説明

心房細動を治療する方法

本発明は、相乗的な治療的に有効な量のアミオダロンおよび相乗的な治療的に有効な量のラノラジンの共投与を含む、心房細動の治療の方法に関連する。本発明はまた、そのような組み合わせた投与のために適当な医薬品処方物に関連する。本発明の別の局面において、アミオダロンの望ましくない副作用を抑制するための方法が提示される。その方法は、相乗的な治療的に有効な用量のアミオダロンおよび相乗的な治療的に有効な用量のラノラジンの共投与を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療的に有効な量のラノラジンおよびアミオダロンの組み合わせ投与によって心房細動を治療する方法に関連する。その方法は、不整脈、特に心房細胞の治療において有用性を見出す。本発明はまた、そのような組み合わせた投与に適当な医薬品処方物に関連する。
【背景技術】
【0002】
当該分野の説明
特許文献1は、ラノラジン、(±)−N−(2,6−ジメチルフェニル)−4−[2−ヒドロキシ−3−(2−メトキシフェノキシ)−プロピル]−1−ピペラジンアセトアミド、およびその薬学的に許容可能な塩、ならびに不整脈、異型および運動誘発狭心症、および心筋梗塞を含む、心臓血管疾患の治療におけるその使用を開示し、その明細書は本明細書中でその全体が参考文献に組み込まれる。その二塩酸塩の形態において、ラノラジンは以下の式によって示される:
【0003】
【化1】

この特許はまた、さらにプロピレングリコール、ポリエチレングリコール400、Tween80および0.9%の生理食塩水を含む、ラノラジン二塩酸塩の静脈内(IV)処方物を開示する。
【0004】
特許文献2は、ラノラジンおよびその薬学的に許容可能な塩およびエステルの、心筋または骨格筋または脳組織に対する、心停止、低酸素または再灌流障害を含む、物理的または化学的発作を経験している組織の治療のための、および移植において使用するための使用を開示し、それは本明細書中でその全体が参考文献に組み込まれる。徐放性処方物を含む経口および非経口処方物が開示される。特に、特許文献2の実施例7Dは、放出制御ポリマーでコーティングされた、ラノラジンおよび微結晶性セルロースのマイクロスフィアを含むカプセル形態の徐放性処方物を記載する。この特許はまた、重量で約5%のデキストロースを含むIV溶液の1mlあたり低い側で5mgのラノラジンを含む、IVラノラジン処方物を開示する。そして高い側で、重量で約4%のデキストロースを含むIV溶液の1mlあたり、200mgのラノラジンを含むIV溶液を開示する。
【0005】
ラノラジンおよびその薬学的に許容可能な塩およびエステルの、現在好ましい投与経路は、経口である。典型的な経口投薬形態は、圧縮錠剤、粉末混合物または顆粒を満たしたハードゼラチンカプセル、または溶液または懸濁液を満たしたソフトゼラチンカプセル(ソフトジェル)である。特許文献3は、ハードゼラチンカプセルまたはソフトジェルを満たす溶液として、過冷却された液体ラノラジンを使用する、高用量経口処方物を開示し、この明細書は本明細書中でその全体が参考文献に組み込まれる。
【0006】
特許文献4は、処方物が胃の酸性環境および腸管のより塩基性の環境の両方を通過する間に、ラノラジンの十分な血漿レベルを提供する問題を克服し、そして狭心症および他の心臓血管疾患の治療に必要な血漿レベルを提供するのに非常に有効であることが証明された、徐放性処方物を開示し、その明細書は本明細書中で全体として参考文献に組み込まれる。
【0007】
特許文献5は、不整脈、異型および運動誘発狭心症および心筋梗塞を含む、心臓血管疾患を治療する方法を開示し、その明細書は本明細書中で全体として参考文献に組み込まれる。
【0008】
特許文献6は、ラノラジンが35−50%、好ましくは40−45%のラノラジンで存在する、経口徐放性投薬形態を開示し、その明細書は本明細書中でその全体が参考文献に組み込まれる。1つの実施態様において、この発明のラノラジン徐放性処方物は、pH依存性結合剤;pH非依存性結合剤;および1つまたはそれ以上の薬学的に許容可能な賦形剤を含む。適当なpH依存性結合剤は、メタクリル酸コポリマー、例えば、約1〜20%、例えば約3〜6%程度までのメタクリル酸コポリマーを中和化するのに十分な量の強塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または水酸化アンモニウムで、部分的に中和化された、Eudragit(登録商標)(Eudragit(登録商標)L100−55、Eudragit(登録商標)L100−55の偽ラテックス等)を含むがこれに限らない。適当なpH非依存性結合剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、例えばMethocel(登録商標)E10M Premium CRグレードHPMC、またはMethocel(登録商標)E4M Premium HPMCを含むがこれに限らない。適当な薬学的に許容可能な賦形剤は、ステアリン酸マグネシウムおよび微結晶性セルロース(Avicel(登録商標)pH101)を含む。
【0009】
背景
心房細動(AF)は、最も一般的な不整脈であり、その発生は年齢と共に増加する。80歳以上の全ての人々の8%が、この型の異常な心臓調律を経験し、そして心臓調律の障害のための入院の1/3を占めると推定される。米国単独において、約220万人の人々が、AFを有すると考えられる。非特許文献1。心房細動は多くの場合無症候性であるが、それは動悸または胸痛を引き起こし得る。遷延性の心房細動は、多くの場合うっ血性心不全および/または脳卒中を引き起こす。心不全は、心臓が心臓効率の減少を代償しようと試みるので発生し、一方脳卒中は、血栓が心房で形成され、血流中を通り、そして脳につかえた場合に起こり得る。肺の塞栓もこの方式で発生し得る。
【0010】
AFを治療する現在の方法は、電気的および/または化学的心臓除細動およびレーザーアブレーションを含む。脳卒中を避けるために、ワルファリンおよびヘパリンのような抗凝固薬が典型的には処方される。速度および調律コントロールの間の選択に関して現在いくらか議論があるが、非特許文献2を参照のこと、速度のコントロールは、典型的にはベータ遮断薬、強心配糖体、およびカルシウムチャネル遮断薬の使用によって達成される。
【0011】
最もよくある抗不整脈薬の1つはアミオダロンであり、それは通常急性および/または慢性AFを含む急性および慢性不整脈の両方に投与される。不幸なことに、アミオダロンは高度に毒性の薬剤であり、そして広い範囲の望ましくない副作用を有する。これらの作用の最も危険なものは、間質性肺炎の発症である。甲状腺毒性、甲状腺機能低下症および甲状腺機能亢進症のどちらもが、多くの場合目および肝臓における作用として見られる。これらの望ましくない副作用の全てではないにしてもほとんどが、用量依存性であり、そして従って用量の抑制を可能にするためにアミオダロンの有効性を増加させる方法が非常に望ましい。
【0012】
現在慢性のアミオダロンおよび比較的低濃度の急性のラノラジンの組み合わせが、単離イヌ心房において、相乗的な頻度依存性(use−dependent)のナトリウムチャネル依存性パラメーターの抑制を生じることが発見され、それは薬剤の組み合わせの心房細動の誘発を防止する強力な効果を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,567,264号明細書
【特許文献2】米国特許第5,506,229号明細書
【特許文献3】米国特許第5,472,707号明細書
【特許文献4】米国特許第6,503,911号明細書
【特許文献5】米国特許第6,852,724号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0177502号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Fusterら、Circulation 2006 114(7):e257−354
【非特許文献2】Royら、N.Engl.J.Med.2008 358:25;2667−2677
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の1つの局面において、相乗的な治療的に有効な量のアミオダロンおよび相乗的な治療的に有効な量のラノラジンの共投与(coadministration)を含む、心房細胞の治療のための方法が提供される。その2つの薬剤を、別々のまたは組み合わせた投薬ユニットにおいて、別々に、または一緒に投与し得る。もし別々に投与するなら、ラノラジンをアミオダロンの投与の前または後に投与し得るが、典型的にはラノラジンをアミオダロンの前に投与する。
【0016】
