説明

心臓特異的核酸調節因子ならびにこの方法および使用

本発明は、遺伝子の心臓特異的発現を増強し得る核酸調節因子、これらの調節因子を使用する方法、およびこれらの因子の使用に関する。これらの核酸調節因子を含む発現カセットおよびベクターも開示する。本発明は、遺伝子治療を用いる用途に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子の心臓特異的発現を増強し得る核酸調節因子、これらの調節因子を使用する方法、およびこれらの因子の使用に関する。これらの核酸調節因子を含む発現カセットおよびベクターも開示する。本発明は、遺伝子治療を用いる用途に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
心臓関連の問題は依然として、高い罹患率、臨床転帰の不良および大きな医療費負担を伴う主な国民の健康問題である(Krum et al,2009)。主なおよび最終的な結末である心不全は、高い罹患率および死亡率をもたらす。心不全の原因となる大部分の症候群の主要な原因としては主に、高血圧症、冠動脈疾患、心筋症、置換性線維形成の入り交じったものを有する心筋をもたらす浸潤性症候群または炎症、および糖尿病が挙げられる。これらの病態は処置可能であるが、これらは治療を構成せず、最終的には致死的な心不全をもたらす疾患の進行を遅らせるだけである(LaPointe et al,2002)。最近では、分子心臓病学の進歩によって、最も一般的な心疾患の誘導および進行に関係する分子経路が解明され、これらの疾患に関連する多くの原因遺伝子およびタンパク質が同定された。遺伝子治療は、このようなタンパク質の産生を制御し、心疾患を予防および処置する有望な手段を示す(Lyon et al,2008)。
【0003】
遺伝子治療は、心筋機能障害を処置する代替戦略の可能性を提供し(Fomicheva et al,2008)、これによって治療遺伝子は心臓に送達され、指示された期間にわたって治療反応をもたらすのに十分高いレベルで発現する(LaPointe et al,2002)。遺伝子治療の標的となっている心臓関連病態には、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)(Bostick et al,2009)、肥大型心筋症(Jacques et al,2008)および糖尿病性心筋症(Wang et al,2009)のような遺伝的心筋症がある。過去10年間にわたって、遺伝子治療は、不整脈、再狭窄(Muller et al,2007)、虚血および低酸素症(Fomicheva et al,2008)などの心不全を処置するための動物モデルの前臨床試験で有望な結果を示した。例えば、血管形成因子(例えば、血管内皮成長因子またはVEGF)をコードする遺伝子を過剰発現させることによって心虚血を処置する遺伝子治療により、治療的血管形成が検討されている(Muller et al,2007;Stewart et al,2009)。加えて、遺伝子治療は、移植心臓内に免疫特権部位を作り出して、臓器移植患者における免疫拒絶を防ぐ戦略の可能性を提供する(Vassalli et al,2009)。心疾患に対する遺伝子治療の臨床的成功は、遺伝子導入効率に伴う課題:標的組織への送達不足、治療効果の消失および用量を制限する宿主の免疫系との相互作用により、当初予測されていたよりも遅れている(Sasano et al,2007)。送達の問題は、これらの中で最大の課題である。報告されている心筋送達の方法としては、心筋内注射、冠動脈カテーテル法、心膜送達(pericardial delivery)、大動脈遮断中の心室腔注入および心肺バイパス中の潅流が挙げられる(Muller et al,2007;Sasano et al,2007)。
【0004】
プラスミド/ネイキッドDNAの使用が、動物モデルおよび難治性の心筋虚血を有する患者において治療効果をもたすことが実証されている。しかし、ネイキッドDNAは十分な効率で細胞に自然に入ることができないので、ネイキッドDNAの全身注射は、心筋遺伝子送達には非効率的な技術である。ネイキッドDNAがリポソーム、コレステロールリポポリマー、ポロキサミンナノスフィア(poloaxime nanospheres)およびゼラチンのような化合物と結合している場合、トランスフェクション効率は典型的には高められ得るが、これらの化合物は心筋特異性を高めない(Lyon et al,2008)。従って、心臓へのネイキッドDNA送達は、直接的な心筋内注射(Muller et al,2007)によってまたはソノポレーションもしくは(UTMD)超音波標的微小気泡破壊(ultrasound targeted microbubble destruction)によって実施しなければならないが、トランスフェクション効率は依然として限定的である(Dishart et al,2003;Lyon et al,2008)。
【0005】
非ウイルスベクターおよびプラスミドDNAは安全でありまた比較的低コストであるが、これらは宿主ゲノムに組み込まれるか、またはエピソームの形態で存続することができないで、これらは一過性のトランスフェクションをもたらすだけである。これが、これらを、心筋症のような心疾患または遺伝性心疾患において必要とされる長期遺伝子発現に不適なものにしているが、これらは、一過性である血管形成関連の用途には好適であり得る(Muller et al,2007)。これらは、プラスミドDNAが心筋遺伝子送達および発現において非能率であることを示す(Lyon et al,2008)。
【0006】
4個のクラスのウイルスベクターが、心筋遺伝子送達に主に使用されている:レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルス(Ad)ベクターおよびAAVベクター(Lyon et al,2008)。これらの中で、AAVは、他のベクターと比較して、心臓に形質導入するのにより効率的であることが証明されている。アデノウイルスベクターもまた心臓に形質導入することが示されているが、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターを用いた心筋形質導入は比較的非効率的である。ほとんどの治験責任医師は、長期発現を達成し、Adに伴う炎症の性質を克服するために、AAVに切り替えている(Sasano et al,2007)。AAVに関連して明らかな病状は認められておらず(Godecke et al,2006)、これは、AAVベクターによって送達された遺伝子の数ヶ月間の持続発現に一致している(Lyon et al,2008)。
【0007】
AAVベクターは、動物モデルの心臓およびヒトの骨格筋における長期遺伝子導入を可能にするが、特異性は転写ターゲティングによって高められ得る(Goehringer et al,2009)。心臓において、AAV2ベクターは、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、ヒト線維芽細胞成長因子受容体1およびインテグリンαvβ5/α5β1などの特定の細胞表面受容体を利用して、受容体介在性エンドサイトーシスによって細胞に入る。これらは、血管内送達の後、内皮障壁を横断して心筋細胞に到達するために、内皮細胞のトランスサイトーシス輸送経路(transcytosis trafficking pathway)を利用する。遺伝子治療に使用される組換えAAV(rAAV)は心筋細胞のゲノムに組み込まれず、むしろエピソーム性DNAとして存在する(Lyon et al,2008)。
【0008】
現在同定されている12個の抗原型クラスのAAVの中で、AAV1、AAV6、AAV8およびAAV9が、心臓遺伝子治療のための別の候補ベクターよりも高い心筋指向性を有することが認められている。また、これら4個の中で、AAV9が、心臓遺伝子送達に最も効率的なベクターであった(VandenDriessche et al.,2007)。マウスモデルにおいて、レポーター遺伝子を保有するAAV9の単回静脈投与量だけを投与した後に、比較的心臓指向性であるAAV1と比較して、心筋形質導入効率の220倍の上昇が得られた(Lyon et al,2008)。
【0009】
遺伝子治療のためのrAAVベクターの使用の成功にもかかわらず、幾つかの障害が依然として存在する。ベクターカプシドに対する中和抗体の問題は、同じ抗原型のAAVベクターの投与を妨げる主な障害の1つである(Kwon et al,2008))。さらに、主要組織適合遺伝子複合体クラスI抗原(MHC−I)と結合して形質導入標的細胞の表面上に提示されたAAVカプシド抗原に対するT細胞免疫応答は、長期遺伝子発現を抑制し得る。他の問題としては、ヘパラン硫酸に結合する抗原型に関する限定的な組織指向性が挙げられる;幹細胞などの抵抗性細胞型(refractory cell types)の感染不良;特定の細胞集団への高効率標的遺伝子送達に伴う課題(VandenDriessche et al,2007);比較的限定的な包装容量および非効率的な大規模生産(Lyon et al,2008);おそらく細胞質輸送、ベクターの脱殻および一本鎖ゲノムの二本鎖DNAへの変換により遺伝子発現の開始が比較的遅いこと(Muller et al,2007;Douar et al,2001)。特定の問題は、心臓特異的であり続ける高い発現レベルを達成することである。これは心臓特異的プロモーターの使用によって解決することができるが、多くのベクターは限られたクローニングスペースおよび/または強力な(ウイルス)プロモーター(例えば、遺伝子治療プロトコールにおいて広く使用されているサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列または長い末端反復(LTR)プロモーター配列)と比較して低い活性を有するので、これらの欠点としては、これらのプロモーターの大きなサイズが挙げられ得る。
【0010】
他の組織(例えば、骨格筋または肝臓(Yue et al,2008,VandenDriessche et al.,2007))の形質導入を回避するために、転写ターゲティングを使用して、心臓特異的実験に対するベクターの特異性を高めることができる(Goehringer et al,2009)。非特異的プロモーターは、特に静脈内のベクター用途(Goehringer et al,2009)に関してベクタープラスミドに対する免疫応答(Cao et al,2002)を潜在的に引き起こすことができるので、組織特異的プロモーターは、特異性を保持しており、従ってウイルスベクターに良いプロモーターである(Reynolds et al,2001)。組織特異的プロモーターは、内因性または外因性因子によって同様に誘導され得るので(Venter et al,2007)、誘導性プロモーターとも考えられ得ることにも注目すべきである。ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(Fomicheva et al,2008;Phillips et al,2002)、筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、ミオシン軽鎖(MLC)2vプロモーター(Gruber et al,2004;Su et al,2004)、αミオシン重鎖プロモーター(Bostick et al,2009;Black et al,2002;Aikawa et al,2002)などの多くのプロモーターが心臓送達に関する遺伝子治療研究に使用されてきた。αミオシン重鎖(αMHC)プロモーターは、最も一般的に使用されている心筋特異的プロモーターであり(Buerger et al,2006)、ほとんどの研究において心臓で高特異的および強いレベルの発現を示している。(MLC)2vプロモーターもまた、様々な心臓遺伝子治療研究によって使用されてきたが、肝臓において部分的な発現を有することが認められている(Phillips et al,2002;Su et al,2004)。AAV9ベクターにおける5個の異なる組織特異的プロモーターの比較研究が、Pacakらによって行われ、比較分析により、αMHCプロモーターが最も心臓特異的な発現をもたすことが明らかになった(Pacak et al,2008)。これにもかかわらず、遺伝子治療ベクターとの関連で使用されてきたプロモーターの選択は、依然として比較的限られている。さらに、多くの現在使用されている心臓特異的プロモーターのロバスト性は、さらに増大することができる。
【0011】
臨床効果を達成するために必要なウイルスベクターの量を減少させるための方法としては、組織特異的導入遺伝子発現の増強が望ましい。活性を増強するために、シス作用性調節因子の使用が提示されている。典型的には、これはエンハンサー配列[即ち、配向には無関係に、比較的長い距離にわたる(標的プロモーターから最大数キロベースまで離れている)場合であっても、プロモーターの活性を増強し、シスで作用する可能性を有する核酸配列]に関係している。しかし、エンハンサー機能は必ずしもこのような長い距離に限定されるわけではない。これらは、与えられたプロモーターの近くにおいても機能し得るからである。CMV、αMHC、ラウス肉腫ウイルスゲノムの長い末端反復(RSV)、シミアンウイルス(SV40)、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)および筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)のような幾つかのエンハンサーは、様々なベクターおよびトランスジェニック動物において広く使用されている(Xu et al,2001;Wang et al,2008;Salva et al,2007)。ほとんどの研究者は、ヒトCMV前初期エンハンサーを、導入遺伝子を発現させるのに使用してきた(Xu et al,2001;Gruh et al,2008;Muller et al,2000;Raake et al,2008)。
【0012】
より大きな効果のために、異なる起源に由来するエンハンサー/プロモーター単位を交換することによってキメラエンハンサー/プロモーターが構築されることもある。最も広く使用されているこのようなキメラは、CMV前初期エンハンサー、ニワトリβアクチン遺伝子プロモーターおよびウサギβグロビンスプライスアクセプターまたはイントロンの組み合わせから生じるCAGプロモーターであり、これは、ウイルスまたは非ウイルスベクターを通じて幾つかの組織における遺伝子発現を強く駆動する(Xu et al,2001;Wang et al,2008)。しかしながら、このようなエンハンサーは心臓組織に限定的ではないので、特異性を高めない。
【0013】
導入遺伝子産物の治療レベルを長期間にわたってもたらし得るためには、遺伝子導入ベクターは、好ましくは、特異的に調節された高い発現を可能にすると同時に、導入遺伝子が挿入されるのに十分なクローニング空間を保有する。即ち、高度および組織特異的な発現を達成するために使用される調節因子は、好ましくは、限られた長さのものであるに過ぎない。しかし、これまでに開示されている遺伝子治療用ベクターはいずれも、全てのこれらの基準を満たしているわけではない。実際、遺伝子治療用ベクターは、所望の標的細胞、特に心臓細胞における発現レベルおよび/または発現特異性の点で十分に強固ではない。プロモーター/エンハンサーのサイズの減少は、しばしば、発現レベルおよび/または発現特異性を妨げたが、より大きな配列の使用は、しばしば、ベクター機能、パッケージングおよび/またはトランスフェクション/形質導入効率の阻害により遺伝子送達の効率を損なう。従って、有効な遺伝子治療のための心臓における導入遺伝子発現の治療レベルを達成するベクターが当技術分野において必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Krum et al,2009
【非特許文献2】LaPointe et al,2002
【非特許文献3】Lyon et al,2008
【非特許文献4】Fomicheva et al,2008
【非特許文献5】Bostick et al,2009
【非特許文献6】Jacques et al,2008
【非特許文献7】Wang et al,2009
【非特許文献8】Muller et al,2007
【非特許文献9】Fomicheva et al,2008
【非特許文献10】Stewart et al,2009
【非特許文献11】Vassalli et al,2009
【非特許文献12】Sasano et al,2007
【非特許文献13】Dishart et al,2003
【非特許文献14】Godecke et al,2006
【非特許文献15】Goehringer et al,2009
【非特許文献16】VandenDriessche et al.,2007
【非特許文献17】Kwon et al,2008
【非特許文献18】Douar et al,2001
【非特許文献19】Yue et al,2008
【非特許文献20】Goehringer et al,2009
【非特許文献21】Reynolds et al,2001
【非特許文献22】Cao et al,2002
【非特許文献23】Venter et al,2007
【非特許文献24】Phillips et al,2002
【非特許文献25】Gruber et al,2004
【非特許文献26】Su et al,2004
【非特許文献27】Black et al,2002
【非特許文献28】Aikawa et al,2002
【非特許文献29】Buerger et al,2006
【非特許文献30】Pacak et al,2008
【非特許文献31】Xu et al,2001
【非特許文献32】Wang et al,2008
【非特許文献33】Salva et al,2007
【非特許文献34】Gruh et al,2008
【非特許文献35】Muller et al,2000
【非特許文献36】Raake et al,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
遺伝子治療に使用される構築物の心臓特異的発現の効率を特にインビボで増加させることが本発明の目的である。同時に、高度の構造的密集性を有する構築物を使用してこれを達成することが本発明の目的である。
【0016】
