説明

微粒子含有塗膜の膜厚算出方法および微粒子含有塗膜の膜厚算出装置

【課題】微粒子を含有するスラリーを用いて得られる微粒子含有塗膜の乾燥工程における、膜厚を適切に算出することのできる微粒子含有塗膜の膜厚算出方法を提供すること。
【解決手段】微粒子および溶媒を含むスラリーを基材上に塗布して得られる微粒子含有塗膜の膜厚を算出する方法であって、微粒子含有塗膜の乾燥初期における、溶媒の気化による膜厚の減少量から求められる膜厚減少直線と、微粒子含有塗膜の完全乾燥時の膜厚である乾燥膜厚から求められる乾燥膜厚直線と、これらの交点である膜厚変化停止点とを求め、膜厚変化停止点までは膜厚減少直線を用いて、微粒子含有塗膜の膜厚を算出し、膜厚変化停止点からは乾燥膜厚直線を用いて、微粒子含有塗膜の膜厚を算出する微粒子含有塗膜の膜厚算出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子含有塗膜の膜厚算出方法および微粒子含有塗膜の膜厚算出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルムなどの薄膜製品は、通常、製品を構成する各材料を、溶媒に溶解または分散させて得られた溶液を、塗工機などにより基材上に塗布することで塗膜を得て(塗工工程)、得られた塗膜を乾燥炉内で乾燥して、塗膜内の溶媒を除去する(乾燥工程)ことにより製造される。このような薄膜製品の製造工程において、塗膜内の溶媒を乾燥させ、除去する際に、溶媒を効率良く気化させるための最適な乾燥条件を求めるために、乾燥工程における、塗膜の膜厚など塗膜の状態を予測するシミュレーション方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−233663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術は、溶媒と高分子とからなる高分子溶液を用いて得られる高分子塗膜の乾燥条件を求めるためのものであり、微粒子を含有するスラリーを用いて得られる微粒子含有塗膜を対象とするものではない。そのため、上記従来技術を用いて、微粒子を含有するスラリーを用いて得られる微粒子含有塗膜について膜厚を算出した場合に、膜厚の算出精度が低いという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、微粒子を含有するスラリーを用いて得られる微粒子含有塗膜の乾燥工程における、膜厚を適切に算出することのできる微粒子含有塗膜の膜厚算出方法および微粒子含有塗膜の膜厚算出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、微粒子含有塗膜の乾燥初期における、溶媒の気化による膜厚の減少量から求められる膜厚減少直線と、微粒子含有塗膜の完全乾燥時の膜厚である乾燥膜厚から求められる乾燥膜厚直線と、これら膜厚減少直線および乾燥膜厚直線の交点である膜厚変化停止点とを求め、膜厚変化停止点までは膜厚減少直線を用いて、微粒子含有塗膜の膜厚を算出し、膜厚変化停止点からは乾燥膜厚直線を用いて、微粒子含有塗膜の膜厚を算出することで、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、微粒子を含有するスラリーを用いて得られる微粒子含有塗膜の乾燥工程における、膜厚を算出する際に、微粒子の影響により、乾燥工程半ばにおいて膜厚減少が停止する点を考慮して膜厚を算出することができ、そのため、乾燥工程における、微粒子含有塗膜の膜厚を適切に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本実施形態に係る膜厚算出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、溶媒を乾燥する前の状態における、微粒子含有塗膜の塗膜構造概略図である。
【図3】図3は、溶媒/固形分重量比Uと、微粒子含有塗膜の膜厚Tとの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、乾燥初期における、微粒子含有塗膜の塗膜構造概略図である。
【図5】図5は、微粒子含有塗膜の膜厚Tの減少が停止した状態における、微粒子含有塗膜の塗膜構造概略図である。
【図6】図6は、本実施形態に係る微粒子含有塗膜の膜厚Tの算出手順を説明するためのグラフである。
