説明

心筋梗塞の遺伝的リスク検出法

【課題】心筋梗塞について、遺伝的リスクを判断するための一材料を得るための遺伝子検出法等を提供する。
【解決手段】特定なタンパク質の内、少なくとも1個又は2個以上の遺伝子多型と、性差、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、高血圧の有無とを評価因子とし、各評価因子のオッズ比を乗じた発症リスクを計算し、この発症リスクを平均と分散またはパーセント区分に応じて3つ以上の複数の群を作成し、各群に応じて発症のリスクを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋梗塞の遺伝的リスク検出法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムプロジェクトの成功によって、一般的な疾患に影響を与える遺伝子の同定を含め、臨床医学に対して大きな利益がもたらされつつある。そのような遺伝子を同定するための方法の一つとして、特定の疾患に注目しつつ、適切に選択された遺伝子多型を探るという方法がある。そのような遺伝子は、その疾患の発症・進展に関与するタンパク質をコードしていることが知られているか、または疾患に連鎖する染色体領域に存在しているからである。
【0003】
虚血性心疾患(Coronary heart disease : CHD )は、米国において最大の死亡原因となっている。虚血性心疾患および心筋梗塞(myocardial infarction : MI )に罹患した患者の総数は、2002年には、それぞれ1300万人および720万人であった。このような状況下、最近の医療の進歩にもかかわらず、虚血性心疾患および心筋梗塞によって、それぞれ約50万人および約17万人の患者が毎年亡くなっている。日本では、厚生労働省のデータによれば、虚血性心疾患の患者数は約90万人であり、約4万5千人の患者が心筋梗塞によって毎年亡くなっている。虚血性心疾患と心筋梗塞による個人的および社会的な負担を軽減するためには、疾患の予防が重要な戦略である。この疾患に対する危険因子を同定することは、危険予測および将来の発症予防のために重要である。
心筋梗塞の原因となる危険因子は、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、および喫煙である。これらの危険因子に加えて、最近では家族または血縁者に関する全ゲノム連鎖解析(非特許文献1〜非特許文献4)および血縁関係にない個人に関する様々な関連解析(非特許文献5〜非特許文献13)によって、虚血性心疾患または心筋梗塞に関与している遺伝子多型が同定されつつある。しかしながら、これらの遺伝的要因については、まだ十分解明されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、心筋梗塞について、遺伝的リスクを判断するための一材料を得るための遺伝子検出法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、3483名の日本人について、137個の候補遺伝子中、164個の多型に関する大規模な関連解析を行った。本研究の目的は、心筋梗塞に関与する遺伝子多型を同定し、この知見に基づいて、ある者に対して心筋梗塞を予防するための有用な情報を与えることである。
【0006】
上記解析の結果、第1の発明に係る心筋梗塞のリスク検出法は、FABP2の2445G→A、AKAP10の2073A→G、IPF1の−108/3G→4G、GP1BAの1018C→T、MTHFRの677C→T、ADIPOQの−11377C→G、F7の11496G→A、TNFの−863C→A、LPLの1595C→G、TNFSF4のA→G、AGERの268G→A、PAX4の567C→T、TNFの−850C→T、CETPの−629C→Aのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、性差、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、高血圧の有無とを評価因子とし、各評価因子のオッズ比を乗じた発症リスクを計算し、この発症リスクを平均と分散またはパーセント区分に応じて3つ以上の複数の群を作成し、各群に応じて発症のリスクを検出することを特徴とする。
このとき、群を形成するときに使用する分散については、統計上の分散値、或いは標準偏差値(SD)、パーセントによる区分などを用いることができる。なお、遺伝子多型については、必ずしも上記14個には限られず、1個〜13個、15個以上で実施することができる。
【0007】
本明細書中において、多型の記載方法は、次の通りである。原則として、各遺伝子について、「多型が生じている位置、データベースに登録されている塩基(A:アデニン、G:グアニン、C:シトシン、T:チミン)→多型の塩基」の順で記載する。例えば、「MTHFRの677C→T」は、MTHFR遺伝子について、677位のCがTとなっている多型を意味している。但し、挿入多型については、「多型が生じている位置/塩基数とデータベースに登録されている塩基→塩基数と塩基」の順で記載する。例えば、「IPF1の−108/3G→4G」は、IPF1遺伝子について、−108位の3個の連続するGが、4個の連続するGとなる挿入多型を意味している。また、場所の指定がない多型(例えば、TNFSF4のA→G)については、表1〜表5に記載のdbSNPのアクセス番号から、その内容を容易に理解することができる。
【0008】
上記多型のうちの幾つかについては、日本人以外の集団において、心筋梗塞とは異なる疾患(例えば、脳血管障害など)との関係が指摘されている。しかしながら、各多型の頻度および疾患との関連については、各集団(国、地域、民族など)に応じて異なっている。このため、従来の報告については、国または疾患が異なる場合には、必ずしも日本人における多型および心筋梗塞との関連が裏付けられるわけではない。
【0009】
また、第2の発明に係る心筋梗塞の遺伝的リスク検出法は、FABP2の2445G→A、AKAP10の2073A→G、IPF1の−108/3G→4G、GP1BAの1018C→T、MTHFRの677C→T、ADIPOQの−11377C→G、F7の11496G→A、TNFの−863C→A、LPLの1595C→G、TNFSF4のA→G、AGERの268G→A、PAX4の567C→T、TNFの−850C→T、CETPの−629C→Aのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することが好ましい。
【0010】
更に、本発明者は、上記データについて、性差、高血圧の有無、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、喫煙の有無に分類し、それぞれについて遺伝子多型と心筋梗塞との関係を評価した結果、次の発明を完成するに至った。
第3の発明に係る心筋梗塞のリスク検出法は、男性と女性とに分類し、男性においてはLTAの804C→A、GP1BAの1018C→T、LPLのC→G(Ser447Stop)、AGERのG→A(Gly82Ser)、F7の11496G→A、MTHFRの677C→T、GNB3の825C→T、ADIPOQの−11377C→G、F3の−603A→Gのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、高血圧の有無とを評価因子とし、女性においてはTNFの−863C→A、IPF1の−108/3G→4G、UCP3の−55C→T、PLATの−7351C→T、FABP2の2445G→A、ITGA2の1648A→G、ENGのC→G(Asp366His)、ROS1のG→A(Asp2213Asn)のうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、高コレステロール血症の有無、高血圧の有無、糖尿病の有無、喫煙の有無とを評価因子とし、各評価因子のオッズ比を乗じた発症リスクを計算し、この発症リスクを平均と分散またはパーセント区分に応じて3つ以上の複数の群を作成し、各群に応じて発症のリスクを検出することを特徴とする。
【0011】
第4の発明に係る心筋梗塞のリスク検出法は、高血圧の有無に分類し、高血圧者においてはMTHFRの677C→T、IPF1の−108/3G→4G、UTS2のG→A(Ser89Asn)、GP1BAの1018C→T、LPLのC→G(Ser447Stop)、MMP2の−1306C→T、F7の11496G→A、PLATの−7351C→T、ADIPOQの−11377C→Gのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、性差、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無とを評価因子とし、正常血圧者においてはAKAP10のA→G(Ile646Val)、TNFSF4のA→G、SAHのA→G(in intron12)、CETPの−629C→Aのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、性差、糖尿病の有無、高コレステロール血症の有無とを評価因子とし、各評価因子のオッズ比を乗じた発症リスクを計算し、この発症リスクを平均と分散またはパーセント区分に応じて3つ以上の複数の群を作成し、各群に応じて発症のリスクを検出することを特徴とする。
【0012】
第5の発明に係る心筋梗塞のリスク検出法は、高コレステロール血症の有無に分類し、高コレステロール血症者においてはUCP3の−55C→T、EDNRAの−231A→G、ENGのC→G(Asp366His)のうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、性差、糖尿病の有無、高血圧の有無とを評価因子とし、血清コレステロール正常者においてはMTHFRの677C→T、AKAP10のA→G(Ile646Val)、IPF1の−108/3G→4G、ADIPOQの−11377C→G、F7の11496G→A、FABP2の2445G→A、F12の46C→T、AACTのG→A(Ala15Thr)、AGERのG→A(Gly82Ser)、TNFの−863C→A、TNFSF4のA→G、LPLのC→G(Ser447Stop)のうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、性差、糖尿病の有無、高血圧の有無とを評価因子とし、各評価因子のオッズ比を乗じた発症リスクを計算し、この発症リスクを平均と分散またはパーセント区分に応じて3つ以上の複数の群を作成し、各群に応じて発症のリスクを検出することを特徴とする。
【0013】
第6の発明に係る心筋梗塞のリスク検出法は、糖尿病の有無に分類し、糖尿病者においてはMTHFRの677C→T、FABP2の2445G→A、APOEの4070C→T、IPF1の−108/3G→4Gのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、性差、高コレステロール血症の有無とを評価因子とし、非糖尿病者においてはF7の11496G→A、IPF1の−108/3G→4G、GP1BAの1018C→T、MTHFRの677C→T、FABP2の2445G→Aのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、性差、高コレステロール血症の有無、高血圧の有無とを評価因子とし、各評価因子のオッズ比を乗じた発症リスクを計算し、この発症リスクを平均と分散またはパーセント区分に応じて3つ以上の複数の群を作成し、各群に応じて発症のリスクを検出することを特徴とする。
【0014】
第7の発明に係る心筋梗塞のリスク検出法は、喫煙の有無に分類し、喫煙者においてはPROZの79G→A、LTAの804C→A、UCP1の−112A→C、ACEの−240A→Tのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、高血圧の有無、性差とを評価因子とし、非喫煙者においてはAKAP10のA→G(Ile646Val)、FABP2の2445G→A、PPARGの−681C→G、IPF1の−108/3G→4G、MTHFRの677C→T、LPLのC→G(Ser447Stop)、F12の46C→T、TNFの−863C→A、GP1BAの1018C→T、F7の11496G→A、AGERのG→A(Gly82Ser)、TNFSF4のA→G、PCK1の−232C→Gのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、性差、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、高血圧の有無とを評価因子とし、各評価因子のオッズ比を乗じた発症リスクを計算し、この発症リスクを平均と分散またはパーセント区分に応じて3つ以上の複数の群を作成し、各群に応じて発症のリスクを検出することを特徴とする。
【0015】
また、第8の発明に係る心筋梗塞の遺伝的リスク検出法は、第2の発明に記載した遺伝子多型に加えて、LTAの804C→A、UCP3の−55C→T、UTS2のG→A(Ser89Asn)、PROZの79G→A、PPARGの−681C→Gのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、心筋梗塞について、遺伝的リスクおよび発症リスクを判断するための検出法等が提供される。この発明を用いることにより、心筋梗塞に対する予防が可能となり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について、表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0018】
<試験方法>
研究対象
研究対象は、3483名(男性1913名、女性1570名)の日本人であった。彼らは、研究参加施設(岐阜県立岐阜病院、岐阜県立多治見病院、岐阜県立下呂温泉病院、弘前大学病院、黎明郷リハビリテーション病院、および横浜総合病院)に2002年10月から2005年3月までに来院した者であった。1192名の心筋梗塞患者(男性926名、女性266名)は、すべて冠動脈造影と左室造影を受けた。心筋梗塞の診断は、典型的な心電図の変化と、血清中の酵素(クレアチンキナーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、および乳酸デヒドロゲナーゼなど)および血清中トロポニンTの増加によって行った。診断は、左室造影像による壁運動異常の存在と、冠動脈造影による主要冠動脈のいずれかの狭窄または左冠動脈主幹部の狭窄を同定することにより行った。
【0019】
2291名(男性987名、女性1304名)のコントロール者は、毎年の健康診断のために研究参加施設を訪れた者であった。彼らは、虚血性心疾患、末梢動脈の閉鎖性疾患、または他のアテローム性動脈硬化症、虚血性または出血性の脳血管障害または他の脳疾患、あるいは血栓症、塞栓症、その他の出血性障害の病歴を持っていなかった。
心筋梗塞患者およびコントロール者には、虚血性心疾患に関する従来の危険因子を有している者と有していない者とが含まれていた。従来の危険因子としては、肥満(BMI≧25kg/m以上)、喫煙(10本以上/日)、高血圧(収縮期血圧が140mmHg以上か、拡張期血圧が90mmHg以上、若しくは両条件を満たす者、または降圧薬を服用している者)、高コレステロール血症(血中総コレステロール値が220mg/dL以上、または脂質降下薬を服用している者)、または糖尿病(空腹時血糖値が126mg/dL以上か、ヘモグロビンAlcが6.5%以上、若しくは両条件を満たす者、または糖尿病治療中の者)が含まれる。
研究プロトコールはヘルシンキ宣言に従い、三重大学医学部、弘前大学医学部、岐阜県国際バイオ研究所、および参加研究施設の倫理委員会によって承認された。各参加者に対しては書面によるインフォームドコンセントを得た。データ解析は、三重大学生命科学研究支援センターヒト機能ゲノミクス部門で行った。
【0020】
多型の選択
公開データベースの使用および本発明者の鋭意努力によって、高血圧、アテローム性動脈硬化症、動脈攣縮、動脈瘤、血小板機能、白血球および単球―マクロファージに関する生物学、凝固・線溶系カスケード、神経学的因子、脂質、グルコース、およびホモシステインの代謝と他の代謝因子についての包括的な概要に基づいて、心筋梗塞との関連が疑われている137個の候補遺伝子を選択した。本発明者は、これら137個の遺伝子について、164個の多型を選択した。これらの多型の多くは、プロモーター領域、エクソン、イントロンのスプライシングの供与部位或いは受容部位に多く位置しており、多型によりコードされたタンパク質の機能または発現に変化を与えることが推定されるものである。これら164個の多型は、下記表1〜表5に示した。なお、表1〜表5においては、左欄から順に、座位(Locus)、遺伝子名(Gene)、簡易表記(Symbol)、多型(Polymorphism)、多型データベース登録番号(dbSNP)を示している。なお、多型データベース登録番号が無い場合には、NCBI遺伝子バンクに登録されている番号を示した。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
【表5】

