説明

微粒子状物質検出センサおよび微粒子状物質検出センサの製造方法

【課題】検出部に堆積した排気微粒子の脱落を防止し、安定したセンサ出力を得ることが可能で、高い検出精度を実現する。
【解決手段】ガスセンサ素子1を、検出用電極11、12を有する検出部100と、検出用電極11、12、ヒータ部20とヒータ電源20で構成する。検出用電極11、12は、絶縁基板13上に形成した電極金属膜111、121と、その表面を微粒化した微粒化層112、122からなり、主金属成分に低融点金属成分を付着させて微粒化処理することにより、微粒子状物質PMの剥離が生じにくい表面構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内燃機関から排出されるガス中の微粒子状物質の量を検出するためのセンサとして好適に使用される、電気抵抗式の微粒子状物質検出センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用ディーゼルエンジン等において、排気ガスに含まれる環境汚染物質、特に煤粒子(Soot)および可溶性有機成分(SOF)を主体とする微粒子状物質(Particulate Matter;以下、適宜PMと称する)を捕集するために、排気通路にディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、適宜DPFと称する)を設置することが行われている。DPFは、耐熱性に優れる多孔質セラミックスからなり、多数の細孔を有する隔壁に排気ガスを通過させてPMを捕捉する。
【0003】
DPFは、PM捕集量が許容量を超えると、目詰まりが生じて負圧が増大したり、PMのすり抜けが増加したりするおそれがあり、定期的に再生処理を行って捕集能力を回復させている。再生時期は、一般的には、PM捕集量の増加により前後差圧が増大することを利用しており、このため、DPFの上流および下流の圧力差を検出する差圧センサが設置される。再生処理は、ヒータ加熱あるいはポスト噴射等により高温の燃焼排気ガスをDPF内に導入し、PMを燃焼除去する。
【0004】
一方、排気ガス中のPMを直接検出するためのセンサが提案されている。このセンサを、例えばDPFの上流に設置して、DPFに流入するPM量を測定し、差圧センサに代わる再生時期の判断に利用することができる。あるいはDPFの下流に設置して、DPFをすり抜けるPM量を測定することが検討されている。後者は、車載式故障診断装置(OBD;On Board Diagnosis)において、DPFの作動状態の監視、例えば亀裂や破損といった異常の検出に利用することができる。
【0005】
従来技術として、特許文献1には、絶縁性を有する基板の表面に、一対の導電性電極を形成し、基板の裏面または内部には発熱体を形成した電気抵抗式のセンサが開示されている。このセンサは、煤粒子が導電性を有することを利用したもので、検出部となる電極間に、煤粒子が堆積することで生じる電気抵抗値の変化を検出する。発熱体は検出部の温度を一定に保持し、400℃〜600℃ではPM濃度に応じて電極間抵抗が定まる。また、検出後に付着したPMを焼き切って検出能力を回復させることができる。
【0006】
なお、PMを検出する技術としては、他に触媒と熱電対を用いてPMの酸化反応による発熱を検出するセンサや、波長可変ダイオードレーザを用いて排気ガスの化学種や温度をモニタリングする方法が知られるが、電気抵抗式のセンサは、簡易な構成で比較的安定した出力が得られる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平2−44386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1において、検出部の電極は、Pt、Rh、Au、Ag、Pd等の貴金属、またはW、Ta、Mo等の耐熱性金属を含むペースト材料にて、櫛歯型に形成されている。排気ガスに検出部が晒されると、PMが徐々に堆積して対向する電極間が導通し、当初の絶縁状態から抵抗値が低下することになる。ところが、付着したPMが、振動や風量変動などにより脱落することがあり、そのため、センサ出力が不安定になりやすい、あるいは検出精度の低下をまねくという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、内燃機関の排気ガス中のPM検出に用いられる電気抵抗式の微粒子状物質検出センサにおいて、検出部に堆積した排気微粒子の脱落を防止し、安定したセンサ出力を得ることが可能で、高い検出精度を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に記載の発明は、
