説明

心音測定装置

【課題】脈波に基づき、脈波伝搬時間による影響を回避しつつ心周期を正確に判別でき、心音や心雑音の種別を正確に識別できる心音測定装置を提供する。
【解決手段】この心音測定装置では、心周期時分割部6は脈波伝播時間決定部11が決定した脈波伝播時間Tと脈波検出部3による脈波信号とに基づいて、心音信号の心周期THの分割期間Q11〜Q23を規定するので、脈波伝播時間Tを考慮して心周期THとその分割期間Q11〜Q23を正確に規定できる。したがって、脈波検出部3の装着が比較的容易な手首や指、足首など末梢の一部位を測定部位とする場合でも心周期時分割部6は脈波伝搬時間Tによる影響を受けないように心周期を正確に規定できる。よって、心音特定部7や心雑音特定部8は正確に規定された心周期の複数の分割期間のうちのどの分割期間に心音帯域信号や心雑音帯域信号があるのかを特定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体の心臓から発生する音から、心音や心雑音を抽出して測定する心音測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心音には、心疾患に起因して発生する各種の過剰心音や心雑音が含まれることから、心疾患の予兆を早期に発見するためには日常的に心音を測定して、過剰心音や心雑音の有無を確認することが望ましい。
【0003】
心音による心疾患の評価は、聴診器を用いて医師が聴診する聴診法が主流であり、この聴診法による診断は専門的な知識が必要なことから、一般の人が自分自身で家庭等において日常的に行うことは極めて困難であり、また、医師による聴診を日常的に受診することも現実的ではない。
【0004】
このため、過剰心音や心雑音の有無を、専門的な知識が無い一般の人が家庭等において日常的に簡便に確認できる装置が普及することが望まれる。
【0005】
従来、聴診法に代わる方法として、胸壁などの体表に心音を測定するマイク(心音センサ)を装着して、測定した心音信号から心音や心雑音を測定する心音計が考案されている(特許文献1(特開平3−133426号公報)、特許文献2(特許第3952608号))。
【0006】
これらの心音計では、測定した心音信号から心音や心雑音を抽出して心疾患の評価を行なうために、抽出した心音や心雑音が、心周期(心室の収縮期と拡張期)のどの時点(位相)で発生しているかを判別する必要がある。
【0007】
この心音や心雑音の心周期における位相を判別する手法として、心音信号に含まれて交互に観測される、心音のI音(S1)とII音(S2)との時間間隔の違いを判別する手法も提案されている。この判別手法では、上記心音のI音とII音との間の時間間隔が短い期間を収縮期とし、時間間隔が長い期間を拡張期としている。
【0008】
ところが、上記特許文献1(特開平3−133426号公報)でも述べられているように、心疾患の症状によっては、収縮期と拡張期の時間間隔が同等である場合や、拡張期の方が収縮期よりも短い場合も有り得る。このことから、現実的には心音信号のみから心周期の収縮期,拡張期を判断すると誤判断を招き易いという問題がある。
【0009】
このため、上記特許文献1や特許文献2でも示されているように、心音信号と同時に心電信号を測定して、この心電信号を基準にして心周期を判別する手法が用いられている。
【0010】
また、心電信号を利用する以外の他の手法として、特許文献3(特表2008−534228号公報)では、心音信号と拍動(頸動脈波、橈骨動脈拍動、上腕動脈拍動の少なくとも1つ)とを組み合わせて、心音のI音(S1)とII音(S2)を識別して、II音(S2)に対応するゲーティング信号を心臓撮像装置に送信する心臓ゲーティングシステムおよび方法が提案されている。
【0011】
ところで、特許文献1や特許文献2のように、心電信号を基準にして心周期を判別する手法では、心音を測定するマイク(心音センサ)も少なくとも1つ以上装着することに加えて、さらに心電測定用の電極を、生体の2〜3箇所に装着する必要があり、一般の人が家庭などで利用することを前提とした場合、これら複数の心電測定用電極を利用者自身で装着することは面倒であり、長期にわたって日常的に利用するには適さない。
【0012】
一方、特許文献3のように、心電は使用せずに拍動(脈波)を使用する手法では、複数の心電測定用電極の装着は不要となり、代わりに脈波を測定する脈波センサを、上腕もしくは手首頭骨などの任意の測定部位に1つだけ装着すればよいことから、一般の人が家庭などで日常的に利用する際にも比較的容易に使用することが可能と考えられる。
【0013】
しかしながら、特許文献1や特許文献2のように心電信号を基準とした場合には、心周期を正確に捉えることができるのに対して(心電信号のR波を収縮期の開始点としてR波の直後の心音がI音となる)、特許文献3のように拍動(脈波)を使用する場合には、脈波が大動脈起始部から末梢側の脈波測定部位まで伝搬するのに要する時間(脈波伝播時間)によって、I音(S1)とII音(S2)を正しく識別できない可能性が考えられる。
【0014】
具体的には、脈波の測定部位として、脈波センサの装着が比較的容易な、手首や指、足首など末梢の測定部位を用いる場合には、大動脈起始部からの距離が大きくなることによって脈波伝搬時間の値が大きくなり、これに伴い脈波形が時間的に遅れた位置にずれることにより、本来なら心音のI音(S1)とII音(S2)との間の期間(すなわち収縮期)に出現するはずの脈波形のピークが、II音(S2)よりも後に出現する可能性がある。
【0015】
このような場合、I音(S1)とII音(S2)とを誤って識別してしまうことになるが、特に脈波伝搬速度が遅め(すなわち脈波伝搬時間が長め)で心拍数が高い場合には、このような問題が生じる可能性が高くなる。例えば、脈波伝搬速度が400cm/秒で、大動脈起始部から脈波測定部位までの距離が80cm(手の指先など)であれば、脈波伝搬時間は約200ミリ秒を要するが、心拍数が120回/分の場合、心周期における収縮期と拡張期の時間比率が4:6であれば収縮期は約200ミリ秒となり(個人差や体調によっては、収縮期の時間比率は更に短いこともある)、脈波形のピークがII音(S2)よりも後の拡張期に出現する可能性がありえる。
【0016】
また、心周期をさらに細かく判別したい場合には(例えば、収縮前期、収縮中期 、収縮後期、拡張前期、拡張中期 、拡張後期の6つの心周期)、一つの心周期あたりの時間が短くなることから、上記のような脈波伝搬時間による影響は 更に大きくなり、心周期を正しく識別できない可能性が高くなる。
【0017】
さらに、特許文献3は、I音(S1)とII音(S2)を識別して、II音(S2)に対応するゲーティング信号を送信するものであり、拍動(脈波)を使用してI音とII音以外の心音や心雑音の識別をすることは考慮されておらず、過剰心音や心雑音の識別ができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平3−133426号公報
【特許文献2】特許第3952608号
【特許文献3】特表2008−534228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そこで、この発明の課題は、脈波に基づき、脈波伝搬時間による影響を回避しつつ心周期を正確に判別でき、心音や心雑音の種別を正確に識別できる心音測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、この発明の心音測定装置は、生体の心臓から発生する音を検出して心音信号として出力する心音検出部と、
上記心音信号から心音の周波数に対応する成分を抽出して出力する心音帯域抽出部と、
上記生体の或る一部位の脈波を検出して脈波信号として出力する脈波検出部と、
上記生体の大動脈起始部から上記一部位まで脈波が伝播する脈波伝播時間を決定する脈波伝播時間決定部と、
