説明

微細な中空炭素繊維

【課題】樹脂等との複合化に於ける分散性、混練性や加工性に優れ、また導電性、補強等の機能発現に優れる微細な中空炭素繊維を提供する。
【解決手段】外径6〜20nm、アスペクト比2〜30のペンシル状構造単位集合体が互いに黒鉛基底面を介して連結した外径6〜20nm、アスペクト比10〜200の微細な中空炭素繊維であり、該微細な中空炭素繊維に加えられたずり応力に対し、隣接する構造単位集合体の黒鉛基底面間で滑りを生じ得る連結構造を繊維中に少なくとも1個内包することを特徴とする微細な中空炭素繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散性に優れる微細な中空炭素繊維、及びその中空炭素繊維を効率良く製造する方法に関する。詳しくは、触媒を使用する気相成長法による微細な中空炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン、カップ積層型)、トランプ状(プレートレット)等に代表される中空炭素繊維は、その形状、形態から様々な応用が期待されている。とりわけ円筒チューブ状の中空炭素繊維(カーボンナノチューブ)は従来の炭素材料と比較し、強度、導電性等に優れるため、次世代の導電性材料として注目を集めている。
【0003】
多層カーボンナノチューブ(多層同心円筒状)(非魚骨状)は、例えば、特公平3−64606、特公平3−77288、特表平9−502487、特開2004−299986等に記載されている。
【0004】
また、魚骨状(フィッシュボーン)型中空炭素繊維〔カップ積層型中空炭素繊維〕は、例えば、USP4,855,091、M.EndoおよびY.A.Kimらによる文献〔Appl.Phys.Lett.,vol80(2002)1267〜〕、特開2003−073928、特開2004−360099等に記載されている。この構造は、底のないカップを積層した形状である。
【0005】
さらに、プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)は、例えば、H.MurayamaおよびT.maedaによる文献〔Nature, vol345[No28](1990)791〜793〕、特開2004−300631等に記載されている。
【0006】
カーボンナノチューブに代表される中空炭素繊維の製造方法として、従来、アーク放電法、気相成長法、レーザー法、鋳型法等が知られている。この中で触媒粒子を用いる気相成長法は、安価な合成方法として注目されているが、大量生産方法は確立されていない。また生成するカーボンナノチューブは結晶性の低い不均質な繊維となるため、黒鉛化処理が必要である。
【0007】
例えば、特表平9−502487(特許文献1)には、従来技術として、特表平2−503334又は特開昭62−500943に記載の方法で製造される炭素フィブリル原料(円筒チューブ状)のXRD(X線回折)測定におけるグラファイト面間隔(d002)が0.354nmを示し、結晶性が充分でなくそのままでは導電性が低いことが記載されている。そして、このフィブリル原料を2450℃で処理することにより、グラファイト面間隔(d002)が0.340nmとなり結晶性の良い黒鉛フィブリル材料が得られることが記載されている。
【0008】
円筒チューブ状の中空炭素繊維は、グラファイト網面が繊維軸と平行であり、これに沿って電子が流れるため、単独の繊維における長軸方向の導電性は良好である。しかしながら、隣接する繊維間での導電性に関しては、側周面が円筒状に閉じたグラファイト網面で構成されているため、π電子の飛び出しによるジャンピング効果(トンネル効果)が期待できない。従って、カーボンナノチューブを導電性フィラーとして利用したポリマーとのコンポジットにおいては、繊維同士の接触が充分に確保されないと導電性が良好に発現されないという問題がある。
【0009】
一方、魚骨状、トランプ状の炭素繊維は、側周面にグラファイト網面の開放端が露出するため、隣接する繊維間の導電性はカーボンナノチューブに比べ向上する。しかしながら、グラファイト網面のC軸が繊維軸方向に対し傾斜あるいは直交して積層した構造であるため、単独の繊維における長軸方向の導電性は低下してしまう。
【0010】
上記の構造に加え、特開2006−103996(特許文献2)では、結晶格子の中核をなす炭素原子に化学的に結合した窒素原子を含み、一端が開き他端が閉じた釣鐘型の多層物質が単位構造ユニットとなり1つのユニットの閉じた端部が他のユニットの開いた端部へ差し込まれた形態の繊維構造体とその製造方法が開示されている。しかし、この繊維は、グラファイト網面において炭素原子と化学的に結合した窒素原子が含まれるため、グラファイト網面に構造的歪みが生じ、結晶性が低いという問題がある。
【0011】
またApplied Physics A 2001(73)259−264(Ren Z. F. ら)(非特許文献1)においても、“bamboo−structure”と称した、前記特許文献2(特開2006−103996)類似の炭素繊維構造が報告されている。この構造体の合成は、シリカに鉄を担持した触媒を使用し、アセチレン20vol%/アンモニア80vol%の混合ガスを使用して、750℃での気相成長法によって実施されている。この報告では、炭素繊維構造体の化学組成分析は全く記述されていないが、原料中に含まれる不活性でない窒素分の濃度が非常に高いことから(59wt%)、該炭素繊維構造体にも化学的に炭素原子と結合した窒素原子が含まれ、構造的乱れを生じていると考えられる。また、触媒重量に対する生成物重量の比が6程度と著しく低いため、繊維成長が充分でなくアスペクト比が小さい、灰分が多いという点も問題である。
【0012】
