説明

微細構造フィルム用保護フィルム、微細構造フィルム積層体及び微細構造フィルムの施工方法

【課題】外部応力による微細構造の傷つきを防ぎ、基材への微細構造フィルム施工後は容易に除去することができる微細構造フィルム用保護フィルム、該保護フィルムで保護された微細構造フィルムの積層体、該積層体を用いた微細構造フィルムの施工方法を提供する。
【解決手段】微細構造フィルム用保護フィルムは、微細構造フィルムの被保護面を被覆し、上記被保護面と密着する微細構造保護層を有し、上記微細構造保護層は水性樹脂を含み、上記被保護面に対する上記水性樹脂の分散液の接触角が90°以下である。微細構造フィルム積層体は、該微細構造フィルム用保護フィルムと、微細構造フィルムとを有する。微細構造フィルムの施工方法は、該微細構造フィルム積層体を基板に貼り付けた後、溶剤を用いて上記微細構造保護層を上記被保護面から剥離し、上記微細構造フィルム用保護フィルムを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細構造フィルム用の保護フィルム等に関し、更に詳細には、微細構造フィルムの輸送時や施工時に、その表面に形成されている微細な凹凸を損傷・破壊等から保護するための微細構造フィルム用保護フィルム、及び該保護フィルムと微細構造フィルムとを備えた微細構造フィルム積層体、また該積層体を用いた自動車、建築材料、ディスプレイ装置等への微細構造フィルムの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細構造フィルムは、表面に微細な凹凸を備えたフィルムであり、このような構造を有することによって反射防止機能や撥水機能を発揮するものである。この微細構造フィルムは、自動車の窓やメーターフロントカバー、建築物の窓等の基材表面に反射防止性や撥水性を付与するために、その基材表面に貼付して用いられる。
【0003】
しかし、このような微細構造フィルムの表面構造は比較的外部応力に弱く、例えば輸送の際に外部からの強い衝撃を受けたり、フィルム同士が摩擦されたりすることによって表面の微細な凹凸が傷つくことがある。また貼り付け施工の際、接着部の気泡を除くためにフィルムを基材に強く押し付けて一定方向に擦る工程等によってその表面が傷つくことがある。
【0004】
ここで一般的に、外部応力による傷から表面を保護する方法としては、静電気や接着剤により表面に保護フィルムを貼付する方法などが用いられており、例えば携帯電話のパネル表面やパソコンのディスプレイ表面には保護フィルムが貼られ、輸送時の傷つきを防いでいる。
【0005】
しかし、微細構造を有する表面に、このような一般的方法を用いることは困難である。静電気を用いて表面に保護フィルムを貼り付けようとしても、微細構造部と保護フィルムとの接触面が少ないために静電気による吸着力が弱すぎるという問題があり、また接着剤を用いて貼り付けた場合には、保護フィルムを除去した後に残留した接着剤によって微細構造が汚染されるため所望の性能が出ないという問題が生じ得るからである。
【0006】
このような問題を解決する方法として、例えば、微細構造に嵌合しあう保護フィルムを積層する方法が報告されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−144917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の上記方法では、保護フィルムを除去する際に構造間に働く摩擦力が過大となるため、破断した保護フィルム材料が構造体間に残留する場合がある。このような場合には、微細構造フィルムの性能が発揮されず、またこの残留物を取り除くことも非常に難しいという問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、外部応力による微細構造の傷つきを防ぎ、また基材への微細構造フィルム施工後は容易に除去することができる微細構造フィルム用保護フィルム、及び該保護フィルムで保護された微細構造フィルムの積層体、また該積層体を用いた微細構造フィルムの施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、微細構造フィルム用保護フィルムが水性樹脂を含み、且つ微細構造フィルムの被保護面に対する該水性樹脂の分散液の接触角が所定の値であれば上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の微細構造フィルム用保護フィルムは、微細構造フィルムの被保護面を被覆し、上記被保護面と密着する微細構造保護層を有し、上記微細構造保護層は水性樹脂を含み、上記被保護面に対する上記水性樹脂の分散液の接触角が90°