心筋細胞の製造方法および分化誘導剤
【課題】未分化な幹細胞を高率かつ選択的に心筋細胞へと分化誘導する方法の提供。
【解決手段】胚性癌種細胞(EC細胞)における心筋細胞への分化誘導時に発現量が増加する遺伝子の探索を行うことで、幹細胞から心筋細胞への分化誘導を促進させる候補分子の特定を行った。その結果、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導時に発現量が一時的に上昇する物質として、骨形成因子(BMP−5)又は、Wntシグナルの分泌性阻害因子(sFRP−5)を見出した。胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に当該物質の作用下で幹細胞の培養を行う。
【解決手段】胚性癌種細胞(EC細胞)における心筋細胞への分化誘導時に発現量が増加する遺伝子の探索を行うことで、幹細胞から心筋細胞への分化誘導を促進させる候補分子の特定を行った。その結果、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導時に発現量が一時的に上昇する物質として、骨形成因子(BMP−5)又は、Wntシグナルの分泌性阻害因子(sFRP−5)を見出した。胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に当該物質の作用下で幹細胞の培養を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋細胞の製造方法、該方法によって得られた心筋細胞、および、心筋細胞への分化を誘導する分化誘導剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に心筋細胞は、出生前は自律拍動しながら活発に細胞分裂を行っているが、出生直後よりその分裂能を喪失し、また未分化な前駆細胞を持つこともないため、心筋梗塞や心筋炎等の各種ストレスに曝されることにより心筋細胞が死滅すると喪失した心筋細胞は補充されることがないとされている。その結果、残存心筋細胞は代償性肥大により心機能を保とうとする。しかし、各種ストレスが持続し、その許容範囲を超えてしまうと、さらなる心筋細胞の疲弊、死滅を誘発して心機能の低下(すなわち、心不全)を呈するようになる。
【0003】
心不全の治療薬としては、従来、心筋の収縮力を増加させるジギタリス製剤やキサンチン製剤等の強心剤が使用されてきたが、これらの薬剤の長期投与は、心筋エネルギーの過剰消費のため、病態を悪化させることが知られている。また最近では、交感神経系やレニン−アンジオテンシン系の亢進による過剰な心臓負荷を軽減するβ遮断薬やACE阻害薬による治療が主流になってきているが、これらは対症的治療法に過ぎず、傷害を受けた心組織そのものを回復させるものではない。これに対し、心臓移植は重症心不全に対する根本的な治療法であるが、臓器提供者の不足や医療倫理、患者の肉体的・経済的負担の重さ等の問題から本法を一般的な治療法として頻用することは困難である。
【0004】
そのため、衰弱又は失われた心筋細胞を補充的に移植する方法が、心不全の治療に極めて有用であると考えられる。心筋細胞の移植を行うためには、心筋細胞を取得することが必要となる。そこで、心筋細胞を未分化な幹細胞から分化誘導し、これを移植用細胞として利用する方法が近年、特に注目されている。現在のところ、成体心組織中に心筋細胞を産生し得る前駆細胞もしくは幹細胞として明らかに同定できる細胞集団は見出されていないため、上記の方法を実施するためには、より未分化で多彩な分化能を有している多能性幹細胞の使用が考えられる。この多能性幹細胞としては、例えば胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)などが挙げられる。
【0005】
しかし、ES細胞又はEG細胞などから形成された胚様体(EB)からは、心筋細胞以外に血球系細胞、血管系細胞、神経系細胞、腸管系細胞、及び骨・軟骨細胞などの別種の細胞が混在して発生するため、多能性幹細胞に由来する心筋細胞を細胞移植治療などの目的のために使用する際の大きな問題となる。さらに、これらの分化した細胞の中で心筋細胞が占める割合は、全体の5〜20%程度に過ぎず、心筋細胞への分化効率が低いことも問題となる。
【0006】
別種の細胞が混在している中から、心筋細胞のみを選択的に選別する方法としては、ES細胞の遺伝子に人為的な装飾を加え、薬剤耐性もしくは異所性発現能を付与することにより、心筋細胞又はその前駆細胞としての形質を有する細胞を回収する方法が挙げられる。しかし、この方法では心筋細胞の純度は高くなるものの、最終的に得られる心筋細胞数は全細胞数の数パーセント程度に過ぎず、移植治療に必要な心筋細胞を得るのは容易なことではない。
【0007】
そこで、ES細胞から心筋細胞を高率に分化誘導する方法として、ヒトES細胞を5−アザシチジンで処理する方法が報告されている(非特許文献1参照)。この方法によれば、EB中のトロポニンI陽性(心筋)細胞が15%から44%に増加することが報告されているが、それでも心筋細胞の占める割合がEB中の50%を越えることはない。
【0008】
これ以外にも、ES細胞から心筋細胞をより高率に発生させる方法として、例えば、マウスES細胞では、レチノイン酸(非特許文献2参照)、アスコルビン酸(非特許文献3参照)、TGFβ、BMP−2(非特許文献4参照)、BMP−4(非特許文献5参照)、PDGF(非特許文献6参照)、又はDynorphin B(非特許文献7参照)を添加したり、あるいは、細胞内の活性酸素種(ROS)(非特許文献8参照)やCa2+(非特許文献9参照)を増加させる処理を行ったりする方法が知られている。また、特許文献1には、マウスES細胞の培養において、BMPのシグナル伝達を抑制する物質を添加することによって、心筋細胞を選択的かつ高率に産生することができることが開示されている。しかし、これらの何れの方法を用いても、心筋細胞の産生効率は依然として満足できるほどは上昇しない。
【0009】
また、上記以外にも、組織幹細胞(SP細胞、Sca1+細胞、isl1細胞など)をin vitroでフィーダー細胞と共培養することによって心筋細胞の分化誘導を行う方法が知られている。例えば、非特許文献10には、マウス胚線維芽細胞(MEF)をフィーダーとして、ヒトES細胞から心筋分化を行ったことが記載されている。また、非特許文献11には、マウスES細胞にOP9をフィーダーとして用いた心筋分化系について記載されている。しかしながら、この方法でも心筋細胞の産生効率を満足できる程度に上昇させることはできない。
【0010】
【特許文献1】国際公開第05/033298号パンフレット
【非特許文献1】Chunhuiら、「サーキュレーション・リサーチ」(“Circ.Res.”)、91:508.2002
【非特許文献2】Wobusら、「ジャーナル・オブ・モレキュラー・アンド・セルラー・カージオロジー」(“J.Mol.Cell.Cardiol.”)、29:1525、1997
【非特許文献3】Takahashiら、「サーキュレーション」(“Circulation”)、107:1912、2003
【非特許文献4】Behfarら、「FASEBジャーナル」(“FASEB J.”)、16:1558、2002
【非特許文献5】Schultheiss ら,「ジーンズ・アンド・ディベロプメント」(“Genes and Dev.”),11(4),451,1997
【非特許文献6】Sachinidisら、「カージオバスキュラー・リサーチ」(“Cardiovasc.Res.”)、58:278、2003
【非特許文献7】Venturaら、「サーキュレーション・リサーチ」(“Circ.Res.”)、92:623、2003
【非特許文献8】Sauerら、「FEBSレターズ」(“FEBS Lett.”)、476:218、2000
【非特許文献9】Liら、「ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー」(“J.Cell.Biol.”)、158:103、2002
【非特許文献10】Mummeryら,「サーキュレーション」 (“Circulation”),107:2733,2002
【非特許文献11】Schroederら,「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ジ・ユナイテッド・オブ・アメリカ」(“Proc.Natl.Acad.Sci.USA”),100:4018,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、未分化な幹細胞をより高率かつ選択的に心筋細胞へと分化誘導する方法を提供するとともに、この方法によって得られた心筋細胞の利用方法などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の目的を達成するために、胚性癌種細胞(EC細胞)における心筋細胞への分化誘導時に発現量が増加する遺伝子の探索を行うことで、幹細胞から心筋細胞への分化誘導を促進させる候補分子の特定を行った。その結果、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導時に発現量が一時的に上昇する物質、具体的には、BMP−5又はsFRP−5が幹細胞から心筋細胞への分化誘導を顕著に促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下の通りである。
〔1〕幹細胞から心筋細胞を分化誘導することにより心筋細胞を製造する方法であって、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質の作用下で幹細胞の培養を行うことを含む方法。
〔2〕上記物質がBMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子である、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕上記物質がsFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子である、上記〔1〕に記載の方法。
〔4〕幹細胞が胚性幹細胞である、上記〔1〕に記載の方法。
〔5〕幹細胞が胚性癌種細胞である、上記〔1〕に記載の方法。
〔6〕幹細胞が哺乳動物由来である、上記〔1〕に記載の方法。
〔7〕幹細胞の培養において胚様体を形成する工程を含む、上記〔1〕に記載の方法。
〔8〕胚様体が形成されるまでの間、培地に白血病抑制因子を添加する、上記〔7〕に記載の方法。
〔9〕胚様体形成後の幹細胞の培養が、培養容器上での平面培養によって行われる、上記〔7〕に記載の方法。
〔10〕幹細胞の培養において胚様体を形成する工程を含む、上記〔2〕に記載の方法。
〔11〕胚様体形成期から1〜2日間BMP−5を添加する、上記〔10〕に記載の方法。
〔12〕胚様体形成期からBMP−5を0.2〜1.0ng/mlの濃度で培地に添加する、上記〔11〕に記載の方法。
〔13〕上記〔1〕〜〔12〕の何れかに記載の方法によって製造された心筋細胞を含有してなる、心疾患の治療剤。
〔14〕胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質を含む、心筋細胞の分化誘導剤。
〔15〕上記物質がBMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子である、上記〔14〕に記載の分化誘導剤。
〔16〕上記物質がsFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子である、上記〔14〕に記載の分化誘導剤。
〔17〕BMP−5、sFRP−5のうちの少なくとも何れかの発現または機能を抑制する物質を含む、心筋細胞への分化阻害剤。
〔18〕発現または機能を抑制する物質が、アンチセンス核酸、RNAi誘導性核酸、ターゲティングベクター、及び抗体からなる群より選ばれる、上記〔17〕に記載の分化阻害剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明の心筋細胞の製造方法によれば、従来の分化誘導方法と比較して高率かつ選択的に心筋細胞を得ることができるという効果が得られる。なお、ここで、「高率」とは、心筋細胞に高い効率で分化することを意味し、「選択的」とは、心筋細胞以外の細胞にはなりにくいことを意味する。また本発明により得られる心筋細胞は、心疾患患者への細胞移植用に利用されるとともに、心疾患の治療剤として有用である。さらに、本発明の分化誘導剤によれば、高率かつ選択的に心筋細胞への分化を誘導することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
【0016】
(1)心筋細胞の製造方法
本発明の心筋細胞の製造方法は、幹細胞から心筋細胞を分化誘導することにより心筋細胞を製造する方法であって、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質の作用下で幹細胞の培養を行うことを特徴とするものである。つまり、当該物質は、初期心筋分化に必須の因子であり、分化誘導開始から7日頃に発現し始めるGATA−4よりも早い時期、または、GATA−4の発現量のピークと同時期に一時的に上昇するものである。なお、上記物質は、分化誘導開始から5〜7日目の間に一時的に発現量が上昇するものであることが好ましい。またあるいは、上記物質は、分化誘導開始から7〜10日目の間に一時的に発現量が上昇するものであってもよい。
【0017】
本明細書において、心筋細胞とは、将来、機能的な心筋細胞となり得る能力を有した心筋前駆細胞や、胎児型心筋細胞、成体型心筋細胞のすべての分化段階の細胞を含み、以下に記載する少なくとも一つ、好ましくは複数の方法により、少なくとも一つ、好ましくは複数のマーカーや基準が確認できる細胞と定義する。
【0018】
心筋細胞に特異的な種々のマーカーの発現は、従来の生化学的又は免疫化学的手法により検出される。その方法は特に限定されないが、好ましくは、免疫化学的染色法や免疫電気泳動法などの免疫化学的手法が使用される。これらの方法では、心筋前駆細胞又は心筋細胞に結合するマーカー特異的ポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体を使用することができる。個々の特異的マーカーを標的とする抗体は市販されており、容易に入手することが可能である。心筋前駆細胞又は心筋細胞に特異的なマーカーとしては、例えば、ミオシン重鎖/軽鎖、α−actin、トロポニンI、ANP、GATA−4、Nkx2.5、MEF−2c等が挙げられる。
【0019】
あるいは、心筋前駆細胞又は心筋細胞特異的マーカーの発現は、特にその手法は問わないが、逆転写酵素介在性ポリメーラーゼ連鎖反応(RT−PCR)やハイブリダイゼーション分析といった、任意のマーカータンパク質をコードするmRNAを増幅、検出、解析するための従来から頻用される分子生物学的手法により確認できる。心筋前駆細胞又は心筋細胞に特異的なマーカー(例えば、ミオシン重鎖/軽鎖、α−actin、トロポニンI、ANP、GATA−4、Nkx2.5、MEF−2c)タンパク質をコードする核酸配列は既知であり、ジェンバンク(GenBank)のような公共データベースにおいて利用可能であり、プライマー又はプローブとして使用するために必要とされるマーカー特異的配列を容易に決定することができる。
【0020】
さらに、幹細胞の心筋細胞への分化を確認するために、生理学的基準も追加的に使用される。すなわち、幹細胞由来の細胞が、自律拍動性を有することや、各種イオンチャネルを発現しており電気生理的刺激に反応し得ることなども、その有効な指標となる。
【0021】
本発明の心筋細胞の製造に用いられる幹細胞としては、少なくとも試験管内培養下で心筋細胞様形質を有する細胞に分化し得る性質を有した未分化細胞であればよい。この幹細胞としては、適当な条件下において三胚葉(外胚葉、中胚葉、および内胚葉)全ての系譜の細胞に分化する能力を有する多能性幹細胞が好ましい。
【0022】
多能性幹細胞としては、既に培養細胞として広く使用されているマウス、サル、ヒト等の哺乳動物由来の胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、成人型多能性幹細胞(MAPC)等を挙げることができる。マウス由来ES細胞の具体例としては、EB3細胞、E14細胞、D3細胞、CCE細胞、R1細胞、129SV細胞、J1細胞等が挙げられる。また、ES細胞、EG細胞、MAPCなどの作製、継代、保存については、従来公知の方法を用いて実施することができる。
【0023】
なお、本発明の製造方法に使用される幹細胞は、少なくとも試験管内培養下で心筋細胞様形質を有する細胞に分化し得る性質を有した細胞であればよいため、必ずしも上記のような胚性幹細胞に限定されない。胚性幹細胞以外に使用可能な幹細胞としては、胎児、臍帯血、成体臓器や骨髄などの成体組織、および、血液などに由来するあらゆる体性幹細胞が挙げられる。さらに、上記幹細胞は、胚性癌種細胞(EC細胞)であってもよい。EC細胞とは、腫瘍中に含まれる胚様細胞(テラトカルシノーマ)のことを意味する。EC細胞は癌細胞ではあるが、未分化で分化全能性を有する胚細胞に類似した性質を有する。EC細胞の具体例としては、マウス由来のP19.CL6(文献:再生医療、日本再生医療学会雑誌 Vol.4 No.3、メディカルレビュー社、2005年、61−68頁参照)が挙げられる。本発明の心筋細胞の製造方法にP19.CL6を用いれば、心筋細胞をより高率に生産することができる。
【0024】
また、本発明の心筋細胞の製造に用いられる幹細胞は、げっ歯類(例えば、マウス、ラット)、霊長類(例えば、サル、ヒト)等の哺乳動物由来であることが好ましい。そして、本発明の製造方法によって得られた心筋細胞を心臓への細胞移植に用いる場合には、該心臓が由来する動物種と同種の動物由来の幹細胞を用いることが好ましい。
【0025】
本発明において、胚性癌種細胞(EC細胞)とは、腫瘍中に含まれる胚様細胞(テラトカルシノーマ)であって、癌細胞ではあるが、未分化で分化全能性を有するもののことをいう。EC細胞の具体例としては、上述したマウス由来のP19.CL6などが挙げられる。
【0026】
本発明の心筋細胞の製造方法に用いる物質は、このEC細胞において、例えばDMSOを添加するなどして心筋細胞への分化を誘導した場合に、誘導開始から10日以内にその発現量が一時的に上昇するものである。ここで、「一時的」とは、誘導開始から一旦その発現量が上昇した後低下することを意味する。
【0027】
また、本発明の製造方法において、「胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質の作用下で幹細胞の培養を行う」とは、幹細胞に対して一時的に上記物質を作用させた状態で培養することを意味する。
【0028】
