説明

微粒子分級装置

【課題】 単一の装置で、複数の異なる粒径の微粒子を同時に分級することが可能な微粒子分級装置を小型に製造可能とする。
【解決手段】
中心電極部10が、外部電極部20の内周円と同心円上の所定幅の外周側面を有する第1の中心電極部10a及び第2の中心電極部10bを有しているとともに、粒径選別空間Sを各中心電極部10a、中心電極部10bごとに仕切る遮蔽プレート10cを有し、各中心電極部10a、10bごとに、特定微粒子導出スリット部11(11a、11b)及び特定微粒子導出路12(12a、12b)からなる微粒子導出部が形成されており、各特定微粒子導出スリット部11a、11b間で形成位置を高さ方向で相互に相違させている。また、各中心電極部10a、10bがそれぞれ曲率半径の異なる外周側面を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相中で所定幅(特に、ナノサイズの幅)の粒径分布を有して浮遊する微粒子を分級する微粒子分級装置に関し、特に、単一の装置で、気相中に浮遊する微粒子の中から、異なる粒径を有する複数種類の微粒子を同時に粒径選別することが可能な微粒子分級装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、とりわけディーゼル車の排気ガス中に含まれる浮遊粒子による健康被害が問題とされており、エンジンの構造や燃料、触媒の改良などによる排気微粒子の個数濃度を低減させるための検討がなされている。
【0003】
ディーゼル排気粒子は、50nm以下の粒径領域にピークを持つnuclei mode粒子と50nm以上の粒径領域にピークを持つaccumulation mode 粒子に分けることができる。このうち、10nm付近の粒子を中心としたnuclei mode粒子は、0.1μm以上の粒子と異なり、肺胞の奥深くまで到達し、血液中に直接進入するなどのために人体に与える健康被害が大きいと言われている。また、nuclei mode粒子は粒子個数においてディーゼル排気粒子の90%以上を占めることが知られており、上記排気微粒子の低減のための検討によってもnuclei mode粒子については十分な成果は達成されていない。
【0004】
このような微粒子を対象とした従来の分析方法としては、(1)一定時間あたりの排出ガス中の微粒子をフィルタ等に捕集して重量を測定する重量測定法、(2)微粒子にレーザー光線等を照射して散乱光強度や透過率等から微粒子の粒径分布(粒径と個数濃度との関係)を求める光学的手法、(3)ガス中に浮遊する帯電微粒子の電場中での電気移動度が粒径に依存する性質を利用して微粒子の粒径を測定する微分型電気移動度測定装置(DMA/Differential Mobility Analyzer)を用いた手法が知られている。
【0005】
しかしながら、上述した従来の分析方法のうち、(1)の重量測定法は、測定に長時間を要し、フィルタの濾過効率によって捕集される粒子量が変化する問題があり、(2)の光学的手法では、散乱光強度等が微粒子の粒径の6乗に比例するので、微小な粒径領域において測定精度が低下する問題がある。なお、一般に用いられているパーティクルカウンタはいずれも、粒径がサブミクロンメータ・サイズ以上の比較的大きな微粒子を対象とするものであって、自動車の排気ガスや大気中に浮遊するナノメータ・サイズの微粒子をリアルタイムに分析することは不可能であった。
【0006】
これに対し、上記(3)のDMAは、現在のところ、ナノメータ・サイズの微粒子の粒径分布をその場観察することが可能な唯一の装置であるが、現状のDMAは定常粒子濃度を測定するための装置であるために効果的な自動車排気ガス計測を行うことができない問題がある。即ち、自動車の排気粒子の個数濃度や分布は、加速などの運転条件によって変化するのに対して、現状のDMAでは、運転条件で過渡的に変化する非定常粒子濃度をリアルタイムに測定することができない。
【0007】
また、DMAを含めた従来の測定手法では、nuclei mode粒子とaccumulation mode 粒子のような2つの異なる粒径領域における微粒子の過渡応答を同時に測定することも困難であった。
【0008】
特許文献1には、上記問題を解決した微粒子分析装置が開示されている。即ち、特許文献1の微粒子分析装置は、中心電極部、コモン電極部及び外側電極部からなる三重円筒構造を備えるDMAであり、中心電極部及びコモン電極部の間に第1測定領域を形成するとともに、コモン電極部と外側電極部の間に第2測定領域を形成したものであり、単一の装置により、しかも装置サイズの大幅な増大を伴うことなく、幅広い分布を有する微粒子の粒径分布(粒径と個数濃度との関係)及び特定の粒径サイズの微粒子についての個数濃度の経時変化を2種類の粒径範囲に分けて同時にかつリアルタイムに測定することが可能となっている。
