説明

微粒子分析方法およびその装置

【課題】微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子を分析すること。
【解決手段】分析対象の微粒子100を含む流体と微粒子100とは異なる物質で構成された媒体ガスが存在するガス領域74内に励起レーザ光を照射して、ガス領域74内に存在する流体と媒体ガスをプラズマ化するパルスレーザ器と、ガス領域74内でプラズマ化された流体と媒体ガスが励起レーザプラズマ状態から元のエネルギー状態に戻るときに発生する光を検出して分光する分光器66と、分光器66で分光された光を撮像して画像信号を生成するCCDカメラ68と、CCDカメラ68からの画像信号を画像処理して微粒子100の成分を分析するコンピュータ70を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ガスに含まれる微粒子を分析する微粒子分析方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、測定対象物の組成成分を分析するに際して、レーザ誘起ブレークダウン分光法(Laser Induced Breakdown Spectroscopy:LIBS法)を採用した成分分光方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この成分分光方法は、レーザ光による成分分光方法であって、被測定物にレーザ光を照射して、その組成成分をプラズマ化し、このプラズマから発生するプラズマ光を分光器に入射し、この分光器にて分光したスペクトル光から成分を分析するに際して、組成成分から特定の一の基準元素を選定し、選定された基準元素と各成分との相対比を計測する方法である。
【0004】
この成分分光方法によれば、例えば、灰中の未燃分を計測する場合、灰中の主な組成であるSi、Al、Ca、Feと未燃分であるC(カーボン)との比率を求め、未燃分値を求めることができる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−132919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、LIBS法を用いて、ナノスケールのエアロゾル粒子である微粒子の成分を分析する場合、微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短いと、微粒子に励起レーザ光を照射しても、微粒子が十分にプラズマ化されず、励起効率の低下に伴って感度が低下することがある。
【0007】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子を分析することができる微粒子分析方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に係る微粒子分析方法においては、分析対象の微粒子を含む流体と前記微粒子とは異なる物質で構成された媒体ガスが存在するガス流路内に励起レーザ光を照射して、前記ガス流路内に存在する前記流体と前記媒体ガスをプラズマ化し、プラズマ化された前記流体と前記媒体ガスが励起レーザプラズマ状態から元のエネルギー状態に戻るときに発生する光を検出して分光し、分光された光から前記微粒子の成分を分析する構成とした。
【0009】
(作用)分析対象の微粒子を含む流体と微粒子とは異なる物質で構成された媒体ガスが存在するガス流路内に励起レーザ光を照射すると、ガス流路内に存在する流体と媒体ガスが高温、高密度となってプラズマ化され、いわゆるブレークダウン現象が生じる。このとき、ガス流路内には、励起レーザ光を吸収する媒体ガス(媒体気体)として、分析対象の微粒子とは異なる媒体ガス、例えば、分析対象の微粒子を鉄(Fe)としたとき、二酸化炭素または六フッ化硫黄(SF6)などの媒体ガスが存在しているので、ガス流路内に励起レーザ光の波長の1/2以下の微粒子が存在していても、この微粒子は、励起レーザ光を吸収する媒体ガスとともに、プラズマ化される。
【0010】
すなわち、ガス流路内に励起レーザ光の波長の1/2以下の微粒子が存在していても、この微粒子は、媒体ガスが励起レーザ光によって高温、高密度になるときに、媒体ガスに巻き込まれた状態でプラズマ化される。このため、微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、ガス流路内の微粒子を効率良く励起させてプラズマ化することができる。
【0011】
