説明

心血管イベントのタンパク質マーカー

本発明は、心血管イベントを発症する対象のリスクを予測する方法であって、前記対象の心血管系(の試料)中の少なくとも1つのバイオマーカーを検出するステップを含み、前記バイオマーカーが、腫瘍壊死因子α前駆体、リソソーム膜タンパク質(1)、インターロイキン5前駆体、インターロイキン6前駆体、C−Cモチーフケモカイン(2)前駆体、C−Cモチーフケモカイン(5)前駆体RANTES、カテプシンL1前駆体、アデニル酸キナーゼ(1)、ロイコトリエンB4受容体(1)、補体因子D、分泌性リン酸化タンパク質(1)、小分子誘導性サイトカインA17前駆体、C−X−Cモチーフケモカイン(10)前駆体、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー(11)(RANKL)、C−Cモチーフケモカイン(18)前駆体、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体、好中球コラゲナーゼ前駆体、脂肪酸結合タンパク質(4)、カルパイン(2)、(m/II)大サブユニット、マクロファージ遊走阻害因子、カテプシンS前駆体、インターロイキン(13)前駆体および可溶性ICAM−1からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リスク層別化および/または患者層別化を含めた診断法の分野に関し、より詳細には、脳卒中、心筋梗塞(心臓発作)、脳出血、および血管中で生じる他の主要な異常などの心血管イベントのリスクの予後判定に関する。特に、本発明は、血管中、特に頚動脈中のプラークの分類、ならびに原発性および/または続発性の心血管有害イベントの発生の予測に関する。
【背景技術】
【0002】
西欧における死因の第一位は、アテローム性動脈硬化症である。この疾患は、血管中での動脈硬化性プラークの形成から始まり、場合によっては、脳血管発作および心血管閉塞など、心筋梗塞の原因となる心血管イベントに発展する。こうしたことが続くと医療費に大きな負担となり、治療には、今日受けることが可能な最も高額で集中的な形態の医療が必要である。多くの場合、この原因は、診断に限界があることである。したがって、この疾患の分子多様性をさらによく解明し、心血管イベントのリスクが高い患者を早期の時点で層別化するための適切な診断手段に対する差し迫った必要性が存在する。
【0003】
主要な心血管イベントに罹患している患者と、対応する対照との違いは、個々の患者間の遺伝的およびエピジェネティックな違いに大きく依存する。当該イベントのリスクを有する患者を同定できる分子試験は限られており、画像化は、不安定プラークの古典的な組織学的概念に主に焦点を絞っており、この概念はイベントが起こる可能性を考慮に入れていない。この観点で言えば、プラークタンパク質は、マーカーまたは標的としては著しく未開拓である。
【0004】
心血管イベントに対するリスクが高まっていることを予測するためのマーカーとしては、タンパク質マーカーはほとんど提案されていない。提案されているものの1つがC反応性タンパク質であり、これは、冠動脈イベント、脳卒中、末梢血管疾患および2型糖尿病のリスクが高まっていることを示すものであるといわれている。最近では、ペントラキシン3(PTX3)も予測マーカータンパク質として同定されている。
【0005】
しかしながら、主要な心血管イベントに対するリスクを予測するためのさらに多くの信頼できるバイオマーカーに対する必要性は、未だに存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは今回、試料採取時前または採取時後に心血管イベントに罹患していた対象の動脈硬化性プラーク試料中のタンパク質の構成は、そのような心血管イベントに罹患していない患者におけるものとは異なること、また、この違いを患者の予後判定に使用できることを発見した。この驚くべき発見により、今回、予後的価値を有するタンパク質の動脈硬化性プラーク試料中での検出に基づく、患者における心血管イベントのリスクを予測するための方法がもたらされ、以降、このタンパク質をバイオマーカー、または差次的に存在するタンパク質と呼ぶ。本発明の方法は、適切には、リスク層別化および/または患者の選定(臨床試験のためなど)、疾患のモニターに使用することができ、このマーカーは、安全性および有効性の試験用の臨床バイオマーカーとして(例えば代理エンドポイントマーカーとして)使用することができる。
【0007】
第1の態様では、本発明は今回、心血管イベントを発症する対象のリスクを予測する方法であって、前記対象の心血管系(の試料)中の少なくとも1つのバイオマーカーを検出するステップを含み、前記バイオマーカーが、腫瘍壊死因子α前駆体(IPI00001671)、リソソーム膜タンパク質1(LAMP1、IPI00004503)、インターロイキン5前駆体(IPI00007082)、インターロイキン6前駆体(IPI00007793)、C−Cモチーフケモカイン2前駆体(IPI00009308)、C−Cモチーフケモカイン5前駆体RANTES(IPI00009309)、カテプシンL1前駆体(IPI00012887)、アデニル酸キナーゼ1(AK1、IPI00018342)、ロイコトリエンB4受容体1(IPI00019382)、補体因子D(CFD、アジプシン、IPI00019579)、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1(early T−lymphocyte activation 1)、IPI00021000)、小分子誘導性サイトカインA17前駆体(Small Inducible Cytokine A17 Precursor)(IPI00022062)、C−X−Cモチーフケモカイン10前駆体(IPI00022448)、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー11(RANKL)(TNF関連活性化誘導サイトカイン(TNF−related activation−induced cytokine))(TRANCE)(オステオプロテゲリンリガンド)(OPGL)(破骨細胞分化因子)(ODF)(CD254抗原)(IPI00023732)、C−Cモチーフケモカイン18前駆体(IPI00026183)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)、脂肪酸結合タンパク質4、脂肪細胞(FABP4、IPI00215746)、カルパイン2、(m/II)大サブユニット(CAPN2、IPI00289758)、マクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)、カテプシンS前駆体(IPI00299150)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)および可溶性ICAM−1(IPI00816809)からなる23種のタンパク質の群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む方法を提供する。本明細書中で開示する場合のIPI番号は、2008年7月2日に掲載されたInternational Protein Index(http://www.ebi.Ac.uk/IPI)を指す。本明細書中で使用する場合の参照インデックス番号(データベース登録番号)には、その断片および修飾体への参照が含まれることから、本発明は、本発明の多様な態様に関する場合、バイオマーカーとして本明細書中で開示されるタンパク質の断片ならびにタンパク質の修飾体および誘導体の使用を見込むものである。
【0008】
本発明の方法の好ましい一実施形態では、前記バイオマーカーは、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)およびマクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)からなる5種のタンパク質の群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む。
【0009】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、前記バイオマーカーは、上に定義したとおりの23種のタンパク質の群または5種のタンパク質の群から選択される少なくとも2種のタンパク質を含む。当業者には、バイオマーカープロファイルに、より多くのタンパク質を追加すれば、バイオマーカーの予測値を高めるのに役立つ可能性があることは理解されよう。したがって、このバイオマーカーは、1種を超える、好ましくは2種、3種、4種またはさらには5種のタンパク質のプロファイルを含んでもよい。好ましくは、そのような比較的小さいバイオマーカープロファイルでは、タンパク質は、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)およびマクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)からなる群から選択される。
【0010】
本発明のバイオマーカーは、5種を超える(6種、7種、8種、9種、10種、11種、12種、13種、14種、15種、16種、17種、18種、19種、20種、21種、22種またはさらには23種など)タンパク質のプロファイルを含んでもよい。好ましくは、そのような比較的大きいバイオマーカープロファイルでは、タンパク質は、腫瘍壊死因子α前駆体(IPI00001671)、リソソーム膜タンパク質1(LAMP1、IPI00004503)、インターロイキン5前駆体(IPI00007082)、インターロイキン6前駆体(IPI00007793)、C−Cモチーフケモカイン2前駆体(IPI00009308)、C−Cモチーフケモカイン5前駆体RANTES(IPI00009309)、カテプシンL1前駆体(IPI00012887)、アデニル酸キナーゼ1(AK1、IPI00018342)、ロイコトリエンB4受容体1(IPI00019382)、補体因子D(CFD、アジプシン、IPI00019579)、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、小分子誘導性サイトカインA17前駆体(IPI00022062)、C−X−Cモチーフケモカイン10前駆体(IPI00022448);腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー11(RANKL)(TNF関連活性化誘導サイトカイン)(TRANCE)(オステオプロテゲリンリガンド)(OPGL)(破骨細胞分化因子)(ODF)(CD254抗原)(IPI00023732)、C−Cモチーフケモカイン18前駆体(IPI00026183)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)、脂肪酸結合タンパク質4、脂肪細胞(FABP4、IPI00215746)、カルパイン2、(m/II)大サブユニット(CAPN2、IPI00289758)、マクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)、カテプシンS前駆体(IPI00299150)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)およびsICAM−1(IPI00816809)からなる群から選択される。
【0011】
本発明の態様の代替的な好ましい実施形態では、このプロファイルは、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)およびマクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)からなる群からの全5種のタンパク質からなる。
【0012】
本発明の態様の代替的な好ましい実施形態では、このプロファイルは、腫瘍壊死因子α前駆体(IPI00001671)、リソソーム膜タンパク質1(LAMP1、IPI00004503)、インターロイキン5前駆体(IPI00007082)、インターロイキン6前駆体(IPI00007793)、C−Cモチーフケモカイン2前駆体(IPI00009308)、C−Cモチーフケモカイン5前駆体RANTES(IPI00009309)、カテプシンL1前駆体(IPI00012887)、アデニル酸キナーゼ1(AK1、IPI00018342)、ロイコトリエンB4受容体1(IPI00019382)、補体因子D(CFD、アジプシン、IPI00019579)、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、小分子誘導性サイトカインA17前駆体(IPI00022062)、C−X−Cモチーフケモカイン10前駆体(IPI00022448)、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー11(RANKL)(TNF関連活性化誘導サイトカイン)(TRANCE)(オステオプロテゲリンリガンド)(OPGL)(破骨細胞分化因子)(ODF)(CD254抗原)(IPI00023732)、C−Cモチーフケモカイン18前駆体(IPI00026183)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)、脂肪酸結合タンパク質4、脂肪細胞(FABP4、IPI00215746)、カルパイン2、(m/II)大サブユニット(CAPN2、IPI00289758)、マクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)、カテプシンS前駆体(IPI00299150)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)およびsICAM−1(IPI00816809)からなる群の全てのタンパク質からなる。
【0013】
当業者には、完全なバイオマーカータンパク質を検出する代わりに、当該バイオマーカータンパク質に由来する前記バイオマーカータンパク質のペプチド断片を、その断片化により検出してもよいことは理解されよう。ペプチド断片という用語は、本明細書中で使用する場合、5〜50個の間のアミノ酸を有するペプチドを指す。これらのペプチド断片は、好ましくは、そのタンパク質の特有のアミノ酸配列を備え、本明細書中で開示するような心血管イベントと関連がある。
【0014】
このタンパク質および/またはペプチド断片は、任意選択的に、化学的に修飾されたタンパク質および/またはペプチドとして検出されてもよく、そのような化学的修飾は、例えば、グリコシル化、酸化、(持続的な)リン酸化、還元、ミリスチル化、硫酸化、アシル化、アセチル化、ADP-リボシル化、アミド化、ヒドロキシル化、ヨウ素化およびメチル化からなる群から選択されてもよい。可能性のあるタンパク質修飾が多数、以下に記載されている。RESIDデータベース(http://www.ebi.ac.uk/RESID)(2008年7月1日リリース)(Garavelli,J.S.、(2004)、The RESID Database of Protein Modifications as a resource and annotation tool、Proteomics、4、1527〜1533頁)およびFarriol−Mathis,N.、Garavelli,J.S.、Boeckmann,B.、Duvaud,S.、Gasteiger,E.、Gateau,A.、Veuthey,A.、Bairoch,A.、(2004)、Annotation of post−translational modifications in the Swiss−Prot knowledge base、Proteomics、4、(6)、1537〜50頁。当業者であれば、このような修飾をよく承知している。
【0015】
本発明の方法の好ましい実施形態では、バイオマーカータンパク質またはそのペプチド断片は、動脈硬化性プラーク、循環細胞(例えば、血小板、赤血球、白血球)、血清、血漿、血栓または血管組織中で検出される。血管組織は、適切には、血管壁の材料、例えば、血管を有する適当な組織試料(脂肪組織試料など)の生検により得ることができるような材料である。
【0016】
本発明の一方法では、心血管イベントは、好ましくは、血管死または突然死、致死性または非致死性の脳卒中、致死性または非致死性の心筋梗塞、致死性または非致死性の腹部大動脈瘤破裂、開腹術により確認される腹部大動脈瘤破裂、血管インターベンション、冠動脈疾患、一過性脳虚血発作(TIA)、末梢動脈疾患、急性冠症候群、心不全または再狭窄から選択される。
【0017】
本発明の一方法では、前記バイオマーカーを検出するステップは、前記タンパク質の量を測定するステップ、または前記タンパク質についての(もしくはその前記ペプチド断片についての)タンパク質発現プロファイルもしくは遺伝子発現プロファイルを用意するステップを含んでもよい。
【0018】
別の態様では、本発明は、心血管イベントに罹患するリスクの増加に関連する動脈硬化性プラーク中のバイオマーカーを提供する。本発明のバイオマーカーを使用して、以下により詳細に記載する本発明の方法において、動脈硬化性プラーク試料を分類することができる。プラーク中または対象のプラーク試料中でのこのバイオマーカーの存在を検出することにより、その対象が脳卒中または心筋梗塞に罹患するリスクが増加しているかどうかを予測することが可能である。
【0019】
本発明のバイオマーカーは、プラーク試料を分類すること、およびプラークを提供しており、特に、プラークの試料採取後3年の期間中に心血管イベントに罹患している対象の医学的状態についての情報を収集することを含む大規模な疫学研究により発見された。予測相関を確立することができた。
【0020】
本発明のバイオマーカーは、タンパク質マーカーである。心血管イベントに罹患するリスクの増加に関連するプラーク中の多様なタンパク質は、多様な具体的な代謝経路または分子ネットワークの1つに、同ネットワークにおけるこれらのタンパク質の役割に基づいて割り当てることができることが見出された。専用のソフトウェアツール(Ingenuity(登録商標)Pathways Analysis(IPA))を用い、ネットワーク機能を、細胞間のシグナル伝達および相互作用、免疫応答、神経疾患、細胞の移動および癌からタンパク質分解および生殖系疾患に至るほど多様な過程に割り当てることができた。さらに、さまざまなタンパク質が属する明確なネットワークを同定できた。こうしたネットワークに由来する他のタンパク質も、本発明の態様において使用するための候補バイオマーカーであることは、本発明の一態様である。
【0021】
本発明のバイオマーカーは、一実施形態では、以下からなる群から選択される少なくとも1つのIngenuity(登録商標)ネットワークの構成要素である、少なくとも1種のタンパク質を含む。
a)タンパク質ACTR2、CAPN2、CAST、FSCN1、HCLS1、HNRPA2B1、HNRPC、HSP90AA1、IGFBP7、MYLK、RAC1、S100A8、SERPINF1、SNCA、SPP1、SSB、STIP1、UCHL1およびYWHAQにより規定されるIngenuity(登録商標)ネットワーク、
b)タンパク質AHNAK、AKR1A1、C1QB、C1QC、CBR3、CFD、CORO1C、FBP1、HNRPC、HNRPD、LAMP1、NEDD8、PSME2、SERPINC1、SPTA1およびTNCにより規定されるIngenuity(登録商標)ネットワーク、
c)タンパク質C19ORF10、CAPZA1(EG:829を含む)、CAPZA2、CAPZB、DDX23、EEF1A2、FSCN1、GOLGA4、HSPA5、KRT1、M6PRBP1、NPC2、PGD、S100A8、SNIP1およびSPTAN1により規定されるIngenuity(登録商標)ネットワーク、
d)タンパク質ADH5、AK1、CALU(EG:813を含む)、CRYZ、DPYSL3、EIF3S3、HNRPA2B1、IGFALS、IGHG1、MRLC2、NP、PDLIM2およびTXNRD1により規定されるIngenuity(登録商標)ネットワーク、
e)タンパク質AGC1、ANXA2、C6、CLTC、ERAF、FABP4、ITGB1、LMNA、RPS5、SPTB、THBS2およびTNCにより規定されるIngenuity(登録商標)ネットワーク、
f)タンパク質CLEC3B、HAPLN1、HNRPD、MDH2、PCOLCE、PSMA1、PSMD9、RCN1、SERPINC1、TBCA、TNCおよびTRAP1により規定されるIngenuity(登録商標)ネットワーク、
g)タンパク質RNPEPにより規定されるIngenuity(登録商標)ネットワーク、ならびに
h)タンパク質TWF2により規定されるIngenuity(登録商標)ネットワーク。
【0022】
上述のIngenuity(登録商標)ネットワークは、International Protein Index(IPI)の、心血管イベントを有した患者とイベントを有さなかった年齢性別が対応する患者との間で動脈硬化性プラーク中において差次的に発現したタンパク質の識別要素をアップロードする、Ingenuity Pathway Analysis5.0を用いて規定される(詳細については実施例1を参照)。このリストに基づき、Ingenuity Pathways Analysisアプリケーションは、Ingenuity Pathways Knowledge Base(IPKB)を活用して、生体試料全体にわたって観察された遺伝子発現の変化の本質を明らかにする。IPAは、何十万ものキュレートされた直接的および間接的、物理的および機能的な相互作用に基づく大きな「グローバル」分子ネットワークをコンピューターで動的に計算する。これらのデータは、IPKBにおける知見として蓄積される。オーソロガスな哺乳動物遺伝子、タンパク質、タンパク質複合体、基および内因性化学物質は、ネットワークの生成に好適である。IPAにおけるアルゴリズムは、このグローバルネットワーク(「ネットワーク」と呼ぶ)の、実験に関連する下位部分を選択する助けとなる。
【0023】
以下の基準は、Ingenuity Pathways Analysisアプリケーションにおけるネットワークの生成において役割を果たす。
1.分析を実行する前における、「分析を構築する」のページ上の、心血管イベントを有した患者とイベントを有さなかった年齢性別が対応する患者との間での、アップロードされている差次的に発現した動脈硬化性プラークタンパク質。この群の中に明示されておりIPKB中の他の分子と相互作用するタンパク質を、ネットワーク適格タンパク質として同定する。ネットワーク適格タンパク質は、ネットワークを生成するための「種」または中心として役立つ。
2.ネットワークは、最も大規模な相互作用を有するネットワーク適格タンパク質について優先的に充実され、そのタンパク質についての相互作用は、(IPKB全体の、広範に選択された遺伝子/タンパク質と相互作用する遺伝子/タンパク質とではなく)ネットワーク中の他の遺伝子/タンパク質と特異的である。
3.次に、データセットから、追加タンパク質をネットワークに追加する。最後に、拡大中のネットワークにIPKBからタンパク質を追加する。このアプリケーションの最新版では、ネットワークを使用に適したサイズに保つために、1ネットワーク当たり35個の遺伝子という上限がある。
4.当該の所与のネットワークでのネットワーク適格遺伝子の見つけやすさについてネットワークを得点付けする。得点が高いほど、所与のネットワーク中で偶然遭遇するネットワーク適格遺伝子を見つける確率が低い。
【0024】
追加的な経路分析により、上に定義したネットワークは、上に言及した経路ネットワークの6つからなる1つの超ネットワークを形成することが明らかになった。本発明の好ましい一実施形態では、前記バイオマーカーは、a)〜f)の下に定義したとおりのネットワークからなる単一のIngenuity(登録商標)ネットワークの一部である。
【0025】