【特許文献1】特開2005−214931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、特許文献1の微粒子分析装置では、2種類の粒径範囲における微粒子の個数濃度を同時かつリアルタイムに測定することが可能であるが、測定対象の粒径範囲を3種類以上に増加させることは困難である。
【0010】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、下記のいずれか一以上の目的を達成するものである。
【0011】
即ち本発明の目的は、装置サイズを大幅に増大させることなく、単一の装置で、異なる3種類以上の粒径の微粒子を同時に分級することができる微粒子分級装置を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、特許文献1の微粒子分析装置が備える微粒子分級装置よりも更に小型又は簡略な装置構成をもって、気相中に浮遊する微粒子の中から、異なる複数種類の粒径の微粒子を同時に分級することが可能な微粒子分級装置を提供することにある。
【0013】
本発明の更に他の目的は、シンプル且つ部品点数の少ない構造で製造することが可能であり、気相中に浮遊する微粒子の中から、異なる複数種類の粒径の微粒子を同時に分級することが可能な微粒子分級装置を提供することにある。
【0014】
本発明の更に他の目的は、微粒子の円周方向での運動を抑制することにより、精度良く、特定の粒径を有する微粒子を分級することが可能な微粒子分級装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記課題を解決したものであり、
内周側面が円筒状に形成された包囲形状の外部電極部と、
前記外部電極部の内周側面と同心に配置された中心電極部と、
前記中心電極部の外周側面と前記外部電極部の内周側面との間に形成される筒状の粒径選別空間とを備え、
前記粒径選別空間の上方位置に形成された微粒子導入スリットを介して、装置外部から多数の帯電微粒子が前記粒径選別空間に導入されるとともに、前記微粒子導入スリットの上方位置に形成されたシースガス供給部を介して、装置外部から前記粒径選別空間に導入された帯電微粒子を下方向に移動させるようシースガスが前記粒径選別空間に供給され、前記中心電極部と前記外部電極部との間に、前記粒径選別空間に導入された帯電微粒子を前記内周側面から前記外周側面側へ移動させるよう所定電圧が印加された場合に、前記粒径選別空間に導入された前記帯電微粒子の中から特定の粒径を有する帯電微粒子を、前記外周側面に形成された微粒子導出スリットにおいて捕捉する微粒子分級装置であって、
前記中心電極部が、上下面が扇形形状である部分円柱形状の複数の粒径別中心電極部と、前記粒径選別空間を前記各粒径別中心電極部ごとの複数の粒径別選別空間に区画する遮蔽部材とを有しており、
前記粒径別中心電極部のそれぞれに、前記微粒子導出スリットが個別に形成されていることを特徴とする微粒子分級装置(請求項1)である。
【0016】
本発明によれば、中心電極部が、複数の粒径別中心電極部を有しており、当該粒径別中心電極部のそれぞれに微粒子導出スリットが個別に形成されているために、複数種類の粒径の微粒子を同時に分級(粒径選別)することが可能である。また、1種類の微粒子のみを分級する従来の二重円筒構造の微分型静電分級器と同様の二重構造を採用していることにより、単一の装置で、気相中に浮遊する微粒子の中から、2種類以上の異なる粒径の微粒子を同時に分級することが可能な微粒子分級装置を従来の微分型静電分級器と同一或いは略同一のサイズで製造することが可能である。また、本発明の微粒子分級装置は、外部電極部をシンプルな包囲形状とし、中心電極部を粒径別中心電極部と遮蔽部材というシンプルな構成要素で形成していることにより、高度な加工技術や複雑な型を要することなく製造することが可能であり、装置の製造コストを低廉化することができる。また、本発明によれば、遮蔽部材によって装置内部に導入した微粒子の円周方向での運動を抑制することができ、これにより、特定の粒径を有する微粒子を高い精度で分級することが可能となる。
【0017】
本発明においては、前記各粒径別中心電極部がそれぞれ異なる外径寸法に形成されている(請求項2)ことが好ましい。
【0018】
かかる発明では、各粒径別中心電極部がそれぞれ異なる外径寸法を有するために、個々の粒径別選別空間の幅寸法が相違することになり、この幅寸法の相違に基づいて粒径の異なる複数種類の微粒子の選別を行うことが可能となる。
【0019】
本発明においては、前記微粒子導出スリットが、それぞれ前記中心電極部の外周側面における異なる高さに形成されている(請求項3)ことが好ましい。
【0020】
