説明

微粒子酸化鉄油性分散物

【課題】 紫外線防御効果が高く、素肌感の高い微粒子酸化鉄油性分散物を提供する。
【解決手段】 微粒子酸化鉄と、シリコーン油と、界面活性剤とを含み、微粒子酸化鉄が高分散していることを特徴とする微粒子酸化鉄油性分散物。強力な分散力により、微粒子酸化鉄を平均分散粒子径が150nm以下に高分散させる。本発明の分散物を配合することにより、紫外線防御効果が向上するとともに、化粧料の仕上がりにおいて素肌感を損なわず透明感のある自然な仕上がりとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子酸化鉄油性分散物、特に紫外線防御効果と素肌感を損なわない自然な仕上がりに優れる微粒子酸化鉄油性分散物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉄は、無機顔料として古くから化粧料等の分野において使用されてきた。しかしながら、通常顔料として使用される酸化鉄は粒子径が大きく隠ぺい力が強いために、素肌に近い自然な仕上がりを求める場合には配合量が制限される。
近年では、一次粒子径が100nm以下の微粒子酸化鉄が市販されており、透明性や紫外線防御性などが期待されているが、微粒子は凝集力が非常に強く、液媒体中では凝集してしまうためにその効果が十分発揮されていないという問題があった。
【0003】
例えば、特許文献1には、微粒子酸化チタンに微粒子酸化鉄を併用することにより、肌色に近い調色が可能となり、また肌へ塗布時の透明性が増大することが記載されている。しかしながら、このような化粧料組成物においても、素肌感や紫外線防御効果において十分と言えるものではなかった。
【0004】
特許文献2には、異なる平均粒子径を有する2種以上の微粒子無機粉体を、分散剤と揮発性油剤とを含む媒体中にビーズミルやサンドミル、ロールミル、ホモミキサー等で分散処理することにより均一な分散物が得られること、これをマスターバッチとして化粧料に添加することにより、高い紫外線防御効果と良好な使用感、自然な仕上がりの化粧料が得られることが記載されている。
しかしながら、特許文献2の方法は、異なる平均粒子径を有する2種以上の微粒子無機粉体を要するもので、1種の微粒子粉体に適用できる方法ではない。
【特許文献1】特開昭62−67014号公報
【特許文献2】特開2001−58935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、紫外線防御効果が高く、しかも素肌感も損なわない微粒子酸化鉄油性分散物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明者等が鋭意検討を行った結果、微粒子酸化鉄を特定の界面活性剤を用いてシリコーン油中に高分散することにより、透明性が非常に高い微粒子酸化鉄分散物が得られ、この分散物は優れた紫外線防御能とともに、高い素肌感をも発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる微粒子酸化鉄油性分散物は、微粒子酸化鉄と、シリコーン油と、界面活性剤とを含み、微粒子酸化鉄が高分散していることを特徴とする。
本発明の分散物において、微粒子酸化鉄の平均分散粒子径が150nm以下であることが好適である。
また、微粒子酸化鉄の一次粒子の粒子形状が針状であることが好適である。
また、本発明にかかる日焼け止め化粧料は、前記微粒子酸化鉄分散物を配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、透明性が非常に高い微粒子酸化鉄油性分散物が得られ、この分散物を配合することにより、優れた紫外線防御能とともに高い素肌感をも発揮する日焼け止め化粧料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いる微粒子酸化鉄としては、一次粒子の平均粒径が100nm以下、さらには80nm以下のものが好適に使用できる。酸化鉄としては、赤酸化鉄、黄酸化鉄、黒酸化鉄など何れでもよく、また、その粒子形状も球状、粒状、針状、紡錘状、棒状、板状、不定形など特に制限されないが、針状は球状などに比べて透明性などにおいて優れる傾向がある。なお、針状、棒状などの場合、一次粒子径は長径と短径の平均値を採用する。
分散物中、微粒子酸化鉄は10〜50質量%、好ましくは20〜40質量%である。微粒子酸化鉄が少な過ぎる場合には本発明の効果が十分得られないことがあり、多すぎる場合には分散が困難となることがある。
【0009】
なお、微粒子酸化鉄は、公知の方法で表面処理されていてもよい。例えば、アルミニウムステアレートやジンクミリステートなどによる脂肪酸石鹸処理、キャンデリラロウやカルナバロウなどによるワックス処理、メチルポリシロキサン、環状シリコーンオイルなどによるシリコーン処理、パルミチン酸デキストリンなどによる脂肪酸デキストリン処理、ミリスチン酸、ステアリン酸などによる脂肪酸処理などが挙げられる。
【0010】