【図7】図7は、本実施形態に係る膜厚減少直線L1、乾燥膜厚直線L2、および膜厚変化停止点P2の算出手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は、本実施形態に係る算出手順、および従来手法により算出された微粒子含有塗膜の膜厚Tの算出結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る膜厚算出装置の概略構成を示すブロック図である。
【0011】
本実施形態の膜厚算出装置は、微粒子、溶媒およびバインダを含むスラリーを基材上に塗布して得られる微粒子含有塗膜の乾燥工程における、微粒子含有塗膜の膜厚を算出するための装置である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の膜厚算出装置は、コンピュータ100と、入力装置200と、記憶装置300と、を備える。
【0013】
コンピュータ100は、微粒子、溶媒およびバインダを含むスラリーを基材上に塗布して得られる微粒子含有塗膜の乾燥工程における、微粒子含有塗膜の膜厚を算出するための演算装置である。このコンピュータ100は、微粒子含有塗膜の膜厚を算出するために、膜厚減少直線算出部110、乾燥膜厚直線算出部120、膜厚変化停止点算出部130、および膜厚算出部140を備える。なお、コンピュータ100により、微粒子含有塗膜の膜厚を算出手順については、後述する。
【0014】
入力装置200は、微粒子含有塗膜の膜厚を算出するために用いる各種データを、コンピュータ100に入力するための装置である。
【0015】
記憶装置300は、入力装置200により入力された各種データを、コンピュータ100から受信し、記憶するための装置である。また、記憶装置300に記憶された各種データは、コンピュータ100からの要求により、コンピュータ100に送信されるようになっている。
【0016】
次いで、本実施形態で用いる微粒子含有塗膜の乾燥モデルについて、説明する。
【0017】
図2は、本実施形態に係る微粒子含有塗膜の塗膜構造概略図であって、溶媒を乾燥する前の状態(乾燥を開始する時点)における微粒子含有塗膜を示す図である。図2においては、符号10で基材を、符号20で微粒子含有塗膜を、符号30で微粒子を、それぞれ示しており、微粒子含有塗膜20は、厚みTで、基材10上に形成されている。このような本実施形態に係る微粒子含有塗膜20は、微粒子30、溶媒、およびバインダを含有する微粒子スラリーを、基材10上に塗工することにより形成される。なお、図2に示すように、微粒子含有塗膜20中において、微粒子30は分散して存在しており、微粒子30以外の部分は、溶媒、およびバインダが占めているが、その図示を省略した。また、微粒子30としては、特に限定されず、平均粒子径が数十nm〜数十μm程度の各種粒子が挙げられる。
【0018】
図3は、溶媒/固形分重量比Uと、微粒子含有塗膜20の膜厚Tとの関係を示すグラフである。図3に示すように、図2に示す微粒子含有塗膜20を、乾燥炉などの乾燥手段により乾燥させると、揮発成分である溶媒が気化していき、溶媒が気化することで、微粒子含有塗膜20の固形分(微粒子30およびバインダ)に対する溶媒の重量比である、溶媒/固形分重量比Uが減少していき、これに伴い、微粒子含有塗膜20の膜厚Tも減少していくこととなる。
【0019】
たとえば、図3に示すように、図2に示す溶媒を乾燥する前の状態(乾燥を開始する時点)における微粒子含有塗膜の溶媒/固形分重量比をUとした場合に、乾燥により溶媒が気化することで、溶媒/固形分重量比がUまで減少し、これにより、微粒子含有塗膜20の厚みもTまで減少することとなる。ここで、溶媒/固形分重量比がUである場合における、微粒子含有塗膜の塗膜構造概略図を図4に示す。図4に示すように、溶媒/固形分重量比Uが減少すると、微粒子含有塗膜20の膜厚Tが減少する。また、溶媒/固形分重量比Uが減少すると、微粒子30間に存在していた溶媒が減少することとなるため、図2に示す状態と比較して、微粒子30間の距離が小さくなることとなる。なお、図4中においても、図2に示す状態と同様に、微粒子含有塗膜20中において、微粒子30以外の部分は、溶媒、およびバインダが占めているが、その図示を省略した。
【0020】
そして、図4に示す溶媒/固形分重量比がUである状態から、微粒子含有塗膜20をさらに乾燥させていくと、図3に示すように、溶媒の気化により、溶媒/固形分重量比Uが減少し、溶媒/固形分重量比Uの減少に伴い、微粒子含有塗膜20の膜厚Tも減少していくこととなる。具体的には、乾燥により溶媒が気化することで、溶媒/固形分重量比がUまで減少し、これにより、微粒子含有塗膜20の厚みもTまで減少することとなる。ここで、溶媒/固形分重量比がUである場合における、微粒子含有塗膜の塗膜構造概略図を図5に示す。図5に示すように、溶媒/固形分重量比Uが減少し、溶媒/固形分重量比がUとなると、微粒子30間に存在していた溶媒の減少がさらに進み、隣り合う微粒子30同士が接触した状態となる。なお、図5中においても、図2に示す状態と同様に、微粒子含有塗膜20中において、微粒子30以外の部分は、溶媒、およびバインダが占めているが、その図示を省略した。