被検出ガス中に含まれる炭素微粒子の量を検出する微粒子状物質検出センサであって、
被検出ガスが導入される空間部に配置される絶縁性基体と、該絶縁性基体の表面に形成される一対の検出用電極を有するセンサ部と、
上記センサ部に付着する炭素微粒子の量に応じて変化する一対の検出用電極間の電気抵抗値を検出する検出回路と、
上記センサ部加熱用のヒータ部およびヒータ電源を備え、
上記センサ部の上記一対の検出用電極は、上記披検出ガスと接触する表面に電極金属を微粒化した微粒化層を有している。
【0011】
本発明の請求項2に記載の発明において、上記一対の検出用電極の上記微粒化層は、電極を主として構成する主金属成分と微粒化成分とを含有する。
【0012】
本発明の請求項3に記載の発明において、上記一対の検出用電極の上記微粒化層は、上記微粒化成分として低融点金属成分を含有する。
【0013】
本発明の請求項4に記載の発明において、上記一対の検出用電極の上記微粒化層は、上記主金属成分からなる電極金属表面に上記微粒化成分を付着させ、炭化水素を含むガス中で加熱処理する微粒化処理によって形成される。
【0014】
本発明の請求項5に記載の発明において、上記低融点金属成分は、周期表第4A族金属から選ばれる少なくとも一種の金属である。
【0015】
本発明の請求項6に記載の発明において、上記周期表第4A族金属は、Pb、Snから選ばれる少なくとも一種の金属である。
【0016】
本発明の請求項7に記載の発明において、上記低融点金属成分は、Cd、Hgを除く周期表第2B族金属から選ばれる少なくとも一種の金属である。
【0017】
本発明の請求項8に記載の発明において、上記周期表第2B族金属は、Znである。
【0018】
本発明の請求項9に記載の発明において、上記低融点金属成分は、周期表第1B族金属から選ばれる少なくとも一種の金属である。
【0019】
本発明の請求項10に記載の発明において、上記周期表第1B族金属は、Cu、Ag、Auから選ばれる少なくとも一種の金属である。
【0020】
本発明の請求項11に記載の発明において、上記検出用電極を構成する電極金属に対する上記微粒化成分の含有量が0.01%〜3%の範囲である。
【0021】
本発明の請求項12に記載の発明は、
被検出ガスが導入される空間部に配置される絶縁性基体と、該絶縁性基体の表面に形成される一対の検出用電極を有するセンサ部と、
上記センサ部に付着する炭素微粒子の量に応じて変化する一対の検出用電極間の電気抵抗値を検出する検出回路と、
上記センサ部加熱用のヒータ部およびヒータ電源を備え、被検出ガス中に含まれる炭素微粒子の量を検出する微粒子状物質検出センサの製造方法であって、
上記センサ部は、
上記絶縁性基体の表面に、上記一対の検出用電極を形成し、各電極を構成する金属表面に、微粒化成分として低融点金属成分を付着させる工程と、
低融点金属成分を付着させた上記一対の検出用電極を、水素含有雰囲気中で還元処理する工程と、
炭化水素含有雰囲気中で加熱処理して、上記一対の検出用電極の上記披検出ガスと接触する表面に、電極金属を微粒化した微粒化層を形成する工程とを有する。
【0022】
本発明の請求項13に記載の発明において、上記低融点金属成分を付着させる工程は、上記一対の検出用電極に、上記低融点金属成分を含む溶液を含浸させるディップ法、または上記低融点金属成分を物理蒸着させる蒸着法を用いて実施する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1に記載の微粒子状物質検出センサは、検出用電極の表面に微粒化層を有しているので、付着した微粒子状物質PMが振動、風量変動などにより脱落しにくく、そのためセンサ出力が安定する。よって、被測定ガス中の微粒子状物質PMの量に応じた出力が得られ、精度よい検出が可能である。
【0024】