本発明の製造方法において用いられる上記の物質は、BMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子、あるいは、sFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子であることが好ましい。BMP−5は、骨形成因子(BMP)ファミリーに含まれる分子の一つであり、中胚葉形成・軟骨形成・肢芽形成に関わることが知られている。また、sFRP−5は、Wntシグナルの分泌性阻害因子の一つであり、網膜の光受容細胞の極性を決定することが知られている。なお、本明細書において、単に「BMP−5」、「sFRP−5」と記載するときはBMP−タンパク質、sFRP−5タンパク質をそれぞれ意味するものとする。また、本明細書において、「BMP−5(をコードする)遺伝子」、「sFRP−5(をコードする)遺伝子」と記載するときは、BMP−5タンパク質をコードする遺伝子、sFRP−5タンパク質をコードする遺伝子をそれぞれ意味するものとする。
【0029】
本発明において幹細胞に作用させる上記の物質がBMP−5またはsFRP−5である場合、BMP−5またはsFRP−5の作用下での幹細胞の培養は、結果的に、BMP−5またはsFRP−5を含む培地中で幹細胞又は幹細胞から派生した細胞(例えば、EBなど)を培養することとなる限り特に限定されない。従って、培養開始時に、BMP−5またはsFRP−5が培地中に存在していなくとも構わない。
【0030】
一方、本発明において幹細胞に作用させる上記の物質がBMP−5遺伝子またはsFRP−5遺伝子である場合、BMP−5遺伝子またはsFRP−5遺伝子の作用下での幹細胞の培養は、幹細胞又は幹細胞から派生した細胞(例えば、EBなど)に当該遺伝子を発現可能な状態で導入して培養するものであれば、培養のどの段階で遺伝子を導入するかは特に限定されない。このような培養法として具体的には、BMP−5遺伝子発現ベクターまたはsFRP−5遺伝子発現ベクターを導入した幹細胞の培養、BMP−5発現細胞またはsFRP−5発現細胞と幹細胞との共培養などが挙げられる。
【0031】
培地にBMP−5またはsFRP−5を添加する方法としては、特に限定されないが、生体組織から抽出、精製したBMP−5またはsFRP−5を培地に添加する方法が挙げられる。なお、BMP−5またはsFRP−5は生体組織から抽出、精製したものだけでなく、合成により得られたもの、遺伝子組み換え技術により作製されたもの、市販されているものなども使用可能である。なお、BMP−5は、例えばR&D Inc.より入手可能である。
【0032】
本発明の製造方法において使用されるBMP−5又はsFRP−5は、分化誘導を行う幹細胞が由来する種と同種の動物由来のものが好ましい。例えば、幹細胞としてマウス由来のES細胞又はEC細胞を使用して分化誘導を行う場合には、マウス由来のBMP−5又はsFRP−5の作用下で培養を行うことが好ましい。
【0033】
マウス由来のBMP−5として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_031581として登録されているアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。マウス由来のsFRP−5として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_061250として登録されているアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。また、ヒト由来のBMP−5として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_066551として登録されているアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。さらに、ヒト由来のsFRP−5として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_003006として登録されているアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。
【0034】
また、上記BMP−5には、上記したタンパク質のアミノ酸配列と60%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるタンパク質であり、かつ、心筋細胞への分化誘導を促進させるBMP−5関連タンパク質も含まれるものとする。
【0035】
また、上記sFRP−5には、上記したタンパク質のアミノ酸配列と60%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるタンパク質であり、かつ、心筋細胞への分化誘導を促進させるsFRP−5関連タンパク質も含まれるものとする。
【0036】
また、本発明の製造方法に使用される物質が、BMP−5をコードする遺伝子またはsFRP−5をコードする遺伝子である場合、これらの遺伝子は、いかなる方法で得られるものであってもよい。例えば、mRNAから調製される相補DNA(cDNA)、ゲノミックライブラリーから調製されるゲノミックDNA、化学的に合成されるDNA、RNA又はDNAを鋳型としてPCR法により増幅させて得られるDNA及びこれらの方法を適当に組み合わせて構築されるDNA等が含まれる。
【0037】
本発明の製造方法に使用されるこれらの遺伝子は、分化誘導を行う幹細胞が由来する種と同種の動物由来のものが好ましい。例えば、幹細胞としてマウス由来のES細胞又はEC細胞を使用して分化誘導を行う場合には、マウス由来のBMP−5又はsFRP−5をコードする遺伝子を用いることが好ましい。
【0038】
マウス由来のBMP−5をコードする遺伝子として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NM_007555として登録されている塩基配列から実質的になるDNAを挙げることができる。マウス由来のsFRP−5をコードする遺伝子として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NM_018780として登録されている塩基配列から実質的になるDNAを挙げることができる。また、ヒト由来のBMP−5をコードする遺伝子として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NM_021073として登録されている塩基配列から実質的になるDNAを挙げることができる。さらに、ヒト由来のsFRP−5をコードする遺伝子として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NM_003015として登録されている塩基配列から実質的になるDNAを挙げることができる。
【0039】
ここで、「実質的になるDNA」とは、上記特定の塩基配列からなるDNAに加えて、ストリンジェントな条件(本発明では、塩基配列において約60%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上の相同性を有するDNAがハイブリダイズし得る条件をいい、ストリンジェンシーはハイブリダイズ反応や洗浄の際の温度、塩濃度等を適宜変化させることにより調節することができる)において、上記の特定塩基配列からなるDNAとハイブリダイズし得る塩基配列からなるDNAを意味する。
【0040】
本発明の製造方法に使用する物質が遺伝子である場合、該遺伝子は発現可能な状態で幹細胞に導入されることが好ましい。すなわち、上記遺伝子は、適当な発現ベクターに組み込まれた状態で幹細胞に導入されることが好ましい。当該発現ベクターは、分化誘導対象となる例えば哺乳動物由来の幹細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、幹細胞で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。これらのうち、PGK遺伝子プロモーターを使用することが好ましい。
【0041】
発現ベクターとしては、プラスミドまたはウイルスベクターが使用可能であるが、ヒト等の哺乳動物由来の幹細胞に使用する場合に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0042】
上記の遺伝子が組み込まれた発現ベクターを用いて幹細胞から心筋細胞への分化誘導を行う場合、当該発現ベクターは、自体公知の方法、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム沈殿法、マイクロインジェクション法、リポソーム、陽イオン性脂質等の脂質を使用する方法を用いて幹細胞へ導入すればよい。また、これ以外の方法として、上記遺伝子発現ベクターをフィーダー細胞へ導入し、その導入細胞を共培養細胞として用いる方法、または、その導入細胞の培養上清などの細胞生産物を用いる方法なども利用できる。
【0043】
後述の実施例に示すように、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクターをEC細胞などの幹細胞へ導入すれば、該EC細胞を心筋細胞へ効率的に分化誘導することができる。特に、BMP−5を導入したEC細胞(P19.CL6)は、DMSO非添加で心筋マーカー(α−MHC)の発現が活性化される。
【0044】
本発明において、幹細胞から心筋細胞を製造するために行う細胞の培養法としては、心筋細胞の分化誘導に適した方法であれば、特に限定されることなく利用することができる。具体的な培養法としては、例えば幹細胞としてES細胞又はEC細胞を用いる場合、胚様体(EB)形成法(平面培養法、浮遊凝集培養法、懸濁(hanging drop)培養法など)、フィーダー細胞との共培養法、旋回培養法、軟寒天培養法、マイクロキャリア培養法などを挙げることができる。また、本発明の心筋細胞の製造方法では、これらの培養法を順次組み合わせ、工程ごとに異なる培養法を採用してもよい。
【0045】
胚様体形成法とは、培養プレートから剥離したES細胞を含む細胞液を培養皿にスポットし、この細胞滴が下になるように上蓋の向きを返して培養する方法のことをいう。
より具体的には、胚様体形成法は、ES細胞を培養プレートから0.25%トリプシン−EDTAを用いて剥離し、α−MEM(10%FBSを含む)に懸濁をした後、3×104細胞/mlの細胞濃度に調製し、この調製した細胞液を15μlずつ培養皿の上蓋にスポットし(60〜70個)、懸濁した細胞滴が下になるように上蓋の向きを返して、培養プレートの下皿に載せて37℃、5%二酸化炭素通気下で1〜2日培養することによって行うことができる。
【0046】
幹細胞の培養に用いられる培地は、幹細胞の分化に適切である限り特に限定されず適宜選択されるが、例えば、最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、F12培地またはRPMI1640培地、あるいはそれらの混合培地を基本培地として含むものなどである。BMP−5またはsFRP−5以外の培地への添加剤としては、例えば、各種アミノ酸、各種無機塩、各種ビタミン、各種抗生物質、緩衝剤などが挙げられる。培養条件もまた適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30℃〜約40℃である。培地は、血清を含んでも含まなくてもよいが、未同定成分の混入の防止、感染リスクの軽減などの観点から、無血清培地が好ましい。
【0047】
以下に、本発明の製造方法において、培地にBMP−5を添加して幹細胞の培養を行う方法について具体的に説明する。本発明では、幹細胞を一時的にBMP−5の作用下で培養すればよく、少なくとも培養のある一定の段階においてBMP−5を含む培地中で幹細胞の培養を行えばよい。
【0048】
本発明の実施において、幹細胞の培養を行う場合、2つの段階に大きく分けることができる。すなわち、胚様体(EB)を形成する前と後である。以下、その前段階(すなわち、胚様体が形成されるまでの間)を前処理期、後段階を分化誘導期と呼ぶ。また、分化誘導期のうち、特にその初期の段階でEBが形成される段階をEB形成期と呼ぶ。
【0049】
この前処理期においては、幹細胞を未分化状態に維持するために、該幹細胞の動物種に応じて通常用いられる条件下で培養することが好ましい。例えば、幹細胞がマウス由来のES細胞の場合には、培地中に100〜10000U/ml、好ましくは500〜2000U/ml濃度の白血病抑制因子(LIF)を添加することが好ましい。前処理期の培地中にLIFが含まれる場合には、前処理期からEB形成期への移行は、培地中に含まれるLIFを除去することによって行うことができる。前処理期の期間としては、特に限定はされないが、1〜5日間程度であればよく、3日間が好ましい。
【0050】
前処理期において、BMP−5は培地に添加しないことが好ましい。これによって、後述の実施例にも示されるように、より効率よく心筋細胞を製造することができる。
【0051】
前処理期の後、培地からLIFを除去することで分化誘導を開始することができる。分化誘導を開始する際の培地(分化培地)としては、10%FBSを含むα−MEM(製造元:インビトロジェン株式会社 Base Cat. No.:12571)等を用いることが好ましい。このような培地に、幹細胞を播種することによって分化誘導が始まり、EBが形成される。
【0052】
分化誘導開始から1〜2日経過してEBが形成された後(つまり、EB形成期の後)、該EBは培養プレート(培養容器)上に調製された平面培地上に播種し、平面培養されることが好ましい。これによれば、EBにより形成された三胚葉(外・中・内胚葉)の中胚葉から心筋前駆細胞が形成されるという効果が得られる。なお、EB形成時の懸濁液中の細胞密度は、300細胞/滴以上であることが好ましく、450細胞/滴程度であることがより好ましい。また、この平面培養では、培養プレートに播種後5〜20日間、好ましくは7〜15日間、37℃で5%の二酸化炭素を通気した条件下で培養する。
【0053】
また、分化誘導期においては、EB形成期から1〜2日間BMP−5を添加することが好ましく、EB形成期から1日間BMP−5を添加することがより好ましい。さらに、BMP−5は、培地に対して0.2〜50ng/mlの濃度で添加することが好ましく、0.2〜1.0ng/mlの濃度で添加することがより好ましい。
【0054】
上記のような製造方法でES細胞の培養を行なえば、分化誘導開始から約10日経過後において、培養されたEBのうち自律拍動性を有する心筋細胞を90%以上の高い割合で得ることができる。
【0055】
なお、本発明の心筋細胞の製造方法は、上記したような胚様体形成後に平面培養を行う方法に限定されることなく、他の培養方法でも実施することができる。他の培養方法としては、浮遊凝集培養法、フィーダー細胞との共培養法などを挙げることができる。但し、共培養法では、ES細胞以外の細胞(例えば、フィーダー細胞、線維芽細胞)は心筋細胞には分化せず、結果として最終分化した心筋細胞の純度を下げることになること、および、フィーダー細胞を適切な条件下に維持するために一定の技術を要することなどから、平面培養を採用することが好ましい。平面培養を採用することによって、作成した各胚様体の自律拍動頻度を定量しやすいという効果、および、発現する心筋マーカーの遺伝子発現量やタンパク量を個々に定量化できるという効果も得られる。
【0056】
浮遊凝集培養法の場合、単一細胞状態(酵素消化等を施すことで細胞同士の接着がない個々の細胞が液相中で分散した状態)とした幹細胞を、好ましくは、培地に2.0×104細胞/ml〜1.6×105細胞/ml、より好ましくは4.0×104〜1.0×105細胞/mlの細胞密度になるように懸濁し、培養プレートに播種後、5〜15日間、好ましくは8〜12日間、37℃で5%の二酸化炭素を通気した条件下で培養する方法を挙げることができる。この場合のBMP−5の添加濃度および添加期間も、平面培養する場合に好ましい添加濃度および添加期間を採用することが好ましい。
【0057】
また、フィーダー細胞との共培養法を用いる場合、フィーダー細胞としては、特に限定はされないが、好ましくは間葉系細胞の性質を有した細胞、さらに好ましくはST2細胞、OP9細胞、PA6細胞などの骨髄ストローマ細胞様の形質を有する細胞が挙げられる。これらのフィーダー細胞を高密度培養後、マイトマイシンC処理、または放射線照射などの方法により、フィーダー化し、その上に1細胞/ml〜1×106細胞/ml、好ましくは100細胞/ml〜1×105細胞/ml、より好ましくは1×103細胞/ml〜1×104細胞/mlの細胞密度になるように培地中に懸濁した単一細胞状態の幹細胞を播種後、4〜30日間、好ましくは6〜15日間、37℃で5%の二酸化炭素を通気した条件下にて培養することができる。この場合のBMP−5の添加濃度および添加期間も、平面培養する場合に好ましい添加濃度および添加期間を採用することが好ましい。
【0058】
上述したような本発明の心筋細胞の製造方法によれば、従来の分化誘導方法と比較して高率かつ選択的に心筋細胞を得ることができるという効果が得られる。そのため、本発明にかかる方法によって得られた心筋細胞は、心疾患患者に対する移植用細胞として有用であり、心不全、心筋梗塞などの心疾患の治療に有効である。
【0059】
(2)本発明の分化誘導方法によって得られる心筋細胞
本発明の心筋細胞は、上述の本発明の製造方法によって製造されたものである。ここで、心筋細胞には、将来機能的な心筋細胞となり得る能力を有した心筋前駆細胞や、胎児型心筋細胞、成体型心筋細胞のすべての分化段階の細胞を含むものとする。そして、上述した少なくとも一つ、好ましくは複数の方法により、少なくとも一つ、好ましくは複数のマーカーや基準が確認できる細胞を心筋細胞と定義する。
【0060】
さらに、幹細胞の心筋細胞への分化を確認するために、生理学的基準も追加的に使用される。すなわち、幹細胞由来の細胞が、自律拍動性を有することや、各種イオンチャネルを発現しており電気生理的刺激に反応し得ることなども、その有効な指標となる。なお、本発明の製造方法によれば、培養されたEBのうち自律拍動性を有する心筋細胞を50%以上の高い割合で得ることができる。
【0061】
また、本発明の方法によって製造された心筋細胞は、高率かつ選択的に製造されたものであるため、下記(3)に示すように心疾患の治療薬等として有効利用することができる。
【0062】
(3)本発明の心筋細胞の用途
続いて、本発明にかかる方法によって製造された心筋細胞の用途について説明する。本発明の方法によって製造された心筋細胞は、心疾患状態にある心臓を治療するために利用することができる。ここで、心疾患としては、心筋梗塞、虚血性心疾患、うっ血性心不全、肥大型心筋症、拡張型心筋症、心筋炎、慢性心不全などが挙げられる。
【0063】
本発明の心筋細胞を心疾患の治療に用いる場合、その投与方法としては、開胸し注射器を用いて直接心臓に注入する方法、心臓の一部を外科的に切開して移植する方法、さらにはカテーテルを用いて経血管的に移植する方法などが挙げられるが、特にこれに限定されることはない。本発明の心筋細胞を、疾患を有する心臓組織に補充的に注入又は移植することによって、心機能の改善を促すことができる。
【0064】
また、本発明の方法によって製造された心筋細胞は、心疾患状態にある心臓への細胞移植にも用いることができる。この場合の移植方法としては、上記したような心臓の一部を外科的に切開して移植する方法、さらにはカテーテルを用いて経血管的に移植する方法、心電位をマッピングしながら心腔内から移植する方法などを採用することができる。