かかる発明では、各微粒子導出スリットの設置高さが異なる故に導入スリットから微粒子導出スリットまでの高さ方向での距離が各粒径別中心電極部毎に相違することになり、この距離の相違に基づいて粒径の異なる複数種類の微粒子の選別を行うことが可能となる。
【0021】
なお、各粒径別中心電極部の外径寸法及び各微粒子導出スリットの設置高さの双方を粒径別中心電極部毎に相違させることが特に好ましく、これにより、分級すべき微粒子の粒径をより広い範囲で調整することが可能となる。
【0022】
本発明においては、前記微粒子導入スリットは、前記外部電極部の内周側面に沿った円環状の形態を成しており、前記微粒子導出スリットは、それぞれが形成される前記各粒径別中心電極部の外周側面に沿った円弧状の形態を成している(請求項4)ことが好ましい。
【0023】
かかる発明では、微粒子導入スリットから円周方向で一様に装置内に導入された微粒子の中から特定の粒径を有する微粒子を各粒径別中心電極部の外周側面に沿って円弧状に形成された微粒子導出スリットで効率良く収集することができ、これにより、効率の良い分級を行うことが可能となる。
【0024】
本発明においては、前記遮蔽部材により区画された前記各粒径別空間ごとに、エクセスガスを外部に排出するエクセスガス排出部が形成されている(請求項5)ことが好ましい。
【0025】
かかる発明では、各粒径別空間ごとに分級後のエクセスガスを装置外部に排出させることができるので、各粒径別空間ごとにエクセスガスが滞留する時間を極力短くすることが可能となり、これにより、精度の良い分級を行うことが可能となる。
【0026】
本発明においては、前記遮蔽部材は、前記各粒径別中心電極部を相互に絶縁する絶縁体であり、前記外部電極部と前記各粒径別中心電極部との間に、それぞれ異なる電位差が与えられる(請求項6)ことが好ましい。
【0027】
かかる発明では、外部電極部と各粒径別中心電極部との間の電位差を独立に制御することができるので、それぞれの粒径別中心電極部において分級される微粒子の粒径を独立に制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明を適用した微分型静電分級装置1の構成を示す断面図である。この微分型静電分級装置1は、単一の装置で、気相中に浮遊する微粒子の中から、異なる2種類の粒径の微粒子を同時に分級することが可能に構成された微粒子分級装置である。
【0030】
この微分型静電分級装置1は、大きく分けて、中心電極部10、外部電極部20、エアロゾル導入部30、カバー部40、ベース部50、コモンプレート60、ラミナー70を備えている。
【0031】
即ち、この微分型静電分級装置1では、特定の粒径を有する帯電微粒子を分級して装置外部に導出する為の管状の特定微粒子導出管51(51a、51b)及び分級後の装置内部に滞在する余剰ガスを装置外部に排出する為の管状のエクセスガス排出管52(52a、52b)が形成されたベース部50の上面中央に、柱体形状の中心電極部10が軸合わせして嵌装され、そのベース部50の上面周縁部分には、内周側面が円筒状に形成された包囲形状の外部電極部20が着装されている。この外部電極部20は、その内周側面が中心電極部10と同心となるように(より正確には、後述の第1、第2の中心電極部10a、10bの外周側面14a、14bの曲率中心が外部電極部20の内周側面の中心軸に一致するように)中心電極部10の下方領域を包囲しており、外部電極部20の内周側面と中心電極部10の外周側面との間に筒形状の粒径選別空間Sが形成されている。
【0032】
なお、中心電極部10は、特定の粒径を有する微粒子を分級して装置外部に導出する為に、外周側面にスリット状に形成された特定微粒子導出スリット部11(11a、11b)と、当該特定微粒子導出スリット部11(11a、11b)に連通するように中心電極部10の内部に穿設された管状の特定微粒子導出路12(12a、12b)とを有している。
【0033】
また、ベース部50に着装した外部電極部20の上面に、中心電極部10の上方領域を包囲するように、該中心電極部10の外周側面との間に上記粒径選別空間Sへ外部から供給された後述のシースガスをガイドする筒状のシースガスガイド空間S3を形成する内周側面が略円筒状に形成された包囲形状のエアロゾル導入部30を着装している。
【0034】
なお、上記エアロゾル導入部30は、分級の対象となる何らかの粒径分布を有する帯電微粒子を含むエアロゾルガスを装置外部から装置内部に導入する為(特に、円筒形状の粒径選別空間Sに円周方向から一様に導入する為)に、導入部30の外周側面側から導入部30の内部の所定位置まで穿設された管状のエアロゾル導入管31と、そのエアロゾル導入管31と連通されて導入部30の内部にドーナツ状に形成されたエアロゾルバッファ部32と、そのエアロゾルバッファ部32と連通されて導入部30の内周側面に沿って環状に形成されたエアロゾル導入スリット部33を形成している。