従って、組織特異的調節因子を設計および選択するのに合理的な方法を使用して、非常に効率的な遺伝子送達システムに関する強力な組織特異的プロモーターを得た。距離差行列(distance difference matrix)(DDM)ならびに合理的なインシリコ設計および分析に基づくデータマイニングアルゴリズムに関する多専門的方法を使用することによって、特定の染色体コンテクスト(chromosomal context)に配置された心臓転写因子結合部位(TFBS)において非常に豊富に存在する強力な心臓特異的「レギュロン」を同定した。心臓特異的プロモーターと呼応するこれらのレギュロンは、インビボにおいても高いレベルの心臓特異的発現を指示する強力な心臓特異的合成プロモーター/エンハンサーであることが示された。上記の目的は、組織特異性を保有または増強さえする一方でプロモーター発現を増強する特異的調節因子を提供することにより達成される。特に重要なのは、これらの調節因子サイズが小さいことであり、これは、この転写制御単位を、大きなエフェクター遺伝子と組み合わされている場合であっても任意のタイプのウイルスまたは非ウイルスベクター内に収容することを可能にする。これらの限られた長さにもかかわらず、本発明で提供される調節因子は、遺伝子治療において使用される、より長い通常の核酸発現カセットと比較して類似したレベル、および典型的にはより一層高いレベルまで、導入遺伝子の発現を増強し得る。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従って、第一の態様によれば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはこれらの機能性断片からなる群から選択される配列を含む、肝臓特異的遺伝子発現を増強するための700ヌクレオチド以下の核酸調節因子を提供する。特定の実施形態によれば、調節因子はさらにより短く、特に400ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド以下、さらにより特には250ヌクレオチド以下、最も特には220ヌクレオチド以下または200ヌクレオチド以下である。
【0018】
さらなる特定の実施形態によれば、核酸調節因子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはこれらの機能性断片からなる群から選択される配列を含む。さらなる特定の実施形態によれば、核酸調節因子は、配列番号1、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはこれらの機能性断片を含む。別の実施形態によれば、核酸調節因子は、配列番号5、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはこれらの機能性断片を含む。
【0019】
別の実施形態によれば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはこれらの機能性断片からなる群から選択される配列を含む調節因子にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする600ヌクレオチド以下の核酸調節因子を提供する。
【0020】
さらなる別の実施形態によれば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8およびこれらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列からなる群から選択される配列の少なくとも2つの断片を含む600ヌクレオチド以下の核酸調節因子を提供する。さらなる特定の実施形態によれば、これらの断片の少なくとも2つは互いに異なる。さらなる特定の実施形態によれば、全ての断片は互いに異なる。別の特定の実施形態によれば、少なくとも2つの断片は同一である。別の具体的な実施形態によれば、少なくとも2つの断片の少なくとも1つは機能性断片である。さらなる具体的な実施形態によれば、全ての断片は、挙げられている配列の機能性断片である。
【0021】
さらなる態様では、調節因子は、遺伝子または導入遺伝子を発現させるために使用される。従って、プロモーターに機能的に連結された、本明細書において記載される核酸調節因子を含む核酸発現カセットを提供する。この態様のさらなる実施形態によれば、核酸発現カセットの核酸調節因子はプロモーターおよび導入遺伝子に機能的に連結されている。
【0022】
具体的な実施形態によれば、2つ以上の核酸調節因子を含む核酸発現カセットを提供する。この場合、これらの2つ以上の核酸調節因子はプロモーターに、また場合によっては導入遺伝子に機能的に連結されている。さらなる具体的な実施形態によれば、これらの2つ以上の調節因子の少なくとも2つは同一または実質的に同一(例えば、90%または95%同一)である。さらなる具体的な実施形態によれば、これらの2つ以上の調節因子の全ては同一または実質的に同一である。別の具体的な実施形態によれば、これらの2つ以上の調節因子の少なくとも2つは互いに同一でない。
【0023】
特定の実施形態によれば、提供する核酸発現カセット内に含まれるプロモーターは心臓特異的プロモーターである。さらなる特定の実施形態によれば、心臓特異的プロモーターはミオシン重鎖遺伝子に由来する。さらなる特定の実施形態によれば、ミオシン重鎖プロモーターはミオシン重鎖α(αMHC)、最も特にはPacak et al.,2008に定義されている363bpプロモーターに由来する。
【0024】
別の特定の実施形態によれば、提供する核酸発現カセットはβグロビンイントロンをさらに含む。
【0025】
核酸発現カセット内に含まれ得る導入遺伝子は、RNAまたはポリペプチド(タンパク質)のような遺伝子産物を典型的にコードする。具体的な実施形態によれば、導入遺伝子は治療用タンパク質をコードする。さらなる具体的な実施形態によれば、治療用タンパク質は血管形成因子(例えば、VEGFまたはPlGF)、ATPアーゼ(SERCA2a)、イオンチャネル、サイトカインおよび成長因子からなる群から選択される。
【0026】
本明細書において記載される核酸発現カセット、および調節因子でさえも、そのまま使用され得る。しかし、典型的な実施形態では、発現カセットは核酸ベクターの一部となる。従って、さらなる態様では、本明細書において記載される調節因子を含むベクターを提供する。特定の実施形態によれば、ベクターは、本出願において開示される核酸発現カセットを含む。
【0027】
具体的な実施形態によれば、提供するベクターはウイルスベクター、特にレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスまたはAAVベクター、より特には、レンチウイルスまたはAAVベクターである。特に想定される実施形態によれば、ベクターは、AAV9またはAAV2/9などのAAVベクターである。別の実施形態によれば、ベクターは非ウイルスベクターである。さらに別の実施形態によれば、ベクターはウイルス因子および非ウイルス因子の両方を含む。
【0028】
心臓特異的調節因子、核酸発現カセットおよびこれらのいずれかを含むベクターは遺伝子治療目的に使用され得ることが当業者に明らかである。従って、遺伝子治療における、本明細書において記載される核酸調節因子の使用が想定される。別の特定の実施形態によれば、遺伝子治療における、本明細書において開示される核酸発現カセットの使用を開示する。さらなる特定の実施形態によれば、本出願は、遺伝子治療のための、本明細書において記載されるベクターの使用を想定している。特定の実施形態によれば、想定される遺伝子治療は心臓特異的遺伝子治療である。別の特定の実施形態によれば、遺伝子治療は、心臓において生じた疾患に対する遺伝子治療である。
【0029】
本発明のさらなる態様によれば、
本明細書において記載される核酸調節因子がプロモーターおよび導入遺伝子に機能的に連結された核酸発現カセットを心臓細胞内に導入する段階;
導入遺伝子産物を心臓細胞内で発現させる段階
を含む、心臓細胞において導入遺伝子産物を発現させるための方法を提供する。
【0030】
さらなる特定の実施形態によれば、導入遺伝子産物はタンパク質である。さらなる特定の実施形態によれば、タンパク質は治療用タンパク質である。別の実施形態によれば、導入遺伝子産物はRNA(例えば、miRNAまたはsiRNA)である。別の特定の実施形態によれば、方法をインビトロで行う。別の特定の実施形態によれば、方法をエクスビボで行う。別の特定の実施形態によれば、方法をインビボで行う。
【0031】
遺伝子治療を必要とする被験体における遺伝子治療の方法も本発明において提供する。これらの方法は、典型的には、
核酸発現カセットを被験体の心臓内に導入する段階であって、ここで、本明細書において記載される核酸調節因子は、プロモーター、および治療用タンパク質をコードする導入遺伝子に機能的に連結されている段階;
治療量の(治療用)タンパク質を心臓内で発現させる段階
を含む。
【0032】
核酸発現カセットこれ自体を導入する代わりに、方法は、核酸発現カセットを含むベクターを被験体の心臓内に導入することも可能であり、ここで、本明細書において記載される核酸調節因子は、プロモーター、および治療用タンパク質をコードする導入遺伝子に機能的に連結されている。幾つかの疾患は、遺伝子治療を用いた処置に関して想定されるが(例えば、血管形成不全、心不全など)、例は本出願において提供される。一般に、これを必要とする被験体は哺乳動物、最も特にはヒトである。典型的には、これを必要とする被験体は、ある症状、最も特には、疾患に特徴的な症状を有する。さらなる特定の実施形態によれば、方法は、治療量の治療用タンパク質を発現させることにより、症状の改善を必要とする被験体の症状を改善する段階をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】αミオシン重鎖エンハンサー/プロモーター(αMHC)の転写因子結合部位(調節因子のカタログ−http://www.cbil.upenn.edu/MTIR/MHCa−sites.html#MARKER−MHCa_seq1)を示す。
【図2】MacVectorソフトウェアツールを使用して理論上の配列から作製したプラスミドベクターを示す。各制限部位を使用して、様々な因子をクローニングした。最初にhrGFPがクローニングされ、次いでαMHCpがクローニングされた。最後に、βグロビンイントロンをクローニングして、pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pA[A]を作製した。次いで、プラスミドを配列決定し、続いてプラスミド[A]中のAcc65Iクローニング部位にレギュロンをクローニングして、pAAV−Reg−αMHCp−βGI−hrGFP−pAを作製した。レギュロンを有する各プラスミドに名前をつけた。レギュロンの名前の後ろに各レギュロンを有する新たに作製した各構築物を指定した。例えば、Casq2e2レギュロンをpAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAプラスミドにクローニングすると、pAAV−Casq2e2−αMHCp−βGI−hrGFP−pA[B]とした。各クローニングの後にスクリーニングをして、細菌形質転換から生じたコロニーから陽性クローンを選択した。Regは、レギュロン(Myl3、Brd7、Myl2、Casq2e1、Casq2e2、Ankrd1e1、Ankrd1e2およびAnkrd1e3)に対応する。aMHCpおよびbGlntron(βGI)は、αMHCpおよびβグロビンイントロンにそれぞれ対応する。
【図3】αMHCpおよびTFBSに非常に豊富に存在する心臓特異的レギュロンの組み合わせから生じた、過活性を高めるための過活性心臓特異的プロモーターを示す。この場合、αMHCpを使用して、各レギュロンから発現カセットを作製した。従って、クローニングによって合計8個の発現カセットを作製した。
【図4】pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAの作製を示す。NheIおよびBglII制限部位に隣接する増幅hrGFP挿入物とのライゲーションを可能にするNheIおよびBglII制限酵素分解を使用して、第一のベクター断片を作製し、pAAV−hrGFP−pA[A]を得た。次いで、Acc65IおよびNheI制限酵素を用いて、pAAV−hrGFP−pAベクターを分解し、Acc65I−NheI部位に隣接するαMHCpとライゲーションした。今度はNheI制限酵素を用いて、この得られたpAAV−αMHCp−hrGFP−pA[B]を分解した。βグロビンイントロン(βGI)とのライゲーション後に得られたベクタープラスミドが、pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pA[C]であった。
【図5】pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAの作製における確認制限に関する電気泳動の画像を示す。hrGFPをAAVベクターにライゲーションした後に得られたクローンを、BglII制限酵素と一緒にNheIを用いて1回の反応で確認した。この制限は、ベクター[A]から716bpのhrGFP断片を切り出した。同様に、pAAV−αMHCp−hrGFP−pAを、NheIと一緒にAcc65Iを用いて1回の反応で確認して、αMHCpの断片長363bpを切り出した。NotI−NdeI制限を用いたさらなる確認により、αMHCpの336bp部分を取り出した[B]。BglII−NdeIを用いた確認制限は1246bp断片を生成するが、NheI−Acc65Iは867bp断片を生成し、ベクター構築物中のβGIの存在を確認する[C]。全てのラダーに使用した標準染料は、WestburgのTryDye 2Logであった。
【図6】pAAV−Reg−αMHCp−βGI−hrGFP−pAの作製を示す。各レギュロンは両端のAcc65I制限部位に隣接しており、Acc65I制限酵素を用いてpAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAベクターを分解した後にクローニングした。この酵素はL−ITRの下流に位置するAcc65I部位を切断するので、8個のレギュロンのクローニングから生じた8個の発現カセットそれぞれが、このレギュロンをL−ITRとαMHCp領域との間に有していた[A]。[B]Acc65Iおよびホスファターゼによる処理後のベクター(V=pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pA)にクローニングする前の8個のレギュロン(ウェル番号1から8)全てを示す電気泳動写真(electrophoregram)。[C]レギュロンをセンスまたはアンチセンス方向に有するベクタークローンを決定するのに、MluI−NdeI制限を使用した。赤色囲み線=センス断片のバンド、黄色囲み線=アンチセンス方向の断片のバンド、青色囲み線=レギュロン中のNdeI部位の存在から生じたバンド。[D]MluIの処理後、全てのクローンは1個のバンドだけを示したが、これは、クローンのいずれもがレギュロンをタンデムに有していなかったことを意味している。[E]選択した陽性クローン中の正しいレギュロンを確認するために、Acc65I制限を実施した(1から5→試験したレギュロンを有するベクター:1=Brd7;2=Casq2e1、3=Ankrd1e1、4=Ankrd1e2および5=Ankrd1e3)。同じ標準染料を全てのラダーに使用し、これはWestburgのTryDye 2Logであった。
【図7】HEK293細胞におけるトランスフェクション効率を示す。[A]蛍光顕微鏡下で見たトランスフェクション後24時間におけるhrGFPの発現。[B]通常の白色光を用いた微鏡下のトランスフェクト293細胞は、約99%コンフルエントの細胞を示している。このバックグラウンドは、トランスフェクション効率の控除を可能にした。[C]HEK293細胞のトランスフェクション後48時間のhrGFP発現は、約95%のトランスフェクション効率を示している。
【図8】Q−PCRによる4個のベクターの力価測定を示す。ABI(PERKIM ELMER)Q−PCRマスターミックスおよび導入遺伝子DNA標的配列としてのウシ成長ホルモンポリA(BGHポリA)を専ら検出するためのTAQMANプローブおよびプライマーを使用して、ABI7500 FAST(Applied Biosystemsのシーケンサー検出器単位、フォスター、カリフォルニア州、米国)でQ−PCRを実施した。一定の標準規格を調製して標準曲線を得、各試料でシグナルを計算し、今度はこれを、各ベクターのゲノムコピー数を測定するのに使用した。
【図9】pAAV−Casq2e1−αMHCp−hrGFP−pAによる選択的心臓特異的発現を示す。半定量的RT−PCRによって、注射したマウス全ての心臓におけるGFP発現を確認した。Casq2e1ベクターの心臓は、心臓におけるGFP転写産物の比較的強い発現に対応する目立つバンドを示していた。αMHCpおよびMyI2を注射したマウスの心臓は、より少量のGFP転写産物を示していた。脾臓においてGFPは認められなかった[A]。0.8kb GAPDHは、内部対照遺伝子としての役割を果たした。[B]。hrGFPを増幅したプラスミドを連続的に希釈したものを基準に使用した。ラダーに使用した標準染料は、WestburgのTryDye 2Logであった。
【図10A】長期心臓特異的GFP発現の比較分析を示す。中投与量のAAV−Casq2e1−αMHCp−βGI−hrGFP−pA(即ち、エンハンサー4、配列番号1を使用して)(A)、AAV−Ankrd1e2−αMHCp−βGI−hrGFP−pA(即ち、エンハンサー7、配列番号5を使用して)(B)および高投与量の参照ベクターAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pA(C)で注射したマウスの心臓を示す共焦点顕微鏡検査データ。
【図10B】長期心臓特異的GFP発現の比較分析を示す。中投与量のAAV−Casq2e1−αMHCp−βGI−hrGFP−pA(即ち、エンハンサー4、配列番号1を使用して)(A)、AAV−Ankrd1e2−αMHCp−βGI−hrGFP−pA(即ち、エンハンサー7、配列番号5を使用して)(B)および高投与量の参照ベクターAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pA(C)で注射したマウスの心臓を示す共焦点顕微鏡検査データ。
【図10C】長期心臓特異的GFP発現の比較分析を示す。中投与量のAAV−Casq2e1−αMHCp−βGI−hrGFP−pA(即ち、エンハンサー4、配列番号1を使用して)(A)、AAV−Ankrd1e2−αMHCp−βGI−hrGFP−pA(即ち、エンハンサー7、配列番号5を使用して)(B)および高投与量の参照ベクターAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pA(C)で注射したマウスの心臓を示す共焦点顕微鏡検査データ。
【図11】定量的RT−PCRによる長期心臓特異的GFP発現の比較分析を示す。図10にあるように、AAV−Casq2e1−αMHCp−βGI−hrGFP−pAおよびAAV−Ankrd1e2−αMHCp−βGI−hrGFP−pAを参照ベクターAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAと比較している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
定義