さらに、Carbon 2003(41)2949−2959(Gadelle P. ら)(非特許文献2)においても、繊維を構成するグラファイト網面がコーン形状で、その開放端が繊維側周面に適当な間隔で露出した構造が報告されている。この文献では、クエン酸で共沈させたコバルト塩及びマグネシウム塩の混合物0.2gをHで活性化処理した後、CO及びHから成る原料ガス(H濃度:26vol%)と反応させることにより、4.185gの生成物を得ている。しかし、この方法で得られた繊維構造では、コーン形の側周面と繊維軸のなす角は22°程度と、繊維軸に対して大きく傾斜している。このため、単独の繊維の長軸方向の導電性については、前記の魚骨状中空炭素繊維と同様の問題がある。また、繊維成長が不充分でアスペクト比が小さいことから、ポリマーとのコンポジットにおいて導電性や補強性を付与することが困難である。更に、触媒重量に対する生成物重量の比が21と小さいため、製造法として効率的でないばかりでなく、不純物含量が多くなるために用途が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表平9−502487号公報
【特許文献2】特開2006−103996号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Applied Physics A 2001(73)259−264(Ren Z. F.ら)
【非特許文献2】Carbon 2003(41)2949−2959(Gadelle P.ら)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のように、従来のカーボンナノチューブ等の黒鉛基底面が繊維軸と平行に配列した中空炭素繊維は長軸方向の導電性や機械的強度は優れるが、分散性が悪く樹脂等と混練して得られる組成物には期待される導電付与効果や補強効果が十分に発現しない。一方、黒鉛基底面が繊維軸と垂直、或は大きく傾斜した配列を持つ中空炭素繊維は分散が容易であるが繊維軸方向の導電性や強度は期待できないため樹脂等への分散組成物の導電付与効果や補強効果が十分に発現しない。また、現行の粒状カーボンブラックは、ポリマーとのコンポジット化において、性能、機能の面で満足できる状況とはいえない。
【0016】
本発明は、樹脂等との複合化に於ける分散性、混練性や加工性に優れ、また導電性、補強等の機能発現に優れる微細な中空炭素繊維及びその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、以下の事項に関する。なお、本発明において、「微細な中空炭素繊維」とは、後述する気相成長法により得られる、図2に模式的に示される炭素繊維のことを言い、従来の中空炭素繊維とは異なる。
【0018】
1.外径6〜20nm、アスペクト比2〜30のペンシル状構造単位集合体が互いに黒鉛基底面を介して連結した外径6〜20nm、アスペクト比10〜200の微細な中空炭素繊維であり、該微細な中空炭素繊維に加えられたずり応力に対し、隣接する構造単位集合体の黒鉛基底面間で滑りを生じ得る連結構造を繊維中に少なくとも1個内包することを特徴とする微細な中空炭素繊維。
【0019】
2.前記ペンシル状構造単位集合体間の接合部を形成する黒鉛基底面が繊維軸となす角が15°以下であることを特徴とする請求項1記載の微細な中空炭素繊維。
【0020】
3.窒素および硫黄を含まず、炭素以外の金属含有量が2重量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の微細な中空炭素繊維。
【0021】
4.学振法で補正された(炭素002面のLc(002))/(炭素002面の面間隔(d002))が6〜15であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細な中空炭素繊維。
【0022】
5.X線回折法により測定される微細な中空炭素繊維の炭素002面の面間隔(d002)が0.343〜0.348nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細な中空炭素繊維。
【0023】
6.導電材、導電助材、熱伝導材、摺動材、または研磨材としての項1〜5のいずれか1項に記載の微細な中空炭素繊維の使用。
【発明の効果】
【0024】
本発明の微細な中空炭素繊維は、樹脂や粉体との混練において優れた分散性を示し、導電性および補強効果等を十分に発現することから、導電材、導電助材、熱伝導材、摺動材、または研磨材等として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)微細な中空炭素繊維を構成する最小構造単位(ペンシル状構造単位)を模式的に示す図である。 (b)ペンシル状構造単位が、2〜30個積み重なった集合体を模式的に示す図である。
【図2】(a)集合体が間隔を隔てて連結し、繊維を構成する様子を模式的に示す図である。 (b)集合体が間隔を隔てて連結する際に、屈曲して連結した様子を模式的に示す図である。
【図3】実施例1で製造した微細な中空炭素繊維のTEM写真像である。
【図4】実施例1で製造した微細な中空炭素繊維のボールミル処理前のSEM写真像(倍率3万倍)である。
【図5】実施例1で製造した微細な中空炭素繊維のボールミル処理後のSEM写真像(倍率3万倍)である。
【図6】実施例1で製造した微細な中空炭素繊維とシリコーンゴムとの複合シートのSEM写真像(倍率3万倍)である。
【図7】微細な中空炭素繊維が、ずり応力により、さらに短い微細な中空炭素繊維になる様子を模式的に示す図である。
【図8】実施例2で製造した微細な中空炭素繊維のTEM写真像である。
【図9】実施例3で製造した微細な中空炭素繊維のTEM写真像である。
【図10】参考例1で製造した微細な中空炭素繊維のTEM写真像である。
【図11】比較例2で試験した市販の多層カーボンナノチューブのボールミル処理前のSEM写真像(倍率3万倍)である。
