説明

微粒子充填メソポーラス体及びその製造方法

【課題】排ガス触媒、光触媒、カーボンナノチューブ合成用触媒などに用いた時に、微粒子が持つ機能を最大限に発揮させることが可能な微粒子充填メソポーラス体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】表面に開口した細孔を有するメソポーラス体と、前記細孔内に担持された金属又は金属酸化物からなる微粒子とを備え、前記細孔の内径は、前記微粒子の直径より大きく、かつ、微粒子の表面を覆う有機物がない微粒子充填メソポーラス体。金属又は金属酸化物からなり、表面が有機物で被覆された微粒子を細孔内に内包するメソポーラス材料からなる有機物被覆微粒子充填メソポーラス体を製造する有機物被覆微粒子充填メソポーラス体製造工程と、前記有機物を除去する有機物除去工程とを備えた微粒子充填メソポーラス体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子充填メソポーラス体及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、排ガス触媒、光触媒、カーボンナノチューブ合成用触媒などに用いることができる微粒子充填メソポーラス体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルオーダーの直径を有する微粒子は、通常のバルク体では考えられない性質を示すことから、様々な応用が期待されている。例えば、高比表面積に起因する高い触媒能は排ガス浄化触媒や有機合成触媒として、強磁性体微粒子における単磁区構造は高密度磁気記録媒体として、量子サイズ効果による発色現象はディスプレイ用蛍光体として、また可視光域に表面プラズモン共鳴吸収を有する微粒子の超格子構造は光デバイスとして、の利用が考えられている。また、最近ではこれらの応用に加えて、極めて優れた物性を有することで様々の分野での利用が期待されているカーボンナノチューブ(CNT)の直径を精密に制御するための成長用触媒としての利用も提案されている。
【0003】
このような微粒子は、単独で使用されることもあるが、通常は、適当な基板に担持された状態で使用される。基板に担持された微粒子の性能を最大限に発揮させるためには、その用途に応じて、微粒子の担持密度、基板表面における微粒子の配列状態、微粒子の表面状態などを最適化する必要がある。そのため、この種の微粒子を担持した基板に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、非特許文献1、2には、
(1) チオールで安定化させたAuナノ結晶(NC)を界面活性剤でカプセル化して、水に可溶なNCミセルを形成し、
(2) NCミセルを溶解させた水溶液にテトラエチルオルトシリケート(TEOS)及び触媒を加え、NCミセルの界面活性剤−水界面においてTEOSの加水分解により生成したケイ酸の一部を重縮合させ、
(3) 酸性条件下で、過剰のシロキサンの縮合、スピンコーティング、又は、キャスティングを行うこと
により得られる規則配列したAuNC/シリカメソ相薄膜が開示されている。
同文献には、AuNC濃度を低下させると、立方晶のAuNC/シリカメソ相が次第に2次元六方晶のシリカ/界面活性剤メソ相に変化する点が記載されている。
【0005】
【非特許文献1】H.Fan et al., Science, 2004, vol.34, 567-571
【非特許文献2】H.Fan et al., Adv.Funct.Mater., 2006, vol16, 891-895
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1、2には、Au粒子をメソポーラスシリカ(MPS)の細孔内に充填したナノコンポジット材料の作製方法とその光学的特性が開示されている。MPSの細孔内に充填する微粒子として、専ら光学的特性を有するものに代えて触媒機能を有するものを用いると、このようなナノコンポジット材料を、排ガス触媒、光触媒、カーボンナノチューブ成長用触媒などに応用することができると考えられる。この材料は、微粒子が細孔内部に充填されているので、微粒同士の凝集が抑制され、高い触媒活性及び安定性を示すと考えられる。
【0007】
このようなナノコンポジット材料において、実際に触媒として機能するのは、表面近傍に存在する微粒子である。そのため、これを触媒として使用する場合には、表面に微粒子をできる限り露出させるのが好ましい。しかしながら、従来の方法により得られる材料は、微粒子の大半がMPSの細孔内にあり、表面に露出している微粒子は少ない。