ガス流路内に存在する、微粒子を含む流体や媒体ガスがプラズマ化されると、これらの物質は、原子状態やイオン状態となってエネルギーの高い状態(エネルギー準位の高い状態)に励起され、その後、元のエネルギー状態(励起レーザ光が照射される前の、エネルギー準位の低い状態)に戻るときに、各物質(元素)固有の波長の光を放射する。ガス流路内から各物質(元素)固有の波長の光が放射されると、この光は、分光器で分光された後、分析器でその成分が分析される。
【0012】
この際、微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子の成分を分析することができる。
【0013】
請求項2に係る微粒子分析方法においては、分析対象とは異なる物質で構成された媒体ガスの流路となる媒体ガス流路中に、その上流側から下流側に向けて媒体ガスを流し、前記媒体ガス流路に隣接して配置された流体流路中に、その上流側から下流側に向けて流体を流すとともに、前記分析対象として帯電された微粒子を含む試料ガスを前記流体流路途中の上流側に導入し、前記流体流路中を移動する微粒子に前記流体流路と交差する方向の静電気力を付与し、前記流体流路の下流側に形成されて前記流体流路と前記媒体ガス流路とを結ぶ微粒子導入口に、前記流体流路中を移動する微粒子のうち前記静電気力の大きさに応じて分級された微粒子を導入し、前記分級された微粒子を含む流体と前記媒体ガスとの界面を含むガス領域内に励起レーザ光を照射して、前記微粒子を含む流体と前記媒体ガスをプラズマ化し、前記プラズマ化された、前記微粒子を含む流体と前記媒体ガスが励起レーザプラズマ状態から元のエネルギー状態に戻るときに発生する光を検出して分光し、前記分光された光から前記微粒子の成分を分析する構成とした。
【0014】
(作用) 媒体ガス流路中に、分析系で用いる媒体ガスを流し、媒体ガス流路に隣接して配置された流体流路中に、流体を流すとともに、帯電された微粒子を含む試料ガスを流体流路途中の上流側に導入し、流体流路中を移動する微粒子に流体流路と交差する方向の静電気力を付与すると、流体流路の下流側に形成された微粒子導入口には、流体流路中を移動する微粒子のうち静電気力の大きさに応じて分級された微粒子が導入される。
【0015】
微粒子が流体とともに、微粒子導入口から媒体ガス流路内に導入されたときに、媒体ガス流路のうち微粒子を含む流体と媒体ガスが存在するガス領域内に、励起レーザ光を照射すると、このガス領域内に存在する流体と媒体ガスが高温、高密度となってプラズマ化され、いわゆるブレークダウン現象が生じる。このとき、ガス領域内には、励起レーザ光を吸収する媒体ガス(媒体気体)として、分析対象の微粒子とは異なる媒体ガス、例えば、二酸化炭素または六フッ化硫黄が存在しているので、ガス領域内に励起レーザ光の波長の1/2以下の微粒子が存在していても、この微粒子は、励起レーザ光を吸収する媒体ガスとともに、プラズマ化される。
【0016】
すなわち、ガス領域内に励起レーザ光の波長の1/2以下の微粒子が存在していても、この微粒子は、媒体ガスが励起レーザ光によって高温、高密度になるときに、媒体ガスに巻き込まれた状態でプラズマ化される。このため、微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、ガス領域内の微粒子を効率良く励起させてプラズマ化することができる。
【0017】
ガス領域内に存在する、微粒子を含む流体や媒体ガスがプラズマ化されると、これらの物質は、原子状態やイオン状態となってエネルギーの高い状態(エネルギー準位の高い状態)に励起され、その後、元のエネルギー状態(励起レーザ光が照射される前の、エネルギー準位の低い状態)に戻るときに、各物質(元素)固有の波長の光を放射する。ガス領域内から各物質(元素)固有の波長の光が放射されると、この光は、分光器で分光された後、分析器でその成分が分析される。
【0018】
この際、流体として、高耐圧のものを用いることで、微粒子に付与する静電気力(電圧)を高くすることができ、分級すべき微粒子の粒子径が静電気力(電圧)によって制限されるのを抑制することができ、結果として、広範囲の微粒子を微粒子毎に分級することができるとともに、分級された微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子の成分を分析することができる。
【0019】
請求項3に係る微粒子分析方法においては、請求項2に記載の微粒子分析方法において、前記流体流路中には、前記流体として、シースエアを導入する構成とした。
【0020】
(作用)流体流路中に、流体として、シースエアを導入して流すことで、流体流路中に、アルゴン(Ar)ガスやヘリウム(He)ガスを流すときよりも、微粒子に付与する静電気力(電圧)を高くすることができる。
