること。
【解決手段】 微生物検出用デバイス10は、微生物を培養する固形培地3と、該固形培地3を収容し、上方に開口7を有する容器1と、該容器1の開口7を閉じるシート5と、を備える。固形培地3は天然多糖類を含み、該天然多糖類の濃度が3%以上である。かかる構成を採用することにより、固形培地からの滲出液が減少し、その結果運動性のある微生物の固形培地とシートとの間の移動が抑制されるので、検出すべき微生物数を簡便かつ高精度で検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物検出用デバイス及び微生物の検出方法に関し、より詳細には食品、医薬品あるいはそれらの製造過程において微生物の検査に用いることのできるデバイス及びこれを用いる微生物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物検査においては、食品等をホモジナイズした液体や、その製造過程で表面を拭き取った液を検体とし、寒天等で賦形した固形の平板培地で至適環境下に培養することにより出現するコロニーを肉眼又は顕微鏡下で観察して検査する方法が一般的に利用されている。また、この培地の組成を工夫することにより、大腸菌等の特定菌を検出する培地も開発されている(特許文献1参照)。これらの平板培地は、通常環境中の雑菌汚染から保護できるシャーレ等に包埋されるが、シャーレ内の培地は検体液を接種するための開放面を有している。そして、環境表面の微生物検査では隆起させた寒天培地を被験面に押し付けて直接寒天培地に微生物を捕集し培養するスタンプ法が行われている(特許文献2参照)。また、粘着シートで表在菌を捕集し、該粘着シートを寒天培地に積層して培養する方法も実施されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第2879698号公報
【特許文献2】特開平06−189739号公報
【特許文献3】特開平08−103294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、微生物を捕集した粘着シート等を固形培地に積層して微生物を培養するために固形培地として市販の粉末寒天培地や調製の必要のない生培地を用いると、検出される微生物数が大きく変動するという問題が生ずる。
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は検出すべき微生物を簡便かつ高精度で検出可能な微生物検出用デバイス及びこれを用いる微生物の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、検出される微生物数の変動が固形培地からの滲出液に起因することを見出した。すなわち、固形培地として1.5%程度の濃度の寒天培地が多用されているが、かかる固形培地からの滲出液が固形培地と被覆シートとの間に溜まり、その滲出液中を運動性のある微生物が移動することが要因であることを見出した。そして、かかる知見に基づき更に研究を重ねた結果、固形培地に含有される天然多糖類の濃度を所定値以上に高めることで、硬度の高い培地であるにもかかわらず意外にもコロニーを十分生育でき、しかも固形培地からの滲出液が減少して微生物の移動が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の特徴を有する。
(1)微生物を培養する固形培地と、該固形培地を収容し、上方に開口を有する容器と、該容器の開口を閉じるシートと、を備え、上記固形培地は天然多糖類を含み、該天然多糖類の濃度が2.5%以上である、微生物検出用デバイス。
(2)上記天然多糖類が寒天である、上記(1)記載の微生物検出用デバイス。
(3)上記微生物が大腸菌である、上記(1)又は(2)記載の微生物検出用デバイス。
(4)上記シートが基材と該基材の少なくとも片面に形成された粘着層とを有する粘着シートである、上記(1)〜(3)のいずれか一に記載の微生物検出用デバイス。
(5)滅菌処理されている、上記(1)〜(4)のいずれか一に記載の微生物検出用デバイス。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか一に記載の微生物検出用デバイスに収容されている固形培地に検体を接種して培養し、形成されるコロニーを検出する、微生物の検出方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、固形培地からの滲出液が減少し、その結果運動性のある微生物の固形培地と被覆シートとの間の移動が抑制されるので、検出すべき微生物を簡便かつ高精度で検出することができる。本発明の微生物検出用デバイス及び微生物の検出方法は、特に大腸菌等の運動性のある微生物に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る微生物検出用デバイスの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る微生物検出用デバイスの断面図である。本実施形態に係る微生物検出用デバイス10は、容器1と、固形培地3と、シート5とから構成されている。容器1の上方には開口7が設けられており、その内部には固形培地3が充填されている。開口7はシート5で覆われており、微生物を接種すべき固形培地3の表面はシート5と密着している。
【0010】
容器1としては、市販されているシャーレや、耐水性があり内部の無菌環境を維持できる容器、例えば蓋のできるトレイ等を用いることができる。その材質としては、培養した微生物コロニーを観察するために透明なものが望ましく、具体的にはガラス、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。なお、容器1の平面形状は特に限定されるものではないが、例えば円形、略円形、方形、略方形等が挙げられる。また、その大きさも特に限定されないが、微生物を簡易に検出するためには長径が1〜15cm程度のものが望ましい。
【0011】