本発明の請求項2に記載の発明において、上記微粒化層は、電極金属を主として構成する主金属成分と微粒化成分との共晶により形成され、微粒子の角に微粒子状物質PMを保持することができる。
【0025】
本発明の請求項3に記載の発明において、上記微粒化層は、上記微粒化成分を低融点金属成分とすると、主金属成分との共晶を容易に形成できる。
【0026】
本発明の請求項4に記載の発明において、上記微粒化層は、上記微粒化成分を付着させた状態で、炭化水素を含むガス中で加熱処理することにより、微粒化を促進することができる。
【0027】
本発明の請求項5に記載の発明において、具体的には、上記低融点金属成分は、周期表第4A族金属から選ばれる少なくとも一種の金属が用いられる。
【0028】
本発明の請求項6に記載の発明において、上記周期表第4A族金属は、好適には、Pb、Snが挙げられる。
【0029】
本発明の請求項7に記載の発明において、上記低融点金属成分は、Cd、Hgを除く周期表第2B族金属から選ばれる少なくとも一種の金属であってもよい。
【0030】
本発明の請求項8に記載の発明において、上記周期表第2B族金属は、好適には、Znである。
【0031】
本発明の請求項9に記載の発明において、上記低融点金属成分は、周期表第1B族金属から選ばれる少なくとも一種の金属であってもよい。
【0032】
本発明の請求項10に記載の発明において、上記周期表第1B族金属は、好適には、Cu、Ag、Auが挙げられる。
【0033】
本発明の請求項11に記載の発明において、上記微粒化成分の含有量が0.01%〜3%の範囲にあると、微粒化層が容易に得られる。
【0034】
本発明の請求項12に記載の方法によれば、検出用電極の表面に、低融点金属成分を容易に付着させ、炭化水素含有雰囲気中で、加熱処理することにより、電極金属を微粒化した微粒化層を形成することができる。
【0035】
本発明の請求項13に記載の方法において、上記低融点金属成分を付着させる工程は、ディップ法、または蒸着法を用いて容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態を示し、PMセンサの主要部であるPM検出素子構成を示す概略斜視図、(b)は、(a)のA−A線断面における一部拡大図である。
【図2】自動車用ディーゼルエンジンの排気管に、PMセンサを取り付けた状態を示す概略断面図である。
【図3】(a)は、微粒化処理工程図であり、(b)は、微粒化処理工程における(3)の工程を説明するための図である。
【図4】(a)は、微粒化処理工程の(1)の工程後の状態を説明するための図であり、(b)は、微粒化処理後のPM検出素子の検出部構造を、従来の検出部構造と比較して示した図である。
【図5】Pt−Pb合金の状態図である。
【図6】本発明の実施例における検出用電極の表面状態を示す電子顕微鏡写真とPb量の関係を示す図である。
【図7】Pb量と不安定頻度の関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の微粒子状物質検出センサを、内燃機関の排ガス浄化システムへ適用した第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。図2は、内燃機関である自動車用ディーゼルエンジンの排気管Eに、微粒子状物質検出センサであるPMセンサSを取り付けた状態を示す図であり、図1(a)は、PMセンサSの主要部であるPM検出素子1構成を示す概略図、図1(b)は、図1(a)のA−A線断面における一部拡大図である。
【0038】
図1(a)において、PM検出素子1は、絶縁性基体である絶縁基板13の表面に、センサ部となる一対の検出用電極11、12を形成して検出部100とし、電極リード部15、16を介して検出回路10と接続している。絶縁基板13の裏面側には、検出部100を加熱するためのヒータ部200が積層され、ヒータリード部23、24を介してヒータ電源20が接続される。
【0039】
検出部100は、アルミナ等の電気絶縁性および耐熱性に優れたセラミック材料をドクターブレード法、プレス成形法等の公知の手法を用いて平板状の絶縁基板13に形成し、その先端部表面に、所定の電極間距離をおいて一対の櫛歯形状の検出用電極11、12を対向配設させてなる。検出用電極11、12は、電極金属成分を含む導電性ペーストを、所定のパターンに印刷して形成され、同様にして絶縁基板13表面に印刷形成される電極リード部14、15の一端に、それぞれ接続している。電極リード部14、15の他端は、外部の検出回路10に接続し、これにより検出用電極11、12間の電気抵抗が計測されるようになっている。