【0065】
また、本発明は、本発明の心筋細胞を有効成分として含有する心疾患の治療剤についても提供する。ここで、心疾患の治療剤の範疇には、機能の損なわれた心筋の再生剤をも含むものとする。本発明の心疾患の治療剤は、本発明の方法によって得られた心筋細胞を高純度(好ましくは、80〜100%)に含有するものであれば、その形状は特に限定されないが、細胞を培地などの水性担体に浮遊させたもの、細胞を生体分解性基質などの支持体に包埋したもの、あるいは単層又は多層の心筋細胞シート(Shimizuら、Circ.Res.90:e40,2002)に加工したものなど、あらゆる形状のものを採用することができる。
【0066】
(4)分化誘導剤
本発明の分化誘導剤は、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質を含み、心筋細胞への分化誘導を促進させるものである。胚性癌種細胞(EC細胞)とは、腫瘍中に含まれる胚様細胞(テラトカルシノーマ)であって、癌細胞ではあるが、未分化で分化全能性を有するもののことをいう。EC細胞の具体例としては、上述したマウス由来のP19.CL6、P19.CL6などが挙げられる。
【0067】
本発明の分化誘導剤に含まれる物質は、このEC細胞において、例えばDMSOを添加するなどして心筋細胞への分化を誘導した場合に、誘導開始から10日以内にその発現量が一時的に上昇するものである。つまり、当該物質は、初期心筋分化に必須の因子であり、分化誘導開始から7日頃に発現し始めるGATA−4よりも早い時期、または、GATA−4の発現量のピークと同時期に一時的に上昇するものである。なお、上記物質は、分化誘導開始から5〜7日目の間に一時的に発現量が上昇するものであることが好ましい。またあるいは、上記物質は、分化誘導開始から7〜10日目の間に一時的に発現量が上昇するものであってもよい。ここで、「一時的」とは、誘導開始から一旦その発現量が上昇した後低下することを意味する。
【0068】
本発明の分化誘導剤に含まれる物質は、BMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子、あるいは、sFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子であることが好ましい。
【0069】
本発明の分化誘導剤に含まれるBMP−5又はsFRP−5は、分化誘導を行う幹細胞が由来する種と同種の動物由来のものが好ましい。例えば、幹細胞としてマウス由来のES細胞又はEC細胞を使用して分化誘導を行う場合には、マウス由来のBMP−5又はsFRP−5を含む分化誘導剤を用いることが好ましい。
【0070】
マウス由来のBMP−5、マウス由来のsFRP−5、ヒト由来のBMP−5、ヒト由来のsFRP−5として具体的には、上述の「(1)心筋細胞の製造方法」において説明したものをそれぞれ挙げることができる。
【0071】
また、上記BMP−5には、上記したタンパク質のアミノ酸配列と60%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるタンパク質であり、かつ、心筋細胞への分化誘導を促進させるBMP−5関連タンパク質も含まれるものとする。
【0072】
また、上記sFRP−5には、上記したタンパク質のアミノ酸配列と60%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるタンパク質であり、かつ、心筋細胞への分化誘導を促進させるsFRP−5関連タンパク質も含まれるものとする。
【0073】
BMP−5およびsFRP−5は、自体公知の方法により調製することができる。
【0074】
また、本発明の分化誘導剤に含まれる物質は、BMP−5をコードする遺伝子またはsFRP−5をコードする遺伝子であってもよい。これらの遺伝子は、いかなる方法で得られるものであってもよい。
【0075】
本発明の分化誘導剤に含まれるこれらの遺伝子は、分化誘導を行う幹細胞が由来する種と同種の動物由来のものが好ましい。例えば、幹細胞としてマウス由来のES細胞又はEC細胞を使用して分化誘導を行う場合には、マウス由来のBMP−5又はsFRP−5をコードする遺伝子を含む分化誘導剤を用いることが好ましい。
【0076】
マウス由来のBMP−5をコードする遺伝子、マウス由来のsFRP−5をコードする遺伝子、ヒト由来のBMP−5をコードする遺伝子、ヒト由来のsFRP−5をコードする遺伝子として具体的には、上述の「(1)心筋細胞の製造方法」において説明したものをそれぞれ挙げることができる。
【0077】
ここで、「実質的になるDNA」とは、上記特定の塩基配列からなるDNAに加えて、ストリンジェントな条件において、上記の特定塩基配列からなるDNAとハイブリダイズし得る塩基配列からなるDNAを意味する。
【0078】
本発明の分化誘導剤に含まれる物質が遺伝子である場合、該遺伝子は発現可能な状態で剤中に含まれることが好ましい。すなわち、上記遺伝子は、適当な発現ベクターに組み込まれた状態で分化誘導剤に含まれることが好ましい。当該発現ベクターは、分化誘導対象となる例えば哺乳動物由来の幹細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、幹細胞で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。
【0079】
発現ベクターとしては、プラスミドまたはウイルスベクターが使用可能であるが、ヒト等の哺乳動物由来の幹細胞に使用する場合に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0080】
なお、本発明の分化誘導剤には、BMP−5、sFRP−5、またはこれらの何れかのタンパク質をコードする遺伝子の他に、心筋細胞への分化を促進する他の因子、あるいは、任意の担体が含まれていてもよい。この他の因子としては、心筋細胞への分化促進因子として従来から知られている、Noggin、BMP−2、BMP−4などが挙げられる。また、BMP−5、sFRP−5、及びこれらの何れかのタンパク質をコードする遺伝子を適宜組み合わせて分化誘導剤に含有してもよい。
【0081】
なお、分化誘導剤が他の因子および担体を含む場合には、当該剤の有効成分である上述の物質の含有量は、心筋細胞への分化誘導促進機能を発揮できる量であれば特に限定はされない。例えば、当該物質がBMP−5である場合には、培地へ添加した際の濃度が0.2〜50ng/mlとなることが好ましく、0.2〜1.0ng/mlとなることがより好ましい。
【0082】
本発明の分化誘導剤を用いて幹細胞から心筋細胞への分化誘導を行う方法については、上述の「(1)心筋細胞の製造方法」において説明した方法を適用することができる。具体的には、本発明の分化誘導剤を添加した培地における幹細胞の培養、本発明の分化誘導剤を導入した幹細胞の培養、本発明の分化誘導剤を作用させたフィーダー細胞と幹細胞との共培養などによって、幹細胞から心筋細胞への分化誘導を行うことができる。
【0083】
本発明の分化誘導剤を用いて幹細胞の培養を行えば、従来の分化誘導促進物質を添加した場合と比較して、より高い割合で拍動性を有する心筋細胞を得ることができる。つまり、本発明の分化誘導剤によれば、高率かつ選択的に心筋細胞への分化を誘導することができる。
【0084】
(5)心筋細胞への分化阻害剤
本発明の心筋細胞への分化阻害剤は、BMP−5、sFRP−5のうちの少なくとも何れかの発現または機能を抑制する物質(以下、該物質を抑制物質と呼ぶ)を含むものである。
【0085】
抑制物質は、BMP−5またはsFRP−5の発現を抑制する物質(以下、該物質を発現抑制物質と呼ぶ)であり得る。発現抑制物質は、BMP−5またはsFRP−5の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化及び蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。
【0086】
発現抑制物質の例は、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子の転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物に対するアンチセンス核酸である。アンチセンス核酸とは、標的mRNA(初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNA(初期転写産物)とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNA(初期転写産物)にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。さらに、アンチセンス核酸は、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子の転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAと結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0087】
発現抑制物質のさらに別の例は、RNAi誘導性核酸である。RNAi誘導性核酸とは、細胞内に導入されることにより、RNAi効果を誘導し得る核酸をいい、好ましくはRNAである。RNAi効果とは、mRNAと同一のヌクレオチド配列(又はその部分配列)を含む2本鎖構造のRNAが、当該mRNAの発現を抑制する現象をいう。RNAi効果を得るには、例えば、少なくとも20以上の連続する標的mRNAと同一のヌクレオチド配列(又はその部分配列)を有する2本鎖構造のRNAを用いることが好ましい。2本鎖構造は、異なるストランドで構成されていてもよいし、一つのRNAのステムループ構造によって与えられる2本鎖であってもよい。RNAi誘導性核酸としては、たとえばsiRNA、stRNA、miRNAなどが挙げられる。
【0088】
発現抑制物質の他の例は、ターゲティングベクターである。本発明で用いられるターゲティングベクターは、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子の相同組換えを誘導し得るBMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチド、並びに選択マーカーを含む。第一及び第二のポリヌクレオチドは、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性および長さを有するポリヌクレオチドである。第一及び第二のポリヌクレオチドは、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子を含むゲノムDNAにおいて、第一及び第二のポリヌクレオチドに対して相同な2つの領域の間に存在するゲノムDNA部分領域が欠失すると、当該遺伝子の機能的欠損がもたらされるように選択される。選択マーカーとしては、ポジティブ選択マーカー(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子)、ネガティブ選択マーカー(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子)などが挙げられる。ターゲティングベクターは、ポジティブ選択マーカー、ネガティブ選択マーカーのいずれか一方、又は両方を含むことができる。
【0089】
抑制物質の他の例としては、BMP−5またはsFRP−5の機能を抑制する物質が挙げられる。BMP−5またはsFRP−5の機能を抑制する物質としては、BMP−5またはsFRP−5の作用を妨げ得る物質である限り特に限定されないが、BMP−5またはsFRP−5に対する抗体、BMP−5またはsFRP−5のドミナントネガティブ変異体、これらをコードする核酸を含む発現ベクターが例示される。
【0090】
本発明の分化阻害剤は、上記の抑制物質に加え、任意の担体、例えば試薬上許容され得る担体を含むことができる。本発明の分化阻害剤は、幹細胞から心筋細胞への分化を阻害するため、心筋細胞への分化のメカニズムを解明するための研究用試薬等として利用することができる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
〔実施例1−1〕
P19.CL6細胞をα−MEM(10%FBSを含む)培地で10cmプレートにて付着培養を行い、剥離(0.05% Trypsine−1mM EDTA、3分間)・播種(40倍希釈)を繰り返し継代培養した。3回目の継代培養後、細胞を剥離し、1×104細胞/ml濃度で2mlのα−MEM(10%FBS、1%DMSOを含む)培地中にて14日間、培地交換を一日毎に行い分化誘導培養を行った。
【0093】
図1および図3に示した各日数で培養液を除き、細胞を1ml PBSで2回洗浄後、1.5mlチューブに移し、2500回転、1分間の遠心操作で細胞を回収した。回収した細胞に1ml Trizolを加え細胞を破砕し、RNAを60%イソプロパノールで精製した。精製した全RNA25gをDNaseI酵素で37℃、15分間処理しゲノムDNAを除去した後、逆転写酵素Superscript II RTを用いて、cDNAを合成した。合成したcDNAを用いて定量RT−PCRを行い、GATA−4、BMP−5の発現量を定量した。具体的には、合成したcDNAの50分の1量にSybr Green 12.5μl(ABI)と2μMプライマー混合液2.5μlを混合して、PRISM7000(ABI)を用いて定量RT−PCR反応を行った。
【0094】
使用したプライマーは以下の通りである。
GATA−4;5’側 GGAAGACACCCCAATCTCGAT(配列番号1)、
3’側 GGCCCCACAATTGACACACT(配列番号2)
BMP−5;5’側 GGAGCGGCTGGGTTCAA(配列番号3)、
3’側 AAAACTGGAGTGAACGTGATTGTC(配列番号4)
sFRP−5;5’側 TGTGCCCAGTGTGAGATGGA(配列番号5)
3’側 GCGCATCTTGACCACAAAGTC(配列番号6)
各遺伝子発現量は、ハウスキーピング遺伝子GAPDH(プライマー;5’側 GGAGCGAGACCCCACTAACA(配列番号7)、3’側 GCCTTCTCCATGGTGGTGAA(配列番号8))の発現量で基準化した。
【0095】
結果を図1および図3に示す。図1(a)および(b)に示すように、心筋分化細胞P19.CL6を分化誘導剤DMSOで分化誘導し、BMP−5の経時的発現を定量解析したところ、初期心筋分化に必須なGATA−4の発現が生じ始める(Day7)よりも早い段階(Day5〜7)に一過的に上昇する発現パターンが確認された。また、図3(a)および(b)に示すように、心筋分化細胞P19.CL6を分化誘導剤DMSOで分化誘導し、sFRP−5の経時的発現を定量解析したところ、初期心筋分化に必須なGATA−4の発現開始からピークになる(Day7〜10)と同時期に発現が活性化された。
【0096】
〔実施例1−2〕
マウスU6プロモーターの下流にBamHI及びHindIII制限酵素サイトを、MLUVレトロウイルスベクターに導入したDNA断片を挿入したsiRNAベクターを構築し、BMP−5およびsFRP−5のsiRNAを発現させるために、次に示す合成オリゴマーを二重鎖にして上述の制限酵素サイトにクローニングした。
【0097】
BMP−5 siRNA−1
5’側 GATCCTTTATGCTGGATCTCTACAATTTCAAGAGAATTGTAGAGATCCAGCATAAAGTTTTTT(配列番号9)
3’側 AGCTAAAAAACTTTATGCTGGATCTCTACAATtctcttgaaATTGTAGAGATCCAGCATAAAG(配列番号10)
BMP−5 siRNA−2
5’側 GATCGCTGTGCTCCAACCAAACTAAttcaagagaTTAGTTTGGTTGGAGCACAGCTTTTTT(配列番号11)
3’側 AGCTAAAAAAGCTGTGCTCCAACCAAACTAAtctcttgaaTTAGTTTGGTTGGAGCACAGC(配列番号12)
sFRP−5 siRNA
5’側 GATCGCTGTGCTCCAACCAAACTAAttcaagagaTTAGTTTGGTTGGAGCACAGCTTTTTT(配列番号13)
3’側 AGCTAAAAAACAAGAAGCTGGTCCTGCATATTCTCTTGAAATATGCAGGACCAGCTTCTTG(配列番号14)
【0098】
siRNA発現レトロウイルスを作成するため、293T細胞を3.5×105細胞/mlで6穴プレートに播種して、37℃、5%二酸化炭素通気下で培養した。24時間後、siRNAレトロウイルスベクターDNA2μg、Gag/Pol DNA0.5μg、VSV−G DNA0.5μgを100μl Opti−MEM、10μl FuGene6混合液に加えて、293T細胞に遺伝子導入した。24時間後、培養上清を除き、1ml α−MEM(10% FBS)を加え、24時間培養してレトロウイルスを産生させた。レトロウイルスを含む細胞上清にα−MEM(10% FBS)1mlと4mg/ml polybrene 2μlを混合し、0.45μmフィルターを通したウイルス液を1×104細胞/mlで播種したP19.CL6細胞に加え24時間、37℃、5%二酸化炭素通気下でウイルス感染させた。
【0099】
感染後、ウイルス液を除き、2μg/ml puromycinを含むα−MEM(10% FBS)2ml選択培地で4日間培養して、siRNAレトロウイルスが感染したP19.CL6細胞を選択した。薬剤選択後、直ちにsiRNA発現P19.CL6細胞を1%DMSOで分化誘導を行った。siRNA発現P19.CL6細胞のDMSO添加による分化誘導、並びに、定量RT−PCRによる遺伝子発現解析は実施例1−1と同様の方法で行った。定量RT−PCRに用いた各遺伝子プライマー配列は次の通りである。
【0100】
Nkx2.5
5’側 CGGGCGGATAAAAAAGAGCT(配列番号15)
3’側 CCATCCGTCTCGGCTTTGT(配列番号16)
α−MHC
5’側 GCTGACAGATCGGGAGAATCAG(配列番号17)
3’側 GCTGGCAAAGTACTGGATGACA(配列番号18)
α−actin
5’側 GTCTCTGTATGCTTCTGGAAGA(配列番号19)
3’側 CTCATAGATGGGAACATTATGAGTT(配列番号20)
【0101】
単離したBMP−5遺伝子が心筋分化に対してどの様な効果を有するかを明らかにするために、遺伝子活性を抑制するsiRNAを発現するレトロウイルスベクターを構築し、BMP−5またはsFRP−5のsiRNA レトロウイルスベクターをP19.CL6細胞に導入した。その結果、図2(a)に示すように、BMP−5 siRNA−2を発現するP19.CL6細胞は、DMSO分化誘導時にBMP−5の83%の活性を失っていた。このP19.CL6細胞を分化誘導すると、心筋分化マーカー遺伝子(GATA−4(図2(b)参照)、Nkx2.5(図2(c)参照)、α−MHC(図2(d)参照)、α−actin(図2(e)参照))の発現が著しく抑制され、BMP−5が各心筋遺伝子の発現を制御していることが確認できた。
