説明

微粒子複合体の製造方法

【課題】固体微粒子として二酸化チタンを用いた場合、二酸化チタン単体によるアルコールやアルデヒド等の有機物質の分解速度とほぼ同様の分解能を備える微粒子複合体を製造することができる微粒子複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】微粒子複合体の製造方法は、固体微粒子を炭素で被覆して炭素被覆固体微粒子を得る工程と、前記炭素被覆固体微粒子を含む合成媒体中に多孔体を生成可能な成分を添加し、混合することにより、前記炭素被覆固体微粒子と前記多孔体を生成可能な成分とを複合化させて微粒子含有複合前駆体(a)を得る工程と、前記微粒子含有複合前駆体(a)を焼成し、前記炭素を消失させて、前記固体微粒子と多孔体とを含有する微粒子複合体を得る工程と、から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体微粒子は、そのサイズ、高い表面積を利用して工業的に様々な局面で用いられる。特に、直径がマイクロメートル以下の固体微粒子は、重量あたりの表面積が大きいため、光触媒等の触媒として様々な応用がなされている。
【0003】
有機分子や無機分子の変換や分解を行う触媒への固体微粒子の応用では、金属、金属酸化物、金属窒化物を問わず、触媒活性を有する物質を固体微粒子として利用することにより、触媒活性が増大することが知られている。
【0004】
光触媒においても、活性物質を固体微粒子化することにより性能の向上が図られている。しかし、固体微粒子は一般にその粒子径が小さくなるほど不安定化し、単独では十分な熱安定性が得られないことが多い。すなわち、加熱により固体微粒子の結晶相の変化・粒子成長・固体微粒子間の融合・表面積の低下などさまざまな現象が起こり、その性能を低下させる。
【0005】
これらを防ぐために、メソポーラスシリカやゼオライト等、高表面積の多孔体担体上に二酸化チタン等の固体微粒子を分散担持することが行なわれており、多孔体に固体微粒子を担持させる方法として、例えば、特許文献1、2に開示された方法がある。
【0006】
特許文献1では、固体微粒子を、多孔体が生成する前の合成媒体中に分散させ、その後合成媒体中で多孔体を生成させることにより微粒子複合体を得る方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2では、所謂ドライゲルコンバージョン法を用い、結晶性多孔体と固体微粒子との微粒子複合体を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−314208号公報
【特許文献2】特開2009−155178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び特許文献2の製造方法によって、固体微粒子として二酸化チタンを用いて得られた微粒子複合体では、アルコールやアルデヒド等の有機物質を除去する触媒として用いた場合、二酸化チタン単体による有機物質の分解速度に比べて劣っており、触媒活性の観点から未だ改善の余地があった。
【0010】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、固体微粒子として二酸化チタンを用いた場合、二酸化チタン単体によるアルコールやアルデヒド等の有機物質の分解速度とほぼ同様の分解能を備える微粒子複合体を製造することができる微粒子複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点に係る微粒子複合体の製造方法は、
固体微粒子を炭素で被覆して炭素被覆固体微粒子を得る工程と、
前記炭素被覆固体微粒子を含む合成媒体中に多孔体を生成可能な成分を添加し、混合することにより、前記炭素被覆固体微粒子と前記多孔体を生成可能な成分とを複合化させて微粒子含有複合前駆体(a)を得る工程と、
前記微粒子含有複合前駆体(a)を焼成し、前記炭素を消失させて、前記固体微粒子と多孔体とを含有する微粒子複合体を得る工程と、