本発明の別の局面において、アミオダロンの望ましくない副作用を抑制するための方法が提示される。その方法は、相乗的な治療的に有効な用量のアミオダロンおよび相乗的な治療的に有効な用量のラノラジンの共投与を含む。前と同様に、その2つの薬剤を、別々のまたは組み合わせた投薬ユニットにおいて、別々にまたは一緒に投与し得る。もし別々に投与するなら、ラノラジンをアミオダロンの投与の前または後に投与し得るが、典型的にはラノラジンをアミオダロンの前に投与する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、イヌ心房筋細胞対心室筋細胞における、ナトリウム電流の活性化および定常状態不活性化の電位依存性を示す。(A)心室および心房筋細胞におけるナトリウム電流の電流−電位関係。ピークINa電流密度は、心室筋細胞に対して心房においてより大きい。(B)要約した定常状態不活性化曲線。半不活性化電位(V0.5)は、心房細胞(n=9において−88.80±0.19mVであり、そして心室細胞において−72.64±0.14mVである(P<0.001、n=7)。挿入図は、示した電位までの1−sコンディショニングパルス(conditioning pulse)後の、代表的な心房および心室のトレースを示す。(C)15μMのラノラジンの添加前および後の定常状態不活性化曲線。ラノラジンは、V0.5を心室筋細胞(n=4)において−72.53±0.16mVから−74.81±0.14mVへ(P<0.01)、そして心房筋細胞(n=5)において−86.35±0.19から−91.38±0.35mVへ(P<0.001)シフトした。
【図2】図2は、実施例2で議論したような、イヌ冠血管動脈−灌流心房および心室調製物における、ラノラジン、リドカイン、および慢性アミオダロンによる、しかしプロパフェノンにはよらない、活動電位上昇の最大立ち上がり速度(Vmax)の心房選択的抑制を示す。それぞれのコントロール(C)に対してP<0.05;それぞれの心室の値に対してP<0.05。n=8〜15。CL=500ms。
【図3】図3は、早いペーシング速度におけるVmaxの抑制におけるラノラジンの心房選択性を示す。実施例2において議論されたように、ラノラジンの存在下において、心房および心室調製物においてペーシング速度を500から300msのCLへ加速する間に記録された、活動電位トレーシングおよび対応するVmax値を示す。ラノラジンは、心房においてAPの再分極を延長するが、心室では延長しない。速度の加速は、心房における拡張期間隔の排除を引き起こし、より正のテイクオフ(take−off)電位およびVmaxの抑制を引き起こす。心室において、拡張期間隔は比較的長いままである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義および一般的なパラメーター
本明細書中で使用される場合、以下の用語および語句は一般的に、それらが使用される文脈が他に示す程度を除いて、下記で述べるような意味を有することが意図される。
【0019】
「任意の」または「任意で」は、続いて記載される事象または状況が起こり得る、または起こらないかもしれないこと、およびその記載は当該事象または状況が起こる場合およびそれが起こらない場合を含むことを意味する。
【0020】
「ベータ遮断薬」という用語は、ベータアドレナリン受容体に結合し、そしてベータアドレナリン性刺激の効果を阻害する薬剤を指す。ベータ遮断薬は、房室結節伝導を減少させる。それに加えて、ベータ遮断薬は、心拍数を調節するシナプス後洞房結節細胞に対するノルエピネフリンの影響を遮断することによって、心拍数を減少させる。ベータ遮断薬はまた、細胞内Ca++過負荷も減少させ、それは後脱分極による自動能を阻害する。ベータ遮断薬の例は、アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、カルテオロール、ラベタロール、メトプロロール、ナドロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロプラノロール、ソタロール、チモロール、エスモロール、カルベジロール、メドロキサロール、ブシンドロール、レボブノロール、メチプラノロール、セリプロロール、およびプロパフェノンを含むがこれに限らない。
【0021】
「非経口投与」は、患者への注射による、治療薬の全身性伝達である。
【0022】
「相乗的」は、ラノラジンと組み合わせて投与した場合にアミオダロンの治療効果が(または逆も同じ)、単独で投与した場合のアミオダロンおよびラノラジンの予測される相加的な治療効果より大きいことを意味する。
【0023】
「治療的に有効な量」という用語は、そのような治療を必要とする哺乳類に投与した場合に、下記で定義するような治療を行うために十分な、式Iの化合物の量を指す。治療的に有効な量は、使用される治療薬剤の特定の活性、患者の疾患状態の重症度、および患者の年齢、身体的状態、他の疾患状態の存在、および栄養状態に依存して変動する。さらに、患者が投与され得る他の薬物療法が、投与する治療薬の治療的に有効な量の決定に影響を与える。
【0024】
「治療」または「治療する」という用語は、以下のものを含む、哺乳類における疾患のあらゆる治療を意味する:
(i)疾患を予防すること、すなわち、疾患の臨床症状が発生しないようにすること;
(ii)疾患を阻害すること、すなわち、臨床症状の発生を停止させること;および/または
(iii)疾患を軽減すること、すなわち、臨床症状の退行を引き起こすこと。
【0025】
本明細書中で使用される場合、「薬学的に許容可能な担体」は、あらゆるおよび全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌薬および抗真菌薬、等張剤および吸収遅延剤等を含む。薬学的に活性な物質に関するそのような媒体および薬剤の使用は、当該分野で周知である。いかなる従来の媒体または薬剤も活性成分と不適合である範囲以外は、その治療組成物における使用が企図される。追加の活性成分も、その組成物に組み込まれ得る。
【0026】
本発明の方法
本発明は、心房細動を治療または予防する方法に関連する。その方法は、相乗的な治療的に有効な量のアミオダロンおよび相乗的な治療的に有効な量のラノラジンの共投与を含む。その2つの薬剤を、別々のまたは組み合わせた投薬ユニットにおいて、別々にまたは一緒に投与し得る。もし別々に投与するなら、ラノラジンをアミオダロンの投与の前または後に投与し得るが、典型的にはラノラジンをアミオダロンの前に投与する。
【0027】
ラノラジンは、前臨床および臨床試験において、遅発性ナトリウム電流(INa)を阻害し、そして拡張期弛緩を改善することが示された、抗虚血および抗狭心症薬剤である。前臨床試験において、ラノラジンはまた、細胞カルシウム過負荷を予防し、そして虚血の間心臓の電気的および機械的機能不全を抑制することが示された。
【0028】
いくつかの最近の試験の結果は、ラノラジンは心房性の不整脈活動を抑制することを示した。Burashnikovら、2007;116:1449−1457;Songら、Am J Physiol 2008;294:H2031−2039;Sicouriら、Heart Rhythm 2008;5:1019−1026を参照のこと。ラノラジンは、心室組織よりも心房において、より大きなナトリウムチャネルの阻害を引き起こすことが報告された(Burashnikovら、2007;116:1449−1457)。5および10μMの臨床的に関連する濃度のラノラジンは、心房において活動電位の期間(APD90、再分極の90%における活動電位の期間)を延長したが、心室性心筋のAPDにおいて最小限の影響しかなかった、または全く影響しなかった(Burashnikovら、2007;116:1449−1457)。ラノラジン(5および10μM)は、活動電位上昇の最大立ち上がり速度[Vmax]および心房心筋および肺静脈スリーブにおいて伝導速度の有意な頻度依存性の(すなわち、ラノラジンの効果は、より早いペーシング速度においてより大きい)抑制を引き起こしたが、心室心筋においては引き起こさない(Antzelevitchら、Circulation 2004;110:904−910、Burashnikovら、Circulation 2007;116:1449−1457、およびSicouriら、Heart Rhythm 2008;5:1019−1026)。ラノラジンは、有効不応期を増加させ、再分極後不応性を誘発し、そして心房組織において、より早いペーシング速度において、組織の興奮性の喪失を引き起こした(Antzelevitchら、Circulation 2004;110:904−910、Burashnikovら、Circulation 2007;116:1449−1457、Sicouriら、Heart Rhythm 2008;5:1019−1026、およびKumarら、J Cardiovasc Electrophysiol 2009;20:796−802)。
【0029】