【0026】
遺伝子多型の検出方法
7mLの静脈血を50mmol/L EDTA(ジナトリウム塩)を含むチューブに採取し、ゲノムDNAをキット(ゲノミックス社製)によって分離した。164個の多型の遺伝子型は、PCRと配列特異的オリゴヌクレオチドプローブをサスペンジョン・アレイ・テクノロジー(SAT:Luminex 100)と組み合わせて使用する方法によって決定した(G&Gサイエンス株式会社)。プライマー、プローブ、その他の条件は、下表6に示した。表6は左から順に、遺伝子表記(Gene Symbol)、多型(Polymorphism)、センスプライマー(Sense primer)、アンチセンスプライマー(Antisense primer)、プローブ1(Probe 1)、プローブ2(Probe 2)、アニーリング温度(Annealing)、およびサイクル数(Cycles)を示した。また、詳細な方法については、既報のもの(非特許文献14)を基本として、適宜に増幅条件を変えて行った。なお、心筋梗塞との関連が認められなかった多型を検出するための条件については記載を省略した。
【0027】
PCR−SSOP−Luminex法
方法の詳細については、非特許文献14に記載の通りである。以下には、この方法の概要について説明する。
図1には、Luminex100フローサイトメトリーで検出するマイクロビーズの微細構造と特徴を示した。マイクロビーズ(図中の符号(A))は、直径が約5.5μm程度であり、ポリスチレン製である。ビーズ表面には、特異的な塩基配列を認識するプローブが結合されている。各ビーズには、一種類のプローブが結合されている。このマイクロビーズには、赤色色素と赤外色素との割合を変化させることにより、図中の符号(B)に示すように、最大で100種類のものを混合した状態で、各ビーズの同定が行えるようになっている。複数種類のプローブを備えたマイクロビーズ(但し、各マイクロビーズには一種類のプローブのみ)を適当な割合で混合し、100ビーズ/μLとなるようにしたビーズミックスを調製した(図中の符号(C))。
【0028】
図2には、PCR−SSOP−Luminex法の手順の概要を示した。
<増幅反応(Amplification)>
目的とするDNAを増幅するPCR反応には、5’末端をビオチンでラベルしたプライマーを用いた。1.5mM塩化マグネシウムを含む1xPCR溶液(50mM KCl、10mM Tris−HCl、pH8.3)、2%DMSO、0.2mM dNTPs、及び0.1μM〜10μMプライマーセットを混合し、Taq DNAポリメラーゼ(50U/mL)と50ng〜100ngのゲノムDNAを加えて25μLとした。PCR反応は、95℃で10分間処理の後、94℃で20秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒間の伸長を1サイクルとし、これを50サイクル繰り返した。機器としてGeneAmp9700サーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いた。
【0029】
<ハイブリダイゼーション(Hybridization)>
増幅したDNAを変性した後、ビーズミックスとハイブリダイズさせた。96ウエルプレートの各ウエルに、5μLの増幅反応後のPCR増幅液、5μLのビーズミックス、及び40μLのハイブリダイズ用緩衝液(3.75M TMAC、62.5mM TB(pH8.0)、0.5mM EDTA、0.125% N−ラウロイルザルコシン)を添加し、全量50μLとした。この混合液を添加した96ウエルプレートについて、95℃で2分間の変性、及び52℃で30分間のハイブリダイゼーションを行った(GeneAmp9700サーマルサイクラーを用いた。)。
図2中には、増幅したDNAを認識するプローブを有するビーズ(1)のみが、DNAと結合する様子が示されている。
【0030】
<ストレプトアビジン−フィコエリトリン反応(SA−PE Reaction)>
次に、上記ビーズミックス−DNAをSA−PEと反応させた。ハイブリダイゼーション反応の後、各ウエルに100μLのPBS−Tween(1xPBS(pH7.5)、0.01% Tween−20)を添加し、1000xgで5分間の遠心を行い、上清を取り去ることで、マイクロビーズを洗浄した。各ウエルに残ったマイクロビーズに、それぞれ70μLのSA−PE溶液(PBS−Tweenにより、市販品(G&Gサイエンス株式会社製)を100倍希釈したもの)を添加し混合した後、52℃で15分間の反応を行った(GeneAmp9700サーマルサイクラーを用いた。)。
図2中には、ビーズ(1)のプローブにのみビオチン化DNAが結合しているので、そのビオチンにSA−PEが結合する様子が示されている。
【0031】
<測定(Measurement)>
次に、反応後のサンプルはLuminex100を用いて、ビーズ種類の同定と、そのビーズにPEが結合しているか否かを判定した。測定は2種類のレーザを使用して行い、ビーズの種類は635nmレーザにより同定し、PE蛍光は532nmレーザを用いて定量した。オリゴビーズに結合したDNAは1測定あたり各々のビーズを最低50個ずつ測定し、定量されたPEの蛍光強度の中央値(MFI)を使用した。
図2中には、各ビーズ(1)〜(3)が同定され、かつビーズ(1)にのみPEが測定されたことから、ビーズ(1)に結合させたプローブが認識するDNAが増幅された様子が示されている。
【0032】
【表6】