【図12】比較例2で試験した市販の多層カーボンナノチューブのボールミル処理後のSEM写真像(倍率3万倍)である。
【図13】評価実験結果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の微細な中空炭素繊維は、図1(a)に示すようなペンシル状構造を最小構造単位として有する。図1(a)に示すように、構造単位11は、ペンシルのように、頭頂部12と、開放端を備える胴部13とを有し、概ね中心軸の周囲に回転させた回転体形状となっている。構造単位11は、炭素原子のみからなるグラファイト網面により形成され、胴部開放端の円周状部分はグラファイト網面の開放端となる。なお、図1(a)において、中心軸および胴部13は、便宜上直線で示されているが、必ずしも直線ではなく、後述する図3のように曲線の場合もある。
【0027】
胴部13は、開放端側に緩やかに広がっており、その結果、胴部13の母線はペンシル状構造単位の中心軸に対してわずかに傾斜し、両者のなす角θは、15°より小さく、より好ましくは1°<θ<15°、更に好ましくは2°<θ<10°である。θが大きくなりすぎると、該構造単位から構成される微細な中空炭素繊維が魚骨状中空炭素繊維様の構造を呈してしまい、繊維軸方向の導電性が損なわれてしまう。一方θが小さいと、円筒チューブ状に近い構造となり、構造単位の胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が低くなるため、隣接繊維間の導電性が悪化する。
【0028】
実際に製造される微細な中空炭素繊維には、欠陥、不規則な乱れが存在するが、このような不規則性を排除して、全体としての形状を捉えると、胴部13が開放端側に緩やかに広がったペンシル状構造を有していると言える。本発明は、すべての部分においてθが上記範囲を示すことを意味しているのではなく、欠陥部分や不規則な部分を排除しつつ、構造単位11を全体的に捉えたときに、総合的にθが上記範囲を満たしていることを意味している。そこで、θの測定では、胴部の太さが不規則に変化していることもある頭頂部12付近を除くことが好ましい。より具体的には、例えば、図1(b)に示すように集合体21の長さをLとすると、頭頂側から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)L及びLの3点においてθを測定してその平均を求め、その値を、構造単位11についての全体的なθとしてもよい。また、Lについては、図8、図9および図10に示すように直線で測定することが理想であるが、図3に示すように胴部13の曲線に沿って測定した方が実際の値に近い場合もある。
【0029】
頭頂部の形状は、本発明により製造される場合、胴部と滑らかに連続し、上側(図において)に凸の曲面となっている。頭頂部の長さは、典型的には、集合体について説明するd(図1(b))以下程度である。
【0030】
さらに、後述するように活性な窒素を原料として使用しないため、窒素等の他の原子は、ペンシル状構造単位のグラファイト網面中に含まれない。このため繊維の結晶性が良好である。
【0031】
また、非特許文献、「表面科学」Vol.23,No.11,720,2002によると、カーボンナノチューブの生成時に硫化水素を加えると繊維生長点が枝分かれしたり、炭素SP3構造の枝状炭素が繊維表面に生成したり、炭素SP2構造の節が繊維中に導入されることが報告されている。また、非特許文献、「表面科学」Vol.25,No.61,345,2004では、カーボンナノチューブ生成時に硫黄粉末やチオフェンを反応ガス中に添加することにより多層カーボンナノチューブを選択的に生成することが出来ると報告されている。しかしながら、この方法では生成物のカーボンナノチューブ中に硫黄が取り込まれる結果、炭素結晶性が低下したり、カーボンナノチューブ純度が低下したりする。したがって、カーボンナノチューブの結晶性や純度を高めるためにアニーリングや熱処理といった後処理が必要となる。後述する本発明の製造方法では、製造工程において、硫黄を含まないことも特徴の1つである。
【0032】
本発明の微細な中空炭素繊維においては、図1(b)に示すように、このようなペンシル状構造単位が中心軸を共有して2〜30個積み重なって集合体21を形成している。積層数は、好ましくは2〜25個であり、より好ましくは5〜20個である。
【0033】
集合体21の胴部の外径Dは、6〜20nm、好ましくは8〜15nmである。Dが大きくなると形成される微細な中空炭素繊維の径が太くなるため、ポリマーとのコンポジットにおいて導電性能等の機能を付与するためには、多くの添加量が必要となってしまう。一方、Dが小さくなると形成される微細な中空炭素繊維の径が細くなって繊維同士の凝集が強くなり、例えばポリマーとのコンポジット調製において、分散させることが困難になる。胴部外径Dの測定は、集合体の頭頂側から、(1/4)L、(1/2)L及び(3/4)Lの3点で測定して平均することが好ましい。なお、図1(b)に胴部外径Dを便宜上示しているが、実際のDの値は、上記3点の平均値が好ましい。
【0034】
また、集合体胴部の内径dは、3〜20nm、好ましくは3〜10nmである。胴部内径dの測定についても、集合体の頭頂側から、(1/4)L、(1/2)L及び(3/4)Lの3点で測定して平均することが好ましい。なお、図1(b)に胴部内径dを便宜上示しているが、実際のdの値は、上記3点の平均値が好ましい。
【0035】