【0035】
また、ベース部50に着装した中心電極部10の上面外周縁に形成された電極13(第1電極13a及び第2電極13bを含む)の上面と、ベース部50上の外部電極部20に着装したエアロゾル導入部30の上面とから形成される凹部に、後述のカバー部40からシースガスガイド空間S3に供給するシースガスの流れを整える為のラミナー70を嵌装し、更に嵌装したラミナー70の周縁部分をエアロゾル導入部30と挟持するように該エアロゾル導入部30の上面に、内周面がコップ形状に形成された包囲形状のカバー部40を着装している。また、そのカバー部40の上面に装置筐体の蓋となる板状のコモンプレート60を着装している。
【0036】
なお、上記カバー部40は、装置内部に供給されたエアロゾルガスに一定方向(下方向)の速度を付与する為のシースガスを外部から装置内部(特に、粒径選別空間Sの上方に形成されるシースガスガイド空間S3)に供給する為に、カバー部40の外周側面側からカバー部40の内周側面まで穿設された管状のシースガス供給管41と、そのシースガス供給管41と連通されてラミナー70との間で円柱状のシースガスバッファ部42を形成している。
【0037】
次に、上記中心電極部10について図2を加えて更に詳細に説明する。
【0038】
なお、図2(a)は右上方斜からの中心電極部10の斜視図を示し、図2(b)は微分型静電分級装置1の図1におけるB−B断面図を示し、図2(c)は中心電極部10の各構成要素の側面図を示している。
【0039】
中心電極部10は、第1の中心電極部10a、第2の中心電極部10b、遮蔽プレート10cを備えている。この中心電極部10は、径の異なる2つの円柱をそれぞれ長手方向に切断した部分円柱形状(この場合、略半円柱形状)を有する第1の中心電極部10a及び第2の中心電極部10bによって平板状の遮蔽プレート10cを挟着した構成を有している。
【0040】
ここで、遮蔽プレート10cは、粒径選別空間Sを第1の中心電極部10a側の第1の粒径選別空間S1と、第2の中心電極部10b側の第2の粒径選別空間S2の2つの空間に区画する為の部材である。遮蔽プレート10cは、少なくともエアロゾル導入スリット部33よりも下方における粒径選別空間Sを完全に区画することができる高さ寸法及び幅寸法を有している。
【0041】
更に、遮蔽プレート10cは、例えば、SUS316などで構成された中央プレート11cを、ABSなどで構成された2枚の絶縁性プレート12c、13cで挟んで構成している。これにより、第1の中心電極部10aと第2の中心電極部10bを電気的に絶縁し、それぞれに異なる電圧を印加することが可能になっている。
【0042】
第1の中心電極部10a及び第2の中心電極部10bは、第1の粒径選別空間S1及び第2の粒径選別空間S2ごとにそれぞれ異なる粒径の微粒子を分級して装置外部に導出する為の、第1の特定微粒子導出スリット部11a及び第2の特定微粒子導出スリット部11bと、それら第1の特定微粒子導出スリット部11a及び第2の特定微粒子導出スリット部11bにそれぞれ連通された第1の特定微粒子導出路12a及び第2の特定微粒子導出路12bを有している。
【0043】
上記第1の特定微粒子導出スリット部11a及び第2の特定微粒子導出スリット部11bは、それぞれ異なる粒径を有する特定の微粒子を分級するために、それぞれ異なる高さ位置に形成されている。
【0044】
一般的に、この種の微分型静電分級装置では、粒径選別空間の幅寸法(中心電極部の外径と外部電極部の内径の差)、エアロゾル導入スリット部から特定微粒子導出スリット部までの高さ方向の距離、中心電極部と外部電極部との間の電位差等のパラメータによって、微粒子導出スリット部において捕捉する微粒子の粒径を調整することが可能である。
【0045】
この点、本実施形態では、(1)第1の中心電極部10aの外径(R1)と、第2の中心電極部10bの外径(R2)をそれぞれ異なる寸法としたこと、及び、(2)エアロゾル導入部30のエアロゾル導入スリット部33から第1の特定微粒子導出スリット部11aまでの高さ方向距離(L1)と、エアロゾル導入部30のエアロゾル導入スリット部33から第2の特定微粒子導出スリット部11bまでの高さ方向距離(L2)をそれぞれ異なる寸法としたことにより、第1、第2の特定微粒子導出スリット部11a、11bにおいてそれぞれ異なる粒径の微粒子が捕捉されるようにしている。
【0046】
より具体的には、R1<R2、L1<L2のように寸法を設定することで、第1の特定微粒子導出スリット部11aにおいてより粒径の小さい微粒子が捕捉され、第2の特定微粒子導出スリット部11bにおいてより粒径の大きい微粒子が捕捉されるようにしている。