【0040】
ヒータ部200は、同様の手法で形成した平板状の絶縁基板22と、その先端部表面に所定パターンで印刷形成したヒータ電極21を有している。ヒータ電極21の両端は、絶縁基板22の表面に印刷形成したヒータリード部23、24によって、外部のヒータ電源20に接続される。ヒータ電源20への通電によって、ヒータ電極21が発熱し、直上位置にある検出部100を所定温度(例えば400℃〜600℃程度)に加熱するようになっている。
【0041】
図1(b)は、本発明の特徴である検出用電極11、12の構造を模式的に示すものである。検出用電極11、12は、パターン印刷により形成される所定厚さの電極金属膜111、121と、その表面を微粒化した微粒化層112、122を有する二層構造となっている。
電極金属膜111、121は、電極金属を主として構成する主金属成分として、Pt、Rh、Au、Ag、Pd等の貴金属、またはW、Ta、Mo等の耐熱性金属から選ばれる少なくとも1種を含有する。微粒化層112、122は、電極金属膜111、121を構成する主金属成分に加えて、微粒化成分を含有する。主金属成分に微粒化成分となる微量の低融点金属成分を添加し、所定雰囲気で加熱処理することにより、電極金属の表面を微粒化することができる。この微粒化処理については、詳細を後述する。
【0042】
低融点金属成分としては、例えば、周期表第4A族金属から選ばれる少なくとも一種の金属、具体的には、Pb、Snから選ばれる少なくとも一種の金属が用いられる。あるいは、Cd、Hgを除く周期表第2B族金属から選ばれる少なくとも一種の金属、具体的には、Znを用いることもできる。Cd、Hgは毒性を有するため、好ましくない。または、周期表第1B族金属から選ばれる少なくとも一種の金属、Cu、Ag、Auから選ばれる少なくとも一種の金属であってもよい。
【0043】
このような低融点金属成分は、比較的低い処理温度で主金属成分と合金化し、電極金属の表面に多数の微粒化した金属合金粒子からなる微粒化層112、122を形成する。また、微粒子状物質PMとの親和性が高く、捕捉した微粒子状物質PMの剥れが生じにくい。図1(b)には、例えば、電極金属膜111、121をPtで構成し、低融点金属成分としてPbを用いて合金化したPtPb合金粒子を含む微粒化層112、122を形成した例を示している。
【0044】
図2において、PMセンサSは、例えば、図示しないディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)下流の排気管Eに設置されて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれる微粒子状物質PMの量を測定する。PMセンサSは、排気管Eの管壁に螺結される筒状ハウジング50を有し、その内部に筒状インシュレータ60に挿入固定されたPM検出素子1の上半部を保持している。PM検出素子1の下半部は、筒状ハウジング50の下端部に固定されて排気管E内に突出する中空のカバー体40内に位置している。カバー体40の底部および側部には、排気管E内の排気通路に開口してDPFを通過した排気ガスが流出入する、通孔410、411が穿設されている。
【0045】
この時、微粒子状物質PMを確実に捕捉するため、図示するように、PM検出素子1の検出部100が排気管Eの上流側を向くように配置するとよい。また、検出部100を除く絶縁基板13の表面に、電極リード部14、15を覆って絶縁性保護層16を形成すると、電極リード部14、15間に微粒子状物質PMが堆積することによる誤検出を防止することができる。
【0046】
ディーゼルエンジンの排気ガスには、煤粒子(Soot)および可溶性有機成分(SOF)を主体とする微粒子状物質PMが含まれる。微粒子状物質PMを捕集するために設置されるDPFは、通常、公知のウォールフロータイプのフィルタ構造を有する。例えば、コーディエライト等の耐熱性セラミックスよりなる多孔質セラミックスハニカム構造体を成形し、ガス流路となる多数のセルの入口側または出口側のいずれか一方を、隣接するセルで互い違いになるように目封じしてフィルタとする。この時、ガス流路を区画するセル壁を貫通して多数の細孔が形成され、DPFに導入される排気ガス中の微粒子状物質PMを捕獲する。