これらのデータは、ラノラジンは心房性頻脈および細動の開始および持続の両方を、停止および抑制するのに有効であることを示唆し、そして実際、ラノラジンは、心房の興奮性を有意に抑制し、そして心房心筋およびイヌ肺静脈スリーブおよびブタ心臓におけるアセチルコリン誘発細動を予防および停止した。Burashnikovら、2007;116:1449−1457、Sicouriら、Heart Rhythm 2008;5:1019−1026、およびKumarら、J Cardiovasc Electrophysiol 2009;20:796−802。ラノラジンはまた、単離された心房筋細胞の遅発性INa誘発遅延後脱分極および撃発活動を消滅させ(Songら、Am J Physiol 2008;294:H2031−2039)、そして拡張期脱分極および不整脈活動の開始を減少させた。Songら、Am J Physiol 2009 印刷中。
【0030】
ラノラジンは、心房性頻脈および細動を開始および支持する、誘因(遅延後脱分極、興奮性、および誘発された活動)および電気的基質(電気活動の迅速な伝導および速い速度を支持し得る心房組織)の両方を抑制するようである。心房組織における、ラノラジンによる特定のイオンチャネル電流(ピークINa、IKr、および遅発性INa)の阻害が、これらの抗不整脈効果の原因である。まず、ラノラジンによるピークINaの心房選択的抑制が、電気刺激の伝導(伝導速度)および興奮性を抑制する。2番目に、ラノラジンによる遅延整流電流IKrの阻害が、既に遅い心房性活動電位の再分極の終末期をさらに遅延させ、そしてそれによって続く活動電位上昇の活性化のためのNaチャネルの利用可能性を抑制する。
【0031】
これらの効果は、心房有効不応期の延長に寄与し、そして組織の再分極後不応性の誘発を引き起こす。電気的刺激に不応性の組織は、心房性頻脈および細動の間に起こるもののような、電気活動のリエントリーまたは高速の刺激のいずれも支持し得ない。従って、ラノラジンの心房不応性の速度依存性の増加を引き起こす効果は、心房細動を支持し得る興奮性基質を抑制する。
【0032】
最後に、ラノラジンによる遅発性INaの抑制は、特に延長した心房性再分極の状態において、細胞カルシウム負荷の抑制および心房において誘発された活動の抑制に寄与し得、従ってAFの開始を予防する(Sicouriら、Heart Rhythm 2008;5:1019−1026;Songら、2008)。延長した心房APDは、うっ血性心不全(Liら、Circulation 2000;101:2631−2638)、心房拡張(Verheuleら、Circulation 2003;107:2615−2622)、高血圧(Kistlerら、Eur Heart J 2006;27:3045−3056)、およびQT延長症候群(Kirchhofら、J Cardiovasc.Electrophysiol 2003;14:1027−1033)のような、AFの発生と関連する多くの疾患において起こり得る。
【0033】
しかし、AFは通常心房再分極の短縮に関連する。ナトリウムイオン流入の全体は、通常の条件下で、早期INaに対して遅発性INaを通してより小さい。APDの短縮によって、この違いは増加することが予測される。結果として、遅発性INaの特異的阻害は、細胞内ナトリウム濃度に有意な影響を与えないかもしれない(早期INaの阻害と比較して)。ラノラジンは心室における強力な遅発性INa遮断薬であるが(Antzelevitchら、Circulation 2004;110:904−910)、イヌ右心房および肺静脈調製物におけるその抗AF作用は、主にその早期INaの阻害に起因する(Burashnikovら、Circulation 2007;116:1449−1457、およびSicouriら、Heart Rhythm 2008;5:1019−1026)。まとめると、前臨床試験からの強力な証拠は、ラノラジンはヒトにおいて心房細動を抑制するのに有効であり得ることを示唆する。
【0034】
ラノラジンおよび低用量のアミオダロンの同時使用は、心房細動を停止および予防するために非常に有用な方法であることが発見された。アミオダロン誘発甲状腺毒性は、薬剤の用量を抑制した場合に抑制され得ることが周知である。低から中程度の濃度の急性アミオダロンの、トルサード・ド・ポワントを引き起こす効果は、それが遅発性INaを阻害するよりも低い濃度においてIKrを阻害する薬剤の作用によって説明し得る(Wu Lら、Cardiovasc Res 2008;77:481−488)。IKrのアミオダロンによる阻害は、トルサード・ド・ポワントの発症のリスクを増加させ得る。ラノラジンは、遅発性INaを抑制し、そしてアミオダロンのようなIKr遮断薬によって引き起こされるトルサード・ド・ポワントを予防することが示された(Wu Lら、JPET、2006)。ラノラジンは、INaを抑制し、そしてそれによって再分極予備能を増加させることによって、アミオダロンによって引き起こされるIKrの阻害およびその結果としての再分極予備能の減少を相殺する可能性を有する。遅発性INaが増強していることが報告される病的状態は比較的よくあるので、アミオダロンのようなIKr遮断薬の投与の前に、遅発性INaを阻害するためにラノラジンを使用することは、患者において心室性頻脈性不整脈の発生を抑制するために有用であり得る。
【0035】
ラノラジンおよびアミオダロンの組み合わせは、早期(ピーク)INaの原因であるナトリウムチャネルの強い阻害を引き起こす。ラノラジンは、速い「オフ」動態を有するNa+チャネル「開口および不活性化状態」遮断薬であることが報告される(Wangら、Mol Pharmacol 2008;73;940−948およびZygmuntら、Biophys J;2009;96:250a[要約])一方、アミオダロンは、これも速い動態を有する「不活性化状態」遮断薬であることが報告される(Kodamaら、Cardiovasc Res 1997;35:13−29)。その2つの薬剤の組み合わせは、早期INaの遮断の増加を引き起こす。心房において、ラノラジンおよびアミオダロンはどちらもIKrを阻害し、そして従って心房有効不応期を増加させる。心房の拡張期興奮閾値を増加させ、そして心房有効不応期を延長する、ラノラジンおよびアミオダロンの相乗効果は、心房興奮性、および従って心房性頻脈の頻度および期間を大幅に抑制することが期待される。
【0036】
最近の研究は、慢性アミオダロンは、心臓ナトリウムチャネルの心房選択的不活性化状態遮断薬であり、そしてラノラジンは、これらのチャネルの心房選択的活性化状態遮断薬であることを示し(Wangら、Mol Pharmacol 2008;73:940−948およびZygmuntら、Biophys J;2009;96:250a[要約])、そして心房細動の抑制の戦略として心房選択的ナトリウムチャネル遮断を意図した(Burashnikovら、Heart Rhythm 2008;5:1735−1742、Burashnikovら Ann NY Acad Sci 2008;1123:105−112;Burashnikovら、Circ.2007;116:1449−1457)。
【0037】
ラノラジンおよびアミオダロンを、例えば参考により組み込まれる特許および特許出願において記載されるように、頬側、動脈内注射、静脈内、腹腔内、非経口、筋肉内、皮下、経口、または例えばステント、または動脈に挿入された円柱状ポリマーのような浸透性またはコーティングされた装置を介して、を含む、同様の有用性を有する薬剤の許容された投薬形態のいずれかによって、単回または複数回投薬のいずれかで患者に与え得る。
【0038】
単独で投与する場合、アミオダロンを典型的には2段階の過程で投与する。まず治療的効果を達成するために初回量を投与し、続いてその治療効果を維持する、より低い維持量を投与する。静脈内に投与する場合、アミオダロンの初回量は最初の10分間で150mg(15mg/分)、続いて次の6時間で360mg(1mg/分)であることが推奨される。次いで維持注入が、治療の最初の日の残りの18時間で540mg(0.5mg/分)である。次いで維持量を、0.5mg/分(720mg/24時間)の注入速度で、治療の残りの期間続ける。
【0039】
ラノラジンを、IVアミオダロンと共投与する場合、アミオダロン維持量レベルと同様に、アミオダロン初回量期間を減らし得る。治療効果が、ラノラジンの非存在下で通常見られるよりも早い時点で観察されるので、当業者は、ラノラジンの共投与によって可能となるアミオダロン初回量時間の特定の抑制を確認し得る。1つの実施態様において、アミオダロン初回量は、最初の10分で150mg、続いて次の2から4時間で360mgである。次いで維持量は、720mg/24時間から減らし得、典型的には1日あたり540mg、360mg、または180mgを投与し得る。ラノラジン共投与の非存在下で通常可能な量より低い用量で治療効果が維持されるので、前の様に、当業者は、ラノラジンの共投与によって可能となったアミオダロン用量の特定の抑制を確認し得る。
【0040】