【0021】
そして、図5に示す溶媒/固形分重量比がUである状態から、微粒子含有塗膜20をさらに乾燥させていくと、図3に示すように、溶媒の気化により、溶媒/固形分重量比Uが減少するものの、粒子含有塗膜20の膜厚Tは減少せずに、Tのまま、溶媒が完全に乾燥し、溶媒/固形分重量比がゼロとなる。これは、図5に示すように、粒子含有塗膜20の膜厚TがTとなると、微粒子含有塗膜20中の微粒子30同士が接触した状態となり、粒子含有塗膜20の膜厚Tがこれ以上減少しないことに起因する。なお、図3に示すように、粒子含有塗膜20の膜厚TがTとなり、膜厚Tの減少が停止した後も、溶媒/固形分重量比Uが減少するのは、近接する複数の微粒子30による形成される空孔40内に存在する溶媒が気化することによる。そのため、溶媒が完全に乾燥し、溶媒/固形分重量比Uがゼロである状態となった場合においては、粒子含有塗膜20の塗膜構造は、空孔40内に溶媒が存在しない以外は、図5に示す状態と同様となる。
【0022】
次いで、上述した乾燥モデルに基づき、微粒子含有塗膜20の膜厚Tを算出する手順について説明する。本実施形態においては、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出は、図1に示す膜厚算出装置を用いて行なわれる。
【0023】
ここで、図6は、本実施形態に係る微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出手順を説明するためのグラフである。上述した乾燥モデルにおいては、図6に示すように、乾燥初期においては、乾燥開始点P1(上述した図2に示す状態)から、膜厚変化停止点P2(上述した図5に示す状態)まで、溶媒/固形分重量比Uの減少に伴い、膜厚Tが減少する。そして、膜厚変化停止点P2以降は、一定の乾燥膜厚Tのまま、溶媒/固形分重量比Uが減少していき、完全乾燥点P3において、溶媒/固形分重量比Uがゼロとなる。
【0024】
以下、図6に示すグラフおよび図7に示すフローチャートに基づき、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの具体的な算出手順について、説明する。図7は、膜厚減少直線L1、乾燥膜厚直線L2、および膜厚変化停止点P2の算出手順を示すフローチャートである。
【0025】
まず、図1に示すコンピュータ100の膜厚減少直線算出部110により、図7に示すステップS1〜S4において、図6に示す膜厚減少直線L1の算出が行なわれる。なお、膜厚減少直線L1は、溶媒/固形分重量比Uの減少に伴って膜厚Tが減少する、乾燥初期における、溶媒/固形分重量比Uと、膜厚Tとの関係を表す直線である。
【0026】
膜厚減少直線L1を算出するために、まず、ステップS1において、乾燥開始点P1における、膜厚Tの算出が行なわれる。具体的には、微粒子含有スラリーに含有される各成分(微粒子、溶媒、バインダ)の重量組成比および各材料の密度、ならびに、微粒子含有塗膜20の基材10上への塗布面積および塗膜重量を用い、膜厚Tを、下記式(1)にしたがって、膜厚Tが算出される。
【数1】

【0027】
上記式(1)中、i:微粒子30の種類、j:溶媒の種類、k:バインダの種類、Wtotal:微粒子含有塗膜20の塗膜重量、S:微粒子含有塗膜20の塗布面積、x:微粒子30の重量組成比、xsol:溶媒の重量組成比、xpoly:バインダの重量組成比、ρ:微粒子30の真密度、ρsol:溶媒の密度、ρpoly:バインダの密度、である。なお、これらの各データは、図1に示す入力装置200から、コンピュータ100に入力し、記憶装置300に記憶させることにより、コンピュータ100により利用可能とすることができる。
【0028】