以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の微細構造フィルム積層体は、本発明の微細構造フィルム用保護フィルムと、微細構造フィルムとを有することを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の微細構造フィルムの施工方法は、本発明の微細構造フィルム積層体を基板に貼り付けた後、溶剤を用いて上記微細構造保護層を上記被保護面から剥離し、上記微細構造フィルム用保護フィルムを除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、微細構造フィルムの被保護面に対するその分散液の接触角が所定の値である水性樹脂を含むこととしたため、外部応力による微細構造の傷つきを防ぎ、また基材への微細構造フィルム施工後は容易に除去することができる微細構造フィルム用保護フィルム、及び該保護フィルムで保護された微細構造フィルムの積層体、また該積層体を用いた微細構造フィルムの施工方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の微細構造フィルム用保護フィルム、微細構造フィルム積層体及び微細構造フィルムの施工方法について図面を用いて詳細に説明する。なお、本明細書において、濃度及び含有量等についての「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0015】
(1)微細構造フィルム用保護フィルム及び微細構造フィルム積層体
図1は、本発明の微細構造フィルム用保護フィルム100の一実施形態と、微細構造フィルム20とが積層した本発明の微細構造フィルム積層体の一実施形態を示す部分断面図である。
図2は、本発明の微細構造フィルム用保護フィルム100の他の実施形態と、微細構造フィルム20とが積層した本発明の微細構造フィルム積層体の他の実施形態を示す部分断面図である。
図3は、図2に示す微細構造フィルム積層体に、更に接着層30が積層した本発明の微細構造フィルム積層体の更に他の実施形態を示す部分断面図である。
【0016】
<微細構造フィルム用保護フィルム>
図1〜図3に示すように、本発明の微細構造フィルム用保護フィルム100は、1以上の層を有するフィルムであり、少なくとも微細構造保護層10を備える。また図2及び図3に示すように、表面保護層12を備えることができ、必要に応じて更に他の層を積層することもできる。
【0017】
微細構造保護層10は、微細構造フィルム20の微細構造面22と密着して被覆するように形成されている。このように形成されることで微細構造の細部、特に外圧に弱い凸部24を包み込むように保護することができるため、運搬時や施工時に受ける外部応力によって微細構造が傷つくことを十分に防ぐことができる。
【0018】
微細構造フィルム用保護フィルム100は、微細構造フィルム20を基材等に貼り付け施工した後は不要となり剥離されるものであるが、微細構造保護層10を形成する材料には溶剤に溶解又は分散可能な材料が含まれるため、溶剤を用いて微細構造保護層10を除去すると共に微細構造フィルム用保護フィルム100全体を微細構造フィルム20から容易に離形することができる。また物理的に引き剥がす方法とは異なり、この方法によれば離形不良が生じることもない。
なお上記溶剤としては、微細構造保護層10を溶解又は分散できるものであれば特に限定はされないが、好ましくは親水性の溶剤であり、より好ましくは水である。水を溶剤とすることで、取り扱いが容易となり、また環境負荷の低減にも寄与し得るからである。
【0019】
微細構造保護層10は、材料液を微細構造面22に塗布、乾燥して得られるが、上述のように微細構造の間に入り込んで密着形成され、その後、水などの溶剤に溶解又は分散して除去される特性を有する。従って上記材料液は微細構造面22との濡れ性が大きい水性樹脂の分散液である。濡れ性の大きい水性樹脂の分散液は、微細構造の細部にまで入り込むことができ、また形成後の微細構造保護層は水性樹脂を含むため、親水性の溶剤等による除去が容易となるからである。
【0020】
なおここで「濡れ性が大きい」とは、微細構造面22に対する接触角が90°以下の状態をいう。また「水性樹脂」とは、水に溶解又は分散可能な樹脂を意味するものであり、水溶性樹脂に加え、非水溶性であってもエマルジョンやサスペンジョンのように水中に微分散された状態になり得るいわゆる水分散性樹脂をも意味する。「水性樹脂の分散液」とは、上記水性樹脂の溶液、エマルジョン、サスペンジョン等をいう。
【0021】