IVラノラジンを、1ミリリットルあたり約1.5から約3mg、好ましくは1ミリリットルあたり約1.8から約2.2mg、そしてさらにより好ましくは1ミリリットルあたり約2mgの、選択されたラノラジンの濃度を含むIV溶液で投与する。ラノラジンの静脈内処方物の注入を、約2500ng塩基/mL(ここでng塩基/mLは、ラノラジンのフリー塩基のng/mLを指す)の標的ピークラノラジン血漿濃度が達成および維持されるように開始する。
【0041】
アミオダロンの経口投与も、通常初回および維持量を用いて行い得る。経口投与に関して、最初の治療反応が起こるまで、1から3週間(時折より長く)で、800から1,600mg/日の初回量が典型的には必要である。ラノラジンの共投与によって、初回量(1200から1,600mg/日)を、典型的な維持量より少ない量へ移行する前に、より短い期間(7から10日)投与し得る、すなわち、維持量を、通例の1日あたり400mgからより低い1日あたり200、100、または50mgへ抑制し得る。再び、ラノラジン共投与の非存在下で通常可能な量より低い用量で治療効果が維持されるので、当業者は、ラノラジンの共投与によって可能となったアミオダロン用量の特定の抑制を確認し得る。
【0042】
アミオダロン維持量の抑制は、現在経口アミオダロンを服用中であるが、薬剤の様々な副作用に苦しんでいる患者にとって特に有用である。ラノラジンを現在の治療に加えることによって、アミオダロンの用量を、上記で議論したようにかなり抑制し、それによってアミオダロンのより有害な副作用を軽減し得る。
【0043】
次いで1つの実施態様において、治療中の患者が既に400から800mgの範囲のアミオダロンの維持量を服用しており、典型的な用量は1日あたり400mgである。この投与計画に対して、次いでラノラジンを、1000mgを1日2回(2×500mg)、750mgを1日2回(2×375mg)、500mg1日2回(1×500mg)、または375mgを1日2回(1×375m)で加える。そのような治療量のラノラジンを投与することによって、アミオダロンの量は次いで1日あたり200、100、または50mgに減少し得、それによって有害事象の発生を大幅に抑制し得る。
【0044】
本発明の新規組成物が注射による投与のために組み込まれ得る形態は、水性または油性懸濁液、またはゴマ油、コーン油、綿実油、またはピーナッツ油を含むエマルション、およびエリキシル、マンニトール、デキストロース、または滅菌水性溶液、および同様の薬学的ビヒクルを含む。生理食塩水中の水性溶液も、注射のために慣習的に使用されるが、本発明の文脈においてはより好ましくない。エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等(およびその適当な混合物)、シクロデキストリン誘導体、および植物油も使用し得る。例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散の場合には必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって、適当な流動性を維持し得る。微生物の活動の予防を、様々な抗菌薬および抗真菌薬、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によって達成し得る。
【0045】
成分を必要な量で、必要に応じて上記で列挙したような様々な他の成分と共に適当な溶媒中に組み込み、続いてろ過滅菌することによって、滅菌注射溶液を調製する。一般的に、様々な滅菌活性成分を、基礎分散媒および上記で列挙したものから必要な他の成分を含む滅菌ビヒクルへ組み込むことによって、分散液を調製する。滅菌注射溶液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、減圧乾燥および凍結乾燥技術であり、それは活性成分に加え以前に滅菌ろ過したその溶液由来のあらゆるさらなる望ましい成分の粉末を生じる。
【0046】
従って、心房細動のために新規組み合わせを投与するための装置の理想的な形態は、(1)使用準備済みの2つの活性物質を含む2つの区画を含むシリンジ、または(2)使用準備済みの2つのシリンジを含むキットから成る。
【0047】
ラノラジンおよびアミオダロンを含む医薬品組成物の産生において、活性成分を通常賦形剤によって希釈し、および/またはカプセル、サシェ、紙または他の容器の形態であり得るような担体内に封入する。その賦形剤が希釈剤として作用する場合、それは固体、半固体、または液体物質(上記のように)であり得、それは活性成分のビヒクル、担体、または媒体として作用する。従って、その組成物は、錠剤、丸剤、粉末、ロゼンジ、サシェ、カシェ剤、エリキシル、懸濁液、エマルション、溶液、シロップ、エアロゾル(固体として、または液体媒体中で)、例えば重量で10%までの活性化合物を含む軟膏、ソフトおよびハードゼラチンカプセル、滅菌注射溶液、および滅菌包装粉末の形態であり得る。
【0048】
適当な賦形剤のいくつかの例は、ラクトース、デキストロース、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガカントゴム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップ、およびメチルセルロースを含む。その処方物はさらに、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱物油のような滑沢剤;湿潤剤;乳化および懸濁剤;メチル安息香酸およびプロピルヒドロキシ安息香酸のような保存剤;甘味料;および香料を含み得る。
【0049】
本発明の組成物を、当該分野で公知の手順を使用することによって、患者への投与後に、活性成分の迅速な、持続した、または遅延した放出を提供するように処方し得る。上記で議論したように、ラノラジンの抑制された生物学的利用能を考えて、徐放性処方が一般的に好ましい。経口投与のための徐放性薬剤伝達システムは、浸透圧ポンプシステムおよびポリマーコーティングリザーバーまたは薬剤ポリマーマトリックス処方物を含む溶解システムを含む。徐放性システムの例は、米国特許第3,845,770;4,326,525;4,902,514;および5,616,345号において提供される。
【0050】
その組成物を、好ましくは単位投薬形態で処方する。「単位投薬形態」という用語は、ヒト被験体および他の哺乳類のための単位用量として適当な、物理的に別々の単位を指し、各単位は、適当な薬学的賦形剤と共に、望ましい治療効果を生じるために計算された、前もって決定した量の活性物質を含む(例えば錠剤、カプセル、アンプル)。本発明の活性薬剤は、広い範囲の投薬量で有効であり、そして一般的に薬学的に有効な量で投与される。しかし、実際に投与される各活性薬剤の量は、治療する状態、選択した投与経路、投与される実際の化合物およびその相対的な活性、個々の患者の年齢、体重、および反応、患者の症状の重症度等を含む、関連する状況を考慮して、医師が決定することが理解される。
【0051】
錠剤のような固体組成物を調製するために、主活性成分を、薬学的な賦形剤と混合して、本発明の化合物の均一な混合物を含む固体予備処方組成物を形成する。これらの予備処方組成物を均一であると言う場合、それは活性成分が組成物中に均一に分散しており、その組成物を錠剤、丸剤、およびカプセルのような、等しく有効な単位投薬形態へ容易に細分し得ることを意味する。
【0052】
本発明の錠剤または丸剤を、コーティングまたは他の方法で配合して、延長した作用の利点を提供する投薬形態を提供し得る、または胃の酸性条件から保護し得る。例えば、その錠剤または丸剤は、内側の用量および外側の用量成分を含み得、後者は前者のエンベロープの形態である。ラノラジンおよび共投与された薬剤を、腸層によって分離し得、それは胃における分解に抵抗し、そして内部成分がそのまま十二指腸へ通過すること、または放出を遅らせることを可能にするために作用する。様々な物質をそのような腸層またはコーティングのために使用し得、そのような物質は多くのポリマー酸(polymeric acid)およびポリマー酸のセラック、セチルアルコール、および酢酸セルロースのような物質との混合物を含む。
【0053】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施態様を示すために含まれる。以下の実施例において開示される技術は、発明者によって、本発明の実施においてよく機能することが発見された技術を示し、そして従ってその実施の好ましい方式を構成すると考えられ得ることが、当業者によって認識されるべきである。しかし、当業者は、本開示を考慮して、本発明の意図および範囲から離れることなく、開示された特定の実施態様において多くの変更をなし得、そして依然として同様のまたは類似の結果を得ることを認識すべきである。