また、仮に一部の微粒子が表面に存在していたとしても、微粒子の周囲は、界面活性剤層に覆われている。界面活性剤で覆われた微粒子は、ガスと接触する確率が低いので、高い触媒活性を示さない。このような場合において、高い触媒活性を得るためには、界面活性剤層を除去し、さらに除去微粒子の表面露出割合を増大させる必要がある。そのため、特に触媒微粒子が貴金属などの高価な元素で構成されている場合には、可能な限り微粒子表面を周囲に露出させる必要がある。
さらに、このような材料において、細孔壁の厚さが厚くなるほど、耐熱性が高くなる。材料表面において、要求される微粒子密度以上の細孔密度は必要ないため、微粒子密度に応じて細孔密度を制御できることが好ましい。しかしながら、微粒子密度に応じて細孔密度を制御可能な微粒子充填メソポーラス体及びその製造方法が提案された例は従来にはない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、排ガス触媒、光触媒、カーボンナノチューブ合成用触媒などに用いた時に、微粒子が持つ機能を最大限に発揮させることが可能な微粒子充填メソポーラス体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る微粒子充填メソポーラス体は、
表面に開口した細孔を有するメソポーラス体と、
前記細孔内に担持された金属又は金属酸化物からなる微粒子とを備え、
前記細孔の内径は、前記微粒子の直径より大きく、かつ、微粒子の表面を覆う有機物がないことを要旨とする。
本発明に係る微粒子充填メソポーラス体の製造方法は、
金属又は金属酸化物からなり、表面が有機物で被覆された微粒子を細孔内に内包するメソポーラス材料からなる有機物被覆微粒子充填メソポーラス体を製造する有機物被覆微粒子充填メソポーラス体製造工程と、
前記有機物を除去する有機物除去工程と
を備えている。
【発明の効果】
【0010】
一般に、ナノメートルサイズの微粒子をテンプレートに用いてメソポーラス体を作製すると、メソポーラス体の細孔内壁と真の微粒子表面との間には、保護層や界面活性剤などの有機物が充填された状態になっている。このような微粒子をテンプレートに用いてメソポーラス体を作製した後、熱処理、プラズマ処理などを施すと、微粒子表面を覆う有機物を除去することができる。その結果、微粒子の真の表面と細孔内壁との間に隙間が形成され、微粒子の触媒活性を向上させることができる。
さらに、微粒子とメソポーラス体を形成するための原料との比率を最適化すると、微粒子の密度と細孔壁の厚さを制御することができる。そのため、用途に応じて、微粒子充填メソポーラス体の耐熱性を自在に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 微粒子充填メソポーラス体の製造方法]
本発明に係る微粒子充填メソポーラス体の製造方法は、有機物被覆微粒子充填メソポーラス体製造工程と、有機物除去工程とを備えている。
【0012】
[1.1 有機物被覆微粒子充填メソポーラス体製造工程]
有機物被覆微粒子充填メソポーラス体製造工程は、金属又は金属酸化物からなり、表面が有機物で被覆された微粒子を細孔内に内包するメソポーラス材料からなる有機物被覆微粒子充填メソポーラス体を製造する工程である。
【0013】
[1.1.1 微粒子]
微粒子は、金属又は金属酸化物からなる。微粒子の表面は、後述するように、その製造方法に起因する有機物で被覆されている。微粒子の組成は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な組成を選択することができる。
微粒子としては、具体的には、
(1) Au、Ag、CoPt3、Fe、Fe−Co系、Co、Co−Ni系、Ni、Pb1-xMnxSe、PbSe、CdSe、Ru、Pdなどの金属微粒子、
(2) Fe23、Fe34、MFe24(M=Fe、Co、Mn、Mg、Ni、Znなど)、ZnO、BaTiO3、Eu23、Gd23、In23などの金属酸化物微粒子、
などがある。
有機物被覆微粒子充填メソポーラス体は、同一組成を有する微粒子のみを含むものでも良く、あるいは、組成の異なる2種以上の微粒子を含んでいても良い。
これらの中でも、酸化鉄を主成分とする微粒子は、直径を均一にしやすいので、細孔内に充填する微粒子として特に好適である。
【0014】
微粒子の形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。微粒子の形状としては、具体的には、球、多面体、立方体などがある。