微細構造保護層10の膜厚は特に限定はされないが、保護する微細構造の凸部24の高さ以上の厚さであることが好ましく、該凸部の高さの2倍〜10倍の厚さであることがより好ましい。膜厚が微細構造の凸部の高さよりも薄いと保護する微細構造を完全に被覆できないため微細構造体が傷つく可能性があり、厚すぎると除去用の溶剤が多量に必要となり、作業効率が悪くなる場合がある。
【0022】
表面保護層12は、微細構造保護層10に対して微細構造フィルム20の反対側に備えることができる。この表面保護層は、微細構造保護層10が傷つくことを防止し、ひいては微細構造フィルム20が傷つくことを防止するものである。従って、表面保護層12は、微細構造保護層10を除去する上記溶剤には溶解や分散ができない材料から成ることが好ましい。
【0023】
例えば上記溶剤が水の場合には、表面保護層12を水に不溶、且つ水に分散しないものとすることで、輸送時や施工時における空気中の水分や汗などから微細構造保護層10を保護し、該層の機能の低下を防ぐことができる。またその他に、表面保護層12と微細構造保護層10とを接着剤等で接着させておくことで、貼り付け施工後に表面保護層12を剥がす際に微細構造保護層10の一部を共に剥がすことができるため、微細構造保護層10を除去するのに必要な溶剤量を減らすことができる。
【0024】
以下、本実施形態の微細構造フィルム用保護フィルムの各層の材料について説明する。
1.微細構造保護層
微細構造保護層に含まれる「水性樹脂」とは、上述のように水に溶解又は分散可能な樹脂であり、水溶性樹脂や水分散性樹脂等をいう。なお、水への分散は、界面活性剤等の添加により行う場合を含む。
具体的には、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン及びフッ素樹脂等を挙げることができるが、水溶性のポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウムが好ましく、なかでもポリビニルアルコールが特に好ましい。
【0025】
「水性樹脂の分散液」は、微細構造保護層10を形成する際の材料液であり、上記水性樹脂の溶液、エマルジョン、サスペンジョンを意味する。なかでも水を分散媒とするものが好ましい。
【0026】
「水性樹脂の分散液」の具体例としては、ポリビニルアルコール水溶液、ポリエチレンオキサイド水溶液、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、アクリルエマルジョン、水系ポリウレタン及び分散型フッ素樹脂を挙げることができるが、好ましくはポリビニルアルコール水溶液、ポリエチレンオキサイド水溶液、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液であり、より好ましくはポリビニルアルコール水溶液であり、更に好ましくはポリビニルアルコール濃度が、20質量%〜50質量%のポリビニルアルコール水溶液である。20質量%未満では微細構造面22に対する接触角が90°よりも大きくなって所望の濡れ性が得られない場合があり、50質量%を超えると粘度が高くなって成型に適さない場合がある。また、これらの水性樹脂の分散液について、微細構造フィルム20への塗布性を向上させるために、更に界面活性剤をこの分散液中に添加することができる。
【0027】
なお上述のように、水性樹脂の分散液の被保護面、即ち微細構造面22に対する接触角は90°以下である。微細構造面22を濡らして構造体の間に入り込むことを可能とするためである。
【0028】
表1に、微細構造面に対するポリビニルアルコール水溶液の接触角と、ポリビニルアルコール濃度との関係を示す。なお、接触角の測定に用いた微細構造面は六方細密配列構造である。
表1に示した接触角の値は、微細構造面上に10μlのポリビニルアルコール水溶液の液滴をシリンジにて静置し、接触角計(協和界面化学社製:CA−X)を用いてその液滴の接触角を5回計測して得られた値の平均値である。
ただし当該値は、ポリビニルアルコール水溶液に界面活性剤を添加したり、液滴を静置する微細構造面を変えたりすることによって変動するものである。
【0029】
【表1】

【0030】
2.表面保護層
表面保護層は、上述のように微細構造フィルムの運搬時や施工時に微細構造保護層が傷つくことを防止するものであるため、微細構造保護層の除去に用いる溶剤に溶解や分散ができない材料から成るものであることが好ましい。またその材料が耐傷付き性に優れた材料であればより好ましい。
該材料としては特に限定されるものではないが、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロポレンなどの汎用的に用いられる樹脂材料をフィルム化して適用すれば、微細構造フィルム用保護フィルムを安価に製造することができるためコスト面からも有利である。