本発明は特定の実施形態に関しておよびある図面を参照して以下に説明されるが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求のみによって限定される。特許請求の範囲におけるいずれの引用表示も本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。記載されている図面は概要図に過ぎず、限定的なものではない。図面においては、因子の幾つかのサイズは誇張されていることがあり、例示を目的として、実物大では描かれていないことがある。「含む」という用語が本明細書および特許請求の範囲において用いられている場合、これは他の因子または段階を除外しない。例として「a」「an」、「the」のついた単数形の名詞が用いられている場合、特に示されていない限り、複数形の名詞を含む。
【0035】
さらに、本明細書および特許請求の範囲における第一、第二、第三などの語は、類似因子を区別するために用いられており、必ずしも、連続的または時間的順序を示すために用いられているわけではない。このように用いられる用語は適切な状況下で互換可能であり、本明細書において記載される本発明の実施形態は、本明細書において記載または例示されているもの以外の他の順序においても実施可能であると理解されるべきである。
【0036】
以下の用語または定義は専ら本発明の理解を補助するために記載されている。本明細書中に特に示されていない限り、本明細書において使用される全ての用語は、本発明の当業者に認識されているものと同じ意義を有する。当技術分野における定義および用語に関しては、特に、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Press,Plainsview,New York(1989);およびAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(Supplement 47),John Wiley&Sons,New York(1999)が実施者に参考になる。本明細書において記載される定義は、当業者に理解されているものより狭い範囲を有すると解釈されるべきではない。
【0037】
本明細書において使用される「調節因子」は、遺伝子の転写、特に遺伝子の組織特異的転写を調節および/または制御し得る転写制御因子、特に非コード化シス作用性転写制御因子を意味する。調節因子は、少なくとも1つの転写因子結合部位(TFBS)、より特には、組織特異的転写因子に対する少なくとも1つの結合部位、最も特には、心臓特異的転写因子に対する少なくとも1つの結合部位を含む。典型的には、本明細書において使用される調節因子は、プロモーター駆動性遺伝子発現を、調節因子を伴わないプロモーター単独の遺伝子転写と比較して増加または増強する。従って、調節因子は特にエンハンサー配列を含む。もっとも、転写を増強する調節因子は典型的な遠上流エンハンサー配列に限定されるものではなく、これが調節する遺伝子から任意の距離において存在し得ると理解されるべきである。実際、転写を調節する配列は、インビボでこれが調節する遺伝子の上流(例えば、プロモーター領域)または下流(例えば、3’UTR内)に位置することが可能であり、遺伝子の至近距離または遥か遠くに位置し得ることが、当技術分野において公知である。注目すべきことに、本明細書において開示される調節因子は、典型的には、天然に存在する配列、このような調節因子の(部分の)組み合わせ、または調節因子の幾つかのコピーである。即ち、天然に存在しない配列自体も調節因子として想定される。本明細書において使用される調節因子は、転写制御に関与する、より大きな配列の一部、例えば、プロモーター配列の一部であり得る。しかし、典型的には、調節因子のみでは、転写を開始させるのに十分ではなく、この目的にはプロモーターを必要とする。
【0038】
本出願において使用される「心臓特異的(cardiac−specific)発現」または「心臓特異的(heart−specific)発現」は、他の組織と比較した場合の心臓(または心臓組織)における(RNAおよび/またはポリペプチドとしての)(トランス)遺伝子の優先的または優勢な発現を意味する。特定の実施形態によれば、(トランス)遺伝子発現の少なくとも50%が心臓内で生じる。より特定の実施形態によれば、(トランス)遺伝子発現の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%または100%が心臓内で生じる。特定の実施形態によれば、心臓特異的発現は、他の臓器、例えば肝臓、非心筋、肺、腎臓および/または脾臓への、発現された遺伝子産物の漏出が存在しないことを必要とする。従って、特定の実施形態によれば、10%未満、5%未満、2%未満またはさらに1%未満の(導入)遺伝子発現は、心臓以外の臓器または組織内において起こる。変更すべきところは変更して、心筋細胞特異的発現にも同じことが当てはまり、これは心臓特異的発現の特定の形態とみなされ得る。本出願の全体において、心臓特異的が発現の文脈において言及される場合、心筋細胞特異的発現も明らかに想定される。同様に、本出願において組織特異的発現が用いられている場合、組織を主として構成する細胞型の細胞型特異的発現も想定される。
【0039】
本出願において使用される「機能性断片」という用語は、心臓特異的発現を調節する能力を保有する、本明細書において開示される配列の断片を意味する。即ち、これらは尚も組織特異性をもたらし、これらは、これらが由来する配列と同様に(しかし、おそらくは同じ度合ではないが)、(トランス)遺伝子の発現を調節し得る。断片は、これらが由来する配列からの少なくとも10個の連続的ヌクレオチドを含む。さらなる特定の実施形態では、断片は、これらが由来する配列からの少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35または少なくとも40個の連続的ヌクレオチドを含む。
【0040】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ(する)」という用語およびこの文法的等価体は、温度および塩濃度の一定条件下、標的核酸分子に核酸分子がハイブリダイズし得ることを意味する。典型的には、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、天然二重鎖の融解温度(Tm)よりせいぜい25℃から30℃(例えば、20℃、15℃、10℃または5℃)低い温度である。Tmを計算するための方法は当技術分野でよく知られている。非限定的な具体例を挙げると、ストリンジェントなハイブリダイゼーションを達成するための代表的な塩および温度条件は65℃における1×SSC、0.5%SDSである。SSCなる略語は、核酸ハイブリダイゼーション溶液中で使用されるバッファーを意味する。1リットルの20×(20倍濃度)ストックSSCバッファー溶液(pH7.0)は175.3gの塩化ナトリウムおよび88.2gのクエン酸ナトリウムを含む。ハイブリダイゼーションを達成するための典型的な時間は12時間である(全般的には、Sambrook et al.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nded.,Cold Spring Harbor Press,1987;Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing,1987を参照)。
【0041】
本明細書において使用される「核酸発現カセット」という用語は、1つ以上の所望の細胞型、組織または器官において(トランス)遺伝子発現を導く1つ以上の転写制御因子(限定的なものではないが例えば、プロモーター、エンハンサーおよび/または調節因子、ポリアデニル化配列およびイントロン)を含む核酸分子を意味する。核酸発現カセットは、核酸配列が挿入されている細胞における内因性遺伝子の発現を導くことも想定されるが、典型的には、これらは導入遺伝子をも含む。
【0042】
本明細書において使用される「機能的に連結」という用語は、種々の核酸分子因子が機能的に連結されており互いに相互作用し得るような、それぞれに対する核酸分子因子の配置を意味する。このような因子には、プロモーター、エンハンサーおよび/または調節因子、ポリアデニル化配列、1つ以上のイントロンおよび/またはエキソン、ならびに発現されるべき関心遺伝子のコード配列(即ち、導入遺伝子)が含まれ得るが、これらに限定されるものではない。これらの核酸配列因子は、適切に配向しているまたは機能的に連結されている場合には、互いの活性をモジュレーションするように一緒に作用し、最終的には導入遺伝子の発現のレベルに影響を及ぼし得る。モジュレーションは、特定の因子の活性のレベルの増加、減少または維持を意味する。他の因子に対する各因子の位置は各因子の5’末端および3’末端として表されることが可能であり、いずれかの特定の因子の間の距離は、これらの因子間の介在ヌクレオチドまたは塩基対の数により示され得る。
【0043】
本出願において使用される「プロモーター」という用語は、これが機能的に連結されている対応核酸コード配列(例えば、導入遺伝子または内因性遺伝子)の転写を直接的または間接的に調節する核酸配列を意味する。プロモーターは、転写を調節するよう単独で機能し得る。またはプロモーターは1つ以上の他の調節配列(例えば、エンハンサーまたはサイレンサー)と共に作用し得る。本出願の文脈においては、プロモーターは、典型的には、導入遺伝子の転写を調節するよう調節因子に機能的に連結される。本明細書において記載される調節因子がプロモーターおよび導入遺伝子の両方に機能的に連結されている場合、調節因子は、(1)導入遺伝子の有意な度合の心臓特異的発現をインビボ(および/または心筋細胞/心臓由来細胞系でインビトロ)でもたらすことが可能であり、および/または(2)心臓(および/またはインビトロで心筋細胞/心臓細胞系)における導入遺伝子の発現のレベルを増加させることが可能である。本明細書において使用される「最小プロモーター」は、発現を尚も導き得るが(例えば組織特異的)発現の調節に寄与する配列の少なくとも一部を欠く、完全サイズのプロモーターの一部である。この定義は、遺伝子の発現を導き得るが組織特異的にこの遺伝子を発現する能力を喪失している、(組織特異的)調節因子が欠失しているプロモーターと、遺伝子の(おそらくは低下した)発現を駆動し得るが組織特異的にこの遺伝子を発現する能力を必ずしも喪失していない、(組織特異的)調節因子が欠失しているプロモーターとの両方を含む。最小プロモーターは当技術分野において詳細に記載されており、本明細書には最小プロモーターの非限定的な一覧が記載されている。
【0044】
本明細書において使用される「導入遺伝子」という用語は、核酸配列が挿入された細胞において発現されるべきポリペプチドまたはポリペプチドの一部をコードする特定の核酸配列を意味する。しかし、導入遺伝子は、典型的には、核酸配列が挿入された細胞における特定のポリペプチドの量を制御する(例えば、減少させる)ために、RNAとして発現されることも可能である。これらのRNA分子には、RNA干渉により機能を果たす分子(shRNA、RNAi)、マイクロ−RNA調節(miR)(これは、特異的遺伝子発現を制御するのに使用され得る。)、触媒性RNA、アンチセンスRNA、RNAアプタマーなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。核酸配列をどのようにして細胞内に導入するかは本発明にとって本質的ではなく、これは、例えば、ゲノム内へのまたはエピソーム性プラスミドとしての組込みによるものであり得る。注目すべきことに、導入遺伝子の発現は、核酸配列が挿入された細胞の小集団に限局され得る。「導入遺伝子」という用語は、(1)細胞において天然では見出されない核酸配列(即ち、異種核酸配列)、(2)これが導入された細胞において天然で見出される核酸配列の突然変異形態である核酸配列、(3)これが導入された細胞において天然で見出される同じ(即ち、相同)または類似した核酸配列の追加的コピーを付加するよう働く核酸配列、または(4)これが導入された細胞において発現が誘導される、天然に存在するまたは相同なサイレント核酸配列を含むと意図される。「突然変異形態」は、野生型または天然に存在する配列とは異なる1つ以上のヌクレオチドを含む核酸配列を意味する。即ち、突然変異核酸配列は1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失および/または挿入を含む。幾つかの場合には、導入遺伝子は、導入遺伝子産物が細胞から分泌されるよう、リーダーペプチドまたはシグナル配列をコードする配列を含み得る。
【0045】
本出願において使用される「ベクター」という用語は、別の核酸分子(挿入核酸分子)、例えばcDNA分子(これに限定されるものではない。)が挿入されていることが可能である、核酸分子、通常は二本鎖DNAを意味する。ベクターは、挿入核酸分子を適切な宿主細胞内に運搬するために使用される。ベクターは、挿入核酸分子を転写するのを可能にする、場合によっては転写産物をポリペプチドに翻訳するのを可能にする必要な因子を含み得る。挿入核酸分子は宿主細胞に由来することが可能であり、または異なる細胞または生物に由来することが可能である。ベクターは、宿主細胞内に入ると、宿主染色体DNAからは独立してまたはこれと同時に複製されることが可能であり、ベクターおよびこの挿入核酸分子の幾つかのコピーが産生され得る。従って、「ベクター」という用語は、標的細胞内への遺伝子導入を促進する遺伝子送達ビヒクルとしても定義され得る。この定義は非ウイルスベクターおよびウイルスベクターの両方を含む。非ウイルスベクターはカチオン脂質、リポソーム、ナノ粒子、PEG、PEIなどを包含するが、これらに限定されるものではない。ウイルスベクターはウイルスに由来し、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、肝炎ウイルスベクターなどを包含するが、これらに限定されるものではない。必ずしもそうであるわけではないが典型的には、ウイルスベクターは複製欠損型であり、この場合、複製に必須のウイルス遺伝子がウイルスベクターから除去されているため、ベクターは、与えられた細胞における複製能を喪失している。しかし、幾つかのウイルスベクターは、与えられた細胞(例えば、癌細胞)において特異的に複製するよう適合化されることが可能であり、典型的には、(癌)細胞特異的(癌)細胞溶解を誘発するために使用される。
【0046】
本発明の第一の態様によれば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8からなる群から選択される配列を含む700以下、特に600ヌクレオチド以下の、肝臓特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節因子を提供する。具体的な実施形態によれば、核酸調節因子は、これらの配列のいずれかに対して80%の配列同一性、より特には85%の配列同一性、より一層特には90%の配列同一性、さらに特には95%、98%または99%の配列同一性を有する配列を含む。別の具体的な実施形態によれば、核酸調節因子は、これらの配列の(またはこれらの配列に対して高い比率の配列同一性を共有する配列の)機能性断片を含む。心臓特異的遺伝子発現に関与する配列の特定方法は実施例の節に概説されている。
【0047】
本明細書において記載される調節因子が、限られた長さしか有さないのに完全に機能性であることは、相当な利点である。これは、ベクターまたは核酸発現カセットにおいて、これらの負荷容量を不適切に制限することなく、調節因子の使用を可能にする。従って、核酸調節因子は700ヌクレオチド長以下、600ヌクレオチド長以下、550ヌクレオチド長以下、500ヌクレオチド長以下、450ヌクレオチド長以下、より特には400ヌクレオチド長以下、350ヌクレオチド長以下、300ヌクレオチド長以下、さらに一層より特には250ヌクレオチド長以下、200ヌクレオチド長以下、175ヌクレオチド長以下、150ヌクレオチド長以下、125ヌクレオチド長以下、110ヌクレオチド長以下、100ヌクレオチド長以下、90ヌクレオチド長以下、80ヌクレオチド長以下、75ヌクレオチド長以下、70ヌクレオチド長以下、65ヌクレオチド長以下、60ヌクレオチド長以下、55ヌクレオチド長以下、50ヌクレオチド長以下である。しかし、開示されている核酸調節因子は調節活性を(即ち、転写の特異性および/または活性に関して)保有しており、従ってこれらは特に、20ヌクレオチド、25ヌクレオチド、30ヌクレオチド、35ヌクレオチド、40ヌクレオチド、45ヌクレオチド、50ヌクレオチド、100ヌクレオチド、120ヌクレオチド、135ヌクレオチドまたは150ヌクレオチドの最小長を有すると理解されるべきである。
【0048】
さらに、特定の実施形態によれば、肝臓特異的遺伝子発現を増強するための600ヌクレオチド以下の核酸調節因子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列、またはこれらの機能性断片から実質的になる。即ち、調節因子は、例えば、クローニング目的に使用される配列(任意例に関しては、配列番号9から16として記載されている配列を参照)をさらに含み得るが、前記配列は調節因子の必須部分を構成する。例えば、これらは、より大きな調節領域(例えば、プロモーター)の部分を構成しない。さらなる特定の実施形態によれば、肝臓特異的遺伝子発現を増強するための600ヌクレオチド以下の核酸調節因子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列、またはこれらの機能性断片からなる。
【0049】
核酸配列は二本鎖または一本鎖分子としてのDNAまたはRNAとして提供され得る。配列が一本鎖核酸として提供される場合、相補鎖は、開示されている配列番号と同等であるとみなされ、同様に、本明細書において記載される核酸構築物および方法ならびにこれらの使用において使用されると想定される。従って、具体的な実施形態によれば、核酸調節因子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはこれらの機能性断片の相補鎖を含む。さらなる具体的な実施形態によれば、調節因子は前記配列の相補鎖から実質的になる。さらなる具体的な実施形態によれば、調節因子は、挙げられている配列の相補鎖からなる。
【0050】
さらに、本明細書中に挙げられている配列にハイブリダイズする、特に、本明細書において開示される配列の相補体にハイブリダイズする配列も、核酸調節因子として使用され得ると想定される。ハイブリダイズ(する)は、典型的には、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ(する)」ことを意味する。挙げられている配列にハイブリダイズする配列は、これらがハイブリダイズする配列と等しい長さである必要はない。しかし、核酸調節因子として使用されるこれらのハイブリダイズする配列は、特に、本明細書において記載される調節因子のサイズ限界を超えないことに注目されるべきである。さらに、具体的な実施形態によれば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはこれらの機能性断片にハイブリダイズする核酸のサイズは、これがハイブリダイズする配列と、長さにおいて25%以上、特に長さにおいて20%以上、より特には、長さにおいて15%以上、最も特には、長さにおいて10%以上は異ならない。
