説明

微細化天然繊維の製造方法および生産設備ならびにその製造方法にて製造された微細化天然繊維およびこの微細化天然繊維を用いたスピーカ用構成部品

【課題】各種音響機器に使用されるスピーカ用抄紙部品は、高音質化のために繊維の微細化検討がなされているが、現状では微細化の程度が不十分であった。
【解決手段】加圧ニーダ等の二軸混練装置20で叩解する工程と、その後、ビーズミル21で微細化する工程とを備える製造方法とすることで、BET比表面積が1m2/g以上の微細化繊維が容易に製造でき、この微細化繊維を振動板等のスピーカ用構成部品に使用することで、高音質スピーカが実現でき、高い生産性を確保することができるとともに、スピーカの低価格化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細化天然繊維および各種音響機器に使用されるスピーカの構成部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の音響機器や映像機器等の電子機器に関しては、デジタル技術の著しい進歩により、従来と比較して、飛躍的に性能向上が図られてきた。
【0003】
よって、前述の電子機器の性能向上により、これら電子機器に使用されるスピーカについても、その性能向上が市場より強く要請されている。
【0004】
一方、その性能向上が市場より強く要請されているスピーカについては、スピーカの構成部品の中で、その音質を決定する大きなウエイトを占める振動板を中心とした振動部品の高性能化対応が必要不可欠である。
【0005】
この振動板を中心とした振動部品の高性能化対応の一環として、それぞれの分野ごと、それぞれの用途ごとに要求されるユーザニーズを満足させる音つくり、特性つくりが非常に重要視されている。
【0006】
これらのユーザニーズを満足させる音つくり、特性つくりが実現できるのは、スピーカとしての特性、音質の微調整ができる利点を有する抄紙部品であり、この抄紙部品の開発が注目されている。
【0007】
従来の製造方法および生産設備を、スピーカ用構成部品の一つである振動板を例にして図3により説明する。
【0008】
図3は、従来のスピーカ用抄紙振動板の製造方法および生産設備を示す概念図である。
【0009】
図3に示すように、1はビータであり、スピーカ用抄紙振動板の材料10を水の入ったビータ1内に入れ、2の回転刄を回転させることにより、数日間かけて叩解手段Aにより細かく叩解する。
【0010】
次にこの叩解された材料を抄紙手段Bにより金型3とその上に配された金網4の上に抄き上げて水分のみを排出し、材料を堆積させ、スピーカ用振動板としての形状に形成する。
【0011】
次に加圧手段Cにより、堆積させたスピーカ用振動板材料を加熱加圧して、残った水分を蒸発させる。
【0012】
次に抜き手段Dにより、不要となる最外周部とボイスコイルを挿入するための中心孔部を金型5により抜き加工する。
【0013】
以上で、従来のスピーカ用抄紙振動板が完成する。
【0014】
上記はプレス振動板の生産設備について説明したが、プレスをせず、1日から2日程度乾燥させるオーブン振動板、いわゆるノンプレス振動板としての生産設備も存在する。
【0015】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開平5−211696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
音響業界や映像業界は、前述したデジタル技術の著しい進歩による飛躍的な性能向上が実現されている一方、その製品の低価格化傾向が強く、これらの音響機器や映像機器等の電子機器に使用されるスピーカについても、低価格化の市場要求が顕著である。
【0017】
ユーザニーズを満足できる従来のスピーカ用振動部品は、パルプ材料を抄紙して形成した抄紙部品が主流であった。
【0018】
抄紙部品、特に抄紙振動板は剛直であることが好ましい。そのため、抄紙前の繊維を微細化することが抄紙部品の剛直化につながるために盛んに検討されている。
【0019】
従来から、抄紙材料の叩解工程は、ビータやデイスクリファイナー等が用いられる。しかしながら、この方法で微細化するには、時間がかかるうえ、叩解度を高めるには刃を繊維に直接当てる形態になってしまい微細化繊維が得られたとしても繊維長が短く抄紙後に絡み合いの大きい剛直な部品が得られない。
【0020】