【0102】
また、図4(a)に示すように、sFRP−5 siRNAを発現するP19.CL6細胞は、DMSO分化誘導時にsFRP−5の94%の活性を失っていた。sFRP−5が発現低下したP19.CL6細胞を分化誘導すると、心筋分化マーカー遺伝子(GATA−4(図4(b)参照)、Nkx2.5(図4(c)参照)、α−MHC(図4(d)参照)、α−actin(図4(e)参照))発現の50〜60%が抑制された。これにより、sFRP−5が各心筋遺伝子の発現を制御していることが明らかになった。
【0103】
〔実施例2〕
レンチウイルスベクターに、PGKプロモーターとその下流にBMP−5完全長cDNAを導入した過剰発現ベクターを構築した。レンチウイルスを作成するため、293T細胞を3.5×105細胞/mlで6穴プレートに播種して、37℃、10%二酸化炭素通気下で培養した。24時間後、レンチベクターDNA 2.1μg、Gag/Pol DNA 1.5μg、VSV−G DNA 0.9μg、REV DNA 0.6μgをOpti−MEM 100μl、FuGene6 10μl混合液に加えて、24時間、37℃、3%二酸化炭素通気下の培養で293T細胞に遺伝子導入した。
【0104】
培養上清を除き、α−MEM(10% FBS)1mlを加え、48時間、37℃、10%二酸化炭素通気下で培養してレンチウイルスを産生させた。レンチウイルスを含む細胞上清にα−MEM(10% FBS)1mlと4mg/ml polybrene 2μlを混合し、0.45μmフィルターを通したウイルス液を1×104細胞/mlで播種したP19.CL6細胞に加え、24時間、37℃、5%二酸化炭素通気下でウイルス感染させた。
【0105】
感染後、ウイルス液を除き、1μg/ml puromycinを含むα−MEM(10% FBS)2ml選択培地で4日間培養して、レンチウイルスが感染したP19.CL6細胞を選択した。樹立したBMP−5過剰発現P19.CL6細胞をDMSO非添加α−MEM(10% FBS)2mlで培養し、形態変化を光学顕微鏡で観察、さらに、心筋構造タンパク質の細胞免疫染色法にて心筋分化を調べた。
【0106】
細胞免疫染色を実施するために、細胞をPBS 1mlで2回洗浄後、2%パラホルムアルデヒド−PBS 1mlで20分間固定した後、PBS洗浄を3回行い、0.2% Triton X100−PBSで15分間、抗体透過処理を行った。そして、3% BSA−PBSで30分間、非特異的抗体吸着を抑制した後、マウス抗α−MHC抗体(200倍希釈:NeoMarkers)で1時間、一次抗体反応を行った。PBS洗浄を3回行った後、Alexa546−抗マウスIgG抗体(500倍希釈:Molecular Probe)で1時間、二次抗体反応を行い、過剰の抗体をPBSで洗浄した。細胞の核染色はHoechst33342(1000倍希釈)−PBSで10分間反応後、PBS洗浄を3回行った。抗体反応後の蛍光シグナルは蛍光顕微鏡(Olympus BX71)を用いて行った。
【0107】
図5(a)には、BMP−5過剰発現P19.CL6細胞を光学顕微鏡にて観察した結果を示す。この図から、BMP−5過剰発現P19.CK6細胞は分化誘導剤DMSO非存在下で細胞質及び核が肥大化し、心筋様細胞と類似した形態を示したことがわかる。これらの細胞が心筋細胞であることを確かめるために、BMP−5過剰発現P19.CK6細胞について、心筋構造タンパク質α−MHC抗体を用いて免疫染色を行った。その結果を図5(b)に示す。この図に示すように、BMP−5過剰発現細胞では、α−MHCが発現していることがわかった。この結果から、BMP−5は心筋分化に必須な構造タンパク質の発現誘導を促進する遺伝子であることが明らかになった。
【0108】
〔実施例3〕
マウスES細胞EB5をG−MEM(10%KDR、1000U/ml LIF、50μg/ml Blasticidineを含む)培地で0.1%gelatin処理した10cmプレートにて未分化付着培養を行い、剥離(0.25% Trypsine−1mM EDTA、5分間)・播種(10倍希釈)を繰り返し継代培養した。
【0109】
2回目の継代培養後、細胞を剥離し、0.1%gelatin処理した6穴プレートにてG−MEM(10%KDR、1000U/ml LIF、50μg/ml Blasticidineを含む)培地2mlで2日間未分化培養した。その後、細胞を再び剥離し、15mlチューブに細胞液を移し、800g、4分間遠心操作を行い、α−MEM(10%FBSを含む)培地に懸濁した。剥離した細胞を3×104細胞/ml細胞濃度に調整し、細胞液を15μlずつ培養皿の上蓋にスポットし(60〜70個)、懸濁した細胞滴が下になるように上蓋の向きを返して、培養プレートの下皿に載せて37℃、5%二酸化炭素通気下で1日間、胚様体形成培養を行った。0.1%gelatin処理した96穴プレートの各ウェルにα−MEM(10%FBSを含む)100μlを入れて、1mlチップで各胚様体を1個ずつ移し、α−MEM(10%FBSを含む)培地交換を一日毎に行い付着培養にて分化誘導培養を15日間行った。
【0110】
BMP−5(R&D System)の添加時期の検討は、次の6条件で行った。即ち、(1)未分化培養2日間のみに添加、(2)未分化状培養2日間と胚様体形成期1日間、(3)未分化状培養2日間と胚様体形成期1日間とそれに続くEB付着培養1日間、(4)胚様体形成期1日間のみ、(5)胚様体形成期1日間とEB付着培養1日間、(6)胚様体形成期1日間とEB付着培養2日間、である。図6には、上記6条件での分化誘導培養の工程を模式的に示す。なお、図中では、上記(1)〜(6)の各条件を丸付き数字で示している。
【0111】
BMP−5によるES細胞分化誘導に及ぼす濃度効果は、上記のES分化系に濃度0.2、1、10、50、500ng/mlで細胞培養液に添加して行った。対照実験としてBMP−2、BMP−4、及びNoggin(R&D System)を投与した。BMP−2、BMP−4の投与時期は、BMP−5と同様に胚様体形成期の懸滴培養1日間である。Nogginは未分化培養時の2日間と胚様体形成時の1日間に150ng/mlで投与した。
【0112】
そして、これらの各条件で培養を行った細胞培養液について、拍動性EBの出現効率、心筋マーカーのタンパク量、心筋マーカーの遺伝子発現量の測定を行った。
【0113】
拍動性EBの出現効率は、BMP−5、BMP−2、BMP−4、及びNoggin処理と未処理EB、各々48個の自立拍動を光学顕微鏡下で経時的(付着培養後7〜13日)に観察し、全EB数に対する拍動性EB数の割合として算出した。
【0114】
心筋マーカーcardiac toloponin(cTnT)タンパク量は実施例2に記述した蛍光抗体による免疫染色法を行った後、蛍光強度を蛍光プレートリーダー(DTX880)で測定し、EB8個の蛍光強度の平均値とした。cTnTの免疫染色法には一次抗体にマウス抗cTnT抗体(200倍希釈:NeoMarkers)、二次抗体にAlexa−488抗マウスIgG抗体(500倍希釈:Molecular Probe)を用いた。
【0115】
心筋マーカー遺伝子の発現解析は、図11に示した日数でEB(n=8)をPBSで2回洗浄後、剥離したEBを4個ずつ1.5mlチューブに回収し、RNeasy MiniKit(QIAGEN)を用いて全RNAを抽出した。抽出した全RNA200〜400ngとExscript(TAKARA)を用いてcDNA合成を行った後、遺伝子発現量解析のためcDNAの10分の1量と2μMプライマー混合液2μl、Power Sybr Green(ABI)10μlを混和し、反応液20μlで定量RT−PCRを行った。定量RT−PCRに用いたcTnTプライマーは次の通りである。
【0116】
cTnT
5’側 TCCCTCAAAGACAGGATCGAA(配列番号21)
3’側 GCGGTTCTGCCTTTCCTTCT(配列番号22)
【0117】
図7A(a)〜(c)及び図7B(d)〜(f)には、ES心筋分化系に対してBMP−5(100ng/ml)を上記(1)〜(6)の各条件で添加し、自律(自立)拍動率(n=48)を付着培養後9〜13日の間で調べた結果を順に示す。なお、図7Aおよび図7Bでは、BMP−5処理を実線で、BMP−5未処理を破線で、Noggin処理を一点鎖線で示す。この図に示すように、BMP−5処理をした場合、いずれの条件でもBMP−5未処理のコントロールより自立拍動率が上昇した。
【0118】
添加条件(1)〜(3)では13日目で80%の自立拍動率を示し、添加条件(5)では13日目で80%以上の自立拍動率を示し、添加条件(4)では13日目で90%以上の自立拍動率を示した。この結果から、添加条件としては、添加条件(4)でES細胞を処理することが最も望ましいことが明らかになった。また、分化促進剤Nogginで効果が認められる添加条件(2)におけるBMP−5の投与効果は、Nogginと同等かそれ以上であり、BMP−5添加条件(4)での拍動促進効果は、Nogginによる効率を上回っていることが確認できた。
【0119】
続いて、添加条件(4)で最も心筋分化効率が促進されるBMP−5の濃度を決定した。その結果を図8Aおよび図8Bに示す。図8A(a)〜(c)及び図8B(d)〜(f)には、BMP−5の添加濃度を0.2ng/ml、1ng/ml、10ng/ml、50ng/ml、100ng/ml、500ng/mlとし、付着培養後7〜11日間、自律(自立)拍動率(n=48)を調べた結果を順に示す。なお、図8Aおよび図8Bでは、BMP−5処理を実線で、BMP−5未処理を破線で示す。
【0120】
図8Aおよび図8Bに示すように、0.2〜500ng/mlの範囲内のいずれの濃度においても、付着培養後11日目において、BMP−5未処理の自立拍動率よりも有意な促進効果が認められた。これらの濃度の中でも、0.2〜50ng/mlの濃度条件において、80%以上拍動率が促進されることが確認された。さらに、0.2〜1ng/mlの濃度条件においては、付着培養後7〜11日目すべてにおいて促進効果が認められ、かつ、11日目で90%以上の増強効果を有することが明らかになった。この結果から、BMP−5の添加濃度は、0.2〜50ng/mlが好ましく、0.2〜1ng/mlがより好ましいことがわかる。
【0121】
続いて、0.2〜500ng/mlのBMP−5の投与による分化促進効果を、cardiac Troponin(cTnT)タンパク質量を定量化して調べた。その結果を図9に示す。図9に示すように、0.2〜1ng/mlのBMP−5処理をした10日目のEBはBMP−5未処理(Control)に比べてcTnTタンパク量が2〜2.5倍亢進していることが確認できた。10〜50ng/mlのBMP−5処理でも有意な促進効果が認められた。
【0122】
続いて、BMP−5の促進効果と既知の心筋分化因子(BMP−2、BMP−4、Noggin)のそれとを比較検討した。0.2ng/ml及び100ng/mlのBMP−2、BMP−4、及びBMP−5と、150ng/mlのNogginの促進効率を、処理後4日目〜13日目にcTnT抗体で蛍光免疫染色して調べた結果を図10A、図10Bに示す。また、0.2ng/ml及び100ng/mlのBMP−2、BMP−4、又はBMP−5、あるいは、150ng/mlのNogginで処理後、4〜13日目にcTnTタンパク質を定量化(n=8)した結果を図11に示す。
【0123】
BMP−2、BMP−4、BMP−5の投与時期は、上述の添加条件(4)にて、また、Nogginは添加条件(2)にて行った。各因子の投与後7日目でcTnTの発現が認められるのは、0.2ng/ml BMP−5と100ng/ml BMP−2及びBMP−4処理EB群であり、投与後13日目でEB細胞の50%以上がcTnTポジティブの心筋細胞に分化していた。100ng/ml BMP−5ではBMP−5未処理と同程度の分化能しか示さなかった。同様の促進効果がcTnTタンパク質の定量解析でも認められ、0.2ng/ml BMP−5の投与後13日目でBMP−5未処理に比べてcTnTタンパク量が4倍亢進し、そのタンパク量は100ng/ml BMP−2及びBMP−4と同程度であったことから、BMP−5は既知の分化促進因子よりも低濃度で優れた分化誘導活性を有していることが明らかになった。
【0124】
また、上記と同濃度でのBMP−2、BMP−4、BMP−5の分化促進効果を、心筋マーカー遺伝子発現量の定量RT−PCRから解析した。0.2ng/ml BMP群を添加条件(4)にてEBに投与して、7日目の各心筋マーカー遺伝子(GATA−4、cTnT、α−MHC)の発現量を調べた結果を図12(a)〜(c)にそれぞれ示す。0.2ng/ml BMP−5処理によって、BMP−5未処理に比べてGATA−4遺伝子量で1.5倍、cTnT遺伝子量で8倍、α−MHC遺伝子量で5倍促進効果が認められた。同濃度のBMP−2、BMP−4に対して、BMP−5は各遺伝子発現の促進効果が有意に高いことが明らかになった。また、150ng/ml NogginによるcTnT、α−MHC発現促進率よりもBMP−5の促進効果が高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0125】
上述したように、本発明の心筋細胞の製造方法によれば、従来の分化誘導方法と比較して高率かつ選択的に心筋細胞を得ることができる。そして、本発明により得られる心筋細胞は、心疾患患者への細胞移植用に利用されるとともに、心疾患の治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】図1は、P19.CL6心筋分化誘導時におけるBMP−5の発現変化を示すグラフである(図1(a))。なお、比較のためにGATA−4の発現変化も併せて示す(図1(b))。
【図2】図2(a)は、BMP−5 siRNAによるBMP−5の発現量の変化を示すグラフであり、図2(b)〜(e)は、BMP−5 siRNAによる各心筋分化マーカーの発現変化を示すグラフである。
【図3】図3は、P19.CL6心筋分化誘導時におけるsFRP−5の発現変化を示すグラフである(図3(a))。なお、比較のためにGATA−4の発現変化も併せて示す(図3(b))。
【図4】図4(a)は、sFRP−5 siRNAによるsFRP−5の発現量変化を示すグラフであり、図4(b)〜(e)は、sFRP−5 siRNAによる各心筋分化マーカーの発現変化を示すグラフである。
【図5】図5(a)は、BMP−5過剰発現P19.CL6細胞を光学顕微鏡にて観察した結果を示す図である。図5(b)は、BMP−5過剰発現P19.CK6細胞を、心筋構造タンパク質α−MHC抗体を用いて免疫染色した結果を示す図である。
【図6】図6は、実施例3において行った分化誘導培養の工程を模式的に示す図である。
【図7A】図7A(a)〜(c)は、ES心筋分化系に対してBMP−5を図6に示す(1)〜(3)の各条件で添加し、自律(自立)拍動率を付着培養後9〜13日の間で調べた結果をそれぞれ示す図である。
【図7B】図7B(d)〜(f)は、ES心筋分化系に対してBMP−5を図6に示す(4)〜(6)の各条件で添加し、自律(自立)拍動率を付着培養後9〜13日の間で調べた結果をそれぞれ示す図である。
【図8A】図8A(a)〜(c)は、BMP−5の添加濃度を0.2ng/ml、1ng/ml、10ng/mlとした場合の心筋分化効率を調べた結果をそれぞれ示す図である。
【図8B】図8B(d)〜(f)は、BMP−5の添加濃度を50ng/ml、100ng/ml、500ng/mlとした場合の心筋分化効率を調べた結果をそれぞれ示す図である。
【図9】図9は、0.2〜500ng/mlのBMP−5の投与による分化促進効果を、cTnTタンパク質量を定量化して調べた結果を示す図である。
【図10A】図10Aは、0.2ng/ml及び100ng/mlのBMP−2、BMP−4、及びBMP−5と、150ng/mlのNogginの促進効率を、処理後4日目又は7日目にcTnT抗体で蛍光免疫染色して調べた結果を示す図である。
【図10B】図10Bは、0.2ng/ml及び100ng/mlのBMP−2、BMP−4、及びBMP−5と、150ng/mlのNogginの促進効率を、処理後10日目又は13日目にcTnT抗体で蛍光免疫染色して調べた結果を示す図である。
【図11】図11は、0.2ng/ml及び100ng/mlのBMP−2、BMP−4、又はBMP−5、あるいは、150ng/mlのNogginで処理後、4〜13日目にcTnTタンパク質を定量化した結果を示す図である。
【図12】図12(a)〜(c)は、0.2ng/ml BMP群を図6に示す添加条件(4)にてEBに投与して、7日目の各心筋マーカー遺伝子(GATA−4、cTnT、α−MHC)の発現量を調べた結果をそれぞれ示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋細胞の製造方法、該方法によって得られた心筋細胞、および、心筋細胞への分化を誘導する分化誘導剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に心筋細胞は、出生前は自律拍動しながら活発に細胞分裂を行っているが、出生直後よりその分裂能を喪失し、また未分化な前駆細胞を持つこともないため、心筋梗塞や心筋炎等の各種ストレスに曝されることにより心筋細胞が死滅すると喪失した心筋細胞は補充されることがないとされている。その結果、残存心筋細胞は代償性肥大により心機能を保とうとする。しかし、各種ストレスが持続し、その許容範囲を超えてしまうと、さらなる心筋細胞の疲弊、死滅を誘発して心機能の低下(すなわち、心不全)を呈するようになる。
【0003】
心不全の治療薬としては、従来、心筋の収縮力を増加させるジギタリス製剤やキサンチン製剤等の強心剤が使用されてきたが、これらの薬剤の長期投与は、心筋エネルギーの過剰消費のため、病態を悪化させることが知られている。また最近では、交感神経系やレニン−アンジオテンシン系の亢進による過剰な心臓負荷を軽減するβ遮断薬やACE阻害薬による治療が主流になってきているが、これらは対症的治療法に過ぎず、傷害を受けた心組織そのものを回復させるものではない。これに対し、心臓移植は重症心不全に対する根本的な治療法であるが、臓器提供者の不足や医療倫理、患者の肉体的・経済的負担の重さ等の問題から本法を一般的な治療法として頻用することは困難である。
【0004】
そのため、衰弱又は失われた心筋細胞を補充的に移植する方法が、心不全の治療に極めて有用であると考えられる。心筋細胞の移植を行うためには、心筋細胞を取得することが必要となる。そこで、心筋細胞を未分化な幹細胞から分化誘導し、これを移植用細胞として利用する方法が近年、特に注目されている。現在のところ、成体心組織中に心筋細胞を産生し得る前駆細胞もしくは幹細胞として明らかに同定できる細胞集団は見出されていないため、上記の方法を実施するためには、より未分化で多彩な分化能を有している多能性幹細胞の使用が考えられる。この多能性幹細胞としては、例えば胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)などが挙げられる。
【0005】