上記脈波伝播時間決定部が決定した上記脈波伝播時間と上記脈波信号とに基づいて、上記心臓の心周期を複数に分割した分割期間を規定する心周期時分割部と、
上記心音帯域抽出部が抽出した成分である心音帯域信号が、上記心周期時分割部が規定した複数の分割期間のうちのいずれの分割期間にあるのかを特定して、上記心音帯域信号による心音の種別を特定する心音特定部とを備えたことを特徴としている。
【0021】
この発明の心音測定装置によれば、上記心周期時分割部は、上記脈波伝播時間決定部が決定した上記脈波伝播時間と上記脈波信号とに基づいて、上記心周期の分割期間を規定するので、上記脈波伝播時間を考慮して上記心周期とその分割期間を正確に規定できる。したがって、上記脈波検出部の装着が比較的容易な、手首や指、足首など末梢の一部位を測定部位とする場合でも、上記心周期時分割部は、脈波伝搬時間による影響を受けないように心周期を正確に規定できる。よって、上記心音特定部は、上記正確に規定された心周期の複数の分割期間のうちのどの分割期間に上記心音帯域信号があるのかを特定でき、上記心音帯域信号による心音の種別を正確に識別することが可能になる。
【0022】
また、一実施形態の心音測定装置では、上記心音信号から心雑音の周波数に対応する成分を抽出して出力する心雑音帯域抽出部と、
上記心雑音帯域抽出部が抽出した成分である心雑音帯域信号が、上記心周期時分割部が規定した複数の分割期間のうちのいずれの分割期間にあるのかを特定して、上記心雑音帯域信号による心雑音の種別を特定する心雑音特定部とを備えた。
【0023】
この実施形態の心音測定装置によれば、上記心雑音特定部は、上記心雑音帯域信号が上記心周期の複数の分割期間のうちのどの分割期間にあるのかを正確に特定でき、心雑音の種別を正確に識別することが可能になる。
【0024】
また、一実施形態の心音測定装置では、生体の心臓から発生する音を検出して心音信号として出力する心音検出部と、
上記心音信号から心雑音の周波数に対応する成分を抽出して出力する心雑音帯域抽出部と、
上記生体の或る一部位の脈波を検出して脈波信号として出力する脈波検出部と、
上記生体の大動脈起始部から上記一部位まで脈波が伝播する脈波伝播時間を決定する脈波伝播時間決定部と、
上記脈波伝播時間決定部が決定した上記脈波伝播時間と上記脈波信号とに基づいて、上記心臓の心周期を複数に分割した分割期間を規定する心周期時分割部と、
上記心雑音帯域抽出部が抽出した成分である心雑音帯域信号が、上記心周期時分割部が規定した複数の分割期間のうちのいずれの分割期間にあるのかを特定して、上記心雑音帯域信号による心雑音の種別を特定する心雑音特定部とを備えた。
【0025】
この実施形態の心音測定装置によれば、上記心周期時分割部は、上記脈波伝播時間決定部が決定した上記脈波伝播時間と上記脈波信号とに基づいて、上記心周期の分割期間を規定するので、上記脈波伝播時間を考慮して上記心周期とその分割期間を正確に規定できる。したがって、上記脈波検出部の装着が比較的容易な手首や指、足首など末梢の一部位を測定部位とする場合でも、上記心周期時分割部は、脈波伝搬時間による影響を受けないように心周期を規定できる。よって、上記心雑音特定部は、上記正確に規定された心周期の複数の分割期間のうちのどの分割期間に上記心雑音帯域信号があるのかを特定でき、上記心雑音帯域信号による心雑音の種別を正確に識別することが可能になる。
【0026】
また、一実施形態の心音測定装置では、上記心音特定部によって特定された上記心音帯域信号による心音の種別に基づいて、検出した心音信号の異常の有無を判定した結果を判定結果情報として出力する心音判定部と、上記判定結果情報を利用者に提示する心音判定結果出力部とを備える。
【0027】
この実施形態の心音測定装置によれば、上記心音判定部によって心音信号の異常の有無を判定した結果を上記心音判定結果出力部によって判定結果情報として出力して利用者に提示することで、心臓周辺の循環器系などに何らかの異常があるときに出現する可能性がある過剰心音などが心音信号に含まれているか否かを利用者に提示できるので、利用者は心音信号の異常の有無を容易に確認することが可能になる。
【0028】
また、一実施形態の心音測定装置では、上記心雑音特定部によって特定された上記心雑音帯域信号による心雑音の有無に基づいて、検出した心音信号の異常の有無を判定した結果を判定結果情報として出力する心雑音判定部と、上記判定結果情報を利用者に提示する心雑音判定結果出力部とを備える。
【0029】
この実施形態の心音測定装置によれば、上記心雑音判定部によって、心音信号の異常の有無を判定した結果を上記心雑音判定結果出力部によって判定結果情報として出力して利用者に提示することで、心臓周辺の循環器系などに何らかの異常があるときに出現する可能性がある心雑音が心音信号に含まれているか否かを利用者に提示できるので、利用者は心音信号の異常の有無を容易に確認することが可能になる。
【0030】
また、一実施形態の心音測定装置では、上記心雑音判定部は、
上記心雑音特定部によって特定された上記心雑音帯域信号による心雑音の有無と上記心雑音の種別とに基づいて、検出した心音信号の異常の有無と上記心音信号の異常の種別を判定した結果を判定結果情報として出力する。
【0031】
この実施形態の心音測定装置によれば、上記心雑音判定部によって、心音信号の異常の有無と上記心音信号の異常の種別を判定した結果を上記心雑音判定結果出力部によって判定結果情報として出力して利用者に提示することで、心臓周辺の循環器系などに何らかの異常があるときに出現する可能性がある心雑音が心音信号に含まれているか否か、および上記心雑音の種別を利用者に提示できるので、利用者は心音信号の異常の有無および異常の種別を容易に確認することが可能になる。
【0032】
また、一実施形態の心音測定装置では、上記心音判定部は、
複数の心拍数において上記心音特定部によって特定された上記心音帯域信号による心音が現れる頻度を心音の種別毎に算出する心音頻度算出部をさらに備え、
上記心音判定部は、上記心音頻度算出部が算出した心音の種別毎の頻度を、上記心音の種別毎に予め定められた閾値と比較することによって、検出した心音信号の異常の有無を判定する。
【0033】
この実施形態の心音測定装置によれば、上記心音判定部は、上記心音頻度算出部により上記複数の心拍数において心音帯域信号による心音が出現する頻度を心音の種別毎に算出し、この心音の種別毎の出現頻度を閾値と比較して心音信号の異常の有無を判定する。よって、心臓の音以外の生体外部からの偶発的な雑音の混入などによる、正常心音の埋没や、過剰心音の誤認識などの影響を低減し、より正確に心音信号の異常の有無を判定することが可能になる。
【0034】
また、一実施形態の心音測定装置では、上記心雑音判定部は、上記心雑音特定部によって特定された上記心雑音帯域信号による心雑音が複数の心拍数において現れる頻度を心雑音の種別毎に算出する心雑音頻度算出部をさらに備え、
上記心雑音判定部は、上記心雑音頻度算出部が算出した心雑音の種別毎の頻度を、上記心雑音の種別毎に予め定められた閾値と比較することによって、検出した心音信号の異常の有無を判定する。
【0035】
この実施形態の心音測定装置によれば、上記心雑音判定部は上記心雑音頻度算出部により、上記複数の心拍数において上記特定された心雑音帯域信号による心雑音が出現する頻度を心雑音の種別毎に算出し、この心雑音の種別毎の出現頻度を閾値と比較して心音信号の異常の有無を判定する。これにより、心臓の音以外の生体外部からの偶発的な雑音の混入などによる、心雑音の誤認識の影響を低減し、より正確に心音信号の異常の有無を判定することが可能になる。
【発明の効果】
【0036】