ここで、微粒子30の密度としては、微粒子30の質量を微粒子30自体の体積で割ることにより求められる真密度と、微粒子30の質量をその占める嵩体積で割ることにより求められる嵩密度と、が挙げられる。そして、これらのうち、嵩密度は、図5に示すような構造のように、微粒子30同士の接触により空孔40が形成された場合に、この空孔40の存在を考慮した密度である一方で、真密度は、このような空孔40の存在を考慮しない密度である。これに対し、乾燥開始点P1における、微粒子含有塗膜20の構造は、図2に示すような構造であり、微粒子30同士が接触するような構造となっておらず、微粒子30同士の接触による空孔40が形成されていないと考えられる。そのため、本実施形態では、乾燥開始点P1における、膜厚Tを求める際には、微粒子30の密度としては、嵩密度ではなく、真密度を用いる。
【0029】
次いで、ステップS2に進み、乾燥開始点P1における、溶媒/固形分重量比Uの算出が行なわれる。溶媒/固形分重量比Uは、下記式(2)にしたがって、算出される。
【数2】

【0030】
次いで、ステップS3に進み、上記式(1)に、溶媒の重量組成比xsolとして、ゼロを代入することで、膜厚Tの算出が行なわれる。なお、膜厚Tは、図6に示すグラフ上における、膜厚減少直線L1の切片に相当し、この切片における膜厚Tは、仮に、乾燥初期における、溶媒/固形分重量比Uの減少に対する膜厚Tの減少割合が、溶媒が完全に乾燥するまで継続するとした場合における、微粒子含有塗膜20の厚みに相当することとなる。
【0031】
そして、ステップS4に進み、上記にて求めた乾燥開始点P1における、膜厚Tおよび溶媒/固形分重量比Uと、膜厚Tとに基づいて、下記式(3)に示す膜厚減少直線L1が算出される。
【数3】

【0032】
次いで、ステップS5に進み、コンピュータ100の乾燥膜厚直線算出部120により、図7に示すステップS5〜S10において、図6に示す乾燥膜厚直線L2の算出が行なわれる。なお、乾燥膜厚直線L2は、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの減少が停止する、膜厚変化停止点P2以降における、溶媒/固形分重量比Uと、膜厚Tとの関係を表す直線である。
【0033】
まず、ステップS5において、完全乾燥点P3における乾燥膜厚Tを求めるために、下記式(4)にしたがって、完全乾燥点P3における、微粒子30間の空孔40(図5参照)の体積VV0が算出される。
【数4】

上記式(4)中、ρtap:微粒子30の嵩密度、である。微粒子30の嵩密度のデータは、図1に示す入力装置200から、コンピュータ100に入力し、記憶装置300に記憶させることにより、コンピュータ100により利用可能とすることができる。
【0034】
なお、上述したように、嵩密度(ρtap)は、微粒子30同士の接触により空孔40が形成された場合に、この空孔40の存在を考慮した密度であり、その一方で、真密度(ρ)は、このような空孔40の存在を考慮しない密度である。そのため、上記式(4)のように、空孔40の存在を考慮した嵩密度を用いて得られる微粒子30の体積(Wtotal・x/ρtap)と、空孔40の存在を考慮しない真密度を用いて得られる微粒子30の体積(Wtotal・x/ρ)と、の差を求めることにより、微粒子30同士の接触により形成された空孔40の体積VV0を求めることができる。
【0035】
次いで、ステップS6に進み、下記式(5)にしたがって、微粒子含有塗膜20に含有されるバインダの体積Vpolyが算出される。
【数5】

【0036】
次いで、ステップS7に進み、微粒子30間の空孔40の体積VV0と、バインダの体積Vpolyとの比較が行なわれる。比較の結果、微粒子30間の空孔40の体積VV0が、バインダの体積Vpoly以上である場合(すなわち、VV0≧Vpolyである場合)には、ステップS8に進む。一方、微粒子30間の空孔40の体積VV0が、バインダの体積Vpoly未満である場合(すなわち、VV0<Vpolyである場合)には、ステップS9に進む。
【0037】
V0≧Vpolyである場合には、ステップS8に進む。ステップS8では、VV0≧Vpolyであり、そのため、微粒子含有塗膜20に含有されるバインダが、微粒子30同士の接触により形成された空孔40の体積内に収まるため、下記式(6)にしたがって、完全乾燥点P3における、乾燥膜厚Tの算出が行なわれる。すなわち、この場合においては、バインダの体積を考慮せずに、微粒子30の体積のみを考慮して、乾燥膜厚Tを算出する。
【数6】

【0038】
なお、上述したように、微粒子30の密度としては、真密度と、嵩密度と、が挙げられ、これらのうち、嵩密度は、微粒子30同士の接触により形成される空孔40の存在を考慮した密度である。そして、完全乾燥点P3における、微粒子含有塗膜20の構造は、図5に示すような構造であり、微粒子30同士が互いに接触するような構造となっていると考えられる。そのため、完全乾燥点P3における、乾燥膜厚Tを求める際には、微粒子30の密度としては、真密度ではなく、嵩密度を用いる。