【0047】
なお、厳密には、本実施形態における第1、第2の中心電極部10a、10bの外周側面14a、14bは、微分型静電分級装置1の軸(遮蔽プレートの中心位置O)を中心軸とする円柱の側面の一部を成しており、上記における第1、第2の中心電極部10a、10bの外形(R1、R2)は、外周側面14a、14bの曲率半径に相当する。即ち、第1、第2の中心電極部10a、10bは、それぞれ半径R1、R2の円柱を中心軸を含む平面で2分割し、更に、当該平面から遮蔽プレート10cの厚み(r)の1/2の厚み(1/2r)を切除した形態を成している。
【0048】
図3は、図1に示した2点鎖線楕円部分X及び2点鎖線楕円部分Yのそれぞれの拡大図を示している。図3(a)及び図3(b)に示すように、R1、R2、L1及びL2を上記の関係に設定することにより、エアロゾル導入スリット部33から第1の特定微粒子導出スリット部11aに向かう方向が鉛直方向と成す角度が、エアロゾル導入スリット部33から第2の特定微粒子導出スリット部11bに向かう方向が鉛直方向と成す角度よりも大きくなる。このために、外部電極部20と第1、第2の中心電極部10a、10bとの電位差を同一にした場合には、この電位差による水平方向への加速が大きくなる粒径の小さい微粒子が第1の特定微粒子導出スリット部11aに捕捉され、この加速が小さくなる粒径の大きい微粒子が第2の特定微粒子導出スリット部11bに捕捉されることになる。
【0049】
また、本実施形態の微分型静電分級装置1では、第1、第2の中心電極部10a、10bが遮蔽プレート10cにより電気的に絶縁されているために、端子部材Ta、Tb及び第1電極13a、第2電極13bを介してこれら両中心電極部10a、10bにそれぞれ異なる電圧を印加することが可能であり、それぞれへの印加電圧によって、第1、第2の特定微粒子導出スリット部11a、11bにおいて捕捉される微粒子の粒径を調整することが可能である。
【0050】
図1に示すベース部50には、第1、第2の特定微粒子導出路12a、12bに連通する第1、第2の特定粒子回収部51a、51bと、第1、第2の粒径選別空間S1、S2に連通する第1、第2のエクセスガス排出管52a、52bとが形成されており、第1、第2の特定微粒子導出スリット部11a、11bで捕捉された微粒子をそれぞれ第1、第2の特定微粒子回収部51a、51bで回収して微粒子の個数濃度の計測などを行うことが可能であり、捕捉対象外の微粒子を含むエアロゾルガスは、第1、第2のエクセスガス排出管52a、52bから装置外に排出されるようになっている。
【0051】
上記実施形態における微分型静電分級装置1は、例えば、第1の中心電極部10a及び第2の中心電極部10b、外部電極部20、エアロゾル導入部30、カバー部40、ラミナー70をABSなどの樹脂素材で形成し、ベース部50、コモンプレート60、第1電極13a、第2電極13bをSUS316などの金属素材で形成するとともに、第1の中心電極部10a及び第2の中心電極部10b、外部電極部20、エアロゾル導入部30の表面に金メッキ処理を施すことで必要な導通特性を付与することが可能であり、これにより、微分型静電分級装置1の製造コストの低減や製造の容易化を図ることができる。
【0052】
以上説明した構成によれば、1種類の粒径の微粒子のみを分級する二重円筒構造の微分型静電分級装置と同様の二重構造を採用しているために、単一の装置で異なる粒径の2種類の微粒子を同時に粒径選別できる微分型静電分級装置を、上記二重円筒構造の微分型静電分級装置と同一或いは略同一のサイズで製造することが可能である。
【0053】
また、上記構成によれば、外部電極部をシンプルな包囲形状とし、中心電極部を2つの粒径別中心電極部と遮蔽プレートというシンプルな構成要素で形成しているために、高度な加工技術や複雑な型を要せずして製造可能な微分型静電分級装置が実現される。
【0054】
また、上記構成によれば、遮蔽プレートを設けたことにより、装置内部に導入した微粒子の粒径選別空間内での円周方向での運動を抑制することができるために、より精度の高い粒径選別を行うことが可能となる。
【0055】
次に、上記微分型静電分級装置1の中心電極部10の変形例について図4を用いて説明する。即ち、上記実施形態では、1つの微分型静電分級装置で粒径の異なる2種類の微粒子を同時に分級する形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、中心電極部10の構成を変更することにより粒径の異なる3種類以上の微粒子を同時に分級可能な微分型静電分級装置を提供することができる。
【0056】
図4は、1つの微分型静電分級装置で粒径の異なる3種類の微粒子を同時に分級する為の中心電極部100の構成を示している。
【0057】