【0054】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施態様を示すために含まれる。以下の実施例において開示される技術は、発明者によって、本発明の実施においてよく機能することが発見された技術を示し、そして従ってその実施の好ましい方式を構成すると考えられ得ることが、当業者によって認識されるべきである。しかし、当業者は、本開示を考慮して、本発明の意図および範囲から離れることなく、開示された特定の実施態様において多くの変更をなし得、そして依然として同様のまたは類似の結果を得ることを認識すべきである。
【実施例】
【0055】
本発明において使用されるアミオダロンは当該分野で周知であり、そして市販で入手可能である。ラノラジンを、米国特許第4,567,264号において開示された方式のような従来の方法によって調製し得、その開示全体は、これによって参考文献に組み込まれる。
【0056】
実施例1
AFの管理のための新規戦略としての、心房選択的ナトリウムチャネル遮断
背景
選択的心房性抗不整脈薬の開発が、心房細動(AF)の抑制のための現在の戦略である。本実施例は、ナトリウムチャネルの特徴が心房および心室細胞の間で異なること、および心房選択的ナトリウムチャネル遮断が、AFの管理のための別の有効な戦略であることを教示する。
【0057】
方法および結果
イヌ心房および心室から単離された筋細胞において、ピークナトリウムチャネル電流(INa)の不活性化を評価するために、ホールセルパッチクランプ技術を用いた。治療的濃度のラノラジン(1から10μmol/L)およびリドカイン(2.1から21μmol/L)の電気生理学的効果を、イヌ単離冠血管灌流心房および心室調製物において評価した。コントロール条件下で、INaの半不活性化電位は、心室細胞に対して心房細胞において15mVより負であった;この差は、ラノラジンとの接触後増加した。ラノラジンは、活動電位上昇の最大立ち上がり速度、伝導速度、および拡張期興奮閾値を含む、ナトリウムチャネルパラメーターの、著明な頻度依存性の抑制を生じ、そして心房において再分極後不応性を誘発したが、心室ではしなかった。リドカインも、心室に対して心房においてこれらのパラメーターを選択的に抑制したが、ラノラジンよりも低い程度までであった。ラノラジンは、心房において活動電位持続時間(APD90)の延長を生じ、心室心筋においてAPD90に影響を与えず、そしてプルキンエ線維においてAPD90の短縮を生じた。リドカインは、心房および心室のAPD90をどちらも短縮した。ラノラジンは、持続するAFの停止において、およびAFの誘発の防止において、リドカインよりも有効であった。
【0058】
結論
我々の研究は、心房対心室ナトリウムチャネルの不活性化特徴の重要な差異、およびAFの抑制を引き起こす、ラノラジンのナトリウムチャネルの頻度依存性遮断を生じる作用の驚くべき心房選択性を示す。我々の結果は、AFの管理のための新規戦略として心房選択的ナトリウムチャネル遮断を指摘する。
【0059】
実施例2
AFの抑制を引き起こすナトリウムチャネルの頻度依存性遮断を生じるラノラジンの心房選択性
背景
抗不整脈薬剤治療は、依然として心房細動(AF)および粗動(AFl)およびその再発の抑制のための主なアプローチである。AF/AFlの抑制の現在の戦略は、心室ではなく心房電気的パラメーターに選択的に影響を与える抗不整脈薬の開発を含む。心室にはなく心房に存在する超高速遅延整流カリウム電流(IKur)の阻害は、心房選択的アプローチの例である(Nattelら、Circulation 2000;101:1179−1184)。我々は最近、ナトリウムチャネルの特徴は、心房および心室細胞の間で異なるという仮説、および心房選択的ナトリウムチャネル遮断が、AFの管理のための別の有効な戦略であるという仮説を調査した(Burashnikovら、Circulation 2007;116:1449−1457およびBurashnikovら、Heart Rhythm 2007;4:S163)。
【0060】
ナトリウムチャネルの生物物理学的特徴を、イヌ心房および心室から単離した単一の筋細胞において測定した。心臓ナトリウムチャネルを遮断し得る4つの薬剤(ラノラジン、リドカイン、プロパフェノン、および慢性的に投与したアミオダロン)を、イヌ冠血管動脈灌流心房および心室調製物の電気生理学を変化させる能力、およびAFを抑制する能力に関して比較した。この実施例は、これらの開口および不活性化状態チャネル遮断薬の効果を対比させる。
【0061】
方法および結果
単離された心房対心室筋細胞におけるナトリウムチャネル不活性化の特徴
全細胞ピークナトリウム電流を、雑種成犬の右心房および左心室(LV)から単離した筋細胞から、低ナトリウム外部溶液中で、37℃で記録した。心房筋細胞における半不活性化電位(V0.5)は、心室筋細胞で記録されたものより約15mV負であり、そして図1で示すように、その差異はラノラジンへの接触後に増加した。
【0062】
これらのデータは、心室ナトリウムチャネルに対して、より多くのパーセンテージの心房ナトリウムチャネルが、所定の休止またはテイクオフ(take−off)電位で不活性化されること、およびナトリウムチャネル遮断からの回復が、心室に対して心房においてより遅く起こり、従ってINa遮断薬は、心室よりも心房においてナトリウムチャネルを遮断するのにより有効であり得ることを示す。心室(−87mV)に対して内因的により正の心房における静止膜電位(RMP)(−83mV)が、心房におけるナトリウムチャネルの利用可能性をさらに抑制し、そしてナトリウムチャネル遮断薬の心房選択性を強調する。
【0063】
我々は、ラノラジンの効果を、心房および心室において、リドカインおよびアミオダロン(主に速い動態を有する不活性化状態ナトリウムチャネル遮断薬)、およびプロパフェノン(遅い動態を有する開口状態ナトリウムチャネル遮断薬)のような、他のナトリウムチャネル遮断薬と対比した。
【0064】
多細胞性心房および心室調製物におけるナトリウムチャネル依存性パラメーター
単離された動脈灌流イヌ右心房調製物および左心室動脈灌流楔調製物を用いて実験を行った(Antzelevitchら、Circulation 2004;110:904−910、Burashnikovら、Am J Physiol 2004;286:H2393−H2400、およびBurashnikovら、Circulation 2003;107:2355−2360)。ラノラジン(1−10μM)、リドカイン(2.1−21μM)、およびプロパフェノン(0.3−3.0μM)の治療的血漿濃度を調査した。アミオダロンを、40mg/kg/日の用量で6週間慢性的に投与した。
【0065】
AP上昇の最大立ち上がり速度(Vmax)、伝導速度(CV)、拡張期興奮閾値(DTE)、および再分極後不応性(PRR)のようなナトリウムチャネルによるパラメーターを評価した。PRRは、活動電位持続時間(APD)および心房有効不応期(ERP)の間の差異として定義された。ERPは、通常APD70−90と一致するが、興奮性の抑制に伴う条件下では(虚血、ナトリウムチャネル遮断等、Davidenkoら、Circ.Res 1986;58:257−268を参照のこと)、APD70−90またはAPD100(PRRの出現を引き起こす)さえも超えて延長し得る。
【0066】
ラノラジンおよびプロパフェノンは、心房において選択的にAPD90を延長し(それぞれ11%および13%)、心室におけるAPD90はほとんど変化しない(それぞれ+2%および+3%、CL=500ms)。慢性的なアミオダロンは、心室におけるよりも心房において、APD90のより長い延長を生じた(それぞれ22対12%;CL=500ms)。対照的に、リドカインは、心房および心室の両方において、APD90を短縮する(それぞれ6%および9%;CL=500ms)。ラノラジン、リドカイン、および慢性アミオダロンは、速度依存的な方式で、心房において選択的に(ラノラジン)または主に(アミオダロンおよびリドカイン)ERPを延長し、心室に対して心房においてより大きいPRRの発生を引き起こす。対照的に、プロパフェノンは、下記の表1で示すように、心房および心室の両方において、顕著なPRRを誘発した。
【0067】
表1−イヌ単離冠血管動脈灌流心房および心室調製物における、ナトリウムチャネル依存性パラメーターに対するラノラジン、リドカイン、プロパフェノン、および慢性アミオダロンの効果
【0068】
【表1】

注:データを0.5および0.3sのペーシングサイクル長で記録した。Vmax=活動電位上昇の最大立ち上がり速度;DTE=拡張期興奮閾値;CV=伝導速度;PRR=再分極後不応性。PRRを、ERPおよび心房におけるAPD75および心室におけるAPD90の間の差異として決定した。(ERPは、心房におけるAPD75および心房におけるAPD90と一致する。)CVは、偽ECG記録において、心房におけるP波コンプレックスおよび心室におけるQRS波コンプレックスの期間から概算された。n=3−18。
【0069】