【0039】
一方、VV0<Vpolyである場合には、ステップS9に進む。ステップS9では、VV0<Vpolyであり、そのため、微粒子含有塗膜20に含有されるバインダが、微粒子30同士の接触により形成された空孔40の体積内に収まらないため、下記式(7)にしたがって、完全乾燥点P3における、乾燥膜厚Tの算出が行なわれる。すなわち、この場合においては、微粒子30の体積に加えて、空孔40内に収まらないバインダの体積を考慮して、乾燥膜厚Tを算出する。
【数7】

【0040】
なお、ステップS9においても、完全乾燥点P3における、微粒子含有塗膜20の構造は、図5に示すような構造であり、微粒子30同士が互いに接触するような構造となっていると考えられるため、微粒子30の密度としては、真密度ではなく、嵩密度を用いる。
【0041】
次いで、ステップS10に進み、ステップS10では、上記にて算出した乾燥膜厚Tに基づいて、下記式(8)に示す乾燥膜厚直線L2が算出される。
【数8】

【0042】
次いで、ステップS11に進み、ステップS11では、図1に示すコンピュータ100の膜厚変化停止点算出部130により、上記にて算出された膜厚減少直線L1と乾燥膜厚直線L2との交点を求めることにより、膜厚変化停止点P2における、溶媒/固形分重量比Uの算出が行なわれる。具体的には、上記式(3)と、上記式(8)との連立方程式から、膜厚変化停止点P2における、溶媒/固形分重量比Uの算出が行なわれる。そして、膜厚変化停止点P2における膜厚である乾燥膜厚Tは、既に上述したステップS8またはS9において算出されているため、この乾燥膜厚Tと、ステップS11で算出された溶媒/固形分重量比Uとから、膜厚変化停止点P2が求められる。
【0043】
以上のようにして、コンピュータ100の膜厚減少直線算出部110、乾燥膜厚直線算出部120、および膜厚変化停止点算出部130により、膜厚減少直線L1、乾燥膜厚直線L2、および膜厚変化停止点P2の算出が行なわれる。
【0044】
そして、図1に示すコンピュータ100に、溶媒/固形分重量比Uが入力されると、コンピュータ100の膜厚算出部140により、上記手順にしたがって算出された膜厚減少直線L1、乾燥膜厚直線L2、および膜厚変化停止点P2を用いて、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出が行なわれる。具体的には、ステップS11において算出された膜厚変化停止点P2における、溶媒/固形分重量比Uを判定条件とし、U>Uである場合には、上記式(3)(すなわち、膜厚減少直線L1)に基づいて、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出が行なわれ、U≦Uである場合には、上記式(8)(すなわち、乾燥膜厚直線L2)に基づいて、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出が行なわれる。
【0045】
本実施形態においては、上記手順に従い膜厚減少直線L1および乾燥膜厚直線L2を算出し、算出した膜厚減少直線L1と乾燥膜厚直線L2との交点である膜厚変化停止点P2を求め、これら膜厚減少直線L1、乾燥膜厚直線L2および膜厚変化停止点P2を用いて、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出を行なうものである。具体的には、膜厚変化停止点P2における、溶媒/固形分重量比Uに対して、U>Uである場合には、膜厚減少直線L1に基づいて、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出を行い、U≦Uである場合には、乾燥膜厚直線L2に基づいて、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出を行うものである。そのため、本実施形態によれば、微粒子含有塗膜20の膜厚Tを算出する際に、溶媒が気化した結果、乾燥工程半ばにおいて、微粒子含有塗膜20を構成する微粒子30同士が互いに接触し、これにより、膜厚Tの減少が停止する現象を考慮することができ、その結果として、微粒子含有塗膜20の乾燥工程における、膜厚Tを適切に算出することができる。