【0047】
DPFの前段に公知のディーゼル酸化触媒(DOC)を配置して、排出される燃焼排気ガスを予め処理することもできる。この時、燃焼排気ガスは上流側のDOCを通過する間に、未燃焼の炭化水素HC、一酸化炭素COおよび一酸化窒素NOが酸化され、下流側のDPFを通過する間に、微粒子状物質PMが捕集される。DOCとDPFを一体化した連続再生式ディーゼルパティキュレートフィルタとして構成することもできる。DOCは、ディーゼルDPFの強制再生時に、供給される燃料の酸化燃焼により排気温度を上昇させ、あるいは微粒子状物質PM中のSOF成分を酸化除去する。また、NOの酸化により生成するNOは、後段のDPFに堆積した微粒子状物質PMの酸化剤として使用され、連続的な酸化を可能にする。
【0048】
図1、2の構成において、PMセンサSは、DPFで捕集されずに下流側へすり抜けてきた微粒子状物質PM、特に導電性物質である煤粒子を検出する。PM検出素子1の検出部100に到達した微粒子状物質PMは、一対の検出用電極11、12表面および両電極間の絶縁基板13表面に付着し、堆積していく。そして、対向する櫛歯形状の検出用電極11、12間が、微粒子状物質PMによって導通すると、検出回路10で測定される電極間抵抗は、略絶縁状態から急激に低下し、微粒子状物質PMの堆積量に依存して変化する。
【0049】
ここで、本発明では、一対の検出用電極11、12の表面に微粒化層112、122を形成しているので、電極表面が平滑ではなく、微粒子状物質PMが無数に存在する微粒合金の粒界に容易に捕捉される。また、SOF成分が除去された煤粒子主体の微粒子状物質PMは、SOF成分が多い場合より電極表面から剥離しやすいが、微粒化層112、122により煤粒子の剥離も生じにくくなる。さらに、微粒化層112、122に存在する低融点金属成分が煤粒子との親和性(反応性)を有して微粒子状物質PMの保持に寄与すると推測される。したがって、検出用電極11、12に達した微粒子状物質PMが微粒化層112、122に確実に保持され、特性を安定化するとともに、微粒子状物質PMの量を精度よく測定することができる。
【0050】
次に、検出用電極11、12の表面に微粒化層112、122を形成する微粒化処理方法を、図3、4を用いて具体的に説明する。図3(a)は、微粒化処理工程図であり、まず(1)の工程において、微粒化成分である低融点金属成分を付着させる。ここでは、低融点金属成分として、周期表第4A族金属であるPbを用い、低融点金属成分の溶液である酢酸鉛水溶液を含浸させるディップ法によって行なう。具体的には、図3(b)に示すように、酢酸鉛水溶液を入れた容器に、PM検出素子1の検出部100を浸漬し、乾燥させて、検出部100に形成した一対の電極金属膜111、121の表面に酢酸鉛を付着させる。電極金属膜111、121は、例えば貴金属であるPtで構成する。
【0051】
この時、酢酸鉛水溶液の濃度を調整することにより、電極金属膜111、121表面への酢酸鉛の付着量、すなわちPb付着量を調整することができる。さらには、酢酸鉛水溶液への浸漬時間および引上速度を調整することにより、最終的な検出用電極11、12表面のPb付着量を所望の範囲とする。酢酸鉛水溶液の濃度が高いと、Pb付着量が多くなり、微粒化処理過程において、不要なカーボンフィラメントが生成するので、酢酸鉛水溶液の濃度(Pb濃度に換算)は2.0g/Lより低濃度とするのがよい。好適には、1.5g/L以下、例えば、1.0g/L前後とするのがよい。
【0052】
図3(a)の(2)の工程は熱分解処理の工程であり、(1)の工程で付着させた酢酸鉛を、大気中または窒素雰囲気中で加熱し、熱分解して酸化鉛とする。熱分解処理の温度は、酢酸鉛が熱分解可能な温度以上であり、また、次工程の還元処理における標準処理温度以下、例えば、200〜800℃の範囲とすることができる。処理時間は、熱分解に最低限必要な時間以上で熱ダメージを受けない時間、例えば、0.5〜3時間の範囲で適宜選択するのがよい。
【0053】