微粒子酸化鉄の分散媒であるシリコーン油としては、例えば、鎖状ポリシロキサン(例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等);環状ポリシロキサン(例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等)、各種変性ポリシロキサン(アミノ変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン等)等が挙げられるが、好ましくは低粘度(例えば100cps/25℃以下)のシリコーン油であり、特に揮発性シリコーン油が好適である。シリコーン油を媒体とする本発明の分散物は、化粧料へ配合した際の使用感に優れる。
なお、本発明の効果を損なわない限りにおいて、分散媒中に他の油分を添加することも可能であるが、使用感や分散性の点から他の油分は分散媒中50質量%以下、さらには30質量%以下とすることが好ましい。
【0011】
界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤が好適に使用でき、例えばPOE変性オルガノポリシロキサン、POE・POP変性オルガノポリシロキサン、POEソルビタン変性オルガノポリシロキサン、POEグリセリル変性オルガノポリシロキサンなどの親水基で変性されたオルガノポリシロキサンや、両末端シリコーン化ポリエチレングリコール、両末端シリコーン化ポリグリセリンが挙げられる。特に、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体(POE変性ジメチルポリシロキサン)、両末端シリコーン化ポリグリセリンは分散性の点で好ましい。
分散物中、界面活性剤は1〜25質量%、好ましくは5〜20質量%である。少なすぎる場合には分散が不十分となり、一方過剰に配合しても顕著な効果の増大は認められない。
【0012】
微粒子酸化鉄をシリコーン油に分散させる方法としては、例えば、シリコーン油に界面活性剤を溶解し、これに微粒子酸化鉄を添加して、強力な機械的せん断力により分散させればよい。分散処理としては、例えば、メディアに径が0.3mm以下のジルコニアビーズを使用したペイントシェーカー処理やビーズミル処理などにより行うことができる。ディスパーやホモミキサーなどの通常の乳化分散機では本発明の効果が十分に発揮されない。本発明の分散物中、微粒子酸化鉄の平均分散粒子径は、動的散乱法による測定で150nm以下、さらには120nm以下が好ましい。
【0013】
本発明の分散物は、微粒子酸化鉄が高度に分散されており、優れた紫外線防御能を示す。しかも、可視光線の散乱が少ないために、その外観は透明で濃色の着色溶液となる。この分散物を各種化粧料に配合することにより、紫外線防御効果が向上するとともに、化粧料の仕上がりにおいて素肌感を損なわず透明感のある自然な仕上がりとすることができる。
無機紫外線防御剤としては微粒子二酸化チタンが汎用されている。しかし、微粒子二酸化チタンはUV−B防御能は高いものの、UV−A防御能については二酸化チタンの配合だけでは不十分であった。
本発明の分散物はUV−A防御能にも優れるため、微粒子二酸化チタンを含有する日焼け止め化粧料にさらに本発明の油性分散物を配合すれば、UV−A防御能を高め、しかも素肌感の高い自然な仕上がりの化粧料とすることができる。
【0014】
このような効果を得るためには、微粒子酸化鉄が化粧料中0.1質量%以上、さらには0.5質量%以上となるように微粒子酸化鉄油性分散物を配合することが好適である。また、本発明の微粒子酸化鉄油性分散物は高分散されているので、化粧料中1質量%以上、さらには3質量%以上と高配合した場合でも素肌感を損なわない。
本発明の化粧料中には、通常化粧料に配合されるその他の成分を配合することができる。例えば、油分、保湿剤、界面活性剤、顔料、染料、粉末、酸化防止剤、防腐剤、pH調製剤、キレート剤、香料、紫外線吸収剤、美白剤、水、各種薬剤などが挙げられる。
本発明の化粧料の剤型は特に制限されず、固形状、軟膏状、液体状、乳化状、固−液分離状、ジェル状など、任意の剤型が可能である。
【0015】
本発明の微粒子酸化鉄油性分散物は、種々の化粧料、例えば、乳液、クリーム、リップクリームなどの基礎化粧料;ファンデーション、化粧下地、口紅、アイシャドー、頬紅、アイライナー、ネイルエナメル、マスカラ等のメークアップ化粧料;ヘアクリーム、ヘアリキッド、セットローション等の毛髪化粧料などに配合可能であるが、特に、紫外線防御を目的とする日焼け止め化粧料において、本発明の分散物を配合することは効果的であり、ファンデーション等のメークアップ化粧料のような隠蔽性がなく、素肌感を損なわない透明性の高い自然な仕上がりの日焼け止め化粧料とすることができる。
なお、本発明の分散物は、化粧料以外にも、紫外線防御を目的とするその他の用途にも適用可能である。例えば、樹脂組成物、塗料、インキ、コーティング用組成物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以下、具体例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、配合量は特に指定のない限り質量%で示す。
【実施例】
【0016】
試験例1 分散物の製造
