説明

微細管内の圧力を測定することにより気泡及び漏れを検査する方法

【課題】微細管内への気泡の混入や漏れの有無を簡便に検知する方法及びそのためのシステムを提供すること。
【解決手段】閉鎖系の微細管内に液体を圧入して微細管内の圧力を測定し、圧力上昇の開始までの時間や一定の圧力に到達するまでの時間や圧力上昇速度を対照と比較することにより、微細管内の気泡の有無および漏れの有無を検査する方法。閉鎖系の微細管と、微細管に接続され微細管内に液体を圧入させるポンプと、微細管内の圧力を測定する圧力センサーと、圧力の測定結果のアウトプット装置を有する、微細管内の気泡の有無および漏れの有無を検査するためのシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の液体試料を用いた検査装置などに用いられる送液用の微細管内に気泡や漏れがないかを検査する方法およびそれに使用するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
検査装置内に微量の液体を導入して測定を行う場合、液体の導入に用いる微細管に気泡が入ったり、漏れが生じたりすると測定結果に悪影響を及ぼす。例えば、特許文献1には微細管を介してマイクロチップ内に血液や試薬を流し、血栓形成などを評価する血液検査装置が開示されている。この方法では、図10で示されるように、微量送液ポンプにミネラルオイルなどの血液より比重が小さい液体を充填し、これを圧入管(微細管)より血液が収容されたサンプルシリンジに圧入して血液の上に重層し、血液をマイクロチップ内に押し出して測定するものである。しかし、圧入管内に気泡が入ったり、圧入管に穴が開いたりして液が漏れたりすると測定結果にばらつきが生じ、正確に測定できないという問題があった。
【0003】
特許文献2には、管または容器に圧力流体を供給し、圧力流体の圧力を変化させながら管または容器内における漏洩流量を測定し、漏洩流量の変化パターンに基づいて管または容器の漏洩の程度を評価する方法が開示されている。しかしながら、この方法は地中埋設管などの径の大きい管または容器の評価に関するもので、マイクロチップに接続するような微細管について評価するものではないし、圧力を変化させながら漏洩流量を測定するものである。
【0004】
特許文献3には、流路内の気泡の存在を顕微鏡及び画像分析にて確認する方法が開示されている。しかしながら、この方法は顕微鏡及び画像分析装置を要するため大がかりであり、気泡の定量までは出来ない。
また、特許文献4には、配管内の圧力変化を測定して分注装置における配管内の気泡の有無を判定する方法が開示されている。この方法は非常にわずかな時間での圧力変化(圧力変化の波形の山の数)をとらえ、演算、判定する精度の高い装置を使用しているが、閉鎖系ではなく、気泡の定量まではできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/46450号
【特許文献2】特開昭59-052728号公報
【特許文献3】特開2007-245038号公報
【特許文献4】特開2007-278834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロ流路を使用する検査システムでは、送液量が微量なために測定の妨げとなる流路内への気泡の混入は目視で確認する以外に発見は難しく、さらに実際の検査システムでは目視できない部分などあり気泡を測定の前に検知することは困難である。したがって、微細管内への気泡の混入を簡便に検知する方法の開発が望まれている。また、漏れについても簡便な方法で検知する方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、閉鎖系の微細管内に液体を圧入して微細管内の圧
力を測定し、圧力上昇開始までの時間または一定の圧力に到達するまでの時間、および圧力上昇の速度を対照と比較することにより、微細管内の気泡の有無および漏れの有無を検査する方法を提供する。
前記微細管は内径が0.1〜1mmであることが好ましく、前記液体は流速1〜10μl/分で微細管内に圧入されることが好ましい。
本発明はまた、閉鎖系の微細管と、微細管に接続され微細管内に液体を圧入させるポンプと、微細管内の圧力を測定する圧力センサーと、圧力の測定結果のアウトプット装置を有する、微細管内の気泡の有無および漏れの有無を検査するためのシステムを提供する。