【0033】
統計解析
臨床データは、心筋梗塞の患者群とコントロール群との間で、対応のないスチューデントt検定により比較した。質的データは、カイ二乗検定によって比較した。対立遺伝子頻度は遺伝子カウント法によって概算し、ハーディ・ワインベルク平衡にあてはまるかどうかを判断するためにカイ二乗検定を使った。各常染色体上の遺伝子多型における遺伝子型分布は、心筋梗塞患者とコントロール群との間でカイ二乗検定(3x2)によって比較した。X染色体上にある遺伝子多型については、対立遺伝子頻度をカイ二乗検定(2x2)によって比較した。
【0034】
心筋梗塞と関連(P<0.06)する多型は、交絡因子(但し、層別化に用いた因子は除く)を含む多項ロジスティック回帰分析法により解析した。このとき、交絡因子については、年齢(age)・性別(gender:女性=0、男性=1)・肥満指数(body mass index:BMI)・喫煙状態(smoking:非喫煙者=0、喫煙者=1)・代謝変数(高血圧(hypertension)・糖尿病(diabetes mellitus)・または高コレステロール血症(hypercholesterolemia)の病歴なし=0、それらの病歴あり=1)および各遺伝子型を独立変数とし、心筋梗塞を従属変数とした。各遺伝子型は、優性、劣性、および2つの付加(付加1および2)遺伝モデルに従って評価し、P値、オッズ比、および95%信頼区間を計算した。
【0035】
各遺伝モデルは2つの群から成る。優性モデルは「変異型のホモ接合体とヘテロ接合体の結合群」対「野生型のホモ接合体」、劣性モデルは「変異型のホモ接合体」対「野生型のホモ接合体とヘテロ接合体の結合群」、付加1モデルは「ヘテロ接合体」対「野生型のホモ接合体」、付加2モデルは「変異型のホモ接合体」対「野生型のホモ接合体」である。組み合わせ遺伝子型(combined genotype)と心筋梗塞発症との関連を分析するために、年齢、性別、肥満指数、喫煙状態、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、および組み合わせ遺伝子型を独立変数とし、心筋梗塞を従属変数とした多項ロジスティック回帰分析法を実行した。各遺伝子型は、統計的有意性に基づいて優性モデルまたは劣性モデルを用いた。また、各組み合わせ遺伝子型は、心筋梗塞について最も小さい遺伝的リスクを与える組み合わせ遺伝子型と比較した。
【0036】
心筋梗塞に対する遺伝子型または他の交絡因子の効果を確認するために、ステップワイズ変数増加法により解析を行った。モデルへの包含の基準レベルを0.25とし、モデルからの除外の基準レベルを0.1とした。心筋梗塞と遺伝子型の多重比較の結果を得る際に、統計的有意性(層別解析を行わない場合はP<0.001、層別解析を行った場合はP<0.005)の厳密な基準を採用した。その他の臨床的バックグラウンドデータについては、危険率5%未満(P<0.05)は統計的に有意であると見なした。統計的有意性は、両側検定によって試験した。統計解析は、JMPソフトウェア・バージョン5.1(SASインスティテュート社製)によって実行した。
【0037】
I.層別解析を行わない場合の解析結果
<試験結果>
3483人の研究対象に関する基礎的データを下表7に示した。左欄より順に、特徴(Characteristics)、心筋梗塞(Myocardial infarction)、およびコントロール者(Controls)を示している。また、特徴欄は、上より順に、対象者数(No. of subjects)、年齢(Age)、性別(女性/男性)(Gender(female/male))、肥満指数(Body mass index)、現在または過去の喫煙率(Current or former smoker)、高血圧(Hypertension)、糖尿病(Diabetes mellitus)、および高コレステロール血症(Hypercholesterolemia)の罹患率を示している。
【0038】
【表7】

【0039】
年齢と肥満指数については、平均±SDで示した。喫煙率については、一日あたり10本以上を吸った場合を喫煙とした。高血圧については、最大血圧が140mmHg以上、または最低血圧が90mmHg以上の者、或いは降圧剤を服用している者とした。糖尿病については、空腹時血糖値が126mg/dL以上、またはヘモグロビンAlcが6.5%以上の者、或いは糖尿病治療薬を服用している者とした。高コレステロール血症については、血清総コレステロール値が220mg/dL以上、または脂質降下薬を服用している者とした。また表中、(a)、(b)、(c)は、それぞれコントロールとの間でP<0.005、P<0.001、P<0.01を意味している。
【0040】
従来より虚血性心疾患の危険因子とされている喫煙・高血圧・糖尿病・および高コレステロール血症を含め、年齢・男性の割合・肥満指数の全てについて、心筋梗塞患者は、コントロールに比べて有意に高かった。
次に、心筋梗塞のリスク診断を行うために必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・性別・肥満・喫煙・高血圧・糖尿病・高コレステロール血症について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、心筋梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
【0041】
<心筋梗塞のリスク診断システム>
表8には、心筋梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、因子(Variable)、P値(P value)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total risk)を示した。
【0042】
【表8】

【0043】
ステップワイズ変数増加法(後の表9に示す)でP<0.05であった遺伝子多型群および年齢・性別・喫煙・肥満・高血圧・糖尿病・高脂血症を独立因子(交絡因子)とし、心筋梗塞を従属因子として多項ロジスティック回帰分析を行い、P値、オッズ比、95%信頼区間を算出した。したがってこれらの因子は独立したものであり、オッズ比の積(かけ算)により総合的な疾患発症リスクを予測することができる。
多項ロジスティック回帰分析の結果、従来の危険因子としては性別(男性の方が高リスク)、高脂血症、糖尿病、高血圧が発症に関連しており、遺伝因子としては、FABP2、AKAP10、IPF1、GP1BA、MTHFR、ADIPOQ、F7、TNF(2箇所の多型)、LPL、TNFSF4、AGER、PAX4、CETPの各遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が97.81であり、遺伝因子では最小オッズ比が0.10で最大オッズ比が14.89であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.10で最大オッズ比が1456.45であり、14565倍の差が認められた。
【0044】
次に、本実施形態の臨床的な意義について説明する。病院、クリニックまたは健診センターにおいて希望者に対して従来の危険因子と今回同定した遺伝因子に関する検査を行い、心筋梗塞の発症リスクの予測を行う。従来の危険因子と遺伝因子全体のオッズ比の積の分布からリスクの程度を5段階に分ける。即ち、平均±1SDの範囲を平均的リスク群とし、平均+1SDから平均+2SDをやや高リスク群、平均+2SD以上を高リスク群とする。また、平均−1SDから平均−2SDをやや低リスク群、平均−2SD以下を低リスク群とする。
実際に本研究において、リスク値の分布は、リスクが高い群では疾患群が30.5%でコントロール群が6.0%、リスクがやや高い群では疾患群が31.0%でコントロール群が11.8%、平均的リスクの群では疾患群が38.3%でコントロール群が73.1%、リスクがやや低い群では疾患群が0.3%でコントロール群が9.0%、リスクが低い群では疾患群が0%でコントロール群も0%であった。また、リスク値の片対数の分布では、リスクが高い群では疾患群が0%でコントロール群も0%、リスクがやや高い群では疾患群が41.8%でコントロール群が9.3%、平均的リスクの群では疾患群が56.3%でコントロール群が64.7%、リスクがやや低い群では疾患群が1.8%でコントロール群が20.4%、リスクが低い群では疾患群が0.2%でコントロール群が5.7%であった。他の方法として、コントロール群のリスク値の大きい順に全体を5%、20%、50%、20%、5%に区分し、リスク値の最も大きい5%の群をリスクが高い群、次の20%の群をリスクがやや高い群、次の50%の群を平均的リスクの群、次の20%の群をリスクがやや低い群、リスク値が最も小さい5%の群をリスクが低い群とする。実際に本研究における疾患群の分布は、リスクが高い群は26.6%(コントロール群は5.0%)、リスクがやや高い群は47.7%(コントロール群は20.0%)、平均的リスクの群は24.1%(コントロール群は50.2%)、リスクがやや低い群は1.5%(コントロール群は20.0%)、リスクが低い群は0.1%(コントロール群は5.0%)であった。
本研究では有意な関連が認められなかったが、一般的に喫煙・肥満も心筋梗塞の危険因子と考えられているので、この因子を含めることもできる。
【0045】
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけ高リスク群またはやや高リスク群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことにより心筋梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し(表12から算出することができる)、クライアントに説明する。特に心筋梗塞や脳梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムにより心筋梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【0046】
<統計解析>
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、16個の遺伝子多型が心筋梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表9に示した。表中においては、左欄より順に、遺伝子表記(Gene symbol)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
【0047】
MTHFR(677C→T(Ala222Val))については、心筋梗塞群の野生型ホモ接合体(CC型)が31.5%、ヘテロ接合体(CT型)が47.8%、変異型ホモ接合体(TT型)が20.7%であり、コントロール群の野生型ホモ接合体が35.1%、ヘテロ接合体が49.5%、変異型ホモ接合体が15.4%であった。IPF1(-108/3G→4G)については、心筋梗塞群の野生型ホモ接合体(3G/3G型)が27.0%、ヘテロ接合体(3G/4G型)が47.1%、変異型ホモ接合体(4G/4G型)が25.9%であり、コントロール群の野生型ホモ接合体が21.3%、ヘテロ接合体が51.7%、変異型ホモ接合体が27.0%であった。GP1BA(1018C→T(Thr145Met))については、心筋梗塞群の野生型ホモ接合体(CC型)が74.2%、ヘテロ接合体(CT型)が24.6%、変異型ホモ接合体(TT型)が1.2%であり、コントロール群の野生型ホモ接合体が78.4%、ヘテロ接合体が20.0%、変異型ホモ接合体が1.6%であった。FABP2(2445G→A(Ala54Thr))については、心筋梗塞群の野生型ホモ接合体(GG型)が38.3%、ヘテロ接合体(GA型)が46.8%、変異型ホモ接合体(AA型)が14.9%であり、コントロール群の野生型ホモ接合体が43.7%、ヘテロ接合体が43.1%、変異型ホモ接合体が13.2%であった。
【0048】
【表9】

【0049】
これらの多型については、心筋梗塞との関係について更に詳細に分析した。年齢、性別、BMI、喫煙頻度および高血圧・糖尿病・高コレステロール血症の罹患率を補正した多項ロジスティック回帰分析法を行ったところ、次の多型について、心筋梗塞との関連が強く示唆された。劣性モデルおよび付加2モデルにおいて5,10−メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(MTHFR)の677C→T多型が、優性モデルおよび付加1モデルにおいてインスリン促進因子1遺伝子(IPF1)の−108/3G→4G多型が、付加1モデルにおいて糖タンパク質Ib−血小板−αポリペプチド遺伝子(GP1BA)の1018C→T多型が、優性モデルにおいて脂肪酸結合タンパク質2遺伝子(FABP2)の2445G→A多型が、心筋梗塞の罹患率に有意に(P<0.001)関連した。詳細を下表10に示した。
【0050】
【表10】