【0031】
<微細構造フィルム積層体 >
図1〜図3に示すように、本発明の微細構造フィルム積層体200は、少なくとも微細構造フィルム用保護フィルム100と微細構造フィルム20とを積層した積層体である。また、図3に示すように、接着層30を備えることができ、必要に応じて更に他の層を積層することもできる。
【0032】
微細構造フィルム20は、反射防止機能や撥水機能を有し、自動車の窓やメーターフロントカバー、建築物の窓等に貼付することで基材表面に反射防止性や撥水性を付与するために用いられるものであり、微細構造を基体フィルムの片面又は両面に有している。この微細構造とは、微細な凹凸である構造体が500μm以下の距離で配列された構造体の集合体であり、この配列は規則的であってもランダムであってもよい。また構造体の底面の外接円の直径が50nm〜250nmであることが好ましい。50nm未満であると成形方法に制約があるため作製が困難となる場合があり、250nmを超えると可視光波長の光を回折・散乱し透明性が損なわれる場合がある。
【0033】
上記微細構造と上記基体フィルムは、同じ材料から形成されていても、異なる材料から形成されていてもよい。これらの材料は好ましくは微細構造保護層の除去に用いる溶剤に溶けない材料であり、より好ましくは水に溶けない材料である。また、ガラス窓等に施工することを考慮した場合は、透明性のある材料であることが好ましい。
【0034】
上記材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ガラス強化ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性ポリマー、フッ素樹脂、ポリアレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアミドビスマレイミド、ポリビスアミドトリアゾール等の熱硬化性樹脂、及びこれらの樹脂を2種以上ブレンドした材料を挙げることができる。
【0035】
また、例えば紫外線などの照射によって重合を開始し、硬化する活性エネルギー線硬化樹脂を材料とする場合は、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート樹脂、紫外線硬化型エポキシ樹脂などを挙げることができ、必要に応じて活性エネルギー線を照射することによってラジカルを発生する重合開始剤を用いることもできる。更に、より強固に固めるためイソシアネートのような硬化剤を加えることもできる。なお、ここで用いられる活性エネルギー線としては、代表的には、紫外線やX線、その他電子線、電磁波などが挙げられるが特に限定されるものではない。
【0036】
また更に、ガラス、酸化ケイ酸、酸化アルミニウム等の無機材料や、上記の樹脂に無機材料をコンポジット化した材料を挙げることもできる。これらの材料について、表面処理などにより表面改質を行ってもよい。
【0037】
微細構造フィルム20を製造するに際しては、基体フィルムの材料が樹脂の場合、無数の微細凹凸部を備えた成形型を用意し、この成形型と基体フィルムの一方、又は双方を加熱した状態で両者を相対的に押し当てることによって、当該基材の表面に上記微細構造を形成することができる。また、上記成形型と基体フィルムの間に、活性エネルギー線硬化性樹脂を介在させた状態で活性エネルギー線を照射し、当該樹脂を硬化させることによって、当該基体フィルムの表面に上記微細構造を形成することができる。
【0038】
また、基体フィルムの材料が無機材料の場合には、電子ビーム等によって表面を切削することにより上記微細構造を形成する方法や、無数の微細凹凸部を備えた型に溶融した無機材料を流し込む方法によって表面に微細構造を有する微細構造フィルムを形成することができる。なお、必要に応じて、溶融した無機材料を流し込んだのち、冷却しないうちに同様の微細凹凸部を有する第2の型を押し当てる、または両面に型を押し当てた無機材料を軟化点まで加熱し、圧力をかけて形状を転写することによって、基体フィルムの両面に微細構造を形成することができる。
【0039】
微細構造フィルム20が反射防止機能を付与するフィルムである場合は、上記構造体間の距離は可視光線の波長の長さ程度に形成されていることが好ましい。例えばその距離は50nm〜380nmであることが好ましく、50nm〜250nmであることがより好ましい。380nmを超えると可視光線の一部が構造を認識して拡散や回折が起こるため光の反射率が大きくなる場合があり、50nm未満であると成形方法に制約があるため作製が困難となる場合がある。上記構造体のアスペクト比は1〜10が好ましく、2〜3がより好ましい。アスペクト比が1未満であると、反射防止効果が低下する傾向にあり、10を超えると成形及び積層した保護フィルムの離形が難しくなる場合がある。