【0021】
請求項4に係る微粒子分析装置においては、分析対象の微粒子を含む流体と前記微粒子とは異なる物質で構成された媒体ガスが存在するガス流路内に励起レーザ光を照射して、前記ガス流路内に存在する前記流体と前記媒体ガスをプラズマ化するレーザ光照射器と、前記ガス流路内でプラズマ化された前記流体と前記媒体ガスが励起レーザプラズマ状態から元のエネルギー状態に戻るときに発生する光を検出して分光する分光器と、前記分光器で分光された光から前記微粒子の成分を分析する分析器を備えてなる構成とした。
【0022】
(作用)分析対象の微粒子を含む流体と微粒子とは異なる物質で構成された媒体ガスが存在するガス流路内に励起レーザ光を照射すると、ガス流路内に存在する流体と媒体ガスが高温、高密度となってプラズマ化され、いわゆるブレークダウン現象が生じる。このとき、ガス流路内には、励起レーザ光を吸収する媒体ガス(媒体気体)として、分析対象の微粒子とは異なる媒体ガス、例えば、分析対象の微粒子を鉄(Fe)としたとき、二酸化炭素または六フッ化硫黄(SF6)などの媒体ガスが存在しているので、ガス流路内に励起レーザ光の波長の1/2以下の微粒子が存在していても、この微粒子は、励起レーザ光を吸収する媒体ガスとともに、プラズマ化される。
【0023】
すなわち、ガス流路内に励起レーザ光の波長の1/2以下の微粒子が存在していても、この微粒子は、媒体ガスが励起レーザ光によって高温、高密度になるときに、媒体ガスに巻き込まれた状態でプラズマ化される。このため、微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、ガス流路内の微粒子を効率良く励起させてプラズマ化することができる。
【0024】
ガス流路内に存在する、微粒子を含む流体や媒体ガスがプラズマ化されると、これらの物質は、原子状態やイオン状態となってエネルギーの高い状態(エネルギー準位の高い状態)に励起され、その後、元のエネルギー状態(励起レーザ光が照射される前の、エネルギー準位の低い状態)に戻るときに、各物質(元素)固有の波長の光を放射する。ガス流路内から各物質(元素)固有の波長の光が放射されると、この光は、分光器で分光された後、分析器でその成分が分析される。
【0025】
この際、微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子の成分を分析することができる。
【0026】
請求項5に係る微粒子分析装置においては、分析対象とは異なる物質で構成された媒体ガスの流路となる媒体ガス流路を形成する第1の電極と、前記第1の電極に隣接して配置されて、流体の流体流路を形成する第2の電極と、前記分析対象として帯電された微粒子を含む試料ガスを前記流体流路途中の上流側に導入する試料ガス導入路と、前記第1の電極と前記第2の電極間に電圧を印加して、前記流体流路中を移動する微粒子に前記流体流路と交差する方向の静電気力を付与する電源と、前記流体流路の下流側に形成されて前記流体流路と前記媒体ガス流路とを結ぶ微粒子導入口と、前記媒体ガス流路のうち前記微粒子導入口から導入された流体と前記媒体ガスとの界面を含むガス領域内に励起レーザ光を照射して、前記ガス領域内の前記流体と前記媒体ガスをプラズマ化するレーザ光照射器と、前記ガス領域内でプラズマ化された前記流体と前記媒体ガスが励起レーザプラズマ状態から元のエネルギー状態に戻るときに発生する光を検出して分光する分光器と、前記分光器で分光された光から前記微粒子の成分を分析する分析器を備え、前記微粒子導入口には、前記流体流路を移動する微粒子のうち前記両電極間に印加された電圧に応じて分級された微粒子が導入されてなる構成とした。
【0027】
(作用)媒体ガス流路中に、分析系で用いる媒体ガスを流し、媒体ガス流路に隣接して配置された流体流路中に、流体を流すとともに、帯電された微粒子を含む試料ガスを流体流路途中の上流側に導入し、流体流路中を移動する微粒子に流体流路と交差する方向の静電気力を付与すると、流体流路の下流側に形成された微粒子導入口には、流体流路中を移動する微粒子のうち静電気力の大きさに応じて分級された微粒子が導入される。
【0028】
微粒子が流体とともに、微粒子導入口から媒体ガス流路内に導入されたときに、媒体ガス流路のうち微粒子を含む流体と媒体ガスが存在するガス領域内に、励起レーザ光を照射すると、このガス領域内に存在する流体と媒体ガスが高温、高密度となってプラズマ化され、いわゆるブレークダウン現象が生じる。このとき、ガス領域内には、励起レーザ光を吸収する媒体ガス(媒体気体)として、分析対象の微粒子とは異なる媒体ガス、例えば、二酸化炭素または六フッ化硫黄が存在しているので、ガス領域内に励起レーザ光の波長の1/2以下の微粒子が存在していても、この微粒子は、励起レーザ光を吸収する媒体ガスとともに、プラズマ化される。