を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の観点に係る微粒子複合体の製造方法は、
固体微粒子を炭素で被覆して炭素被覆固体微粒子を得る工程と、
前記炭素被覆固体微粒子を含む合成媒体中に多孔体を生成可能な成分を添加し、混合することにより、前記炭素被覆固体微粒子と前記多孔体を生成可能な成分とを複合化させて微粒子含有複合前駆体(a)を得る工程と、
前記微粒子含有複合前駆体(a)を加熱水蒸気雰囲気中もしくは液体の水存在下で加熱熟成させて微粒子含有複合前駆体(b)を得る工程と、
前記微粒子含有複合前駆体(b)を焼成し、前記炭素を消失させて、前記固体微粒子と結晶性多孔体とを含有する微粒子複合体を得る工程と、
を含むことを特徴とする。
【0013】
また、前記固体微粒子に有機物を吸着させ、前記有機物を炭化させて前記炭素被覆固体微粒子を得ることが好ましい。
【0014】
また、前記有機物を非酸素雰囲気下で加熱して炭化させてもよい。
【0015】
また、脱水剤を用いて前記有機物を炭化させてもよい。
【0016】
また、前記固体微粒子として酸化チタンを用いることが好ましい。
【0017】
また、前記多孔体を生成可能な成分として、テトラ炭化水素オキシシラン、シリカ、シリカアルミナ、シリカゲル、水ガラス、及び、フュームドシリカからなる群から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の観点に係る微粒子複合体の製造方法では、二酸化チタン等の固体微粒子表面を炭素で被覆し、この炭素被覆固体微粒子を用いて微粒子含有複合前駆体(a)を形成し、微粒子含有複合前駆体(a)を焼成して被覆した炭素を消失させることで、固体微粒子と多孔体を含有する微粒子複合体を形成している。また、本発明の第2の観点に係る微粒子複合体の製造方法では、上記微粒子含有複合前駆体(a)を用い、所謂ドライゲルコンバージョン法により微粒子含有複合前駆体(b)を得て、これを焼成して被覆した炭素を消失させることで、固体微粒子と結晶性多孔体を含有する微粒子複合体を形成している。このようにして得られた微粒子複合体では、多孔体に吸着された有害物質等の二酸化チタンへの移動速度が高く、吸着された有害物質等が速やかに固体微粒子に運ばれて分解される。このように、本発明に係る微粒子複合体の製造方法では、二酸化チタン単体による有害物の分解速度とほぼ同様の分解能を備え、触媒活性の高い微粒子複合体を得られる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態1に係る微粒子複合体の製造方法の工程図である。
【図2】実施の形態2に係る微粒子複合体の製造方法の工程図である。
【図3】ドライゲルコンバージョン法を行うための装置の概念図である。
【図4】実施例1の2−プロパノールの分解実験において、(A)は2−プロパノールの濃度変化、(B)はアセトンの濃度変化、(C)は二酸化炭素の濃度変化を示すグラフである。
【図5】実施例2の2−プロパノールの分解実験において、(A)は2−プロパノールの濃度変化、(B)はアセトンの濃度変化、(C)は二酸化炭素の濃度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る微粒子複合体の製造方法は、図1の工程図に示すように、炭素被覆固体微粒子を得る工程と、微粒子含有複合前駆体(a)を得る工程と、微粒子複合体を得る工程と、から構成される。以下、各工程について詳細に説明する。
【0021】
(炭素被覆固体微粒子を得る工程)
まず、炭素被覆固体微粒子を得る工程について説明する。固体微粒子の表面に炭素を被覆することができれば、特に限定されることはないが、例えば、固体微粒子の表面に炭素を被覆する方法として、以下の方法が挙げられる。
【0022】
有機物を固体微粒子表面に吸着させた後、有機物を炭素に変換することにより、固体微粒子表面に炭素を被覆することができる。
【0023】
有機物として、アルカン、アルケン、アルコール、エステル、エーテルなどの含酸素化合物の他、ピリジン、アニリン、アミンなどの含窒素化合物も用いることができる。また、ベンゼン環、ピリジン環、ナフタレン環などを含む芳香族化合物に窒素、酸素が結合している有機物を用いてもよい。