【0051】
本明細書において開示される配列の幾つかは長さにおいて非常に制限されており、また、幾つかは他のものより相当に短い。従って、より短い配列の場合には特に、同一配列の2つ以上のコピーを含む調節配列、またはさらには、挙げられている配列の2つの異なる配列を含む調節因子を製造することが可能である。幾つかの配列(または同一配列のコピー)をモジュラー的に組み合わせることも全ての配列に関して勿論可能であるが、本明細書において定められている調節因子のサイズを超えない、即ち、700ヌクレオチドを超えない(またはより特には600ヌクレオチドを超えない、またはさらに特には500または450ヌクレオチドを超えない)配列の組み合わせが特に想定される。
【0052】
非常に具体的な実施形態によれば、本明細書において開示される核酸調節因子は、新規(人工的)調節配列を製造するために組み合わされる挙げられている配列の少なくとも2つの機能性断片を含む。さらなる具体的な実施形態によれば、これらの少なくとも2つの機能性断片は非同一断片である。別の実施形態によれば、これらの少なくとも2つの機能性断片の少なくとも2つは互いに同一である。別の非常に具体的な実施形態によれば、新規(人工的)調節配列を製造するために、挙げられている配列の2つの断片(このうちの少なくとも1つはこれ自体は機能性ではない。)を組み合わせる。
【0053】
本明細書において開示される配列は、インビボで心臓特異的遺伝子の転写を制御する、特に、以下の遺伝子を制御する調節配列である:PDIB2、FLJ26321、FLJ93514またはCASQ2としても知られているカルセクエストリン2(心筋)(ヒト遺伝子に関してはCASQ2;GeneID 845);心臓アンキリン反復タンパク質としても知られているアンキリン反復ドメイン1(心筋);サイトカイン誘導核タンパク質;肝臓アンキリン反復ドメイン1(ヒト遺伝子に関してはANKRD1;GeneID 27063);ミオシン、軽鎖3、アルカリ;心室遅骨格(ventricular,skeletal,slow)(ヒト遺伝子に関してはMYL3;GeneID 4634);BP75、CELTIX1、NAG4としても知られている含有ブロモドメイン7(ヒト遺伝子に関してはBRD7;GeneID 29117)。具体的な実施形態によれば、調節因子は、CASQ2調節因子、即ち、インビボでCASQ2遺伝子、特に配列番号1の発現を制御する調節因子を含む。別の(しかし限定的でない)具体的な実施形態によれば、調節因子は、配列番号3、配列番号1、配列番号2から選ばれるANKRD1調節配列、特に配列番号5を含む。
【0054】
本明細書において詳述されるように、調節配列は典型的には、心臓特異的転写因子結合部位において豊富に存在する。具体的な実施形態によれば、低酸素応答因子(HRE)は、本明細書において使用される調節配列として想定されない。これは、これらの因子が典型的には、スイッチとして作用し、低酸素条件下で発現を増強するだけであるからである(Phillips et al.,2002)。当然ながら、低酸素条件下で発現を増強することだけが望ましい場合の別の実施形態に関しては、HREを調節配列として含むことは依然として想定され得る。
【0055】
本明細書において開示される核酸調節因子は核酸発現カセットにおいて使用され得る。従って、本発明のある態様によれば、本明細書において記載される調節因子がプロモーターに機能的に連結されている核酸発現カセットを提供する。さらなる実施形態によれば、調節因子はプロモーターおよび導入遺伝子に機能的に連結されている。
【0056】
当業者に理解されている通り、機能的に連結(されている)は、機能的活性を有することを意味し、天然の位置的連結には必ずしも関連していない。実際、核酸発現カセットにおいて使用される場合、調節因子は、典型的には、プロモーターの直上流に位置するが(これが一般的な場合であるが、核酸発現カセット内の位置の限定または除外として解釈されるべきではない。)、これが必ずしもインビボで当てはまるわけではない。例えば、遺伝子の下流に天然で存在し、この転写に影響を及ぼす、ある調節因子配列は、プロモーターの上流に位置する場合と同様に機能し得る。従って、具体的な実施形態によれば、調節配列の調節または増強効果は位置に非依存的である。さらに、調節配列は、個々のプロモーターまたは遺伝子配列に非依存的に、発現に対するこれらの効果をもたらし得る。
【0057】
従って、これらは、これらの天然プロモーターと共に、および別のプロモーターと共に、核酸発現カセットにおいて使用され得る。心臓特異的TFBSにおける豊富さは原則として、調節因子が、これ自体が心臓特異的ではない(または最小プロモーターの場合、これを肝臓特異的にするのに寄与する因子を欠く)プロモーターからでさえも、組織特異的発現を導くことを可能にするが、心臓特異的プロモーターが特に想定される。これは、心臓特異性を増強し、および/または他の組織における発現の漏出を回避する。心臓特異的プロモーターは心筋細胞特異的プロモーターであることが可能であり、またはそうでないことも可能である。導入遺伝子はこれ自身のプロモーターから転写されることが可能であるが、プロモーターは核酸発現カセットにおける導入遺伝子のプロモーターである必要はない。特定の実施形態によれば、核酸発現カセットは遺伝子治療に使用される。この実施形態によれば、プロモーターは同種(相同)(即ち、核酸発現カセットでトランスフェクトされるべき動物(特に哺乳動物)と同じ種からのもの)または異種(非相同)(即ち、発現カセットでトランスフェクトされるべき哺乳動物の種とは異なる起源からのもの)であり得る。従って、本明細書において記載される調節因子と組み合わされた場合にプロモーターが機能的である限り、プロモーターの起源は任意のウイルス、任意の単細胞原核生物もしくは真核生物、任意の脊椎動物もしくは無脊椎動物または任意の植物であることが可能であり、またはさらには合成プロモーター(即ち、非天然配列を有するもの)であり得る。具体的な実施形態によれば、プロモーターは哺乳類プロモーター、特にマウスまたはヒトプロモーターである。さらなる具体的な実施形態によれば、プロモーターは哺乳類心臓特異的プロモーターである。さらなる具体的な実施形態によれば、プロモーターはヒト心臓特異的プロモーターである。別の実施形態によれば、プロモーターはウイルスプロモーターである。さらなる実施形態によれば、ウイルスプロモーターは心臓特異的ウイルスプロモーターである。プロモーターは誘導性または構成的プロモーターであり得る。
【0058】
核酸発現カセットの長さを最小にするために、調節因子は最小プロモーターまたは短縮した型の心臓特異的プロモーターに連結されることが特に想定される。特定の実施形態によれば、使用されるプロモーターは1000ヌクレオチド長以下、900ヌクレオチド長以下、800ヌクレオチド長以下、700ヌクレオチド長以下、600ヌクレオチド長以下、500ヌクレオチド長以下、400ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド長以下、または250ヌクレオチド長以下である。使用され得るプロモーターの具体例としては、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、ミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、特にMLC2、ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、特にαMHC、デスミンプロモーター、心筋トロポニンCプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。これらのプロモーターの幾つかは、Pacak et al.,2008に記載されている。これらのプロモーターはいずれも、最小プロモーターとして使用されることが可能であり、これらは当技術分野において記載されている。時には、最小プロモーターは基礎またはコアプロモーターと称される。これらは、どの配列がプロモーターにおいて欠けているかに関して若干異なり得るが、これらの調節配列(の部分)を欠く全てのこのようなプロモーターが最小プロモーターの定義の範囲内で想定される。特に想定される最小プロモーターはαMHC最小プロモーターであり、より特には、Pacak et al.,2008において定義されている363bp配列;または図1に示されているプロモーターである。
【0059】
本明細書において開示される調節配列は核酸発現カセットにおいて使用され得る。特定の実施形態によれば、ただ1つの調節因子が発現カセット内に含まれる。別の特定の実施形態によれば、2つ以上の調節因子が核酸発現カセット内に含まれる。即ち、これらは、これらの調節(および/または増強)効果を増強するためにモジュラー的に組み合わされる。さらなる特定の実施形態によれば、同一調節因子の2つ以上のコピーが核酸発現カセットにおいて使用される。例えば、調節因子の2、3、4、5、6、7、8、9、10コピーが縦列反復として提供され得る。別のさらなる特定の実施形態によれば、核酸発現カセットに含まれる2つ以上の調節因子は少なくとも2つの異なる調節因子を含む。両方の実施形態は互いに排他的ではなく、本明細書において記載される核酸発現カセットにおいて両方の同一または非同一調節因子を互いに組み合わせることが可能である。調節因子の組み合わせは核酸発現カセットにおける1つの調節因子として機能するため、この実施形態は1つの調節因子における配列の組み合わせと概ね同等である。しかし、これらの配列のそれぞれは調節因子自体として機能するため、これらを調節配列の組み合わせと称するのが、および2つ以上の調節配列を含む核酸発現カセットと称するのが好ましい。理論上は、(クローニングの実施可能性以外の点では)発現カセット内に含まれ得る調節因子の数に上限は存在しないが、ある実施形態によれば、核酸発現カセット内の全調節因子の長さは1000ヌクレオチドを超えないことが特に想定される。さらなる特定の実施形態によれば、調節因子の全長は900ヌクレオチド、800ヌクレオチド、750ヌクレオチド、700ヌクレオチド、600ヌクレオチド、550ヌクレオチド、500ヌクレオチド、450ヌクレオチド、400ヌクレオチド、350ヌクレオチド、300ヌクレオチド、250ヌクレオチド、200ヌクレオチド、175ヌクレオチド、150ヌクレオチド、125ヌクレオチド、110ヌクレオチド、100ヌクレオチド、90ヌクレオチド、80ヌクレオチド、75ヌクレオチド、70ヌクレオチド、65ヌクレオチド、60ヌクレオチド、55ヌクレオチドまたは50ヌクレオチドを超えない。しかし、調節因子に関して定められる最小長は、核酸発現カセットにおいて使用される調節因子またはこの組み合わせにも適用される。
【0060】
核酸発現カセットの負荷はプロモーターおよび調節因子の両方に影響されるため、特定の実施形態によれば、核酸発現カセットにおけるプロモーターおよび調節因子の全長は1000ヌクレオチド長以下、900ヌクレオチド長以下、800ヌクレオチド長以下、750ヌクレオチド長以下、700ヌクレオチド長以下、600ヌクレオチド長以下、550ヌクレオチド長以下、500ヌクレオチド長以下、450ヌクレオチド長以下、400ヌクレオチド以下、350ヌクレオチド長以下、300ヌクレオチド長以下、またはさらには250ヌクレオチド長以下であると想定される。
【0061】
非常に具体的な実施形態によれば、核酸調節因子は核酸発現カセットにおける唯一の調節(および/または増強)因子であり、例えば、プロモーター内にはこれ以外に存在する調節因子は存在せず、または構築物内には追加的なエンハンサーは存在しない。さらなる具体的な実施形態によれば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列、またはこれらの機能性断片からなる群から選択される配列は、調節因子または核酸発現カセットのいずれかにおいて存在する唯一の調節(および/または増強)配列である。即ち、調節因子は他の調節または増強配列を含まない。
【0062】
既に示されている通り、調節配列は、個々のプロモーターまたは(トランス)遺伝子配列に非依存的に、発現に対するこれらの効果をもたらし得る。従って、機能的に連結されたプロモーターおよび調節因子が成功裡に配列を転写する限り、(トランス)遺伝子の性質は本発明において重要ではない。特定の実施形態によれば、核酸発現カセットは遺伝子治療において使用され、導入遺伝子は主として心臓において発現される。幾つかの場合には、遺伝子産物は合成後に血流中にも分泌され得る。従って、血流中に循環されるべき核酸(例えば、RNA)および/またはポリペプチドをコードする任意の導入遺伝子が本出願の範囲内に含まれる。
【0063】
導入遺伝子は、プロモーター(および/または、核酸発現カセットが遺伝子治療に使用される場合には、これが導入される動物、特に哺乳動物)と同種または異種であり得る。また、導入遺伝子は完全長cDNAもしくはゲノムDNA配列またはこれらの任意の断片、サブユニットもしくは突然変異体(少なくとも何らかの生物活性を有するもの)であり得る。さらに導入遺伝子は、小型遺伝子(minigene)、即ち、このイントロン配列の一部分、大部分または全部を欠く遺伝子配列であり得る。従って、導入遺伝子は、場合によっては、イントロン配列を含み得る。場合によっては、導入遺伝子は、ハイブリッド核酸配列、即ち、同種および/または異種cDNAおよび/またはゲノムDNA断片から構築された核酸配列であり得る。導入遺伝子はまた、場合によっては、1つ以上の天然に存在するcDNAおよび/またはゲノム配列の突然変異体であり得る。
【0064】
導入遺伝子は、当技術分野でよく知られた1つ以上の方法を用いて、適切な量で単離され、入手され得る。これらの方法および導入遺伝子の単離に有用な他の方法は、例えば、Sambrook et al.(前掲)およびBerger and Kimmel(Methods in Enzymology:Guide to Molecular Cloning Techniques,vol.152,Academic Press,Inc.,San Diego,CA(1987)に記載されている。
【0065】
導入遺伝子突然変異配列の使用も本出願において想定される。突然変異導入遺伝子は、野生型配列と比較して1つ以上のヌクレオチド置換、欠失および/または挿入を含む導入遺伝子である。ヌクレオチド置換、欠失および/または挿入は、アミノ酸/核酸配列において野生型アミノ酸/核酸配列とは異なる遺伝子産物(即ち、タンパク質またはRNA)を与え得る。このような突然変異体の製造は当技術分野でよく知られている。
【0066】
特定の実施形態によれば、導入遺伝子によりコードされる産物はタンパク質である。さらなる特定の実施形態によれば、産物は治療用タンパク質である。
【0067】
本出願において想定される導入遺伝子(および治療用タンパク質)の非網羅的でありまた非限定的なリストは、治療的血管形成のための血管形成因子(例えば、VEGF、PIGF)または誘導分子(例えば、エフリン、セマホリン、スリットおよびネトリンまたはこれらの同族受容体);サイトカインおよび/または成長因子(例えば、エリスロポエチン(EPO)、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン5(IL−5)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン7(IL−7)、インターロイキン8(IL−8)、インターロイキン9(IL−9)、インターロイキン10(IL−10)、インターロイキン11(IL−11)、インターロイキン12(IL−12)、ケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド5(CXCL5)、顆粒球−コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、幹細胞因子(SCF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、単球誘引物質タンパク質1(MCP−1)、腫瘍壊死因子(TNF)、カルシウム処理に関連するタンパク質(例えば、SERCA(筋小胞体/小胞体Ca2+−ATPアーゼ))、カルシニューリン、抗体をコードする導入遺伝子、ナノボディ(nanobody)、抗ウイルスドミナントネガティブタンパク質、およびこれらの断片、サブユニットまたは突然変異体を含む。
【0068】
非常に具体的な実施形態によれば、核酸発現カセットは導入遺伝子を含まないが、プロモーターに機能的に連結された調節因子を使用して内因性遺伝子(従って、これは増強および/または組織特異的発現の点で導入遺伝子と等価である。)の発現を駆動させる。核酸発現カセットは細胞のゲノム内に組み込まれるか、またはエピソーム状態で維持され得る。
【0069】
他の配列(例えば、イントロンおよび/またはポリアデニル化配列)も、典型的には導入遺伝子産物の発現をさらに増強または安定化させるために、核酸発現カセット内に組み込まれ得る。本明細書において記載される発現カセットにおいては任意のイントロンが使用され得る。「イントロン」という用語は、核スプライシング装置により認識されスプライシングされるのに十分な程度に大きな、イントロン全体の任意の部分を含む。典型的には、発現カセットの構築および操作を促進する発現カセットのサイズを可能な限り小さく維持するためには、短い機能性イントロン配列が好ましい。幾つかの実施形態によれば、イントロンは、発現カセット内のコード配列によりコードされるタンパク質をコードする遺伝子から得られる。イントロンはコード配列の5’側、コード配列の3’側、またはコード配列内に位置し得る。コード配列の5’側にイントロンが位置する利点は、ポリアデニル化シグナルの機能をイントロンが妨げる可能性を最小にすることである。
【0070】
特定の実施形態によれば、核酸発現カセットは、βグロビンイントロンを含む。ヒトβグロビン遺伝子に由来するβグロビンイントロン(βIVS−II)は、安定的な細胞質mRNAの蓄積に重要であり、効率的な3’末端分解およびポリアデニル化のための効率的な3’末端形成の促進に関与している。βグロビン遺伝子は、2つのイントロン配列IVS−IおよびIVS−IIを有し、これらの各々は、イントロンを含まない遺伝子の発現を元の状態に戻し得る。IVSは、転写が低レベルのmRNAをもたらさない正確で効率的な3’末端形成に必要である(Antoniou et al,1998)。
【0071】
ポリA尾部の合成を導く任意のポリアデニル化シグナルが、本明細書において記載される発現カセットにおいて有用であり、これらの具体例は当業者によく知られている(例えば、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル)。他のものとしては、SV40後期遺伝子に由来するポリA配列および最小ウサギβグロビン(mRBG)遺伝子が挙げられるが(Xu et al,2001)、これらに限定されない。