【0029】
すなわち、ガス領域内に励起レーザ光の波長の1/2以下の微粒子が存在していても、この微粒子は、媒体ガスが励起レーザ光によって高温、高密度になるときに、媒体ガスに巻き込まれた状態でプラズマ化される。このため、微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、ガス領域内の微粒子を効率良く励起させてプラズマ化することができる。
【0030】
ガス領域内に存在する、微粒子を含む流体や媒体ガスがプラズマ化されると、これらの物質は、原子状態やイオン状態となってエネルギーの高い状態(エネルギー準位の高い状態)に励起され、その後、元のエネルギー状態(励起レーザ光が照射される前の、エネルギー準位の低い状態)に戻るときに、各物質(元素)固有の波長の光を放射する。ガス領域内から各物質(元素)固有の波長の光が放射されると、この光は、分光器で分光された後、分析器でその成分が分析される。
【0031】
この際、流体として、高耐圧のものを用いることで、微粒子に付与する静電気力(電圧)を高くすることができ、分級すべき微粒子の粒子径が静電気力(電圧)によって制限されるのを抑制することができ、結果として、広範囲の微粒子を微粒子毎に分級することができるとともに、分級された微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子の成分を分析することができる。
【0032】
請求項6に係る微粒子分析装置においては、前記流体流路中には、前記流体として、シースエアが導入されてなる構成とした。
【0033】
(作用) 流体流路中に、流体として、シースエアを導入して流すことで、流体流路中に、アルゴン(Ar)ガスやヘリウム(He)ガスを流すときよりも、微粒子に付与する静電気力(電圧)を高くすることができる。
【0034】
請求項7に係る微粒子分析装置においては、請求項5または6に記載の微粒子分析装置において、前記第1の電極は筒体で構成されて鉛直方向に沿って配置され、前記第2の電極は、前記第1の電極を囲む筒体で構成されてなる構成とした。
【0035】
(作用)第1の電極を筒体で構成し、第2の電極を第1の電極を囲む筒体で構成することで、各筒体の径方向の長さを短くすることができ、装置の小型化を図ることができる。また、第1の電極に形成された微粒子導入口の周囲に、第2の電極による、環状の流体流路が形成されるので、多量の微粒子を微粒子導入口に導入して分級することができる。
【発明の効果】
【0036】
以上の説明から明らかなように、請求項1によれば、微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子の成分を分析することができる。
【0037】
請求項2によれば、広範囲の微粒子を微粒子毎に分級することができるとともに、分級された微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子の成分を分析することができる。
【0038】
請求項3によれば、微粒子に付与する静電気力(電圧)を高くすることができる。
【0039】
請求項4によれば、微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子の成分を分析することができる。
【0040】
請求項5によれば、広範囲の微粒子を微粒子毎に分級することができるとともに、分級された微粒子の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子の成分を分析することができる。
【0041】
請求項6によれば、微粒子に付与する静電気力(電圧)を高くすることができる。
【0042】
請求項7によれば、装置の小型化を図ることができるとともに、多量の微粒子を微粒子導入口に導入して分級することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施例を示す微粒子分析装置の要部断面図、図2は、微粒子分析装置を含むシステムのブロック図である。
【0044】
図1および図2において、微粒子分析装置10は、例えば、微分移動度型粒子分級器(DMA:Differential Mobility Analyzer)12と、レーザ誘起ブレークダウン分光器(LIBS)14が一体化されて構成されている。