集合体21の長さLと胴部外径Dから算出されるアスペクト比(L/D)は、2〜30、好ましくは2〜20、更に好ましくは2〜10である。アスペクト比が大きいと、形成される繊維の構造が円筒チューブ状に近づき、1本の繊維における繊維軸方向の導電性は向上するが、構造単位胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が低くなるため、隣接繊維間の導電性が悪化してしまう。一方、アスペクト比が小さいと構造単位胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が高くなるため、隣接繊維間の導電性は向上するが、繊維外周面が、繊維軸方向に短いグラファイト網面が多数連結して構成されるため、1本の繊維における繊維軸方向の導電性が損なわれる。
【0036】
本発明の微細な中空炭素繊維は、図2(a)に示すように、前記集合体がさらにHead−to−Tailの様式で連結することにより形成される。Head−to−Tailの様式とは、本発明の微細な中空炭素繊維の構成において、隣り合った前記集合体どうしの連結部位が、一方の集合体の頭頂部(Head)と他方の集合体の下端部(Tail)の組合せで形成されていることを意味する。具体的な連結部分の形態は、第一の集合体21aの下端開口部において、最内層のペンシル状構造単位の更に内側に、第二の集合体21bの最外層のペンシル状構造単位の頭頂部が挿入され、さらに、第二の集合体21bの下端開口部に、第三の集合体21cの頭頂部が挿入され、これがさらに連続することによって繊維が構成される。本発明の最大の特徴は、この集合体の連結部位が隣り合った構造単位集合体端部の最内面黒鉛基底面と頭頂部最外面黒鉛基底面で接合していることである。
【0037】
その結果、黒鉛基底面に平行に応力が加わると接合する黒鉛基底面間で容易に滑りが生じ、連接する構造単位集合体間の端部と頭頂部が外れ、繊維の切断が起きる。この様子は図7に表されているが、微細な中空炭素繊維にずり応力が加わると、繊維は図7の矢印方向の繊維軸方向に引っ張られて、接合部を構成する黒鉛基底面で滑りが生じ(図7のA:カタカナの「ハ」形部分)、Head−to−Tail接続部でペンシル状構造単位集合体が1個から数十個の単位で引き抜かれ、微細な中空炭素繊維がさらに短くなる。
【0038】
微細な中空炭素繊維を形成する各々の連結部に於ける黒鉛基底面を介する接合は同一ではなく、例えば第一の集合体と第二の集合体の連結部分の繊維軸方向の長さは、第二の集合体と第三の集合体の連結部分の長さと必ずしも同じではなく、黒鉛基底面間の接合が不十分な箇所もある。したがって、本発明の微細な中空炭素繊維にずり応力が加えられた場合、接合部が容易に外れる部位と外れ難い部位が存在することにより、長さの異なる短繊維化した微細な中空炭素繊維が生成することになる。また、図2(a)のように、連結される二つの集合体が中心軸を共有して直線状に連結することもあるが、図2(b)の集合体21bと21cのように、中心軸が共有されずに連結して、結果として連結部分において屈曲構造を生じることもある。前記集合体の長さLは繊維ごとにおおむね一定である。しかしながら、気相成長法では、原料及び副生のガス成分と触媒及び生成物の固体成分が混在するため、発熱的な炭素析出反応の実施においては、前記の気体及び固体からなる不均一な反応混合物の流動状態によって一時的に温度の高い局所が形成されるなど、反応器内に温度分布が生じ、その結果、長さLにある程度のばらつきが生じることもある。
【0039】
このようにして構成される微細な中空炭素繊維は、前記ペンシル状構造単位下端のグラファイト網面の開放端の少なくとも一部が、前記集合体の連結間隔に応じて、繊維外周面に露出する。この結果、1本の繊維における繊維軸方向の導電性を損なうことなく、前記π電子の飛び出しによるジャンピング効果(トンネル効果)によって隣接する繊維間の導電性を向上させることができる。以上のような微細な中空炭素繊維の構造は、TEM画像によって観察できる。また、本発明の微細な中空炭素繊維の効果は、集合体自体の曲がり、集合体の連結部分における屈曲が存在しても、ほとんど影響がないと考えられる。従って、TEM画像の中で、比較的直線に近い形状を有する集合体を観察して、構造に関する各パラメータを求め、その繊維についての構造パラメータ(θ、D、d、L)としてよい。
【0040】
微細な中空炭素繊維のXRDにおいて、測定される002面のピーク半価幅W(単位:degree)は、2〜4の範囲である。Wが4を超えると、グラファイト結晶性が低く導電性も低い。また同時に結晶性繊維間の凝集が強くなるため、例えばポリマーとのコンポジット調製において分散が困難になる。一方、2未満ではグラファイト結晶性は良いが、同時に繊維径が太くなり、ポリマーに導電性等の機能を付与するためには多くの添加量が必要となってしまう。
【0041】
本発明の微細な中空炭素繊維のXRD測定によって求められるグラファイト面間隔d002は、0.350nm以下、好ましくは0.343〜0.348nmである。d002が0.348nmを超えるとグラファイト結晶性が低くなり、導電性が低下する。一方、0.343nm未満の繊維は、製造の際に収率が低い。ここでの値は、学振法により002回折線の補正を行なったものである。
【0042】
本発明の微細な中空炭素繊維を形成する炭素層数は、炭素層の厚みを平均層間距離で除すること、すなわち学振法で補正された(炭素002面のLc(002))/(炭素002面の面間隔(d002))で示すことが出来る。この値は微細な中空炭素繊維をTEMで観察し、その明視野像に示される層数と良く一致する。本発明の微細な中空炭素繊維の最も小さな繊維外径である6nmでは、(炭素002面のLc(002))/(炭素002面の面間隔(d002))は6程度であり、最も大きな繊維外径である20nmでは、(炭素002面のLc(002))/(炭素002面の面間隔(d002))は15程度である。すなわち、微細な中空炭素繊維の層数は6〜15程度であることが好ましい。この範囲において、微細な中空炭素繊維の導電材、導電助材、熱伝導材、摺動材、あるいは研磨剤等としての特性が十分発現する。
【0043】