特に、本実施形態によれば、微粒子含有塗膜20の乾燥工程における、膜厚Tを適切に算出できるため、本実施形態により算出された膜厚Tを、たとえば、微粒子含有塗膜20の乾燥工程における、微粒子含有塗膜20の内部構造(たとえば、微粒子含有塗膜20を構成する各成分の分布状況等)の分析に用いた場合に、微粒子含有塗膜20の内部構造の分析精度の向上に資することができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、膜厚減少直線L1および乾燥膜厚直線L2を算出する際に、微粒子含有塗膜20を形成するためのスラリー中に含まれる各成分(微粒子30、溶媒、およびバインダ)の組成比および密度、ならびに、微粒子含有塗膜20の塗膜重量および塗布面積を用いるとともに、微粒子30の密度として、膜厚減少直線L1を算出する際には真密度を、乾燥膜厚直線L2を算出する際には嵩密度を、それぞれ用いるものである。すなわち、本実施形態によれば、微粒子含有塗膜20の膜厚Tを算出するために用いる微粒子30の密度として、微粒子含有塗膜20の状態に応じて、適したものを用いることができ、結果として、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出精度を高めることが可能となる。
【0047】
加えて、本実施形態においては、乾燥膜厚直線L2を算出するために、乾燥膜厚Tを求める際に、微粒子30により形成される空孔40の体積と、バインダの体積とを比較することで、バインダが、微粒子30により形成される空孔40内に収まるか否かを考慮する。そして、本実施形態によれば、バインダが、微粒子30により形成される空孔40内に収まるか否かを考慮することにより、バインダの存在が乾燥膜厚Tに与える影響を加味して、乾燥膜厚Tを求めることができ、結果として、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出精度をより高めることが可能となる。
【0048】
図8に、本実施形態に係る算出手順、および従来手法により算出された微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出結果、ならびに、膜厚Tの実測平均値を示す。図8に示すように、従来手法による膜厚Tの算出結果は、実測平均値から大きく解離する結果となる(算出精度は、53%)のに対し、本実施形態に係る算出手順よれば、高い精度で膜厚Tの算出を行なうことが可能である(算出精度は、95%)ことが確認できる。
【0049】
なお、上述した実施形態において、コンピュータ100の膜厚減少直線算出部110は本発明の膜厚算出装置の膜厚減少直線算出手段に、コンピュータ100の乾燥膜厚直線算出部120は本発明の膜厚算出装置の乾燥膜厚直線算出手段に、コンピュータ100の膜厚変化停止点算出部130は本発明の膜厚算出装置の膜厚変化停止点算出手段に、コンピュータ100の膜厚算出部130は本発明の膜厚算出装置の膜厚算出手段に、入力装置200は本発明の膜厚算出装置の入力手段に、それぞれ、相当する。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0051】
たとえば、上述した実施形態においては、微粒子含有塗膜20として、微粒子30、溶媒およびバインダを含有するものを例示して説明を行なったが、微粒子含有塗膜20としては、バインダを含有しないものであってもよいし、あるいは、粒子30、溶媒およびバインダ以外の成分(たとえば、可塑剤等)を含有するものであってもよい。
【0052】
また、上述した実施形態においては、微粒子30の密度として、真密度および嵩密度を用いる場合を例示して説明を行なったが、微粒子30が、粒子内部に閉孔を含有する場合には、真密度に代えて、粒子密度(粒子内部に存在する閉孔の体積を考慮した密度)を用いてもよい。微粒子30が、粒子内部に閉孔を含有する場合に、粒子密度を用いることにより、微粒子含有塗膜20の膜厚Tの算出精度をより高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
10…基材
20…微粒子含有塗膜
30…微粒子
40…空孔
100…コンピュータ
110…膜厚減少直線算出部
120…乾燥膜厚直線算出部
130…膜厚変化停止点算出部
140…膜厚算出部
200…入力装置
300…記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子および溶媒を含むスラリーを基材上に塗布して得られる微粒子含有塗膜の膜厚を算出する方法であって、
前記微粒子含有塗膜の乾燥初期における、前記微粒子含有塗膜から溶媒が気化することによる膜厚の減少量から、前記微粒子含有塗膜中の前記溶媒の含有比率に対する、前記微粒子含有塗膜の膜厚の関係を示す膜厚減少直線を算出し、