ラノラジンおよび慢性的アミオダロンは、図2および表1で示すように、心室調製物よりも心房調製物において、より大きなVmaxの速度依存性抑制、DTEの増加、およびCVの緩徐化を引き起こした。リドカインもまた、より低い程度であるが、心房においてこれらのパラメーターを選択的に抑制した。プロパフェノンは、ラノラジン、リドカイン、または慢性アミオダロンよりもナトリウムチャネルによるパラメーターをより強力に抑制したが、正常ペーシング速度において、大きい室選択性はなかった(CL=500ms)。300msのペーシングCLで、プロパフェノンはINaによるパラメーターを心房および心室の両方において強力に抑制したが、心房における効果がより明白であった。速い活性化速度におけるプロパフェノンのこの心房選択性は、APD90の心房選択的延長と関連しており、心房における拡張期間隔の排除を引き起こしたが心室では引き起こさなかった。
【0070】
Na依存性パラメーターを抑制するラノラジンおよびアミオダロンの心房選択性は、部分的には薬剤の主に心房においてAPDを延長し、そして再分極後不応性を誘発する能力に由来し(IKr阻害のため(Burashnikovら、Heart Rhythm 2008;1735−1742))、そして従って活性化の速い速度においてより正のテイクオフ(take−off)電位および拡張期間隔の排除を引き起こし、薬剤がINaを抑制する作用を強化する、図3を参照のこと。
【0071】
AFのモデルにおける、ラノラジン、リドカイン、プロパフェノン、および慢性アミオダロンの抗不整脈効果
アセチルコリン(0.5μM)の存在下で、イヌ冠血管動脈灌流心房調製物の100%で持続性のAFが誘発される、Burashnikovら、Circulation 2003;107:2355−2360、およびBurashnikovら、J Cardiovasc Electrophysiol.2005;16:639−645を参照のこと。下記の表2で示すように、冠血管灌流心房におけるアセチルコリンによる持続性AFの停止において、およびAFの開始の予防において、ラノラジンはリドカインよりも有効であるが、プロパフェノンより有効でないことが見出された。
【0072】
表2−冠血管動脈灌流右心房調製物におけるアセチルコリンによるAFの停止および誘発の予防における、ラノラジン、リドカイン、プロパフェノン、および慢性アミオダロンの有効性
【0073】
【表2】

注:持続性のAFはアセチルコリン単独の存在下で100%の心房において誘発された。
【0074】
アミオダロンで慢性的に治療したイヌから単離された6つの心房のうち1つのみにおいて、持続性のアセチルコリンによるAFを誘発し得た(10個の未治療心房のうち10個に対して)。ラノラジン、リドカイン、プロパフェノン、およびアミオダロンの抗AF作用は、有意な速度依存性PRRの発生と関連していた。
【0075】
ラノラジン(5−10μM)も、自己停止AFが虚血およびβアドレナリン性アゴニストへの曝露によって誘発された、5個の心房のうち4個でAFの誘発を予防した(Burashnikovら、Circulation 2007;116:1449−1457およびBurashnikovら、[要約]Heart Rhythm.2005;2:S179)。イソプロテレノールと組み合わせた虚血/再灌流は、急性心筋梗塞の間に出現する状態または術後に遭遇する基質を模倣する。
【0076】
ディスカッション
我々の最近の研究は、心房対心室ナトリウムチャネルの不活性化特徴における非常に有意な差異および、興奮性の抑制、PRRの発生、およびAFの抑制を引き起こす、ナトリウムチャネルの頻度依存性遮断を生じるラノラジンの作用の驚くべき心房選択性を示す(Burashnikovら、Circulation 2007;116:1449−1457およびBurashnikovら、[要約]Heart Rhythm.2007;4:S163)。リドカインおよび慢性アミオダロンも、主に心房においてナトリウムチャネル依存性のパラメーター(Vmax、CV、DTE、およびPRR)を抑制した。リドカインが、ラノラジンまたは慢性アミオダロンよりも心房選択性ではなかったことに注目する(上記の表1を参照のこと)。対照的に、プロパフェノンは心房選択性ではない。
【0077】
入手可能なデータは、ナトリウムチャネルの開口対不活性化状態遮断は、心房選択性の可能性を決定しないことを示唆する。プロパフェノンおよびラノラジンはどちらも主に開口状態遮断薬であるが、アミオダロンおよびリドカインは主に不活性化状態遮断薬である(Wangら、Mol Pharmacol 2008;73:940−948およびZygmuntら、Biophys J;2009:96:250a[要約]、Burashnikovら、Circ.2007;116:1449−1457、Kodamaら、Cardiovasc Res 1997;35:13−29;Whalleyら、PACE 1995;18:1686−1704)。他方、薬剤のナトリウムチャネルからの解離速度が、心房選択性に寄与すると考えられる。ラノラジンおよびアミオダロンは、どちらも心房選択的ナトリウムチャネル遮断薬であり、比較的速い解離動態を有する(解離t=0.2−1.6秒)(Kodamaら、Cardiovasc Res 1997;35:13−29;Burashnikovら、Circ.2007;116:1449−1457)、一方プロパフェノンは、心房選択性をほとんどから全く示さず、遅い解離動態を示す(解離t=8秒)(Whalleyら、PACE 1995;18:1686−1704)。この仮説の検証は、他の「遅い」INaの心房選択性の評価を待つ。
【0078】
イヌ心室筋細胞において、ラノラジンは遅発性INaを6μMのIC50で阻害すること、Antzelevitchら、Circulation 2004;110:904−910を参照のこと、しかしピークINaを294μMのIC50で阻害することが示された、Undrovinasら、J Cardiovasc Electrophysiol. 2006;17:S161−S177を参照のこと。後者と一致して、ラノラジンは、心室プルキンエ線維、および500msのCLでペーシングしたM細胞調製物において、>100μMのIC50でVmaxを抑制することが報告された(Antzelevitchら、Circulation、2004;110:904−910およびAntzelevitchら、J Cardiovasc Pharmacol Therapeut.2004;9(Suppl1):S65−S83)。はっきり対照的に、ラノラジンは、ラノラジンの治療範囲内の濃度で(2−10μM)、心房調製物において、INa(Vmaxの変化に基づいて推定)の顕著な頻度依存性抑制を引き起こす、Burashnikovら、Circulation. 2007;116:1449−1457を参照のこと。
【0079】
ナトリウムチャネル遮断薬は、一般的に、休止ナトリウムチャネル(すなわち、拡張期間隔の間)よりも、開口および/または不活性化ナトリウムチャネル(すなわち活動電位の間)により効果的に結合する。遮断解除は、主に休止期の間に起こる(Whalleyら、Pacing Clin Electrophysiol.1995;18:1686−1704)。速い活性化速度は、ナトリウムチャネルが開口/不活性化状態にある時間の割合を増加させ、そしてチャネルが休止状態にある時間を抑制することによって、ナトリウムチャネル遮断の発生に寄与する。図3に示すように、心室ではなく心房において選択的にAPDを延長する薬剤は、心房選択的な方式で、拡張期間隔を抑制または排除する、およびテイクオフ(take−off)電位を脱分極するその能力のために、特に速い活性化速度において、心房選択的なINa遮断を示すことが予期される。心房においてより脱分極したRMPは、不活性化状態のチャネルの画分を増加させ、それがナトリウムチャネルの利用可能性を抑制し、そしてナトリウムチャネルが不活性化から回復するために必要な時間を延長することによって、INa遮断薬の効果を強化する。
【0080】
ラノラジンは、リドカインよりも心房選択的であり、そしてAFの停止および再発の予防においてリドカインよりも有効であった。これは、速く活性化する遅延整流カリウム電流も遮断するその能力のために(IKr、IC50=12μM)、(Antzelevitchら、Circulation. 2004;110:904−910)、ラノラジンは心房性APDのみを延長し、一方リドカインは、より選択的なINa遮断薬であり、心房および心室性APDの両方を短縮するという事実のためであり得る。IKr遮断薬は心室性APDに対して心房性APDを選択的に延長することに注目すべきである(下記を参照のこと)。ラノラジンによる心房におけるAPDの選択的延長は、拡張期間隔の排除および心室ではなく心房における速い速度でのより再分極したテイクオフ(take−off)電位を引き起こし、それも図3に示す。心房におけるより負のh曲線およびテイクオフ(take−off)電位の加速誘発脱分極は協力して作用して、不活性化状態のチャネルの画分を増加させ、ナトリウムチャネルの利用可能性を低くし、そしてラノラジンによる遮断により感受性にする。その結果は、Vmax、DTE、およびCVのようなINa依存性パラメーター、および頻度依存性のPRRの発生の、心室に対してより大きい心房性の抑制である。