有機物被覆微粒子充填メソポーラス体は、ほぼ同一の形状を有する微粒子のみを含むものでも良く、あるいは、形状の異なる2種以上の微粒子を含むものでも良い。微粒子が規則配列した微粒子充填メソポーラス体を得るためには、各微粒子の形状は、ほぼ同一であるのが好ましい。
有機物層を含む微粒子の直径は、メソサイズ(2〜50nm)であれば良い。
【0015】
微粒子が規則配列した有機物被覆微粒子充填メソポーラス体を得るためには、微粒子の粒度分布は狭いほど良い。微粒子の粒度分布の程度は、微粒子の平均直径(Dm)に対する標準偏差(σ)の比の割合(σ×100/Dm(%)。以下、これを「単分散度」という。)で表すことができる。微粒子を規則配列させるためには、微粒子の単分散度は、10%以下が好ましく、さらに好ましくは、5%以下である。
【0016】
[1.1.2 メソポーラス材料]
メソポーラス材料とは、メソサイズの細孔を有する多孔質体をいう。細孔内には、上述した微粒子が内包されている。
細孔は、規則配列していても良く、あるいは、不規則配列していても良い。有機物被覆微粒子充填メソポーラス体は、後述するように微粒子をテンプレートとして作製されるので、直径比、粒子数比及び単分散度を最適化すると、これらの値に応じて、種々のパターンで細孔が配列している有機物被覆微粒子充填メソポーラス体が得られる。
【0017】
メソポーラス材料の組成は、特に限定されるものではなく、種々の材料を用いることができる。メソポーラス材料としては、具体的には、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナなどがある。特に、シリカを主成分とする材料は、安価であり、比較的合成が容易であるので、メソポーラス材料として好適である。
【0018】
[1.1.3 微粒子の製造]
所定の直径及び粒度分布を有する微粒子は、金属源及び他の原料を所定の比率で配合し、所定の条件下で加熱することにより製造することができる。
【0019】
[A. 溶解・混合工程]
まず、金属源と、アルコールと、有機物とを有機溶媒中で溶解・混合する(溶解・混合工程)。
金属源には、微粒子を構成する少なくとも1つの金属元素を含み、有機溶媒に可溶な化合物を用いる。微粒子が2種以上の金属元素を含む場合、金属源には、2種以上の化合物を用いても良い。
金属源としては、具体的には、
(1) 金属元素(M)のイオン又はMOイオンに有機物が配位した有機錯体、
(2) 金属元素の有機酸塩、
(3) 金属元素の無機酸塩、
などがある。
【0020】
有機錯体としては、Fe(III)アセチルアセトナート、Fe(II)アセチルアセトナート、Co(II)アセチルアセトナート、Co(III)アセチルアセトナート、Ni(II)アセチルアセトナート、VOアセチルアセトナート、TiOアセチルアセトナート、Zrトリフルオロアセチルアセトナート、Hfトリフルオロアセチルアセトナート、Tiジイソプロポオキサイドビステトラメチルヘプタンジオネート、Yアセチルアセトナート、Mgヘキサフルオロアセチルアセトナート、Baアセチルアセトナート、Ceアセチルアセトナート、Alアセチルアセトナート、Mnアセチルアセトナート、モリブデニルアセチルアセトナート、Ptアセチルアセトナート、Cuアセチルアセトナートなどがある。
有機酸塩としては、酢酸鉄(II)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、酢酸コバルト(II)、酢酸コバルト(III)、酢酸ニッケル(II)、シュウ酸チタン、酢酸ジルコニウムなどがある。
無機酸塩としては、硫酸チタン、酸化硫酸バナジウム、硫酸バナジウム、硫酸ハフニウムなどがある。
【0021】
アルコールは、金属源を還元し、有機溶媒中において金属イオン又はMOイオンを非イオンの状態にするための還元剤である。還元剤には、1種類のアルコールを用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
還元剤として使用可能なアルコールとしては、具体的には、1,2−ヘキサデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール、1,2−テトラデカンジオールなどがある。
【0022】
「有機物」は、有機酸、有機アミン、及び/又は、チオールからなる。有機物には、1種類の有機酸、有機アミン又はチオールを用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。有機物は、生成した粒子の表面に配位し、保護層となる。