【0072】
本出願において記載される発現カセットは、例えば、通常は心臓において発現され利用されるタンパク質を発現させるために、または心臓において発現され次いで他の身体部分への輸送のために血流へと輸出されるタンパク質を発現させるために使用され得る。従って、幾つかの特定の実施形態によれば、本発明の発現カセットは、疾患の症状を改善する治療量のポリペプチド(または他の遺伝子産物、例えばRNA)を発現させるために使用され得る。原理的には、内因性遺伝子の発現を増強することも可能であるが、典型的には、遺伝子産物は発現カセット内のコード配列(即ち、導入遺伝子)によりコードされる。本明細書において使用される「治療量」は、疾患の症状を改善する量である。このような量は、典型的には、遺伝子産物および疾患の重症度に左右されるが、おそらくは通常の実験により、当業者により決定され得る。実施例の節には、治療量の因子IXの発現がどのようにして達成されるかが記載されている。
【0073】
特定の実施形態によれば、本明細書において記載される発現カセットを使用した(即ち、少なくとも1つの心臓特異的エンハンサーを用いた)場合に発現される遺伝子産物の量は、同一の発現カセットを使用するがこの中にエンハンサー配列が含まれていない場合よりも高い。より特には、エンハンサーを含まない同じ構築物と比較した場合、発現は、少なくとも2倍高く、少なくとも5倍高く、少なくとも10倍高く、少なくとも20倍高く、少なくとも30倍高く、少なくとも40倍高く、最も特には少なくとも50倍高く、またはさらに少なくとも60倍高い(例えば、図11を参照)。さらなる実施形態によれば、より高い発現は、依然として心臓に特異的のままである。
【0074】
特定の実施形態によれば、本出願において記載される発現カセットは、長期にわたり、コード配列によりコードされる遺伝子産物の治療量の発現を導く。実際、治療レベルが達成される限り、新たな治療は必要でない。典型的には、治療的発現は少なくとも20日間、少なくとも50日間、少なくとも100日間、少なくとも200日間、また幾つかの場合には、300日間以上持続すると想定される。コード配列によりコードされる遺伝子産物(例えば、ポリペプチド)の発現は、例えば遺伝子産物の治療的発現が達成されたかどうかを評価するために、当技術分野において認識されているいずれかの手段、例えば、抗体に基づくアッセイ、例えばウエスタンブロットまたはELISAアッセイにより測定され得る。遺伝子産物の発現は、遺伝子産物の酵素活性または生物活性を検出するバイオアッセイにおいても測定され得る。
【0075】
さらなる態様では、本出願は、本明細書において記載される調節因子を含むベクターを提供する。さらなる特定の実施形態によれば、ベクターは、本明細書において記載される発現カセットを含む。ベクターはエピソーム性ベクター(即ち、宿主細胞のゲノム内に組み込まれないベクター)であることが可能であり、または宿主細胞ゲノム内に組み込まれるベクターであることが可能である。エピソーム性ベクターの具体例には、(染色体外)プラスミド、および発現カセットのみから構成され細菌配列を欠くいわゆるミニサークルが含まれ、宿主細胞ゲノム内に組み込まれるベクターの具体例には、ウイルスベクターが含まれる。
【0076】
代表的なプラスミドベクターには、pUCベクター、ブルースクリプト(bluescript)ベクター(pBS)およびpBR322、または細菌配列を欠くこれらの誘導体(ミニサークル)が含まれる。プラスミドベクターの幾つかは、トランスフェクトされた細胞におけるエピソーム性プラスミドの持続性を増強する因子を組み込むために適合化され得る。このような配列は、転写単位に連結されたスカフォールド/マトリックス結合領域モジュールに対応するS/MARが含まれる(Jenke et al.,2004;Manzini et al.,2006)。
【0077】
代表的なウイルスベクターには、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルスおよびレンチウイルスに由来するベクターが含まれる。または、ウイルス成分および非ウイルス成分を組み合わせるために、遺伝子送達系が使用され得る(例えば、ナノ粒子またはウイロソーム)(Yamada et al.,2003)。
【0078】
レトロウイルスおよびレンチウイルスは、感染後に自分自身の遺伝子を宿主細胞染色体内に挿入する能力を有するRNAウイルスである。ウイルスタンパク質をコードする遺伝子を欠くが、細胞に感染し標的細胞の染色体内に自分自身の遺伝子を挿入する能力を保有するレトロウイルスおよびレンチウイルスベクターが開発されている(Miller,1990;Naldini et al.,1996)。レンチウイルスと古典的なモロニー−マウス白血病ウイルス(MLV)に基づくレトロウイルスベクターとの相違は、レンチウイルスベクターは分裂細胞および非分裂細胞の両方に形質導入し得るが、MLVに基づくレトロウイルスベクターは分裂細胞にしか形質導入できないことである。
【0079】
アデノウイルスベクターは、生きた被験体に直接投与されるように設計される。レトロウイルスベクターとは異なり、アデノウイルスベクターゲノムのほとんどは宿主細胞の染色体内に組み込まれない。実際、アデノウイルスベクターを使用して細胞内に導入された遺伝子は、長期にわたって存続する染色体外因子(エピソーム)として核内に維持される。アデノウイルスベクターは、気道上皮細胞、内皮細胞、肝細胞および種々の腫瘍を含む多種多様な組織における分裂細胞および非分裂細胞に形質導入する(Trapnell,1993)。
【0080】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒトおよび幾つかの他の霊長類種に感染する小さなssDNAウイルスであり、疾患を引き起こすことは知られておらず、結果的に非常に軽度な免疫応答を引き起こす。AAVは分裂細胞および非分裂細胞の両方に感染することが可能であり、このゲノムを宿主細胞のゲノム内に組み込み得る。AAVベクターのクローニング容量は比較的限られたものではあるが、これらの特徴は、AAVを、遺伝子治療用のウイルスベクターを作製するための非常に魅力的な候補にする。
【0081】
もう1つのウイルスベクターは、大きな二本鎖DNAウイルスである単純ヘルペスウイルスに由来する。もう1つのdsDNAであるワクシニアウイルスの組換え形態は大きなインサートを収容することが可能であり、相同組換えにより作製される。
【0082】
特定の実施形態によれば、ベクターはウイルスベクターである。さらなる特定の実施形態によれば、ベクターはAAVベクターである。別の実施形態によれば、ベクターはレンチウイルスベクターである。他のAAV型と比較してAAV9血清型が優れたカルジオトロピズム(cardiotropism)を示すことが示されたので(VandenDriessche et al.,2007)、AAV9またはAAV2/9ベクターの使用が特に想定される。
【0083】
さらなる特定の形態によれば、本明細書において記載される核酸調節因子、核酸発現カセットおよびベクターは遺伝子治療において使用され得る。標的細胞においてインビトロで、また、特にインビボで、治療用遺伝子産物の発現を達成するよう意図された遺伝子治療プロトコールは、当技術分野において詳細に記載されている。これらには、プラスミドDNA(裸またはリポソーム内)の筋肉内注射、間質注射、気道内点滴、内皮への適用、肝実質内への投与、および静脈内または動脈内投与が含まれるが、これらに限定されるものではない。標的細胞に対するDNAの利用可能性を向上させるための種々の装置が開発されている。単純な方法は、DNAを含むカテーテルまたは移植可能な物質と標的細胞とを物理的に接触させることである。もう1つの方法は、高圧下で標的組織内に液体のカラムを噴射する無針ジェット注射装置を使用することである。これらの運搬法は、ウイルスベクターを運搬するためにも用いられ得る。標的化遺伝子送達に対するもう1つの方法は、細胞への核酸の特異的標的化のための核酸−またはDNA−結合性物質が結合しているタンパク質または合成リガンドからなる分子コンジュゲートの使用である(Cristiano et al.,1993)。
【0084】
特定の実施形態によれば、肝細胞の遺伝子治療のための、本明細書において記載される核酸調節因子、核酸発現カセットまたはベクターの使用が想定される。さらなる特定の実施形態によれば、調節因子、発現カセットまたはベクターの使用はインビボでの遺伝子治療のためのものである。
【0085】
哺乳類心筋細胞内への遺伝子導入は、エクスビボ法およびインビボ法の両方を用いて行われ得る。エクスビボ法は、心臓細胞の回収、長期発現ベクターでのインビトロ形質導入、および循環系への心筋細胞の再導入を必要とする。しかしながら、インビボ標的化は典型的には、静脈内投与または動脈内投与を介することがより想定される。
【0086】
当業者であれば、心臓特異的エンハンサー、発現カセットおよびベクターの使用が遺伝子治療以外の意味(例えば、幹細胞の心筋芽細胞(cardiomyogenic cell)への誘導性分化(coaxed differentiation)、心臓におけるタンパク質の過剰発現に関するトランスジェニックモデル、心臓毒性スクリーニングに関するモデルなど)を明らかに有することを理解している。
【0087】
さらなる態様によれば、心臓細胞内でタンパク質を発現させるための方法を提供する。方法は、本明細書において記載される核酸発現カセット(またはベクター)を心臓細胞内に導入し、心臓細胞内で導入遺伝子タンパク質産物を発現させる段階を含む。これらの方法はインビトロおよびインビボの両方で行われ得る。
【0088】
遺伝子治療を必要とする被験体に対する遺伝子治療方法も提供する。方法は、治療用タンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸発現カセットを被験体の心臓内に導入し、治療量の治療用タンパク質を心臓内で発現させる段階を含む。
【0089】
さらなる実施形態によれば、方法は、治療用タンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸発現カセットを含むベクターを被験体の心臓内に導入し、治療量の治療用タンパク質を心臓内で発現させる段階を含む。
【0090】
別の態様によれば、治療用タンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸発現カセットと医薬上許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。別の実施形態によれば、医薬組成物は、治療用タンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸発現カセットを含むベクターと医薬上許容される担体とを含む。
【0091】
医薬組成物はまた、キットの形態でも提供され得る。
【0092】
これらの医薬組成物の製造のための、本明細書において開示される調節因子の使用も想定される。
【0093】
本明細書においては本発明の装置に関する特定の実施形態、特定の構成および配置ならびに物質が記載されているが、本発明の範囲および精神から逸脱することなく形態および詳細における種々の変更または修飾が施され得ると理解されるべきである。以下の実施例は、特定の実施形態をさらに例示するために記載されており、これらは本出願を限定するものとみなされるべきではない。本出願は特許請求の範囲のみにより限定される。
【実施例】
【0094】
材料と方法
レギュロンの同定
距離差行列(DDM)アルゴリズム(De Bleser,2007)と称される新規で有効なデータマイニングアルゴリズムを、専ら心臓において高く独占的に発現しており、シス作用調節因子の組み合わせに比較的豊富に存在しているプロモーターを同定するのに使用した。簡潔に説明すると、ある与えられた刺激に対する、示差的に調節される肝臓特異的遺伝子のプロモーターの2つのセットの応答性は、プロモーターの両セットにより共有される転写因子結合部位(TFBS)により説明され得ると予想され得る。もっとも、これは応答の方向性を説明しないかもしれない。TFBSの共通セットと並んで、プロモーターの各セットは、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされる遺伝子群のプロモーターに、より特徴的な1つ以上のTFBSを含む可能性があり、観察される示差的挙動を少なくとも部分的に説明し得る。これらの「示差的(differential)」TFBSは、以下の手法を用いて見出され得る。第一に、Match(商標)プログラム(Kel et al.,2003)、または位置特異的重み行列(PWM)のプレコンパイル化ライブラリーを使用してプログラム上でTFBSを予測するいずれかの他の類似プログラムのための入力として、各セットの各プロモーターを使用する。プロモーター当たりのPWM当たりの予測TFBSの数(さらに、カウントと称される。)であるこの結果を、各行がプロモーター配列に対応し列が使用PWMに対応する行列の形態で集める。列はさらに、PWM−ベクトルと称され、PWMを、プロモーター当たりの予測TFBSのこの数により特徴づけるものである。プロモーター当たりのPWM当たりの予測TFBSの総数を用いる選択は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の調節領域が多コピーの強固モチーフおよびより弱いコピーを含むというPapatsenkoら(Papatsenko et al.,2002)の観察により動機づけられる。一般に、転写因子に対する複数の結合部位の存在は重要な役割を果たしていると考えるのが合理的である。さらに、TFBSのペアを共有するプロモーターを伴う遺伝子は、ただ1つのTFBSを共通に有するプロモーターを伴う遺伝子よりも、共発現される可能性が有意に高いことが、酵母において示された(Pilpel et al.,2001)。この観察に沿って、複合エンハンサー因子を得るための単一肝臓特異的TFBSの単なる組み合わせは、失望させる結果を生み出した(Lemken et al.,2005)。DDM法は過剰発現および関連性の両方を考慮するものであるため、プロモーター当たりの複数のマッチを考慮することは、過剰発現による推定機能性TFBSを発見するのを助け得る。2つのTFBSは、行列内のこれらの対応列が類似している場合に、相関しているとみなされる。これらの列の間の類似性は、距離関数を用いて測定され得る。この方法を用いて、プロモーターの両セットにおけるTFBSに関して、全てのTFBS関連性を要約する距離行列を構築する。最後に、DDMを計算し、この行列上で多次元尺度法(MDS)を行って二次元におけるこの含量を可視化することにより、観察された示差的遺伝子発現に寄与しないTFBS(これらはDDM−MDSプロットの原点付近に位置づけられる。)を、観察された示差的遺伝子発現をもたらす可能性のある「偏向」TFBSから区別することが可能である。MDS法は、強く関連しているTFBSを、より弱く関連しているTFBSよりも密集してプロットするため、これは、他の方法を用いた場合にはしばしば曖昧となるプロモーターデータベース内のTFBS間の相互作用のほとんどを際立たせて表示する。または、結果は表において要約され得る。
【0095】
この手法の原理は、(他方の条件と比較した場合の一方の条件の)個々の過剰発現および関連性に基づく。実際、多数の転写因子は肝臓内で特異的にアップレギュレーションされることが公知であるが、これは、これらがインビボでの遺伝子発現のアップレギュレーションに関与していることを必然的に示唆するものではない。一方の条件においては重要であるが他方の条件においては重要でないモジュールは、これらを構成するTFBSの過剰発現により特徴づけられ、関連づけられる。これは2つの関連TFBSに関しては低いDD値を与え、一方、過剰発現されたTFBSおよび共通のTFBSに関するDD値は高くなる。TFBS(およびモジュール)がプロモーターの第一または第二セットのいずれかに典型的なものであるかどうかは、元のDDMの列値の和の符号から推論され得る。
【0096】
PCT/EP2009/054724およびDe Bleser et al.,2007に記載されているように、アップレギュレーションされる遺伝子のゲノムコンテクストもまた考慮した。これは、複数の種にわたって保存されている結合部位、および単一結合部位ではなくモチーフの組み合わせに関するものである;このため、特定された配列が遺伝子発現の調節に実際に関与している確率は増加する。実際、ある与えられたプロモーターにおける転写因子結合部位の単なる存在または非存在は、高レベルの組織特異的発現をもたらすのに十分なものではないことが、十分に確認されている。高レベルの組織特異的発現をもたらす鍵となるのは、特定の染色体コンテクストにおける「レギュロン」としてのTFBSの組み合わせである。この方法は、表1に要約されている、前記転写因子結合部位において豊富に存在する8個の調節配列の同定をもたらした。
【0097】
これらの調節因子は、進化的な分岐種の間で高度に保存されていた(これは、高いレベルの発現を維持する強い選択圧を示唆している。)。転写因子結合部位(TFBS)において豊富に存在しており、高いレベルの心臓特異的発現を指示することができる8個のレギュロンを同定した。これらの組織特異的エンハンサーモジュールを発見および特性決定するのに、計算論的方法を使用した。これらが含むモチーフの予備知識は不要である。この方法は、以下の後続段階からなる:(1)正常組織のマイクロアレイ発現データの統計分析に基づく高発現している組織特異的遺伝子の同定、(2)公的に利用可能なゲノムデータベースからの対応するプロモーター配列の抽出、および(3)新規な距離差行列(DDM)法を使用した、これらが含む調節モジュールおよびモチーフの同定。DDM法を用いて、本発明者らは、エンハンサーおよびサイレンサーを検出することができ、これらが含むモチーフのセットとしてこれらをモデル化することができる。(4)次いで、本発明者らは、これらのセットの一部であるモチーフのクラスターに関して、高発現している組織特異的遺伝子のゲノムコンテクストを検索する。これらのクラスターが幾つかの種内で高度に保存されている領域と一致する場合、これらの領域は、推定エンハンサーモジュールと考えられる。これらのシス作用レギュロンおよびこれらのサイズを以下の表1に示す。これらの異なるレギュロンを、両末端にAcc65I隣接制限部位を有するように合成した(表1)。これらは、レギュロンのAAVベクターへの容易なクローニングを可能にする。配列番号1から8はイタリック体で示される調節配列に対応し、配列番号9から16は制限部位を有する配列を含む。
【0098】
【表1】


【0099】
ベクターを作製するための断片の増幅
pfx DNAポリメラーゼ酵素に基づくAccuprime PCR反応キット(Invitrogen)を用いて、30サイクルの増幅で本研究に関する全てのPCRを実施した。
【0100】
マウスαミオシン重鎖(αMHC)プロモーターの増幅