【0081】
ラノラジンの心房性再分極を延長する効果は、ラノラジンの心房特異性および抗不整脈効果を強化するが、その決定因子ではないようである。プロパフェノン(INaおよびIKr遮断薬)は、ラノラジンと同様、心房性APD90を選択的に延長するが、CL500msにおいて同様の程度まで、心房および心室調製物の両方においてINa依存性パラメーターを抑制し(Burashnikovら、Circulation. 2007;116:1449−1457)、GE68、プロパフェノンアナログも同様である、Lemmens−Gruberら、Arch Pharmacol 1997;355:230−238を参照のこと。より速いペーシング速度において、心房選択的APD90延長のために(心房において拡張期間隔の排除を引き起こす)、プロパフェノンは心房においてVmaxおよびCVをより効果的に抑制する。リドカインは心房および心室APD90の両方を短縮するが、INa依存性パラメーターの抑制において心房特異性を示す。慢性アミオダロンは、同様のメカニズムで、主に心房においてINa依存性パラメーターの抑制を生じ、それは心房APDの選択的延長を含む。
【0082】
これらの結果は、ラノラジン、慢性アミオダロン、およびプロパフェノンのIKr遮断効果は、速いペーシング速度において心房におけるこれらの薬剤のナトリウムチャネル阻害効果を強化することを示唆する。興味深いことに、IKr遮断薬は、一般的に心室よりも心房においてより大きいAPD延長を生じる(Burashnikovら、Heart Rhythm 2008;5:1735−1742)。IKrの選択的阻害は、通常または中程度に速い活性化速度において、心室ERPよりも心房ERPを延長する(Spinelliら、J Cardiovasc Pharmacol.1992;20:913−922およびWiesfeldら、J Cardiovasc Pharmacol.1996;27:594−600)が、遅い速度ではなかった。比較的遅い活性化速度において、または長い休止後は、IKr遮断は心房性APDに対して心室性APDを選択的に延長し、心室における早期後脱分極(EAD)およびトルサード・ド・ポワント不整脈の発生を引き起こすが心房ではない、Antzelevitchら、J Cardiovasc Electrophysiol.1999;10:1124−1152、Burashnikovら、Pacing Clin Electrophysiol.2006;29:290−295、およびVincentら、J Cardiovasc Electrophysiol.2003;14:1034−1035を参照のこと。
【0083】
多くの抗不整脈薬が、臨床的AF/AFlを停止および/または予防するのに有効であることが示された。これらの薬剤のほとんどは、主な作用としてINa(例えばプロパフェノンまたはフレカイニド)およびIKr(例えばドフェチリド)を抑制する、またはアミオダロンのように複数のイオンチャネルを阻害する能力を有する。これらの抗不整脈薬の重要な限界は、治療的に有効な用量における、その潜在的な心室性不整脈誘発作用および/または臓器毒性である(Antzelevitchら、J Cardiovasc Pharmacol Therapeut.2004;9(Suppl1):S65−S83、Antzelevitchら、J Cardiovasc Electrophysiol.1999;10:1124−1152、およびCardiac Arrhythmia Suppression Trial(CAST)Investigators Preliminary report: effect of encainide and flecainide on mortality in a randomized trial of arrhythmia suppression after myocardial infarction. N Engl J Med.1989;321:406−412)。
【0084】
これは、IKurを遮断するもののような、心房選択的抗不整脈薬の開発を促した(Nattelら、Circulation. 2000;101:1179−1184、Wangら、Circ Res.1993;73:1061−1076、およびAmosら、J Physiol.1996;491(Pt1):31−50)。しかし、IKurの遮断単独では、AFの抑制のために不十分であり得る(Burashnikovら、Heart Rhythm.2008;5:1304−1309;Burashnikovら、Expert Opinion Emerging Drugs 2009;14(2):233−249)。再構築した心房において、IKur遮断は、心房性APD90を選択的に延長し(しかしわずかのみ)、そしてIto(おそらくIK−Achと)および/またはINa阻害と組み合わせた場合、AF/AFlを抑制し得る(Burashnikovら、Heart Rhythm.2008;5:1304−1309およびBlaauwら、Circulation.2004;110:1717−1724)。再構築していない健康な心房において、IKur阻害はAPD90を短縮し(Burashnikovら、Am J Physiol.2004;286:H2393−H2400、Burashnikovら、Heart Rhythm.2008;5:1304−1309、およびWettwerら、Circulation.2004;110:2299−2306)、そしてAFを促進し得る(Burashnikovら、Heart Rhythm.2008;5:1304−1309)。
【0085】
これらのデータは、IKurチャネルのaサブユニットをコードするKCNA5における機能喪失変異の、家族性AFとの関連を示す最近の研究の結果と一致する、Olsonら、Hum Mol Genet.2006;15:2185−2191を参照のこと。われわれの結果は、心房選択的ナトリウムチャネル遮断は、AFの管理のための別の有効なアプローチであり得ることを示唆する。
【0086】
結論
我々の発見は、ナトリウムチャネルの遮断に関して比較的速い動態を有するナトリウムチャネル遮断薬は、心房選択的ナトリウムチャネル阻害を生じる傾向を有することを示唆する。その結果は、心房選択的ナトリウムチャネル遮断を、AFの管理のための新規戦略として示し、そしてIKr遮断およびAPD延長のさらなる存在は、INa遮断薬の心房選択性を強化し、そして従ってAFの抑制および発生の予防におけるその有効性を増強し得ることを示唆する。
【0087】
実施例3
ラノラジンおよびアミオダロンの組み合わせ治療
ラノラジン(RAN)は、最近肺静脈(PV)スリーブ調製物を含む、心室および心房筋細胞において、抗不整脈活性を有することが示された抗狭心症薬である。慢性アミオダロン(Amio)は、通常心房細動(AF)を含む、上室性および心室性不整脈の治療に使用される。PVスリーブから始まる、遅延後脱分極(DAD)および遅発性第3相早期後脱分極(EAD)が、AFの開始の潜在的なきっかけとして提示された。この研究は、慢性Amio(6週間、1日あたり40mg/kg)で治療したイヌから単離された、灌流PVスリーブ調製物における、ラノラジンの電気生理学的および抗不整脈効果を評価するためにデザインされた。
【0088】
方法:
活動電位(AP)を、微小電極技術を用いて、イヌ灌流PVスリーブから記録した。アセチルコリン(ACh、1μM)、イソプロテレノール(Iso、1μM)、またはその組み合わせを使用して、EAD、DADおよび撃発活動を誘発した。
【0089】
結果:
慢性Amioで治療したイヌから単離したPVスリーブは、コントロール(未処置)PVスリーブ調製物と比較して、より低いAP上昇の最大立ち上がり速度(Vmax)および延長したAP期間を示した;Vmaxは、1000msのサイクル長(CL)において未処置コントロールで314±79V/s、および慢性AmioPVスリーブで115±89V/sであった。2:1活性化不全(activation failure)が、420msの平均CLで発生した(未処置イヌから単離されたPV調製物における124msに対して)。RAN(5および10μM、n=5)による灌流は、さらにPVスリーブの興奮性を抑制し、5および10μMのRANの追加後に、それぞれ1350および1660msの平均CLにおける2:1活性化不全(activation failure)を引き起こした。未処置のコントロールにおいて、2:1活性化不全(activation failure)は、10μMのラノラジンの存在下で、190msにおいて起こった。慢性AmioPVスリーブにおいて、遅発性第3相EAD−およびDAD誘発撃発活動は、速いペーシング後、Isoおよび/またはAChの存在下でめったに観察されず、そして観察された場合には、RAN(5−10μM)の添加によって完全に排除された。