【0040】
また該構造体の形状は特に限定されるものではないが、側面投影形状が凸型錘状であることが好ましく、底面から先端に向かって底面の外接円の直径が小さくなるような構造、例えば台形のように先端が平面のものを挙げることができる。また微細構造の底面の中心と頂点を結ぶ直線は必ずしも垂直である必要はなく、中心線が傾いていてもよい。底面形状は円形であっても多角形でもよいが、特定波長の反射率を向上させ、さらに平均反射率を下げるためには円形が好ましい。稜線形状は稜線が1次〜3次の直線もしくは曲線で表されることが好ましい。
【0041】
上記微細構造の周期構造は、規則的な構造であっても不規則なランダム構造であってもよく、また周期構造に形状の異なる二種類以上の構造体が含まれていても良いが、反射防止構造の均一性を向上させるためには、同一の微細構造からなり、微細構造の間隔が均一であることが好ましく、さらに好ましくは正方配列又は六方細密配列である。
【0042】
微細構造フィルム20が撥水機能を付与するフィルムである場合は、基体フィルムや微細に対する液滴の接触角が好ましくは90°以上であり、より好ましくは100°以上である。液滴の接触角が90°以上であれば、微細構造に液滴が着床する際、構造体の隙間に空気の層を保持できるため、撥液性が高くなる傾向が大きい。なお、接触角を規定する対象となる液滴としては、水性液体であれば特に制限はないが、一般に雨天に対する撥水性を考えると水であることが好ましい。なお、水性液体とは、水又は、水に可溶な有機物質と無機物質のいずれか一方又は両方を含む水溶液をいう。
【0043】
接着層30は、微細構造フィルム20に対して微細構造フィルム用保護フィルム10の反対側に備えることができる。この接着層は、微細構造フィルムを所望の基材に貼り付けるためのものであり、その材料は特に限定されず、例えば感圧型の接着剤やホットメルト型の接着剤等の公知の接着剤を用いることができる。
【0044】
(2)微細構造フィルムの施工方法
本発明の微細構造フィルムの施工方法は、上記微細構造フィルム積層体を所望の基板に貼り付けた後、溶剤を用いて上記微細構造保護層を上記被保護面から剥離し、上記微細構造フィルム用保護フィルムを除去するものである。以下に本発明の一実施形態を詳述する。
【0045】
まず、微細構造フィルム積層体を基板に貼り付ける。その際、気泡が入らないようにローラーを用いて貼り付けたり、貼り付け後にスクレーパー等で空気を掻き出したりすることが好ましい。また上記表面保護層を設けた微細構造フィルム積層体を貼り付ける場合は、気泡が除去しやすいように、水や界面活性剤を混ぜた水で事前に接着剤を濡らしておくことができる。
【0046】
次に、常温圧着、熱圧着等により微細構造フィルム積層体を基板に接着した後、溶剤を用いて上記微細構造保護層を上記被保護面から剥離して微細構造フィルム用保護フィルム全体を除去する。その際、溶剤の種類によっては、適度に温めた溶剤を用いることで、より容易に剥離することができる。
なお、表面保護層を備える微細構造フィルム積層体など微細構造保護層が表面に露出していない微細構造フィルム積層体を用いる場合は、先に表面保護層等を剥がして微細構造保護層を表面に露出させてから溶剤処理を行うことが好ましい。
【0047】
上記溶剤処理の方法としては、溶剤で満たした水槽の中に浸漬させる方法や、かけ流す方法等を挙げることができる。浸漬させる方法においては超音波洗浄をあわせて行うとより容易に剥離することができる。またかけ流す方法においては、溶剤をジェット噴霧することにより、溶解の効果と圧力で吹き飛ばす効果が得られるため効率的に剥離することができる。
【0048】
本施工方法において用いられる溶剤は特には限定されないが、好ましくは親水性の溶剤であり、より好ましくは水である。水を溶剤とすることで、取り扱いが容易となり、また環境負荷の低減にも寄与し得るからである。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例
に限定されるものではない。
また以下に記載の接触角の値は、サンプル表面上に10μlの液滴をシリンジにて静置し、接触角計(協和界面化学社製:CA−X)を用いてその液滴の接触角を5回計測して得られた値の平均値である。
【0050】
(実施例1)
PETフィルムの上にUV硬化アクリル樹脂をレジストとしてスピンコート法で塗布し、光ナノインプリントにより、構造間距離100nm、高さ200nmで六方配列した円錐体の微細構造体を作製し、スパッタリングにより撥水処理を行うことで撥水性の微細構造フィルムを得た(接触角147°)。次いで、微細構造面にPVA20%(サンプル表面に対する接触角78.4°)の水溶液を塗布し、60℃で1.5時間乾燥させることで、微細構造保護層を作製した。得られたサンプルの裏面に接着剤を付与し、ローラーによりグリーンガラスに貼り付けた。その後、80℃のお湯をかけ流すことでPVAを除去した。