本発明の微細な中空炭素繊維に含有される灰分は、2重量%以下であり、通常の用途では、精製を必要としない。通常、0.3重量%以上2重量%以下であり、より好ましくは0.3重量%以上1.5重量%以下である。尚、灰分は、繊維を燃焼して残った酸化物の重量から決定される。
【0044】
次に、本発明の微細な中空炭素繊維の製造方法について説明する。
【0045】
本発明の方法では、コバルトのスピネル型結晶構造を有する酸化物に、マグネシウムが固溶置換した触媒を用いて、CO及びHを含む混合ガスを触媒粒子に供給して気相成長法により、微細な中空炭素繊維を製造する。
【0046】
Mgが置換固溶したコバルトのスピネル型結晶構造は、MgCo3−xで表される。ここで、xは、MgによるCoの置換を示す数であり、形式的には0<x<3である。また、yはこの式全体が電荷的に中性になるように選ばれる数で、形式的には4以下の数を表す。即ち、コバルトのスピネル型酸化物Coでは、2価と3価のCoイオンが存在しており、ここで、2価および3価のコバルトイオンをそれぞれCoIIおよびCoIIIで表すと、スピネル型結晶構造を有するコバルト酸化物はCoIICoIIIで表される。Mgは、CoIIとCoIIIのサイトの両方を置換して固溶する。MgがCoIIIを置換固溶すると、電荷的中性を保つためにyの値は4より小さくなる。但し、x、y共に、スピネル型結晶構造を維持できる範囲の値をとる。
【0047】
触媒として使用できる好ましい範囲として、Mgの固溶範囲は、xの値が0.5〜1.5であり、より好ましくは0.7〜1.5である。xの値が0.5未満の固溶量では、触媒の活性は低く、生成する微細な中空炭素繊維の量は少ない。xの値が1.5を超える範囲では、スピネル型結晶構造を調製することが困難である。
【0048】
触媒のスピネル型酸化物結晶構造は、XRD測定により確認することが可能であり、結晶格子定数a(立方晶系)は、0.811〜0.818nmの範囲であり、より好ましくは0.812〜0.818nmである。aが小さいとMgの固溶置換が充分でなく、触媒活性が低い。また、0.818nmを超える格子定数を有する前記スピネル型酸化物結晶は調製困難である。
【0049】
このような触媒が好適である理由として、本発明者らは、コバルトのスピネル構造酸化物にマグネシウムが置換固溶した結果、あたかもマグネシウムのマトリックス中にコバルトが分散配置された結晶構造が形成されることにより、反応条件下においてコバルトの凝集が抑制されていると推定している。
【0050】
また、触媒の粒子サイズは、適宜選ぶことができるが、例えばメジアン径として、0.1〜100μm、好ましくは、0.1〜10μmである。
【0051】
触媒粒子は、一般に基板または触媒床等の適当な支持体に、散布するなどの方法により載せて使用する。基板または触媒床への触媒粒子の散布は、触媒粒子を直接散布して良いが、エタノール等の溶媒に懸濁させて散布し、乾燥させることにより所望の量を散布しても良い。
【0052】
触媒粒子は、原料ガスと反応させる前に、活性化させることも好ましい。活性化は通常、HまたはCOを含むガス雰囲気下で加熱することにより行われる。これらの活性化操作は、必要に応じて、HeやNなどの不活性ガスで希釈することにより実施することができる。活性化を実施する温度は、好ましくは400〜600℃、より好ましくは450〜550℃である。
【0053】
気相成長法の反応装置に特に制限はなく、固定床反応装置や流動床反応装置といった反応装置により実施することができる。
【0054】
気相成長の炭素源となる原料ガスは、CO及びHを含む混合ガスが利用される。
【0055】
ガスの添加濃度{H/(H+CO)}は、好ましくは0.1〜30vol%、より好ましくは2〜20vol%である。添加濃度が低すぎると円筒状のグラファイト質網面が繊維軸に平行したカーボンナノチューブ様の構造を形成してしまう。一方、30vol%を超えるとペンシル状構造体の炭素側周面の繊維軸に対する傾斜角が大きくなり、魚骨形状を呈するため繊維方向の導電性の低下を招く。
【0056】
気相成長を実施する反応温度は、好ましくは400〜650℃、より好ましくは500〜600℃である。反応温度が低すぎると繊維の成長が進行しない。一方、反応温度が高すぎると収量が低下してしまう。反応時間は、特に限定されないが、例えば2時間以上であり、また12時間程度以下である。
【0057】
気相成長を実施する反応圧力は、反応装置や操作の簡便化の観点から常圧で行うことが好ましいが、Boudouard平衡の炭素析出が進行する範囲であれば、加圧または減圧の条件で実施しても差し支えない。
【0058】
本発明の製造方法によれば、触媒単位重量あたりの微細な中空炭素繊維の生成量は、従来の製造方法、例えば非特許文献2記載の方法に比べて格段に大きいことが示された。本発明の製造方法による微細な中空炭素繊維の生成量は、触媒単位重量あたり40倍以上であり、例えば40〜200倍である。その結果、前述のような不純物、灰分の少ない微細な中空炭素繊維の製造が可能である。
【0059】
本発明の製造方法による微細な中空炭素繊維の形成過程は明らかではないが、発熱的なBoudouard平衡と原料ガスの流通による除熱とのバランスから、前記触媒から形成されたコバルト微粒子近傍の温度が上下に振幅するため、炭素析出が断続的に進行することにより形成されるものと考えられる。即ち、[1]ペンシル状構造体頭頂部形成、[2]ペンシル状構造体の胴部成長、[3]前記[1]、[2]過程の発熱による温度上昇のため成長停止、[4]流通ガスによる冷却、の4過程が触媒微粒子上で繰り返されることにより、ペンシル状構造単位集合体が黒鉛基底面を介して接合する微細な中空炭素繊維が形成されると推定される。
【0060】
次に、炭素繊維が樹脂や粉体との混練において有する分散性について、従来の中空炭素繊維と本発明の微細な中空炭素繊維の違いを述べる。