この発明の心音測定装置によれば、上記心周期時分割部は、上記脈波伝播時間決定部が決定した上記脈波伝播時間と上記脈波信号とに基づいて、上記心周期の分割期間を規定するので、上記脈波伝播時間を考慮して上記心周期とその分割期間を正確に特定できる。したがって、上記脈波検出部の装着が比較的容易な、手首や指、足首など末梢の一部位を測定部位とする場合でも、上記心周期時分割部は、脈波伝搬時間による影響を受けないように心周期を正確に特定できる。よって、上記心音特定部は、上記正確に規定された心周期の複数の分割期間のうちのどの分割期間に上記心音帯域信号があるのかを特定でき、上記心音帯域信号による心音の種別を正確に識別することが可能になる。
【0037】
すなわち、本発明によれば、脈波に基づいて心周期(収縮期・拡張期)を判別する場合においても、脈波伝搬時間による影響を受けずに、心音および心雑音の種別を識別できる。これにより、心音と同時に測定する信号として、心電よりも測定が容易な脈波を利用できるので、一般の人が家庭などで日常的に過剰心音や心雑音の有無を簡便に確認することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る心音測定装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】脈波信号の波形および心周期時分割部による心周期の各分割期間の一例を示す波形図である。
【図3】心周期の各分割期間における心音および心雑音の判別の一例を一覧表として示す図である。
【図4】上記実施形態の心音測定装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図5】正常な心音信号の一例を示す波形図である。
【図6】大動脈弁狭窄がある場合の心音信号の一例を示す波形図である。
【図7】大動脈弁閉鎖不全がある場合の心音信号の一例を示す波形図である。
【図8】過剰心音であるIII音およびIV音がある場合の心音信号の一例を示す波形図である。
【図9】上記実施形態の心音測定装置の出力部による判定結果の出力の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0040】
(心音測定装置の構成)
図1は、この発明の実施の形態の心音測定装置のブロック図である。この実施形態の心音測定装置は、解析処理部1と心音検出部2と脈波検出部3と出力部10とを備える。
【0041】
上記心音検出部2は、生体としての人体の心臓から発生する音を検出して心音信号として出力する。この心音検出部2は、生体の心臓付近の所定部位に装着されて、生体の心臓から発生する音を採取して心音信号として出力する。この心音検出部2による音の検出方法としては、例えば、心音センサとして機能する超小型のマイクロホンを、被測定者の胸部に粘着テープ等により固定し、心音検出部2の内部に備えられている圧電素子(図示せず)により採取した音を微弱な電気信号に変換し、さらに心音検出部2の内部に備えられている増幅器(図示せず)で増幅したアナログの電気信号を心音信号として出力する。
【0042】
また、さらに、心音検出部2の内部にAD変換器を備えて電気信号をデジタルデータに変換した心音信号として出力してもよい。さらに、心音検出部2の内部にバッテリと無線通信部(図示せず)を備えて、デジタルデータ化した心音信号を無線通信部により無線で送信するようにすれば、心音検出部2をワイヤレス化することが可能となり、低拘束で日常生活への支障が少なく心音信号を採取することができる。この場合、この心音測定装置の解析処理部1にも無線通信部(図示せず)を備えて、心音検出部2から無線で送信されたデジタルデータ化された心音信号を受信できるように構成する。
【0043】
なお、上記心音検出部2による心音の検出方法は、上記に限定されるものではなく、測定の対象となる生体の心臓から発生する音を採取できる方法であれば、様々な検出方法を採用することができる。
【0044】
また、上記脈波検出部3は、上記生体としての人体の或る一部位(一例として手首や指、足首など末梢の一部位)に装着されて、測定対象となる動脈の局所的な脈波を検出して脈波信号として出力する。
【0045】
上記脈波検出部3による脈波の検出方法としては、例えば、(a)発光素子から出射された測定光が、動脈内の血液量に応じて反射あるいは吸収される度合いを受光素子で検出する光電容積脈波法や、(b)動脈内の圧力の変化を生体に密着させた圧電素子等によって検出する圧脈波法等がある。
【0046】
なお、上記脈波検出部3による脈波の検出方法は、上記(a),(b)に限定されるものではなく、測定の対象となる動脈の脈波を局所的に検出できる方法であれば、周知の様々な検出方法を採用することができる。また、脈波の測定部位としては、特に大きな制限事項があるわけではないが、できる限り低侵襲,低拘束であることが望ましく、装着したままでも日常生活への支障が少ない測定部位として、例えば、指尖,手首,耳朶,足首などが考えられる。
【0047】
上記脈波検出部3は、心音検出部2と同様にバッテリや無線通信部(図示せず)を備えてワイヤレス化することも可能であるが、例えば測定部位が手首の場合であれば、この心音測定装置の本体をなす解析処理部1を腕時計型にして脈波検出部3を上記解析処理部1と一体形成すればワイヤレス化は必要ではない。また、測定部位が指尖の場合であれば、指先に装着した脈波検出部3と腕時計型の心音測定装置本体をなす解析処理部1とを短いケーブルで接続すればワイヤレス化は必ずしも必要ではないこと。すなわち、装置の使用形態や目的に応じて適切な構成とすればよい。
【0048】
この脈波検出部3が出力する脈波信号、および上記心音検出部2が出力する心音信号は、上記解析処理部1に入力される。
【0049】
この解析処理部1は、心音帯域抽出部4と心雑音帯域抽出部5とを備える。尚、上記心音帯域抽出部4と心雑音帯域抽出部5のうちのいずれか一方だけを備えてもよい。上記心音帯域抽出部4は、上記心音信号から心音の周波数に対応する成分を抽出して心音帯域信号として出力する。この心音帯域抽出部4は、具体的には、心音の主要な周波数成分である周波数帯域の信号のみを減衰なく透過させるバンドパスフィルタとして機能する。このバンドパスフィルタの透過周波数帯域は、一例として20〜100Hz程度に設定すればよいが、心音の周波数帯域には個人差や体調による変化があることから、必要に応じて最適な透過周波数帯域を設定できることが望ましい。
【0050】
さらに、上記心音帯域抽出部4を、検出したい心音の種別に応じて、周波数帯域の異なるバンドパスフィルタを複数備えたものとして、心音の種別毎に周波数成分を抽出して心音の種別毎に心音帯域信号を出力してもよい。例えば、正常な心音であるI音(S1)とII音(S2)は、I音(S1)が70〜140Hz程度の範囲、II音(S2)が50〜100Hz程度の範囲が典型的であり、過剰心音であるIII音(S3)とIV音(S4)は、III音(S3)が30〜60Hz程度の範囲、IV音(S4)が20〜50Hz程度の範囲が典型的である。このことから、上記心音帯域抽出部4として、これら心音のI音〜IV音の種別毎にバンドパスフィルタを設けて、それぞれの心音の種別毎の心音帯域信号を出力すれば、心音の種別をより容易に特定することが可能となる。他の過剰心音である高調性の駆出音(ES)や僧帽弁開放音(OS)等についても、同様に種別毎のバンドパスフィルタを設けて心音帯域信号を抽出することができる。
【0051】
また、過剰心音のみを測定する場合には、上記心音帯域抽出部4として、III音(S3)やIV音(S4)、駆出音(ES)、僧帽弁開放音(OS)用のバンドパスフィルタのみを備えるものとしてもよい。すなわち、測定の対象としたい心音の種別に応じて心音帯域抽出部4を構成してもよい。
【0052】