シート5としては、折り曲げに対して破壊しない十分な強度と柔軟性とを有するものが好ましい。具体的には、ポリエステル、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリプロピレン等のプラスチックフィルム、ポリエチレン又はポリエチレンテレフタレートとアルミニウム箔とのラミネートフィルム等が挙げられる。また、シート5の厚みは強度及び柔軟性の観点から、好ましくは0.01〜0.3mm、より好ましくは0.02〜0.15mmである。なお、シート5の平面形状は特に限定されるものではないが、容器1と同様の平面形状とすることが望ましい。また、シート5の大きさは、環境中の雑菌汚染から固形培地3を保護するために十分な大きさとすることが望ましい。
【0012】
固形培地3は、ゲル化剤として天然多糖類を含有する。天然多糖類としては、寒天、カラギーナン、アルギル酸、ザンサンガム、ローカストビーンガム等が挙げられ、なかでも寒天が好ましい。天然多糖類の濃度は2.5%以上であるが、好ましくは3%以上である。天然多糖類の濃度が高過ぎると、微生物の増殖が不十分となる場合があるため天然多糖類の濃度を20%以下とすることが望ましい。なお、かかる濃度は、固形培地3を形成すべき組成物の溶液中に占める、天然多糖類のw/v%を意味する。また、固形培地3は、例えば寒天平板の形態で用いられることが多いが、栄養成分である炭素源や窒素源の量にかかわらずゲル化剤である寒天を2.5%以上含有させることにより、固形培地3からの滲出液を減少させて運動性のある微生物が固形培地3とシート5の間を移動することを防止することができる。これにより、検出される微生物数の変動が抑制される。なお、固形培地3にはペプトン、ダイズペプトン等の栄養成分を含有していてもよい。
【0013】
なお、固形培地3の形成方法としては、使用する天然多糖類の種類に応じて、それぞれに公知の方法を用いることができる。例えば、ゲル化剤として寒天を使用する場合には、所定濃度の寒天を含有する溶液を加熱後、放冷することにより固形培地3を得ることができる。また、検出対象である微生物には、細菌や放線菌等の原核生物、酵母等の真核生物が含まれ、例えば大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、レジオネラ菌等の運動性微生物が挙げられる。
【0014】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る微生物検出用デバイスについて説明する。図2は、本実施形態に係る微生物検出用デバイス20の断面図である。第1の実施形態の微生物検出用デバイス10はシート5が単層構造を有するのに対し、本実施形態の微生物検出用デバイス20は2層構造を有する。すなわち、シート5は、基材2と、その片面に粘着層4を有する粘着シートとから構成されている。なお、微生物検出用デバイス20の容器1及び固形培地3の構成は、第1実施形態において説明した通りである。
【0015】
シート5としては、ポリエステル、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリプロピレン等のプラスチックフィルムの片面にアクリル系、ゴム系、シリコーン系等の粘着剤を積層した粘着シートを用いることができる。このように粘着シートを使用することで、検体の表面から微生物を容易に捕集することができ、また容器1の蓋としても機能することができる。なお、基材2の厚みは通常10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。また、粘着層4の厚みは通常5〜100μm、好ましくは10〜60μmである。
【0016】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る微生物検出用デバイスについて説明する。図3は、本実施形態に係る微生物検出用デバイス30の断面図である。微生物検出用デバイス30は、容器1と、固形培地3と、シート5と、蓋9とから構成されている。容器1の上方には、開口7が設けられている。容器1、固形培地3及びシート5の構成は、第1実施形態において説明した通りである。
【0017】
蓋9は、基材11と、粘着層13と、セパレータ15とが順次積層されたものである。基材11としては、ポリエステル、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリプロピレン等のプラスチックフィルムが好適に用いられる。また、粘着層13としては、アクリル系、ゴム系、シリコーン系等の粘着剤から構成されることが好ましい。セパレータ15としては、使用時に粘着層13から容易に剥離されるものであれば特に限定されないが、粘着層13との接触面にシリコーン処理が施された、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム等が挙げられる。セパレータ15の厚みは通常10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。微生物検出用デバイス30は上記構成を採用することで、環境中の雑菌汚染から固形培地3をより確実に保護することができ、また検体輸送時における破損を防止することも可能である。
【0018】
次に、本発明の微生物検出用デバイスの製造方法について説明する。本発明の微生物検出用デバイスは、エチレンオキサイドガス(EOG)、電子線又はγ線のような電磁放射線で予め滅菌した容器1に、オートクレーブで滅菌した固化前の培地を無菌環境で充填し固化させた後、容器1と同様の方法で滅菌したシート5で開口7を密閉することにより作製することができる。なお、粘着シートは、例えば粘着層4を形成するための高分子化合物を含有する溶液を、基材2であるフィルムに直接塗付し乾燥させた後、所定の形状に打抜きくことで製造できる。また、蓋9は、例えば粘着層13を形成するための高分子化合物を含有する溶液をセパレータ15に塗布し乾燥させた後、粘着層13の表面に基材11であるフィルムを貼り合わせ所定の形状に打抜くことで製造することができる。
【0019】