別の好ましい実施形態では、前記バイオマーカーは、ACTR2、ADH5、AGC1、AHNAK、AK1、AKR1A1、ANXA2、ANXA6、C19ORF10、C1QB、C1QC、C6、CALU(EG:813を含む)、CAPN2、CAPZA1(EG:829を含む)、CAPZA2、CAPZB、CAST、CBR3、CDC37、CFD、CLEC3B、CLTC、CORO1C、CRYZ、DDAH2、DDX23、DPYSL3、EEF1A2、EFHD1、EIF3S3、ERAF、FABP4、FBP1、FSCN1、GOLGA4、HAPLN1、HCLS1、HNRPA2B1、HNRPC、HNRPD、HSP90AA1、HSPA5、IGFALS、IGFBP7、IGHG1、ITGB1、KRT1、LAMP1、LMNA、M6PRBP1、MDH2、MRLC2、MYLK、NEDD8、NP、NPC2、PCOLCE、PDLIM2、PGD、PSMA1、PSMD9、PSME2、RAC1、RCN1、RNPEP、RPS5、S100A8、SERPINA6、SERPINC1、SERPINF1、SNCA、SNIP1、SPP1、SPTA1、SPTAN1、SPTB、SSB、STIP1、TBCA、THBS2、TNC、TRAP1、TWF2、TXNRD1、UCHL1およびYWHAQからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む。より好ましくは、このバイオマーカーは、上に挙げたタンパク質の少なくとも2種、3種、4種または5種、さらにより好ましくは6種、7種、8種、9種または10種、さらにより好ましくは15種、20種、25種、30種、35種、40種、45種、50種、55種、60種、65種、75種、80種または85種を含む。あるいは、このバイオマーカーは、上記のタンパク質全てを含む。
【0026】
別の好ましい実施形態では、前記バイオマーカーは、ACTR2、ADH5、AGC1、AHNAK、AK1、AKR1A1、ANXA2、ANXA6、C19ORF10、C1QB、C1QC、C6、CALU(EG:813を含む)、CAPN2、CAPZA1(EG:829を含む)、CAPZA2、CAPZB、CAST、CBR3、CDC37、CFD、CLEC3B、CLTC、CORO1C、CRYZ、DDX23、DPYSL3、EEF1A2、EIF3S3、ERAF、FABP4、FBP1、FSCN1、GOLGA4、HAPLN1、HCLS1、HNRPA2B1、HNRPC、HNRPD、HSP90AA1、HSPA5、IGFALS、IGFBP7、IGHG1、ITGB1、KRT1、LAMP1、LMNA、M6PRBP1、MDH2、MRLC2、MYLK、NEDD8、NP、NPC2、PCOLCE、PDLIM2、PGD、PSMA1、PSMD9、PSME2、RAC1、RCN1、RPS5、SERPINC1、SERPINF1、SNCA、SNIP1、SPP1、SPTA1、SPTAN1、SPTB、SSB、STIP1、TBCA、THBS2、TNC、TRAP1、TXNRD1、UCHL1およびYWHAQからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む。別の好ましい実施形態では、前記バイオマーカーは、ADH5、AK1、ANXA2、ANXA6、FABP4、HNRPD、ITGB1、LMNA、RAC1、SERPINC1、SERPINF1、SPP1、SPTB、THBS2、TXNRD1およびUCHL1からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む。
【0027】
代替的な好ましい実施形態では、このバイオマーカーは、腫瘍壊死因子α前駆体(IPI00001671)、リソソーム膜タンパク質1(LAMP1、IPI00004503)、インターロイキン5前駆体(IPI00007082)、インターロイキン6前駆体(IPI00007793)、C−Cモチーフケモカイン2前駆体(IPI00009308)、C−Cモチーフケモカイン5前駆体RANTES(IPI00009309)、カテプシンL1前駆体(IPI00012887)、アデニル酸キナーゼ1(AK1、IPI00018342)、ロイコトリエンB4受容体1(IPI00019382)、補体因子D(CFD、アジプシン、IPI00019579)、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、小分子誘導性サイトカインA17前駆体(IPI00022062)、C−X−Cモチーフケモカイン10前駆体(IPI00022448)、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー11(RANKL)(TNF関連活性化誘導サイトカイン)(TRANCE)(オステオプロテゲリンリガンド)(OPGL)(破骨細胞分化因子)(ODF)(CD254抗原)(IPI00023732)、C−Cモチーフケモカイン18前駆体(IPI00026183)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)、脂肪酸結合タンパク質4、脂肪細胞(FABP4、IPI00215746)、カルパイン2、(m/II)大サブユニット(CAPN2、IPI00289758)、マクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)、カテプシンS前駆体(IPI00299150)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)およびsICAM−1(IPI00816809)からなる23種のタンパク質の群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む。
【0028】
また別の代替的な好ましい実施形態では、このバイオマーカーは、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)およびマクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)からなる23種のタンパク質の群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む。
【0029】
最も好ましい実施形態では、前記バイオマーカーはSPP1(オステオポンチン)である。
【0030】
別の態様では、本発明は、医学的状態(好ましくは心血管イベント)を発症する対象のリスクを予測する方法を提供する。前記方法は、前記対象の動脈硬化性プラーク(の試料)中で、上に定義したとおりの本発明のバイオマーカーを検出するステップを含む。
【0031】
本発明の方法の好ましい一実施形態では、前記動脈硬化性プラークは、冠動脈、大腿動脈および/または頚動脈中の動脈硬化性プラークである。
【0032】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、前記医学的状態は心血管イベントである。心血管イベントは、以下の病態を含むが、これらに限定されない。
血管死または突然死(症状の発生後1時間以内、もしくは、確信的な状況証拠が与えられてから24時間以内に起こる不測死、または脳卒中、心筋梗塞、うっ血性心不全もしくは腹部大動脈瘤破裂による死)。
非致死性の脳卒中(修正評価スケール(modified Ranking scale)上の少なくとも1つのグレードの障害の増加を引き起こした関連する臨床的特徴で、反復CTスキャン上での新たな塞栓または出血を伴うもの)。
非致死性の心筋梗塞(以下のうち少なくとも2つを含む。(1)硝酸塩の投与後に消失しない、少なくとも20分間の胸痛、(2)ECG上で、2つの以下の誘導での1mmを超えるST上昇、または左脚ブロック、(3)正常CK値の少なくとも2倍のCK上昇、および総CKの5%を超えるMB率)。
非致死性の腹部大動脈瘤破裂。
開腹術により確認される腹部大動脈瘤破裂
血管インターベンション(組入れ時点では未計画であった、冠動脈、頚動脈、腸骨動脈、大腿動脈および脚の動脈における臨床的に関連する虚血性の疾患を治療する任意の血管インターベンション)。
再狭窄(210cm/秒を超えるピーク流速と一致する手術した頚動脈の70%を超える血管狭窄)。
一過性脳虚血発作(TIA。脳卒中の症状に似た症状を引き起こすが、その症状はそれほど長くは続かない状態。TIAにおいては、症状は数分以内に回復することが普通で、90分を超えて続くことはまれである)。
冠動脈疾患(CAD。冠動脈内部でプラークが蓄積することにより心筋への血液供給を部分的または完全に遮断する状態)。
急性冠症候群(ACS。冠動脈中の突然の遮断が原因で生じる症候群であり、この遮断により、遮断の位置および程度に応じた不安定狭心症または心臓発作(心筋梗塞)が引き起こされる)。
心不全(HF。心臓が血液を不適切に拍出し、その結果、血流低下、静脈および肺中の血液の停滞(うっ血)、および心臓をさらに弱める可能性のある他の変化が生じる障害)。
末梢動脈疾患(PAD。結果として体幹、腕および脚の動脈中の血流低下を招く状態であり、(i)閉塞性は、動脈を狭め、または遮断する構造上の変化に起因する(アテローム性動脈硬化症)、または(ii)機能性は、普通は、突然の一時的な狭窄(攣縮)に、またはまれに、動脈の拡張(血管拡張)に起因するものとして説明されるもの)。
【0033】
別の態様では、本発明は、医学的状態を発症する試験対象のリスクを予測する方法であって、
a)医学的状態を発症するリスクのある基準対象の第1の動脈硬化性プラーク(の試料)中および前記医学的状態を発症するリスクのない対照対象の第2の動脈硬化性プラーク(の試料)中の少なくとも1種のタンパク質の量を測定するステップ、または前記第1および第2の動脈硬化性プラーク(の試料)についてのタンパク質プロファイルを提供するステップ、
前記少なくとも1種のタンパク質が、前記第2の動脈硬化性プラーク(の試料)と比較して前記第1の動脈硬化性プラーク(の試料)中に差次的に存在するかどうかを決定するステップ、または前記第1および第2の動脈硬化性プラーク(の試料)間の差次的なタンパク質発現プロファイルを決定するステップ、
前記医学的状態を発症するリスクを、前記差次的に存在するタンパク質または前記差次的タンパク質発現プロファイルと相関させるステップ、
前記相関が統計的に有意である場合は、前記差次的に存在するタンパク質または前記差次的タンパク質発現プロファイルをバイオマーカーとして同定するステップ
を含む、動脈硬化性プラークを分類するステップと、
b)前記バイオマーカーが前記動脈硬化性プラーク(の試料)中に存在する場合は、前記医学的状態を発症するリスクがある前記試験対象の動脈硬化性プラーク(の試料)中の前記バイオマーカーを検出するステップと
を含む方法を提供する。この方法の好ましい一実施形態では、前記医学的状態は心血管イベントである。
【0034】
対照対象は、通常は年齢性別が対応する対照患者である。
【0035】
前述の本発明の方法のいずれかでは、少なくとも1種のタンパク質の量を測定するステップ、タンパク質プロファイルを提供するステップおよび/または前記バイオマーカーを検出するステップは、試料中のタンパク質の存在および/または濃度を示す分析法、例えば、質量分析、プロテインチップ解析、抗体アレイ解析、イムノアッセイ分析、MRI、NMR、超音波分光法、ラマン分光法および/または赤外線分光法を用いることにより実施される。
【0036】
またさらなる一態様では、本発明は、本発明の方法を実施するための要素のキットであって、本明細書の上記で定義した少なくとも1つのバイオマーカー、または前記バイオマーカーに特異的に結合する抗体、および本発明の方法を実施するための説明書を備え、
少なくとも1つの基準試料または対照試料、
前記バイオマーカーの基準値についての情報、
前記抗体に結合する能力のある少なくとも1つのペプチド、
前記バイオマーカーと前記抗体との結合を検出するための少なくとも1つの検出可能なマーカー
の1つまたは複数を場合によりさらに備える要素のキットを提供する。
【0037】
別の態様では、本発明は、固体支持体に結合する、本明細書の上記で定義した少なくとも2つのバイオマーカーに特異的に結合する抗体を備える、本発明の方法を実施するための抗体マイクロアレイを提供する。
【0038】
また別の態様では、本発明は、対象における心血管イベントのリスクを診断または予測するための、本明細書の上記で定義したバイオマーカーの使用を提供する。
【0039】
そのような使用は、心血管イベントに罹患するリスクにより患者を類別する(リスク層別化)方法、および/または治療のための患者の選定の方法、心血管疾患の進行をモニターする方法、ならびに代理エンドポイントを用いて薬物の安全性および/または有効性を試験する方法であって、マーカーの存在を決定し、当技術分野でそれ自体が公知の方法により基準値と比較する方法を指す。
【0040】
また別の態様では、本発明は、心血管イベントに罹患するリスクが高い対象を治療する方法であって、本明細書の上記で定義したバイオマーカーを、治療標的として使用するステップを含む方法を提供する。好ましくは、治療標的としての前記バイオマーカーの前記使用は、心血管イベントに罹患するリスクが高い対象において過剰発現する少なくとも1種のタンパク質の量を減少させるステップ、または心血管イベントに罹患するリスクが高い対象において低発現される少なくとも1種のタンパク質の量を増加させるステップを含む。より好ましくは、過剰発現する前記タンパク質は、SPP1(オステオポンチン)である。
【0041】
さらなる一態様では、本発明は、心血管イベントに罹患するリスク増加の治療のための医薬組成物であって、
本明細書中で定義したバイオマーカー、好ましくは、細胞膜上に発現するバイオマーカーに対する抗体もしくはその誘導体であって、前記誘導体が、好ましくは、scFv断片、Fab断片、キメラ抗体、二重特異性抗体、細胞内抗体および他の抗体由来分子からなる群から選択される抗体もしくはその誘導体、
本明細書中で定義したバイオマーカー、
前記バイオマーカーの生物活性に干渉する小分子、
アンチセンス分子、特に、アンチセンスRNAもしくはアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド、
RNAi分子、ならびに
リボザイム
から選択される少なくとも1つの阻害化合物、または
本明細書中で定義したバイオマーカーの発現を増加させる化合物と、
適当な賦形剤、担体または希釈剤と
を含む医薬組成物を提供する。
【0042】
さらなる一態様では、本発明は、対象を治療する方法であって、本発明の医薬組成物を、心血管イベントに罹患する前記対象のリスクを減少または防止するのに有効な量で前記対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】頚動脈プラークの切除(頚動脈アテローム切除術)後2年以内に主要な心血管イベントを有する患者と、年齢性別が対応する対照との間で差次的に発現されたヒトプラークタンパク質のIngenuity(商標)分析の図である。
【図2】81種の選択された差次的に発現するタンパク質間の、直接的および間接的な関係を示すIngenuity(商標)ネットワークの図である。赤(暗い色のひし形および点)はイベント群において多い(質量スペクトル分析を使用して、プールしたイベント群において2回検出されたが、対応する対照群では検出されなかった)、緑(明るい色のひし形および点)は対照群に多い(質量スペクトル分析を使用して、プールした対照群において2回検出したが、対応するイベント群では検出されなかった)。
【図3】細胞内のそれらの位置に従って再配列された、選択された81種の差次的に発現するタンパク質間の、直接的および間接的な関係を示すIngenuity(商標)ネットワークの図である。表示は図2の通りである。
【図4−26】将来の心血管イベントに関する有効なバイオマーカーを示す図である。23種のマーカーを、ELISA、マルチプレックスまたはウェスタンブロットのいずれかを使用して個々の患者について検証し、アテローム切除術後3〜4年の追跡中に心血管イベントを有した患者との関連が示された。これは、イベント群において高く、対照群において低くなり得、逆もまた同様である。タンパク質は、IPIアノテーションに従って順序付けた。
【図4】IPI00001671 腫瘍壊死因子αを示す図である。パネル4aは、複合エンドポイントを用いた脳卒中患者の対照群対イベント群に関するTNFα(n=99対35)p=.0.031)である。パネル4bは、複合エンドポイントを用いた脳卒中およびTIAの患者の対照群対イベント群に関するTNFα(n=333対110)p=.0.041)である。
【図5】IPI00004503 LAMP1 リソソーム膜タンパク質1を示す図である。主要イベント(脳および冠状動脈)および心血管系の死亡をエンドポイントとして使用したLAMP−1および累積生存率。青線(1)は、中央値より低いLAMP−1濃度である。緑線(2)は、中央値より高いLAMP−1濃度である。N=32、p=0.032
【図6】IPI00007082 インターロイキン5前駆体を示す図である。イベント群(主要イベント)と比較した、対照群におけるインターロイキン5の濃度(n=574(432対142))、P=0.035。
【図7】IPI00007793 インターロイキン6前駆体を示す図である。全エンドポイントを用いた脳卒中患者(n=128)(p=0.003)中のインターロイキン6。青線(1)は、中央値より低いIl−6濃度である。緑線(2)は、中央値より高いIl6濃度である。
【図8】IPI00009308 C−Cモチーフケモカイン2、MCP−1を示す図である。パネル8aは、TIA患者中のMCP−1である。青線(1)は、全エンドポイントの中央値より低いMCP−1濃度である。緑線(2)は、全エンドポイントの中央値より高いMCP−1濃度である。p=0.014
【図9】IPI00009309 C−Cモチーフケモカイン、RANTESを示す図である。パネル9aは、複合エンドポイントを用いた脳卒中患者(n=141)中のRANTESであり、p=0.033である。青線(1)は、中央値より低いRANTES濃度であり、緑線(2)は、中央値より高いRANTESである。パネル9bは、複合エンドポイントを用いた脳卒中患者(n=141)中のRANTESであり、p=0.009である(第1〜第3四分位群(青、1)対第4四分位群(緑、2))。
【図10】IPI00012887 カテプシンL1前駆体を示す図である。対照群およびイベント群(23対21)中のカテプシンL1レベル。p=0.001。
【図11】IPI00018342 AK1、アデニル酸キナーゼ1を示す図である。全エンドポイントについてのAK1および累積生存率。N=58、p=0.007。青線(1)は中央値より低いAK1濃度であり、緑線(2)は、中央値より高いAK1である。
【図12】IPI00019382 ロイコトリエンB4受容体1(BLT1)を示す図である。対照群(n=12)およびイベント群(n=12)におけるBLT1濃度、p=0.05。
【図13】IPI00019579 CPD、補体因子D、アジプシンを示す図である。エンドポイントとして主要イベントおよび心血管死を用いたアジプシンおよび累積生存率、N=58、p=0.05。青線(1)は、中央値より低いアジプシンレベルであり、緑線(2)は、中央値より高いアジプシンベルである。
【図14】IPI00021000 SPP1分泌性リン酸化タンパク質1のオステオポンチン、OPNを示す図である。パネル14Aでは、頚動脈プラークのオステオポンチンレベルの最も高い四分位群(紫、4)を、第1四分位群(青、1)+第2四分位群(緑、2)と比較するOPN濃度の四分位群の生存曲線N=574は、主要転帰に関する危険率が3.9[95%信頼区間(CI)2.6〜5.9]を示した。パネル14Bでは、151例の患者における、OPN濃度の四分位群の生存曲線は、大腿部プラークのオステオポンチンレベルの最も高い四分位群(紫、4)と、第1四分位群(青、1)+第2四分位群(緑、2)とを比較する危険率が3.5[95% CI 2.1〜5.9]を示した。頚動脈および大腿部の両方のコホートにおいて、多変量調整は、この転帰を変化させなかった。このことは、単独の病変におけるプラークのオステオポンチンレベルが、追跡中のすべての異なる心血管イベントに関して前兆となることを実証した。
【図15】IPI00022062 低分子誘導性サイトカインA17前駆体、TARCを示す図である。TIA患者(複合エンドポイント)、n=312における生存曲線およびTARC−第1〜第2四分位群(青、1)対第3〜第4四分位群(緑、2)。P=0.050。
【図16】IPI00022448 C−X−Cモチーフケモカイン10、IP−10を示す図である。脳卒中患者(n=142)におけるIP−10、p=0.081(第1四分位群(青、1)対第2〜第4四分位群(緑、2))。
【図17】IPI00023732 TRANCE、OPGL、ODF、CD254を示す図である。TIA患者(n=312)におけるOPG、p=0.022(第1四分位群(青、1)対第2〜第4四分位群(緑、2))。
【図18】IPI00026183 C−Cモチーフケモカイン18前駆体、PARC、MIP−4を示す図である。脳卒中患者のPARC、最初の3つの四分位群(青、1)対第4四分位群(緑、2)(n=109対33)、p=0.022、複合エンドポイント。
【図19】IPI000277780 72kD IV型コラゲナーゼ、MMP−2を示す図である。パネル19aは、主要イベントおよび心血管系の死亡をエンドポイントとして用いたMMP2および累積生存率であり、N=575、p=0.005である。青線(1)は、中央値より低いMMP2レベルであり、緑線(2)は、中央値より高いMMP2レベルである。パネル19bは、無症状患者におけるMMP2(N=103)、P=0.112)である。
【図20】IPI00027846 好中球コラゲナーゼ前駆体、MMP8を示す図である。主要イベントおよび心血管系の死亡をエンドポイントとして用いたMMP8および累積生存率。N=575、p=0.033。青線(1)は、中央値より低いMMP8レベルであり、緑線(2)は、中央値より高いMMP8レベルである。
【図21】IPI00215746 FABP4、脂肪酸結合タンパク質4を示す図である。パネル21aは、四分位群を比較する、568例の患者における四分位群のFABP4濃度の生存曲線(低い方から高い方へ、青(1)、緑(2)、黄色(3)、紫(4))、p=0.026を示す。パネル21bは、全患者のFABP(n=568)、p=0.003(第1四分位群(青、1)および第2〜第4四分位群(緑、2))を示す。パネル21cは、四分位群を比較する、tiaおよび脳卒中の患者(n=445)のFABP、P=0.014(低い方から高い方へ、青(1)、緑(2)、黄色(3)、紫(4))を示す。パネル21dは、TIAおよび脳卒中の患者(n=445)におけるFABP4P=0.001(第1四分位群(青、1)および第2〜第4四分位群(緑、2))を示す。
【図22】IPI00289758 CAPN2、カルパイン2を示す図である。対照患者およびイベントを有する患者に由来するプラーク中のカルパイン2濃度N=40、p=0.09。
【図23】IPI00293276 マクロファージ遊走阻害因子、MIFを示す図である。脳卒中患者(n=141)中のMIF、p=0.030、複合エンドポイント。青線(1)は、中央値より低いMIFレベルであり、緑線(2)は、中央値より高いMIFレベルである。
【図24】IPI00299150 カテプシンS前駆体、CTSSを示す図である。パネル24aは、対照群(n=6)およびイベント群(n=6)におけるカテプシンSレベルを示す。
【図25】IPI00807607 インターロイキン13前駆体を示す図である。全患者n=581におけるインターロイキン13、p=0.026(複合エンドポイント)第1〜第3四分位群(青、1)対第4四分位群(緑、2)。
【図26】IPI00816809 可溶性ICAM1、sICAM1を示す図である。TIA患者(n=312)におけるsICAM、p=0.098(第1〜第2四分位群(青、1)対第3〜4四分位群(緑、2))。
【図27】分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)、およびマクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)を使用して、最も高い第4四分位群の頚動脈プラークのマルチマーカーレベル(紫、4)と、最も低いマルチマーカー濃度(第1四分位群)を比較する、マルチマーカーサインとしての5種のタンパク質の濃度の四分位群の生存曲線を示す図である。このことは、以下の表に従ったほぼ9種の心血管イベントを起こす危険性の増加を示した。
【0044】
【表1】