【0045】
微分移動度型粒子分級器12は、第1の電極16と、第2の電極18と、第1の電極16と第2の電極18間に電圧を印加する直流電源20を備えて構成されている。
【0046】
第1の電極16は、金属製の筒体で形成されて鉛直方向に沿って配置されている。第1の電極16の内側には、媒体ガス、例えば、二酸化炭素、六フッ化硫黄(高耐圧気体)等の流路となる媒体ガス流路22が形成されている。媒体ガス流路22の上部側(上流側)には、媒体ガス導入口24が形成され、下部側(下流側)には媒体ガス排出口26が形成されている。媒体ガス導入口24と媒体ガス排出口26とを結ぶ媒体ガス流路22の下流側には、第2の電極18を臨む、環状の微粒子導入口28が形成されている。
【0047】
媒体ガス導入口24には、媒体ガス供給装置30から媒体ガス(媒体気体)、例えば、二酸化炭素あるいは六フッ化硫黄(高耐圧気体)が導入される。媒体ガス導入口24から導入された媒体ガスは、媒体ガス流路22に沿って下部側(下流側)に流れ、媒体ガス排出口26から排出された後、分析器32に送給される。
【0048】
ここで、媒体ガスとしては、測定対象物質がカーボンナノチューブ、フラーレンなどの炭素系材料のときには、SF(六フッ化硫黄)、SF+Heを用いることができる。SFは、レーザ光の吸収効率を上げることができ、Heは、プラズマの電子温度を上げることができる。
【0049】
測定対象物質が金属酸化物のときには、媒体ガスとしては、SF、CO、SF+He、CO+Heを用いることができる。この場合、COは、レーザ光の吸収効率を上げることができる。また、測定対象物質が硫黄ミストその他硫黄化合物のときには、媒体ガスとしては、COを用いることができる。
【0050】
第2の電極18は、第1の電極16の周囲を囲む、金属製の筒体で形成されて鉛直方向に沿って配置されている。第2の電極(筒体)18の内側には、媒体ガスとは異なるガスを含む流体の流路となる環状の流体流路34が形成されている。流体流路34の上部側(上流側)には、シースエア導入口36が形成され、下部側(下流側)にはシースエア排出口38が形成されている。シースエア導入口36とシースエア排出口38とを結ぶ流体流路34の流路途中の上流側には、環状の試料ガス導入口40が形成され、流体流路34の流路途中の下流側には、流体流路34と媒体ガス流路22とを結ぶ微粒子導入口28が形成されている。試料ガス導入口40は、環状の試料ガス導入路42に接続されている。
【0051】
シースエア導入口36には、シースエア供給装置44からシースエア(清浄空気)が導入される。シースエア導入口36から導入されたシースエアは、シースエア中の不純物を除去するフィルタ46を通過した後、流体流路34に沿って下部側(下流側)に一定の速度で流れ、シースエア排出口38から排出され、その後、シースエア供給装置44に回収される。
【0052】
試料ガス導入路42は、帯電装置48に接続され、帯電装置48は、サンプリング装置50に接続されている。サンプリング装置50は、例えば、大気等の雰囲気中を浮遊する粉塵やミスト等の微粒子(Fe、C)をサンプリングし、サンプリングした微粒子を帯電装置48に供給する。帯電装置48は、サンプリング装置50から供給された微粒子を、例えば、放射線源または、コロナ放電などにより帯電し、帯電された微粒子100を含む試料ガス(サンプルエアロゾル)を試料ガス導入路42に供給する。
【0053】
試料ガス導入路42に供給された試料ガスは、試料ガス導入口40から流体流路34上流側に導入され、シースエアとともに、流体流路34に沿って下流側に向かって流れる。
【0054】
この際、第1の電極16と第2の電極18間には、直流電源20によって直流電圧が印加され、流体流路34中の微粒子100には、微粒子100に対して、流体流路34と交差する方向(直交する方向)の静電気力Fを付与するための電界が印加される。すなわち、帯電された微粒子100は、シースエアが一定の速度で移動しているのに対して、第1の電極16の外周面と第2の電極18の内周面との間に形成される電界(静電場)の影響を受けながら、流体流路34に沿って移動する。
【0055】
このとき、個々の微粒子100は、各微粒子100の電気移動度に応じた速度で第1の電極16方向に引き寄せられ、微粒子導入口28に到達した微粒子100のみが媒体ガス流路22内に取り込まれる。すなわち、帯電された微粒子100は、その電気移動度に応じた粒子径毎に分級される。
【0056】