しかし、ES細胞又はEG細胞などから形成された胚様体(EB)からは、心筋細胞以外に血球系細胞、血管系細胞、神経系細胞、腸管系細胞、及び骨・軟骨細胞などの別種の細胞が混在して発生するため、多能性幹細胞に由来する心筋細胞を細胞移植治療などの目的のために使用する際の大きな問題となる。さらに、これらの分化した細胞の中で心筋細胞が占める割合は、全体の5〜20%程度に過ぎず、心筋細胞への分化効率が低いことも問題となる。
【0006】
別種の細胞が混在している中から、心筋細胞のみを選択的に選別する方法としては、ES細胞の遺伝子に人為的な装飾を加え、薬剤耐性もしくは異所性発現能を付与することにより、心筋細胞又はその前駆細胞としての形質を有する細胞を回収する方法が挙げられる。しかし、この方法では心筋細胞の純度は高くなるものの、最終的に得られる心筋細胞数は全細胞数の数パーセント程度に過ぎず、移植治療に必要な心筋細胞を得るのは容易なことではない。
【0007】
そこで、ES細胞から心筋細胞を高率に分化誘導する方法として、ヒトES細胞を5−アザシチジンで処理する方法が報告されている(非特許文献1参照)。この方法によれば、EB中のトロポニンI陽性(心筋)細胞が15%から44%に増加することが報告されているが、それでも心筋細胞の占める割合がEB中の50%を越えることはない。
【0008】
これ以外にも、ES細胞から心筋細胞をより高率に発生させる方法として、例えば、マウスES細胞では、レチノイン酸(非特許文献2参照)、アスコルビン酸(非特許文献3参照)、TGFβ、BMP−2(非特許文献4参照)、BMP−4(非特許文献5参照)、PDGF(非特許文献6参照)、又はDynorphin B(非特許文献7参照)を添加したり、あるいは、細胞内の活性酸素種(ROS)(非特許文献8参照)やCa2+(非特許文献9参照)を増加させる処理を行ったりする方法が知られている。また、特許文献1には、マウスES細胞の培養において、BMPのシグナル伝達を抑制する物質を添加することによって、心筋細胞を選択的かつ高率に産生することができることが開示されている。しかし、これらの何れの方法を用いても、心筋細胞の産生効率は依然として満足できるほどは上昇しない。
【0009】
また、上記以外にも、組織幹細胞(SP細胞、Sca1+細胞、isl1細胞など)をin vitroでフィーダー細胞と共培養することによって心筋細胞の分化誘導を行う方法が知られている。例えば、非特許文献10には、マウス胚線維芽細胞(MEF)をフィーダーとして、ヒトES細胞から心筋分化を行ったことが記載されている。また、非特許文献11には、マウスES細胞にOP9をフィーダーとして用いた心筋分化系について記載されている。しかしながら、この方法でも心筋細胞の産生効率を満足できる程度に上昇させることはできない。
【0010】
【特許文献1】国際公開第05/033298号パンフレット
【非特許文献1】Chunhuiら、「サーキュレーション・リサーチ」(“Circ.Res.”)、91:508.2002
【非特許文献2】Wobusら、「ジャーナル・オブ・モレキュラー・アンド・セルラー・カージオロジー」(“J.Mol.Cell.Cardiol.”)、29:1525、1997
【非特許文献3】Takahashiら、「サーキュレーション」(“Circulation”)、107:1912、2003
【非特許文献4】Behfarら、「FASEBジャーナル」(“FASEB J.”)、16:1558、2002
【非特許文献5】Schultheiss ら,「ジーンズ・アンド・ディベロプメント」(“Genes and Dev.”),11(4),451,1997
【非特許文献6】Sachinidisら、「カージオバスキュラー・リサーチ」(“Cardiovasc.Res.”)、58:278、2003
【非特許文献7】Venturaら、「サーキュレーション・リサーチ」(“Circ.Res.”)、92:623、2003
【非特許文献8】Sauerら、「FEBSレターズ」(“FEBS Lett.”)、476:218、2000
【非特許文献9】Liら、「ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー」(“J.Cell.Biol.”)、158:103、2002
【非特許文献10】Mummeryら,「サーキュレーション」 (“Circulation”),107:2733,2002
【非特許文献11】Schroederら,「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ジ・ユナイテッド・オブ・アメリカ」(“Proc.Natl.Acad.Sci.USA”),100:4018,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、未分化な幹細胞をより高率かつ選択的に心筋細胞へと分化誘導する方法を提供するとともに、この方法によって得られた心筋細胞の利用方法などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の目的を達成するために、胚性癌種細胞(EC細胞)における心筋細胞への分化誘導時に発現量が増加する遺伝子の探索を行うことで、幹細胞から心筋細胞への分化誘導を促進させる候補分子の特定を行った。その結果、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導時に発現量が一時的に上昇する物質、具体的には、BMP−5又はsFRP−5が幹細胞から心筋細胞への分化誘導を顕著に促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下の通りである。
〔1〕幹細胞から心筋細胞を分化誘導することにより心筋細胞を製造する方法であって、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質の作用下で幹細胞の培養を行うことを含む方法。
〔2〕上記物質がBMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子である、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕上記物質がsFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子である、上記〔1〕に記載の方法。
〔4〕幹細胞が胚性幹細胞である、上記〔1〕に記載の方法。
〔5〕幹細胞が胚性癌種細胞である、上記〔1〕に記載の方法。
〔6〕幹細胞が哺乳動物由来である、上記〔1〕に記載の方法。
〔7〕幹細胞の培養において胚様体を形成する工程を含む、上記〔1〕に記載の方法。
〔8〕胚様体が形成されるまでの間、培地に白血病抑制因子を添加する、上記〔7〕に記載の方法。
〔9〕胚様体形成後の幹細胞の培養が、培養容器上での平面培養によって行われる、上記〔7〕に記載の方法。
〔10〕幹細胞の培養において胚様体を形成する工程を含む、上記〔2〕に記載の方法。
〔11〕胚様体形成期から1〜2日間BMP−5を添加する、上記〔10〕に記載の方法。
〔12〕胚様体形成期からBMP−5を0.2〜1.0ng/mlの濃度で培地に添加する、上記〔11〕に記載の方法。
〔13〕上記〔1〕〜〔12〕の何れかに記載の方法によって製造された心筋細胞を含有してなる、心疾患の治療剤。
〔14〕胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質を含む、心筋細胞の分化誘導剤。
〔15〕上記物質がBMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子である、上記〔14〕に記載の分化誘導剤。
〔16〕上記物質がsFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子である、上記〔14〕に記載の分化誘導剤。
〔17〕BMP−5、sFRP−5のうちの少なくとも何れかの発現または機能を抑制する物質を含む、心筋細胞への分化阻害剤。
〔18〕発現または機能を抑制する物質が、アンチセンス核酸、RNAi誘導性核酸、ターゲティングベクター、及び抗体からなる群より選ばれる、上記〔17〕に記載の分化阻害剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明の心筋細胞の製造方法によれば、従来の分化誘導方法と比較して高率かつ選択的に心筋細胞を得ることができるという効果が得られる。なお、ここで、「高率」とは、心筋細胞に高い効率で分化することを意味し、「選択的」とは、心筋細胞以外の細胞にはなりにくいことを意味する。また本発明により得られる心筋細胞は、心疾患患者への細胞移植用に利用されるとともに、心疾患の治療剤として有用である。さらに、本発明の分化誘導剤によれば、高率かつ選択的に心筋細胞への分化を誘導することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
【0016】
(1)心筋細胞の製造方法
本発明の心筋細胞の製造方法は、幹細胞から心筋細胞を分化誘導することにより心筋細胞を製造する方法であって、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質の作用下で幹細胞の培養を行うことを特徴とするものである。つまり、当該物質は、初期心筋分化に必須の因子であり、分化誘導開始から7日頃に発現し始めるGATA−4よりも早い時期、または、GATA−4の発現量のピークと同時期に一時的に上昇するものである。なお、上記物質は、分化誘導開始から5〜7日目の間に一時的に発現量が上昇するものであることが好ましい。またあるいは、上記物質は、分化誘導開始から7〜10日目の間に一時的に発現量が上昇するものであってもよい。
【0017】
本明細書において、心筋細胞とは、将来、機能的な心筋細胞となり得る能力を有した心筋前駆細胞や、胎児型心筋細胞、成体型心筋細胞のすべての分化段階の細胞を含み、以下に記載する少なくとも一つ、好ましくは複数の方法により、少なくとも一つ、好ましくは複数のマーカーや基準が確認できる細胞と定義する。
【0018】
心筋細胞に特異的な種々のマーカーの発現は、従来の生化学的又は免疫化学的手法により検出される。その方法は特に限定されないが、好ましくは、免疫化学的染色法や免疫電気泳動法などの免疫化学的手法が使用される。これらの方法では、心筋前駆細胞又は心筋細胞に結合するマーカー特異的ポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体を使用することができる。個々の特異的マーカーを標的とする抗体は市販されており、容易に入手することが可能である。心筋前駆細胞又は心筋細胞に特異的なマーカーとしては、例えば、ミオシン重鎖/軽鎖、α−actin、トロポニンI、ANP、GATA−4、Nkx2.5、MEF−2c等が挙げられる。
【0019】
あるいは、心筋前駆細胞又は心筋細胞特異的マーカーの発現は、特にその手法は問わないが、逆転写酵素介在性ポリメーラーゼ連鎖反応(RT−PCR)やハイブリダイゼーション分析といった、任意のマーカータンパク質をコードするmRNAを増幅、検出、解析するための従来から頻用される分子生物学的手法により確認できる。心筋前駆細胞又は心筋細胞に特異的なマーカー(例えば、ミオシン重鎖/軽鎖、α−actin、トロポニンI、ANP、GATA−4、Nkx2.5、MEF−2c)タンパク質をコードする核酸配列は既知であり、ジェンバンク(GenBank)のような公共データベースにおいて利用可能であり、プライマー又はプローブとして使用するために必要とされるマーカー特異的配列を容易に決定することができる。
【0020】
さらに、幹細胞の心筋細胞への分化を確認するために、生理学的基準も追加的に使用される。すなわち、幹細胞由来の細胞が、自律拍動性を有することや、各種イオンチャネルを発現しており電気生理的刺激に反応し得ることなども、その有効な指標となる。
【0021】
本発明の心筋細胞の製造に用いられる幹細胞としては、少なくとも試験管内培養下で心筋細胞様形質を有する細胞に分化し得る性質を有した未分化細胞であればよい。この幹細胞としては、適当な条件下において三胚葉(外胚葉、中胚葉、および内胚葉)全ての系譜の細胞に分化する能力を有する多能性幹細胞が好ましい。
【0022】
多能性幹細胞としては、既に培養細胞として広く使用されているマウス、サル、ヒト等の哺乳動物由来の胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、成人型多能性幹細胞(MAPC)等を挙げることができる。マウス由来ES細胞の具体例としては、EB3細胞、E14細胞、D3細胞、CCE細胞、R1細胞、129SV細胞、J1細胞等が挙げられる。また、ES細胞、EG細胞、MAPCなどの作製、継代、保存については、従来公知の方法を用いて実施することができる。
【0023】
なお、本発明の製造方法に使用される幹細胞は、少なくとも試験管内培養下で心筋細胞様形質を有する細胞に分化し得る性質を有した細胞であればよいため、必ずしも上記のような胚性幹細胞に限定されない。胚性幹細胞以外に使用可能な幹細胞としては、胎児、臍帯血、成体臓器や骨髄などの成体組織、および、血液などに由来するあらゆる体性幹細胞が挙げられる。さらに、上記幹細胞は、胚性癌種細胞(EC細胞)であってもよい。EC細胞とは、腫瘍中に含まれる胚様細胞(テラトカルシノーマ)のことを意味する。EC細胞は癌細胞ではあるが、未分化で分化全能性を有する胚細胞に類似した性質を有する。EC細胞の具体例としては、マウス由来のP19.CL6(文献:再生医療、日本再生医療学会雑誌 Vol.4 No.3、メディカルレビュー社、2005年、61−68頁参照)が挙げられる。本発明の心筋細胞の製造方法にP19.CL6を用いれば、心筋細胞をより高率に生産することができる。
【0024】
また、本発明の心筋細胞の製造に用いられる幹細胞は、げっ歯類(例えば、マウス、ラット)、霊長類(例えば、サル、ヒト)等の哺乳動物由来であることが好ましい。そして、本発明の製造方法によって得られた心筋細胞を心臓への細胞移植に用いる場合には、該心臓が由来する動物種と同種の動物由来の幹細胞を用いることが好ましい。
【0025】
本発明において、胚性癌種細胞(EC細胞)とは、腫瘍中に含まれる胚様細胞(テラトカルシノーマ)であって、癌細胞ではあるが、未分化で分化全能性を有するもののことをいう。EC細胞の具体例としては、上述したマウス由来のP19.CL6などが挙げられる。
【0026】
本発明の心筋細胞の製造方法に用いる物質は、このEC細胞において、例えばDMSOを添加するなどして心筋細胞への分化を誘導した場合に、誘導開始から10日以内にその発現量が一時的に上昇するものである。ここで、「一時的」とは、誘導開始から一旦その発現量が上昇した後低下することを意味する。
【0027】
また、本発明の製造方法において、「胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質の作用下で幹細胞の培養を行う」とは、幹細胞に対して一時的に上記物質を作用させた状態で培養することを意味する。
【0028】
本発明の製造方法において用いられる上記の物質は、BMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子、あるいは、sFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子であることが好ましい。BMP−5は、骨形成因子(BMP)ファミリーに含まれる分子の一つであり、中胚葉形成・軟骨形成・肢芽形成に関わることが知られている。また、sFRP−5は、Wntシグナルの分泌性阻害因子の一つであり、網膜の光受容細胞の極性を決定することが知られている。なお、本明細書において、単に「BMP−5」、「sFRP−5」と記載するときはBMP−タンパク質、sFRP−5タンパク質をそれぞれ意味するものとする。また、本明細書において、「BMP−5(をコードする)遺伝子」、「sFRP−5(をコードする)遺伝子」と記載するときは、BMP−5タンパク質をコードする遺伝子、sFRP−5タンパク質をコードする遺伝子をそれぞれ意味するものとする。
【0029】
本発明において幹細胞に作用させる上記の物質がBMP−5またはsFRP−5である場合、BMP−5またはsFRP−5の作用下での幹細胞の培養は、結果的に、BMP−5またはsFRP−5を含む培地中で幹細胞又は幹細胞から派生した細胞(例えば、EBなど)を培養することとなる限り特に限定されない。従って、培養開始時に、BMP−5またはsFRP−5が培地中に存在していなくとも構わない。
【0030】
一方、本発明において幹細胞に作用させる上記の物質がBMP−5遺伝子またはsFRP−5遺伝子である場合、BMP−5遺伝子またはsFRP−5遺伝子の作用下での幹細胞の培養は、幹細胞又は幹細胞から派生した細胞(例えば、EBなど)に当該遺伝子を発現可能な状態で導入して培養するものであれば、培養のどの段階で遺伝子を導入するかは特に限定されない。このような培養法として具体的には、BMP−5遺伝子発現ベクターまたはsFRP−5遺伝子発現ベクターを導入した幹細胞の培養、BMP−5発現細胞またはsFRP−5発現細胞と幹細胞との共培養などが挙げられる。
【0031】
培地にBMP−5またはsFRP−5を添加する方法としては、特に限定されないが、生体組織から抽出、精製したBMP−5またはsFRP−5を培地に添加する方法が挙げられる。なお、BMP−5またはsFRP−5は生体組織から抽出、精製したものだけでなく、合成により得られたもの、遺伝子組み換え技術により作製されたもの、市販されているものなども使用可能である。なお、BMP−5は、例えばR&D Inc.より入手可能である。
【0032】
本発明の製造方法において使用されるBMP−5又はsFRP−5は、分化誘導を行う幹細胞が由来する種と同種の動物由来のものが好ましい。例えば、幹細胞としてマウス由来のES細胞又はEC細胞を使用して分化誘導を行う場合には、マウス由来のBMP−5又はsFRP−5の作用下で培養を行うことが好ましい。
【0033】
マウス由来のBMP−5として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_031581として登録されているアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。マウス由来のsFRP−5として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_061250として登録されているアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。また、ヒト由来のBMP−5として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_066551として登録されているアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。さらに、ヒト由来のsFRP−5として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_003006として登録されているアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。
【0034】