その結果、貼り付け後の接触角を測定したところ、147°と変化しなかった。
【0051】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、構造間距離100nm、高さ150nmで六方配列した円錐体微細構造体を作製し、スパッタリングにより撥水処理を行うことで撥水性の微細構造フィルムを得た(接触角142°)。次いで、微細構造面にPVA20%(サンプル表面に対する接触角78.4°)の水溶液を塗布し、70℃で1.5時間乾燥させることで、微細構造保護層を作製した。得られたサンプルの裏面に接着剤を付与し、ローラーによりグリーンガラスに貼り付けた。その後、80℃のお湯をかけ流すことでPVAを除去した。
その結果、貼り付け後の接触角を測定したところ、142°と変化しなかった。
【0052】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、構造間距離300nm、高さ600nmで六方配列した円錐体微細構造体を作製し、スパッタリングにより撥水処理を行うことで撥水性の微細構造フィルムを得た(接触角151°)。次いで、微細構造面にPVA20%(サンプル表面に対する接触角78.4°)の水溶液を塗布し、70℃で1.5時間乾燥させることで、微細構造保護層を作製した。得られたサンプルの裏面に接着剤を付与し、ローラーによりグリーンガラスに貼り付けた。その後、80℃のお湯をかけ流すことでPVAを除去した。
その結果、貼り付け後の接触角を測定したところ、151°と変化しなかった。
【0053】
(実施例4)
実施例1と同様の方法で、構造間距離1μm、高さ2μmで正方配列した四角錘体の微細構造体を作製し、スパッタリングにより撥水処理を行うことで撥水性の微細構造フィルムを得た(接触角151°)。次いで、微細構造面にPVA20%(サンプル表面に対する接触角78.4°)の水溶液を塗布し、70℃で1.5時間乾燥させることで、微細構造保護層を作製した。得られたサンプルの裏面に接着剤を付与し、ローラーによりグリーンガラスに貼り付けた。その後、80℃のお湯をかけ流すことでPVAを除去した。
その結果、貼り付け後の接触角を測定したところ、151°と変化しなかった。
【0054】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で、撥水性の微細構造フィルムにPVA膜(微細構造保護層)を付与した面に、接着面に接着剤を付与したPPフィルム(表面保護層)を貼り付けた。得られたサンプルの裏面に接着剤を付与し、接着剤を水で濡らした状態でグリーンガラスに貼り付け、スクレーパーにより水を掻き出すことで貼り付けを行った。その後、PPフィルムとともにPVA膜を剥がし、超音波洗浄機を用いて微細構造面を洗浄した。
その結果、貼り付け後の接触角を測定したところ147°と変化しなかった。
【0055】
(実施例6)
実施例5と同様の方法で、PVA膜の代わりにポリエチレンオキサイド(PEO30% 接触角75°)を用いてサンプルを作製し、グリーンガラスに貼り付け、スクレーパーにより水を掻き出すことで貼り付けを行った。その後、PPフィルムとともにPEO膜を剥がし、微細構造面を水のジェット噴霧により洗浄した。
その結果、貼り付け後の接触角を測定したところ147°と変化しなかった。
【0056】
(実施例7)
実施例1と同様の方法で撥水性微細構造フィルムを作製し、微細構造面にPMMAをイソプロピルアルコールで溶解させた溶液(PMMA5% 接触角15°)を塗布し、乾燥させることで、微細構造保護層を作製した。得られたサンプルの裏面に接着剤を付与し、ローラーによりグリーンガラスに貼り付けた。その後、イソプロピルアルコールをかけ流すことでPMMA膜を除去した。
その結果、貼り付け後の接触角を測定したところ147°と変化しなかった。
【0057】
(実施例8)
PETフィルムの上にUV硬化アクリル樹脂をレジストとして塗布し、光ナノインプリントにより、構造間距離100nm、高さ200nmで六方配列した円錐体の微細構造体を作製し、微細構造フィルムを得た。次いで、微細構造面にPVA20%の水溶液(サンプル表面に対する接触角78.4°)を塗布し、90℃で1時間乾燥させることで、微細構造保護層を作製した。得られたサンプルの裏面に接着剤を付与し、ローラーによりグリーンガラスの両面に貼り付けた。その後、80℃のお湯をかけ流すことでPVAを除去した。
その結果、貼り付け後の反射率を測定したところ反射率は0.3%であった。