【0051】
表中においては、左欄より順に、遺伝子表記(Gene symbol)、多型(Polymorphism)、優性モデル(Dominant)における危険率(P)・オッズ比(OR)・95%信頼区間(95% CI)、劣性モデル(Recessive)における危険率(P)・オッズ比(OR)・95%信頼区間(95% CI)、付加1モデル(Additive 1)における危険率(P)・オッズ比(OR)・95%信頼区間(95% CI)、付加2モデル(Additive 2)における危険率(P)・オッズ比(OR)・95%信頼区間(95% CI)をそれぞれ示している。多項ロジスティック回帰分析法は、年齢、性別、肥満指数、および喫煙・高血圧・糖尿病・高コレステロール血症の有無について補正して行った。また、表中、危険率が0.001未満(P<0.001)のデータについては、太字で示した。MTHFRの677T対立遺伝子、GP1BAの1018T対立遺伝子、およびFABP2の2445A対立遺伝子は、心筋梗塞に対する危険因子となっていたのに対し、IPF1の−108/4G対立遺伝子は、心筋梗塞に対し防御的に作用していた。
【0052】
次に、心筋梗塞に対する、遺伝子型、年齢、性別、BMI、および喫煙・高血圧・糖尿病・高コレステロール血症の影響について、ステップワイズ変数増加法により解析した。結果を下表11に示した。表中には、左欄より順に、因子(Variable)、P値(P value)、寄与率(R2)を示している。
【0053】
【表11】

【0054】
統計的有意性が高い順に、性別、高コレステロール血症、糖尿病、高血圧、FABP2遺伝子型(優性モデル)、IPF1遺伝子型(優性モデル)、MTHFR遺伝子型(劣性モデル)、およびGP1BA遺伝子型(優性モデル)が有意であり(P<0.001)、各要因が独立して心筋梗塞に影響を与えることが分かった。
最後に、心筋梗塞の遺伝的リスクを評価するために、4個の多型(FABP2の2445G→A、IPF1の−108/3G→4G、MTHFRの677C→T、およびGP1BAの1018C→T)の組み合わせ遺伝子型について、オッズ比、95%信頼区間、およびP値を計算した。結果を表12に示した。表中においては、左より順に、FABP2の2445G→Aの遺伝子型、IPF1の−108/3G→4Gの遺伝子型、MTHFRの677C→Tの遺伝子型、GP1BAの1018C→Tの遺伝子型、各組み合わせ遺伝子型における心筋梗塞患者数/コントロール者数、オッズ比(95%信頼区間)、およびP値を示した。
【0055】
【表12】

【0056】
4個の多型について組み合わせ遺伝子型を解析することにより、最大オッズ比の8.02が、FABP2についてGAまたはAA、IPF1について3G3G、MTHFRについてTT、GP1BAについてCTまたはTTの組み合わせ遺伝子型について認められた。一方、最小オッズ比の1.00は、FABP2についてGG、IPF1について3G4Gまたは4G4G、MTHFRについてCCまたはCT、GP1BAについてCCの組み合わせ遺伝子型について認められた。
【0057】
<考察>
本発明者は、心筋梗塞との関係が疑われる137個の候補遺伝子について、164カ所の多型を調べた。3483人の被験者について大規模研究を行ったところ、FABP2の2445G→A多型、IPF1の−108/3G→4G多型、MTHFRの677C→T多型、およびGP1BAの1018C→T多型については、日本人の心筋梗塞の罹患率と有意に関連していた。これら4多型の組み合わせ遺伝子型を解析したところ、心筋梗塞の素因として最大オッズ比で8.02を示した。
【0058】
脂肪酸結合タンパク質2(FABP2)は、小腸の円柱状の吸収上皮細胞においてのみ発現される細胞内タンパク質である。このタンパク質は、飽和および不飽和脂肪酸に対して高い親和性を持つ単一の結合部位を持っており、長鎖脂肪酸の吸収および細胞内輸送に寄与している。FABP2の2445G→A(Ala54Thr)多型においてA対立遺伝子産物は、G対立遺伝子産物に比べると、インビトロ試験系で長鎖脂肪酸に対して強い親和性を示した(非特許文献15)。さらに、A対立遺伝子を持つ個体は、G対立遺伝子を持つ個体に比べると、インスリン抵抗性が強く、肥満であることが明らかにされた(非特許文献16、17)。また、A対立遺伝子は、血漿中LDLコレステロール濃度がより高く(非特許文献17)、メタボリック症候群と高脂血症に関連することが認められている(非特許文献18)。
【0059】
スウェーデンにおいては、2445G→A多型は、脳血管障害の家系と関連するが、心筋梗塞の家系とは関連しないと報告されている(非特許文献19)。フィンランドの研究(非特許文献20)、およびフラミンガム子孫研究(非特許文献17)によれば、この多型は虚血性心疾患とは関連しないことが報告されている。しかし、これらの研究は対象者が少ない小規模の研究であった。我々の研究によれば、FABP2の2445G→A多型は、心筋梗塞に関連しており、この条件についてはA対立遺伝子がリスクファクターであることが分かった。この多型がインスリン抵抗性と脂質代謝の両方に影響を与えることが、心筋梗塞との関連を説明づけるかも知れない。
【0060】
インスリン促進因子1(IPF1)は、膵臓のβ細胞におけるインスリン遺伝子の重要な調節因子であるホメオドメインを持つタンパク質であり、膵臓の発生において重要な役割を果たしている(非特許文献21)。IPF1欠損マウスは、出生のときから選択的に膵臓を欠いていた。また、膵臓非形成とインスリン欠損糖尿病を持つ患者は、IPF1のコドン63中に1個のヌクレオチド欠損があり、転写促進領域においてフレームシフトを起こしていた(非特許文献21)。IPF1の3G→4G多型は、日本人において、翻訳開始部位の上流108bpのところに認められたが、この多型は、2型糖尿病の発症率とは関連しなかった(非特許文献22、23)。今回の研究結果からは、IPF1の3G→4G多型は心筋梗塞に関与しており、この条件については4G対立遺伝子が防御因子であることが分かった。IPF1の−108/3G→4G多型と心筋梗塞とが関連していることは今回の研究の結果、始めて見出された。しかし、分子メカニズムについては、未だに解明されていない。
【0061】
ホモシステインは、メチオニン代謝において重要な役割を果たす含硫アミノ酸である。5,10−メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ(MTHFR)は、5,10メチレンテトラヒドロ葉酸を5メチレンテトラヒドロ葉酸に還元する酵素であり、この反応はホモシステインをメチル化してメチオニンを合成するメチオニン合成酵素に基質を提供する反応である。MTHFRの677C→T(Ala222Val)置換を持つ個体は、そのような置換を持たない個体に比べると、酵素活性が減少しており、高いホモシステイン濃度を示す(非特許文献24〜26)。MTHFRの677C→T多型と、虚血性心疾患または心筋梗塞との関係については既報がある(非特許文献27〜30)。一方、他の研究では、そのような関係は認められていない(非特許文献26、27、31、32)。
【0062】
このような矛盾した結果は、部分的には、葉酸と他のビタミンBの摂取量の差に起因している(非特許文献33)。40報の研究発表に基づいて、11,162例の患者と12,758例のコントロールについて、MTHFRの677C→T多型と虚血性心疾患との関係を調べたメタ分析によれば、TT遺伝子型を持つ個体は、CC遺伝子型を持つ個体に比べると、虚血性心疾患に対して1.16のオッズ比を持っていることが明らかにされた(非特許文献34)。これらの報告から、葉酸代謝が阻害されて、ホモシステイン濃度が高くなることが、虚血性心疾患の重要な要因であることが示唆される。別のメタ分析では、80報の研究発表に基づいて、26,000例の患者と31,183例のコントロールについて、MTHFRの677C→T多型と虚血性心疾患との関係が調べられた。
【0063】
その結果、全体としてTT遺伝子型はCC遺伝子型に比べ、1.14のオッズ比を示すことが分かった。但し、ヨーロッパ、オーストラリア、および北米については、オッズ比は約1.0であったのに対し、中東とアジアについては、オッズ比はそれぞれ2.61と1.23であった(非特許文献35)。これらの結果は、MTHFRの677C→T多型が中東およびアジアにおいては、虚血性心疾患と関連する一方、ヨーロッパ、北米、またはオーストラリアにおいては、虚血性心疾患との関連は低いことを示している。これは、ヨーロッパ、北米、オーストラリアでは、葉酸の摂取量が高いことを反映しているらしい(非特許文献35)。これらの報告は、我々の研究結果、すなわち日本人では677C→T多型が心筋梗塞と有意に関係しており、この条件においては、TT遺伝子型がリスクファクターであるという結果を支持している。
【0064】
糖タンパク質Ib−IX−V複合体は、フォンビルブラント因子のための主要な血小板表面レセプターである。この複合体は、血小板が、傷ついた血管の内皮下層に接着する際に重要な役割を果たすとともに、剪断応力によって引き起こされる血小板の活性化に関与している。このことから、血栓症の発生に寄与する可能性が示唆される。GP1BAの1018C→T(Thr145Met)多型は虚血性心疾患、急性心筋梗塞または心臓突然死に関連があり、T対立遺伝子がこれらの条件においてリスクファクターであることが既に報告されている(非特許文献36、37)。これらの既報は、我々の今回の結果、つまり1018C→T多型が心筋梗塞と関係しており、この条件ではT対立遺伝子がリスクファクターであるという結果を支持している。GP1BAの−5T→C多型については、急性冠症候群(acute coronary syndrome)と経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary interventions)後の合併症の発症に関連することが報告されている(非特許文献38)。
【0065】
本発明者が得た結果は、FABP2、IPF1、MTHFR、およびGP1BAが、日本人の心筋梗塞に影響を与えることを示している。これらの多型の組み合わせ遺伝子型を決定することは、心筋梗塞の遺伝的リスクを評価するために有益であり、この疾患の予防に資することになると考える。
【0066】
II.層別解析を行った場合の解析結果
次に、性別、高血圧の有無、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、および喫煙の有無の5個の因子のそれぞれについて層別に解析を行った結果について説明する。
1.性別で層別解析したときの結果
表13には、男性または女性に分けたときの、心筋梗塞患者(MI)とコントロール者の特徴をまとめた。
【0067】
【表13】