また、上記BMP−5には、上記したタンパク質のアミノ酸配列と60%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるタンパク質であり、かつ、心筋細胞への分化誘導を促進させるBMP−5関連タンパク質も含まれるものとする。
【0035】
また、上記sFRP−5には、上記したタンパク質のアミノ酸配列と60%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるタンパク質であり、かつ、心筋細胞への分化誘導を促進させるsFRP−5関連タンパク質も含まれるものとする。
【0036】
また、本発明の製造方法に使用される物質が、BMP−5をコードする遺伝子またはsFRP−5をコードする遺伝子である場合、これらの遺伝子は、いかなる方法で得られるものであってもよい。例えば、mRNAから調製される相補DNA(cDNA)、ゲノミックライブラリーから調製されるゲノミックDNA、化学的に合成されるDNA、RNA又はDNAを鋳型としてPCR法により増幅させて得られるDNA及びこれらの方法を適当に組み合わせて構築されるDNA等が含まれる。
【0037】
本発明の製造方法に使用されるこれらの遺伝子は、分化誘導を行う幹細胞が由来する種と同種の動物由来のものが好ましい。例えば、幹細胞としてマウス由来のES細胞又はEC細胞を使用して分化誘導を行う場合には、マウス由来のBMP−5又はsFRP−5をコードする遺伝子を用いることが好ましい。
【0038】
マウス由来のBMP−5をコードする遺伝子として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NM_007555として登録されている塩基配列から実質的になるDNAを挙げることができる。マウス由来のsFRP−5をコードする遺伝子として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NM_018780として登録されている塩基配列から実質的になるDNAを挙げることができる。また、ヒト由来のBMP−5をコードする遺伝子として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NM_021073として登録されている塩基配列から実質的になるDNAを挙げることができる。さらに、ヒト由来のsFRP−5をコードする遺伝子として具体的には、NCBIデータベースにアクセッション番号NM_003015として登録されている塩基配列から実質的になるDNAを挙げることができる。
【0039】
ここで、「実質的になるDNA」とは、上記特定の塩基配列からなるDNAに加えて、ストリンジェントな条件(本発明では、塩基配列において約60%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上の相同性を有するDNAがハイブリダイズし得る条件をいい、ストリンジェンシーはハイブリダイズ反応や洗浄の際の温度、塩濃度等を適宜変化させることにより調節することができる)において、上記の特定塩基配列からなるDNAとハイブリダイズし得る塩基配列からなるDNAを意味する。
【0040】
本発明の製造方法に使用する物質が遺伝子である場合、該遺伝子は発現可能な状態で幹細胞に導入されることが好ましい。すなわち、上記遺伝子は、適当な発現ベクターに組み込まれた状態で幹細胞に導入されることが好ましい。当該発現ベクターは、分化誘導対象となる例えば哺乳動物由来の幹細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、幹細胞で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。これらのうち、PGK遺伝子プロモーターを使用することが好ましい。
【0041】
発現ベクターとしては、プラスミドまたはウイルスベクターが使用可能であるが、ヒト等の哺乳動物由来の幹細胞に使用する場合に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0042】
上記の遺伝子が組み込まれた発現ベクターを用いて幹細胞から心筋細胞への分化誘導を行う場合、当該発現ベクターは、自体公知の方法、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム沈殿法、マイクロインジェクション法、リポソーム、陽イオン性脂質等の脂質を使用する方法を用いて幹細胞へ導入すればよい。また、これ以外の方法として、上記遺伝子発現ベクターをフィーダー細胞へ導入し、その導入細胞を共培養細胞として用いる方法、または、その導入細胞の培養上清などの細胞生産物を用いる方法なども利用できる。
【0043】
後述の実施例に示すように、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクターをEC細胞などの幹細胞へ導入すれば、該EC細胞を心筋細胞へ効率的に分化誘導することができる。特に、BMP−5を導入したEC細胞(P19.CL6)は、DMSO非添加で心筋マーカー(α−MHC)の発現が活性化される。
【0044】
本発明において、幹細胞から心筋細胞を製造するために行う細胞の培養法としては、心筋細胞の分化誘導に適した方法であれば、特に限定されることなく利用することができる。具体的な培養法としては、例えば幹細胞としてES細胞又はEC細胞を用いる場合、胚様体(EB)形成法(平面培養法、浮遊凝集培養法、懸濁(hanging drop)培養法など)、フィーダー細胞との共培養法、旋回培養法、軟寒天培養法、マイクロキャリア培養法などを挙げることができる。また、本発明の心筋細胞の製造方法では、これらの培養法を順次組み合わせ、工程ごとに異なる培養法を採用してもよい。
【0045】
胚様体形成法とは、培養プレートから剥離したES細胞を含む細胞液を培養皿にスポットし、この細胞滴が下になるように上蓋の向きを返して培養する方法のことをいう。
より具体的には、胚様体形成法は、ES細胞を培養プレートから0.25%トリプシン−EDTAを用いて剥離し、α−MEM(10%FBSを含む)に懸濁をした後、3×104細胞/mlの細胞濃度に調製し、この調製した細胞液を15μlずつ培養皿の上蓋にスポットし(60〜70個)、懸濁した細胞滴が下になるように上蓋の向きを返して、培養プレートの下皿に載せて37℃、5%二酸化炭素通気下で1〜2日培養することによって行うことができる。
【0046】
幹細胞の培養に用いられる培地は、幹細胞の分化に適切である限り特に限定されず適宜選択されるが、例えば、最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、F12培地またはRPMI1640培地、あるいはそれらの混合培地を基本培地として含むものなどである。BMP−5またはsFRP−5以外の培地への添加剤としては、例えば、各種アミノ酸、各種無機塩、各種ビタミン、各種抗生物質、緩衝剤などが挙げられる。培養条件もまた適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30℃〜約40℃である。培地は、血清を含んでも含まなくてもよいが、未同定成分の混入の防止、感染リスクの軽減などの観点から、無血清培地が好ましい。
【0047】
以下に、本発明の製造方法において、培地にBMP−5を添加して幹細胞の培養を行う方法について具体的に説明する。本発明では、幹細胞を一時的にBMP−5の作用下で培養すればよく、少なくとも培養のある一定の段階においてBMP−5を含む培地中で幹細胞の培養を行えばよい。
【0048】
本発明の実施において、幹細胞の培養を行う場合、2つの段階に大きく分けることができる。すなわち、胚様体(EB)を形成する前と後である。以下、その前段階(すなわち、胚様体が形成されるまでの間)を前処理期、後段階を分化誘導期と呼ぶ。また、分化誘導期のうち、特にその初期の段階でEBが形成される段階をEB形成期と呼ぶ。
【0049】
この前処理期においては、幹細胞を未分化状態に維持するために、該幹細胞の動物種に応じて通常用いられる条件下で培養することが好ましい。例えば、幹細胞がマウス由来のES細胞の場合には、培地中に100〜10000U/ml、好ましくは500〜2000U/ml濃度の白血病抑制因子(LIF)を添加することが好ましい。前処理期の培地中にLIFが含まれる場合には、前処理期からEB形成期への移行は、培地中に含まれるLIFを除去することによって行うことができる。前処理期の期間としては、特に限定はされないが、1〜5日間程度であればよく、3日間が好ましい。
【0050】
前処理期において、BMP−5は培地に添加しないことが好ましい。これによって、後述の実施例にも示されるように、より効率よく心筋細胞を製造することができる。
【0051】
前処理期の後、培地からLIFを除去することで分化誘導を開始することができる。分化誘導を開始する際の培地(分化培地)としては、10%FBSを含むα−MEM(製造元:インビトロジェン株式会社 Base Cat. No.:12571)等を用いることが好ましい。このような培地に、幹細胞を播種することによって分化誘導が始まり、EBが形成される。
【0052】
分化誘導開始から1〜2日経過してEBが形成された後(つまり、EB形成期の後)、該EBは培養プレート(培養容器)上に調製された平面培地上に播種し、平面培養されることが好ましい。これによれば、EBにより形成された三胚葉(外・中・内胚葉)の中胚葉から心筋前駆細胞が形成されるという効果が得られる。なお、EB形成時の懸濁液中の細胞密度は、300細胞/滴以上であることが好ましく、450細胞/滴程度であることがより好ましい。また、この平面培養では、培養プレートに播種後5〜20日間、好ましくは7〜15日間、37℃で5%の二酸化炭素を通気した条件下で培養する。
【0053】
また、分化誘導期においては、EB形成期から1〜2日間BMP−5を添加することが好ましく、EB形成期から1日間BMP−5を添加することがより好ましい。さらに、BMP−5は、培地に対して0.2〜50ng/mlの濃度で添加することが好ましく、0.2〜1.0ng/mlの濃度で添加することがより好ましい。
【0054】
上記のような製造方法でES細胞の培養を行なえば、分化誘導開始から約10日経過後において、培養されたEBのうち自律拍動性を有する心筋細胞を90%以上の高い割合で得ることができる。
【0055】
なお、本発明の心筋細胞の製造方法は、上記したような胚様体形成後に平面培養を行う方法に限定されることなく、他の培養方法でも実施することができる。他の培養方法としては、浮遊凝集培養法、フィーダー細胞との共培養法などを挙げることができる。但し、共培養法では、ES細胞以外の細胞(例えば、フィーダー細胞、線維芽細胞)は心筋細胞には分化せず、結果として最終分化した心筋細胞の純度を下げることになること、および、フィーダー細胞を適切な条件下に維持するために一定の技術を要することなどから、平面培養を採用することが好ましい。平面培養を採用することによって、作成した各胚様体の自律拍動頻度を定量しやすいという効果、および、発現する心筋マーカーの遺伝子発現量やタンパク量を個々に定量化できるという効果も得られる。
【0056】
浮遊凝集培養法の場合、単一細胞状態(酵素消化等を施すことで細胞同士の接着がない個々の細胞が液相中で分散した状態)とした幹細胞を、好ましくは、培地に2.0×104細胞/ml〜1.6×105細胞/ml、より好ましくは4.0×104〜1.0×105細胞/mlの細胞密度になるように懸濁し、培養プレートに播種後、5〜15日間、好ましくは8〜12日間、37℃で5%の二酸化炭素を通気した条件下で培養する方法を挙げることができる。この場合のBMP−5の添加濃度および添加期間も、平面培養する場合に好ましい添加濃度および添加期間を採用することが好ましい。
【0057】
また、フィーダー細胞との共培養法を用いる場合、フィーダー細胞としては、特に限定はされないが、好ましくは間葉系細胞の性質を有した細胞、さらに好ましくはST2細胞、OP9細胞、PA6細胞などの骨髄ストローマ細胞様の形質を有する細胞が挙げられる。これらのフィーダー細胞を高密度培養後、マイトマイシンC処理、または放射線照射などの方法により、フィーダー化し、その上に1細胞/ml〜1×106細胞/ml、好ましくは100細胞/ml〜1×105細胞/ml、より好ましくは1×103細胞/ml〜1×104細胞/mlの細胞密度になるように培地中に懸濁した単一細胞状態の幹細胞を播種後、4〜30日間、好ましくは6〜15日間、37℃で5%の二酸化炭素を通気した条件下にて培養することができる。この場合のBMP−5の添加濃度および添加期間も、平面培養する場合に好ましい添加濃度および添加期間を採用することが好ましい。
【0058】
上述したような本発明の心筋細胞の製造方法によれば、従来の分化誘導方法と比較して高率かつ選択的に心筋細胞を得ることができるという効果が得られる。そのため、本発明にかかる方法によって得られた心筋細胞は、心疾患患者に対する移植用細胞として有用であり、心不全、心筋梗塞などの心疾患の治療に有効である。
【0059】
(2)本発明の分化誘導方法によって得られる心筋細胞
本発明の心筋細胞は、上述の本発明の製造方法によって製造されたものである。ここで、心筋細胞には、将来機能的な心筋細胞となり得る能力を有した心筋前駆細胞や、胎児型心筋細胞、成体型心筋細胞のすべての分化段階の細胞を含むものとする。そして、上述した少なくとも一つ、好ましくは複数の方法により、少なくとも一つ、好ましくは複数のマーカーや基準が確認できる細胞を心筋細胞と定義する。
【0060】
さらに、幹細胞の心筋細胞への分化を確認するために、生理学的基準も追加的に使用される。すなわち、幹細胞由来の細胞が、自律拍動性を有することや、各種イオンチャネルを発現しており電気生理的刺激に反応し得ることなども、その有効な指標となる。なお、本発明の製造方法によれば、培養されたEBのうち自律拍動性を有する心筋細胞を50%以上の高い割合で得ることができる。
【0061】
また、本発明の方法によって製造された心筋細胞は、高率かつ選択的に製造されたものであるため、下記(3)に示すように心疾患の治療薬等として有効利用することができる。
【0062】
(3)本発明の心筋細胞の用途
続いて、本発明にかかる方法によって製造された心筋細胞の用途について説明する。本発明の方法によって製造された心筋細胞は、心疾患状態にある心臓を治療するために利用することができる。ここで、心疾患としては、心筋梗塞、虚血性心疾患、うっ血性心不全、肥大型心筋症、拡張型心筋症、心筋炎、慢性心不全などが挙げられる。
【0063】
本発明の心筋細胞を心疾患の治療に用いる場合、その投与方法としては、開胸し注射器を用いて直接心臓に注入する方法、心臓の一部を外科的に切開して移植する方法、さらにはカテーテルを用いて経血管的に移植する方法などが挙げられるが、特にこれに限定されることはない。本発明の心筋細胞を、疾患を有する心臓組織に補充的に注入又は移植することによって、心機能の改善を促すことができる。
【0064】
また、本発明の方法によって製造された心筋細胞は、心疾患状態にある心臓への細胞移植にも用いることができる。この場合の移植方法としては、上記したような心臓の一部を外科的に切開して移植する方法、さらにはカテーテルを用いて経血管的に移植する方法、心電位をマッピングしながら心腔内から移植する方法などを採用することができる。
【0065】
また、本発明は、本発明の心筋細胞を有効成分として含有する心疾患の治療剤についても提供する。ここで、心疾患の治療剤の範疇には、機能の損なわれた心筋の再生剤をも含むものとする。本発明の心疾患の治療剤は、本発明の方法によって得られた心筋細胞を高純度(好ましくは、80〜100%)に含有するものであれば、その形状は特に限定されないが、細胞を培地などの水性担体に浮遊させたもの、細胞を生体分解性基質などの支持体に包埋したもの、あるいは単層又は多層の心筋細胞シート(Shimizuら、Circ.Res.90:e40,2002)に加工したものなど、あらゆる形状のものを採用することができる。
【0066】
(4)分化誘導剤
本発明の分化誘導剤は、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質を含み、心筋細胞への分化誘導を促進させるものである。胚性癌種細胞(EC細胞)とは、腫瘍中に含まれる胚様細胞(テラトカルシノーマ)であって、癌細胞ではあるが、未分化で分化全能性を有するもののことをいう。EC細胞の具体例としては、上述したマウス由来のP19.CL6、P19.CL6などが挙げられる。
【0067】
本発明の分化誘導剤に含まれる物質は、このEC細胞において、例えばDMSOを添加するなどして心筋細胞への分化を誘導した場合に、誘導開始から10日以内にその発現量が一時的に上昇するものである。つまり、当該物質は、初期心筋分化に必須の因子であり、分化誘導開始から7日頃に発現し始めるGATA−4よりも早い時期、または、GATA−4の発現量のピークと同時期に一時的に上昇するものである。なお、上記物質は、分化誘導開始から5〜7日目の間に一時的に発現量が上昇するものであることが好ましい。またあるいは、上記物質は、分化誘導開始から7〜10日目の間に一時的に発現量が上昇するものであってもよい。ここで、「一時的」とは、誘導開始から一旦その発現量が上昇した後低下することを意味する。
【0068】
本発明の分化誘導剤に含まれる物質は、BMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子、あるいは、sFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子であることが好ましい。
【0069】
本発明の分化誘導剤に含まれるBMP−5又はsFRP−5は、分化誘導を行う幹細胞が由来する種と同種の動物由来のものが好ましい。例えば、幹細胞としてマウス由来のES細胞又はEC細胞を使用して分化誘導を行う場合には、マウス由来のBMP−5又はsFRP−5を含む分化誘導剤を用いることが好ましい。
【0070】
マウス由来のBMP−5、マウス由来のsFRP−5、ヒト由来のBMP−5、ヒト由来のsFRP−5として具体的には、上述の「(1)心筋細胞の製造方法」において説明したものをそれぞれ挙げることができる。
【0071】
また、上記BMP−5には、上記したタンパク質のアミノ酸配列と60%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるタンパク質であり、かつ、心筋細胞への分化誘導を促進させるBMP−5関連タンパク質も含まれるものとする。
【0072】
また、上記sFRP−5には、上記したタンパク質のアミノ酸配列と60%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列で表わされるタンパク質であり、かつ、心筋細胞への分化誘導を促進させるsFRP−5関連タンパク質も含まれるものとする。
【0073】
BMP−5およびsFRP−5は、自体公知の方法により調製することができる。
【0074】
また、本発明の分化誘導剤に含まれる物質は、BMP−5をコードする遺伝子またはsFRP−5をコードする遺伝子であってもよい。これらの遺伝子は、いかなる方法で得られるものであってもよい。
【0075】