【0090】
結論:
慢性Amio処置PVスリーブ調製物へ加えたRANは、慢性Amioの興奮性を抑制する効果を大幅に強化し、比較的長いCLにおける活性化不全(activation failure)および撃発活動の完全な抑制を引き起こす。慢性Amioおよび急性RANの組み合わせた効果は、RANは、Amioが有効でない患者においてAFを抑制するのを助け得ることを示唆する。その組み合わせの相乗効果は、肺静脈の「薬理学的」アブレーションを引き起こし得る。
【0091】
実施例4
ラノラジンおよびアミオダロンの相乗効果
我々および他による最近の研究は、慢性アミオダロンは、心臓ナトリウムチャネルの心房選択的不活性化状態遮断薬であること、およびラノラジンは、これらのチャネルの心房選択的活性化状態遮断薬であることを示した。我々は、その組み合わせは相乗的に作用して心房におけるナトリウムチャネル活性の頻度依存性抑制を引き起こすと仮定した。
【0092】
方法:
急性ラノラジン(5μM)の電気生理学的および抗不整脈効果を、未処置(n=7)および慢性AMIO処置(n=4;1日あたり40mg/kgを6週間)イヌから単離した動脈灌流右心房調製物において研究した。浮遊微小電極技術を用いて、膜活動電位(BCL=500ms)を記録した。
【0093】
結果:
櫛状筋の活動電位持続時間(PM−APD75)および有効不応期(ERP)は、未処置心房に対してAmio処置心房において有意に長かった(APD:183±7対154±11ms;ERP:222±12対158±18ms;それぞれに関してp<0.05)。ラノラジンは、AMIOおよび未処置コントロールにおいてAPD75をわずかに延長した(それぞれ183±7から189±9msおよび154±11から159±9ms、両方ともp=n.s.)が、未処置心房に対して(158±18から190±24ms、p<0.05)、特にAMIOにおいてERPを有意に延長した(189±9から258±50ms、p<0.01)。従って、ERPの延長は、主に再分極後不応性(PRR)の発生のためであった。
【0094】
1:1の反応を可能にする最も短いペーシングCLは、コントロールにおいて129±8、AMIOで221±39、急性ラノラジン後で234±49、およびAMIOおよびラノラジンの組み合わせ後で325±34(いずれかの薬剤単独に対してp<0.01)であり、興奮性の抑制およびPRRの増強を反映した。アセチルコリン(ACh)の存在下で、1:1の反応を可能にする最も短いペーシングCLは、コントロールにおいて71±12、慢性AMIOで136±22、急性ラノラジンで94±31、およびAMIO+ラノラジンで205±34であった。ACh前処置調製物において、バーストペーシングは、コントロールの100%(10/10)で心房細動を誘発したが、AMIOおよびラノラジンで処置した調製物においては0%であった。
【0095】
結論:
慢性アミオダロンおよび比較的低濃度の急性ラノラジンの組み合わせは、単離されたイヌ心房において、ナトリウムチャネル依存性のパラメーターの相乗的な頻度依存性抑制を生じ、薬剤の組み合わせの強力な効果を引き起こしてAFの誘発を予防する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相乗的な治療的に有効な量のアミオダロンおよび相乗的な治療的に有効な量のラノラジンの共投与を含む、心房細動を治療する方法。
【請求項2】
前記ラノラジンを経口投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミオダロンおよび前記ラノラジンを別々に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ラノラジンおよび前記アミオダロンを静脈内投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アミオダロンおよび前記ラノラジンを、組み合わせた投薬ユニットとして投与する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
投与されるラノラジンの量が、1日あたり3000mg、1日あたり1500mg、1日あたり1000mg、または1日あたり750mgである、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記ラノラジンを、徐放性処方物として投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
投与されるアミオダロンの量が、1日あたり1200〜1600mgの初回量で、7〜10日、続いて、1日あたり200、100、または50mgの維持量である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
投与されるアミオダロンの量が、最初の10分間で15mg/分、続いて次の2〜4時間で1mg/分の初回量で、続いて、1日あたり540mg、360mg、または180mgの維持量である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
アミオダロンの望ましくない副作用を抑制する方法であって、相乗的な治療的に有効な量のラノラジンの共投与を含む、方法。
【請求項11】
前記アミオダロンおよび前記ラノラジンを経口投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アミオダロンおよび前記ラノラジンを別々に投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ラノラジンおよび前記アミオダロンを静脈内投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記アミオダロンおよび前記ラノラジンを、組み合わせた投薬ユニットとして投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
投与されるラノラジンの量が、1日あたり3000mg、1日あたり1500mg、1日あたり1000mg、または1日あたり750mgである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記ラノラジンが、徐放性処方物として投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
投与されるアミオダロンの量が、1日あたり200、100、または50mgである、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
相乗的な治療的に有効な量のアミオダロンおよび相乗的な治療的に有効な量のラノラジン含む、薬学的処方物。
【請求項19】
アミオダロンの治療的に有効な量を減少させる方法であって、治療的に有効な量のラノラジンの共投与を含む、方法。
【請求項20】
前記ラノラジンを経口投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記アミオダロンおよび前記ラノラジンを別々に投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ラノラジンおよび前記アミオダロンを静脈内投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記アミオダロンおよび前記ラノラジンを、組み合わせた投薬ユニットとして投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
投与されるラノラジンの量が、1日あたり3000mg、1日あたり1500mg、1日あたり1000mg、または1日あたり750mgである、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記ラノラジンを、徐放性処方物として投与する、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
投与されるアミオダロンの量が、1日あたり200、100、または50mgに減少される、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−502047(P2012−502047A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526201(P2011−526201)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/055924
【国際公開番号】WO2010/028173
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(500029420)ギリアード サイエンシーズ, インコーポレイテッド (141)
【Fターム(参考)】