【発明を実施するための形態】
【0045】
[用語]
用語「医学的状態を発症するリスクのある試験対象」は、本明細書中で使用する場合、医学的状態の発生率または発生頻度が、対照対象の医療記録におけるより統計的に有意に高い医療記録を有する対象を指す。この医学的状態は、好ましくは心血管イベントである。医学的状態の発生率または発生頻度は、好ましくは、対象の(プラーク)試料を提供するステップに次ぐ期間において決定する。前記期間は、好ましくは1〜10年、より好ましくは1〜3年である。
【0046】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基の高分子を指すために、本明細書中では互換的に使用される。この用語は、その中の1つまたは複数のアミノ酸残基が、天然に存在する対応アミノ酸の類似体または模倣体であるアミノ酸高分子だけでなく、天然に存在するアミノ酸高分子にも適用される。ポリペプチドは、例えば、炭水化物残基を加えて糖タンパク質を形成することにより修飾できる。用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」には、他の任意の修飾を含む糖タンパク質およびタンパク質だけでなく、非糖タンパク質、および他の形での非修飾タンパク質も包含される。
【0047】
「タンパク質プロファイル」は、本明細書中で使用する場合、試料中に存在するタンパク質、タンパク質断片またはペプチドの集合体を指す。このタンパク質プロファイルは、存在する量とは関係なく、集合体中のタンパク質の識別要素(例えば、公知のタンパク質の種名またはアミノ酸配列の識別要素、またはこれまでにさらに特徴付けされていないタンパク質についての分子量もしくは他の説明的な情報)を含んでもよい。他の実施形態では、タンパク質プロファイルは、試料中に表されるタンパク質についての定量的な情報を包含する。
【0048】
「定量化」は、プロファイル中のタンパク質に関して本明細書中で使用する場合、試料中に存在する特定のタンパク質またはペプチドの量を決定することを指す。定量化は、絶対量(例えばμg/ml)または相対量(例えば、シグナルの相対強度)のいずれで行ってもよい。
【0049】
「マーカー」および「バイオマーカー」は、2つの異なる対象から、例えば、試験対象または心血管イベントなど特定の医学的状態(を発症するリスク)を有する患者から採取した試料中に、対照対象(例えば、特定の医学的状態(を発症するリスク)を有さない患者、正常または健康な対象)から採取した比較可能な試料と比較して、差次的に存在するポリペプチドを指すために互換的に使用される。
【0050】
語句「差次的に存在する」は、試験対象から採取した試料中に存在するマーカーの量または発生頻度(発生率)の、対照対象と比較した場合の違いを指す。例えば、マーカーは、リスク対象の(プラークの)試料中に、対照対象の試料と比較して高いレベルまたは低いレベルで存在するポリペプチドであってもよい。あるいは、マーカーは、リスク対象の(プラークの)試料中に、対照対象の試料と比較して高い頻度または低い頻度で検出されるポリペプチドであってもよい。
【0051】
ポリペプチドは、1つの試料中のポリペプチドの量が他の試料中のポリペプチドの量とは統計的に有意に異なる場合、2つの試料間で「差次的に存在する」。例えば、ポリペプチドは、他の試料中に存在するより、少なくとも約120%、少なくとも約130%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約500%、少なくとも約700%、少なくとも約900%もしくは少なくとも約1000%を超えて存在する場合、または1つの試料中では検出でき、他方では検出できない場合、2つの試料間で差次的に存在する。
【0052】
用語「プラーク」は、本明細書中で使用する場合、血管壁の内層における脂肪の蓄積として定義され、平滑筋細胞、脂肪物質、コレステロール、カルシウムおよび細胞老廃物の堆積物から構成され、アテローム性動脈硬化症と関連があることが多い。プラークの蓄積は血管を狭め、血流を変化させるか、または心臓もしくは脳などの必須器官への血流を完全に遮断することがある。この用語は、本明細書中では、用語「動脈硬化性プラーク」と互換的に使用される。「血管」は、好ましくは動脈、より好ましくは頚動脈である。
【0053】
本明細書中で使用する場合、用語「抗体」および「複数の抗体」は、以下を指す。モノクローナル抗体、多特異的抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、ジスルフィド結合したFv(sdFv)、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体など)、および前記のいずれかのエピトープ結合断片。特に、本発明の抗体は、免疫グロブリン分子、および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性のある部分(すなわち、ゲノム領域に含まれる遺伝子、または表1に挙げたゲノム領域における形質転換の影響を受ける遺伝子にコードされるポリペプチド抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子)を包含する。本発明の免疫グロブリン分子は、任意の型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgAおよびIgA)またはサブクラスの免疫グロブリン分子であってもよい。
【0054】
「イムノアッセイ」は、抗原(例えばマーカー)を特異的に結合させる抗体を使用するアッセイである。イムノアッセイは、抗原を単離、標的化および/または定量化するために特定の抗体の特異的な結合特性を用いることが特徴である。特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために、さまざまなイムノアッセイ形式を使用できる。例えば、固相ELISAイムノアッセイは、タンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために慣例的に使用される(例えば、特異的な免疫反応性を決定するために用いることができるイムノアッセイの形式および条件の説明については、Harlow & Lane、Antibodies、A Laboratory Manual(1988)を参照)。典型的には、特異的または選択的な反応は、バックグラウンドシグナルまたはノイズの少なくとも2倍、およびより典型的には、バックグラウンドの10〜100倍超であろう。
【0055】
抗体に「特異的に(もしくは選択的に)結合する」、または「と特異的に(もしくは選択的に)免疫反応する」という語句は、タンパク質またはペプチドについて言及する場合、タンパク質および他の生物製剤の不均一な集団中でタンパク質の存在を決定する結合反応を指す。したがって、指定されたイムノアッセイ条件下では、特定の抗体が特定のタンパク質にバックグラウンドの少なくとも2倍結合し、試料中に存在する他のタンパク質には有意な量では実質的に結合しない。そのような条件下での抗体への特異的な結合には、特定のタンパク質についての特異性のために選択された抗体が必要と考えられる。
【0056】
タンパク質または遺伝子の「発現に影響する」および「発現を調節する」という用語は、本明細書中で使用する場合、前記発現を調整、制御、遮断、阻害、刺激、促進、活性化、模倣、迂回、是正、排除および/または代替すること、より一般的な用語では、例えば、当該タンパク質をコードする遺伝子の発現に影響することにより前記発現に介入することとして理解すべきである。
【0057】
用語「対象」または「患者」は、本明細書中では互換的に使用され、生物、例えば、ヒト、非ヒト霊長動物、マウス、ブタ、ウシ、ヤギ、ネコ、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ、サル、ヒツジまたは他の非ヒト哺乳動物などの哺乳動物;および非哺乳動物、例えば、鳥類(例えば、ニワトリもしくはアヒル)または魚など非哺乳動物の脊椎動物、および非哺乳動物の無脊椎動物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
[好ましい実施形態の説明]
[バイオマーカー]
本発明は、動脈硬化性プラークの分類およびバイオマーカーの同定に基づく。アテローム性動脈硬化症の初期状態では、侵入前の血管壁の肥厚は、血流を維持するために管腔の拡大を伴う(代償的な拡張)。より進行した段階では、プラークの成長は、血流を低下させる管腔狭窄を誘発する。プラーク破裂は、高度の狭窄症に達する前に生じることが多い。アテローム性動脈硬化症は、過剰な、炎症性の線維増殖応答の結果である。進行した動脈硬化性プラークでは、異なる細胞型と細胞外マトリックスとの間の相互影響は、最終的に炎症性のタンパク質分解応答をもたらし、それが原因でプラークの不安定化および破裂を生じさせることがある。
【0059】
プラークの成長および破裂のメカニズムは、あまりわかってはいないが、全身的および局所的な要因を包含する。不安定なプラークの特徴はT細胞およびマクロファージの浸潤であり、これが原因で、プロテアーゼ活性化およびそれに次ぐマトリックスの分解によるプラーク崩壊および血栓形成が生じかねない。崩壊時には、高度に血栓形成性のプラークの内容物が循環血液にさらされ、これが引き金となって血小板活性化および血栓形成が生じる。動脈硬化性プラークの進行に伴う破裂および多層構造の血栓の形成が、動脈硬化性病変部の成長に伴う死亡率に決定的に重要な形で影響を及ぼすことは、現時点で十分確立されている。アテローム性動脈硬化症についてのいくつかの動物モデルがこれまでに開発されており、これらのモデルはアテローム性動脈硬化症の調査において非常に重要ではあるものの、動物モデルには次の2つの主要な短所がある。
1.動物モデルおよびヒトにおける動脈硬化性プラークは、異なる形態を有する。
2.プラーク破裂についての適切なモデルがない。
【0060】
プラーク進行およびそれに次ぐプラーク破裂に関与する適当な分子標的についてスクリーニングするためには、出発点としてヒトのアテローム性動脈硬化の標本を使用しなければならない。入手可能性が限られることから、調査は多くの場合、多数の交絡因子を考慮しないで、アテローム性動脈硬化組織の小さな試料において実施される。
【0061】
本発明の特定の態様は、Athero−Express Biobank(Verhoevenら、Eur.J.Epid.、19、1127〜1133頁、2004)という、頚動脈、大腿動脈および腹部動脈瘤の外科手術を受けた患者の動脈硬化性プラークの試料を収容するバンクの発展により可能になってきている。プラークが収められている全ての患者は、少なくとも3年間追跡されている。
【0062】
プラークタンパク質から生じるペプチドの大規模な分析から、そのペプチドのうちいくつかは、追跡期間中に主要心血管イベントに罹患した患者(リスク患者)および罹患しなかった当該患者(非リスク患者)の群において差次的に発現することが明らかになった。したがって、このバイオバンクを使用して、本発明者らは、心血管イベントに罹患するリスクの増加に関連があるいくつかのバイオマーカーを発見することができた。本発明により提供されるバイオマーカーは、リスク対象において差次的に存在する単一のタンパク質バイオマーカーの形態をとってもよく、または指標となるタンパク質の組合せの特有の発現レベルもしくは濃度、いわゆる差次的タンパク質(発現)プロファイルの形態をとってもよい。一般的に言えば、バイオマーカーは、少なくとも1種のタンパク質を含む。
【0063】
候補バイオマーカーとして本発明者らが同定したタンパク質を表Iに挙げる。表Iは、リスク患者と非リスク患者との間で差次的に発現するタンパク質を挙げたものである。表IIIでは、これらのタンパク質について、プラーク中で過剰発現しているか/存在するかまたは低発現であるか/存在しないかを示してある。
【0064】
これらのタンパク質は全て、さまざまな形で心血管イベントを罹患するリスクの増加と関連があることから、ソフトウェアプログラムIngenuity(登録商標)Pathways Analysis(IPA)バージョン5.0(Ingenuity Systems,Inc.、Redwood City、CA、USA)の使用により、これら多様なタンパク質間の関係を分析した。この分析により、ほとんどのタンパク質は細胞中におけるその生物学的機能に関して相互に関係があることが明らかになった。同定されたタンパク質バイオマーカーに基づいて、全部で合計8個の異なる生体分子ネットワークが見出された。明らかに、これらのネットワークを形成するタンパク質の完全なカスケードは、差次的に発現する。したがって、これらのネットワーク中の全てのタンパク質は、リスク患者と非リスク患者とを識別するためのバイオマーカーとして機能できる可能性があることが想定される。
【0065】
第1のネットワークは、タンパク質ACTR2、CAPN2、CAST、FSCN1、HCLS1、HNRPA2B1、HNRPC、HSP90AA1、IGFBP7、MYLK、RAC1、S100A8、SERPINF1、SNCA、SPP1、SSB、STIP1、UCHL1およびYWHAQに基づいて同定した。他のいくつかのタンパク質も、この生体分子ネットワークの一部である。これらのタンパク質は、心血管イベントに罹患するリスクの増加に関連する候補バイオマーカーも構成する。上記により詳細に定義したようなさまざまなネットワークは、本明細書中では「Ingenuity(登録商標)ネットワーク」として示す。したがって、本明細書中で使用される用語としてのIngenuity(登録商標)ネットワークは、いくつかのタンパク質によって規定されるが、追加のタンパク質を含んでもよい。このような追加のタンパク質、および心血管イベントに罹患するリスク増加へのその関連性は、本発明の一部である。候補バイオマーカーを図1に示すが、ここでは、差次的に発現していると同定されたバイオマーカーを太字体で示してあり、さらなる候補バイオマーカー(例えば、14−3−3、Akt、Ap1、Arp2/3、カルモジュリン、カルパインなど)は通常の字体である。
【0066】
タンパク質のさらなる選択は、Ingenuity(商標)ネットワーク中でのその存在(および結合)に基づいて行った(実施例を参照)。本発明は、表I、好ましくは表IIに挙げたタンパク質の1種または複数種の、より好ましくは、表IIIのタンパク質の1種または複数種の、動脈硬化性プラークを有する患者を本発明の方法により診断するためのマーカーとしての使用を含む。前記1種または複数種のタンパク質の発現レベルに基づき(患者の心血管系(の試料)中のRNA発現レベルのプロファイリングまたはタンパク質レベルの測定のいずれかにより測定可能)、患者が主要心血管イベントの高いリスクを有するかどうかを予測できる。
【0067】
本明細書中で定義される多数のバイオマーカーを、時間の経過に伴う心血管イベントの発生について患者をモニターする試験において、将来的な心血管イベントについて検証した。ELISA、マルチプレックスまたはウエスタンブロッティングのいずれかを用い、個々の患者について23種のマーカーを検証したところ、アテローム切除術後の追跡の3〜4年中に心血管イベントが発症した患者との関連性が示された。この関連性は、イベントにおいて高く対照において低い、およびその逆であってもよいと考えられる。
【0068】
タンパク質は、IPIアノテーション(図4〜26を参照)により並べるが、それは以下のとおりである。腫瘍壊死因子α前駆体(IPI00001671)、リソソーム膜タンパク質1(LAMP1、IPI00004503)、インターロイキン5前駆体(IPI00007082)、インターロイキン6前駆体(IPI00007793)、C−Cモチーフケモカイン2前駆体(IPI00009308)、C−Cモチーフケモカイン5前駆体RANTES(IPI00009309)、カテプシンL1前駆体(IPI00012887)、アデニル酸キナーゼ1(AK1、IPI00018342)、ロイコトリエンB4受容体1(IPI00019382)、補体因子D(CFD、アジプシン、IPI00019579)、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、小分子誘導性サイトカインA17前駆体(IPI00022062)、C−X−Cモチーフケモカイン10前駆体(IPI00022448)、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー11(RANKL)(TNF関連活性化誘導サイトカイン)(TRANCE)(オステオプロテゲリンリガンド)(OPGL)(破骨細胞分化因子)(ODF)(CD254抗原)(IPI00023732)、C−Cモチーフケモカイン18前駆体(IPI00026183)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780);好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)、脂肪酸結合タンパク質4、脂肪細胞(FABP4、IPI00215746)、カルパイン2、(m/II)大サブユニット(CAPN2、IPI00289758)、マクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)、カテプシンS前駆体(IPI00299150)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)およびsICAM−1(IPI00816809)。
【0069】
非常に適切には、このバイオマーカーは、この23種のタンパク質のサブセットから構成されていてもよい。非常に適したサブセットは、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)および/またはマクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)を含み、最も好ましくはプロファイルはこれらの5種のタンパク質からなることが見出された。
【0070】
特に好ましいのは、患者を診断するためのマーカーとしてのオステオポンチン(またはSPP1)の使用である。オステオポンチン(本明細書中ではOPNとも呼ぶ)は、Athero−Express Biobankにおいて入手可能なプラークの試料において非常に詳細に研究され、非常に価値のあるバイオマーカーであることが証明された。
【0071】