次に、本発明の微生物の検出方法について説明する。本発明の微生物の検出方法は、例えば、本発明の微生物検出用デバイスを用いて以下のようにして行う。すなわち、先ず微生物検出用デバイス10のシート5を開けて検体液を固形培地3に塗抹しシート5を被せて、必要に応じて蓋9を閉めた後、検出すべき微生物の最適な環境下で培養する。また、シート5が粘着シートの場合には、粘着シートで検体表面から微生物を捕集した後に固形培地3に積層し、必要ならば更に容器1に蓋9をして検出すべき微生物の最適な環境下で培養する。培養終了後、又は培養途中に目視又は顕微鏡を用いて微小なコロニーの観察や測定を行う。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0021】
(実施例1)
1)微生物検出用デバイスの作製
SCD寒天培地顆粒(ペプトン15g、ダイズペプトン5g、塩化ナトリウム5g、寒天30g)55gを1Lの蒸留水に溶かしてオートクレーブ滅菌した培地を、予め滅菌処理したポリスチレン製シャーレ(直径90mm)に注ぎ、冷却・固化させて、寒天濃度3%の固形培地を作製した。また、トリアセチルセルロースフィルムの片面にアクリル系粘着剤を積層し、γ線により滅菌を施した粘着シート(総厚0.06mm)を作製した。
【0022】
2)培養及び計測
大腸菌又はブドウ球菌の培養液を無菌の生理食塩水で40,000倍又は10,000倍に希釈した菌液を孔径0.2μmの直孔ろ過膜でろ過し、その表面を被験面とした。上記1)で作製した粘着シートの粘着面を被験面に圧着して剥いで細菌を粘着面に捕集した。さらに、細菌を捕集した面が寒天培地の表面に接するように固形培地に粘着シートを積層し、37℃で5〜6時間培養した。粘着シートを積層した状態のデバイスを光学顕微鏡で観察し、生育してくる細菌の微小なコロニー数(マイクロコロニー数)を測定した。なお、1視野に250個以上のマイクロコロニー数が観察される場合は250個とした。
【0023】
(実施例2)
SCD寒天培地顆粒(ペプトン15g、ダイズペプトン5g、塩化ナトリウム5g、寒天50g)75gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により寒天濃度5%の固形培地を作製した。次いで、実施例1と同様の方法により、細菌を粘着シートの粘着面に捕集し、固形培地に粘着シートを積層して培養した後、粘着シートを積層した状態のデバイスを光学顕微鏡で観察し、細菌のマイクロコロニー数を測定した。
【0024】
(比較例1)
SCD寒天培地顆粒(ペプトン15g、ダイズペプトン5g、塩化ナトリウム5g、寒天15g)40gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により寒天濃度1.5%の固形培地を作製した。次いで、実施例1と同様の方法により、細菌を粘着シートの粘着面に捕集し、固形培地に粘着シートを積層して培養した後、粘着シートを積層した状態のデバイスを光学顕微鏡で観察し、細菌のマイクロコロニー数を測定した。
【0025】
実施例1〜2及び比較例1の測定結果を図4及び図5に示す。運動性のないブドウ球菌のマイクロコロニー数は、1.5%、3%、5%寒天培地でも同様な値を示したが(図5参照)、運動性のある大腸菌では1.5%寒天培地のマイクロコロニー数は3%、5%寒天培地の4倍以上観察された(図4参照)。このことから、寒天濃度を3%以上にすることにより、大腸菌の泳動・分散を抑制できることが確認された。また、1.5%寒天培地では固形培地からの滲出液が培地と粘着シートとの間に溜まり大腸菌が移動して正確に観察することが困難であったが、3%、5%寒天培地では運動性のある大腸菌を正確に観察できた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の微生物検出用デバイスの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の微生物検出用デバイスの他の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の微生物検出用デバイスの他の実施形態を示す断面図である。
【図4】実施例1〜2及び比較例1における大腸菌のマイクロコロニー数の測定結果を示す図である。
【図5】実施例1〜2及び比較例1におけるブドウ球菌のマイクロコロニー数の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1…容器、3…固形培地、5…シート、7…開口、10…微生物検出用デバイス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を培養する固形培地と、
該固形培地を収容し、上方に開口を有する容器と、
該容器の開口を閉じるシートと、
を備え、
前記固形培地は天然多糖類を含み、該天然多糖類の濃度が2.5%以上である、
微生物検出用デバイス。
【請求項2】
前記天然多糖類が寒天である、請求項1記載の微生物検出用デバイス。
【請求項3】
前記微生物が大腸菌である、請求項1又は2記載の微生物検出用デバイス。
【請求項4】
前記シートが基材と該基材の少なくとも片面に形成された粘着層とを有する粘着シートである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物検出用デバイス。
【請求項5】
滅菌処理されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の微生物検出用デバイス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の微生物検出用デバイスに収容されている固形培地に検体を接種して培養し、形成されるコロニーを検出する、微生物の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−230315(P2006−230315A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51458(P2005−51458)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000231648)日本製薬株式会社 (17)
【Fターム(参考)】