なお、心音帯域抽出部4を構成するバンドパスフィルタは、心音検出部2から出力される心音信号がデジタルデータの場合には、デジタルフィルタ処理で実現すればよい。また、心音検出部2から出力される心音信号がアナログの電気信号の場合には、心音帯域抽出部4を構成するバンドパスフィルタをアナログのフィルタ回路で実現することができる。このアナログのフィルタ回路で心音帯域抽出部4を構成する場合、心音帯域抽出部4は解析処理部1の内部ではなく、解析処理部1と心音検出部2と間に位置することとなる。
【0053】
また、上記心雑音帯域抽出部5は、上記心音信号から心雑音の周波数に対応する成分を抽出して心雑音帯域信号として出力する。この心雑音帯域抽出部5は、具体的には、心雑音の主要な周波数成分である周波数帯域の信号のみを減衰なく透過させるバンドパスフィルタとして機能する。この心雑音帯域抽出部5をなすバンドパスフィルタの透過周波数帯域は、一例として100〜500Hz程度に設定すればよいが、心雑音の周波数帯域には個人差や体調による変化があることから、必要に応じて最適な透過周波数帯域を設定できることが望ましい。
【0054】
さらに、前述の心音帯域抽出部4と同様に、この心雑音帯域抽出部5としては、検出したい心雑音の種別に応じて、周波数帯域の異なるバンドパスフィルタを複数備えてもよい。この周波数帯域の異なる複数のバンドパスフィルタで構成された心雑音帯域抽出部5によって、心雑音の種別毎に周波数成分を抽出して心雑音の種別毎に心雑音帯域信号を出力することができる。
【0055】
この心雑音帯域抽出部5を構成するバンドパスフィルタは、前述の心音帯域抽出部4と同様に、心音検出部2から出力される心音信号がデジタルデータの場合には、デジタルフィルタ処理で実現すればよい。また、心音検出部2から出力される心音信号がアナログの電気信号の場合には、この心雑音帯域抽出部5を構成するバンドパスフィルタを、アナログのフィルタ回路で実現することができる。このアナログのフィルタ回路の場合、心雑音帯域抽出部4は解析処理部1の内部ではなく、解析処理部1と心音検出部2との間に位置することとなる。
【0056】
なお、上述した心音帯域抽出部4と心雑音帯域抽出部5とは、必ずしも両方共を備える必要は無く、例えば、心雑音のみを測定する場合は心雑音帯域抽出部5のみを備えればよく。心音のみを測定する場合は心音帯域抽出部4のみを備えればよい。
【0057】
さらに、この解析処理部1は、上記生体の大動脈起始部から上記一部位まで脈波が伝播する脈波伝播時間を決定する脈波伝播時間決定部11を有する。この脈波伝播時間決定部11は、心音検出部2で検出される心音信号と同時に脈波検出部3によって測定された脈波信号が、大動脈起始部から末梢側の脈波測定部位まで伝搬するのに要する時間である脈波伝播時間Tを決定する。
【0058】
より具体的には、上記脈波伝播時間決定部11は、取得した脈波信号を解析することにより、脈波信号から脈波伝播速度PWVを算出する。さらに、脈波伝播時間決定部11は、算出された脈波伝播速度PWVと、大動脈起始部から末梢側の脈波測定部位までの距離Lとに基づいて、次式(1)によって脈波伝播時間Tを算出する。
T=L/PWV … (1)
【0059】
上記脈波検出部3によって、1箇所の測定部位で測定した1つの脈波信号から脈波伝播速度PWVを算出する方法としては、脈波に含まれる進行波成分と反射波成分を抽出し、この進行波成分と反射波成分との時間差(位相差)から脈波伝播速度を算出する方法がある。このような脈波伝播速度の算出方法は、特開2003-10139号公報や特開2007-7075号公報に開示されている。例えば、圧脈波検出プローブによって検出される脈波の進行波成分のピークおよび反射波成分のピークを決定し、この進行波成分のピークと反射波成分のピークとの時間差を脈波伝播時間とし、この脈波伝播時間と脈波伝播距離とから脈波伝播速度を算出する。なお、上記脈波伝播距離としては例えば大動脈弁から腸骨動脈付近に位置する反射点を経て脈波検出部位へ至る距離を採用する。また、前述の大動脈起始部から末梢側の脈波測定部位までの距離Lを得る方法としては、予め利用者が大動脈起始部付近から末梢側の脈波測定部位までの距離を測定して心音脈測定装置に内蔵された記憶部(図示せず)に記憶させる方法が考えられるが、他の方法で距離Lを決定しても差し支えない。
なお、脈波伝播時間Tの決定方法は、これらの方法に限定されるものではなく、例えば、使用者が他の脈波伝播速度(もしくは脈波伝播時間)を測定する装置を使って測定した脈波伝播速度(もしくは脈波伝播時間)の値を、心音測定装置に取込んで使用するなど、様々な方法を採用することができる。
【0060】
また、この実施形態の解析処理部1は、心周期時分割部6を備える。上記脈波伝播時間決定部11によって算出された上記脈波伝播時間Tは、上記心周期時分割部6へ入力され、この心周期時分割部6は、上記脈波伝播時間Tと上記脈波信号とに基づいて、上記心臓の心周期を複数に分割した分割期間を規定する。
【0061】
具体的には、心周期時分割部6は、脈波検出部3より取得した図2の(A)欄に示すような脈波信号を、脈波伝播時間Tに相当する時間分だけ時間的に遡った脈波信号を解析する。この時間的に遡った脈波信号は、図2の(B)欄に例示されるように、図2の(A)欄の脈波信号の位相を脈波伝播時間T分だけ前方にシフトした信号である。
【0062】
上記心周期時分割部6は、この脈波伝播時間分Tだけ時間的に遡った図2Bに示す脈波信号から心周期の変化に関わる特徴点を抽出して、この特徴点に基づいて心周期を時分割する基準タイミングを生成する。
【0063】
上記心周期時分割部6は、例えば、図2の(B)欄に示す脈波信号から、心周期の収縮期の開始に対応する極小点A1の位相を抽出し、さらに上記心周期の拡張期の開始に対応する切痕(ダイクロティックノッチ)Bの位相を抽出し、さらに次の脈拍(心拍)の収縮期の開始に対応する極小点A2を抽出する。上記心周期時分割部6は、この極小点A1,A2と切痕Bの位相から、図2の(C)欄に示すような 収縮期Q1や拡張期Q2を示す基準タイミングP1,P2,P3を決定する。
【0064】
こうすることによって、脈波検出部3の装着が比較的容易な、手首や指、足首など末梢の測定部位を用いる場合でも、脈波伝搬時間Tによる影響を受けずに、心周期を特定することができる。
【0065】
ここで、図2の(B)欄に示すように、脈波形の極小点A1,A2は心音信号の収縮期Q1の開始点の基準タイミングP1,P3に対して時間的遅れTCが存在し、脈波形の切痕Bは心音信号の拡張期Q2の開始点の基準タイミングP2に対して時間的遅れTDが存在している。この時間的な遅れTC,TDは、心臓の収縮,拡張に伴う血液の拍出量の変化が動脈の脈動の変化として現れるまでに僅かながらの時間差があることによる。この時間的な遅れTC,TDには、個人差や体調による変化がある。このことから、本実施形態では、図2の(B)欄,(C)欄に示すように、上記脈波形の極小点A1,A2の時刻から上記時間的な遅れTCを差し引いて(時間的に遡って)、心音信号の収縮期Q1の開始点の基準タイミングP1,P3を決定している。また、本実施形態では、図2の(B)欄,(C)欄に示すように、上記脈波形の切痕Bの時刻から上記時間的な遅れTDを差し引いて(時間的に遡って)、拡張期Q2の開始点の基準タイミングP2を決定している。この時間的な遅れTCは、本実施形態では、例えば、予め求められた値であり、心音信号の収縮期Q1の開始に対応するI音(S1)と脈波形の極小点A1,A2の時刻との時間差Δt1を性別毎に若年者から高齢者までの複数の被験者に対して測定して得たデータを統計的な手法により決定した値を用いている。また、上記時間的な遅れTDは、この実施形態では、例えば、予め求められた値であり、心音信号の拡張期Q2の開始に対応するII音(S2)と脈波形の切痕Bの時刻との時間差Δt2を性別毎に若年者から高齢者までの複数の被験者に対して測定して得たデータを統計的な手法により決定した値を用いている。
【0066】