この中心電極部100は、第1の中心電極部100aと、第2の中心電極部100bと、第3の中心電極部100dと、第1の遮蔽プレート100cと、第2の遮蔽プレート100eとを備えて構成している。
【0058】
即ち、この中心電極部100は、前述の中心電極部10と同じように、粒径選別空間Sを中心電極部ごとの個別空間に区画する為の構成を有している。具体的には、粒径選別空間Sを第1の中心電極部100a用の第1の粒径選別空間S10と、第2の中心電極部100b用の第2の粒径選別空間S20と、第3の中心電極部100d用の第3の粒径選別空間S30の3つの空間に区画することができる形状、寸法の部材として第1の遮蔽プレート100c及び第2の遮蔽プレート100eを備えている。
【0059】
また、第1〜第3の中心電極部100a、100b及び100dは、それぞれ異なる粒径の微粒子を分級する為の第1〜第3の特定微粒子導出スリット部111a、111b及び111dと、これらにそれぞれ連通する第1〜第3の特定微粒子導出路120a、120b及び120dを備えている。
【0060】
そして、第1〜第3の中心電極部100a、100b及び100dは、その外径(R1〜R3)がそれぞれ異なる寸法とされており、更に、エアロゾル導入スリット部33から第1〜第3の特定微粒子導出スリット部111a、111b及び111dまでの高さ方向距離(L1〜L3)がそれぞれ異なる寸法となるように、第1〜第3の特定微粒子導出スリット部111a、111b及び111dは第1〜第3の中心電極部100a、100b及び100dにおけるそれぞれ異なる高さ位置に形成されている。
【0061】
このような構成により、単一の装置で、気相中に浮遊する微粒子の中から、異なる3種類の粒径の微粒子を同時に分級することが可能な微分型静電分級装置を小型に製造することが可能である。
【0062】
なお、図4に示す中心電極部100の例では、粒径選別空間Sを2等分した一方の空間が第2の粒径選別空間S20となり、他方の空間を更に2等分した空間が第1、第3の粒径選別空間S10、S30となる形態を示したが、粒径選別空間Sを3等分した空間が第1〜第3の粒径選別空間S10〜S30となるよう構成するなど、粒径選別空間Sの区画の態様は任意である。
【0063】
また、上記した実施形態では2種類或いは3種類の粒径の微粒子を同時に分級できる微分型静電分級装置を例として示したが、中心電極部(遮蔽プレート)によって粒径選別空間Sを任意の個数に分割することで任意数の粒径の異なる微粒子を同時に分級できる微分型静電分級装置を提供することが可能であり、また、分級すべき粒径の種類が増加しても、それによって、装置サイズの大幅な増大は生じない。
【0064】
最後に、本発明に係わる微分型静電分級装置が実装されるDMA(Differential Mobility Analyzer)システムについて説明しておく。
【0065】
図5は、前述の図1で示した微分型静電分級装置が実装されるDMAシステムの一構成例を示す図である。このDMAシステム200は、気相中で所定幅(特に、ナノサイズ)の粒径分布を有して浮遊する微粒子を分級して、微粒子の粒径分布の測定を行うシステムである。
【0066】
このDMAシステム200は、例えば、前述の微分型静電分級装置1と、第1のファラデーカップ211aと第1のエレクトロメータ212aを有する第1の微粒子個数濃度計数器210aと、第2のファラデーカップ211bと第2のエレクトロメータ212bを有する第2の微粒子個数濃度計数器210bと、微粒子荷電装置220と、微粒子供給装置230と、ガス供給装置240と、第1のガス流量コントローラ250と、第2のガス流量コントローラ260と、バキュームポンプ270と、圧力コントローラ280と、第1のバルブ290aと、第2のバルブ290bと、第1の電源300aと、第2の電源300bを備えている。
【0067】
即ち、このDMAシステム200は、(1)第1のガス流量コントローラ250を介して供給されるキャリアガスとなるシースガスSgを微分型静電分級装置1に供給する。
【0068】
また、(2)第2のガス流量コントローラ260を介してガス供給装置240で供給されるキャリアガスにより微粒子供給装置230で供給されるエアロゾルガスAg(粒径分布の測定対象となる微粒子を含む自動車の排気ガスなど)を微粒子荷電装置220に搬送させ、この微粒子荷電装置220において、アメリシウム241などの放射線源から照射されるα線やコロナ放電器などによって生成されたコロナイオン等によってエアロゾルガスAgに含まれる微粒子を予め帯電させ、帯電させた帯電微粒子を微分型静電分級装置1に供給する。
【0069】