【0024】
有機物は分子の状態で固体微粒子表面に吸着させてもよく、固体微粒子表面にて重合反応を生じさせ、高分子として被覆させてもよい。固体微粒子存在下で、有機物モノマーを重合させることにより、有機物の高分子を固体微粒子に被覆させることができる。
【0025】
また、有機物の高分子を溶媒に分散或いは溶解させた溶液に固体微粒子を含浸することにより、固体微粒子表面に有機物の高分子を被覆してもよい。用いる溶媒は有機溶媒でも水性溶媒でもよく、有機物に応じて適宜変更すればよい。たとえば、水溶性の高分子として、エーテル結合やエステル結合をもつ高分子や、ポリビニルアルコールのように水酸基をもつ高分子を用いた場合、水性溶媒を用いればよい。高分子としては、上述した有機物を重合させたものを用いればよい。
【0026】
固体微粒子表面に吸着させた有機物を炭素に変換する方法としては、酸素の非存在下、例えば、窒素ガスや不活性ガス気流中、或いは真空中にて加熱することにより、あらゆる有機物を炭化することができる。これにより、固体微粒子表面を炭素で被覆した炭素被覆固体微粒子を得ることができる。
【0027】
また、加熱もしくは非加熱で、吸着させた有機物を種々の薬品と化学反応させて炭化させてもよい。例えば、ショ糖のような糖質等の有機物を固体微粒子表面に吸着させた場合、常温で濃硫酸等の脱水剤と有機物とを反応させることで、加熱することなく容易に炭化させることができる。
【0028】
固体微粒子としては、マグネシア、アルミナ、シリカ、リン酸アルミニウム、ホウ素、炭素、窒化シリコン、窒化アルミニウムなど無機の酸化物、塩化物、窒化物、ホウ化物、炭化物、硫化物などのほか、ポリエチレンなどの樹脂の粒子など、有機物を用いることも可能であるが、特に光触媒機能を有する微粒子であることが好ましい。
【0029】
光触媒機能を有する微粒子(以下、光触媒微粒子)としては、半導体としての特性を有し光触媒特性を持つとされるものであれば、あらゆるものが使用可能である。なかでも、金属硫化物や金属酸化物が好ましく、チタニア、ジルコニア、酸化ニオブ、酸化タングステン等の金属酸化物が最も好ましい。具体的なものとしては、TiO,SrTiO,WO,Fe,Bi,MoS,CdS,CdSe,GaP,GaAs,MoSe,CdTe,Nb,Ta,NbとTaの複合酸化物の他、HPW1240やHPMo1240などのヘテロポリ酸及びそれらの塩などを挙げることができる。なかでも、光触媒活性が高いことが知られているTiO(二酸化チタン)が好ましい。なお、光触媒微粒子としては、凝集していない細かい粒子状のもの(例えば独デグサ社製のP−25)を用いることが好ましい。
【0030】
固体微粒子としては、平均粒径が2nm以上50000nm以下の細孔を形成するものであることが好ましい。下限としては、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。上限としては、50000nm以下がより好ましく、1000nm以下がさらに好ましい。固体微粒子の平均粒径が上記範囲より小さいと、固体微粒子の結晶性が悪く、光触媒活性が低くなる。また、平均粒径が上記範囲より大きいと固体微粒子の表面積が小さくなるため、触媒活性が低くなるためである。
【0031】
(微粒子含有複合前駆体(a)を得る工程)
続いて、微粒子含有複合前駆体(a)を得る工程について説明する。
【0032】
上述のようにして得られた炭素被覆固体微粒子を含む合成媒体中に多孔体を生成可能な成分を添加し、混合する。これにより、炭素被覆固体微粒子と多孔体を生成可能な成分とを複合化させて微粒子含有複合前駆体(a)を得ることができる。
【0033】
合成媒体としては、水性媒体であることが好ましい。水性媒体として、例えば、pHを調整する目的で水にアンモニア、水酸化ナトリウム等が添加された媒体が挙げられる。合成媒体のpHは、9〜12、若しくは1〜5であることが好ましい。pHが前記範囲内であるとシリカが容易に析出する。
【0034】