図3(a)の(3)の工程は水素還元処理の工程であり、(2)の工程で熱処理により生成した酸化鉛を、水素含有雰囲気中で還元して、金属鉛とする。還元処理の雰囲気ガスは、例えば、H/N混合ガスを用い、雰囲気中の水素濃度は、低融点成分である鉛の還元に最低限必要な濃度以上であり、過剰Hによる劣化が防止できる濃度、例えば、5〜20%の範囲となるように調整するとよい。また、還元処理の温度範囲は、還元に最低限必要な温度以上でHによる熱による劣化が防止できる温度、例えば、500〜1000℃の範囲とし、処理時間は、還元に最低限必要な時間以上で熱ダメージを受けない時間、例えば、0.5〜3時間の範囲で適宜選択するのがよい。
【0054】
図4(a)は、これら(1)〜(3)の工程により、電極金属膜111、121の表面に金属鉛を付着させた状態を示す模式的な図である。次いで、図3(a)の(4)の工程で、炭化水素含有雰囲気中で、加熱処理することにより、金属鉛を付着させた電極金属膜111、121の表面を微粒化する。雰囲気ガスとしては、低級不飽和炭化水素、例えば、エチレン(C)を0.5〜2%濃度で含有するガスが好適に用いられる。エチレン濃度が、この範囲より薄いと微粒化が不十分となり、この範囲より濃いと過剰な微粒化やカーボンフィラメント生成のおそれがある。また、温度範囲は、例えば、550〜850℃の範囲とし、これより温度が低いと微粒化が不十分となり、温度が高いと微粒化せずに劣化が生じるおそれがある。処理時間は、温度条件によっても異なるが、例えば、0.5〜4時間の範囲で適宜選択するのがよい。処理時間が短いと微粒化が不十分となり、長いと過剰な微粒化やカーボンフィラメント生成のおそれがある。
【0055】
図4(b)は、(4)の工程により、電極金属膜111、121の表面において、電極金属の微粒化が進行し、微子状のPtPb合金粒子が生成して、微粒化層112、122を形成している状態を示す模式的な図である。その下段には、電極金属粒子が大きい従来のPt電極構造の模式図を示している。本発明による微粒化層112、122は、主金属成分であるPtと、その表面に偏在する低融点金属成分であるPbの共晶により形成されると推定される。図5は、Pt-Pb系合金の状態図であり、550℃以上の加熱処理により低融点金属であるPbが溶融すると、その周囲においてPtとの共晶反応が進行し、冷却過程でPb濃度と温度に応じた合金粒子が生成する。また、低級不飽和炭化水素であるエチレンは、ガス状で反応性が高く、高温で分解して水素を生成することから、電極金属表面の反応性が高まり、さらに粒界にカーボンを析出することで微粒化が促進されて、電極金属粒子が微細に分割された粒子の層を形成すると考えられる。
【0056】
このような微粒化層112、122の形成には、適度な量の低融点金属成分が必要であり、無添加では微粒化の効果が得られず、過剰な量の添加では、カーボンフィラメント状の副生成物が生じる。これは、電極金属表面の反応性が高まることで、低級不飽和炭化水素に由来するカーボンが析出しやすくなるからで、甚だしい場合には電極が破壊されるおそれがある。このため、低融点金属成分は、主金属成分を含む電極金属材中の含有量が、0.01〜3%の範囲、好ましくは、0.1〜2%の範囲となるように添加するのがよい。
【0057】
なお、図3(a)の(1)の工程は、ディップ法に代えて、物理蒸着法により、低融点金属成分を付着させることもできる。例えば、低融点金属成分をAuとし、公知の真空蒸着装置にAuターゲットをセットし、電流20mA、5minの設定で、5Pa以下の真空度到達後に蒸着を開始する。設定時間経過後、真空リークして取り出し、以降の工程を同様に実施すればよい。
【実施例】
【0058】
本発明の効果を確認するために、上記図3に示した(1)〜(4)の工程に従って、検出用電極11、12の微粒化処理を実施し、電極金属膜111、121の表面に微粒化層112、122を形成した。電極金属膜111、121を構成する主金属成分はPtとし、微粒化成分である低融点金属成分はPbとした。(1)の工程において、PM検出素子1の検出部100を、酢酸鉛水溶液(Pb濃度換算で1.0g/L)にディップし、浸漬時間5秒、引上速度2mm/秒の条件で、酢酸鉛を付着、乾燥させた。その後、(2)の工程で、大気中、500℃で1時間の熱分解処理を行い、さらに(3)の工程で、H/N雰囲気(H濃度13%)中にて、800℃で1時間の還元処理を行った。次いで、エチレン濃度1%の雰囲気中で、750で1時間の加熱処理を行い、金属鉛を付着させた電極金属表面を微粒化した。