下記基本組成Aに従って、デカメチルシクロペンタシロキサンにポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体を溶解し、これに微粒子酸化鉄を添加して分散させた。
基本組成A:
微粒子酸化鉄 30 質量%
デカメチルシクロペンタシロキサン 55
ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 15
(EO含有率20質量%、分子量6000)
【0017】
微粒子酸化鉄としては、次のものを用いた。
(1)針状微粒子酸化鉄(黄):「バンドシンナーTY」、平均一次粒子径55nm(10×100nm)、三重カラーテクノ社
(2)球状微粒子酸化鉄(赤):「FRO−3」、平均一次粒径30nm、堺化学(株)製
【0018】
また、分散処理は、ホモミキサー(HM)処理[TKホモミキサー(特殊機化工業株式会社)]、ペイントシェーカー(PS)処理[ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社)]、あるいはビーズミル(UA)処理[ウルトラアペックスミル(寿工業株式会社)]を用いて行った。
【0019】
下記表1のように、微粒子酸化鉄をHMで分散処理した場合には、分散液の透明感は低く凝集物の沈殿が肉眼でも観察された。これに対して、PSやUSで分散処理した場合は何れも透明感の高い濃色の分散液となった。また、顔料級酸化鉄ではPS処理しても透明感の低い、明るい色の分散液となり、沈殿物も生じた。
(表1)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験例 酸化鉄 分散方法 外観
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1−1 針状微粒子酸化鉄(黄) PS 濃黄色、透明、沈殿物なし
1−2 針状微粒子酸化鉄(黄) UA 濃黄色、透明、沈殿物なし
1−3 針状微粒子酸化鉄(黄) HM 黄褐色、やや不透明、凝集物沈殿
1−4 顔料級酸化鉄(黄) PS 淡黄色、不透明、沈殿有り
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1−5 球状微粒子酸化鉄(赤) PS 濃赤色、透明、沈殿物なし
1−6 球状微粒子酸化鉄(赤) UA 濃赤色、透明、沈殿物なし
1−7 球状微粒子酸化鉄(赤) HM 赤褐色、やや不透明、凝集物沈殿
1−8 顔料級酸化鉄(赤) PS 赤色、不透明、沈殿有り
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0020】
図1は試験例1−1〜1−4、図2は試験例1−5〜1−8の各分散物を酸化鉄濃度3.5質量%となるように分散媒で希釈し、石英板上に10μmアプリケーターで希釈液を塗布して分光透過率を測定した結果である。
図1〜2からわかるように、顔料級酸化鉄(平均一次粒径400μm)をペイントシェーカー等で強分散しても、可視光透過性は低く、透明感が得られない。一方、微粒子酸化鉄を用いた場合であっても、ホモミキサー等で分散した場合には、可視光透過率が向上して透明性が高くなるものの、紫外線透過率も高くなってしまい、紫外線防御能は低下してしまう。
【0021】
これに対して、微粒子酸化鉄をペイントシェーカー(PS)、あるいはビーズミル(UA)で強分散処理した場合には、可視光透過性は非常に高く、紫外線透過性は非常に低くなり、ホモミキサー(HM)で分散処理した場合や、顔料級酸化鉄をペイントシェーカー(PS)で分散した場合よりも透明性、紫外線防御性に優れていた。
動的光散乱法による平均分散粒径を調べたところ、試験例1−1〜1−2では約100nm、試験例1−5〜1−6では約80nmであったが、試験例1−3や試験例1−7では平均分散粒径が約260nmと大きく、これが透明性や紫外線防御性に影響していると推察された。
【0022】
試験例2 化粧料
下記表2のように、微粒子二酸化チタンと酸化鉄分散物の割合を変えて日焼け止め化粧料を調製し、紫外線防御能、透明性、ならびに素肌感について検討を行った。酸化鉄分散物は、酸化鉄濃度25質量%で、試験例1と同様に調製したものを用いた(酸化鉄濃度の増減はデカメチルシクロペンタシロキサンで調整)。
【0023】
各試験は次のようにして行った。ナイロンテープ上に、化粧料を2mg/cmになるように均一に塗布し、15分間乾燥させた後に分光透過率を測定した。得られた各波長の透過率を基に、以下のような基準で紫外線防御能及び透明性を評価した。
【0024】
(紫外線防御能)
(1)UV−A:360nmの透過率を用いて、二酸化チタンのみ(微粒子酸化鉄無配合)の化粧料(試験例2−1)の透過率と比較し、下記の基準で評価した。
◎:二酸化チタンのみの透過率の50%未満
○:二酸化チタンのみの透過率の50%以上80%未満
△:二酸化チタンのみの透過率の80%以上95%未満
×:二酸化チタンのみの透過率の95%以上
(2)UV−B:300nmの透過率を用いて、二酸化チタンのみ(微粒子酸化鉄無配合)の化粧料(試験例2−1)の透過率と比較し、下記の基準で評価した。