多孔体を生成可能な成分として、多孔体を形成するものであれば特に限られるものではないが、珪素化合物を用いることが好ましい。珪素化合物としては、テトラ炭化水素オキシシラン、シリカ、シリカアルミナ、シリカゲル、水ガラスおよびフュームドシリカからなる群から選択される少なくとも1種の珪素化合物であることが好ましい。具体的には、テトラアルコキシシラン、テトラハロゲン化シランが挙げられる。これに他の金属のアルコキシドや塩化物を加えてもよい。中でもテトラエトキシシランが好ましい。これらの珪素化合物はシリカを容易に生成するためである。
【0035】
また、合成媒体中に界面活性剤を含有させておいてもよい。界面活性剤としては、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびハロゲン化テトラアルキルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤を用いるとよい。
【0036】
中でもテトラアルキルアンモニウムブロミド、テトラアルキルアンモニウムクロリド、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマーがより好ましいが、メソポーラスシリカの合成に一般に用いられているものであれば好適に用いることができる。具体的には、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド等が好ましい。これらの界面活性剤はメソ細孔を効率よく生成させるためである。
【0037】
炭素被覆固体微粒子を含む合成媒体を得る際に、合成媒体中に炭素被覆固体微粒子を添加し、超音波を照射して炭素被覆固体微粒子を合成媒体中に分散させることが好ましい。
【0038】
炭素被覆固体微粒子を含む合成媒体に多孔体を生成可能な成分を添加した後、混合する際の温度は、0〜90℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。また混合に要する時間は、通常0.5秒〜5時間、混合後に熟成させる時間は通常0〜10時間、好ましくは0.5〜3時間である。前記範囲内ではシリカが効率よく生成し熟成されるためである。
【0039】
反応終了後、合成媒体からろ過等で生成物を取り出し、イオン交換水等で洗浄し、乾燥させることで、微粒子含有複合前駆体(a)を得ることができる。
【0040】
(微粒子複合体を得る工程)
続いて、微粒子複合体を得る工程について説明する。上述のようにして得られた微粒子含有複合前駆体(a)を焼成することで、固体微粒子の表面を被覆している炭素を消失させて、微粒子複合体を得ることができる。
【0041】
焼成する際の温度は、400〜700℃であることが好ましく、450〜600℃であることがより好ましい。また、焼成時間は、通常1〜20時間であり、2〜8時間とすることがより好ましい。上記条件下で焼成を行うことで、固体微粒子の表面を被覆している炭素、及び、界面活性剤を消失させることができるとともに、多孔体の骨格をつくる化学結合を効率よく生成させることができる。
【0042】
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2に係る微粒子複合体の製造方法について説明する。実施の形態2に係る微粒子複合体の製造方法は、図2に示すように、炭素被覆固体微粒子を得る工程と、微粒子含有複合前駆体(a)を得る工程、微粒子含有複合前駆体(b)を得る工程と、微粒子複合体を得る工程と、から構成される。以下、各工程について詳細に説明する。
【0043】
炭素被覆固体微粒子を得る工程、及び、微粒子含有複合前駆体(a)を得る工程については、前述した実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0044】
(微粒子含有複合前駆体(b)を得る工程)
【0045】
微粒子含有複合前駆体(a)を加熱水蒸気雰囲気中もしくは液体の水存在下で、加熱熟成させることにより微粒子含有複合前駆体(b)を得ることができる。この工程は、所謂ドライゲルコンバージョン法で行うとよい。ドライゲルコンバージョン法とは、ゼオライト合成の原料混合物を乾燥することにより得たドライゲルを水蒸気等で処理することによりゼオライトを結晶化する方法である。