一方、特許文献1に開示された方法は、繊維長を短くせず繊維表面を羽毛化できるが効率が非常に悪く、BET比表面積で1m2/g以上にするのは現実的に不可能である。
【0021】
また特許文献1の方法は繰り返し処理する必要があり製造コストが高くなる。
【0022】
本発明は、上記課題を解決するもので、剛直な抄紙部品を得るための繊維を得る方法であり、製造時間を短縮できるスピーカ用抄紙部品の製造方法や生産設備を提供することを目的とするものである。
【0023】
すなわち、スピーカとしての特性、音質の調整の自由度が大きいスピーカ用抄紙部品を、高い生産性で提供し、低価格化を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するために本発明は、微細化天然繊維の製造方法を、天然繊維を二軸混練装置により叩解する叩解工程と、前記叩解工程の後に、ビーズミルにより微細化する微細化工程を備えた製造方法としたものである。
【0025】
そして、BET比表面積を1m2/g以上まで微細化した微細化天然繊維の製造方法としたものである。
【0026】
これは、天然繊維を加工するために、加圧ニーダ等の二軸混練装置で天然繊維を叩解する。この状態では、繊維長は天然繊維自体が細胞レベルで持つ繊維長が維持されている。
【0027】
その後、ビーズミルを用いて天然繊維を微細化する製造方法としたものである。
【0028】
前述の加圧ニーダは、一般的に主材料を樹脂やゴム材料とした場合の混合物の混合に用いられる装置であるが、天然繊維の叩解にも利用できる。
【0029】
そして加圧ニーダでは、前記したように天然繊維自体が細胞レベルで持つ繊維長は維持され、カットミル等の切断機による微細加工に較べて、抄紙した場合の繊維の絡み合いが増し剛直な抄紙部品を提供することが可能である。
【0030】
しかしながら、加圧ニーダでの加工だけでは微細加工とはならない。そこで、加圧ニーダ処理後に、ビーズミル処理をすることで、繊維長を大きく損なわないままBET比表面積で1m2/gの天然繊維の微細化を得ることができる。
【0031】
例えば圧力式ホモジナイザーでは小型オリフィス径が小さく、繊維が圧力式ホモジナイザー中で詰まってしまうため、繊維長を保持したままBET表面積を大きくすることが不可能である。
【発明の効果】
【0032】
本発明のように、少なくとも加圧ニーダ等の二軸混練装置で天然繊維を処理する叩解工程と、その後のビーズミルでの天然繊維の微細化工程の2工程を必須とすることで、天然繊維は、BET比表面積1m2/g以上の微細繊維を得ることができる。
【0033】
この微細繊維を用いた抄紙部品は、非常に剛直で軽いものとなり、例えばスピーカ用振動板に用いると、そのスピーカは、音圧が高く、再生帯域が広いスピーカとなる。
【0034】
またこの方式では、天然繊維は、加圧ニーダにおいては繊維同士の摩擦、ビーズミルにおいてはビーズと天然繊維および天然繊維同士の摩擦が微細化の原理であるため、羽毛状の微細繊維になるとともに、製造時のスケールアップが容易であり、羽毛状の微細繊維製造時間を短縮することができる。
【0035】
また、この羽毛状の微細繊維は、各種スピーカ用抄紙部品にも適用可能であり、高い生産性を確保することができ、スピーカの低価格化を図ることができ、その工業的価値は非常に大なるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0037】
(実施の形態1)
以下、実施の形態1を用いて、本発明について説明する。
【0038】
図1は本発明の一実施形態のスピーカ用抄紙振動板の製造方法および生産設備を示す概念図である。図2は、この製造方法および生産設備により得られた微細化天然繊維を使用したスピーカ用構成部品である振動板の断面図である。
【0039】
図1および図2について説明する。
【0040】
図1のEおよびFは微細化叩解手段であり、Eは叩解手段であり、Fは微細化手段である。20は二軸混練装置である加圧ニーダであり、スピーカ用抄紙振動板の材料10を加圧ニーダ20内に入れ、回転させることにより、細かく叩解する。
【0041】
次にこの叩解された材料を、微細化装置であるビーズミル21に入れ、回転させることにより、ビーズと衝突させることで細かく粉砕して微細化する。
【0042】
次にこの微細化叩解された材料を抄紙手段Bにより金型3とその上に配された金網4の上に抄き上げて水分のみを排出し、材料を堆積させ、スピーカ用振動板としての形状に形成する。
【0043】