オステオポンチン(OPN)は、初期Tリンパ球活性化1(Eta−1)またはSPP1としても知られる、分泌性の多機能糖タンパク質である。その想定される機能には、骨代謝、免疫調節、創傷治癒、細胞生存および腫瘍進行における役割が含まれる。遺伝子の構造および染色体の位置を基準にすると、OPNは小インテグリン結合リガンドN結合型糖タンパク質(SIBLING)ファミリーのメンバーであり、この中には、骨シアロタンパク質(BSP)、象牙質マトリックスタンパク質1(DMP1)、象牙質シアロリン酸化タンパク質(DSPP)、エナメリン(ENAM)およびマトリックス細胞外リン酸糖タンパク質(MEPE)も含まれる。ヒトOPNのcDNAは、314アミノ酸(aa)の前駆体タンパク質をコードするが、この前駆体タンパク質は16aaと見積もられるシグナルペプチドを有し、これが切断されると298aaの成熟タンパク質が産生される。OPNは、予測分子量がおよそ33kDaの、高度に酸性のマルチドメインタンパク質であるが、大規模なグリコシル化およびリン酸化により75kDaまで拡大させることができる。
【0072】
OPNは、骨、腎臓および上皮組織により主に発現されるが、子宮内膜組織、内皮細胞、T細胞、マクロファージ、平滑筋細胞および多くの腫瘍型において見つかることもある。OPNは、アテローム性動脈硬化症、弁狭窄症、心筋梗塞および関節リウマチなど、いくつかの病理過程の間に組織中でアップレギュレートされる。
【0073】
OPNは、ヒト血漿、血清、母乳および尿などいくつかの生体液中で見つかり、特定の癌、劇症肝炎、結核、ならびに多発性硬化症およびループスエリテマトーデスなどの自己免疫疾患においてアップレギュレートされる。
【0074】
OPNの活性には、多くのインテグリンおよびヒアルロン酸受容体、CD44など一連の受容体が介在する。OPNタンパク質は、インテグリン結合に関与する複数のドメインを有する。このタンパク質は、αVクラス、α5β1およびα8β1のいくつかのインテグリンを結合させる典型的なArg−Gly−Asp(RGD)部位、α4β1を結合させるロピナビル(LPV)含有ドメイン、ならびにα4β1、α4β7およびα9β1を結合させるSVVYGLR部位を有する。OPNは、CD44の変異体と関連して(インテグリンの協調作用を伴う可能性がある)、細胞遊走を刺激することもある。OPNが細胞内に貯留すると、CD44とERM(エズリン/ラジキシン/モエシン)タンパク質との相互作用により、および/またはCD44の細胞表面発現の調節を介して、細胞遊走も促進されることがある。
【0075】
OPNおよびプロテアーゼの活性は、相互に調節される。トロンビン、MMP−3、MMP−7またはMMP−12により切断すると、完全なタンパク質とは異なる生物活性を有するOPN断片が作製できる。例えば、トロンビン、MMP−3またはMMP−7の切断は、インテグリン依存性細胞の接着および/または遊走を促進することがある。同様に、OPNが、プロフォームの変換/活性化またはTIMPに阻害された酵素の再活性化を包含すると考えられるメカニズムにより、MMP−2またはMMP−3を活性化することが示されている。
【0076】
名称が意味するように、OPNは、骨代謝における役割を有することがある。in vitroでは、OPNは、骨への破骨細胞の接着を刺激し、この相互作用の阻害により骨吸収が遮断される。ノックアウトマウスは、見かけは正常に骨発達しているが、いくつかの状況で出生後の骨吸収不全を実際に呈し、このことは、破骨細胞機能におけるOPNの役割を支持する。OPNは、ミネラル結晶の形成および成長の調節に直接寄与することもある。OPNは、ヒドロキシアパタイトを結合させ、in vitroおよびin vivoの両方における結晶形成を抑制する。OPNは、炎症の制御因子でもある。LPS、NO、IL−1βおよびTNF−αなどの炎症メディエーターは、OPN発現を刺激する。OPNは、マクロファージの分化および動員を調節する。OPNは、T細胞の走化性因子および補助刺激因子としても機能し、IL−12産生を刺激するTh1サイトカインとして作用することもある。
【0077】
OPNノックアウトマウスは、Th1応答欠損を呈し、細菌およびウイルスに感染しやすい。これに対し、OPNは、状況依存性の抗炎症効果も有することがある。例えば、OPNは、in vitroにおいて骨関節炎の軟骨細胞からのいくつかの炎症メディエーターの放出を抑制する。
【0078】
動脈の病態におけるOPNの役割は、オステオポンチン欠損マウスおよび遺伝子導入マウスにおいて研究されてきた。オステオポンチン欠損マウスにおいては内膜新生は阻害されるが、遺伝子導入マウスにおいてはこれと逆のことが見出される。アテローム性動脈硬化のバックグラウンドでは、OPN欠損は動脈硬化性プラークの成長を低下させ、血漿コレステロールレベルを低下させたが、後者は脂質代謝におけるOPNの役割を示唆している。一方、OPN遺伝子導入マウスは、初期の脂肪線条病変およびアテローム性動脈硬化病変を発症するが、アンギオテンシン−IIにより加速されるアテローム性動脈硬化症および動脈瘤形成は、OPN欠損マウスにおいて軽減される。
【0079】
in vitroでは、OPNは、インテグリン受容体αVβ3上での、トロンビンに切断されたOPNの結合に基づく血液凝固に関連していたが、このことは、OPNが介在する高度の好中球浸潤と合致する。動脈硬化性プラーク中で目立つ細胞であるラットの平滑筋細胞では、OPNの発現が高濃度のグルコースと共に促進されることが示され、このことから、糖尿病の血管の合併症におけるOPNの役割が示唆される。
【0080】
ウサギモデルでは、OPNは、VEGF誘導性の外膜の血管新生と関連があるが、OPNは、安定な無症候性のプラークと比較して、マクロファージに富む不安定なヒト頚動脈プラーク中でのほうがより高度に発現するとも説明されている。
【0081】
血漿OPNレベルは、心血管疾患の異なる実体を有する患者群において測定されてきた。これにより、不安定狭心症に罹患している患者のOPN血漿レベルは、安定狭心症群と比較して高く、冠動脈疾患の存在および程度と関連があることが明らかになった。
【0082】
末端器官が損傷している高血圧ラットモデルでは、血漿OPNは末端器官損傷についての可能性のあるマーカーとして同定された。OPN発現は、p38MAPK阻害剤SB−239063ANを使用すると低下した。糖尿病ラットでは、大動脈のOPNのmRNAレベルは、PPARγリガンドピオグリタゾンにより低下し、肥大中のラットの心臓においては電解質コルチコイド受容体拮抗薬エプレレノンにより低下した。これに次いで、アンジオテンション(angiotension)受容体I型およびII型の遮断が腎臓OPN発現を低下させると説明されている。
【0083】
[予後判定および診断方法]
医学的状態を発症する対象のリスクを予測するための本発明の方法では、バイオマーカーは、対象の心血管系(の試料)中、好ましくは対象の動脈硬化性プラーク中で、in vivo法もしくは非観血法により、またはex vivo法(例えば、試験対象から除去したプラーク試料について実施する)により、検出してもよい。「検出すること」は、検出すべき物体の存在、不在または量を同定することを指す。検出は、対象の動脈硬化性プラーク(の試料)中のバイオマーカーの、絶対的な(例えばμg/ml)用語、または相対的な用語(例えば、シグナルの相対強度)での存在の実証、または不在の実証を含んでもよい。非常に適切には、対象中に安定に存在する別のタンパク質(ありふれた酵素など)に対するバイオマーカーの量を、対象におけるバイオマーカーを検出するために決定してもよい。
【0084】
対象の体内のタンパク質を検出または測定するための非観血的な方法(in vivo)は、当業者には周知である。そのような方法は、MRI、超音波分光法、ラマン分光法および/または赤外線分光法を包含してもよく、一般には、タンパク質の検出のための特異的な標識の使用を含む。
【0085】
同じ目的で(プラーク)試料を分析する場合は、同様の方法を採用してもよい。適当な試料は、動脈硬化性プラーク、循環細胞、血清、血漿、血栓または血管組織からの試料を包含する。しかしながら、加えて、ex vivo法を、観血的な方法により得た試料に対し適用してもよく、プラーク試料についてのタンパク質の検出および/または定量化のための質量分析、プロテインチップ解析、抗体アレイ解析および/またはイムノアッセイ分析の使用を包含する。
【0086】
プラーク試料は、対象の血管からプラーク試料を除去することにより得てもよい。プラークは、血管をクランプで締めてプラークを切り取り、開口部を元どおり閉鎖することにより血管から除去してもよい。非常に適切には、プラーク試料は、アテローム切除術により得てもよい。アテローム切除術は、血管壁からプラークの蓄積を除去するために、切断用器具(刃、またはロトブレード(rotoblade)と呼ばれる回転刃、および場合によりレーザービーム)を、多くの場合はカテーテルに取り付けて使用することを含む。血管は、動脈、適切には冠動脈または頚動脈であってもよい。プラーク試料の除去後、プラーク標本は、それに次ぐタンパク質測定のために、タンパク質の分解を回避する条件下で保管する。非常に適切には、臨床データの収集、および特定の臨床像へのプラークのタンパク質構成のアノテーションのために、プラーク試料採取術に次ぐ相当な期間(1〜10年)の間、患者をモニターする。
【0087】
本発明の方法は、主に、心血管系におけるタンパク質の測定値を決定することにより実施してもよい。好ましくは、本発明の方法は、対象の心血管系の試料について実施する。適当なそのような試料は、動脈硬化性プラーク、循環細胞、血清、血漿、血栓または血管の組織から選択される。好ましくは、この方法は、動脈硬化性プラーク、循環細胞、血栓または血管組織の試料に対して、さらにより好ましくは、動脈硬化性プラーク、血栓または血管組織からの試料に対して実施する。あるいは、この試料は、適当には、血栓の試料であってもよい。試料は、任意の血管に由来するものであってもよい。試料としてプラークを使用する好ましい実施形態では、血管は、冠動脈、大腿動脈および/または頚動脈である。
【0088】
本発明のバイオマーカーは、心血管イベントを含むがこれに限定されないさまざまな医学的状態の予後診断のための本発明の方法において使用してもよい。心血管イベントは、大部分は狭窄症の結果である。狭窄症、またはプラーク蓄積による動脈または他の血管の狭窄または遮断が生じると、結果として多くの有害な状態に至り、その多くは対象にとって重大な影響を有することになりかねない。
【0089】
プラークタンパク質が特定の疾患または医学的状態の予後に非常に密接に関連するという実証に基づき、本発明はここに、試験対象が医学的状態を発症するリスクを予測する方法であって、a)医学的状態に関連するバイオマーカーを同定するために動脈硬化性プラークを分類するステップと、b)前記試験対象からの動脈硬化性プラーク(の試料)中の前記バイオマーカーを検出するステップを含み、前記バイオマーカーが前記動脈硬化性プラーク(の試料)中に存在する場合は前記試験対象は前記医学的状態を発症するリスクがある方法を提供する。
【0090】
予後診断される医学的状態は、心血管イベントに罹患するリスクを包含する。事実、この方法を用いることにより、当業者は、本発明の方法において使用するための追加的なバイオマーカーを見つけることができよう。
【0091】
動脈硬化性プラークの分類は、医学的状態を発症するリスクのある対象からの試料および前記状態を発症するリスクのない対照対象の試料を採取することを含む。対象が医学的状態を発症するリスクがあるかどうかは、プラークの試料採取後の長期間の後に明らかになることが多い。例えば、プラークは、(例えばデータベースの記録から予測されるような)リスク増加と関連する型のタンパク質構成またはタンパク質プロファイルを有することもあり、さらには、前記リスクが、例えば心血管イベントの形態で現れるまでに何年もかかることもある。あるいは、対象が医学的状態を発症している場合、例えば、脳卒中に罹患している場合、その時点でその対象は医学的状態を発症するリスクのある試験対象であり、関連する臨床情報を引き出し、その関連する臨床情報をプラーク試料にアノテートするための追跡期間は必須ではないことは即座に明らかになる。好ましくは、プラークを提供する対象の医学的状態についての情報収集は、好ましくは約0.1〜80年、より好ましくは約1〜10年の追跡期間の間実施する。
【0092】
本発明の方法におけるプラーク試料の分類は、(リスク患者の)陽性対照プラーク中および(非リスク患者の)陰性対照プラーク中の少なくとも1種のタンパク質の量を測定するステップ、または両方の試料についてのタンパク質プロファイルを提供するステップをさらに含む。用語「少なくとも1種のタンパク質の量」は、この説明で使用する場合、相対量または絶対量(例えば濃度)を指すことがある。陽性対照プラークは、基準試料とも呼ばれ、その中のタンパク質の量は基準値(すなわち、その上または下で、リスクの存在が陽性同定される)と呼ばれる。陰性対照プラークは、本明細書中では対照試料とも呼ぶ。
【0093】
少なくとも1種のタンパク質の量を測定するステップは、前記試料中のタンパク質の濃度の正確な決定に至る必要がないことは理解されよう。この量の発現が、対照試料中に存在する(または存在しない)量と比較して得られれば十分である。測定量を対照値または基準値と比較できるのであれば、どのような(半)定量的な方法でも適している。
【0094】
候補バイオマーカーを同定するためには、分類には、前記少なくとも1種のタンパク質が、前記第2の動脈硬化性プラーク(の試料)と比較して前記第1の動脈硬化性プラーク(の試料)中に差次的に存在するかどうかを決定するステップ、または前記第1および第2の動脈硬化性プラーク(の試料)の間の差次的タンパク質発現プロファイルを決定するステップが含まれる。このステップは、タンパク質発現アレイを使用することにより、または2つのプラーク試料中に存在するタンパク質を、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2−D PAGE)およびウエスタンブロッティングまたは質量分析により分析することにより、便利に実施してもよい。そのような方法は、タンパク質をペプチドに部分分解すること、およびタンデムMSにより、これらのペプチドを配列決定し、次いで同定することを一般に含む。そうした方法は十分確立されている(Principles of Proteomics、R.M.Twyman著、BIOS Scientific Publ、第1版、2004年9月24日を参照)。
【0095】
差次的発現プロファイルが決定され、リスク条件および非リスク条件に似た試料中に存在するタンパク質の(1つまたは複数の)量が決定されたら、その量を条件に相関させなければならない。これらの統計分析は慣例的な手順を含むが、ただし、試験下の医学的状態についての臨床データは、分析する試料に正しくアノテートする。
【0096】
最後に、医学的状態の発生とバイオマーカーの存在(または不在)との間に実際に相関があれば、当該の、差次的に存在するタンパク質または差次的タンパク質発現プロファイルをバイオマーカーとして同定する。
【0097】
本発明は、前述のような方法を実施するための要素のキットも提供する。そのような要素のキットは、前述のようなin vivo法またはex vivo法によるバイオマーカーの検出に基づいている。本発明の要素のキットは、バイオマーカーまたは検出可能なその結合相手、例えばバイオマーカーに特異的に結合する抗体を備える。
【0098】
要素のキットは、検出プロトコールの有効性を確認するための構成要素(基準試料または対照試料など)、バイオマーカーの基準値についての情報、抗体への結合能力を有し、例えば競合ELISAアッセイにおいて使用できるペプチド、前記バイオマーカーと前記抗体との結合を検出するための検出可能なマーカー(標識化部分を含有することが多い)をさらに備えてもよい。
【0099】
標識化部分には、専用の装置による検出に適した、蛍光部分、化学発光部分、磁気部分、放射性部分または他の部分が含まれていてもよい。
【0100】
次に、測定した濃度を、データベース中で入手できる基準値と比較できる。そのようなデータベースは、タンパク質、好ましくはプラークタンパク質のリストの形態を有していてもよく、データベースでは、各タンパク質に、患者における心血管イベントの発生のリスクがその下または上で増加する基準値または閾値がアノテートされている。各タンパク質についての閾値を決定するために、リスク患者(心血管イベントに罹患している患者)および非リスク患者(心血管イベントに罹患していない患者)の試料間で総合的な試験を実施してもよい。そのような試験は、例えば本明細書に記載のものなどであり、閾値が非リスク患者間で最高値または最低値であり、それぞれ、閾値より上、閾値より下では心血管イベントの発生についての統計的な可能性が有意に高まるものである。この試験は、本明細書に記載の場合、Athero−Express Biobankという、頚動脈、大腿動脈および腹部動脈瘤の外科手術を受けた患者の動脈硬化性プラークの試料を有し、当該患者について外科手術後3年の期間にわたり心血管イベントの発生を記録したバンクを利用した。
【0101】
あるいは、このデータベースは、当該タンパク質についての基準値に等しい量で前記少なくとも1種のタンパク質を含有する1つまたは複数の基準試料の集合体の形態をとっていてもよい。そのような場合、試料中の少なくとも1種のタンパク質の量を測定するステップおよび測定量を基準値と比較するステップは、試験試料および対照試料中の前記タンパク質の量が、例えば差次的発現について分析する利用可能な任意の技術を用いることにより互いとの比較で決定される単一のアッセイにおいて実施してもよい。そのような場合は、試料間のタンパク質の差次的発現の分析に適した任意の方法を使用してもよい。多数のタンパク質の差次的発現が必要なときは、抗体マイクロアレイを適切に使用してもよい。
【0102】
抗体マイクロアレイの調製、例えばスライドガラス上での抗体マイクロアレイの調製は、当業者には公知である。抗体は、例えば、アミノ反応性スライドガラスまたは他の機能化された表面上に滴下してもよい。一般に、約300μm離して滴下される個別のスポットを有する単一の2.5×7.5cmのスライドガラス上に20000ものスポットをプリントする方法は、当業者であれば利用可能である。単一のスライド上での複数の結合実験の実施を可能にするには、規定された抗体群からなるいくつかのグリッドを1枚のスライド上に滴下できる。抗体は、利用可能な任意の滴下技術により、例えば接触プリント法により滴下してもよい。DNAマイクロアレイの作製用に開発された用具および技術、例えばスポッター、インキュベーションチャンバー、差次的な蛍光標識化技術、および結合試験の定量的な測定のための画像化装置などは、当業者であれば容易に入手できる。
【0103】