【0046】
本工程を経て得られる微粒子複合体では、多孔体が結晶性多孔体として形成される。なお、ドライゲルコンバージョン法を行うための装置の概念図の一例を図3に示す。
【0047】
本工程において、加熱熟成を行う際の温度は、100〜250℃であることが好ましく120〜200℃であることがより好ましい。また、加熱熟成を行う時間は、通常0〜1000時間であり、2〜200時間であることがより好ましい。
【0048】
また、加熱熟成を、多孔体の鋳型剤となる有機物の存在下で行うことが好ましい。鋳型剤となる有機物の存在下で加熱熟成を行うと多孔体が生成しやすくなる。
【0049】
鋳型剤となる有機物として、水酸化テトラ炭化水素アンモニウムおよびハロゲン化テトラ炭化水素アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の有機物を用いることが好ましく、テトラアルキルアンモニウムブロミドおよびテトラアルキルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選択される少なくとも1種の有機物を用いることがより好ましい。具体的には、テトラプロピルアンモニウムブロミドおよびテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選択される少なくとも1種の有機物を用いることが特に好ましい。
【0050】
なお、本工程において、鋳型剤となる有機物を共存させる方法としては、例えば、微粒子含有複合前駆体(a)を、鋳型剤となる有機物を含む水溶液に添加し、超音波を照射することにより微粒子含有複合前駆体(a)を溶液中に分散させた後に、この溶液を蒸発乾固する方法が挙げられる。
【0051】
また、本工程の前に、微粒子含有複合前駆体(a)を得る工程で界面活性剤を用いた場合には、この界面活性剤を除去する工程を加えてもよい。例えば、用いた界面活性剤の抽出が可能な溶媒に、微粒子含有複合前駆体(a)を加えて攪拌することにより、界面活性剤を除去することができる。
【0052】
(微粒子複合体を得る工程)
上述のようにして得られた微粒子含有複合前駆体(b)を焼成することで、固体微粒子と結晶性多孔体とを含有する微粒子複合体を得ることができる。微粒子含有複合前駆体(b)を生成する際の焼成温度は、400〜700℃であることが好ましく、450〜600℃であることがより好ましい。また、焼成時間は0.5〜30時間であり、1〜10時間であることがより好ましい。上記条件で焼成を行うことにより、効率よく固体微粒子の表面に被覆した炭素、及び、鋳型剤となる有機物を除去できるうえ、結晶性多孔体の骨格をつくる化学結合を効率よく生成させることができる。
【0053】
実施の形態1及び2で説明した微粒子複合体の製造方法では、良好な結晶性の固体微粒子、即ち触媒活性の高い固体微粒子をそのまま用いることができるので、触媒活性の高い微粒子複合体を形成することができる。
【0054】
そして、得られた微粒子複合体は、各種触媒として用いることができ、微粒子複合体を単独で用いてもよく、金属酸化物等の担体等と共に用いてもよい。
【0055】
微粒子複合体を含む触媒は、固体微粒子が金属化合物、より好ましくはTiOを含む場合には、光分解反応触媒として好適に用いることができる。このような微粒子複合体を含む触媒を用いる態様としては、例えば、アルコールやアルデヒドなどの有機物等の試料を含む気体に、触媒が接触し得る状態で保持する態様が挙げられる。多孔体が有機物等を吸着するとともに、固体微粒子が活性化する波長の光を触媒に照射することにより、固体微粒子が有機物質を速やかに変換、分解することになる。有機物質としては、具体的にはアセトアルデヒドや2−プロパノールが挙げられる。
【0056】