前記微粒子含有塗膜の完全乾燥時の膜厚である乾燥膜厚を求め、前記微粒子含有塗膜の厚みが、前記微粒子含有塗膜中の前記溶媒の含有比率によらず、常に前記乾燥膜厚と等しくなるような関係を示す乾燥膜厚直線を算出し、
前記膜厚減少直線と前記乾燥膜厚直線との交点を膜厚変化停止点として算出し、
前記微粒子含有塗膜の乾燥開始から、前記膜厚変化停止点までは、前記膜厚減少直線に基づいて、前記微粒子含有塗膜の膜厚を算出し、前記膜厚変化停止点から、前記微粒子含有塗膜が完全乾燥状態となるまでは、前記乾燥膜厚直線に基づいて、前記微粒子含有塗膜の膜厚を算出することを特徴とする微粒子含有塗膜の膜厚算出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の微粒子含有塗膜の膜厚算出方法であって、
前記スラリーを構成する各材料の組成比および各材料の密度、ならびに前記スラリーの基材上への塗工重量および塗工面積に基づいて、前記膜厚減少直線および前記乾燥膜厚直線を、算出することを特徴とする微粒子含有塗膜の膜厚算出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の微粒子含有塗膜の膜厚算出方法であって、
前記スラリーを構成する各材料の密度のうち、前記微粒子の密度として、前記膜厚減少直線を算出する際と、前記乾燥膜厚直線を算出する際とで異なる密度を用いることを特徴とする微粒子含有塗膜の膜厚算出方法。
【請求項4】
請求項3に記載の微粒子含有塗膜の膜厚算出方法であって、
前記膜厚減少直線を算出する際には、前記微粒子の密度として、真密度または粒子密度を用い、前記乾燥膜厚直線を算出する際には、前記微粒子の密度として、嵩密度を用いることを特徴とする微粒子含有塗膜の膜厚算出方法。
【請求項5】
請求項4に記載の微粒子含有塗膜の膜厚算出方法であって、
前記微粒子の嵩密度から求められる前記微粒子の体積と、前記微粒子の嵩密度および真密度から求められる前記微粒子を構成する各粒子間に形成される空孔体積と、前記スラリー中に含有される前記微粒子以外の固形分の体積と、に基づいて、前記乾燥膜厚直線を算出することを特徴とする微粒子含有塗膜の膜厚算出方法。
【請求項6】
請求項5に記載の微粒子含有塗膜の膜厚算出方法であって、
前記空孔体積と、前記固形分の体積とを比較し、
前記固形分の体積が前記空孔体積以下である場合には、前記微粒子の嵩密度から求められる前記微粒子の体積から、前記乾燥膜厚直線を算出し、
前記固形分の体積が前記空孔体積よりも大きい場合には、前記微粒子の嵩密度から求められる前記微粒子の体積と、前記固形分の体積と前記空孔体積との差である差分体積とから、前記乾燥膜厚直線を算出することを特徴とする微粒子含有塗膜の膜厚算出方法。
【請求項7】
微粒子および溶媒を含むスラリーを基材上に塗布して得られる微粒子含有塗膜の膜厚を算出する膜厚算出装置であって、
前記微粒子含有塗膜の乾燥初期における、前記微粒子含有塗膜から溶媒が気化することによる膜厚の減少量から、前記微粒子含有塗膜中の前記溶媒の含有比率に対する、前記微粒子含有塗膜の膜厚の関係を示す膜厚減少直線を算出する膜厚減少直線算出手段と、
前記微粒子含有塗膜の完全乾燥時の膜厚である乾燥膜厚を求め、前記微粒子含有塗膜の厚みが、前記微粒子含有塗膜中の前記溶媒の含有比率によらず、常に前記乾燥膜厚と等しくなるような関係を示す乾燥膜厚直線を算出する乾燥膜厚直線算出手段と、
前記膜厚減少直線と前記乾燥膜厚直線との交点を膜厚変化停止点として算出する膜厚変化停止点算出手段と、
前記微粒子含有塗膜の乾燥開始から、前記膜厚変化停止点までは、前記膜厚減少直線に基づいて、前記微粒子含有塗膜の膜厚を算出し、前記膜厚変化停止点から、前記微粒子含有塗膜が完全乾燥状態となるまでは、前記乾燥膜厚直線に基づいて、前記微粒子含有塗膜の膜厚を算出する膜厚算出手段と、
を備えることを特徴とする微粒子含有塗膜の膜厚算出装置。
【請求項8】
請求項7に記載の膜厚算出装置であって、
前記スラリーを構成する各材料の組成比および各材料の密度、ならびに前記スラリーの基材上への塗工重量および塗工面積を入力する入力手段をさらに備えることを特徴とする微粒子含有塗膜の膜厚算出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−251262(P2011−251262A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127515(P2010−127515)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】