【0061】
従来の中空炭素繊維は、繊維軸に対し平行に黒鉛基底面が配列する結果、繊維軸方向の機械的強度は大きく、また繊維のアスペクト比が10〜100以上と大きいため、樹脂や粉体との混練において繊維の絡まり合いを解すことができず、また大きなせん断力を掛けて混練を行なっても、繊維が切断することなく高アスペクト比が維持されるため、樹脂や粉体への分散は著しく困難である。その結果、混練物中の従来の中空炭素繊維の分散は不十分であり、中空炭素繊維の特性から期待される導電性や補強効果は発現し難かった。繊維外径が6μmから12μm程度の従来の中空炭素繊維を用いて樹脂等を導電化或は補強する場合、この中空炭素繊維は、混練分散に適するようにアスペクト比3〜10程度に短繊維化或はミルド化された後に、樹脂等に投入、混練されるという手順がとられる。
【0062】
これに対して、本発明の微細な中空炭素繊維は、混練前において、構造単位集合体が連結したアスペクト比が10〜200の微細な中空炭素繊維である。このアスペクト比は、従来の中空炭素繊維と変わりない。しかし、本発明の微細な中空炭素繊維は、アスペクト比2〜30の構造単位集合体が、黒鉛基底面を介して連結しアスペクト比10〜200程度の微細な中空炭素繊維を構成していることが最大の特徴である。樹脂や粉体との混練時において、本発明の微細な中空炭素繊維の繊維軸に平行なずり応力が加わると、構造単位集合体の接合部分である黒鉛基底面を介して接合した部分が滑ることで応力を緩和する。言い換えると、本発明の微細な中空炭素繊維に平行なずり応力が加わると、繊維は接合部分で外れる。その結果、繊維は1個或は数十個の基本構造単位集合体が繋がった短い繊維に変化する(図7参照)。しかし、混練過程で生成した、本発明の微細な中空炭素繊維が短繊維化された各繊維は、4〜50程度のアスペクト比を維持しているので、導電性付与や補強効果が損なわれることはない。黒鉛の基底面に平行にずり応力が加わると基底面はファンデルワールス力のみで結合しているので、容易に層間剥離が起きる。本発明の微細な中空炭素繊維は、この層間剥離を起こし易い接合部を繊維の中に取り入れた構造体であると言い換えることも出来る。樹脂や粉体との混練時に加えられるずり応力により、本発明の微細な中空炭素繊維は、自動的に短繊維化してアスペクト比を減らし、容易に樹脂や粉体中に導電性賦付与や補強効果が損なわれることなく分散することが出来る。
【実施例】
【0063】
以下に本発明の実施例を比較例と共に説明する。
【0064】
<実施例1>
イオン交換水500mLに硝酸コバルト〔Co(NO・6HO:分子量291.03〕115g(0.40モル)、硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO:分子量256.41〕102g(0.40モル)を溶解させ、原料溶液(1)を調製した。また、重炭酸アンモニウム〔(NH)HCO:分子量79.06〕粉末220g(2.78モル)をイオン交換水1100mLに溶解させ、原料溶液(2)を調製した。次に、反応温度40℃で原料溶液(1)と(2)を混合し、その後4時間攪拌した。生成した沈殿物のろ過、洗浄を行い、乾燥した。
【0065】
これを焼成した後、乳鉢で粉砕し、43gの触媒を取得した。本触媒中のスピネル構造の結晶格子定数a(立方晶系)は0.8162nm、置換固溶によるスピネル構造中の金属元素の比はMg:Co=1.4:1.6であった。
【0066】
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、その上に触媒0.9gを散布した。He雰囲気中で炉内温度を550℃に加熱した後、CO、Hからなる混合ガス(容積比:CO/H=95.1/4.9)を原料ガスとして反応管の下部から1.28L/分の流量で7時間流し、微細な中空炭素繊維を合成した。
【0067】
生成物の収量は53.1gであり、灰分を測定したところ1.5重量%であった。生成物についてXRD分析を行ない、学振法で002回折線の補正を行なった。その結果d(002)は0.3465nm、半値幅は3.07°、Lc(002)は2.97nm、Lc(002)/d(002)は8.6であった。また、TEM画像から、得られた微細な中空炭素繊維を構成するペンシル状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=12nm、d=7nm、L=114nm、L/D=9.5、θは0から7°であり、平均すると約3°であった。また、集合体を形成するペンシル状構造単位の積層数は約10であった。尚、D、dおよびθについては、集合体の塔頂から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点について測定した。実施例1で得られた微細な中空炭素繊維のTEM像を図3に示す。
【0068】
さらに、この微細な中空炭素繊維をボールミルで24時間処理した。ボールミルはステンレス製の内径12cm、1250mlの容器であり、容器に実施例1で製造した微細な中空炭素繊維を25gと直径2mmのジルコニアボールを粉砕メディアとして250ml加え、乾式で回転を120rpmとして24時間処理した。ボールミル処理前後の微細な中空炭素繊維の長さを以下の方法で測定した。微細な中空炭素繊維あるいはボールミル処理を行なった微細な中空炭素繊維とダイセル製CMC#1280と水を1:0.2:98.8の重量比で混合後、日本精機製超音波分散機US−600Tで40分間分散処理を行った。この分散液をさらに水で1/100に希釈し、この希釈分散液をSEMの試料台に少量載せ、水を蒸発させた後SEMで観察した像を画像解析装置で解析し長さを求めた。解析に用いた繊維本数は250本以上とした。微細な中空炭素繊維およびボールミル処理を行なった微細な中空炭素繊維の分散前のSEM像を図4に、分散後のSEM像を図5に示す。また、画像解析で計算された長さを表1に示す。図4、図5および表1より、本発明の微細な中空炭素繊維はボールミル処理により1/5の長さに短繊維化されていることが分かる。