◎:二酸化チタンのみの透過率の50%未満
○:二酸化チタンのみの透過率の50%以上80%未満
△:二酸化チタンのみの透過率の80%以上95%未満
×:二酸化チタンのみの透過率の95%以上
【0025】
(透明性評価)
600nmの透過率を用いて、二酸化チタンのみ(微粒子酸化鉄無配合)の化粧料(試験例2−1)の透過率と比較し、下記の基準で評価した。
◎:二酸化チタンのみの透過率の100%
○:二酸化チタンのみの透過率の95%以上100%未満
△:二酸化チタンのみの透過率の80%以上95%未満
×:二酸化チタンのみの透過率の80%未満
【0026】
(肌に塗布した際の素肌感)
10名のパネラーにより、試料を前腕部に塗布し、未塗布部の素肌と比較した際の塗布部の素肌感についてアンケートを行い、下記基準で評価した。
◎:9名以上が素肌とほとんど差がなく自然な仕上がりであると評価した。
○:6〜8名が素肌とほとんど差がなく自然な仕上がりであると評価した。
△:4〜5名が素肌とほとんど差がなく自然な仕上がりであると評価した。
×:3名以下が素肌とほとんど差がなく自然な仕上がりであると評価した。
【0027】
(表2)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験例
2−1 2−2 2−3 2−4 2−5
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
疎水性微粒子二酸化チタン 12 12 12 12 12
針状微粒子酸化鉄(黄)分散物(PS分散)* 6
球状微粒子酸化鉄(赤)分散物(PS分散)* 1
顔料級酸化鉄(赤)分散物(PS分散) 1
針状微粒子酸化鉄(黄)分散物(HM分散)* 6
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
デカメチルシクロペンタシロキサン to100
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ジメチルポリシロキサン 1 1 1 1 1
ポリオキシエチレン・
メチルポリシロキサン共重合体 2 2 2 2 2
流動パラフィン 2 2 2 2 2
1,3−ブチレングリコール 5 5 5 5 5
イオン交換水 25 25 25 25 25
防腐剤 適量 適量 適量 適量 適量
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
紫外線防御能(UV−A) (基準) ○ △ × ×
(UV−B) (基準) ◎ ○ △ ×
透明性 (基準) ◎ ◎ △ ○
肌へ塗布した際の素肌感 × ◎ ○ △ △
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*各分散物の分散粒径は次の通り。
針状微粒子酸化鉄(黄)分散物(PS分散) 約100nm
球状微粒子酸化鉄(赤)分散物(PS分散) 約80nm
針状微粒子酸化鉄(黄)分散物(HM分散) 約260nm
分散物6質量%、1質量%は、それぞれ酸化鉄換算で約1.5質量%、0.25質量%に相当。
【0028】
表2のように、微粒子二酸化チタンにPS処理により高分散させた微粒子酸化鉄分散物を併用した場合(試験例2−2及び2−3)には、微粒子二酸化チタンのみの場合(試験例2−1)に比べて紫外線防御効果が向上し、しかも透明性は全く損なわれなかった。また、肌に塗布した際の素肌感も非常に高いものであった。
一方、PS処理顔料級酸化鉄分散物(試験例2−4)やHM処理微粒子酸化鉄分散物(試験例2−5)では、紫外線防御効果の向上はほとんど認められず、透明性も損なわれる結果となった。また、肌に塗布した際には厚塗り感があるなど、素肌感の低いものであった。
このように、微粒子酸化鉄を高分散した油性分散物を、化粧料、特に微粒子二酸化チタン配合日焼け止め化粧料に配合することにより、UV−A〜UV−Bの広い領域において紫外線を防御し、しかも自然な素肌感を損なわない日焼け止め化粧料とすることができる。
【0029】
試験例3 他の微粒子酸化物との比較
微粒子酸化鉄の代わりに、微粒子酸化チタンあるいは微粒子酸化亜鉛を用いて、PS処理により分散物を調製し、その分散性を外観観察により評価した。その結果、下記表3のように、微粒子酸化チタンや微粒子酸化亜鉛では、同じ処理条件でも微粒子酸化鉄に比べて分散性が低かった。
【0030】
(表3)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験例
3−1 3−2 3−3
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
微粒子酸化鉄(30nm) 30
疎水性微粒子酸化チタン(20nm) 30
疎水性微粒子酸化亜鉛(20nm) 30
デカメチルシクロペンタシロキサン 55 55 55
ポリオキシエチレン・
メチルポリシロキサン共重合体 15 15 15
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
分散性(透明性) 透明 やや不透明 やや不透明
(沈殿、凝集) なし 凝集あり 凝集あり