【0068】
年齢とBMIについては、平均値±SDにて示した。男性の場合には、BMIと、高血圧・高コレステロール血症・および糖尿病の罹患率は、心筋梗塞患者の方がコントロール者よりも有意に高く、喫煙頻度は有意に低かった。女性の場合には、年齢、喫煙頻度・高血圧・高コレステロール血症・および糖尿病の罹患率は、心筋梗塞患者の方がコントロール者よりも有意に高かった。
次に、心筋梗塞のリスク診断を行うために必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・喫煙・BMI・高血圧・糖尿病・高コレステロール血症について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、心筋梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
【0069】
<男性または女性における心筋梗塞のリスク診断システム>
表14には、男性または女性における心筋梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、因子(parameter)、P値(P value)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total risk)を示した。
【0070】
【表14】

【0071】
ステップワイズ変数増加法(後の表18に示す)でP<0.05であった遺伝子多型群および年齢・喫煙・BMI・高血圧・糖尿病・高脂血症を独立因子(交絡因子)とし、心筋梗塞を従属因子として多項ロジスティック回帰分析を男女別に行い、P値、オッズ比、95%信頼区間を算出した。したがってこれらの因子は独立したものであり、オッズ比の積(かけ算)により総合的な疾患発症リスクを予測することができる。
多項ロジスティック回帰分析の結果、男性においては、従来の危険因子としては高脂血症、糖尿病、高血圧が心筋梗塞の発症に関連しており、遺伝因子としては、LTA、GP1BA、LPL、AGER、F7、MTHFR、GNB3、ADIPOQ、F3の各遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が13.39であり、遺伝因子では最小オッズ比が0.11で最大オッズ比が4.95であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.11で最大オッズ比が66.28であり、603倍の差が認められた。
【0072】
また女性においては、従来の危険因子としては高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙が、遺伝因子としては、TNF、IPF1、UCP3、PLAT、FABP2、ITGA2、ENG、ROS1の各遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が83.72、遺伝因子では最小オッズ比が0.001で最大オッズ比が2.53であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.001で最大オッズ比が211.81であり、211,810倍の差が認められた。
【0073】
次に、本研究成果の臨床的な意義について説明する。病院、クリニックまたは健診センターにおいて希望者に対して従来の危険因子と今回同定した遺伝因子に関する検査を行い、心筋梗塞の発症リスクの予測を男女別に行う。従来の危険因子と遺伝因子全体のオッズ比の積の分布からリスクの程度を5段階に分ける。即ち、平均±1SDの範囲を平均的リスク群とし、平均+1SDから平均+2SDをやや高リスク群、平均+2SD以上を高リスク群とする。また、平均−1SDから平均−2SDをやや低リスク群、平均−2SD以下を低リスク群とする。他の方法として、コントロール群のリスク値の大きい順に全体を5%、20%、50%、20%、5%に区分し、リスク値の最も大きい5%の群をリスクが高い群、次の20%の群をリスクがやや高い群、次の50%の群を平均的リスクの群、次の20%の群をリスクがやや低い群、リスク値が最も小さい5%の群をリスクが低い群とする。
なお、本研究では有意な関連が認められなかったが、一般的に男性では喫煙・肥満、女性では肥満も心筋梗塞の危険因子と考えられているので、この因子を含めることもできる。
【0074】
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけリスクが高い群またはやや高い群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことにより心筋梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し、クライアントに説明する。特に心筋梗塞や脳梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムにより心筋梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【0075】
<統計解析>
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、14個の遺伝子多型が、男性または女性の心筋梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表15に示した。表中においては、左欄より順に、男性における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)と、女性における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
【0076】
【表15】

【0077】
男性において、年齢、BMI、喫煙頻度、高血圧・高コレステロール血症・および糖尿病の有無を補正した多項ロジスティック回帰分析法を行ったところ、次の多型について、心筋梗塞との関連が強く示唆された。優性モデルおよび付加1モデルにおいてGP1BAの1018C→T(Thr145Met)多型が、優性モデルおよび付加1モデルにおいてLTAの804C→A(Thr26Asn)多型が、劣性モデルにおいてAGERのG→A(Gly83Ser)多型が、心筋梗塞の罹患率に有意に(P<0.005)関連した。詳細を表16に示した。
【0078】
【表16】

【0079】
女性においても同様の分析を行ったところ、次の多型について、心筋梗塞との関連が強く示唆された。優性モデルおよび付加1モデルにおいてFABP2の2445G→A(Ala54Thr)多型が、優性モデル、付加1モデルおよび付加2モデルにおいてITGA2の1648A→G(Lys505Glu)多型が、優性モデルおよび付加1モデルにおいてIPF1の−108/3G→4G多型が、優性モデルおよび付加1モデルにおいてUCP3の−55C→T多型が、心筋梗塞の罹患率に有意に(P<0.005)関連した。詳細を表17に示した。
【0080】
【表17】

【0081】
次に、心筋梗塞に対する、遺伝子型、年齢、BMI、喫煙、高血圧、高コレステロール血症、および糖尿病の影響について、ステップワイズ変数増加法により解析した。結果を表18に示した。表中、左欄より順に、因子(Parameter)、P値(P value)、寄与率(R2)を示している。
【0082】
【表18】

【0083】
男性の場合には、統計的有意性が高い順に、高コレステロール血症、糖尿病、高血圧、AGER遺伝子型(劣性モデル)、LTA遺伝子型(優性モデル)、GP1BA遺伝子型(優性モデル)、およびMTHFR遺伝子型(劣性モデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立して心筋梗塞に影響を与えることが分かった。
女性の場合には、統計的有意性が高い順に、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、TNF遺伝子型(優性モデル)、FABP2遺伝子型(優性モデル)、ROS1遺伝子型(劣性モデル)、UCP3遺伝子型(優性モデル)、IPF1遺伝子型(優性モデル)、およびPLAT遺伝子型(優性モデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立して心筋梗塞に影響を与えることが分かった。
【0084】
2.高血圧の有無で層別解析したときの結果
表19には、高血圧の有無で層別化したときの心筋梗塞患者とコントロール者の特徴をまとめた。
【0085】
【表19】

【0086】
年齢とBMIについては、平均値±SDにて示した。高血圧を持っている者(Hypertension(+))では、男性の割合、喫煙者、高コレステロール血症、および糖尿病の頻度が、心筋梗塞患者の方がコントロール者よりも有意に高く、年齢は有意に若かった。高血圧を持っていない者(Hypertension(-))では、年齢、喫煙者、高コレステロール血症、および糖尿病の頻度が、心筋梗塞患者の方がコントロール者よりも有意に高かった。
次に、心筋梗塞のリスク診断に必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・性別・BMI・喫煙・高コレステロール血症・糖尿病について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、心筋梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
【0087】
<高血圧者または正常血圧者における心筋梗塞のリスク診断システム>
表20には、高血圧の有無における心筋梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、因子(parameter)、P値(P value)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total risk)を示した。
【0088】
【表20】

【0089】
ステップワイズ変数増加法(後の表24に示す)でP<0.05であった遺伝子多型群および年齢・性別・喫煙・BMI・糖尿病・高脂血症を独立因子(交絡因子)とし、心筋梗塞を従属因子として多項ロジスティック回帰分析を高血圧者と正常血圧者(非高血圧者)において別々に行い、P値、オッズ比、95%信頼区間を算出した。したがってこれらの因子は独立したものであり、オッズ比の積(かけ算)により総合的な疾患発症リスクを予測することができる。
【0090】
多項ロジスティック回帰分析の結果、高血圧者においては、従来の危険因子としては性別(男性が高リスク)、高脂血症、糖尿病が、遺伝因子としては、MTHFR、IPF1、UTS2、GP1BA、LPL、MMP2、F7、PLAT、ADIPOQの各遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が24.11、遺伝因子では最小オッズ比が0.11で最大オッズ比が21.04であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.11で最大オッズ比が507.27であり、4612倍の差が認められた。また正常血圧者においては、従来の危険因子としては性別(男性が高リスク)、糖尿病、高脂血症が、遺伝因子としては、AKAP10、TNFSF4、SAH、CETPの各遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が175.77、遺伝因子では最小オッズ比が0.44で最大オッズ比が4.60であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.44で最大オッズ比が808.54であり、1838倍の差が認められた。
【0091】
次に、本研究成果の臨床的な意義について以下に述べる。病院、クリニック、健診センターにおいて希望者に対して従来の危険因子と今回同定した遺伝因子に関する検査を行い、心筋梗塞の発症リスクの予測を高血圧者と正常血圧者で別々に行う。従来の危険因子と遺伝因子全体のオッズ比の積の分布からリスクの程度を5段階に分ける。即ち、平均±1SDの範囲を平均的リスク群とし、平均+1SDから平均+2SDをやや高リスク群、平均+2SD以上を高リスク群とする。また、平均−1SDから平均−2SDをやや低リスク群、平均−2SD以下を低リスク群とする。
【0092】
他の方法として、コントロール群のリスク値の大きい順に全体を5%、20%、50%、20%、5%に区分し、リスク値の最も大きい5%の群をリスクが高い群、次の20%の群をリスクがやや高い群、次の50%の群を平均的リスクの群、次の20%の群をリスクがやや低い群、リスク値が最も小さい5%の群をリスクが低い群とする。
なお、本研究では有意な関連が認められなかったが、一般的に喫煙・肥満も心筋梗塞の危険因子と考えられているので、この因子を含めることもできる。
【0093】
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけリスクが高い群またはやや高い群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことにより心筋梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し、クライアントに説明する。特に心筋梗塞や脳梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムにより心筋梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【0094】
<統計解析>
次に、上記リスク診断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、高血圧者では12個の遺伝子多型が、正常血圧者では16個の遺伝子多型が、それぞれ心筋梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表21に示した。表中においては、左欄より順に、高血圧者における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)と、正常血圧者における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
【0095】
【表21】

【0096】
高血圧者において、年齢、性別、BMI、喫煙・高コレステロール血症・糖尿病の有無を補正した多項ロジスティック回帰分析を行ったところ、次の多型について、心筋梗塞との関連が強く示唆された。優性モデルおよび付加1モデルにおいてGP1BAの1018C→T(Thr145Met)多型が、優性モデル並びに付加1および付加2モデルにおいてIPF1の−108/3G→4G多型が、劣性モデルおよび付加2モデルにおいてMTHFRの677C→T(Ala222Val)多型が、劣性モデルおよび付加2モデルにおいてUTS2のG→A(Ser89Asn)多型が、心筋梗塞の罹患率に有意に(P<0.005)関連した。詳細を表22に示した。
【0097】
【表22】