本発明はまた、前記圧力の測定結果から気泡の有無及び漏れの有無を判定する評価部をさらに有する前記システムを提供する。
本発明はさらに、前記システムを備えた血液測定装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によって、閉鎖系の微細管内に液体を圧入して微細管内の圧力を測定し、圧力上昇開始までの時間または一定の圧力に到達するまでの時間、および圧力上昇の速度を対照と比較することにより、微細管内の気泡の有無および漏れの有無を同時に簡便に検査することができる。
前記微細管は内径が0.1〜1mmであると、より微量測定に使用する管の評価ができることから好ましい。
前記液体は流速1〜10μl/分で微細管内に圧入されると、微量の漏れや気泡と圧力上昇との関係が定量的に評価しやすくなることから好ましい。流量が大きくなると圧力上昇の変化の誤差が大きくなるため、微量の漏れや気泡が計測できない。
本発明の、閉鎖系の微細管と、微細管に接続され微細管内に液体を圧入させるポンプと、微細管内の圧力を測定する圧力センサーと、圧力の測定結果のアウトプット装置を有する、微細管内の気泡の有無および漏れの有無を検査するためのシステムによれば、微細管内に気泡や漏れがあるかを圧力パターンから簡便に評価できる。圧力の測定結果から気泡の有無及び漏れの有無を判定する評価部をさらに有すると、微細管を実際の測定に使用する前に評価し、使用の可否を判断できるため好ましい。
本発明の血液測定装置によれば、血液観測装置の微細管内に気泡が入っているかを、事前にチェックすることができる。マイクロ流体制御装置において多くの場合に気泡は解析する際に障害(圧力測定や光学的測定に対する障害)となるため、測定前に検証することは重要である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の方法に用いる装置の一態様を示す図。
【図2】本発明のシステムの一態様を示す図。
【図3】気泡の混入量と圧力上昇との関係を示すグラフ。
【図4】漏れの量と圧力上昇との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下の態様に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で改変等が許容される。
【0011】
図1に本発明の方法に用いる装置の一態様を示す。
微細管1の一端(始端)に送液ポンプ3が接続され、水などの液体を微細管1内に送り込む。微細管は、図1において分岐部2より分岐しているように、1または複数の分岐があってもよい。本発明の方法では、分岐が複数あるような複雑な系でも気泡や漏れを正確に検知することができる。
【0012】
微細管の末端は少なくとも測定時には封止されており、閉鎖系を構成している。例えば
、図1のように、分岐部2より分岐した管の末端は弁6によって封止されており、微細管1の末端(終端)はキャップ5で封止されているようにすることができる。なお、微細管の末端は常に封鎖されていてもよい。
【0013】
流速は1〜10μl/分の一定の流速であることが好ましい。より好ましくは、3〜7μl/分の一定の流速である。送液ポンプは上記のような範囲の流速を制御できるものであれば特に制限されず、市販のマイクロポンプなどを使用することができる。
液体は水でもよいが、流動パラフィン、ミネラルオイルやシリコーンオイルなどの各種油脂、生理食塩水等でもよい。
微細管の材質は特に制限されないが、内圧によって膨張してしまうと正確な測定ができないため、硬質な素材が好ましく、テフロン(登録商標)、ポリプロピレンなどのプラスチックや金属などが挙げられる。微細管は内径が0.1〜1mmであることが好ましく、0.2〜0.7mmであることがより好ましい。微細管の始端から終端までの長さは特に制限されないが、好ましくは0.3〜0.7mである。
【0014】
微細管1には圧力センサー4が取り付けられ、微細管内の圧力を測定する。
微細管内に気泡があるときは気泡がないときに比べて圧力上昇開始までの時間および一定の圧力に到達するまでの時間が遅くなるので、評価対象の微細管を用いて圧力の上昇パターンを測定し、気泡の混入がないことが確認された微細管を用いて測定した参照パターンと比較することで気泡の有無を評価することができる。具体的には、評価対象が、コントロールと比べて圧力上昇開始までの時間および/または一定の圧力に到達するまでの時間が遅れた場合に気泡があると判断することができる。また、あらかじめ気泡の量を変えて圧力上昇開始までの時間および/または一定の圧力に到達するまでの時間を求めておき、評価対象について測定し、その測定値から気泡の量を定量することもできる。