保護層は、主として、微粒子を合成する際に微粒子の凝集を抑制し、粒子径を均一にする作用、及び、後述する分散液中に分散させる際に微粒子の凝集を抑制する作用を有する。このような効果を得るためには、有機物は、相対的に長さ(分子長)の長いものが好ましい。また、保護層は、1種類の有機物からなるものでも良く、あるいは、2種以上の有機物からなるものでも良い。特に、2種以上の有機物を保護層として用いると、微粒子の粒子径が安定化し、均一化するという利点がある。
【0023】
有機酸としては、具体的には、RCOOH、RSOH、RPOHなどの脂肪酸(Rは、アルキル鎖(CH3(CH2)x−)を表す)がある。
有機アミンとしては、具体的には、RNH2、R2NH、R3Nなどの脂肪アミン(Rは、アルキル鎖(CH3(CH2)x−)を表す)などがある。
チオールとしては、具体的には、R−SH(Rは、アルキル鎖(CH3(CH2)x−)を表す)などがある。
合成時に使用する有機酸としては、特に、オレイン酸、カプロン酸、ラウリン酸、酪酸、リノール酸などが好適である。
また、合成時に使用する有機アミンとしては、特に、オレイルアミン、ヘキシルアミン、ラウリルアミンなどが好適である。
微粒子の粒子径を安定化させるためには、有機物には、オレイン酸とオレイルアミンを組み合わせて用いるのが好ましい。また、粒子によっては(金の場合)、チオールが使われる場合もある。
【0024】
有機溶媒は、上述した金属源、アルコール及び有機物を溶解可能なものであればよい。また、溶液は、後述するように所定の温度に加熱されるので、沸点が200℃以上である溶媒を用いるのが好ましい。有機溶媒としては、具体的には、オクチルエーテル、フェニルエーテルなどがある。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
溶液中における金属源の濃度は、作製しようとする微粒子の直径、標準偏差等に応じて最適な濃度を選択する。一般に、希薄溶液を用いると、直径のそろった均一な微粒子が得られる。金属源に加える有機溶媒の量は、金属源の種類にもよるが、通常、金属源1mmolに対して、10〜50mL程度である。
アルコール(還元剤)は、上述したように溶液中に含まれる金属イオン又はMOイオンに電子を与え、非イオンの状態にするためのものである。金属イオン又はMOイオンが還元されると、これらが互いに集まって微粒子を形成する。還元剤の添加量は、金属源及びその他の原料の種類にもよるが、通常、溶液中に含まれる金属イオン又はMOイオンのモル数の1〜20倍程度である。
有機物は、溶液中において金属イオン又はMOイオンと結合すると考えられている。この溶液中にさらに還元剤が加えられると、金属イオン又はMOイオンが還元されて微粒子状に凝集すると同時に、微粒子の周囲が保護層で被覆された状態となる。有機物の添加量は、金属源及びその他の原料の種類にもよるが、通常、溶液中に含まれる金属イオン又はMOイオンのモル数の1〜10倍程度である。
【0026】
[B. 加熱工程]
次に、溶解・混合工程で得られた均一な溶液を、不活性雰囲気下において180℃〜300℃で加熱する(加熱工程)。加熱により溶液中に、保護層で被覆された微粒子が生成する。
溶液の加熱は、溶液中で生成した微粒子の酸化を防ぐために不活性雰囲気下(例えば、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下など)で行う。
加熱温度は、使用する原料の種類や目的とする直径に応じて、最適な温度を選択する。一般に、加熱温度が低すぎると、原料間の反応が不十分となる。原料間の反応を効率よく進行させるためには加熱温度は、180℃以上が好ましい。
一方、加熱温度が高すぎると、微粒子の凝集が進行し、粒子の直径が不均質になる。従って、加熱温度は、300℃以下が好ましい。
【0027】
溶解・混合工程及び加熱工程の条件(例えば、合成温度、試薬混合比、合成時間など)を最適化すると、合成された微粒子の形状、平均直径及び標準偏差を制御することができる。さらに、微粒子の分別沈殿を行うことで、平均直径及び標準偏差の精密制御が可能となる。
【0028】
[1.1.4 有機物被覆微粒子充填メソポーラス体の製造]
[A. 微粒子の親水化]
上述の方法により得られた微粒子表面は、外界に対して疎水性の化学基を向けて有機物で覆われた状態になっている。メソポーラス体を作製する際のテンプレートにこれらの微粒子を用いるには、粒子は親水性でなければならない。そのため、まず微粒子を親水化する。親水化は、微粒子を分散させた溶液に界面活性剤を添加することにより行う。疎水性の微粒子が分散している溶液に界面活性剤を加えると、界面活性剤の疎水基が微粒子表面に吸着し、親水基が外側を向いた水溶性のミセルが得られる。