αミオシン重鎖(αMHC)プロモーターは、他の心臓特異的プロモーターの中で、導入遺伝子の広範囲で非常に高いレベルの心臓特異的発現をもたらすことが示されているので(Pacak et al,2008)、本プロジェクトに関してはαミオシン重鎖(αMHC)プロモーターを選択した。
【0101】
本発明者らの研究室により提供されたマウスの肝臓から得られたマウスゲノムからαMHCプロモーターを増幅した。調節因子のカタログであるPacakらにより提供されるリンク(http://www.cbil.upenn.edu/MTIR/TOC.html)からの配列を参照して、プライマーをInvitrogenに発注および設計した。使用したプライマーを以下に示す。Acc65I制限部位を有するフォワードプライマー(44塩基):5’から3’−ATA GGT ACC GGT GAC CCT TAC CCA GTT GTT CAA CTC ACC CTT CA(配列番号20)およびNheI制限部位を有するリバースプライマー(33塩基):5’から3’−ATA GCT AGC GGG TTG GAG AAA TCT CTG ACA GCT(配列番号21)
【0102】
ヒト化組換え緑色蛍光タンパク質(hrGFP)の増幅
標準条件を使用して、Stratageneのプラスミド構築物pAAV−hrGFPから、Invitrogenから入手したプライマーを使用してhrGFPを増幅した。使用したプライマーはInvitrogenから入手したものであり、以下に列挙する。2個の制限部位NheIおよびBglIIをプライマー中に組み込んで、増幅した断片に隣接させた(NheI制限部位を有するフォワードプライマー(40塩基):5’から3’−TTG CTA GCA CCA TGG TGA GCA AGC AGA TCC TGA AGA ACA C(配列番号22);BglII制限部位を有するリバースプライマー(36塩基):5’から3’−TTA AGA TCT TTA CAC CCA CTC GTG CAG GCT GCC CAG(配列番号23))。
【0103】
ベータグロビンイントロン(βグロビンイントロン)の増幅
Invitrogenから入手したプライマーを使用して、Stratageneプラスミド構築物(pAAV−hrGFP)からベータグロビンイントロン(βグロビンイントロン)を増幅した。他の構築物と同じように標準的な手順に従って、この増幅を実施した。使用したプライマーは以下の通りである。
【0104】
XbaI制限部位を有するフォワードプライマー(25塩基):5’から3’−ATA TCT AGA ATC CCG GCC GGG AAC G(配列番号24)。 NheI制限部位を有するリバースプライマー(36塩基):5’から3’−ATA GCT AGC AAT CGA TGT TCG AAT CCC AAT TCT TTG(配列番号25)。
【0105】
増幅した断片の精製および制限
Qiagenのゲル抽出キットに従って、スピンカラムを使用して、αMHC、hrGFPおよびβグロビンイントロンの得られた増幅断片を精製した。溶離後、Acc65IおよびNheI制限酵素を用いてαMHCを分解し、NheIおよびBglII制限酵素を用いてhrGFPを分解し、XbaIおよびNheI制限酵素を用いてβグロビンイントロンを分解した。分解は、ベクターへのライゲーションを可能にするために断片の付着末端を作製することを目的としていた。次いで、Qiagenゲル抽出アッセイキットにおけるスピンカラムを用いて、断片を精製した。必要とするまで、断片を−20℃の冷凍庫に保管した。
【0106】
心臓特異的レギュロンの、αMHCp−βグロビンイントロン−hrGFP−pAを含むAAVベクターへのクローニング
構築物(pAAV−αMHCp−βグロビンイントロン−hrGFP−pA)(図4[C])の作製は、以下に記載される4個のサブクローニングを含んでいた。このベクターをクローニングし、配列決定によって確認するとすぐに、8個の同定したレギュロンをこの汎用AAV構築物に続いてクローニングした。
【0107】
ベクターの骨格の作製
本研究において使用したプラスミド構築物の骨格は、アンピシリン選択マーカー遺伝子、AAV2ウイルス遺伝子のL−およびR−ITRセグメントならびにウシ成長ホルモンポリアデニル化(ポリA)cDNAを含んでいた(図4[A])。本発明者らの研究室からのプラスミド構築物pAAV−TTRserp−FIXIA−pAから、このプラスミド骨格を作製した。プラスミド中の3個の特徴的な制限部位(BglII、NheIおよびXbaI)によって、3個の制限酵素BglII、NheIおよびXbaIを用いて断片を作製した。BglII制限部位はpAのすぐ下流に位置し、NheI部位はL−ITR部位に隣接しこの下流でもあり、XbaI部位はBglIIとNheI部位との間の中ほどに位置していた。BglIIおよびNheI付着末端に隣接する作製したより大きい骨格断片を、他の2個のより小さい断片(一方の断片は各制限部位のNheIおよびXbaI付着末端に隣接し、他方は各制限部位のXbaIおよびBglII付着末端に隣接する。)から容易に分離することが可能なので、これらの部位を使用した。
【0108】
1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動を使用して、目的の断片のサイズに対応するバンドを反応混合物の残りから分離した。次いで、Qiagenプラスミドゲル抽出キットに添付のプロトコールに従って、断片をゲルから精製した。必要とするまで、精製した断片を−20℃の冷凍庫に保管した。
【0109】
hrGFPのクローニング
hrGFPおよびITRを含むベクターの骨格、選択可能なマーカー遺伝子ならびにpAを一緒にライゲーションした。これが可能だったのは、hrGFPおよび骨格が両方とも、末端のライゲーションを仲介することができるNheIおよびBglII制限付着末端を有していたからである。ライゲーション反応物を一晩培養した後、新たに作製した構築物pAAV−hrGFP−pAを、アンピシリンを含むLB寒天固形培地上に置いて一晩培養したStratageneのXL−10ゴールドウルトラコンピテント細菌細胞を形質転換するのに使用した。InvitrogenのMiniprepアッセイキットを使用して、20個のコロニーからプラスミドDNAを抽出した。次いで、BglII−NheI制限酵素を使用して、陽性クローンに関して得られたDNAをスクリーニングした。
【0110】
pAAV−αMHCp−hrGFP−pAのクローニング
2個の付着末端をhrGFPの上流に作り出すAcc65IおよびNheI制限酵素を用いて、pAAV−hrGFP−pAプラスミド構築物を最初に制限した。次いで、上記のようにこれらの2個の制限酵素を用いて制限したαMHCpを、Acc65IおよびNheI制限部位の付着末端に隣接する開環pAAV−hrGFP−pAとライゲーションした。次いで、得られたプラスミドpAAV−αMHCp−hrGFP−pAをXL−10ゴールドウルトラコンピテント細菌細胞に形質転換した。αMHCpのサイズに対応する363bpのバンドを示す構築物の残りからαMHCpを除去するAcc65I−NheI制限を使用して、陽性クローンをスクリーニングした。NotIはプロモーター領域内部に位置しているので、制限においてNotI−Ndeを一緒に使用してさらなる確認試験を実施したところ、これがαMHCpの329bp断片を切り出した。
【0111】
pAAV−αMHCp−βグロビンイントロン−hrGFP−pAのクローニング
このクローンを得るために、NheI制限酵素を用いてpAAV−αMHCp−hrGFP−pA選択クローンを分解して、αMHCp遺伝子とhrGFP遺伝子との間に位置するNheI部位に1個の制限を作り出した(図4[C])。制限反応中、ホスファターゼを制限反応物に添加して、制限した断片から5’リン酸基を除去した。これは、開環プラスミドベクターの再ライゲーションを防ぐために行った。次いで、Qiagenプラスミドゲル抽出キットを使用して、断片を精製した。
【0112】
ゲル電気泳動を実施し、これによってベクター断片pAAV−αMHCp−hrGFP−pA(開環)を挿入物βグロビンイントロンと並べて流して、両方の相対濃度を測定した。標準的なライゲーション反応は挿入物対ベクターが3:1である濃度比を必要とするので、これは、ライゲーション反応に関して各断片から取り出す適切な量の評価を可能にするためのものであった。
【0113】
ベクターと挿入物との効果的なライゲーションを可能にするために、使用する各断片の量を評価した後にライゲーション反応を行い、室温で培養した。得られた混合物を、XL−10ゴールドウルトラコンピテント細菌細胞を形質転換するのに使用し、LBアンピシリン固形培地で一晩培養した。1回の制限反応でNheI−Acc65Iを使用して、陽性クローンに関して得られたコロニーをスクリーニングした。NdeI−NheI、NotI−NheI、BglII−NdeIおよびNheI−Acc65I制限反応を含む3個の他のセットの制限を使用して、選択した陽性クローンをさらに確認した。NheI部位をXbaI部位とライゲーションしたライゲーション反応により、βグロビンイントロンの上流のNheI部位を破壊したことに注目すべきである。これは、ライゲーション反応後に1個の活性NheI部位だけがβグロビンイントロンの下流に依然として位置していたことを意味する。NdeI制限部位はαMHCp中に位置し、NotI部位は、プロモーター部位の上流にあったAcc65I部位の前方のL−ITRのすぐ下流に位置していたのに対して、BglIIはhrGFP遺伝子の下流にあった。
【0114】
pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAプラスミドベクターの製造
pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAプラスミドの選択および確認した陽性クローンを、XL−10ゴールドウルトラコンピテント細菌細胞における形質転換に使用した。一晩培養した後、1個のコロニーだけを注意深く採取したものを培養チューブ中の2mlLBアンピシリン固形培地に入れて、前培養を行った。培養物をl50rpm、37℃培養にさらした。培養物を、LBアンピシリン培地2リットル(L)の培養フラスコを播種するのに使用した。このフラスコを、37℃およびl50rpmのインキュベーター中で振動させながら約13時間培養(一晩放置)した(ただし、細菌増殖が、吸光度280nmにおいて1.6から1.9の間の光学密度(OD)に達するまで)。このODにおいて、InvitrogenのMaxiprepアッセイキットを使用してプラスミドDNAを抽出した。エタノール沈殿および精製した後、Nanodrop ND−1000分光光度計(Nanodrop Technologies、ロックランド、デラウェア州、米国)を使用して純プラスミドの濃度を測定し、濃度を1.0μg/μlに調整した。AAVベクターの製造に必要とするまで、精製プラスミドを−20℃で保管した。対照配列決定から得られた結果により、ベクターpAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAが全てのクローニングした断片を適切な方向(即ち、センス方向)で含むことが明らかになった。
【0115】
レギュロンのpAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAプラスミドベクターへのクローニング
合成した8個のレギュロン全て:Myl3、Brd7、Myl2、Casq2e1、Casq2e2、Ankrd1e1、Ankrd1e2およびAnkrd1e3をベクターにクローニングして、合計8個の異なる発現カセットを得、pAAV−Reg−αMHCp−βGI−hrGFP−pAと指定した新たな構築物を得た(図6[A]、Reg=レギュロンの位置)。レギュロンをαMHCpの上流にクローニングした。
【0116】
陽性クローンに関して8個のレギュロン構築物のそれぞれをスクリーニングし、ウイルスベクターの製造のための大規模なプラスミド抽出に使用する前に他の制限酵素を用いてさらに確認した。
【0117】
プラスミドの製造
この製造は、レギュロン1個当たり1個の選択した陽性クローンの増大を伴った。プラスミドを、XL−10ゴールドウルトラコンピテント細菌細胞を形質転換および培養するのに使用した。一晩培養した後、1個のコロニーを注意深く採取したものを培養チューブ中の2mlLBアンピシリン液体培地に入れて、前培養を行った。次いで、培養物をl50rpm、37℃で培養にさらし、LBアンピシリン培地2リットル(L)の培養フラスコを播種するのに使用した。これらのフラスコを、37℃およびl50rpmのインキュベーター中で振動させながら約13時間(通常は一晩)培養した(ただし、細菌増殖が、吸光度280nmにおいて1.6から1.9の間の光学密度(OD)に達するまで)。このODにおいて、InvitrogenのMaxiprepアッセイキットを使用してプラスミドDNAを抽出して、非常に純粋なプラスミドベクターを得、これをトランスフェクションの準備ができるまで−20℃で保管した。AAVベクターの製造に使用する前に、KpnI、MluI、MluI−NheI、MluI−NdeI制限酵素を使用して、制限により各精製プラスミドを再確認した。
【0118】
AAVの製造
リン酸カルシウムトランスフェクション
Stratageneによって提供される293細胞と称される特別なAAV製造細胞株をリン酸カルシウムトランスフェクションに使用した。このトランスフェクションは、3個のプラスミド、製造したAAVベクター(3.3.5節)、プラスミド構築物中のAAV9rep/capヘルパー遺伝子およびStratageneから入手したアデノウイルスヘルパー遺伝子を含む3個のプラスミド成分系であった。キットのHepes緩衝生理食塩水(HBS)によって提供される塩化カルシウム(CaCl)およびリン酸塩の添加によって、アデノウイルスヘルパー遺伝子104μgを含むDNAならびにAAVベクターおよびAAV9rep/capヘルパー遺伝子各50μgを沈殿させ、調製したHEK293細胞にリン酸カルシウムトランスフェクションによって取り込ませた。
【0119】
トランスフェクションの準備において、293細胞のマスターストックを播種し、75cmフラスコ中で70%コンフルエントまで培養した。これを3個のフラスコに分割し、70%まで増殖させ、続いてトレイに分割した。所望の量の細胞を得るまで、分割および増殖のこの過程を繰り返した。次いで、細胞を25%の分割量で冷凍保存し、こうしてこれが製造全体のワーキングストックとしての役割を果たした。トランスフェクションの各ラウンドの前に、ワーキングストックを得、分割し、トランスフェクションに使用する前に50%コンフルエントに増殖させた。Invitrogenによるリン酸カルシウムトランスフェクションキットに添付のプロトコールに従って、全てのトランスフェクションを実施した。AAVベクタープラスミド中のCMVプロモーターによって駆動されるGFPを、トランスフェクションの各ラウンドの対照として常に使用した。
【0120】
トランスフェクション後48時間に細胞を回収した。手順は、細胞を培養プレートから擦り取ることおよび氷上で遠心分離ボトルに収集することを含んでいた。3400rpmの速度および4℃の温度において、遠心分離し上清を廃棄した後15分に細胞を培養培地から採取した。次いで、細胞を10mlAAV緩衝液を用いて−80℃ですぐに保管し、精製を待った。
【0121】
AAVウイルスの精製
AAVはこの宿主を溶解しないので、細胞の冷凍および解凍の過程後の超音波処理によって、宿主細胞からウイルス粒子を回収した。次いで、超遠心分離機中で18から20時間の間の塩化セシウム(CsCl)勾配遠心分離を3回(3X)することによって、細胞溶解物中の放出されたウイルス粒子を精製した。CsCl勾配の設定において、最初に0.454gCsCl/ml細胞溶解物の混合物を作った後、1.31g/mlCsCl、1.41g/mlCsClおよび1.61g/mlCsClを含む異なる勾配のCsCl溶液を続いて添加した。アッベ屈折計を使用して、スピンからのフラクションの屈折率(RI)を測定し、1.3650から1.3760の間のRIを有していたものをスピンの後続ラウンドのために一緒に取り出した。次いで、最終的に得られた純粋なベクター懸濁液を4℃で保管した。
【0122】
AAVウイルスベクターの力価測定
最初に、精製rAAVベクター懸濁液4μlをDNaseで処理し、99℃で5分間培養した。この段階は、トランスフェクションに使用したか、またはトランスフェクションに使用した細胞のゲノムに由来するあらゆる残存DNAを含むAAV9ウイルス粒子の外部に存在するあらゆるベクターDNAを破壊するのに必要であった。これは、リアルタイムまたは定量的ポリメラーゼ連鎖反応(QPCR)中にウイルス粒子の内部のDNAだけが力価測定されたことを意味する。この温度はまた、ウイルス粒子を破裂させて、これらのベクターDNAを溶液に放出することを可能にする。
【0123】
ABI(PERKIM ELMER)Q−PCRマスターミックスおよびTAQMANプローブおよびウシ成長ホルモンポリA(BGHpA)を遺伝子導入DNA標的配列として専ら検出するためのプライマーを使用して、ABI7500 FAST(Applied Biosystemsのシーケンサー検出器単位、フォスター、カリフォルニア州、米国)でQPCRを実施した。一定の標準規格を調製(希釈10から10)して、各試料でシグナルの測定を可能にした標準曲線を得た。プラスミドのサイズおよびアボガドロ数に基づいて、プラスミドDNAのμgを標的DNAの特定のコピー数に相関させることができた。
【0124】
ポリAを検出するために、フォワードおよびリバースプライマーである特定のプライマーをプローブと一緒に使用した。使用したフォワードおよびリバースプライマーはそれぞれ、GCCTTCTAGCCAGCCAT(配列番号26)およびGGCACCTTCCAGGGTCAAG(配列番号27)であった。使用したプローブは、TGTTTGCCCCTCCCCCGTGC(FAM−TAMRA)(配列番号28)であった。ABI QPCR反応ミックス、プライマー、プローブ、ROXおよび必要量までつぎ足すための水を含む反応混合物を各反応ウェル中に入れた。試料、基準および非鋳型対照(水)を96ウェルQPCRプレートに入れた後、ABI7500標準ラン:50℃で10分間、95℃で2分間、ならびにその後の95℃で15秒間および60℃で1分間の40サイクルからQPCRをランし、各ランを約1時間35分継続した。
【0125】
インビボ実験
AAV9ウイルスベクターの注射
表2に要約したように、合計11匹の23日齢NOD−SCIDγ欠損マウスに特定の組換え(r)AAV9を尾静脈注射によって静脈注射した。ウイルスベクターをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、1.25x1011vg(ベクターゲノム)の注射量を得た。
【0126】
【表2】

【0127】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)