具体的には、帯電された微粒子100の多くは、静電気を帯びており、電荷はプラス同士、マイナス同士は反発しあう。このため、粒子の小さくなった微粒子100は電子1個分(電気素量)の静電気しか持つことができなくなる。その結果、数100nm以下の微粒子100では、微粒子1個が持つ静電気量は、正負の違いがあっても一定になる。
【0057】
一方、1個の微粒子100が持つ静電気量が一定の状態にある条件下で、第1の電極16の外周面と第2の電極18の内周面との間に形成される電界(静電場)の影響を受ける微粒子100の静電気力Fは、微粒子100の大きさにかかわらず一定になる。
【0058】
一定の静電気力Fが作用する微粒子100がその力に従って第1の電極16側に引き寄せられる過程では、各微粒子100に作用する静電気力Fは一定であるが、各微粒子100に作用する空気抵抗は微粒子100の大きさによって異なるため、小さい径の微粒子100は速く、大きい径の微粒子100はゆっくりと引き寄せられる。
【0059】
すなわち、シースエアが一定の速度で移動しているときに、第1の電極16と第2の電極18間の電圧が一定の条件下では、シースエア中に導入された微粒子100のうち、第1の電極16と第2の電極18間に印加された電圧(電界)の大きさで決まる、特定の大きさの微粒子100のみが微粒子導入口28に到達する。
【0060】
一方、第1の電極16と第2の電極18間に印加される電圧(電界)を変化させることにより、第1の電極16と第2の電極18間に印加される電圧(電界)の大きさに応じて、任意の大きさの微粒子100を取り出すことができる。例えば、第1の電極16と第2の電極18間に印加される電圧の大きさを広範囲に変化させることで、おおむね1nm〜1000nmの範囲の微粒子100を粒子径毎に分級(分離)することができる。
【0061】
微粒子導入口28から媒体ガス流路22に導入された微粒子100は、分級された微粒子100として、媒体ガスとともに、媒体ガス流路22の媒体ガス排出口26から分析器32に導入される。分析器32に導入された微粒子100は、分析器32により、その粒度分布が測定される。
【0062】
この際、媒体ガス流路22に導入される媒体ガスとして、分析対象となる微粒子100とは異なるガスであって、分析器32で微粒子100の分析に必要な媒体ガスを用いると、分析器32に新たに媒体ガスを導入することなく、微粒子100の粒度分布を測定することができ、運転コストの低減およびシステム全体の小型化を図ることができる。
【0063】
また、第2の電極18の微粒子導入口28を臨む領域には、貫通孔52、54が微粒子導入口28を間にして相対向して形成されている。貫通孔52は、第2の電極18外周面に固定されたガラス製計測窓56で閉塞され、貫通孔54は、第2の電極18外周面に固定されたガラス製計測窓58で閉塞されている。
【0064】
微粒子導入口28の中心と貫通孔52の中心とを結ぶ直線の延長線上には、計測窓56と相対向して、集光レンズ60とパルスレーザ器62が配置され、微粒子導入口28の中心と貫通孔54の中心とを結ぶ直線の延長線上には、計測窓58と相対向して、集光レンズ64と分光器66が配置されている。
【0065】
分光器66は、CCDカメラ68を介してコンピュータ70に接続されている。CCDカメラ68は、同期信号ライン72を介してパルスレーザ器62に接続されている。
【0066】
パルスレーザ器62は、集光レンズ60とともに、レーザ光照射器を構成し、励起レーザ光、例えば、波長1065nmの赤外線励起レーザ光を微粒子導入口28の中心に向けて一定の間隔を保って順次出射するとともに、励起レーザ光を出射するタイミングに同期させて同期信号を同期信号ライン72を介してCCDカメラ68に出力する。この励起レーザ光は、集光レンズ60で集光された後、計測窓56を透過し、貫通孔52と流体流路34を介して微粒子導入口28内に照射される。
【0067】
この際、集光レンズ60、64の焦点は、微粒子導入口28と媒体ガス流路22を含む領域のうちシースエアと媒体ガスとの界面を含む領域に設定されているので、集光レンズ60、64の焦点を含むガス流路としてのガス領域74に励起レーザ光が照射されると、ガス領域74内の物質が高温、高密度となってプラズマ化され、いわゆるブレークダウン現象が生じる。このとき、ガス領域74内には、励起レーザ光を吸収する媒体ガス(媒体気体)として、分析対象の微粒子100とは異なる媒体ガス、例えば、微粒子100を金属酸化物(鉄:Fe)としたとき、二酸化炭素または六フッ化硫黄(SF6)などの媒体ガスが存在しているので、ガス領域74内に励起レーザ光の波長の1/2以下の微粒子100が存在していても、この微粒子100は、励起レーザ光を吸収する媒体ガスとともに、プラズマ化される。