【0059】
図6は、上記のようにして微粒化層112、122を形成した検出用電極11、12の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。図6には、(1)の工程において使用した酢酸鉛水溶液の濃度(Pb濃度換算で1.0g/L)とともに、ICP質量分析によって測定した、検出用電極11、12を構成する電極金属中のPb量(μg/mg)、XPS分析で算出されるPb含有量(atm%)を併記した。また、比較のため、(1)の工程において使用する酢酸鉛水溶液の濃度を変更した場合(Pb濃度換算で2.0g/L)、(1)の工程、すなわち酢酸鉛水溶液のディップを実施せず、以降の処理を実施した場合についても、図6に検出用電極11、12の表面状態を示す電子顕微鏡写真、Pb量(μg/mg)、Pb含有量(atm%)を示した。
【0060】
図6に明らかなように、電極金属が低融点金属成分を含まない(Pb含有量0atm%)の場合には、電極表面の変化はなく、表面の平滑な比較的大きな金属粒子によって電極が形成されている。これに対して、Pb含有量(atm%)が1%と適切である場合には、電極金属粒子の微粒化が進行し、より微細で粒界が明確となっている。一方、Pb含有量(atm%)が5%とさらに多くなると、電極金属粒子の表面にカーボンフィラメントが析出していることがわかる。
【0061】
そこで、これら電極表面の状態の違いが微粒子状物質PMの付着に与える影響を調べるために、テープ剥離試験を行って、結果を図7に示した。テープ剥離試験は、図6の3種類のサンプル電極表面に、煤粒子を付着させた後、低粘着力の透明テープを使用して簡単に剥がれる付着強度の弱い煤粒子量(炭素量)を評価した。評価は、低粘着力テープの透過度が50%以上低下した時に、「不安定」と判断し、剥離試験を繰り返し行った時の不安定頻度を、図7に柱状グラフの高さで比較した。
【0062】
図示されるように、Pb含有量(atm%)が0%の従来構造では、不安定頻度が高く、Pbを添加して微粒化することで、安定度が著しく向上する。ただし、Pb含有量(atm%)が5%を超えるとカーボンフィラメントが発生して電極破壊といった悪影響が生じる。したがって、カーボンフィラメントを発生させることなく、電極金属を微粒化させることが重要であることがわかる。
【0063】
表1は、Pb含有量(atm%)を0.005〜6%の範囲で変化させて、電極金属表面の微粒化状態を調べた結果である。表中に示したように、Pb含有量(atm%)が0.005%では、微粒化は進行せず、微粒化層を形成して本発明の効果を得るには、0.01%以上が必要である。0.1%以上であれば、良好な微粒化状態が得られるが、4%でやや微粒化が過剰となり、6%ではカーボンフィラメントが発生する。
【0064】
【表1】


【0065】
さらに、低融点金属成分として、Pbに代えて、周期表第2B族金属であるZnを用いた場合について、同様にして、Zn含有量と電極微粒化状態の関係を調べた。また、主金属成分として、Ptに代えて、耐熱性金属であるWを用い、低融点金属成分として、Pbを使用した場合について、同様にして、Pb含有量(atm%)と電極微粒化状態の関係を調べた。これらの結果をそれぞれ、表2、表3に示した。
【0066】
表2、表3に明らかなように、いずれも同様の傾向が見られた。ただし低融点金属成分として、Znを用いた場合には、含有量2%で微粒化がやや過剰となり、主金属成分として、Wを用いた場合は、含有量2%で微粒化がやや過剰となるとともに、含有量0.1%で微粒化がやや少ない結果となった。したがって、使用する主金属成分、低融点金属成分およびそれらの組み合わせに応じて、最適な微粒化状態となるように、低融点金属成分の添加量を設定するのがよい。
【0067】
【表2】


【0068】
【表3】


【産業上の利用可能性】
【0069】
このようにして形成される本発明の微粒子状物質検出センサは、DPFの下流に設置されて、DPFの異常検出に利用することができる。あるいは、DPFの上流に設置されて、DPFに流入する微粒子状物質PMを直接検出するシステムに利用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出ガス中に含まれる炭素微粒子の量を検出する微粒子状物質検出センサであって、