抗体マイクロアレイを調製するには、精製されたタンパク質の入手可能性は問われないことは理解されよう。ペプチド免疫化などの方法を用いることにより、タンパク質またはペプチドの配列についての情報(例えば、転写試験において同定された遺伝子から推定されたもの)は、合成の際、およびウサギ体内への注入の際に抗体を産生させるために使用できるペプチドを設計するのに十分である。そのような抗体は、生体試料中の天然のタンパク質の量を測定するために使用してもよい。アフィニティ精製の後、こうした抗体を、今度は、前述のような抗体アレイの調製に使用してもよい。タンパク質またはペプチドの配列に基づく抗体アレイの調製の手順は、例えば、Eurogentec、Seraing、ベルギーから市販されている。
【0104】
すでに述べたように、抗体マイクロアレイは、差次的タンパク質発現試験(タンパク質プロファイリング)のために使用してもよい。実験条件下で生体試料中のタンパク質の差次的発現を測定し、その発現を対照試料または基準値と比較するために、タンパク質の標識化にはいくつかの方法を用いてもよい。非常に適切には、生体試料のタンパク質は、標準的なタンパク質標識化プロトコールを用いて、1つまたは複数の蛍光プローブ(例えば、Cy3およびCy5)で標識する。生体試料(試験および対照)のタンパク質は、一旦標識したら(好ましくは、試験および対照について異なる色のプローブを用いて差次的に標識する)、抗体マイクロアレイと接触させることができる。抗体アレイへの抗体の結合は、例えば、マイクロアレイのスライドをカバーガラス下で少量(±50μl)の標識化された生物材料とインキュベーションする際に実施してもよい。抗体マイクロアレイに結合するタンパク質の検出は、蛍光の発生に基づいてもよい。次に、蛍光スキャナーを用いて、マイクロアレイに結合するタンパク質を検出でき、次に、チップの個々のスポットを分析して、試験試料と対照試料との差次的発現を決定できる。
【0105】
代替的な手順では、抗体マイクロアレイは、チップ上でELISA法を用いた、生体試料中の複数のタンパク質の定量化のための捕捉チップとして使用してもよい。本明細書に記載のような心血管イベントのリスクを評価するためのバイオマーカーとして同定された多様なタンパク質は、そのような手順により、さらに定量的に測定してもよい。生体試料中のタンパク質の濃度を決定するには、ELISA法は非常に適している。そのような技術は、蛍光強度対タンパク質濃度の較正曲線の生成、または公知の量の非標識タンパク質もしくは抗原が試験物中に供給される競合ELISA形式の使用を含む。前述のような抗体マイクロアレイの調製のためのペプチド免疫化などの方法を用いるときは、免疫化に使用するペプチドは、マイクロアレイ上での競合ELISA実験において使用してもよい。あるいは、第2の抗体として、例えば、標的タンパク質の第2のエピトープに対するペプチド免疫化により産生された抗体(第2の合成のペプチド)を使用することで、複数のサンドイッチELISAを構築できる。
【0106】
また別の態様では、本発明は、対象における心血管イベントのリスクを予測するための本明細書の上記で定義したバイオマーカーの使用を提供する。そのような使用は、動脈硬化性プラーク(の試料)中のバイオマーカーの検出、および検出された量が基準値を上回るか下回るかの決定を含む。
【0107】
[治療法]
また別の態様では、本発明は、心血管イベントに罹患するリスクが高い対象を治療する方法であって、治療標的として、または治療剤として、本明細書の上記で定義したバイオマーカーを使用するステップを含む方法を提供する。好ましくは、治療標的としての前記バイオマーカーの前記使用は、心血管イベントに罹患するリスクが高い対象において過剰発現する少なくとも1種のタンパク質の量を減少させるステップ、または心血管イベントに罹患するリスクが高い対象において低発現である少なくとも1種のタンパク質の量を増加させるステップを含む。より好ましくは、過剰発現する前記タンパク質は、SPP1(オステオポンチン)である。
【0108】
好ましくは、治療剤としての前記バイオマーカーの前記使用は、心血管イベントに罹患するリスクが高い対象において低発現である少なくとも1種のタンパク質の量を増加させるステップを含み、前記対象に前記タンパク質を投与するステップを含む。
【0109】
本発明は、さらに、治療標的としての本発明のバイオマーカーの使用にも関する。薬理遺伝学および薬理ゲノミクスは、疾患に結び付く遺伝的決定因子を決定することを目的とする。疾患の大部分は多重遺伝子疾患であり、その中に含まれる遺伝子の同定は、新しい標的の発見および新しい薬物の開発を可能にするはずである。
【0110】
多くの生理的疾患が、この新規の薬学的アプローチの標的となる。自己免疫性および炎症性の疾患、例えば、アジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、ベーチェット病、慢性疲労症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、糖尿病および多発性硬化症を挙げることができる。
【0111】
動脈硬化性プラークの特定の構成による心血管イベントに罹患するリスクは、多重遺伝子疾患として見ることができる。本発明のバイオマーカーは、疾患の素因の遺伝子マーカーとして同定された。事実、全てのプラークが同等に危険であるわけではないが、プラークのリスクレベルはその中での特定のタンパク質の発生(またはその中での不発生)と関連する。これらのタンパク質およびその関連遺伝子が同定されれば、患者のよりよい情報が提供され、疾患自体の発症の防止および患者の平均余命の向上が可能になる。
【0112】
したがって、最終的に致死性の心血管イベントを招くプラーク成長に関与する遺伝子の識別要素がわかれば、この疾患のための予防、治療および診断の方法の開発が非常に容易になる。特定の対象におけるリスク表現型に関与する遺伝子を診断することにより、特定の薬物、例えば、こうした遺伝子によりコードされるタンパク質に対する薬物の使用を含む療法の設計が可能になる。
【0113】
本発明のタンパク質マーカー、および/またはこれらのタンパク質をコードする遺伝子を、特に、リスクを有する対象におけるバイオマーカーが過剰発現している場合に、遺伝子および/またはその発現産物(RNAまたはタンパク質)に対する阻害物質の開発のために使用することは、本発明の一態様である。
【0114】
この態様の一実施形態では、阻害物質は、バイオマーカーをコードする遺伝子の発現産物に対する抗体および/または抗体誘導体である。治療用抗体は、例えば、細胞膜上に位置する遺伝子発現産物に対して有用であり、医薬組成物中に含めることができる。さらに、抗体は、細胞内、例えば細胞質の遺伝子産物、例えばRNAの産物、ポリペプチドまたは酵素などの活性を調節するために、これらの産物を標的としてもよい。好ましくは、そのような抗体は、標的細胞、好ましくは、T細胞、内皮細胞および平滑筋細胞などのプラーク形成細胞、またはアテローム性動脈硬化の病変部中で見出される細胞、例えば白血球、マクロファージ、泡沫細胞、樹状細胞および肥満細胞およびT細胞などの内部で産生される細胞内抗体の形態をしている。加えて、抗体は、それに結合する少なくとも1つの毒性化合物の、標的細胞への解放のために使用してもよい。
【0115】
本発明の好ましい一実施形態では、阻害物質は、本明細書で定義するとおりのバイオマーカーをコードする遺伝子のタンパク質発現産物の活性を調節し、またはその機能に干渉する能力のある小分子である。加えて、小分子は、少なくとも1つの結合された毒性化合物の、標的細胞への解放のために使用することもできる。
【0116】
異なるレベルの阻害については、核酸は、バイオマーカーをコードするそれぞれの遺伝子から転写されたmRNAを破壊することにより、タンパク質の産生を遮断するために使用できる。このことは、アンチセンス薬、リボザイムにより、またはRNA干渉(RNAi)により達成できる。疾患過程におけるこの初期段階で作用することにより、こうした薬物は、疾患の原因となるタンパク質の産生を防止する。本発明は、バイオマーカーをコードする遺伝子に対する、アンチセンスRNAおよびアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドなどのアンチセンス薬、リボザイムならびにRNAi分子に関する。
【0117】
遺伝子の発現レベルは、リスク表現型が減少していても増加していてもいずれでもよい。当然、発現レベルが上昇しているときは阻害物質を使用する。しかし、本発明は、心血管イベントに罹患するリスクに関連するバイオマーカーをコードし、その発現レベルがリスク状況において低下する遺伝子の発現レベルを促進するための「エンハンサー」も提供する。「エンハンサー」は、遺伝子の発現レベルを高め、遺伝子の発現産物の機能を高め、または遺伝子の発現を向上もしくは回復することが知られ、または見出されている、任意の化学的または生物学的な化合物であってもよい。
【0118】
遺伝子の発現レベル低下を克服し、または本明細書中で開示するとおりのバイオマーカーをコードする遺伝子の発現を回復するために非常に適した療法は、遺伝子または前記遺伝子の発現を推進するその調節配列の、遺伝子治療による置換えを包含する。したがって、本発明はさらに、このバイオマーカーをコードする対象の機能不全遺伝子またはバイオマーカーをコードする対象の遺伝子の機能不全調節配列を、例えば、機能遺伝子または調節配列を含むレンチウイルスベクターを対象の宿主細胞(対象の標的細胞株の前駆細胞である)のゲノム中に安定に組み込むこと、および前記形質転換された宿主細胞を前記対象中に移植することなどにより機能的な同等物で置き換える遺伝子治療に関する。
【0119】
本発明は、さらに、このバイオマーカーをコードする遺伝子が、特に、標的細胞中の適当なベクターからの指向的発現の後に、その野生型の同等物の機能を阻害するこれらの遺伝子のドミナントネガティブな形態の設計に用いられる、遺伝子治療の形態にも関する。
【0120】
本発明の別の目的は、薬学的な試薬または活性成分として、本発明による阻害物質、「エンハンサー」、代替化合物、ベクターまたは宿主細胞のうちの1つまたは複数を含む、心血管イベントに罹患するリスクが高い患者の治療のための医薬組成物を提供することである。この組成物は、例えば、担体、乳化剤または防腐剤のような少なくとも1つの製薬学的に許容可能な添加物をさらに含むことができる。
【0121】
加えて、本発明の目的は、心血管イベントに罹患するリスク増加に悩む対象の治療のための方法であって、本発明による医薬組成物を、それを必要とする患者に治療有効量で投与するステップを含む方法を提供することである。
【0122】
[小分子阻害物質]
小分子阻害物質は通常は、既存の化合物ライブラリーのスクリーニングにより、または腫瘍成長に関与する遺伝子によりコードされるタンパク質の構造に基づいて化合物を設計することにより得ることができる化学物質である。手短に言えば、タンパク質の少なくとも1つの断片の構造を、核磁気共鳴またはX線結晶学のいずれかにより決定する。この構造に基づき、化合物のバーチャルスクリーニングを実施する。選択した化合物を、医薬品化学および/またはコンビナトリアルケミストリーを用いて合成し、その後、in vitroおよびin vivoでのタンパク質に及ぼすその阻害効果について分析する。このステップは、所望の阻害効果を有する化合物が選択されるまで繰り返すことができる。この化合物の最適化後、治療薬としてのその毒性プロファイルおよび有効性を、適切な動物モデル系を用いてin vivoで試験する。
【0123】
小分子阻害物質の開発のための標的として、膜結合タンパク質をコードしない差次的に発現する遺伝子を選択する。標的タンパク質の表面上の、小分子のための仮想の結合部位またはポケットを同定するため、標準的な結晶化技術(de Vosら、1988、Science、239、888〜93頁;Williamsら、2001、Nat Struct Biol、8、838〜42頁)により、当該標的の三次元構造を決定する。同定された結合部位の機能的な重要性を確認するために、追加的な突然変異分析を実施してもよい。次いで、小分子ライブラリーのバーチャルスクリーニングのために、Cerius2(Molecular Simulations Inc.、San Diego、CA、USA)およびLudi/ACD(Accelrys Inc.、San Diego、CA、USA)のソフトウェアを使用する(Bohm.、1992、J Comp Aided Molec Design、6、61〜78頁)。これらのプログラムにより有望な結合物として同定された化合物をコンビナトリアルケミストリーにより合成し、標的への結合親和性ならびに標的タンパク質の機能を阻害するその能力について、標準的なin vitroおよびin vivoでのアッセイによりスクリーニングする。新規の小分子の合理的な開発に加え、このようなアッセイを用いて、既存の小分子化合物ライブラリーをスクリーニングしてリード化合物を生み出す。同定されたリード化合物を、次いで標的と共結晶化して、小分子の結合をどうしたら強めることができるかについての情報を得る(Zeslawskaら、2000、J Mol Biol、301、465〜75頁)。こうした知見に基づき、新規の化合物を設計、合成、試験および共結晶化する。この最適化過程を数ラウンドにわたって繰り返すと、その標的タンパク質の機能を首尾よく阻害する本発明の高親和性化合物の開発に至る。最後に、標準的なアッセイ(MDS Pharma Services、Montreal、Quebec、カナダにより市販されているサービス)を用いて化合物の毒性を試験し、その後、動物モデル系において、その化合物をスクリーニングする。
【0124】
[リボザイム]
トランス切断する触媒RNA(リボザイム)は、エンドリボヌクレアーゼ活性を有するRNA分子である。リボザイムは、特定の標的のために特異的に設計され、標的メッセージは特定のヌクレオチド配列を含有しなければならない。リボザイムは、細胞のRNAのバックグラウンド中で任意のRNA種を部位特異的に切断するように設計される。この切断イベントにより、mRNAは不安定になり、タンパク質発現が防がれる。重要なことは、リボザイムは、in vitroまたはin vivoでの状況におけるその機能を決定する目的で、表現型の効果を検出することにより、機能が未知の遺伝子の発現を阻害するために使用できるということである。
【0125】
一般に使用されるリボザイムの1つのモチーフはハンマーヘッド型であり、この場合には基質配列の要件が最少である。ハンマーヘッド型リボザイムの設計は、Usmanら、Current Opin.Struct.Biol.、(1996)、6、527〜533頁において開示されている。Usmanは、リボザイムの治療用途についても考察している。リボザイムは、以下に記載の要領で調製および使用することもできる。Longら、FASEB J.、(1993)、7、25頁;Symons、Ann.Rev.Biochem.、(1992)、61、641頁;Perrottaら、Biochem.、(1992)、31、16〜17頁;Ojwangら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)、(1992)、89、10802〜10806頁、および米国特許第5,254,678号。HIV−I RNAのリボザイム切断については米国特許第5,144,019号に記載があり、リボザイムを使用してRNAを切断する方法は米国特許第5,116,742号に記載があり、また、リボザイムの特異性を高める方法は、米国特許第5,225,337号およびKoizumiら、Nucleic Acid Res.、(1989)、17、7059〜7071頁に記載がある。ハンマーヘッド型構造をしたリボザイム断片の調製および使用については、Koizumiら、Nucleic Acids Res.、(1989)、17、7059〜7071頁にも記載がある。ヘアピン型構造をしたリボザイム断片の調製および使用については、Chowrira and Burke、Nucleic Acids Res.、(1992)、20、2835頁により記載されている。リボザイムは、Daubendiek and Kool、Nat.Biotechnol.、(1997)、15、(3)、273〜277頁に記載のような回転転写によって作製することもできる。
【0126】
リボザイムのハイブリダイズ領域は、Horn and Urdea、Nucleic Acids Res.、(1989)、17、6959〜67頁に記載のような分岐構造として、修飾または調製してもよい。リボザイムの基本構造は、当業者になじみのある方法で化学的に変化させてもよく、化学的に合成したリボザイムは、モノマー単位により修飾された合成のオリゴヌクレオチド誘導体として投与できる。治療に関して言えば、リポソームを介したリボザイムの送達は、Birikhら、Eur.J.Biochem.、(1997)、245、1〜16頁に記載のように、細胞の取込みを向上させる。
【0127】
リボザイムの治療および機能的なゲノム適用は、まず阻害対象遺伝子のコード配列の部分を知ることから進められる。したがって、多くの遺伝子については、核酸配列から、有効なリボザイムを構成するための十分な配列が得られる。標的切断部位は標的配列中で選択され、リボザイムは、この切断部位に隣接する5’および3’ヌクレオチド配列に基づいて構成される。レトロウイルスベクターは、標的をコードする配列のmRNAを標的とする単量体および多量体のハンマーヘッド型リボザイムを発現するように設計する。こうした単量体および多量体のリボザイムを、標的mRNAを切断する能力について、in vitroで試験する。細胞株は、リボザイムを発現するレトロウイルスベクターと共に安定に形質導入し、その形質導入を、ノーザンブロット分析および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により確認する。疾患マーカーの発現の低下または標的mRNAの遺伝子産物の減少などの指標により、標的mRNAの不活性化について細胞をスクリーニングする。
【0128】
[アンチセンス]
DNAの複製、逆転写またはメッセンジャーRNAの翻訳を抑止しながら、RNAと特異的に結合し、結果的にRNA−DNAまたはRNA−RNAハイブリッドを形成するようにアンチセンスポリヌクレオチドを設計する。選択した配列に基づくアンチセンスポリヌクレオチドは、対応する遺伝子の発現に干渉することができる。
【0129】
アンチセンスポリヌクレオチドは、転写鎖としてアンチセンス鎖を含有するアンチセンス構成物からの発現により、細胞内で典型的に産生される。アンチセンスポリヌクレオチドは、対応するmRNAに結合し、および/またはその翻訳に干渉することになる。したがって、アンチセンスは、癌遺伝子の発現を阻害するために、治療的に使用してもよい。
【0130】
アンチセンスRNAまたはアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(アンチセンスODN)は、両方とも使用でき、in vitroで合成により、または組換えDNA技術を用いて調製してもよい。いずれの方法も、当業者には十分身近なものである。ODNは完全なアンチセンスRNAより小さいことから、標的細胞の中により容易に入り込むことができる利点がある。DNA分解酵素によるその消化を回避するために、ODNおよびアンチセンスRNAを化学的に修飾してもよい。所望の標的細胞に標的化するために、この分子は、標的細胞上で見出される受容体のリガンドに、または標的細胞の表面上の分子に対する抗体に結合してもよい。
【0131】
[RNAi]
RNAiは、遺伝子の転写産物を特異的に標的化し、その結果、表現型の欠如またはその形質低下をもたらすために、相同な二本鎖RNAを導入することを指す。RNA干渉は、開始段階およびエフェクター段階を必要とする。第1段階では、導入する二本鎖(ds)RNAを処理して、ヌクレオチドの「ガイド配列」にする。これは、一本鎖でも二本鎖でもよい。ガイドRNAを、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれるヌクレアーゼ複合体中に組み込むが、RISCは、第2のエフェクター段階において塩基対合相互作用を通じガイドRNAにより認識されるmRNAを破壊するように作用する。したがって、RNAi分子は、標的遺伝子の発現をサイレンシングするうえで非常に強力な二本鎖RNA(dsRNA)である。本発明は、本発明のバイオマーカーをコードする遺伝子に相補的なdsRNAを提供する。
【0132】
dsRNAが自身の配列に対応する遺伝子の発現を抑制する能力は、転写後の遺伝子サイレンシングまたはPTGSとも呼ばれる。細胞の細胞質中で通常見つかる唯一のRNA分子は、一本鎖のmRNA分子である。細胞は、二本鎖RNA(dsRNA)の分子を見つけると、酵素を使用してその分子を、通常21塩基対(二重らせん約2回転)を含有する断片に切断する。次に、各断片の二本鎖が、アンチセンス鎖を露出するだけ十分に分かれ、それにより、アンチセンス鎖はmRNAの分子上の相補的センス配列に結合できる。これが当該領域におけるmRNA切断の引き金となり、ひいては、ポリペプチドに翻訳されるその能力を破壊する。特定の遺伝子に対応するdsRNAを導入することは、当該遺伝子の細胞内因性の発現をノックアウトすることになる。これは、選択した時間で、特に組織において実施できる。dsRNA断片を細胞中に単純に導入することについて考えられる不利益は、遺伝子発現が一時的にしか低下しないことである。ただし、抑制すべき遺伝子に対応するdsRNAを連続的に合成できるDNAベクターを細胞中に導入することにより、より持続的な解決がもたらされる。
【0133】
RNAi分子は、当業者に周知の方法により調製される。一般には、本発明のバイオマーカーをコードする遺伝子の少なくとも1つの配列に実質的に相同で、前記遺伝子の転写産物(の一部)と共に部分的または完全に二本鎖(ds)RNAを形成することができる1つまたは複数の転写物を形成する能力のあるヌクレオチド配列を含む単離された核酸配列は、RNAi分子として機能するであろう。この二本鎖領域は、長さがほぼ10〜250ヌクレオチドの間、好ましくは10〜100ヌクレオチドの間、より好ましくは20〜50ヌクレオチドの間の程度であってもよい。
【0134】
RNAi分子は、形質導入された宿主細胞中の組換えベクターから好ましくは発現するが、それには造血幹細胞が非常に適している。
【0135】
[ドミナントネガティブ変異]
ドミナントネガティブ変異は、多量体として活性のある対応するタンパク質について容易に生成される。突然変異体ポリペプチドは、野生型ポリペプチド(他の対立遺伝子からできている)と相互作用し、非機能的多量体を形成することになる。したがって、突然変異は、基質結合ドメイン、触媒ドメインまたは細胞局在化ドメインにおけるものである。好ましくは、この突然変異体ポリペプチドは、過剰産生されることになる。そのような効果を有する点突然変異を起こさせる。加えて、多様な長さの異なるポリペプチドを、タンパク質の末端へ融合させると、ドミナントネガティブ変異体を生じさせることができる。ドミナントネガティブ変異体を作製するための一般的な方策は利用可能である。Herskowitz、Nature、(1987)、329、219〜222頁を参照されたい。そのような技術は、タンパク質の機能を決定するために有用な機能喪失型突然変異を創出するために使用できる。
【0136】
[抗体を産生するためのポリペプチドの使用]
本発明は、一態様では、治療および/または診断の用途に適した抗体を提供する。
【0137】
治療用抗体には、本発明のバイオマーカーをコードする遺伝子の発現産物に特異的に結合できる抗体が含まれる。遺伝子産物に直接結合することにより、この抗体は、例えば、タンパク質の場合、立体障害により、または当該タンパク質の機能的ドメインの少なくとも1つを遮断することにより、それらの標的の機能に影響を与えることができる。したがって、これらの抗体は、遺伝子産物の機能の阻害物質として使用してもよい。そのような抗体を、例えば、タンパク質の機能的に意味のあるドメインに対して生成させ、次いで、標準的な技術およびアッセイを用いて、標的の機能に干渉するその能力についてスクリーニングしてもよい(例えば、Schwartzberg、2001、Crit Rev Oncol Hematol、40、17〜24頁;Herbstら、Cancer、94、1593〜611頁、2002を参照)。
【0138】
あるいは、抗RNA抗体は、例えば、本発明の腫瘍関連遺伝子のサイレンシングメッセンジャーにおいて有用である可能性がある。別の選択肢では、抗体は、例えば、標的化されたタンパク質または核酸の機能に影響を与えるためにシグナル伝達経路の構成要素に結合することにより、その標的の機能に間接的に影響を与えるために使用してもよい。また別の選択肢では、治療用抗体は、担持する抗体が標的または標的細胞に結合するおかげで、標的または標的細胞にその効果を及ぼす1つまたは複数の毒性化合物を担持してもよい。
【0139】
診断目的のためには、上述のものと同様の抗体、好ましくは本発明の遺伝子の発現産物に結合する能力のあるもので、蛍光標識、発光標識または放射性同位体標識など、遺伝子産物の検出を可能にするための検出可能な標識が備わるものを使用してもよい。好ましくは、そのような診断用抗体は、膜結合性の標的タンパク質(バイオマーカー)など、細胞の外皮上に存在するタンパク質性の標的を標的とする。
【0140】
本発明において使用される抗体は、鳥類および哺乳動物(例えば、ヒト、ネズミ、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマまたはニワトリ)など任意の動物に由来するものであってもよい。好ましくは、本発明の抗体は、ヒトの、またはヒト化したモノクローナル抗体である。本明細書中で使用する場合、「ヒト」抗体は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を包含し、ヒト免疫グロブリンライブラリー(ヒト免疫グロブリン配列に相同な免疫グロブリン配列の合成のライブラリーを含むが、これに限定されない)またはヒト遺伝子由来の抗体を発現するマウスから単離された抗体を包含する。
【0141】
ヒトにおける抗体のin vivoでの治療的または診断的な使用およびin vitroでの検出アッセイなどいくつかの用途については、ヒト抗体またはキメラ抗体を使用することが好ましいと考えられる。完全にヒトのものである抗体は、ヒト対象の治療処置にとって特に望ましい。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列またはヒト免疫グロブリン配列と相同な合成配列に由来する抗体ライブラリーを使用する前述のファージディスプレイ法など、当技術分野で公知のさまざまな方法により作製できる。米国特許第4,444,887号および同第4,716,111号、ならびにPCT公開WO98/46645、WO98/50433、WO98/24893およびWO98/16654も参照、これらのそれぞれが参照することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。
【0142】
本発明の方法と共に使用する抗体は、修飾(すなわち、任意の種類の分子の抗体への共有結合により修飾)されている誘導体を包含する。加えて、この誘導体は、1つまたは複数の非古典的なアミノ酸を含有してもよい。
【0143】
本発明の特定の実施形態では、本発明と共に使用する抗体は、哺乳動物(好ましくはヒト)において、非修飾抗体と比較した場合、半減期が長期化している。in vivoでの半減期が長期化している抗体またはその抗原結合断片は、当業者に公知の技術により産生させることができる(例えば、PCT公開第WO97/34631号を参照)。
【0144】
特定の実施形態では、本発明の方法と共に使用する抗体は一本鎖の抗体である。一本鎖の抗体の設計および構築は、Marascoら、1993、Proc Natl Acad Sci、90、7889〜7893頁に記載があり、同文献は参照することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。
【0145】
特定の実施形態では、本発明と共に使用する抗体は、細胞内エピトープに結合する抗体、すなわち、細胞内抗体である。細胞内抗体は、抗原と免疫特異的に結合する能力のある抗体の少なくとも一部を含み、好ましくは、その分泌についてコードする配列を含有しない。そのような抗体は、細胞内でその抗原と結合することになる。一実施形態では、細胞内抗体は、一本鎖のFv(「sFv」)を含む。sFvの概説については、Pluckthun、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、113巻、Rosenburg and Moore編、Springer−Verlag、New York、269〜315頁、(1994)を参照されたい。さらなる実施形態では、細胞内抗体は、好ましくは、作動可能な分泌配列をコードしないことから、細胞内に留まる(全般には、Marasco,WA、1998、「Intrabodies: Basic Research and Clinical Gene Therapy Applications」、Springer、New Yorkを参照)。
【0146】
細胞内抗体の産生は、当業者には周知であり、例えば、米国特許第6,004,940号、同第6,072,036号、同第5,965,371号に記載があり、これらの文献は参照することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。
【0147】
一実施形態では、細胞内抗体は、細胞質中で発現する。他の実施形態では、細胞内抗体は、多様な細胞内の位置に局在化する。そのような実施形態では、細胞内抗体を特定の位置に誘導するために、特異的な局在化配列をヌクレオチド内のポリペプチドに結合させることができる。
【0148】
本発明の方法と共に使用する抗体またはその断片は、抗体の合成のための当技術分野で公知の任意の方法により、特に、化学合成により、または好ましくは、組み換え発現技術により作製できる。
【0149】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換えおよびファージディスプレイ技術、またはそれらの組合せの使用など、当技術分野で公知の多種多様な技術を用いて調製できる。例えば、モノクローナル抗体は、当技術分野で公知のもの、および例えば、Harlowら、Antibodies: A Laboratory Manual、(Cold Spring Harbor Laboratory Press、第2版、1988);Hammerlingら、Monoclonal Antibodies and T−Cell Hybridomas、563〜681頁(Elsevier、N.Y.、1981)において教示されるものなど、ハイブリドーマ技術を用いて作製できる(前記参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる)。用語「モノクローナル抗体」は、本明細書中で使用する場合、ハイブリドーマ技術により作製された抗体に限定されない。用語「モノクローナル抗体」は、任意の真核生物、原核生物またはファージのクローンなど単一のクローンに由来する抗体を指し、それを作製する方法を指すものではない。
【0150】
本発明の抗体を作製するために使用できるファージディスプレイ法の例としては、WO97/13844、および米国特許第5,580,717号、同第5,821,047号、同第5,571,698号、同第5,780,225号および同第5,969,108号に開示されたものが挙げられ、これらの文献のそれぞれは、参照することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。
【0151】
上記の参考文献に記載の要領でファージを選択した後、そのファージから抗体をコードする領域を単離し、これを用いて全抗体(ヒト抗体、または他の任意の所望の抗原結合断片など)を作製し、哺乳動物の細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌および細菌など任意の所望の宿主中に、例えば下記の要領で発現させることができる。Fab、Fab'およびF(ab’)2の断片を組換えにより作製する技術は、PCT公開第WO92/22324号;Mullinaxら、1992、BioTechniques、12、(6)、864〜869頁およびBetterら、1988、Science、240、1041〜1043頁に開示されたものなど当技術分野で公知の方法を用いて採用することもできる。
【0152】
治療的に有用なIgG、IgA、IgMおよびIgEの抗体を作製することも可能である。ヒト抗体を作製するための技術の概要については、Lonberg and Huszar(1995、Int.Rev.Immunol.、13、65〜93頁)を参照されたい。ヒト抗体およびヒトモノクローナル抗体を作製するための技術の詳細な考察、およびそのような抗体を作製するためのプロトコールについては、例えば、PCT公開第WO98/24893号を参照されたい(同文献は参照することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする)。加えて、Medarex,Inc.(Princeton、NJ)、Abgenix,Inc.(Freemont、CA)およびGenpharm(San Jose、CA)などの企業は、上記のものと同様の技術を用いて、選択した抗原に対するヒト抗体を提供することを保証できる。
【0153】
抗体、その誘導体または類似体(例えば、本発明の抗体の重鎖もしくは軽鎖またはその部分、あるいは本発明の一本鎖抗体)を作製するために使用する組換体発現は、抗体、および適当な宿主細胞中またはさらにはin vivoでの前記ベクターの発現をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターの構築を必要とする。抗体分子または抗体の重鎖もしくは軽鎖またはその部分(好ましくは、重鎖可変ドメインもしくは軽鎖可変ドメインを含有するが、必須ではない)をコードする本発明のポリヌクレオチドを一旦入手したら、当技術分野で周知の技術を用いた組換えDNA技術により、抗体分子の作製のためのベクターを作製してもよい。したがって、抗体をコードするヌクレオチド配列を含有するポリヌクレオチドを発現させることによりタンパク質を調製する方法は、本明細書に記載されている。抗体コード配列および適切な転写および翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターを構築するには、当業者に周知の方法を用いることができる。こうした方法としては、例えば、in vitroでの組換えDNA技術、合成の技術およびin vivoでの遺伝子組換えが挙げられる。したがって、本発明は、プロモーターに作動可能に結合する、本発明の抗体分子、抗体の重鎖もしくは軽鎖、抗体の重鎖可変ドメインもしくは軽鎖可変ドメインまたはその部分あるいは重鎖もしくは軽鎖CDRをコードするヌクレオチド配列を含む、複製可能なベクターを提供する。そのようなベクターは、抗体分子の定常領域をコードするヌクレオチド配列を含んでもよく(例えば、PCT公開WO86/05807、PCT公開WO89/01036および米国特許第5,122,464号を参照)、抗体の可変ドメインを、重鎖全体、軽鎖全体、または重鎖全体および軽鎖全体の両方が発現するようにそのようなベクターにクローン化してもよい。
【0154】
この発現ベクターは、従来技術により宿主細胞に導入し、次に、形質転換された細胞を従来技術により培養して本発明の抗体を作製する。したがって、本発明は、異種プロモーターに作動可能に結合する、本発明の抗体もしくはその断片、またはその重鎖もしくは軽鎖もしくはその部分、または本発明の一本鎖抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する宿主細胞を包含する。二本鎖抗体の発現のための好ましい実施形態では、重鎖および軽鎖を両方ともコードするベクターを、以下に詳細に記載するように、完全な免疫グロブリン分子の発現のために宿主細胞中で共発現させてもよい。
【0155】
本明細書中で定義するような抗体分子を発現させるために、さまざまな宿主発現ベクター系を利用してもよい。
【0156】
哺乳動物の宿主細胞中では、いくつかのウイルスベースの発現系を利用してもよい。アデノウイルスが発現ベクターとして使用される場合、関心のある抗体コード配列を、アデノウイルス転写/翻訳対照複合体、例えば、後期プロモーターおよび3部に分かれたリーダー配列に連結させてもよい。次に、in vitroまたはin vivoでの組換えにより、このキメラ遺伝子をアデノウイルスゲノム中に挿入してもよい。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば、領域E1またはE3)中へ挿入すると、結果として、感染した宿主内の抗体分子を発現することが実行可能およびその能力のある組換えウイルスとなろう(例えば、Logan&Shenk、1984、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81、355〜359頁を参照)。特定の開始シグナルも、挿入された抗体コード配列の効率的な翻訳にとって必要である場合がある。このようなシグナルとしては、ATG開始コドンおよび隣接配列が挙げられる。さらに、この開始コドンは、挿入断片全体が確実に翻訳されるように、所望のコード配列の読み枠を有する相中になくてはならない。こうした外因性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成両方のさまざまな由来のものであってもよい。発現の効率は、適切な転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーターなどを含めることにより高めてもよい(例えば、Bittnerら、1987、Methods in Enzymol.、153、516〜544頁を参照)。