【0098】
一方、正常血圧者において同様の解析を行ったところ、いずれの多型についても心筋梗塞との間に有意な関連は認められなかった。詳細を表23に示した。
【0099】
【表23】

【0100】
次に、高血圧者および正常血圧者について、心筋梗塞に対する、遺伝子型、年齢、性別、高コレステロール血症、および糖尿病の影響について、ステップワイズ変数増加法により解析した。結果を表24に示した。表中、左欄より順に、因子(Parameter)、P値(P value)、寄与率(R2)を示している。
【0101】
【表24】

【0102】
高血圧者の場合には、統計的有意性が高い順に、性別(男性が有意に高い)、高コレステロール血症、糖尿病、MTHFR遺伝子型(劣性モデル)、IPF1遺伝子型(優性モデル)、UTS2遺伝子型(劣性モデル)、およびGP1BA遺伝子型(優性モデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立して心筋梗塞に影響を与えることが分かった。
正常血圧者の場合には、統計的有意性が高い順に、性別、糖尿病、高コレステロール血症、および年齢が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立して心筋梗塞に影響を与えることが分かった。
【0103】
3.高コレステロール血症の有無で層別解析したときの結果
表25には、高コレステロール血症の有無で層別化したときの心筋梗塞患者とコントロール者の特徴をまとめた。
【0104】
【表25】

【0105】
年齢とBMIについては、平均値±SDにて示した。高コレステロール血症を持っている者(Hypercholesterolemia(+))では、男性の割合、喫煙者、高血圧および糖尿病の頻度が、心筋梗塞患者の方がコントロール者よりも有意に高かった。高コレステロール血症を持っていない者(Hypercholesterolemia(-))では、年齢、男性の割合、喫煙者、高血圧および糖尿病の頻度が、心筋梗塞患者の方がコントロール者よりも有意に高かった。
次に、心筋梗塞のリスク診断に必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・性別・BMI・喫煙・高血圧・糖尿病について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、心筋梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
【0106】
<高コレステロール血症者または血清コレステロール正常者における心筋梗塞のリスク診断システム>
表26には、高コレステロール血症の有無による心筋梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、因子(parameter)、P値(P value)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total risk)を示した。
【0107】
【表26】

【0108】
ステップワイズ変数増加法(後の表30に示す)でP<0.05であった遺伝子多型群および年齢・性別・喫煙・BMI・高血圧・糖尿病を独立因子(交絡因子)とし、心筋梗塞を従属因子として多項ロジスティック回帰分析を高コレステロール血症者と血清コレステロール正常者(非高コレステロール血症者)において別々に行い、P値、オッズ比、95%信頼区間を算出した。したがってこれらの因子は独立したものであり、オッズ比の積(かけ算)により総合的な疾患発症リスクを予測することができる。
【0109】
多項ロジスティック回帰分析の結果、高コレステロール血症者においては、従来の危険因子としては性別(男性が高リスク)、糖尿病、高血圧が、遺伝因子としては、UCP3、EDNRA、ENGの各遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が21.90、遺伝因子では最小オッズ比が0.50で最大オッズ比が1.39であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.50で最大オッズ比が30.44であり、61倍の差が認められた。また、血清コレステロール正常者においては、従来の危険因子としては性別(男性が高リスク)、糖尿病、高血圧が、遺伝因子としては、MTHFR、AKAP10、IPF1、ADIPOQ、F7、FABP2、F12、AACT、TNF、TNFSF4、LPLの各遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が39.41、遺伝因子では最小オッズ比が0.03で最大オッズ比が28.45であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.03で最大オッズ比が1121.21であり、37,374倍の差が認められた。
【0110】
次に、本研究成果の臨床的な意義について以下に述べる。病院、クリニック、健診センターにおいて希望者に対して従来の危険因子と遺伝因子に関する検査を行い、心筋梗塞の発症リスクの予測を高コレステロール血症者と血清コレステロール正常者で別々に行う。従来の危険因子と遺伝因子全体のオッズ比の積の分布からリスクの程度を5段階に分ける。即ち、平均±1SDの範囲を平均的リスク群とし、平均+1SDから平均+2SDをやや高リスク群、平均+2SD以上を高リスク群とする。また、平均−1SDから平均−2SDをやや低リスク群、平均−2SD以下を低リスク群とする。
【0111】
他の方法として、コントロール群のリスク値の大きい順に全体を5%、20%、50%、20%、5%に区分し、リスク値の最も大きい5%の群をリスクが高い群、次の20%の群をリスクがやや高い群、次の50%の群を平均的リスクの群、次の20%の群をリスクがやや低い群、リスク値が最も小さい5%の群をリスクが低い群とする。
なお、本研究では有意な関連が認められなかったが、一般的に喫煙・肥満も心筋梗塞の危険因子と考えられているので、この因子を含めることもできる。
【0112】
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけリスクが高い群またはやや高い群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことにより心筋梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し、クライアントに説明する。特に心筋梗塞や脳梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムにより心筋梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【0113】
<統計解析>
次に、上記リスク診断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、高コレステロール血症者では9個の遺伝子多型が、血清コレステロール正常者では20個の遺伝子多型が、それぞれ心筋梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表27に示した。表中においては、左欄より順に、高コレステロール血症者における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)と、血清コレステロール正常者における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
【0114】
【表27】

【0115】
高コレステロール血症者において、年齢、性別、BMI、喫煙・高血圧・糖尿病の有無を補正した多項ロジスティック回帰分析を行ったところ、いずれの多型についても、心筋梗塞との関連が認められなかった。詳細を表28に示した。
【0116】
【表28】

【0117】
一方、血清コレステロール正常者について、同様の解析を行ったところ、次の多型について、心筋梗塞との関連が強く示唆された。付加1モデルにおいてF7の11496G→A(Arg353Gln)多型が、劣性モデルにおいてF12の46C→T多型が、優性モデルにおいてFABP2の2445G→A(Ala54Thr)多型が、優性モデルおよび付加1モデルにおいてIPF1の−108/3G→4G多型が、劣性モデルおよび付加2モデルにおいてMTHFRの677C→T多型が、優性モデルおよび付加1モデルにおいてADIPOQの−11377C→G多型が、劣性モデルおよび付加2モデルにおいてAKAP10のA→G(Ile646Val)多型が、心筋梗塞の罹患率に有意に(P<0.005)関連した。詳細を表29に示した。
【0118】
【表29】

【0119】
次に、高コレステロール血症者および血清コレステロール正常者について、心筋梗塞に対する、遺伝子型、年齢、性別、BMI、喫煙、高血圧、および糖尿病の影響について、ステップワイズ変数増加法により解析した。結果を表30に示した。表中、左欄より順に、因子(Parameter)、P値(P value)、寄与率(R2)を示している。
【0120】
【表30】

【0121】
高コレステロール血症者の場合には、統計的有意性が高い順に、性別(男性が有意に高い)、糖尿病、および高血圧が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立して心筋梗塞に影響を与えることが分かった。
血清コレステロール正常者の場合には、統計的有意性が高い順に、性別、糖尿病、高血圧、MTHFR遺伝子型(劣性モデル)、FABP2遺伝子型(優性モデル)、年齢、IPF1遺伝子型(優性モデル)、AGER遺伝子型(劣性モデル)、AKAP10遺伝子型(劣性モデル)、F7遺伝子型(優性モデル)、ADIPOQ遺伝子型(優性モデル)、およびF12遺伝子多型(劣性モデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立して心筋梗塞に影響を与えることが分かった。
【0122】
4.糖尿病の有無で層別解析したときの結果
表31には、糖尿病の有無で層別したときの心筋梗塞患者とコントロール者の特徴をまとめた。
【0123】
【表31】

【0124】
年齢とBMIについては、平均値±SDにて示した。糖尿病者(Diabetes mellitus(+))では、男性の割合、BMI、喫煙者、高血圧および高コレステロール血症の頻度が、心筋梗塞患者の方がコントロール者よりも有意に高く、年齢は有意に低かった。血糖正常者(或いは、非糖尿病者:Diabetes mellitus(-))では、年齢、男性の割合、喫煙者、高血圧および高コレステロール血症の頻度が、心筋梗塞患者の方がコントロール者よりも有意に高かった。
次に、心筋梗塞のリスク診断に必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・性別・BMI・喫煙・高血圧・高コレステロール血症について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、心筋梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
【0125】
<糖尿病者または血糖正常者における心筋梗塞のリスク診断システム>
表32には、糖尿病の有無による心筋梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、因子(parameter)、P値(P value)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total risk)を示した。
【0126】
【表32】

【0127】
ステップワイズ変数増加法(後の表36に示す)でP<0.05であった遺伝子多型群および年齢・性別・喫煙・BMI・高血圧・高脂血症を独立因子(交絡因子)とし、心筋梗塞を従属因子として多項ロジスティック回帰分析を糖尿病者と血糖正常者(非糖尿病者)とにおいて別々に行い、P値、オッズ比、95%信頼区間を算出した。したがってこれらの因子は独立したものであり、オッズ比の積(かけ算)により総合的な疾患発症リスクを予測することができる。
【0128】
多項ロジスティック回帰分析の結果、糖尿病者においては、従来の危険因子としては性別(男性が高リスク)および高脂血症が、遺伝因子としては、MTHFR、FABP2、APOE、IPF1の各遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が10.19、遺伝因子では最小オッズ比が0.70で最大オッズ比が3.78であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.70で最大オッズ比が38.52であり、55倍の差が認められた。また、血糖正常者においては、従来の危険因子としては性別(男性が高リスク)、高脂血症、高血圧が、遺伝因子としては、F7、IPF1、GP1BA、MTHFR、FABP2の各遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が59.04、遺伝因子では最小オッズ比が0.45で最大オッズ比が2.24であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.45で最大オッズ比が132.25であり、294倍の差が認められた。
【0129】
次に、本研究成果の臨床的な意義について以下に述べる。病院、クリニック、健診センターにおいて希望者に対して従来の危険因子と遺伝因子に関する検査を行い、心筋梗塞の発症リスクの予測を糖尿病者と血糖正常者(非糖尿病者)で別々に行う。従来の危険因子と遺伝因子全体のオッズ比の積の分布からリスクの程度を5段階に分ける。即ち、平均±1SDの範囲を平均的リスク群とし、平均+1SDから平均+2SDをやや高リスク群、平均+2SD以上を高リスク群とする。また、平均−1SDから平均−2SDをやや低リスク群、平均−2SD以下を低リスク群とする。
【0130】
他の方法として、コントロール群のリスク値の大きい順に全体を5%、20%、50%、20%、5%に区分し、リスク値の最も大きい5%の群をリスクが高い群、次の20%の群をリスクがやや高い群、次の50%の群を平均的リスクの群、次の20%の群をリスクがやや低い群、リスク値が最も小さい5%の群をリスクが低い群とする。
なお、本研究では有意な関連が認められなかったが、一般的に糖尿病者では喫煙・肥満・高血圧が、血糖正常者では喫煙・肥満が心筋梗塞の危険因子と考えられているので、これらの因子を含めることもできる。
【0131】
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけリスクが高い群またはやや高い群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことにより心筋梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し、クライアントに説明する。特に心筋梗塞や脳梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムにより心筋梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【0132】
<統計解析>
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、糖尿病者では11個の遺伝子多型が、非糖尿病者では12個の遺伝子多型が、それぞれ心筋梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表33に示した。表中においては、左欄より順に、糖尿病者における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)と、非糖尿病者における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
【0133】
【表33】