また、微粒子複合体を含む触媒は、固体微粒子として金属の微粒子を含有する場合には、水素還元反応触媒、脱硝反応触媒、脱一酸化炭素反応触媒等として好適に用いられる。微粒子複合体に含まれる固体微粒子としては、Pt,Pd,Ru,Rh,Ir,Ni,Cu,Zn,Co,Mo等の金属粒子やその酸化物、酸化チタン担持酸化バナジウム等の一般に触媒として用いられている粒子を用いることができるので、このような固体微粒子を用いて得られた微粒子複合体を含む触媒は、それぞれの固体微粒子に由来する触媒活性を有し、固体微粒子に応じた様々な反応触媒として用いることができる。
【実施例1】
【0057】
固体微粒子として二酸化チタンを用い、実施の形態1に係る微粒子複合体の製造方法で、微粒子複合体を製造し、2−プロパノールの分解実験を行った。
【0058】
(微粒子複合体の製造)
TiO(製品名:P−25、Degussa(デグサ)製、粒子直径20〜30nm)(以下、P−25と記す)を2時間真空乾燥させた。
【0059】
1M塩酸水溶液(200mL)に界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(4.61g)を溶解し、P−25(3.0g)およびアニリン(3.68g)を加えて攪拌した。この溶液に重合開始剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム(2.28g)を加えて2時間攪拌した。ポリアニリンの形成によって溶液の色は白から青、そして緑へと変化した。生成物を遠心分離によって回収し、エタノールで洗浄した後、70℃で乾燥させて粉末を得た。
【0060】
得られた粉末を窒素気流下450℃で12時間加熱し、P−25に吸着させたポリアニリンを炭化させ、黒色粉末の炭素被覆固体微粒子を得た。以下、得られた黒色粉末をCarbonP25と記す。
【0061】
界面活性剤ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(0.86g)をイオン交換水(46g)に加温しながら溶解した後、28%アンモニア水を加えてpHを11.8に調整した。この溶液に炭素被覆したCarbonP25を1.54g加え、超音波を20分間かけて分散させた。
【0062】
この溶液を激しく攪拌しながら、テトラエトキシシラン(Si(OC)(3.38g)を一気に加えた。これにより、テトラエトキシシランの加水分解が起こり、界面活性剤のミセルの周りにシリカが形成された。
【0063】
この混合溶液を1時間攪拌した後、ろ過して生成物を回収し、イオン交換水で洗浄した後、70℃で乾燥させて、微粒子含有複合前駆体(a)を得た。
【0064】
この微粒子含有複合前駆体(a)を450℃で6時間焼成し、界面活性剤及びP−25表面に被覆されている炭素を消失させ、白色粉末の微粒子複合体であるメソポーラスシリカ−TiO複合体を得た。以下、これをCarbonNCと記す。CarbonNCの表面積は424m−1であった。
【0065】
また、参考例として、炭素被覆を行わなかった以外、上記同様に行って、白色粉末の微粒子複合体を得た。以下、この微粒子複合体をNCと記す。このNCの比表面積は、409m−1であった。
【0066】
(2−プロパノールの分解実験)
上記で生成したCarbonNC、NC、及び、P−25単体を用いて、2−プロパノールの分解をそれぞれ行った。
【0067】
外部からの光を遮断する密閉容器中にCarbonNCと2−プロパノール(初期濃度568ppm)を導入した。CarbonNCは、含有するP−25の量が20mgになるように導入した。
【0068】
CarbonNCを導入して90分経過後、キセノンランプ(500W)で紫外線を照射した。
【0069】
2−プロパノールは、アセトンを経て二酸化炭素に分解されるので、2−プロパノール、アセトン、及び二酸化炭素の各濃度の経時変化をガスクロマトグラフィーにて計測した。
【0070】
同様に、NC、及び、P−25単体についても、それぞれP−25の量が20mgになるように密閉容器中に導入し、2−プロパノールの分解を行い、2−プロパノール、アセトン、及び二酸化炭素の各濃度の経時変化を計測した。
【0071】
それぞれの濃度変化を図4に示す。図4(A)が2−プロパノールの濃度変化、図4(B)がアセトンの濃度変化、図4(C)が二酸化炭素の濃度変化である。
【0072】