(均一) (不均一) (不均一)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0031】
試験例4 界面活性剤の影響
界面活性剤の種類を変えて、PS処理により微粒子酸化鉄油性分散物を調製した。その結果、下記表4のように、特定のシリコーン系界面活性剤でのみ微粒子酸化鉄が高分散された。また、界面活性剤を使用しない場合には、分散されなかった。
【0032】
(表4)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験例
4−1 4−2 4−3 4−4
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
微粒子酸化鉄(30nm) 30 30 30 30
デカメチルシクロペンタシロキサン 55 55 55 55
ポリオキシエチレン・
メチルポリシロキサン共重合体 15
両末端シリコーン化ポリグリセリン 15
ジイソステアリン酸グリセリル 15
セスキイソステアリン酸ソルビタン 15
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
分散性(透明性) 透明 透明 不透明 不透明
(沈殿、凝集) なし なし 凝集あり 凝集あり
(均一) (均一) (不均一) (不均一)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0033】
試験例5
表5のように、微粒子酸化鉄の平均一次粒子径及び粒子形状の異なる微粒子酸化鉄(赤)を用意し、試験例1の条件に従い、PS処理により微粒子酸化鉄油性分散物を調製した。
(表5)
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試験例* 形状/一次平均粒径 平均分散粒径 分散物外観
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
5−1 球状/ 30nm 80nm 濃赤色、透明
5−2 球状/ 50nm 95nm 濃褐色、透明
5−3 球状/100nm 150nm 茶褐色、やや透明、沈殿物有
5−4 球状/200nm 210nm 茶褐色、やや不透明、沈澱物有
5−5 針状/ 55nm 110nm 濃赤色、透明
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験例5−1:堺化学(株)製「FRO−3」堺化学(株)製
5−2〜5−4:ケミライト工業製 CM1000シリーズ
5−5:BASF製 SICOTRANS RED L2818
【0034】
図3は試験例5−1〜5−5の各分散物を酸化鉄濃度3.5質量%となるように分散媒で希釈し、分光透過率を測定した結果である。図3から、平均分散粒子径が大きすぎると紫外線透過率が高くなり、可視光透過率が低下する傾向が認められる。従って、紫外線防御効果と透明性の点から、平均分散粒径は150nm以下、さらには120nm以下であることが好ましいと考えられる。
また、試験例5−2と試験例5−5との比較から、針状形状の場合には、球状で同程度の平均一次粒径のものと比較すると、紫外線防御能はほぼ同等だが、500nm以上の可視領域の透過率が高く透明性に優れ、より好ましいことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ホモミキサー(HM)、ペイントシェーカー(PS)あるいはビーズミル(UA)により調製した針状微粒子黄酸化鉄油性分散物の分光透過率を示す図である。
【図2】ホモミキサー(HM)、ペイントシェーカー(PS)あるいはビーズミル(UA)により調製した球状微粒子赤酸化鉄油性分散物の分光透過率を示す図である。
【図3】ペイントシェーカー(PS)により調製した球状微粒子赤酸化鉄及び針状微粒子赤酸化鉄油性分散物の分光透過率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子酸化鉄と、シリコーン油と、界面活性剤とを含み、微粒子酸化鉄が高分散していることを特徴とする微粒子酸化鉄油性分散物。
【請求項2】
請求項1記載の分散物において、微粒子酸化鉄の平均分散粒子径が150nm以下であることを特徴とする微粒子酸化鉄油性分散物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分散物において、微粒子酸化鉄の一次粒子の粒子形状が針状であることを特徴とする微粒子酸化鉄油性分散物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の微粒子酸化鉄分散物を配合したことを特徴とする日焼け止め化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−99686(P2007−99686A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291962(P2005−291962)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】