親水化に用いる界面活性剤は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択する。界面活性剤としては、具体的には、
(1) ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH2)15N(CH3)3Br(C16))、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH2)7N(CH3)3Br(C8))、n−デシルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH2)9N(CH3)3Br(C10))、ラウリルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH2)11N(CH3)3Br(C12))、
(2) 上記の試薬のBrをClに代えたもの、
などがある。
【0029】
[B. 前駆体の吸着]
次に、水溶性ミセルの周囲にメソポーラス材料の前駆体を吸着させる。水溶性ミセルを分散させた水溶液にアルコキシド及び触媒を添加すると、界面活性剤の親水基/水界面において、アルコキシドの加水分解により生じたメソポーラス材料の前駆体が吸着する。吸着した前駆体の一部は、重縮合し、水溶性ミセルの周囲にシェルを形成する。
前駆体には、アルコキシドを用いる。アルコキシドとしては、具体的には、
(1) テトラメチルオルトシリケート(TMOS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、
(2) トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリイソブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、
(3) テトラメトキチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、
(4) テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトライソブトキシジルコニウム、テトラ−sec−ブトキシジルコニウム、
などがある。
また、触媒としては、塩酸、水酸化ナトリウム、アンモニアなどがある。
アルコキシド及び触媒の添加量は、特に限定されるものではなく、アルコキシドの種類に応じて最適なものを選択する。
【0030】
[C. 自己組織化]
上述の処理を施した微粒子(前駆体を吸着させたミセル)を自己組織化させる。自己組織化の方法としては、例えば、微粒子を分散させた分散液を適当な基板表面に塗布し、溶媒をゆっくり揮発させる方法がある。溶媒をゆっくり揮発させると、粒子間の静電反発力により微粒子が自己組織化する。この時、微粒子の平均直径、標準偏差、形状等を最適化すると、微粒子をランダムに配列させたり、あるいは、規則配列させることができる。
溶媒を完全に除去すると、前駆体の重縮合がさらに進行する。その結果、細孔内に有機物で被覆された微粒子を内包したメソポーラス材料からなる有機物被覆微粒子充填メソポーラス体が得られる。
【0031】
微粒子を自己組織化させる場合において、水溶性ミセルに前駆体を添加する際に水溶性ミセル分散液の濃度を変えると、細孔壁の厚さや表面に露出する細孔(すなわち、微粒子)の密度を制御することができる。一般に、微粒子に対して前駆体の量が相対的に多くなるほど、細孔壁を厚くすることができ、また、表面に露出する細孔の密度を小さくすることができる。
さらに、微粒子の配列状態は、微粒子の単分散度、直径比、粒子数比等により制御することができる。また、微粒子の真の表面と細孔内壁の間の距離は、微粒子の周囲を被覆する有機物を、これとは分子長の異なるものに交換(配位子交換)することにより制御することができる。
【0032】
[1.2 有機物除去工程]
有機物除去工程は、微粒子の周囲を被覆する有機物を除去する工程である。
有機物被覆微粒子充填メソポーラス体の細孔内に内包されている微粒子の周囲は、有機酸、有機アミン、チオール等からなる有機物で覆われている。
有機物の除去方法としては、具体的には、
(1) 有機物被覆微粒子充填メソポーラス体を大気中において熱処理する方法、
(2) 有機物被覆微粒子充填メソポーラス体に対して酸素プラズマ処理する方法
などがある。