また、上記心周期時分割部6は、心周期THをさらに細かく分割してもよい。例えば、図2の(C)欄に示す収縮期Q1を、図2の(D)欄に示すように、収縮前期Q11、収縮中期Q12、収縮後期Q13に3分割し、拡張期Q2を拡張前期Q21、拡張中期Q22、拡張後期Q23に3分割してもよい。この場合、心周期時分割部6は心周期THを6つの期間に分割することとなる。これにより、心音および心雑音の種別をより細かく特定することが可能である。なお、心周期の分割方法は特に限定されるものではない。例えば、図2の(B)欄に示す収縮期Q1,拡張期Q2を単純にそれぞれ均等にn(nは2以上の自然数)分割してもよいし、脈波信号を解析することにより分割タイミングを決定してもよい。また、前述したような性別毎に若年者から高齢者までの複数の被験者に対して測定して得たデータを統計的な手法により得られた結果に基づいて分割タイミングを決定するなど、心周期を適切に分割できる方法であれば、様々な分割方法を採用することができる。
【0067】
また、この実施形態の解析処理部1は、心音特定部7を有する。この心音特定部7は、上記心音帯域抽出部4が抽出した成分である心音帯域信号が、上記心周期時分割部6が規定した複数の分割期間Q1,Q2あるいはQ11〜Q13,Q21〜Q23のうちのいずれの分割期間にあるのかを特定して、上記心音帯域信号による心音の種別を特定する。
【0068】
より具体的には、上記心音特定部7は、上記心周期時分割部6が心周期THを時分割することで規定した各分割期間(Q1,Q2やQ11〜Q13,Q21〜Q23)毎に、各分割期間中の心音帯域信号を参照し、心音の特徴を示す所定の条件に適合する信号が存在するか否かを判別する。そして、上記心音特定部7は、上記各分割期間中の心音帯域信号を参照した結果、心音の特徴を示す所定の条件を満たす心音帯域信号が存在する場合には、その心音帯域信号を心音と認識してその心音帯域信号による心音の種別を特定する。ここで、上記心音の特徴を示す所定の条件としては、例えば、上記心音帯域信号に含まれる音の信号の振幅値や振幅回数、持続時間などが挙げられる。これらの条件を用いると上記心音帯域信号が心音の特徴を満たすか否かを容易に判別することができる。これらの条件を適宜組合わせて、例えば、上記心音帯域信号に含まれる音の信号の振幅値が所定の大きさ以上で、かつ、振幅回数が所定の範囲以内で、かつ、持続時間が所定の範囲以内であれば、所定の条件を満たすと判別する。なお、上記心音の判定条件は、上述のものに限定されるものではなく、例えば、時間周波数解析を用いるなど、各分割期間中の心音の存在を適切に判別できる方法であれば、様々な判別方法を採用することができる。
【0069】
また、上記心音帯域抽出部4が、心音の種別毎に心音帯域信号を出力する構成の場合には、上記心音特定部7は、心周期THを時分割して規定した各分割期間(Q1,Q2やQ11〜Q13,Q21〜Q23)中の心音の種別毎の各心音帯域信号をそれぞれ参照し、各心音の特徴を示す所定の条件に適合する信号が存在するか否かを判別する。そして、上記心音特定部7は、上記各分割期間中の心音帯域信号について、種別毎の各心音のいずれかの特徴を示す条件を満たす信号が存在する場合には、上記特徴を示す種別の心音であると認識して心音の種別を特定できる。これにより、例えば、図2の(D)欄の収縮前期Q11に出現する低調性のI音(S1)と高調性の駆出音(ES)との判別や、図2の(D)欄の拡張前期Q21に出現する低調性のII音(S2)と高調性の僧帽弁開放音(OS)との判別など、同時期(同一の分割期間内)に発生する心音の種別をより正確に特定することができる。
【0070】
なお、上記のように心音帯域抽出部4が、心音の種別毎に心音帯域信号を出力しない構成で1種類の心音帯域信号のみを出力する場合にも、分割期間毎に複数の心音の種別を特定することが可能である。つまり、この場合、上記心音特定部7は、1種類の心音帯域信号について、各心音固有の特徴を示す所定の条件(心音帯域信号の振幅値や振幅回数,持続時間,周波数特性など)を心音の種別毎に複数用いて判別する。これにより、1種類の心音帯域信号から各分割期間毎に複数の心音の種別を特定することが可能になる。
【0071】
また、この実施形態の解析処理部1は、心雑音特定部8を有する。この心雑音特定部8は、上記心雑音帯域抽出部5が抽出した成分である心雑音帯域信号が、上記心周期時分割部6が規定した複数の分割期間Q1,Q2あるいはQ11〜Q13,Q21〜Q23のうちのいずれの分割期間にあるのかを特定して、上記心雑音帯域信号による心雑音の種別を特定する。
【0072】
より具体的には、上記心雑音特定部8は、心周期時分割部6が心周期THを時分割することで規定した分割期間(Q1,Q2やQ11〜Q13,Q21〜Q23)毎に、各分割期間中の心雑音帯域信号を参照し、心雑音の特徴を示す所定の条件に適合する信号が存在するか否かを判別する。そして、上記心雑音特定部8は、上記各分割期間中の心雑音帯域信号を参照した結果、心雑音の特徴を示す所定の条件を満たす心雑音帯域信号が存在する場合には、その心雑音帯域信号を心雑音と認識してその心雑音帯域信号による心雑音の種別を特定する。ここで、上記心雑音の特徴を示す所定の条件としては、例えば、上記心雑音帯域信号に含まれる音の信号の振幅値や振幅回数,持続時間などが挙げられる。これらの条件を用いると上記心雑音帯域信号が心雑音の特徴を満たすか否かを容易に判別することができる。これらの条件を適宜組合わせて、例えば、上記心音帯域信号に含まれる音の信号の振幅値が所定の大きさ以上で、かつ、振幅回数が所定の範囲以内で、かつ、持続時間が所定の範囲以内であれば、所定の条件を満たすと判別する。なお、上記心雑音の判定条件は、上述のものに限定されるものではなく、例えば、時間周波数解析を用いるなど、各分割期間中の心雑音の存在を適切に判別できる方法であれば、様々な判別方法を採用することができる。
【0073】
また、上記心雑音帯域抽出部5が、心雑音の種別毎に心雑音帯域信号を出力する構成の場合には、上記心雑音特定部8は、心周期THを時分割して規定した各分割期間(Q1,Q2やQ11〜Q13,Q21〜Q23)中の心雑音の種別毎の各心雑音帯域信号をそれぞれ参照し、各心雑音の特徴を示す所定の条件に適合する信号が存在するか否かを判別する。そして、上記心雑音特定部8は、上記各分割期間中の心雑音帯域信号について、種別毎の心雑音のいずれかの特徴を示す条件を満たす信号が存在する場合には、上記特徴を示す種別の心雑音であると認識して心雑音の種別を特定できる。これにより、同時期(同一の分割期間内)に発生する心雑音の種別をより正確に特定することができる。
【0074】
また、心雑音帯域抽出部4が、心雑音の種別毎に心雑音帯域信号を出力しない構成で1種類の心雑音帯域信号のみを出力する場合にも、分割期間毎に複数の心雑音の種別を特定することが可能である。つまり、この場合、上記心雑音特定部8は、1種類の心雑音帯域信号について、各心雑音固有の特徴を示す所定の条件(心雑音帯域信号の振幅値や振幅回数,持続時間,周波数特性など)を心雑音の種別毎に複数用いて判別することにより、1種類の心雑音帯域信号から分割期間毎に複数の心雑音の種別を特定することも可能である。
【0075】
なお、上述した心音特定部7と心雑音特定部8とは、必ずしも両方共を備える必要は無く、例えば、心雑音のみを特定する場合は心雑音特定部8のみを備えればよく。心音のみを測定する場合は心音特定部7のみを備えればよい。
【0076】
また、この実施形態の解析処理部1は、心音判定部15と心雑音判定部16を有する判定部9を備える。
【0077】
上記心音判定部15は、上記心音特定部7によって特定された上記心音帯域信号による心音の種別に基づいて、検出した心音信号の異常の有無や異常の種別を判定した結果を判定結果情報として出力する。また、上記心雑音判定部16は、上記心雑音特定部8によって特定された上記心雑音帯域信号による心雑音の種別に基づいて、検出した心音信号の異常の有無や異常の種別を判定した結果を判定結果情報として出力する。