半定量的RT−PCRを、全てのマウスに由来する組織においてhrGFPのmRNA量を検出するのに使用した。InvitrogenのPureLink Micro−to−Midi Total RNA精製システムキットに添付のプロトコールに従って、マウスの心臓および脾臓組織から総RNAを抽出した。ゲノムDNAまたはベクターDNAを分解するためにDNase処理段階が含まれた。この後、InvitrogenスーパースクリプトVILOcDNA合成キットおよびこれに添付のプロトコールを使用して、2μgの総RNAでcDNAを合成した。cDNAにおけるhrGFPのレベルを検出するために、100ngの総cDNAをPCRを実施するのに使用した。これは、hrGFP特異的プライマー(上記と同じもの)を使用して行った(フォワードプライマー:5’から3’−TTG CTA GCA CCA TGG TGA GCA AGC AGA TCC TGA AGA ACA C(配列番号22)およびリバースプライマー:5’から3’−TTA AGA TCT TTA CAC CCA CTC GTG CAG GCT GCC CAG(配列番号23))。サーマルサイクラー中で増幅を行った。グリセロアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)cDNAは、試料注入の標準化に関する内部対照遺伝子としての役割を果たした。GAPDHに関して使用したプライマーは、フォワードプライマーとしてTGTGTCCGTCGTGGATCTGA(配列番号29)、およびリバースプライマーとしてCCTGCTTCACCACCTTCTTGA(配列番号30)であった。基準に使用したプラスミドは、hrGFPに関してpAVV−hrGFP、およびGAPDHに関してpGEMTイージー−マウスGAPDHであった。
【0128】
[実施例1]
距離差行列(DDM)法による過活性心臓特異的レギュロンの作製
TFBSが単に存在するだけではなく、「レギュロン」と定義される転写因子結合部位(TFBS)の特定の組み合わせが、高いレベルの組織特異的発現を指示するのに重要であることが知られている。DDMに基づく新規なデータマイニングアルゴリズムを使用して、TFBSに非常に豊富に存在する8個の心臓特異的レギュロンを同定し、各配列を表1に示した。DDM法の原理は、ヒトゲノム上のMYL3エンハンサーのマッピングの例によって例示することができる。遺伝子ミオシン軽鎖3は心臓において特異的に発現しており、このエンハンサー領域は、Sox5、Pax4、RREB1などの幾つかの心臓特異的転写因子結合部位(TFBS)を含む。さらに、これらのTFBSは幾つかの種内で高度に保存されており、これは、対応する転写因子のこれらのDNA結合部位への結合が強い進化的圧力の下にあることを示している。このような相互作用を変化させる突然変異が起こると、この結果として生じた遺伝子発現における変化は生存に不適合であり得る。このDDM法によって同定した8個のレギュロン、即ち:Myl2、Brd7、Myl3、Casq2e1、Casq2e2、Ankrd1e1、Ankrd1e2およびAnkrd1e3は、アカゲザル、マウス、アルマジロ、イヌ、ウマ、トカゲ、ニワトリなどの異なる種間で強い相同性を示した。
【0129】
MYL3(参照配列:NM_000258)は、ミオシン軽鎖3(文献において心室アイソフォームおよび遅骨格筋アイソフォームとも称されるアルカリ軽鎖)をコードする。MYL3における突然変異は、中間左室腔(mid−left ventricular chamber)型肥大型心筋症の原因として同定されている。
【0130】
Ankrd1遺伝子(参照配列:NM_014391)によってコードされるタンパク質は内皮細胞の核に局在しており、IL−1およびTNFα刺激によって誘導される。ラット心筋細胞における研究は、この遺伝子が転写因子として機能することを示唆している。このタンパク質と筋節タンパク質ミオパラジン(myopalladin)およびチチンとの間の相互作用は、これが筋線維伸縮センサーシステムにも関与し得ることを示唆している。
【0131】
CASQ2遺伝子(参照配列:NM_001232)によってコードされるタンパク質は、カルセクエストリンファミリーの心筋ファミリーメンバーを指定している。カルセクエストリンは、心臓の遅骨格筋細胞において筋小胞体に局在している。タンパク質は、カルシウムを筋機能のために貯蔵するカルシウム結合タンパク質である。
【0132】
MYL2(参照配列:NM_000432)は、心臓ミオシンβ(または遅)重鎖関連調節軽鎖をコードする。Ca+は調節軽鎖のリン酸化を引き起こし、これが次々に収縮を引き起こす。MYL2における突然変異は、中間左室腔型肥大型心筋症に関連している。
【0133】
次いで、強力な心臓特異的プロモーターおよびTFBSに豊富に存在する心臓特異的レギュロンの組み合わせが、過活性心臓特異的発現を指示すると仮定した。図3に示されるように、これらの心臓特異的レギュロンと組み合わせたαMHCpが、過活性心臓特異的プロモーター(CSP)をもたらして、心臓における強発現を指示すると仮定した。次いで、これらを、AAVベクター中に発現カセットを作製してこのロバスト性を試験するのに使用した。
【0134】
pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAの作製
安全性プロファイルおよび心筋遺伝子導入における改善に関して、遺伝子治療のためのAAVの使用における最近の進歩(Vandendriessche et al,2007;Muller et al.,2006)は、心臓を標的とする本プロジェクトにAAVベクターを選択した理由であった。本研究で使用したAAV発現カセットの作製において、AAV2をAAV9カプシドにシュードタイピング(pseudotyping)することによって、組換えAAVを作った。これは、AAV9が他の抗原型と比較して最も高い心臓指向性を有し(Inagaki et al,2006)、rAAV2/9媒介性遺伝子送達が強い心臓遺伝子送達をもたらした(Pacak et al,2008)という事実と合致していた。ベクタープラスミドの特異性を高めるために、αミオシン重鎖プロモーター(αMHCp)をカセットに組み込んで、hrGFP導入遺伝子の発現を促進させた。hrGFP導入遺伝子の高いレベルの発現を指示するために、ベータグロビンイントロン(βグロビンイントロン)も含まれていた(Buzina et al,2008)。
【0135】
pAAV−hrGFP−pAの作製
アンピシリン耐性遺伝子およびbghポリAを含むpUCベクターをhrGFP断片とライゲーションすることによって、pAAV−hrGFP−pAを得た(図4[A])。スクリーニングした後、ライゲーションを行った制限部位であるNheIおよびBglIIを使用して、最良のクローンを選択した。図5[A]における電気泳動の画像で認められるように、この制限は、hrGFPのサイズである716bp断片サイズを生成した。NheI−BglII制限はベクターからhrGFP断片を切り出すので、これは予想されていた。これは、pAAV−hrGFP−pA選択ベクターがhrGFP断片の正しい挿入物を含んでおり、さらにこのベクターを使用してクローニングが続いて行われ得たことの証拠であった。
【0136】
pAAV−αMHCp−hrGFP−pAの作製
次の段階は、選択したpAAV−hrGFP−pA陽性クローンにαミオシン重鎖プロモーター(αMHCp)をクローニングすることであった。ベクターおよび増幅したαMHCpの両方において存在するAcc65IならびにNheI制限部位を利用することによって、pAAV−αMHCp−hrGFP−pAベクターを得た(図4[B])。Acc65I−NheIを用いてこのベクターの正確性を確認したところ、αMHCpのサイズに対応する363bpの断片サイズを得た(図5[B]左側のラダー)。NotI−NdeI制限を使用して、プロモーターの329bp部分を切断するさらなる確認試験を実施した(図5[B]最右側5個のウェルのラダー)。これは、NdeI制限部位がプロモーター領域の内部約20bpからプロモーター配列の末端に位置していたので、マウスゲノムからのプロモーター増幅の有効性および存在を試験するためのものであった。この20bp未満の完全なプロモーター領域により、Acc65I−NheI制限から生成されたバンドと比較して小さい、NotI−NdeI制限で生成されたバンドが説明される(図5[B])。
【0137】
pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAの作製
レギュロンをクローニングする前の最終構築物は、ベータグロビンイントロン(βグロビンイントロン)をpAAV−αMHCp−hrGFP−pAベクターにクローニングして、pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAを得るためのものであった。図4[C]に示されるように、Nhel制限酵素を用いて前記ベクター(即ち、pAAV−αMHCp−hrGFP−pA)を分解して、プロモーターとベクターのhrGFP領域との間にシングルカットを得た。ベクターの再ライゲーションを防ぐために、制限した断片の5’末端からリン酸基を除去するホスファターゼを用いてこの制限反応物を処理した。βグロビンイントロン断片はXbaI部位に隣接する1個の末端を有していたが、NheI制限酵素を用いて切断したベクターにこれを上手くクローニングすることができた。これは、NheIおよびXbaIエンドヌクレアーゼそれぞれが、これらのエンドヌクレアーゼによって生成された断片の間でライゲーションを可能にする異なる認識配列(XbaIに関して5’−TCTAGA、およびNheIに関して5’−GCTAGC)を有するが、これらは両方とも制限後に5’−CTAGオーバーハングを生成するからである。
【0138】
一方、ライゲーション後にプロモーターとイントロンとの間に作ったNheI/XbaI部位はNheIとXbaIのどちらにも認識され得ないので、非確認制限を実施して、ベクターからβグロビンイントロンを切り出すことができた。従って、BglII−NdeIおよびNheI−Acc65I分解を使用して、別の制限を行った。図5[C]における電気泳動の画像において得られたように、BglII−NdeI制限酵素を用いてpAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAベクターを分解すると1246bpのバンドが生じたが、これは、hrGFP(716bp)、たった今クローニングしたβグロビンイントロン(492bp)およびαMHCpの末端部分20bp、ならびにαMHCp−βGIとβGI−hrGFPとの間に介在する2個の制限部位の存在を示している。後続確認試験は、挿入したβグロビンイントロンの方向がセンス方向かを試験するためのものであった。Acc65I−NheIの使用では、イントロンをセンス方向に有するベクターが、図5[C]右のパネルに示される電気泳動図においてまさに認められたものであった1個の介在する制限部位(NheI/XbaI部位)を有する、βグロビンイントロンおよびαMHCpを構成する約867bpのバンドを生成することが予想された。他方、イントロンをセンス方向に有するベクターにおいて認められたβグロビンイントロンとαMHCpとの間の代わりにβグロビンイントロンとhrGFPとの間に、破壊されたNheI/XbaIが存在する場合、イントロンをアンチセンス方向に有するベクターは、αMHCpのバンド363bpを単独で生成したと考えられる。
【0139】
pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAの配列決定
前節において記載したように得た電気泳動の画像に基づいて、pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAを得るための全てのクローニングおよびスクリーニングが成功したと判断した。配列決定のためのABI PRISM(登録商標)ビッグダイ(商標)ターミネーターサイクル配列決定キットと組み合わせてキャピラリーシーケンサー(Applied Biosystems 3730 DNA分析器)を使用するVIBサービス設備を使用して、ベクタープラスミドpAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAが配列決定されたかを検証した。2個のフォワードプライマーおよび2個のリバースプライマーを、プラスミドベクター中のαMHCpおよびβグロビンイントロンを配列決定するのに使用した。CLUSTAL2.0.11多配列アライメントツールを使用して、配列決定から得られた結果を、作製した理論上の配列rAAV9とアライメントした(添付物2における完全なアライメント)。以下に示されるように、プロモーターを配列決定するためにプライマー1および2を設計したのに対して、βグロビンイントロンに関してプライマー4および5を設計した。rAAV9は、L−ITRからR−ITRまでの配列を表しているので、プロモーター、イントロン、hrGFPおよびBGHpA配列を含んでいる。配列が正しいか確認した。
【0140】
pAAV−Reg−αMHCp−βGI−hrGFP−pAの作製
本研究のための最終構築物は、レギュロンを有する発現カセットの作製であった(図6[A])。レギュロンを、L−ITRとαミオシン重鎖プロモーターとの間にクローニングした。Acc65Iを用いた制限後のベクター断片の両末端は、互いに非常にライゲーションしやすい付着末端を生成するので、上述のように、ホスファターゼを用いてベクターを処理して、ベクターの再ライゲーションを防いだ。図6[B]は、クローニング前の8個のレギュロン全ておよびベクターpAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAのサイズを示す電気泳動の画像である。得られたバンドは、これら理論上の配列の長さに非常によく対応している。ウェルが番号付けられた順番に、1から8の数字がMyl3(150bp)、Brd7(689bp)、Myl2(183bp)、Casq2e1(219bp)、Casq2e2(117bp)、Ankrd1e1(299bp)、Ankrd1e2(277bp)およびAnkrd1e3(397)にそれぞれ対応する。
【0141】
陽性クローン(即ち、センス方向のレギュロンおよびタンデムリピートではないレギュロンの予想断片サイズを含むクローン)に関する各クローニングの後、20個の得られたクローンをスクリーニングした。図6[C]における電気泳動の図は、センス方向のクローンを選択するための、クローニング後のこのようなスクリーニングの結果である。各レギュロンがこの末端にMluI制限部位12bp、およびプロモーターの末端20bpに位置するNdeI部位を有していたので、センス方向にクローニングしたレギュロンを有していたあらゆるベクターが、MluI−NdeI制限酵素を用いてベクターを分解した場合に、レギュロンのサイズに関係なく約355bpのバンドを生成することが予想された。この観察は、図6[C]の赤い囲み線で示される2個のバンドにおいて見られる。他方、レギュロンがアンチセンス方向にあった場合、異なるベクターのクローンから異なるバンドが予想された。この場合、MluI部位はレギュロンの開始から12bpに位置し、これは、MluI−NdeIエンドヌクレアーゼを用いた制限が、特定のレギュロンおよびプロモーターの全長の大部分を切断することを示唆している。8個のレギュロンそれぞれが異なるサイズを有するので、これは、異なるベクターから生成されたバンドにおける変化をもたらす。図6[C]におけるこの特定の画像は、Ankrd1e1レギュロンをベクターpAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAにクローニングした後の結果であった。pAAV−Ankrd1e1−αMHCp−βGI−hrGFP−pAベクタークローンでのMluI−NdeI制限によって、レギュロンをアンチセンス方向に有するクローンは、約641bpのバンド(図6[C]黄色の囲み線)を生成したが、Ankrd1e1レギュロンは299bpのサイズを有し、プロモーターは363bpのサイズを有するので、これは予想していたものである。これにおける青色の囲み線中の2個のバンドは、Ankrd1e1レギュロンの内部に位置するNdeI制限部位の結果物であった。全てのレギュロンの配列のMacVectorソフトウェア制限分析によって明らかになったように、これはNdeI制限部位を含んでいたレギュロンだけであった。約100bpである第二のバンドは、ベクター中の2個のNdeI部位(即ち、プロモーター領域中の1個のNdeI部位、およびレギュロン中の第二のNdeI部位)の間にあった断片から生じた。MluI−NheIなどの他の制限酵素を用いて、このレギュロンを有するベクターをさらにスクリーニングした。
【0142】
センス方向に基づいてベクタークローンをスクリーニングした後、レギュロンがタンデムに存在したか否かを検査するために、MluIエンドヌクレアーゼを使用して選択したクローンを試験した。図6[D]は、MluIを用いて陽性クローンを試験した後に得られた1つの結果を示す。選択した陽性クローンのいずれもがレギュロンをタンデムに有していなかったことがここで認められ得る。いずれかがタンデムに存在していた場合、ベクター中の特定のレギュロンのサイズの大部分となる第二のバンドが認められる。
【0143】
図6[E]における電気泳動の画像は、各ベクター中に含まれるべき正しいレギュロンの存在を確認するために8個のベクターのうちの5個から選択した陽性クローンの複製物を示す。Acc65I制限によって、各ベクターが、ベクター中の特定のレギュロンのサイズに対応するバンドを生成することが予想された。予想されるバンドサイズは、(1)689bpサイズのBrd7;(2)Casq2e1、219bp;(3)Ankrd1e1、299bp;(4)Ankrd1e2、277bp;および(5)Ankrd1e3、397であった。これは、3番目のウェルにおけるクローン1を除く全ての陽性クローンにおいて認められた。この結果は、確認試験の重要性を示す。Acc65IおよびKpnI制限酵素は両方とも同じ認識配列5’−GGTACC−3’を有するが、Acc65IはG−Gの間を切断し、KpnIはC−Cの間を切断するので、KpnI制限もまた、Acc65Iよるものと同じサイズのバンドを生成したことに注目すべきである。従って、確認試験の最後に選択した陽性クローンは、正しい順序、方向およびサイズであることが証明され、従ってAAVベクターの製造に展開された。
【0144】
[実施例2]
rAAV2/9ベクターの製造および力価測定
ベクターのトランスフェクション効率