【0069】
【表1】

【0070】
シリコーンゴム(東レダウコーニング(株)製XE20)に実施例1の微細な中空炭素繊維を適当量配合し、三本ロール(井上製作所(株)製ロールミルMR−6×12)で20分間混練、分散し、組成物を作成した。得られた組成物を厚さ3mmにホットプレス加硫成形し、シートを作成した。微細な中空炭素繊維を10重量%添加したシートの表面をSEMで観察した結果を図6に示す。また、微細な中空炭素繊維の配合量を変えて作成した、各シートの体積抵抗値の測定結果を表2に示す。図6から混練によって繊維の短繊維化が認められ、かつ短繊維化した繊維が均一に分散した状態が観察できる。また表2より、十分な導電性付与効果が認められる。
【0071】
【表2】

【0072】
<実施例2>
イオン交換水900mLに硝酸コバルト〔Co(NO・6HO:分子量291.03〕123g(0.42モル)を溶解させた後、さらに酸化マグネシウム(MgO:分子量40.30)17g(0.42モル)を加えて混合し原料スラリー(1)を調製した。また、重炭酸アンモニウム〔(NH)HCO:分子量79.06〕粉末123g(1.56モル)をイオン交換水800mLに溶解させ、原料溶液(2)を調製した。次に、室温で原料スラリー(1)と原料溶液(2)を混合し、その後2時間攪拌した。生成した沈殿物のろ過、洗浄を行い、乾燥した。これを焼成した後、乳鉢で粉砕し、48gの触媒を取得した。本触媒中のスピネル構造の結晶格子定数a(立方晶系)は0.8150nm、置換固溶によるスピネル構造中の金属元素の比はMg:Co=1.2:1.8であった。
【0073】
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、その上に触媒0.3gを散布した。He雰囲気中で炉内温度を500℃の温度に加熱した後、反応管の下部からHを0.60L/分の流量で1時間流し、触媒を活性化した。その後、He雰囲気中で炉内温度を575℃まで上げ、CO、Hからなる混合ガス(容積比:CO/H=92.8/7.2)を原料ガスとして0.78L/分の流量で7時間流し、微細な中空炭素繊維を合成した。
収量は30.8gであり、灰分は0.6重量%であった。生成物についてXRD分析を行ない、学振法で002回折線の補正を行なった。その結果d(002)は0.3461nm、半値幅は3.055°、Lc(002)は2.99nm、Lc(002)/d(002)は8.7であった。またTEM画像から、得られた微細な中空炭素繊維を構成するペンシル状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=10nm、d=5nm、L=24nm、L/D=2.4、θは1から14°であり、平均すると約6°であった。また、集合体を形成するペンシル状構造単位の積層数は約10であった。尚、D、dおよびθについては、集合体の塔頂から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点について測定した。
【0074】
実施例2で得られた微細な中空炭素繊維のTEM像を図8に示す。
【0075】
<実施例3>
硝酸マグネシウムの代わりに酢酸マグネシウム〔Mg(OCOCH・4HO:分子量214.45〕86g(0.40モル)を用いたほかは、実施例1と同様に触媒調製を行った。得られた触媒中のスピネル構造の結晶格子定数a(立方晶系)は0.8137nm、置換固溶によるスピネル構造中の金属元素の比はMg:Co=0.8:2.2であった。
【0076】
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、その上に触媒0.6gを散布した。He雰囲気中で炉内温度を500℃の温度に加熱した後、反応管の下部からHを0.60L/分の流量で1時間流し、触媒を活性化した。その後、He雰囲気中で炉内温度を590℃まで上げ、CO、Hからなる混合ガス(容積比:CO/H=84.8/15.2)を原料ガスとして0.78L/分の流量で6時間流し、微細な中空炭素繊維を合成した。
【0077】
収量は28.2gであり、灰分は2.3重量%であった。生成物についてXRD分析を行ない、学振法で002回折線の補正を行なった。その結果d(002)は0.3453nm、半値幅は2.705°、Lc(002)は3.39nm、Lc(002)/d(002)は9.8であった。生成物のXRD分析で観察されたピーク半価幅W(degree)は2.781、d002は0.3425nmであった。またTEM画像から、得られた微細な中空炭素繊維を構成するペンシル状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=12nm、d=5nm、L=44nm、L/D=3.7、θは0から3°であり、平均すると約2°であった。また、集合体を形成するペンシル状構造単位の積層数は約13であった。尚、D、dおよびθについては、集合体の塔頂から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点について測定した。
【0078】
実施例3で得られた微細な中空炭素繊維のTEM像を図9に示す。
【0079】
<比較例1>
硝酸マグネシウムを使用せず、重炭酸アンモニウム粉末とこれを溶解させるイオン交換水の量をそれぞれ110g、550mLとしたほかは、実施例1と同様に触媒調製を行った。得られた触媒中のスピネル構造の結晶格子定数a(立方晶系)は0.8091nmであった。この触媒を使用し実施例2と同様の手順にて合成実験を行ったところ、反応はごく僅かしか進行せず、仕込み触媒とほぼ同重量の回収物が得られたのみであった。
【0080】