【0134】
糖尿病者において、年齢、性別、BMI、喫煙・高血圧・高コレステロール血症の有無を補正した多項ロジスティック回帰分析を行ったところ、優性モデルにおいてFABP2の2445G→A(Ala54Thr)多型が心筋梗塞の罹患率に有意に(P<0.005)関連した。詳細を表34に示した。
【0135】
【表34】

【0136】
非糖尿病者について同様の解析を行ったところ、優性モデルおよび付加1モデルにおいてIPF1の−108/3G→4G多型が心筋梗塞に有意に(P<0.005)関連した。詳細を表35に示した。
【0137】
【表35】

【0138】
次に、糖尿病者および非糖尿病者について、心筋梗塞に対する、遺伝子型、年齢、性別、BMI、喫煙、高血圧、高コレステロール血症の影響について、ステップワイズ変数増加法により解析した。結果を表36に示した。表中、左欄より順に、因子(Parameter)、P値(P value)、寄与率(R2)を示している。
【0139】
【表36】

【0140】
糖尿病者の場合には、統計的有意性が高い順に、性別、高コレステロール血症、FABP2遺伝子型(優性モデル)、MTHFR遺伝子型(劣性モデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立して心筋梗塞に影響を与えることが分かった。
非糖尿病者の場合には、統計的有意性が高い順に、性別、高コレステロール血症、高血圧、IPF1遺伝子型(優性モデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立して心筋梗塞に影響を与えることが分かった。
5.喫煙の有無で層別解析したときの結果
表37には、喫煙の有無で層別したときの心筋梗塞患者とコントロール者の特徴をまとめた。
【0141】
【表37】

【0142】
年齢とBMIについては、平均値±SDにて示した。喫煙者では、男性の割合、BMI、高血圧・高コレステロール血症および糖尿病者の頻度が、心筋梗塞患者の方がコントロール者よりも有意に高かった。非喫煙者では、年齢、男性の割合、高血圧・高コレステロール血症および糖尿病者の頻度が、心筋梗塞患者の方がコントロール者よりも有意に高かった。
次に、心筋梗塞のリスク診断に必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・性別・BMI・高血圧・高コレステロール血症・糖尿病について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、心筋梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
【0143】
<喫煙者または非喫煙者における心筋梗塞のリスク診断システム>
表38には、喫煙の有無による心筋梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、因子(parameter)、P値(P value)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total risk)を示した。
【0144】
【表38】

【0145】
ステップワイズ変数増加法(後の表42に示す)でP<0.05であった遺伝子多型群および年齢・性別・BMI・高血圧・高脂血症・糖尿病を独立因子(交絡因子)とし、心筋梗塞を従属因子として多項ロジスティック回帰分析を喫煙者と非喫煙者において別々に行い、P値、オッズ比、95%信頼区間を算出した。したがってこれらの因子は独立したものであり、オッズ比の積(かけ算)により総合的な疾患発症リスクを予測することができる。
【0146】
多項ロジスティック回帰分析の結果、喫煙者においては、従来の危険因子としては高脂血症、糖尿病、高血圧、性別(男性が高リスク)が、遺伝因子としては、PROZ、LTA、UCP1、ACEの各遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が38.86、遺伝因子では最小オッズ比が0.54で最大オッズ比が5.53であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.54で最大オッズ比が214.90であり、398倍の差が認められた。また非喫煙者においては、従来の危険因子としては性別(男性が高リスク)、高脂血症、糖尿病、高血圧が、遺伝因子としては、AKAP10、FABP2、PPARG、IPF1、MTHFR、LPL、F12、TNF、GP1BA、F7、AGER、TNFSF4、PCK1の各遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が111.09、遺伝因子では最小オッズ比が0.10で最大オッズ比が32.67であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.10で最大オッズ比が3629.31であり、36,293倍の差が認められた。
【0147】
次に、本研究成果の臨床的な意義について以下に述べる。病院、クリニック、健診センターにおいて希望者に対して従来の危険因子と遺伝因子に関する検査を行い、心筋梗塞の発症リスクの予測を喫煙者と非喫煙者で別々に行う。従来の危険因子と遺伝因子全体のオッズ比の積の分布からリスクの程度を5段階に分ける。即ち、平均±1SDの範囲を平均的リスク群とし、平均+1SDから平均+2SDをやや高リスク群、平均+2SD以上を高リスク群とする。また、平均−1SDから平均−2SDをやや低リスク群、平均−2SD以下を低リスク群とする。
【0148】
他の方法として、コントロール群のリスク値の大きい順に全体を5%、20%、50%、20%、5%に区分し、リスク値の最も大きい5%の群をリスクが高い群、次の20%の群をリスクがやや高い群、次の50%の群を平均的リスクの群、次の20%の群をリスクがやや低い群、リスク値が最も小さい5%の群をリスクが低い群とする。
なお、本研究では有意な関連が認められなかったが、一般的に肥満も心筋梗塞の危険因子と考えられているので、この因子を含めることもできる。
【0149】
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけリスクが高い群またはやや高い群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことにより心筋梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し、クライアントに説明する。特に心筋梗塞や脳梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムにより心筋梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【0150】
<統計解析>
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、喫煙者では8個の遺伝子多型が、非喫煙者では21個の遺伝子多型が、それぞれ心筋梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表39に示した。表中においては、左欄より順に、喫煙者における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)と、非喫煙者における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
【0151】
【表39】

【0152】
喫煙者において、年齢、性別、BMI、高血圧・高コレステロール血症・糖尿病の有無を補正した多項ロジスティック回帰分析を行ったところ、次の遺伝子多型について、心筋梗塞との関連が強く示唆された。優性モデルおよび付加1モデルにおいてLTAの804C→A(Thr264Asn)多型が、劣性モデルにおいてPROZの79G→A多型が、心筋梗塞の発症に有意に(P<0.005)関連した。詳細を表40に示した。
【0153】
【表40】

【0154】
同様の解析を非喫煙者について行ったところ、次の遺伝子多型について、心筋梗塞との関連が強く示唆された。優性モデルおよび付加1モデルにおいてFABP2の2445G→A(Ala54Thr)多型が、優性モデルおよび付加1モデルにおいてIPF1の−108/3G→4G多型が、劣性モデルおよび付加2モデルにおいてMTHFRの677C→T(Ala222Val)多型が、優性モデルおよび付加1モデルにおいてPPARGの−681C→G多型が、劣性モデルおよび付加2モデルにおいてAKAP10のA→G(Ile646Val)多型が、心筋梗塞の発症に有意に(P<0.005)関連した。詳細を表41に示した。
【0155】
【表41】

【0156】
次に、喫煙者および非喫煙者について、心筋梗塞に対する、遺伝子型、年齢、性別、BMI、高血圧、高コレステロール血症、および糖尿病の影響について、ステップワイズ変数増加法により解析した。結果を表42に示した。表中、左欄より順に、因子(Parameter)、P値(P value)、寄与率(R2)を示している。
【0157】
【表42】