【0078】
より具体的には、上記心音判定部15は、心周期時分割部6が規定した複数の分割期間(Q1,Q2やQ11〜Q13,Q21〜Q23)毎に、心音特定部7によって各分割期間中に特定された心音の有無を参照して、過剰心音が出現しているか否かと、予め定められた分割期間に正常な心音が出現しているか否かを判別し、この判別結果に基づいて、検出した心音信号の異常の有無や異常の種別を判定する。すなわち、上記心音判定部15は、上記過剰心音が出現している場合には、検出した心音信号に異常があると判定し、上記正常な心音が出現していない場合には上記心音信号による心音に異常があると判定する。一方、上記心音判定部15は、上記過剰心音が出現していなく、かつ、上記正常な心音が出現している場合には上記心音信号に過剰心音による異常がないと判定する。
【0079】
また、上記心雑音判定部16は、心周期時分割部6が規定した複数の分割期間(Q1,Q2やQ11〜Q13,Q21〜Q23)毎に、心雑音特定部8によって各分割期間中に特定された心雑音の有無を参照して、心雑音が出現しているか否かを判別し、この判別結果に基づいて、検出した心音信号の異常の有無や異常の種別を判定する。すなわち、上記心雑音判定部16は、上記心雑音が出現している場合には、検出した心音信号に心雑音による異常があると判定する一方、上記心雑音が出現していない場合には、上記心音信号に心雑音による異常がないと判定する。
【0080】
次に、図3に示す表を参照して、心周期THにおける心音および心雑音の判別の一例を説明する。図3の表では、左端の欄に示すように心周期THが、収縮前期Q11,収縮中期Q12,収縮後期Q13と拡張前期Q21,拡張中期Q22,拡張後期Q23の6つの分割期間に時分割されている一例を示している。
【0081】
この一例では、上記表の中央の欄に心音の欄が設けられ、右端の欄に心雑音の欄が設けられている。上記心音の欄には、正常心音の欄と過剰心音の欄が設けられ、上記正常心音の欄には、正常心音のI音(S1)は収縮前期Q11に出現し、正常心音のII音(S2)は拡張前期Q21に出現することが示されている。また、上記過剰心音の欄には、駆出音(ES)が収縮前期Q11に出現し、僧帽弁開放音(OS)が拡張前期Q21に出現し、III音(S3)が拡張前期Q21と拡張中期Q22のどちらか一方、もしくは両方に跨って出現し、IV音(S4)が拡張後期Q23に出現することが示されている。また、上記心雑音の欄には、全収縮期逆流性雑音が収縮前期Q11に出現し、収縮期駆出性雑音が収縮前期Q11から収縮中期Q12に跨って出現し、拡張早期逆流性雑音が拡張前期Q21に出現し、拡張中期ランブリング雑音が拡張中期Q22に出現し、心房収縮雑音が拡張後期Q23に出現することが示されている。
【0082】
このように、図3の心周期(左端の列)において、心周期の各分割期間Q11〜Q13,Q21〜Q23において、「正常心音」の列は正常であれば出現するはずの心音(I音,II音)を示している。そして、上記心音判定部15は収縮前期Q11においてI音が出現し、かつ拡張前期Q21にII音が出現し、かつ心周期の各分割期間Q11〜Q13,Q21〜Q23に亘って過剰心音が出現しなければ、検出した心音信号に過剰心音による異常がないと判定する。また、上記心音判定部15は、収縮前期Q11においてI音が出現しない場合、拡張前期Q21にII音が出現しない場合、上記心周期において上記過剰心音が出現した場合の各場合には心音に異常があると判定する。
【0083】
また、上記心雑音判定部16は、図3の分割期間Q11〜Q13,Q21〜Q23のいずれにおいても上記心雑音が出現しなければ、検出した心音信号に心雑音による異常がないと判定する一方、上記心周期の各分割期間のいずれかに上記心雑音が出現している場合には、上記心音信号に心雑音による異常があると判定する。
【0084】
なお、上記判定部9は、上述の図3により説明した判別例を採用するものに限らず、例えば、収縮前期Q11のI音(S1)と拡張前期Q21のII音(S2)以外の心音や心雑音が特定されたら異常と判別するものとしてもよい。さらに、上記判定部9は、心雑音の判定については心周期THのうちの収縮期と拡張期とのうちのいずれに心雑音が存在するのかを判別することによって心雑音が収縮期性雑音と拡張期性雑音の2種類の心雑音のうちのいずれであるのかを判別するものとしてもよい。上記判定部9としては、少なくとも心音や心雑音の異常の有無を判別できる方法であれば他の判別方法を採用してもよい。また、上述した心音判定部15と心雑音判定部16とは、必ずしも両方共を備える必要は無く、例えば、心雑音のみを判定する場合は心雑音判定部16のみを備えればよく。心音のみを判定する場合は心音判定部15のみを備えればよい。
【0085】
また、この実施形態において、上記心音判定部15が心音頻度算出部17を有してもよい。この心音頻度算出部17は、上記心音特定部7によって特定された上記心音帯域信号による心音が複数の心拍数において現れる頻度を心音の種別毎に算出する。この場合、上記心音判定部15は、上記心音頻度算出部17が算出した心音の種別毎の頻度を、上記心音の種別毎に予め定められた閾値と比較することによって、検出した心音信号の異常の有無を判定する。
【0086】
具体的には、心音頻度算出部17は、予め設定された心拍数分における各心周期の分割期間毎に過剰心音および正常心音の出現頻度を算出し、上記心音判定部15は算出された過剰心音および正常心音の出現頻度を、予め設定された閾値と比較することによって異常の有無を判定する。例えば、上記閾値として、正常心音の出現頻度の閾値を90%に設定し、過剰心音の出現頻度の閾値を30%に設定した場合、上記心音判定部15は、上記正常心音の出現頻度が90%未満もしくは過剰心音の出現頻度が30%以上であれば「異常」と判定し、それ以外の場合(すなわち正常心音の出現頻度が90%以上かつ過剰心音の出現頻度が30%未満)の場合は「正常」と判定する。なお、上記閾値は適切な値を任意に設定すればよいが、個人差や体調による変化および測定誤差等を考慮して、必要に応じて最適な閾値を設定できることが望ましい。
なお、心音判定部15が出力する判定結果情報は、少なくとも心音信号の異常の有無を識別できる情報であり、過剰心音による異常が有る場合には、さらに異常の要因を識別するための情報として特定された過剰心音の種別を示す情報を含むことが望ましい。さらには、上記心音判定部15が心音頻度算出部17を備えている場合には、上記判定結果情報は過剰心音の出現頻度を示す情報を含むことが望ましい。
【0087】
また、この実施形態において、上記心雑音判定部16が心雑音頻度算出部18を有してもよい。この心雑音頻度算出部18は、上記心雑音特定部8によって特定された上記心雑音帯域信号による心雑音が複数の心拍数において現れる頻度を心雑音の種別毎に算出する。この場合、上記心雑音判定部16は、上記心雑音頻度算出部18が算出した心雑音の種別毎の頻度を、上記心雑音の種別毎に予め定められた閾値と比較することによって、検出した心音信号の異常の有無を判定する。例えば、上記閾値として、或る種別の心雑音の出現頻度の閾値を30%に設定した場合、上記心雑音判定部16は、上記心雑音の出現頻度が30%以上であれば「異常」と判定し、それ以外の場合(すなわち心雑音の出現頻度が30%未満)の場合は「正常」と判定する。なお、上記閾値は適切な値を任意に設定すればよいが、個人差や体調による変化および測定誤差等を考慮して、必要に応じて最適な閾値を設定できることが望ましい。
【0088】
なお、心雑音判定部16が出力する判定結果情報は、少なくとも心雑音による異常の有無を識別できる情報であり、心雑音による異常が有る場合には、さらに異常の要因を識別するための情報として特定された心雑音の種別を示す情報を含むことが望ましい。さらには、上記心雑音判定部16が心雑音頻度算出部18を備えている場合には、上記判定結果情報は心雑音の出現頻度を示す情報を含むことが望ましい。