次に加圧手段Cにより、堆積させたスピーカ用振動板材料を加熱加圧して、残った水分を蒸発させる。
【0044】
次に抜き手段Dにより、不要となる最外周部とボイスコイルを挿入するための中心孔部を金型5により抜き加工する。
【0045】
以上で、図2に示すスピーカ用抄紙振動板が完成する。
【0046】
なお、上記はプレス振動板の製造方法および生産設備について説明したが、プレスをせず、1日から2日程度乾燥させるオーブン振動板、いわゆるノンプレス振動板としての生産設備としてもよい。
【0047】
また、スピーカ用構成部品として、振動板の製造方法および生産設備について説明したが、抄紙タイプのダストキャップやサブコーンについても同様の製造方法および生産設備にて実現することができる。
【0048】
本発明に使用する天然繊維に特に規定はないが、製紙メーカでの処理工程を経たシート状のパルプでは、加圧ニーダ等で、二軸混練装置を使用しない場合でも、ビータ等でも時間をかければある程度の叩解は可能ではあるが、竹繊維等のほうき状の天然繊維に用いればより効果的である。
【0049】
本発明で加圧ニーダ等を使用する利点は、元々の繊維の形態に左右されずに加工できる点である。さらに、混合目的ではなく繊維間の摩擦を高め、天然繊維を羽毛状、すなわち切断されるのではなく、表面が毛羽立つ状態にするために最適な方法である。
【0050】
本発明で加圧ニーダ等の二軸混練装置で羽毛化させた繊維は、ビーズミルでより強いせん断力で羽毛化させる必要がある。ビーズミルも前記したようにビーズ繊維間あるいは繊維同士での摩擦によって繊維長を短くすることなく羽毛化を促進することができる。
【0051】
ビーズの種類や量によって羽毛化の程度を制御できるが、セルロースを多く含む天然繊維の場合は、廉価なガラスビーズで十分にBET比表面積が1m2/g以上の微細化繊維を加工することができる。
【0052】
本発明で製造される微細化繊維は、平均繊維長が0.5mm以上が好ましい。より好ましくは0.7mm以上であり、この繊維長とすることで抄紙時には繊維間の十分な絡み合いを与えることができる。
【0053】
本発明で使用する天然繊維に特に制約はないが、表面が4層の複層構造を有する竹繊維においては、摩擦による羽毛化が効率よく実現できることから好ましい。
【0054】
本発明の請求項1の製造方法にて得られた請求項2から請求項4の天然繊維は、剛直で軽い抄紙部品が得られることから、スピーカ用振動板、スピーカ用サブコーン、スピーカ用ダストキャップ等のスピーカ用抄紙部品に用いることが有用である。
【0055】
特に高剛性と軽量化が求められるスピーカ用振動板には最適である。
【0056】
請求項2から請求項4の微細化叩解された天然繊維を用いる方法に特に規定はない。
【0057】
好ましい例としては、他天然セルロースと混合して混抄し、スピーカ用抄紙部品に仕上げる方法や、抄紙部品の表面の片面あるいは両面に、デッピングやスプレーや吸引堆積等の公知の手段で塗布する方法が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明を何ら限定するものではない。
【0059】
(実施例1)
長さが約10cmの竹繊維500gを、3リッターの加圧ニーダで25rpmの回転数で20分間処理した。
【0060】
処理後の平均繊維長は2.5mmであり、カナダ標準叩解度は750mlであった。
【0061】
これを濃度3%程度の水分散液にし、3リッターのビーズミルにガラスビーズを100g入れて20分間処理した。
【0062】
得られた繊維の平均繊維長は、1mmであった。
【0063】
カナダ標準叩解度は測定不能であり、BET比表面積を測定すると2.22m2/gであった。
【0064】
(比較例1)
実施例1の加圧ニーダ処理品を1%水分散液にした後、圧力式ホモジナイザーで処理を試みた。
【0065】
結果は、繊維が詰まってしまい加工できなかった。
【0066】
(比較例2)
長さが約10cmの竹繊維を約0.5mmにカット後1%水分散液にし、圧力式ホモジナイザーで50MPa圧力下で5回循環させた。
【0067】
できた繊維の平均繊維長は0.42mm、カナダ標準叩解度は80ml、BET比表面積は0.95m2/gであった。
【0068】
(比較例3)
比較例2の0.5mmにカットした竹繊維を実施例1と同様にビーズミルで処理した。平均繊維長は0.34mm、カナダ標準叩解度は測定不能、BET比表面積は2.1m2/gであった。
【0069】
(実施例2)