処理条件は、特に限定されるものではなく、有機物をほぼ完全に除去可能な条件であれば良い。例えば、熱処理により有機物を除去する場合、熱処理温度は、300〜600℃が好ましく、熱処理時間は、30分以上が好ましい。特に、耐熱性が望まれる場合、上記熱処理により副次的にシリカの重縮合がさらに進行するため、より好ましい。
【0033】
[2. 微粒子充填メソポーラス体]
本発明に係る微粒子充填メソポーラス体は、表面に開口した細孔を有するメソポーラス体と、細孔内に担持された微粒子とを備えている。細孔の内径は、微粒子の直径より大きく、かつ、微粒子の表面を覆う有機物がない。
【0034】
[2.1 細孔の内径と微粒子の直径の差]
細孔の内径と微粒子の直径の差は、微粒子合成の際に用いる有機物、及び、微粒子を親水化処理する際の界面活性剤の種類に応じて制御することができる。一般に、有機物及び/又は界面活性剤の分子長が長くなるほど、細孔の内径と微粒子の直径の差を大きくすることができる。
微粒子充填メソポーラス体に含まれる微粒子の機能を効率よく発揮させるためには、細孔の内径は、微粒子の真の直径より1nm以上大きいことが好ましい。
【0035】
[2.2 細孔の露出割合及びメソポーラス体の厚さ]
微粒子充填メソポーラス体を排ガス触媒等に応用する場合、微粒子とガスとの接触面積が大きいほど良い。そのためには、表面に露出している細孔(すなわち、表面に露出している微粒子)の割合は、高いほどよい。
細孔内に内包された微粒子を効率よく活用するためには、微粒子充填メソポーラス体に含まれる細孔の総数の30%以上が表面に露出しているのが好ましい。
表面に露出している細孔の割合を大きくするためには、微粒子の直径に対してメソポーラス体の膜厚を薄くすればよい。細孔の露出割合を大きくするためには、メソポーラス体の厚さは、20nm以下が好ましい。
【0036】
さらに、微粒子充填メソポーラス体を排ガス触媒等に応用する場合、表面に露出している微粒子の数が多くなるほど、高い効率が得られる。一方、高温における耐熱性が重視される場合、細孔壁は厚い方が良い。耐熱性と触媒活性度を考慮し、メソポーラス体の壁の厚さを調整する。
【0037】
[3. 微粒子充填メソポーラス体及びその製造方法の作用]
一般に、ナノメートルサイズの微粒子を合成する際には、合成中又は合成後における微粒子の凝集を防ぐために、オレイン酸やオレイルアミン又はドデカンチオールなどの長鎖のアルキル基を持つ有機物が保護層として用いられる。オレイン酸やオレイルアミンは、微粒子の表面に配位していると考えられているので、微粒子の見かけの半径は、微粒子の真の半径に保護層の厚さを加えたものとなる。
このような微粒子をテンプレートに用いてメソポーラス体を作製すると、メソポーラス体の細孔内壁と微粒子表面との間には、微粒子の保護層として用いられるオレイン酸などの有機物、及び、微粒子を水溶化させるための界面活性剤などの有機物が充填された状態になっている。このような微粒子充填メソポーラス体を排ガス触媒等に用いると、ガスと微粒子とが接触することが困難なため、触媒活性は低い。
【0038】
これに対し、このような微粒子をテンプレートに用いてメソポーラス体を作製した後、熱処理、プラズマ処理などを施すと、微粒子表面を覆う有機物を除去することができる。例えば、適当な基板(例えば、Si基板)上に、親水化した微粒子、並びに、アルコキシド及び触媒を含む分散液をコートし、アルコキシドを完全に重縮合させた後、微粒子の周囲を被覆する有機物を除去すると、図1に示すように、微粒子の真の表面と細孔内壁との間に隙間を有する微粒子分散メソポーラス体が得られる。そのため、これを例えば排ガス触媒等に適用すると、微粒子とガスとの接触面積が大きくなり、微粒子の触媒活性が向上する。また、メソポーラス体の膜厚を制御すると、表面に露出している細孔(すなわち、微粒子)の割合を制御することもできる。
さらに、微粒子とメソポーラス体を形成するための原料との比率を最適化すると、細孔壁の厚さを制御することができる。そのため、用途に応じて、微粒子充填メソポーラス体の耐熱性を自在に調整することができる。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
Feアセチルアセトナート(1mmol)、1,2−ヘキサデカンジオール(7mmol)、オレイン酸(3mmol)、オレイルアミン(3mmol)、オクチルエーテル(20mL)を不活性ガス下で1時間混合後、250℃まで昇温して30分間保持した。反応液を室温に冷却後、エタノールを加え、遠心分離により粒子の洗浄を行った。上澄み液を除去後、沈殿物にクロロホルムを加え、微粒子の分散液を作製した。
【0040】