<参考例1>
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、実施例2で調製した触媒を、その支持体上に0.6gを散布した。He雰囲気中で炉内温度を500℃の温度に加熱した後、反応管の下部からHを0.60L/分の流量で1時間流し、触媒を活性化した。その後、He雰囲気中で炉内温度を650℃まで上げ、CO、Hからなる混合ガス(容積比:CO/H=60/40)を原料ガスとして0.78L/分の流量で6時間流し、微細な中空炭素繊維を合成した。
【0081】
収量は11.2gであり、灰分は6.1重量%であった。生成物のXRD分析で観察されたピーク半価幅W(degree)は2.437、d002は0.3424nmであった。またTEM画像から、得られた微細な中空炭素繊維を構成するペンシル状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=9nm、d=6nm、L=13nm、L/D=1.4、θは9から36°であり、平均すると約19°であった。また、集合体を形成するペンシル状構造単位の積層数は5であった。尚、D、dおよびθについては、集合体の塔頂から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点について測定した。
【0082】
参考例1で得られた微細中空炭素繊維のTEM像を図10に示す。
【0083】
<比較例2>
市販の多層カーボンナノチューブ(ナノシル製NC−7000)を実施例1と同様の方法でボールミル処理を行ない、またSEM観察と繊維の長さを測定した。市販の多層カーボンナノチューブは、繊維軸方向に黒鉛基底面が円筒状に配列し、本発明の特徴である黒鉛基底面を介する接続部を持たない。ボールミル処理前の市販の多層カーボンナノチューブのSEM像を図11に、処理後のSEM像を図12に示す。また、繊維長測定結果を表3に示す。図11、図12および表3より、黒鉛基底面を介する接合部分を有しない市販の多層カーボンナノチューブはボールミル処理を受けても切断されることは無く、その繊維長はほとんど変化のないことが分かる。
【0084】
【表3】

【0085】
<評価実験>
微細な中空炭素繊維0.5gを直径2cmの金属製容器に充填し、プレス圧力を変えながら粉体の体積抵抗を測定した結果を表4に示す。また、各試料のプレス圧力と体積抵抗率との関係を図13に示した。評価実験に使用した試料は次のとおりである。
評価例1:実施例1で製造した微細な中空炭素繊維
評価例2:実施例2で製造した微細な中空炭素繊維
評価例3:市販の多層カーボンナノチューブ(Aldrich製試薬677248)
評価例4:参考例1で製造した微細な中空炭素繊維
【0086】
【表4】

【0087】
図13から明らかなように、評価例3、4に対し、評価例1、2では、同じプレス圧力で低い体積抵抗値が得られている。これは、本発明の微細な中空炭素繊維が、円筒チューブ状(評価例3)や魚骨状中空炭素繊維に近い構造(評価例4)で使用した中空炭素繊維に比べ、その構造上の特徴から単独の繊維における長軸方向の導電性と隣接する繊維間での導電性をバランス良く具備することにより、導電性能が向上していることを示すものである。このため、例えばポリマーとのコンポジットにおいて、優れた導電性能を発現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の微細な中空炭素繊維は、樹脂や粉体との混練において優れた分散性を示し、導電性および補強効果等を十分に発現することから、導電材、導電助材、熱伝導材、摺動材、または研磨材等として使用することができる。
【符号の説明】
【0089】
11 構造単位
12 頭頂部
13 胴部
21、21a、21b、21c 集合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径6〜20nm、アスペクト比2〜30のペンシル状構造単位集合体が互いに黒鉛基底面を介して連結した外径6〜20nm、アスペクト比10〜200の微細な中空炭素繊維であり、該微細な中空炭素繊維に加えられたずり応力に対し、隣接する構造単位集合体の黒鉛基底面間で滑りを生じ得る連結構造を繊維中に少なくとも1個内包することを特徴とする微細な中空炭素繊維。
【請求項2】
前記ペンシル状構造単位集合体間の接合部を形成する黒鉛基底面が繊維軸となす角が15°以下であることを特徴とする請求項1記載の微細な中空炭素繊維。
【請求項3】
窒素および硫黄を含まず、炭素以外の金属含有量が2重量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の微細な中空炭素繊維。
【請求項4】
学振法で補正された(炭素002面のLc(002))/(炭素002面の面間隔(d002))が6〜15であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細な中空炭素繊維。
【請求項5】
X線回折法により測定される微細な中空炭素繊維の炭素002面の面間隔(d002)が0.343〜0.348nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細な中空炭素繊維。
【請求項6】
導電材、導電助材、熱伝導材、摺動材、または研磨材としての請求項1〜5のいずれか1項に記載の微細な中空炭素繊維の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−58099(P2011−58099A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205447(P2009−205447)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】