被検出ガスが導入される空間部に配置される絶縁性基体と、該絶縁性基体の表面に形成される一対の検出用電極を有するセンサ部と、
上記センサ部に付着する炭素微粒子の量に応じて変化する一対の検出用電極間の電気抵抗値を検出する検出回路と、
上記センサ部加熱用のヒータ部およびヒータ電源を備え、
上記センサ部の上記一対の検出用電極は、上記披検出ガスと接触する表面に電極金属を微粒化した微粒化層を有していることを特徴とする微粒子状物質検出センサ。
【請求項2】
上記一対の検出用電極の上記微粒化層は、電極を主として構成する主金属成分および微粒化成分を含有する請求項1記載の微粒子状物質検出センサ。
【請求項3】
上記一対の検出用電極の上記微粒化層は、上記微粒化成分として低融点金属成分を含有する請求項2記載の微粒子状物質検出センサ。
【請求項4】
上記一対の検出用電極の上記微粒化層は、上記主金属成分からなる電極金属表面に上記微粒化成分を付着させ、炭化水素を含むガス中で加熱処理する微粒化処理によって形成される請求項2または3記載の微粒子状物質検出センサ。
【請求項5】
上記低融点金属成分は、周期表第4A族金属から選ばれる少なくとも一種の金属である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の微粒子状物質検出センサ。
【請求項6】
上記周期表第4A族金属は、Pb、Snから選ばれる少なくとも一種の金属である請求項5記載の微粒子状物質検出センサ。
【請求項7】
上記低融点金属成分は、Cd、Hgを除く周期表第2B族金属から選ばれる少なくとも一種の金属である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の微粒子状物質検出センサ。
【請求項8】
上記周期表第2B族金属は、Znである請求項7記載の微粒子状物質検出センサ。
【請求項9】
上記低融点金属成分は、周期表第1B族金属から選ばれる少なくとも一種の金属である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の微粒子状物質検出センサ。
【請求項10】
上記周期表第1B族金属は、Cu、Ag、Auから選ばれる少なくとも一種の金属である請求項9記載の微粒子状物質検出センサ。
【請求項11】
上記検出用電極を構成する電極金属に対する上記微粒化成分の含有量が0.01%〜3%の範囲である請求項1ないし10のいずれか1項に記載の微粒子状物質検出センサ。
【請求項12】
被検出ガスが導入される空間部に配置される絶縁性基体と、該絶縁性基体の表面に形成される一対の検出用電極を有するセンサ部と、
上記センサ部に付着する炭素微粒子の量に応じて変化する一対の検出用電極間の電気抵抗値を検出する検出回路と、
上記センサ部加熱用のヒータ部およびヒータ電源を備え、被検出ガス中に含まれる炭素微粒子の量を検出する微粒子状物質検出センサの製造方法であって、
上記センサ部は、
上記絶縁性基体の表面に、上記一対の検出用電極を形成し、各電極を構成する金属表面に、微粒化成分として低融点金属成分を付着させる工程と、 低融点金属成分を付着させた上記一対の検出用電極を、水素含有雰囲気中で還元処理する工程と、
炭化水素含有雰囲気中で加熱処理して、上記一対の検出用電極の上記披検出ガスと接触する表面に、電極金属を微粒化した微粒化層を形成する工程とを有することを特徴とする微粒子状物質検出センサの製造方法。
【請求項13】
上記低融点金属成分を付着させる工程は、上記一対の検出用電極に、上記低融点金属成分を含む溶液を含浸させるディップ法、または上記低融点金属成分を物理蒸着させる蒸着法を用いて実施する請求項12記載の微粒子状物質検出センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−8105(P2012−8105A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146729(P2010−146729)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】