【0089】
また、この実施形態の心音測定装置では、出力部10を備え、この出力部10は心音判定結果出力部20と心雑音判定結果出力部21とを有する。上記心音判定結果出力部20は、上記心音判定部15が出力する心音信号の判定結果情報を利用者に提示(あるいはデータとして提供)する。また、上記心雑音判定結果出力部21は、上記心雑音判定部16が出力する心音信号の判定結果情報を利用者に提示(あるいはデータとして提供)する。また、上記出力部10による判定結果情報の利用者への提示は、例えば、各種ディスプレイ等で行われる。
なお、上記出力部10としては、例えば、LCD(液晶ディスプレイ)等の表示ディスプレイや、メモリカード等の記録媒体や、外部の機器にデータを送信する通信インタフェース等、この心音測定装置の使用目的に応じて適切な出力手段で実現できる。また、上記出力部10により、心音信号の波形(心音図)も同時に提示すると、利用者が心音の状態を把握する上で有用である。さらに、上記出力部10は必要に応じて脈波信号の波形も同時に提示してもよい。
また、上記判定部9が上記心音頻度算出部17や心雑音頻度算出部18を備えている場合には、出力部10により、心音や心雑音の出現した頻度も同時に提示すると利用者にとって有用である。この場合、心音信号の波形は、所定の心拍数分の心音信号から、検出した心音と心雑音を合成した波形を生成して代表波形として提示するか、もしくは所定の心拍数分の心音信号を平均化した波形を生成して代表波形として提示すると、心音や心雑音の出現状況を利用者がより把握しやすくなる。
【0090】
尚、上記解析処理部1は、図示しないCPUおよびROMとRAM、さらに必要に応じて図示しないAD変換器などを備えたマイクロコンピュータで構成されている。上記CPUは、予めROMに格納されたプログラムにより、上記AD変換器や一時記憶部であるRAM等を利用して、心音信号および脈波信号の信号処理や解析処理を実行して、その結果を出力部10へ出力するものである。よって、上記解析処理部1は、上記CPUにより、上記心音帯域抽出部4、心雑音帯域抽出部5、脈波伝播時間決定部11、心周期時分割部6、心音特定部7、心雑音特定部8、心音判定部15、心雑音判定部16、心音頻度算出部17、心雑音頻度算出部18の機能を実現している。
【0091】
次に、図4〜図9を参照して、この実施形態の心音測定装置の動作を説明する。
【0092】
図4は、上記心音測定装置の動作を示すフローチャートである。まず、ステップS101では、心音検出部2と脈波検出部3により、予め設定された設定時間分の心音信号と脈波信号を同時に測定して、解析処理部1に備えられるRAM(図示せず)に逐次記憶する。上記設定時間は少なくとも一心拍以上の所定の心拍数に相当する適切な時間を任意に設定すればよいが、体動や外部からのノイズ等による影響を考慮すると、できれば30心拍程度は測定することが望ましい。この場合、例えば、心拍数60回/分と仮定して30心拍分に相当する30秒を上記設定時間とすればよい。
【0093】
続いて、ステップS102では、心音帯域抽出部4と心雑音帯域抽出部5により、心音信号から心音帯域信号および心雑音帯域信号の抽出を行い、心音信号と時系列的に関連付けられた信号として、解析処理部1に備えられる上記RAM(図示せず)に逐次記憶する。なお、心音検出部2から出力される心音信号がデジタルデータの場合には、ステップS101で解析処理部1の上記RAMに記憶された心音信号をデジタルフィルタ処理することにより心音帯域信号および心雑音帯域信号を抽出する。また、上記心音検出部2から出力される心音信号がアナログの電気信号の場合には、ステップS101で測定された心音信号をアナログのフィルタ回路を通すことにより心音帯域信号および心雑音帯域信号を抽出する。
【0094】
続いて、ステップS103では、この心音測定装置が備える脈波伝播時間決定部11により、測定した脈波信号について一心拍(脈拍)毎の脈波伝播時間Tを算出して、解析処理部1に備えられるRAM(図示せず)に記憶する。続いて、ステップS104では、上記心周期時分割部6により、一心拍毎の心周期THを時分割して各分割期間(図2に例示の収縮期Q1,拡張期Q2や収縮前,中,後期Q11〜Q13,拡張前,中,後期Q22〜Q23)を生成して、心音信号と時系列的に関連付けられたタイミング情報として、上記解析処理部1の上記RAMに記憶する。
【0095】
続いて、ステップS105では、上記心音特定部7と心雑音特定部8により、上記心音帯域信号および心雑音帯域信号から、上記分割期間毎に心音および心雑音を特定して、上記分割期間毎に時系列的に関連付けられた情報として、解析処理部1の上記RAMに記憶する。続いて、ステップS106では、判定部9により、測定した設定時間分の心音信号から異常の有無を判定して、その結果を出力部10に出力する。
【0096】
以上の一連の動作を行うことによって、心音信号と共に測定した脈波信号により特定した心周期に基づいて、心音信号に含まれる心音や心雑音の種別を特定し、特定した心音と心雑音から異常の有無を判定して利用者に提示することができる。
【0097】
次に、図5〜図9を参照して、この心音測定装置による測定の一例を説明する。図5〜図8は、それぞれ異なる特徴を持つ心音信号の一測定例を示す信号波形図である。また、図9は、図5〜図8それぞれの測定例の心音信号に対応した判定部9による判定結果の出力部10への出力例(表示ディスプレイへの画面表示例)を示す。
【0098】
図5〜図8の各波形図の(A)欄には、脈波検出部3から出力された脈波信号を、脈波伝播時間Tに相当する時間分だけ時間的に遡った脈波信号の信号波形を示している。この脈波信号から心周期時分割部6によって、心臓の心周期をなす6つに分割された分割期間(収縮前期Q11〜拡張後期Q23)を特定している。また、図5〜図8の各波形図の(B)欄には、心音検出部2から出力された心音信号の信号波形を示している。また、図5〜図8の各波形図の(C)欄には、上記(B)欄の心音信号から心音帯域抽出部4によって心音の周波数成分を抽出して出力された心音帯域信号の信号波形を示している。また、図5〜図8の各波形図の(D)欄には、心雑音帯域抽出部5によって(B)欄の心音信号から心雑音の周波数成分を抽出して出力された心雑音帯域信号の信号波形を示している。
【0099】
図5の(B)欄には正常な心音信号の一例を示している。図5の(B)欄の心音信号は正常であることから、図5の(C)欄の心音帯域信号には、収縮前期Q11にI音(S1)、拡張前期Q21にII音(S2)が出現しており、図5の(D)欄の心雑音帯域信号としては何も出現していない。この場合、出力部10の一例としての表示ディスプレイには、図9の(A)欄に示すように、心音信号の波形を示すと共に、画面下部の「判定」欄に、判定部9による判定結果として「異常無し」が出力される。
【0100】
一方、図6の(B)欄は、大動脈弁狭窄がある場合の一例を示す心音信号の波形図である。この波形図では、図6の(B)欄の心音信号には正常心音であるI音(S1)とII音(S2)に加えて、収縮期雑音が収縮中期Q12をピークに出現している。よって、図6の(C)欄の心音帯域信号には、収縮前期Q11にI音(S1)、拡張前期Q21にII音(S2)が出現しており、図6の(D)欄の心雑音帯域信号には収縮中期Q12を主体とした心雑音(収縮期駆出性雑音)が出現している(一例として90%の頻度で出現)。この場合、出力部10の一例としての表示ディスプレイには、図9の(B)欄に示すように心音信号の波形を示すと共に、画面下部の「判定」欄に、心雑音頻度算出部18を備えた判定部9による判定結果として「収縮期雑音有り(頻度:90%)」が出力される。
【0101】