【0015】
一方で、微細管の一部に穴があいていたり、弁や接続部分の緩みなどにより漏れがあるときは漏れがないときに比べて圧力の上昇速度が遅くなるので、評価対象の微細管を用いて圧力の上昇パターンを測定し、漏れがないことが確認された微細管を用いて測定した参照パターンと比較することで漏れの有無を評価することができる。具体的には、評価対象が、コントロールと比べて圧力上昇が遅れた場合に漏れがあると判断することができる。また、あらかじめ漏れの程度を変えて圧力上昇速度を求めておき、評価対象について測定し、その測定値から漏れの程度を定量することもできる。
【0016】
本発明の方法では、圧力の上昇開始までの時間または一定の圧力に到達するまでの時間および上昇速度を調べることにより、気泡と漏れを両方調べることができる。すなわち、圧力上昇開始までの時間または一定の圧力に到達するまでの時間および上昇速度がコントロールと比べて低下した時には、気泡や漏れがあると判断することができ、測定に入る前に、微細管から気泡を除いたり、漏れの原因となる緩みや穴をふさいだり、あるいは微細管を交換したりして、測定結果に悪影響を与える要因を解消することができるので、正確な測定を行うことができ、サンプルの無駄を避けることができる。
【0017】
本発明のシステムは、閉鎖系の微細管と、微細管に接続され微細管内に液体を圧入させるポンプと、微細管内の圧力を測定する圧力センサーと、圧力の測定結果のアウトプット装置を含み、さらに圧力の測定結果から気泡の有無及び漏れの有無を判定する評価部を含んでもよい。
アウトプット装置としては、圧力測定値をグラフ化し、画面上に表示させるものや、紙などに印刷するものなどを利用でき、そのグラフを目視にて参照パターンと比較し、気泡または漏れの有無を判定することができる。
図2を参照して本発明のシステムの一例を説明する。まず、圧力センサーにて微細管内の圧力を検出する(S101)。次に、検出された値を予め測定されたコントロールの値と比較
する(S102)。そして、その結果に基づいて漏れや気泡があるかを判定する(S103)。漏れや気泡がない場合は使用可と指示を出し(S104)、漏れや気泡がある場合は漏れ又は気泡の除去について指示を出す(S105)。漏れや気泡の除去後、再度、圧力を測定し、除去されたことを確かめる。なお、気泡や漏れがある場合に使用不可と指示するものでもよい。
評価部としては、圧力センサーに接続されたコンピューターのようなものであればよく、圧力センサーで検出された圧力上昇パターンをもとに、これを予めインプットされたコントロールの値と比較し、気泡または漏れがあると判定することができる。
【0018】
本発明のシステムは様々な測定機器のために使用することができるが、好ましくは、国際公開第2007/46450号に開示されたマイクロチップ内の流路に血液を流して血液の性状を測定する血液観測装置に用いられる微細管の評価に用いられる。具体的には、マイクロチップ内の血管を模した流路に抗凝固処理された血液を流して血栓の生成を観測する血栓観測装置であって、その内部の少なくとも一部に血栓生成を誘発する血栓誘発材が設けられた血栓生成室を有する血栓観測装置のために好ましく使用することができる。
本発明のシステムを使用して微細管に気泡や漏れがないことを確認した後、国際公開第2007/46450号の図10のように、該微細管を圧入管317として、その一端を微量送液ポンプ330に接続し、他端を血液が収容されたリザーバー(サンプルシリンジ320)に接続し、微量送液ポンプ330にミネラルオイルなどの血液より比重が小さい液体を充填し、これを圧入管317(微細管)よりサンプルシリンジ320に圧入して血液の上に重層し、血液観測室311を有するマイクロチップ300内に圧入し、血栓観測室311を通過させて、その際の圧力変化を調べることによって血液の性状を調べることができる。
したがって、本発明はまた、システムを組み込んだ血栓観測装置を提供する。
また、本発明のシステムはWO 2010/018833に開示されたような血小板評価装置にも使用できる。
【0019】
実施例
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の態様に限定されない。