図4(A)を見ると、CarbonNCとNCは、多孔体であるメソポーラスシリカにより、ともに高い吸着能を示し、紫外線照射前における気相中の2−プロパノールをほとんど吸着していることがわかる。
【0073】
また、図4(B)を見ると、反応中に生成するアセトンを外部に放出することなく、ほとんど吸着していることがわかる。
【0074】
また、図4(C)を見ると、CarbonNCの二酸化炭素の生成速度は、P−25単体とほぼ同等の速度を示し、炭素被覆を行わずに製造したNCよりも高い活性を示していることがわかる。
【0075】
この結果から、炭素被覆の効果により、P−25とメソポーラスシリカとの密な複合化が実現し、吸着した有機分子のP−25表面への移動速度を高め、P−25単体と同様の触媒活性を示していると考えられる。
【実施例2】
【0076】
固体微粒子として二酸化チタンを用い、実施の形態2に係る微粒子複合体の製造方法で、微粒子複合体を製造し、2−プロパノールの分解実験を行った。
【0077】
(微粒子複合体の製造)
まず、実施例1と同様にして微粒子含有複合前駆体(a)を得た。
【0078】
エタノール39.2gに氷酢酸0.30gを加えて0.1M酢酸/エタノール溶液を調製し、ここに乾燥させた微粒子含有複合前駆体(a)を加えて80℃で2時間攪拌した。
【0079】
これを濾過してエタノールで洗浄した後、70℃で乾燥させた。この操作をもう一度繰り返し、界面活性剤ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドを取り除いた。
【0080】
10mLのイオン交換水にテトラプロピルアンモニウムブロミド0.1gを溶かし、そこへ溶媒抽出によって界面活性剤を除去した微粒子含有複合前駆体(a)を0.5g加え超音波で20分間処理した。
【0081】
この溶液を70℃で乾固して粉末を得た。この粉末を図3の装置の概念図に示したオートクレーブ6内のポリテトラフルオロエチレンカップ2の上に置き、ポリテトラフルオロエチレン製の内筒5の底にイオン交換水9.5mLとエチレンジアミン0.5mLを入れ、175℃で7日間熟成させた。その後、生成物を遠心分離によって回収し、イオン交換水で洗浄後、70℃で乾燥させた。
【0082】
これを450℃で6時間焼成して、P−25の表面に被覆されている炭素及び界面活性剤を消失させ、白色粉末の微粒子複合体であるシリカライト(ゼオライト)−TiO複合体を得た。以下、この白色粉末をDGC−CarbonNCと記す。DGC−CarbonNCの比表面積は184cm−1、そのミクロ孔容積は0.052cm−1であった。
【0083】
また、参考例として、炭素被覆を行わなかった以外、上記同様に行い、白色粉末の微粒子複合体を得た。以下、この微粒子複合体をDGC−NCと記す。このDGC−NCの比表面積は51cm−1、ミクロ孔容積は0.009cm−1であった。
【0084】
(2−プロパノールの分解実験)
上記で生成したDGC−CarbonNC、DGC−NC、及び、P−25単体を用いて、それぞれ2−プロパノールの分解を行った。
【0085】
外部からの光を遮断する密閉容器中に微粒子複合体と2−プロパノール(初期濃度568ppm)を導入した。DGC−CarbonNCは、含有するP−25の量がそれぞれ20mgになるように導入した。
【0086】
導入して90分経過後、キセノンランプ(500W)で紫外線を照射した。実施例1と同様、2−プロパノール、アセトン、及び二酸化炭素の各濃度の経時変化をガスクロマトグラフィーにて計測した。
【0087】
同様に、DGC−NC、及び、P−25単体について、それぞれ含有するP−25の量が20mgになるように密閉容器中に導入し、2−プロパノールの分解を行い、2−プロパノール、アセトン、及び二酸化炭素の各濃度の経時変化を計測した。
【0088】
それぞれの濃度変化を図5に示す。図5(A)が2−プロパノールの濃度変化、図5(B)がアセトンの濃度変化、図5(C)が二酸化炭素の濃度変化である。
【0089】