【0157】
本発明の方法と共に使用する抗体分子を組換体発現により作製したら、免疫グロブリン分子の精製のための当技術分野で公知の任意の方法により、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、特に、プロテインA後に、特異的な抗原についてアフィニティクロマトグラフィーにより、およびサイジングカラムクロマトグラフィー)により、遠心分離、可溶性の差、またはタンパク質の精製のための他の任意の標準的な技術によりこれを精製してもよい。さらに、本発明の抗体またはその断片は、本明細書に記載の非相同ポリペプチド配列に融合させるか、または当技術分野で公知の他の方式で精製を促進させてもよい。
【0158】
前述のように、さらなる一態様によれば、本発明は、療法において使用するための上に定義したとおりの抗体を提供する。
【0159】
治療処置については、抗体は、in vitroで作製してもよく、それを必要とする対象に施用してもよい。抗体は、適当な任意の経路により、好ましくはそのような経路に適応する医薬組成物の形態で、および意図する治療に有効な用量で、対象に投与してもよい。疾患の進行速度を低下させるため、または疾患状態を除くために必要な抗体の治療的に有効な用量は、当業者には容易に決定できる。
【0160】
あるいは、抗体は、前述のようなin vivoでの抗体産生法を用いることにより、対象自身により産生してもよい。適切には、in vivoでのそのような産生に使用するベクターは、ウイルスベクター、好ましくは、本明細書中で言う特異的な標的細胞に対する標的細胞選択性を有するウイルスベクターである。
【0161】
したがって、またさらなる一態様によれば、本発明は、前記治療効果を達成するための対象の治療において使用するための医薬の製造における、上に定義したとおりの抗体の使用を提供する。この治療は、所望の治療効果を達成するのに十分な用量での医薬の投与を含む。この治療は、抗体の反復投与を含んでもよい。
【0162】
またさらなる一態様によれば、本発明は、所望の治療効果を達成するために十分な用量での上に定義したとおりの抗体の投与を含むヒトの治療の方法であって、該治療効果が心血管イベントに罹患するリスクの軽減または防止である方法を提供する。
【0163】
診断用および治療用の抗体は、好ましくは、細胞の表面上の受容体分子に結合することの多いキナーゼまたはホスファターゼの標的化についてのそのそれぞれの用途において使用する。したがって、こうした受容体分子に結合する能力のある抗体は、それぞれの受容体に結合することにより、キナーゼまたはホスファターゼに対するその活性調節効果を発揮できる。さらに、抗体は、細胞外に存在するときはその活性調節効果を発揮できるという同じ理由で、輸送タンパク質を有利に標的化できる。前述の標的は、シグナル伝達分子と共に、より有効な療法としての本発明の抗体の使用にとって好ましい標的を代表し、それによって、より容易な診断が可能である。
【0164】
診断用の抗体は、適切には、遺伝子産物、好ましくは、タンパク質のレベル変化またはその中の構造変化の決定のためのアッセイにおけるタンパク質の定性的および定量的な検出に使用できる。タンパク質レベルは、例えば、細胞中、細胞抽出物中、上清、体液中で、例えば、免疫染色した標的細胞のフローサイトメトリー評価により、好ましくはプラーク中で決定してもよい。あるいは、ELISAまたはRIA、ウエスタンブロッティングおよび画像化技術(例えば、共焦点レーザー走査顕微鏡法を用いて)などの定量的なタンパク質アッセイを、心血管イベントについてのリスク増加の診断のための本明細書に記載のとおりの抗体と合わせて使用してもよい。
【0165】
[医薬組成物および治療使用]
医薬組成物は、特許請求する本発明のポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド(アンチセンス、RNAi、リボザイム)または小分子(本明細書中では阻害化合物と総称する)を含むことができる。この医薬組成物は、治療有効量の本明細書に記載のとおりのバイオマーカータンパク質、抗体、ポリヌクレオチドまたは小分子のいずれかを含むことになる。
【0166】
用語「治療有効量」は、本明細書中で使用する場合、所望の疾患または状態を治療、改善もしくは防止する、または検出可能な治療効果もしくは防止効果を呈する治療剤の量を指す。この効果は、例えば、化学マーカーまたは抗原レベルにより検出できる。治療効果は、さらに、体温低下などの身体症状の低下も包含する。対象にとっての正確な有効量は、対象のサイズおよび健康状態、病状の性質および程度、ならびに投与のために選択される治療剤または配合治療剤に依存することになる。したがって、正確な有効量を前もって特定することは有用ではない。しかし、所与の状況についての有効量は、慣例的な実験法により決定でき、それは臨床家の判断の範囲内である。具体的には、本発明の組成物は、対象における心血管イベントの発生および/または付随する生物学的または物理的な症状を治療、改善または防止するために使用できる。
【0167】
本発明の目的の場合、有効用量は、投与対象の個体において、約0.01mg/kg〜50mg/kgまたは0.05mg/kg〜約10mg/kgのポリヌクレオチド、ポリペプチドまたは抗体組成物となるであろう。
【0168】
医薬組成物は、製薬学的に許容される担体を含有することもできる。用語「製薬学的に許容される担体」は、抗体またはポリペプチド、遺伝子および他の治療剤などの治療剤を投与するための担体を指す。この用語は、組成物を摂取する個体に有害な抗体の産生をそれ自体が引き起こさず、また、過度の毒性を伴わずに投与できる任意の医薬担体を指す。適当な担体は、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、アミノ酸コポリマーおよび不活性ウイルス粒子などの大きくてゆっくり代謝される巨大分子であってもよい。そのような担体は、当業者には周知である。
【0169】
その中には、製薬学的に許容される塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩、および酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩など有機酸の塩を使用できる。製薬学的に許容される賦形剤の徹底的な考察は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.、N.J.、1991)において入手できる。
【0170】
治療組成物中の製薬学的に許容される担体は、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールなどの液体を含有してもよい。加えて、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などの補助物質がそのような媒体中に存在してもよい。典型的には、この治療組成物は、注射剤として(液体溶液または懸濁液のいずれかとして)調製するが、注射に先立ち液体溶媒中の溶液または懸濁液に適した固体の形態を調製してもよい。リポソームは、製薬学的に許容される担体の定義内に包含される。
【0171】
[送達方法]
一旦製剤化したら、本発明の医薬組成物は、(1)対象に直接投与、(2)対象に由来する細胞にex vivoで送達、または(3)組換えタンパク質の発現用にin vitroで送達できる。
【0172】
この組成物の直接送達は、一般に、皮下、腹腔内、静脈内もしくは筋肉内のいずれかへの注入により達成されるか、または組織の間質空間に送達されることになる。この組成物は、プラーク内または病変部内に投与することもできる。他の投与様式としては、局所、経口、カテーテル挿入および経肺による投与、坐薬および経皮的な施用、針、およびパーティクルガンまたは皮下噴射器が挙げられる。用量の取扱いは、単回投与計画または複数回投与計画であってもよい。
【0173】
対象体内への形質転換細胞のex vivo送達および再移植の方法は当技術分野で公知であり、例えば、国際公開第WO93/14778号に記載がある。ex vivoの用途において有用な細胞の例としては、例えば、幹細胞、特に、造血細胞、リンパ細胞、マクロファージ、樹状細胞または腫瘍細胞が挙げられる。
【0174】
一般に、ex vivoおよびin vitro両方の用途のための核酸の送達は、例えば、デキストラン介在形質転換、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレン介在形質転換、プロトプラスト融合、電気穿孔法、リポソーム中の(1つまたは複数の)ポリヌクレオチドのカプセル化、および核中へのDNAの直接マイクロインジェクションにより達成できるが、これらは全て当技術分野で周知である。
【0175】
この治療組成物を体内の特定部位に直接投与するには、多様な方法が用いられる。例えば、小さな転移性病変部の位置を特定し、腫瘍の塊内のいくつかの異なる位置で治療組成物を数回注射する。あるいは、この組成物を腫瘍中に直接送達するために、腫瘍に栄養供給する動脈を同定し、そのような動脈中に治療組成物を注入する。壊死の中心部を有する腫瘍を吸引し、現時点では空の腫瘍の中心部中にこの組成物を直接注入する。アンチセンス組成物を腫瘍の表面に直接、例えば、組成物の局所施用により投与する。前述の送達方法の特定のものにおいて役立てるために、X線画像化を用いる。
【0176】
アンチセンスポリヌクレオチド、サブゲノムのポリヌクレオチドまたは特定の組織に対する抗体を含有する治療組成物の、受容体が介在する標的化送達も用いられる。受容体が介在するDNA送達技術は、例えば、Findeisら、Trends in Biotechnol.、(1993)、11、202〜205頁;Chiouら、(1994)、Gene Therapeutics: Methods And Applications Of Direct Gene Transfer、(J.A.Wolff編);Wuら、J.Biol.Chem.、(1994)、269、542〜46頁に記載がある。好ましくは、本発明の抗体を含有する治療組成物の、受容体が介在する標的化送達は、特定の組織に抗体を送達するために用いられる。
【0177】
アンチセンス、リボザイムまたはRNAiポリヌクレオチドを含有する医薬組成物を、遺伝子治療のプロトコールにおける局所投与のために、ポリヌクレオチドを約100ng〜約200mgの範囲で投与する。遺伝子治療プロトコール中には、濃度範囲が約500ng〜約50mg、約1μg〜約2mg、約5μg〜約500μg、および約20μg〜約100μgのポリヌクレオチドも使用できる。実行の方法ならびに形質転換および発現の有効性などの因子は、ポリヌクレオチドの最終的な有効性に必要な用量に影響すると思われる考慮要件である。組織の、より大きな区域にわたりより多く発現することが望ましい場所では、より大量のポリヌクレオチドまたは同量を、例えば腫瘍部位の異なる隣接または近接する組織部分への連続的な投与プロトコール、または数回の投与で再投与することは、プラスの治療成果を達成するために必要な場合がある。全ての場合において、臨床試験における慣例的な実験法により、最適な治療効果のための特定の範囲が決定されよう。遺伝子治療のベクター、特にレトロウイルスベクターについてのより完全な記載は、米国特許出願第08/869,309号に収められており、同文献は明示的に本明細書の一部をなすものとする。
【0178】
本明細書中で言及した全ての参考文献は、参照することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。
【0179】
これから、以下の非限定的な実施例により、本発明を例示することとする。
【実施例1】
【0180】
[抽出、精製および消化]
プラークを液体窒素中で粉砕し、およそ500ulの粉末/プラークを抽出に使用した。タンパク質を、500ulの40mMのTrisバッファーpH7.5+1×EDTA非含有プロテイナーゼ阻害剤カクテル(Roche)使用して抽出し、氷上で20秒の超音波処理をした。遠心分離(13000rpm、4℃、10分)の後で、上清をTris画分として−80℃において保存した。残存ペレットを、1mlの75%クロロホルム/25%メタノールを用いて抽出し、20秒の超音波処理をした。遠心分離(13000rpm、4℃、10分)後、上清を脂質画分として保存し、ペレットを0.1%SDSを使用して抽出した。このためにペレットに300ulの0.1%SDSを加え、20秒の超音波処理をし、95℃において5分間加熱した。遠心分離(13000rpm、4℃、10分)の後で、上清をSDS画分として使用して、氷上で−80℃において保存した。Tris画分およびSDS画分の両方を分析に使用した。
【0181】
第1の分析は、心血管イベントを有する患者およびイベントのない対照を比較するプロテオミクスに焦点を合わせた。このために、追跡2年以内にイベントを有した79例の患者のプラークタンパク質をプールし、同じ追跡時間またはそれ以上の時間にイベントを有さなかった、年齢性別が対応する患者79例のプラークタンパク質のプールと比較した。
【0182】
各群(イベント群および対照群)に対し、Tris画分の1.5mgのプールタンパク質を、個々の患者ごとに19ugのプールタンパク質を使用した。各群に対し0.5mgのプールタンパク質を、個々の患者ごとに6.5ugのプールタンパク質を使用した。6種の最も豊富な血清タンパク質(アルブミン、IgG、IgA、トランスフェリン、ハプトグロビンおよびアンチトリプシン)を除去するために、Agilent(5188〜5341)によるMultiple Affinity Removal Spin Cartridgeを使用した。
【0183】
精製後、400ugの精製Trisタンパク質および100ugの精製SDSタンパク質を消化に使用した。
【0184】
消化の前に、試料を2つに分割し、各試料に関して2回の技術再現を得た。
【0185】
試料を、記載(Washburn、M.P.ら、(2001年)Nat Biotechnol 19、242〜247)のように還元し、アルキル化し、トリプシン消化した。その後、消化混合物を順化したSep−Pak C−18 SPEカートリッジ(Waters、Milford、MA、USA)に通すことによって、試料を脱塩し、3%アセトニトリル(ACN)(JT Baker、Phillipsburg、NJ)および0.1%ギ酸(FA)バッファーを用いて2回洗浄し、70%ACNおよび0.1%FAバッファーを用いて溶出した。その後、溶出試料を、スピードバック(speedvac)中で有機溶媒を除去することによって約20ulに乾燥させた。
【0186】
試料を、4℃に維持し、Agilent 1100 HPLCシステムを使用してBioBasic SCXカラム(5um、Thermo Electron、San Jose、USA)上で、オフラインで分離した。Tris画分を、80ulの試料または塩を載せ、流速10ul/分(4%アセトニトリル、0.1%ギ酸)で30分間、10種の塩画分(0、2、4、6、10、18、26、45、100、1000mM)に分離した。SDS画分を、5種の画分(0、4、18、100、1000mM)に分離した。各塩画分を、スピードバックを使用して濃縮し、MS分析のために二次元に別々に注入した。
【0187】
二次元クロマトグラフィー分離を、ホームパックドナノボア(home−packed nanobored)C18カラム(内径75um×10cm、5μm粒子)を用いて、ピコフリットナノスプレイチップ(pico−frit nanospray tip)(New Objective、Wubrun、MA、USA)に直接、流速200nL/分、65分の勾配で作動させて実施した。各MS走査からの3つの最も強いピークに関してMS/MS走査を実施することによって、データ依存モードでLTQを作動させた。MSを、シースガスおよび補助ガス流を使用せずナノスプレー電圧1.8kV、イオン移送チューブの温度180°C、衝突ガス圧0.85mTorrおよびMS2のための規格化衝突エネルギー35%で作動させた。イオン選択の閾値を、MS2開始のために500カウントに設定し、活性化qを0.25、活性化時間30分に設定した。MS走査範囲は、400−1800m/zであった。Dynamic exclusionを、排除時間1分で活性化した。各塩ステップの実験について、ms/ms(dta)スペクトルを生データファイルからBiowork 3.3プログラム(ThermoFinnigan,San Jose、CA、USA)を使用して抽出した。
【0188】
タンパク質の同定を、IPIヒトタンパク質データベース(バージョン3.15,58009エントリー;Kersey P.J.、Duarte J.,Williams A.、Karavidopoulou Y.、Birney E.、Apweiler R.International Protein Index:プロテオミクス実験のための統合データベース Proteomics4(7)、1985〜1988(2004))に対する各塩ステップからのデータを、トリプシンを使用して3つの未切断部を最大の3にできるSequest(Bioworks3.3)を使用して検索することによって達成した。固定修飾はカルバミノメチル化であり、可変修飾はメチオニンの酸化であった。結果フィルターを使用した:ペプチドにはXCorrを、z=1に対して1.5に、z=2に対して2.5に、およびz=3に対して3.5に設定し、タンパク質にはタンパク質確率を1.00E−3に設定した。
【0189】
[バイオインフォマティクス]
Bioworksを使用して、塩画分ごとに同定タンパク質のExcel(商標)ファイルを1つ作成し、イベント群に関する2×10 Excelファイルおよび対応対照群に関する2×10 Excel(商標)ファイルにおいてTRIS画分の結果を得た。SDS画分に関しては、イベント群および対応対照群に関して同定タンパク質のExcel(商標)ファイルを2×5作成した。
【0190】
Omniviz(商標)およびExcel(商標)を使用して、イベント群の両方の技術的複製(少なくとも1つの塩画分において)だけに存在し、対応対照群のいずれの技術的複製(どの塩画分にも存在しない)にも存在しなかったタンパク質を選択した。
【0191】
これを、さらなる分析のためにIngenuityソフトウェアにサブミットした、112種のタンパク質のリストとしてまとめた。Ingenuityは、ネットワークを構築するために使用できる112種のタンパク質の87種を認識した(表1を参照されたい)。
【0192】
【表2A】