また、図7の(B)欄は、大動脈弁閉鎖不全がある場合の心音信号の一例を示す波形図である。この波形図では、図7の(B)欄の心音信号には正常心音であるI音(S1)とII音(S2)に加えて、拡張前期Q21をピークに拡張期雑音が出現している。よって、図7の(C)欄の心音帯域信号には、収縮前期Q11にI音(S1)、拡張前期Q21にII音(S2)が出現し、図7の(D)欄の心雑音帯域信号の波形図には、拡張前期Q21を主体とした心雑音(拡張早期逆流性雑音)が出現している(一例として80%の頻度で出現)。この場合、出力部10の一例としての表示ディスプレイには、図9の(C)欄に示すように、心音信号の波形を示すと共に、画面下部の「判定」欄に、心雑音頻度算出部18を備えた判定部9による判定結果として「拡張期雑音有り(頻度:80%)」が出力される。
【0102】
また、図8の(B)欄は、過剰心音であるIII音(S3)およびIV音(S4)がある場合の心音信号の一例を示す波形図である。この波形図では、図8の(B)欄の心音信号には正常心音であるI音(S1)とII音(S2)に加えて、過剰心音であるIII音(S3)およびIV音(S4)が出現している。また、図8の(C)欄の心音帯域信号には、収縮前期Q11にI音(S1)、拡張前期Q21にII音(S2)が出現するのに加えて、拡張中期Q22にIII音(S3)、拡張後期Q23にIV音(S4)が出現している(一例としてIII音は40%、IV音は30%の頻度で出現)。なお、図8の(D)欄の心雑音帯域信号としては何も出現していない。この図8の波形図の場合、出力部10の一例としての表示ディスプレイには、図9の(D)欄に示すように、心音信号の波形を示すと共に、画面下部の「判定」欄に、心音頻度算出部17を備えた判定部9による判定結果として、「III音有り(頻度:40%)」と「IV音有り(頻度:30%)」が出力される。
【産業上の利用可能性】
【0103】
この発明の心音測定装置は、過剰心音や心雑音の評価を行う用途に適しており、心音や心雑音を特定するための心周期の判別に心電よりも測定が容易な末梢部位で測定した脈波を使用することから、病院等で用いられる診断用の心音測定装置以外にも、一般の人が家庭等において日常的に過剰心音や心雑音の有無を簡便に確認できる装置としても利用可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 解析処理部
2 心音検出部
3 脈波検出部
4 心音帯域抽出部
5 心雑音帯域抽出部
6 心周期時分割部
7 心音特定部
8 心雑音特定部
9 判定部
10 出力部
11 脈波伝播時間決定部
15 心音判定部
16 心雑音判定部
17 心音頻度算出部
18 心雑音頻度算出部
20 心音判定結果出力部
21 心雑音判定結果出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の心臓から発生する音を検出して心音信号として出力する心音検出部と、
上記心音信号から心音の周波数に対応する成分を抽出して出力する心音帯域抽出部と、
上記生体の或る一部位の脈波を検出して脈波信号として出力する脈波検出部と、
上記生体の大動脈起始部から上記一部位まで脈波が伝播する脈波伝播時間を決定する脈波伝播時間決定部と、
上記脈波伝播時間決定部が決定した上記脈波伝播時間と上記脈波信号とに基づいて、上記心臓の心周期を複数に分割した分割期間を規定する心周期時分割部と、
上記心音帯域抽出部が抽出した成分である心音帯域信号が、上記心周期時分割部が規定した複数の分割期間のうちのいずれの分割期間にあるのかを特定して、上記心音帯域信号による心音の種別を特定する心音特定部とを備えたことを特徴とする心音測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の心音測定装置において、
上記心音信号から心雑音の周波数に対応する成分を抽出して出力する心雑音帯域抽出部と、
上記心雑音帯域抽出部が抽出した成分である心雑音帯域信号が、上記心周期時分割部が規定した複数の分割期間のうちのいずれの分割期間にあるのかを特定して、上記心雑音帯域信号による心雑音の種別を特定する心雑音特定部とを備えたことを特徴とする心音測定装置。
【請求項3】
生体の心臓から発生する音を検出して心音信号として出力する心音検出部と、
上記心音信号から心雑音の周波数に対応する成分を抽出して出力する心雑音帯域抽出部と、
上記生体の或る一部位の脈波を検出して脈波信号として出力する脈波検出部と、
上記生体の大動脈起始部から上記一部位まで脈波が伝播する脈波伝播時間を決定する脈波伝播時間決定部と、
上記脈波伝播時間決定部が決定した上記脈波伝播時間と上記脈波信号とに基づいて、上記心臓の心周期を複数に分割した分割期間を規定する心周期時分割部と、
上記心雑音帯域抽出部が抽出した成分である心雑音帯域信号が、上記心周期時分割部が規定した複数の分割期間のうちのいずれの分割期間にあるのかを特定して、上記心雑音帯域信号による心雑音の種別を特定する心雑音特定部とを備えたことを特徴とする心音測定装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の心音測定装置において、
上記心音特定部によって特定された上記心音帯域信号による心音の種別に基づいて、検出した心音信号の異常の有無を判定した結果を判定結果情報として出力する心音判定部と、
上記判定結果情報を利用者に提示する心音判定結果出力部とを備えることを特徴とする心音測定装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1つに記載の心音測定装置において、
上記心雑音特定部によって特定された上記心雑音帯域信号による心雑音の有無に基づいて、検出した心音信号の異常の有無を判定した結果を判定結果情報として出力する心雑音判定部と、
上記判定結果情報を利用者に提示する心雑音判定結果出力部とを備えることを特徴とする心音測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の心音測定装置において、
上記心雑音判定部は、
上記心雑音特定部によって特定された上記心雑音帯域信号による心雑音の有無と上記心雑音の種別とに基づいて、検出した心音信号の異常の有無と上記心音信号の異常の種別を判定した結果を判定結果情報として出力することを特徴とする心音測定装置。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか1つに記載の心音測定装置において、
上記心音判定部は、
上記心音特定部によって特定された上記心音帯域信号による心音が複数の心拍数において現れる頻度を心音の種別毎に算出する心音頻度算出部をさらに備え、
上記心音判定部は、上記心音頻度算出部が算出した心音の種別毎の頻度を、上記心音の種別毎に予め定められた閾値と比較することによって、検出した心音信号の異常の有無を判定することを特徴とする心音測定装置。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1つに記載の心音測定装置において、
上記心雑音判定部は、
上記心雑音特定部によって特定された上記心雑音帯域信号による心雑音が複数の心拍数において現れる頻度を心雑音の種別毎に算出する心雑音頻度算出部をさらに備え、
上記心雑音判定部は、上記心雑音頻度算出部が算出した心雑音の種別毎の頻度を、上記心雑音の種別毎に予め定められた閾値と比較することによって、検出した心音信号の異常の有無を判定することを特徴とする心音測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−212364(P2011−212364A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84995(P2010−84995)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】