微粒子のクロロホルム分散液2mL、純水2mL、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドCH3(CH2)15N(CH3)3Br(C16)(臭化セチルトリメチルアンモニウム)0.05gを混合し、エマルジョン化した後、クロロホルムを優先的に蒸発させた。クロロホルムを十分蒸発させ、数時間放置して沈殿を生じさせ、茶透明な上澄み液を回収し、微粒子分散水溶液を得た。微粒子分散水溶液の吸光係数を測定した結果、波長680nmにおいて、1.17であった。
【0041】
微粒子分散水溶液152μLを採取し、1848μLの純水で希釈後、塩酸4μL及びテトラメトキシシラン(TMOS)14.6μLを添加・混合した。混合液を1cm角のSi基板上にスピンコートにより塗布・乾燥後、400℃において4時間、大気中で熱処理し、有機物の除去処理を行った。
【0042】
[2. 試料の評価]
図2に、酸化鉄微粒子充填MPS(メソポーラスシリカ)の表面観察像(SEM写真)を示す。また、図3に、酸化鉄微粒子充填MPS(メソポーラスシリカ)の断面観察像(SEM写真)を示す。酸化鉄微粒子がメソポーラスシリカの表面細孔内に高密度(〜4×1015個/m2)に充填され、微粒子の酸化鉄の核が周囲の雰囲気に露出していることを確認した。
【0043】
(実施例2)
[1. 試料の作製]
実施例1で得られた微粒子分散液を76μL採取し、1924μLの純水で希釈後、塩酸4μL及びTMOS14.6μLを添加・混合した。混合液を同様に1cm角のSi基板上にスピンコートにより塗布後、熱処理により有機物の除去を行った。
【0044】
[2. 試料の評価]
図4に、酸化鉄微粒子充填MPS(メソポーラスシリカ)の表面観察像(SEM写真)を示す。酸化鉄微粒子がメソポーラスシリカの表面細孔内に充填され、微粒子の酸化鉄の核が周囲の雰囲気に露出していることを確認した。得られた微粒子充填メソポーラス体の細孔数・微粒子数は、実施例1に比べて少なくなり、酸化鉄微粒子の密度は、〜3×1015個/m2であった。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る微粒子充填メソポーラス体及びその製造方法は、排ガス触媒、光触媒、カーボンナノチューブ合成用触媒などに用いることができる微粒子充填メソポーラス体及びその製造方法として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る微粒子充填メソポーラス体の概略構成図である。
【図2】実施例1で得られた酸化鉄微粒子充填MPS(メソポーラスシリカ)の表面観察像(SEM写真)である。
【図3】実施例1で得られた酸化鉄微粒子充填MPS(メソポーラスシリカ)の断面観察像(SEM写真)である。
【図4】実施例2で得られた酸化鉄微粒子充填MPS(メソポーラスシリカ)の表面観察像(SEM写真)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に開口した細孔を有するメソポーラス体と、
前記細孔内に担持された金属又は金属酸化物からなる微粒子とを備え、
前記細孔の内径は、前記微粒子の直径より大きく、かつ、微粒子の表面を覆う有機物がない
微粒子充填メソポーラス体。
【請求項2】
前記細孔の内径は、前記微粒子の直径より1nm以上大きい請求項1に記載の微粒子充填メソポーラス体。
【請求項3】
前記細孔の総数の30%以上が表面に露出している請求項1又は2に記載の微粒子充填メソポーラス体。
【請求項4】
前記メソポーラス体の厚さは、20nm以下である請求項1から3までのいずれかに記載の微粒子充填メソポーラス体。
【請求項5】
前記メソポーラス体は、主成分がシリカである請求項1から4までのいずれかに記載の微粒子充填メソポーラス体。
【請求項6】
前記微粒子は、主成分が酸化鉄である請求項1から5までのいずれかに記載の微粒子充填メソポーラス体。
【請求項7】
金属又は金属酸化物からなり、表面が有機物で被覆された微粒子を細孔内に内包するメソポーラス材料からなる有機物被覆微粒子充填メソポーラス体を製造する有機物被覆微粒子充填メソポーラス体製造工程と、
前記有機物を除去する有機物除去工程と
を備えた微粒子充填メソポーラス体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−173478(P2009−173478A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12074(P2008−12074)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】