レギュロンを含む8個のAAVプラスミドベクター(pAAV−Reg−αMHCp−βGI−hrGFP−pA)のそれぞれ、およびいかなるレギュロンも有しない別の対照ベクター(pAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pA)をMaxiPrepアッセイキットによって抽出し、その後これらの精製プラスミドをAAVベクターの製造に使用した。サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下にあるGFPをコードするAAVベクターを、AAVベクターの製造におけるトランスフェクションおよび力価測定対照として使用した。リン酸カルシウム沈殿によって、9個のベクターのそれぞれを、アデノウイルスヘルパープラスミドおよびAAV9rep/capプラスミドと一緒に、ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞(この高いトランスフェクション効率およびタンパク質産生、ならびに翻訳後修飾を行う能力が知られている、Thomas,et al.,2005)にトランスフェクションした。全てのベクターのレポーター遺伝子hrGFPの発現に基づくトランスフェクション効率を、トランスフェクション後24時間および48時間に測定した。トランスフェクションした細胞の量(蛍光顕微鏡の下で観察されるトランスフェクション効率と称される。)によって、全てのベクター構築物の有効性を、このレベルのトランスフェクションにおいて確認した。図7および表3に示されるように、全てのトランスフェクションは、トランスフェクション後48時間に約90パーセント(90%)または95パーセント(95%)の高いトランスフェクション率(細胞をほとんど全て緑色に見せている。)をもたらした。このようなトランスフェクション効率は非常に高いと考えられ、従ってトランスフェクションの成功を表し、全てのプラスミドベクター構築物の有効性を裏付けている。
【0145】
Q−PCRによるベクター力価の測定
AAVは製造からのこの低い力価が知られており、これが力価測定を、AAVベクターの製造の非常に重要な構成因子にする。基準グラフ(図8)および得られたC値によって、各試料のゲノムコピー数を評価することができた。20ウェルプレートを利用するリアルタイムPCRによって、コピー数が1011から1013vg/mlの範囲であると予想した。得られた全ての値(表3)はこの範囲内であり、従ってインビボ実験に使用することができた。
【0146】
【表3】

【0147】
実施例3
rAAV9ベクターのインビボ検証
8個の異なるレギュロンを含むAAVベクターおよび対照構築物(レギュロンを有しないαMHCプロモーターによって駆動されるGFPを有する。):比較的良好なベクター力価を有するpAAV−αMHCp−βGI−hrGFP−pAを成功裡に製造した(表3)。予備実験として、本発明者らは、マウス1匹当たり1.25×1011vgの低投与量だけを試験した。これらのベクターのそれぞれを、成体γCNod−SCID欠損マウスに尾静脈を通じて静脈注射した(表2)。AAVベクターで注射したマウスに由来する異なる臓器のGFP発現を検出するのに、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を使用した。マウスの心臓および脾臓からメッセンジャーRNA(mRNA)を抽出し、hrGFP特異的プライマーを、GFPcDNAを逆転写および増幅するのに使用した。得られたPCR産物をアガロースゲル上で可視化した(図9)。Casq2e1レギュロン含有ベクターの心臓組織からGFPに対応する716bpの目立つバンドが検出され、レギュロンを有しないベクターの心臓組織は心臓組織におけるごく微量のGFPcDNAを示したが、脾臓においてはいずれのベクターもいかなる発現も示さなかった(図9[A])。レギュロンを有しない対照ベクターと比較して、Myl2レギュロン含有ベクターは、GFPmRNAのわずかな増加を示した。
【0148】
内部対照遺伝子グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)によって、試験を標準化した。GAPDHによる標準化後のバンド強度の定量化は、新規なCasq2e1レギュロンによるGFP発現の非常に顕著な増加を示した。Casq2e1レギュロンはGFP発現の約14倍の増加をもたらしたが、Myl2レギュロンはGFP発現の約2倍の増加をもたらした。ここで示したデータは、配列番号1および2をそれぞれ有するエンハンサーに関するものだけであるが、レギュロンを含むことは、αMHCプロモーターからのGFP発現の増大を一貫してもたらしていた。この結果は、DDMデータマイニング法によるレギュロンの予測の成功をさらに立証している。この結果はまた、αMHCプロモーターと組み合わせたレギュロンが心臓特異的発現をもたらすことも示している。
【0149】
長期追跡調査
エンハンサー因子が心臓特異的発現を増加させただけでなく、依然として組織特異的であり続ける持続的(即ち、長期の)発現も保証したか否かを評価するために最初の実験を設定し、この実験で、新生仔免疫不全NODSCID/γ欠損マウスにおいて2.5×1010AAVベクターゲノムの注射(静脈)後1ヶ月にGFP発現を評価した。ベクター注射後1ヶ月に、落射蛍光顕微鏡を使用してGFP蛍光を評価した(データは示さない。)。配列番号6(Ankrd1e3)をエンハンサーとして使用した。
【0150】
高いレベルの心臓のGFP発現が示され得たが、本発明者らは、いかなる他の組織においてもGFP発現を検出しなかった。従って、発現レベルおよび特異性は両方とも、長期間にわたって維持されている。
【0151】
8個のエンハンサー因子(上記表3)それぞれのロバスト性および特異性を確認するために、異なる投与量(低:1011、中:3×1011および高:1012)を使用したさらなる実験を実施した。これらのエンハンサー因子それぞれに関するAAV抗原型9ベクターを製造し、力価測定し、2から3日齢新生仔C57Bl6マウスに静脈注射した。注射後6週間にマウスを屠殺して、αMHCプロモーター上のエンハンサー因子それぞれの効果を測定した。対照ベクターは、エンハンサー因子を有しないαMHCプロモーターから駆動されるGFP遺伝子を含む。全ての他のベクターは、1個のエンハンサー因子がαMHCプロモーターの上流にクローニングされているαMHCプロモーターから駆動されるGFP遺伝子を含む。6週間後、17から21グラムの間の体重を有する動物を、頸椎脱臼によって安楽死させ、マウス1匹ごとに異なる臓器を分析した(心臓、筋肉、肝臓、腎臓、脳、脾臓および横隔膜)。落射蛍光顕微鏡を使用して、異なる暴露時間値における完全心の写真を撮影した。幾つかの典型的な写真を図10に示し、データは利用可能であるが示さない。全ての臓器を幾つかの切片に切断し、96ウェルプレートに分配して、共焦点顕微鏡下で分析した。顕微鏡分析により、発現が心臓特異的であった(即ち、全てのエンハンサーに関して、心臓以外の臓器においてGFPが検出されないか、または非常に限られた量のGFPだけが検出された)ことが明らかになった(データは示さない。)。
【0152】
これは、新たに同定した心臓のエンハンサー因子(別名レギュロン)が心臓特異的であり、心臓における高いレベルの導入遺伝子発現を可能にすることを示す有力な証拠を提供している。
【0153】
考察
レギュロンを含む8個の異なるAAV構築物およびレギュロンを含まない1個を成功裡にクローニングし、続いて対応するAAV9ベクターを製造した。多制限酵素分析(multiple restriction enzymes analysis)を使用して、全てのクローンを十分に検査および確認した。DNA配列決定によって、陽性クローンをさらに確認した。AAVベクターの製造中、トランスフェクション後48時間に90%のトランスフェクション効率を達成したが、これは、プラスミドDNA抽出が上手く行われて、トランスフェクションのための高純度のDNAが得られたことを示している。この段階は、製造後の高いAAVベクター力価を達成するのに重要である。全てのAAV9ベクターの力価測定分析は、高いベクター力価を示したが(表3およびデータは示さない。)(範囲:3×1011から1013vg/ml)、これは、過去に報告された研究(VandenDriessche et al.,2007)と一致している。これらのベクター投与量は、マウスモデルにおける予備インビボ実験を開始するのに十分であった。インビトロの結果からインビボ観察を常に推定することはできないので、本発明者らは、心臓細胞株におけるいかなるインビトロ予備検証研究も行わないことを選択したが、この代わりにインビボにおける直接的なAAV9遺伝子送達に焦点を合わせた。
【0154】
最初の予備実験において、免疫不全マウス(即ち、NOD−SCIDγc−/−)を使用した。NOD−SCIDγc−/−マウスを使用する論理的根拠は、形質導入心筋細胞に対するあらゆる免疫応答を回避するために正当化される。
【0155】
本研究において、マウス1匹当たり1.25×1011vgAAV9の低投与量を、マウスに全身投与した。共焦点顕微鏡分析を使用して、肝臓、脳および筋肉などの他の臓器ではなく心臓においてインビボGFP発現を検出した。
【0156】
この最初の実験において、心臓特異的プロモーターから促進されるGFPをコードする3個の異なるAAV構築物を試験した。rAAV9−Casqe1−αMHCおよびrAAV9−My12−αMHCとして指定したレギュロンを含む2個の構築物を試験し、レギュロンを含まない基本的なαMHCプロモーターだけを有する1個の対照構築物を比較に使用した(rAAV9−αMHC)。RT−PCRのデータは、Casq2e1およびMyl2レギュロンをαMHCプロモーターの上流に含むことがプロモーターの発現を増大させ(図9)、Casq2e1が最も強いレギュロンであることを示している。本発明者らのデータはまた、距離差行列(DDM)に基づく新規なデータマイニングアルゴリズムにより、新規な心臓特異的TFBS結合を同定し、心臓特異的レギュロンを選択することができたことも示唆している。高発現している心臓特異的遺伝子の間の共通点として、これらの「レギュロン」は、心臓特異的TFBS結合を高い割合で含む。さらに、これらのレギュロンは分岐種の間で進化的に保存されており、これは、心臓高発現に関するこれらの特定のTFBSの組み合わせを維持する強いダーウィンの選択圧を示唆している。RT−PCRによってレギュロンの心臓特異性も確認したが、これは、いかなる他の組織でもなく心臓における選択的GFPmRNA発現を示している(図9)。長期追跡調査において、この効果は維持されている(データは示さない。)。
【0157】
後続実験において、より低い(マウス1匹当たり2×1010vgAAV9)投与量およびより高い(マウス1匹当たり3×1011vgAAV9)投与量のウイルス構築物を両方とも使用した。また、NOD−SCIDマウスの代わりにC57Bl6マウスを使用した。対照と比較して、8個のエンハンサー全てがインビボ発現の強い増加を示した(図10および11ならびにデータは示さない。)。3つの異なる濃度(マウス1匹当たり2×1010vgAAV9、マウス1匹当たり3×1011vgAAV9およびマウス1匹当たり1×1012vgAAV9)で対照(エンハンサーを有しないαMHCプロモーターを含む。)を使用したところ、エンハンサーを有するベクターが、より大量の対照ベクターと比較した場合でさえ、GFP導入遺伝子のより高い発現をもたらした(図10AからC)。GFPデータは、少なくとも2匹のマウスの代表的なものである。8個のエンハンサー全てがプロモーター発現を顕著に増加させたが、2個のエンハンサーが他のものよりも再現性良く機能した。異なる投与量を使用したこれらの実験全てにおいて、エンハンサーCasq2e1は、全ての試験したマウスにおいて最も強いGFP発現(図10A)を一貫してもたらした。2番目に強いGFP発現はAnkrd1e2エンハンサーによってもたらされており、試験した8個のエンハンサーの中で一貫して2番目に良いものである(図10B)。これら2個のエンハンサー−プロモーターの組み合わせによって駆動されるGFP発現をRT−PCRによって定量化し、対照と比較した。結果を図11に示す。これらのデータは1匹のマウスに由来するものだけであるが(これが、蛍光データとは対照的に、Casq2e1エンハンサー(エンハンサー4)よりもAnkrd1e2エンハンサー(エンハンサー7)がわずかによく機能しているように見える理由を説明する。)、発現カセットを含むエンハンサーは両方とも、エンハンサーを有しない同じベクターよりも60倍以上のGFPを発現している。
【0158】
これらのデータはエンハンサーを有するベクターの効率の上昇を実証しており、より低いベクター投与量が心臓における効率的なインビボ遺伝子導入を達成するのに必要とされているので、これらのエンハンサー配列の使用がより経済的であるだけでなく、より良い安全性プロファイル有する可能性が高いことを証明している。さらに、全てのエンハンサーに関して、発現のこの増加は心臓特異的であり、他の臓器において顕著な発現は見られなかった(即ち、「漏れ」は認められなかった。)。これは、肝臓、肺、腎臓、筋肉、脾臓および横隔膜における発現を見ることによって測定した(データは示さない。)。
【0159】
本研究は、ディファレンシャルスクリーニング、理論的なインシリコプロモーター解析および設計後の半ハイスループットインビボスクリーニングを組み合わせた統合的方法が、異なる標的組織およびベクターに一般的に適用可能な強力な組織特異的遺伝子送達ベクターをもたらし得ることを実証している。
【0160】
GFP導入遺伝子産物は異物(異種抗原)であるので、形質導入心筋細胞におけるこの発現は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI抗原と結合して提示されたGFP抗原ペプチドに特異的な細胞傷害性T細胞応答を潜在的に引き起こし得る。これらの免疫応答は、最終的には、形質導入心筋細胞の排除をもたらし、異なるレギュロンを比較する関連データの解釈を歪曲し得る。これは、NOD−SCIDγc−/−マウスをここで最初に使用したからである。従って、本研究において、細胞免疫応答がGFP形質導入心筋細胞の程度および持続性に影響を与えた可能性は少ない。同じ理由により、抗AAV抗体がAAV形質導入を妨げた可能性も排除することができる。これらの結果は、非免疫不全マウスにおいて再現可能であった。
【0161】
結論として、本研究は、AAV9ベクターによって送達されるαMHCプロモーターと組み合わせた新規なレギュロンが、導入遺伝子を心臓に強制的に発現させることができることを示唆している。従って、心臓における限定的な発現は、AAV9(心臓指向性)の使用に起因するだけではなく、心筋に対して導入遺伝子発現の制限を可能にする心臓特異的レギュロンとともにαMHC(心臓特異的)の使用も必要とする。
【0162】
重要なことには、本結果の一部は免疫不全マウスを用いて得られたが、これは、発現タンパク質の異種性を考慮しただけであった。(例えば、(ウイルス)ベクターに対する反応により形質導入効率を妨げることを回避するために同時免疫抑制した方が良いと想定されるが)、C57Bl6マウスにおける実験によって示されるように、異物ではない物質(例えば、治療用タンパク質)を形質導入する場合、本明細書において記載される方法を実施するために、免疫応答を抑制することは必ずしも必要とされない。
【0163】
【表4】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列、またはこれらの機能性断片からなる群から選択される配列を含む、心臓特異的遺伝子発現を増強するための600ヌクレオチド以下の核酸調節因子。
【請求項2】
配列番号1、これに対して95%の同一性を有する配列、またはこれらの機能性断片を含む、請求項1に記載の核酸調節因子。
【請求項3】
請求項1に記載の調節因子またはこの相補体にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、600ヌクレオチド以下の核酸調節因子。
【請求項4】
250ヌクレオチド以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の核酸調節断片。
【請求項5】
プロモーターおよび導入遺伝子に機能的に連結された請求項1から4のいずれか一項に記載の核酸調節因子を含む、核酸発現カセット。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載の2つ以上の核酸調節因子を含む、請求項5に記載の核酸発現カセット。
【請求項7】
2つ以上の調節因子が同一である、請求項6に記載の核酸発現カセット。
【請求項8】
プロモーターが心臓特異的プロモーターである、請求項5から7のいずれか一項に記載の核酸発現カセット。
【請求項9】
プロモーターがミオシン重鎖遺伝子、特にミオシン重鎖α(αMHC)遺伝子由来である、請求項8に記載の核酸発現カセット。
【請求項10】
βグロビンイントロンをさらに含む、請求項5から9のいずれか一項に記載の核酸発現カセット。
【請求項11】
導入遺伝子が、VEGFまたはPlGFなどの血管形成因子、SERCA2aなどのATPアーゼ、イオンチャネル、サイトカインおよび成長因子からなる群から選択される治療用タンパク質をコードする、請求項5から10のいずれか一項に記載の核酸発現カセット。
【請求項12】
請求項1から4のいずれか一項に記載の調節因子を含む、ベクター。
【請求項13】
請求項5から11のいずれか一項に記載の核酸発現カセットを含む、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
ウイルスベクター、特にレンチウイルスベクターまたはAAVベクターである、請求項12または13に記載のベクター。
【請求項15】
AAV9ベクターまたはAAV2/9ベクターである、請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
遺伝子治療における、請求項1から3のいずれか一項に記載の核酸調節因子の使用。
【請求項17】
請求項5から11のいずれか一項に記載の核酸発現カセットを心臓細胞内に導入する段階;
導入遺伝子タンパク質産物を心臓細胞内で発現させる段階
を含む、心臓細胞においてタンパク質を発現させるための方法。
【請求項18】
請求項11に記載の核酸発現カセット、または請求項11に記載の核酸発現カセットを含むベクターを被験体の心臓内に導入する段階;
治療量のタンパク質を肝臓内で発現させる段階
を含む、遺伝子治療を必要とする被験体に対する遺伝子治療の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−509168(P2013−509168A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535849(P2012−535849)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066474
【国際公開番号】WO2011/051450
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(509333933)
【出願人】(502014363)ライフ・サイエンシーズ・リサーチ・パートナーズ・フェレニゲング・ゾンデル・ウィンストーメルク (12)
【氏名又は名称原語表記】LIFE SCIENCES RESEARCH PARTNERS VZW
【出願人】(500454046)
【Fターム(参考)】