【0058】
(比較例1)
実施例1に記載の方法で撥水性の微細構造フィルムを作製し、片面に接着剤のついたPPフィルムを貼り付け、グリーンガラスに施工した後にPPフィルムを剥がしたところ、接着剤が微細構造体に残留したため、接触角が132°と低下した。
【0059】
(比較例2)
実施例1に記載の方法で撥水性の微細構造フィルムを作製し、アクリル樹脂を表面に塗布した後に、アクリル塗膜を剥がしたところ、離形不良により、接触角は110°と低下した。
【0060】
(比較例3)
PETフィルムの上にUV硬化アクリル樹脂をレジストとして塗布し、光ナノインプリントにより、構造間距離100nm、高さ200nmで六方配列した微細構造体を作製し、片面に接着剤のついたPPフィルムを微細構造面に貼り付け、グリーンガラスの両面に施工した後にPPフィルムを剥がしたところ、接着剤が微細構造体に残留したため、反射率は1.2%と悪化した。
【0061】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例により詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の微細構造フィルム積層体の一実施形態を示す部分断面図である。
【図2】本発明の微細構造フィルム積層体の他の実施形態を示す部分断面図である。
【図3】本発明の微細構造フィルム積層体の更に他の実施形態を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0063】
10 微細構造保護層
12 表面保護層
20 微細構造フィルム
22 微細構造面
24 微細構造の凸部
30 接着層
100 微細構造フィルム用保護フィルム
200 微細構造フィルム積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細構造フィルムの被保護面を被覆する微細構造フィルム用保護フィルムであって、
上記被保護面と密着する微細構造保護層を有し、
上記微細構造保護層は水性樹脂を含み、
上記被保護面に対する上記水性樹脂の分散液の接触角が90°以下であることを特徴とする微細構造フィルム用保護フィルム。
【請求項2】
上記水性樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン及びフッ素樹脂から成る群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の微細構造フィルム用保護フィルム。
【請求項3】
上記分散液が、ポリビニルアルコール水溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の微細構造フィルム用保護フィルム。
【請求項4】
上記ポリビニルアルコール水溶液のポリビニルアルコール濃度が、20質量%〜50質量%であることを特徴とする請求項3に記載の微細構造フィルム用保護フィルム。
【請求項5】
更に表面保護層を有し、この表面保護層が上記微細構造保護層に対して上記被保護面と反対側に位置することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の微細構造フィルム用保護フィルム。
【請求項6】
上記表面保護層が、非水溶性材料から成ることを特徴とする請求項5に記載の微細構造フィルム用保護フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の微細構造フィルム用保護フィルムと、微細構造フィルムとを有することを特徴とする微細構造フィルム積層体。
【請求項8】
更に接着層を有し、この接着層が上記微細構造フィルムに対して上記微細構造フィルム用保護フィルムと反対側に位置することを特徴とする請求項7に記載の微細構造フィルム積層体。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の微細構造フィルム積層体を基板に貼り付けた後、溶剤を用いて上記微細構造保護層を上記被保護面から剥離し、上記微細構造フィルム用保護フィルムを除去することを特徴とする微細構造フィルムの施工方法。
【請求項10】
上記溶剤が水であることを特徴とする請求項9に記載の微細構造フィルムの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−17922(P2010−17922A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179726(P2008−179726)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】