本発明の分化誘導剤に含まれるこれらの遺伝子は、分化誘導を行う幹細胞が由来する種と同種の動物由来のものが好ましい。例えば、幹細胞としてマウス由来のES細胞又はEC細胞を使用して分化誘導を行う場合には、マウス由来のBMP−5又はsFRP−5をコードする遺伝子を含む分化誘導剤を用いることが好ましい。
【0076】
マウス由来のBMP−5をコードする遺伝子、マウス由来のsFRP−5をコードする遺伝子、ヒト由来のBMP−5をコードする遺伝子、ヒト由来のsFRP−5をコードする遺伝子として具体的には、上述の「(1)心筋細胞の製造方法」において説明したものをそれぞれ挙げることができる。
【0077】
ここで、「実質的になるDNA」とは、上記特定の塩基配列からなるDNAに加えて、ストリンジェントな条件において、上記の特定塩基配列からなるDNAとハイブリダイズし得る塩基配列からなるDNAを意味する。
【0078】
本発明の分化誘導剤に含まれる物質が遺伝子である場合、該遺伝子は発現可能な状態で剤中に含まれることが好ましい。すなわち、上記遺伝子は、適当な発現ベクターに組み込まれた状態で分化誘導剤に含まれることが好ましい。当該発現ベクターは、分化誘導対象となる例えば哺乳動物由来の幹細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、幹細胞で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。
【0079】
発現ベクターとしては、プラスミドまたはウイルスベクターが使用可能であるが、ヒト等の哺乳動物由来の幹細胞に使用する場合に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0080】
なお、本発明の分化誘導剤には、BMP−5、sFRP−5、またはこれらの何れかのタンパク質をコードする遺伝子の他に、心筋細胞への分化を促進する他の因子、あるいは、任意の担体が含まれていてもよい。この他の因子としては、心筋細胞への分化促進因子として従来から知られている、Noggin、BMP−2、BMP−4などが挙げられる。また、BMP−5、sFRP−5、及びこれらの何れかのタンパク質をコードする遺伝子を適宜組み合わせて分化誘導剤に含有してもよい。
【0081】
なお、分化誘導剤が他の因子および担体を含む場合には、当該剤の有効成分である上述の物質の含有量は、心筋細胞への分化誘導促進機能を発揮できる量であれば特に限定はされない。例えば、当該物質がBMP−5である場合には、培地へ添加した際の濃度が0.2〜50ng/mlとなることが好ましく、0.2〜1.0ng/mlとなることがより好ましい。
【0082】
本発明の分化誘導剤を用いて幹細胞から心筋細胞への分化誘導を行う方法については、上述の「(1)心筋細胞の製造方法」において説明した方法を適用することができる。具体的には、本発明の分化誘導剤を添加した培地における幹細胞の培養、本発明の分化誘導剤を導入した幹細胞の培養、本発明の分化誘導剤を作用させたフィーダー細胞と幹細胞との共培養などによって、幹細胞から心筋細胞への分化誘導を行うことができる。
【0083】
本発明の分化誘導剤を用いて幹細胞の培養を行えば、従来の分化誘導促進物質を添加した場合と比較して、より高い割合で拍動性を有する心筋細胞を得ることができる。つまり、本発明の分化誘導剤によれば、高率かつ選択的に心筋細胞への分化を誘導することができる。
【0084】
(5)心筋細胞への分化阻害剤
本発明の心筋細胞への分化阻害剤は、BMP−5、sFRP−5のうちの少なくとも何れかの発現または機能を抑制する物質(以下、該物質を抑制物質と呼ぶ)を含むものである。
【0085】
抑制物質は、BMP−5またはsFRP−5の発現を抑制する物質(以下、該物質を発現抑制物質と呼ぶ)であり得る。発現抑制物質は、BMP−5またはsFRP−5の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化及び蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。
【0086】
発現抑制物質の例は、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子の転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物に対するアンチセンス核酸である。アンチセンス核酸とは、標的mRNA(初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNA(初期転写産物)とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNA(初期転写産物)にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。さらに、アンチセンス核酸は、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子の転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAと結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0087】
発現抑制物質のさらに別の例は、RNAi誘導性核酸である。RNAi誘導性核酸とは、細胞内に導入されることにより、RNAi効果を誘導し得る核酸をいい、好ましくはRNAである。RNAi効果とは、mRNAと同一のヌクレオチド配列(又はその部分配列)を含む2本鎖構造のRNAが、当該mRNAの発現を抑制する現象をいう。RNAi効果を得るには、例えば、少なくとも20以上の連続する標的mRNAと同一のヌクレオチド配列(又はその部分配列)を有する2本鎖構造のRNAを用いることが好ましい。2本鎖構造は、異なるストランドで構成されていてもよいし、一つのRNAのステムループ構造によって与えられる2本鎖であってもよい。RNAi誘導性核酸としては、たとえばsiRNA、stRNA、miRNAなどが挙げられる。
【0088】
発現抑制物質の他の例は、ターゲティングベクターである。本発明で用いられるターゲティングベクターは、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子の相同組換えを誘導し得るBMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチド、並びに選択マーカーを含む。第一及び第二のポリヌクレオチドは、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性および長さを有するポリヌクレオチドである。第一及び第二のポリヌクレオチドは、BMP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子を含むゲノムDNAにおいて、第一及び第二のポリヌクレオチドに対して相同な2つの領域の間に存在するゲノムDNA部分領域が欠失すると、当該遺伝子の機能的欠損がもたらされるように選択される。選択マーカーとしては、ポジティブ選択マーカー(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子)、ネガティブ選択マーカー(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子)などが挙げられる。ターゲティングベクターは、ポジティブ選択マーカー、ネガティブ選択マーカーのいずれか一方、又は両方を含むことができる。
【0089】
抑制物質の他の例としては、BMP−5またはsFRP−5の機能を抑制する物質が挙げられる。BMP−5またはsFRP−5の機能を抑制する物質としては、BMP−5またはsFRP−5の作用を妨げ得る物質である限り特に限定されないが、BMP−5またはsFRP−5に対する抗体、BMP−5またはsFRP−5のドミナントネガティブ変異体、これらをコードする核酸を含む発現ベクターが例示される。
【0090】
本発明の分化阻害剤は、上記の抑制物質に加え、任意の担体、例えば試薬上許容され得る担体を含むことができる。本発明の分化阻害剤は、幹細胞から心筋細胞への分化を阻害するため、心筋細胞への分化のメカニズムを解明するための研究用試薬等として利用することができる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
〔実施例1−1〕
P19.CL6細胞をα−MEM(10%FBSを含む)培地で10cmプレートにて付着培養を行い、剥離(0.05% Trypsine−1mM EDTA、3分間)・播種(40倍希釈)を繰り返し継代培養した。3回目の継代培養後、細胞を剥離し、1×104細胞/ml濃度で2mlのα−MEM(10%FBS、1%DMSOを含む)培地中にて14日間、培地交換を一日毎に行い分化誘導培養を行った。
【0093】
図1および図3に示した各日数で培養液を除き、細胞を1ml PBSで2回洗浄後、1.5mlチューブに移し、2500回転、1分間の遠心操作で細胞を回収した。回収した細胞に1ml Trizolを加え細胞を破砕し、RNAを60%イソプロパノールで精製した。精製した全RNA25gをDNaseI酵素で37℃、15分間処理しゲノムDNAを除去した後、逆転写酵素Superscript II RTを用いて、cDNAを合成した。合成したcDNAを用いて定量RT−PCRを行い、GATA−4、BMP−5の発現量を定量した。具体的には、合成したcDNAの50分の1量にSybr Green 12.5μl(ABI)と2μMプライマー混合液2.5μlを混合して、PRISM7000(ABI)を用いて定量RT−PCR反応を行った。
【0094】
使用したプライマーは以下の通りである。
GATA−4;5’側 GGAAGACACCCCAATCTCGAT(配列番号1)、
3’側 GGCCCCACAATTGACACACT(配列番号2)
BMP−5;5’側 GGAGCGGCTGGGTTCAA(配列番号3)、
3’側 AAAACTGGAGTGAACGTGATTGTC(配列番号4)
sFRP−5;5’側 TGTGCCCAGTGTGAGATGGA(配列番号5)
3’側 GCGCATCTTGACCACAAAGTC(配列番号6)
各遺伝子発現量は、ハウスキーピング遺伝子GAPDH(プライマー;5’側 GGAGCGAGACCCCACTAACA(配列番号7)、3’側 GCCTTCTCCATGGTGGTGAA(配列番号8))の発現量で基準化した。
【0095】
結果を図1および図3に示す。図1(a)および(b)に示すように、心筋分化細胞P19.CL6を分化誘導剤DMSOで分化誘導し、BMP−5の経時的発現を定量解析したところ、初期心筋分化に必須なGATA−4の発現が生じ始める(Day7)よりも早い段階(Day5〜7)に一過的に上昇する発現パターンが確認された。また、図3(a)および(b)に示すように、心筋分化細胞P19.CL6を分化誘導剤DMSOで分化誘導し、sFRP−5の経時的発現を定量解析したところ、初期心筋分化に必須なGATA−4の発現開始からピークになる(Day7〜10)と同時期に発現が活性化された。
【0096】
〔実施例1−2〕
マウスU6プロモーターの下流にBamHI及びHindIII制限酵素サイトを、MLUVレトロウイルスベクターに導入したDNA断片を挿入したsiRNAベクターを構築し、BMP−5およびsFRP−5のsiRNAを発現させるために、次に示す合成オリゴマーを二重鎖にして上述の制限酵素サイトにクローニングした。
【0097】
BMP−5 siRNA−1
5’側 GATCCTTTATGCTGGATCTCTACAATTTCAAGAGAATTGTAGAGATCCAGCATAAAGTTTTTT(配列番号9)
3’側 AGCTAAAAAACTTTATGCTGGATCTCTACAATtctcttgaaATTGTAGAGATCCAGCATAAAG(配列番号10)
BMP−5 siRNA−2
5’側 GATCGCTGTGCTCCAACCAAACTAAttcaagagaTTAGTTTGGTTGGAGCACAGCTTTTTT(配列番号11)
3’側 AGCTAAAAAAGCTGTGCTCCAACCAAACTAAtctcttgaaTTAGTTTGGTTGGAGCACAGC(配列番号12)
sFRP−5 siRNA
5’側 GATCGCTGTGCTCCAACCAAACTAAttcaagagaTTAGTTTGGTTGGAGCACAGCTTTTTT(配列番号13)
3’側 AGCTAAAAAACAAGAAGCTGGTCCTGCATATTCTCTTGAAATATGCAGGACCAGCTTCTTG(配列番号14)
【0098】
siRNA発現レトロウイルスを作成するため、293T細胞を3.5×105細胞/mlで6穴プレートに播種して、37℃、5%二酸化炭素通気下で培養した。24時間後、siRNAレトロウイルスベクターDNA2μg、Gag/Pol DNA0.5μg、VSV−G DNA0.5μgを100μl Opti−MEM、10μl FuGene6混合液に加えて、293T細胞に遺伝子導入した。24時間後、培養上清を除き、1ml α−MEM(10% FBS)を加え、24時間培養してレトロウイルスを産生させた。レトロウイルスを含む細胞上清にα−MEM(10% FBS)1mlと4mg/ml polybrene 2μlを混合し、0.45μmフィルターを通したウイルス液を1×104細胞/mlで播種したP19.CL6細胞に加え24時間、37℃、5%二酸化炭素通気下でウイルス感染させた。
【0099】
感染後、ウイルス液を除き、2μg/ml puromycinを含むα−MEM(10% FBS)2ml選択培地で4日間培養して、siRNAレトロウイルスが感染したP19.CL6細胞を選択した。薬剤選択後、直ちにsiRNA発現P19.CL6細胞を1%DMSOで分化誘導を行った。siRNA発現P19.CL6細胞のDMSO添加による分化誘導、並びに、定量RT−PCRによる遺伝子発現解析は実施例1−1と同様の方法で行った。定量RT−PCRに用いた各遺伝子プライマー配列は次の通りである。
【0100】
Nkx2.5
5’側 CGGGCGGATAAAAAAGAGCT(配列番号15)
3’側 CCATCCGTCTCGGCTTTGT(配列番号16)
α−MHC
5’側 GCTGACAGATCGGGAGAATCAG(配列番号17)
3’側 GCTGGCAAAGTACTGGATGACA(配列番号18)
α−actin
5’側 GTCTCTGTATGCTTCTGGAAGA(配列番号19)
3’側 CTCATAGATGGGAACATTATGAGTT(配列番号20)
【0101】
単離したBMP−5遺伝子が心筋分化に対してどの様な効果を有するかを明らかにするために、遺伝子活性を抑制するsiRNAを発現するレトロウイルスベクターを構築し、BMP−5またはsFRP−5のsiRNA レトロウイルスベクターをP19.CL6細胞に導入した。その結果、図2(a)に示すように、BMP−5 siRNA−2を発現するP19.CL6細胞は、DMSO分化誘導時にBMP−5の83%の活性を失っていた。このP19.CL6細胞を分化誘導すると、心筋分化マーカー遺伝子(GATA−4(図2(b)参照)、Nkx2.5(図2(c)参照)、α−MHC(図2(d)参照)、α−actin(図2(e)参照))の発現が著しく抑制され、BMP−5が各心筋遺伝子の発現を制御していることが確認できた。
【0102】
また、図4(a)に示すように、sFRP−5 siRNAを発現するP19.CL6細胞は、DMSO分化誘導時にsFRP−5の94%の活性を失っていた。sFRP−5が発現低下したP19.CL6細胞を分化誘導すると、心筋分化マーカー遺伝子(GATA−4(図4(b)参照)、Nkx2.5(図4(c)参照)、α−MHC(図4(d)参照)、α−actin(図4(e)参照))発現の50〜60%が抑制された。これにより、sFRP−5が各心筋遺伝子の発現を制御していることが明らかになった。
【0103】
〔実施例2〕
レンチウイルスベクターに、PGKプロモーターとその下流にBMP−5完全長cDNAを導入した過剰発現ベクターを構築した。レンチウイルスを作成するため、293T細胞を3.5×105細胞/mlで6穴プレートに播種して、37℃、10%二酸化炭素通気下で培養した。24時間後、レンチベクターDNA 2.1μg、Gag/Pol DNA 1.5μg、VSV−G DNA 0.9μg、REV DNA 0.6μgをOpti−MEM 100μl、FuGene6 10μl混合液に加えて、24時間、37℃、3%二酸化炭素通気下の培養で293T細胞に遺伝子導入した。
【0104】
培養上清を除き、α−MEM(10% FBS)1mlを加え、48時間、37℃、10%二酸化炭素通気下で培養してレンチウイルスを産生させた。レンチウイルスを含む細胞上清にα−MEM(10% FBS)1mlと4mg/ml polybrene 2μlを混合し、0.45μmフィルターを通したウイルス液を1×104細胞/mlで播種したP19.CL6細胞に加え、24時間、37℃、5%二酸化炭素通気下でウイルス感染させた。
【0105】
感染後、ウイルス液を除き、1μg/ml puromycinを含むα−MEM(10% FBS)2ml選択培地で4日間培養して、レンチウイルスが感染したP19.CL6細胞を選択した。樹立したBMP−5過剰発現P19.CL6細胞をDMSO非添加α−MEM(10% FBS)2mlで培養し、形態変化を光学顕微鏡で観察、さらに、心筋構造タンパク質の細胞免疫染色法にて心筋分化を調べた。
【0106】
細胞免疫染色を実施するために、細胞をPBS 1mlで2回洗浄後、2%パラホルムアルデヒド−PBS 1mlで20分間固定した後、PBS洗浄を3回行い、0.2% Triton X100−PBSで15分間、抗体透過処理を行った。そして、3% BSA−PBSで30分間、非特異的抗体吸着を抑制した後、マウス抗α−MHC抗体(200倍希釈:NeoMarkers)で1時間、一次抗体反応を行った。PBS洗浄を3回行った後、Alexa546−抗マウスIgG抗体(500倍希釈:Molecular Probe)で1時間、二次抗体反応を行い、過剰の抗体をPBSで洗浄した。細胞の核染色はHoechst33342(1000倍希釈)−PBSで10分間反応後、PBS洗浄を3回行った。抗体反応後の蛍光シグナルは蛍光顕微鏡(Olympus BX71)を用いて行った。
【0107】
図5(a)には、BMP−5過剰発現P19.CL6細胞を光学顕微鏡にて観察した結果を示す。この図から、BMP−5過剰発現P19.CK6細胞は分化誘導剤DMSO非存在下で細胞質及び核が肥大化し、心筋様細胞と類似した形態を示したことがわかる。これらの細胞が心筋細胞であることを確かめるために、BMP−5過剰発現P19.CK6細胞について、心筋構造タンパク質α−MHC抗体を用いて免疫染色を行った。その結果を図5(b)に示す。この図に示すように、BMP−5過剰発現細胞では、α−MHCが発現していることがわかった。この結果から、BMP−5は心筋分化に必須な構造タンパク質の発現誘導を促進する遺伝子であることが明らかになった。
【0108】
〔実施例3〕
マウスES細胞EB5をG−MEM(10%KDR、1000U/ml LIF、50μg/ml Blasticidineを含む)培地で0.1%gelatin処理した10cmプレートにて未分化付着培養を行い、剥離(0.25% Trypsine−1mM EDTA、5分間)・播種(10倍希釈)を繰り返し継代培養した。