【0068】
すなわち、ガス領域74内に励起レーザ光の波長の1/2以下の微粒子100が存在していても、この微粒子100は、媒体ガスが励起レーザ光によって高温、高密度になるときに、媒体ガスに巻き込まれた状態でプラズマ化される。このため、微粒子100の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、ガス領域74内の微粒子100を効率良く励起させてプラズマ化することができる。
【0069】
ガス領域74内に存在する物質、例えば、シースエア、微粒子100、媒体ガスがプラズマ化されると、これらの物質は、原子状態やイオン状態となってエネルギーの高い状態(エネルギー準位の高い状態)に励起され、その後、元のエネルギー状態(励起レーザ光が照射される前の、エネルギー準位の低い状態)に戻るときに、各物質(元素)固有の波長の光を放射する。
【0070】
ガス領域74内から各物質(元素)固有の波長の光が放射されると、この光は、集光レンズ64で集光された後、分光器66に入射する。分光器66は、一定のタイミングで発生する光を順次取り込み、分析対象の物質(元素)固有の波長を含む一定波長の光を分光し、分光した光成分を順次CCDカメラ68に入力する。
【0071】
CCDカメラ68は、同期信号ライン72からの同期信号に応答して、パルスレーザ装置62から励起レーザ光が出射されたときから、一定時間経過したタイミング(ガス領域74内から光が放射されるタイミング)で、分光器66からの光(プラズマ光)を順次取り込んで撮像し、撮像した画像信号を順次コンピュータ70に転送する。
【0072】
コンピュータ70は、CCDカメラ68とともに分析器を構成し、CCDカメラ68で撮像された画像信号を順次画像処理し、各画像信号に含まれる発光強度情報から、分析対象である微粒子100の組成成分を算出する。例えば、コンピュータ70は、発光強度情報として、金属酸化物(鉄:Fe)のスペクトルに対応したピーク値が得られたときには、微粒子100の組成成分は、鉄(Fe)であるとする、分析結果を出力する。
【0073】
本実施例によれば、分析対象の微粒子100とは異なる媒体ガスであって、励起レーザ光を吸収する媒体ガス(媒体気体)ともに、微粒子100をプラズマ化するようにしたため、微粒子100の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子100の成分を分析することができる。
【0074】
また、本実施例によれば、試料ガスの流路となる流体流路30に隣接して媒体ガス流路18を形成し、流体流路30中に、シースエアを流し、媒体ガス流路18中には、媒体ガスを流すようようにしたため、流体流路30中に、アルゴン(Ar)ガスやヘリウム(He)ガスを流すものよりも、第1の電極12と第2の電極14間に印加される電圧を高くすることができ、分級すべき微粒子(対象微粒子)100の粒子径が電圧によって制限されるのを抑制することができ、結果として、広範囲(1nm〜1000nm)の微粒子100を微粒子毎に分級(分離)することができるとともに、分級された微粒子100を、励起レーザ光を吸収する媒体ガス(媒体気体)とともにプラズマ化するようにしたため、微粒子100の粒子径が励起レーザ光の波長よりも短くても、励起効率を低下させることなく、微粒子100の成分を分析することができる。
【0075】
また、本実施例によれば、媒体ガス流路22中に、シースエアとは異なる媒体気体であって、分析器32で用いる媒体ガス、例えば、二酸化炭素あるいは六フッ化硫黄(高耐圧気体)を流すようにしたため、分析器32に新たに媒体ガスを導入することなく、分析器32で微粒子100を分析することができ、運転コストの低減およびシステム全体の小型化を図ることができる。
【0076】
また、本実施例によれば、第1の電極12を筒体で構成し、第2の電極14を第1の電極12を囲む筒体で構成したため、各電極12、14の径方向の長さを短くすることができ、装置の小型化を図ることができる。さらに、第1の電極12に形成された微粒子導入口24の周囲に、第2の電極14による、環状の流体流路30が形成されている、多量の微粒子100を微粒子導入口24に導入して分級することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施例を示す微粒子分析装置の要部断面図である。
【図2】微粒子分析装置を含むシステムのブロック図である。
【符号の説明】
【0078】
10 微粒子分析装置
12 微粒子分級器
14 微粒子分析器
16 第1の電極
18 第2の電極
20 直流電源