(3)微分型静電分級装置1は、導入されたエアロゾルガスAgに含まれる帯電微粒子の中から特定の粒径を有する微粒子を分級して微粒子個数濃度計数器210(210a、210b)に導出する。即ち、第1の粒径選別空間S1で選別した特定サイズの微粒子を、第1の特定微粒子導出スリット11a及び第1の特定微粒子導出路12aを介して第1の微粒子個数濃度計数器210aに導出するとともに、第2の粒径選別空間S2で選別した特定サイズの微粒子を、第2の特定微粒子導出スリット11b及び第2の特定微粒子導出路12bを介して第2の微粒子個数濃度計数器210bに導出する。これにより、第1の微粒子個数濃度計数器210a及び第2の微粒子個数濃度計数器210bを用いて2種類の微粒子の濃度分布を同時に測定することが可能である。
【0070】
(4)微分型静電分級装置1は、装置内のエクセスガスEgを装置外部に排出する。即ち、この場合では、第1の粒径選別空間S1におけるエクセスガスEgを、ベース部50の第1のエクセスガス排出管52aを介して装置外部に排出するとともに、第2の粒径選別空間S2におけるエクセスガスEgを、ベース部50の第2のエクセスガス排出管52bを介して装置外部に排出する。
【0071】
なお、微分型静電分級装置1のエクセスガスEgの排気側には、圧力コントローラ9を配置し、微分型静電分級装置1内の圧力を制御している。また、第1、第2のファラデーカップ211a、211bのそれぞれの排気側に、第1、第2のバルブ290a、290bをそれぞれ配置し、両ファラデーカップ内の圧力を制御している。
【0072】
このようなDMAシステム200に本発明に係る微分型静電分級装置1を適用することにより、2つの(或いは3以上の)粒径領域において測定対象ガスに含まれる微粒子の粒径分布(粒径と個数濃度との関係)を同時に測定することが可能になる。具体的には、各中心電極部に印加する電圧を個別にスキャンすることで、例えば、一方の微粒子個数濃度計測器210aでは5〜50nmなどの小さい粒径領域における粒径分布を測定し、他方の微粒子個数濃度計数器210bでは50〜500nmなどの大きい粒径領域における粒径分布を測定することができる。
【0073】
或いは、各粒径別中心電極部に印加する電圧を固定した測定を行うことも可能である。この場合には、一方の微粒子個数濃度計測器210aでは10nmなどの特定の粒径の微粒子濃度を所定時間に渡って継続的に測定し、他方の微粒子個数濃度計測器210bでは200nmなどの他の特定の粒径の微粒子濃度を所定時間に渡って継続的に測定することができる。従って、例えば、加速などの運転条件によって過渡的に粒子分布が変化するような自動車排気ガスのnuclei mode粒子とaccumulation mode粒子の個数基準濃度の過渡応答の測定などを容易化することができる。
【0074】
本発明の微粒子分級装置、又はこれを用いたDMAシステム200によれば、自動車の排気ガス、市街地の大気、半導体などの精密機器の製造工場内の雰囲気等、様々な測定対象ガスから複数種類の粒径の微粒子の分級を行い、又はその効率的な微粒子濃度の測定を行うことが可能である。
【0075】
以上、例示的な実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態により限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内において種々の変更、改変を行うことが可能である。
【0076】
例えば、上記実施形態では、複数の粒径別中心電極部のそれぞれが電気的に絶縁されており、それぞれに異なる電圧を印加できる構成が採用されているために、分級される微粒子の粒径を各粒径別中心電極部に印加する電圧によって調整することが可能な微分型静電分級装置を例として説明したが、各粒径別中心電極部の絶縁は本発明の本質ではなく、全ての粒径別中心電極部又はその一部を相互に電気的に導通させて構成することも可能である。
【0077】
また、上記実施形態では、ベース部に、遮蔽プレートで仕切られる個別空間ごとにエクセスガスを排出する為のエクセスガス排出管を複数形成する形態について示したが、全ての個別空間又はその一部のエクセスガス排出管を共用とすることも可能である。
【0078】
また、上記実施形態では、個別部品からなるベース部50、外部電極部20、エアロゾル導入部などを組み立てる形態について示したが、これ以外にも、例えば、簡単且つ安価に製造できるのであれば、ベース部50、外部電極部20、エアロゾル導入部30のいずれか或いは全てを一体成型するようにしても良い。
【0079】
また、上記実施形態における微分型静電分級装置の外観形状(図5に示す直方体形状)は単なる例として記載したものであり、これ以外にも、例えば、円柱形状、樽形状、瓢箪形状等のその他の形状であっても良く、本発明はこれらにおいて上記実施形態と異なる外観形状を有する微分型静電分級装置を除外するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明を適用した微分型静電分級装置の断面図である。