【0109】
2回目の継代培養後、細胞を剥離し、0.1%gelatin処理した6穴プレートにてG−MEM(10%KDR、1000U/ml LIF、50μg/ml Blasticidineを含む)培地2mlで2日間未分化培養した。その後、細胞を再び剥離し、15mlチューブに細胞液を移し、800g、4分間遠心操作を行い、α−MEM(10%FBSを含む)培地に懸濁した。剥離した細胞を3×104細胞/ml細胞濃度に調整し、細胞液を15μlずつ培養皿の上蓋にスポットし(60〜70個)、懸濁した細胞滴が下になるように上蓋の向きを返して、培養プレートの下皿に載せて37℃、5%二酸化炭素通気下で1日間、胚様体形成培養を行った。0.1%gelatin処理した96穴プレートの各ウェルにα−MEM(10%FBSを含む)100μlを入れて、1mlチップで各胚様体を1個ずつ移し、α−MEM(10%FBSを含む)培地交換を一日毎に行い付着培養にて分化誘導培養を15日間行った。
【0110】
BMP−5(R&D System)の添加時期の検討は、次の6条件で行った。即ち、(1)未分化培養2日間のみに添加、(2)未分化状培養2日間と胚様体形成期1日間、(3)未分化状培養2日間と胚様体形成期1日間とそれに続くEB付着培養1日間、(4)胚様体形成期1日間のみ、(5)胚様体形成期1日間とEB付着培養1日間、(6)胚様体形成期1日間とEB付着培養2日間、である。図6には、上記6条件での分化誘導培養の工程を模式的に示す。なお、図中では、上記(1)〜(6)の各条件を丸付き数字で示している。
【0111】
BMP−5によるES細胞分化誘導に及ぼす濃度効果は、上記のES分化系に濃度0.2、1、10、50、500ng/mlで細胞培養液に添加して行った。対照実験としてBMP−2、BMP−4、及びNoggin(R&D System)を投与した。BMP−2、BMP−4の投与時期は、BMP−5と同様に胚様体形成期の懸滴培養1日間である。Nogginは未分化培養時の2日間と胚様体形成時の1日間に150ng/mlで投与した。
【0112】
そして、これらの各条件で培養を行った細胞培養液について、拍動性EBの出現効率、心筋マーカーのタンパク量、心筋マーカーの遺伝子発現量の測定を行った。
【0113】
拍動性EBの出現効率は、BMP−5、BMP−2、BMP−4、及びNoggin処理と未処理EB、各々48個の自立拍動を光学顕微鏡下で経時的(付着培養後7〜13日)に観察し、全EB数に対する拍動性EB数の割合として算出した。
【0114】
心筋マーカーcardiac toloponin(cTnT)タンパク量は実施例2に記述した蛍光抗体による免疫染色法を行った後、蛍光強度を蛍光プレートリーダー(DTX880)で測定し、EB8個の蛍光強度の平均値とした。cTnTの免疫染色法には一次抗体にマウス抗cTnT抗体(200倍希釈:NeoMarkers)、二次抗体にAlexa−488抗マウスIgG抗体(500倍希釈:Molecular Probe)を用いた。
【0115】
心筋マーカー遺伝子の発現解析は、図11に示した日数でEB(n=8)をPBSで2回洗浄後、剥離したEBを4個ずつ1.5mlチューブに回収し、RNeasy MiniKit(QIAGEN)を用いて全RNAを抽出した。抽出した全RNA200〜400ngとExscript(TAKARA)を用いてcDNA合成を行った後、遺伝子発現量解析のためcDNAの10分の1量と2μMプライマー混合液2μl、Power Sybr Green(ABI)10μlを混和し、反応液20μlで定量RT−PCRを行った。定量RT−PCRに用いたcTnTプライマーは次の通りである。
【0116】
cTnT
5’側 TCCCTCAAAGACAGGATCGAA(配列番号21)
3’側 GCGGTTCTGCCTTTCCTTCT(配列番号22)
【0117】
図7A(a)〜(c)及び図7B(d)〜(f)には、ES心筋分化系に対してBMP−5(100ng/ml)を上記(1)〜(6)の各条件で添加し、自律(自立)拍動率(n=48)を付着培養後9〜13日の間で調べた結果を順に示す。なお、図7Aおよび図7Bでは、BMP−5処理を実線で、BMP−5未処理を破線で、Noggin処理を一点鎖線で示す。この図に示すように、BMP−5処理をした場合、いずれの条件でもBMP−5未処理のコントロールより自立拍動率が上昇した。
【0118】
添加条件(1)〜(3)では13日目で80%の自立拍動率を示し、添加条件(5)では13日目で80%以上の自立拍動率を示し、添加条件(4)では13日目で90%以上の自立拍動率を示した。この結果から、添加条件としては、添加条件(4)でES細胞を処理することが最も望ましいことが明らかになった。また、分化促進剤Nogginで効果が認められる添加条件(2)におけるBMP−5の投与効果は、Nogginと同等かそれ以上であり、BMP−5添加条件(4)での拍動促進効果は、Nogginによる効率を上回っていることが確認できた。
【0119】
続いて、添加条件(4)で最も心筋分化効率が促進されるBMP−5の濃度を決定した。その結果を図8Aおよび図8Bに示す。図8A(a)〜(c)及び図8B(d)〜(f)には、BMP−5の添加濃度を0.2ng/ml、1ng/ml、10ng/ml、50ng/ml、100ng/ml、500ng/mlとし、付着培養後7〜11日間、自律(自立)拍動率(n=48)を調べた結果を順に示す。なお、図8Aおよび図8Bでは、BMP−5処理を実線で、BMP−5未処理を破線で示す。
【0120】
図8Aおよび図8Bに示すように、0.2〜500ng/mlの範囲内のいずれの濃度においても、付着培養後11日目において、BMP−5未処理の自立拍動率よりも有意な促進効果が認められた。これらの濃度の中でも、0.2〜50ng/mlの濃度条件において、80%以上拍動率が促進されることが確認された。さらに、0.2〜1ng/mlの濃度条件においては、付着培養後7〜11日目すべてにおいて促進効果が認められ、かつ、11日目で90%以上の増強効果を有することが明らかになった。この結果から、BMP−5の添加濃度は、0.2〜50ng/mlが好ましく、0.2〜1ng/mlがより好ましいことがわかる。
【0121】
続いて、0.2〜500ng/mlのBMP−5の投与による分化促進効果を、cardiac Troponin(cTnT)タンパク質量を定量化して調べた。その結果を図9に示す。図9に示すように、0.2〜1ng/mlのBMP−5処理をした10日目のEBはBMP−5未処理(Control)に比べてcTnTタンパク量が2〜2.5倍亢進していることが確認できた。10〜50ng/mlのBMP−5処理でも有意な促進効果が認められた。
【0122】
続いて、BMP−5の促進効果と既知の心筋分化因子(BMP−2、BMP−4、Noggin)のそれとを比較検討した。0.2ng/ml及び100ng/mlのBMP−2、BMP−4、及びBMP−5と、150ng/mlのNogginの促進効率を、処理後4日目〜13日目にcTnT抗体で蛍光免疫染色して調べた結果を図10A、図10Bに示す。また、0.2ng/ml及び100ng/mlのBMP−2、BMP−4、又はBMP−5、あるいは、150ng/mlのNogginで処理後、4〜13日目にcTnTタンパク質を定量化(n=8)した結果を図11に示す。
【0123】
BMP−2、BMP−4、BMP−5の投与時期は、上述の添加条件(4)にて、また、Nogginは添加条件(2)にて行った。各因子の投与後7日目でcTnTの発現が認められるのは、0.2ng/ml BMP−5と100ng/ml BMP−2及びBMP−4処理EB群であり、投与後13日目でEB細胞の50%以上がcTnTポジティブの心筋細胞に分化していた。100ng/ml BMP−5ではBMP−5未処理と同程度の分化能しか示さなかった。同様の促進効果がcTnTタンパク質の定量解析でも認められ、0.2ng/ml BMP−5の投与後13日目でBMP−5未処理に比べてcTnTタンパク量が4倍亢進し、そのタンパク量は100ng/ml BMP−2及びBMP−4と同程度であったことから、BMP−5は既知の分化促進因子よりも低濃度で優れた分化誘導活性を有していることが明らかになった。
【0124】
また、上記と同濃度でのBMP−2、BMP−4、BMP−5の分化促進効果を、心筋マーカー遺伝子発現量の定量RT−PCRから解析した。0.2ng/ml BMP群を添加条件(4)にてEBに投与して、7日目の各心筋マーカー遺伝子(GATA−4、cTnT、α−MHC)の発現量を調べた結果を図12(a)〜(c)にそれぞれ示す。0.2ng/ml BMP−5処理によって、BMP−5未処理に比べてGATA−4遺伝子量で1.5倍、cTnT遺伝子量で8倍、α−MHC遺伝子量で5倍促進効果が認められた。同濃度のBMP−2、BMP−4に対して、BMP−5は各遺伝子発現の促進効果が有意に高いことが明らかになった。また、150ng/ml NogginによるcTnT、α−MHC発現促進率よりもBMP−5の促進効果が高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0125】
上述したように、本発明の心筋細胞の製造方法によれば、従来の分化誘導方法と比較して高率かつ選択的に心筋細胞を得ることができる。そして、本発明により得られる心筋細胞は、心疾患患者への細胞移植用に利用されるとともに、心疾患の治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】図1は、P19.CL6心筋分化誘導時におけるBMP−5の発現変化を示すグラフである(図1(a))。なお、比較のためにGATA−4の発現変化も併せて示す(図1(b))。
【図2】図2(a)は、BMP−5 siRNAによるBMP−5の発現量の変化を示すグラフであり、図2(b)〜(e)は、BMP−5 siRNAによる各心筋分化マーカーの発現変化を示すグラフである。
【図3】図3は、P19.CL6心筋分化誘導時におけるsFRP−5の発現変化を示すグラフである(図3(a))。なお、比較のためにGATA−4の発現変化も併せて示す(図3(b))。
【図4】図4(a)は、sFRP−5 siRNAによるsFRP−5の発現量変化を示すグラフであり、図4(b)〜(e)は、sFRP−5 siRNAによる各心筋分化マーカーの発現変化を示すグラフである。
【図5】図5(a)は、BMP−5過剰発現P19.CL6細胞を光学顕微鏡にて観察した結果を示す図である。図5(b)は、BMP−5過剰発現P19.CK6細胞を、心筋構造タンパク質α−MHC抗体を用いて免疫染色した結果を示す図である。
【図6】図6は、実施例3において行った分化誘導培養の工程を模式的に示す図である。
【図7A】図7A(a)〜(c)は、ES心筋分化系に対してBMP−5を図6に示す(1)〜(3)の各条件で添加し、自律(自立)拍動率を付着培養後9〜13日の間で調べた結果をそれぞれ示す図である。
【図7B】図7B(d)〜(f)は、ES心筋分化系に対してBMP−5を図6に示す(4)〜(6)の各条件で添加し、自律(自立)拍動率を付着培養後9〜13日の間で調べた結果をそれぞれ示す図である。
【図8A】図8A(a)〜(c)は、BMP−5の添加濃度を0.2ng/ml、1ng/ml、10ng/mlとした場合の心筋分化効率を調べた結果をそれぞれ示す図である。
【図8B】図8B(d)〜(f)は、BMP−5の添加濃度を50ng/ml、100ng/ml、500ng/mlとした場合の心筋分化効率を調べた結果をそれぞれ示す図である。
【図9】図9は、0.2〜500ng/mlのBMP−5の投与による分化促進効果を、cTnTタンパク質量を定量化して調べた結果を示す図である。
【図10A】図10Aは、0.2ng/ml及び100ng/mlのBMP−2、BMP−4、及びBMP−5と、150ng/mlのNogginの促進効率を、処理後4日目又は7日目にcTnT抗体で蛍光免疫染色して調べた結果を示す図である。
【図10B】図10Bは、0.2ng/ml及び100ng/mlのBMP−2、BMP−4、及びBMP−5と、150ng/mlのNogginの促進効率を、処理後10日目又は13日目にcTnT抗体で蛍光免疫染色して調べた結果を示す図である。
【図11】図11は、0.2ng/ml及び100ng/mlのBMP−2、BMP−4、又はBMP−5、あるいは、150ng/mlのNogginで処理後、4〜13日目にcTnTタンパク質を定量化した結果を示す図である。
【図12】図12(a)〜(c)は、0.2ng/ml BMP群を図6に示す添加条件(4)にてEBに投与して、7日目の各心筋マーカー遺伝子(GATA−4、cTnT、α−MHC)の発現量を調べた結果をそれぞれ示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞から心筋細胞を分化誘導することにより心筋細胞を製造する方法であって、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質の作用下で幹細胞の培養を行うことを含む方法。
【請求項2】
上記物質がBMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記物質がsFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
幹細胞が胚性幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
幹細胞が胚性癌種細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
幹細胞が哺乳動物由来である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
幹細胞の培養において胚様体を形成する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
胚様体が形成されるまでの間、培地に白血病抑制因子を添加する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
胚様体形成後の幹細胞の培養が、培養容器上での平面培養によって行われる、請求項7記載の方法。
【請求項10】
幹細胞の培養において胚様体を形成する工程を含む、請求項2記載の方法。
【請求項11】
胚様体形成期から1〜2日間BMP−5を添加する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
胚様体形成期からBMP−5を0.2〜1.0ng/mlの濃度で培地に添加する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1項に記載の方法によって製造された心筋細胞を含有してなる、心疾患の治療剤。
【請求項14】
胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質を含む、心筋細胞の分化誘導剤。
【請求項15】
上記物質がBMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子である、請求項14記載の分化誘導剤。
【請求項16】
上記物質がsFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子である、請求項14記載の分化誘導剤。
【請求項17】
BMP−5、sFRP−5のうちの少なくとも何れかの発現または機能を抑制する物質を含む、心筋細胞への分化阻害剤。
【請求項18】
発現または機能を抑制する物質が、アンチセンス核酸、RNAi誘導性核酸、ターゲティングベクター、及び抗体からなる群より選ばれる、請求項17記載の分化阻害剤。
【請求項1】
幹細胞から心筋細胞を分化誘導することにより心筋細胞を製造する方法であって、胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質の作用下で幹細胞の培養を行うことを含む方法。
【請求項2】
上記物質がBMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記物質がsFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
幹細胞が胚性幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
幹細胞が胚性癌種細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
幹細胞が哺乳動物由来である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
幹細胞の培養において胚様体を形成する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
胚様体が形成されるまでの間、培地に白血病抑制因子を添加する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
胚様体形成後の幹細胞の培養が、培養容器上での平面培養によって行われる、請求項7記載の方法。
【請求項10】
幹細胞の培養において胚様体を形成する工程を含む、請求項2記載の方法。
【請求項11】
胚様体形成期から1〜2日間BMP−5を添加する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
胚様体形成期からBMP−5を0.2〜1.0ng/mlの濃度で培地に添加する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1項に記載の方法によって製造された心筋細胞を含有してなる、心疾患の治療剤。
【請求項14】
胚性癌種細胞系における心筋分化誘導開始から10日以内に発現量が一時的に上昇する物質を含む、心筋細胞の分化誘導剤。
【請求項15】
上記物質がBMP−5またはBMP−5をコードする遺伝子である、請求項14記載の分化誘導剤。
【請求項16】
上記物質がsFRP−5またはsFRP−5をコードする遺伝子である、請求項14記載の分化誘導剤。
【請求項17】
BMP−5、sFRP−5のうちの少なくとも何れかの発現または機能を抑制する物質を含む、心筋細胞への分化阻害剤。
【請求項18】
発現または機能を抑制する物質が、アンチセンス核酸、RNAi誘導性核酸、ターゲティングベクター、及び抗体からなる群より選ばれる、請求項17記載の分化阻害剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−252220(P2007−252220A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77734(P2006−77734)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(502100138)株式会社カルディオ (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(502100138)株式会社カルディオ (13)
【Fターム(参考)】
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