22 媒体ガス流路
24 媒体ガス導入口
26 媒体ガス排出口
28 微粒子導入口
30 媒体ガス供給装置
32 分析器
34 流体流路
36 シースエア導入口
38 シースエア排出口
40 試料ガス導入口
42 試料ガス導入路
62 パルスレーザ器
66 分光器
68 CCDカメラ
70 コンピュータ
74 ガス領域(ガス流路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象の微粒子を含む流体と前記微粒子とは異なる物質で構成された媒体ガスが存在するガス領域内に励起レーザ光を照射して、前記ガス領域内に存在する前記流体と前記媒体ガスをプラズマ化し、プラズマ化された前記流体と前記媒体ガスが励起レーザプラズマ状態から元のエネルギー状態に戻るときに発生する光を検出して分光し、分光された光から前記微粒子の成分を分析する微粒子分析方法。
【請求項2】
分析対象とは異なる物質で構成された媒体ガスの流路となる媒体ガス流路中に、その上流側から下流側に向けて媒体ガスを流し、前記媒体ガス流路に隣接して配置された流体流路中に、その上流側から下流側に向けて流体を流すとともに、前記分析対象として帯電された微粒子を含む試料ガスを前記流体流路途中の上流側に導入し、前記流体流路中を移動する微粒子に前記流体流路と交差する方向の静電気力を付与し、前記流体流路の下流側に形成されて前記流体流路と前記媒体ガス流路とを結ぶ微粒子導入口に、前記流体流路中を移動する微粒子のうち前記静電気力の大きさに応じて分級された微粒子を導入し、前記分級された微粒子を含む流体と前記媒体ガスとの界面を含むガス領域内に励起レーザ光を照射して、前記微粒子を含む流体と前記媒体ガスをプラズマ化し、前記プラズマ化された、前記微粒子を含む流体と前記媒体ガスが励起レーザプラズマ状態から元のエネルギー状態に戻るときに発生する光を検出して分光し、前記分光された光から前記微粒子の成分を分析する微粒子分析方法。
【請求項3】
前記流体流路中には、前記流体として、シースエアを導入することを特徴とする請求項2に記載の微粒子分析方法。
【請求項4】
分析対象の微粒子を含む流体と前記微粒子とは異なる物質で構成された媒体ガスが存在するガス流路内に励起レーザ光を照射して、前記ガス流路内に存在する前記流体と前記媒体ガスをプラズマ化するレーザ光照射器と、前記ガス流路内でプラズマ化された前記流体と前記媒体ガスが励起レーザプラズマ状態から元のエネルギー状態に戻るときに発生する光を検出して分光する分光器と、前記分光器で分光された光から前記微粒子の成分を分析する分析器を備えてなる微粒子分析装置。
【請求項5】
分析対象とは異なる物質で構成された媒体ガスの流路となる媒体ガス流路を形成する第1の電極と、前記第1の電極に隣接して配置されて、流体の流体流路を形成する第2の電極と、前記分析対象として帯電された微粒子を含む試料ガスを前記流体流路途中の上流側に導入する試料ガス導入路と、前記第1の電極と前記第2の電極間に電圧を印加して、前記流体流路中を移動する微粒子に前記流体流路と交差する方向の静電気力を付与する電源と、前記流体流路の下流側に形成されて前記流体流路と前記媒体ガス流路とを結ぶ微粒子導入口と、前記媒体ガス流路のうち前記微粒子導入口から導入された流体と前記媒体ガスとの界面を含むガス領域内に励起レーザ光を照射して、前記ガス領域内の前記流体と前記媒体ガスをプラズマ化するレーザ光照射器と、前記ガス領域内でプラズマ化された前記流体と前記媒体ガスが励起レーザプラズマ状態から元のエネルギー状態に戻るときに発生する光を検出して分光する分光器と、前記分光器で分光された光から前記微粒子の成分を分析する分析器を備え、前記微粒子導入口には、前記流体流路を移動する微粒子のうち前記両電極間に印加された電圧に応じて分級された微粒子が導入されてなる微粒子分析装置。
【請求項6】
前記流体流路中には、前記流体として、シースエアが導入されてなることを特徴とする請求項5に記載の微粒子分析装置。
【請求項7】
前記第1の電極は筒体で構成されて鉛直方向に沿って配置され、前記第2の電極は、前記第1の電極を囲む筒体で構成されてなることを特徴とする請求項5または6に記載の微粒子分析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−264980(P2009−264980A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116330(P2008−116330)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】