実施例1の途中の加圧ニーダ処理品を90wt%、実施例1の微細化繊維10wt%を用いて、平板と16cm径のスピーカ用振動板を作製した。
【0070】
平板を測定したところ、音速は3500m/s〜4000m/sであった。
【0071】
(比較例4)
実施例1の途中の加圧ニーダ処理品のみで平板と16cm径のスピーカ用振動板を作製した。
【0072】
測定された音速は3000m/s〜3200m/sであった。
【0073】
(比較例5)
木材パルプをビータで700mlに叩解したもので、平板とスピーカ用振動板を作製した。
【0074】
測定された音速は2300m/s〜2500m/sであった。
【0075】
(実施例3)
比較例4の平板と振動板にスプレーで乾燥後重量が、約0.3gの実施例1の微細化繊維を吹き付けた。
【0076】
平板の音速は3800m/s〜4500m/sであった。
【0077】
(音質評価)
実施例2、比較例4、比較例5、実施例3の振動板を用いたスピーカを組み立てた後、5名の人員で試聴評価を実施した。
【0078】
評価の観点は、ア)音のクリア感、イ)音の迫力、ウ)音のしっとり感を各3点で9点/人 計45点満点で評価した。
【0079】
実施例2は、39点、比較例4は、30点、比較例5は、21点、実施例3は、41点であった。
【0080】
以上の結果から、本発明にかかる製造方法で得られた微細化繊維をスピーカ用抄紙部品に利用すると高音質なスピーカが実現できることが明らかになった。
【0081】
また、本発明の工法はスケールアップが容易で、低コストのスピーカ用抄紙部品を得ることができ、スピーカの低コスト化に寄与することができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明にかかるスピーカ用振動板の製造方法は、微細化繊維をスピーカ用抄紙部品に利用することで高音質スピーカが実現できることから、高音質化と低コスト化の両立が必要な各種音響機器に使用される微細化天然繊維やスピーカ用構成部品の製造方法や生産設備に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施形態のスピーカ用抄紙振動板の製造方法および生産設備を示す概念図
【図2】本発明のスピーカ用振動板の断面図
【図3】従来のスピーカ用抄紙振動板の製造方法および生産設備を示す概念図
【符号の説明】
【0084】
A 叩解手段
B 抄紙手段
C 加圧手段
D 抜き手段
E 叩解手段
F 微細化手段
1 ビータ
2 回転刄
3 金型
4 金網
5 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細化天然繊維の製造方法であって、前記微細化天然繊維の製造方法は、天然繊維を二軸混練装置により叩解する叩解工程と、前記叩解工程の後に、ビーズミルにより微細化する微細化工程を備え、BET比表面積を1m2/g以上まで微細化した微細化天然繊維の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の微細化天然繊維の製造方法にて製造された微細化天然繊維。
【請求項3】
微細化天然繊維の繊維長が、0.5mm以上である請求項2記載の微細化天然繊維。
【請求項4】
微細化天然繊維が竹繊維である請求項2または請求項3記載の微細化天然繊維。
【請求項5】
請求項2から請求項4記載の微細化天然繊維を使用したスピーカ用構成部品。
【請求項6】
スピーカ用構成部品が振動板である請求項5記載のスピーカ用構成部品。
【請求項7】
請求項6記載のスピーカ用構成部品の片面または両面に、請求項2から請求項4記載の微細化天然繊維を塗布して複層構造にしたスピーカ用構成部品。
【請求項8】
請求項2から請求項4記載の微細化天然繊維が、3wt%以上で、かつ20wt%以下含まれたスピーカ用構成部品。
【請求項9】
微細化天然繊維の生産設備であって、前記微細化天然繊維の生産設備は、二軸混練装置により叩解する叩解手段と、ビーズミルにより微細化する微細化手段とを備えた微細化天然繊維の生産設備。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−91678(P2009−91678A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261739(P2007−261739)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】