【0158】
喫煙者の場合には、統計的有意性が高い順に、高コレステロール血症、糖尿病、高血圧、PROZ遺伝子型(劣性モデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立して心筋梗塞に影響を与えることが分かった。
【0159】
非喫煙者の場合には、統計的有意性が高い順に、性別、高コレステロール血症、糖尿病、高血圧、MTHFR遺伝子型(劣性モデル)、FABP2遺伝子型(優性モデル)、AKAP10遺伝子型(劣性モデル)、PPARG遺伝子型(優性モデル)、IPF1遺伝子型(優性モデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立して心筋梗塞に影響を与えることが分かった。
【0160】
<考察>
本発明者は、心筋梗塞との関連が疑われる137個の候補遺伝子について、164ヶ所の遺伝子多型を、男性または女性、高血圧者と正常血圧者、高コレステロール血症と血清コレステロール正常者、糖尿病者と非糖尿病者、喫煙者と非喫煙者に分けて解析した。今回の解析の結果、心筋梗塞に関与する遺伝子多型は、性別、および従来の危険因子(高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙)の有無によって異なっていることが示された。但し、いくつかの遺伝子多型については、二つ以上の因子グループにおいて関連していることが分かった。すなわち、GP1BAの1018C→T(Thr145Met)多型は男性および高血圧者で心筋梗塞に関連し、FABP2の2445G→A(Ala54Thr)多型は女性・血清コレステロール正常者・糖尿病者・非喫煙者で関連し、IPF1の−108/3G→4Gは女性・高血圧者・血清コレステロール正常者・非糖尿病者・非喫煙者で関連し、MTHFRの677C→T(Ala222Val)多型は高血圧者・血清コレステロール正常者・非喫煙者で関連し、AKAP10のA→G(Ile646Val)多型は血清コレステロール正常者・非喫煙者で関連していた。
【0161】
心筋梗塞の主原因は冠動脈硬化である。冠動脈が硬化すると、動脈内腔の血行動態が悪化し、血管収縮拡張のコントロールが困難となり、血小板の粘着・凝集と血栓形成の傾向があらわれる。
本発明者は鋭意努力により、血管に関する生物学、血小板と白血球に関する生物学、凝固・線溶系カスケード、脂質、グルコース、ホモシステインの代謝、および他の代謝因子についての包括的な知見に基づいて、心筋梗塞への関与が疑われる137個の候補遺伝子を選択した。今回の研究によって、心筋梗塞との関連が認められた遺伝子については、実際に様々な役割が認められる。例えば、細胞内シグナリング(AKAP10)、血管炎症(LTA、AGER)、血管収縮(UTS2)、血小板機能(GP1BA)、血液凝固(PROZ)、脂質・糖代謝(FABP2、ADIPOQ、PPARG)、インスリン産生(IPF1)、ホモシステイン代謝(MTHFR)、およびエネルギー調節(UCP3)などであった。
【0162】
12個の遺伝子多型のうち5個(LTA、GP1BA、FABP2、IPF1、MTHFR)については、心筋梗塞または虚血性心疾患との関連について既報が認められる(非特許文献11、27、29、36、37)。今回調べた二つの遺伝子多型(ADIPOQ、PPARG)については、心筋梗塞または虚血性心疾患との関連は報告されていないが、この二つの遺伝子中の別の多型については、心筋梗塞などとの関連を示す既報がある(非特許文献39、40)。残りの5個の遺伝子多型(AKAP10、AGER、UTS2、PROZ、UCP3)については、心筋梗塞または虚血性心疾患との関連を述べた既報は見られない。
【0163】
男性または女性に層別したときの心筋梗塞に関与する遺伝子多型について
男性の場合には、GP1BAの1018C→T(Thr145Met)多型、LTAの804C→A(Thr26Asn)多型、およびAGERのG→A(Gly83Ser)多型が、心筋梗塞の発症に関連した。また、女性の場合には、FABP2の2445G→A(Ala54Thr)多型、IPF1の−108/3G→4G多型、およびUCP3の−55C→T多型が、心筋梗塞の発症に関連した。これらの結果から、男性と女性とにおいては、心筋梗塞に関連する遺伝子多型が異なることが示された。今回の研究では、心筋梗塞に関連する遺伝子多型の性差の機構については不明のままである。
【0164】
一般的に、女性が虚血性心疾患や心筋梗塞などのアテローム硬化性疾患に罹患する年齢は男性に比べると10歳程度の遅れがあることから考えると、同世代の男性と女性が冠動脈疾患に罹患する機序は異なっているのかも知れない。性ホルモンであるエストロゲンは、血管内皮細胞からNOやPGIの様な血管拡張物質の産生を促進し、エンドセリン1の様な血管収縮物質の産生を抑制することにより、血管壁や血管収縮拡張調節に対して、好ましい影響を及ぼす(非特許文献41)。したがって、エストロゲンなどの性ホルモン量が男女で異なることにより、心筋梗塞に関連する遺伝子多型が異なるのかも知れない。更に、今回調査した遺伝子多型は、心筋梗塞に関連する遺伝子多型の一部であり、男女に共通する心筋梗塞に関連する遺伝子多型が更に見つかる可能性もある。
【0165】
高血圧の有無、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、喫煙の有無に層別したときの心筋梗塞に関連する遺伝子多型について
遺伝的要因と環境要因との相互作用が心筋梗塞の原因として重要であるのではないかと考えられたので、高血圧の有無・高コレステロール血症の有無・糖尿病の有無・喫煙習慣の有無に分けたときの心筋梗塞の発症に関する多型の影響について解析を行った。その結果、高血圧者においては、GP1BAの1018C→T(Thr145Met)多型、IPF1の−108/3G→4G多型、MTHFRの677C→T(Ala222Val)多型、およびUTS2のG→A(Ser89Asn)多型が、心筋梗塞と有意に関連した。一方、正常血圧者においては、そのような多型は認められなかった。
【0166】
血清コレステロール正常者においては、FABP2の2445G→A(Ala54Thr)多型、IPF1の−108/3G→4G多型、MTHFRの677C→T(Ala222Val)多型、ADIPOQの−11377C→G多型、およびAKAP10のA→G(Ile646Vla)多型が、心筋梗塞と有意に関連した。一方、高コレステロール血症者においては、そのような多型は認められなかった。
糖尿病者および非糖尿病者においては、それぞれFABP2の2445G→A(Ala54Thr)多型とIPF1の−108/3G→4G多型が、心筋梗塞に有意に関連した。
【0167】
喫煙者においては、PROZの79G→A多型が心筋梗塞の発症に有意に関連した。また、非喫煙者においては、FABP2の2445G→A(Ala54Thr)多型、IPF1の−108/3G→4G多型、MTHFRの677C→T(Ala222Val)多型、PPARGの−681C→G多型、AKAP10のA→G(Ile646Val)多型が、心筋梗塞の発症に有意に関連した。
これらの結果から、従来の冠動脈疾患の危険因子の有無によって、心筋梗塞に関連する遺伝子多型が異なることが分かった。但し、その理由については、今のところ未知のままである。1個の遺伝子多型が心筋梗塞の発症に寄与する程度は小さいので、多型と心筋梗塞の発症との関連は従来の冠動脈疾患の危険因子の有無によって影響を受けるかも知れない。更に、高血圧・高コレステロール血症・糖尿病といった従来の危険因子自体が遺伝的な要因を持っているため、心筋梗塞に関連する遺伝子多型と従来の冠動脈疾患の危険因子に関連する遺伝子多型との間に何らかの相互作用があるのかも知れない。
【0168】
このように本実施形態によれば、心筋梗塞について、遺伝的リスクおよび発症リスクを判断するための検出法を提供することができる。この実施形態を用いることにより、心筋梗塞の予防が可能となり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【0169】
【非特許文献1】Broeckel U, Hengstenberg C, Mayer B, Holmer S, Martin LJ, ComuzzieAG, Blangero J, Nurnberg P, Reis A, Riegger GA, Jacob HJ, Schunkert H. A comprehensive linkage analysis for myocardial infarction and its related risk factors. Nat Genet. 2002;30:210-214.
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【非特許文献4】Hauser ER, Crossman DC, Granger CB, Haines JL, Jones CJ, Mooser V, McAdam B, Winkelmann BR, Wiseman AH, Muhlestein JB, Bartel AG, Dennis CA, Dowdy E, Estabrooks S, Eggleston K, Francis S, Roche K, Clevenger PW, Huang L, Pedersen B, Shah S, Schmidt S, Haynes C, West S, Asper D, Booze M, Sharma S, Sundseth S, Middleton L, Roses AD, Hauser MA, Vance JM, Pericak-Vance MA, Kraus WE. A genomewide scan for early-onset coronary artery disease in 438 families: the GENECARD Study. Am J Hum Genet. 2004;75:436-447.
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【非特許文献12】Ozaki K, Inoue K, Sato H, Iida A, Ohnishi Y, Sekine A, Sato H, Odashiro K, Nobuyoshi M, Hori M, Nakamura Y, Tanaka T. Functional variation in LGALS2 confers risk of myocardial infarction and regulates lymphotoxin-α secretion in vitro. Nature. 2004;429:72-75.
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【非特許文献38】Meisel C, Afshar-Kharghan V, Cascorbi I, Laule M, Stangl V, Felix SB, Baumann G, Lopez JA, Roots I, Stangl K. Role of Kozak sequence polymorphism of platelet glycoprotein Ib as a risk factor for coronary artery disease and catheter interventions. J Am Coll Cardiol. 2001;38:1023-1027.
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【非特許文献41】Koh KK. Effects of estrogen on the vascular wall: vasomotor function and inflammation. Cardiovasc Res 2002;55:714-26.
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】Luminex100で検出するマイクロビーズの微細構造と特徴を示す図である。
【図2】PCR−SSOP−Luminex法の手順の概要を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FABP2の2445G→A、AKAP10の2073A→G、IPF1の−108/3G→4G、GP1BAの1018C→T、MTHFRの677C→T、ADIPOQの−11377C→G、F7の11496G→A、TNFの−863C→A、LPLの1595C→G、TNFSF4のA→G、AGERの268G→A、PAX4の567C→T、TNFの−850C→T、CETPの−629C→Aのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、性差、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、高血圧の有無とを評価因子とし、各評価因子のオッズ比を乗じた発症リスクを計算し、この発症リスクを平均と分散またはパーセント区分に応じて3つ以上の複数の群を作成し、各群に応じて発症のリスクを検出することを特徴とする心筋梗塞のリスク検出法。
【請求項2】
FABP2の2445G→A、AKAP10の2073A→G、IPF1の−108/3G→4G、GP1BAの1018C→T、MTHFRの677C→T、ADIPOQの−11377C→G、F7の11496G→A、TNFの−863C→A、LPLの1595C→G、TNFSF4のA→G、AGERの268G→A、PAX4の567C→T、TNFの−850C→T、CETPの−629C→Aのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することを特徴とする心筋梗塞の遺伝的リスク検出法。
【請求項3】
FABP2の2445G→A、AKAP10の2073A→G、IPF1の−108/3G→4G、GP1BAの1018C→T、MTHFRの677C→T、ADIPOQの−11377C→G、F7の11496G→A、TNFの−863C→A、LPLの1595C→G、TNFSF4のA→G、AGERの268G→A、PAX4の567C→T、TNFの−850C→T、CETPの−629C→A、LTAの804C→A、UCP3の−55C→T、UTS2のG→A(Ser89Asn)、PROZの79G→A、PPARGの−681C→Gのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することを特徴とする心筋梗塞の遺伝的リスク検出法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−228958(P2007−228958A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288908(P2006−288908)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年(平成18年)7月19日 シャタウアー・ゲーエムベーハー、シュツットガルト発行の「血栓症と止血(トロンボーシス・アンド・ヘモスタシス)」に発表
【出願人】(399077674)G&Gサイエンス株式会社 (21)
【出願人】(500572649)財団法人岐阜県国際バイオ研究所 (10)
【出願人】(506023806)
【Fターム(参考)】