【0020】
図1に示すシステムで測定を行った。微細管1としては外径1/16インチ(1.6mm)、
内径0.02インチ(約0.5mm)のテフロン(登録商標)チューブを用いた。微細管1は分
岐部2より分岐させ、分岐した微細管の終端には弁6を設けて封止した。微細管1の始端にはポンプ3を接続し、このポンプ3を用いて液体(ミネラルオイル)を微細管内に圧入させた。微細管1の終端はキャップ5で封止し、閉鎖系とした。微細管1の途中に圧力センサー4を設けて微細管内の圧力を測定した。
【実施例1】
【0021】
微細管内に各量(1, 2.5, 5 μlおよび多量)の気泡を加えたのち、5μl/minでミネラ
ルオイルを圧入させて、圧力パターンを測定した。結果を表1および図3に示す。図3より、気泡の量に応じて圧力上昇開始までの時間が遅れることが分かった。これにより、圧力上昇開始までの時間を調べることにより微細管内の気泡の有無を測定できることがわかった。また、あらかじめ一定量の気泡を混入しておき、その際の圧力上昇開始までの時間を調べておくことにより、気泡の量も測定できることがわかった。さらに、一定の圧力に到達するまでの時間を調べることによっても気泡の有無を測定できる。
なお、図3、4において、20秒経過後から圧力上昇開始しているのは、微細管内にあらかじめミネラルオイルを満たした状態(液体流入圧はかかっていない状態)から20秒後に液体流入を開始し、圧をかけているためである。
【0022】
【表1】

Base :圧力上昇(差分)を計算しているために、流していない時の圧力をBaseとして絶対
値‐Baseで圧力上昇を計算している。
【実施例2】
【0023】
弁6を緩めて微細管内に各量(T2>T3>T4>T5>T6)の漏れが生じるようにしたのち、5μl/minでミネラルオイルを流入させて、圧力のパターンを測定した。結果を表2および図4に示す。図4より、漏れの程度に応じて圧力上昇が遅れることが分かった。これにより、圧力の上昇速度を調べることにより微細管内の漏れの有無を測定できることがわかった。また、あらかじめ一定量の漏れが生じるようにしておき、その際の圧力上昇速度を調べておくことにより、漏れの量も測定できることがわかった。
【0024】
【表2】

【符号の説明】
【0025】
A:圧力評価システム、1:微細管、2:分岐部、3:ポンプ、4:圧力センサー、5:
キャップ、6:弁
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の方法は、微量の液体を用いた測定系の事前評価などに有用に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖系の微細管内に液体を圧入して微細管内の圧力を測定し、圧力上昇開始までの時間または一定の圧力に到達するまでの時間を対照と比較することにより、微細管内の気泡の有無を検査する方法。
【請求項2】
閉鎖系の微細管内に液体を圧入して微細管内の圧力を測定し、圧力上昇の速度を対照と比較することにより、微細管内の漏れの有無を検査する方法。
【請求項3】
前記微細管は内径が0.1〜1mmである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記液体は流速1〜10μl/分で微細管内に圧入される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
閉鎖系の微細管と、微細管に接続され、微細管内に液体を圧入させるポンプと、微細管内の圧力を測定する圧力センサーと、圧力の測定結果のアウトプット装置を有する、微細管内の気泡の有無および漏れの有無を検査するためのシステム。
【請求項6】
前記圧力の測定結果から気泡の有無及び漏れの有無を判定する評価部を有する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
請求項5または6に記載のシステムを備えた血液測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−88300(P2013−88300A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229522(P2011−229522)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】