図5(A)を見ると、DGC−CarbonNCとDGC−NCは、結晶性多孔体であるシリカライトにより、ともに高い吸着能を示し、紫外線照射前における気相中の2−プロパノールをほとんど吸着していることがわかる。また、図5(B)を見ると、2−プロパノールの分解で生じるアセトンもほとんど吸着していることがわかる。
【0090】
また、図5(C)を見ると、DGC−CarbonNCの二酸化炭素の生成速度は、P−25単体とほぼ同等の速度を示し、炭素被覆を行わなかったDGC−NCよりも高い活性を示していることがわかる。
【0091】
この結果から、炭素被覆の効果により、P−25とシリカライトとの密な複合化が実現し、吸着した有機分子のP−25表面への移動速度を高め、P−25単体と同様の触媒活性を示していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
上記の製造方法で得られた微粒子複合体は、有機物質等の分解速度が高いので、有害な有機物質を速やかに分解でき、水や空気から極低濃度の有害物質を除去することができる。この技術は、あらゆる分野での浄化、有害物質除去に利用することができる。とくに空気中の有害物質を空気から吸着除去し、光照射下で効率的に分解できる。
【符号の説明】
【0093】
1 微粒子含有複合前駆体(a)
2 ポリテトラフルオロエチレンカップ
3 ステンレスメッシュ
4 イオン交換水,エチレンジアミン
5 内筒
6 オートクレーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体微粒子を炭素で被覆して炭素被覆固体微粒子を得る工程と、
前記炭素被覆固体微粒子を含む合成媒体中に多孔体を生成可能な成分を添加し、混合することにより、前記炭素被覆固体微粒子と前記多孔体を生成可能な成分とを複合化させて微粒子含有複合前駆体(a)を得る工程と、
前記微粒子含有複合前駆体(a)を焼成し、前記炭素を消失させて、前記固体微粒子と多孔体とを含有する微粒子複合体を得る工程と、
を含むことを特徴とする微粒子複合体の製造方法。
【請求項2】
固体微粒子を炭素で被覆して炭素被覆固体微粒子を得る工程と、
前記炭素被覆固体微粒子を含む合成媒体中に多孔体を生成可能な成分を添加し、混合することにより、前記炭素被覆固体微粒子と前記多孔体を生成可能な成分とを複合化させて微粒子含有複合前駆体(a)を得る工程と、
前記微粒子含有複合前駆体(a)を加熱水蒸気雰囲気中もしくは液体の水存在下で加熱熟成させて微粒子含有複合前駆体(b)を得る工程と、
前記微粒子含有複合前駆体(b)を焼成し、前記炭素を消失させて、前記固体微粒子と結晶性多孔体とを含有する微粒子複合体を得る工程と、
を含むことを特徴とする微粒子複合体の製造方法。
【請求項3】
前記固体微粒子に有機物を吸着させ、前記有機物を炭化させて前記炭素被覆固体微粒子を得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の微粒子複合体の製造方法。
【請求項4】
前記有機物を非酸素雰囲気下で加熱して炭化させることを特徴とする請求項3に記載の微粒子複合体の製造方法。
【請求項5】
脱水剤を用いて前記有機物を炭化させることを特徴とする請求項3に記載の微粒子複合体の製造方法。
【請求項6】
前記固体微粒子として酸化チタンを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の微粒子複合体の製造方法。
【請求項7】
前記多孔体を生成可能な成分として、テトラ炭化水素オキシシラン、シリカ、シリカアルミナ、シリカゲル、水ガラス、及び、フュームドシリカからなる群から選択される少なくとも一種を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の微粒子複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−62587(P2011−62587A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212877(P2009−212877)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】