【表2B】

【表2C】

【0193】
個々の患者における検証のためのタンパク質を選択するために、結合可能なIngenuityネットワークに存在したタンパク質を選択した。Ingenuity分析は、8ネットワークを同定した(図1を参照されたい)。6ネットワーク(ネットワーク1〜6)は、18〜38に及ぶ高スコアを有した。さらに、これら6ネットワークすべてが、この主要ネットワークに関する81種の選択された異なる形で発現するタンパク質が互いに相互作用することが記載され、それらが生物学的関係を有することを示す、主要な1ネットワークに結合できた。このネットワークを、図2においてタンパク質間の直接的および間接的関係を示すIngenuityネットワークとして提示し、図3において細胞中の局在化に従って配列した。ネットワーク中に記載された頚動脈プラークタンパク質は、体内の他の場所における将来の主要心血管イベントの発生を予測する非常に高い可能性を有し、これらのタンパク質を表IIに記載する。本発明に従ったマーカーとして適切であろう、ネットワーク中のタンパク質の完全なリストは、表IIIに見出すことができる。
【0194】
【表3A】

【表3B】

【表3C】

【0195】
【表4A】

【表4B】

【表4C】

【表4D】

【表4E】

【表4F】

【表4G】

【表4H】

【表4I】

【表4J】

【表4K】

【表4L】

【表4M】

【表4N】

【表4O】

【表4P】

【表4Q】

【表4R】

【0196】
表IIまたは表IIIのすべてのタンパク質は、将来の心血管イベントのためのプラークマーカーとして適切であろう。しかし、実用的理由により、リストの削減を行った。このため、本発明者らは、Mouse Genome Informatics(MGI)データベース(Mouse Genome Informatics Web Site、The Jackson Laboratory、Bar Harbor、Maine.World Wide Web(URL:http://www.informatics.jax.org)を使用して、マウスにおいて心血管表現型を示すタンパク質を選択するために選別した。すべてのタンパク質が記載された表現型を有するわけではなく、心血管表現型の存在がすべてのタンパク質に関して調査されたわけではなかったので、この選択は、実用的理由のためだけである。表Iおよび/または表IIおよび/または表IIIに記載のすべてのタンパク質は、本発明に従ったマーカーとして適切であると考えられる。
【0197】
心血管表現型を有する16種のタンパク質を表IVに記載する。
【0198】
【表5】

【0199】
これらのタンパク質の1種を、個々の検証およびこれらのリストの有効性の概念を証明するために、初めに選択した。最も優れた候補は、最も高いスコアを有するネットワーク(ネットワーク1)からのタンパク質である。次に、本発明者らは、Online Mendelian Inheritance in Man(OMIM(商標))データベース(McKusick−Nathans Institute of Genetic Medicine、Johns Hopkins University(Baltimore、MD)およびNational Center for Biotechnology Information、National Library of Medicine(Bethesda、MD)World Wide Web URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim/)を、このネットワークからのタンパク質、およびプラーク破裂、すなわち炎症、コラーゲンの代謝回転および凝固における潜在的な役割を果たす過程におけるこれらのタンパク質の役割に関して調査した。さらに、選択は、タンパク質に関して市販のELISAの利用に依存した。結果として、SPP1(IPI00021000、オステオポンチン)を、AtheroExpressデータベースの個々の患者についての検証のために選択した。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
心血管イベントを発症する対象のリスクを予測する方法であって、前記対象の心血管系(の試料)中の少なくとも1つのバイオマーカーを検出するステップを含み、前記バイオマーカーが、腫瘍壊死因子α前駆体(IPI00001671)、リソソーム膜タンパク質1(LAMP1、IPI00004503)、インターロイキン5前駆体(IPI00007082)、インターロイキン6前駆体(IPI00007793)、C−Cモチーフケモカイン2前駆体(IPI00009308)、C−Cモチーフケモカイン5前駆体RANTES(IPI00009309)、カテプシンL1前駆体(IPI00012887)、アデニル酸キナーゼ1(AK1、IPI00018342)、ロイコトリエンB4受容体1(IPI00019382)、補体因子D(CFD、アジプシン、IPI00019579)、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、小分子誘導性サイトカインA17前駆体(IPI00022062)、C−X−Cモチーフケモカイン10前駆体(IPI00022448)、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー11(RANKL)(TNF関連活性化誘導サイトカイン)(TRANCE)(オステオプロテゲリンリガンド)(OPGL)(破骨細胞分化因子)(ODF)(CD254抗原)(IPI00023732)、C−Cモチーフケモカイン18前駆体(IPI00026183)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)、脂肪酸結合タンパク質4、脂肪細胞(FABP4、IPI00215746)、カルパイン2、(m/II)大サブユニット(CAPN2、IPI00289758)、マクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)、カテプシンS前駆体(IPI00299150)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)およびsICAM−1(IPI00816809)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む方法。
【請求項2】
前記バイオマーカーが、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)およびマクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バイオマーカーが、請求項1または2に記載の群の少なくとも2種のタンパク質を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記バイオマーカーが、SPP1(オステオポンチン)、またはSPP1と請求項1または請求項2に記載の前記群から選択される1つまたは複数のさらなるタンパク質との組み合わせを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記バイオマーカーが、腫瘍壊死因子α前駆体(IPI00001671)、リソソーム膜タンパク質1(LAMP1、IPI00004503)、インターロイキン5前駆体(IPI00007082)、インターロイキン6前駆体(IPI00007793)、C−Cモチーフケモカイン2前駆体(IPI00009308)、C−Cモチーフケモカイン5前駆体RANTES(IPI00009309)、カテプシンL1前駆体(IPI00012887)、アデニル酸キナーゼ1(AK1、IPI00018342)、ロイコトリエンB4受容体1(IPI00019382)、補体因子D(CFD、アジプシン、IPI00019579)、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、小分子誘導性サイトカインA17前駆体(IPI00022062)、C−X−Cモチーフケモカイン10前駆体(IPI00022448)、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー11(RANKL)(TNF関連活性化誘導サイトカイン)(TRANCE)(オステオプロテゲリンリガンド)(OPGL)(破骨細胞分化因子)(ODF)(CD254抗原)(IPI00023732)、C−Cモチーフケモカイン18前駆体(IPI00026183)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)、脂肪酸結合タンパク質4、脂肪細胞(FABP4、IPI00215746)、カルパイン2、(m/II)大サブユニット(CAPN2、IPI00289758)、マクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)、カテプシンS前駆体(IPI00299150)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)およびsICAM−1(IPI00816809)からなる群からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記バイオマーカーが、分泌性リン酸化タンパク質1(SPP1、オステオポンチン、骨シアロタンパク質I、初期Tリンパ球活性化1、IPI00021000)、インターロイキン13前駆体(IPI00807607)、72kDa IV型コラゲナーゼ前駆体(IPI00027780)、好中球コラゲナーゼ前駆体(IPI00027846)およびマクロファージ遊走阻害因子(IPI00293276)からなる群からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオマーカーがSPP1(オステオポンチン)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記バイオマーカーが、動脈硬化性プラーク、循環細胞、血清、血漿、血栓または血管組織中で検出される、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記動脈硬化性プラークが、冠動脈、大腿動脈および/または頚動脈中の動脈硬化性プラークである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記心血管イベントが、血管死または突然死、致死性または非致死性の脳卒中、致死性または非致死性の心筋梗塞、致死性または非致死性の腹部大動脈瘤破裂、開腹術により確認される腹部大動脈瘤破裂、血管インターベンション、冠動脈疾患、一過性脳虚血発作(TIA)、末梢動脈疾患、急性冠症候群、心不全および再狭窄から選択される、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記バイオマーカーを検出する前記ステップが、前記タンパク質の量を測定するステップ、または前記タンパク質についてのタンパク質発現プロファイルもしくは遺伝子発現プロファイルを用意するステップを含む、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記バイオマーカーを検出する前記ステップが、質量分析、プロテインチップ解析、抗体アレイ解析、イムノアッセイ分析、MRI、NMR、超音波分光法、ラマン分光法および/または赤外線分光法を用いることにより実施される、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の方法を実施するための要素のキットであって、請求項1〜7のいずれかに記載の少なくとも1つのバイオマーカー、または前記バイオマーカーに特異的に結合する抗と、請求項1〜12のいずれかに記載の方法を実施するための説明書とを備え、任意にさらに
少なくとも1つの基準試料または対照試料、
前記バイオマーカーの基準値についての情報、
前記抗体に結合する能力のある少なくとも1つのペプチド、
前記バイオマーカーと前記抗体との間の結合を検出するための少なくとも1つの検出可能なマーカー
の1つまたは複数を備える要素のキット。
【請求項14】
固体支持体に結合する請求項1〜7のいずれかに記載の少なくとも2つのバイオマーカーに特異的に結合する抗体を備える、請求項1〜12のいずれかに記載の方法を実施するための抗体マイクロアレイ。
【請求項15】
対象における心血管イベントのリスクを診断または予測するための、請求項1〜7のいずれかに記載のバイオマーカーの使用。
【請求項16】
心血管イベントに罹患するリスクが高い対象を治療する方法であって、請求項1〜7のいずれかに記載のバイオマーカーを、治療標的として、または治療剤として使用するステップを含む方法。
【請求項17】
治療標的としての前記バイオマーカーの前記使用が、心血管イベントに罹患するリスクが高い対象において過剰発現される少なくとも1種のタンパク質の量を減少させるステップ、または心血管イベントに罹患するリスクが高い対象において低発現される少なくとも1種のタンパク質の量を増加させるステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記タンパク質が、請求項1または2に記載の前記群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
過剰発現される前記タンパク質がSPP1(オステオポンチン)である、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
心血管イベントに罹患するリスク増加の治療のための医薬組成物であって、
請求項1〜7のいずれかに記載のバイオマーカー、好ましくは、細胞膜上に発現するバイオマーカーに対する抗体もしくはその誘導体であって、前記誘導体が、scFv断片、Fab断片、キメラ抗体、二重特異性抗体、細胞内抗体および他の抗体由来分子からなる群から好ましくは選択される抗体もしくはその誘導体、
請求項1〜7のいずれかに記載のバイオマーカー、
前記バイオマーカーの生物活性に干渉する小分子、
アンチセンス分子、特にアンチセンスRNAもしくはアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド、
RNAi分子、ならびに
リボザイム
から選択される少なくとも1つの阻害化合物、または
請求項1〜7のいずれかに記載のバイオマーカーの発現を増加させる化合物と
適当な賦形剤、担体または希釈剤と
を含む医薬組成物。
【請求項21】
対象を治療する方法であって、請求項20に記載の医薬組成物を、心血管イベントに罹患する前記対象のリスクを減少または防止するのに有効な量で前記対象に投与するステップを含む方法。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A−1】
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【図14A−2】
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【図14A−3】
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【図14A−4】
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【図14A−5】
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【図14A−6】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図21C】
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【図21D】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公表番号】特表2010−534852(P2010−534852A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519167(P2010−519167)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050517
【国際公開番号】WO2009/017405
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(510025267)カヴァディス・ベスローテン・フェンノートシャップ (2)
【Fターム(参考)】