【図2】図1の中心電極部の構成を説明する説明図である。
【図3】図1の所定部分の拡大の様子を示す拡大図である。
【図4】図1及び図2の中心電極部の一変形例の構成を説明する説明図である。
【図5】本発明を適用した微分型静電分級装置が実装されるDMAシステムの構成を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0081】
1…微分型静電分級装置
10…中心電極部
10a…第1の中心電極部
11a…第1の特定微粒子導出スリット部
12a…第1の特定微粒子導出路
13a…第1電極
10b…第2の中心電極部
11b…第2の特定微粒子導出スリット部
12b…第2の特定微粒子導出路
13b…第2電極
10c…遮蔽プレート
11c…中央プレート
12c、13c…絶縁性プレート
20…外部電極部
30…エアロゾル導入部
31…エアロゾル導入管
32…エアロゾルバッファ部
33…エアロゾル導入スリット部
34…内周側面
40…カバー部
41…シースガス供給管
42…シースガスバッファ部
50…ベース部
51a…第1の特定微粒子回収部
51b…第2の特定微粒子回収部
52a…第1のエクセスガス排出管
52b…第2のエクセスガス排出管
60…コモンプレート
70…ラミナー
S…粒径選別空間
S1…第1の粒径選別空間
S2…第2の粒径選別空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周側面が円筒状に形成された包囲形状の外部電極部と、
前記外部電極部の内周側面と同心に配置された中心電極部と、
前記中心電極部の外周側面と前記外部電極部の内周側面との間に形成される粒径選別空間とを備え、
前記粒径選別空間の上方位置に形成された微粒子導入スリットを介して、装置外部から多数の帯電微粒子が前記粒径選別空間に導入されるとともに、前記微粒子導入スリットの上方位置に形成されたシースガス供給部を介して、装置外部から前記粒径選別空間に導入された帯電微粒子を下方向に移動させるようシースガスが前記粒径選別空間に供給され、前記中心電極部と前記外部電極部との間に、前記粒径選別空間に導入された帯電微粒子を前記内周側面から前記外周側面側へ移動させるよう所定電圧が印加された場合に、前記粒径選別空間に導入された前記帯電微粒子の中から特定の粒径を有する帯電微粒子を、前記外周側面に形成された微粒子導出スリットにおいて捕捉する微粒子分級装置であって、
前記中心電極部が、上下面が扇形形状である部分円柱形状の複数の粒径別中心電極部と、前記粒径選別空間を前記各粒径別中心電極部ごとの複数の粒径別選別空間に区画する遮蔽部材とを有しており、
前記粒径別中心電極部のそれぞれに、前記微粒子導出スリットが個別に形成されていることを特徴とする微粒子分級装置。
【請求項2】
前記各粒径別中心電極部がそれぞれ異なる外径寸法に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の微粒子分級装置。
【請求項3】
前記微粒子導出スリットが、それぞれ前記中心電極部の外周側面における異なる高さに形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の微粒子分級装置。
【請求項4】
前記微粒子導入スリットは、前記外部電極部の内周側面に沿った円環状の形態を成しており、
前記微粒子導出スリットは、それぞれが形成される前記各粒径別中心電極部の外周側面に沿った円弧状の形態を成していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の微粒子分級装置。
【請求項5】
前記遮蔽部材により区画された前記各粒径別空間ごとに、エクセスガスを外部に排出するエクセスガス排出部が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の微粒子分級装置。
【請求項6】
前記遮蔽部材は、前記各粒径別中心電極部を相互に絶縁する絶縁体であり、
前記外部電極部と前記各粒径別中心電極部との間に、それぞれ異なる電位差が与えられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の微粒子分級装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−315817(P2007−315817A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143388(P2006−143388)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】